(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048895
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】量子暗号通信システム、その送信機および送信制御方法
(51)【国際特許分類】
H04B 10/70 20130101AFI20240402BHJP
H04B 10/50 20130101ALI20240402BHJP
H04B 10/112 20130101ALI20240402BHJP
【FI】
H04B10/70
H04B10/50
H04B10/112
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155040
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124811
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 資博
(74)【代理人】
【識別番号】100088959
【弁理士】
【氏名又は名称】境 廣巳
(74)【代理人】
【識別番号】100097157
【弁理士】
【氏名又は名称】桂木 雄二
(74)【代理人】
【識別番号】100187724
【弁理士】
【氏名又は名称】唐鎌 睦
(72)【発明者】
【氏名】今井 浩
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AA68
5K102AB11
5K102AH13
5K102AL23
5K102MA01
5K102MB02
5K102MB04
5K102MC11
5K102MC29
5K102MD01
5K102MD04
5K102MH02
5K102MH20
5K102MH22
5K102PC12
5K102PC13
5K102PH01
5K102PH02
5K102PH13
5K102PH15
5K102PH24
5K102PH31
5K102PH42
5K102PH49
5K102RB02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】環境の変化により光の伝搬特性が影響を受けやすい光伝送路を用いた場合でも、送信側の制御により信号出力のSN比の改善および安定化を達成できる量子暗号通信システム、送信機及びプログラムを提供する。
【解決手段】量子暗号通信システムにおいて、送信機(Alice)は、環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路(C)を通して受信機(Bob)と光学的に接続され、コヒーレント光の送信光パルスから量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し光伝送路へ送出する光送信部(レーザ光源10、位相変調器11、減衰器12、ビームスプリッターBS1、ミラーM1)と、所定強度のプローブ光(S
P)が光伝送路を伝搬した時のプローブ光の減衰率(1-γ)に応じて、送信光パルスのパルス強度およびパルス幅を変調するパルス変調制御部(19)と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子暗号通信システムにおいて、環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して受信機とが光学的に接続された送信機であって、
コヒーレント光の送信光パルスから量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光と前記参照光とを前記光伝送路へ送出する光送信部と、
所定強度のプローブ光が前記光伝送路を伝搬した時の前記プローブ光の減衰率に応じて、前記送信光パルスのパルス強度およびパルス幅を変調する制御部と、
を有することを特徴とする送信機。
【請求項2】
前記制御部は、前記送信光パルスのパルス強度およびパルス幅を当該送信光パルスのエネルギを変化させずに変調することを特徴とする請求項1に記載の送信機。
【請求項3】
前記所定強度のプローブ光が前記光伝送路を伝搬した時の前記プローブ光の透過率をγとして、前記減衰率を(1-γ)、前記送信光パルスの強度をPs、および前記送信光パルスの幅をtとすれば、前記制御部は、前記減衰率(1-γ)に応じて前記送信光パルスのパルス強度およびパルス幅をそれぞれPs/γおよびγtに変調することを特徴とする請求項2に記載の送信機。
【請求項4】
前記所定強度のプローブ光を前記光伝送路へ送出するプローブ光送信部と、
前記受信機で反射された前記プローブ光を前記光伝送路を通して受光するプローブ光検出器と、
前記プローブ光検出器の検出出力を用いて前記減衰率を計算する減衰率計算部と、
を更に有する請求項1-3のいずれか1項に記載の送信機。
【請求項5】
前記減衰率を前記受信機から受信することを特徴とする請求項1-3のいずれか1項に記載の送信機。
【請求項6】
量子暗号通信システムにおいて、環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して受信機とが光学的に接続された送信機の送信制御方法であって、
光送信部が、コヒーレント光の送信光パルスから量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光と前記参照光とを前記光伝送路へ送出し、
制御部が、所定強度のプローブ光が前記光伝送路を伝搬した時の前記プローブ光の減衰率に応じて、前記送信光パルスのパルス強度およびパルス幅を変調する、
ことを特徴とする送信制御方法。
【請求項7】
送信機と受信機とからなる量子暗号通信システムであって、
環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して前記送信機と前記受信機とが光学的に接続され、
前記送信機が、コヒーレント光の送信光パルスから量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光と前記参照光とを前記光伝送路へ送出する光送信部と、前記送信光パルスのパルス強度およびパルス幅を変調する制御部と、を備え、
前記受信機が、前記送信機から前記光伝送路を通して到達した受信信号光および受信参照光を受信する光受信部と、前記受信参照光と前記受信信号光とを干渉させることで信号出力を生成する信号検出部と、を備え、
前記送信機あるいは前記受信機のいずれか一方が、所定強度のプローブ光が前記光伝送路を伝搬した時の前記プローブ光の減衰率を計算する減衰率計算部を有し、
前記制御部が、前記減衰率に応じて、前記送信光パルスのパルス強度およびパルス幅を変調する、
ことを特徴とする量子暗号通信システム。
【請求項8】
前記送信機が、前記信号光および前記参照光と前記プローブ光とを前記光伝送路へ送信する送信光学系を有し、
前記受信機が、前記光伝送路を通して前記信号光および前記参照光と前記プローブ光とを受信する受信光学系を有し、
前記送信光学系と前記受信光学系とは互いに光軸が一致しており、前記光伝送路が前記送信光学系と前記受信光学系との間の自由空間であることを特徴とする請求項7に記載の量子暗号通信システム。
【請求項9】
前記受信機は前記光受信部と前記信号検出部との間に前記受信参照光のみ増幅する光増幅器を有し、
前記光増幅器の光増幅率が前記減衰率に応じて制御されることを特徴とする請求項7または8に記載の量子暗号通信システム。
【請求項10】
量子暗号通信システムにおいて、環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して受信機とが光学的に接続された送信機としてコンピュータを機能させるプログラムであって、
コヒーレント光の送信光パルスから量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光と前記参照光とを前記光伝送路へ送出する機能と、
所定強度のプローブ光が前記光伝送路を伝搬した時の前記プローブ光の減衰率に応じて、前記送信光パルスのパルス強度およびパルス幅を変調する機能と、
