(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048986
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/24 20160101AFI20240402BHJP
【FI】
H02P21/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155196
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】清住 香奈
(72)【発明者】
【氏名】井手 徹
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 和希
(72)【発明者】
【氏名】名和 政道
(72)【発明者】
【氏名】道木 慎二
(72)【発明者】
【氏名】▲ハオ▼ 蓉佼
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG02
5H505GG04
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ17
5H505JJ24
5H505JJ29
5H505LL14
5H505LL16
5H505LL22
5H505LL41
(57)【要約】 (修正有)
【課題】電動機の拡張誘起電圧の位相により推定される回転子の位置に基づいて電動機を駆動させるインバータの動作を制御する制御装置において、電動機の制御性低下を抑制する。
【解決手段】電動機Mの拡張誘起電圧の位相により推定される回転子の位置θ^を用いて電動機Mの各相に流れる電流をd軸電流及びq軸電流に変換し、d軸電流指令値Id*に高周波信号を重畳させるとともに、d軸において磁気飽和が起きるようにd軸電流指令値Id*をオフセットさせてオフセットd軸電流指令値Id*´を生成し、d軸電流Idとオフセットd軸電流指令値Id*´との差が小さくなるようにd軸電圧指令値Vd*を算出するとともに、q軸電流Iqとq軸電流指令値Iq*との差が小さくなるようにq軸電圧指令値Vq*を算出し、位置θ^を用いてd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*に変換する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送波の電圧値と電圧指令値との比較結果により電動機を駆動させるインバータの動作を制御する制御装置であって、
前記電動機の拡張誘起電圧の位相により前記電動機の回転子の位置及び回転数を推定する推定部と、
前記位置を用いて前記電動機の各相に流れる電流をd軸電流及びq軸電流に変換する変換部と、
前記回転数と回転数指令値との回転数差によりd軸電流指令値及びq軸電流指令値を出力する電流指令値出力部と、
前記d軸電流指令値に高周波信号を重畳させるとともに、前記電動機のd軸において磁気飽和が起きるように前記d軸電流指令値をオフセットさせてオフセットd軸電流指令値を生成する信号生成部と、
前記d軸電流と前記オフセットd軸電流指令値との差が小さくなるようにd軸電圧指令値を算出するとともに、前記q軸電流と前記q軸電流指令値との差が小さくなるようにq軸電圧指令値を算出する電圧指令値算出部と、
前記位置を用いて前記d軸電圧指令値及び前記q軸電圧指令値を前記電圧指令値に変換する電圧指令値変換部と、
を備える制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御装置であって、
前記オフセットd軸電流指令値の最小値は、前記電動機のd軸において磁気飽和が起こるときの前記d軸電流である
ことを特徴とする制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機を駆動させるインバータの動作を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
制御装置として、電動機の拡張誘起電圧の位相により電動機の回転子の位置を推定し、その推定した位置に基づいてインバータの動作を制御するものがある。関連する技術として、非特許文献1がある。
【0003】
ところで、電動機のd軸インダクタンスをLd、電動機のq軸インダクタンスをLq、電流指令値に含まれる高周波信号の角周波数をωh、高周波信号の振幅をAhとする場合、拡張誘起電圧の振幅Aeは、下記式1により示される。
【0004】
【0005】
また、表面磁石型モータ(Surface Permanent Magnetic Motor)など突極比(Lq/Ld)が比較的小さい電動機では、突極比が比較的大きい電動機に比べて、上記式1の(Lq-Ld)の値が小さくなるため、拡張誘起電圧の振幅Aeが小さくなる。
