(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048980
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】プログラム、情報処理装置、情報処理方法、学習モデルの生成方法、および溶鋼処理方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/205 20190101AFI20240402BHJP
【FI】
G01N33/205 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155187
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】320005154
【氏名又は名称】日本製鋼所M&E株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】曽和 貴史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 忠
(72)【発明者】
【氏名】関 佑太
【テーマコード(参考)】
2G055
【Fターム(参考)】
2G055AA22
2G055BA01
2G055CA25
2G055EA08
2G055FA02
(57)【要約】
【課題】溶鋼中の酸素量を推定するプログラム等を提供すること。
【解決手段】プログラムは、溶鋼上に浮遊するスラグの画像データを取得し、スラグの画像データを入力した場合に溶鋼中の酸素量に関する酸素量情報を出力する学習モデルに、取得した画像データを入力して酸素量情報を出力する処理をコンピュータに実行させる。好適には、画像データはHSV形式であり、プログラムはHSV形式の画像データを取得し、取得されたHSV形式の画像データを前記学習モデルに入力する処理をコンピュータに実行させる。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶鋼上に浮遊するスラグの画像データを取得し、
スラグの画像データを入力した場合に溶鋼中の酸素量に関する酸素量情報を出力する学習モデルに、取得した画像データを入力して酸素量情報を出力する
処理をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項2】
前記画像データはHSV形式であり、
HSV形式の画像データを取得し、
取得されたHSV形式の画像データを前記学習モデルに入力する
請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
前記学習モデルは溶鋼中の酸素量を出力する
請求項1または請求項2に記載のプログラム。
【請求項4】
前記酸素量が所定値以下であるか否かを判定する
請求項3に記載のプログラム。
【請求項5】
前記酸素量情報は、第1時点における溶鋼内の第1酸素量と、第2時点における溶鋼内の第2酸素量とを含み、
前記第1酸素量が第1設定値以下であるか否かを判定し、
前記第2酸素量が第2設定値以下であるか否かを判定する
請求項1に記載のプログラム。
【請求項6】
制御部を備える情報処理装置において、
前記制御部は、
溶鋼上に浮遊するスラグの画像データを取得し、スラグの画像データを入力した場合に溶鋼中の酸素量に関する酸素量情報を出力するよう学習された学習モデルに、取得した画像データを入力して酸素量情報を出力する
情報処理装置。
【請求項7】
コンピュータが、
溶鋼上に浮遊するスラグの画像データを取得し、スラグの画像データを入力した場合に溶鋼中の酸素量に関する酸素量情報を出力する学習モデルに、取得した画像データを入力して酸素量情報を出力する
情報処理方法。
【請求項8】
溶鋼上に浮遊するスラグの画像データと、溶鋼中の酸素量に関する酸素量情報とを関連付けた訓練データを取得し、
前記訓練データに基づき、スラグの画像データを入力した場合に溶鋼中の酸素量に関する酸素量情報を出力する学習モデルを生成する
学習モデルの生成方法。
【請求項9】
溶鋼を還元精錬する際、第1時点の溶鋼上に浮遊する第1スラグをサンプリングし、
サンプリングされた第1スラグの第1画像データを取得し、
該第1画像データを、スラグの画像データを入力した場合に溶鋼中の酸素量に関する酸素量情報を出力する学習モデルに入力し、
前記学習モデルから出力された前記第1スラグの酸素量に関する酸素量情報が所定条件を満たす場合に、雰囲気を減圧する真空処理に移行し、
真空処理後、第2時点の溶鋼上に浮遊する第2スラグをサンプリングし、
サンプリングされた第2スラグの第2画像データを取得し、
