(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048894
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】量子暗号通信ネットワークにおける中継装置および伝送制御方法、ならびにネットワーク管理装置
(51)【国際特許分類】
H04B 10/70 20130101AFI20240402BHJP
H04B 10/291 20130101ALI20240402BHJP
H04B 10/112 20130101ALI20240402BHJP
【FI】
H04B10/70
H04B10/291
H04B10/112
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155039
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124811
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 資博
(74)【代理人】
【識別番号】100088959
【弁理士】
【氏名又は名称】境 廣巳
(74)【代理人】
【識別番号】100097157
【弁理士】
【氏名又は名称】桂木 雄二
(74)【代理人】
【識別番号】100187724
【弁理士】
【氏名又は名称】唐鎌 睦
(72)【発明者】
【氏名】今井 浩
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AA21
5K102AA68
5K102AB11
5K102AH13
5K102AL26
5K102MA03
5K102MB05
5K102MC12
5K102MD01
5K102MD03
5K102MD04
5K102MH04
5K102MH20
5K102MH22
5K102NA02
5K102PC12
5K102PC13
5K102PD05
5K102PD14
5K102PH13
5K102PH15
5K102PH22
5K102PH24
5K102PH31
5K102PH50
5K102RB02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】環境の変化により光の伝搬特性が影響を受けやすい光伝送路を用いて、信号の中継および経路切替を容易に実現可能な量子暗号通信ネットワークにおける中継装置、その伝送制御方法、ネットワーク管理装置及び量子暗号通信ネットワークを提供する。
【解決手段】中継装置は、入力側の空間リンクを収容する入力側光学系201と、入力側光学系を通して入力した信号光パルスPr
Q及び参照光パルスPr
LOのうち参照光パルスのみを光増幅する光増幅器205と、出力側の空間リンクを収容し信号光及び光増幅された参照光パルスを出力する出力側光学系202と、入力側及び/又は出力側の空間リンクの光減衰率を計算する減衰率計算部208と、ネットワーク管理装置の制御下で空間リンクの光減衰率に応じて光増幅器の光増幅率を制御し、入力側光学系及び/又は出力側光学系を制御して空間リンクを選択する制御部209と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子暗号通信ネットワークにおいて、コヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを中継する中継装置であって、
少なくとも1つの入力側の空間リンクを収容する入力側光学系と、
前記入力側光学系を通して入力した前記信号光および前記参照光のうち前記参照光のみを光増幅する光増幅器と、
少なくとも1つの出力側の空間リンクを収容し、前記信号光および前記光増幅された参照光を出力する出力側光学系と、
前記入力側または前記出力側の空間リンクあるいは前記入力側および前記出力側の空間リンクの光減衰率を検出する減衰率検出部と、
前記量子暗号通信ネットワークのネットワーク管理装置からの制御情報に従って、前記空間リンクの光減衰率に応じて前記光増幅器の光増幅率を制御し、前記入力側光学系および前記出力側光学系の少なくとも一方を制御して前記信号光および前記参照光を伝送する空間リンクを選択する制御部と、
を有することを特徴とする量子暗号通信ネットワークにおける中継装置。
【請求項2】
前記出力側光学系が複数の出力側の空間リンクを収容し、前記信号光および前記光増幅された参照光を選択された出力側の空間リンクへ出力する出力側の光スイッチを有することを特徴とする請求項1に記載の量子暗号通信ネットワークにおける中継装置。
【請求項3】
前記入力側光学系が複数の入力側の空間リンクを収容し、前記信号光および前記参照光を選択された入力側の空間リンクから入力する入力側の光スイッチを有することを特徴とする請求項1または2に記載の量子暗号通信ネットワークにおける中継装置。
【請求項4】
前記減衰率検出部が、
前記空間リンクに接続された隣接するノードからプローブ光を前記空間リンクを通して受信するプローブ光受信部と、
前記空間リンクを通して到達したプローブ光の強度から前記光減衰率を計算する光減衰率計算部と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の量子暗号通信ネットワークにおける中継装置。
【請求項5】
前記減衰率検出部が、
前記空間リンクに接続された隣接するノードへプローブ光を前記空間リンクを通して送出するプローブ光送信部と、
前記隣接ノードで反射して前記空間リンクを通して戻ってきたプローブ光の強度から前記光減衰率を計算する光減衰率計算部と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の量子暗号通信ネットワークにおける中継装置。
【請求項6】
量子暗号通信ネットワークにおいて、コヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光と中継する中継装置であって、
少なくとも1つの入力側の空間リンクを収容する入力側光学系と、
前記入力側光学系を通して入力した前記信号光および前記参照光のうち前記参照光のみを光増幅する光増幅器と、
少なくとも1つの出力側の空間リンクを収容し、前記信号光および前記光増幅された参照光を出力する出力側光学系と、
前記入力側または前記出力側の空間リンクあるいは前記入力側および前記出力側の空間リンクの光減衰率を検出する減衰率検出部と、
前記光減衰率に応じて前記光増幅器の光増幅率を制御する制御部と、
前記光減衰率と隣接ノードが検出した光減衰率とに基づいて、前記入力側光学系および前記出力側光学系の少なくとも一方を制御し前記信号光および前記参照光を伝送する空間リンクを選択する経路選択部と、
を有することを特徴とする量子暗号通信ネットワークにおける中継装置。
【請求項7】
送信機、受信機および複数の中継装置を含む複数のノードがそれぞれ空間リンクで接続され、前記送信機が、コヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光および前記参照光を少なくとも1つの中継装置を通して前記受信機へ送信する量子暗号通信ネットワークのネットワーク管理装置であって、
前記量子暗号通信ネットワークのノードおよび空間リンクからなるネットワーク構成を格納する記憶部と、
前記複数のノードから各ノードが収容する空間リンクの光減衰率を収集する減衰率収集部と、
前記空間リンクの光減衰率に基づいて前記量子暗号通信ネットワークにおける経路を選択し、当該経路を実現する空間リンクを選択するように前記経路上の各中継装置を制御する経路選択制御部と、
を有するネットワーク管理装置。
【請求項8】
前記複数の中継装置の各々が前記信号光および前記参照光のうち前記参照光のみを光増幅する光増幅器を有し、
前記経路選択制御部が、前記経路上の各中継装置の入力側の空間リンクの光減衰率に応じて、当該中継装置の前記光増幅器の光増幅率を制御することを特徴とする請求項7に記載のネットワーク管理装置。
【請求項9】
量子暗号通信ネットワークにおいて、コヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを中継する中継装置の伝送制御方法であって、
入力側光学系が少なくとも1つの入力側の空間リンクを収容し、
光増幅器が前記入力側光学系を通して入力した前記信号光および前記参照光のうち前記参照光のみを光増幅し、
出力光学系が少なくとも1つの出力側の空間リンクを収容し、前記信号光および前記光増幅された参照光を出力し、
減衰率検出部が前記入力側または前記出力側の空間リンクあるいは前記入力側および前記出力側の空間リンクの光減衰率を検出し、
制御部が、前記量子暗号通信ネットワークのネットワーク管理装置からの制御情報に従って、前記空間リンクの光減衰率に応じて前記光増幅器の光増幅率を制御し、前記入力側光学系および前記出力側光学系の少なくとも一方を制御して前記信号光および前記参照光を伝送する空間リンクを選択する、
ことを特徴とする中継装置の伝送制御方法。
【請求項10】
送信機、受信機および複数の中継装置を含む複数のノードがそれぞれ空間リンクで接続され、ネットワーク管理装置により管理される量子暗号通信ネットワークであって、
前記送信機が、コヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光および前記参照光を少なくとも1つの中継装置を通して前記受信機へ送信し、
前記中継装置が、
少なくとも1つの入力側の空間リンクを収容する入力側光学系と、
前記入力側光学系を通して入力した前記信号光および前記参照光のうち前記参照光のみを光増幅する光増幅器と、
少なくとも1つの出力側の空間リンクを収容し、前記信号光および前記光増幅された参照光を出力する出力側光学系と、
を有し、
前記ネットワーク管理装置が、各空間リンクの光減衰率を収集し、前記中間装置が収容する空間リンクの光減衰率に応じて前記光増幅器の光増幅率を制御し、前記送信機と前記受信機との間の中継装置の前記入力側光学系および前記出力側光学系の少なくとも一方を制御して前記信号光および前記参照光の経路を選択する、
ことを特徴とする量子暗号通信ネットワーク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は量子暗号通信ネットワークに係り、特に中継技術およびネットワーク管理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信の分野において、量子暗号鍵配付(QKD)システムは伝送路の高秘匿性を実現するものとして盛んに研究され実用化されつつある。このようなQKDシステムにおいて、近年、光子単位の離散量ではなく、光の直交位相振幅(quadrature-phase amplitude)のような連続量を用いた連続量QKDが提案されている。特に受信側で直交位相振幅を測定するホモダイン検出は、通常のフォトダイオードを室温で用いても量子雑音限界の測定が可能となり高い量子効率を達成できるとして注目されている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1によれば、連続量QKDでは、送信者(Alice)端末でレーザ光をビームスプリッタにより参照光(以下、LO(局部発振)光という。)と信号光とに分割し、LO光とランダムに位相変調された微弱な信号光とを受信者(Bob)端末へ送信する。受信者端末では、到達したLO光をランダムに位相変調した後、そのLO光と同じく到達した微弱な信号光とをビームスプリッタを通して2つの光検出器で検出する。このホモダイン検出により送信側で位相変調された信号光の位相情報を取り出すことができる。
