(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004897
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】梁及び梁構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
E04B1/94 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104786
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】小野木 武司
(72)【発明者】
【氏名】木村 慧
(72)【発明者】
【氏名】清水 信孝
(72)【発明者】
【氏名】寺沢 太沖
(72)【発明者】
【氏名】北岡 聡
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DE05
2E001FA01
2E001GA52
2E001HF12
(57)【要約】
【課題】高温時に梁が熱膨張する際に支持部材が材軸方向に押し出されるのを抑制した梁を提供する。
【解決手段】一対の支持部材10の間に架設される梁15であって、高温時に梁15が熱膨張することで、一対の支持部材10から反力を受けることで局部座屈が発生する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の支持部材の間に架設される梁であって、
高温時に前記梁が熱膨張することで、前記一対の支持部材から反力を受けることで局部座屈が発生する、梁。
【請求項2】
第1フランジ及び第2フランジと、
前記第1フランジと前記第2フランジとの間に配置され、前記第1フランジ及び前記第2フランジにそれぞれ接合されるウェブと、
を備える、請求項1に記載の梁。
【請求項3】
前記第1フランジは、前記第2フランジよりも上方に配置され、
前記梁の上方から作用する積載荷重によって前記第1フランジが圧縮力を受ける、前記梁の材軸方向における前記梁の圧縮領域で、前記梁に局部座屈が発生する、請求項2に記載の梁。
【請求項4】
前記梁の前記材軸方向における前記圧縮領域で、前記第1フランジ又は前記ウェブに局部座屈が発生する、請求項3に記載の梁。
【請求項5】
前記一対の支持部材は、それぞれ耐火被覆で覆われ、
前記梁の材軸方向における前記圧縮領域に、前記支持部材の前記耐火被覆よりも、前記耐火被覆を削減した加熱領域を有し、
前記梁の前記材軸方向における前記加熱領域以外は、前記耐火被覆で覆われている、請求項3又は4に記載の梁。
【請求項6】
前記一対の支持部材は、それぞれ耐火被覆で覆われ、
前記梁は、全長にわたって耐火被覆で覆われ、
常温時の前記梁に対する高温時の前記梁の伸び出し量△Lが(1)式を満たす、請求項3又は4に記載の梁。
ただし、Hは階高(mm)であり、I
2はそれぞれの前記支持部材の断面二次モーメント(mm
4)であり、E
2.Tは温度T℃におけるそれぞれの前記支持部材のヤング率(N/mm
2)であり、A
1は前記梁の材軸方向に直交する面による断面積(mm
2)であり、σ
cr1.Tは前記梁の温度T℃における局部座屈耐力(N/mm
2)である。
【数1】
【請求項7】
前記一対の支持部材は、それぞれ耐火被覆で覆われ、
前記梁は、全長にわたって耐火被覆で覆われ、
常温時の前記梁に対する高温時の前記梁の伸び出し量△Lが(2)式を満たす、請求項3又は4に記載の梁。
ただし、A
1は前記梁の材軸方向に直交する面による断面積(mm
2)であり、L
2はそれぞれの前記支持部材の長さ(mm)であり、E
2.Tは温度T℃におけるそれぞれの前記支持部材のヤング率(N/mm
2)であり、I
y.2はそれぞれの前記支持部材の弱軸回りの断面二次モーメント(mm
4)であり、σ
cr1.Tは前記梁の温度T℃における局部座屈耐力(N/mm
2)であり、M
p.y.T2は、温度T℃におけるそれぞれの前記支持部材の弱軸回りの全塑性曲げ耐力(N・mm)であり、L
2はそれぞれの前記支持部材の長さ(mm)である。
【数2】
【請求項8】
一対の支持部材と、
前記一対の支持部材の間に架設される梁と、
を備え、
高温時に前記梁が熱膨張することにより前記支持部材が変形し、前記支持部材の部材角が1/50に到達する前に、前記梁に局部座屈が発生する、梁構造。
【請求項9】
前記一対の支持部材は、それぞれ耐火被覆で覆われ、
前記梁の材軸方向における中間部である加熱領域以外の非加熱領域は、耐火被覆で覆われ、
前記加熱領域では、前記非加熱領域の前記耐火被覆よりも、前記耐火被覆が削減され、
前記梁の前記材軸方向の長さに対する、前記加熱領域の前記材軸方向の長さの比率C
Bが(3)式を満たす、請求項8に記載の梁構造。
ただし、比率C
Bは1以下であり、Hは階高(mm)であり、I
2はそれぞれの前記支持部材の断面二次モーメント(mm
4)であり、E
2.RTは常温におけるそれぞれの前記支持部材のヤング率(N/mm
2)であり、A
1は前記梁の材軸方向に直交する面による断面積(mm
2)であり、L
1は前記梁の長さ(mm)であり、σ
cr1.Tは前記梁の温度T℃における局部座屈耐力(N/mm
2)であり、α
T1は前記梁の温度T℃における線膨張係数(-)である。
【数3】
【請求項10】
一対の支持部材と、
前記一対の支持部材の間に架設される梁と、
を備え、
高温時に前記梁が熱膨張することにより前記支持部材が変形し、前記支持部材に構造耐力上支障のある破壊が生じる前に、前記梁に局部座屈が発生する、梁構造。
【請求項11】
それぞれの前記支持部材は、H形鋼造の第2梁であり、
前記支持部材に構造耐力上支障のある破壊は、前記第2梁に作用する曲げモーメントが、前記第2梁の弱軸回りの全塑性曲げ耐力を超えることである、請求項10に記載の梁構造。
【請求項12】
それぞれの前記支持部材は、H形鋼造の第2梁であり、
前記一対の支持部材は、それぞれ耐火被覆で覆われ、