【0006】
そのため、上記制御装置では、突極比が比較的小さい電動機の動作を制御する場合、拡張誘起電圧がノイズの影響を受けて拡張誘起電圧の位相に誤差が含まれ易くなるため、回転子の位置の推定精度が低下し、電動機の制御性が低下するおそれがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】二村 拓未、道木 慎二、「二種類のEEMFモデルを併用したPMSMの全速度域位置センサレス制御の一構成」、2019年、平成31年電気学会全国大会、p187-188
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一側面に係る目的は、拡張誘起電圧の位相により推定される回転子の位置に基づいて、電動機を駆動させるインバータの動作を制御する制御装置において、電動機の制御性低下を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る一つの形態である制御装置は、搬送波の電圧値と電圧指令値との比較結果により電動機を駆動させるインバータの動作を制御する制御装置であって、前記電動機の拡張誘起電圧の位相により前記電動機の回転子の位置及び回転数を推定する推定部と、前記位置を用いて前記電動機の各相に流れる電流をd軸電流及びq軸電流に変換する変換部と、前記回転数と回転数指令値との回転数差によりd軸電流指令値及びq軸電流指令値を出力する電流指令値出力部と、前記d軸電流指令値に高周波信号を重畳させるとともに、前記電動機のd軸において磁気飽和が起きるように前記d軸電流指令値をオフセットさせてオフセットd軸電流指令値を生成する信号生成部と、前記d軸電流と前記オフセットd軸電流指令値との差が小さくなるようにd軸電圧指令値を算出するとともに、前記q軸電流と前記q軸電流指令値との差が小さくなるようにq軸電圧指令値を算出する電圧指令値算出部と、前記位置を用いて前記d軸電圧指令値及び前記q軸電圧指令値を前記電圧指令値に変換する電圧指令値変換部とを備える。
【0010】
これにより、d軸において磁気飽和が起きる期間において、d軸インダクタンスが比較的小さくなり、上記式1の拡張誘起電圧の振幅Aeを比較的大きくさせることができる。そのため、拡張誘起電圧がノイズの影響を受け難くなり、回転子の位置の推定精度低下を抑制することができ、電動機の制御性低下を抑制することができる。
【0011】
また、前記オフセットd軸電流指令値の最小値は、前記電動機のd軸において磁気飽和が起こるときの前記d軸電流としてもよい。
【0012】
これにより、d軸電流の1周期全体において磁気飽和を起こすことができ、1周期全体において上記式1の拡張誘起電圧の振幅Aeを比較的大きくさせることができる。これにより、拡張誘起電圧がノイズの影響をさらに受け難くなり、回転子の位置の推定精度低下をさらに抑制することができ、電動機の制御性低下をさらに抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電動機の拡張誘起電圧の位相により推定される回転子の位置に基づいて電動機を駆動させるインバータの動作を制御する制御装置において、電動機の制御性低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態における制御装置の一例を示す図である。
【
図2】拡張誘起電圧の推定方法を説明するための図である。
【
図3】d軸電流とd軸鎖交磁束との関係を示す図である。
【
図4】d軸電流指令値をオフセットさせない場合またはオフセットさせた場合におけるd軸電流の一例を示す図である。
【
図5】d軸電流指令値をオフセットさせた場合におけるd軸電流の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下図面に基づいて実施形態について詳細を説明する。
【0016】
図1は、実施形態における電動機の制御装置の一例を示す図である。
【0017】
図1に示す制御装置1は、例えば、電動フォークリフトやプラグインハイブリッド車などの車両に搭載される電動機Mの動作を制御するものであって、インバータ回路2と、制御回路3とを備える。なお、電動機Mは、例えば、表面磁石型モータなどとする。
【0018】
