(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049031
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】熱収縮性フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240402BHJP
B29C 55/12 20060101ALI20240402BHJP
B29C 61/06 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
C08J5/18 CEZ
B29C55/12
B29C61/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155257
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】権田 貴司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 和宏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀樹
【テーマコード(参考)】
4F071
4F210
【Fターム(参考)】
4F071AA51X
4F071AA86X
4F071AF15Y
4F071AF20Y
4F071AF21
4F071AF30
4F071AF39
4F071AF40
4F071AF61Y
4F071AG28
4F071AH04
4F071AH12
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4F210AA32
4F210AG01
4F210AR01
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4F210QL15
4F210QL16
4F210QW07
4F210QW50
4F210RA03
4F210RC02
4F210RG01
4F210RG04
4F210RG43
(57)【要約】
【課題】 熱収縮性の向上が期待でき、300℃の高温域での溶融を防ぐことのできる熱収縮性フィルム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 少なくともポリエーテルエーテルケトン樹脂含有の成形材料1により結晶化度が15%以下の未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2が溶融押出成形され、このポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2が二軸延伸されることで形成される熱収縮性フィルムであり、170℃、200℃、及び250℃における縦横方向の加熱寸法変化率がJIS K 7133に準拠して測定した場合に-50%以上-5%以下である。未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を二軸延伸するので、熱収縮性を向上させることができ、優れた熱収縮性フィルムを得ることができる。また、結晶化度が15%以下のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を二軸延伸するので、二軸延伸の容易化が期待できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリエーテルエーテルケトン樹脂含有の成形材料により結晶化度が15%以下の未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムが成形され、このポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムが二軸延伸されることで形成される熱収縮性フィルムであって、
170℃、200℃、及び250℃における縦横方向の加熱寸法変化率がJIS K 7133に準拠して測定した場合に-50%以上-5%以下であることを特徴とする熱収縮性フィルム。
【請求項2】
23℃における引張最大強度がJIS K 7127に準拠して測定した場合に180MPa以上290MPa以下であり、23℃における引張弾性率がJIS K 7127に準拠して測定した場合に3850MPa以上4420MPa以下である請求項1記載の熱収縮性フィルム。
【請求項3】
300℃における貯蔵弾性率が周波数1Hz、昇温速度3℃/分の条件で測定した場合に1×105Pa以上1×1010Pa以下である請求項1又は2記載の熱収縮性フィルム。
【請求項4】
請求項1又は2記載の熱収縮性フィルムの製造方法であって、少なくともポリエーテルエーテルケトン樹脂含有の成形材料を用いた成形法により結晶化度が1%以上15%以下の未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを成形した後、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを1.5倍以上5倍以下の延伸倍率で二軸延伸することを特徴とする熱収縮性フィルムの製造方法。
【請求項5】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを同時二軸延伸した後、このポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムのガラス転移点温度+30〕℃以上〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの融点〕以下の温度で熱処理して熱固定する請求項4記載の熱収縮性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂からなる熱収縮性フィルム及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂は、耐熱特性、化学的安定性、耐加水分解性、電気絶縁特性や機械的特性に優れる樹脂として知られている。このポリエーテルエーテルケトン樹脂を用いて樹脂フィルムを製造する方法としては、様々な方法が提案されている(特許文献1、2、3、4、5、6、7参照)。
【0003】
例えば特許文献1では、エンジニアリングプラスチック溶融体と、このエンジニアリングプラスチック溶融体と剥離性のある樹脂膜との積層体を同時に成形加工した後、樹脂膜を剥離して薄膜のエンジニアリングプラスチックフィルムを製造する方法が提案されている。また、特許文献2では、剥離フィルムの一方の面に対してエンジニアリングプラスチック溶融体を押出コートし、積層体を成形した後に剥離フィルムを剥離することにより、薄膜のエンジニアリングプラスチックフィルムを製造する方法が提案されている。