前記梁の材軸方向における中間部である加熱領域以外の非加熱領域は、耐火被覆で覆われ、
前記加熱領域では、前記非加熱領域の前記耐火被覆よりも、前記耐火被覆が削減され、
前記梁の前記材軸方向の長さに対する、前記加熱領域の前記材軸方向の長さの比率C
bが(4)式を満たす、請求項10又は11に記載の梁構造。
ただし、比率C
bは1以下であり、L
2はそれぞれの前記第2梁の長さ(mm)であり、I
y.2はそれぞれの前記第2梁の弱軸回りの断面二次モーメント(mm
4)であり、M
p.y2はそれぞれの前記第2梁の弱軸回りの全塑性曲げ耐力(N・mm
2)であり、E
2.RTは常温におけるそれぞれの前記第2梁のヤング率(N/mm
2)であり、A
1は前記梁の材軸方向に直交する面による断面積(mm
2)であり、L
1は前記梁の長さ(mm)であり、σ
cr1.Tは前記梁の温度T℃における局部座屈耐力(N/mm
2)であり、α
T1は前記梁の温度T℃における線膨張係数(-)である。
【数4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梁及び梁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、火災時等、梁が高温になり熱膨張した時に、梁が架設される大梁等(支持部材)を保護する構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1の梁構造では、梁の両端部に座屈誘導部が設けられている。梁は、上フランジ、ウェブ、及び下フランジを有する鉄骨部材を備える。鉄骨部材の両端には、鉄骨製の柱がそれぞれ固定されている。
座屈誘導部では、上フランジの全表面が耐火被覆で覆われ、ウェブ及び下フランジの全表面を耐火被覆で覆わずに露出させている。
【0003】
火災時には、座屈誘導部が設けられている鉄骨部材に局部座屈が発生し、この部分がヒンジ状態になる。高温になった鉄骨部材は伸長するが、ヒンジの形成により鉄骨部材のたわみ変形が許容され、鉄骨部材の伸び出しが吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の梁構造では、上フランジが耐火被覆で覆われているため、梁が高温になっても、上フランジが梁の材軸方向に突っ張る。このため、大梁を、材軸方向に押し出す虞がある。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、高温時に梁が熱膨張する際に支持部材が材軸方向に押し出されるのを抑制した梁及び梁構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
(1)本発明の態様1は、一対の支持部材の間に架設される梁であって、高温時に前記梁が熱膨張することで、前記一対の支持部材から反力を受けることで局部座屈が発生する、梁である。
この発明では、高温時に梁が熱膨張することで、梁が材軸方向に伸びる。そして、梁を架設する一対の支持部材から反力を受けることで、梁に圧縮力が作用して局部座屈が発生し、局部座屈部の軸縮みによって梁の材軸方向の伸長が抑えられる。従って、高温時に梁が熱膨張する際に、支持部材が材軸方向に押し出されるのを抑制することができる。
【0008】
(2)本発明の態様2は、第1フランジ及び第2フランジと、前記第1フランジと前記第2フランジとの間に配置され、前記第1フランジ及び前記第2フランジにそれぞれ接合されるウェブと、を備える、(1)に記載の梁であってもよい。
この発明では、例えば、梁を、第1フランジ、第2フランジ、及びウェブを備えるH形鋼により、比較的安価に構成することができる。
【0009】
(3)本発明の態様3は、前記第1フランジは、前記第2フランジよりも上方に配置され、前記梁の上方から作用する積載荷重によって前記第1フランジが圧縮力を受ける、前記梁の材軸方向における前記梁の圧縮領域で、前記梁に局部座屈が発生する、(2)に記載の梁であってもよい。
この発明では、梁が使用される際には、梁に、梁の上方から積載荷重が作用する。このとき、梁が下方に向かって凸となるように正曲げされ、第1フランジに作用する圧縮力は、第2フランジに作用する圧縮力よりも大きくなる。一般的に、部材に圧縮力が作用する場合に、部材が局部座屈する。局部座屈しやすい梁の圧縮領域で、梁に局部座屈を確実に発生させることができる。
【0010】
(4)本発明の態様4は、前記梁の前記材軸方向における前記圧縮領域で、前記第1フランジ又は前記ウェブに局部座屈が発生する、(3)に記載の梁であってもよい。
この発明では、圧縮領域における第1フランジのみに局部座屈が発生する場合に比べて、梁に局部座屈が発生する範囲を広く確保することができる。
【0011】
(5)本発明の態様5は、前記一対の支持部材は、それぞれ耐火被覆で覆われ、前記梁の材軸方向における前記圧縮領域に前記支持部材の前記耐火被覆よりも、前記耐火被覆を削減した加熱領域を有しており、前記梁の前記材軸方向における前記加熱領域以外は、前記耐火被覆で覆われている、(3)又は(4)に記載の梁であってもよい。
この発明では、加熱領域では、支持部材の耐火被覆よりも、耐火被覆を削減することができる。さらに、一般的に、梁における加熱領域以外の領域は、梁の材軸方向の両端部に形成される。梁における加熱領域以外の領域は耐火被覆で覆われて加熱され難く、梁の材軸方向の両端部が一対の支持部材に接続されるため、梁から一対の支持部材への伝熱を抑制することができる。
【0012】
(6)本発明の態様6は、前記一対の支持部材は、それぞれ耐火被覆で覆われ、前記梁は、全長にわたって耐火被覆で覆われ、常温時の前記梁に対する高温時の前記梁の伸び出し量△Lが(1)式を満たす、(3)又は(4)に記載の梁であってもよい。
ただし、Hは階高(mm)であり、I2はそれぞれの前記支持部材の断面二次モーメント(mm4)であり、E2.Tは温度T℃におけるそれぞれの前記支持部材のヤング率(N/mm2)であり、A1は前記梁の材軸方向に直交する面による断面積(mm2)であり、σcr1.Tは前記梁の温度T℃における局部座屈耐力(N/mm2)である。
