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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048876
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】鉛筆芯およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 13/00 20060101AFI20240402BHJP
   B43K 19/02 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
C09D13/00
B43K19/02 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155011
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】石井 直
(72)【発明者】
【氏名】浅原 正紘
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AB04
4J039AB06
4J039AD08
4J039AE11
4J039BA13
4J039BA19
4J039BA21
4J039BA23
4J039BA30
4J039BA32
4J039BA35
4J039BC07
4J039BE12
4J039BE22
4J039DA03
4J039DA05
4J039DA06
4J039EA42
4J039GA30
(57)【要約】
【課題】機械強度が高くい、筆跡の鮮明性、消去性に優れ、書き味が滑らかで保存安定性に優れた鉛筆芯とその製造方法の提供。
【解決手段】本発明による鉛筆芯は、体質材および無機結合材を含んでなり、前記体質材のX線回折により決定されるa軸方向の結晶子サイズLaが50nm以下であり、c軸方向の結晶子サイズLcが30nm以下である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体質材および無機結合材を含んでなり、
前記体質材のX線回折により決定されるa軸方向の結晶子サイズLaが50nm以下であり、c軸方向の結晶子サイズLcが30nm以下であることを特徴とする、鉛筆芯。
【請求項2】
前記体質材が、窒化ホウ素、酸化チタン、雲母、タルク、アルミナ、および炭酸カルシウムからなる群から選択される、請求項1に記載の鉛筆芯。
【請求項3】
前記無機結合材が、粘土類、セラミックス類、ゼオライト、珪藻土、活性白土、シリカ、リン酸アルミニウム、シリコーン樹脂、およびシリコーンゴム、ならびにその焼成物からなる群から選択される、請求項1または2に記載の鉛筆芯。
【請求項4】
前記鉛筆芯の細孔比表面積が、20m/g以上である、請求項1または2項に記載の鉛筆芯。
【請求項5】
焼成芯体である、請求項1または2に記載の鉛筆芯。
【請求項6】
潤滑成分が含浸されている、請求項1または2に記載の鉛筆芯。
【請求項7】
前記潤滑成分が、シリコーンオイル、フッ素系オイル、鉱油、植物油、および流動パラフィンからなる群から選択されるものである、請求項6に記載の鉛筆芯。
【請求項8】
前記潤滑成分が界面活性剤である、請求項6に記載の鉛筆芯。
【請求項9】
着色剤が含浸されている、請求項1または2に記載の鉛筆芯。
【請求項10】
(a)体質材と無機結合材またはその前駆体を混合および混練して一次混合物aを調製する一次混合混練工程、
(b)一次混合物aを粗粉砕し、予備焼成して予備焼成物bを獲る、予備焼成工程
(c)予備焼成物bを微粉砕して予備粉砕物cを得る、予備粉砕工程、
(d)予備粉砕物cを混練して二次混合物dを調製する、二次混合混練工程、
(e)二次混合物dを押出成形して予備細線状成形物eを作成する予備成形工程、
(f)細線状成形物eを粉砕して、再粉砕物fを得る、再粉砕工程、
(g)再粉砕物fを押出成形して細線状成形物gを作成する、押出成形工程、
(h)細線状成形物gを焼成して、多孔性芯体hを作成する焼成工程、
を含んでなる、鉛筆芯の製造方法。
【請求項11】
前記一次混合物aまたは二次混合物dが、さらに有機結合材を含んでなる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程(h)の後に、
(c’)前工程で得られた多孔性芯体hまたはh’を微粉砕して予備粉砕物c’を得る、予備粉砕工程、
(d’)予備粉砕物c’を混練して二次混合物d’を調製する、二次混合混練工程、
(e’)二次混合物d’を押出成形して予備細線状成形物e’を作成する予備成形工程、
(f’)細線状成形物e’を粉砕して、再粉砕物f’を得る、再粉砕工程、
(g’)再粉砕物f’を押出成形して細線状成形物g’を作成する、押出成形工程、
(h’)細線状成形物g’を焼成して、多孔性芯体h’を作成する焼成工程、
の工程群を1~5回繰り返す、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
工程(h)または工程(h’)の後に、多孔性芯体hまたは多孔性芯体h’に潤滑成分を含浸させる(i)含浸工程をさらに含む、請求項10または11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛筆芯に関する。さらに詳細には、機械的強度が高く、鮮明な筆跡を得ることができ、消去性にも優れ、さらに書き味が滑らかな鉛筆芯に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シャープペンシルなどに用いられている鉛筆芯は、黒鉛や窒化ホウ素などの体質材と粘土などの結合材を主成分とするものが多く使われている。黒鉛を体質材として用いるものは、黒色の筆跡を形成することができる鉛筆芯とされることが多く、窒化ホウ素などの白色の体質材を用いるものは、さらに着色剤で着色して、色鉛筆芯とされることが多い。白色の体質材を用いた鉛筆芯は、一般に機械的強度を高くすることが難しく、機械的強度を高くすると、書き味や発色性が低下する傾向にある。また、着色されない白色の鉛筆芯は、裁縫などの際に布地に筆記するのに用いられることがあるが、筆記対象の表面の凹凸が大きいことが多く、高い機械的強度が望まれる。
このような理由から、機械的強度が高く、鮮明な筆跡を形成できる鉛筆芯が求められている。そして、さらには書き味の改良や、鉛筆芯が色鉛筆に用いられる場合の発色性についても改良が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-017307号公報
【特許文献2】特開2021-046556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、機械的強度が高く、鮮明な筆跡を得ることができ、消去性にすぐれ、さらに書き味が滑らかな鉛筆芯を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]
体質材および無機結合材を含んでなり、
前記体質材のX線回折により決定されるa軸方向の結晶子サイズLaが50nm以下であり、c軸方向の結晶子サイズLcが30nm以下であることを特徴とする、鉛筆芯。
[2]
前記体質材が、窒化ホウ素、酸化チタン、雲母、タルク、アルミナ、および炭酸カルシウムからなる群から選択される、[1]に記載の鉛筆芯。
[3]
前記無機結合材が、粘土類、セラミックス類、ゼオライト、珪藻土、活性白土、シリカ、リン酸アルミニウム、シリコーン樹脂、およびシリコーンゴム、ならびにその焼成物からなる群から選択される、[1]または[2]に記載の鉛筆芯。
[4]
前記鉛筆芯の細孔比表面積が、20m/g以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の鉛筆芯。
[5]
焼成芯体である、[1]~[4]のいずれかに記載の鉛筆芯。
[6]
潤滑成分が含浸されている、[1]~[5]のいずれかに記載の鉛筆芯。
[7]
前記潤滑成分が、シリコーンオイル、フッ素系オイル、鉱油、植物油、および流動パラフィンからなる群から選択されるものである、[6]に記載の鉛筆芯。
[8]
前記潤滑成分が界面活性剤である、[6]に記載の鉛筆芯。
[9]
着色剤が含浸されている、[1]~[8]のいずれかに記載の鉛筆芯。
[10]
(a)体質材と無機結合材またはその前駆体を混合および混練して一次混合物aを調製する一次混合混練工程、