インバータ回路2は、電源Pから供給される電力により電動機Mを駆動させるものであって、コンデンサCと、スイッチング素子SW1~SW6(例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor))と、電流センサSe1、Se2とを備える。すなわち、コンデンサCの一方端子が電源Pの正極端子及びスイッチング素子SW1、SW3、SW5の各コレクタ端子に接続され、コンデンサCの他方端子が電源Pの負極端子及びスイッチング素子SW2、SW4、SW6の各エミッタ端子に接続されている。スイッチング素子SW1のエミッタ端子とスイッチング素子SW2のコレクタ端子との接続点は電流センサSe1を介して電動機MのU相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW3のエミッタ端子とスイッチング素子SW4のコレクタ端子との接続点は電流センサSe2を介して電動機MのV相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW5のエミッタ端子とスイッチング素子SW6のコレクタ端子との接続点は電動機MのW相の入力端子に接続されている。
【0019】
コンデンサCは、電源Pから出力されインバータ回路2へ入力される電圧を平滑する。
【0020】
スイッチング素子SW1は、制御回路3から出力される駆動信号S1に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW2は、制御回路3から出力される駆動信号S2に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW3は、制御回路3から出力される駆動信号S3に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW4は、制御回路3から出力される駆動信号S4に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW5は、制御回路3から出力される駆動信号S5に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW6は、制御回路3から出力される駆動信号S6に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW1~SW6がそれぞれオンまたはオフすることで、電源Pから出力される直流電圧が、互いに位相が120度ずつ異なる3つの交流電圧に変換され、それら交流電圧が電動機MのU相、V相、及びW相の入力端子に印加され電動機Mの回転子が回転する。
【0021】
電流センサSe1は、ホール素子やシャント抵抗などにより構成され、電動機MのU相に流れるU相電流Iuを検出して制御回路3に出力する。また、電流センサSe2は、ホール素子やシャント抵抗などにより構成され、電動機MのV相に流れるV相電流Ivを検出して制御回路3に出力する。
【0022】
制御回路3は、記憶部4と、ドライブ回路5と、演算部6とを備える。
【0023】
記憶部4は、RAM(Random Access Memory)またはROM(Read Only Memory)などにより構成され、後述する閾値ωthや所定時間Tなどを記憶する。
【0024】
ドライブ回路5は、IC(Integrated Circuit)などにより構成され、搬送波(三角波、ノコギリ波、または逆ノコギリ波など)の電圧値と、演算部6から出力されるU相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*とを比較し、その比較結果に応じた駆動信号S1~S6をスイッチング素子SW1~SW6のそれぞれのゲート端子に出力する。
【0025】
例えば、ドライブ回路5は、U相電圧指令値Vu*が搬送波の電圧値以上である場合、ハイレベルの駆動信号S1を出力するとともに、ローレベルの駆動信号S2を出力し、U相電圧指令値Vu*が搬送波の電圧値より小さい場合、ローレベルの駆動信号S1を出力するとともに、ハイレベルの駆動信号S2を出力する。また、ドライブ回路5は、V相電圧指令値Vv*が搬送波の電圧値以上である場合、ハイレベルの駆動信号S3を出力するとともに、ローレベルの駆動信号S4を出力し、V相電圧指令値Vv*が搬送波の電圧値より小さい場合、ローレベルの駆動信号S3を出力するとともに、ハイレベルの駆動信号S4を出力する。また、ドライブ回路5は、W相電圧指令値Vw*が搬送波の電圧値以上である場合、ハイレベルの駆動信号S5を出力するとともに、ローレベルの駆動信号S6を出力し、W相電圧指令値Vw*が搬送波の電圧値より小さい場合、ローレベルの駆動信号S5を出力するとともに、ハイレベルの駆動信号S6を出力する。
【0026】
