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特開2024-48893量子暗号通信システム、その通信装置および通信制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048893
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】量子暗号通信システム、その通信装置および通信制御方法
(51)【国際特許分類】
   H04L 9/12 20060101AFI20240402BHJP
   H04B 10/70 20130101ALI20240402BHJP
   H04B 10/60 20130101ALI20240402BHJP
   H04B 10/50 20130101ALN20240402BHJP
   H04B 10/077 20130101ALN20240402BHJP
   H04B 10/11 20130101ALN20240402BHJP
【FI】
H04L9/12
H04B10/70
H04B10/60
H04B10/50
H04B10/077 150
H04B10/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155038
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124811
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 資博
(74)【代理人】
【識別番号】100088959
【弁理士】
【氏名又は名称】境 廣巳
(74)【代理人】
【識別番号】100097157
【弁理士】
【氏名又は名称】桂木 雄二
(74)【代理人】
【識別番号】100187724
【弁理士】
【氏名又は名称】唐鎌 睦
(72)【発明者】
【氏名】今井 浩
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AB11
5K102AH18
5K102AH27
5K102AL23
5K102LA13
5K102LA21
5K102LA33
5K102LA52
5K102MA01
5K102MA02
5K102MB02
5K102MB04
5K102MB05
5K102MD01
5K102MD02
5K102MD03
5K102MD04
5K102MH03
5K102MH19
5K102MH22
5K102PH11
5K102PH22
5K102PH24
5K102PH31
5K102PH42
5K102PH49
5K102RB02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】環境の変化により光の伝播特性が影響を受けやすい光伝送路を用いた場合でもホモダイン検出におけるSN比の改善及び信号出力の安定化を達成する量子暗号通信システム、通信装置、通信制御方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】量子暗号通信システムでは、環境の変化により光の伝搬特性が変化する自由空間光伝送路Cを通して送信機と受信機とが光学的に接続される。送信機は、コヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光Qと、量子状態を有しない参照光LOと、所定強度のプローブ光Sと、を光伝送路へ送出する。受信機は、受信信号光及び受信参照光を受信し、受信参照光を増幅し、増幅された受信参照光と受信信号光の差分に基づき信号出力Ioutをホモダイン検出により生成し、プローブ光受信部がプローブ光を受信すると、減衰率計算部が受信プローブ光の減衰率を計算し、光増幅器制御部が減衰率に応じて受信参照光の増幅率を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信機と受信機とからなる量子暗号通信システムであって、
環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して前記送信機と前記受信機とが光学的に接続され、
前記送信機が、
コヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光と前記参照光とを前記光伝送路へ送出する光送信部と、
所定強度のプローブ光を前記光伝送路へ送出するプローブ光送信部と、
を備え、
前記受信機が、
前記送信機から前記光伝送路を通して到達した受信信号光および受信参照光を受信する光受信部と、
前記受信参照光を増幅する光増幅器と、
前記光増幅器により増幅された前記受信参照光と前記受信信号光とに基づいて信号出力を生成するホモダイン検出器と、
前記光伝送路を通して到達したプローブ光を受信するプローブ光受信部と、
前記受信されたプローブ光の前記送信側のプローブ光に対する減衰率を計算し、前記減衰率に応じて前記光増幅器の増幅率を制御する光増幅器制御部と、
を備えたことを特徴とする量子暗号通信システム。
【請求項2】
前記プローブ光送信部は所定周期のタイミングで前記プローブ光を送出し、
前記光増幅器制御部は、前記タイミングで受信した受信プローブ光を用いて減衰率を計算し、前記減衰率に応じて前記光増幅器の増幅率を制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の量子暗号通信システム。
【請求項3】
前記送信機は前記コヒーレント光の強度およびパルス幅を制御するパルス変調制御部をさらに有し、
前記パルス変調制御部が前記受信機から前記減衰率を受信し、前記減衰率に応じて前記コヒーレント光の強度およびパルス幅を制御する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の量子暗号通信システム。
【請求項4】
前記送信機の前記光送信部および前記プローブ光送信部とは送信光学系を共有し、前記受信機の前記光受信部および前記プローブ光受信部とは受信光学系を共有し、前記送信光学系と前記受信光学系とは互いに光軸が一致しており、前記光伝送路が前記送信光学系と前記受信光学系との間の自由空間であることを特徴とする請求項1または2に記載の量子暗号通信システム。
【請求項5】
量子暗号通信システムにおいてホモダイン検出により信号出力を取得する通信装置であって、
環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して送信側の通信装置と光学的に接続され、前記送信側の通信装置でコヒーレント光から生成された量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを前記光伝送路を通して受信する光受信部と、
前記光受信部で受信した受信参照光を増幅する光増幅器と、
前記光受信部で受信した受信信号光と前記光増幅器により増幅された受信参照光とに基づいて信号出力を生成するホモダイン検出器と、
前記送信側の通信装置から前記光伝送路を通して到達したプローブ光を受信するプローブ光受信部と、
前記受信されたプローブ光の前記送信側のプローブ光に対する減衰率を計算し、前記減衰率に応じて前記光増幅器の増幅率を制御する光増幅器制御部と、
を備えたことを特徴とする通信装置。
【請求項6】
前記光増幅器制御部は、前記送信側の通信装置から所定周期のタイミングで受信する受信プローブ光を用いて減衰率を計算し、前記減衰率に応じて前記光増幅器の増幅率を制御する、
ことを特徴とする請求項5に記載の通信装置。
【請求項7】
前記光受信部と前記プローブ光受信部とが共有する受信光学系をさらに有し、前記受信光学系が前記送信側の通信装置に設けられた送信光学系と光軸が一致しており、前記光伝送路が前記送信光学系と前記受信光学系との間の自由空間であることを特徴とする請求項5または6に記載の通信装置。
【請求項8】
送信機と受信機とからなる量子暗号通信システムにおける通信制御方法であって、
環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して前記送信機と前記受信機とが光学的に接続され、
前記送信機は、
光送信部がコヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成して前記信号光と前記参照光とを前記光伝送路へ送出し、
プローブ光送信部が所定強度のプローブ光を前記光伝送路へ送出し、
前記受信機は、
受信手段が前記送信機から前記光伝送路を通して到達した受信信号光および受信参照光と前記プローブ光とを受信し、