【0004】
このときホモダイン検出後の信号光のレベル平均値は、信号光の光子数をn1、LO光の光子数をn0とすれば、上述の特許文献1に記載されているように、2√n1√n0となる。光ファイバの伝送損失は0.2dB/km以上なので、伝送距離50kmでは10dB、すなわち光パワーが1/10に、伝送距離100kmでは1/100に減衰する。したがって、ホモダイン検出後の信号レベルも同様に伝送距離50km、100kmでは、それぞれ1/10、1/100以下となる。
【0005】
このような信号レベルの減衰はホモダイン検出におけるSN比を劣化させる。SN比の劣化を防止するには、信号レベルを上昇させる必要があるが、伝送路に光増幅器を設ける対策では信号光も増幅され暗号鍵の情報に影響を与えるために採用できない。また送信者端末のレーザ出力を増大させてもよいが、レーザ出力の増大で上記信号レベルの減衰を補おうとすると、たとえばレーザ光源を10mW(クラス1)から1W(クラス4)へ大幅に高める必要があり、装置の大型化、光学部品の耐久性の問題、および伝送時の安全性の低下を招来し実用的ではない(レーザのクラスは1.5μm帯の場合)。
【0006】
そこで、特許文献2では、ホモダイン検出におけるSN比を向上させるために受信者端末でLO光だけを増幅する構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-101570号公報
【特許文献2】特開2007-266738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した背景技術では、光伝送路として光ファイバを用いたシステムが前提とされている。このために、光ファイバよりも減衰率が大きく伝搬特性が環境の影響を受けやすい光伝送路の場合、十分なSN比および出力の安定性を期待することができない。たとえば自由空間を光伝送路として利用する場合、空気中の水蒸気量、温度変化による空気密度の局所的な変動等を考慮する必要がある。特許文献1および2では、このような減衰率の大きい光伝送路を用いた場合の課題が認識されておらず、その対策も全く記載されていない。
【0009】
また、自由空間のように光伝送路の減衰率が大きい場合には遠方に信号を伝送できない。一般的な通信システムでは伝送距離を延ばすために伝送路中に中継器を設けることができる。しかしながらQKDシステムでは量子状態を有する微弱な信号光をそのまま通過させる必要があるために、中継器内で光電変換することができない。このために自由空間を利用したQKDシステムでは長距離化が困難である。
【0010】
さらにQKDシステムでは、送信者(Alice)が微弱な信号光を受信者(Bob)へ送付し、受信者(Bob)が到達した信号光に基づいて暗号鍵を共有する方式が採用されている。したがって信号光の経路切替が可能なネットワークの構築がそもそも想定されていない。
【0011】
そこで、本発明の目的は、環境の変化により光の伝搬特性が影響を受けやすい光伝送路を用いて、信号の中継および経路切替を容易に実現可能な量子暗号通信ネットワーク、中継装置、伝送制御方法およびネットワーク管理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によれば、量子暗号通信ネットワークにおいて、コヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを中継する中継装置であって、少なくとも1つの入力側の空間リンクを収容する入力側光学系と、前記入力側光学系を通して入力した前記信号光および前記参照光のうち前記参照光のみを光増幅する光増幅器と、少なくとも1つの出力側の空間リンクを収容し、前記信号光および前記光増幅された参照光を出力する出力側光学系と、前記入力側または前記出力側の空間リンクあるいは前記入力側および前記出力側の空間リンクの光減衰率を検出する減衰率検出部と、前記量子暗号通信ネットワークのネットワーク管理装置からの制御情報に従って、前記空間リンクの光減衰率に応じて前記光増幅器の光増幅率を制御し、前記入力側光学系および前記出力側光学系の少なくとも一方を制御して前記信号光および前記参照光を伝送する空間リンクを選択する制御部と、を有することを特徴とする。
本発明の一態様によれば、量子暗号通信ネットワークにおいて、コヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを中継する中継装置であって、少なくとも1つの入力側の空間リンクを収容する入力側光学系と、前記入力側光学系を通して入力した前記信号光および前記参照光のうち前記参照光のみを光増幅する光増幅器と、少なくとも1つの出力側の空間リンクを収容し、前記信号光および前記光増幅された参照光を出力する出力側光学系と、前記入力側または前記出力側の空間リンクあるいは前記入力側および前記出力側の空間リンクの光減衰率を検出する減衰率検出部と、前記光減衰率に応じて前記光増幅器の光増幅率を制御する制御部と、前記光減衰率と隣接ノードが検出した光減衰率とに基づいて、前記入力側光学系および前記出力側光学系の少なくとも一方を制御し前記信号光および前記参照光を伝送する空間リンクを選択する経路選択部と、を有することを特徴とする。
本発明の一態様によれば、送信機、受信機および複数の中継装置を含む複数のノードがそれぞれ空間リンクで接続され、前記送信機が、コヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光および前記参照光を少なくとも1つの中継装置を通して前記受信機へ送信する量子暗号通信ネットワークのネットワーク管理装置であって、前記量子暗号通信ネットワークのノードおよび空間リンクからなるネットワーク構成を格納する記憶部と、前記複数のノードから各ノードが収容する空間リンクの光減衰率を収集する減衰率収集部と、前記空間リンクの光減衰率に基づいて前記量子暗号通信ネットワークにおける経路を選択し、当該経路を実現する空間リンクを選択するように前記経路上の各中継装置を制御する経路選択制御部と、を有する。
本発明の一態様によれば、量子暗号通信ネットワークにおいて、コヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを中継する中継装置の伝送制御方法であって、入力側光学系が少なくとも1つの入力側の空間リンクを収容し、光増幅器が前記入力側光学系を通して入力した前記信号光および前記参照光のうち前記参照光のみを光増幅し、出力光学系が少なくとも1つの出力側の空間リンクを収容し、前記信号光および前記光増幅された参照光を出力し、減衰率検出部が前記入力側または前記出力側の空間リンクあるいは前記入力側および前記出力側の空間リンクの光減衰率を検出し、制御部が、前記量子暗号通信ネットワークのネットワーク管理装置からの制御情報に従って、前記空間リンクの光減衰率に応じて前記光増幅器の光増幅率を制御し、前記入力側光学系および前記出力側光学系の少なくとも一方を制御して前記信号光および前記参照光を伝送する空間リンクを選択する、ことを特徴とする。
本発明の一態様によれば、送信機、受信機および複数の中継装置を含む複数のノードがそれぞれ空間リンクで接続され、ネットワーク管理装置により管理される量子暗号通信ネットワークであって、前記送信機が、コヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光および前記参照光を少なくとも1つの中継装置を通して前記受信機へ送信し、前記中継装置が、少なくとも1つの入力側の空間リンクを収容する入力側光学系と、前記入力側光学系を通して入力した前記信号光および前記参照光のうち前記参照光のみを光増幅する光増幅器と、少なくとも1つの出力側の空間リンクを収容し、前記信号光および前記光増幅された参照光を出力する出力側光学系と、を有し、前記ネットワーク管理装置が、各空間リンクの光減衰率を収集し、前記中間装置が収容する空間リンクの光減衰率に応じて前記光増幅器の光増幅率を制御し、前記送信機と前記受信機との間の中継装置の前記入力側光学系および前記出力側光学系の少なくとも一方を制御して前記信号光および前記参照光の経路を選択する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、環境の変化により光の伝搬特性が影響を受けやすい光伝送路を用いて、信号の中継および経路切替が容易に実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は本発明の第1実施形態による量子暗号通信ネットワークの概略的構成図である。
【
図2】
図2は本発明の第1実施例による中継装置の構成を例示するブロック図である。
【
図3】
図3は第1実施例における減衰率検出方法の一例を説明するための模式的システム構成図である。
【
図4】
図4は
図3における中継装置における光スイッチの第1例を示すブロック構成図である。
【
図5】
図5は
図3における中継装置における光スイッチの第2例を示すブロック構成図である。
【
図6】
図6は
図3における中継装置における光スイッチの第3例を示すブロック構成図である。
【
図7】
図7は本発明の第1実施例による量子暗号通信ネットワークの送信機(Alice)の構成を例示するブロック図である。
【
図8】
図8は本発明の第1実施例による量子暗号通信ネットワークの受信機(Bob)の構成を例示するブロック図である。
【
図9】
図9は本発明の第2実施例による中継装置の構成を例示するブロック図である。
【
図10】
図10は本発明の第2実施例における減衰率検出方法の一例を説明するための模式的システム構成図である。
【
図11】
図11は本発明の第2実施例による量子暗号通信ネットワークの送信機(Alice)の構成を例示するブロック図である。
【
図12】
図12は本発明の第2実施例による量子暗号通信ネットワークの受信機(Bob)の構成を例示するブロック図である。
【
図13】
図13は本発明の第2実施例による量子暗号通信ネットワークにおける透過率検出方法の変形例を説明するための模式的システム構成図である。
【
図14】
図14は第1実施形態による量子暗号通信ネットワークにおけるネットワーク管理装置の構成を例示するブロック図である。
【
図15】
図15は第1実施形態による量子暗号通信ネットワークにおけるネットワーク管理装置によるネットワーク制御の一例を示すフローチャートである。
【
図16】
図16は本発明の第3実施例による量子暗号通信ネットワークの概略的構成図である。
【
図17】
図17は第3実施例による量子暗号通信ネットワークにおける送信パルスの変調制御を説明するための模式的シーケンス図である。
【
図18】
図18は本発明の第2実施形態による量子暗号通信ネットワークの概略的構成図である。
【
図19】
図19は本発明の第2実施形態による中継装置の構成を例示するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施形態の概要>
以下、環境の影響を受けやすい光伝送路として自由空間を例示し、ネットワークを構成するノード間の光伝送路を空間リンクと呼ぶものとする。本発明の実施形態による量子暗号通信ネットワークでは、送信機が量子状態を有する微弱な信号光と量子状態のない通常強度の参照光とをネットワークへ送出し、ネットワーク内の選択された経路を通して受信機へ伝送される。経路上の中継ノードは、制御された増幅率で参照光のみを光増幅し、信号光および増幅された参照光を後段のノードへ転送する。受信機は受信した信号光と参照光とを干渉させることにより信号情報を検出する。
【0016】
