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特開2024-49030基板、基板の製造方法、及び窒化アルミニウム基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049030
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】基板、基板の製造方法、及び窒化アルミニウム基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20240402BHJP
   C30B 1/02 20060101ALI20240402BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20240402BHJP
   C23C 14/35 20060101ALI20240402BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
C30B29/38 C
C30B1/02
C23C14/06 A
C23C14/35 Z
H01L21/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155254
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】大井戸 敦
【テーマコード(参考)】
4G077
4K029
5F045
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BE13
4G077CA01
4G077CA03
4G077CA08
4G077ED06
4G077HA02
4G077HA12
4K029AA04
4K029BA58
4K029BB09
4K029BD01
4K029CA06
4K029DC03
4K029DC39
4K029EA01
4K029EA05
4K029EA08
4K029EA09
4K029GA01
4K029GA05
5F045AA04
5F045AA05
5F045AB09
5F045AF09
5F045DA61
(57)【要約】
【課題】結晶質の窒化アルミニウム層が形成される剥離層とサファイア層とを含み、窒化アルミニウム層をサファイア層から容易に剥離することができる基板の提供。
【解決手段】基板10は、結晶質のα‐アルミナを含むサファイア層L1と、サファイア層L1の表面SL1に直接重なる剥離層L2と、を含む。剥離層L2は、結晶質の窒化アルミニウム、及び結晶質のα‐アルミナを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶質のα‐アルミナを含むサファイア層と、
前記サファイア層の表面に直接重なる剥離層と、
を備え、
前記剥離層が、結晶質の窒化アルミニウム、及び結晶質のα‐アルミナを含む、
基板。
【請求項2】
前記サファイア層中の前記α‐アルミナの格子面が、前記サファイア層の前記表面に略平行であり、
前記剥離層中の前記窒化アルミニウムの格子面が、前記サファイア層中の前記α‐アルミナの前記格子面と略平行であり、
前記剥離層中の前記α‐アルミナの格子面が、前記サファイア層中の前記α‐アルミナの前記格子面と略平行である、
請求項1に記載の基板。
【請求項3】
前記サファイア層中の前記α‐アルミナの(0006)面が、前記サファイア層の前記表面に略平行であり、
前記剥離層中の前記窒化アルミニウムの(0002)面が、前記サファイア層中の前記α‐アルミナの前記(0006)面と略平行であり、
前記剥離層中の前記α‐アルミナの(0006)面が、前記サファイア層中の前記α‐アルミナの前記(0006)面と略平行である、
請求項1に記載の基板。
【請求項4】
一つの以上の空隙が前記剥離層中に形成されている、
請求項1に記載の基板。
【請求項5】
前記サファイア層の前記表面に略平行な方向において、前記剥離層中の前記α‐アルミナの結晶粒径の最大値が、20nm以上2000nm以下である、
請求項1に記載の基板。
【請求項6】
前記剥離層の厚みが、20nm以上1000nm以下である、
請求項1に記載の基板。
【請求項7】
前記剥離層の表面が露出している、
請求項1に記載の基板。
【請求項8】
前記サファイア層及び前記剥離層のみからなる、
請求項1に記載の基板。
【請求項9】
前記窒化アルミニウム及び前記α‐アルミナが、前記剥離層中に混在している、
請求項1に記載の基板。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の基板を製造する方法であって、
アルミニウムを含む第一溶液が付着したサファイア基板を酸化的雰囲気中で加熱して、酸化アルミニウム層を前記サファイア基板の表面に直接形成する第一工程と、
添加元素Mを含む第二溶液が付着した前記酸化アルミニウム層を部分的に還元窒化して、前記剥離層を前記サファイア基板の表面に直接形成する第二工程と、
を備え、
前記添加元素Mが、希土類元素、アルカリ土類元素、及びアルカリ金属元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である、
基板の製造方法。
【請求項11】
前記添加元素Mが、ユーロピウム及びカルシウムのうち少なくとも一つの元素である、
請求項10に記載の基板の製造方法。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか一項に記載の基板を用いて窒化アルミニウム基板を製造する方法であって、
気相成長法により、結晶質の窒化アルミニウムを含む窒化アルミニウム層を、前記剥離層の表面に直接形成する成長工程と、
前記窒化アルミニウム層及び前記基板を、窒素を含む還元的雰囲気において1600~1700℃で加熱する加熱工程と、
前記加熱工程に続いて前記窒化アルミニウム層及び前記サファイア層を冷却する冷却工程と、
を備え、
前記冷却工程により、亀裂が前記窒化アルミニウム層及び前記サファイア層の間に形成され、
前記亀裂の形成により、前記窒化アルミニウム層が前記サファイア層から剥離され、
前記サファイア層から剥離された前記窒化アルミニウム層が、前記窒化アルミニウム基板として用いられる、
窒化アルミニウム基板の製造方法。
【請求項13】
前記加熱工程において、前記剥離層中の前記α‐アルミナが還元窒化され、窒化アルミニウムに変化する、
請求項12に記載の窒化アルミニウム基板の製造方法。
【請求項14】
前記窒化アルミニウム基板の最大幅が、5cm以上30cm以下である、
請求項12に記載の窒化アルミニウム基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板、基板の製造方法、及び窒化アルミニウム基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウム(AlN)等の第13族元素の窒化物は半導体である。第13族元素の窒化物の結晶は、青色帯から紫外帯にわたる短波長光を発する発光素子、又はパワートランジスタの材料として注目されている。
【0003】
特にAlNの単結晶からなる基板は、紫外発光デバイス用の基板の材料として注目されている。基板は、AlNの単結晶の加工(切断、研削及び研磨等)によって量産される。AlNの単結晶は、例えば、昇華法若しくはハライド気相成長法(Halide Vapor Phase Epitaxy; HVPE)等の気相成長法、又はフラックス法(溶液法)等の液相成長法によって量産される。これらの製造方法において、AlNの単結晶は、種結晶(サファイア又はSiCの単結晶等)の表面上で成長する。
【0004】
