(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004901
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】無機成形体用バインダー及び無機成形体
(51)【国際特許分類】
C04B 35/636 20060101AFI20240110BHJP
C08L 1/04 20060101ALI20240110BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240110BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20240110BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C04B35/636 500
C08L1/04
C08L101/00
C08K3/00
C08K5/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104794
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168893
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 正路
(72)【発明者】
【氏名】後藤 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 じゆん
(72)【発明者】
【氏名】岡部 玄
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA002
4J002AB011
4J002AB032
4J002DA066
4J002DA086
4J002DD067
4J002DE076
4J002DE086
4J002DE096
4J002DE106
4J002DE116
4J002DE136
4J002DE146
4J002DE186
4J002DF016
4J002DF036
4J002DH046
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002DK006
4J002DL006
4J002DM006
4J002EN017
4J002EN037
4J002FA041
4J002FD147
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】成形性と硬さを両立しながら無機成形体を成形すること。
【解決手段】前記課題は、酸化セルロースを含む、無機成形体用バインダーであって、前記無機成形体用バインダーを用いて作成される円柱状の無機成形体の塑性変形仕事が、13mJ以下を満たし、且つ、ヤング率が、200kPa以上を満たす、無機成形体用バインダーを使用することにより解決できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化セルロースを含む、無機成形体用バインダーであって、
前記無機成形体用バインダーを用いて作成される円柱状の無機成形体の塑性変形仕事が、13mJ以下を満たし、且つ、ヤング率が、200kPa以上を満たす、無機成形体用バインダー。
【請求項2】
酸化セルロースを含む、無機成形体用バインダーであって、
前記酸化セルロース以外の第2のバインダーと組み合わせて用いられる、
無機成形体用バインダー。
【請求項3】
前記酸化セルロースの量が、前記酸化セルロースと前記第2のバインダーとの合計質量を基準として、10~60質量%である、
請求項2に記載の無機成形体用バインダー。
【請求項4】
前記酸化セルロースが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、
請求項1~3のいずれか一項に記載の無機成形体用バインダー。
【請求項5】
前記酸化セルロースが、カルボキシ基を有し、
前記カルボキシ基が、遊離酸、ナトリウム塩、及びアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種の形態である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の無機成形体用バインダー。
【請求項6】
ナノセルロースを含む、無機成形体用バインダーであって、
前記無機成形体用バインダーを用いて作成される円柱状の無機成形体の塑性変形仕事が、13mJ以下を満たし、且つ、ヤング率が、200kPa以上を満たす、無機成形体用バインダー。
【請求項7】
ナノセルロースを含む、無機成形体用バインダーであって、
前記ナノセルロース以外の第2のバインダーと組み合わせて用いられる、
無機成形体用バインダー。
【請求項8】
前記ナノセルロースの量が、前記ナノセルロースと前記第2のバインダーとの合計質量を基準として、10~60質量%である、
請求項7に記載の無機成形体用バインダー。
【請求項9】
前記ナノセルロースが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、
請求項6~8のいずれか一項に記載の無機成形体用バインダー。
【請求項10】
前記ナノセルロースが、カルボキシ基を有し、
前記カルボキシ基が、遊離酸、ナトリウム塩、及びアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種の形態である、
請求項6~8のいずれか一項に記載の無機成形体用バインダー。
【請求項11】
粉末の形態である、
請求項1~3及び6~8のいずれか一項に記載の無機成形体用バインダー。
【請求項12】
請求項1~3及び6~8のいずれか一項に記載の無機成形体用バインダーと、
無機材料と、
を含む、無機成形体を製造するための組成物であって、
前記組成物を成形して得られる円柱状の無機成形体の塑性変形仕事が13mJ以下を満たし、且つ、ヤング率が200kPa以上を満たす、組成物。
【請求項13】
請求項1~3及び6~8のいずれか一項に記載の無機成形体用バインダーと、
前記酸化セルロース又は前記ナノセルロース以外の第2のバインダーと、
無機材料と、
を含む、無機成形体を製造するための組成物。
【請求項14】
前記酸化セルロース又は前記ナノセルロースの量が、前記酸化セルロース又は前記ナノセルロースと前記第2のバインダーとの合計質量を基準として、10~60質量%である、
請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
多価アミン及び/又は多価金属塩を更に含む、
請求項12に記載の組成物。
【請求項16】
請求項12に記載の組成物から製造された非焼成無機成形体。
【請求項17】
請求項12に記載の組成物から製造された焼成無機成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機成形体用バインダー及び無機成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノセルロースは、軽量かつ高強度な繊維状素材であり、各種樹脂に添加した高強度材料の開発が進められている。また、ナノセルロースは、無機化合物へ添加することも検討されている。例えば、特許文献1には、セラミック成形に使用されるバインダーとしてナノセルロースを使用して無機成形体を得ることが開示されている。特許文献1において、ナノセルロースは熱分解温度が低く、セラミックグリーンシート作製における焼成後の残炭物を低く抑えられるとされている。
【0003】
非特許文献1には、非焼成セラミックスの補強材として、ナノセルロースを使用することが提案されている。非特許文献1には、非焼成セラミックスと機械解繊ナノセルロースとを複合化させることにより、硬くて脆い性質を持つセラミックスに靭性を持たせ、人工骨や骨補填材に活用できるとされている。また、非特許文献1においては、成型助剤を加えずに、ナノセルロース水分散液のみをアルミナの粉体と混合し、スラリーを湿式で加圧成形することにより、割れや亀裂の無い成型体を形成すること、その成型体の曲げ強度が向上することが開示されている。