制御手段が前記受信されたプローブ光の前記送信側のプローブ光に対する減衰率を計算し、前記減衰率に応じて前記受信参照光を増幅する増幅率を制御し、
検出手段が前記増幅された受信参照光と前記受信信号光とに基づいてホモダイン検出により信号出力を生成する、
ことを特徴とする量子暗号通信システムにおける通信制御方法。
【請求項9】
送信機と受信機とからなる量子暗号通信システムにおける前記受信機の通信制御方法であって、
環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して前記送信機と光学的に接続され、
受信手段が、前記送信機でコヒーレント光から生成された量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光と、プローブ光とを前記送信機から前記光伝送路を通して受信し、
制御手段が前記受信されたプローブ光の送信側プローブ光に対する減衰率を計算し、前記減衰率に応じて前記受信参照光を増幅する増幅率を制御し、
検出手段が前記増幅された受信参照光と前記受信信号光とに基づいてホモダイン検出により信号出力を生成する、
ことを特徴とする受信機の通信制御方法。
【請求項10】
量子暗号通信システムにおいてホモダイン検出により信号出力を取得する通信装置としてコンピュータを機能させるプログラムであって、
環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して送信側の通信装置と光学的に接続された光受信部が、前記送信側の通信装置でコヒーレント光から生成された量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを前記光伝送路を通して受信する機能と、
光増幅器が前記光受信部で受信した受信参照光を増幅する機能と、
ホモダイン検出器が前記光受信部で受信した受信信号光と前記光増幅器により増幅された受信参照光とに基づいて信号出力を生成する機能と、
プローブ光受信部が前記送信側の通信装置から前記光伝送路を通して到達したプローブ光を受信する機能と、
光増幅器制御部が前記受信されたプローブ光の前記送信側のプローブ光に対する減衰率を計算し、前記減衰率に応じて前記光増幅器の増幅率を制御する機能と、
を前記コンピュータで実現することを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は量子暗号通信システムに係り、特に量子暗号通信により暗号鍵を共有する通信装置およびその通信制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信の分野において、量子暗号鍵配付(QKD)システムは伝送路の高秘匿性を実現するものとして盛んに研究され実用化されつつある。このようなQKDシステムにおいて、近年、光子単位の離散量ではなく、光の直交位相振幅(quadrature-phase amplitude)のような連続量を用いた連続量QKDが提案されている。特に受信側で直交位相振幅を測定するホモダイン検出は、通常のフォトダイオードを室温で用いても量子雑音限界の測定が可能となり高い量子効率を達成できるとして注目されている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1によれば、連続量QKDでは、送信者(Alice)端末でレーザ光をビームスプリッタにより参照光(以下、LO(局部発振)光という。)と信号光とに分割し、LO光とランダムに位相変調された微弱な信号光とを受信者(Bob)端末へ送信する。受信者端末では、到達したLO光をランダムに位相変調した後、そのLO光と同じく到達した微弱な信号光とをビームスプリッタを通して2つの光検出器で検出する。このホモダイン検出により送信側で位相変調された信号光の位相情報を取り出すことができる。
【0004】
このときホモダイン検出後の信号光のレベル平均値は、信号光の光子数をn1、LO光の光子数をn0とすれば、上述の特許文献1に記載されているように、2√n1√n0となる。光ファイバの伝送損失は0.2dB/km以上なので、伝送距離50kmでは10dB、すなわち光パワーが1/10に、伝送距離100kmでは1/100に減衰する。したがって、ホモダイン検出後の信号レベルも同様に伝送距離50km、100kmでは、それぞれ1/10、1/100以下となる。
【0005】
このような信号レベルの減衰はホモダイン検出におけるSN比を劣化させる。SN比の劣化を防止するには、信号レベルを上昇させる必要があるが、伝送路に光増幅器を設ける対策では信号光も増幅され暗号鍵の情報に影響を与えるために採用できない。また送信者端末のレーザ出力を増大させてもよいが、レーザ出力の増大で上記信号レベルの減衰を補おうとすると、たとえばレーザ光源を10mW(クラス1)から1W(クラス4)へ大幅に高める必要があり、装置の大型化、光学部品の耐久性の問題、および伝送時の安全性の低下を招来し実用的ではない(レーザのクラスは1.5μm帯の場合)。
【0006】
そこで、特許文献2では、ホモダイン検出におけるSN比を向上させるために受信者端末でLO光だけを増幅する構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-101570号公報
【特許文献2】特開2007-266738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献2では、ホモダイン検出におけるSN比を向上させるためにLO光を増幅すると記載されているだけであり、SN比向上という目的を達成するためにどのような増幅制御を行うかは記載されていない。
【0009】
またホモダイン検出におけるSN比の向上だけでなく、LO光と信号光とに基づいて得られる信号出力レベルの安定性も重要である。上記特許文献2では、増幅されたLO光を利用して位相変調処理のタイミング制御を行う。このためにタイミング制御の高精度化は達成できるとしても、安定したレベルの信号出力を得ることができない。
【0010】
さらに、上述した特許文献1および2では、光伝送路として光ファイバを用いたシステムが前提とされている。このために、光ファイバよりも減衰率が大きく伝搬特性が環境の影響を受けやすい光伝送路の場合、十分なSN比および出力の安定性を期待することができない。たとえば自由空間を光伝送路として利用する場合、空中の水蒸気量、温度変化による空気密度の局所的な変動等を考慮する必要がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、環境の変化により光の伝搬特性が影響を受けやすい光伝送路を用いた場合でもホモダイン検出におけるSN比の改善および信号出力の安定化を達成できる量子暗号通信システム、その通信装置および通信制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様による量子暗号通信システムは、送信機と受信機とからなる量子暗号通信システムであって、環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して前記送信機と前記受信機とが光学的に接続され、前記送信機が、コヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光と前記参照光とを前記光伝送路へ送出する光送信部と、所定強度のプローブ光を前記光伝送路へ送出するプローブ光送信部と、を備え、前記受信機が、前記送信機から前記光伝送路を通して到達した受信信号光および受信参照光を受信する光受信部と、前記受信参照光を増幅する光増幅器と、前記光増幅器により増幅された前記受信参照光と前記受信信号光とに基づいて信号出力を生成するホモダイン検出器と、前記光伝送路を通して到達したプローブ光を受信するプローブ光受信部と、前記受信されたプローブ光の前記送信側のプローブ光に対する減衰率を計算し、前記減衰率に応じて前記光増幅器の増幅率を制御する光増幅器制御部と、を備えたことを特徴とする。
本発明の一態様による通信装置は、量子暗号通信システムにおいてホモダイン検出により信号出力を取得する通信装置であって、環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して送信側の通信装置と光学的に接続され、前記送信側の通信装置でコヒーレント光から生成された量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを前記光伝送路を通して受信する光受信部と、前記光受信部で受信した受信参照光を増幅する光増幅器と、前記光受信部で受信した受信信号光と前記光増幅器により増幅された受信参照光とに基づいて信号出力を生成するホモダイン検出器と、前記送信側の通信装置から前記光伝送路を通して到達したプローブ光を受信するプローブ光受信部と、前記受信されたプローブ光の前記送信側のプローブ光に対する減衰率を計算し、前記減衰率に応じて前記光増幅器の増幅率を制御する光増幅器制御部と、を備えたことを特徴とする。