該第2画像データを前記学習モデルに入力し、
前記学習モデルから出力された前記第2スラグの酸素量に関する酸素量情報が所定条件を満たす場合に、鋳込み処理に移行する
溶鋼処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プログラム、情報処理装置、情報処理方法、学習モデルの生成方法、および溶鋼処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鋼工場で実施される作業を支援する技術が開示されている。たとえば、底吹き転炉の炉底に設置される羽口の健全性評価をおこなう画像処理の技術が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示された技術は、羽口の健全性を評価するにとどまり、溶鋼中の酸素量を推定するには至っていない。
【0005】
一つの側面では、溶鋼中の酸素量を推定するプログラム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一つの側面に係るプログラムは、溶鋼上に浮遊するスラグをサンプリングし、その画像データを取得し、スラグの画像データを入力した場合に溶鋼中の酸素量に関する酸素量情報を出力する学習モデルに、取得した画像データを入力して酸素量情報を出力する処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0007】
一つの側面では、溶鋼中の酸素量を推定するプログラム等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】酸素量推定システムの構成例を示す模式図である。
【
図3】情報処理装置の構成例を示すブロック図である。
【
図5】スラグDBのデータレイアウトを示す説明図である。
【
図6】訓練データDBのデータレイアウトを示す説明図である。
【
図8】学習モデルの生成処理手順を示すフローチャートである。
【
図9】情報処理装置が表示する結果画面の一例である。
【
図10】情報処理装置が実行するプログラムの処理手順を示すフローチャートである。
【
図11】情報処理装置が実行するプログラムの処理手順を示すフローチャートである。
【
図12】溶鋼処理方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施の形態では、溶鋼上に浮遊するスラグから溶鋼中の酸素量を推定する酸素量推定システムについて説明する。
【0010】
【0011】
取鍋50は、高温の溶鋼を流し入れるための容器である。取鍋50の溶鋼の上には、スラグが浮遊している。溶鋼およびスラグのサンプルを採取する治具および方法は特に限定するものではないが、一例としては、サンプリング棒60は先端が柄杓(ヒシャク)状になっており、溶鋼のサンプルを採取する際は、柄杓部分に溶鋼を入れて掬いあげて採取し、スラグのサンプルを採取する際は、サンプリング棒60の表面にスラグを付着させて採取する。取鍋50には、上下動する三相電極70が備えられている。三相電極70は、アークによる電気エネルギーで溶鋼を加熱する。
【0012】
電気炉40で鉄スクラップを溶解してできた溶鋼は、酸化精錬による脱燐後に取鍋50へ移される(
図1Aの工程1)。その後、取鍋50内の溶鋼に対して、還元精錬(
図1Bの工程2-1)・真空処理(
図1Cの工程2-2)・成分調整(
図1Bの工程2-3)を施してから、鋳込み処理へと移行する。
【0013】
図1Aは、工程1の酸化精錬を示す模式図である。電気炉40では、主原料の鉄スクラップを電気エネルギーで加熱および溶解した後、溶鋼中に酸素を吹き込み、鋼に不要な成分を酸化および除去する。この工程を酸化精錬といい、酸化精錬時に生成されるスラグを「酸化スラグ」と呼ぶ。
【0014】
図1Bは、工程2-1の還元精錬または工程2-3の成分調整を示す模式図である。酸化精錬の後、取鍋50にて、溶鋼中の酸素および硫黄を除去する。この工程を還元精錬といい、還元精錬時に生成されるスラグを「還元スラグ」と呼ぶ。本明細書では、便宜上、「還元スラグ」を単に「スラグ」という。
【0015】
真空処理の前後(工程2-1および工程2-3)において、作業者は、溶鋼上に浮遊するスラグをサンプリング棒60でサンプリングする。真空処理の前にスラグをサンプリングする場合を第1時点、真空処理の後にスラグをサンプリングする場合を第2時点という。
【0016】
図1Cは、工程2-2の真空処理を示す模式図である。還元精錬で溶鋼中の酸素量をある程度まで低下させた後、さらに溶鋼中の酸素量を低下させるべく、雰囲気を減圧する真空処理の工程に移る。真空処理を終えたら、溶鋼内の化学組成を目標範囲に調整する成分調整を施す。その次に、所定の器に溶鋼を注いで鋼の塊を製造する鋳込み処理をおこなう。