例えば、下記特許文献1に記載のAlNの単結晶基板の製造方法では、気相成長法により、AlN薄膜がサファイア基板の表面に形成される。そして、AlN薄膜及びサファイア基板から構成される積層体を、還元性ガス(水素ガス等)及びアンモニアガス中で加熱することにより、サファイア基板が選択的に分解される。その結果、AlN薄膜及びサファイア基板の間の界面において、複数の空隙が形成される。複数の空隙の形成後、気相成長法により、AlNの単結晶層がAlN薄膜上に成長する。上記界面に形成された複数の空隙は、AlN単結晶層及びサファイア基板の間の格子不整合に起因する応力を緩和する。しかし、AlNの単結晶層の成長中又は成長後においても残存する応力に因り、AlNの単結晶層(単結晶基板)がサファイア基板から剥離される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-190960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の製造方法に従えば、小型のAlNの単結晶基板を得ることはできる。例えば、上記特許文献1に記載の実施例で用いられるサファイア基板の寸法は、縦幅7mm×横幅11mm×厚み400μmであるため、このサファイア基板上に形成されるAlNの単結晶基板の最大幅も、サファイア基板の最大幅と同程度である。しかし、AlNの単結晶基板の最大幅の増加に伴い、サファイア基板上に形成されたAlNの単結晶層に作用する応力は増加する。例えば、AlNの単結晶層の最大幅(直径)が1インチ(25.4mm)以上である場合、AlNの単結晶層及びサファイア基板の間の界面に応力が集中し、サファイア基板からのAlNの単結晶層の剥離に伴い、AlNの単結晶層が割れ易い。AlNの単結晶層の厚みが十分に大きい場合(例えば、AlNの単結晶層の厚みが数百μm以上である場合)、サファイア基板からのAlNの単結晶層の剥離に伴うAlNの単結晶層の割れを抑制することはできる。しかし、窒化アルミニウム単結晶層を十分な厚みまで成長させる製造方法は、極めて高いコストを要し、且つ生産性を低下させるので、実用的ではない。以上の理由から、上記特許文献1に記載の製造方法の場合、AlNの単結晶層をサファイア基板から剥離することは容易ではなく、サファイア基板からの単結晶層の剥離に伴う単結晶層の割れを抑制し難く、大きい面積を有する実用的なAlNの単結晶基板を作製することは困難である。
【0007】
本発明の一側面の目的は、結晶質の窒化アルミニウム層が形成される剥離層とサファイア層とを含み、窒化アルミニウム層をサファイア層から容易に剥離することができる基板、基板の製造方法、及び基板を用いた窒化アルミニウム基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
例えば、本発明の一側面は、下記の基板、基板の製造方法、及び窒化アルミニウム基板の製造方法に関する。
【0009】
[1] 結晶質のα‐アルミナを含むサファイア層と、サファイア層の表面に直接重なる剥離層と、を含み、剥離層が、結晶質の窒化アルミニウム、及び結晶質のα‐アルミナを含む、基板。
【0010】
[2] サファイア層中のα‐アルミナの格子面が、サファイア層の表面に略平行であり、剥離層中の窒化アルミニウムの格子面が、サファイア層中のα‐アルミナの格子面と略平行であり、剥離層中のα‐アルミナの格子面が、サファイア層中のα‐アルミナの格子面と略平行である、
[1]に記載の基板。
【0011】
[3] サファイア層中のα‐アルミナの(0006)面が、サファイア層の表面に略平行であり、剥離層中の窒化アルミニウムの(0002)面が、サファイア層中のα‐アルミナの(0006)面と略平行であり、剥離層中のα‐アルミナの(0006)面が、サファイア層中のα‐アルミナの(0006)面と略平行である、
[1]又は[2]に記載の基板。
【0012】
[4] 一つの以上の空隙が剥離層中に形成されている、
[1]~[3]のいずれか一項に記載の基板。
【0013】
[5] サファイア層の表面に略平行な方向において、剥離層中のα‐アルミナの結晶粒径の最大値が、20nm以上2000nm以下である、
[1]~[4]のいずれか一項に記載の基板。
【0014】
[6] 剥離層の厚みが、20nm以上1000nm以下である、
[1]~[5]のいずれか一項に記載の基板。
【0015】
[7] 剥離層の表面が露出している、
[1]~[6]のいずれか一項に記載の基板。
【0016】
[8] サファイア層及び剥離層のみからなる、
[1]~[7]のいずれか一項に記載の基板。
【0017】
[9] 窒化アルミニウム及びα‐アルミナが、剥離層中に混在している、
[1]~[8]のいずれか一項に記載の基板。
【0018】
[10] [1]~[9]のいずれか一項に記載の基板を製造する方法であって、アルミニウムを含む第一溶液が付着したサファイア基板を酸化的雰囲気中で加熱して、酸化アルミニウム層をサファイア基板の表面に直接形成する第一工程と、添加元素Mを含む第二溶液が付着した酸化アルミニウム層を部分的に還元窒化して、剥離層をサファイア基板の表面に直接形成する第二工程と、を含み、添加元素Mが、希土類元素、アルカリ土類元素、及びアルカリ金属元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である、基板の製造方法。
【0019】
[11] 添加元素Mが、ユーロピウム及びカルシウムのうち少なくとも一つの元素である、
[10]に記載の基板の製造方法。
【0020】
[12] [1]~[9]のいずれか一項に記載の基板を用いて窒化アルミニウム基板を製造する方法であって、気相成長法により、結晶質の窒化アルミニウムを含む窒化アルミニウム層を、剥離層の表面に直接形成する成長工程と、窒化アルミニウム層及び基板を、窒素を含む還元的雰囲気において1600~1700℃で加熱する加熱工程と、加熱工程に続いて窒化アルミニウム層及びサファイア層を冷却する冷却工程と、を含み、冷却工程により、亀裂が窒化アルミニウム層及びサファイア層の間に形成され、亀裂の形成により、窒化アルミニウム層がサファイア層から剥離され、サファイア層から剥離された窒化アルミニウム層が、窒化アルミニウム基板として用いられる、窒化アルミニウム基板の製造方法。
【0021】
[13] 加熱工程において、剥離層中のα‐アルミナが還元窒化され、窒化アルミニウムに変化する、
[12]に記載の窒化アルミニウム基板の製造方法。
【0022】
[14] 窒化アルミニウム基板の最大幅が、5cm以上30cm以下である、
[12]又は[13]に記載の窒化アルミニウム基板の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一側面によれば、、結晶質の窒化アルミニウム層が形成される剥離層とサファイア層とを含み、窒化アルミニウム層をサファイア層から容易に剥離することができる基板、基板の製造方法、及び基板を用いた窒化アルミニウム基板の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る基板の模式的な断面図であり、図1に示される断面は、サファイア層及び剥離層其々の表面に略垂直である。
図2図2中の(a)、図2中の(b)、及び図2中の(c)は、、本発明の一実施形態に係る窒化アルミニウム基板の製造方法を示す模式的な断面図であり、図2中の(a)、図2中の(b)、及び図2中の(c)其々が示す断面は、サファイア層の表面に略垂直である。
図3図3は、窒化アルミニウムの結晶構造の模式的な斜視図である。
図4図4中の(a)は、窒化アルミニウムの結晶構造の単位胞(unit cell)における基本ベクトル、結晶方位、(0001)面、及び(0002)面を示す模式図であり、図4中の(b)は、窒化アルミニウムの結晶構造の単位胞における基本ベクトル、結晶方位、(0001)面、及び(11-20)面を示す模式図である。
図5図5は、α‐アルミナの結晶構造の模式的な斜視図及び上面図である。
図6図6中の(a)は、α‐アルミナの結晶構造の単位胞における基本ベクトル、結晶方位、(0001)面、及び(0006)面を示す模式図であり、図6中の(b)は、α‐アルミナの結晶構造の単位胞における基本ベクトル、結晶方位、(0001)面、及び(11-20)面を示す模式図である。