を前記コンピュータで実現することを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は量子暗号通信システムに係り、特に量子暗号通信により暗号鍵を共有する通信装置における送信制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信の分野において、量子暗号鍵配付(QKD)システムは伝送路の高秘匿性を実現するものとして盛んに研究され実用化されつつある。このようなQKDシステムにおいて、近年、光子単位の離散量ではなく、光の直交位相振幅(quadrature-phase amplitude)のような連続量を用いた連続量QKDが提案されている。特に受信側で直交位相振幅を測定するホモダイン検出は、通常のフォトダイオードを室温で用いても量子雑音限界の測定が可能となり高い量子効率を達成できるとして注目されている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1によれば、連続量QKDでは、送信者(Alice)端末でレーザ光をビームスプリッタにより参照光(以下、LO(局部発振)光という。)と信号光とに分割し、LO光とランダムに位相変調された微弱な信号光とを受信者(Bob)端末へ送信する。受信者端末では、到達したLO光をランダムに位相変調した後、そのLO光と同じく到達した微弱な信号光とをビームスプリッタを通して2つの光検出器で検出する。このホモダイン検出により送信側で位相変調された信号光の位相情報を取り出すことができる。
【0004】
このときホモダイン検出後の信号光のレベル平均値は、信号光の光子数をn1、LO光の光子数をn0とすれば、上述の特許文献1に記載されているように、2√n1√n0となる。光ファイバの伝送損失は0.2dB/km以上なので、伝送距離50kmでは10dB、すなわち光パワーが1/10に、伝送距離100kmでは1/100に減衰する。したがって、ホモダイン検出後の信号レベルも同様に伝送距離50km、100kmでは、それぞれ1/10、1/100以下となる。
【0005】
このような信号レベルの減衰はホモダイン検出におけるSN比を劣化させる。SN比の劣化を防止するには、信号レベルを上昇させる必要があるが、伝送路に光増幅器を設ける対策では信号光も増幅され暗号鍵の情報に影響を与えるために採用できない。また送信者端末のレーザ出力を増大させてもよいが、レーザ出力の増大で上記信号レベルの減衰を補おうとすると、たとえばレーザ光源を10mW(クラス1)から1W(クラス4)へ大幅に高める必要があり、装置の大型化、光学部品の耐久性の問題、および伝送時の安全性の低下を招来し実用的ではない(レーザのクラスは1.5μm帯の場合)。
【0006】
そこで、特許文献2では、ホモダイン検出におけるSN比を向上させるために受信者端末でLO光だけを増幅する構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-101570号公報
【特許文献2】特開2007-266738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献2では、受信者(Bob)端末においてLO光を増幅すると記載されているだけであり、SN比向上という目的を達成するためにどのような増幅制御を行うかは記載されていない。
【0009】
またホモダイン検出におけるSN比の向上だけでなく、LO光と信号光とに基づいて得られる信号出力レベルの安定性も重要である。上記特許文献2では、増幅されたLO光を利用して位相変調処理のタイミング制御を行う。このためにタイミング制御の高精度化は達成できるとしても、安定したレベルの信号出力を得ることができない。
【0010】
さらに、上述した特許文献1および2では、光伝送路として光ファイバを用いたシステムが前提とされている。このために、光ファイバよりも減衰率が大きく伝搬特性が環境の影響を受けやすい光伝送路の場合、十分なSN比および出力の安定性を期待することができない。たとえば自由空間を光伝送路として利用する場合、空中の水蒸気量、温度変化による空気密度の局所的な変動等を考慮する必要がある。特許文献1および2では、このような光伝送路を用いた場合の課題が全く認識されておらず、その対策も全く記載されていない。
【0011】
さらに、上述した特許文献2では、送信者(Alice)端末の送信光量を上げると散乱光が増大して受信者(Bob)側に漏れ込んで悪影響がでることが認識されている。しかしながら、特許文献2は、この認識に基づき受信者(Bob)端末での対応策を提案しているだけであり、送信者(Alice)端末での対応策を何ら教示していない。
【0012】
そこで、本発明の目的は、環境の変化により光の伝搬特性が影響を受けやすい光伝送路を用いた場合でも、送信側の制御により信号出力のSN比の改善および安定化を達成できる量子暗号通信システム、その送信機および送信制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様による量子暗号通信システムにおける送信機は、量子暗号通信システムにおいて、環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して受信機と光学的に接続された送信機であって、コヒーレント光の送信光パルスから量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光と前記参照光とを前記光伝送路へ送出する光送信部と、所定強度のプローブ光が前記光伝送路を伝搬した時の前記プローブ光の減衰率に応じて、前記送信光パルスのパルス強度およびパルス幅を変調する制御部と、を有することを特徴とする。
本発明の一態様による送信制御方法は、量子暗号通信システムにおいて、環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して受信機と光学的に接続された送信機の送信制御方法であって、光送信部が、コヒーレント光の送信光パルスから量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光と前記参照光とを前記光伝送路へ送出し、制御部が、所定強度のプローブ光が前記光伝送路を伝搬した時の前記プローブ光の減衰率に応じて、前記送信光パルスのパルス強度およびパルス幅を変調する、ことを特徴とする。
本発明の一態様による量子暗号通信システムは、送信機と受信機とからなる量子暗号通信システムであって、環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して前記送信機と前記受信機とが光学的に接続され、前記送信機が、コヒーレント光の送信光パルスから量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光と前記参照光とを前記光伝送路へ送出する光送信部と、前記送信光パルスのパルス強度およびパルス幅を変調する制御部と、を備え、前記受信機が、前記送信機から前記光伝送路を通して到達した受信信号光および受信参照光を受信する光受信部と、前記受信参照光と前記受信信号光とを干渉させることで信号出力を生成する信号検出部と、を備え、前記送信機あるいは前記受信機のいずれか一方が、所定強度のプローブ光が前記光伝送路を伝搬した時の前記プローブ光の減衰率を計算する減衰率計算部を有し、前記制御部が、前記減衰率に応じて、前記送信光パルスのパルス強度およびパルス幅を変調する、ことを特徴とする。
本発明の一態様によるプログラムは、量子暗号通信システムにおいて、環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して受信機と光学的に接続された送信機としてコンピュータを機能させるプログラムであって、コヒーレント光の送信光パルスから量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光と前記参照光とを前記光伝送路へ送出する機能と、所定強度のプローブ光が前記光伝送路を伝搬した時の前記プローブ光の減衰率に応じて、前記送信光パルスのパルス強度およびパルス幅を変調する機能と、を前記コンピュータで実現することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、環境の変化により光の伝搬特性が影響を受けやすい光伝送路を用いた量子暗号通信システムであっても、減衰率に応じて送信光パルスのパルス強度およびパルス幅を変調することより信号出力のSN比の改善および安定化を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は本発明の第1実施形態による量子暗号通信システムの概略的構成を例示するブロック図である。
【
図2】
図2は上記第1実施形態による量子暗号通信システムにおける送信パルスの変調制御を説明するための模式的シーケンス図である。
【
図3】
図3は本発明の第1実施例による量子暗号通信システムにおける送信機の構成を例示するブロック図である。
【
図4】
図4は
図3における送信機の一部と受信機の構成とを例示するブロック図である。
【
図5】
図5は本発明の第1実施例における送信機の送信制御方法を例示するフローチャートある。
【
図6】
図6は本発明の第2実施例による量子暗号通信システムにおける送信機および受信機のプローブ光送受信系を例示するブロック図である。