【0004】
特許文献3では、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の真のせん断粘度と伸長粘度に着目するとともに、ダイスの先端部から冷却ロールにポリエーテルエーテルケトン樹脂が接触する接触点までの距離を調整することにより、厚さ5μm以下のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを成形する方法が提案されている。また、特許文献4、5、6、7には、二軸延伸法によりポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを製造する製法が開示されている。さらに、特許文献8には、高耐熱樹脂を使用した熱収縮性フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-21912号公報
【特許文献2】WO2018/235436号公報
【特許文献3】特許第6087257号公報
【特許文献4】特開昭63-256422号公報
【特許文献5】特公平7-64023号公報
【特許文献6】特開2014-226881号公報
【特許文献7】特開2015-67683号公報
【特許文献8】特開2022-77687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の場合には、厚さ50μm未満で厚さムラが10%未満の優れた厚み均質性を有する薄膜のエンジニアリングプラスチックフィルムを得ることができるものの、熱収縮性が小さく、熱収縮性フィルムとしては機能性に問題がある。また、特許文献2の場合には、厚み均一性と表面平滑性に優れる薄膜のエンジニアリングプラスチックフィルムを得ることができるものの、やはり熱収縮性が小さく、熱収縮性フィルムとしては機能性に問題がある。
【0007】
特許文献3の場合には、厚さ5μm以下のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの成形に有効ではあるが、この方法で得られる樹脂フィルムの熱収縮性も小さいので、熱収縮性フィルムとしては問題である。また、特許文献4、5、6、7の場合には、二軸延伸後のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを熱処理するので、高温域の熱収縮率が6%以下の樹脂フィルムとなり、熱収縮性フィルムとして問題である。
【0008】
さらに、特許文献8の場合には、熱収縮性フィルムの製造にポリフェニレンサルファイド樹脂を用いるが、このポリフェニレンサルファイド樹脂の融点は280℃付近である。したがって、300℃の高温域では溶融してしまい、使用に重大な支障を来すこととなる。
【0009】
本発明は上記に鑑みなされたもので、熱収縮性の向上が期待でき、300℃の高温域での溶融を防ぐことのできる熱収縮性フィルム及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、鋭意研究した結果、熱可塑性樹脂の中で最も耐熱性に優れ、機械的特性や電気的特性にも優れるポリエーテルエーテルケトン樹脂と結晶化度に着目し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明においては上記課題を解決するため、少なくともポリエーテルエーテルケトン樹脂含有の成形材料により結晶化度が15%以下の未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムが成形され、このポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムが二軸延伸されることで形成される樹脂フィルムであって、
170℃、200℃、及び250℃における縦横方向の加熱寸法変化率がJIS K 7133に準拠して測定した場合に-50%以上-5%以下であることを特徴としている。
【0012】
なお、200℃と250℃におけるヘイズ値がJIS K 7136に準拠して測定した場合に1%以上15%以下であることが好ましい。
また、23℃における引張最大強度がJIS K 7127に準拠して測定した場合に180MPa以上290MPa以下であり、23℃における引張弾性率がJIS K 7127に準拠して測定した場合に3850MPa以上4420MPa以下であることが好ましい。
また、300℃における貯蔵弾性率が周波数1Hz、昇温速度3℃/分の条件で測定した場合に1×105Pa以上1×1010Pa以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明においては上記課題を解決するため、請求項1又は2記載の熱収縮性フィルムの製造方法であって、
少なくともポリエーテルエーテルケトン樹脂含有の成形材料を用いた成形法により結晶化度が1%以上15%以下の未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを成形した後、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを1.5倍以上5倍以下の延伸倍率で二軸延伸することを特徴としている。
【0014】
なお、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを同時二軸延伸した後、必要に応じてポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムのガラス転移点温度+30〕℃以上〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの融点〕以下の温度で熱処理して熱固定し、熱収縮特性を調整するようにしても良い。
【0015】
ここで、特許請求の範囲における成形材料には、少なくとも51質量%以上100質量%以下のポリエーテルエーテルケトン樹脂が含有されることが好ましい。また、未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの成形法としては、溶融押出成形法、カレンダー成形法、あるいはキャスティング法等があげられる。二軸延伸は、連続式で実施しても良いし、バッチ式で実施しても良い。さらに、本発明に係る熱収縮性フィルムは、単層構造、二層構造、三層構造等を特に問うものではなく、少なくとも電池セルの絶縁被覆、箱状の包装資材、モータ等の電線の被覆部材、チューブ、ラベル等に利用することができる。
