(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048982
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】既設杭の引き抜き方法
(51)【国際特許分類】
E02D 9/02 20060101AFI20240402BHJP
【FI】
E02D9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155189
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】522383425
【氏名又は名称】株式会社ジオック技研
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 剛
(72)【発明者】
【氏名】島津 藤夫
(72)【発明者】
【氏名】児玉 修
(72)【発明者】
【氏名】林 正義
(72)【発明者】
【氏名】桑原 賢二
【テーマコード(参考)】
2D050
【Fターム(参考)】
2D050AA01
2D050DA01
2D050DB08
(57)【要約】
【課題】本発明は、従来にない非常に実用的な既設杭の引き抜き方法を提供することを目的とする。
【解決手段】地盤50に埋設された既設杭60を上昇させ、前記既設杭60の上端部位を切断する上昇切断工程を繰り返し行うことで該既設杭60を引き抜く既設杭の引き抜き方法であって、前記既設杭60の周囲の地盤50に形成した掘削孔51に、前記既設杭60に連結する連結部1aを設けた引き上げ長尺連結部材1を挿入配設し、前記上昇切断工程において、前記既設杭60に連結した前記引き上げ長尺連結部材1を引き上げることで該既設杭60の下端部と地盤50との間に形成される引き抜き空間部52に、前記掘削孔51を介して埋戻材40を充填する既設杭の引き抜き方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に埋設された既設杭を上昇させ、前記既設杭の上端部位を切断する上昇切断工程を繰り返し行うことで該既設杭を引き抜く既設杭の引き抜き方法であって、前記既設杭の周囲の地盤に形成した掘削孔に、前記既設杭に連結する連結部を設けた引き上げ長尺連結部材を挿入配設し、前記上昇切断工程において、前記既設杭に連結した前記引き上げ長尺連結部材を引き上げることで該既設杭の下端部と地盤との間に形成される引き抜き空間部に、前記掘削孔を介して埋戻材を充填することを特徴とする既設杭の引き抜き方法。
【請求項2】
地盤に埋設された既設杭を上昇させ、前記既設杭の上端部位を切断する上昇切断工程を繰り返し行うことで該既設杭を引き抜く既設杭の引き抜き方法であって、前記既設杭の周囲の地盤に複数の掘削孔を形成し、一部の掘削孔に前記既設杭に連結する連結部を設けた引き上げ長尺連結部材を挿入配設し、前記上昇切断工程において、前記既設杭に連結した前記引き上げ長尺連結部材を引き上げることで該既設杭の下端部と地盤との間に形成される引き抜き空間部に、前記引き上げ長尺連結部材を挿入配設しない前記掘削孔を介して埋戻材を充填することを特徴とする既設杭の引き抜き方法。
【請求項3】
地盤に埋設された既設杭を上昇させ、前記既設杭の上端部位を切断する上昇切断工程を繰り返し行うことで該既設杭を引き抜く既設杭の引き抜き方法であって、前記既設杭の周囲の地盤に該既設杭に連結する連結部を設けた引き上げ長尺連結部材を挿入配設する掘削孔を形成し、この掘削孔に前記引き上げ長尺連結部材を挿入配設し、その後、前記既設杭の周囲の地盤に該既設杭に連結した前記引き上げ長尺連結部材を引き上げることで当該既設杭の下端部と地盤との間に形成される引き抜き空間部に埋戻材を充填する掘削孔を形成し、前記上昇切断工程において、前記既設杭に連結した前記引き上げ長尺連結部材を引き上げることで前記引き抜き空間部に、前記引き上げ長尺連結部材を挿入配設しない掘削孔を介して埋戻材を充填することを特徴とする既設杭の引き抜き方法。
【請求項4】
請求項2,3いずれか1項に記載の既設杭の引き抜き方法であって、前記埋戻材は、一の前記掘削孔から前記引き抜き空間部に圧送液体Wとともに充填し、他の前記掘削孔から前記圧送液体を地上へ排出することを特徴とする既設杭の引き抜き方法。
【請求項5】
請求項2,3いずれか1項に記載の既設杭の引き抜き方法において、前記埋戻材を充填する前記掘削孔は、前記引き上げ長尺連結部材を挿入配設する前記掘削孔同士の間に夫々形成されるものであることを特徴とする既設杭の引き抜き方法。
