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  • 特開-便中成分抽出容器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048935
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】便中成分抽出容器
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/26 20060101AFI20240402BHJP
【FI】
C12M1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155115
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】522172656
【氏名又は名称】メタジェンセラピューティクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110456
【弁理士】
【氏名又は名称】内山 務
(74)【代理人】
【識別番号】100178939
【弁理士】
【氏名又は名称】本堂 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100212554
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 俊生
(74)【代理人】
【識別番号】100117813
【弁理士】
【氏名又は名称】深澤 憲広
(72)【発明者】
【氏名】勝間田 涼
(72)【発明者】
【氏名】井上 洋人
(72)【発明者】
【氏名】中原 拓
(72)【発明者】
【氏名】石川 大
(72)【発明者】
【氏名】富田 悟志
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB02
4B029GB05
4B029GB07
4B029HA06
(57)【要約】
【課題】便から便微生物叢を抽出する工程において、便微生物叢の活性維持、抽出のための作業効率向上、安価で扱いやすい容器の提供等が求められていた。
【解決手段】内部にフィルターを有する軟質、透明な便抽出容器であって、抽出液保持領域に面した側に、独立した3つの通気又は通液パイプを有することによって、効率の良い作業、便微生物叢にダメージの少ない嫌気性の維持、通気又は通液物質別のパイプの利用による汚染の防止を実現することが出来た。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
採取した便から便中成分を抽出する容器であって、
変形可能な軟質素材で構成されており、
容器内は便中の未消化物質を濾過するフィルターによって便保持領域と便抽出液保持領域に区分されており、
前記便抽出液保持領域に気体又は液体を通気又は通液可能な独立した3つの通気又は通液パイプを有する、
ことを特徴とする容器。
【請求項2】
前記便保持領域において、開孔部から便を挿入し、挿入後に密閉可能である便挿入口を有する請求項1に記載の容器。
【請求項3】
前記通気又は通液パイプが、常時は閉管状態であり、気体又は液体の通過時のみ開管する構造を持つ請求項2に記載の容器。
【請求項4】
前記便抽出液保持領域において便保持領域およびフィルターとの間を遮断、密閉可能であり、密閉後に便保持領域およびフィルター部位を切除することが出来る請求項2又は3に記載の容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、採取した便から便中成分を抽出する工程に用いる抽出容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康なドナーが提供する便から便中成分を得、この便中成分を患者の腸内に移植することにより疾病を治療する、便微生物移植が行われている。
【0003】
この移植方法の初期の工程のひとつに、提供された便から生理食塩水等の抽出液で便中成分を抽出する工程があるが、異臭を放つ便を取り扱うことおよび便中微生物叢の活性を維持する必要性から、密閉可能な専用用容器中で作業することが望ましい
【0004】
一方便中成分を基に生菌製剤を作製することが試みられており、同様な作業工程で得られた便中成分の抽出物を製剤工程へと供することから、便微生物移植と同様活性の高い便中微生物叢を得ることが求められている。
【0005】
特許文献1の請求項1には、「便から腸内細菌叢を抽出する腸内細菌叢抽出容器であって、
第1開口部及び少なくとも1つの第2開口部が形成され、変形可能に構成された容器本体と、
前記容器本体の第1開口部を開閉するように構成された開閉機構と、
前記容器本体に収容され、当該容器本体を前記第1開口部側の第1領域と前記第2開口部側の第2領域とに仕切り、前記便から腸内細菌叢を濾過するフィルタ部材と、
前記第2開口部に取り付けられ、前記第2領域と前記容器本体の外部とを連通可能な連通部材と、
を備えている、腸内細菌叢抽出容器。」
が記載されているが、使用される容器の構造が複雑であり、それを取り扱う作業工程も決して簡易なものとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】再表2018-155614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
必要とされる課題の第1としては、より活性の高い便中微生物叢を得ることである。
抽出により活性の高い便中微生物叢を得ることは、移植時に患者の腸内で便中微生物叢の活性の高さが期待出来、便微生物移植で最大限の効果を発揮することが出来る。