【0004】
さらに、非特許文献2には、陶磁器製造プロセスにおける素焼き(焼成温度:700~800℃)のプロセスを省略するために、陶磁器素材としてTEMPO酸化ナノセルロースを使用することが開示されている。非特許文献2には、化学的に変性したTEMPO酸化ナノセルロースは、測定される平均粒径と粘度に相関があり、繊維長が短く、粘度の低いナノセルロースが低温焼成磁器成型体の強度発現に効果的であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】成形加工、第30巻、第6号、2018
【非特許文献2】環境省 平成30年度 CO2排出削減対策強化誘導型 技術開発・実証事業委託業務報告書(製造プロセスの省エネルギー化によるCO2低排出型陶磁器製造技術の開発・実証)、平成31年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
セラミック等の無機成形体は、所望の形状へと容易に成形できることが求められる。成形を容易に行うことが求められる一方で、無機成形体には硬さも求められる。すなわち、無機成形体には、成形性と硬さを両立することが求められる。
【0008】
特許文献1には、熱分解温度が低く、セラミックグリーンシート作製における焼成後の残炭物を低く抑えられるとされているが、成形性と硬さとを両立できる無機成形体を提供することを目的としていない。
【0009】
非特許文献1の無機成形体の製造においては、機械解繊ナノセルロースをアルミナと混合しスラリーを得るが、当該スラリーの粘度は著しく大きい。そのためこのスラリーより成形しようとすると、成形がしにくいという問題がある。
【0010】
非特許文献2における低温焼成磁器坏土は、TEMPO酸化ナノセルロースを含む。しかしながら、非特許文献2は、成形性と硬さとを両立できる無機成形体を提供することを目的としていない。
【0011】
また、無機成形体の製造の際には、成形性の観点から、無機材料に水を配合した材料を使用することがあるが、水分量が多いと乾燥時間を長くする必要があり、また、水分除去のためエネルギーを要するという課題がある。したがって、成形する際の水分量を抑えながらも、成形性を維持することが求められる。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、成形性と硬さを両立しながら無機成形体を成形することを課題とする。また、本発明は、好ましくは、成形時の水分量を抑えながら、成形性と硬さを両立することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らが鋭意検討した結果、酸化セルロース又はナノセルロースを含む所定の無機成形体用バインダーを使用することによって、成形性と硬さを両立しながら無機成形体を成形できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明によれば、以下の手段が提供される。
[1]
酸化セルロースを含む、無機成形体用バインダーであって、
前記無機成形体用バインダーを用いて作成される円柱状の無機成形体の塑性変形仕事が、13mJ以下を満たし、且つ、ヤング率が、200kPa以上を満たす、無機成形体用バインダー。
[2]
酸化セルロースを含む、無機成形体用バインダーであって、
前記酸化セルロース以外の第2のバインダーと組み合わせて用いられる、
無機成形体用バインダー。
[3]
前記酸化セルロースの量が、前記酸化セルロースと前記第2のバインダーとの合計質量を基準として、10~60質量%である、[2]に記載の無機成形体用バインダー。
[4]
前記酸化セルロースが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、[1]~[3]のいずれかに記載の無機成形体用バインダー。
[5]
前記酸化セルロースが、カルボキシ基を有し、
前記カルボキシ基が、遊離酸、ナトリウム塩、及びアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種の形態である、[1]~[4]のいずれかに記載の無機成形体用バインダー。
[6]
ナノセルロースを含む、無機成形体用バインダーであって、
前記無機成形体用バインダーを用いて作成される円柱状の無機成形体の塑性変形仕事が、13mJ以下を満たし、且つ、ヤング率が、200kPa以上を満たす、無機成形体用バインダー。
[7]
ナノセルロースを含む、無機成形体用バインダーであって、
前記ナノセルロース以外の第2のバインダーと組み合わせて用いられる、
無機成形体用バインダー。
[8]
前記ナノセルロースの量が、前記ナノセルロースと前記第2のバインダーとの合計質量を基準として、10~60質量%である、[7]に記載の無機成形体用バインダー。
[9]
前記ナノセルロースが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、[6]~[8]のいずれかに記載の無機成形体用バインダー。
[10]
前記ナノセルロースが、カルボキシ基を有し、
前記カルボキシ基が、遊離酸、ナトリウム塩、及びアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種の形態である、[6]~[9]のいずれかに記載の無機成形体用バインダー。
[11]
粉末の形態である、[1]~[10]のいずれかに記載の無機成形体用バインダー。
[12]
[1]~[11]のいずれかに記載の無機成形体用バインダーと、
無機材料と、
を含む、無機成形体を製造するための組成物であって、
前記組成物を成形して得られる円柱状の無機成形体の塑性変形仕事が13mJ以下を満たし、且つ、ヤング率が200kPa以上を満たす、組成物。
[13]
[1]~[11]のいずれかに記載の無機成形体用バインダーと、
前記酸化セルロース又は前記ナノセルロース以外の第2のバインダーと、
無機材料と、
を含む、無機成形体を製造するための組成物。
[14]
前記酸化セルロース又は前記ナノセルロースの量が、前記酸化セルロース又は前記ナノセルロースと前記第2のバインダーとの合計質量を基準として、10~60質量%である、[13]に記載の組成物。
[15]
多価アミン及び/又は多価金属塩を更に含む、[12]~[14]のいずれかに記載の組成物。
[16]
[12]~[15]のいずれかに記載の組成物から製造された非焼成無機成形体。
[17]
[12]~[15]のいずれかに記載の組成物から製造された焼成無機成形体。
【発明の効果】
【0015】
本発明の無機成形体用バインダーによれば、成形性と硬さを両立しながら無機成形体を成形することができる。また、本発明の無機成形体用バインダーによれば、好ましくは、成形時の水分量を抑えながら、成形性と硬さを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【発明を実施するための形態】
【0017】
<無機成形体用バインダー>
本発明の一実施形態は、酸化セルロースを含む、無機成形体用バインダーであって、前記無機成形体用バインダーを用いて作成される円柱状の無機成形体の塑性変形仕事が、13mJ以下を満たし、且つ、ヤング率が、200kPa以上を満たす、無機成形体用バインダーに関する。
本発明の一実施形態は、ナノセルロースを含む、無機成形体用バインダーであって、前記無機成形体用バインダーを用いて作成される円柱状の無機成形体の塑性変形仕事が、13mJ以下を満たし、且つ、ヤング率が、200kPa以上を満たす、無機成形体用バインダーに関する。
【0018】
前記円柱状の無機成形体の作成方法は以下のとおりである。
(作成方法)
酸化セルロース又はナノセルロースを2質量部含む量の無機成形体用バインダーと、8質量部のメチルセルロースと、100質量部の炭化ケイ素との混合物(必要に応じて水分量を調節する。)を成形して、直径10mm、高さ10mm、水分量40質量部の円柱状の無機成形体を作成する。
メチルセルロースとしては、信越化学工業社製メトローズSM-4000を使用する。メトローズSM-4000が入手不可能な場合には、代わりに置換度が1.6以上のメチルセルロースを使用してもよい。「置換度」とは、セルロースのグルコース環単位当たり、メトキシ基で置換された水酸基の平均個数を意味する。