【0017】
高品質の鉄鋼製品を製造するためには、上記の製鋼工程において、溶鋼中の酸素量を適切に制御することが求められる。この要求に対して製鋼工場の作業者は、溶鋼上に浮遊するスラグをサンプリングし、その色を目視することで溶鋼中の酸素量を推定している。スラグはそれぞれの工程において様々な化学反応を起こしており、各種酸化物の化学組成に基づく色を示す。作業者はスラグの色変化をとらえて溶鋼中の酸素量を推定する。
【0018】
現状、熟練の作業者がスラグを目視することで溶鋼中の酸素量を推定し、製鋼工程を管理している。しかし、人間の判断にはバラつきがあり、鉄鋼製品の品質を一定に保つことは難しい。
【0019】
そこで、機械学習を用いた本システムにより、溶鋼中の酸素量を精確に推定して作業者の判断を支援する。これにより、作業者の熟練度に関わらず、高品質な鉄鋼製品を製造することが可能となる。さらに、本システムが作業効率を向上させることで、製鋼工程での電力使用量が減少するとともに、溶鋼を保持する耐火物(取鍋50等)の損耗を抑制することができる。
【0020】
図2は、酸素量推定システムの構成例を示す模式図である。本システムは、作業者が操作および管理する情報処理装置10および撮像装置20を含む。情報処理装置10および撮像装置20は、通信ネットワークNWを介して通信可能に接続されている。
【0021】
情報処理装置10は、本システムを提供するパーソナルコンピュータ、サーバコンピュータ、またはスマートフォン等の情報機器である。本実施の形態では、一つのコンピュータが処理をおこなうものとして説明するが、複数のコンピュータが分散して処理をおこなってもよい。また、情報処理装置10が実行する一部の処理をクラウド上のサーバコンピュータが実行してもよい。
【0022】
撮像装置20は、作業者によってサンプリングされたスラグを撮像するカメラである。撮像装置20は、撮像したスラグの画像データ(以下、スラグ画像という)を情報処理装置10に送信する。なお、情報処理装置10に内蔵されたカメラを用いてスラグ画像を取得してもよい。
【0023】
図3は、情報処理装置10の構成例を示すブロック図である。情報処理装置10は、制御部11、主記憶部12、通信部13、補助記憶部14、表示部15、および入力部16を含む。
【0024】
制御部11は一または複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)もしくは量子プロセッサ等のプロセッサであり、種々の情報処理を実行する。
【0025】
主記憶部12はSRAM(Static Random Access Memory)またはDRAM(Dynamic Random Access Memory)等の一時記憶領域であり、制御部11が処理を実行するうえで必要なデータを一時的に記憶する。
【0026】
通信部13は、インターネットまたはLAN(Local Area Network)等の通信ネットワークNWに接続するための通信インタフェースである。
【0027】
補助記憶部14は、SSD(Solid State Drive)またはHDD(Hard Disk Drive)等のメモリである。補助記憶部14は、情報処理装置10に処理を実行させるプログラム(プログラム製品)140、スラグDB(data base)141、学習モデル142、訓練データDB143、およびその他のデータを記憶している。
【0028】
補助記憶部14は、溶鋼中の酸素量を推定する学習モデル142を記憶する。補助記憶部14は、学習モデル142について、ニューラルネットワークの構成情報ならびに各ニューロンの係数および閾値等を含むデータを記憶する。本実施の形態では、情報処理装置10が学習モデル142を学習する場合を説明するが、他のコンピュータが学習モデル142を学習してもよい。その後、学習モデル142を情報処理装置10へデプロイする。
【0029】
なお、本実施の形態では、情報処理装置10内の学習モデル142を用いて推論する例を示すが、これに限るものではない。サーバコンピュータ(図示省略)に学習モデル142を記憶しておき、情報処理装置10からスラグ画像をサーバコンピュータに送信し、サーバコンピュータが学習モデル142による推論結果を情報処理装置10に送信する形態であってもよい。
【0030】