【
図7】
図7は本発明の第2実施形態による量子暗号通信システムの概略的構成を例示するブロック図である。
【
図8】
図8は本発明の第3実施例による量子暗号通信システムにおける送信機の構成を例示するブロック図である。
【
図9】
図9は本発明の第3実施例による量子暗号通信システムにおける受信機の構成を例示するブロック図である。
【
図10】
図10は第3実施例による量子暗号通信システムにおける送信機の動作を例示するフローチャートである。
【
図11】
図11は第3実施例による量子暗号通信システムにおける受信機の動作を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態の概要>
以下、環境の影響を受けやすい光伝送路として自由空間を例示する。本発明の実施形態による量子暗号通信システムでは、送信機は量子状態を有する微弱な信号光と量子状態のない通常強度の参照光とを自由空間を通して受信機へ送信する。受信機は受信した信号光と参照光とを干渉させることにより信号情報を検出する。
【0017】
さらに本実施形態による量子暗号通信システムは、信号光および参照光が伝搬する同じ自由空間にプローブ光を送信する。その自由空間を通過したプローブ光を用いて自由空間でのレーザ光の伝搬特性を計測する。自由空間のような環境の影響を受けやすい光伝送路では、距離とともに光強度がどのように減衰するかを示す減衰特性が重要である。本実施形態では、伝搬特性として減衰(あるいは透過)の程度を示す減衰率(あるいは透過率)を計測する。伝搬特性として減衰率を用いる場合、送信時の光強度をPS、受信時の光強度をPR、透過率をγ(0≦γ≦1)とすれば、PR=γPSとなり、この場合、減衰率は(1-γ)である。
【0018】
本実施形態によれば、送信機において送信パルスの強度およびパルス幅が減衰率に応じて変調される。より詳しくは、送信パルスのエネルギを変化させずに、減衰率に応じて送信パルスの強度を大きくしパルス幅を狭くする。すなわち、減衰が所定範囲内である場合(減衰率(1-γ)<δ;通常状態)、送信パルスの強度をP、パルス幅をtとすれば、減衰率(1-γ)がδ以上に増大したとき、送信パルスの強度をP/γに、パルス幅をγtに変化させる。これによりパルスあたりのエネルギEは、透過率γあるいは減衰率(1-γ)に依存することなくE=Ptで一定となる。
【0019】
このように自由空間での減衰率に応じて、送信パルスのエネルギを変化させずに、レーザ光の減衰を補うように送信パルスの強度およびパルス幅を変調する。これにより受信機においてホモダイン検出された信号レベルを所定範囲に維持することができる。減衰率が大きく環境の影響を受けやすい光伝送路の場合であっても、ホモダイン検出におけるSN比の改善および信号出力の安定化が達成される。
【0020】
なお、減衰率の計測方法は限定されない。送信機から受信機へ向けてプローブ光を送信し、受信機で減衰率を計測してもよい。また受信機で反射させて戻ってきたプローブ光を用いて送信機が減衰率を計測してもよい。あるいは、受信機から送信機へ向けてプローブ光を送信し、送信機で減衰率を計測することも可能である。
【0021】
以下、本発明の実施形態および実施例について図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下の実施形態および実施例に記載されている構成要素は単なる例示であって、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨ではない。
【0022】
1.第1実施形態
図1において、送信機(Alice)と受信機(Bob)とは、それらの間で生成された量子暗号鍵を用いて暗号通信を行うことができる。ここでは送信機(Alice)と受信機(Bob)とが自由空間伝送路Cにより光学的に接続されているものとする。自由空間伝送路Cは自由空間を光伝送路として使用する。自由空間伝送路Cは、送信側に送信光学系を、受信側に受信光学系をそれぞれ設けるだけで光通信が可能となり、光ケーブル等の設備コストを抑制できる。反面、自由空間伝送路Cは気温や湿度等の環境により伝送損失が生じやすくなり、また変動しやすくなる。以下に詳述する本実施形態では、このような環境に起因する損失を相殺する調整手段が設けられる。
【0023】
送信機(Alice)はレーザ光源10、ビームスプリッタBS1、位相変調器11、減衰器12およびミラーM1と、プローブ光を発振するレーザ光源13と、を有する。レーザ光源10および13は異なる波長のレーザ光を発光する。ここではレーザ光源10の発振波長をλ1、レーザ光源13の発振波長をλ2とする。
【0024】
レーザ光源10はコヒーレント光を発生し、ビームスプリッタBS1がコヒーレント光を2つの経路R1およびR2の光に分割する。一方の経路R1の光は、位相変調器11により位相変調され、さらに減衰器12により量子状態を有する微弱な信号光Qとなって自由空間伝送路Cへ送出される。他方の経路R2の光はミラーM1で反射され、量子状態のない通常の強度を有する参照光LOとして自由空間伝送路Cへ送出される。上述した特許文献1に記載されているように、参照光LOの強度は信号光Qより著しく大きく、たとえば信号光Qが光子1個程度の強度であるのに対し、参照光LOは光子1000万個程度の強度である。
【0025】
レーザ光源13はコヒーレント光を発生し、それをプローブ光Spとして自由空間伝送路Cへ送出する。プローブ光Spは、後述するように自由空間伝送路Cでの光減衰率(あるいは光透過率)を計測するための所定強度のレーザ光である。送信機(Alice)から送信されるプローブ光Spは、受信機(Bob)で確実に検出できる強度に予め設定され、本実施形態では送信機(Alice)から送信される参照光LOと同等かそれ以上の強度を有する。
【0026】
受信機(Bob)は、光増幅器14、位相変調器15、ミラーM2、ビームスプリッタBS2、2つの光検出器PD1およびPD2、および差分演算器16を有し、さらにプローブ光を反射するミラー17を有する。
【0027】
光増幅器14は送信機(Alice)から到達した受信参照光LOを波長および位相を維持したまま光増幅する。位相変調器15は光増幅された受信参照光LOを位相変調し、位相変調された受信参照光LOがビームスプリッタBS2へ入射する。また送信機(Alice)から到達した受信信号光QはミラーM2により反射されビームスプリッタBS2へ入射する。ビームスプリッタBS2は光の透過率と反射率とが等しく、位相変調された受信参照光LOとミラーM2で反射した受信信号光Qとが重ねて入力する。言い換えれば、送信機(Alice)のビームスプリッタBS1と受信機(Bob)のビームスプリッタBS2とは2つの等しい長さの経路R1およびR2からなるひとつの干渉計を構成している。
【0028】
ビームスプリッタBS2の2つの出力光はそれぞれ光検出器PD1、PD2へ入射して電気信号に変換される。光検出器PD1、PD2からそれぞれ出力される検出信号は差分演算部16で差分演算される。差分演算部16の演算結果である差信号はホモダイン検出により得られる信号出力Ioutとなる。なお、光検出器PD1、PD2は通常のフォトダイオードを室温で用いることができる。
【0029】
ミラー17は送信機(Alice)から自由空間伝送路Cを通して届いた受信プローブ光Srpを反射し、反射したプローブ光Srpは同じ自由空間伝送路Cを通して送信機(Alice)へ戻される。
【0030】
送信機(Alice)は、さらにプローブ光検出器PD3、減衰率計算部18およびパルス変調制御部19を有する。プローブ光検出器PD3は、受信機(Bob)で反射されたプローブ光Sr’pを同じ自由空間伝送路Cを通して受光し、その受信強度を電気信号に変換して減衰率計算部18へ出力する。プローブ光検出器PD3は通常のフォトダイオードを室温で用いることができる。減衰率計算部18は、送信機(Alice)のレーザ光源13から送信されたプローブ光Spの所定強度と光検出器PD3で受光された受信プローブ光Sr’pの受信強度とから自由空間伝送路Cでのプローブ光の減衰率(1-γ)を計算し、パルス変調制御部19へ出力する。
【0031】
パルス変調制御部21は、減衰率(1-γ)に応じてレーザ光源10が出射する送信光パルスの強度およびパルス幅を変調する。パルス変調制御部21の制御方法について
図2を参照しながら説明する。以下、図面を簡略化するために、光パルスを矩形状に近似し、そのピーク値をパルスパワー(強度)[W]、半値幅をパルス幅[s]とする。
【0032】
図2において、まず送信機(Alice)から自由空間伝送路Cへ送出される送信光パルスのパワー(強度)をP[W]、パルス幅をt[s]とすると、送信光パルスのエネルギE[J]はE=Ptである。送信光パルスは自由空間伝送路Cを伝搬し受信機(Bob)に到達する(ステップS1)。受信機(Bob)で受信される受信光パルスは、その強度が減衰している。その時の減衰率は上述したようにプローブ光S