(b)一次混合物aを粗粉砕し、予備焼成して予備焼成物bを獲る、予備焼成工程
(c)予備焼成物bを微粉砕して予備粉砕物cを得る、予備粉砕工程、
(d)予備粉砕物cを混練して二次混合物dを調製する、二次混合混練工程、
(e)二次混合物dを押出成形して予備細線状成形物eを作成する予備成形工程、
(f)細線状成形物eを粉砕して、再粉砕物fを得る、再粉砕工程、
(g)再粉砕物fを押出成形して細線状成形物gを作成する、押出成形工程、
(h)細線状成形物gを焼成して、多孔性芯体hを作成する焼成工程、
を含んでなる、鉛筆芯の製造方法。
[11]
前記一次混合物aまたは二次混合物dが、さらに有機結合材を含んでなる、[10]に記載の方法。
[12]
工程(h)の後に、
(c’)前工程で得られた多孔性芯体hまたはh’を微粉砕して予備粉砕物c’を得る、予備粉砕工程、
(d’)予備粉砕物c’を混練して二次混合物d’を調製する、二次混合混練工程、
(e’)二次混合物d’を押出成形して予備細線状成形物e’を作成する予備成形工程、
(f’)細線状成形物e’を粉砕して、再粉砕物f’を得る、再粉砕工程、
(g’)再粉砕物f’を押出成形して細線状成形物g’を作成する、押出成形工程、
(h’)細線状成形物g’を焼成して、多孔性芯体h’を作成する焼成工程、
の工程群を1~5回繰り返す、[10]または[11]に記載の方法。
[13]
工程(h)または工程(h’)の後に、多孔性芯体hまたは多孔性芯体h’に潤滑成分を含浸させる(i)含浸工程をさらに含む、[10]~[12]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明による鉛筆芯を使って筆記をすることにより、鮮明な筆跡を形成することができる。また、本発明による鉛筆芯は、機械的強度が高いので筆記時などに折れにくく、優れた消去性も有しており、さらに滑らかな書き味が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<鉛筆芯>
本発明による鉛筆芯の構成について説明すると以下の通りである。
【0008】
本発明による鉛筆芯は、主成分として体質材と無機結合材を含んでなる。体質材としては、窒化ホウ素、酸化チタン、雲母、タルク、アルミナ、および炭酸カルシウムなど白色のものや、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛など有色のものなどが挙げられる。本発明による鉛筆芯は、鮮明な筆跡を形成させることが望ましい。このため、鉛筆芯に含まれる体質材は、彩度の高い着色剤と組み合わせたときに所望の発色が得られ、鉛筆芯により得られる筆跡の発色を阻害しないものが好ましい。また、着色剤として蛍光着色剤を用いる場合にも、その発色を阻害しないものが好ましい。このため明度の高い筆跡を形成させるために、窒化ホウ素、酸化チタン、雲母、タルク、アルミナ、および炭酸カルシウムなどの白色の体質材を用いることが好ましい。特に、窒化ホウ素を用いると、体質材が発色を阻害せず、また、鉛筆芯の強度が高くなることから好ましい。
【0009】
前記無機結合材としては、カオリナイト類、ハロサイト類、モンモリロナイト類、セリサイト類、ベントナイト類などの粘土類、セラミックス類、ゼオライト、珪藻土、活性白土、シリカなどが挙げられる。また、鉛筆芯の原料に無機結合材の前駆体を配合し、製造過程の焼成処理などによって、無機結合材に変化させることもできる。そのような前駆体としては、リン酸アルミニウム、シリコーン樹脂、シリコーンゴムなどが挙げられる。これらの無機結合材又はその前駆体を単独、あるいは組み合わせて用いることができる。
【0010】
色鉛筆芯の主成分である体質材と無機結合材との配合比は特に限定されないが、質量比で9:1~7:3であることが好ましい。
【0011】
本発明による鉛筆芯は、体質材と無機結合材を含んでなり、その体質材を構成する結晶子が小さいことを特徴とする。具体的には、本発明による鉛筆芯に含まれる体質材の結晶子は、体質材の結晶子のa軸方向のサイズLa、およびc軸方向のサイズLcを用いて特定することができる。ここで、Laはa軸方向の幅を、Lcは結晶子のc軸方向の厚みを、それぞれ意味するものであり、いずれも体積で重みづけされた体積加重平均サイズである。このLaおよびLcは、X線回折装置を用いて測定されたXRDプロファイルをもとに、Laに対しては(110)面に対応する回折線、Lcに対しては(002)面に対応する回折線の半値幅を求め、シェラーの式:
L = Kλ/βcosθ
(ここで、
L:結晶子サイズ[nm]
K:シェラー定数
λ:X線波長[nm]
β:半値幅
である)
により求めることができる。
【0012】
本発明者らの検討によれば、このように決定される体質材の結晶子サイズは、その体質材を含む鉛筆芯の、機械的強度、筆記濃度に関連し、結晶子サイズが特定のサイズであるときに、書き味や筆記距離などの諸性能を損なうことなく、機械強度や発色性を改良することができることがわかった。具体的には、a軸方向の結晶子サイズLaが50nm以下、好ましくは40nm以下であり、c軸方向の結晶子サイズLcが30nm以下であり、好ましくは20nm以下であるときに、優れた特性を実現することができる。
【0013】
本発明による鉛筆芯が、体質材の結晶子サイズが上記範囲にある場合に優れた特性を発揮する理由は十分に解明されていないが、結晶子サイズが小さいことによって体質材と無機結合材との密着性が増し、体質剤が無機結合材から遊離することが非常に少なく、体質材と無機結合材とが強固に密着した状態となって、結果的に強固で均一な組織構造が形成されるためと考えられる。
【0014】
本発明において、鉛筆芯は体質材と無機結合材とを含んでなる。一般的に鉛筆芯は、体質材と結合剤との混合物を成形した後に焼成することで製造されるが、本発明においても同様の方法を適用することができる。すなわち、体質材と、無機結合剤またはその前駆体との混合物を焼成し、必要に応じて、形成された多孔性芯体に着色剤、高沸点有機溶媒、および潤滑成分を吸着または付着させることにより、本発明による鉛筆芯を製造することができる(詳細後記)。
【0015】
また、体質材と、無機結合材と、無機物や水溶性樹脂などと、必要に応じて着色剤とを含む混合物を、高圧で圧縮し、その後、水や溶剤などに浸漬して、前記無機物や水溶性樹脂などを取り除くことで、鉛筆芯を製造することもできる。
【0016】
また、本発明による鉛筆芯を構成する多孔性芯体の気孔率は特に限定されないが、1~50%の範囲であることが好ましく、5~50%の範囲であることがより好ましく、10~40%の範囲であることがさらに好ましく、20~40%の範囲であることが特に好ましい。気孔率が1%より小さいと、気孔内に存在する着色剤および潤滑成分の量が少なくなり、発色が劣ったり、運筆に若干の抵抗が生じる傾向があり、50%より大きいと、得られた多孔性芯体の強度が低下して折れやすくなる傾向がある。気孔率が1~50%の範囲であると、書き味が滑らかで、鉛筆芯の強度が維持できるので好ましい。
【0017】
また、本発明による鉛筆芯を構成する多孔性芯体の細孔比表面積は特に限定されないが、20m/g以上であることが好ましく、50m/g以上であることがより好ましく、70m/g以上であることが特に好ましい。ここで、気孔率、細孔径、および細孔比表面積は、細孔分布測定装置を用いて、水銀圧入法によって測定することができる。測定条件は、例えば、初期圧7kPa、水銀接触角130degrees、水銀表面張力485dyns/cmとすることができる。測定値は、最頻値を採用することができる。また、気孔率は、例えば、水銀が直径330μmの空隙にまで圧入されたされたときの体積対する値である。
【0018】
細孔比表面積が大きいと、結晶子サイズが小さくなり、書き味が滑らかになる傾向がある。また、細孔径が小さい場合であっても、細孔比表面積が大きい場合には、着色剤が浸透しやすく、鉛筆芯の中心まで容易にかつ均一に着色ができる。
【0019】
また、本発明による鉛筆芯を構成する多孔性芯体の細孔径(モード径)は、0.003~0.1μmであることが好ましく、0.005~0.1μmであることがより好ましく、0.005~0.05μmであることがさらに好ましく、0.01~0.05μmであることが特に好ましい。
【0020】