演算部6は、マイクロコンピュータなどにより構成され、電流変換部7と、推定部8と、減算部9と、トルク指令値算出部10と、電流指令値出力部11と、信号生成部12と、減算部13と、減算部14と、電圧指令値算出部15と、電圧指令値変換部16とを備える。例えば、マイクロコンピュータが記憶部4に記憶されているプログラムを実行することにより、電流変換部7、推定部8、減算部9、トルク指令値算出部10、電流指令値出力部11、信号生成部12、減算部13、減算部14、電圧指令値算出部15、及び電圧指令値変換部16が構成される。
【0027】
電流変換部7は、電流センサSe1により検出されるU相電流Iu及び電流センサSe2により検出されるV相電流Ivを用いて、電動機MのW相に流れるW相電流Iwを求める。
【0028】
また、電流変換部7は、推定部8により推定される位置θ^を用いて、U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwをd軸電流Id(電動機Mに弱め界磁を発生させるための電流成分)及びq軸電流Iq(電動機Mにトルクを発生させるための電流成分)に変換する。
【0029】
例えば、電流変換部7は、下記式2に示す変換行列C1を用いて、U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwを、d軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。
【0030】
【0031】
なお、電流センサSe1、Se2により検出される電流は、U相電流Iu及びV相電流Ivの組み合わせに限定されず、V相電流Iv及びW相電流Iwの組み合わせ、または、U相電流Iu及びW相電流Iwの組み合わせでもよい。電流センサSe1、Se2によりV相電流Iv及びW相電流Iwが検出される場合、電流変換部7は、V相電流Iv及びW相電流Iwを用いて、U相電流Iuを求める。また、電流センサSe1、Se2によりU相電流Iu及びW相電流Iwが検出される場合、電流変換部7は、U相電流Iu及びW相電流Iwを用いて、V相電流Ivを求める。
【0032】
また、インバータ回路2において、電流センサSe1、Se2の他に、電動機MのW相に流れるW相電流Iwを検出する電流センサSe3をさらに備える場合、電流変換部7は、推定部8により推定される位置θ^を用いて、電流センサSe1~Se3により検出されるU相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwをd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換するように構成してもよい。
【0033】
推定部8は、電動機Mのq軸インダクタンスLqをパラメータとして含む電動機MのモデルMLqと、電流変換部7から出力されるd軸電流Id及びq軸電流Iqと、電圧指令値算出部15から出力されるd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*とを用いて、電動機Mの拡張誘起電圧eを推定する。
【0034】
また、推定部8は、拡張誘起電圧eを用いて、電動機Mの回転子の位置θ^を推定する。
【0035】
また、推定部8は、位置θ^を一定時間(演算部6のクロック周期など)で除算することにより回転数ω^を推定する。
【0036】
図2は、電動機MのモデルM
Lqを用いた拡張誘起電圧eの推定方法を説明するための図である。なお、モデルM
Lqは、下記式3により示され、任意の値に調整可能なパラメータとしてq軸インダクタンスLqを含む。Rを電動機Mの抵抗成分とし、pを微分演算子とし、ωを回転子の角周波数(例えば、前回の制御タイミングにおいて推定部8により推定される回転数θ^とする)とし、Iを下記式4により示される単位行列とし、Jを下記式5により示される単位行列とする。
{(R+pLq)I-ωLqJ} ・・・式3
【0037】
【0038】
【0039】
まず、推定部8は、電圧vαと、モデルMLqから出力される電圧Veαとの差に相当する拡張誘起電圧eαを求めるとともに、電圧vβと、モデルMLqから出力される電圧Veβとの差に相当する拡張誘起電圧eβを求める。なお、電圧Veα={(R+pLq)I-ωLqJ}×iαとし、電圧Veβ={(R+pLq)I-ωLqJ}×iβとする。また、拡張誘起電圧eα、eβは、下記式6により示される。また、電圧vα、vβが電動機Mに入力され、電動機Mから出力される電流iα、iβがモデルMLqに入力されるものとする。また、電圧vαは、電圧指令値算出部15から出力されるd軸電圧指令値Vd*を、電動機MのU相、V相、W相のうちのU相に対応する固定座標系のα軸に変換した電圧とする。また、電圧vβは、電圧指令値算出部15から出力されるq軸電圧指令値Vq*を、α軸を基準に90度進んだ固定座標系のβ軸に変換した電圧とする。また、電流iαは、電流変換部7から出力されるd軸電流Idを、α軸に変換した電流とする。また、電流iβは、電流変換部7から出力されるq軸電流Iqをβ軸に変換した電流とする。