本発明の一態様による通信装置の制御方法は、送信機と受信機とからなる量子暗号通信システムにおける通信制御方法であって、環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して前記送信機と前記受信機とが光学的に接続され、前記送信機は、光送信部がコヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成して前記信号光と前記参照光とを前記光伝送路へ送出し、プローブ光送信部が所定強度のプローブ光を前記光伝送路へ送出し、前記受信機は、受信手段が前記送信機から前記光伝送路を通して到達した受信信号光および受信参照光と前記プローブ光とを受信し、制御手段が前記受信されたプローブ光の前記送信側のプローブ光に対する減衰率を計算し、前記減衰率に応じて前記受信参照光を増幅する増幅率を制御し、検出手段が前記増幅された受信参照光と前記受信信号光とに基づいてホモダイン検出により信号出力を生成する、ことを特徴とする。
本発明の一態様による通信装置の制御方法は、送信機と受信機とからなる量子暗号通信システムにおける前記受信機の通信制御方法であって、環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して前記送信機と光学的に接続され、受信手段が、前記送信機でコヒーレント光から生成された量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光と、プローブ光とを前記送信機から前記光伝送路を通して受信し、制御手段が前記受信されたプローブ光の送信側プローブ光に対する減衰率を計算し、前記減衰率に応じて前記受信参照光を増幅する増幅率を制御し、検出手段が前記増幅された受信参照光と前記受信信号光とに基づいてホモダイン検出により信号出力を生成する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、環境の変化により光の伝搬特性が影響を受けやすい光伝送路を用いた量子暗号通信システムであっても、ホモダイン検出におけるSN比の改善および信号出力の安定化を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は本発明の第1実施形態による量子暗号通信システムの概略的構成を例示するブロック図である。
図2A図2Aは受信信号レベルが低い場合のSN比を説明するためのグラフである。
図2B図2Bは本実施形態を適用した場合のSN比向上を説明するためのグラフである。
図3A図3Aは本発明の第1実施例による量子暗号通信システムにおける送信機(Alice)の構成を例示するブロック図である。
図3B図3B図3Aにおける送信機(Alice)の一部と受信機(Bob)の構成とを例示するブロック図である。
図4図4は本発明の第1実施例における受信機(Bob)の制御方法を例示するフローチャートある。
図5図5は本発明の第2実施形態による量子暗号通信システムの概略的構成を例示するブロック図である。
図6図6は本発明の第3実施形態による量子暗号通信システムの概略的構成を例示するブロック図である。
図7図7は本発明の第3実施形態による量子暗号通信システムにおける送信パルスの変調制御を説明するための模式図である。
図8図8は本発明の第2実施例による量子暗号通信システムにおける送信機(Alice)の構成を例示するブロック図である。
図9図9は第2実施例による量子暗号通信システムにおける送信機(Alice)の動作を例示するフローチャートである。
図10図10は第2実施例による量子暗号通信システムにおける受信機(Bob)の動作を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施形態の概要>
以下、環境の影響を受けやすい光伝送路として自由空間を例示する。本発明の実施形態による量子暗号通信システムでは、送信機は量子状態を有する微弱な信号光と量子状態のない通常強度の参照光とを自由空間を通して受信機へ送信する。受信機は受信した参照光だけを増幅する光増幅器を有し、受信した信号光と増幅された参照光とからホモダイン方式により信号情報を検出する。
【0016】
さらに送信機は同じ自由空間を通して受信機へプローブ光を送信する。受信機はプローブ光を受信し、受信プローブ光から自由空間でのレーザ光の伝搬特性を計測する。自由空間のような環境の影響を受けやすい光伝送路では、距離とともに光強度がどのように減衰するかを示す減衰特性が重要である。本実施形態では、伝搬特性として減衰の程度を示す減衰率を計測する。減衰率は送信時のプローブ光の強度と受信時のプローブ光の強度とから計算することができる。
【0017】
本実施形態によれば、減衰率に従って参照光の増幅率を制御する。これによりホモダイン検出された信号レベルを所定範囲に維持することができる。減衰率が大きく環境の影響を受けやすい光伝送路の場合であっても、ホモダイン検出におけるSN比の改善および信号出力の安定化が達成される。
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下の実施形態および実施例に記載されている構成要素は単なる例示であって、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨ではない。
【0019】
1.第1実施形態
図1において、送信機(Alice)を含む通信装置と受信機(Bob)を含む通信装置とは、それらの間で生成された量子暗号鍵を用いて暗号通信を行うことができる。ここでは送信機(Alice)と受信機(Bob)とが自由空間伝送路Cにより光学的に接続されているものとする。自由空間伝送路Cは自由空間を光伝送路として使用する。自由空間伝送路Cは、送信側に送信光学系を、受信側に受信光学系をそれぞれ設けるだけで光通信が可能となり、光ケーブル等の設備コストを抑制できる。反面、自由空間伝送路Cは気温や湿度等の環境により伝送損失が生じやすくなり、また変動しやすくなる。以下に詳述する本実施形態では、このような環境に起因する損失を相殺する調整手段が設けられる。
【0020】
送信機(Alice)はレーザ光源10、ビームスプリッタBS1、位相変調器11、減衰器12、ミラーM1およびレーザ光源13を有する。レーザ光源10および13は異なる波長のレーザ光を発光する。ここではレーザ光源10の発振波長をλ1、レーザ光源13の発振波長をλ2とする。
【0021】
レーザ光源10はコヒーレント光を発生し、ビームスプリッタBS1がコヒーレント光を2つの経路RおよびRの光に分割する。一方の経路Rの光は、位相変調器11により位相変調され、さらに減衰器12により量子状態を有する微弱な信号光Qとなって自由空間伝送路Cへ送出される。他方の経路Rの光はミラーM1で反射され、量子状態のない通常の強度を有する参照光LOとして自由空間伝送路Cへ送出される。上述した特許文献1に記載されているように、参照光LOの強度は信号光Qより著しく大きく、たとえば信号光Qが光子1個程度の強度であるのに対し、参照光LOは光子1000万個程度の強度である。
【0022】
レーザ光源13はコヒーレント光を発生し、それをプローブ光Sとして自由空間伝送路Cへ送出する。プローブ光Sは、後述するように自由空間伝送路Cでの光減衰率を計測するための所定強度のレーザ光である。送信機(Alice)から送信されるプローブ光Sは、受信機(Bob)で確実に検出できる強度に予め設定され、本実施形態では送信機(Alice)から送信される参照光LOと同等かそれ以上の強度を有する。
【0023】
受信機(Bob)は、光増幅器14、位相変調器15、ミラーM2、ビームスプリッタBS2、2つの光検出器PD1およびPD2、および差分演算器16を有し、さらにプローブ光受信部17、減衰率計算部18および光増幅器制御部19を有する。
【0024】