pを用いて計測することができる(ステップS2)。透過率をγ(0≦γ≦1)とすれば、受信光パルスのエネルギEはE=γPtで表される。
【0033】
送信機(Alice)のレーザ光源13から出射したプローブ光Spは、受信機(Bob)のミラー17で反射し、自由空間伝送路Cを通して反射プローブ光Srpが送信機(Alice)で受信され、その受信プローブ光Sr’pの受信強度から自由空間伝送路Cでのプローブ光の減衰率(1-γ)が算出される(ステップS2)。パルス変調制御部19は、送信光パルス当たりのエネルギEを変化させることなく、減衰率(1-γ)に応じて送信光パルスの強度およびパルス幅を変化させる(ステップS3)。より詳しくは、パルス幅をtからγtに短縮し、強度をPからP/γに増大させる。これによりパルス当たりのエネルギEはE=Ptに維持される。このように強度およびパルス幅が変調された送信光パルスを送信すると(ステップS4)、受信機(Bob)は、パルス幅γtで強度Pの受信光パルスを受信することができる。この時のパルス当たりのエネルギEはE=γPtであり、ステップS1における変調前の受信光パルスのエネルギと同じになる。
【0034】
このように受信機(Bob)の光検出器PD1、PD2で検出される受信光パルスの強度の変動を防止することができ、信号出力IoutのSN比と共に信号出力Ioutの安定性を改善することができる。さらにパルス当たりのエネルギーEがパルス幅とパルス強度を変化させても変わらないために、本実施形態によるパルス変調を参照光LOおよび信号光Aの両方に適用させることができる。
【0035】
以上述べたように、本発明の第1実施形態によれば、プローブ光Spを用いて減衰率(1-γ)を計算することで、送信機(Alice)から受信機(Bob)までの伝送損失および環境変動による損失の変化を検出することができる。この減衰率(1-γ)に従って送信パルスの強度およびパルス幅を制御することにより、受信機(Bob)においてホモダイン検出により得られた信号出力IoutのSN比および出力安定性を改善することができる。また、量子暗号通信の不正傍受を検出した時に光スイッチを用いるなどして自由空間伝送路Cを切り替えた場合、切り替え前後の伝送損失の違いにも対応が可能である。
【0036】
2.第1実施例
以下、本発明の第1実施例として、信号光Q、参照光LOおよびプローブ光S
pを自由空間伝送路を通して送信するシステムについて説明する。
図3および
図4に示す通信システムは、上述した第1実施形態に従った一例である。
【0037】
図3および
図4に例示するように、本発明の第1実施例による量子暗号通信システムは、上述した送信機(Alice)を送信機100、受信機(Bob)を受信機200とし、送信機100と受信機200とが自由空間300を光伝送路として光学的に接続されているものとする。
【0038】
2.1)送信機
図3において、送信機100は信号光学系、プローブ光学系、送信光学系110および制御部109を有する。信号光学系は、レーザ光源101、無偏光ビームスプリッタ(BS)102、偏光ビームスプリッタ(PBS)103、ミラー104、半波長板105、減衰器106、位相変調器107およびミラー108を含む。レーザ光源101は、制御部109の制御により強度およびパルス幅が変調された送信光パルスを出力する。送信光パルスは波長λ1を有する。また、後述するように、信号光学系はレーザ光源101の送信光パルスから偏光面が互いに直交し時間的に分離した参照光パルスP
LOおよび信号光パルスP
Qを生成する。参照光パルスP
LOおよび信号光パルスP
Qは送信光学系110を通して自由空間300へ送出される。
【0039】
プローブ光学系はレーザ光源111、ダイクロイックミラー(DM)112および光検出器PD3を含む。レーザ光源111は、レーザ光源101と同様に直線偏光のプローブ光Spを出射し、これを送信光学系110を通して自由空間300へ送出する。プローブ光Spは所定パルス幅のパルス光あるいは一定時間持続する波長λ2(≠λ1)のレーザ光であり、制御された強度を有する。後述するようにプローブ光SPは自由空間300を往復して戻ってくるので、戻ってくる反射受信プローブ光Sr’Pが十分大きな強度となるようにレーザ光源111が出射するプローブ光SPの強度が制御される。
【0040】
ダイクロイックミラー(DM)は特定波長領域の光を透過し、その他の波長領域の光を反射する光学素子である。本実施例におけるDM112は波長λ1の光を透過し、波長λ2の光を反射するように構成されている。したがって、波長λ1の参照光パルスPLOおよび信号光パルスPQはDM112を透過し、波長λ2の反射受信プローブ光Sr’PはDM112で反射し、プローブ光検出器PD3へ入射する。
【0041】
送信光学系110は、ビームエクスパンダ121、122およびダイクロイックミラー(DM)123を含む。ビームエクスパンダ121および122は入力ポートの光ファイバから入力した光ビームをそれより大きい直径のコリメート光ビームに変換する光学素子である。本実施例におけるDM123は、波長λ1の光を透過し、その他の波長(λ2を含む)の光の一部を反射し一部を透過するように構成されている。したがって、波長λ1の参照光パルスPLOおよび信号光パルスPQはDM123を透過し、波長λ2のプローブ光SPは部分的に反射し、反射受信プローブ光Sr’Pは部分的に透過する。
【0042】
ビームエクスパンダ121および122はそれらの光軸により規定される平面上で、それらの光軸が直交するように配置される。DM123は、ビームエクスパンダ121の出射光の進行方向に対して反時計回りに45°傾斜し、ビームエクスパンダ122の出射光の進行方向に対して時計回りに45°傾斜した姿勢で配置される。したがって、ビームエクスパンダ121から出射する波長λ1の光はDM123を透過して自由空間300へ送出され、ビームエクスパンダ122から出射した波長λ2の光はDM123で反射して自由空間300へ放出される。すなわちDM123を透過した波長λ1の参照光パルスPLOおよび信号光パルスPQとDM123で反射した波長λ2のプローブ光SPとは同じ受信機200へ向けて自由空間300を伝搬する。
【0043】
制御部109は、レーザ光源101、減衰器106および位相変調器107を制御し、上述した参照光パルスPLOおよび信号光パルスPQからなる2連パルスを生成する。また制御部109はレーザ光源111を制御し、所定周期のタイミングあるいは所望のタイミングでプローブ光Spを出力させる。なお減衰率(1-γ)に応じてプローブ光SPの強度を増減させてもよい。
【0044】
受信機200から戻ってきた反射受信プローブ光Sr’
PはDM123で部分的に透過し、DM112で反射してプローブ光検出器PD3へ入射する。減衰率計算部113は、プローブ光検出器PD3から反射受信プローブ光Sr’
Pの強度を示す電気信号を入力し、自由空間300で減衰率(1-γ)を計算し、制御部109へ出力する。制御部109は、
図2を用いて詳述したように、減衰率(1-γ)に従ってレーザ光源101からの送信光パルスの強度およびパルス幅を制御する。
【0045】
なお、制御部109および減衰率計算部113の機能は、図示しないメモリに格納されたプログラムをCPU(Central Processing Unit)等を含むコンピュータ上で実行することにより実現することができる。
【0046】
<送信機の動作>
レーザ光源101は、制御部109により強度およびパルス幅が制御された波長λ1の送信光パルスを無偏光ビームスプリッタ102の入力ポートへ出力する。送信光パルスは無偏光ビームスプリッタ102により2分割され、一方の光パルスが参照光側の経路RLOへ、他方の光パルスが信号光側の経路RQへそれぞれ送出される。参照光側の経路RLOの光パルスはそのまま偏光ビームスプリッタ103を透過し、量子状態を持たない通常強度の参照光パルスPLOとして送信光学系110のビームエクスパンダ121に入射する。
【0047】
信号光側の経路RQは、ミラー104、半波長板105、減衰器106、位相変調器107およびミラー108からなり、参照光側の経路RLOより長い光路を有する。半波長板105は経路RQの光パルスの偏光面を90度回転させ、減衰器106はその光パルスを量子状態を有する微弱光に減衰させる。位相変調器107は微弱光パルスに対して位相変調を実行し信号光パルスPQを生成する。信号光パルスPQはミラー108で反射して偏光ビームスプリッタ103へ入射する。なお減衰器106と位相変調器107は光パルスの進行方向に対して逆の配列順であってもよい。