成形の条件としては、内径が10mmのシリンダー状の金型に前記混合物(坏土)を詰めたのち、円柱棒とハンマーを用いて内部の空隙がなくなるように充填する。その後、金型から10mmの長さまで坏土を押し出したのち、切り出して作成する。
より具体的な作成方法は、下記実施例に記載のとおりである。
【0019】
前記円柱状の無機成形体の塑性変形仕事及びヤング率の測定方法は以下のとおりである。
(測定方法)
レオメーターを用い、円柱状の無機成形体の円形の面に対して、変形速度1mm/sで、応力が40Nとなるまで圧縮する。圧縮ひずみが4~5mmの範囲における応力の総和を塑性変形仕事(mJ)とする。各時点のひずみに対応する応力と、その時点の前記無機成形体の断面積から真応力を求め(真応力=応力/断面積)、真応力とひずみの値をグラフ化し、原点から前記グラフに接線を引いた時の傾きをヤング率(kPa)とする。
より具体的な測定方法は、下記実施例に記載のとおりである。
【0020】
前記円柱状の無機成形体の塑性変形仕事は、好ましくは4~13mJであり、より好ましくは4~11mJであり、更に好ましくは4~10mJである。
前記円柱状の無機成形体のヤング率は、好ましくは200~500kPaであり、より好ましくは250~450kPaであり、更に好ましくは300~400kPaである。
前記円柱状の無機成形体は、好ましくは塑性変形仕事が4~13mJであり、かつ、ヤング率が200~400kPaであり、より好ましくは塑性変形仕事が4~11mJであり、かつ、ヤング率が200~400kPaであり、更に好ましくは塑性変形仕事が4~10mJであり、かつ、ヤング率が200~400kPaである。
【0021】
本発明の一実施形態は、酸化セルロースを含む、無機成形体用バインダーであって、前記酸化セルロース以外の第2のバインダーと組み合わせて用いられる、無機成形体用バインダーに関する。本発明の一実施形態は、ナノセルロースを含む、無機成形体用バインダーであって、前記ナノセルロース以外の第2のバインダーと組み合わせて用いられる、無機成形体用バインダーに関する。
【0022】
本実施形態の無機成形体用バインダーは、成形性と硬さを両立しながら無機成形体を成形することができ、好ましくは、成形時の水分量を抑えながら、成形性と硬さを両立することができる。無機成形体用バインダーに含まれる酸化セルロース又はナノセルロースは無機成形体の強度を強化することもできる。
【0023】
本発明の無機成形体用バインダーは、酸化セルロース又はナノセルロースを含む水分散液の態様であってもよいが、粉末の形態であることが好ましい。水分散液として使用する場合、酸化セルロース又はナノセルロースの濃度が高いと、水分散液の粘度が上昇して取り扱いにくいという問題がある。これに対して、酸化セルロースの濃度を下げると、水分散液に含まれる水分量が相対的に増えることになる。その場合、必要量の酸化セルロース又はナノセルロースを確保するのに、より多くの水分が含まれることになる。過剰の水分は、成形を困難にするため、本発明の無機成形体用バインダーは粉末の形態であることが好ましい。
【0024】
[第2のバインダー]
無機成形体用バインダーは、酸化セルロース又はナノセルロース以外の第2のバインダーと組み合わせて使用されることが好ましい。第2のバインダーは、無機成形体用バインダー中に含まれている必要は必ずしもなく、無機成形体を製造する際に無機成形体用バインダーと一緒に使用されればよい。第2のバインダーとしては、例えば、無機成形体のバインダー成分として公知のものを使用することができ、具体的には、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等を挙げることができる。
【0025】
無機成形体用バインダーを第2のバインダーと組み合わせて使用する場合、酸化セルロース又はナノセルロースの量は、酸化セルロース又はナノセルロースと第2のバインダーとの合計質量を基準として、好ましくは10~60質量%であり、より好ましくは20~50質量%である。
【0026】
本発明の無機成形体用バインダーは、酸化セルロースを用いてもよく、ナノセルロースを用いてもよい。本発明における酸化セルロースは、解繊処理する前のものである。本発明における酸化セルロースは、単独で解繊してナノセルロースとしてもよいし、無機物やその他の成分等と配合し、適宜混合することにより、微細化しナノセルロースとすることもできる。したがって、酸化セルロースもナノセルロースもバインダーとして用いることができる。
【0027】
[酸化セルロース]
本発明における酸化セルロースは、セルロース系原料の酸化物である。本発明における酸化セルロースは、市販の酸化セルロースを用いることもでき、セルロース系原料の針葉樹パルプ等から調製することにより得られたものを用いることもできる。ナノセルロースを調製する場合、例えば、Cellulose Commun., 14(2), 62(2007)、及び、国際公開2018/230354号パンフレット等を参照して調製することができる。
【0028】
本発明における酸化セルロースを微細化することによりナノセルロースとすることができる。本発明における酸化セルロースから得られるナノセルロースは、後述する[ナノセルロース]の態様であることができる。
【0029】
本発明における酸化セルロースの好適な態様の一つは、次亜塩素酸又はその塩により得られる酸化セルロースである。上記酸化セルロースは、例えば、有効塩素濃度が6質量%以上43質量%以下の次亜塩素酸又はその塩を用いて、セルロース系原料を酸化させることにより得ることができる。上記酸化セルロースの製造において、セルロース系原料を次亜塩素酸又はその塩で酸化する処理では、TEMPO等のN-オキシル化合物を用いる必要がない。本発明における酸化セルロースは、N-オキシル化合物を実質的に含まないことが好ましい。したがって、発明における酸化セルロースの好適な態様の一つは、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、酸化セルロースである。
【0030】
本明細書において、酸化セルロースあるいはこれを解繊して得られたナノセルロースが「N-オキシル化合物を実質的に含んでいない」とは、酸化セルロースを製造する際にN-オキシル化合物を用いていない、又はN-オキシル化合物の含有量が酸化セルロースの総量に対して、2.0質量ppm以下であることを意味し、好ましくは1.0質量ppm以下である。また、N-オキシル化合物の含有量が、セルロース系原料からの増加分として、好ましくは2.0質量ppm以下、より好ましくは1.0質量ppm以下である場合も、「N-オキシル化合物を実質的に含まない」ことを意味する。
N-オキシル化合物の含有量は、公知の手段で測定することができる。公知の手段としては、微量全窒素分析装置を用いる方法が挙げられる。具体的には、酸化セルロース中のN-オキシル化合物由来の窒素成分は、微量全窒素分析装置(例えば、日東精工アナリテック(株)製、装置名:TN-2100H等)を用いて窒素量として測定することができる。
【0031】
酸化セルロースの重合度は600以下であることが好ましい。酸化セルロースの重合度が600を超えると、解繊に大きなエネルギーを要する傾向にあり、十分な易解繊性を発現することができない傾向がある。また、酸化セルロースの重合度が600を超えると、解繊が不十分な酸化セルロースが多くなる傾向がある。易解繊性の観点からは、重合度の下限は特に設定されない。ただし、酸化セルロースの重合度が50未満であると、繊維状というより粒子状のセルロースの割合が多くなり、スラリーの品質が不均一になり粘度が不安定になる。上記の観点から、酸化セルロースの重合度は、50~600であることが好ましい。
【0032】