訓練データDB143は、学習モデル142の生成処理に用いる訓練データを記憶する。訓練データは、たとえば学習モデル142の入力情報と出力情報とを対応付けたデータである。本実施の形態では、入力情報が溶鋼内のスラグの画像データであり、出力情報が溶鋼中の酸素量に関する酸素量情報である。以下、簡単に「溶鋼上に浮遊するスラグの画像データ」を「スラグ画像」といい、「溶鋼中の酸素量に関する酸素量情報」を「酸素量情報」という。また、学習モデル142が出力する酸素量情報には、後述する第1酸素量情報および第2酸素量情報が含まれる。
【0031】
なお、情報処理装置10は可搬型記憶媒体10aを読み取る読取部を備え、可搬型記憶媒体10aからプログラム140を読み込んでもよい。また、情報処理装置10は、通信ネットワークNWを介して他のコンピュータからプログラム140をダウンロードしてもよい。
【0032】
表示部15は液晶ディスプレイまたは有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の表示画面であり、画像を表示する。表示部15は、たとえば後述する、学習モデル142が出力する結果画面を表示する。
【0033】
入力部16はタッチパネルまたは機械式操作ボタン等の入力インタフェースであり、監査人から操作入力を受け付ける。入力部16は、作業者の音声指令を収集するマイクロフォンであってもよい。
【0034】
図4は、撮像装置20の構成例を示すブロック図である。撮像装置20は、制御部21、記憶部22、通信部23、および撮像部24を含む。
【0035】
制御部21は一または二以上のCPU、MPU、GPU、もしくは量子プロセッサ等のプロセッサであり、種々の情報処理を実行する。
【0036】
記憶部22はSRAMまたはDRAM等の一時記憶領域であり、制御部21が処理を実行するうえで必要なデータを一時的に記憶する。
【0037】
通信部23は、インターネットまたはLAN等の通信ネットワークNWに接続するための通信インタフェースである。
【0038】
撮像部24はCCD(Charge-Coupled Device)センサまたはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサ等の撮像素子を備えたカメラであり、画像を撮像する。
【0039】
図5は、スラグDB141のデータレイアウトを示す説明図である。スラグDB141は、スラグID(identifier)、スラグ画像、酸素量情報、スラグ採取時刻、および工程番号のフィールドを記憶するDBである。
【0040】
スラグIDフィールドには、スラグを識別するための識別情報(以下、スラグIDという)が記憶される。スラグ画像フィールドには、撮像装置20が取得したスラグ画像がHSV形式で記憶される。スラグ画像の保存形式は、酸素量の推定精度を高める上ではHSVが好ましいが、RGB、CMY、CMYK、HSL、またはYUV等の形式でもよい。また、スラグ画像は、白黒または赤外線カメラにより撮像された画像でもよい。
【0041】
酸素量情報フィールドには、学習モデルが出力した酸素量情報が記憶される。酸素量情報は、たとえば、溶鋼中の酸素量または溶鋼中の酸素レベル等の、溶鋼中の酸素量に関する情報である。スラグ採取時刻フィールドには、該当するスラグをサンプリングした時刻が記憶される。工程番号フィールドには、スラグをサンプリングした際の工程番号(たとえば工程2-1または工程2-3)が記憶される。
【0042】
図6は、訓練データDB143のデータレイアウトを示す説明図である。訓練データDB143は、スラグ画像および酸素量を関連付けて記憶する。
【0043】
スラグ画像フィールドには、撮像装置20が取得したスラグ画像がHSV形式で記憶される。スラグ画像の保存形式は、RGB形式でもよいが、酸素量の推定精度を高める上ではHSV形式が好ましい。学習モデル142にRGB形式のスラグ画像を入力しても、スラグの色変化はG値を中心にして生じており、推定精度が不十分になるためである。本実施の形態において「スラグ画像」というときは、HSV形式であるものとする。酸素量フィールドには、JIS(Japanese Industrial Standards)に規定されている方法(G1239:2014)で測定した溶鋼中の酸素量が記憶される。
【0044】
以下、本システムの詳細について説明する。
【0045】
図7は、学習モデル142の構成例を示す模式図である。
【0046】
情報処理装置10は、訓練データDB143に記憶された複数の訓練データセットを用いて学習モデル142を生成する。学習モデル142は、たとえば深層学習によって生成されるニューラルネットワークモデルであるCNN(Convolutional Neural Network)、DNN(Deep Neural Network)、またはRNN(Recurrent Neural Network)で構成される。具体的には、学習モデル142は、複数のニューロンが相互に結合した構造をなしている。ニューロンは複数の入力に対して演算をおこない、演算結果として一つの値を出力する素子である。ニューロンは、演算に用いられる重み付けの係数および閾値等の情報を有している。