【0048】
信号光パルスPQは半波長板105により偏光面が90°回転しているので、偏光ビームスプリッタ103へ反射され、送信光学系110のビームエクスパンダ121に入射する。ただし、信号光パルスPQは、経路RQと経路RLOとの光路長の差に起因する時間だけ参照光パルスPLOより遅れてビームエクスパンダ121に入射する。こうして、1つの光パルスPから互いに偏光面が直交し時間的に分離した参照光パルスPLOおよび信号光パルスPQが生成される。なお、無偏光ビームスプリッタ102を偏光ビームスプリッタとした場合は半波長板105を用いなくてもよい。
【0049】
制御部109は送信機100の全体的動作を制御するが、本実施例ではレーザ光源101、減衰器106、位相変調器107およびレーザ光源111を制御する。位相変調器107は、制御部109の制御により、減衰器106から出力された微弱光パルスに対して暗号鍵の原乱数に従った4通りの位相変調(0、π/2、π、3π/2)を実行して信号光パルスPQを生成する。こうして通常強度の参照光パルスPLOと位相変調された信号光パルスPQとからなる2連パルス列が送信光学系110のビームエクスパンダ121に入射する。
【0050】
ビームエクスパンダ121は、参照光パルスPLOおよび信号光パルスPQをより大きい直径のコリメート参照光パルスおよびコリメート信号光パルスにそれぞれ変換し、DM123を透過して自由空間300へ送出する。
【0051】
他方、レーザ光源111は、制御部109の制御に従って所定間隔あるいは所望のタイミングで、所定時間持続するプローブ光Spをビームエクスパンダ122へ出力する。ビームエクスパンダ122により直径が拡張された波長λ2のコリメートプローブ光はDM123で反射して自由空間300へ送出される。以下、レーザ光源111は所定のタイムスロットごとのタイミングでプローブ光Spを出力するものとする。
【0052】
このようにして同じ光伝送路としての自由空間300において、参照光パルスPLOおよび信号光パルスPQからなる波長λ1の2連パルス列と、所定のタイミングで所定時間持続する波長λ2のプローブ光Spとが伝送される。以下で述べるように、波長λ2のプローブ光Spは受信機200で反射され、同じ自由空間300を通して戻ってくる。上述したように、戻ってきた波長λ2の反射受信プローブ光Sr’Pを用いて減衰率(1-γ)を計算し、減衰率(1-γ)に従ってレーザ光源101からの送信光パルスの強度およびパルス幅を制御する。さらに反射受信プローブ光Sr’Pが十分な強度となるように、減衰率(1-γ)に従ってレーザ光源111のプローブ光Spの強度を制御してもよい。
【0053】
2.2)受信機
図4に示すように、受信機200のビームエクスパンダ210は受信光学系であり、送信機100の送信光学系110と光軸が一致するように設置される。これにより受信機200のビームエクスパンダ210は参照光パルスP
LOおよび信号光パルスP
Qとプローブ光S
pとを自由空間300を通して受光することができる。以下、受信機200で受信された参照光パルスP
LO、信号光パルスP
Qおよびプローブ光S
pをそれぞれPr
LO、Pr
QおよびSr
Pと記すものとする。
【0054】
ビームエクスパンダ210の出力ポートはDM211を挟んで偏光ビームスプリッタ201の入力ポートと光学的に接続されている。DM211は、波長λ1の光を透過し、波長λ2の光を反射するように構成されている。したがって受信参照光パルスPrLOおよび受信信号光パルスPrQはDM211を透過し、偏光ビームスプリッタ201の入力ポートへ入射する。これに対して受信プローブ光SrPはDM211で反射され、ビームエクスパンダ210から自由空間300を通して送信機100へ戻される。
【0055】
受信機200で反射して戻ってきた反射受信プローブ光Sr’Pは、上述したように送信機100のDM123を部分的に透過し、DM112で反射して光検出器PD3へ入射する。その際、自由空間300における空気の揺らぎ等の外乱が発生すると、ビームエクスパンダ121の出力光が光ファイバのコアに正しく集光しない場合がある。また自由空間300における水蒸気や微粒子等の外乱によりビームエクスパンダ121の出力光の強度が大きく低下する場合もある。したがって受信機200で反射して戻ってきた反射受信プローブ光Sr’Pの減衰率(1-γ)は、自由空間300での伝送損失だけでなく、ビームエクスパンダ210での受信プローブ光Srpの強度低下およびビームエクスパンダ121での反射受信プローブ光Sr’pの強度低下も反映する。すなわち、反射受信プローブ光Sr’pの減衰は、上述したように自由空間300の外乱によるビームエクスパンダ210および121の出力光の集光位置ずれ等によっても発生し得る。本実施例によれば、受信機200で反射して戻ってきた反射受信プローブ光Sr’Pを用いてプローブ光の減衰率(1-γ)を計測し、減衰率(1-γ)に応じてレーザ光源101からの送信光パルスの強度およびパルス幅を制御する。
【0056】
受信機200は、ビームエクスパンダ210およびDM211の他に、信号光学系、参照光学系および信号検出部を含む。制御部209は受信機200の全体的動作を制御する。信号光学系は、偏光ビームスプリッタ201、半波長板202および無偏光ビームスプリッタ203から構成される。参照光学系は、偏光ビームスプリッタ201、ミラー204、光増幅器205、位相変調器206、ミラー207および無偏光ビームスプリッタ203から構成される。信号検出部は光検出器PD1、PD2および差分演算部208から構成される。
【0057】
偏光ビームスプリッタ201は、ビームエクスパンダ210から受信参照光パルスPrLOおよび受信信号光パルスPrQを入力する。上述したように、受信参照光パルスPrLOと信号光パルスPrQとは偏光面が直交している。
【0058】
受信信号光パルスPrQはそのまま偏光ビームスプリッタ201を透過し、半波長板202へ入射する。半波長板202は偏光面を90度回転させる。したがって半波長板202を透過した受信信号光パルスPrQは受信参照光パルスPrLOと同じ偏光面となり、無偏光ビームスプリッタ203の第1の入力ポートに入射する。
【0059】
他方、受信参照光パルスPrLOは、偏光ビームスプリッタ201で反射し、偏光ビームスプリッタ201の第2の出力ポートから出射すると、ミラー204で反射し、光増幅器205、位相変調器206およびミラー207を通して無偏光ビームスプリッタ203の第2の入力ポートに入射する。
【0060】
ここで受信信号光パルスPr
Qの経路は送信機100の経路R
LOと同じ長さであり、受信参照光パルスPr
LOの経路は送信機100の経路R
Qと同じ長さである。したがって、無偏光ビームスプリッタ203の第1および第2の入力ポートにそれぞれ入射する受信信号光パルスPr
Qおよび受信参照光パルスPr
LOは、送信機100の偏光ビームスプリッタ201から同じ長さの異なる光路を通して無偏光ビームスプリッタ203に到達する。これにより送信機100および受信機200の光学的構成は
図1で説明した干渉計を構成している。
【0061】
光増幅器205はたとえばEDFAあるいはSOAであり、受光参照光パルスPrLOを波長および位相を維持したまま増幅する。位相変調器206は光増幅された受光参照光パルスPrLOを位相変調する。位相変調器206の位相変調は制御部220により制御される。上述したように、送信機100の位相変調器107は送信する信号光パルスPQに対して4通りの位相変調(0、π/2、π、3π/2)を施すが、受信機200の位相変調器206は受信参照光パルスPrLOに対して2通りの位相変調(0、π/2)を施す。このように位相変調された受信参照光パルスPrLOがミラー207で反射して無偏光ビームスプリッタ203に入射する。
【0062】
無偏光ビームスプリッタ203は、半波長板202により偏光面が90度回転した受信信号光パルスPrQと、位相変調された受信参照光パルスPrLOと、を入力する。無偏光ビームスプリッタ203は光の透過率と反射率とが等しく、受信信号光パルスPrQと受信参照光パルスPrLOとを重ねて2つの出力ポートから出射する。無偏光ビームスプリッタ203の2つの出力ポートにはそれぞれ光伝送路を通して光検出器PD1、PD2が光学的に接続されている。光検出器PD1、PD2は無偏光ビームスプリッタ203の2つの出力ポートからの出射光をそれぞれ受光する。光検出器PD1、PD2としては通常のフォトダイオードが室温で用いられる。
【0063】
光検出器PD1、PD2からそれぞれ出力される検出信号は差分演算部208で差分演算され、その結果である差信号がホモダイン検出により得られる信号出力I
outとして出力される。
図2において説明したように、レーザ光源101からの送信光パルスの強度およびパルス幅は、反射受信プローブ光Sr’