【0016】
本発明によれば、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を用いるので、300℃の高温域でも溶融することがない。また、成形した未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを二軸延伸するので、高い熱収縮性が期待でき、優れた熱収縮性フィルムを得ることができる。また、結晶化度が15%以下のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを二軸延伸するので、二軸延伸の容易化が期待できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、熱収縮性の向上が期待でき、300℃の高温域での溶融を防ぐことができるという効果がある。また、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの結晶化度が15%以下なので、過大な延伸張力に伴うポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの破れ、延伸ムラ、ピンホール等の発生を抑制することができる。
【0018】
請求項2記載の発明によれば、熱収縮性フィルムの23℃における引張弾性率がJIS K 7127に準拠して測定した場合に3850MPa以上4420MPa以下なので、熱収縮性フィルムの剛性を向上させることができ、例え熱収縮性フィルムの厚みが薄くなっても、取り扱いの便宜を図ることができる。
請求項3記載の発明によれば、熱収縮性フィルムの300℃における貯蔵弾性率が周波数1Hz、昇温速度3℃/分の条件で測定した場合に1×105Pa以上1×1010Pa以下なので、優れた耐熱性を得ることができる。
【0019】
請求項4記載の発明によれば、結晶化度が1%以上15%以下のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを二軸延伸するので、二軸延伸の容易化が期待できる。また、二軸延伸時の延伸倍率が1.5倍以上5.0倍以下なので、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの厚さバラツキを抑制しながら優れた延伸効果を得ることができ、しかも、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムにフィルム破れ、延伸ムラ、ピンホールが生じるのを防止することが可能となる。
【0020】
請求項5記載の発明によれば、同時二軸延伸法を採用してポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを同時二軸延伸するので、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの結晶化を抑制することができ、しかも、延伸だけでなく任意に弛緩できるため、ボーイングや分子配向の異方性を抑制した熱収縮性フィルムを簡易に得ることが可能となる。また、逐次二軸延伸法のようにバランスを考慮する等の製造作業の煩雑さを低減することができるので、延伸条件設定の自由度の向上を図ることが可能となる。さらに、必要に応じ、同時二軸延伸したポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムに熱処理を施せば、熱処理により熱収縮特性を調整したり、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの熱固定に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係る熱収縮性フィルム及びその製造方法の実施形態における製造装置を模式的に示す全体説明図である。
【
図2】本発明に係る熱収縮性フィルム及びその製造方法の第2の実施形態における製造装置を模式的に示す斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における熱収縮性フィルムは、
図1に示すように、少なくともポリエーテルエーテルケトン樹脂含有の成形材料1により結晶化度が15%以下の未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2が単層に成形され、このポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2が5倍以下の延伸倍率により二軸延伸されることで形成される熱収縮性の樹脂フィルムであり、電池セル、包装資材、電線の被覆等に利用されることにより、国連サミットで採択されたSDGs(国連の持続可能な開発のための国際目標であり、17のグローバル目標と169のターゲット(達成基準)からなる持続可能な開発目標)の目標9の達成に貢献する。
【0023】
成形材料1は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を主成分として調製され、このポリエーテルエーテルケトン樹脂を51質量%以上100質量%以下、好ましくは75質量%以上100質量%以下、より好ましくは90質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは95質量%以上100質量%以下含有する。
【0024】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂は、アリーレン基、エーテル基、及びカルボニル基からなる結晶性の熱可塑性樹脂で、例えば文献〔株式会社旭リサーチセンター:先端用途で成長するスーパーエンプラ・PEEK(上)〕等に記載された樹脂からなり、機械的特性、軽量性、電気的特性、耐加水分解性、耐熱性、耐薬品性等に優れるという特徴を有する。このポリエーテルエーテルケトン樹脂の具体例としては、例えば化学式(1)で表されるポリエーテルエーテルケトン樹脂があげられる。
【0025】
【0026】
この化学式のnは、機械的特性を向上させる観点から10以上、好ましくは20以上が良い。ポリエーテルエーテルケトン樹脂は、化学式(1)の繰り返し単位のみからなるホモポリマーでも良いが、化学式(1)以外の繰り返し単位を有していても良い。また、ポリエーテルエーテルケトン樹脂中、化学式(1)の化学構造の割合は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂100モル%に対し、51モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは85モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上が良い。これは、係る範囲内であれば、耐熱性、機械的特性、電気絶縁性等に優れる熱収縮性フィルムを得ることができるからである。