信号光および参照光が転送される経路は各空間リンクの減衰率に基づいて選択される。経路選択はネットワーク管理装置が各空間リンクの減衰率を参照して実行してもよいし、各ノードが自ノードおよび隣接ノードで検出された減衰率を参照して実行してもよい。こうして減衰率が最も小さい経路、すなわち経路コストが最小の経路を選択することができる。
【0017】
また、空間リンクの減衰率が大きくなると、それに応じて参照光の光増幅率を増大させることで受信側の信号レベルを所定範囲に維持することができる。これにより減衰率が大きく環境の影響を受けやすい空間リンクであっても、受信機でのホモダイン検出におけるSN比の改善および信号出力の安定化が達成される。
【0018】
また各空間ノードの減衰率は、隣接ノード間の空間リンクにプローブ光を送信することで計測できる。自由空間のような環境の影響を受けやすい光伝送路では、距離とともに光強度がどのように減衰するかを示す減衰特性が重要である。本実施形態では、伝搬特性として減衰(あるいは透過)の程度を示す減衰率(あるいは透過率)を計測する。伝搬特性として減衰率を用いる場合、送信時の光強度をPS、受信時の光強度をPR、透過率をγ(0≦γ≦1)とすれば、PR=γPSとなり、この場合、減衰率は(1-γ)である。
【0019】
なお、減衰率の計測方法は限定されない。隣接ノードの一方から他方へ向けてプローブ光を送信し、他方のノードで減衰率を計測してもよい。また一方のノードが、他方のノードで反射したプローブ光を用いて当該空間リンクの減衰率を計測してもよい。あるいは、一方のノードが他方のノードからのプローブ光を受信して減衰率を計測することも可能である。
【0020】
以下、本発明の実施形態および実施例について図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下の実施形態および実施例に記載されている構成要素は単なる例示であって、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨ではない。
【0021】
1.ネットワーク
図1に例示するように、本発明の第1実施形態による量子暗号通信ネットワークはQKDネットワーク10、ネットワーク管理装置11、および通信ネットワークNETを含む。QKDネットワーク10は複数のノードが空間リンクにより接続された構成を有し、複数のノードは送信機(Alice)と、受信機(Bob)と、送信機(Alice)と受信機(Bob)とを接続する複数の中継装置とを含む。
【0022】
以下、説明を簡略化するために、送信機(Alice)と受信機(Bob)との間に2つの中継装置R1およびR2が配置されているものとする。ここでは、送信機(Alice)と中継装置R1およびR1とが空間リンクL1およびL2によりそれぞれ接続されている。また、中継装置R1とR1とは空間リンクL3により接続され、さらに中継装置R1およびR1とは空間リンクL4およびL5によりそれぞれ受信機(Bob)に接続されている。通信ネットワークNETは通常のパケット通信等が可能な古典的ネットワークであり、QKDネットワーク10のノード間および各ノードとネットワーク管理装置11との間を通信可能に接続する。
【0023】
ネットワーク管理装置11は、ネットワーク内の各空間リンクの減衰率(1-γ)を収集し、収集された減衰率に基づいて中継装置で参照光の光増幅率を制御することができる。参照光の光増幅は受信機(Bob)でのホモダイン検出におけるSN比を改善し、信号出力を安定化させる。またネットワーク管理装置11は、収集された減衰率を参照することでQKDネットワーク10内で総減衰率(コスト)が最小となる最適経路(たとえば図中の経路RT)を選択することができる。
【0024】
送信機(Alice)は量子状態を有する微弱な信号光PQと量子状態のない通常強度の参照光PLOとを経路RT上の空間リンクL1を通して中継装置R1へ伝送する。中継装置R1は参照光PLOのみを光増幅し、信号光PQおよび増幅された参照光PLOを空間リンクL4を通して受信機(Bob)へ転送する。受信機(Bob)は受信した信号光PQと参照光PLOとを干渉させることにより信号情報を検出する。
【0025】
以下、中継装置R、送信機(Alice)、受信機(Bob)およびネットワーク管理装置11の詳細な構成および機能について説明する。
【0026】
2.第1実施例
本発明の第1実施例によれば、ノード間の空間リンクにプローブ光を一方向に伝送することで、当該空間リンクの光減衰率を検出する。検出された光減衰率に基づいて参照光の光増幅率が制御され、空間リンクの経路選択が行われる。
【0027】
2.1)中継装置
複数の中継装置(
図1ではR1およびR2)は、入力側/出力側の空間リンクの本数が異なるだけで、基本的に同様の構成を有する。そこで、以下の記述では一般化された中継装置を中継装置Rとし、入力側および出力側に複数の空間リンクが収容される場合を例示する。なお、1つの空間リンクが収容される場合は、光スイッチが不要であることは言うまでもない。
【0028】
図2に例示するように、中継装置Rは入力側光学系201および出力側光学系202を有する。入力側光学系201はn個(n≧1)の入力側空間リンクを収容する。ここでは、便宜上、空間リンクLiおよびLjが記載されているが、1つの空間リンクでもよいし、複数の空間リンクであってもよい。
【0029】
入力側光学系201はビームエクスパンダBEiおよびBEjと、光スイッチSW1とを含む。ビームエクスパンダBEiおよびBEjはそれぞれ前段の隣接ノードの出力側光学系と光軸が一致するように設置され、空間リンクLiおよびLjを通してそれぞれ接続される。ビームエクスパンダBEiの出力ポートは光ファイバを通して光スイッチSW1の入力ポートP1iに、ビームエクスパンダBEjの出力ポートは光ファイバを通して光スイッチSW1の入力ポートP1jに、それぞれ光学的に接続されている。光スイッチSW1は、後述するように複数の入力ポートからの一つの光信号を選択して出力ポートP10から出力する。こうして光スイッチSW1は入力側の空間リンクLiおよびLjを択一的に選択することができる。
【0030】
出力側光学系202は光スイッチSW1と送信光学系BEpおよびBEqとを含む。光スイッチSW2の出力ポートP2pおよびP2qは送信光学系BEpおよびBEqのそれぞれの入力ポートに光ファイバを通して光学的に接続される。送信光学系BEpおよびBEqはそれぞれ後段の隣接ノードの入力側光学系と光軸が一致するように設置され、空間リンクLpおよびLqを通してそれぞれ接続される。光スイッチSW2は、後述するように複数の入力ポートからの光信号を出力ポートP2pおよびP2qの一方へ出力する。こうして光スイッチSW2は出力側の空間リンクLpおよびLqを択一的に選択することができる。
【0031】
さらに、送信光学系BEpおよびBEqにはプローブ光の送信機構が設けられ、送信光学系BEpおよびBEqからそれぞれ所定のプローブ光S
prを空間リンクLpおよびLqへ送出する。プローブ光の送信機構を含む送信光学系BEpおよびBEqについては後述する(
図3参照)。
【0032】
なお、空間リンクLiおよびLjにおける空気の揺らぎ等の外乱が発生すると、ビームエクスパンダBEiあるいはBEjの出力光が光ファイバのコアに正しく集光しない場合がある。また空間リンクLiおよびLjにおける水蒸気や微粒子等の外乱によりビームエクスパンダBEiあるいはBEjの出力光の強度が大きく低下する場合もある。本実施例によれば、プローブ光Sprの減衰率を計測し、減衰率に応じて受信参照光を増幅することにより、外乱に起因する受信強度の低下および変動を相殺することができる。以下、詳述する。
【0033】
図2において、中継装置Rは、入力側光学系201および出力側光学系202の他に、信号中継部(203~207)、プローブ検出部(PDおよび208)、制御部209、およびプローブ光を出射するレーザ光源210を含む。信号中継部は信号光学系および参照光学系からなる。信号光学系は、偏光ビームスプリッタ203および無偏光ビームスプリッタ207から構成される。参照光学系は、偏光ビームスプリッタ203、ダイクロイックミラー(DM)204、光増幅器205、ミラー206および無偏光ビームスプリッタ207から構成される。プローブ検出部はDM204、光検出器PDおよび減衰率計算部208を含む。
【0034】
光スイッチSW1の出力ポートP10は光ファイバを通して偏光ビームスプリッタ203の入力ポートに接続されている。偏光ビームスプリッタ203は、光スイッチSW1から受信参照光パルスPrLOおよび受信信号光パルスPrQと、受信プローブ光Srprと、を入力する。後述するように受信参照光パルスPrLOと信号光パルスPrQとは偏光面が直交している。
【0035】
受信信号光パルスPrQはそのまま偏光ビームスプリッタ203および無偏光ビームスプリッタ207を透過して出力側光学系202の光スイッチSW2の入力ポートP20に入射する。他方、受信参照光パルスPrLOは偏光ビームスプリッタ203で反射し、ダイクロイックミラー(DM)204で反射して光増幅器205へ入射する。DM204は、後述するように波長λ2の光を透過し、その他の波長(λ1を含む)の光を反射するように構成されている。光増幅器205はたとえばEDFAあるいはSOAであり、受光参照光パルスPrLOを波長および位相を維持したまま増幅する。光増幅器205で光増幅された受信参照光パルスPrLOはミラー206および無偏光ビームスプリッタ207で反射して出力側光学系202の光スイッチSW2の入力ポートP20に入射する。
【0036】
詳細は後述するが、送信器(Alice)は参照光パルスP
LOと信号光パルスP
Qとを所定の時間差を有する2連パルスとして送信し、受信機(Bob)は受信した信号光P
Qと参照光P
LOとを干渉させることにより信号情報を検出する。したがって、経路上の中継装置Rにおいて参照光パルスP
LOと信号光パルスP
Qとの時間差は維持される必要がある。
図2では、偏光ビームスプリッタ203および無偏光ビームスプリッタ207との間の信号光経路Qと参照光経路LOとは同一の光路長に設定される。なお、無偏光ビームスプリッタ207は同様の作用が得られる偏光ビームスプリッタとしてもよい。この場合、参照光パルスP
LOはすべて反射、信号光パルスP
Qはすべて透過となる。
【0037】
また、受信プローブ光Srprは、後述するように受信参照光パルスPrLOと同じ偏光面を有するが異なる波長λ2を有する。したがって、受信プローブ光Srprは偏光ビームスプリッタ203で反射してDM204を透過する。DM204を透過した受信プローブ光Srprは光検出器PDにより検出され、検出信号が減衰率計算部208へ出力される。減衰率計算部208は、光検出器PDにより得られた受信プローブ光Srprの受信強度と送信側プローブ光Sprの所定強度とを用いて減衰率(1-γ)を計算する。
【0038】
減衰率(1-γ)は、自由空間の空間リンクでの伝送損失だけでなく、ビームエクスパンダでの受信プローブ光Srprの強度低下も反映する。受信プローブ光Srprの減衰は、自由空間の外乱によるビームエクスパンダの出力光の集光位置ずれ等によっても発生し得るからである。
【0039】
制御部209は光増幅器205の光増幅率制御を行う。光増幅器205は減衰率(1-γ)に応じた光増幅率で受信参照光LOを増幅し、それによって受信機(Bob)での信号出力Ioutの信号レベルを所定範囲に維持することが可能である。制御部209は、予め測定により決定された関数を用意しておき、光増幅率を減衰率(1-γ)の関数として計算することができる。あるいは予め測定により減衰率(1-γ)と増幅率との対応テーブルを用意しておき、それを参照して減衰率(1-γ)に対する光増幅率を求めることもできる。なお、光増幅器205の光増幅率の制御は減衰率(1-γ)あるいはその変化量が所定閾値を超えたときに実行されてもよい。なお、制御部209は、ネットワーク管理装置11からの制御情報に従って光増幅器205の光増幅率制御を行ってもよい。