なお、着色剤などを含む鉛筆芯の気孔率も同様の方法で測定できる。ただし、上記の多孔性芯体の気孔率についての測定方法を適用する前に、加熱または減圧することで有機溶媒等の除去をする必要がある。鉛筆芯の気孔率を測定する場合、溶媒等を除去しても気孔内に有機溶媒等が若干残留する可能性がある。このため、多孔性芯体の気孔率と、鉛筆芯の気孔率とはわずかな差が生じることがある。このような差を考慮に入れると、多孔性芯体の気孔率は5~50%の範囲であることが好ましく、10~40%の範囲であることがより好ましく、20~40%の範囲であることが特に好ましい。
【0021】
本発明による鉛筆芯は、着色剤によって着色された色鉛筆芯とすることも、また着色剤を用いずに体質材に由来する色の筆跡を形成できる、いわゆる白色芯とすることもできる。とくに、本発明による鉛筆芯は、なめらかな書き味を実現できるので、布などに筆記するチャコペンなどに用いることが好ましい。このような白色芯とする場合、JIS Z8715:1999に準じて測定される白色度が、70以上であることが好ましい。
【0022】
本発明による鉛筆芯を色鉛筆芯とする場合に用いる着色剤としては、染料または顔料を用いることができる。また、染料などで樹脂を染着した着色顔料を用いることもできる。一般的に染料は耐熱性が低いこともあるが、溶液としたときに多孔性芯体に容易に浸透するので、本発明による鉛筆芯の製造が容易となるこのため、着色剤は染料であることが好ましい。
【0023】
本発明に用いることができる染料は特に限定されず、一般染料や蛍光染料が挙げられる。
【0024】
一般染料の例としては、油溶性染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料などが挙げられる。またそれら染料の造塩染料等して、酸性染料と塩基性染料との造塩染料、塩基性染料と有機酸との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料などが挙げられる。より具体的には、バリファーストブラック1802、バリファーストブラック1805、バリファーストブラック1807、バリファーストバイオレット1701、バリファーストバイオレット1704、バリファーストバイオレット1705、バリファーストブルー1601、バリファーストブルー1605、バリファーストブルー1613、バリファーストブルー1621、バリファーストブルー1631、バリファーストレッド1320、バリファーストレッド1355、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1101、バリファーストイエロー1151、ニグロシンベースEXBP、ニグロシンベースEX、BASE OF BASIC DYES ROB-B、BASE OF BASIC DYES RO6G-B、BASE OF BASIC DYES VPB-B、BASE OF BASIC DYES VB-B、BASE OF BASIC DYES MVB-3(オリエント化学工業株式会社)、アイゼンスピロンブラック GMH-スペシャル、アイゼンスピロンバイオレット CRH、アイゼンスピロンブルー GNH、アイゼンスピロンブルー 2BNH、アイゼンスピロンブルー C-RH、アイゼンスピロンレッド C-GH、アイゼンスピロンレッド C-BH、アイゼンスピロンレッド C-PH、アイゼンスピロンイエロー C-GNH、アイゼンスピロンイエロー C-2GH、S.P.T.ブルー111、S.P.T.ブルーGLSH-スペシャル、S.P.T.レッド533、S.P.T.オレンジ6、S.B.N.バイオレット510、S.B.N.イエロー530、S.R.C-BH(保土谷化学工業株式会社)等が挙げられる。
【0025】
蛍光染料の例としては、ベーシックイエロー1、同40、ベーシックレッド 1、同1:1、同13、ベーシックバイオレット1、同7、同10、同11:1、ベーシックオレンジ22、ベーシックブルー7、ベーシックグリーン1、アシッドイエロー3、同7、アシッドレッド52、同77、同87、同92、アシッドブルー9、ディスパースイエロー121、同82、同83、ディスパースオレンジ11、ディスパースレッド58、ディスパースブルー7、ダイレクトイエロー85、ダイレクトオレンジ8、ダイレクトレッド9、ダイレクトブルー22、ダイレクトグリーン6、ソルベントイエロー44、ソルベントレッド49、ソルベントブルー5、ソルベントグリーン7などが挙げられる。
【0026】
これらの染料は、色鉛筆芯の性能に影響を及ぼさない範囲で、筆跡の色を調整するなどのために、単独でまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。さらに、これらの染料に、その他の染料を併用してもよい。
【0027】
また、着色剤としては、任意の顔料を用いることもできる。また、超微細化顔料や加工顔料等を用いることもできる。
【0028】
また、染料などで樹脂を染着した着色顔料を用いることもできる。このような着色顔料は、発色性の向上を実現できるので好ましい。
【0029】
着色顔料を構成する樹脂としては、アクリル樹脂、スチレン-アクリロニトリル樹脂、スチレン樹脂、含窒素樹脂、ポリエチレン樹脂、またはポリプロピレン樹脂、など任意の樹脂を用いることができる。これらの樹脂に組み合わせる染料は、上記したものから選択することができる。
【0030】
また、後述する高沸点有機溶媒に対する溶解性や、分散性および分散安定性、および、染料などによる染着性などを考慮すれば、これらの樹脂のうち、含窒素樹脂、またはスチレン-アクリロニトリル樹脂を用いることが好ましく、含窒素樹脂がより好ましい。含窒素樹脂のうち、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂、またはベンゾクアナミン樹脂などが好ましい。さらに、これらのうち、高沸点有機溶媒への溶解安定性の観点から、メラミン樹脂、またはポリアミド樹脂が好ましく、メラミン樹脂がより好ましい。
【0031】
着色顔料の例としては、NKS-1000シリーズ、MPI-500シリーズ(日本蛍光化学株式会社製)、FNPシリーズ、FMシリーズ(シンロイヒ株式会社製)などが挙げられる。
【0032】
これらの着色顔料は、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば筆跡の色を調整する目的のために、2種以上組み合わせて用いてもよい。さらに、これらの着色顔料に、染料を併用してもよい。
【0033】
また、本発明においては、蛍光色の着色剤を用いることも好ましい。このような着色剤を用いることで、蛍光性を有する筆跡を得ることができ、より発色性に富んだ筆跡が得られる。これにより、単に文字を残すだけでなく、描く、印をつけるというような場面においても、利用しやすい。
【0034】
色鉛筆芯の総質量に対する着色剤の含有量は、その種類によって適切な量が変わるが、0.1~30質量%であることが好ましく、0.2~25質量%であることがより好ましく、1~20質量%であることが好まし。
【0035】
多孔性芯体に着色剤を組み合わせて鉛筆芯を形成させる場合、体質材と無機結合材を含む多孔性芯体に着色剤を溶媒に溶解させた着色剤溶液を含浸させ、その後、必要に応じて溶媒の一部を除去することで容易に製造できる(詳細後述)。このため、製造に用いられる溶媒は、用いる着色剤を溶解可能であることが好ましい。
【0036】
本発明による色鉛筆芯は、その色鉛筆芯に含まれる着色剤を溶解可能であり、沸点が250℃以上である高沸点有機溶媒を含むこともできる。このような溶媒を用いることで優れた発色性と書き味を付与することができる。そして、沸点が高いので製造過程や保存時に揮発しにくく、安定した性能を維持することが可能である。
【0037】
ここで、高沸点有機溶媒が着色剤を溶解可能であるとは、その高沸点有機溶媒に対する着色剤の溶解度が20℃において、10g/100g以上であること、すなわち、20℃の高沸点有機溶媒100gに対して、着色剤が10g以上溶解することを意味する。着色剤の溶解度が高いほど、色鉛筆芯の保存安定性が高くなる傾向にあり、溶解度は、30g/100g以上であることがより好ましく、40g/100g以上であることがさらに好ましい。
【0038】
このような溶媒は用いる着色剤の溶解性やその他の性能等を勘案して任意に選択することができるが、芳香族グリコールエーテル、または脂肪族グリコールエーテルであることが好ましい。グリコールエーテルはエーテル基と水酸基の両方を構造中に含み、一般に染料や樹脂などの溶解性が高く、またその他の有機溶媒などにも親和性が高いという特徴を有している。
【0039】
このような高沸点有機溶媒の具体例としては