【0027】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲において、他の共重合可能な単量体とのブロック共重合体、ランダム共重合体、あるいは変性体も使用可能である。また、ポリエーテルエーテルケトン樹脂は、融点が通常320℃以上360℃以下、好ましくは335℃以上345℃以下であり、一般的には粉状、顆粒状、ペレット状の成形加工に適した形で使用される。ポリエーテルエーテルケトン樹脂の融点(単位:℃)は、示差走査熱量計を用いた熱分析により求めることができる。
【0028】
このようなポリエーテルエーテルケトン樹脂の製品例としては、例えばビクトレック社製の製品名:Victrex Powderシリーズ、Victrex Granulesシリーズ、ダイスセル・エボニック社製の製品名:ベスタキープシリーズ、ソルベイスペシャルティポリマーズ社製の製品名:キータスパイア PEEKシリーズがあげられる。
【0029】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂の製造方法としては、例えば特開昭50-27897号公報、特開昭5l-119797号公報、特開昭52-38000号公報、特開昭54-90296号公報、特公昭55-23574号公報、特公昭56-2091号公報、特許第5702283号公報等に記載された製法があげられる。代表的な製造方法としては、特に限定されるものではないが、芳香族ジオール成分と芳香族ジハライド成分(但し、いずれか一方の成分は、少なくともカルボニル基を有する成分を含む)を、アルカリ金属塩及び溶媒の存在下、150℃以上400℃以下の温度範囲で重縮合させる方法があげられる。
【0030】
芳香族ジオール成分の例としてはハイドロキノン等、芳香族ジハライド成分の例としては4,4’-ジフルオロベンゾフェノン等が該当する。また、アルカリ金属塩の例としては無機炭酸カリウム等が該当し、溶媒の例としてはジフェニルスルホン等が該当する。重縮合反応完了後は、粉砕し、アセントン、メタノール、エタノール、水等により洗浄して乾燥させることができる。
【0031】
なお、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の使用に際しては、末端基(通常、ハロゲン原子)をアルカリ性スルホン酸基(スルホン酸ナトリウム基、スルホン酸カリウム基、スルホン酸リチウム基等)で修飾すること等により、結晶化温度を適宜調整して使用しても良いが、末端基を修飾しないで使用するのが好ましい。
【0032】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂の見掛けの剪断粘度は、温度375℃における見掛けの剪断速度1.0×102sec-1の場合、1.0×102Pa・s以上1.0×104Pa・s以下、好ましくは2.0×102Pa・s以上5.0×103Pa・s以下、より好ましくは2.5×102Pa・s以上2.5×103Pa・s以下、さらに好ましくは5.0×102Pa・s以上2.0×103Pa・s以下の範囲内とされる。
【0033】
これは、見掛けの溶融粘度が1.0×102Pa・s未満の場合には、溶融したポリエーテルエーテルケトン樹脂の溶融張力が小さく、フィルム成形性に問題が生じ、さらに機械的特性が低下するため、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の二軸延伸が困難になるからである。これに対し、見掛けの溶融粘度が1.0×104Pa・sを越える場合には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の溶融押出成形に困難が生じるからである。このポリエーテルエーテルケトン樹脂の見掛けの剪断粘度は、市販の剪断粘度・伸長粘度測定装置により測定することができる。
【0034】
成形材料1には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の他、本発明の特性を損なわない範囲において、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)樹脂、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)樹脂等のポリアリーレンエーテルケトン樹脂を必要に応じて添加することができる。
【0035】
また、成形材料1には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の他、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリメチルペンテン(PMP)樹脂やポリスチレン(PS)樹脂等のポリオレフィン樹脂、無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂や無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂等の酸変性オレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂やポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂等のポリエステル樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂等のポリイミド樹脂、ポリアミド4T(PA4T)樹脂、ポリアミド6T(PA6T)樹脂、変性ポリアミド6T(変性PA6T)樹脂、ポリアミド9T(PA9T)樹脂、ポリアミド10T(PA10T)樹脂、ポリアミド11T(PA11T)樹脂、ポリアミド6(PA6)樹脂、ポリアミド66(PA66)樹脂やポリアミド46(PA46)樹脂等のポリアミド樹脂、ポリサルホン(PSU)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂やポリフェニレンサルホン(PPSU)樹脂等のポリサルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリフェニレンスルフィドケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィドスルホン樹脂やポリフェニレンスルフィドケトンスルホン樹脂等のポリアリーレンサルファイド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピル共重合体(FEP)樹脂、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)樹脂、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)樹脂フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂や酸変性フッ素樹脂等のフッ素樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、液晶ポリマー(LCP)、脂肪族ポリケトン樹脂等の熱可塑性樹脂を選択的に添加することができる。