光増幅器14は送信機(Alice)から到達した受信参照光LOを波長および位相を維持したまま光増幅する。位相変調器15は光増幅された受信参照光LOを位相変調し、位相変調された受信参照光LOがビームスプリッタBS2へ入射する。また送信機(Alice)から到達した受信信号光QはミラーM2により反射されビームスプリッタBS2へ入射する。ビームスプリッタBS2は光の透過率と反射率とが等しく、位相変調された受信参照光LOとミラーM2で反射した受信信号光Qとが重ねて入力する。言い換えれば、送信機(Alice)のビームスプリッタBS1と受信機(Bob)のビームスプリッタBS2とは2つの等しい長さの経路RおよびRからなるひとつの干渉計を構成している。
【0025】
ビームスプリッタBS2の2つの出力光はそれぞれ光検出器PD1、PD2へ入射して電気信号に変換される。光検出器PD1、PD2からそれぞれ出力される検出信号は差分演算部16で差分演算される。差分演算部16の演算結果である差信号はホモダイン検出により得られる信号出力Ioutとなる。なお、光検出器PD1、PD2は通常のフォトダイオードを室温で用いることができる。
【0026】
プローブ光受信部17は送信機(Alice)から自由空間伝送路Cを通して届いたプローブ光Sを受光し、その受信強度を電気信号に変換して減衰率計算部18へ出力する。プローブ光受信部17は通常のフォトダイオードを室温で用いることができる。減衰率計算部18は、送信機(Alice)から送信されたプローブ光Sの所定強度とプローブ光受信部17で受光されたプローブ光Sの受信強度とからプローブ光の減衰率(1-γ)を計算し、光増幅器制御部19へ出力する。ここでγは、プローブ光Sの所定強度に対するプローブ光受信部17で受光されたプローブ光Sの受信強度の割合である透過率である。
【0027】
光増幅器制御部19は光増幅器14の増幅率を減衰率(1-γ)に応じて制御し、信号出力Ioutの信号レベルが所定範囲に維持されるように受信参照光LOを増幅する。光増幅器制御部17は、減衰率(1-γ)が大きくなるに従って光増幅器14の増幅率を所定値に対して上昇させ、減衰率(1-γ)が小さくなるに従って光増幅器14の増幅率を所定値に対して下降させる。これにより環境に起因する減衰率の変化を相殺して信号出力Ioutの信号レベルを維持することができる。このように受信参照光LOが減衰率(1-γ)に応じて光増幅器14により増幅されるので信号出力Ioutの信号レベルが上昇し、信号出力IoutのSN比が改善する。さらに減衰率(1-γ)に応じて光増幅器14の増幅率を制御することで信号出力Ioutの安定性を改善することができる。
【0028】
減衰率(1-γ)に対して光増幅器14の増幅率をどの程度に設定するかについては予め用意した関数あるいはテーブルを用いることができる。すなわち、予め実験的に得られた関数を用意し増幅率を減衰率(1-γ)の関数として計算してもよい。あるいは予め実験的に得られた減衰率(1-γ)と増幅率との対応テーブルを用いて減衰率(1-γ)に対する光増幅器14の増幅率を求めてもよい。
【0029】
なお、光増幅器14としては、送信機(Alice)から届いた受信参照光LOを、そのまま光の波長および位相を維持して増幅し、かつ増幅率(利得)が制御可能な光増幅器を使用する。このような光増幅器14としては、たとえばエルビウム添加ファイバ増幅器(EDFA: Erbium-Doped Fiber Amplifier)あるいは半導体光増幅器(SOA:Semiconductor Optical Amplifier)などを用いることができる。光増幅器14にEDFAを採用した場合、励起光に対する増幅効率が80%以上という高効率で受信参照光LOを増幅することができる。また励起光の光源であるレーザに供給する電流を制御することでEDFAの光増幅率を制御できる。光増幅器14がSOAの場合には、SOAに供給する電流により増幅率を制御可能である。
【0030】
以上述べたように、本発明の第1実施形態によれば、プローブ光Sを用いて減衰率(1-γ)を計算することで、送信機(Alice)から受信機(Bob)までの伝送損失および環境変動による損失の変化を検出することができる。この減衰率(1-γ)に従って光増幅器14の増幅率を制御することにより、ホモダイン検出により得られた信号出力IoutのSN比および出力安定性を改善することができる。
【0031】
たとえば、図2Aに例示するように、自由空間伝送路Cの伝送損失が大きく信号出力レベルLoutが低いと、光検出器PD1およびPD2の雑音レベルに対する信号出力レベルLoutの割合(SN比)が低くなる。これに対して本実施形態によれば、プローブ光Sを用いて算出された減衰率(1-γ)に応じて光増幅器13の増幅率を制御する。これにより図2Bに示すように信号出力レベルLoutを所定のSN比に対応する閾値LTH以上に維持することができる。したがって自由空間伝送路Cの伝送損失が大きい場合でも、レーザ光源10のパワーを上げたり自由空間伝送路Cに光増幅器を介在させたりすることなく、受信側のホモダイン検出におけるSN比を改善することができる。
【0032】
さらにプローブ光Sの受信強度から算出された減衰率(1-γ)を用いて光信号出力レベルLoutを所定範囲内に維持することができるので信号出力Ioutの安定化を達成できる。また、量子暗号通信の不正傍受を検出した時に光スイッチを用いるなどして自由空間伝送路Cを切り替えた場合、切り替え前後の伝送損失の違いにも対応が可能である。
【0033】
2.第1実施例
以下、本発明の第1実施例として、信号光Q、参照光LOおよびプローブ光Sを自由空間伝送路を通して送信するシステムについて説明する。図3Aおよび図3Bに示す通信システムは、上述した第1実施形態に従った一例である。
【0034】
図3Aおよび図3Bに例示するように、本発明の第1実施例による量子暗号通信システムは送信機(Alice)を含む通信装置100と受信機(Bob)を含む通信装置200からなり、送信機(Alice)と受信機(Bob)とが自由空間300を光伝送路として光学的に接続されている。
【0035】
2.1)送信機
図3Aにおいて、通信装置100の送信機(Alice)は信号光学系、プローブ光学系、送信光学系110および制御部120を有する。信号光学系は、レーザ光源101、無偏光ビームスプリッタ(BS)102、偏光ビームスプリッタ(PBS)103、ミラー104、半波長板105、減衰器106、位相変調器107およびミラー108を含む。後述するように、信号光学系はレーザ光源101の出力パルスPから偏光面が互いに直交し時間的に分離した参照光パルスPLOおよび信号光パルスPを生成する。参照光パルスPLOおよび信号光パルスPは送信光学系110を通して自由空間300へ送出される。
【0036】
プローブ光学系はレーザ光源111を含み、レーザ光源111は、レーザ光源101と同様に直線偏光のレーザ光プローブ光Sを出射し、これをプローブ光Sとして送信光学系110を通して自由空間300へ送出する。プローブ光Sは所定パルス幅のパルス光あるいは一定時間持続するレーザ光である。なお、レーザ光源101は波長λ1のレーザ光を出力し、レーザ光源111は波長λ1とは異なる波長λ2のレーザ光を出力する。
【0037】
送信光学系110は、ビームエクスパンダ121、122およびダイクロイックミラー(DM)123を含む。ビームエクスパンダは入力ポートの光ファイバから入力した光ビームをそれより大きい直径のコリメート光ビームに変換する光学素子である。ダイクロイックミラー(DM)は特定波長領域の光を透過し、その他の波長領域の光を反射する光学素子である。本実施形態におけるDM123は、波長λ1の光を透過し、その他の波長(λ2を含む)の光を反射するように構成されている。
【0038】
ビームエクスパンダ121および122はそれらの光軸により規定される平面上で、それらの光軸が直交するように配置される。DM123は、ビームエクスパンダ121の出射光の進行方向に対して反時計回りに45°傾斜し、ビームエクスパンダ122の出射光の進行方向に対して時計回りに45°傾斜した姿勢で配置される。したがって、ビームエクスパンダ121から出射する波長λ1の光はDM123を透過して所定方向の自由空間300へ送出され、ビームエクスパンダ122から出射する波長λ2の光はDM123で反射して同じ方向の自由空間300へ放出される。
【0039】
制御部120は、レーザ光源101、減衰器106および位相変調器107を制御し、上述した参照光パルスPLOおよび信号光パルスPを生成する。また制御部120はレーザ光源111を制御し、所定周期のタイミングあるいは所望のタイミングでプローブ光Sを出力させることができる。
【0040】