ジエチレングリコールモノフェニルエーテル(フェニルジグリコール、283℃)、
ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、(302℃)、
トリエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルトリグリコール、271℃)、
エチレングリコールモノベンジルエーテル(256℃)
などが挙げられる。なお、括弧内の数値は沸点を示す(以下同様)。
【0040】
また、高沸点有機溶媒として、ポリアルキレングリコールのカルボン酸エステルまたはアルコールのカルボン酸エステルを用いることができる。
【0041】
さらに、沸点が250℃以上の高級脂肪酸や高級アルコールも用いることができる。具体的には、炭素数10以上のカルボン酸、例えばデカン酸(259℃)、オレイン酸(360℃)など、および炭素数12以上のアルコール、例えばドデシルアルコール(259℃)、ミリスチルアルコール(292℃)が挙げられる。なお、高級脂肪酸は色鉛筆芯がシャープペンシルに用いられて金属部品と接触する場合に腐食を起こす可能性もあるので注意が必要である。
【0042】
なお、有機溶媒のうちには常温常圧下で液体であっても、常圧条件下で加熱すると昇華したり、化学反応によって変性するなどして正確な沸点が測定できないものがある。そのような有機溶媒でも、高沸点有機溶媒として採用することができる場合がある。そのような場合、例えば、常圧下で250℃で保持したとき、30分後の重量減少率が10質量%以下であれば、その高沸点有機溶媒の沸点250℃以上とすることができる。
【0043】
本発明による色鉛筆芯に含まれる高沸点有機溶媒の含有率は、目的に応じて適切に調整されるが、色鉛筆芯の総質量を基準とした、高沸点有機溶媒の含有率が0.5~20質量%であることが好ましく、1~15質量%であることがより好ましい。高沸点有機溶媒の含有率は任意の方法で測定することができる。例えば熱重量測定などの方法によって、色鉛筆芯に高沸点有機溶媒が含まれることを確認することができる。
【0044】
なお、本発明による色鉛筆芯は、高沸点有機溶媒とは別の有機溶媒(以下、低沸点有機溶媒ということがある)を含むことができる。ここでいう有機溶媒は、後述する難揮発性液体とも異なるものである。具体的には、沸点が250℃未満であり、着色剤を溶解可能な有機溶媒である。
【0045】
低沸点有機溶媒のうち、比較的沸点の高いもの、例えば沸点が150℃以上250℃未満のものは、一般的に、高沸点有機溶媒で得られる書き味改良などの効果を補うことが期待できる。また、比較的沸点の低いもの、例えば沸点が150℃未満のものは、一般的に、製造過程において、多孔性芯体に着色剤を含浸させるときに着色剤溶液の粘度を下げるのに有効である。これにより、本発明において特定された結晶子サイズを有する体質材を用いた場合においても、多孔性芯体に均一に着色剤溶液が浸透され、発色良好な筆跡が得られる。ただし、このような比較的沸点の低いものは、大部分またはすべてが製造過程で除去されるので色鉛筆芯にはほとんど含まれないことが多い。
【0046】
このような、低沸点有機溶媒の例としては、
トリエチレングリコールモノメチルエーテル(249℃)、
フェニルセルロルブ(247℃)、
プロピレングリコールモノメチルエーテル(243℃)、
ベンジルアルコール(205℃)、
3-メトキシー3―メチル-1-ブタノール(174℃)、
キシレン(139℃)、
トルエン(111℃)、
イソプロピルアルコール(82℃)、
メチルエチルケトン(79℃)、
エチルアルコール(78℃)、
エチルアセテート(77℃)、
アセトン(56℃)
などが挙げられる。
【0047】
本発明による鉛筆芯は、潤滑成分をさらに含むことができる。この潤滑成分は、多孔性芯体中に均一に含まれていたり、表面に付着されていたりすることができるが、多孔性芯体の気孔中に充填されていてもよい。この潤滑成分により、筆記時の書き味がさらに改良される。
【0048】
本発明において、潤滑成分のひとつは、常温において揮発しにくい液体をいう。着色された色鉛筆芯である場合には、着色剤を溶解不能であるものが好ましい。また、難揮発性液体の沸点は特に限定されないが、250℃以下では揮発しない液体であることが好ましい。
【0049】
このような難揮発性液体を用いることによって、色鉛筆芯の経時安定性を高いレベルで維持し、筆記時の書き味が改良される。
【0050】
また難揮発性液体は、多孔性芯体の気孔への含浸を容易にするために、粘度が低いことが好ましい。
【0051】
また、難揮発性液体の表面張力は、多孔性芯体の気孔への含浸性に優れ、難揮発性液体が多孔性芯体の全体に均等にムラ無く含浸されて書き味や消去性に優れた色鉛筆芯が得られることから、35mN/m以下であることが好ましく、30mN/m以下であることがより好ましく、25mN/m以下であることがさらに好ましい。ここで表面張力は、温度25℃の条件下で、JIS K2241に規定された方法で測定することができる。
【0052】
好ましい難揮発性液体の具体例として、シリコーンオイル、フッ素系オイル、スピンドル油などの鉱油、植物油、および流動パラフィンからなる群から選択されるものが挙げられ、このうちシリコーンオイルまたは鉱油が好ましく、シリコーンオイルであることがより好ましい。シリコーンオイルは、温度による粘度変化が小さく、安定性に優れることから、難揮発性液体としてシリコーンオイルを用いることにより、環境の変化や経時の影響を受けにくい色鉛筆芯となる。また、色鉛筆芯をシャープペンシルに使用した場合には、金属材料からなるシャープペンシルの先端開口部やチャック、芯収容筒などの部品を腐食することが少ない。シリコーンオイルとしては、特にジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーンが好ましく、変性シリコーンも好ましいものとして挙げることができる。鉱油は鉛筆芯の細孔径が小さい場合であっても浸透しやすいという特徴があるので、目的に応じて用いることができる。
【0053】
鉛筆芯の総質量に対する難揮発性液体の含有量は、5~40質量%であることが好ましく、8~45質量%であることがより好ましく、10~35質量%であることがより好ましい。
【0054】
また、潤滑成分のもうひとつは、界面活性剤である。界面活性剤は、親水性の低い難揮発性液体に比較すると、親水性が高い。このため、本発明による鉛筆芯をチャコペンなどに利用し、布地などに形成した場合には、洗濯などで容易に除去できるという利点がある。
【0055】
界面活性剤は非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等から任意に選択することができるが、これらのうち非イオン性界面活性剤が好ましい。」
【0056】
また、非イオン性界面活性剤のHLB値は、8~15であることが好ましい。HLB値が上記の数値の範囲である、非イオン性界面活性剤を用いることで、洗濯などで除去することがより容易になり、鉛筆芯をチャコペンとして利用する場合に有利である。
【0057】
なお、本明細書においてHLB値は、下記式(1)で表されるグリフィン法などの計算式よって算出される。
式(1): HLB値=20×(親水性部の式量の総和)÷(材料の分子量)
【0058】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル[例えば、ノイゲンEA-177、ノイゲンEA-87(いずれも商品名、第一工業製薬株式会社)など]、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー[例えば、ニューポールPE-108(商品名、三洋化成工業株式会社)など]、ポリオキシエチレンフェニルフェノールエーテル硫酸塩[例えば、アグリゾールFL-2017(商品名、株式会社花王)など〕、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル[例えば、ノニポール120(商品名、三洋化成工業株式会社)など]などが挙げられる。
【0059】
本発明による鉛筆芯は、その性能に影響を及ぼさない範囲で各種添加剤を含んでいてもよい。具体的な添加剤としては、防腐剤、防黴剤、樹脂等が挙げられる。
【0060】