酸化セルロースの重合度は、より好ましくは580以下であり、更に好ましくは560以下であり、より更に好ましくは550以下であり、更により好ましくは500以下であり、一層好ましくは450以下、より一層好ましくは400以下である。重合度の下限については、より好ましくは60以上であり、更に好ましくは70以上であり、より更に好ましくは80以上であり、一層好ましくは90以上であり、より一層好ましくは100以上であり、更に一層好ましくは110以上であり、最も好ましくは120以上である。重合度の好ましい範囲は、既述の上限及び下限を適宜組み合わせることにより定めることができる。酸化セルロースの重合度は、より好ましくは60~600であり、更に好ましくは70~600であり、より更に好ましくは80~600であり、更により好ましくは80~550であり、一層好ましくは80~500であり、より一層好ましくは80~450であり、更に一層好ましくは80~400である。
【0033】
なお、酸化セルロースの重合度は、酸化反応の際の反応時間、反応温度、pH、及び次亜塩素酸又はその塩の有効塩素濃度等を変更することにより調整することができる。具体的には、酸化度を高めると重合度が低下する傾向があることから、重合度を小さくするには、例えば酸化の反応時間及び/又は反応温度を大きくする方法が挙げられる。他の方法として、酸化セルロースの重合度は、酸化反応時の反応系の攪拌条件によって調整することができる。例えば、攪拌翼等を用いて反応系を十分に均一化した条件下であれば、酸化反応が円滑に進行し、重合度が低下する傾向がある。一方、スターラーによる攪拌等のように反応系の攪拌が不十分となりやすい条件下では、反応が不均一になりやすく、酸化セルロースの重合度を十分に低減することが難しい。また、酸化セルロースの重合度は、原料セルロースの選択によっても変動する傾向がある。このため、セルロース系原料の選択によって酸化セルロースの重合度を調整することもできる。なお、本明細書において、酸化セルロースの重合度は、粘度法により測定された平均重合度(粘度平均重合度)である。
【0034】
酸化セルロースの重合度は、詳細には以下の方法にしたがい測定することができる。
pH10に調整した水素化ホウ素ナトリウム水溶液に酸化セルロースを加え、25℃で5時間、還元処理を行う。水素化ホウ素ナトリウム量は、酸化セルロース1gに対して約0.1gとする。還元処理後、吸引ろ過にて固液分離、水洗を行い、得られた酸化セルロースを凍結乾燥させる。純水約10mlに乾燥させた酸化セルロース約0.04gを加えて2分間撹拌した後、1M銅エチレンジアミン溶液約10mlを加えて溶解させる。その後、キャピラリー型粘度計にて25℃でブランク溶液の流下時間とセルロース溶液の流下時間測定する。ブランク溶液の流下時間(t0)とセルロース溶液の流下時間(t)、酸化セルロースの濃度(c[g/ml])から次式のように相対粘度(ηr)、比粘度(ηsp)、固有粘度([η])を順次求め、粘度測の式から酸化セルロースの重合度(DP)を計算する。
ηr=η/η0=t/t0
ηsp=ηr-1
[η]=ηsp/(100×c(1+0.28ηsp))
DP=175×[η]
【0035】
(カルボキシ基量)
本発明における酸化セルロースのカルボキシ基量は、0.20~2.0mmol/gであることが好ましい。なお、本明細書におけるカルボキシ基量とは、酸化セルロース中の-COOを含む基の量であって、プロトン型(-COOH)や塩型(-COO-X+)等の総量を指す。当該カルボキシ基量が0.20mmol/g以上であると、酸化セルロースに十分な易解繊性を付与することができる。これにより、温和な条件によって解繊処理を行った場合にも、品質が均一化されたナノセルロース含有スラリーを得ることができ、スラリーの粘度安定性、ハンドリング性を向上させることができる。一方、カルボキシ基量が2.0mmol/g以下であると、解繊処理時にセルロースが過度に分解することを抑制でき、粒子状のセルロースの比率が少なく品質が均一なナノセルロースを得ることができる。こうした観点から、カルボキシ基量は、より好ましくは0.30mmol/g以上であり、更に好ましくは0.35mmol/g以上であり、より更に好ましくは0.40mmol/g以上であり、更により好ましくは0.42mmol/g以上であり、一層好ましくは0.50mmol/g以上であり、より一層好ましくは0.50mmol/g超過であり、さらに一層好ましくは0.55mmol/g以上である。カルボキシ基量の上限については、2.0mmol/g未満であってもよく、1.5mmol/g以下であってもよく、1.2mmol/g以下であってもよく、1.0mmol/g以下であってもよく、0.9mmol/g以下であってもよい。カルボキシ基量の好ましい範囲は、既述の上限及び下限を適宜組み合わせることにより定めることができる。カルボキシ基量は、より好ましくは0.30mmol/g以上2.0mmol/g未満であり、更に好ましくは0.35~2.0mmol/gであり、より更に好ましくは0.35~1.5mmol/gであり、更により好ましくは0.40~1.5mmol/gであり、一層好ましくは0.50~1.2mmol/gであり、より一層好ましくは0.50超過~1.2mmol/gであり、さらに一層好ましくは0.55~1.0mmol/gである。
【0036】
なお、カルボキシ基量(mmol/g)は、酸化セルロースを水と混合した水溶液に0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5にした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、pHが11.0になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が穏やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から下記式を用いて算出した値である。詳細は、後述する実施例に記載の方法に従う。カルボキシ基量は、酸化反応の反応時間、反応温度、反応液のpH等を変更することにより調整することができる。
カルボキシ基量=a(ml)×0.05/酸化セルロース質量(g)
【0037】
本発明における酸化セルロースは、好適にはセルロースを構成するグルコピラノース環の水酸基のうち少なくとも2個が酸化された構造を有し、より具体的には、グルコピラノース環の第2位及び第3位の水酸基が酸化されてカルボキシ基が導入された構造を有することが好ましい。また、酸化セルロースにおけるグルコピラノース環の第6位の水酸基は酸化されず、水酸基のままであることが好ましい。なお、酸化セルロースが有するグルコピラノース環におけるカルボキシ基の位置は、固体13C-NMRスペクトルにより解析することができる。上記グルコピラノース環の構造は、Sustainable Chem. Eng. 2020, 8, 48, 17800-17806に記載の方法に準じて解析することにより決定することもできる。
【0038】
[ナノセルロース]
本発明におけるナノセルロースは、セルロースを微細化したものの総称を表し、セルロースナノファイバー(CNFとも記載する)やセルロースナノクリスタル等を含む。なお、「ナノセルロース」は、繊維状セルロースを微細化した繊維状セルロースであるため、「微細セルロース繊維」とも称する。また、本明細書において、微細化をナノ化ともいう。
なお、植物の主成分はセルロースであり、セルロース分子が束になったものがセルロースミクロフィブリルと称される。セルロース系原料中のセルロースもまた、セルロースミクロフィブリルの形態で含まれている。
本発明におけるナノセルロースは、好適には酸化セルロースに由来し、酸化セルロースを微細化することにより得ることができる。ここで酸化セルロースは、上述した[酸化セルロース]の態様であることができる。
また、本発明におけるナノセルロースは、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、ナノセルロースであることが好ましい。また、本発明におけるナノセルロースは、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、酸化セルロースに由来することが好ましいと言うことができる。
【0039】