図7図7中の(a)、図7中の(b)、図7中の(c)、及び図7中の(d)其々は、本発明の実施例1に係る基板の同一の断面の画像であり、当該断面はサファイア層及び剥離層其々の表面に略垂直であり、図7中の(a)は、断面内の窒化アルミニウム、α‐アルミナ、及び空隙(vоid)を示し、図7中の(b)は、断面内の酸素の分布を示し、図7中の(c)は、断面内の窒素の分布を示し、図7中の(d)は、断面内のアルミニウムの分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態が説明される。図面において、同等の構成要素には同等の符号が付される。本発明は下記実施形態に限定されるものではない。
【0026】
図1に示されるように、本実施形態に係る基板10は、サファイア層L1及び剥離層L2を含む。剥離層L2は、サファイア層L1の表面SL1に直接重なる。剥離層L2は、サファイア層L1の表面SL1の少なくとも一部又は全体を覆っていてよい。剥離層L2の表面SL2は露出していてよい。基板10は、サファイア層L1及び剥離層L2のみからなっていてよい。基板10全体の厚み(Z軸方向の幅)は、略均一であってよい。サファイア層L1の厚み(Z軸方向の幅)も、略均一であってよい。剥離層L2の厚みTも、略均一であってよい。剥離層L2の表面SL2は、サファイア層L1の表面SL1と略平行であってよい。
【0027】
サファイア層L1は、結晶質のα‐アルミナを含む。サファイア層L1は、結晶質のα‐アルミナのみからなっていてよい。サファイア層L1に含まれる結晶質のα‐アルミナの少なくとも一部又は全部は、単結晶であってよい。サファイア層L1に含まれる結晶質のα‐アルミナの少なくとも一部は、多結晶であってもよい。
【0028】
剥離層L2は、結晶質の窒化アルミニウム、及び結晶質のα‐アルミナを含む。剥離層L2は、結晶質の窒化アルミニウム、及び結晶質のα‐アルミナのみからなっていてよい。剥離層は、結晶質の窒化アルミニウム、及び結晶質のα‐アルミナに加えて、微量の他の成分(例えば、添加元素M、及び不可避的な不純物)を含んでよい。剥離層L2はサファイア層L1の表面に直接形成されているので、剥離層L2中の窒化アルミニウム及びα‐アルミナの両方が、サファイア層L1の結晶方位及び優れた結晶性を引き継いでいる。
【0029】
本実施形態に係る窒化アルミニウム基板の製造方法では、上記の基板10が用いられる。窒化アルミニウム基板の製造方法は、少なくとも成長工程、加熱工程、及び冷却工程を含む。
【0030】
図2中の(a)に示されるように、成長工程では、気相成長法により、結晶質の窒化アルミニウムを含む窒化アルミニウム層L3が、剥離層L2の表面に直接形成される。その結果、窒化アルミニウム層L3は、剥離層L2中の窒化アルミニウム及びα‐アルミナの結晶方位及び結晶性を引き継ぐ。したがって、剥離層L2中の窒化アルミニウム及びα‐アルミナと同様に、窒化アルミニウム層L3は、サファイア層L1の結晶方位及び優れた結晶性を引き継ぐことができる。ただし、窒化アルミニウム層L3に含まれる窒化アルミニウムの少なくとも一部又は全部は、多結晶であってよい。窒化アルミニウム層L3に含まれる窒化アルミニウムの少なくとも一部は、単結晶であってよい。窒化アルミニウム層L3は、結晶質の窒化アルミニウムのみからなっていてよい。窒化アルミニウム層L3は、剥離層L2の表面の少なくとも一部又は全体を覆ってよい。
仮に剥離層L2が窒化アルミニウムを含まず、α‐アルミナのみからなる場合、窒化アルミニウム層L3の全体が、α‐アルミナの表面に直接形成されるので、窒化アルミニウム及びα‐アルミナの間の格子不整合に因り、窒化アルミニウム層L3の結晶性が劣化し易い。
【0031】
加熱工程では、窒化アルミニウム層L3及び基板10が、窒素を含む還元的雰囲気において1600~1700℃で加熱される。加熱工程により、窒化アルミニウム層L3の結晶化が促進され、窒化アルミニウム層L3の結晶性及び機械的強度が向上する。例えば、加熱工程により、窒化アルミニウム層L3の一部又は全体が、窒化アルミニウムの多結晶から窒化アルミニウムの単結晶へ変化してよい。
【0032】
加熱工程では、剥離層L2中のα‐アルミナの一部又は全部が還元窒化され、窒化アルミニウムに変化してよい。つまり、剥離層L2中のα‐アルミナの還元窒化により、剥離層L2の一部又は全体が窒化アルミニウムになり、窒化アルミニウム層L3と一体化されてよい。剥離層L2中のα‐アルミナの還元窒化と同様に、サファイア層L1の表面SL1の近傍(サファイア層L1及び剥離層L2の間の界面の近傍)に位置するα‐アルミナが還元窒化されてもよい。α‐アルミナの還元窒化は、成長工程中に始まってもよい。
【0033】
加熱工程に続く冷却工程では、窒化アルミニウム層L3及びサファイア層L1が冷却される。例えば、窒化アルミニウム層L3及びサファイア層L1は大気中で自然に冷却されてよい。窒化アルミニウム層L3及びサファイア層L1は室温(常温)で冷却されてよい。
図2中の(b)に示されるように、冷却工程により、亀裂crが窒化アルミニウム層L3及びサファイア層L1の間に形成される。図2中の(c)に示されるように、亀裂crの形成により、窒化アルミニウム層L3が、サファイア層L1から剥離される。冷却工程では、外力が窒化アルミニウム層L3及びサファイア層L1に作用しなくても、窒化アルミニウム層L3をサファイア層L1から剥離することができる。上述の通り、窒化アルミニウム層L3の結晶性及び機械的強度が加熱工程によって向上した後で窒化アルミニウム層L3が剥離されるので、剥離に伴う窒化アルミニウム層L3の割れが抑制される。サファイア層L1から剥離された窒化アルミニウム層L3は、窒化アルミニウム基板として用いられる。窒化アルミニウム基板の一部又は全体は、窒化アルミニウムの単結晶であってよい。
【0034】
亀裂crの形成及び窒化アルミニウム層L3の剥離のメカニズムは、以下の通りであってよい。
【0035】
加熱工程及び冷却工程においては、応力が窒化アルミニウム層L3及びサファイア層L1に作用する。応力は、窒化アルミニウム層L3及びサファイア層L1の間の格子不整合に起因する。さらに、応力は、窒化アルミニウム層L3及びサファイア層L1の間の熱膨張係数の差に起因する。特に冷却工程における温度変化に伴って、熱膨張係数の差(つまり収縮率の差)に起因する応力は増加する。
上述の通り、剥離層L2中のα‐アルミナ(α‐Al)、及びサファイア層L1の表面SL1の近傍に位置するα‐アルミナは、冷却工程前に還元窒化される。1モルのα‐Alの還元窒化により、3モルの酸素原子が結晶構造から脱離し、2モルの窒素が結晶構造へ導入される。つまり、α‐Alの結晶構造を構成する3モルの酸素原子が2モルの窒素原子で置換される。したがって、1モルのα‐Alの還元窒化に因り、1モルの酸素原子に相当する格子欠陥(酸素空孔)が生じる。その結果、冷却工程前のα‐アルミナの還元窒化に因り、剥離層L2及びその近傍が疎になり、窒化アルミニウム層L3及びサファイア層L1の間の部分の機械的強度が低下する。例えば、冷却工程前のα‐アルミナの還元窒化に因り、一つ以上の空隙が窒化アルミニウム層L3及びサファイア層L1の境界近傍に形成され、空隙が形成された部分の機械的強度が低下する。さらに、剥離層L2及びその近傍が疎になることに因り、還元的雰囲気中の窒素ガスが窒化アルミニウム層L3及びサファイア層L1の間へ導入され易くなり、α‐アルミナの還元窒化が更に促進される。
上述された応力の増加と機械的強度の低下に因り、亀裂crが窒化アルミニウム層L3及びサファイア層L1の間に形成される。つまり、冷却工程において増加する上記の応力が、窒化アルミニウム層L3及びサファイア層L1の間に作用することに因り、亀裂crが形成される。そして、窒化アルミニウム層L3及びサファイア層L1其々に作用する応力に因り、窒化アルミニウム層L3が自発的にサファイア層L1から剥離される。
仮に剥離層L2がα‐アルミナを含まず、窒化アルミニウムのみからなる場合、そもそも剥離層L2及びその近傍におけるα‐アルミナの還元窒化が進行し難いので、剥離層L2及びその近傍が疎になり難く、剥離層L2及びその近傍の機械的強度が低下し難い。その結果、亀裂crが形成され難く、窒化アルミニウム層L3がサファイア層L1から剥離され難い。