【0040】
【0041】
次に、推定部8は、回転数ω^が閾値ωth以下である場合、拡張誘起電圧eα、eβに対して停止低速域の信号処理(同期検波処理やフィルタリング処理など)を行うことで、拡張誘起電圧eαh、eβhを推定する。また、推定部8は、回転数ω^が閾値ωthより大きい場合、拡張誘起電圧eα、eβに対して中高速域の信号処理(フィルタリング処理など)を行うことで、拡張誘起電圧eαω、eβωを推定する。なお、閾値ωthと比較される回転数ω^は、例えば、前回の制御タイミングにおいて推定部8により推定される回転数ω^とする。
【0042】
そして、推定部8は、回転数ω^が閾値ωth以下である場合、下記式7を計算することにより、位置θ^を推定し、回転数ω^が閾値ωthより大きい場合、下記式8を計算することにより、位置θ^を推定する。
【0043】
【0044】
【0045】
なお、推定部8は、回転数ω^が閾値ωthより大きい場合、下記式9に示す電圧方程式を用いて回転数ω^を推定し、その推定した回転数ω^により位置θ^を推定するように構成してもよい。
【0046】
【0047】
また、
図1に示す減算部9は、推定部8により推定される回転数ω^と外部から入力される回転数指令値ω*との回転数差Δωを算出する。
【0048】
トルク指令値算出部10は、減算部9から出力される回転数差Δωを用いて、トルク指令値T*を算出する。例えば、トルク指令値算出部10は、記憶部4に記憶されている、電動機Mの回転子の回転数(角周波数)と電動機Mのトルクとが互いに対応付けられている情報(不図示)を参照して、回転数差Δωに相当する回転数に対応するトルクを、トルク指令値T*として求める。
【0049】
電流指令値出力部11は、トルク指令値T*を用いて、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を出力する。例えば、電流指令値出力部11は、記憶部4に記憶されている、電動機Mのトルクとd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*とが互いに対応付けられている情報(不図示)を参照して、トルク指令値T*に対応するd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を求める。
【0050】
すなわち、電流指令値出力部11は、回転数ω^と回転数指令値ω*との回転数差Δωによりd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を出力する。なお、d軸電流指令値Id*は、基本0(ゼロ)[A]であるが、電動機Mの特性(電動機Mの種類や製造バラツキ等)によって変動することがある。
【0051】
信号生成部12は、電流指令値出力部11から出力されるd軸電流指令値Id*に拡張誘起電圧を励起させるための高周波信号を重畳させるとともに、電動機Mのd軸において磁気飽和が起きるように電流指令値出力部11から出力されるd軸電流指令値Id*をオフセット(増加)させることでオフセットd軸電流指令値Id*´を生成する。言い換えると、信号生成部12は、d軸電流指令値Id*に、高周波信号とオフセット電流Idoffset(直流電流)を重畳(加算)させることでオフセットd軸電流指令値Id*´を生成する。これにより、d軸電流指令値Id*によって電動機Mが制御される場合のd軸電流Idを、増磁方向にオフセット電流Idoffset分オフセットさせてd軸電流Id´に変化させることができる。
【0052】
なお、d軸電流指令値Id*が0(ゼロ)[A]である場合、オフセット電流Idoffsetの値及び高周波信号の振幅は、固定値とする。すなわち、オフセットd軸電流指令値Id*´の振幅は、固定値となる。固定値は、実験やシミュレーションにより予め求められているものとする。
【0053】
d軸電流指令値Id*が変動する場合、オフセット電流Idoffsetの値及び/又は高周波信号の振幅を固定値とすると、後述するように、d軸電流Id´の1周期全体において磁気飽和を起こすことができなかったり、d軸電流指令値Id*が電動機Mの許容電流値Idupを超えてしまうおそれがある。そのため、d軸電流指令値Id*が変動する場合、d軸電流指令値Id*が電動機Mの許容電流値Idupを超えないように、オフセット電流Idoffsetの値及び/又は高周波信号の振幅を変動させてもよい。または、d軸電流指令値Id*が変動する場合、d軸電流指令値Id*が電動機Mの許容電流値を超えないようにするとともに、d軸電流Id´の1周期全体において磁気飽和が起こるように、オフセット電流Idoffsetの値及び/又は高周波信号の振幅を変動させてもよい。なお、許容電流値Idupが十分に大きい場合、オフセット電流Idoffsetの値及び高周波信号の振幅dは変動させる必要がなく、オフセット電流Idoffsetの値をd軸電流Id´の1周期全体において磁気飽和が起こる大きさに設定するとともに、高周波信号の振幅dを拡張誘起電圧が励起できる大きさに設定しておけばよい。