【0013】
【0014】
この発明では、(1)式の右側の不等式は、支持部材の部材角が1/50に達しないための、伸び出し量△Lの条件を表す。(1)式の左側の不等式は、梁に局部座屈が発生するための、伸び出し量△Lの条件を表す。従って、伸び出し量△Lが(1)式を満たすことにより、支持部材の部材角が1/50に到達する前に、梁に局部座屈を発生させることができる。
【0015】
(7)本発明の態様7は、前記一対の支持部材は、それぞれ耐火被覆で覆われ、前記梁は、全長にわたって耐火被覆で覆われ、常温時の前記梁に対する高温時の前記梁の伸び出し量△Lが(2)式を満たす、(3)又は(4)に記載の梁であってもよい。
ただし、A1は前記梁の材軸方向に直交する面による断面積(mm2)であり、L2はそれぞれの前記支持部材の長さ(mm)であり、E2.Tは温度T℃におけるそれぞれの前記支持部材のヤング率(N/mm2)であり、Iy.2はそれぞれの前記支持部材の弱軸回りの断面二次モーメント(mm4)であり、σcr1.Tは前記梁の温度T℃における局部座屈耐力(N/mm2)であり、Mp.y.T2は、温度T℃におけるそれぞれの前記支持部材の弱軸回りの全塑性曲げ耐力(N・mm)であり、L2はそれぞれの前記支持部材の長さ(mm)である。
【0016】
【数2】
この発明では、(2)式の右側の不等式は、支持部材が壊れる(支持部材が弱軸回りの全塑性曲げ耐力に到達する)ための、伸び出し量△Lの条件を表す。(2)式の左側の不等式は、梁に局部座屈が発生するための、伸び出し量△Lの条件を表す。従って、伸び出し量△Lが(2)式を満たすことにより、支持部材が壊れる前に梁に局部座屈を発生させることができる。
【0017】
(8)本発明の態様8は、一対の支持部材と、前記一対の支持部材の間に架設される梁と、を備え、高温時に前記梁が熱膨張することにより前記支持部材が変形し、前記支持部材の部材角が1/50に到達する前に、前記梁に局部座屈が発生する、梁構造である。
この発明では、高温時に梁が熱膨張することで、梁が材軸方向に伸び、支持部材が変形する。しかし、支持部材の部材角が1/50に到達する前に、梁に局部座屈が発生する。従って、高温時に梁が熱膨張する際に支持部材が材軸方向に押し出されるのを抑制し、梁構造の健全性を保つことができる。
【0018】
(9)本発明の態様9は、前記一対の支持部材は、それぞれ耐火被覆で覆われ、前記梁の材軸方向における中間部である加熱領域以外の非加熱領域は、耐火被覆で覆われ、前記加熱領域では、前記非加熱領域の前記耐火被覆よりも、前記耐火被覆が削減され、前記梁の前記材軸方向の長さに対する、前記加熱領域の前記材軸方向の長さの比率CBが(3)式を満たす、(8)に記載の梁構造であってもよい。
ただし、比率CBは1以下であり、Hは階高(mm)であり、I2はそれぞれの前記支持部材の断面二次モーメント(mm4)であり、E2.RTは常温におけるそれぞれの前記支持部材のヤング率(N/mm2)であり、A1は前記梁の材軸方向に直交する面による断面積(mm2)であり、L1は前記梁の長さ(mm)であり、σcr1.Tは前記梁の温度T℃における局部座屈耐力(N/mm2)であり、αT1は前記梁の温度T℃における線膨張係数(-)である。
【0019】
【0020】
この発明では、(3)式の右側の不等式は、支持部材の部材角が1/50に達しないための、比率CBの条件を表す。(2)式の左側の不等式は、梁に局部座屈が発生するための、比率CBの条件を表す。従って、比率CBが(3)式を満たすことにより、支持部材の部材角が1/50に到達する前に、梁に局部座屈を発生させることができる。
【0021】
(10)本発明の態様10は、一対の支持部材と、前記一対の支持部材の間に架設される梁と、を備え、高温時に前記梁が熱膨張することにより前記支持部材が変形し、前記支持部材に構造耐力上支障のある破壊が生じる前に、前記梁に局部座屈が発生する、梁構造である。
この発明では、高温時に梁が熱膨張することで、梁が材軸方向に伸びる。しかし、梁を架設する支持部材が変形し、支持部材に構造耐力上支障のある破壊が生じる前に、梁に局部座屈が発生する。従って、高温時に梁が熱膨張する際に、支持部材が梁の材軸方向に押し出されるのを抑制することができる。
【0022】
(11)本発明の態様11は、それぞれの前記支持部材は、H形鋼造の第2梁であり、前記支持部材に構造耐力上支障のある破壊は、前記第2梁に作用する曲げモーメントが、前記第2梁の弱軸回りの全塑性曲げ耐力を超えることである、(10)に記載の梁構造であってもよい。
この発明では、第2梁に作用する曲げモーメントが第2梁の弱軸回りの全塑性曲げ耐力を超える前に、梁に局部座屈を発生させることができる。
【0023】
(12)本発明の態様12は、それぞれの前記支持部材は、H形鋼造の第2梁であり、前記一対の支持部材は、それぞれ耐火被覆で覆われ、前記梁の材軸方向における中間部である加熱領域以外の非加熱領域は、耐火被覆で覆われ、前記加熱領域では、前記非加熱領域の前記耐火被覆よりも、前記耐火被覆が削減され、前記梁の前記材軸方向の長さに対する、前記加熱領域の前記材軸方向の長さの比率Cbが(4)式を満たす、(10)又は(11)に記載の梁構造であってもよい。
ただし、比率Cbは1以下であり、L2はそれぞれの前記第2梁の長さ(mm)であり、Iy.2はそれぞれの前記第2梁の弱軸回りの断面二次モーメント(mm4)であり、Mp.y2はそれぞれの前記第2梁の弱軸回りの全塑性曲げ耐力(N・mm2)であり、E2.RTは常温におけるそれぞれの前記第2梁のヤング率(N/mm2)であり、A1は前記梁の材軸方向に直交する面による断面積(mm2)であり、L1は前記梁の長さ(mm)であり、σcr1.Tは前記梁の温度T℃における局部座屈耐力(N/mm2)であり、αT1は前記梁の温度T℃における線膨張係数(-)である。