Pを用いて計算された減衰率(1-γ)に従って、自由空間300での減衰を補うように制御される(
図2のステップS3)。これにより受信機200で得られる信号出力I
outのSN比および出力安定性を改善することができる。また、量子暗号通信の不正傍受を検出した時に光スイッチを用いるなどして自由空間伝送路Cを切り替えた場合、切り替え前後の伝送損失の違いにも対応が可能である。
【0064】
2.3)送信光パルスの変調制御
本実施例による量子暗号通信システムでは所定のタイムスロットを基準として送信機100と受信機200との間で量子暗号鍵による暗号通信を行うものとする。本実施例によれば、
図5に例示するように、制御部109は減衰率計算部113から減衰率(1-γ)を通信タイムスロット毎に取得し、レーザ光源101の送信光パルスの強度およびパルス幅を制御する。
【0065】
図5において、制御部109は所定のタイムスロット毎の補正タイミングであるか否かを判断する(動作401)。補正タイミングであれば(動作401のYES)、プローブ光検出器PD3は反射受信プローブ光Sr’
pを受光してレベル信号を検出する(動作402)。減衰率計算部113はプローブ光検出器PD3からレベル信号を入力し、送信時の所定送信レベルに対する受信レベルの割合に基づいて現時点での減衰率(1-γ)として計算する(動作403)。制御部109は、現時点での減衰率(1-γ)に応じて、送信光パルスの強度(P/γ)およびパルス幅(γt)を出力するようにレーザ光源101を制御する(動作404)。なお、補正タイミングでなければ(動作401のNO)、前回設定された送信光パルスの強度およびパルス幅が維持される。
【0066】
このように送信機100の制御部109は、減衰率(1-γ)に応じて送信光パルスの強度(P/γ)およびパルス幅(γt)を制御することで、受信機200で得られる信号出力Ioutの信号レベルを所定範囲に維持することができる。たとえば受信機200に届いた光パルスの減衰分が大きく(あるいは小さく)なるに従って(γの値が小さく(あるいは大きく)なるに従って)、送信光パルスの強度をP/γに、パルス幅をγtに制御する。これにより環境に起因する減衰率の変化を相殺して信号出力Ioutの信号レベルを安定的に維持することができる。
【0067】
なお、制御部109および減衰率計算部113の上述した機能は、CPU(Central Processing Unit)やプロセッサ等のコンピュータ上でプログラムを実行することにより実現することができる。
【0068】
3.第2実施例
図6に例示するように、本発明の第2実施例によるシステムは、送信機100aのプローブ光学系の構成が
図3に示す第1実施例とは異なる。以下、第1実施例と異なる構成および機能について説明し、同じ機能を有する構成要素には同一参照番号を付して説明は省略する。
【0069】
送信機100aのプローブ光学系はレーザ光源111、光サーキュレータ114およびプローブ光検出器PD3を含み、第1実施例のようにDM112が不要となる。光サーキュレータ114はレーザ光源111とビームエクスパンダ122との間に設けられ、プローブ光Spをレーザ光源111からビームエクスパンダ122へ、受信機200から戻ってきた反射受信プローブ光Sr’Pをビームエクスパンダ122からプローブ光検出器PD3へ出力する。本実施例によれば、DM123aは、波長λ1の参照光パルスPLOおよび信号光パルスPQを透過させ、波長λ2のプローブ光SPおよび反射受信プローブ光Sr’Pを反射させるように構成される。
【0070】
このように光サーキュレータ114を設けることで、受信機200で反射して戻ってきた波長λ2の反射受信プローブ光Sr’Pはビームエックスパンダ122からプローブ光検出器PD3へ入射する。上述したように、減衰率計算部113は反射受信プローブ光Sr’Pの強度を用いて減衰率(1-γ)を計算し、この減衰率(1-γ)に従ってレーザ光源101からの送信光パルスの強度およびパルス幅が変調される。その他の構成及び機能は第1実施例と同様であるから説明は省略する。
【0071】
4.第2実施形態
上述した第1実施形態、第1および第2実施例によれば、プローブ光Spが受信機(Bob)で反射し、送信機(Alice)が反射受信プローブ光Sr’Pを用いて減衰率(1-γ)を計算した。本発明は、これに限定されるものではなく、受信機(Bob)で受信プローブ光SrPを用いて減衰率(1-γ)を計算し、その減衰率(1-γ)の情報を送信機(Alice)へ通知してもよい。以下、第1実施形態と異なる構成および機能について説明し、同じ機能を有する構成要素には同一参照番号を付して説明は省略する。
【0072】
図7に示すように、本発明の第2実施形態によるシステムでは、第1実施形態と同様に送信機(Alice)と受信機(Bob)とが自由空間伝送路Cにより光学的に接続されている。第2実施形態によれば、送信機(Alice)は減衰率計算部を持たず、受信機(Bob)がプローブ光検出器PD3、減衰率計算部20および光増幅器制御部21を有する。
【0073】
プローブ光検出器PD3は、送信機(Alice)から自由空間伝送路Cを通して届いた波長λ2の受信プローブ光SrPを受光する。減衰率計算部20は、プローブ光検出器PD3の出力を用いて減衰率(1-γ)を計算する。減衰率(1-γ)は通信ネットワークDを通して送信機(Alice)へ送信される。通信ネットワークDは既存の電気通信あるいは光通信ネットワークであり、減衰率(1-γ)を含む情報はインターネット等のパケット通信を利用して転送してもよい。送信機(Alice)のパルス変調制御部19は、既に説明したように減衰率(1-γ)に応じて送信光パルスの強度およびパルス幅を変調する。
【0074】
さらに、受信機(Bob)において、光増幅器制御部21は減衰率(1-γ)に応じて受信参照光LOの光増幅率を制御し、信号出力Ioutの信号レベルが所定範囲に維持されるように受信参照光LOを増幅する。より詳しくは、受信プローブ光SrPの強度が小さくなる(透過率γが小さくなる)に従って光増幅器14の増幅率を所定値に対して上昇させ、受信プローブ光SrPの強度が大きく(透過率γが大きくなる)に従って光増幅器14の増幅率を所定値に対して下降させる。これにより環境に起因する減衰率(あるいは透過率)の変化を相殺して信号出力Ioutの信号レベルを維持することができる。このように受信参照光LOが減衰率(1-γ)に応じて光増幅器14により増幅されるので信号出力Ioutの信号レベルが上昇し、信号出力IoutのSN比が改善する。さらに減衰率(1-γ)に応じて光増幅器14の増幅率を制御することで信号出力Ioutの安定性を改善することができる。
【0075】
減衰率(1-γ)に対して光増幅器14の増幅率をどの程度に設定するかについては予め用意した関数あるいはテーブルを用いることができる。すなわち、予め実験的に得られた関数を用意し増幅率を減衰率(1-γ)の関数として計算してもよい。あるいは予め実験的に得られた減衰率(1-γ)と増幅率との対応テーブルを用いて減衰率(1-γ)に対する光増幅器14の増幅率を求めてもよい。
【0076】
なお、光増幅器14としては、送信機(Alice)から届いた受信参照光LOを、そのまま光の波長および位相を維持して増幅し、かつ増幅率(利得)が制御可能な光増幅器を使用する。このような光増幅器14としては、たとえばエルビウム添加ファイバ増幅器(EDFA: Erbium-Doped Fiber Amplifier)あるいは半導体光増幅器(SOA:Semiconductor Optical Amplifier)などを用いることができる。光増幅器14にEDFAを採用した場合、励起光に対する増幅効率が80%以上という高効率で受信参照光LOを増幅することができる。また励起光の光源であるレーザに供給する電流を制御することでEDFAの光増幅率を制御できる。光増幅器14がSOAの場合には、SOAに供給する電流により増幅率を制御可能である。
【0077】
上述したように、第2実施形態によるシステムは、受信機(Bob)において減衰率(1-γ)を計算し、それを送信機(Alice)へ通知する。送信機(Alice)は減衰率(1-γ)に応じて送信パルスの強度を高くし、パルス幅を狭くする変調を行う。受信機(Bob)は減衰率(1-γ)に応じて受信参照光LOの光増幅率を制御する。このように送信機(Alice)での変調制御および受信機(Bob)での増幅率制御により、受信機(Bob)における信号出力レベルLoutを閾値LTH以上に維持することができ、受信側のホモダイン検出におけるSN比を改善できる。さらに、減衰率(1-γ)を用いて光信号出力レベルLoutを所定範囲内に維持することができ、信号出力Ioutの安定化を達成できる。
【0078】
5.第3実施例