【請求項6】
請求項4記載の既設杭の引き抜き方法において、前記埋戻材を充填する前記掘削孔は、前記引き上げ長尺連結部材を挿入配設する前記掘削孔同士の間に夫々形成されるものであることを特徴とする既設杭の引き抜き方法。
【請求項7】
請求項2,3いずれか1項に記載の既設杭の引き抜き方法において、前記引き上げ長尺連結部材を挿入配設しない掘削孔は、前記既設杭の上昇時に生じる前記地盤との摩擦を低減する摩擦低減孔として機能するものであることを特徴とする既設杭の引き抜き方法。
【請求項8】
請求項4記載の既設杭の引き抜き方法において、前記引き上げ長尺連結部材を挿入配設しない掘削孔は、前記既設杭の上昇時に生じる前記地盤との摩擦を低減する摩擦低減孔として機能するものであることを特徴とする既設杭の引き抜き方法。
【請求項9】
請求項5記載の既設杭の引き抜き方法において、前記引き上げ長尺連結部材を挿入配設しない掘削孔は、前記既設杭の上昇時に生じる前記地盤との摩擦を低減する摩擦低減孔として機能するものであることを特徴とする既設杭の引き抜き方法。
【請求項10】
請求項6記載の既設杭の引き抜き方法において、前記引き上げ長尺連結部材を挿入配設しない掘削孔は、前記既設杭の上昇時に生じる前記地盤との摩擦を低減する摩擦低減孔として機能するものであることを特徴とする既設杭の引き抜き方法。
【請求項11】
請求項1~3いずれか1項に記載の既設杭の引き抜き方法において、前記引き抜き空間部に前記埋戻材を充填した後、前記既設杭を降下させて該既設杭の押圧により前記埋戻材の締固めを行うことを特徴とする既設杭の引き抜き方法。
【請求項12】
請求項4記載の既設杭の引き抜き方法において、前記引き抜き空間部に前記埋戻材を充填した後、前記既設杭を降下させて該既設杭の押圧により前記埋戻材の締固めを行うことを特徴とする既設杭の引き抜き方法。
【請求項13】
請求項5記載の既設杭の引き抜き方法において、前記引き抜き空間部に前記埋戻材を充填した後、前記既設杭を降下させて該既設杭の押圧により前記埋戻材の締固めを行うことを特徴とする既設杭の引き抜き方法。
【請求項14】
請求項6記載の既設杭の引き抜き方法において、前記引き抜き空間部に前記埋戻材を充填した後、前記既設杭を降下させて該既設杭の押圧により前記埋戻材の締固めを行うことを特徴とする既設杭の引き抜き方法。
【請求項15】
請求項7記載の既設杭の引き抜き方法において、前記引き抜き空間部に前記埋戻材を充填した後、前記既設杭を降下させて該既設杭の押圧により前記埋戻材の締固めを行うことを特徴とする既設杭の引き抜き方法。
【請求項16】
請求項8記載の既設杭の引き抜き方法において、前記引き抜き空間部に前記埋戻材を充填した後、前記既設杭を降下させて該既設杭の押圧により前記埋戻材の締固めを行うことを特徴とする既設杭の引き抜き方法。
【請求項17】
請求項9記載の既設杭の引き抜き方法において、前記引き抜き空間部に前記埋戻材を充填した後、前記既設杭を降下させて該既設杭の押圧により前記埋戻材の締固めを行うことを特徴とする既設杭の引き抜き方法。
【請求項18】
請求項10記載の既設杭の引き抜き方法において、前記引き抜き空間部に前記埋戻材を充填した後、前記既設杭を降下させて該既設杭の押圧により前記埋戻材の締固めを行うことを特徴とする既設杭の引き抜き方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設杭の引き抜き方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、地盤に埋設される既設杭の引き抜き方法として、特許文献1に開示される既設杭の引き抜き方法(以下、「従来法」という。)が提案されている。
【0003】
この従来法は、既設杭外径より大径のケーシングを、この既設杭を囲繞するようにして、少なくとも既設杭の深度まで回転しながら埋設し、続いて、既設杭の中心軸に沿って貫通孔を穿設した後、上方から貫通孔内に長尺吊り材をその下方先端が貫通孔最下部より若干奥まで挿入し、長尺吊り材下方先端を拡大して既設杭底部端に掛止し、続いて、上方から長尺吊り材を引上げることで既設杭を引き上げ、その後、既設杭を引き抜いて形成されるケーシングに囲繞された抜き痕孔(引き抜き空間部)に埋戻材(土砂)を埋め戻し、最後にケーシングを除去して作業は完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来法は、ケーシングを昇降させたり回動させたりするための大規模な設備(クレーン車などの大型の重機)が必要となるが、例えば周囲が建物で囲まれた狭い施工箇所には適用できないという問題点がある。