【0024】
【0025】
この発明では、(4)式の右側の不等式は、弱軸回りに曲げられた第2梁が全塑性曲げ耐力に達しないための、比率Cbの条件を表す。(4)式の左側の不等式は、梁に局部座屈が発生するための、比率Cbの条件を表す。従って、比率Cbが(4)式を満たすことにより、第2梁が全塑性曲げ耐力に達する前に、梁に局部座屈を発生させることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の梁及び梁構造では、高温時に梁が熱膨張する際に支持部材が梁の材軸方向に押し出されるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の第1実施形態の梁構造に局部座屈が発生している状態を模式的に示す側面図である。
【
図3】両端部が固定されている梁において、梁に作用する曲げモーメントを説明する図である。
【
図4】両端部が固定されている梁において、梁に作用する軸力を説明する図である。
【
図5】両端部が固定されている梁において、梁の第1フランジに作用する応力度を説明する図である。
【
図6】両端部がピン接合されている梁において、梁に作用する曲げモーメントを説明する図である。
【
図7】梁の位置による局部座屈応力を説明する図である。
【
図8】梁の位置による応力度比を説明する図である。
【
図9】両端部が固定されている梁において、局部座屈部の効果を説明する図である。
【
図10】両端部がピン接合されている梁において、局部座屈部の効果を説明する図である。
【
図11】高温時に梁が伸びて柱が変形した梁構造を模式的に示す側面図である。
【
図12】梁の伸び出しによって強制水平変位を受ける柱のモデルを説明する図である。
【
図13】温度による(14)式を満たす比率C
Bの変化を表す図である。
【
図14】本発明の第2実施形態の梁構造が用いられる建築物の平面図である。
【
図15】小梁の伸び出しによって水平変位を受ける大梁のモデルを示す図である。
【
図16】温度による(31)式を満たす比率C
bの変化を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る梁及び梁構造の第1実施形態を、
図1から
図13を参照しながら説明する。
【0029】
〔1.1.梁構造が用いられる建築物の構成〕
図1及び
図2に示すように、本実施形態の梁構造2は、建築物1に用いられる。なお、
図1では、耐火被覆17及び床スラブ25を示していない。
梁構造2は、一対の柱(支持部材)10と、一対の柱10の間に架設される本実施形態の梁(大梁)15と、を備える。なお、
図1には、常温時に比べて、高温時に熱膨張するとともに局部座屈した梁15を示す。常温時の梁15を、
図1中に二点鎖線で示す。
ここで言う高温とは、例えば、ISO 834-11:2014で規定される加熱曲線による温度や、100℃以上のことを意味する。常温とは、0℃以上40℃以下のことを意味する。
【0030】
柱10は、上下方向に沿って延びている。一対の柱10は、互いに間隔を開けて配置されている。例えば、各柱10は、角形鋼管(不図示)が耐火被覆11で覆われて構成されている。柱10には、図示しないガセットプレートが溶接等により接合されている。
例えば、柱10におけるロックウール等の耐火被覆の厚さを、「吹付けロックウール被覆耐火構造 施工品質管理指針(ロックウール工業会 吹付け部会)」に準拠して、1時間耐火が要求される場合には25mm、2時間耐火が要求される場合には45mm、3時間耐火が要求される場合には65mmとする。
【0031】
なお、柱は、H形鋼、RC(Reinforced Concrete)製、SRC(Steel Reinforced Concrete)製等でもよい。
【0032】
梁15は、一対の柱10の間に架設されている。梁15は、水平面に沿って延びている。
図1及び
図2に示すように、梁15は、H形鋼16と、耐火被覆17と、を有する。
H形鋼16は、第1フランジ20と、第2フランジ21と、ウェブ22と、を有する。
第1フランジ20、第2フランジ21、及びウェブ22は、それぞれ鋼板により形成されている。第1フランジ20及び第2フランジ21は、それぞれ水平面に沿うように配置され、互いに上下方向に対向している。第1フランジ20は、第2フランジ21よりも上方に配置されている。なお、第1フランジ20及び第2フランジ21は、水平面に沿う方向に対向するように配置されてもよい。
【0033】
ウェブ22は、第1フランジ20と第2フランジ21との間に配置されている。ウェブ22は、第1フランジ20の幅方向の中間部、及び第2フランジ21の幅方向の中間部にそれぞれ接合されている。
なお、梁は、第1フランジ、第2フランジ、及びウェブを有していれば、H形鋼でない形鋼であってもよい。
【0034】
梁15の両端部は、一対の柱10のガセットプレートに図示しない高力ボルト等により接続されている。梁15の第1フランジ20には、図示しない頭付きスタッドが固定されている。
ここで、一対の柱10のうち、左側の柱10を第1柱10Aとも言い、右側の柱10を第2柱10Bとも言う。
図2に示すように、建築物1は、床スラブ25を備えている。床スラブ25は、梁15により、床スラブ25の下方から支持されている。床スラブ25内には、頭付きスタッドが埋め込まれている。
【0035】
以上のように構成された建築物1は、例えば、床スラブ25上に、設備等を置いて使用される。これら設備及び床スラブ25に作用する重力による積載荷重は、梁15に、梁15の上方から作用する。例えば、積載荷重は、梁15の材軸方向(長手方向)Z1の全長にわたる、大きさwの等分布荷重である。
このとき、梁15は、下方に向かって凸となるように正曲げされる。
【0036】
図3に、梁15の両端部が剛接合もしくは半剛接合されている場合に、梁15に作用する曲げモーメントを示し、
図4に梁15が熱膨張して梁15に作用する軸力を示し、