【0008】
高い活性を維持する方法の一つとして、抽出を嫌気環境下で行うことが考えられる。これにより酸素による便中微生物叢へのダメージを少なくすることが出来るが、作業環境全体を嫌気環境にするには嫌気チャンバーやグローブボックスなどの大がかりな装置が必要でありコストがかかる。加えて、これらの装置は動作が制約され、作業が容易ではないため、通常の室内作業でも抽出容器内部が十分に嫌気環境を維持出来ることが望ましい。
【0009】
必要とされる課題の第2としては、より大量の便中微生物叢を得ることである。
提供者からより多くの便を採取することで、大量の便抽出液を確保することが出来、より多くの患者に、より多くの回数の治療を行うことが出来る。
【0010】
大量の便中微生物叢の確保を実現するためには、上記提供者数や提供回数の増加に対応する抽出作業工程の効率化および処理量の向上が必要とされる。
これには、用いる抽出容器が安価で大量に供給されること、軽量かつ取り扱いが容易で、短い抽出作業時間が実現されることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載された発明は、
採取した便から便中成分を抽出する容器であって、
変形可能な軟質素材で構成されており、
容器内は便中の未消化物質を濾過するフィルターによって便保持領域と便抽出液保持領域に区分されており、
前記便抽出液保持領域に気体又は液体を通気又は通液可能な独立した3つの通気又は通液パイプを有する、
ことを特徴とする容器である。
【0012】
使用する容器の材質は、軟質かつ軽量で取り扱いが容易であり、透明な容器であることで、作業中の容器の内部を観察しながら作業をすることができることが好ましい。
さらにヒートシールにより密閉作業ができ、ガスバリア性もあるとより望ましい。
【0013】
抽出容器本体は2枚の四角形の平面部材の四辺を封止した形状のものが、材料の加工、作業時の効率等で有利であるが、通気又は通液パイプの取付位置付近と便保持位置付近では適度の厚みがあった方が有利なため、マチを有する構造が望ましい。一方、抽出後に便抽出液保持領域と便保持領域との間を密閉、切断するに当たって、ヒートシールおよび切断の好ましい性能を実現するために密閉、切断位置付近は平面に近いマチを有さない構造が望ましい。
また抽出容器全体が単一の材料で一体成型されていると、軽量化、取り扱いの容易さ、部品点数の少なさ等の点で有利である。
【0014】
具体的には低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン(リニア状低密度ポリエチレン)、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体、アイオノマー、無延伸ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデンコート伸延性ポリプロピレン、コートポリエステル、又はこれらのフィルムを積層したフィルム等が用いられる。
【0015】
使用する容器のサイズは、特に限定されないが、ハンドリングの容易さから、縦 100mm~1,000mm、横 100mm~1,000mm程度が好ましい。特に通常1回に処理する便や抽出液の量、ヒートシールに用いる機械の大きさを加味すると縦横共に150mm~200mm程度がより好ましい。
形状はマチ無しでも構わないが、マチがあると縦横の大きさの割に内容量が大きくなるので、作業効率が向上する。
【0016】
使用するフィルターの材質は特に限定されず、孔径は微生物が通過できる径であればよく、便中の未消化物質を詰まらせない程度の孔径が好ましい。
具体的には、不織布、ろ紙、布、中空糸、ポリアミドメッシュ等のヒートシールでフィルムに溶着できるものが好ましく用いられる。
【0017】
使用する抽出液は、通常バッファーとして用いられる生理食塩水で構わない。これにグリセロール、ポリエチレングリコール、トレハロース又はこれらを組み合わせたもの等の凍結保護剤を添加したものが好ましい。
【0018】
前記独立した3つの通気又は通液パイプは、取り付け位置に関する順序は問わないが、使用する目的によってそれぞれ個別に用いる。
第1の通気又は通液パイプは、便挿入後の容器内に抽出液を注入すること、空気を脱気すること、窒素を充填することに用いる。
第2の通気又は通液パイプは、便抽出液の懸濁後、窒素を脱気することに用いる。
第3の通気又は通液パイプは、抽出された便中成分を含む便抽出液を、便抽出液保持領域から外部へ移送することに用いる。
3本の通気又は通液パイプの位置等は任意で構わないが、それぞれの工程で異なる通気又は通液パイプを用いることにより、コンタミネーションの回避を実現する。
【0019】
請求項2に記載された発明は、
前記便保持領域において、開孔部から便を挿入し、挿入後に密閉可能である便挿入口を有する請求項1に記載の容器である。
【0020】
便の挿入後、便挿入口を密閉する方法としては、接着剤等いかなる方法でも構わないが、ヒートシールにより密閉する方法が作業効率上好ましい。
【0021】
請求項3に記載された発明は、
前記通気又は通液パイプが、常時は閉管状態であり、気体又は液体の通過時のみ開管する構造を持つ請求項2に記載の容器である。
【0022】
請求項4に記載された発明は、
前記便抽出液保持領域において便保持領域およびフィルターとの間を遮断、密閉可能であり、密閉後に便保持領域およびフィルター部位を切除することが出来る請求項2又は3に記載の容器である。
【0023】