【0047】
学習モデル142は、一または二以上のデータの入力を受け付ける入力層と、入力層にて受け付けたデータに対して演算処理をおこなう中間層と、中間層の演算結果を集約して一または二以上の値を出力する出力層とを備える。
図7に示すように、本実施の形態では、スラグ画像が入力され、酸素量に関する酸素量情報が出力される。
【0048】
本実施の形態では、
図9で詳述するように、学習モデル142は所定の数値(たとえば50ppm)を出力する。その他、学習モデル142が酸素量情報を出力する際は、レベル1からレベル5までのように酸素量を分類して出力するか、または、所定の酸素量より高いか低いかの2値で出力してもよい。
【0049】
情報処理装置10はスラグ画像を学習モデル142に入力し、酸素量情報を出力データとして取得する。情報処理装置10は、学習モデル142から出力された酸素量に関する酸素量情報を、JISに規定されている方法で測定した溶鋼中の酸素量と比較する。情報処理装置10は、酸素量に関する酸素量情報とJISによる酸素量の測定値とに差異が生じなくなるように、たとえば誤差逆伝播法(Backpropagation)を用いてニューロン間の重みを更新する。そして、情報処理装置10は溶鋼中の酸素量を推定する最終的な学習モデル142を生成する。
【0050】
なお、学習モデル142はニューラルネットワークの他に、トランスフォーマ、U-Net、オートエンコーダ、決定木、ランダムフォレスト、勾配ブースティング、またはSVM(Support Vector Machine)等のアルゴリズムを用いて構成されてもよく、複数のアルゴリズムを組み合わせて構成されてもよい。
【0051】
図8は、学習モデル142の生成処理手順を示すフローチャートである。情報処理装置10の制御部11は、プログラム140に基づき以下の処理を実行する。
【0052】
作業者がスラグをサンプリングする。作業者は、撮像装置20を用いてスラグを撮像する。制御部11は、撮像装置20が撮像したスラグ画像を取得して訓練データDB143に記憶する(ステップS101)。
【0053】
作業者は、JIS規格により定められた方法により溶鋼中の酸素量を測定する。作業者は、情報処理装置10の入力部16を通じて測定した酸素量を入力する。制御部11は、入力を受け付けた酸素量をスラグ画像に対応付けて訓練データDB143に記憶する(ステップS102)。ステップS101およびステップS102において、スラグ画像が入力データであり、酸素量が出力データである。
【0054】
制御部11は、多数のスラグについて同様の処理をおこない、複数の訓練データセットを訓練データDB143に記憶する(ステップS103)。制御部11は、訓練データセットを用いて学習モデル142を生成する(ステップS104)。制御部11は、一連の処理を終了する。
【0055】
次に、作業者が本システムを利用して溶鋼処理をおこなう場合を説明する。
【0056】
作業者は、
図1Bに示した工程2-1および工程2-3において、スラグをサンプリングし、撮像装置20を用いてスラグを撮像する。撮像装置20は、撮像したスラグ画像を情報処理装置10に送信する。情報処理装置10は、送信されたスラグ画像を受信する。情報処理装置10は、スラグ画像を学習モデル142に入力して酸素量情報を取得する。情報処理装置10は、取得した酸素量情報をスラグ画像と対応させてスラグDB141に記憶する。
【0057】
さらに作業者は、サンプリングしたスラグの採取時刻および工程番号を情報処理装置10の入力部16を通じて入力する。情報処理装置10は、スラグ画像、酸素量情報、採取時刻、および工程番号を対応付けてスラグDB141に記憶する。
【0058】
図1Bにて説明したように、真空処理の前にスラグをサンプリングする場合を第1時点、真空処理の後にスラグをサンプリングする場合を第2時点という。第1酸素量情報(第1酸素量)は、第1時点における第1スラグをサンプリングし、第1スラグの第1画像データ(以下、第1スラグ画像)を学習モデル142に入力することで取得される。同様に、第2酸素量情報(第2酸素量)は、第2時点における第2スラグをサンプリングし、第2スラグの第2画像データ(以下、第2スラグ画像)を学習モデル142に入力することで取得される。
【0059】