レーザ光源101は波長λ1で直線偏光の光パルスPを無偏光ビームスプリッタ102の入力ポートへ出力する。光パルスPは無偏光ビームスプリッタ102により2分割され、一方の光パルスが参照光側の経路RLOへ、他方の光パルスが信号光側の経路Rへそれぞれ送出される。参照光側の経路RLOの光パルスはそのまま偏光ビームスプリッタ103を透過し、量子状態を持たない通常強度の参照光パルスPLOとして送信光学系110のビームエクスパンダ121に入射する。
【0041】
信号光側の経路Rは、ミラー104、半波長板105、減衰器106、位相変調器107およびミラー108からなり、参照光側の経路RLOより長い光路を有する。半波長板105は経路Rの光パルスの偏光面を90度回転させ、減衰器106はその光パルスを量子状態を有する微弱光に減衰させる。位相変調器107は微弱光パルスに対して位相変調を実行し信号光パルスPを生成する。信号光パルスPはミラー108で反射して偏光ビームスプリッタ103へ入射する。なお減衰器106と位相変調器107は光パルスの進行方向に対して逆の配列順であってもよい。
【0042】
信号光パルスPは半波長板105により偏光面が90°回転しているので、偏光ビームスプリッタ103へ反射され、送信光学系110のビームエクスパンダ121に入射する。ただし、信号光パルスPは、経路Rと経路RLOとの光路長の差に起因する時間だけ参照光パルスPLOより遅れてビームエクスパンダ121に入射する。こうして、1つの光パルスPから互いに偏光面が直交し時間的に分離した参照光パルスPLOおよび信号光パルスPが生成される。なお、無偏光ビームスプリッタ102を偏光ビームスプリッタとした場合は半波長板105を用いなくてもよい。
【0043】
制御部120は通信装置100の全体的動作を制御するが、本実施例では送信機(Alice)のレーザ光源101、減衰器106、位相変調器107およびレーザ光源111を制御する。位相変調器107は、制御部120の制御により、減衰器106から出力された微弱光パルスに対して暗号鍵の原乱数に従った4通りの位相変調(0°、90°、180°、270°)を実行して信号光パルスPを生成する。こうして通常強度の参照光パルスPLOと位相変調された信号光パルスPとからなる2連パルス列が送信光学系110のビームエクスパンダ121に入射する。
【0044】
ビームエクスパンダ121は、参照光パルスPLOおよび信号光パルスPをより大きい直径のコリメート参照光パルスおよびコリメート信号光パルスにそれぞれ変換し、DM123を透過して自由空間300へ送出する。
【0045】
他方、レーザ光源111は、制御部120の制御に従って所定間隔あるいは所望のタイミングで、所定時間持続するプローブ光Sをビームエクスパンダ122へ出力する。ビームエクスパンダ122により直径が拡張された波長λ2のコリメートプローブ光はDM123で反射して自由空間300へ送出される。以下、レーザ光源111は所定のタイムスロットごとのタイミングでプローブ光Sを出力するものとする。
【0046】
このようにして同じ光伝送路としての自由空間300において、参照光パルスPLOおよび信号光パルスPからなる波長λ1の2連パルス列と、所定のタイミングで所定時間持続する波長λ2のプローブ光Sとが伝送される。
【0047】
2.2)受信機
図3Bに示すように、受信機(Bob)のビームエクスパンダ210は受信光学系であり、送信機(Alice)の送信光学系110と光軸が一致するように設置される。これにより受信機(Bob)のビームエクスパンダ210は参照光パルスPLOおよび信号光パルスPとプローブ光Sとを自由空間300を通して受光することができる。
【0048】
受信機(Bob)のビームエクスパンダ210の出力ポートは光ファイバを通して偏光ビームスプリッタ201の入力ポートに接続されている。このために、自由空間300における空気の揺らぎ等の外乱が発生すると、ビームエクスパンダ210の出力光が光ファイバのコアに正しく集光しない場合がある。また自由空間300における水蒸気や微粒子等の外乱によりビームエクスパンダ210の出力光の強度が大きく低下する場合もある。本実施例によれば、受信機(Bob)はプローブ光Sの減衰率を計測し、減衰率に応じて受信参照光を増幅することにより、外乱に起因する受信強度の低下および変動を相殺することができる。以下詳述する。
【0049】
図3Bにおいて、受信機(Bob)は、ビームエクスパンダ210の他に、信号受信部およびプローブ検出部を含む。制御部220は通信装置200の全体的動作を制御する。信号受信部は信号光学系、参照光学系および信号検出部からなる。信号光学系は、偏光ビームスプリッタ201、半波長板202および無偏光ビームスプリッタ203から構成される。参照光学系は、偏光ビームスプリッタ201、ダイクロイックミラー(DM)204、光増幅器205、位相変調器206、ミラー207および無偏光ビームスプリッタ203から構成される。信号検出部は光検出器PD1、PD2および差分演算部208から構成される。プローブ検出部は、DM204、光検出器PD3および減衰率計算部221を有する。
【0050】
偏光ビームスプリッタ201は、ビームエクスパンダ210から受信参照光パルスPrLOおよび受信信号光パルスPrと、受信プローブ光Srと、を入力する。上述したように、受信参照光パルスPrLOと信号光パルスPrとは偏光面が直交している。
【0051】
受信信号光パルスPrはそのまま偏光ビームスプリッタ201を透過し、半波長板202へ入射する。半波長板202は偏光面を90度回転させる。したがって半波長板202を透過した受信信号光パルスPrは受信参照光パルスPrLOと同じ偏光面となり、無偏光ビームスプリッタ203の第1の入力ポートに入射する。
【0052】
他方、受信参照光パルスPrLOは偏光ビームスプリッタ201で反射し、偏光ビームスプリッタ201の第2の出力ポートから出射してDM204で反射する。DM204で反射した受信参照光パルスPrLOは、光増幅器205、位相変調器206およびミラー207を通して無偏光ビームスプリッタ203の第2の入力ポートに入射する。受信プローブ光Srは送信機(Alice)のレーザ光源111から出射されたプローブ光Sが到達したものであるから、受信参照光パルスPrLOと同様に偏光ビームスプリッタ201で反射する。
【0053】
DM204は、送信側のDM123とは逆に、波長λ2の光を透過し、その他の波長(λ1を含む)の光を反射するように構成されている。したがって、DM204は波長λ1の参照光パルスPrLOを反射し、波長λ2の受信プローブ光Srを透過させる。
【0054】
ここで受信信号光パルスPrの経路は送信機(Alice)の経路RLOと同じ長さであり、受信参照光パルスPrLOの経路は送信機(Alice)の経路Rと同じ長さである。したがって、無偏光ビームスプリッタ203の第1および第2の入力ポートにそれぞれ入射する受信信号光パルスPrおよび受信参照光パルスPrLOは、送信機(Alice)の偏光ビームスプリッタ201から同じ長さの異なる光路を通して無偏光ビームスプリッタ203に到達する。これにより送信機(Alice)および受信機(Bob)の光学的構成は図1で説明した干渉計を構成している。
【0055】
光増幅器205はたとえばEDFAあるいはSOAであり、受光参照光パルスPrLOを波長および位相を維持したまま増幅する。光増幅器205の増幅率は後述するように制御部220により制御される。位相変調器206は光増幅された受光参照光パルスPrLOを位相変調する。位相変調器206の位相変調は制御部220により制御される。上述したように、送信機(Alice)の位相変調器107は送信する信号光パルスPに対して4通りの位相変調(0°、90°、180°、270°)を施すが、受信機(Bob)の位相変調器206は受信参照光パルスPrLOに対して2通りの位相変調(0°、90°)を施す。このように位相変調された受信参照光パルスPrLOがミラー207で反射して無偏光ビームスプリッタ203に入射する。
【0056】
無偏光ビームスプリッタ203は、半波長板202により偏光面が90度回転した受信信号光パルスPrと、光増幅され位相変調された受信参照光パルスPrLOと、を入力する。無偏光ビームスプリッタ203は光の透過率と反射率とが等しく、受信信号光パルスPrと受信参照光パルスPrLOとを重ねて2つの出力ポートから出射する。無偏光ビームスプリッタ203の2つの出力ポートにはそれぞれ光伝送路を通して光検出器PD1、PD2が光学的に接続されている。光検出器PD1、PD2は無偏光ビームスプリッタ203の2つの出力ポートからの出射光をそれぞれ受光する。光検出器PD1、PD2としては通常のフォトダイオードが室温で用いられる。
【0057】