図5に梁15の第1フランジ20に作用する応力度を示す。
図3、
図4、
図5において、横軸は、梁15の第1柱10Aを原点として第2柱10Bに向かう向きの、梁15の位置を表す。ここで、梁15の長さを、L
1(mm)と規定する。
図3において、縦軸は、梁15に作用する曲げモーメントを示す。曲げモーメントは、第1フランジ20が圧縮されている時を正とし、実線による線Mで示す。
図4において、縦軸は、梁15に作用する軸力を示す。軸力は、圧縮を正とし、実線による線Nで示す。
図5において、縦軸は、第1フランジ20に作用する応力度を示す。応力度は、圧縮を正とする。曲げモーメントに基づく応力度を点線による線σ
Mで示し、軸力に基づく応力度を一点鎖線による線σ
Nで示し、曲げモーメントに基づく応力度と軸力に基づく応力度を足し合わせた応力度を実線による線σで示す。軸力及び応力度については、後で詳しく説明する。
【0037】
積載荷重によって、材軸方向Z1における梁15の圧縮領域R1で、第1フランジ20が、正の曲げモーメントにより圧縮力を受ける。圧縮領域R1は、梁15の材軸方向Z1の中間部に形成される。例えば、梁15の材軸方向Z1の中間部は、梁15の材軸方向Z1の各端を除いた、梁15の全長の0.1倍から0.99倍の範囲である。
積載荷重によって、材軸方向Z1における梁15の非圧縮領域R2で、第1フランジ20が負の曲げモーメントにより引張力を受ける。非圧縮領域R2は、梁15の材軸方向Z1の各端部に形成される。非圧縮領域R2は、梁15の材軸方向Z1における圧縮領域R1以外の領域である。
【0038】
なお、梁15の両端部がピン接合されている場合には、梁15に作用する曲げモーメントは、
図6に示すようになる。この場合、梁15の両端における曲げモーメントは0になり、梁15のほぼ全長にわたって圧縮領域R1となる。
【0039】
図2に示すように、梁15の材軸方向Z1における圧縮領域R1に、加熱領域R3を有する。すなわち、加熱領域R3は、圧縮領域R1に等しい領域か、圧縮領域R1に含まれ、材軸方向Z1において圧縮領域R1よりも範囲の小さい領域である。梁15における加熱領域R3以外の領域が、非加熱領域R4である。非加熱領域R4は、非圧縮領域R2を含む。
非加熱領域R4のH形鋼16は、耐火被覆17で覆われている。加熱領域R3では、非加熱領域R4の耐火被覆17(柱10の耐火被覆11)よりも、耐火被覆17が削減されている。
例えば、非加熱領域R4の耐火被覆17は、柱10の耐火被覆11と同様としてもよい。
この例では、加熱領域R3には、耐火被覆17が無い。なお、加熱領域R3を、柱10の耐火被覆11もしくは非加熱領域R4の耐火被覆17の厚さの1/10~1/2程度の厚さの耐火被覆17で覆ってもよい。
【0040】
高温時には、加熱領域R3が熱膨張し、柱10からの反力によって梁15が圧縮力を受け、かつ加熱領域R3のヤング率が低下するため、加熱領域R3で、梁15に局部座屈が発生する。
図1に示す例では、高温時に加熱領域R3で、フランジ20,21及びウェブ22にそれぞれ局部座屈が発生している。
図1では、ウェブ22に、凸部22a及び凹部22bが形成され、ウェブ22がウェブ22の厚さ方向に波打っている。凸部22aでは、ウェブ22が前記厚さ方向の第1側に変位している。凹部22bでは、ウェブ22が前記厚さ方向における第1側とは反対側の第2側に変位している。
なお、局部座屈は、圧縮力が作用しやすい第1フランジ20又はウェブ22に発生してもよいし、第1フランジ20のみに発生してもよい。
【0041】
例えば、火災時等のように、梁15が高温になった時に、梁15が熱膨張する。梁15が架設される一対の柱10から反力を受けることで、梁15に圧縮力が作用して局部座屈が発生する。以下では、梁15における局部座屈が発生した部分を、局部座屈部とも言う。
【0042】
〔1.2.局部座屈発生メカニズム〕
図4中に示す軸力(軸力分布。線N)は、柱10からの反力によって梁15に生じる軸力(圧縮を正とする)である。
図5中に示す応力度(応力度分布。線σ)は、積載荷重及び反力によって梁15の第1フランジ20に作用する応力度(圧縮を正とする)の一例である。梁15の第1フランジ20には、積載荷重による圧縮応力(圧縮領域R1)及び引張応力(非圧縮領域R2)と、反力による圧縮応力が作用する。第1フランジ20の応力度は、梁15に作用する曲げモーメントによる応力度と、梁15の軸力による応力度との和で表される。なお、積載荷重及び反力の大きさによっては、梁15の端部における第1フランジ20の圧縮応力が負(引張)となる場合がある。
図5に示す例では、梁15の第1フランジ20に作用する応力度が、全長に渡って圧縮となる場合を示す(線σ参照)。
例えば、加熱領域R3は、
図3において二点鎖線による四角で囲んだ領域となる。
【0043】
図7に、梁15の位置による、梁15の第1フランジ20の許容局部座屈応力度(許容局部座屈応力度分布)を示す。加熱領域R3は非加熱領域R4に比べて高温になるため、ヤング率が著しく低下し許容局部座屈応力度が小さくなる。
図8に、梁15の位置による、梁15の第1フランジ20の応力度比(応力度比分布)を示す。ここで言う応力度比とは、第1フランジ20に作用する圧縮応力度を、許容局部座屈応力度で除した値である。加熱領域R3では許容局部座屈応力度(分母)が小さくなるため、応力度比が大きくなる。
【0044】
図9には、梁15の両端部が固定された場合における、局部座屈した梁15のモデルを示す。局部座屈は、
図8で示した応力度比が最も大きくなる位置で発生する。
梁15に発生した局部座屈部15aは、バネのように作用し、局部座屈部15aの軸縮みによって梁15の材軸方向Z1の伸びを吸収すると考えられる。
図10に示すように、この効果は、梁15のピン接合された場合も、同様に発揮される。
次に、支持部材が柱10である場合の、加熱領域R3の範囲の検討結果について説明する。
【0045】
〔1.3.加熱領域の範囲の導出〕