本実施の形態では、一回のサンプリングで得られた一枚のスラグ画像を入力する場合を説明するが、複数回のサンプリングで得られた平均のスラグ画像を入力してもよい。その場合、複数枚あるスラグ画像の平均HSV値を求める前処理をおこなった後に、学習モデル142に平均のスラグ画像を入力する。
【0060】
図9は、情報処理装置10が表示する結果画面の一例である。
図9に示すように、情報処理装置10の表示部15は、第1酸素量および第2酸素量を対比して表示してもよい。また、第1酸素量および第2酸素量を対比させて表示する代わりに、情報処理装置10はそれぞれの酸素量を個別表示させてもよい。
【0061】
以下、情報処理装置10が第1酸素量および第2酸素量を対比して表示する例を説明する。
【0062】
作業者は、作業中に結果画面を確認しながら、第1酸素量を真空処理に移行するか否かの判断材料とし、第2酸素量を鋳込み処理に移行するか否かの判断材料とする。作業者は、第1酸素量およびその他条件が所定条件を満たす場合に真空処理に移行し、第2酸素量およびその他条件が所定条件を満たす場合に鋳込み処理に移行する。
【0063】
以下、それぞれの「所定条件」を「溶鋼中の酸素量が所定値以下である場合」として説明するが、これに限定されない。この他、「所定条件」を「溶鋼中の酸素量が所定レベルである場合」としてもよい。
【0064】
作業者は真空処理を開始するのが妥当であるか否か、溶鋼中の酸素量に関して判断する場合、第1酸素量が所定の数値以下であれば真空処理に移行し、所定の数値より高ければ真空処理には移行しない。真空処理に移行しない場合、作業者は還元精錬をおこない溶鋼中の酸素量を下げる。その後、情報処理装置10は、再サンプリングにより得られた第1スラグ画像を学習モデル142に入力して、第1酸素量を取得する。
【0065】
真空処理後、作業者が鋳込み処理に移行するのが妥当であるか否かを判断する場合には、第2酸素量が所定の数値以下であれば鋳込み処理に移行し、所定の数値より高ければ真空処理を再度実行する。真空処理が再度実行された場合、情報処理装置10は、再サンプリングにより得られた第2スラグ画像を学習モデル142に入力して、第2酸素量を取得する。
【0066】
上記工程の所定の数値(単位はppm)は、作業者が設定変更することができる。具体的には、作業者は、通知画面の下部にある入力ボタン17を通じて、所定の数値をそれぞれ入力する。情報処理装置10は第1酸素量の設定値(以下、第1設定値)および第2酸素量の設定値(以下、第2設定値)の入力を受け付け、第1設定値および第2設定値として記憶する。情報処理装置10は、
図9に示す第1酸素量の設定欄110および第2酸素量の設定欄210に各設定値を表示する。
【0067】
なお、作業者が目的の酸素量を鉄鋼製品ごとに設定してもよい。その場合、情報処理装置10は、第1設定値および第2設定値を受け付け、鉄鋼製品に対応させて補助記憶部14に記憶する。これにより、目的の鉄鋼製品に応じた酸素量の制御をおこなうことができ、高品質な鉄鋼製品を製造することができる。
【0068】
情報処理装置10は、スラグDB141からスラグ採取時刻を検索して、スラグ画像、酸素量情報、および工程番号を読み出す。情報処理装置10は、
図9に示すように、工程番号ごとに、スラグ採取時刻に対応するスラグ画像および各酸素量を対比して表示する。具体的には、情報処理装置10は、真空処理前の工程(工程2-1)にあたるスラグ画像および第1酸素量を第1領域100に表示し、真空処理後の工程(工程2-3)にあたるスラグ画像および第2酸素量を第2領域200に表示する。さらに情報処理装置10は、スラグ採取時刻をそれぞれのスラグ画像上に重畳表示する。作業者は表示部15に表示された表示内容を確認して、次の工程に移行するか否かを判断する。
【0069】
たとえば、
図9に示すように、第1領域100には、第1スラグ画像、第1酸素量(50ppm)、および第1設定値(55ppm)が表示されている。学習モデル142は、第1スラグ画像が入力されると第1酸素量を出力する。情報処理装置10は、第1酸素量を取得し、補助記憶部14に記憶された第1設定値と比較する。情報処理装置10は、第1酸素量が第1設定値以下である場合には、真空処理に移行してよいと判定する。
【0070】
このとき、図示は省略するが、情報処理装置10は表示部15に所定のポップアップ画面を表示する。このポップアップ画面には、溶鋼中の酸素量が所定値以下であることを通知するため、「所定値以下のため真空処理へ移行可」等のメッセージが表示される。作業者はこのメッセージを確認して、真空処理に移行する。なお、ポップアップ画面による通知のほか、音声アラートにより作業者に通知してもよい。
【0071】
たとえば、