光検出器PD1、PD2からそれぞれ出力される検出信号は差分演算部208で差分演算され、その結果である差信号がホモダイン検出により得られる信号出力Ioutとして出力される。
【0058】
他方、DM204を透過した受信プローブ光Srは光検出器PD3により検出され、検出信号が減衰率計算部221へ出力される。減衰率計算部221は、光検出器PD3により得られた受信プローブ光Srの受信強度と送信側プローブ光Sの所定強度とを用いて減衰率(1-γ)を計算する。
【0059】
減衰率(1-γ)は、自由空間300での伝送損失だけでなく、ビームエクスパンダ210での受信プローブ光Srの強度低下も反映する。すなわち、受信プローブ光Srの減衰は、上述したように自由空間300の外乱によるビームエクスパンダ210の出力光の集光位置ずれ等によっても発生し得る。
【0060】
制御部220は上述した位相変調器206の位相制御と光増幅器205の光増幅率制御を行う。光増幅器205は減衰率(1-γ)に応じた光増幅率で受信参照光LOを増幅し、それによって信号出力Ioutの信号レベルが所定範囲に維持される。制御部220は、予め測定により決定された関数を用意しておき、光増幅率を減衰率(1-γ)の関数として計算することができる。あるいは予め測定により減衰率(1-γ)と増幅率との対応テーブルを用意しておき、それを参照して減衰率(1-γ)に対する光増幅率を求めることもできる。なお、光増幅器205の光増幅率の制御は減衰率(1-γ)あるいはその変化量が所定閾値を超えたときに実行されてもよい。
【0061】
<光増幅率制御>
本実施例による量子暗号通信システムでは所定のタイムスロットを基準として通信装置100と通信装置200との間で量子暗号鍵による暗号通信を行うものとする。本実施例によれば、図4に例示するように、制御部220は減衰率計算部221から減衰率(1-γ)を通信タイムスロット毎に取得し、光増幅器205の光増幅率を制御する。
【0062】
図4において、制御部220は所定のタイムスロット毎の補正タイミングであるか否かを判断する(動作401)。補正タイミングであれば(動作401のYES)、光検出器PD3は受信プローブ光Srを受光してレベル信号を検出する(動作402)。減衰率計算部221は光検出器PD3からレベル信号を入力し、送信時の所定送信レベルに対する受信レベルの割合を現時点での減衰率(1-γ)として計算する(動作403)。制御部220は、計算式あるいはテーブルを用いて現時点での減衰率(1-γ)に応じた光増幅率を決定し、光増幅器205の光増幅率を制御する(動作404)。なお、補正タイミングでなければ(動作401のNO)、上記光増幅率の制御は行われず、前回設定された光増幅率が維持される。
【0063】
上述したように、制御部220は、光増幅器205の増幅率を減衰率(1-γ)に応じて制御し、信号出力Ioutの信号レベルが所定範囲に維持されるように受信参照光LOを増幅する。制御部220は、減衰率(1-γ)が大きくなるに従って光増幅器205の増幅率を所定値に対して上昇させ、減衰率(1-γ)が小さくなるに従って光増幅器205の増幅率を所定値に対して下降させる。これにより環境に起因する減衰率の変化を相殺して信号出力Ioutの信号レベルを維持することができる。このように減衰率(1-γ)に応じて光増幅器205が受信参照光LOを増幅することで信号出力Ioutの信号レベルが上昇し、信号出力IoutのSN比が改善する。さらに減衰率(1-γ)に応じて光増幅器14の増幅率を制御することで信号出力Ioutの安定性を改善することができる。
【0064】
なお、制御部220および減衰率計算部221の上述した機能は、CPU(Central Processing Unit)やプロセッサ等のコンピュータ上でプログラムを実行することにより実現することができる。
【0065】
3.第2実施形態
図5に例示するように、本発明の第2実施形態によるシステムは、受信機(Bob)の構成が図1に示す第1実施形態とは異なる。以下、第1実施形態と異なる構成および機能について説明し、同じ機能を有する構成部材には同一参照番号を付して説明は省略する。
【0066】
図5において、受信機(Bob)は新たな構成要素として伝送損失予測部20を有し、その以外は第1実施形態と基本的に同様の構成を有する。それに伴い光増幅器制御部19aの制御機能が光増幅器制御部19とは若干異なる。伝送損失予測部20は環境データを入力して自由空間伝送路Cを伝播する光の損失を予測する。光増幅器制御部19aは、減衰率(1-γ)と伝送損失予測部18により予測された伝送損失とを用いて光増幅器14の増幅率を制御する。
【0067】
環境データは自由空間伝送路Cの伝送損失に影響する要因、たとえば気温、湿度、振動等のデータであり、さらに日付や一日の時間帯等の時間データも含まれる。周知のように、自由空間伝送路Cは気温や湿度で伝送損失が変動する場合がある。また気温や湿度は季節によっても変化するので、日付により伝送損失の粗い変動の予測が可能である。また、一日のうちでも時間帯により気温や湿度が変化し、さらに交通機関等による振動の頻度あるいは大きさも変化する。
【0068】
このような自由空間伝送路Cの伝送損失に影響する環境データは予め計測され得る。この計測された環境データを用いて環境と伝送損失との関係を変換テーブルとして用意することができる。この変換テーブルを参照することで、伝送損失予測部20は現在の環境データから自由空間伝送路Cの伝送損失を予測することができる。したがって光増幅器制御部19aは、実際に測定した現時点の減衰率(1-γ)と、環境データから予測された伝送損失とに基づいて光増幅率を制御する。
【0069】
上述したように、本発明の第2実施形態によれば、減衰率(1-γ)に加えて、予測された伝送損失に基づいて光増幅器14の増幅率を制御する。これによりホモダイン検出により得られた信号出力IoutのSN比および出力安定性をさらに向上させることができる。
【0070】
なお、図5に示す第2実施形態の具体的な実施例は、伝送損失予測部20を新たに設けた以外、図3Aおよび図3Bに例示する回路構成と同様である。従って詳細な実施例の説明は省略する。
【0071】
4.第3実施形態
本発明の第3実施形態によるシステムは、上述した第1実施形態と同様に、受信機(Bob)において減衰率(1-γ)が計算され、減衰率(1-γ)に応じて受信参照光LOの光増幅率が制御される。さらに第3実施形態によれば、減衰率(1-γ)が送信機(Alice)へ通知され、送信機(Alice)において減衰率(1-γ)に応じて送信パルスの強度およびパルス幅が変調される。
【0072】
以下図6図9を参照しながら詳述する。ただし、主に第1実施形態と異なる構成および機能について説明し、同じ機能を有する構成部材には同一参照番号を付して詳細な説明は省略する。
【0073】
図6に示すように、受信機(Bob)において、減衰率計算部18は減衰率(1-γ)を計算し、光増幅器制御部19は減衰率(1-γ)に応じて光増幅器14の増幅率を制御する。さらに減衰率(1-γ)は通信ネットワークDを通して送信機(Alice)へ送信される。通信ネットワークDは既存の電気通信あるいは光通信ネットワークであり、減衰率(1-γ)を含む情報はインターネット等のパケット通信を利用して転送してもよい。
【0074】
送信機(Alice)は第1実施形態の構成に加えてパルス変調制御部21を有する。パルス変調制御部21は通信ネットワークDを通して減衰率γを受信し、減衰率(1-γ)に応じてレーザ光源10が出射する送信光パルスの強度およびパルス幅を変調する。パルス変調制御部21の制御方法について図7を参照しながら説明する。以下、図面を簡略化するために、光パルスを矩形状に近似し、そのピーク値をパルスパワー(強度)[W]、半値幅をパルス幅[s]とする。
【0075】
図7において、まず送信機(Alice)から自由空間伝送路Cへ送出される送信光パルスのパワー(強度)をP[W]、パルス幅をt[s]とすると、送信光パルスのエネルギE[J]はE=Ptである。送信光パルスは自由空間伝送路Cを伝播し受信機(Bob)に到達する(ステップS1)。受信機(Bob)で受信される受信光パルスは、その強度が減衰している。その減衰率は、上述したようにプローブ光Sを用いて計測することができる(ステップS2)。透過率をγ(0≦γ≦1)とすれば、減衰率は(1-γ)となり、受信光パルスのエネルギEはE=γPtで表される。減衰率(1-γ)は通信ネットワークDを通して送信機(Alice)へ送信される(ステップS3)。
【0076】