【0006】
また、従来法は、前述したように既設杭全体を引き抜いた後の抜き痕孔に埋戻材を埋め戻すが、この埋戻材が密状態で充填されなかった場合の他、埋戻材を充填した後にケーシングを抜くことになる為、このケーシングを抜いた部位に空隙が生じてしまうことが懸念される。
【0007】
本発明は、前述した問題点について鑑みてなされたものであり、従来にない非常に実用的な既設杭の引き抜き方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0009】
地盤50に埋設された既設杭60を上昇させ、前記既設杭60の上端部位を切断する上昇切断工程を繰り返し行うことで該既設杭60を引き抜く既設杭の引き抜き方法であって、前記既設杭60の周囲の地盤50に形成した掘削孔51に、前記既設杭60に連結する連結部1aを設けた引き上げ長尺連結部材1を挿入配設し、前記上昇切断工程において、前記既設杭60に連結した前記引き上げ長尺連結部材1を引き上げることで該既設杭60の下端部と地盤50との間に形成される引き抜き空間部52に、前記掘削孔51を介して埋戻材40を充填することを特徴とする既設杭の引き抜き方法に係るものである。
【0010】
また、地盤50に埋設された既設杭60を上昇させ、前記既設杭60の上端部位を切断する上昇切断工程を繰り返し行うことで該既設杭60を引き抜く既設杭の引き抜き方法であって、前記既設杭60の周囲の地盤50に複数の掘削孔51を形成し、一部の掘削孔51に前記既設杭60に連結する連結部1aを設けた引き上げ長尺連結部材1を挿入配設し、前記上昇切断工程において、前記既設杭60に連結した前記引き上げ長尺連結部材1を引き上げることで該既設杭60の下端部と地盤50との間に形成される引き抜き空間部52に、前記引き上げ長尺連結部材1を挿入配設しない前記掘削孔51を介して埋戻材40を充填することを特徴とする既設杭の引き抜き方法に係るものである。
【0011】
また、地盤50に埋設された既設杭60を上昇させ、前記既設杭60の上端部位を切断する上昇切断工程を繰り返し行うことで該既設杭60を引き抜く既設杭の引き抜き方法であって、前記既設杭60の周囲の地盤50に該既設杭60に連結する連結部1aを設けた引き上げ長尺連結部材1を挿入配設する掘削孔51を形成し、この掘削孔51に前記引き上げ長尺連結部材1を挿入配設し、その後、前記既設杭60の周囲の地盤50に該既設杭60に連結した前記引き上げ長尺連結部材1を引き上げることで当該既設杭60の下端部と地盤50との間に形成される引き抜き空間部52に埋戻材40を充填する掘削孔51を形成し、前記上昇切断工程において、前記既設杭60に連結した前記引き上げ長尺連結部材1を引き上げることで前記引き抜き空間部52に、前記引き上げ長尺連結部材1を挿入配設しない掘削孔51を介して埋戻材40を充填することを特徴とする既設杭の引き抜き方法に係るものである。
【0012】
また、請求項2,3いずれか1項に記載の既設杭の引き抜き方法であって、前記埋戻材40は、一の前記掘削孔51から前記引き抜き空間部52に圧送液体Wとともに充填し、他の前記掘削孔51から前記圧送液体Wを地上へ排出することを特徴とする既設杭の引き抜き方法に係るものである。
【0013】
また、請求項2,3いずれか1項に記載の既設杭の引き抜き方法において、前記埋戻材40を充填する前記掘削孔51は、前記引き上げ長尺連結部材1を挿入配設する前記掘削孔51同士の間に夫々形成されるものであることを特徴とする既設杭の引き抜き方法に係るものである。
【0014】
また、請求項4記載の既設杭の引き抜き方法において、前記埋戻材40を充填する前記掘削孔51は、前記引き上げ長尺連結部材1を挿入配設する前記掘削孔51同士の間に夫々形成されるものであることを特徴とする既設杭の引き抜き方法に係るものである。
【0015】
また、請求項2,3いずれか1項に記載の既設杭の引き抜き方法において、前記引き上げ長尺連結部材1を挿入配設しない掘削孔51は、前記既設杭60の上昇時に生じる前記地盤50との摩擦を低減する摩擦低減孔として機能するものであることを特徴とする既設杭の引き抜き方法に係るものである。
【0016】
また、請求項4記載の既設杭の引き抜き方法において、前記引き上げ長尺連結部材1を挿入配設しない掘削孔51は、前記既設杭60の上昇時に生じる前記地盤50との摩擦を低減する摩擦低減孔として機能するものであることを特徴とする既設杭の引き抜き方法に係るものである。