本発明の第3実施例による量子暗号通信システムは、上述した第2実施形態(
図7)の一例である。以下、
図8および
図9を参照しながら、
図3および
図4に示す第1実施例および第2実施例とは異なる構成および機能について説明し、同様の構成部分については同一参照番号を付して説明は省略する。
【0079】
図8および
図9に例示するように、本発明の第3実施例による量子暗号通信システムは送信機100bと受信機200bとからなり、送信機100bと受信機200bとが自由空間300を光伝送路として光学的に接続され、さらに通常の通信ネットワークDにより通信可能に接続されている。
【0080】
5.1)送信機
図8において、送信機100bは信号光学系、プローブ光学系、送信光学系110、制御部131および通信部132を有する。信号光学系は、レーザ光源101a、強度変調器130、無偏光ビームスプリッタ(BS)102、偏光ビームスプリッタ(PBS)103、ミラー104、半波長板105、減衰器106、位相変調器107およびミラー108を含む。レーザ光源101aはパルス光ではなく波長λ1の連続光を出力するものとする。
【0081】
プローブ光学系はレーザ光源111を含み、レーザ光源111は、レーザ光源101と同様に直線偏光のレーザ光プローブ光Spを出射し、送信光学系110を通して自由空間300へ送出する。レーザ光源111は波長λ1とは異なる波長λ2のレーザ光を出力する。なお、送信光学系110は第2実施例と同様の構成および機能を有するので、説明は省略する。
【0082】
強度変調器130はレーザ光源101aと無偏光ビームスプリッタ102との間に設けられる。レーザ光源101aは制御部131の制御に従って波長λ1で直線偏光の連続光を強度変調器130へ出力する。強度変調器130は、制御部131の制御に従って連続光を強度P/λおよびパルス幅λtの送信光パルスに変換する。強度変調器130としてはたとえばマッハ・ツェンダ(MZ)変調器を用いることができる。
【0083】
なお、レーザ光源101aは第1実施例と同様に光パルスを出力するレーザ光源101であってもよい。その場合、強度変調器130を設けることなく、制御部131によりレーザ光源101が駆動され強度P/γおよびパルス幅γtの送信光パルスを出力する。
【0084】
通信部132は受信機200bから通信ネットワークDを通して減衰率(1-γ)を含む情報を受信し、制御部131へ出力する。制御部131は、減衰率(1-γ)に応じて強度変調器130を制御して強度P/γおよびパルス幅γtの送信光パルスを生成する。さらに制御部131は減衰器106および位相変調器107を制御し、上述した参照光パルスPLOおよび信号光パルスPQを生成する。また制御部131はレーザ光源111を制御し、所定周期のタイミングあるいは所望のタイミングでプローブ光Spを出力させる。
【0085】
5.2)受信機
図9に示すように、受信機200bは第1実施例と同様の構成を有するが、ミラー204の代わりにDM220が設けられ、減衰率計算部221、通信部222および制御部223を有する点が異なっている。以下、第1実施例と同様の構成については同じ参照番号を付して説明を省略し、主に異なる構成および機能について説明する。
【0086】
偏光ビームスプリッタ201は、ビームエクスパンダ210から受信参照光パルスPrLOおよび受信信号光パルスPrQと、受信プローブ光Srpと、を入力する。上述したように、受信プローブ光Srpおよび受信参照光パルスPrLOと信号光パルスPrQとは偏光面が直交している。したがって、受信信号光パルスPrQはそのまま偏光ビームスプリッタ201を透過するが、受信プローブ光Srpおよび受信参照光パルスPrLOは偏光ビームスプリッタ201で反射する。
【0087】
偏光ビームスプリッタ201で反射した受信プローブ光Srpおよび受信参照光パルスPrLOはDM220に入射する。DM220は、送信側のDM123aとは逆に、波長λ2の光を透過し、その他の波長(λ1を含む)の光を反射するように構成されている。したがって、DM220は波長λ1の参照光パルスPrLOを反射し、波長λ2の受信プローブ光Srpを透過させる。
【0088】
DM220を透過した受信プローブ光Srpはプローブ光検出器PD3により検出され、検出信号が減衰率計算部221へ出力される。減衰率計算部221は、光検出器PD3により得られた受信プローブ光Srpの受信強度と送信側プローブ光Spの所定強度とを用いて減衰率(1-γ)を計算する。
【0089】
減衰率(1-γ)は、自由空間300での伝送損失だけでなく、ビームエクスパンダ210での受信プローブ光Srpの強度低下も反映する。すなわち、受信プローブ光Srpの減衰は、上述したように自由空間300の外乱によるビームエクスパンダ210の出力光の集光位置ずれ等によっても発生し得る。
【0090】
制御部223は、減衰率(1-γ)を含む情報を通信部222および通信ネットワークDを通して送信機100bへ送信する。また制御部223は、上述した位相変調器206の位相制御に加えて、光増幅器205の光増幅率制御を行う。光増幅器205は減衰率(1-γ)に応じた光増幅率で受信参照光LOを増幅し、それによって信号出力Ioutの信号レベルが所定範囲に維持される。制御部223は、予め測定により決定された関数を用意しておき、光増幅率を減衰率(1-γ)の関数として計算することができる。あるいは予め測定により減衰率(1-γ)と増幅率との対応テーブルを用意しておき、それを参照して減衰率(1-γ)に対する光増幅率を求めることもできる。なお、光増幅器205の光増幅率の制御は減衰率(1-γ)あるいはその変化量が所定閾値を超えたときに実行されてもよい。
【0091】
5.3)通信制御
図10に示すように、送信機100bの制御部131は、所定のタイムスロット毎の補正タイミングであるか否かを判断する(動作501)。補正タイミングであれば(動作501のYES)、レーザ光源111を駆動してプローブ光S
pを送信光学系110へ出力し、自由空間300を通して受信機200bへ送信する(動作502)。受信機200bは、上述したように受信プローブ光Sr
pに基づいて減衰率(1-γ)を計算し、減衰率(1-γ)を送信機100bへ送信する。
【0092】
通信部132は通信ネットワークDを通して受信機200bから減衰率(1-γ)を含む情報を受信すると、減衰率(1-γ)を制御部131へ出力する(動作503)。制御部131は減衰率(1-γ)に応じて強度変調器130を制御し、送信光パルスの強度およびパルス幅を変調する(動作504)。なお、補正タイミングでなければ(動作501のNO)、上記強度及びパルス幅制御は行われず、前回設定された強度およびパルス幅が維持される。
【0093】
図11において、受信機200bの制御部223は所定のタイムスロット毎の補正タイミングであるか否かを判断する(動作601)。補正タイミングであれば(動作601のYES)、プローブ光検出器PD3は受信プローブ光Sr
pを受光してレベル信号を検出する(動作602)。減衰率計算部221はプローブ光検出器PD3からレベル信号を入力し、送信時の所定送信レベルに対する受信レベルの割合を現時点での減衰率(1-γ)として計算する(動作603)。制御部223は、計算式あるいはテーブルを用いて現時点での減衰率(1-γ)に応じた光増幅率を決定し、光増幅器205の光増幅率を制御する(動作604)。さらに、制御部223は、通信ネットワークDを通して減衰率(1-γ)を送信機100bへ送信する(動作605)。なお、補正タイミングでなければ(動作601のNO)、上記光増幅率の制御は行われず、前回設定された光増幅率が維持される。
【0094】
以上述べたように、第3実施例によるシステムは、送信機100bがプローブ光Spを自由空間300を通して受信機200bへ送信し、受信機200bが減衰率(1-γ)を算出し、その減衰率(1-γ)を送信機100bへ送信する。受信機200bは減衰率(1-γ)に応じて受信参照光LOの光増幅率を制御する。送信機100bは減衰率(1-γ)に応じて送信パルスの強度およびパルス幅を上述したように変調する。こうして送信機100bでの強度およびパルス幅制御および受信機200bでの増幅率制御により、受信機200bにおける信号出力レベルLoutを閾値LTH以上に維持することができる。さらに、減衰率(1-γ)を用いて光信号出力レベルLoutを所定範囲内に維持することができる。
【0095】
6.付記
上述した実施形態および実施例の一部あるいは全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、これらに限定されるものではない。
(付記1)
送信機と受信機とからなる量子暗号通信システムであって、