【0040】
更に制御部209は入力側の光スイッチSW1および出力側の光スイッチSW2の切替制御を行う。本実施例では、ネットワーク管理装置11からの切替制御情報に従って入力側の光スイッチSW1および出力側の光スイッチSW2を切り替え、最も経路コストの低くなる入力側および出力側の空間リンクが選択される。
【0041】
上述した減衰率計算部208および制御部209の機能は、図示しないメモリに格納されたプログラムをプロセッサあるいはCPU(Central Processing Unit)上で実行することにより実現することもできる。
【0042】
2.2)光減衰率の検出機構
図3に例示するように、隣接するノード101および110が任意の空間リンクLを通して接続されているものとする。ノード101は送信光学系102を有し、送信光学系102が波長λ1のレーザ光Pと波長λ2のプローブ光S
prを空間リンクLへ送出する。プローブ光S
prは所定パルス幅のパルス光あるいは一定時間持続する波長λ2(≠λ1)のレーザ光であり、制御された強度を有する。送信光学系102の構成は
図2における送信光学系BEpおよびBEqに採用され得る。
【0043】
送信光学系102はビームエクスパンダ103、104およびダイクロイックミラー(DM)105を含む。ビームエクスパンダ103および104は入力ポートの光ファイバから入力した光ビームをそれより大きい直径のコリメート光ビームに変換する光学素子である。本実施例におけるDM105は波長λ1の光を透過し、その他の波長(λ2を含む)の光を反射するように構成されている。したがって、波長λ1のレーザ光P(ここでは参照光パルスPLOおよび信号光パルスPQ)はDM105を透過し、波長λ2のプローブ光SPrは反射する。
【0044】
ビームエクスパンダ103および104はそれらの光軸により規定される平面上で、それらの光軸が直交するように配置される。DM105は、ビームエクスパンダ103の出射光の進行方向に対して反時計回りに45°傾斜し、ビームエクスパンダ104の出射光の進行方向に対して時計回りに45°傾斜した姿勢で配置される。したがって、ビームエクスパンダ103から出射する波長λ1の光はDM105を透過して空間リンクLへ送出され、ビームエクスパンダ104から出射した波長λ2の光はDM105で反射して同じ空間リンクLへ送出される。
【0045】
ノード110はビームエクスパンダ111およびDM112からなる受信光学系を有する。ビームエクスパンダ111は空間リンクLを通して到達した波長λ1のレーザ光Prと波長λ2のプローブ光SrPrを受光する。この例におけるDM112は、レーザ光Prとプローブ光SrPrとを分離する光学素子であり、波長λ1の光を透過し、その他の波長(λ2を含む)の光を反射するように構成されている。したがって、波長λ1のレーザ光PrはDM105を透過し、波長λ2のプローブ光SrPrは反射する。
【0046】
DM112で反射した受信プローブ光Srprは光検出器PDにより検出され、検出信号が減衰率計算部113へ出力される。減衰率計算部113は、光検出器PDにより得られた受信プローブ光Srprの受信強度と送信側プローブ光Sprの所定強度とを用いて減衰率(1-γ)を計算する。減衰率(1-γ)はネットワーク管理装置11へ通知される。
【0047】
減衰率(1-γ)は、自由空間300での伝送損失だけでなく、ビームエクスパンダ210での受信プローブ光Srprの強度低下も反映する。すなわち、受信プローブ光Srprの減衰は、上述したように自由空間300の外乱によるビームエクスパンダ210の出力光の集光位置ずれ等によっても発生し得る。
【0048】
2.3)光スイッチ機構
中継装置Rにおける入力側の光スイッチSW1および出力側の光スイッチSW2(以下、両方を示す場合、光スイッチSWと記す。)は、光のまま経路を選択可能であればよく、nおよびmを任意の整数とすれば、n入力1出力あるいは1入力m出力のスイッチ素子である。このような光スイッチSWの構成例を以下に示す。
【0049】
<例1>
図4に例示する光スイッチSWは1入力2出力のプリズム移動型光スイッチである。光スイッチSWには1つの入力ポートP0と2つの出力ポートPT1およびPT2が設けられている。ポートP0、PT1およびPT2にはそれぞれグリンレンズGL0、GL1およびGL2が接続され、これらグリンレンズがプリズム210に対向配置されている。プリズム210は二等辺三角形の断面を有し、その底辺方向(矢印212方向)に移動可能である。アクチュエータ211は制御部209の制御によりプリズム210を位置S1と位置S2のいずれかの位置に移動させる。
【0050】
プリズム210が位置S1にある場合、入力ポートP0から入力したレーザ光はグリンレンズGL0によりコリメートされた後、プリズム210の2つの等辺面で全反射してグリンレンズGL1へ出射する。グリンレンズGL1により集光されたレーザ光は出力ポートPT1から出射する。すなわちプリズム210が位置S1にあれば、入力ポートP0は出力ポートPT1と接続される。同様に、プリズム210が位置S2にあれば、入力ポートP0は出力ポートPT2と接続される。こうしてプリズム210を移動させることで、出力ポートを選択することができる。
【0051】
<例2>
図5に例示する光スイッチSWは、MEMS(Micro Electro Mechanical System)ミラーアレイを用いたn入力m出力の光スイッチである。入力側の光ファイバアレイ220の任意の光ファイバから入力したレーザ光はマイクロレンズアレイ221によりコリメートされ、MEMSミラーアレイ222および223でそれぞれ反射した後、マイクロレンズアレイ224により集光され、出力側の光ファイバアレイ225から出射する。ドライバイ226は、制御部209の制御により、MEMSミラーアレイ222および223におけるそれぞれのMEMSミラーの傾斜角を正確に制御する。これにより各MEMSミラーの反射光を偏向させることができ、任意の入力側光ファイバから入力したレーザ光をマイクロレンズアレイ224の任意のマイクロレンズに到達させることができる。このようにMEMSミラーの傾斜角を正確に制御することで任意の入出力光ファイバ間を接続することができる。
【0052】
<例3>
図6は
図2における出力側光学系202の別の例であり、ビームエクスパンダと偏光器を組み込むことで光スイッチSWと同様の機能を実現することができる。
図6におけるビームエクスパンダ231、232およびDM233は、
図3における送信光学系102のビームエクスパンダ103、104およびDM105にそれぞれ対応し、同等の機能を有する。光偏向器234は垂直偏向ドライバ235および水平偏向ドライバ236により送信ビームを所望の方向へ偏向することができる。このような光偏向器234としては、たとえば電気光学効果あるいは音響光学効果を利用した偏向器を用いることができる。
【0053】
波長λ1のレーザ光P(ここでは参照光パルスPLOおよび信号光パルスPQ)はビームエクスパンダ231によりビーム径が拡張された後、DM233を透過して光偏向器234へ入射する。波長λ2のプローブ光SPrはビームエクスパンダ232によりビーム径が拡張された後、DM233で反射し、レーザ光Pと同様の方向から光偏向器234へ入射する。
【0054】
光偏向器234は、レーザ光Pおよびプローブ光S
Prを複数の方向へ偏向できる。本実施例では、レーザ光Pおよびプローブ光S
Prは複数の空間リンクLのうち選択された一つの空間リンクへ送出される。
図6に示す例では、偏向角θ=0°の方向の空間リンクL、偏向角0°<θ<40°の方向の空間リンクL、および偏向角-40°<θ<0°の方向の空間リンクLの3つの空間リンクを選択可能である。
【0055】
2.4)送信機
図7において、送信機300は上記した送信機(Alice)に対応する。送信機300は、信号光学系(301~308)、プローブ光学系を含む出力側光学系309および制御部310を有し、さらに出力側光学系309へプローブ光S
Prを供給するレーザ光源311を有する。プローブ光学系を含む出力側光学系309としては
図2および
図3あるいは
図6に例示する出力側光学系202が採用され得る。
【0056】
信号光学系は、レーザ光源301、無偏光ビームスプリッタ(BS)302、偏光ビームスプリッタ(PBS)303、ミラー304、半波長板305、減衰器306、位相変調器307およびミラー308を含む。後述するように、信号光学系はレーザ光源301の出力パルスPから偏光面が互いに直交し時間的に分離した参照光パルスPLOおよび信号光パルスPQを生成する。参照光パルスPLOおよび信号光パルスPQは出力側光学系309により選択された空間リンクL1あるいはL2へ送出される。
【0057】
プローブ光学系はレーザ光源311を含み、レーザ光源311は、レーザ光源301と同様に直線偏光のレーザ光であるプローブ光Sprを出射し、これをプローブ光Sprとして出力側光学系309を通して選択された空間リンクL1あるいはL2へ送出する。プローブ光Sprは所定パルス幅のパルス光あるいは一定時間持続するレーザ光である。なお、レーザ光源301は波長λ1のレーザ光を出力し、レーザ光源311は波長λ1とは異なる波長λ2のレーザ光を出力する。
【0058】
出力側光学系309は、
図2に例示する光スイッチSW1と送信光学系EBpおよびEBqとから構成される出力側光学系202であってもよいし、
図6に例示する出力側光学系202であってもよい。レーザ光源311から出射されたプローブ光S
prは、上記参照光パルスP
LOおよび信号光パルスP
Qと共に、選択された空間リンクL1あるいはL2へ送出される。
【0059】
制御部310は、レーザ光源301、減衰器306および位相変調器307を制御し、上述した参照光パルスPLOおよび信号光パルスPQを生成する。また制御部310はレーザ光源111を制御し、所定周期のタイミングあるいは所望のタイミングでプローブ光Sprを出力させることができる。また、制御部310は、ネットワーク管理装置11からの制御情報に従って、出力側光学系309の空間リンク切替制御を行う。
【0060】
レーザ光源301は波長λ1で直線偏光の光パルスPを無偏光ビームスプリッタ302の入力ポートへ出力する。光パルスPは無偏光ビームスプリッタ302により2分割され、一方の光パルスが参照光側の経路RLOへ、他方の光パルスが信号光側の経路RQへそれぞれ送出される。参照光側の経路RLOの光パルスはそのまま偏光ビームスプリッタ303を透過し、量子状態を持たない通常強度の参照光パルスPLOとして出力側光学系309に入射する。
【0061】
信号光側の経路RQは、ミラー304、半波長板305、減衰器306、位相変調器307およびミラー308からなり、参照光側の経路RLOより長い光路を有する。半波長板305は経路RQの光パルスの偏光面を90度回転させ、減衰器306はその光パルスを量子状態を有する微弱光に減衰させる。位相変調器307は微弱光パルスに対して位相変調を実行し信号光パルスPQを生成する。信号光パルスPQはミラー308で反射して偏光ビームスプリッタ303へ入射する。なお減衰器306と位相変調器307は光パルスの進行方向に対して逆の配列順であってもよい。
【0062】