【0017】
また、請求項5記載の既設杭の引き抜き方法において、前記引き上げ長尺連結部材1を挿入配設しない掘削孔51は、前記既設杭60の上昇時に生じる前記地盤50との摩擦を低減する摩擦低減孔として機能するものであることを特徴とする既設杭の引き抜き方法に係るものである。
【0018】
また、請求項6記載の既設杭の引き抜き方法において、前記引き上げ長尺連結部材1を挿入配設しない掘削孔51は、前記既設杭60の上昇時に生じる前記地盤50との摩擦を低減する摩擦低減孔として機能するものであることを特徴とする既設杭の引き抜き方法に係るものである。
【0019】
また、請求項1~3いずれか1項に記載の既設杭の引き抜き方法において、前記引き抜き空間部52に前記埋戻材40を充填した後、前記既設杭60を降下させて該既設杭60の押圧により前記埋戻材40の締固めを行うことを特徴とする既設杭の引き抜き方法に係るものである。
【0020】
また、請求項4記載の既設杭の引き抜き方法において、前記引き抜き空間部52に前記埋戻材40を充填した後、前記既設杭60を降下させて該既設杭60の押圧により前記埋戻材40の締固めを行うことを特徴とする既設杭の引き抜き方法に係るものである。
【0021】
また、請求項5記載の既設杭の引き抜き方法において、前記引き抜き空間部52に前記埋戻材40を充填した後、前記既設杭60を降下させて該既設杭60の押圧により前記埋戻材40の締固めを行うことを特徴とする既設杭の引き抜き方法に係るものである。
【0022】
また、請求項6記載の既設杭の引き抜き方法において、前記引き抜き空間部52に前記埋戻材40を充填した後、前記既設杭60を降下させて該既設杭60の押圧により前記埋戻材40の締固めを行うことを特徴とする既設杭の引き抜き方法に係るものである。
【0023】
また、請求項7記載の既設杭の引き抜き方法において、前記引き抜き空間部52に前記埋戻材40を充填した後、前記既設杭60を降下させて該既設杭60の押圧により前記埋戻材40の締固めを行うことを特徴とする既設杭の引き抜き方法に係るものである。
【0024】
また、請求項8記載の既設杭の引き抜き方法において、前記引き抜き空間部52に前記埋戻材40を充填した後、前記既設杭60を降下させて該既設杭60の押圧により前記埋戻材40の締固めを行うことを特徴とする既設杭の引き抜き方法に係るものである。
【0025】
また、請求項9記載の既設杭の引き抜き方法において、前記引き抜き空間部52に前記埋戻材40を充填した後、前記既設杭60を降下させて該既設杭60の押圧により前記埋戻材40の締固めを行うことを特徴とする既設杭の引き抜き方法に係るものである。
【0026】
また、請求項10記載の既設杭の引き抜き方法において、前記引き抜き空間部52に前記埋戻材40を充填した後、前記既設杭60を降下させて該既設杭60の押圧により前記埋戻材40の締固めを行うことを特徴とする既設杭の引き抜き方法に係るものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明は上述のような構成であるから、前述した従来法のように大規模な設備は必要なく、狭い施工箇所でも適用することができ、しかも、埋戻材で埋め戻した部位に空隙を生じることなく埋め戻し作業が良好に行われるなど、従来にない非常に実用性に秀れた既設杭の引き抜き方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本実施例で使用する既設杭引き抜き装置を示す斜視図である。
【
図2】本実施例で使用する既設杭引き抜き装置の要部の分解斜視図である。
【
図3】本実施例に係る既設杭の引き抜き方法の工程図である。
【
図4】本実施例に係る既設杭の引き抜き方法の工程図である。
【
図5】本実施例に係る既設杭の引き抜き方法の工程図である。
【
図6】本実施例に係る既設杭の引き抜き方法の工程図である。
【
図7】本実施例に係る既設杭の引き抜き方法の工程図である。
【
図8】本実施例に係る既設杭の引き抜き方法の工程図である。
【
図9】本実施例に係る既設杭の引き抜き方法の工程図である。
【
図10】本実施例に係る既設杭の引き抜き方法の工程図である。
【
図11】本実施例に係る既設杭の引き抜き方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0030】