送信機(Alice)では、送信光パルス当たりのエネルギEを変化させることなく、減衰率(1-γ)に応じて送信光パルスの強度およびパルス幅を変化させる(ステップS4)。より詳しくは、パルス幅をtからγtに短縮し、強度をPからP/γに増大させる。これによりパルス当たりのエネルギEはE=Ptに維持される。このように強度およびパルス幅が変更された送信光パルスを送信すると(ステップS5)、受信機(Bob)は、パルス幅γtで強度Pの受信光パルスを受信することができる。この時のパルス当たりのエネルギEはE=γPtであり、ステップS1における変調前の受信光パルスのエネルギと同じになる。
【0077】
このように受信機(Bob)の光検出器PD1、PD2で検出される受信光パルスの強度の変動を防止することで信号出力IoutのSN比と共に信号出力Ioutの安定性を改善することができる。さらにパルス当たりのエネルギーEがパルス幅とパルス強度を変化させても変わらないために、本実施形態によるパルス変調を参照光LOおよび信号光Aの両方に適用させることができる。
【0078】
図6に戻って、第3実施形態によるシステムは、受信機(Bob)において減衰率(1-γ)に応じて受信参照光LOの光増幅率が制御され、受信参照光LOが増幅される。また送信機(Alice)において減衰率(1-γ)に応じて送信パルスの強度を高くし、パルス幅を狭くする変調を行う。したがって、送信機(Alice)での変調制御および受信機(Bob)での増幅率制御により、受信機(Bob)における信号出力レベルLoutを閾値LTH以上に維持することができ、受信側のホモダイン検出におけるSN比を改善することができる。さらに、減衰率(1-γ)を用いて光信号出力レベルLoutを所定範囲内に維持することができ、信号出力Ioutの安定化を達成できる。
【0079】
5.第2実施例
本発明の第2実施例による量子暗号通信システムは、図3Aおよび図3Bに示すシステムと同様の構成を有するが、上述したように減衰率γが送信機(Alice)へ通知され、送信機(Alice)において減衰率(1-γ)に応じて送信パルスの強度およびパルス幅が変調される点が異なる。したがって、第2実施例における受信機(Bob)を含む通信装置200は、減衰率(1-γ)を送信する通信機能を有する点を除いて図3Bに示す通信装置200と同じ構成を有する。また第2実施例における送信機(Alice)を含む通信装置100aは図3Aに示す通信装置100とほぼ同じ構成を有するが、減衰率(1-γ)を受信する機能と、減衰率(1-γ)に応じて送信光パルスの強度およびパルス幅を制御する機能とが新たに設けられる。
【0080】
よって、第2実施例における受信機(Bob)を含む通信装置200については図3Bを参照して詳細な説明を省略する。以下、送信機(Alice)を含む通信装置100aの構成および機能について主に説明する。ただし、図3Aに示す第1実施例と異なる構成および機能について説明し、同じ機能を有する構成部材には同一参照番号を付して詳細な説明は省略する。
【0081】
図8において、第1実施例における通信装置100aの送信機(Alice)は、図3Aの第1実施例と同様に、信号光学系、プローブ光学系および送信光学系110を有する。さらに通信装置100aは、送信光パルスの強度およびパルス幅制御を行う強度変調器130、減衰率(1-γ)を受信する通信部131、および強度およびパルス幅制御を含む各種制御を実行する制御部132を備える。なお、ここではレーザ光源101aはパルス光ではなく連続光を出力するものとする。
【0082】
強度変調器130はレーザ光源101と無偏光ビームスプリッタ102との間に設けられる。レーザ光源101は制御部132の制御に従って波長λ1で直線偏光の連続光を出力する。強度変調器130は制御部132の制御により連続光を強度P/γおよびパルス幅γtの光パルスに変換する。強度変調器130としてはたとえばマッハ・ツェンダ(MZ)変調器を用いることができる。
【0083】
なお、レーザ光源101aは第1実施例と同様に光パルスを出力するレーザ光源101であってもよい。その場合、強度変調器130を設けることなく、制御部132によりレーザ光源101が駆動され強度P/γおよびパルス幅γtの光パルスを出力する。
【0084】
以下、図9および図10を参照して本実施例によるシステムの動作を説明する。第2実施例による量子暗号通信システムでは所定のタイムスロットを基準として通信装置100aと通信装置200との間で量子暗号鍵による暗号通信を行うものとする。なお通信装置100aについては図8を、通信装置200については図3Bを参照する。
【0085】
図9において、通信装置100aの制御部132は、所定のタイムスロット毎の補正タイミングであるか否かを判断する(動作501)。補正タイミングであれば(動作501のYES)、レーザ光源111を駆動してプローブ光Sを送信光学系110へ出力し、自由空間300を通して受信機(Bob)へ送信する(動作502)。受信機(Bob)では、上述したように受信プローブ光Srに基づいて減衰率(1-γ)が計算される。
【0086】
通信部131は通信ネットワークDを通して受信機(Bob)から減衰率(1-γ)を含む情報を受信すると、減衰率(1-γ)を制御部132へ出力する(動作503)。制御部132は減衰率(1-γ)に応じて強度変調器130を制御し、送信光パルスの強度およびパルス幅制御を実行する(動作504)。なお、補正タイミングでなければ(動作501のNO)、上記強度及びパルス幅制御は行われず、前回設定された強度およびパルス幅が維持される。
【0087】
上述したように強度変調器130は強度P/γおよびパルス幅γtの送信光パルスを無偏光ビームスプリッタ102へ出力する。以下、既に述べたように1つの送信光パルスから通常光の参照光パルスPLOと位相変調された信号光パルスPとが2連パルス列として生成され、送信光学系110から自由空間300を通して通信装置200へ送出される。
【0088】
図10において、通信装置200の制御部220は所定のタイムスロット毎の補正タイミングであるか否かを判断する(動作601)。補正タイミングであれば(動作601のYES)、光検出器PD3は受信プローブ光Srを受光してレベル信号を検出する(動作602)。減衰率計算部221は光検出器PD3からレベル信号を入力し、送信時の所定送信レベルに対する受信レベルの割合を現時点での減衰率(1-γ)として計算する(動作603)。制御部220は、計算式あるいはテーブルを用いて現時点での減衰率(1-γ)に応じた光増幅率を決定し、光増幅器205の光増幅率を制御する(動作604)。さらに、制御部220は、通信ネットワークDを通して減衰率(1-γ)を送信機(Alice)を含む通信装置100aへ送信する(動作605)。なお、補正タイミングでなければ(動作601のNO)、上記光増幅率の制御は行われず、前回設定された光増幅率が維持される。
【0089】
以上述べたように、第2実施例によるシステムは、送信機(Alice)がプローブ光Sを自由空間300を通して受信機(Bob)へ送信し、受信機(Bob)が減衰率(1-γ)を算出し、その減衰率(1-γ)を送信機(Alice)へ送信する。受信機(Bob)は減衰率(1-γ)に応じて受信参照光LOの光増幅率を制御する。送信機(Alice)は減衰率(1-γ)に応じて送信パルスの強度およびパルス幅を上述したように変調する。こうして送信機(Alice)での強度およびパルス幅制御および受信機(Bob)での増幅率制御により、受信機(Bob)における信号出力レベルLoutを閾値LTH以上に維持することができる。さらに、減衰率(1-γ)を用いて光信号出力レベルLoutを所定範囲内に維持することができる。
【0090】
6.付記
上述した実施形態および実施例の一部あるいは全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、これらに限定されるものではない。
(付記1)
送信機と受信機とからなる量子暗号通信システムであって、
環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して前記送信機と前記受信機とが光学的に接続され、
前記送信機が、
コヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光と前記参照光とを前記光伝送路へ送出する光送信部と、
所定強度のプローブ光を前記光伝送路へ送出するプローブ光送信部と、
を備え、
前記受信機が、
前記送信機から前記光伝送路を通して到達した受信信号光および受信参照光を受信する光受信部と、
前記受信参照光を増幅する光増幅器と、