本発明による鉛筆芯の形状は特に限定されないが、一般に断面が円形である線状体とされる。その大きさは、例えばシャープペンシル用鉛筆芯としては、断面直径が0.2~2.0mmであることが好ましく、0.3~0.7mmであることが好ましい。また、長さは30~100mmであることが好ましく、40~70mmであることがより好ましい。また、木材などの支持体に保持された一般的な鉛筆に適用する場合には、断面直径が0.5~3.0mmであることが好ましく、0.8~2.0mmであることが好ましい。
【0061】
本発明による鉛筆芯は、焼成により製造された多孔性芯体を用いると、高い物理的強度を実現できる。これは、着色剤が、気孔の内側面に、均一または不均一な層を形成していたり、塊状に付着しているためと考えられる。本発明による鉛筆芯の曲げ強度は、120MPa以上であることが好ましく。180MPa以上であることがより好ましい。ここで曲げ強度は、JIS S 6005:2019に規定された方法で測定することができる。
【0062】
なお、本発明による鉛筆芯は酸性成分を含まない構成とすることが可能である。鉛筆芯はシャープペンシル等に利用されることが多いので、金属材料と接触することが多い。このため酸性成分を含まない構成とすることで、シャープペンシルの金属部分の腐食を抑制することができる。したがって、本発明による鉛筆芯は酸性材料を含まないことが好ましい。
【0063】
<鉛筆芯の製造方法>
本発明による鉛筆芯の製造方法は、特に限定されないが、例えば以下に説明する方法で製造することができる。なお、本発明による鉛筆芯の製造方法は、以下の方法に限定されるものではない。
【0064】
鉛筆芯は、窒化ホウ素などの体質材と結合材とを含む原料を混合および混練し、押出成形して成形体とした後に焼成して多孔性芯体とし、多孔性芯体に含まれる気孔中に必要に応じて油やワックス等の油状物質を含浸させることにより製造される。
【0065】
本実施形態の鉛筆芯の製造方法では、原料混合物の混合、成形、粉砕、および焼成をそれぞれ2回以上行うことによって、焼成芯体を形成する工程を含むことが好ましい。より具体的には、本発明による鉛筆芯の製造方法は、(a)一次混合混練工程と、(b)予備焼成工程と、(c)予備粉砕工程と、(d)二次混合混練工程と、(e)予備成形工程と、(f)再粉砕工程と、(g)押出成形工程と、(h)焼成工程と、を含む。本発明による鉛筆芯の製造方法は、好ましくは、工程(a)~工程(h)の後に、潤滑成分を含浸させる含浸工程(i)をさらに含む。これらの各工程について説明すると以下のとおりである。
【0066】
(a)一次混合混練工程
一次混合混練工程では、一次混合および一次混練を行って一次混合物aを得る。詳細には、まず、原料を配合し、それを混合および混練する。原料としては、体質材、例えば窒化ホウ素と結合材とが挙げられる。
【0067】
体質材としては、結晶子サイズの大きいものよりも小さいものを用いることが好ましい。しかし、結晶子サイズの小さい窒化ホウ素は入手が困難であり、また製造過程における破砕または粉砕工程によって変化するのであることから、必ずしも結晶子サイズの小さいものを用いることを必要としない。
【0068】
結合材としては、従来公知のものであればいずれも用いることができる。無機結合材としては、鉛筆芯の項で挙げたものが用いられる。また、原料に無機結合材の前駆体を配合することができる。また、結合材として有機結合材を併用することができる。有機結合材としては、代表的には各種の樹脂が挙げられる。樹脂としては水溶性樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などが用いられるが、この他にシリカ、シリコーンゴム、シリコーンレジン、テトラエチルシリケートなどの物質を用いることもできる。また、原料として溶剤や可塑剤などを配合することもできる。
【0069】
これらのうち体質材と有機結合材のみを配合して配合物とした上で、一次混合および一次混練することができる。混合および混練には、ヘンシェルミキサー、ニーダー、3本ローラーなどを用いることができる。ニーダーには加圧ニーダー、普通ニーダー、連続式ニーダーなど任意のものを選択することができる。
【0070】
(b)予備焼成工程
予備焼成工程では、一次混合混練工程にて得られた一次混合物aを予備焼成する。詳細には、予備焼成工程では、まず、一次混合物aを微粉砕機で粉砕可能な程度に粗粉砕する。そして、粗粉砕により得られた粉砕物について、一度焼成処理を行う(予備焼成)。焼成処理の条件は真空または不活性ガス雰囲気下で行われる。焼成温度は特に限定されないが、600℃以上800℃以下の範囲で十分である。この焼成処理により得られる予備焼成物bは、含まれる結合材が炭化した状態で窒化ホウ素の潤滑性が損なわれることから、粉砕しやすく、微粉砕化しやすくなる。
【0071】
(c)予備粉砕工程
予備粉砕工程では、予備焼成工程によって予備焼成された一次混合物を微粉砕し(予備粉砕)、予備粉砕物cを得る。
【0072】
予備粉砕物cの粒子径は、得られる鉛筆芯の品質性能に影響を及ぼす。このため、確実に所望の粉砕粒子径とすることが重要である。予備粉砕物cの粒子径は、D50で1μm以上30μm以下が好ましく、5μm以上10μm以下がより好ましい。
【0073】
なお、予備粉砕された粒子の大きさおよび分布は、レーザー回折・散乱法に基づく粒度分布測定機を使用して測定することができる。本実施形態においては、粒子の粒子径には相対粒子数50%に相当する、所謂D50(体積基準で測定したメディアン径)を用いる。なお、粒度分布の測定は乾式および湿式のいずれも用いることが可能であるが、比較的小さい粒子の大きさを測定する場合には、より簡便な乾式方法で測定することが好ましい。
【0074】
粉砕には一般的な粉砕機を使用することが可能である。具体的には、(i)粗粉砕機としては、ハンマークラッシャー、ジョークラッシャー、ジャイレトリークラッシャー、コーンクラッシャー、インパクトクラッシャーなどが挙げられる。(ii)中粉砕機としては、ロールクラッシャー、カッターミル、スタンプミル、スルートミル石臼型、リングミルなどが挙げられる。(iii)微粉砕機としては、ローラーミル、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミルなどが挙げられる。
【0075】
予備焼成工程で行われる粗粉砕においては粗粉砕機を使い、予備粉砕工程で行われる微粉砕においては微粉砕機を使用するのが一般的であるが、これらは単独で利用してもよいし、複数組み合わせて利用してもよい。
【0076】
(d)二次混合混練工程
二次混合混練工程では、予備粉砕工程で得られた予備粉砕物cに、必要に応じてその他の原料を配合し、再度、これらを混合および混練して、二次混合物dを得る。その他の原料としては、追加の結合材が挙げられる。結合材としては、上記一次混合混練工程で用いた結合材と同様のものが挙げられる。
【0077】
(e)予備成形工程
予備成形工程では、二次混合混練工程で得られた二次混合物dをさらに混合し、押出機などにより細線状に予備成形して、予備細線状成形物eを得る。
【0078】
(f)再粉砕工程
再粉砕工程では、予備成形工程で得られた予備細線状成形体eを粉砕して、再粉砕物fを得る。粉砕後の粒子径は、特に限定されないが、D50で10μm以上500μm以下が好ましく、で50μm以上400μm以下であることがより好ましい。組織の細かい緻密構造を形成しやすくするために、粒子は小さいことが好ましい。また、粉砕後の粒子の飛散を防ぎ、取り扱いを容易にするために、また粉砕時間短縮のために、粒子はある程度大きいことが好ましい。
【0079】
再粉砕された粒子の大きさや分布は、上記と同様にレーザー回折・散乱法に基づく粒度分布測定機を使用して測定することができる。上記と同様に、粒子径は相対粒子数50%に相当する、所謂D50(体積基準で測定したメディアン径)である。粒度分布の測定は乾式および湿式のいずれであって可能であるが、比較的小さい粒子の大きさを測定する場合には、より簡便な乾式方法で測定することが好ましい。
【0080】
(g)押出成形工程
押出成形工程では、再粉砕工程において得られた再粉砕物fを必要に応じて加熱し、細線状に押出成形して、細線状成形物gを得る。押出機には任意のものを用いることができる。押出成形時の混練物の押出速度は、例えば0.1m/秒以上15m/秒以下である。
【0081】
(h)焼成工程