信号光パルスPQは半波長板305により偏光面が90°回転しているので、偏光ビームスプリッタ303で反射され、出力側光学系309に入射する。ただし、信号光パルスPQは、経路RQと経路RLOとの光路長の差に起因する時間だけ参照光パルスPLOより遅れて出力側光学系309に入射する。こうして、1つの光パルスPから互いに偏光面が直交し時間的に分離した参照光パルスPLOおよび信号光パルスPQが生成される。なお、無偏光ビームスプリッタ302を偏光ビームスプリッタとした場合は半波長板305を用いなくてもよい。
【0063】
位相変調器307は、制御部310の制御により、減衰器306から出力された微弱光パルスに対して暗号鍵の原乱数に従った4通りの位相変調(0°、90°、180°、270°)を実行して信号光パルスPQを生成する。こうして通常強度の参照光パルスPLOと位相変調された信号光パルスPQとからなる2連パルス列が出力側光学系309に入射する。
【0064】
このように制御部310が出力側光学系309の切替制御を行うことで、選択された空間リンクを通して、参照光パルスPLOおよび信号光パルスPQからなる波長λ1の2連パルス列と、所定のタイミングで所定時間持続する波長λ2のプローブ光Sprとが伝送される。
【0065】
上述した制御部310の機能は、図示しないメモリに格納されたプログラムをプロセッサあるいはCPU(Central Processing Unit)上で実行することにより実現することもできる。
【0066】
2.2)受信機
図8に示すように、受信機400は上記受信機(Bob)に対応する。受信機400は入力側光学系401により選択された空間リンクL4あるいはL5を通して、前段のノードから参照光パルスP
LOおよび信号光パルスP
Qとプローブ光S
prとを入力する。入力側光学系401は
図2に例示する入力側光学系201と同じ構成を有するものとする。
【0067】
図8において、受信機(Bob)は、入力側光学系401の他に、信号受信部(402~409)およびプローブ検出部(PD3、410)と制御部411とを含む。信号受信部は信号光学系、参照光学系および信号検出部からなる。信号光学系は、偏光ビームスプリッタ402、半波長板403および無偏光ビームスプリッタ404から構成される。参照光学系は、偏光ビームスプリッタ402、ダイクロイックミラー(DM)405、光増幅器406、位相変調器407、ミラー408および無偏光ビームスプリッタ404から構成される。信号検出部は光検出器PD1、PD2および差分演算部409から構成される。プローブ検出部は、DM405、光検出器PD3および減衰率計算部410を有する。
【0068】
受信機400の入力側光学系401の出力ポートは光ファイバを通して偏光ビームスプリッタ402の入力ポートに接続されている。偏光ビームスプリッタ201は入力側光学系401から受信参照光パルスPrLOおよび受信信号光パルスPrQと、受信プローブ光Srprと、を入力する。上述したように、受信参照光パルスPrLOと信号光パルスPrQとは偏光面が直交している。
【0069】
受信信号光パルスPrQはそのまま偏光ビームスプリッタ402を透過し、半波長板403へ入射する。半波長板403は偏光面を90度回転させる。したがって半波長板403を透過した受信信号光パルスPrQは受信参照光パルスPrLOと同じ偏光面となり、無偏光ビームスプリッタ404の第1の入力ポートに入射する。
【0070】
他方、受信参照光パルスPrLOは偏光ビームスプリッタ402で反射し、偏光ビームスプリッタ402の第2の出力ポートから出射してDM405で反射する。DM405で反射した受信参照光パルスPrLOは、光増幅器406、位相変調器407およびミラー408を通して無偏光ビームスプリッタ404の第2の入力ポートに入射する。受信プローブ光Srprは送信機300のレーザ光源311から出射されたプローブ光Sprが到達したものであるから、受信参照光パルスPrLOと同様に偏光ビームスプリッタ402で反射する。
【0071】
DM405は波長λ2の光を透過し、その他の波長(λ1を含む)の光を反射するように構成されている。したがって、DM405は波長λ1の参照光パルスPrLOを反射し、波長λ2の受信プローブ光Srprを透過させる。
【0072】
ここで受信信号光パルスPr
Qの経路は送信機300の経路R
LOと同じ長さであり、受信参照光パルスPr
LOの経路は送信機300の経路R
Qと同じ長さである。また
図2に示したように、中継装置Rでは偏光ビームスプリッタ203および無偏光ビームスプリッタ207との間の信号光経路Qと参照光経路LOとは同一の光路長に設定されている。したがって、無偏光ビームスプリッタ404の第1および第2の入力ポートにそれぞれ入射する受信信号光パルスPr
Qおよび受信参照光パルスPr
LOは、送信機300の偏光ビームスプリッタ302から同じ長さの異なる光路を通して無偏光ビームスプリッタ203に到達する。これにより送信機300および受信機400の光学的構成は一つの干渉計を構成している。
【0073】
光増幅器406はたとえばEDFAあるいはSOAであり、受光参照光パルスPrLOを波長および位相を維持したまま増幅する。光増幅器406の増幅率は制御部411により制御される。位相変調器407は光増幅された受光参照光パルスPrLOを位相変調する。位相変調器407の位相変調は制御部411により制御される。上述したように、送信機300の位相変調器307は送信する信号光パルスPQに対して4通りの位相変調(0°、90°、180°、270°)を施すが、受信機400の位相変調器407は受信参照光パルスPrLOに対して2通りの位相変調(0°、90°)を施す。このように位相変調された受信参照光パルスPrLOがミラー408で反射して無偏光ビームスプリッタ404に入射する。
【0074】
無偏光ビームスプリッタ404は、半波長板403により偏光面が90度回転した受信信号光パルスPrQと、光増幅され位相変調された受信参照光パルスPrLOと、を入力する。無偏光ビームスプリッタ404は光の透過率と反射率とが等しく、受信信号光パルスPrQと受信参照光パルスPrLOとを重ねて2つの出力ポートから出射する。無偏光ビームスプリッタ404の2つの出力ポートにはそれぞれ光伝送路を通して光検出器PD1、PD2が光学的に接続されている。光検出器PD1、PD2は無偏光ビームスプリッタ404の2つの出力ポートからの出射光をそれぞれ受光する。光検出器PD1、PD2としては通常のフォトダイオードが室温で用いられる。
【0075】
光検出器PD1、PD2からそれぞれ出力される検出信号は差分演算部409で差分演算され、その結果である差信号がホモダイン検出により得られる信号出力Ioutとして出力される。
【0076】
他方、DM405を透過した受信プローブ光Srprは光検出器PD3により検出され、検出信号が減衰率計算部410へ出力される。減衰率計算部410は、光検出器PD3により得られた受信プローブ光Srprの受信強度と送信側プローブ光Sprの所定強度とを用いて減衰率(1-γ)を計算する。
【0077】
減衰率(1-γ)は、選択された空間リンクでの伝送損失だけでなく、入力光学系401のビームエクスパンダでの受信プローブ光Srprの強度低下も反映する。すなわち、受信プローブ光Srprの減衰は、上述したように空間リンクの外乱によるビームエクスパンダの出力光の集光位置ずれ等によっても発生し得る。
【0078】
制御部411は上述した入力側光学系401の経路切替制御、位相変調器407の位相制御および光増幅器406の光増幅率制御を行う。経路切替制御はネットワーク管理装置11からの制御情報により実行され、入力側光学系401の光スイッチSW1(
図2参照)の切替制御を行うことで、空間リンクL4あるいはL5を選択することができる。
【0079】
光増幅器406の光増幅率制御については、光増幅器406が減衰率(1-γ)に応じた光増幅率で受信参照光PrLOを増幅し、それによって信号出力Ioutの信号レベルを所定範囲に維持することができる。制御部411は、予め測定により決定された関数を用意しておき、光増幅率を減衰率(1-γ)の関数として計算することができる。あるいは予め測定により減衰率(1-γ)と増幅率との対応テーブルを用意しておき、それを参照して減衰率(1-γ)に対する光増幅率を求めることもできる。なお、光増幅器406の光増幅率の制御は減衰率(1-γ)あるいはその変化量が所定閾値を超えたときに実行されてもよい。
【0080】
上述した減衰率計算部410および制御部411の機能は、図示しないメモリに格納されたプログラムをプロセッサあるいはCPU(Central Processing Unit)上で実行することにより実現することもできる。
【0081】
3.第2実施例
本発明の第2実施例によれば、ノード間の空間リンクでプローブ光を往復させることにより当該空間リンクの光減衰率を検出する。検出された光減衰率に基づいて参照光の光増幅率が制御され、空間リンクの経路選択が行われる。以下、上述した第1実施例の構成と同一の構成要素には同一の参照番号を付して説明は簡略化する。
【0082】
3.1)中継装置
図9に例示するように、中継装置Rは入力側光学系201および出力側光学系202を有し、これらの構成は第1実施例(
図2~
図6)と同様である。また、信号中継部(203~207)もミラー204aを除いて第1実施例と同様の構成である。ミラー204aは、本実施例ではで受信参照光Pr
LOを反射すればよいので、ダイクロイックミラー(DM)である必要はない。本実施例と第1実施例との差異は以下の通りである。
【0083】
本実施例による中継装置Rは、入力側光学系201と偏光ビームスプリッタ203との間にダイクロイックミラー(DM)250が設けられている。DM250は波長λ1の光を透過し、波長λ2の光を反射するように構成されている。したがって、波長λ1の参照光パルスPLOおよび信号光パルスPQはDM250を透過し、波長λ2の受信プローブ光SrPrはDM250で反射する。DM250で反射した受信プローブ光SrPrは選択された空間リンクを通して送信側ノードへ戻される。
【0084】
また中継装置Rは、無偏光ビームスプリッタ207と出力側光学系202との間にダイクロイックミラー(DM)251が設けられている。DM251もDM250と同様に、波長λ1の参照光パルスPLOおよび信号光パルスPQを透過させ、波長λ2の反射受信プローブ光Sr’Prを反射する。反射受信プローブ光Sr’PrはDM251からプローブ光検出器PDへ入射し、その検出信号が減衰率計算部252へ出力される。減衰率計算部252は、光検出器PDにより得られた受信プローブ光Sr’prの受信強度とレーザ光源210から出射されるプローブ光Sprの所定強度とを用いて減衰率(1-γ)を計算する。
【0085】
なお、プローブ光SPrは空間リンクを往復して戻ってくるので、戻ってくる反射受信プローブ光Sr’Prが十分大きな強度となるようにレーザ光源210が出射するプローブ光SPrの強度が制御される。
【0086】
制御部209は、ネットワーク管理装置11からの制御情報に従って上記第1実施例と同様に光増幅器205の光増幅率制御を行うことができる。あるいは、出力側の空間リンクの光減衰率(1-γ)に応じて、光増幅器205の光増幅率を制御することもできる。このような中継装置での増幅制御により、受信機(Bob)での信号出力Ioutの信号レベルを所定範囲に維持することが可能となる。
【0087】
更に制御部209は、空間リンクの光減衰率に応じて、入力側の光スイッチSW1および出力側の光スイッチSW2の切替制御を行う。本実施例では、ネットワーク管理装置11からの切替制御情報に従って入力側の光スイッチSW1および出力側の光スイッチSW2を切り替え、最も経路コストの低くなる入力側および出力側の空間リンクが選択される。
【0088】
上述した減衰率計算部252および制御部209の機能は、図示しないメモリに格納されたプログラムをプロセッサあるいはCPU(Central Processing Unit)上で実行することにより実現することもできる。