【0036】
亀裂crの形成及び窒化アルミニウム層L3の剥離のメカニズムは、上記のメカニズムに限定されない。
【0037】
加熱工程の温度が1600℃未満である場合、窒化アルミニウム層L3の結晶性を十分に向上させることが困難である。その結果、剥離に伴って窒化アルミニウム層L3が割れ易く、窒化アルミニウム層L3の光学的特性が損なわれる。光学的特性とは、発光素子用の窒化アルミニウム基板に要求される諸特性である。さらに、加熱工程の温度が1600℃未満である場合、剥離層L2中のα‐アルミナが十分に還元窒化され難く、亀裂が窒化アルミニウム層L3及びサファイア層L1の間に形成され難く、冷却工程において窒化アルミニウム層L3がサファイア層L1から剥離され難い。
加熱工程の温度が1700℃よりも高い場合、窒化アルミニウム層L3及びサファイア層L1の間の熱膨張率の差に因り、窒化アルミニウム層L3に作用する応力が増加し易く、窒化アルミニウム層L3が割れ易い。さらに、加熱工程の温度が1700℃よりも高い場合、酸窒化アルミニウム(いわゆるAlON)が窒化アルミニウム層L3中に生成し易い。酸窒化アルミニウムの生成に因り、窒化アルミニウム層L3の結晶性が損なわれ、窒化アルミニウム層L3の光学的特性も損なわれる。窒化アルミニウム層L3(窒化アルミニウム基板)は、実質的に酸窒化アルミニウムを含まなくてよい。例えば、窒化アルミニウム層L3(窒化アルミニウム基板)のX線回折パターンは、酸窒化アルミニウムの結晶構造(立方晶系スピネル構造)に由来する回折ピークを含まなくてよい。ただし、窒化アルミニウム層L3の結晶性が損なわれない限りにおいて、窒化アルミニウム層L3は、微量の酸窒化アルミニウムを含んでもよい。例えば、酸窒化アルミニウムは下記化学式1で表されてよい。下記化学式1中のVpは、陽イオンの空孔であり、下記化学式1中のxは、2より大きく6未満である。
Al(64+x)/3Vp(8-x)/332-x (1)
【0038】
基板10の最大幅は、5cm以上30cm以下であってよい。基板10が円盤(ウェハー)である場合、基板10の最大幅は、基板10の直径を意味する。窒化アルミニウム基板(窒化アルミニウム層L3)の最大幅は、5cm以上30cm以下であってよい。窒化アルミニウム基板が円盤である場合、窒化アルミニウム基板の最大幅は、窒化アルミニウムの直径を意味する。窒化アルミニウム基板は、基板10に直接重なる剥離層L2の表面において成長するので、窒化アルミニウム基板の最大幅は、基板10の最大幅に略一致してよい。
従来の窒化アルミニウム基板の製造方法では、窒化アルミニウム基の最大幅及び面積が大きいほど、サファイア基板からの窒化アルミニウム基板の剥離に伴って窒化アルミニウム基板が割れ易い。対照的に、本実施形態に係る窒化アルミニウム基板の製造方法によれば、サファイア層L1からの窒化アルミニウム層L3の剥離に伴う窒化アルミニウム層L3の割れが抑制される。したがって、本実施形態によれば、従来よりも最大幅及び面積が大きい窒化アルミニウム基板を高い歩留り率(yield rate)で量産することができる。
【0039】
上記の成長工程で採用される気相成長法は、例えば、スパッタリング、有機金属化学蒸着法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition; MOCVD)、有機金属気相エピタキシー(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy;MOVPE)、有機金属物理蒸着法(Metal Organic Physical Vapor Deposition; MOPVD)、及び分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy; MBE)からなる群より選ばれる少なくとも一つの方法であってよい。
【0040】
サファイア層L1から剥離された窒化アルミニウム層L3(窒化アルミニウム基板)は、発光ダイオード等の発光素子に用いられてよい。例えば、窒化アルミニウム基板は、UVC LED又はDUV LED等の深紫外線発光ダイオードに用いられてよい。発光ダイオードの製造においては、n型半導体層、発光層及びp型半導体層等の複数の化合物半導体層が、窒化アルミニウム基板の表面に順次積層される。この積層体が、複数のチップ型発光ダイオードに分割されてよい。発光ダイオードの製造過程において、窒化アルミニウム層L3(窒化アルミニウム基板)を気相成長法によって更に成長させてもよい。
【0041】
剥離層L2及び窒化アルミニウム層L3其々に含まれる窒化アルミニウムの結晶構造は、六方晶系のウルツ鉱(wurtzite)型構造である。窒化アルミニウムのウルツ鉱型構造は、図3に示される。図4中の(a)及び図4中の(b)は、ウルツ鉱型構造の単位胞uc1を示す。基本ベクトル、結晶方位及び結晶面の表記のために、単位胞uc1中の原子は省略されているが、単位胞uc1(正六角柱)の12個の頂点其々には、アルミニウムが配置される。単位胞uc1中のa、a2、及びcは、単位胞uc1を構成する基本ベクトル(結晶軸)である。aの方位は[1000]である。aの方位は[0100]である。aの方位は[0010]である。cの方位は[0001]である。a、a及びa其々の長さは、互いに等しい。a、a及びaのいずれもcに垂直である。a、a及びaが互いになす角度は、120度(degrees)である。窒化アルミニウムの結晶構造はc軸に対する回転対称性を有する。図4中の(a)は、窒化アルミニウムの(0002)面を示している。図4中の(b)は、窒化アルミニウムの(11-20)面を示している。窒化アルミニウムの(11-20)面は、窒化アルミニウムのa面と言い換えられてよい。窒化アルミニウムの(1-100)面は、窒化アルミニウムのm面と言い換えられてよい。窒化アルミニウムの(0001)面は、窒化アルミニウムのc面と言い換えられてよい。
【0042】
サファイア層L1及び剥離層L2其々に含まれるα‐アルミナの結晶構造は、コランダム(corundum)型構造である。コランダム型構造は、正確には菱面体晶(rhombohedral crystal)であるが、コランダム型構造は六方晶で近似されてよい。α‐アルミナのコランダム型構造は、図5に示される。図5に示される六角形の図形は、c軸方向からみられるコランダム型構造(正六角柱)におけるアルミニウム原子及び酸素原子の配置を示している。図6中の(a)及び図6中の(b)は、コランダム型構造の単位胞uc2を示す。基本ベクトル、結晶方位及び結晶面の表記のために、単位胞uc2中の原子は省略されているが、単位胞uc2(正六角柱)の12個の頂点其々には、酸素が配置される。単位胞uc2中のa、a2、及びcは、単位胞uc2を構成する基本ベクトル(結晶軸)である。aの方位は[1000]である。aの方位は[0100]である。aの方位は[0010]である。cの方位は[0001]である。a、a及びa其々の長さは、互いに略等しい。a、a及びaのいずれもcに略垂直である。a、a及びaが互いになす角度は、略120度である。図6中の(a)は、α‐アルミナの(0006)面を示している。図6中の(b)は、α‐アルミナの(11-20)面を示している。α‐アルミナの(11-20)面は、α‐アルミナのa面と言い換えられてよい。α‐アルミナの(1-100)面は、α‐アルミナのm面と言い換えられてよい。α‐アルミナの(0001)面は、α‐アルミナのc面と言い換えられてよい。
【0043】
サファイア層L1中のα‐アルミナの格子面は、サファイア層L1の表面SL1にL2略平行であってよい。さらに、サファイア層L1中のα‐アルミナの格子面は、剥離層L2(基板10)の表面SL2に略平行であってよい。剥離層L2中の窒化アルミニウムの格子面は、サファイア層L1中のα‐アルミナの格子面と略平行であってよい。剥離層L2中のα‐アルミナの格子面は、サファイア層L1中のα‐アルミナの格子面と略平行であってよい。つまり、サファイア層L1中のα‐アルミナの格子面、剥離層L2中の窒化アルミニウムの格子面、剥離層L2中のα‐アルミナの格子面、サファイア層L1の表面SL1、及び剥離層L2(基板10)の表面SL2は、互いに略平行であってよい。その結果、窒化アルミニウム層L3は、サファイア層L1の結晶方位及び優れた結晶性を引き継ぎ易い。つまり、窒化アルミニウム層L3中の窒化アルミニウムの格子面が、サファイア層L1中のα‐アルミナの格子面と平行になり易い。