焼成工程では、押出成形工程において得られた細線状成形物gを焼成して、焼成芯体、すなわち多孔性芯体hを得る。焼成条件は、任意に選択することができるが、2段階焼成することが好ましい。2段階焼成を行う場合、1段階目の焼成の際の雰囲気は酸素含有率が低いことが好ましく、真空または不活性ガス雰囲気下で行われる。焼成温度は500℃以上800℃以下が好ましい。2段階目の焼成の際の雰囲気は酸素含有率が高いことが好ましく、焼成温度としては600℃以上900℃以下好ましく、650℃以上850℃以下がより好ましい。
【0082】
(i)含浸工程
以上の工程(h)に引き続いて、または後述する工程(h’)に引き続いて、必要に応じて、多孔性芯体hまたはh’に潤滑成分を含浸させる工程をさらに実施することができる。
【0083】
含浸工程では、焼成工程により得られた多孔性芯体hに潤滑成分を含浸させる。この潤滑成分は、気孔内に充填されたり、多孔性芯体hの表面を被覆し、筆記の際の筆記感等を改良することができる。含浸方法は特に限定されず、公知の方法で行うことができる。なお、本発明による鉛筆芯の製造方法が、後述する着色工程(p)を含む場合には、工程(i)をその後に行うこともできる。
【0084】
上記工程を経ることによって、本実施形態の鉛筆芯が製造される。
【0085】
上記した鉛筆芯の製造方法は、原料混合物の混合、成形、粉砕、および焼成をそれぞれ2回行うものである。すなわち、上記した鉛筆芯の製造方法では、(a)一次混合混練工程、(b)予備焼成工程、(c)予備粉砕工程、(d)二次混合混練工程、(e)予備成形工程、(f)再粉砕工程、(g)押出成形工程、(h)焼成工程、および(i)含浸工程の各工程をこの順に実行することで、原料混合物の混合、成形、粉砕、および焼成をそれぞれ2回行う。
【0086】
なお、本発明による鉛筆芯の製造方法では、(h)焼成工程の直後、含浸工程(i)を行う場合にはその前に、(c’)予備粉砕工程、(d’)二次混合混練工程、(e’)予備成形工程、(f’)再粉砕工程、(g’)押出成形工程、および(h’)焼成工程、の一連の工程群をN回実行することが好ましい。(i)含浸工程を実行する場合には、工程(c’)~工程(h’)の後に実施する。Nは、1以上の整数であり、好ましくは、1以上5以下の整数、更に好ましくは1以上3以下の整数である。なお、各、工程(c’)~工程(h’)の処理条件は、工程、上記した工程(c)~工程(h)の処理条件からそれぞれ選択することができる。また、工程(c’)~工程(h’)の工程群を2回以上繰り返す場合、(i)含浸工程または後述する(p)着色工程は、その工程群のすべてが完了した後に行う。
【0087】
このように、原料混合物の混合、成形、粉砕、および焼成をそれぞれ2回以上行うことで、本発明による鉛筆芯を製造することができる。このような方法によって、体質材のX線回折により決定されるa軸方向の結晶子サイズLaが50nm以下であり、c軸方向の結晶子サイズLcが30nm以下である鉛筆芯を製造することができる。
【0088】
なお、上記の方法で得られる鉛筆芯は、主に体質材に由来する色を有する。例えば窒化ホウ素を体質材として含む鉛筆芯は、白色の鉛筆芯となる。白色の鉛筆芯は、着色された紙や布などに筆記するのに適している。一方で、上記の方法で得られた鉛筆芯に、さらに着色剤を配合して、色鉛筆芯とすることもできる。
【0089】
具体的には、工程(h)または工程(h’)のすべての焼成処理が完了した後、含浸工程(i)を行う場合にはその前に、着色剤によって多孔性芯体hを着色する、(p)着色工程を実施することができる。工程(i)および工程(p)の両方を行う場合には、工程(p)を行い、その後に工程(i)を行う
【0090】
(p)着色工程において用いられる着色剤は特に限定されず、染料または顔料などから任意に選択して用いることができる。選択された着色剤を適切な溶媒に溶解させ、その着色剤溶液に多孔性芯体を接触させる。着色剤として染料を用いる場合には、低沸点有機溶媒を用いることが好ましい。低沸点溶媒を溶媒として用いることで、多孔性芯体に均一に着色剤溶液が浸透され、発色良好な筆跡が得られ、また、乾燥が容易になる。一方、着色剤として、染料などで樹脂を染着した着色顔料などの顔料を用いる場合には、高沸点有機溶媒を用いることが好ましい。高沸点有機溶媒を用いることで、鉛筆芯の書き味を改良する効果が得られる傾向にある。なお、いずれの場合も、必要に応じて低沸点有機溶媒と高沸点有機溶媒の混合溶媒を用いることができる。この工程において、多孔性芯体中に着色剤溶液が浸透する。顔料を用いる場合には、顔料を多孔性芯体の気孔内に配置することが好ましいので、接触時に圧力を調整することもできる。
【0091】
上記着色剤溶液の着色剤含有率は特に限定されないが、溶液の総質量を基準として、着色剤の濃度が5~50質量%であることが好ましく、5~45質量%であることがより好ましく、10~40質量%であることが特に好ましい。この範囲より少ないと、着色剤の含有量が少なくなり、発色性が劣る傾向があり、この範囲より多いと、着色剤の添加量に応じた発色性の向上が見られない傾向にあり、また着色剤が経時的に析出するなど、溶液の経時安定性が低くなる恐れがある。なお、着色剤の溶解性や安定性を改善するために、溶液中に界面活性剤を添加することもできる。
【0092】
また、顔料を含む着色剤溶液の溶媒として、高沸点有機溶媒に低沸点有機溶媒を組み合わせた混合溶媒を用いると、着色剤溶液の粘度が低くなって含浸が容易になり、また引き続き行われる乾燥工程において、気孔内の空隙が形成させやすくなる。この場合、難揮発性液体を芯の気孔内にも含浸させやすくなり、難揮発性液体を含浸させることで得られる効果を十分に得ることが可能となる。このような低沸点有機溶媒としては、100℃以下で蒸発する溶媒が好ましく、より好ましくは90℃以下であり、さらに好ましくは、80℃以下で蒸発する溶媒が好ましい。より好ましくは炭素数1~4の脂肪族アルコールが好ましい。高沸点有機溶媒と低沸点有機溶媒との配合比は、その沸点の差や着色剤の溶解度によって調製することができるが、例えば高沸点有機溶媒の質量と、低沸点有機溶媒の質量との比が、1:1~1:15であることが好ましく、1:1~1:12であることがより好ましく、1:1.5~1:10であることがさらに好ましく、1:1.5~1:7であることが特に好ましい。
【0093】
工程(p)に引き続き、着色工程後の多孔性芯体を加熱して、多孔性芯体に浸透している溶媒の一部またはすべてを除去する、(q)乾燥工程を行うことが好ましい。なお、高沸点有機溶媒を用いる場合には、多孔性芯体に着色剤と高沸点有機溶媒が残留し、吸着または付着する。そして、加熱によって溶媒の一部が除去されたり、多孔性芯体への溶媒の浸透が進行して気孔内に空隙が形成される。乾燥は、200℃以下の温度で行われるが、着色剤溶液に比較的沸点が低い溶媒が含まれる場合には、より低い温度、例えば100℃以下で行うことができる。低い温度で乾燥処理ができればエネルギーコストを低減することができるので好ましい。
【0094】
なお、以上の製造方法は一例であり、その他の方法により本実施形態の鉛筆芯を製造することもできる。例えば、単に混合、成形、粉砕、および熱処理(焼成)のそれぞれを2回以上行うのではなく、各種の条件の調整や原料の最適化を行うことにより、より優れた特性を有する鉛筆芯を効率よく製造することが可能となる。
【0095】
例えば、上記(e)予備成形工程または(e’)予備成形工程における雰囲気圧力の調整により混合物中の体質材と結合材との密着性を高めたり、細線状に予備成形する際の絞り率を調整したりすることで、鉛筆芯の緻密度を改善することができる。絞り率とは、押出機の材料導入部と成形体押出部の直径の比をいう。
【0096】
<筆記具>
本発明による鉛筆芯は、鉛筆芯を筆記用の芯として用いる各種の筆記具に適用される。例えば、本実施形態の鉛筆芯は、木材などの鉛筆軸部によって挟持されてなる鉛筆芯、芯の出し入れおよび取り換えが可能であり例えば芯を繰り出して用いるシャープペンシルの芯、等として用いることができる。
【0097】
本実施形態の鉛筆芯の適用対象の一例である筆記具の構造および形状は特に限定されない。
【実施例0098】
以下、本発明について実施例により具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0099】
[実施例1~5、比較例1~5]
(実施例1)
以下の工程により実施例1の鉛筆芯を製造した。
【0100】
一次混合混練工程で用いる原料として以下の原料を用意した。
【0101】
・窒化ホウ素 60質量部
・酢酸ビニル樹脂 25質量部
・エタノール 15質量部
なお、ここで用いる窒化ホウ素の粒子径はD50=約10μmであった。
【0102】