本発明におけるナノセルロースの平均繊維長は、好ましくは50~4000nmであり、より好ましくは100~1000nmであり、更に好ましくは100~700nmであり、より更に好ましくは100~500nmであり、更により好ましくは100~400nmである。平均繊維長が50nm以上であることにより、ナノセルロースとしての品質が均一になりやすく、無機成形体の材料との配合の作業性がより向上する傾向にある。平均繊維長が4000nm以下であることにより、粗大なナノセルロースの割合を抑え、ナノセルロースの沈殿の発生を抑制し、無機成形体の材料との配合の作業性がより向上する傾向にある。
【0040】
本発明におけるナノセルロースの平均繊維幅は、好ましくは1~200nmであり、より好ましくは1~15.0nmであり、更に好ましくは1~10nmであり、より更に好ましくは1~5nmである。平均繊維幅が1nm以上であることにより、ナノセルロースとしての品質が均一になりやすく、無機成形体の材料との配合の作業性が向上する傾向にある。平均繊維幅が200nm以下であることにより、粗大なナノセルロースの割合を抑え、ナノセルロースの沈殿の発生を抑制し、無機成形体の材料との配合の作業性が向上する傾向にある。
【0041】
本発明におけるナノセルロースにおいて、平均繊維幅と平均繊維長との比で表されるアスペクト比(平均繊維長/平均繊維幅)は、20以上200以下であることが好ましい。
アスペクト比が200以下であることにより、無機成形体の材料とナノセルロースとのネットワークが均一にかつ緻密に形成されやすくなり、強度を高められる傾向にある。こうした観点から、アスペクト比は、より好ましくは190以下であり、さらに好ましくは180以下である。
その一方で、アスペクト比が低すぎる、すなわち、ナノセルロースの形状が細長い繊維状というよりも太い棒状である場合、偏在により凝集が起こり、無機成形体の材料とナノセルロースとのネットワークが形成されにくい傾向にある。また、アスペクト比が低すぎると、無機成形体の材料を含むスラリーの粘度が高くなり、無機成形体製造の作業性が低下する傾向にある。そのため、アスペクト比は、好ましくは20以上であり、より好ましくは30以上であり、さらに好ましくは40以上である。
【0042】
なお、平均繊維幅及び平均繊維長は、ナノセルロースの濃度が概ね1~10ppmとなるようにナノセルロースと水とを混合し、十分に希釈したセルロース水分散体をマイカ基材上で自然乾燥させ、走査型プローブ顕微鏡を用いてナノセルロースの形状観察を行い、得られた像より任意の本数の繊維を無作為に選択し、形状像の断面高さ=繊維幅とし、周囲長÷2=繊維長とすることにより算出した値である。このような平均繊維幅及び平均繊維長の算出には、画像処理のソフトウェアを用いることができる。このとき画像処理の条件は任意であるが、条件によって同一画像であっても算出される値に差が生じる場合がある。条件による値の差の範囲は、平均繊維長については±100nmの範囲内であることが好ましい。条件による値の差の範囲は、平均繊維幅については±10nmの範囲内であることが好ましい。
【0043】
平均繊維長及び平均繊維幅は、詳細には以下の方法にしたがい測定することができる。
オックスフォード・アサイラム社製 走査型プローブ顕微鏡「MFP-3D infinity」を用いて、ACモードでナノセルロースの形状観察を行う。
平均繊維長については、得られた画像を画像処理ソフトウェア「ImageJ」を用いて二値化し解析を行う。繊維100本以上について、繊維長=「周囲長」÷2として平均繊維長を求める。
平均繊維幅については、「MFP-3D infinity」に付属されているソフトウェアを用いて、繊維50本以上について、形状像の断面高さ=繊維幅として数平均繊維幅[nm]を求める。
【0044】
(ゼータ電位)
本発明におけるナノセルロースは、ゼータ電位が-30mV以下であることが好ましい。ゼータ電位が-30mV以下(すなわち、絶対値が30mV以上)であると、ミクロフィブリル同士の反発が十分に得られ、機械的解繊時に表面電荷密度が高いナノセルロースが生じやすくなる。これにより、ナノセルロースの分散安定性が向上し、スラリーとしたときの粘度安定性、及びハンドリング性を優れたものとすることができる。分散安定性の観点からは、ゼータ電位の下限は特に制限されない。ただし、ゼータ電位が-100mV以上(すなわち、絶対値が100mV以下)の場合には、酸化の進行に伴う繊維方向の酸化切断が抑制される傾向にあるため、均一なサイズのナノセルロースを得ることができる傾向にある。
【0045】
上記の観点から、本発明におけるナノセルロースのゼータ電位は、-35mV以下が好ましく、-40mV以下がより好ましく、-50mV以下が更に好ましい。また、ゼータ電位の下限については、-90mV以上が好ましく、-85mV以上がより好ましく、-80mV以上が更に好ましく、-77mV以上がより更に好ましく、-70mV以上が更により好ましく、-65mV以上が一層好ましい。ゼータ電位の範囲は、既述の下限及び上限を適宜組み合わせることができる。ゼータ電位は、好ましくは-90mV以上-30mV以下であり、より好ましくは-85mV以上-30mV以下であり、更に好ましくは-80mV以上-30mV以下である、更により好ましくは-77mV以上-30mV以下であり、より更に好ましくは-70mV以上-30mV以下であり、一層好ましくは-65mV以上-30mV以下であり、より一層好ましくは-65mV以上-35mV以下である。なお、本明細書においてゼータ電位は、本発明におけるナノセルロースと水とを混合してナノセルロースの濃度を0.1質量%としたセルロース水分散体につき、pH8.0、20℃の条件で測定した値である。
【0046】
ゼータ電位は、詳細には以下の方法にしたがい測定することができる。
ナノセルロースに純水を加えて、ナノセルロースの濃度が約0.1%になるように希釈する。希釈後のナノセルロース水分散体に、0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを約8.0に調整して、例えば、大塚電子社製ゼータ電位計(ELSZ-1000)によりゼータ電位を20℃で測定する。
【0047】
(光透過率)
本発明におけるナノセルロースを分散媒中に分散させたナノセルロース分散体は、セルロース繊維の光散乱等が少なく、高い光透過率を示すことができる。具体的には、好適な実施の一形態において、本発明におけるナノセルロースは、水と混合して固形分濃度0.1質量%とした混合液における光透過率が95%以上であることが好ましい。当該光透過率は、より好ましくは96%以上であり、更に好ましくは97%以上であり、より更に好ましくは99%以上である。なお、光透過率は、分光光度計により測定した波長660nmでの値である。
【0048】
光透過率は、例えば、ナノセルロースの水分散体を10mm厚の石英セルに入れて、分光光度計(JASCO V-550)により測定することができる。
【0049】
本発明におけるナノセルロースは、1本単位の繊維の集合体である。本発明におけるナノセルロースがカルボキシル化ナノセルロースを含む場合、少なくとも1本のカルボキシル化されたナノセルロースを含んでいればよく、カルボキシル化されたナノセルロースが主成分であることが好ましい。ここでカルボキシル化ナノセルロースが主成分であるとは、ナノセルロース全量に占めるカルボキシル化ナノセルロースの割合が50質量%超過であること、好ましくは70質量%超過であること、より好ましくは80質量%超過であることを指す。上記割合の上限は100質量%であるが、98質量%であってもよく、95質量%であってもよい。
【0050】
本発明における酸化セルロースあるいは当該酸化セルロースに由来するナノセルロースは、カルボキシ基を有する。本明細書におけるカルボキシ基とは、-COOにより表される基を含んでいればよく、プロトン(遊離酸)型(-COOH、H型とも記載する)や塩型(-COO-X+;X+は、金属カチオンやアンモニウムカチオン)等といった-COOHが取りうるすべての態様を包含する。塩の種類は、特に制限されないが、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩及びバリウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩等のその他の金属塩;アンモニウム塩等が挙げられる。本発明における「ナトリウム塩型(Na型とも記載する)のカルボキシ基」とは、-COO-Na+により表される基を指し、「カリウム塩型(K型とも記載する)のカルボキシ基」とは、-COO-K+により表される基を指す。