既設杭60の周囲の地盤50に形成した掘削孔51に、既設杭60に連結する連結部1aを設けた引き上げ長尺連結部材1を挿入配設し、その後、上昇切断工程において、既設杭60に連結した引き上げ長尺連結部材1を引き上げることで既設杭60の下端部と地盤50との間に形成される引き抜き空間部52に、掘削孔51を介して埋戻材40を充填する。
【0031】
従って、従来例のようなケーシングを昇降させたり回動させたりするための大規模な設備は不要であり、狭い施工箇所でも確実に適用することができる。
【0032】
また、本発明は、引き抜き空間部52への埋戻材40の充填は、掘削孔51を介して行われる為、引き抜き空間部52に確実に埋戻材40を充填でき、埋戻材40で埋め戻した部位に空洞が生じることが無い。
【実施例0033】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0034】
本実施例は、地盤50に埋設された既設杭60を上昇させ、該既設杭60の上端部位を切断する上昇切断工程を繰り返し行うことで該既設杭60を引き抜く既設杭の引き抜き方法であって、この既設杭60の引き抜き方法で使用する既設杭引き抜き装置Gを設けている。尚、本実施例に係る既設杭60(柱状改良体)とは、例えば地盤50上に構築される建物を支持する長さ約10m,直径約60cmのコンクリート製の地盤補強構造体である。
【0035】
この既設杭引き抜き装置Gは、
図1,2に図示したように既設杭60に連結する複数(4本)の引き上げ長尺連結部材1と、この引き上げ長尺連結部材1を引き上げる引上げ構造体10とを有するものである。尚、本実施例に係る既設杭引き抜き装置G(引き上げ長尺連結部材1及び引上げ構造体10)は、作業者が人力にて持ち運び可能な重量及び大きさに構成されている。
【0036】
引き上げ長尺連結部材1は、
図1,2に図示したように適宜な金属製の部材で形成された断面円形の棒状体であり、所定長(既設杭60よりも長い長さ)を有し、全周面には後述する止着体4,5に係るナット部材4a,5aが螺着するネジ溝1bが形成されている。
【0037】
尚、本実施例では、引き上げ長尺連結部材1を一本物の長尺棒状体で構成したが、複数本の短尺棒状体を継合連結する構成としても良い。
【0038】
この引き上げ長尺連結部材1は、後述する引き上げ構造体10を構成する固定プレート11及び昇降プレート12夫々に設けられる貫挿孔部11b,12bに貫挿させ、この状態で止着体4,5(ナット部材4a,5a及びナット受け部材4b,5b)を介して抜け止め状態とすることで、固定プレート11及び昇降プレート12夫々に垂下支承される。
【0039】
即ち、本実施例では、引き上げ長尺連結部材1を固定プレート11に垂下支承するための止着体4と、引き上げ長尺連結部材1を昇降プレート12に垂下支承するための止着体5が設けられている。
【0040】
この止着体4,5は、
図1,2に図示したように適宜な金属製の部材で形成したものであり、引き上げ長尺連結部材1に螺着するナット部材4a,5aと、上記各プレート11,12の上面に載置されてナット部材4a,5aを支持受けするナット受け部材4b,5bとで構成されている。
【0041】
このナット受け部材4b,5bは、引き上げ長尺連結部材1にスライド挿通可能に被嵌するコ字状体であり、後述する貫挿孔部11b,12bの径よりも大きくナット部材4a,5aの支持受け機能(座金機能)を発揮するように構成されている。
【0042】
従って、この止着体4,5(ナット部材4a,5a及びナット受け部材4b,5b)は、引き上げ長尺連結部材1に対する止着位置を簡易に可変することができ、ひいては固定プレート11及び昇降プレート12に対する引き上げ長尺連結部材1の垂下支承位置を簡易に可変することができる。
【0043】
また、引き上げ長尺連結部材1の下端部には、既設杭60の下端部(地盤埋設部位)に係止連結する連結部1aが設けられている。
【0044】
この連結部1aは、
図1,2に図示したように適宜な金属製の部材で形成したものであり、引き上げ長尺連結部材1の下端部に設けられる基部材1a’と、この基部材1a’に基端部が回動自在に枢着される細長方形板状の係止部材1a”とから成り、係止部材1a”は引き上げ長尺連結部材1(基部材1a’)に対して伏し状態(垂直な添設状態)から起き状態(水平状態)となるまで起伏自在(開閉自在)に設けられている。
【0045】
従って、係止部材1a”は、起き状態とすることで引き上げ長尺連結部材1と交差する方向に突出状態となり、この突出状態で既設杭60の下端部に係止連結することができる。
【0046】
尚、係止部材1a”は、図示省略の付勢部材により起き方向に常時付勢されている。