【0089】
3.2)光減衰率の検出機構
本実施例による減衰率(1-γ)の検出機構は以下の通りである。
【0090】
図10に例示するように、隣接するノード501および510が任意の空間リンクLを通して接続されているものとする。ノード501は送信光学系502、ダイクロイックミラー(DM)506、光検出器PDおよび減衰率計算部507を有する。送信光学系502が波長λ1のレーザ光Pと波長λ2のプローブ光S
prを同じ空間リンクLへ送出する。プローブ光S
prは所定パルス幅のパルス光あるいは一定時間持続する波長λ2(≠λ1)のレーザ光であり、制御された強度を有する。送信光学系502の構成は、
図9における送信光学系BEpおよびBEqに採用され得る。
【0091】
送信光学系502はビームエクスパンダ503、504およびダイクロイックミラー(DM)505を含む。ビームエクスパンダ503および504は入力ポートの光ファイバから入力した光ビームをそれより大きい直径のコリメート光ビームに変換する光学素子である。本実施例におけるDM505は、波長λ1の光を透過し、その他の波長(λ2を含む)の光の一部を反射し一部を透過するように構成されている。したがって、波長λ1の参照光パルスP
LOおよび信号光パルスP
QはDM505を透過し、波長λ2のプローブ光S
Prは部分的に反射し、反射受信プローブ光Sr’
Prは部分的に透過する。なお、ビームエクスパンダ503、504およびDM505の相対的位置関係は第1実施例(
図3)で説明した通りである。
【0092】
また本実施例におけるDM506は波長λ1の光を透過し、その他の波長(λ2を含む)の光を反射するように構成されている。したがって、波長λ1のレーザ光P(ここでは参照光パルスPLOおよび信号光パルスPQ)はDM506を透過し、波長λ2の反射受信プローブ光Sr’Prは反射する。
【0093】
ノード510はビームエクスパンダ511およびDM512からなる受信光学系を有する。ビームエクスパンダ511は空間リンクLを通して到達した波長λ1のレーザ光Prと波長λ2のプローブ光SrPrを受光する。DM512は波長λ1の光を透過し、その他の波長(λ2を含む)の光を反射するように構成されている。したがって、波長λ1のレーザ光Prは透過し、波長λ2のプローブ光SrPrは反射して同じ空間リンクへ戻される。
【0094】
ノード510で反射して戻された反射受信プローブ光Sr’prは一部がDM505を透過し、ビームエクスパンダ503で集光された後、DM506で反射して光検出器PDへ入射する。光検出器PDは検出信号を減衰率計算部507へ出力し、減衰率計算部507は光検出器PDにより得られた受信プローブ光Sr’prの受信強度と送信側プローブ光Sprの所定強度とを用いて減衰率(1-γ)を計算する。こうして得られた減衰率(1-γ)はネットワーク管理装置11へ通知される。
【0095】
なお、
図9における光スイッチSW1、SW2および出力側光学系202は、
図4~
図6に示す構成と同様であるので、説明は省略する。
【0096】
3.3)送信機
図11に例示するように、送信機600は上記した送信機(Alice)に対応する。第1実施例による送信機300(
図7)と同様に、送信機600は信号光学系(301~308)を有する。第1実施例による送信機300との相違点は以下の通りである。
【0097】
出力側光学系610は、
図9における出力側光学系202と
図10における送信光学系502とを組み合わせた構成と基本的に同じ構成を有する。また、偏光ビームスプリッタ303と出力側光学系610との間にダイクロイックミラー(DM)611が設けられている。DM611は波長λ1の参照光パルスP
LOおよび信号光パルスP
Qを透過させ、送信先のノードから反射して戻ってきた波長λ2の反射受信プローブ光Sr’
Prを反射する。
【0098】
反射受信プローブ光Sr’PrはDM611からプローブ光検出器PDへ入射する。反射受信プローブ光Sr’prは光検出器PDにより検出され、その検出信号が減衰率計算部612へ出力される。減衰率計算部612は反射受信プローブ光Sr’prの受信強度とレーザ光源311の送信側プローブ光Sprの所定強度とを用いて減衰率(1-γ)を計算する。
【0099】
制御部613は、検出された減衰率(1-γ)に応じて、出力側光学系の光スイッチSW2の切替制御を行う。本実施例では、ネットワーク管理装置11からの切替制御情報に従って出力側の光スイッチSW2を切り替え、最も経路コストの低くなる出力側の空間リンクL1あるいはL2が選択される。
【0100】
上述した減衰率計算部612および制御部613の機能は、図示しないメモリに格納されたプログラムをプロセッサあるいはCPU(Central Processing Unit)上で実行することにより実現することもできる。
【0101】
3.4)受信機
図12に例示するように、本実施例による受信機700は上記した受信機(Bob)に対応する。第1実施例による受信機400(
図8)と同様に、受信機700は入力側光学系401および信号光学系(402~409)を有する。第1実施例による受信機400との相違点は以下の通りである。
【0102】
偏光ビームスプリッタ402と入力側光学系401との間にダイクロイックミラー(DM)701が設けられている。DM701は波長λ1の参照光パルスP
LOおよび信号光パルスP
Qを透過させ、波長λ2の受信プローブ光Sr
Prを反射するように構成されている。DM701で反射した受信プローブ光Sr
Prは選択された空間リンクを通して送信側ノードへ戻される。これ以外は第1実施例による受信機400(
図8)と同様の構成であるから、説明は省略する。なお、上述した制御部702の機能は、図示しないメモリに格納されたプログラムをプロセッサあるいはCPU(Central Processing Unit)上で実行することにより実現することもできる。
【0103】
3.5)光減衰率検出機構の変形例
図13に例示する減衰率検出機構は
図10に例示する減衰率検出機構の変形例である。
図10と同じ構成要素には同一参照番号を付している。この変形例によれば、
図10におけるDM506の代わりに光サーキュレータ520を用いて反射受信プローブ光Sr’
Prを分離する。
【0104】
図13において、ノード501は送信光学系502、光サーキュレータ520およびプローブ光検出器PDおよび減衰率計算部507を含む。送信光学系502は、
図10と同様にビームエクスパンダ503および504とDM505aとからなる。光サーキュレータ520はプローブ光S
prをビームエクスパンダ504へ出力し、ノード510から戻ってきた反射受信プローブ光Sr’
Prをビームエクスパンダ504からプローブ光検出器PDへ出力する。本実施例によれば、DM505aは、波長λ1の参照光パルスP
LOおよび信号光パルスP
Qを透過させ、波長λ2のプローブ光S
Pおよび反射受信プローブ光Sr’
Prを反射させるように構成される。
【0105】
このように光サーキュレータ520を設けることで、反射受信プローブ光Sr’Prはビームエックスパンダ504からプローブ光検出器PDへ入射する。上述したように、減衰率計算部507は反射受信プローブ光Sr’Prの強度を用いて減衰率(1-γ)を計算し、この減衰率(1-γ)がネットワーク管理装置11へ通知される。
【0106】
4.ネットワーク管理装置
上述したネットワーク管理装置11は、各空間リンクの減衰率をQKDネットワーク10の各ノードから収集し、空間リンクの光減衰率に従って中継装置Rでの参照光の光増幅率制御および経路選択制御を実行する。
【0107】
図14に例示するように、ネットワーク管理装置11は、QKDネットワーク10のネットワーク構成をネットワーク構成記憶部21に保持している。減衰率収集部22は、QKDネットワーク10の各ノードに対して定期的に減衰率検出を指示し、検出した空間リンクの減衰率を収集してリンク情報として保持する。経路選択制御部23は、収集された空間リンクの減衰率を参照して、送信機(Alice)から受信機(Bob)までの経路コストが最も小さくなる経路を選択する。また増幅率制御部24は、各中継装置Rに対して、接続された空間リンクの減衰率に応じた光増幅率を計算する。通信部25は通信ネットワークNETを通してQKDネットワーク10の各ノードとの間で情報通信を可能にする。制御部26は、減衰率の収集、経路選択制御、増幅率制御およびQKDネットワーク10内の各ノードとの通信制御を実行する。
【0108】
ネットワーク管理装置11はコンピュータにより実現することもできる。上述した減衰率収集部22、経路選択制御部23、増幅率制御部24および制御部26の機能は、図示しないメモリに格納されたプログラムをプロセッサあるいはCPU(Central Processing Unit)上で実行することにより実現可能である。ネットワーク管理装置11の制御の一例を
図15に示す。
【0109】
図15において、ネットワーク管理装置11は、所定のタイムスロット毎の補正タイミングであるか否かを判断する(動作801)。補正タイミングであれば(動作801のYES)、減衰率収集部22は、各ノードに対してプローブ光S
prによる空間リンクの減衰率の計測を指示し、計測された減衰率を収集する(動作802)。続いて、経路選択制御部23は、収集された減衰率に応じて送信機(Alice)から受信機(Bob)までの最適経路を選択する(動作803)。増幅率制御部24は、経路上の中継装置Rに対して、接続された空間リンクの減衰率に応じた光増幅率を計算する(動作804)。続いて、制御部26は、経路上の送信機(Alice)、中継装置Rおよび受信機(Bob)に対して、経路の切替を指示し増幅率を設定する制御情報を送信する(動作805)。なお、補正タイミング以外では(動作801のNO)、動作802~805は実行されず、前回設定された経路および光増幅率が維持される。
【0110】
なお、中継装置Rや受信機(Bob)での光増幅率制御については、ネットワーク管理装置11からの制御によらず、各ノードで実行するもできる。たとえば
図2に例示する第1実施例の中継装置Rでは、減衰率計算部208により計算された入力側の空間リンクの減衰率に応じて、制御部209が光増幅器205の増幅率を制御してもよい。また、
図9に例示する第2実施例の中継装置Rでは、減衰率計算部252により計算された出力側の空間リンクの減衰率に応じて、制御部209が光増幅器205の増幅率を制御してもよい。
【0111】
5.第3実施例
上述した実施例では、空間リンクの光減衰率に従って参照光の光増幅率制御および経路選択制御が実行される。本発明の第3実施例によれば、上記光増幅率制御および経路選択制御に加えて、送信機(Alice)において送信光パルスの強度およびパルス幅を減衰率に応じて変調する。より詳しくは、送信光パルスのエネルギを変化させずに、減衰率に応じて送信パルスの強度を大きくしパルス幅を狭くする。
【0112】
たとえば、減衰が所定範囲内である場合(減衰率(1-γ)<δ)を通常状態とする。送信光パルスの強度をP、パルス幅をtとすれば、減衰率(1-γ)がδ以上に増大したとき、送信パルスの強度をP/γに、パルス幅をγtに変化させる。これによりパルスあたりのエネルギEは、透過率γあるいは減衰率(1-γ)に依存することなくE=Ptで一定となる。
【0113】
このように空間リンクでの光減衰率に応じて、送信光パルスのエネルギを変化させずに、レーザ光の減衰を補うように送信光パルスの強度およびパルス幅を変調する。これにより受信機(Bob)においてホモダイン検出された信号レベルを所定範囲に維持することができる。すなわち減衰率が大きく環境の影響を受けやすい光伝送路の場合であっても、ホモダイン検出におけるSN比の改善および信号出力の安定化が達成される。