ナノセルロースがカリウム型のカルボキシ基を含むことにより、当該ナノセルロースを含む組成物の流動性が維持される傾向にある。
また、ナノセルロースがプロトン型やアンモニウム塩型のカルボキシ基を含むことにより、無機成形体を焼結する場合、焼結性の低下や、物性変化や、割れの原因となりうる灰分の発生を抑制できる傾向にある。さらに、ナノセルロースがプロトン型やアンモニウム塩型のカルボキシ基を含むことにより、無機成形体を焼結する場合、金属ミラーの発生を防ぎ安全性を高められる傾向にある。また、アンモニウム塩型のカルボキシ基を含むことにより、無機成形体の焼成炉をアルカリ金属による汚染を抑えられる傾向にある。
カルボキシ基を塩型あるいはプロトン型に調整する方法としては、例えば、酸化セルロースを得る際の反応系のpHを制御する方法や、酸化セルロースを含む溶液に酸を添加する方法を挙げることができる。酸化セルロースのろ過等の単離処理の前に、単離処理のろ過性や収率を向上させる観点から、酸化セルロースを含む溶液に酸を添加し、例えばpHを4.0以下とし、酸化によって生成したカルボキシ基の少なくとも一部の塩型(-COO-X+:X+はナトリウム、リチウム等の陽イオンを指す)からプロトン型(-COO-H+)としてもよい。
なお、赤外吸収スペクトルにおいて、プロトン型は1720cm-1付近に、塩型は1600cm-1付近にピークが見られることから、それらを区別することができる。
【0051】
[酸化セルロース及びナノセルロースの製造方法]
本発明における酸化セルロースは、例えば、セルロース系原料を次亜塩素酸又はその塩で酸化して酸化セルロースを得る工程Aにより製造することができる。本発明におけるナノセルロースは、例えば、工程Aと、酸化セルロースを解繊する工程Bとを含む方法により製造することができる。上記酸化セルロース及び上記ナノセルロースは、例えば、国際公開2022/009979号パンフレット、国際公開2022/009980号パンフレットを参照し、製造することができる。
【0052】
<無機成形体製造用組成物>
本発明の一実施形態は、上述の無機成形体用バインダーと、無機材料と、を含む、無機成形体を製造するための組成物であって、前記組成物を成形して得られる円柱状の無機成形体の塑性変形仕事が13mJ以下を満たし、且つ、ヤング率が200kPa以上を満たす、組成物に関する。
【0053】
前記円柱状の無機成形体の成形方法は、上記<無機成形体用バインダー>の(作成方法)の欄に記載のとおりであり、そこに記載の「混合物」として本実施形態に係る組成物を使用する。
【0054】
前記円柱状の無機成形体の塑性変形仕事及びヤング率の測定方法は、上記<無機成形体用バインダー>の(測定方法)の欄に記載のとおりである。塑性変形仕事及びヤング率の好ましい値についても、上記<無機成形体用バインダー>の欄に記載のとおりである。
【0055】
本発明の一実施形態は、上述の無機成形体用バインダーと、上述の第2のバインダーと、無機材料と、を含む、無機成形体を製造するための組成物に関する。
【0056】
本実施形態の無機成形体製造用組成物は、成形性と硬さを両立しながら無機成形体を成形することができ、好ましくは、成形時の水分量を抑えながら、成形性と硬さを両立することができる。無機成形体製造用組成物に含まれる酸化セルロースは無機成形体の強度を強化することもできる。
【0057】
無機成形体製造用組成物に含まれる酸化セルロース又はナノセルロースの量は、前記組成物の固形分の合計質量を基準として、好ましくは0.5~15質量%であり、より好ましくは1~10質量%であり、更に好ましくは1.5~5質量%である。酸化セルロース又はナノセルロースの量を前記範囲内とすることによって、成形性と硬さを更に高いレベルで両立しながら無機成形体を成形することができる。
【0058】
無機成形体製造用組成物に含まれる酸化セルロース又はナノセルロースの量は、酸化セルロース又はナノセルロースと第2のバインダーとの合計質量を基準として、好ましくは10~60質量%であり、より好ましくは20~50質量%である。酸化セルロース又はナノセルロースの量を前記範囲内とすることによって、成形性と硬さを更に高いレベルで両立しながら無機成形体を成形することができる。
【0059】
無機成形体製造用組成物に含まれる酸化セルロース又はナノセルロースと第2のバインダーとの合計質量は、前記組成物の固形分の合計質量を基準として、好ましくは1~30質量%であり、より好ましくは3~20質量%であり、より好ましくは5~15質量%である。酸化セルロース又はナノセルロースと第2のバインダーとの合計質量を前記範囲内とすることによって、成形性と硬さを更に高いレベルで両立しながら無機成形体を成形することができる。
【0060】
[無機材料]
無機成形体製造用組成物に含まれる無機材料は、非金属元素、及び/又は、金属元素と非金属元素との無機化合物を含む固体材料であることが好ましい。
【0061】
非金属元素としては、例えば、ホウ素、炭素、ケイ素、及びリン等、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。これらの非金属元素は、非金属元素を含む材料として取り扱うことができる。非金属元素を含む材料としては、具体的には、シリコン、ダイヤモンド等が挙げられる。
金属元素と非金属元素との無機化合物としては、酸化物、炭化物、窒化物等が挙げられる。
【0062】
無機材料としては、非金属元素、上記無機化合物であれば特に制限されないが、金属酸化物、ケイ素化合物、窒化物、及びカルシウム化合物から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。また、金属酸化物、ケイ素化合物、窒化物、及びカルシウム化合物は、無機成形体製造用組成物の固形分の主成分であることが好ましい。ここで、「金属酸化物、ケイ素化合物、窒化物、及びカルシウム化合物が主成分である」とは、無機成形体製造用組成物の固形分中の金属酸化物、ケイ素化合物、窒化物、及びカルシウム化合物のいずれか一種以上の合計割合が、前記固形分に対し、通常50質量%超過であることを指す。上記割合は、好ましくは60~98質量%、より好ましくは70~96質量%、さらに好ましくは80~94質量%である。
【0063】
金属酸化物としては、例えば、酸化銅(CuO)、酸化鉄(Fe2O3)、酸化コバルト(Co2O3)、酸化亜鉛(ZnO)、ジルコニア(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化セリウム(CeO2)、酸化リチウム(Li2O)、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化マンガン(Mn2O3)、酸化インジウム(In2O3)、酸化スズ(SnO2)、アルミナ(Al2O3)、酸化ランタン(La2O3)、酸化プラセオジム(Pr2O3)、酸化ネオジム(Nd2O3)、酸化サマリウム(Sm2O3)、酸化ユウロピウム(Eu2O3)、酸化ガドリニウム(Gd2O3)、酸化テルビウム(Tb2O3)、及び酸化ジスプロシウム(Dy2O3)等が挙げられる。これらは1種単独で含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。これらの中でも、好ましくは、ZnO、ZrO2、TiO2、MgO、Al2O3である。
【0064】
ケイ素化合物としては、例えば、炭化ケイ素(SiC)、及び窒化ケイ素(Si3N4)シリカ(SiO2)、カオリン[Al2SiO5(OH)4]、タルク[Mg3Si4O10(OH)2]等を挙げることができる。これらは1種単独で含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0065】
窒化物としては、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、及び窒化ホウ素(BN)等を挙げることができる。これらは1種単独で含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0066】