図11に、高温時に梁15が延びて、柱10が変形した建築物1を示す。建築物1は、多層建築物である。例えば、上下方向に隣り合う梁15の間が、建築物1における1つの階(層)である。
ここで、Hを、階高(mm)と規定する。階高Hは、建築物1の1階(層)分の高さを意味する。δ
2を、梁15の伸び出しによる柱10の水平面に沿う変位(水平変位)と規定する。柱10の部材角を、R(=δ
2/H)と規定する。なお、常温時の柱10の部材角は、0である。
【0046】
ここで、
図12に示すように、梁15の伸び出しによって強制水平変位を受ける柱10をモデル化した。このモデルでは、柱10の両端における回転を固定とし、柱10の上端に水平力Pを受けるとした。
このとき、梁15に作用する水平力Pと水平変位δ
2との関係は、(5)式で表せる。
【0047】
【0048】
ここで、常温におけるそれぞれの柱10のヤング率を、E2.RT(N/mm2)と規定する。それぞれの柱10の断面二次モーメントを、I2(mm4)と規定する。
水平力Pは、梁15に与えられる圧縮力に等しい。梁15の伸び出しによる柱10の水平変位は、梁15の温度T(℃)における線膨張係数αT1(-)を用いて、(6)式で表せる。ただし、梁15の材軸方向Z1の長さに対する、加熱領域R3の材軸方向Z1の長さの比率を、CBと規定する。加熱領域R3の材軸方向Z1の長さは梁15の材軸方向Z1の長さを超えないため、比率CBは1.0以下である。
【0049】
【0050】
(5)式及び(6)式より、梁15に与えられる圧縮応力σ1は、梁15の材軸方向Z1に直交する面による断面積A1(mm2)を用いて、(7)式で表せる。
【0051】
【0052】
ここで、梁15の温度T(℃)における局部座屈耐力を、σcr1.T(N/mm2)と規定する。すると、任意の温度Tにおいて、局部座屈耐力σcr1.Tが(8)式を満たすときに、梁15に局部座屈が発生する。
【0053】
【0054】
従って、(8)式を満たすときの圧縮応力σ1は、(7)式より(9)式で表せる。
【0055】
【0056】
一方で、梁15が伸び出すことによって、柱10に大きな部材角Rが生じ、建築物1が層崩壊に至る可能性がある。このため、平成12年建設省告示第1433号として告示された「耐火性能検証法」において、柱10の部材角Rの上限値として1/50が用いられている。
以上を踏まえ、層崩壊を防ぐための大梁の伸び出し量の条件は、(6)式より(12)式で表せる。
【0057】
【0058】
従って、(12)式を満たす比率CBは、(13)式で表せる。
【0059】
【0060】
以上より、高温時に梁15が熱膨張することにより柱10が変形し、柱10の部材角Rが1/50に到達する前に、梁15に局部座屈が発生するための比率CBの範囲は、(9)式及び(13)式から、(14)式で表せる。
【0061】
【0062】
なお、梁15が、全長にわたって耐火被覆17で覆われている場合について説明する。
この場合には、常温時の梁15に対する高温時の梁15の伸び出し量△L(=αT1L1)が(15)式を満たしていれば、柱10の部材角Rが1/50に到達する前に、梁15に局部座屈が発生する。この例では、各柱10が、梁15と同じ温度に温度上昇すると仮定している。
ただし、温度T(℃)におけるそれぞれの柱10のヤング率を、E2.T(N/mm2)と規定する。
【0063】
【0064】
〔1.4.加熱領域の範囲の具体例〕
表1に示す仕様の梁構造2に対して、比率CBの適用範囲を検討した。
【0065】
【0066】
例えば、階高Hは、4,000mmである。柱10は、外径が450mm×450mmで厚さが12mmの角形鋼管である。
(14)式中の線膨張係数α
T1及び局部座屈耐力σ
cr1.Tは、それぞれ温度Tの関数である。表1に示す仕様の梁構造2に対して、比率C
Bと温度Tとの関係を、
図13に示す。
図11において、横軸は温度T(℃)を表し、縦軸は比率C
B(-)を表す。なお、局部座屈耐力σ
cr1.Tには、梁15のウェブ22が一様に圧縮される場合の局部座屈耐力を用いた。一様に圧縮されるウェブ22の局部座屈耐力は、「鋼構造座屈設計指針」、日本建築学会、p182-183から求めた。ただし、温度Tにおけるヤング率は、文献1から求めた。
文献1:"Eurocode 3: Design of steel structures - Part 1-2: General rules - Structural fire design" en. 1993-1-2, 2005, p.22, Table 3.1
実線L1は、(柱10の部材角R=1/50)を満たす境界を表す。点線L2は、(梁15の局部座屈耐力σ
cr1.T=圧縮応力σ
1)を満たす境界を表す。従って、(14)式を満たす比率C
Bの範囲は、
図13中にハッチングで示した領域R5となる。
【0067】
〔1.5.本実施形態の効果〕
以上説明したように、本実施形態の梁15では、高温時に梁15が熱膨張することで、梁15が材軸方向Z1に伸びる。そして、梁15を架設する一対の柱10から反力を受けることで、梁15に圧縮力が作用して局部座屈が発生し、局部座屈部15aの軸縮みによって梁15の材軸方向Z1の伸長が抑えられる。従って、高温時に梁15が熱膨張する際に、柱10が材軸方向Z1に押し出されるのを抑制することができる。
【0068】
梁15のH形鋼16は、第1フランジ20と、第2フランジ21と、ウェブ22と、を有する。このため、梁15を、第1フランジ20、第2フランジ21、及びウェブ22を備えるH形鋼16により、比較的安価に構成することができる。
積載荷重によって第1フランジ20が圧縮力を受ける梁15の圧縮領域R1で、梁15に局部座屈が発生する。梁15が使用される際には、梁15に、梁15の上方から積載荷重が作用する。このとき、梁15が下方に向かって凸となるように正曲げされ、第1フランジ20には第2フランジ21よりも大きな圧縮力が作用する。一般的に、部材に圧縮力が作用する場合に、部材が局部座屈する。局部座屈しやすい梁15の圧縮領域R1で、梁15に局部座屈を確実に発生させることができる。