上記原料をヘンシェルミキサーにより混合し、更に3本ロールを用いて再度、混合、混練して、一次混合物A1を得た(一次混合混練工程)。次いで、エタノールの量を調整してハンマークラッシャーにて混練物を粗粉砕し、粉砕物を非酸化性雰囲気中において最高温度600℃で熱処理し(予備焼成工程)、更にジェットミルを用いて微粉砕し(予備粉砕工程)、窒化ホウ素と少量の酢酸ビニル樹脂由来の炭素質からなるD50=5μmの微粉砕物を、一次混合物A1の粉砕物として得た。
【0103】
次に、二次混合混練工程で用いる原料として、以下の原料を用意した。
・一次混合物A1の粉砕物 42質量部
・酢酸ビニル樹脂 28質量部
・シリコーンレジン 10質量部
・エタノール 20質量部
【0104】
上記原料を、一次混合物A1の粉砕物の製造時と同様に、ヘンシェルミキサーを用いて混合し、更に3本ロールを用いてエタノール量を調整しながら再度、混合、混練して、二次混合物D1を得た(二次混合混練工程)。
【0105】
次いで単軸押出成形機にて細線状に予備成形し(予備成形工程)、細線状成形体を得た。得られた成形体をピンミルにより微粉化して(再粉砕工程)、D50=150μmの粉砕物を得た。この粉砕物を単軸押出機にて所望の寸法になるように再度細線状に成形した(押出成形工程)。
【0106】
得られた成形体を、非酸化性雰囲気中において最高温度600℃で熱処理を実施し、更に酸素含有量95%の雰囲気中において最高温度800℃にて熱処理を実施し、冷却して多孔性芯体H1を得た(焼成工程)。
【0107】
多孔性芯体H1にシリコーン油を100℃で2時間保持の条件で含浸させ(含浸工程)、焼成体表面の余分な油を除去した後、呼び直径0.7mmのシャープペンシル用の実施例1の鉛筆芯を得た。
【0108】
(実施例2)
以下の工程により実施例2の鉛筆芯を製造した。
【0109】
一次混合混練工程で用いる原料として以下の原料を用意した。
【0110】
・窒化ホウ素 60質量部
・酢酸ビニル樹脂 25質量部
・エタノール 15質量部
【0111】
上記原料をヘンシェルミキサーにより混合し、更に3本ロールを用いて再度、混合、混練して一次混合物A2を得た(一次混合混練工程)。次いで、エタノールの量を調整してハンマークラッシャーにて混練物を粗粉砕し、粉砕物を非酸化性雰囲気中において最高温度600℃で熱処理を実施し(予備焼成工程)、更にジェットミルを用いて微粉砕し(予備粉砕工程)、窒化ホウ素と少量の酢酸ビニル樹脂由来の炭素質からなるD50=10μmの微粉砕物を、一次混合物A2の粉砕物として得た。
【0112】
次に、二次混合混練工程で用いる原料として、以下の原料を用意した。
・一次混合物A2の粉砕物 38質量部
・酢酸ビニル樹脂 30質量部
・シリコーンゴム 12質量部
・エタノール 20質量部
【0113】
上記原料を、原料A2を用いた一次混合物の粉砕物の製造時と同様に、ヘンシェルミキサーを用いて混合し、更に3本ロールを用いて再度、混合、混練して、二次混合物D2を得た(二次混合混練工程)。
【0114】
次いで単軸押出成形機にて細線状に予備成形し(予備成形工程)、細線状成形体を得た。得られた成形体を、ピンミルを用いて微粉化して(再粉砕工程)、D50=250μmの粉砕物を得た。この粉砕物を単軸押出機にて所望の寸法になるように再度細線状に成形した(押出成形工程)。
【0115】
得られた成形体を、非酸化性雰囲気中において最高温度600℃で熱処理を実施し、更に酸素含有量95%の雰囲気中において最高温度800℃にて熱処理を実施し、冷却して多孔性芯体H2を得た(焼成工程)。
【0116】
得られた多孔性芯体H2に、シリコーン油を100℃で2時間保持の条件で含浸させ、焼成体表面の余分な油を除去した後、呼び直径0.7mmのシャープペンシル用の実施例2の鉛筆芯を得た。
【0117】
(実施例3)
以下の工程により実施例3の鉛筆芯を製造した。
【0118】
実施例3では、実施例2と同様にして一次混合物A2の粉砕物を用いた。
【0119】
二次混合混練工程で用いる原料として、以下の原料を用意した。
【0120】
・一次混合物A2の粉砕物 43質量部
・酢酸ビニル樹脂 27質量部
・シリカ 10質量部
・エタノール 20質量部
【0121】
上記原料を、一次混合物A2の粉砕物の製造時と同様に、ヘンシェルミキサーを用いて混合し、更に3本ロールを用いてエタノール量を調整しながら再度、混合、混練して、二次混合物D3を得た(二次混合混練工程)。
【0122】
次いで単軸押出成形機にて細線状に予備成形し(予備成形工程)、細線状成形体を得た。得られた成形体をピンミルにより微粉化して(再粉砕工程)、D50=150μmの粉砕物を得た。この粉砕物を単軸押出機にて所望の寸法になるように再度細線状に成形した(押出成形工程)。
【0123】
得られた成形体を、非酸化性雰囲気中において最高温度600℃で熱処理を実施し、更に酸素含有量95%の雰囲気中において最高温度800℃にて熱処理を実施し、冷却して多孔性芯体H3を得た(焼成工程)。
【0124】
多孔性芯体H3にシリコーン油を100℃で2時間保持の条件で含浸させ、焼成体表面の余分な油を除去した後、呼び直径0.7mmのシャープペンシル用の実施例3の鉛筆芯を得た。
【0125】
(実施例4)
以下の工程により実施例4の鉛筆芯を製造した。
【0126】
実施例4では、実施例1と同様にして一次混合物A1の粉砕物を得た。
【0127】
次に、二次混合混練工程で用いる原料として、以下の原料を用意した。
【0128】
・一次混合物のA1粉砕物 37質量部
・酢酸ビニル樹脂 28質量部
・テトラエチルシリケート 15質量部
・エタノール 20質量部
【0129】
上記原料を、一次混合物の粉砕物A1の製造時と同様に、ヘンシェルミキサーを用いて混合し、更に3本ロールを用いてエタノール量を調整しながら再度、混合、混練して、二次混合物D4を得た(二次混合混練工程)。
【0130】
次いで単軸押出成形機にて細線状に予備成形し(予備成形工程)、細線状成形体を得た。得られた成形体をピンミルにより微粉化し(再粉砕工程)、D50=100μmの粉砕物を得た。この粉砕物を単軸押出機にて所望の寸法になるように再度細線状に成形した(押出成形工程)。
【0131】
得られた成形体を、非酸化性雰囲気中において最高温度600℃で熱処理を実施し、更に酸素含有量95%の雰囲気中において最高温度700℃にて熱処理を実施し、冷却して多孔性芯体H4を得た(焼成工程)。
【0132】
多孔性芯体H4にシリコーン油を100℃で2時間保持の条件で含浸させ(含浸工程)、焼成体表面の余分な油を除去した後、呼び直径0.7mmのシャープペンシル用の実施例4の鉛筆芯を得た。
【0133】
(実施例5)
実施例1に対して、焼成体H1に含浸工程におけるシリコーン油に代えて、ノニオン性界面活性剤水溶液(ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル(ノイゲンEA-87(商品名)、第一工業製薬株式会社製)を含浸させたほかは同様にして、実施例5の鉛筆芯を得た。
【0134】
(比較例1)
実施例1における一次混合物A1の粉砕物に代えて、窒化ホウ素粉末を用いた他は同様にして、比較例1の鉛筆芯を得た。
【0135】
(比較例2)
実施例2に対して、予備成形工程および再粉砕工程を行わなかった点以外は、実施例2と同様にして、比較例2の鉛筆芯を製造した。
【0136】
(比較例3)
実施例1における一次混合物A1の粉砕物に代えて、窒化ホウ素粉末の粉砕物を用いた他は同様にして、比較例3の鉛筆芯を得た。この窒化ホウ素の粉砕物は、ジェットミルにより微粉砕されたもので、D50=5μmであった。
【0137】
(比較例4)
比較例4では、実施例4に対して予備成形工程および再粉砕工程を行わなかった点以外は、実施例4と同様にして、比較例4の鉛筆芯を製造した。
【0138】
(比較例5)
比較例1に対して、含浸工程におけるシリコーン油に代えて、ノニオン性界面活性剤水溶液(ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル(ノイゲンEA-87(商品名)、第一工業製薬株式会社製)を含浸させたほかは同様にして、比較例5の鉛筆芯を得た。
【0139】
各例の原料配合比や工程条件をまとめると表1-1および表1-2のとおりである。
【0140】
(評価)
実施例1~実施例5の鉛筆芯、および比較例1~比較例5の比較鉛筆芯について、物性を評価した。得られた結果は表1-1および1-2に示したとおりである。評価条件は以下とした。
【0141】