【0036】
成形材料1には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の他、本発明の目的を損なわない範囲で種々の添加剤、例えば結晶核剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑り剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、充填剤、粘度調整剤、着色防止剤等を添加することもできる。また、成形材料1のポリエーテルエーテルケトン樹脂には粒子を含有させることができるが、この場合、無機粒子や有機粒子が好ましく用いられる。
【0037】
無機粒子としては、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、ジルコニア等の金属酸化物や硫酸バリウム、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、リン酸カルシウム、マイカ、タルク、カオリン、クレー、ゼオライト等があげられる。これらの中でも、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、ジルコニア等の金属酸化物が好ましい。特に好ましいのはシリカである。
【0038】
これに対し、有機粒子としては、ジメチルポリシロキサンの架橋粒子、ポリメトキシシラン系化合物の架橋粒子、ポリオルガノシルセスキオキサン硬化物粒子、ポリスチレン系化合物の架橋粒子、アクリル系化合物の架橋粒子、ポリウレタン系化合物の架橋粒子、ポリエステル系化合物の架橋粒子、フッ素系化合物の架橋粒子、フラーレンの1種を単独で使用したり、あるいは2種以上を併用することができる。
【0039】
無機粒子及び有機粒子の平均粒径は、0.01μm以上5.0μm以下の範囲内が良い。この平均粒径は、好ましくは0.05μm以上3.0μm以下、より好ましくは0.07μm以上2,0μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上1.0μm以下の範囲が良い。これは、平均粒径が0.01μm未満の場合には表面粗さが小さくなり、ハンドリング性が低下することがあるからである。これに対し、5.0μmを越える場合には、二軸延伸中のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2が破れやすくなったり、熱収縮性フィルムの光学特性、機械的特性、電気的特性や吸水性が悪化するからである。
【0040】
無機粒子や有機粒子の平均粒子径の測定方法としては、粒子の透過型電子顕微鏡写真から画像処理により得られる円相当径を用い、重量平均径を算出して測定する方法があげられる。
【0041】
上記粒子の添加量としては、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を100質量部としたとき、0.01質量部以上3.0質量部以下、好ましくは0.03質量部以上2.0質量部以下、より好ましくは0.05質量部以上1.5質量部以下、さらに好ましくは0.05質量部以上1.0質量部以下の範囲が良い。これは、添加量が0.01質量部未満の場合には、ハンドリング性が不足するからである。これに対し、3.0質量部を越える場合には、未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2が二軸延伸中に破れやすくなったり、熱収縮性フィルムの光学特性、機械的特性、電気的特性や吸水性が悪化するからである。
【0042】
無機粒子や有機粒子の凝集を防いだり、ポリエーテルエーテルケトン樹脂との親和性を向上させたい場合には、熱収縮性フィルムの特性を損なわない範囲において、成形材料1に、例えばシランカップリング剤〔ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3‐メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3‐アミノプロピルエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物、イミダゾールシラン等〕、チタネート系カップリング剤〔イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピル(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリス(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジ-トリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジ‐トリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、テトライソプロピル(ジオクチルホスファイト)チタネート等〕、アルミネート系カップリング剤〔アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等〕等からなる各種カップリング剤で処理を施すことが可能である。
【0043】
カップリング剤の処理量は、無機粒子や有機粒子を100質量部としたとき、0.01質量部以上5.0質量部以下、好ましくは0.1質量部以上3.0質量部以下、より好ましくは0.5質量部以上2.0質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以上1.5質量部以下の範囲である。これは、添加量が0.01質量部未満の場合には、粒子同士の凝集を防止できない場合やポリエーテルエーテルケトン樹脂への親和性を向上させることができない可能性があり、機械的強度が低下したり、あるいはポリエーテルエーテルケトン樹脂中での分散性が低下することがあるという理由に基づく。これに対し、5.0質量部を越える場合には、熱収縮性フィルムの光学特性、機械的特性、電気的特性や吸水性が悪化するという理由に基づく。