梁15の材軸方向Z1の中間部に形成される圧縮領域R1内の一点で局部座屈が発生するため、局部座屈発生後の梁15のたわみ変形を最小限に抑えることができる。
【0069】
圧縮領域R1で、梁15の第1フランジ20又はウェブ22に局部座屈が発生する場合がある。この場合には、圧縮領域R1における第1フランジ20のみに局部座屈が発生する場合に比べて、梁15に局部座屈が発生する範囲を広く確保することができる。
非加熱領域R4は耐火被覆17で覆われ、加熱領域R3では、非圧縮領域R2の耐火被覆17よりも、耐火被覆17が削減されている。従って、加熱領域R3では、非加熱領域R4の耐火被覆17よりも、耐火被覆17を削減することができる。さらに、一般的に、非加熱領域は、梁の材軸方向の両端部に形成される。非加熱領域R4は耐火被覆17で覆われて加熱され難く、梁15の材軸方向Z1の両端部が一対の柱10に接続されるため、梁15から一対の柱10への伝熱を抑制することができる。
【0070】
梁15の伸び出し量△Lが、(15)式を満たす場合がある。(15)式の右側の不等式は、柱10の部材角Rが1/50に達しないための、伸び出し量△Lの条件を表す。(15)式の左側の不等式は、梁15に局部座屈が発生するための、伸び出し量△Lの条件を表す。従って、伸び出し量△Lが(15)式を満たすことにより、柱10の部材角Rが1/50に到達する前に、梁15に局部座屈を発生させることができる。
【0071】
また、本実施形態の梁構造2では、高温時に梁15が熱膨張することで、梁15が材軸方向Z1に伸び、柱10が変形する。しかし、柱10の部材角Rが1/50に到達する前に、梁15に局部座屈が発生する。従って、高温時に梁15が熱膨張する際に柱10が材軸方向Z1に押し出されるのを抑制し、柱10及び梁構造2の健全性を保つことができる。
比率CBが(14)式を満たすがある。この場合、(14)式の右側の不等式は、柱10の部材角Rが1/50に達しないための、比率CBの条件を表す。(14)式の左側の不等式は、梁15に局部座屈が発生するための、比率CBの条件を表す。従って、比率CBが(14)式を満たすことにより、柱10の部材角Rが1/50に到達する前に、梁15に局部座屈を発生させることができる。
【0072】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について
図14から
図16を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0073】
〔2.1.梁構造が用いられる建築物の構成〕
図14に示すように、本実施形態の梁構造4は、建築物3に用いられる。なお、
図14では、後述する小梁40が高温時に伸び出している状態を示している。
梁構造4は、複数の柱30と、複数の大梁(第2梁、支持部材)35と、複数の小梁(梁)40と、を備える。なお、一対の大梁35及び小梁40で、梁構造4を構成する。
柱30は、柱10と同様に構成されている。各柱30は、上下方向に沿って延びている。複数の柱30は、平面視で碁盤目状に配置されている。
例えば、大梁35は、H形鋼(不図示)と、耐火被覆36と、を有する。すなわち、大梁35は、H形鋼造である。このH形鋼(大梁35)は、全長にわたって耐火被覆36で覆われている。各大梁35は、一対の柱30の間に架設されている。各大梁35は、水平面に沿って延びている。
【0074】
例えば、小梁40は、H形鋼(不図示)と、耐火被覆41と、を有する。なお、
図15では、耐火被覆41をハッチングで示す。このH形鋼は、第2実施形態の梁15と同様に構成されている。小梁40の材軸方向Z2における中間部である加熱領域R8以外の非加熱領域R9は、耐火被覆41で覆われている。加熱領域R8では、非加熱領域R9の耐火被覆41よりも、耐火被覆41が削減されている。加熱領域R8、非加熱領域R9における耐火被覆41の仕様は、第1実施形態の加熱領域R3、非加熱領域R4における耐火被覆17の仕様とそれぞれ同様である。
各小梁40は、一対の大梁35の間に架設されている。各小梁40は、水平面に沿って延びている。
大梁35及び小梁40におけるH形鋼は、H形鋼の一対のフランジが上下方向に対向するように配置されている。
【0075】
以上のように構成された梁構造4では、高温時に小梁40が熱膨張することにより大梁35が変形する。そして、この小梁40を架設する大梁35に構造耐力上支障のある破壊が生じる前に、小梁40に局部座屈が発生する。より具体的には、大梁35に構造耐力上支障のある破壊は、大梁35に作用する曲げモーメントが、大梁35の弱軸回りの全塑性曲げ耐力を超えることである。大梁35の弱軸とは、一対のフランジが対向する方向に沿い、ウェブの厚さ方向の中心を通る軸である。
【0076】
なお、大梁35に構造耐力上支障のある破壊は、大梁35に作用する曲げモーメントが、大梁35の弱軸回りの降伏曲げ耐力を超えることであってもよい。
次に、支持部材が大梁35である場合の、加熱領域R8の範囲の検討結果について説明する。
【0077】
〔2.2.加熱領域の範囲の導出〕
図15に、小梁40の伸び出しによって水平変位を受ける大梁35のモデルを示す。以下では、大梁35の両端部が柱30に固定され、大梁35の材軸方向の中央に、小梁40の伸び出しによる水平力Pを受けると仮定する。
以下では、大梁35の長さを、L
2(mm)と規定する。小梁40の長さを、L
1(mm)と規定する。小梁40の伸び出しによる大梁35の水平面に沿う変位を、δ
2(mm)と規定する。
このとき、水平力Pと変位δ
2との関係は、(20)式で表せる。
【0078】
【0079】
ただし、E
2.RTは、常温におけるそれぞれの大梁35のヤング率(N/mm
2)である。I
y.2は、それぞれの大梁35の弱軸回りの断面二次モーメント(mm
4)である。水平力Pは、大梁35に与えられる圧縮力に等しい。