【0047】
引上げ構造体10は、
図1,2に図示したように上面周方向の等間隔の位置で複数(4つ)のジャッキ13を支持する固定プレート11と、この固定プレート11の上方に間隔を介して配されジャッキ13の作動により昇降する昇降プレート12とを有し、この固定プレート11と昇降プレート12とは後述のように同一構造のプレートである。
【0048】
具体的には、固定プレート11及び昇降プレート12は、
図1,2に図示したように適宜な金属製の部材で形成された円形板状体であり、中央部には引き抜いた既設杭60の通過を許容する既設杭通過孔部11a,12aが設けられている。尚、本実施例に係る既設杭60の引き抜き方法では、昇降プレート12の既設杭通過孔部12aに既設杭60を通過させることはないが、製造効率上及び作業効率上、固定プレート11と昇降プレート12とは同一構造としている。
【0049】
この既設杭通過孔部11a,12aは円形であり、孔内縁の等間隔(45度間隔)の八箇所放射位置に貫挿孔部11b,12bが設けられている。
【0050】
この貫挿孔部11a,12aは、前述した引き上げ長尺連結部材1をスライド挿通可能に被嵌する径を有し、既設杭通過孔部11a,12aに開口状態に設けられている。
【0051】
また、本実施例に係る引上げ構造体10は、地盤50上面に設置され固定プレート11を載置する支持体14を有している。
【0052】
この支持体14は、
図1,2に図示したように適宜な金属製の部材(H鋼)から成る支持部材14aを、平面方向から見てロ字形状に並設して構成された枠状体であり、上面が固定プレート11を載置する載置面に設定されている。
【0053】
ジャッキ13は、
図1,2に図示したようにシリンダー部13aとこのシリンダー部13aから突没自在に設けられる作動杆13bとから成る油圧ジャッキであり、既設杭60を上昇させる程度の能力を有している。
【0054】
本実施例では4つのジャッキ13を用意し、この4つのジャッキ13が図示省略の駆動部の駆動により連動して作動するように構成されている。
【0055】
従って、ジャッキ13を作動(作動杆13bを突没動)させることで昇降プレート12を昇降することができる。
【0056】
また、本実施例は、掘削孔51(引き上げ用掘削孔51a)を形成するための掘削管3(鋼管:SGP100A)と、掘削孔51(埋め戻し用掘削孔51b)を形成するための掘削管7(樹脂管:VP100A)を設けており、いずれも図示省略の掘削液体供給源からホース6を介して掘削液体W1(水)が供給される。
【0057】
また、本実施例では、掘削孔51(埋め戻し用掘削孔51b)に挿入配設され既設杭60の下端部と地盤50との間に形成される引き抜き空間部52に充填材40を充填するための充填材導出管2を設けている。
【0058】
この充填材導出管2には図示省略の充填材供給源から圧送液体W(水)を介して充填材40(砂)が供給される。
【0059】
以上の構成から成る既設杭引き抜き装置Gを用いた既設杭60の引き抜き方法について説明する。
【0060】
本実施例に係る既設杭60の引き抜き方法は、既設杭60の周囲の地盤50に対する掘削孔51(引き上げ用掘削孔51a及び埋め戻し用掘削孔51b)の形成や、この掘削孔51に対する引き上げ長尺連結部材1及び充填材導出管2の挿入配設や、既設杭60の上方部位に既設杭引き抜き装置Gを設置するなどを行う引き抜き前作業と、既設杭60を上昇させ、該既設杭60の上端部位を切断する上昇切断工程を繰り返し行う引き抜き作業とが行われる。
【0061】
先ず、引き抜き前作業について説明する。
【0062】
地盤50に掘削管3(鋼管:SGP100A)を押圧しつつ該掘削管3内に配したホース6から掘削液体W1(水)を噴射して下方へ掘削進行し、掘削管3の下端が既設杭60の下端部下方位置に到達するまで約10cmの掘削孔51(引き上げ用掘削孔51a)を形成する(
図3中の(a)~(c)参照)。尚、掘削管3は複数本の短尺管状体を継合連結する構成である。
【0063】
続いて、地盤50内に配された掘削管3に既設杭引き抜き装置Gに係る引き上げ長尺連結部材1を挿通して該掘削管3の下端開口部から連結部1aを導出すると、係止部材1a”は僅かに起き動し、この状態で掘削管3はそのままで引き上げ長尺連結部材1のみを少し引き上げて掘削管3の下端開口部の縁部を利用して係止部材1a”を完全に起き状態(既設杭60の下端部に係止連結可能な状態)とし、その後、掘削管3を引き抜いて撤去すると、引き上げ用掘削孔51aに引き上げ長尺連結部材1が挿入配設された状態となる(