図9に示すように、第2領域200には、第2スラグ画像、第2酸素量(30ppm)、および第2設定値(20ppm)が表示されている。学習モデル142は、第2スラグ画像が入力されると第2酸素量を出力する。情報処理装置10は、第2酸素量を取得し、補助記憶部14に記憶された第2設定値と比較する。情報処理装置10は、第2酸素量が第2設定値より高い場合には、鋳込み処理に移行してはいけないと判定する。
【0072】
このとき、図示は省略するが、情報処理装置10は表示部15に所定のポップアップ画面を表示する。このポップアップ画面には、溶鋼中の酸素量が所定値以下ではないことを通知するため、「所定値以下ではないため鋳込み処理へ移行不可」等のメッセージが表示される。作業者はこのメッセージを確認して、真空処理を再度実行する。
【0073】
以上のように、情報処理装置10が真空処理の前後における第1酸素量および第2酸素量を各設定値と比較することで、再現性よく製鋼工程を管理することができる。
【0074】
なお、「所定値以下か否か」のような2段階の出力のほかに、酸素量レベルとして、適正レベル、許容レベル、不可レベル、のように、学習モデル142の出力に基づいて多段階で酸素量情報を出力してもよい。
【0075】
また、情報処理装置10は、第1酸素量および第2酸素量をそれぞれグラフ上にプロットして、縦軸を酸素量、横軸を時間とする折れ線グラフのように表示してもよい。これにより作業者は、溶鋼中の酸素量の時間変化を視覚的に把握することができる。
【0076】
なお、情報処理装置10が表示する酸素量情報は、溶鋼中の酸素量の推定値に限定されず、学習モデル142が酸素量を推定する際に特徴部分として参照した画像領域を表示してもよい。その場合、公知のGrad-CAMの手法を用いて、第1領域100および第2領域200のスラグ画像上にヒートマップで特徴部分を示す。これにより、作業者は、学習モデル142が推定した酸素量の根拠を把握することができ、鉄鋼製品の品質管理を好適に実施することができる。
【0077】
図10は、情報処理装置10が実行するプログラム140の処理手順を示すフローチャートである。情報処理装置10の制御部11は、プログラム140に基づき以下の処理を実行する。
【0078】
撮像装置20はスラグを撮影してスラグ画像を取得する。撮像装置20は、情報処理装置10にスラグ画像を送信する。制御部11は、通信部13を介してスラグ画像を受信する(ステップS201)。制御部11は、スラグDB141のスラグIDに対応付けてスラグ画像を記憶する(ステップS202)。制御部11は、補助記憶部14から学習モデル142を読み出す(ステップS203)。
【0079】
制御部11は、学習モデル142にスラグDB141のスラグ画像を入力する(ステップS204)。制御部11は、学習モデル142が出力した酸素量情報をスラグDB141のスラグIDに対応付けて記憶する(ステップS205)。
【0080】
制御部11は、当該酸素量情報に基づき、溶鋼中の酸素量が所定値以下であるか否かを判定する(ステップS206)。所定値以下であると判定した場合(ステップS206:YES)、制御部11は、所定値以下である旨を表示部15に表示する(ステップS207)。一方、所定値以下ではないと判定した場合(ステップS206:NO)、制御部11は、所定値以下ではない旨を表示部15に表示する(ステップS208)。制御部11は、一連の処理を終了する。
【0081】
図11は、情報処理装置10が実行するプログラム140の処理手順を示すフローチャートである。情報処理装置10の制御部11は、プログラム140に基づき以下の処理を実行する。
【0082】
作業者が第1時点の溶鋼上に浮遊する1スラグをサンプリングする。撮像装置20は第1スラグを撮影して第1スラグ画像を取得し、情報処理装置10に第1スラグ画像を送信する。情報処理装置10は、第1スラグ画像を取得する。
【0083】
制御部11は、補助記憶部14から学習モデル142を読み出す(ステップS301)。制御部11は、学習モデル142に第1スラグ画像を入力する(ステップS302)。制御部11は、学習モデル142が出力した第1酸素量を取得する(ステップS303)。
【0084】
制御部11は、第1酸素量が第1設定値以下であるか否かを判定する(ステップS304)。第1設定値以下ではないと判定した場合(ステップS304:NO)、制御部11は、第1設定値以下ではない旨を表示部15に表示し(ステップS305)、ステップS302の処理に戻る。一方、第1設定値以下であると判定した場合(ステップS304:YES)、制御部11は、第1設定値以下である旨を表示部15に表示する(ステップS306)。
【0085】