【0044】
例えば、サファイア層L1中のα‐アルミナの(0006)面は、サファイア層L1の表面SL1に略平行であってよい。さらに、サファイア層L1中のα‐アルミナのα‐アルミナの(0006)面は、剥離層L2(基板10)の表面SL2に略平行であってよい。剥離層L2中の窒化アルミニウムの(0002)面は、サファイア層L1中のα‐アルミナの(0006)面と略平行であってよい。剥離層L2中のα‐アルミナの(0006)面は、サファイア層L1中のα‐アルミナの(0006)面と略平行であってよい。つまり、サファイア層L1中のα‐アルミナの(0006)面、剥離層L2中の窒化アルミニウムの(0002)面、剥離層L2中のα‐アルミナの(0006)面、サファイア層L1の表面SL1、及び剥離層L2(基板10)の表面SL2は、互いに略平行であってよい。その結果、窒化アルミニウム層L3中の窒化アルミニウムの(0002)面が、サファイア層L1中のα‐アルミナの(0006)面と略平行になり易い。サファイア層L1中のα‐アルミナの(0006)面が、サファイア層L1の表面SL1に略平行である場合、サファイア層L1の表面SL1、及び剥離層L2(基板10)の表面SL2は、平坦なファセット(facet)である。窒化アルミニウム層L3が平坦なファセット上で成長することに因り、窒化アルミニウム層L3中の格子欠陥が抑制され易く、窒化アルミニウム層L3の結晶性が向上し易い。
【0045】
各層の結晶構造は、X線回折法(X‐Ray Diffraction; XRD)によって特定されてよい。各層中の窒化アルミニウム又はα‐アルミナが単結晶であるか否かは、X線回折法によって測定される極点図(pole figure)によって確認されてよい。窒化アルミニウム及びα‐アルミナ其々の各格子面の配向方向は、面外回折法(оut‐оf‐plane回折法)又は面内回折法(in‐plane回折法)によって特定されてよい。ただし、サファイア層L1中のα‐アルミナに由来する回折X線のピークと、剥離層L2中のα‐アルミナに由来する回折X線のピークとを、互いに区別することは困難である。したがって、サファイア層L1中のα‐アルミナの格子面の配向方向と、剥離層L2中のα‐アルミナの格子面の配向方向とは、電子線回折法によって特定及び区別されてよい。電子線回折法の実施のために、基板10は、サファイア層L1の表面SL1、及び剥離層L2(基板10)の表面SL2と略垂直な方向において切断される。その結果、サファイア層L1の断面及び剥離層L2の断面が得られる。サファイア層L1の断面において測定される電子線回折パターンから、サファイア層L1中のα‐アルミナの格子面の配向方向を特定することができる。剥離層L2の断面において測定される電子線回折パターンから、剥離層L2中のα‐アルミナの格子面の配向方向を特定することができる。
【0046】
一つの以上の空隙が剥離層L2中に形成されていてよい。一つの以上の空隙を剥離層L2中に形成することにより、基板10の機械的強度が剥離層L2において低下する。その結果、窒化アルミニウム基板の製造過程において、上記亀裂crが形成され易く、窒化アルミニウム層L3がサファイア層L1から剥離され易い。同様の理由から、複数の空隙が剥離層L2中に略均一に分散していてよい。剥離層L2に占める空隙の体積(容積)の割合は、例えば、0体積%以上40体積%以下であってよい。
【0047】
サファイア層L1の表面SL1に略平行な方向(XY面方向)において、剥離層L2中のα‐アルミナの結晶粒径の最大値は、例えば、20nm以上2000nm以下であってよい。α‐アルミナの結晶粒径の最大値の増加に伴い、剥離層L2中のα‐アルミナ及び窒化アルミニウムの間の界面の面積が増加する。界面の面積の増加に因り、亀裂crが界面に沿って形成され易い。剥離層L2中のα‐アルミナの結晶粒径の最大値が2000nm以下である場合、窒化アルミニウム層L3が加熱工程中に単結晶になり易く、剥離に伴う窒化アルミニウム層L3の割れが抑制され易い。例えば、剥離層L2中のα‐アルミナの結晶粒径は、サファイア層L1の表面SL1に略垂直な方向における剥離層L2の断面において、走査型電子顕微鏡(SEM)又は走査型透過電子顕微鏡(STEM)によって測定されてよい。
【0048】
サファイア層L1の厚みは、例えば、50μm以上3000μm以下であってよい。
剥離層L2の厚みTは、例えば、20nm以上1000nm以下であってよい。剥離層L2の厚みTが20nm以上である場合、窒化アルミニウム基板の製造過程において、上記亀裂crが形成され易く、窒化アルミニウム層L3がサファイア層L1から剥離され易い。剥離層L2の厚みTが1000nm以下である場合、剥離層L2中の窒化アルミニウム及びα‐アルミナの両方が、サファイア層L1の結晶方位及び優れた結晶性を引き継ぎ易い。その結果、窒化アルミニウム層L3が加熱工程中に単結晶になり易く、剥離に伴う窒化アルミニウム層L3の割れが抑制され易い。
窒化アルミニウム層L3の厚みは、例えば、0.05μm(50nm)以上1000μm以下、又は0.05μm以上20μm以下であってよい。窒化アルミニウム層L3が厚いほど、サファイア層L1からの剥離に伴う窒化アルミニウム層L3の割れが抑制され易い。
各層の厚みは、例えば、サファイア層L1の表面SL1に略垂直な方向における各層の断面において、走査型電子顕微鏡(SEM)又は走査型透過電子顕微鏡(STEM)によって測定されてよい。各層の厚みは、例えば、エリプソメーター(ellipsometer)によって測定されてもよい。
【0049】
窒化アルミニウム及びα‐アルミナは、剥離層L2中に混在していてよい。窒化アルミニウム及びα‐アルミナが剥離層L2中に混在することに因り、窒化アルミニウム層L3が均質になり易く、窒化アルミニウム層L3の結晶性が向上し易い。例えば、窒化アルミニウムを含む複数の結晶質相、及びα‐アルミナを含む複数の結晶質相が、剥離層L2中に混在していてよい。換言すれば、窒化アルミニウムを含む複数の結晶質相、及びα‐アルミナを含む複数の結晶質相が、剥離層L2中に略均一に分散していてよい。窒化アルミニウムを含む各結晶質相は、AlNからなる単結晶又はAlNからなる多結晶であってよい。α‐アルミナを含む各結晶質相は、α‐アルミナからなる単結晶又はα‐アルミナからなる多結晶であってよい。窒化アルミニウム及びα‐アルミナが、剥離層L2の表面SL2において混在していてよい。つまり、剥離層L2の表面SL2の一部分は、窒化アルミニウムからなっていてよく、剥離層L2の表面SL2の他の部分は、α‐アルミナからなっていてよい。剥離層L2の表面SL2の全体が、窒化アルミニウムのみからなっていてもよい。
【0050】
剥離層L2中の窒素原子(N)の物質量は、[N]モルと表されてよく、剥離層L2中の酸素原子(O)の物質量は、[O]モルと表されてよく、[N]/([N]+[O])は、30モル%以上90モル%以下であってよい。[N]/(N]+[O])が大きいほど、窒化アルミニウム層L3の結晶性が向上し易い。[N]/([N]+[O])が小さいほど、亀裂crが形成され易く、窒化アルミニウム層L3がサファイア層L1から剥離され易い。
【0051】
サファイア層L1、剥離層L2、及び窒化アルミニウム層L3其々の組成は、例えば、エネルギー分散型X線分光(Energy Dispersive X‐ray Spectroscopy; EDS又はEDX)、二次イオン質量分析(Secondary Ion Mass Spectrometry; SIMS)、及び光電子分光法(X‐ray Photoelectron Spectroscopy; XPS)のうち少なくとも一つの分析方法によって分析されてよい。各層の組成は、各層の断面において分析されてよい。サファイア層L1の表面SL1に略垂直な方向に沿って、各層の組成が順次分析されてもよい。