遮断にはヒートシールを用いることが効率上好ましい。切断により便抽出液保持領域のみの容器とすることで、その後の工程に抽出された便中微生物叢を容器ごと供することが出来る。
【発明の効果】
【0024】
柔軟かつ取り扱いが容易で特殊な作業技術も必要なく、作業時間が短縮された抽出容器を提供することが出来た。
また本抽出容器で処理された便中微生物叢はその嫌気環境により活性が維持された状態で後の工程に供され、便微生物移植全体への質の向上に貢献が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は本発明抽出容器の斜視図である。
図2図2は本発明抽出容器の平面図およびA-A断面図である。
図3図3は請求項4に係る本発明抽出容器の便挿入口側斜視図である。
図4図4は請求項4に係る本発明抽出容器の反対側斜視図である。
図5図5は請求項4に係る本発明抽出容器の平面図およびA-A断面図である。
図6図6は3本の通気又は通液パイプの詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を記載する。ただし個々の具体的記載は本発明を実現するひとつの例であり、本発明はこれらの具体例に限定されず、本は常猪技術的思想を実現することが出来るならば、いかなる別の具体例も本発明に含まれる。
本発明の抽出容器に存在する3本の通気又は通液パイプのコネクタは、それぞれ異なるタイプのものを使用すると、人為的ミスの低減に寄与するため好ましい。
【0027】
具体的に図6を参考に説明すると、取り付け位置にかかわらず目的によって区別される3本の通気又は通液パイプのうち、まず第1の通気又は通液パイプはスワバブルバルブを用いることが出来る。接続先としてはルアーフィッティングオスを接続することが出来、第1の通気又は通液パイプの使用目的である抽出液の注入、空気の脱気、窒素の充填に用いるルアーフィッティングオス付きの3つのパイプを接続先として用意しておく。
【0028】
スワバブルバルブはピンチコック等の封止手段無しに通常は閉塞状態を維持し、ルアーフィッティングオスを接続した時には開管状態に遷移する。したがって必要な外部パイプの接続および解放作業のみによって目的とする通気又は通液作業が行えるため、複数回の作業を行うに当たって効率の良い作業を行うことが出来る。しかも封止手段操作の間違いによる意図しない外気との解放を招く恐れもない。
【0029】
次に第2の通気又は通液パイプはルアーフィッティングオスを用いることが出来る。第2の通気又は通液パイプは脱気のみに用い、抽出容器内の窒素を容器の圧迫により外気に排出するため特に外部のパイプを接続しない。このためルアーフィッティングオス同士では接続出来ないことから、間違って外部のパイプを繋いでしまう恐れがない。
【0030】
最後に第3の通気又は通液パイプはルアーフィッティングメスを用いることが出来る。抽出作業の終わった便抽出液を抽出容器外に移送するにあたり、移送用のルアーフィッティングオスを持つパイプを接続して用いる。第1の通気又は通液パイプとは形状が大きく異なるため混同する恐れは少ない。
また目的によって異なる通気又は通液パイプを使用することにより、コンタミネーションの防止についても実現される。
【実施例0031】
図1~2に示される抽出容器を想定しながら、本発明の抽出容器を用いた抽出工程について記載する。
まず便挿入口4より容器内部のうちフィルター3で隔てられた便保持領域に便5を挿入する。
次に便挿入口4を位置a-aにおいてヒートシール等で密閉する。
次に第1の通気又は通液パイプより抽出液6を注入し、同パイプより内部の空気をポンプで吸い出し、同パイプより一定量の窒素を注入し容器内の上部にヘッドスペースを確保する。これにより容器内の移動の自由度が増し、便と抽出液の懸濁が容易になる。また酸素が存在しないため嫌気環境が実現される。
【0032】
次に抽出容器を外部からの圧力で変形させることにより、便と抽出液を混合させ、便から抽出液へ便中成分を懸濁、溶解させる。
次に第2の通気又は通液パイプから、ヘッドスペースとして利用していた窒素を容器に圧力を掛けることにより排出させ、嫌気環境を強化する。
最後に第3の通気又は通液パイプから、抽出の終了した便抽出液を嫌気環境のまま外部の容器へ移送する。
【実施例0033】
図3~5に示される抽出容器を想定しながら、本発明の請求項4に係る抽出容器を用いた抽出工程について記載する。
基本的には実施例1と同様の工程によって抽出作業を行うが、抽出終了直後に第3の通気又は通液パイプから便抽出液の移送を行わず、位置b-bにおいてヒートシール等で遮断、密閉し、同位置において便抽出液保持領域から、便保持領域およびフィルター部位を切除する。
【0034】
残された通気又は通液パイプを有する便抽出液保持領域は嫌気状態のまま密閉されており、場合によってはそのまま冷凍保存をするなど、便抽出液保存容器として、その後の作業工程に供することが出来る。もちろんこの容器から便抽出液を外部に移送する際には、第3の通気又は通液パイプを用いて行うことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の抽出容器により、鮮度の維持された便微生物叢の取得が可能であり、その抽出操作は簡便かつ効率的で、安価かつ軽量で取り扱いやすい容器は便微生物移植全体への経済的効果をもたらす。
【符号の説明】
【0036】
1 抽出容器本体
2 通気又は通液パイプ
3 フィルター
4 便挿入口
5 便
6 抽出液
7 スワバブルバルブ
8 ルアーフィッティングメス
9 ルアーフィッティングオス
a 便挿入後密閉位置
b 抽出後密閉・切断位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6