環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して前記送信機と前記受信機とが光学的に接続され、
前記送信機が、コヒーレント光の送信光パルスから量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光と前記参照光とを前記光伝送路へ送出する光送信部と、前記送信光パルスのパルス強度およびパルス幅を変調する制御部と、を備え、
前記受信機が、前記送信機から前記光伝送路を通して到達した受信信号光および受信参照光を受信する光受信部と、前記受信参照光と前記受信信号光とを干渉させることで信号出力を生成する信号検出部と、を備え、
前記送信機あるいは前記受信機のいずれか一方が、所定強度のプローブ光が前記光伝送路を伝搬した時の前記プローブ光の減衰率を計算する減衰率計算部を有し、
前記制御部が、前記減衰率に応じて、前記送信光パルスのパルス強度およびパルス幅を変調する、
ことを特徴とする量子暗号通信システム。
(付記2)
前記制御部は、前記送信光パルスのパルス強度およびパルス幅を当該送信光パルスのエネルギを変化させずに変調することを特徴とする付記1に記載の量子暗号通信システム。
(付記3)
前記所定強度のプローブ光が前記光伝送路を伝搬した時の前記プローブ光の透過率をγとして、前記減衰率を(1-γ)、前記送信光パルスの強度をPs、および前記送信光パルスの幅をtとすれば、前記制御部は、前記減衰率(1-γ)に応じて前記送信光パルスのパルス強度およびパルス幅をそれぞれPs/γおよびγtに変調することを特徴とする付記2に記載の量子暗号通信システム。
(付記4)
前記受信機は前記光伝送路を通して届いた前記プローブ光を前記光伝送路へ反射するミラーを更に有し、
前記送信機は、前記減衰率計算部を有し、前記減衰率計算部が前記受信機の前記ミラーから反射されたプローブ光を用いて前記減衰率を計算する、
ことを特徴とする付記1-3のいずれか1項に記載の量子暗号通信システム。
(付記5)
前記受信機は、前記減衰率計算部を有し、前記減衰率計算部が前記光伝送路を通して届いた前記プローブ光をを用いて前記減衰率を計算し、前記減衰率を前記送信機へ通知する、ことを特徴とする付記1-3のいずれか1項に記載の量子暗号通信システム。
(付記6)
前記送信機が、前記信号光および前記参照光と前記プローブ光とを前記光伝送路へ送信する送信光学系を有し、
前記受信機が、前記光伝送路を通して前記信号光および前記参照光と前記プローブ光とを受信する受信光学系を有し、
前記送信光学系と前記受信光学系とは互いに光軸が一致しており、前記光伝送路が前記送信光学系と前記受信光学系との間の自由空間であることを特徴とする付記1-3のいずれか1項に記載の量子暗号通信システム。
(付記7)
前記受信機は前記光受信部と前記信号検出部との間に前記受信参照光のみ増幅する光増幅器を有し、
前記光増幅器の光増幅率が前記減衰率に応じて制御されることを特徴とする付記1-3のいずれか1項に記載の量子暗号通信システム。
(付記8)
量子暗号通信システムにおいて、環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して受信機とが光学的に接続された送信機であって、
コヒーレント光の送信光パルスから量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光と前記参照光とを前記光伝送路へ送出する光送信部と、
所定強度のプローブ光が前記光伝送路を伝搬した時の前記プローブ光の減衰率に応じて、前記送信光パルスのパルス強度およびパルス幅を変調する制御部と、
を有することを特徴とする送信機。
(付記9)
前記制御部は、前記送信光パルスのパルス強度およびパルス幅を当該送信光パルスのエネルギを変化させずに変調することを特徴とする付記8に記載の送信機。
(付記10)
前記所定強度のプローブ光が前記光伝送路を伝搬した時の前記プローブ光の透過率をγとして、前記減衰率を(1-γ)、前記送信光パルスの強度をPs、および前記送信光パルスの幅をtとすれば、前記制御部は、前記減衰率(1-γ)に応じて前記送信光パルスのパルス強度およびパルス幅をそれぞれPs/γおよびγtに変調することを特徴とする付記9に記載の送信機。
(付記11)
前記所定強度のプローブ光を前記光伝送路へ送出するプローブ光送信部と、
前記受信機で反射された前記プローブ光を前記光伝送路を通して受光するプローブ光検出器と、
前記プローブ光検出器の検出出力を用いて前記減衰率を計算する減衰率計算部と、
を更に有する付記8-10のいずれか1項に記載の送信機。
(付記12)
前記減衰率を前記受信機から受信することを特徴とする付記8-10のいずれか1項に記載の送信機。
(付記13)
送信機と受信機とからなる量子暗号通信システムにおける通信制御方法であって、
環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して前記送信機と前記受信機とが光学的に接続され、
前記送信機は、光送信部がコヒーレント光から量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成して前記信号光と前記参照光とを前記光伝送路へ送出し、
前記受信機は、受信手段が前記送信機から前記光伝送路を通して到達した受信信号光および受信参照光と前記プローブ光とを受信し、信号検出部が前記受信参照光と前記受信信号光とを干渉させることで信号出力を生成し、
前記送信機あるいは前記受信機のいずれか一方に設けられた減衰率計算部が、所定強度のプローブ光が前記光伝送路を伝搬した時の前記プローブ光の減衰率を計算し、
前記送信機の制御手段が、前記減衰率に応じて、前記送信光パルスのパルス強度およびパルス幅を変調する、
ことを特徴とする量子暗号通信システムにおける通信制御方法。
(付記14)
量子暗号通信システムにおいて、環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して受信機とが光学的に接続された送信機の送信制御方法であって、
光送信部が、コヒーレント光の送信光パルスから量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光と前記参照光とを前記光伝送路へ送出し、
制御部が、所定強度のプローブ光が前記光伝送路を伝搬した時の前記プローブ光の減衰率に応じて、前記送信光パルスのパルス強度およびパルス幅を変調する、
ことを特徴とする送信制御方法。
(付記15)
前記制御部は、前記送信光パルスのパルス強度およびパルス幅を当該送信光パルスのエネルギを変化させずに変調することを特徴とする付記14に記載の送信制御方法。
(付記16)
前記所定強度のプローブ光が前記光伝送路を伝搬した時の前記プローブ光の透過率をγとして、前記減衰率を(1-γ)、前記送信光パルスの強度をPs、および前記送信光パルスの幅をtとすれば、前記制御部は、前記減衰率(1-γ)に応じて前記送信光パルスのパルス強度およびパルス幅をそれぞれPs/γおよびγtに変調することを特徴とする付記15に記載の送信制御方法。
(付記17)
プローブ光送信部が前記所定強度のプローブ光を前記光伝送路へ送出し、
プローブ光検出器が前記受信機で反射された前記プローブ光を前記光伝送路を通して受光し、
減衰率計算部が前記プローブ光検出器の検出出力を用いて前記減衰率を計算する、
ことを特徴とする付記14-16のいずれか1項に記載の送信制御方法。
(付記18)
前記減衰率を前記受信機から受信することを特徴とする付記14-16のいずれか1項に記載の送信制御方法。
(付記19)
量子暗号通信システムにおいて、環境の変化により光の伝搬特性が変化する光伝送路を通して受信機とが光学的に接続された送信機としてコンピュータを機能させるプログラムであって、
コヒーレント光の送信光パルスから量子状態を有する微弱な信号光と量子状態を有しない参照光とを生成し、前記信号光と前記参照光とを前記光伝送路へ送出する機能と、
所定強度のプローブ光が前記光伝送路を伝搬した時の前記プローブ光の減衰率に応じて、前記送信光パルスのパルス強度およびパルス幅を変調する機能と、
を前記コンピュータで実現することを特徴とするプログラム。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は量子鍵配送システムに適用可能である。
【符号の説明】
【0097】
10 レーザ光源(波長λ1)
11 位相変調器
12 減衰器
13 レーザ光源(波長λ2)
14 光増幅器
15 位相変調器
16 差分演算器
17 ミラー
18 減衰率計算部
19 パルス変調制御部
20 減衰率計算部
21 光増幅器制御部
BS1、BS2 ビームスプリッタ
M1、M2 ミラー
C 自由空間伝送路
D 通信ネットワーク
PD1、PD2 光検出器
PD3 プローブ光検出器