【0052】
本実施形態に係る基板10の製造方法は、少なくとも以下の第一工程及び第二工程を含む。
【0053】
第一工程では、アルミニウム(Al)を含む第一溶液が付着したサファイア基板が、酸化的雰囲気中で加熱される。その結果、酸化アルミニウム層がサファイア基板の表面に直接形成される。酸化アルミニウム層は、剥離層L2の前駆体に相当する。酸化アルミニウム層は、α‐アルミナの多結晶を含んでよい。酸化アルミニウム層は、α‐アルミナの多結晶のみらなっていてよい。酸化アルミニウム層は、α‐アルミナの多結晶に加えて微量の他の成分(例えば、不可避的な不純物)を含んでもよい。サファイア基板は、結晶質のα‐アルミナ(例えば、α‐アルミナの単結晶)からなっていてよい。サファイア基板は、完成された基板10におけるサファイア層L1になる。第一工程における酸化的雰囲気は、例えば、空気、又は大気であってよい。
【0054】
例えば、第一溶液としては、有機金属分解(Metal Organic Decomposition: MOD)法に用いられるMOD用溶液が用いられてよい。つまり、第一工程では、酸化アルミニウム層がMOD法によって形成されてよい。酸化アルミニウム層の原料であるMOD用溶液は、例えば、酸化アルミニウム、キシレン(C(CH)、2‐プロパノール((CHCHOH)、安定化剤、及び粘度調整剤等の成分を含んでよい。MOD法では、Alを含むMOD用溶液が、サファイア基板の表面に塗布される。サファイア基板の表面に塗布されたMOD用溶液を乾燥することにより、Alを含む膜(未酸化膜)がサファイア基板の表面に形成される。未酸化膜を酸化的雰囲気中で加熱することにより、未酸化膜中の有機化合物が分解及び除去され、未酸化膜中のAlが酸化される。その結果、未酸化膜から酸化アルミニウム層が形成される。MOD用溶液中のAlの濃度(単位:モル/リットル)、及びサファイア基板の表面に塗布されるMOD用溶液の体積又は質量に基づいて、酸化アルミニウム層の厚みが調整されてよい。MOD用溶液の塗布及び乾燥による未酸化膜の形成、並びに酸化的雰囲気中での未酸化膜の加熱(酸化)を交互に繰り返すことにより、酸化アルミニウム層の厚みを増加させてよい。酸化アルミニウム層の厚みは、概ね剥離層L2の厚みTと同じであってよい。したがって、酸化アルミニウム層の厚みに基づいて、剥離層L2の厚みTが制御されてよい。酸化アルミニウム層の厚みの増加に伴って、剥離層L2中のα‐アルミナの結晶粒径は増加し易い。MOD法によれば、比較的な疎な酸化アルミニウム層が形成され易いので、酸化アルミニウム層から得られる剥離層L2は多数の空隙を内包し易い。
【0055】
第二工程では、添加元素Mを含む第二溶液が付着した酸化アルミニウム層が、窒素ガス(N)を含む還元的雰囲気中で部分的に還元窒化される。その結果、剥離層L2がサファイア基板の表面に直接形成される。つまり、酸化アルミニウム層が剥離層L2になる。
酸化アルミニウム層中の1モルのα‐Alの還元窒化により、3モルの酸素原子が結晶構造から脱離し、2モルの窒素が結晶構造へ導入される。つまり、α‐Alの結晶構造を構成する3モルの酸素原子が2モルの窒素原子で置換される。したがって、1モルのα‐Alの還元窒化に因り、1モルの酸素原子に相当する格子欠陥(酸素空孔)が生じる。このような格子欠陥が酸化アルミニウム層中で増加して、一つ以上の空隙が剥離層L2中に形成されてよい。
【0056】
例えば、第二溶液としては、MOD用溶液が用いられてよい。例えば、第二工程では、添加元素Mを含むMOD用溶液が、酸化アルミニウム層の表面に塗布される。酸化アルミニウム層の表面に塗布されたMOD用溶液を乾燥することにより、添加元素Mを含む膜(未酸化膜)がサファイア基板の表面に形成される。未酸化膜を酸化的雰囲気中で乾燥及び加熱することにより、未酸化膜中の有機化合物が分解及び除去される。MOD用溶液中の添加元素Mの濃度(単位:モル/リットル)、及び酸化アルミニウム層の表面に塗布されるMOD用溶液の体積又は質量に基づいて、酸化アルミニウム層の還元窒化の程度が調整されてよい。
【0057】
添加元素Mを含むMOD用溶液は、例えば、添加元素Mの酸化物を含んでよい。Alの代わりに添加元素Mを含む点を除いて、添加元素Mを含むMOD用溶液の組成は、Alを含む上記MOD溶液と概ね同じであってよい。
【0058】
添加元素Mは、希土類元素、アルカリ土類元素、及びアルカリ金属元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である。希土類元素は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。アルカリ土類元素は、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。アルカリ金属元素は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)及びラジウム(Ra)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。
【0059】
添加元素Mは、酸化アルミニウム層の還元窒化を促進する。例えば、添加元素Mが酸化アルミニウム層の表面から酸素(O2-)を引き抜き、酸素欠陥が酸化アルミニウム層の表面に形成される。窒素は酸素欠陥へ導入され、酸素欠陥を通じて酸化アルミニウム層の表面から酸化アルミニウム層の内部へ熱拡散し易い。その結果、酸化アルミニウム層の一部が窒化され、結晶質の窒化アルミニウムが形成される。添加元素Mは、剥離層L2中に残存してよい。つまり、剥離層L2は少なくとも一種類の添加元素Mを含んでよい。例えば、第二工程では、添加元素Mが窒素ガスと反応して、添加元素Mの窒化物が剥離層L2中に形成されてよい。添加元素Mの窒化物が酸化アルミニウム層中の酸素と反応して、添加元素Mの酸化物が剥離層L2中に形成されてもよい。少なくとも一部の添加元素Mは、添加元素Mの酸化物として、剥離層L2から離脱してもよい。仮に第二工程において、添加元素Mが付着していない酸化アルミニウム層が還元窒化される場合、結晶質の酸化アルミニウム及び結晶質のα‐アルミナの両方を含む剥離層L2を形成し難い。
【0060】
添加元素Mは、ユーロピウム及びカルシウムのうち少なくとも一つの元素であってよい。Eu及びCaは、比較的低温においても、酸化アルミニウム層の表面全体へ十分に拡散し易く、酸化アルミニウム層の還元窒化を促進することができる。したがって、第二工程における酸化アルミニウム層の温度が、窒化アルミニウムが生成し難い低温であっても、Eu及びCaのうち少なくとも一方を用いることにより、結晶質の酸化アルミニウム及び結晶質のα‐アルミナの両方を含む剥離層L2が形成され易い。
【0061】
酸化アルミニウム層の還元窒化の継続時間(加熱時間)、添加元素Mの使用量、及び還元的雰囲気中の窒素ガスの分圧は、酸化アルミニウム層の厚みに応じて調整されてよい。還元窒化の継続時間が長いほど、酸化アルミニウム層の還元窒化が促進される。酸化アルミニウム層の表面に付着する添加元素Mが多いほど、酸化アルミニウム層の還元窒化が促進される。還元的雰囲気中の窒素ガスの分圧が高いほど、酸化アルミニウム層の還元窒化が促進される。
【0062】
窒素ガス中での酸化アルミニウム層の部分的な還元窒化は、炭素粉末の存在下で実施されてよい。酸化アルミニウム層から脱離した酸素が、雰囲気中の炭素と反応して一酸化炭素が生成してよい。
【0063】
本発明は必ずしも上述された実施形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、本発明の種々の変更が可能であり、これ等の変更例も本発明に含まれる。
【0064】