【0054】
減算部13は、信号生成部12から出力されるオフセットd軸電流指令値Id*´と、電流変換部7から出力されるd軸電流Idとの差ΔId(d軸電流差)を算出する。
【0055】
減算部14は、電流指令値出力部11から出力されるq軸電流指令値Iq*と、電流変換部7から出力されるq軸電流Iqとの差ΔIqを算出する。
【0056】
電圧指令値算出部15は、減算部13から出力される差ΔId及び減算部14から出力される差ΔIqを用いたPI制御により、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を算出する。例えば、電圧指令値算出部15は、下記式10を計算することによりd軸電圧指令値Vd*を求めるとともに、下記式11を計算することによりq軸電圧指令値Vq*を求める。なお、KpはPI制御の比例項の定数とし、KiはPI制御の積分項の定数とし、Lqは電動機Mのq軸インダクタンスとし、Ldは電動機Mのd軸インダクタンスとし、ω^は推定部8により推定される回転数とし、Keは誘起電圧定数とする。
【0057】
d軸電圧指令値Vd*=Kp×差ΔId+∫(Ki×差ΔId)-ω^LqIq・・・式10
【0058】
q軸電圧指令値Vq*=Kp×差ΔIq+∫(Ki×差ΔIq)+ω^LdId+ω^Ke・・・式11
【0059】
すなわち、電圧指令値算出部15は、d軸電流Idとオフセットd軸電流指令値Id*´との差ΔIdが小さくなるようにd軸電圧指令値Vd*を算出するとともにq軸電流Iqとq軸電流指令値Iq*との差ΔIqが小さくなるようにq軸電圧指令値Vq*を算出する。
【0060】
電圧指令値変換部16は、推定部8により推定される位置θ^を用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*に変換する。例えば、電圧指令値変換部16は、下記式12に示す変換行列C2を用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、W相電圧指令値Vw*に変換する。
【0061】
【0062】
ところで、突極比(Lq/Ld)が比較的小さい表面磁石型モータなどを電動機Mとして採用する場合では、拡張誘起電圧eの振幅Aeが比較的小さくなるため、拡張誘起電圧eの推定精度が低下して電動機Mの制御性が低下するおそれがある。
【0063】
そこで、実施形態の制御装置1における信号生成部12は、電動機Mのd軸において磁気飽和が起きるようにd軸電流指令値Id*をオフセットさせてオフセットd軸電流指令値Id*´を生成している。言い換えると、信号生成部12は、d軸電流Idが増磁方向に増加(変化)するようにd軸電流指令値Id*にオフセット電流Idoffsetを加算してオフセットd軸電流指令値Id*´を生成している。
【0064】
図3は、電動機Mにおけるd軸電流Idとd軸鎖交磁束Ψdとの関係の一例を示す図である。なお、
図3に示す二次元座標の横軸はd軸電流Idを示し、縦軸はd軸鎖交磁束Ψdを示し、実線はd軸電流Idとd軸鎖交磁束Ψdとの関係の一例を示している。
【0065】
一般に、d軸電流Idとd軸鎖交磁束Ψdとの関係は、
図3に示すように、d軸電流Idが増加するほどd軸鎖交磁束Ψdが増加し、すなわち、d軸電流Idが増磁方向に増加し、増磁方向へのd軸電流Idの増加がある程度進むと、破線枠内の実線のように、d軸電流Idの増加に対するd軸鎖交磁束Ψdの増加が鈍くなりd軸において磁気飽和が起こる。
【0066】
例えば、d軸電流Idの増加量に対するd軸鎖交磁束Ψdの増加量の割合(実線の傾き)が所定値より小さいとき、d軸において磁気飽和が起こっていると判断する場合において、d軸において磁気飽和が起こるときのd軸電流Idの最小値をd軸飽和電流Idstとする。なお、所定値は、実験やシミュレーションなどにより予め求められているものとする。
【0067】
この場合、d軸電流Idがd軸飽和電流Idst以上になると、d軸において磁気飽和が起こっていると判断することができる。
【0068】
また、d軸電流Idの増加量に対するd軸鎖交磁束Ψdの増加量の割合(実線の傾き)は電動機Mのd軸インダクタンスLdに相当するため、d軸電流Idがd軸飽和電流Idst以上になると、d軸インダクタンスLdが比較的小さいと判断することができる。