【0114】
図16に例示するように、本発明の第3実施例による量子暗号通信ネットワークはQKDネットワーク10、ネットワーク管理装置11a、および通信ネットワークNETを含む。QKDネットワーク10は複数のノードが空間リンクにより接続された構成を有し、複数のノードは送信機(Alice)と、受信機(Bob)と、送信機(Alice)と受信機(Bob)とを接続する複数の中継装置とを含む。以下、QKDネットワーク10は、
図16に例示するように送信機(Alice)と、受信機(Bob)と、中継装置R1およびR2とが空間リンクL1~L5により接続されたネットワーク構成を有するものとする。
【0115】
ネットワーク管理装置11aは、ネットワーク内の各空間リンクの減衰率(1-γ)を収集し、収集された減衰率に基づいて中継装置で参照光の光増幅率を制御することができる。またネットワーク管理装置11aは、収集された減衰率を参照することでQKDネットワーク10内で総減衰率(コスト)が最小となる最適経路(たとえば図中の経路RT)を選択することができる。さらにネットワーク管理装置11aは、各空間リンクの減衰率(1-γ)と選択された経路上の中継装置における光増幅率とを用いて、経路減衰率を推定する。ネットワーク管理装置11aは、経路減衰率に応じて送信機(Alice)を制御し、送信光パルスの強度およびパルス幅を上述したように変調することができる。
【0116】
以下、第2実施例による中継装置R(
図9)、送信機600(
図11)および受信機700(
図12)からなるQKDネットワーク10を一例として、第3実施例による伝送制御方法について
図17を参照しながら説明する。図面を簡略化するために、光パルスを矩形状に近似し、そのピーク値をパルスパワー(強度)[W]、半値幅をパルス幅[s]とする。またQKDネットワーク10内の経路RTが選択された場合について説明する。
【0117】
図17において、まず送信機600から経路RTへ送出される送信光パルスのパワー(強度)をP[W]、パルス幅をt[s]とすると、送信光パルスのエネルギE[J]はE=Ptである。送信光パルスは経路RTを伝搬し受信機700に到達する(ステップS1)。受信機700で受信される受信光パルスは経路RTにおいて強度が減衰している。その時の経路減衰率を(1-γ)とする(γは経路透過率)。この場合、ネットワーク管理装置11aは、空間リンクL1およびL4のそれぞれの光減衰率と中継装置R1での光増幅率とから経路減衰率(1-γ)を計算する(ステップS2)。受信機700での受信光パルスのエネルギEは、E=γPtで表される。
【0118】
送信機600の制御部613は、送信光パルス当たりのエネルギEを変化させることなく、経路減衰率(1-γ)に応じて送信光パルスの強度およびパルス幅を変化させる(ステップS3)。より詳しくは、パルス幅をtからγtに短縮し、強度をPからP/γに増大させる。これによりパルス当たりのエネルギEはE=Ptに維持される。
【0119】
このように強度およびパルス幅が変調された送信光パルスを送信すると(ステップS4)、受信機700は、パルス幅γtで強度Pの受信光パルスを受信することができる。この時のパルス当たりのエネルギEはE=γPtであり、ステップS1における変調前の受信光パルスのエネルギと同じになる。
【0120】
したがって、受信機700の光検出器PD1、PD2で検出される受信光パルスの強度の変動を防止することができ、信号出力IoutのSN比と共に信号出力Ioutの安定性を改善することができる。さらにパルス当たりのエネルギーEがパルス幅とパルス強度を変化させても変わらないために、本実施例によるパルス変調を参照光LOおよび信号光Qの両方に適用させることができる。
【0121】
以上述べたように、ネットワーク管理装置11aは経路減衰率に従って送信パルスの強度およびパルス幅を制御する。これにより、受信機700においてホモダイン検出により得られた信号出力IoutのSN比および出力安定性を改善することができる。また、量子暗号通信の不正傍受を検出した時に、中継装置で空間リンクLを切り替えたとしても切替前後の伝送損失の違いにも対応が可能である。
【0122】
6.第2実施形態
上述したように、本発明の第1実施形態によれば、各空間リンクの減衰率収集、減衰率による光増幅率制御および経路選択制御はネットワーク管理装置11により実行されるが、本発明はこのような集中制御方式に限定されない。QKDネットワークの各ノードが隣接ノードと減衰率情報をやり取りしながら同様の機能を分散的に実現することもできる。
【0123】
図18に例示するように、本発明の第2実施形態による量子暗号通信ネットワークはQKDネットワーク12および通信ネットワークNETを含む。QKDネットワーク12は複数のノードが空間リンクにより接続された構成を有し、複数のノードは送信機(Alice)と、受信機(Bob)と、送信機(Alice)と受信機(Bob)とを接続する複数の中継装置とを含む。
【0124】
QKDネットワーク12の各ノードには、自ノードの空間リンクに関する減衰率情報と隣接ノードの空間リンクに関する減衰率情報とが経路リンク情報RTIとして保持されている。各ノードは経路リンク情報RTIを参照することで経路コストのより小さいルートを選択することができる。このような中継装置Ra(R1aおよびR2a)を
図19に例示する。中継装置Raは第2実施例(
図11)の減衰率検出方式を採用しているが、第1実施例(
図2)の減衰率検出方式であっても同様である。
【0125】
図19において、第2実施例(
図11)と同一の構成要素には同一の参照番号を付して説明は省略する。第2実施例との差分は以下の通りである。
【0126】
本実施形態による中継装置Raには、経路選択部901および制御部902が設けられている。制御部902は、隣接ノード(別の中継装置、送信機あるいは受信機)との間で通信ネットワークNETを通して減衰率情報のやり取りを行い、QKDネットワーク12のリンク減衰率情報を経路リンク情報RTIとして経路選択部901に保持する。リンク減衰率情報は、自ノード(中継装置Ra)に接続された空間リンクの減衰率と、隣接ノードに接続された空間リンクの減衰率とを含む。
【0127】
制御部902は、経路リンク情報RTIを参照して入力側光学系201の光スイッチSW1および出力光学系202の光スイッチSW2を制御し、経路コストがより小さい経路を選択する。また制御部902は選択された空間リンクの減衰率に応じて光増幅器205の増幅率を制御する。
【0128】
なお、上述した減衰率計算部252、経路選択部901および制御部902の機能は、図示しないメモリに格納されたプログラムをプロセッサあるいはCPU(Central Processing Unit)上で実行することにより実現可能である。
【0129】
7.付記
上述した実施形態および実施例の一部あるいは全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、これらに限定されるものではない。
(付記1)
送信機、受信機および複数の中継装置を含む複数のノードがそれぞれ空間リンクで接続され、前記送信機が、コヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光および前記参照光を少なくとも1つの中継装置を通して前記受信機へ送信する量子暗号通信ネットワークにおける前記中継装置であって、
少なくとも1つの入力側の空間リンクを収容する入力側光学系と、
前記入力側光学系を通して入力した前記信号光および前記参照光のうち前記参照光のみを光増幅する光増幅器と、
少なくとも1つの出力側の空間リンクを収容し、前記信号光および前記光増幅された参照光を出力する出力側光学系と、
前記入力側または前記出力側の空間リンクあるいは前記入力側および前記出力側の空間リンクの光減衰率を検出する減衰率検出部と、
前記ネットワーク管理装置からの制御情報に従って、前記空間リンクの光減衰率に応じて前記光増幅器の光増幅率を制御し、前記入力側光学系および前記出力側光学系の少なくとも一方を制御して前記信号光および前記参照光を伝送する空間リンクを選択する制御部と、
を有することを特徴とする量子暗号通信ネットワークにおける中継装置。
(付記2)
前記出力側光学系が複数の出力側の空間リンクを収容し、前記信号光および前記光増幅された参照光を選択された出力側の空間リンクへ出力する出力側の光スイッチを有することを特徴とする付記1に記載の量子暗号通信ネットワークにおける中継装置。
(付記3)
前記入力側光学系が複数の入力側の空間リンクを収容し、前記信号光および前記参照光を選択された入力側の空間リンクから入力する入力側の光スイッチを有することを特徴とする付記1または2に記載の量子暗号通信ネットワークにおける中継装置。
(付記4)
前記減衰率検出部が、
前記空間リンクに接続された隣接するノードからプローブ光を前記空間リンクを通して受信するプローブ光受信部と、
前記空間リンクを通して到達したプローブ光の強度から前記光減衰率を計算する光減衰率計算部と、
を有することを特徴とする付記1に記載の量子暗号通信ネットワークにおける中継装置。
(付記5)
前記減衰率検出部が、
前記空間リンクに接続された隣接するノードへプローブ光を前記空間リンクを通して送出するプローブ光送信部と、
前記隣接ノードで反射して前記空間リンクを通して戻ってきたプローブ光の強度から前記光減衰率を計算する光減衰率計算部と、
を有することを特徴とする付記1に記載の量子暗号通信ネットワークにおける中継装置。
【0130】
(付記6)
送信機、受信機および複数の中継装置を含む複数のノードがそれぞれ空間リンクで接続され、前記送信機が、コヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光および前記参照光を少なくとも1つの中継装置を通して前記受信機へ送信する量子暗号通信ネットワークにおける前記中継装置であって、
少なくとも1つの入力側の空間リンクを収容する入力側光学系と、
前記入力側光学系を通して入力した前記信号光および前記参照光のうち前記参照光のみを光増幅する光増幅器と、
少なくとも1つの出力側の空間リンクを収容し、前記信号光および前記光増幅された参照光を出力する出力側光学系と、
前記入力側または前記出力側の空間リンクあるいは前記入力側および前記出力側の空間リンクの光減衰率を検出する減衰率検出部と、
前記光減衰率に応じて前記光増幅器の光増幅率を制御する制御部と、
前記光減衰率と隣接ノードが検出した光減衰率とに基づいて、前記入力側光学系および前記出力側光学系の少なくとも一方を制御し前記信号光および前記参照光を伝送する空間リンクを選択する経路選択部と、
を有することを特徴とする量子暗号通信ネットワークにおける中継装置。
(付記7)
前記出力側光学系が複数の出力側の空間リンクを収容し、前記信号光および前記光増幅された参照光を選択された出力側の空間リンクへ出力する出力側の光経路切替部を有することを特徴とする付記6に記載の量子暗号通信ネットワークにおける中継装置。
(付記8)
前記入力側光学系が複数の入力側の空間リンクを収容し、前記信号光および前記参照光を選択された入力側の空間リンクから入力する入力側の光経路切替部を有することを特徴とする付記6または7に記載の量子暗号通信ネットワークにおける中継装置。
(付記9)
前記減衰率検出部が、
前記空間リンクに接続された隣接するノードからプローブ光を前記空間リンクを通して受信するプローブ光受信部と、
前記空間リンクを通して到達したプローブ光の強度から前記光減衰率を計算する光減衰率計算部と、