ここで、小梁40の温度T(℃)における線膨張係数を、α
T1(-)と規定する。
図14に示すように、小梁40の材軸方向Z3の長さに対する、加熱領域R8の材軸方向Z3の長さの比率を、C
bと規定する。加熱領域R8の材軸方向Z3の長さは小梁40の材軸方向Z3の長さを超えないため、比率C
bは1.0以下である。
このとき、変位δ
2は、(21)式で表せる。
【0080】
【0081】
ここで、小梁40の材軸方向Z3に直交する面による断面積を、A1(mm2)と規定する。(20)式及び(21)式により、小梁40に与えられる圧縮応力σ1(N/mm2)は、(22)式で表せる。
【0082】
【0083】
ここで、小梁40の温度T(℃)における局部座屈耐力を、σcr1.T(N/mm2)と規定する。局部座屈耐力σcr1.Tが(23)式の条件を満たすときに、小梁40に局部座屈が発生する。
【0084】
【0085】
従って、(23)式を満たす時の比率Cbは、(22)式を用いて(24)式で表せる。
【0086】
【0087】
一方で、小梁40が伸び出すことによって、大梁35に水平変位が生じ、大梁35に構造耐力上支障のある破壊が生じる可能がある。このため、大梁35の構造性能を担保するための条件として、大梁35に生じる弱軸回りの曲げモーメントの上限値を、大梁35の全塑性曲げ耐力とした。
大梁35に生じる弱軸回りの曲げモーメントが全塑性曲げ耐力に到達する時の、大梁35の水平面に沿う変位δp.2は、(27)式で表せる。
【0088】
【0089】
ただし、Mp.y2は、常温における、それぞれの大梁35の弱軸回りの全塑性曲げ耐力(N・mm2)である。
以上から、大梁35の破壊を防ぐための小梁40の伸び出し量の条件は、(21)式及び(27)式より、(28)式及び(29)式で表せる。
【0090】
【0091】
従って、(28)式及び(29)式を満たす比率Cbは、(30)式で表せる。
【0092】
【0093】
以上より、大梁35に作用する弱軸回りの曲げモーメントが全塑性曲げ耐力以下の状態で、小梁40に局部座屈が発生する比率Cbの範囲は、(24)式及び(30)式より(31)式で表せる。
【0094】
【0095】
なお、小梁40が、全長にわたって耐火被覆17で覆われている場合について説明する。
この場合には、高温時に、小梁40全体が伸びる。常温時の小梁40に対する高温時の小梁40の伸び出し量△L(=αT1L1)が(32)式の右側の不等式を満たすと、大梁35が壊れる(大梁35が弱軸回りの全塑性曲げ耐力に到達する)。伸び出し量△Lが(32)式の左側の不等式を満たすと、小梁40に局部座屈が発生する。伸び出し量△Lが(32)式を満たしていれば、大梁35が壊れる前に、小梁40に局部座屈を発生させることができる。なお、この例では、各大梁35が、梁15と同じ温度に温度上昇すると仮定している。
ただし、温度T℃におけるそれぞれの大梁35のヤング率を、E2.T(N/mm2)と規定する。温度T℃におけるそれぞれの大梁35の弱軸回りの全塑性曲げ耐力を、Mp.y.T2(N・mm)と規定する。
【0096】
【0097】
〔2.3.加熱領域の範囲の具体例〕
表2に示す仕様の梁構造4に対して、比率Cbの適用範囲を検討した。
【0098】
【0099】
例えば、大梁35の長さL
2は、11,000mmである。大梁35は、600×200×11×17のH形鋼造である。
表2に示す仕様の梁構造4に対して、比率C
bと温度Tとの関係を、
図16に示す。
図16において、横軸は温度T(℃)を表し、縦軸は比率C
b(-)を表す。なお、局部座屈耐力σ
cr1.Tには、小梁40のウェブが一様に圧縮される場合の局部座屈耐力を用いた。
実線L5は、(大梁35の変位δ
2=全塑性曲げ耐力時の大梁35の変位δ
p.2)を満たす境界を表す。点線L6は、(小梁40の局部座屈耐力σ
cr1.T=小梁40の圧縮応力σ
1)を満たす境界を表す。従って、(31)式を満たす比率C
bの範囲は、
図16中にハッチングで示した領域R12となる。
【0100】
以上説明したように、本実施形態の梁構造4では、高温時に小梁40が熱膨張することで、小梁40が材軸方向Z3に伸びる。しかし、小梁40を架設する大梁35が変形し、大梁35に構造耐力上支障のある破壊が生じる前に、小梁40に局部座屈が発生する。従って、高温時に小梁40が熱膨張する際に、小梁40の局部座屈部の軸縮みによって大梁35が材軸方向Z3に押し出されるのを抑制することができる。
また、大梁35に構造耐力上支障のある破壊は、大梁35に作用する曲げモーメントが、大梁35の弱軸回りの全塑性曲げ耐力を超えることである。このため、大梁35に作用する曲げモーメントが大梁35の弱軸回りの全塑性曲げ耐力を超える前に、小梁40に局部座屈を発生させることができる。
【0101】
比率Cbが、(31)を満たす場合がある。この場合、(31)式の右側の不等式は、弱軸回りに曲げられた大梁35が全塑性曲げ耐力に達しないための、比率Cbの条件を表す。(31)式の左側の不等式は、小梁40に局部座屈が発生するための、比率Cbの条件を表す。従って、比率Cbが(31)式を満たすことにより、大梁35が全塑性曲げ耐力に達する前に、小梁40に局部座屈を発生させることができる。
【0102】
以上、本発明の第1実施形態及び第2実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。さらに、各実施形態で示した構成のそれぞれを適宜組み合わせて利用できることは、言うまでもない。
例えば、前記第1実施形態及び第2実施形態では、梁15及び小梁40は、第1フランジ、第2フランジ、及びウェブを有さなくてもよい。
【符号の説明】
【0103】
2,4 梁構造
10 柱(支持部材)
11,17 耐火被覆
15 梁
20 第1フランジ
21 第2フランジ
22 ウェブ
35 大梁(第2梁、支持部材)
40 小梁(梁)
R1 圧縮領域
R2 非圧縮領域
R3,R8 加熱領域
R4,R9 非加熱領域
Z1,Z3 材軸方向