【0044】
未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2は、結晶化度が15%以下、好ましくは1%以上15%以下、より好ましくは3%以上13%以下、さらに好ましくは4%以上12%以下、最も好ましくは4%以上10%以下に所定の成形法で成形される。これは、結晶化度が1%未満の場合には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の製造が困難になるという理由に基づく。これに対し、結晶化度が15%を越える場合には、延伸張力が過大となり、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の破れ、延伸ムラ、ピンホール等が生じ易くなり、二軸延伸が困難になるという理由に基づく。
【0045】
未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の結晶化度は、示差走査熱量計を用いた熱分析結果に基づき、以下の式により算出される。
【0046】
結晶化度(%)={(ΔHm-ΔHc)/ΔHx}×100 …(式1)
ここで、ΔHm:未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの結晶融解ピーク
の熱量(J/g)
ΔHc:未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの再結晶化ピーク
の熱量(J/g)
ΔHx:100%結晶化した未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィル
ムの融解エネルギーの理論値であり、130J/gである。
【0047】
未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の成形法としては、溶融押出成形法、カレンダー成形法、あるいはキャスティング法等があげられる。これらの成形法の中では、未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の厚さ精度、生産性、ハンドリング性の向上、設備の簡略化の観点から、未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を連続して帯形に押出成形可能な溶融押出成形法が最適である。
【0048】
溶融押出成形法は、
図1に示すように、溶融押出成形機10を使用してポリエーテルエーテルケトン樹脂を含有する成形材料1を溶融混練し、溶融押出成形機10の先端部に連結されたTダイスや丸ダイス等のダイス13から帯状に溶融したポリエーテルエーテルケトン樹脂を連続的に押し出し、このポリエーテルエーテルケトン樹脂を圧着ロール17と冷却ロール18の間に挟持して冷却することにより、未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を製造する方法である。
【0049】
溶融押出成形機10は、例えば単軸押出成形機や二軸押出成形機等からなり、後部上方に、成形材料1用の原料投入口11が設置され、この原料投入口11には、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、窒素ガス等の不活性ガスを必要に応じて供給する不活性ガス供給管12が接続されており、この不活性ガス供給管12による不活性ガスの供給により、成形材料1の酸化劣化、酸素架橋、熱架橋が有効に防止される。
【0050】
溶融押出成形機10の溶融混練時における溶融温度は、溶融混練分散が可能でポリエーテルエーテルケトン樹脂が分解しない温度であれば、特に制限されるものではないが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の融点(以下、Tmと呼称する)以上ポリエーテルエーテルケトン樹脂の熱分解温度未満の範囲が良い。
【0051】
好ましくは〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTm+10〕℃以上〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTm+100〕℃以下、より好ましくは〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTm+20〕℃以上〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂の+70〕℃以下、さらに好ましくは〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTm+30〕℃以上〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTm+60〕℃以下が良い。ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTm(単位:℃)は、示差走査熱量計を用いた熱分析により求めることができる。
【0052】
具体的な温度としては、360℃以上450℃以下、好ましくは360℃以上420℃以下、より好ましくは370℃以上400℃以下の範囲が良い。これは、溶融押出成形機10の溶融混練時における温度がポリエーテルケトン樹脂のTm未満の場合には、溶融押出成形できないため未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂を製造することができないからである。これに対し、熱分解温度以上の場合には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の分解を招くからである。
【0053】
ダイス13は、溶融押出成形機10の先端部に連結管14を介して連結され、帯形のポリエーテルエーテルケトン樹脂を連続的に下方に押し出すよう機能する。このダイス13には、様々なタイプがあるが、優れた厚さ精度の未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を得ることが可能なTダイスが好適である。
【0054】
ダイス13の上流の連結管14には、ギアポンプ15とフィルター16とがそれぞれ装着されることが好ましい。ギアポンプ15は、溶融押出成形機10により溶融混練された成形材料1を一定の流量で、かつ高精度に下流のダイス13にフィルター16を介して移送するよう機能する。また、フィルター16は、溶融状態のポリエーテルエーテルケトン樹脂から未溶融のポリエーテルエーテルケトン樹脂や異物等を分離し、溶融状態のポリエーテルエーテルケトン樹脂をダイス13に移送するよう機能する。