を有することを特徴とする付記6に記載の量子暗号通信ネットワークにおける中継装置。
(付記10)
前記減衰率検出部が、
前記空間リンクに接続された隣接するノードへプローブ光を前記空間リンクを通して送出するプローブ光送信部と、
前記隣接ノードで反射して前記空間リンクを通して戻ってきたプローブ光の強度から前記光減衰率を計算する光減衰率計算部と、
を有することを特徴とする付記6に記載の量子暗号通信ネットワークにおける中継装置。
【0131】
(付記11)
送信機、受信機および複数の中継装置を含む複数のノードがそれぞれ空間リンクで接続され、前記送信機が、コヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光および前記参照光を少なくとも1つの中継装置を通して前記受信機へ送信する量子暗号通信ネットワークのネットワーク管理装置であって、
前記量子暗号通信ネットワークのノードおよび空間リンクからなるネットワーク構成を格納する記憶部と、
前記複数のノードから各ノードが収容する空間リンクの光減衰率を収集する減衰率収集部と、
前記空間リンクの光減衰率に基づいて前記量子暗号通信ネットワークにおける経路を選択し、当該経路を実現する空間リンクを選択するように前記経路上の各中継装置を制御する経路選択制御部と、
を有するネットワーク管理装置。
(付記12)
前記複数の中継装置の各々が前記信号光および前記参照光のうち前記参照光のみを光増幅する光増幅器を有し、
前記経路選択制御部が、前記経路上の各中継装置の入力側の空間リンクの光減衰率に応じて、当該中継装置の前記光増幅器の光増幅率を制御することを特徴とする付記11に記載のネットワーク管理装置。
(付記13)
前記経路上の各中継装置が、入力側の空間リンクの光減衰率に応じて、前記信号光および前記参照光のうち前記参照光のみを光増幅する光増幅器を有することを特徴とする付記11に記載のネットワーク管理装置。
【0132】
(付記14)
送信機、受信機および複数の中継装置を含む複数のノードがそれぞれ空間リンクで接続され、前記送信機が、コヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光および前記参照光を少なくとも1つの中継装置を通して前記受信機へ送信する量子暗号通信ネットワークにおける前記中継装置の伝送制御方法であって、
入力側光学系が少なくとも1つの入力側の空間リンクを収容し、
光増幅器が前記入力側光学系を通して入力した前記信号光および前記参照光のうち前記参照光のみを光増幅し、
出力光学系が少なくとも1つの出力側の空間リンクを収容し、前記信号光および前記光増幅された参照光を出力し、
減衰率検出部が前記入力側または前記出力側の空間リンクあるいは前記入力側および前記出力側の空間リンクの光減衰率を検出し、
制御部が、前記ネットワーク管理装置からの制御情報に従って、前記空間リンクの光減衰率に応じて前記光増幅器の光増幅率を制御し、前記入力側光学系および前記出力側光学系の少なくとも一方を制御して前記信号光および前記参照光を伝送する空間リンクを選択する、
ことを特徴とする中継装置の伝送制御方法。
【0133】
(付記15)
送信機、受信機および複数の中継装置を含む複数のノードがそれぞれ空間リンクで接続され、前記送信機が、コヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光および前記参照光を少なくとも1つの中継装置を通して前記受信機へ送信する量子暗号通信ネットワークにおける前記中継装置の伝送制御方法であって、
入力側光学系が少なくとも1つの入力側の空間リンクを収容し、
光増幅器が前記入力側光学系を通して入力した前記信号光および前記参照光のうち前記参照光のみを光増幅し、
出力光学系が少なくとも1つの出力側の空間リンクを収容し、前記信号光および前記光増幅された参照光を出力し、
減衰率検出部が前記入力側または前記出力側の空間リンクあるいは前記入力側および前記出力側の空間リンクの光減衰率を検出し、
制御部が、前記光減衰率に応じて前記光増幅器の光増幅率を制御し、
経路選択部が、前記光減衰率および隣接ノードが検出した光減衰率に基づいて、前記入力側光学系および前記出力側光学系の少なくとも一方を制御し前記信号光および前記参照光を伝送する空間リンクを選択する、
ことを特徴とする中継装置の伝送制御方法。
【0134】
(付記16)
送信機、受信機および複数の中継装置を含む複数のノードがそれぞれ空間リンクで接続され、ネットワーク管理装置により管理される量子暗号通信ネットワークであって、
前記送信機が、コヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光および前記参照光を少なくとも1つの中継装置を通して前記受信機へ送信し、
前記中継装置が、
少なくとも1つの入力側の空間リンクを収容する入力側光学系と、
前記入力側光学系を通して入力した前記信号光および前記参照光のうち前記参照光のみを光増幅する光増幅器と、
少なくとも1つの出力側の空間リンクを収容し、前記信号光および前記光増幅された参照光を出力する出力側光学系と、
を有し、
前記ネットワーク管理装置が、各空間リンクの光減衰率を収集し、前記中間装置が収容する空間リンクの光減衰率に応じて前記光増幅器の光増幅率を制御し、前記送信機と前記受信機との間の中継装置の前記入力側光学系および前記出力側光学系の少なくとも一方を制御して前記信号光および前記参照光の経路を選択する、
ことを特徴とする量子暗号通信ネットワーク。
【0135】
(付記17)
送信機、受信機および複数の中継装置を含む複数のノードがそれぞれ空間リンクで接続された量子暗号通信ネットワークであって、
前記送信機が、コヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光および前記参照光を少なくとも1つの中継装置を通して前記受信機へ送信し、
前記中継装置が、
少なくとも1つの入力側の空間リンクを収容する入力側光学系と、
前記入力側光学系を通して入力した前記信号光および前記参照光のうち前記参照光のみを光増幅する光増幅器と、
少なくとも1つの出力側の空間リンクを収容し、前記信号光および前記光増幅された参照光を出力する出力側光学系と、
前記入力側または前記出力側の空間リンクあるいは前記入力側および前記出力側の空間リンクの光減衰率を検出する減衰率検出部と、
前記光減衰率に応じて前記光増幅器の光増幅率を制御する制御部と、
前記光減衰率と隣接ノードが検出した光減衰率とに基づいて、前記入力側光学系および前記出力側光学系の少なくとも一方を制御し前記信号光および前記参照光を伝送する空間リンクを選択する経路選択部と、
を有することを特徴とする量子暗号通信ネットワーク。
(付記18)
前記出力側光学系が複数の出力側の空間リンクを収容し、前記信号光および前記光増幅された参照光を選択された出力側の空間リンクへ出力する出力側の光経路切替部を有することを特徴とする付記16または17に記載の量子暗号通信ネットワーク。
(付記19)
前記入力側光学系が複数の入力側の空間リンクを収容し、前記信号光および前記参照光を選択された入力側の空間リンクから入力する入力側の光経路切替部を有することを特徴とする付記16または17に記載の量子暗号通信ネットワーク。
(付記20)
前記空間リンクに接続された隣接するノードの一方のノードが前記信号光および前記参照光と共に所定強度のプローブ光を前記空間リンクへ送出するプローブ光送信部を有し、
他方のノードが、前記空間リンクを通して到達したプローブ光の強度から前記光減衰率を計算する光減衰率計算部を有する、
ことを特徴とする付記16または17に記載の量子暗号通信ネットワーク。
(付記21)
前記空間リンクに接続された隣接するノードの一方のノードが、
前記信号光および前記参照光と共に所定強度のプローブ光を前記空間リンクへ送出するプローブ光送信部と、
他方のノードで反射して前記空間リンクを通して戻ってきたプローブ光の強度から前記光減衰率を計算する光減衰率計算部と、
を有する、
ことを特徴とする付記16または17に記載の量子暗号通信ネットワーク。
【0136】
(付記22)
送信機、受信機および複数の中継装置を含む複数のノードがそれぞれ空間リンクで接続され、前記送信機が、コヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光および前記参照光を少なくとも1つの中継装置を通して前記受信機へ送信する量子暗号通信ネットワークにおける前記中継装置としてコンプータを機能させるプログラムであって、
入力側光学系が少なくとも1つの入力側の空間リンクを収容し、光増幅器が前記入力側光学系を通して入力した前記信号光および前記参照光のうち前記参照光のみを光増幅し、出力光学系が少なくとも1つの出力側の空間リンクを収容し、前記信号光および前記光増幅された参照光を出力し、
前記プログラムが、
前記入力側または前記出力側の空間リンクあるいは前記入力側および前記出力側の空間リンクの光減衰率を検出する機能と、
前記光減衰率をネットワーク管理装置へ通知し、前記ネットワーク管理装置からの前記空間リンクの光減衰率に応じた制御情報に従って、前記光増幅器の光増幅率を制御し、前記入力側光学系および前記出力側光学系の少なくとも一方を制御して前記信号光および前記参照光を伝送する空間リンクを選択する機能と、
を前記コンピュータで実現することを特徴とするプログラム。
【0137】
(付記23)
送信機、受信機および複数の中継装置を含む複数のノードがそれぞれ空間リンクで接続され、前記送信機が、コヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光および前記参照光を少なくとも1つの中継装置を通して前記受信機へ送信する量子暗号通信ネットワークにおける前記中継装置としてコンプータを機能させるプログラムであって、
入力側光学系が少なくとも1つの入力側の空間リンクを収容し、光増幅器が前記入力側光学系を通して入力した前記信号光および前記参照光のうち前記参照光のみを光増幅し、出力光学系が少なくとも1つの出力側の空間リンクを収容し、前記信号光および前記光増幅された参照光を出力し、
前記プログラムが、
前記入力側または前記出力側の空間リンクあるいは前記入力側および前記出力側の空間リンクの光減衰率を検出する機能と、
前記光減衰率に応じて前記光増幅器の光増幅率を制御する機能と、
前記光減衰率および隣接ノードが検出した光減衰率に基づいて、前記入力側光学系および前記出力側光学系の少なくとも一方を制御し前記信号光および前記参照光を伝送する空間リンクを選択する機能と、
を前記コンピュータで実現することを特徴とするプログラム。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明は量子鍵配送システムに適用可能である。
【符号の説明】
【0139】
10、12 QKDネットワーク
11 ネットワーク管理装置
102 送信光学系
103、104 ビームエクスパンダ
105、112 ダイクロイックミラー(DM)
201、401 入力側光学系
202、309 出力側光学系
203 偏光ビームスプリッタ
204、250,405、505、506 ダイクロイックミラー(DM)
205 光増幅器
206 ミラー
207 無偏光ビームスプリッタ
208、252,410、612 減衰率計算部
209、411 制御部
210 レーザ光源
405 ダイクロイックミラー(DM)
505、506 ダイクロイックミラー(DM)
L、L1~L5 空間リンク
PD、PD1、PD2、PD3 光検出器
SW1、SW2 光スイッチ
BEi、BEj ビームエクスパンダ
BEp、BEq 送信光学系
NET 通信ネットワーク