真空処理後、作業者が第2時点の溶鋼上に浮遊する第2スラグをサンプリングする。撮像装置20は第2スラグを撮影して第2スラグ画像を取得する。制御部11は、学習モデル142に第2スラグ画像を入力する(ステップS307)。制御部11は、学習モデル142が出力した第2酸素量を取得する(ステップS308)。
【0086】
制御部11は、第2酸素量が第2設定値以下であるか否かを判定する(ステップS309)。第2設定値以下ではないと判定した場合(ステップS309:NO)、制御部11は、第2設定値以下ではない旨を表示部15に表示し(ステップS310)、ステップS307の処理に戻る。一方、第2設定値以下であると判定した場合(ステップS309:YES)、制御部11は、第2設定値以下である旨を表示部15に表示する(ステップS311)。制御部11は、一連の処理を終了する。
【0087】
図12は、溶鋼処理方法を示すフローチャートである。
【0088】
溶鋼を還元精錬する際、作業者は、第1時点の溶鋼上に浮遊する第1スラグをサンプリングする(ステップS401)。撮像装置20は、第1スラグを撮像して第1スラグ画像を取得する(ステップS402)。情報処理装置10は、第1スラグ画像を学習モデル142に入力する(ステップS403)。学習モデル142は、第1時点における第1酸素量を出力する(ステップS404)。
【0089】
作業者は、第1酸素量が所定条件を満たしているか否かを判定する(ステップS405)。第1酸素量が所定条件を満たしている場合(ステップS405:YES)、作業者は真空処理に移行する(ステップS406)。一方、第1酸素量が所定条件を満たしていない場合(ステップS405:NO)、作業者は真空処理に移行せずにステップS401の処理へ戻る。
【0090】
真空処理後、作業者は、第2時点の溶鋼上に浮遊する第2スラグをサンプリングする(ステップS407)。撮像装置20は、第2スラグを撮像して第2スラグ画像を取得する(ステップS408)。情報処理装置10は、第2スラグ画像を学習モデル142に入力する(ステップS409)。学習モデル142は、第2時点における第2酸素量を出力する(ステップS410)。
【0091】
情報処理装置10は、第2酸素量が所定条件を満たしているか否かを判定する(ステップS411)。第2酸素量が所定条件を満たしていない場合(ステップS411:NO)、作業者は鋳込み処理に移行せずにステップS406の処理へ戻る。一方、第2酸素量が所定条件を満たしている場合(ステップS411:YES)、作業者は鋳込み処理に移行する(ステップS412)。溶鋼処理方法は、一連の処理を終了する。
【0092】
なお、ステップS406における所定条件としての酸素量と、ステップS412における所定条件としての酸素量とは相違していてもよい。
【0093】
以上、本実施の形態によれば、情報処理装置10は、学習モデル142にスラグ画像を入力することで得られた酸素量情報を出力することで、作業者の溶鋼処理に係る業務を支援することができる。
【0094】
今回開示された実施の形態はすべての点において例示であり、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は上記のように開示された意味ではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて定められ、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内において、すべての変更が含まれる。
【0095】
各実施形態に記載した事項は相互に組み合わせることができる。また、特許請求の範囲に記載した独立請求項および従属請求項は、引用形式に関わらず全てのあらゆる組み合わせにおいて、相互に組み合わせることができる。さらに、特許請求の範囲には他の2以上のクレームを引用するクレームを記載する形式(マルチクレーム形式)を用いているが、これに限るものではない。マルチクレームを少なくとも一つ引用するマルチクレーム(マルチマルチクレーム)を記載する形式を用いて記載してもよい。
【符号の説明】
【0096】
10 情報処理装置
10a 可搬型記憶媒体
11 制御部
12 主記憶部
13 通信部
14 補助記憶部
140 プログラム(プログラム製品)
141 スラグDB
142 学習モデル
143 訓練データDB
15 表示部
16 入力部
17 入力ボタン
100 第1領域
110 第1酸素量の設定欄
200 第2領域
210 第2酸素量の設定欄
20 撮像装置
21 制御部
22 記憶部
23 通信部
24 撮像部
40 電気炉
50 取鍋
60 サンプリング棒
70 三相電極
NW 通信ネットワーク