図4中の(a)~(d)参照)。
【0064】
上記した要領で、既設杭60の周囲の地盤50にして周方向の等間隔を置いた四箇所に引き上げ長尺連結部材1が挿入配設された掘削孔51(引き上げ用掘削孔51a)を形成する(
図4中の(e)参照)。
【0065】
続いて、既設杭60の周囲の地盤50にして引き上げ長尺連結部材1が挿入配設された引き上げ用掘削孔51a同士の各間夫々の地盤50に、掘削管7(樹脂管:VP100A)を押圧しつつ該掘削管7内に配したホース6から掘削液体W1(水)を噴射して下方へ掘削進行し、掘削管7の下端が既設杭60の下端部下方位置に到達するまで約10cmの掘削孔51(埋め戻し用掘削孔51b)を形成し、その後、掘削管7を引き抜いて撤去する(
図5中の(a)~(d)参照)。尚、掘削管7は複数本の短尺管状体を継合連結する構成である。
【0066】
上記の要領で、既設杭60の周囲の地盤50にして周方向の等間隔を置いた四箇所に引き上げ長尺連結部材1が挿入配設されない掘削孔51(埋め戻し用掘削孔51b)を形成する(
図5中の(e)参照)。本実施例では、最後の埋め戻し用掘削孔51bを形成する掘削管7を引き抜く前に該掘削管7に充填材充填管2を挿入することで、埋め戻し用掘削孔51b内に充填材充填管2を配している。尚、複数の埋め戻し用掘削孔51b内に充填材充填管2を挿入配設して複数箇所から充填材40を充填するようにしても良いし、充填材充填管2を用いず若しくは充填材充填管2と併用して掘削管7から充填材40を充填するようにしても良い。
【0067】
続いて、既設杭引き抜き装置Gに係る引上げ構造体10を設置する。
【0068】
具体的には、既設杭60の周囲の地盤50上面に配した支持体14に固定プレート11を載置し、この固定プレート11の上面に載置したジャッキ13(作動杆13bは没状態)の上部に昇降プレート12を載置し、この際、固定プレート11及び昇降プレート12の貫挿孔部11b,12bに、掘削孔51(引き上げ用掘削孔51a)に挿入配設された引き上げ長尺連結部材1を貫挿させており、この引き上げ長尺連結部材1に止着体5(ナット部材5a及びナット受け部材5b)を装着して抜け止め状態とすることで、引き上げ長尺連結部材1を昇降プレート12に垂下支承する(
図6参照)。
【0069】
尚、本実施例では、引き上げ長尺連結部材1を挿入配設する掘削孔51(引き上げ用掘削孔51a)及び引き上げ長尺連結部材1を挿入配設しない掘削孔51(埋め戻し用掘削孔51b)は、いずれも既設杭60の近傍位置に形成することで、既設杭60の上昇時に生じる地盤50との摩擦を低減する摩擦低減孔(縁切り孔)として機能する位置(既設杭60の近傍位置)に設けているが、いずれか一方のみ、例えば埋め戻し用掘削孔51bのみを摩擦低減孔として機能するようにしても良い。また、既設杭60の周囲の地盤50に周方向の等間隔を置いた八箇所に掘削孔51を形成し、その後、一部の掘削孔51にのみ引き上げ長尺連結部材1を挿入配設するようにしても良い。
【0070】
次に、引き抜き作業について説明する。
【0071】
引上げ構造体10におけるジャッキ13を上昇作動(作動杆13bを突動)させて昇降プレート12を所定量上昇させると、引き上げ長尺連結部材1の係止部材1a”が係止連結された既設杭60は所定量上昇する。この際、既設杭60の下端部と地盤50との間に引き抜き空間部52が形成される(
図7参照)。
【0072】
続いて、引き上げ長尺連結部材1に止着体4(ナット部材4a及びナット受け部材4b)を装着して抜け止め状態とすることで、引き上げ長尺連結部材1を固定プレート11に垂下支承し、この状態で、引き上げ長尺連結部材1から止着体5(ナット部材5a及びナット受け部材5b)を外して昇降プレート12を取り外し、固定プレート11よりも上方に突状態となる既設杭60の上端部位を除去(切断)する(
図8参照)。
【0073】
続いて、一の埋め戻し用掘削孔51bにして既設杭60の下端部付近まで挿入挿入された充填材充填管2から圧送液体Wを介して充填材40(砂)を引き抜き空間部52に充填し、他の埋め戻し用掘削孔51bを介して地盤50に吸収されない余剰の圧送液体Wを地上へ排出する(
図9参照)。尚、本実施例では、引き抜き空間部52に充填材40を充填するタイミングとして、既設杭60を所定量上昇させた後(既設杭60の上端部位を除去した後)に充填材40を充填しているが、既設杭60を上昇させながら該既設杭60を所定量上昇させるまでの間に充填材40を同時に充填しても良いし、また、充填材40を充填する掘削孔51として、埋め戻し用掘削孔51bに限らず、引き上げ用掘削孔51aを介して引き抜き空間部52に充填材40を充填するようにしても良し、また、圧送液体Wを排出する掘削孔51として、埋め戻し用掘削孔51bに限らず、引き上げ用掘削孔51aを介して圧送液体Wを地上に排出するようにしても良い。