例えば、窒化アルミニウム基板の用途は、発光ダイオードに限定されない。窒化アルミニウム基板は、多様な半導体素子に用いられてもよい。例えば、窒化アルミニウム基板は、紫外線レーザー等の半導体レーザー発振器用の基板であってもよい。窒化アルミニウム基板は、パワートランジスタに用いられてもよい。窒化アルミニウム基板は、圧電素子(圧電薄膜素子)に用いられてもよい。例えば、圧電素子は、微小電気機械システム(Micro Electro Mechanical Systems;MEMS)に適用されてよい。窒化アルミニウム基板の製造方法(成長工程)において、気相成長法の代わりに液相成長法が採用されてもよい。
【実施例0065】
以下の実施例及び比較例により、本発明が詳細に説明される。本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
<基板の製造>
以下の第一工程が実施された。
【0067】
スピンコートにより、Alを含むMOD用溶液(第一溶液)がサファイア基板の表面全体に略均一に塗布された。第一溶液中のAlの濃度は、0.4mоl/Lに調整された。サファイア基板は、α‐アルミナの単結晶からなる基板であった。第一溶液が塗布されたサファイア基板の表面(主面)は、α‐アルミナの(0001)面(c面)に平行であった。サファイア基板は、円盤(ウェハー)であった。サファイア基板の直径は、2インチ(5.08cm)であった。サファイア基板の厚みは、0.45mmであった。サファイア基板の厚みは、均一であった。
【0068】
スピンコートは、2000rpmで20秒間実施された。サファイア基板の表面に塗布された第一溶液を150℃で乾燥することにより、Alを含む膜(未酸化膜)がサファイア基板の表面に形成された。Alを含む未酸化膜を大気中において600℃で2時間加熱することにより、酸化アルミニウムの多結晶からなる酸化アルミニウム膜が形成された。
【0069】
上記の手順で、第一溶液の塗布及び乾燥による未酸化膜の形成、並びに大気中での未酸化膜の加熱(酸化)が、交互に25回繰り返された。つまり、酸化アルミニウム膜を25回積層することにより、酸化アルミニウム層が形成された。最終的に得られた酸化アルミニウム層の厚みは、略均一であった。
【0070】
上記第一工程後、以下の第二工程(塗布工程及び還元窒化工程)が実施された。
【0071】
塗布工程では、スピンコートにより、Caを含むMOD用溶液(第二溶液)が酸化アルミニウム層の表面全体に塗布された。第二溶液に含まれるCaは、添加元素Mの一種である。第二溶液中Caの濃度は、0.001mоl/Lに調整された。スピンコートは、2000rpmで20秒間実施された。第二溶液の塗布後、サファイア基板が150℃のホットプレート上で10分間乾燥された。サファイア基板の乾燥後、サファイア基板が空気中において600℃で2時間加熱された。
【0072】
上記塗布工程後、以下の還元窒化工程が実施された。
サファイア基板がアルミナ板上に載せられた。5mgのカーボンの粉末(計20mgのカーボン)がサファイア基板の周囲の4か所其々に配置された。第二溶液が塗布されたサファイア基板の表面は、アルミナ板に接することなく露出していた。アルミナ板の寸法は、縦100mm×横100mmであった。続いて、サファイア基板の全体をアルミナ匣鉢(Saggar)で覆った後、サファイア基板が窒化処理炉内の試料設置台に設置された。アルミナ匣鉢の寸法は、縦75mm×横75mm×高さ70mmであった。窒化処理炉としては、カーボン製ヒーターを有する抵抗加熱型の電気炉が用いられた。窒化処理炉内でサファイア基板を加熱する前に、回転ポンプと拡散ポンプを用いて0.03Paまで炉内が脱気された。次いで、炉内の気圧が100kPa(大気圧)になるまで、窒素ガスを炉内へ流した後、窒素ガスの供給が停止された。還元窒化工程では、炉内への窒素ガスの供給後、炉内のサファイア基板が、1650℃で30分間加熱された。つまり、サファイア基板の表面に形成された酸化アルミニウム層の部分的な還元窒化により、剥離層がサファイア基板(サファイア層)の表面に直接形成された。炉内の昇降温速度は600℃/時間に調整された。剥離層が形成されたサファイア基板を室温まで冷却した後、サファイア基板が炉外へ取り出された。
【0073】
以上の手順で実施例1の基板が作製された。下記の分析及び測定のために、実施例1の基板として、複数の同じ基板が作製された。
【0074】
面外方向における剥離層の表面のθ‐2θスキャンにより、基板のX線回折(XRD)パターンが測定された。XRDパターンの測定では、入射X線としてCuの特性X線(CuKα線)が用いられた。実施例1のXRDパターンは、α‐アルミナの(0006)面に由来する回折線のピークを有していた。さらに実施例1のXRDパターンは、窒化アルミニウムの(0002)面に由来する回折線のピークを有していた。
α‐アルミナ及び窒化アルミニウム其々の(1-102)面の極図が、XRD法によって測定された。各極図は、6回の回転対称性を示す6つのピークを有していた。
基板のXRDパターンは、α‐アルミナ及び窒化アルミニウム以外の結晶に由来する回折線ピークを有していなかった。例えば、XRDパターンは、酸窒化アルミニウム(AlON)に由来するピークを有していなかった。
【0075】
基板の断面が、透過型電子顕微鏡(STEM)及びエネルギー分散型X線分光(EDS)によって分析された。分析された断面は、サファイア層及び剥離層其々の表面に垂直であり、剥離層の断面及びサファイア層の断面の両方を含んでいた。実施例1の断面の一部分(剥離層及びサファイア層の両方を含む部分)は、図7中の(a)、図7中の(b)、図7中の(c)、及び図7中の(d)に示される。基板の断面において測定された剥離層の厚みTは、下記表1に示される。サファイア層の表面(サファイア層及び剥離層の間の界面)に略平行な方向において、剥離層中のα‐アルミナの結晶粒径が測定された。剥離層の断面において測定されたα‐アルミナの結晶粒径の最大値は、下記表1に示される。
【0076】
基板の断面に露出するサファイア層の電子線回折パターンが、透過型電子顕微鏡によって測定された。基板の断面に露出する剥離層中のα‐アルミナの電子線回折パターンが、透過型電子顕微鏡によって測定された。両方の回折パターンの比較から、剥離層中のα‐アルミナの(0006)面がサファイア層中のα‐アルミナの(0006)面と平行であることが確認された。
【0077】
上記の測定及び分析の結果は、以下のように要約される。
基板は、α‐アルミナの単結晶からなるサファイア層と、サファイア層の表面に直接重なる剥離層とからなっていた。剥離層は、結晶質の窒化アルミニウム、及び結晶質のα‐アルミナからなっていた。窒化アルミニウムからなる複数の結晶質相、及びα‐アルミナからなる複数の結晶質相が、剥離層中に混在していた。複数の空隙が剥離層中に形成されていた。剥離層は、Ca(添加元素M)を含んでいた。
サファイア層中のα‐アルミナの(0006)面は、サファイア層の表面及び剥離層の表面に略平行であった。剥離層中の窒化アルミニウムの(0002)面は、サファイア層中のα‐アルミナの(0006)面と略平行であった。剥離層中のα‐アルミナの(0006)面は、サファイア層中のα‐アルミナの(0006)面と略平行であった。
【0078】
<窒化アルミニウム基板の製造>
実施例1の上記基板を用いた以下の製造方法により、実施例1の窒化アルミニウム基板が製造された。
実施例1の成長工程では、直流マグネトロンスパッタリング法を用いて、結晶質の窒化アルミニウムからなる窒化アルミニウム層が剥離層の表面全体に直接形成された。直流マグネトロンスパッタリング法は、気相成長法の一種である。窒化アルミニウム層の厚みは、20μmに調整された。スパッタリングターゲットとしては、金属アルミニウムが用いられた。原料ガスとしては、窒素ガスとアルゴンの混合ガスが用いられた。Nの体積:Arの体積は、3:1であった。スパッタリングのパワーは、1000Wであった。成長工程中の基板の温度は室温であった。成膜時間(スパッタリングの継続時間)は、10時間であった。
【0079】
成長工程に続く加熱工程では、窒化アルミニウム層が形成された基板が、窒素ガスで満たされた上記窒化処理炉内で、1700℃で120分間加熱された。
【0080】