【0069】
図4(a)は、d軸電流指令値Id*をオフセットさせていない場合のd軸電流Idの一例を示す図である。また、
図4(b)は、d軸電流Idが増磁方向に増加するようにd軸電流指令値Id*をオフセットさせた場合の増加後のd軸電流Id´の一例を示す図である。なお、
図4(a)及び
図4(b)において、二次元座標の横軸は時間を示し、縦軸は電流を示し、実線はd軸電流指令値Id*をオフセットさせていない場合のd軸電流Idを示し、破線はq軸電流を示し、一点鎖線はd軸飽和電流Id
stを示し、二点鎖線はd軸電流指令値Id*をオフセットさせた場合の増加後のd軸電流Id´を示している。また、d軸電流Idの1周期とd軸電流Id´の1周期は互いに同じとする。
【0070】
図4(a)及び
図4(b)に示すように、d軸電流Id´の1周期のうち、d軸電流Id´がd軸飽和電流Id
st以上である飽和期間Tst´は、d軸電流Idの1周期のうち、d軸電流Idがd軸飽和電流Id
st以上である飽和期間Tstより長い。すなわち、d軸電流Idが増磁方向に増加するようにd軸電流指令値Id*をオフセットさせた場合、d軸電流指令値Id*をオフセットさせていない場合に比べて、d軸において磁気飽和が起きる期間を増加させることができる。
【0071】
すなわち、実施形態の制御装置1では、d軸電流Idが増磁方向に増加するようにd軸電流指令値Id*をオフセットさせることで、d軸において磁気飽和が起きる期間を増加させることができ、d軸インダクタンスLdが比較的小さくなる期間を増加させることができる。これにより、拡張誘起電圧eの振幅Aeを比較的大きくさせることができる期間を増加させることができるため、拡張誘起電圧eがノイズの影響を受け難くなる期間が増加し、回転子の位置θ^の推定精度低下を抑制することができ、電動機Mの制御性低下を抑制することができる。
【0072】
なお、本発明は、以上の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更が可能である。
【0073】
<変形例1>
オフセットd軸電流指令値Id*´の最小値は、電動機Mのd軸において磁気飽和が起こるときのd軸電流Idであってもよい。すなわち、信号生成部12は、オフセットd軸電流指令値Id*´の最小値がd軸飽和電流Idst以上になるように、オフセット電流Idoffsetの値及び高周波信号の振幅は設定されてもよい。
【0074】
図5(a)は、オフセットd軸電流指令値Id*´の最小値がd軸飽和電流Id
st以上である場合の増加後のd軸電流Id´の一例を示す図である。なお、
図5(a)において、二次元座標の横軸は時間を示し、縦軸は電流を示し、破線はq軸電流を示し、一点鎖線はd軸飽和電流Id
stを示し、二点鎖線はオフセットd軸電流指令値Id*´の最小値がd軸飽和電流Id
st以上である場合の増加後のd軸電流Id´を示している。
【0075】
図5(a)に示すように、オフセットd軸電流指令値Id*´の最小値がd軸飽和電流Id
st以上である場合、d軸電流Id´の1周期全体において、d軸電流Id´がd軸飽和電流Id
st以上になるため、d軸電流Id´の1周期全体において磁気飽和を起こすことができる。これにより、d軸電流Id´の1周期全体において拡張誘起電圧eの振幅A
eを比較的大きくさせることができるため、拡張誘起電圧eがノイズの影響をさらに受け難くさせることができる。そのため、回転子の位置θ^の推定精度低下をさらに抑制することができ、電動機Mの制御性低下をさらに抑制することができる。
【0076】
<変形例2>
変形例2の信号生成部12では、オフセットd軸電流指令値Id*´の最小値がd軸飽和電流Idst以上になるように、かつ、d軸電流Id´が電動機Mの許容電流値Idup以下となるように、オフセット電流Idoffsetの値及び高周波信号の振幅を設定している。
【0077】
これにより、
図5(b)に示すように、オフセットd軸電流指令値Id*´の最小値をd軸飽和電流Id
st以上に調整しつつ、増加後のd軸電流Id´の最大値を電動機Mの許容電流値Id
up以下とすることができるため、d軸電流Id´の1周期全体において磁気飽和を起こしつつ、d軸電流Id´を電動機Mの許容電流値Id
up以下とすることができる。
【符号の説明】
【0078】
1 制御装置
2 インバータ回路
3 制御回路
4 記憶部
5 ドライブ回路
6 演算部
7 電流変換部
8 推定部
9 減算部
10 トルク指令値算出部
11 電流指令値出力部
12 信号生成部
13 減算部
14 減算部
15 電圧指令値算出部
16 電圧指令値変換部
P 電源
C コンデンサ
Se1 電流センサ
Se2 電流センサ