前記光増幅器により増幅された前記受信参照光と前記受信信号光とに基づいて信号出力を生成するホモダイン検出器と、
前記光伝送路を通して到達したプローブ光を受信するプローブ光受信部と、
前記受信されたプローブ光の前記送信側のプローブ光に対する減衰率を計算し、前記減衰率に応じて前記光増幅器の増幅率を制御する光増幅器制御部と、
を備えたことを特徴とする量子暗号通信システム。
(付記2)
前記プローブ光送信部は所定周期のタイミングで前記プローブ光を送出し、
前記光増幅器制御部は、前記タイミングで受信した受信プローブ光を用いて減衰率を計算し、前記減衰率に応じて前記光増幅器の増幅率を制御する、
ことを特徴とする付記1に記載の量子暗号通信システム。
(付記3)
前記送信機は前記コヒーレント光の強度およびパルス幅を制御するパルス変調制御部をさらに有し、
前記パルス変調制御部が前記受信機から前記減衰率を受信し、前記減衰率に応じて前記コヒーレント光の強度およびパルス幅を制御する、
ことを特徴とする付記1または2に記載の量子暗号通信システム。
(付記4)
前記受信されたプローブ光の前記送信側のプローブ光に対する透過率をγとして、前記減衰率を(1-γ)、前記コヒーレント光の強度をP、パルス幅をtとすれば、前記パルス変調制御部は、前記コヒーレント光の強度をP/γに大きくし、パルス幅をγtに狭くすることを特等とする付記3に記載の量子暗号通信システム。
(付記5)
前記送信機の前記光送信部および前記プローブ光送信部とは送信光学系を共有し、前記受信機の前記光受信部および前記プローブ光受信部とは受信光学系を共有し、前記送信光学系と前記受信光学系とは互いに光軸が一致しており、前記光伝送路が前記送信光学系と前記受信光学系との間の自由空間であることを特徴とする付記1-4のいずれか1項に記載の量子暗号通信システム。
(付記6)
量子暗号通信システムにおいてホモダイン検出により信号出力を取得する通信装置であって、
環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して送信側の通信装置と光学的に接続され、前記送信側の通信装置でコヒーレント光から生成された量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを前記光伝送路を通して受信する光受信部と、
前記光受信部で受信した受信参照光を増幅する光増幅器と、
前記光受信部で受信した受信信号光と前記光増幅器により増幅された受信参照光とに基づいて信号出力を生成するホモダイン検出器と、
前記送信側の通信装置から前記光伝送路を通して到達したプローブ光を受信するプローブ光受信部と、
前記受信されたプローブ光の前記送信側のプローブ光に対する減衰率を計算し、前記減衰率に応じて前記光増幅器の増幅率を制御する光増幅器制御部と、
を備えたことを特徴とする通信装置。
(付記7)
前記光増幅器制御部は、前記送信側の通信装置から所定周期のタイミングで受信する受信プローブ光を用いて減衰率を計算し、前記減衰率に応じて前記光増幅器の増幅率を制御する、
ことを特徴とする付記6に記載の通信装置。
(付記8)
前記光受信部と前記プローブ光受信部とが共有する受信光学系をさらに有し、前記受信光学系が前記送信側の通信装置に設けられた送信光学系と光軸が一致しており、前記光伝送路が前記送信光学系と前記受信光学系との間の自由空間であることを特徴とする付記6または7に記載の通信装置。
(付記9)
送信機と受信機とからなる量子暗号通信システムにおける通信制御方法であって、
環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して前記送信機と前記受信機とが光学的に接続され、
前記送信機は、
光送信部がコヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成して前記信号光と前記参照光とを前記光伝送路へ送出し、
プローブ光送信部が所定強度のプローブ光を前記光伝送路へ送出し、
前記受信機は、
受信手段が前記送信機から前記光伝送路を通して到達した受信信号光および受信参照光と前記プローブ光とを受信し、
制御手段が前記受信されたプローブ光の前記送信側のプローブ光に対する減衰率を計算し、前記減衰率に応じて前記受信参照光を増幅する増幅率を制御し、
検出手段が前記増幅された受信参照光と前記受信信号光とに基づいてホモダイン検出により信号出力を生成する、
ことを特徴とする量子暗号通信システムにおける通信制御方法。
(付記10)
前記送信機は所定周期のタイミングで前記プローブ光を送出し、
前記受信機の前記制御手段は前記タイミングで受信した受信プローブ光を用いて減衰率を計算し、前記減衰率に応じて前記光増幅器の増幅率を制御する、
ことを特徴とする付記8に記載の量子暗号通信システムにおける通信制御方法。
(付記11)
前記送信機は前記コヒーレント光のパルス幅を制御するパルス幅制御部をさらに有し、
前記パルス幅制御部が前記受信機から前記減衰率を受信し、前記減衰率に応じて前記コヒーレント光のパルス幅を制御する、ことを特徴とする付記9または10に記載の量子暗号通信システムにおける通信制御方法。
(付記12)
前記送信機の前記光送信部および前記プローブ光送信部とは送信光学系を共有し、前記受信機の前記受信手段は前記受信信号光、前記受信参照光および前記受信プローブ光を寿sんする受信光学系を有し、前記送信光学系と前記受信光学系とは互いに光軸が一致しており、前記光伝送路が前記送信光学系と前記受信光学系との間の自由空間であることを特徴とする付記9または10に記載の量子暗号通信システムにおける通信制御方法。
(付記13)
送信機と受信機とからなる量子暗号通信システムにおける前記受信機の通信制御方法であって、
環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して前記送信機と光学的に接続され、
受信手段が、前記送信機でコヒーレント光から生成された量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光と、プローブ光とを前記送信機から前記光伝送路を通して受信し、
制御手段が前記受信されたプローブ光の送信側プローブ光に対する減衰率を計算し、前記減衰率に応じて前記受信参照光を増幅する増幅率を制御し、
検出手段が前記増幅された受信参照光と前記受信信号光とに基づいてホモダイン検出により信号出力を生成する、
ことを特徴とする受信機の通信制御方法。
(付記14)
前記制御手段は、前記送信機から所定周期のタイミングで受信する受信プローブ光を用いて減衰率を計算し、前記減衰率に応じて前記光増幅器の増幅率を制御することを特徴とする付記13に記載の受信機の通信制御方法。
(付記15)
量子暗号通信システムにおいてホモダイン検出により信号出力を取得する通信装置としてコンピュータを機能させるプログラムであって、
環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して送信側の通信装置と光学的に接続された光受信部が、前記送信側の通信装置でコヒーレント光から生成された量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを前記光伝送路を通して受信する機能と、
光増幅器が前記光受信部で受信した受信参照光を増幅する機能と、
ホモダイン検出器が前記光受信部で受信した受信信号光と前記光増幅器により増幅された受信参照光とに基づいて信号出力を生成する機能と、
プローブ光受信部が前記送信側の通信装置から前記光伝送路を通して到達したプローブ光を受信する機能と、
光増幅器制御部が前記受信されたプローブ光の前記送信側のプローブ光に対する減衰率を計算し、前記減衰率に応じて前記光増幅器の増幅率を制御する機能と、
を前記コンピュータで実現することを特徴とするプログラム。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は量子鍵配送システムに適用可能である。
【符号の説明】
【0092】
10 レーザ光源(波長λ1)
11 位相変調器
12 減衰器
13 レーザ光源(波長λ2)
14 光増幅器
15 位相変調器
16 差分演算器
17 プローブ光受信部
18 減衰率計算部
19、19a 光増幅器制御部
20 伝送損失予測部
21 パルス変調制御部
BS1、BS2 ビームスプリッタ
M1、M2 ミラー
C 自由空間伝送路
D 通信ネットワーク
PD1、PD2 光検出器
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10