加熱工程に続く冷却工程では、窒化アルミニウム層及びサファイア層が自然冷却により、室温まで冷却された。冷却工程により、亀裂が窒化アルミニウム層及びサファイア層の間に形成された。その結果、窒化アルミニウム層へ外力を加えることなく、窒化アルミニウム層はサファイア層から自発的に剥離された。剥離に伴って、窒化アルミニウム層は割れなかった。サファイア層から剥離された窒化アルミニウム層には、亀裂が形成されていなかった。窒化アルミニウム層(窒化アルミニウム基板)は、サファイア基板と同様の円盤であり、窒化アルミニウム層の直径は、2インチ(5.08cm)であった。
【0081】
サファイア層から剥離された窒化アルミニウム基板の表面のXRDパターンが、上記と同様の方法で測定された。面外方向における窒化アルミニウム基板のXRDパターンは、窒化アルミニウムの(0002)面に由来する回折線のピークを有していた。窒化アルミニウムの(1-102)面の極図は、6回の回転対称性を示す6つのピークを有していた。窒化アルミニウム基板のXRDパターンは、窒化アルミニウム以外の結晶に由来する回折線ピークを有していなかった。つまり、実施例1の窒化アルミニウム基板は、窒化アルミニウムの単結晶からなっていた。実施例1の窒化アルミニウム基板中の窒化アルミニウムの(0002)面は、サファイア層の(0006)面と略平行であった。
【0082】
(実施例2~4、及び比較例1)
実施例2の第一工程(酸化アルミニウム層の形成)では、第一溶液の塗布及び乾燥による未酸化膜の形成、並びに大気中での未酸化膜の加熱(酸化)が、1回実施された。
実施例2の第二工程(還元窒化工程)では、炉内のサファイア基板を、1650℃で3分間加熱することにより、剥離層が形成された。
【0083】
実施例3の第一工程(酸化アルミニウム層の形成)では、第一溶液の塗布及び乾燥による未酸化膜の形成、並びに大気中での未酸化膜の加熱(酸化)が、交互に50回繰り返された。
実施例3の第二工程(還元窒化工程)では、炉内のサファイア基板を、1650℃で60分間加熱することにより、剥離層が形成された。
【0084】
実施例4の第一工程(酸化アルミニウム層の形成)では、第一溶液の塗布及び乾燥による未酸化膜の形成、並びに大気中での未酸化膜の加熱(酸化)が、交互に55回繰り返された。
実施例4の第二工程(還元窒化工程)では、炉内のサファイア基板を、1650℃で60分間加熱することにより、剥離層が形成された。
【0085】
比較例1の基板の製造では、上記第一工程が実施されず、第二工程(塗布工程及び還元窒化工程)のみが実施された。つまり、比較例1の場合、Alを含む第一溶液は用いられず、酸化アルミニウム層はサファイア基板の表面に形成されなった。
比較例1の塗布工程では、スピンコートにより、Caを含む第二溶液が、サファイア基板の表面(主面)全体に直接塗布された。
比較例1の還元窒化工程では、炉内のサファイア基板を、1650℃で3分間加熱することにより、剥離層が形成された。
【0086】
上記の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例2~4及び比較例1其々の基板が製造された。実施例1と同様の方法で、実施例2~4及び比較例1其々の基板に関する測定及び分析が実施された。実施例2~4及び比較例1其々の剥離層の厚みTは、下記表1に示される。実施例2~4及び比較例1其々の剥離層中のα‐アルミナの結晶粒径の最大値は、下記表1に示される。
【0087】
実施例2及び3其々の測定及び分析の結果は、剥離層の厚みT、及びα‐アルミナの結晶粒径の最大値を除いて、実施例1と全く同じであった。つまり、実施例2及び3其々の基板は、剥離層の厚みT、及び剥離層中のα‐アルミナの結晶粒径の最大値を除いて、実施例1の基板と全く同じであった。
【0088】
実施例4の場合、剥離層の表面の面外方向において測定されたXRDパターンは、α‐アルミナの(0006)面に由来する回折線のピークに加えて、α‐アルミナの(11-20)面に由来する回折線のピークも有していた。つまり、実施例4の剥離層中の少なくとも一部のα‐アルミナの(0006)面は、実施例4のサファイア層中のα‐アルミナの(0006)面に対して平行ではなかった。
さらに実施例4の場合、剥離層の表面の面外方向において測定されたXRDパターンは、窒化アルミニウムの(0002)面に由来する回折線のピークに加えて、窒化アルミニウムの(11-20)面に由来する回折線のピークも有していた。つまり、実施例4の剥離層中の少なくとも一部の窒化アルミニウムの(0002)面は、実施例4のサファイア層中のα‐アルミナの(0006)面に対して平行ではなかった。
実施例4の測定及び分析の結果は、格子面に関する上記事項、剥離層の厚みT、及び剥離層中のα‐アルミナの結晶粒径の最大値を除いて、実施例1と同じであった。
【0089】
比較例1の剥離層は、窒化アルミニウムの単結晶のみからなっており、α‐アルミナを含んでいなかった。比較例1の場合、複数の空隙がサファイア層及び剥離層の間の界面近傍に形成されていた。
比較例1の測定及び分析の結果は、剥離層の組成及び結晶性、空隙の位置、剥離層の厚みT、及び剥離層中のα‐アルミナの結晶粒径の最大値を除いて、実施例1と同じであった。
【0090】
実施例2~4及び比較例1其々の基板を用いて、実施例2~4及び比較例1其々の窒化アルミニウム基板が製造された。基板を除いて、実施例2~4及び比較例1其々の窒化アルミニウム基板の製造方法は実施例1と同じであった。
【0091】
実施例2及び3の場合、冷却工程により、亀裂が窒化アルミニウム層及びサファイア層の間に形成された。実施例2及び3の場合、亀裂の形成により、窒化アルミニウム層へ外力を加えることなく、窒化アルミニウム層はサファイア層から自発的に剥離された。実施例2及び3の場合、剥離に伴って、窒化アルミニウム層は割れなかった。実施例2及び3の場合、サファイア層から剥離された窒化アルミニウム層には、亀裂が形成されていなかった。
実施例2及び3其々の窒化アルミニウム基板の表面のXRDパターンが、実施例1と同様の方法で測定された。実施例2及び3其々の窒化アルミニウム基板は、窒化アルミニウムの単結晶からなっていた。実施例2及び3其々の窒化アルミニウム基板中の窒化アルミニウムの(0002)面は、サファイア層の(0006)面と略平行であった。
【0092】
実施例4の場合、冷却工程により、亀裂が窒化アルミニウム層及びサファイア層の間に形成された。実施例4の場合、亀裂の形成により、窒化アルミニウム層へ外力を加えることなく、窒化アルミニウム層はサファイア層から自発的に剥離された。
しかし実施例4の場合、冷却及び剥離に伴って、窒化アルミニウム層は割れてしまった。実施例4の窒化アルミニウム層の割れは、窒化アルミニウム層が多結晶であることに起因する、と発明者は推察する。つまり、実施例4の場合、加熱工程において窒化アルミニウム層が十分に結晶化されなかった、と発明者は推察する。
【0093】
比較例1の場合、冷却工程により、窒化アルミニウム層はサファイア層から自発的に剥離されなかった。さらに比較例1の場合、サファイア層上の窒化アルミニウム層自体に亀裂が形成されていることが、光学顕微鏡を用いた観察によって確認された。窒化アルミニウム層自体に形成された亀裂は、窒化アルミニウム層及びサファイア層の間の空隙に集中する応力に起因する、と発明者は推察する。
比較例1の窒化アルミニウム基板の表面のXRDパターンが、実施例1と同様の方法で測定された。比較例1の窒化アルミニウム基板は、窒化アルミニウムの単結晶からなっていた。
【0094】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0095】
例えば、本発明の一側面に係る基板は、深紫外線発光ダイオード用の窒化アルミニウム基板の製造に用いられる。
【符号の説明】
【0096】
10…基板、L1…サファイア層、L2…剥離層、L3…窒化アルミニウム層(窒化アルミニウム基板)、SL1…サファイア層の表面、SL2…剥離層の表面、T…剥離層の厚み、cr…亀裂。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7