カルシウム化合物としては、例えば、石灰、リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト(水酸化リン酸カルシウムともいう)、ケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO2)(エーライトともいう)、ケイ酸二カルシウム(2CaO・SiO2)(ビーライトともいう)、カルシウムアルミネート(3CaO・Al2O3)(アルミネートともいう)、カルシウムアルミノフェライト(4CaO・Al2O3・Fe2O3)(フェライトともいう)、硫酸カルシウム等を挙げることができる。これらは1種単独で含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0067】
その他に、ガラス、粘土、粘土鉱物、シャモット、珪砂、珪藻土、陶石、長石、高炉スラグ、シラス、シラスバルーン、フライアッシュ等の他、特殊セラミック原料、例えばコージェライト、マイカ、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、フェライト、ゼオライト、ムライト、アパタイト、スラグ、炭化珪素、窒化アルミニウム、チタン酸アルミニウム等、及び電池の電極用原料、例えばニッケル粉末、コバルト粉末、ランタン・マンガナイト、ランタン・ストロンチウム・マンガナイト等が挙げられる。
【0068】
[その他の成分]
無機成形体製造用組成物は、多価アミン及び/又は多価金属塩を更に含んでいてもよい。多価アミン及び/又は多価金属塩を含むことにより、硬さを更に向上させることができる。これらの成分が硬さを向上させる理由としては、ナノセルロースの間に架橋を形成することが推測されるが、この理由によって何ら限定されるものではない。
多価アミンは、1分子中に2以上のアミノ基を含む化合物であり、例えば、エチレンジアンモニウムジクロリド、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアンモニウムジクロリド、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
多価金属塩に含まれる多価金属としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、アルミニウム等が挙げられる。
【0069】
無機成形体製造用組成物に含まれる多価アミンの量は、前記組成物の固形分の合計質量を基準として、好ましくは0.05~1質量%であり、より好ましくは0.1~0.5質量%である。多価アミンの量を前記範囲内とすることによって、硬さを更に向上させることができる。
【0070】
無機成形体製造用組成物に含まれる多価金属塩の量は、前記組成物の固形分の合計質量を基準として、好ましくは0.05~1質量%であり、より好ましくは0.1~0.5質量%である。多価金属塩の量を前記範囲内とすることによって、硬さを更に向上させることができる。
【0071】
<無機成形体>
本発明の一実施形態は、上述の無機成形体製造用組成物から製造された非焼成無機成形体に関する。非焼成無機成形体とは、焼成せずに得られる無機成形体であり、好ましくは無機成形体製造用組成物を成形し乾燥することにより得られる。
【0072】
本発明の一実施形態は、上述の無機成形体製造用組成物から製造された焼成無機成形体に関する。焼成無機成形体とは、焼成することにより得られる無機成形体である。
【0073】
無機成形体が焼成無機成形体である場合、焼成によりナノセルロースの少なくとも一部が焼成により無くなっていてもよい。すなわち、本発明の無機成形体が焼成して得られるものである場合、ナノセルロースを含む第一の無機成形体に由来し、当該第一の無機成形体の焼成物である無機成形体ということもできる。
【0074】
本発明において、無機成形体の用途としては、吸着材、人工骨、セメント、及び石膏成形品等を挙げるが、本発明の無機成形体の用途はこれらに限定されない。本発明の無機成形体は、上述した以外の用途以外に、ガラスや釉薬;琺瑯;陶磁器用塗料;陶磁器;各種セラミックス;半導体製造装置部品;医療機械部品;排ガス用フィルター等のフィルター;セラミックフィルター;IC基板;ヒートシンク;自動車用触媒等の担持に用いられる担体;摺動部品;ノズル;燃料電池、太陽電池、及び電池電解質等の電池材料;センサ素子;並びに、熱交換器;ヒーター部材、碍子等の絶縁部材;液晶製造装置部材;セッター、匣鉢等の耐熱部材;騒音及び/又は振動吸収体;細胞培養等の足場;蓄熱材;装飾品;クラッシュ材;便器等の衛生陶器;タイル等の建築材料;等に用いられる。なお、本明細書における担体とは、任意の成分を担持させる物を指す。
これらの用途においては、無機焼成体は、焼成された無機成形体であっても焼成なしに得られる無機成形体(すなわち、非焼成セラミックス)であってもよいが、焼成されたセラミックスであることが好ましい。
【0075】
[無機成形体の製造方法]
本発明の無機成形体は、例えば、酸化セルロース又はナノセルロース(好ましくは酸化セルロース水分散体又はナノセルロース水分散体)と無機材料とを混合し構成成分を分散させスラリーを調製し、得られたスラリーを成型機等で成形したものを、必要に応じて乾燥させることにより、製造することができる。乾燥の条件は、配合される成分や用途に応じて適宜調整すればよく、特に制限されないが、通常室温~100℃の条件下で、1分~10日間、乾燥すればよい。
【0076】
上記焼成無機成形体は、上記非焼成無機成形体を焼成することにより製造することができる。焼成温度は、特に制限されず、用途や含有する無機化合物に応じて適宜調整すればよく、通常無機化合物の融点以下の温度であればよい。無機成形体の焼成温度の下限値は、ナノセルロースの熱分解温度以上であってもよい。ナノセルロースの熱分解温度は、例えば以下のようにして測定される。すなわち、熱重量測定装置(例えば、セイコーインスツルメンツ株式会社製、EXSTAR6000、TG/DTA6300など)を用いて、ナノセルロースを酸化雰囲気下で30℃から1000℃まで昇温速度5℃/分で加熱し、その質量減少率を測定する。質量減少率が90%以上となった時の温度を熱分解温度とすればよい。
【0077】
焼成温度は、800℃以上であってもよく、900℃以上であってもよく、1000℃以上であってもよい。焼成温度は、1500℃以下であってもよく、1200℃以下であってもよい。焼成温度は、好ましくは800℃以上1500℃以下であり、より好ましくは1000℃以上1500℃以下である。
【0078】
焼成温度は、無機化合物の種類によって適宜選択されるが、無機化合物粒子の融点を絶対温度でMP(K)としたとき、0.5MP(K)以上1.0MP(K)以下の範囲としてもよく、0.55MP(K)以上0.9MP(K)以下の範囲としてもよく、0.6MP(K)以上0.8MP(K)以下としてもよい。
【0079】
成形方法には押出成形や射出成形、加圧成形、鋳込み成形、さらに鋳込み製経緯を発展させたモールドキャスト成形、テープ成形等の方法があるが特に制限されず、用途や含有する無機化合物に応じて選択すればよい。上記の無機成形体製造用組成物は、水分量を抑えながら成形が可能であるため、水分量を抑えることが要求される押出成形における使用に適している。
【0080】
本発明の無機成形体は、例えば、実施例に詳述するようにナノセルロースを適宜入手してこれを用いて製造することができるが、解繊性に優れる酸化セルロースを原料として用いることにより製造することもできる。
すなわち、本発明の無機焼成体の製造方法の一つは、ナノセルロースを含む、無機成形体の製造方法であって、
酸化セルロースを準備する工程、
前記酸化セルロースと無機材料の混合物を得る工程、
前記混合物を撹拌することにより、前記ナノセルロース含有組成物を得る工程、及び、
前記ナノセルロース含有組成物より無機成形体を作製する工程を含み、
前記酸化セルロースが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含む、