【0074】
続いて、昇降プレート12をジャッキ13(作動杆13bは突状態)の上部に載置し、この際、昇降プレート12の貫挿孔部12bに、引き上げ長尺連結部材1を貫挿させており、この引き上げ長尺連結部材1に止着体5(ナット部材5a及びナット受け部材5b)を装着して抜け止め状態とすることで、引き上げ長尺連結部材1を昇降プレート12に垂下支承し、この状態で、固定プレート11に対する止着体4を介した引き上げ長尺連結部材1の垂下支承を解除し、ジャッキ13を降下作動(作動杆13bを没動)させると、既設杭60は降下して該既設杭60の押圧(重量)により埋戻材40(砂)の締固めが行われ(
図10参照)、更にジャッキ13を降下作動(作動杆13baを没動)すると、既設杭60は埋戻材40で支持されることで降下せず昇降プレート12のみが降下し、ジャッキ13の降下作動停止により昇降プレート11の降下も停止し、この昇降プレート11に止着体5を介して引き上げ長尺連結部材1を垂下支承し、この状態でジャッキ13を上昇作動(作動杆13bを突動)させると既設杭60は所定量上昇し、固定プレート11の既設杭通過孔部11bを通過して該固定プレート11よりも上方に既設杭60の上端部が突出状態となり(
図11参照)、この固定プレート11よりも上方に突出した既設杭60の上端部を切断する。
【0075】
その後、上記の要領で上昇切断工程を繰り返して既設杭60の全部を地盤50から引き抜く。
【0076】
本実施例は上述のように構成したから、従来例のようなケーシングを昇降させたり回動させたりするための大規模な設備は不要であり、地盤50を削孔する程度の小規模な設備があれば良く、狭い施工箇所でも確実に適用することができる。
【0077】
また、本実施例は、引き抜き空間部52への埋戻材40の充填は、埋め戻し用掘削孔51bを介して行われる為、既設杭60を上昇させることで既設杭60の下端部と地盤50との間に形成される引き抜き空間部52に確実に埋戻材40を充填でき、埋戻材40で埋め戻した部位に空洞が生じることが無い。
【0078】
また、本実施例は、既設杭60の周囲の地盤50に該既設杭60に連結する連結部1aを設けた引き上げ長尺連結部材1を挿入配設する掘削孔51(引き上げ用掘削孔51a)を形成し、この掘削孔51(引き上げ用掘削孔51a)に引き上げ長尺連結部材1を挿入配設し、その後、既設杭60の周囲の地盤50に該既設杭60に連結した引き上げ長尺連結部材1を引き上げることで当該既設杭60の下端部と地盤50との間に形成される引き抜き空間部52に埋戻材40を充填する掘削孔51(埋め戻し用掘削孔51b)を形成し、上昇切断工程において、既設杭60に連結した引き上げ長尺連結部材1を引き上げることで引き抜き空間部52に、引き上げ長尺連結部材1を挿入配設しない掘削孔51(埋め戻し用掘削孔51b)を介して埋戻材40を充填するから、既設杭60の上昇と埋戻材40の充填が良好に行われることになる。
【0079】
また、本実施例は、掘削孔51(埋め戻し用掘削孔51b)は既設杭60の周囲の地盤50に複数形成され、一の掘削孔51(埋め戻し用掘削孔51b)から引き抜き空間部52に圧送液体Wとともに埋戻材40を充填し、他の掘削孔51(埋め戻し用掘削孔51b)から圧送液体Wを地上へ排出するから、埋戻材40の充填が良好に行われることになる。
【0080】
また、本実施例は、掘削孔51(引き上げ用掘削孔51a及び埋め戻し用掘削孔51b)は、既設杭60の上昇時に生じる地盤50との摩擦を低減する摩擦低減孔として機能するものであるから、既設杭60の上昇が良好に行われることになる。
【0081】
また、本実施例は、充填材40を導出する充填材導出管2を掘削孔51(埋め戻し用掘削孔51b)に挿入して充填材40を引き抜き空間部52に充填するから、この点においても充填材40の充填が良好に行われることになる。
【0082】
また、本実施例は、引き抜き空間部52に埋戻材40を充填した後、既設杭60を降下させて該既設杭60の押圧により埋戻材40の締固めを行うから、この点においても埋戻材40で埋め戻した部位に空洞が生じることが無い。
【0083】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。