窒化ホウ素の結晶子のサイズは、以下測定条件により測定した。
【0142】
X線回折装置(Bruker AXS社製、商品名:D8 ADVANCE)を用い、実施例1~実施例3の焼成体、および比較例1~比較例3の比較焼成体の各々に含まれる窒化ホウ素の結晶子のサイズL(002面)およびサイズL(110面)を測定した。測定には、1回の測定につき、1本の焼成体または1本の比較焼成体を使用した。
【0143】
X線回折測定には、一般には粉砕された粉末を用いるが、形状変化を避けるため、今回の評価では粉砕を行わなかった。測定にはゲーベル・ミラーによる平行ビーム法を用いた。
【0144】
サイズLの測定は、焼成体および比較焼成体の各々の押出軸方向に対して平行にX線を照射し、方位角2θを20°以上30°以下の範囲でスキャンした。一方、サイズLの測定は、焼成体および比較焼成体の各々の押出軸方向に対して垂直にX線(CuKα線)を照射し、方位角2θを70°以上80°以下の範囲でスキャンした。
【0145】
得られたXRDプロファイルの(002面)又は(110面)に対応する、26.4°付近または77.5°付近の回折線に関して、バックグラウンドを除去し(5次のチェビシェフ多項式を使用)、X線吸収因子を補正し、プロファイル・フィッティング処理を行った。その後、上記式(A)で表されるシェラー式を用いて結晶子のサイズLaおよびサイズLcを算出した。フィッティング処理および結晶子のサイズの算出には、ファンダメンタル・パラメータ(FP)法を用いた。
【0146】
また、細孔径、細孔比表面積、気孔率は前記した通りの方法で測定した。
【0147】
































【表1-1】
【0148】
【表1-2】
表中、原料配合比の単位は質量部である。
【0149】
[曲げ強度の評価]
実施例1~5の鉛筆芯、および比較例1~5の比較鉛筆芯について、曲げ強度を評価した。曲げ強度の評価には、曲げ強度(MPa)の測定値および筆記濃度を用いた。
【0150】
曲げ強度(MPa)は、JIS S 6005:2019(シャープペンシル用芯)に規定されている方法で測定した。JIS S 6005:2019による場合は支点間距離20mmとした。実施例1~実施例3の鉛筆芯、および比較例1~比較例3の比較鉛筆芯の各々について、それぞれ10本について測定した値の平均値を、各々の曲げ強度(Mpa)とした。測定結果を表1に示した。
【0151】
なお、実施例1~実施例5の鉛筆芯の白色度は、70以上であった。
【0152】
さらに、実施例1~5の鉛筆芯、および比較例1~5の比較鉛筆芯について、筆跡の鮮明性を評価した。これらの鉛筆芯は着色されていない白芯であるので、実施例1~4の鉛筆芯、および比較例1~4の比較鉛筆芯については黒紙に、実施例5の鉛筆芯、および比較例の比較鉛筆芯について黒布に筆記して、その筆跡の鮮明さを評価した。評価の基準は以下のとおりである。
A: 良好
B: やや劣る
C: 劣る
【0153】
得られた結果は表2に示すとおりであった。
【0154】
【表2】
【0155】
[実施例6~10、比較例6~10]
(実施例6)
多孔性芯体H1を実施例1と同様の方法で製造し、着色剤で着色して色鉛筆芯を得た。着色剤溶液には、オイルブルー613(青色染料)のエチルアルコール溶液(濃度40質量%)を用い、着色剤溶液に多孔性芯体Hを12時間浸漬した後(着色工程)、60℃で120分間乾燥し、さらに難揮発性液体としてシリコーンオイル(KF96-50CS、商品名、信越化学工業株式会社製)を含浸して(含浸工程)、実施例6の色鉛筆芯を得た。
【0156】
(実施例7~9)
多孔性芯体H2~4に、実施例6と同様の方法で着色をして、実施例7~9の色鉛筆芯を得た。
【0157】
(実施例10)
実施例6に対して、含浸工程でシリコーンオイルに代えてスピンドルオイルを用いた他は同様にして、実施例10の色鉛筆芯を得た。
【0158】
(比較例6~9)
多孔性芯体H5~H8を比較例1~4同様の方法で製造し、実施例6と同様の方法で着色をして、比較例6~9の色鉛筆芯を得た。
【0159】
(比較例10)
比較例6に対して、含浸工程でシリコーンオイルに代えてスピンドルオイルを用いた他は同様にして、比較例10の色鉛筆芯を得た。
【0160】
実施例6~10,比較例6~10の色鉛筆芯について、曲げ強度、および発色性を評価した。曲げ強度については上記の方法で測定した。
【0161】
発色性(筆記濃度)は、JIS S 6005:2019(シャープペンシル用芯)に規定されている方法で、筆記荷重1.96N(200g荷重)で筆記した描線を濃度計コニカミノルタ(株)の蛍光分光濃度計、FD-7)で下記の設定条件として測定した値を濃度値とした。測定結果を表3に示した。
(濃度計の設定)
・測定機能:濃度
・表示形式:絶対値
・濃度フィルター:オート
・基準色選択:オート
その他の設定機能として、以下の機能は使用しない。
・濃度測定条件:濃度照明条件、濃度白色基準、濃度ステータス
・色彩測定条件:色彩照明条件、観察光源、視野、表色系、色差式
・偏光測定設定:オフ
【0162】
なお、使用されるケント紙には、王子製紙株式会社製であり、坪量:126g/m2、厚さ:0.150mm、密度:0.85g/cm3、表面粗さ:81a、平滑度:81S、サイズ度:110S、白色度:99.4%、および不透明度:92.7%の比の品質特性を有するものを用いた。
【0163】
得られた結果は、表3に示すとおりであった。
【0164】
【表3】
表中、L1はシリコーンオイルであり、L2はスピンドルオイルである。
【0165】
なお、各鉛筆芯について書き味を評価したところ、スピンドルオイルを用いた実施例10の鉛筆芯に対して、シリコーンオイルを用いた実施例6~9の鉛筆芯は、より優れた書き味を示した。
【0166】
[実施例11~15、比較例11~15]
(実施例11)
多孔性芯体H1を実施例1と同様の方法で製造し、着色して色鉛筆芯を得た。着色剤溶液を、オイルブルー40質量部、フェニルジグリコール10質量部、およびエチルアルコール60質量部を配合し、均一に溶解させることで調製した。この着色剤溶液に多孔性芯体H1を12時間浸漬し、さらに60℃で120分間乾燥させた。さらにシリコーンオイル(KF96-50CS、商品名、信越化学工業株式会社製)を接触させ、気孔にシリコーンオイルを充填した(充填工程)。その後、余剰のシリコーンオイルを除去し、実施例11の色鉛筆芯を得た。
【0167】
(実施例12~14)
実施例11に対して、多孔性芯体H1を多孔性芯体H2~H4に代えた他は同様にして、実施例12~14の色鉛筆芯を得た。
【0168】
(実施例15)
実施例11に対して、シリコーンオイルに代えてスピンドルオイルを用いた他は同様にして実施例15の色鉛筆芯を得た。
【0169】
(比較例11~14)
実施例11に対して、多孔性芯体H1を多孔性芯体H5~H8に代えた他は同様にして、比較例11~14の色鉛筆芯を得た。
【0170】
(比較例15)
比較例11に対して、シリコーンオイルに代えてスピンドルオイルを用いた他は同様にして比較例15の色鉛筆芯を得た。
【0171】
実施例11~15および比較例11~15について、曲げ強度および発色性について評価した。得られた結果は表4に示すとおりであった。
【0172】
【表4】
【0173】
[実施例16,比較例16]
実施例11および比較例11に対して、油浸工程で用いるインキを変更して実施例16および比較例16の色鉛筆芯を製造した。ここで、着色剤溶液には、オイルブルー40質量部、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル10質量部、およびエチルアルコール50質量部を配合し、均一に溶解させたものを用いた。実施例16の色鉛筆芯は、曲げ強度および発色性のいずれも、比較例16よりも優れていた。
【0174】
[実施例17,比較例17]
実施例11および比較例11に対して、油浸工程で用いるインキを変更して実施例17および比較例17の色鉛筆芯を製造した。ここで、着色剤溶液には、ベーシックバイオレット11:1/ベーシックレッド1:1(桃色蛍光染料)45質量部、ポリアミド樹脂とベーシックバイオレット11:1の混合物(NKS1007(商品名)、日本蛍光化学株式会社製)5質量部、フェニルジグリコール10質量部、およびエチルアルコール40質量部を配合し、均一に溶解させたものを用いた。実施例17の色鉛筆芯は、曲げ強度および発色性のいずれも、比較例17よりも優れていた。