製造方法である。本明細書において、この製造方法を製造方法Iともいう。
【0081】
本発明の無機焼成体の製造方法の一つは、ナノセルロースを含む、無機成形体の製造方法であって、
酸化セルロースを準備する工程、及び、
前記酸化セルロースを撹拌し、連続して無機材料を添加することにより、前記ナノセルロース含有組成物を得る工程、及び、
前記ナノセルロース含有組成物より無機成形体を作製する工程を含み、
前記酸化セルロースが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含む、
製造方法である。本明細書において、この製造方法を製造方法IIともいう。
【実施例0082】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下において、特に断らない限り、「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。
【0083】
<製造例1> Na型酸化セルロースの調製
ビーカーに、有効塩素濃度が42質量%である次亜塩素酸ナトリウム5水和物結晶を350g入れ、純水を加えて撹拌し、有効塩素濃度を21質量%とした。そこへ、35質量%塩酸を加えて撹拌し、pH11の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得た。
上記次亜塩素酸ナトリウム水溶液を新東科学社製の撹拌機(スリーワンモータ、BL600)にてプロペラ型撹拌羽根を使用して200rpmで撹拌しながら恒温水浴にて30℃に加温した後、セルロース系原料として、ティーディーアイ社の粉末パルプ(VP-1)を50g加えた。
セルロース系原料を供給後、同じ恒温水槽で30℃に保温しながら、48質量%水酸化ナトリウムを添加しながら反応中のpHを11に調整して、2時間、撹拌機にて同条件で撹拌を行った。反応系のpHが11であったことから、得られた酸化セルロースのカルボキシ基はNa型である。
反応終了後、遠心分離(1000G、10分間)、デカンテーション、及び除いた液に相当する量の純水を追加、を繰り返すことにより、濃度が10質量%であり、カルボキシ基量が0.70mmol/gである酸化セルロースを回収した。
【0084】
なお、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の有効塩素濃度は以下の方法により測定した。
(次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の有効塩素濃度の測定)
次亜塩素酸ナトリウム5水和物結晶を純水に加えた水溶液0.582gを精密に量り、純水50mlを加え、ヨウ化カリウム2g及び酢酸10mlを加え、直ちに密栓して暗所に15分間放置した。15分間の放置後、遊離したヨウ素を0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定した結果(指示薬 デンプン試液)、滴定量は34.55mlであった。別に空試験を行い補正し、0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液1mlが3.545mgClに相当するので、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の有効塩素濃度は21質量%である。
【0085】
酸化セルロースのカルボキシ基量は以下の方法により測定した。
(カルボキシ基量の測定)
酸化セルロースの濃度を0.5質量%に調整した酸化セルロース水分散体60mlに、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5にした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、pHが11.0になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が穏やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下記式を用いてカルボキシ基量(mmol/g)を算出した。
カルボキシ基量=a(ml)×0.05/酸化セルロースの質量(g)
【0086】
<製造例2> H型ナノセルロースの調製
製造例1に準じて製造した固形分率10質量%のNa型酸化セルロース200gに水を200g加えたのち、ホモミキサーで10分、10,000rpmで解繊し、Na型ナノセルロースの水分散体を得た。この水分散体に、pH=2.0となるまで0.5mol/Lの塩酸を加えた。H型化に伴い、ナノセルロースが沈殿するので、得られた沈殿物を、遠心分離機(コクサン製H-40α)を用いて3,000rpm、15分で遠心分離することで、固形分率が13~16質量%であるH型ナノセルロースを回収した。
【0087】
<製造例3>アンモニウム塩型ナノセルロースの調製
製造例2に準じて製造したH型ナノセルロースに25%アンモニア水溶液を加えてpH=9.5程度としたのち、振盪攪拌した(工程1)。pH=2.3に調整した希塩酸を加えて遠心分離を3,000rpm、15分で行い沈殿物を回収した(工程2)。工程1と工程2を9回繰り返した。回収した沈殿物に25%アンモニア水溶液をpH=6.8となるまで加えることで、固形分率5.2質量%のアンモニウム塩型ナノセルロースを得た。元素分析によりNa濃度を分析したところ、16ppmであった。
【0088】
[実施例1~10]
SiC粉末(信濃電気製錬製、GP#600)100質量部にバインダーとしてメチルセルロース(信越化学工業製、メトローズSM-4000)を表1に示す配合量で加え混合した。そこへ、さらにバインダーとして製造例1~3に示す酸化セルロース又はナノセルロースを表1に示す配合量となるよう添加した。また、必要に応じて、エチレンジアンモニウムジクロリド又は塩化カルシウムを添加した。さらに、全体の水分が表1に示す量となるように水を加え、シンキー社のミキサー「あわとり練太郎ARE-310」(ミックスモード、公転:2000rpm、自転:800rpm)にて7分間混合した。その後、手練りを加えることで可塑性の坏土を作製した。
【0089】
[比較例1~3]
SiC粉末(信濃電気製錬製、GP#600)100質量部にバインダーとしてメチルセルロースを表1に示す配合量で加え振盪した。そこへ、全体の水分が表1に示す量となるように水を加え、シンキー社のミキサー「あわとり練太郎ARE-310」(ミックスモード、公転:2000rpm、自転:800rpm)にて7分間混合した。その後、手練りを加えることで可塑性の坏土を作製した。
【0090】
[塑性変形仕事及びヤング率]
実施例及び比較例の坏土を、直径10mm、高さ10mmの円柱状に、シリンダー状の金型を用いて成形した。具体的には、内径が10mmのシリンダー状の金型に坏土を詰め、円柱棒をシリンダーに差し込み、円柱棒をハンマーで叩くことにより、金型内部に坏土を充填させ、空隙がなくなるようにした。その後、金型から10mmの長さまで坏土を押し出し、押し出た部分を切り出して、直径10mm、高さ10mmの円柱状の坏土を得た。次に、
図1に示すように、アントンパール社製レオメーターMCR301を使用して、変形速度1mm/sで、円柱状の坏土の円形の面に対して力を加えるよう圧縮し、応力が40Nとなるまで圧縮した。
図2に示すように、高さ方向の変形ひずみ量が4~5mmの範囲における応力の総和を塑性変形仕事(mJ)として算出した。塑性変形仕事が小さいほど、優れた成形性を有することを意味する。塑性変形仕事は、13mJ以下であることが好ましい。
各時点のひずみに対応する応力と、その時点の坏土の平均断面積とから真応力を求めた(真応力=応力/平均断面積)。各時点の坏土の平均断面積は、圧縮操作によって体積は変化しないものとして、変形前に円柱状の内径及び高さからもとめた体積から、各測定時点の円柱の高さを除することで算出した。真応力とひずみの関係をグラフ化し、原点からグラフに接線を引いた時の傾きをヤング率(kPa)として算出した。ヤング率が大きいほど、優れた硬さを有することを意味する。ヤング率は、200kPa以上であることが好ましい。
【0091】