【0055】
ダイス13の押し出し時における温度は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTm以上ポリエーテルエーテルケトン樹脂の熱分解温度未満の範囲が良い。好ましくは〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTm+10〕℃以上〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTm+100〕℃以下、より好ましくは〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTm+20〕℃以上〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTm+70〕℃以下、さらに好ましくは〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTm+30〕℃以上〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTm+60〕℃以下が良い。
【0056】
具体的な温度としては、360℃以上450℃以下、好ましくは360℃以上420℃以下、より好ましくは370℃以上400℃以下の範囲が良い。これは、ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTm未満の場合には、未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を作製することができないからである。逆に、熱分解温度以上の場合には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の分解を招き、好ましくないからである。
【0057】
ダイス13の下方には、間隔をおいて相対向する一対の圧着ロール17が回転可能に軸支され、この一対の圧着ロール17の間には、一列に配列されて相互に摺接する複数の冷却ロール18が回転可能に軸支されており、この複数の冷却ロール18のうち、上流の冷却ロール18と下流の冷却ロール18が圧着ロール17の周面にそれぞれ摺接する。各圧着ロール17は縮径に構成され、各冷却ロール18は圧着ロール17よりも拡径に構成される。
【0058】
一対の圧着ロール17のうち、下流の圧着ロール17のさらに下流には、未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を回転可能な巻取管19に巻き取る巻取機20が設置され、この巻取機20と下流の圧着ロール17との間には、未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の側部長手方向にスリットを形成するスリット刃21が昇降可能に配置されており、このスリット刃21と巻取機20との間には、未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2にテンションを作用させて円滑に巻き取るための回転可能なテンションロール22が必要数軸支される。
【0059】
各圧着ロール17は、〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のガラス転移点温度(以下、ガラス転移点はTgと呼称する)-100〕℃以上〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTg+50〕℃以下、好ましくは〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTg-70〕℃以上〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTg+40〕℃以下、より好ましくは〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTg-40〕℃以上〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTg+30〕℃以下、さらに好ましくは〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTg-10〕℃以上〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTg+20〕℃以下の温度範囲に調整される。ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTg(単位:℃)は、示差走査熱量計を用いた熱分析により求めることができる。
【0060】
具体的な温度範囲としては、50℃以上190℃以下、好ましくは100℃以上180℃以下、より好ましくは120℃以上170℃以下、さらに好ましくは130℃以上160℃以下である。
【0061】
圧着ロール17の温度が係る範囲なのは、〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTg-100〕℃未満の場合には、溶融押出成形された帯形のポリエーテルエーテルケトン樹脂を冷却ロール18に密着させることができないため、平滑な未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を得ることができないからである。これに対し、〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTg+50〕℃を越える場合には、結晶化度が15%を越えてしまい、結晶化度を15%以下に調整することができないからである。圧着ロール17の温度調整法としては、例えば空気、水、オイル等の熱媒体を用いる方法、電気ヒーターを用いる方法、誘導加熱を利用する方法等があげられる。
【0062】
各圧着ロール17の周面には、未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2と冷却ロール18の密着性を向上させる観点から、少なくとも天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ノルボルネンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等のゴム層が必要に応じて被覆形成され、このゴム層には、シリカやアルミナ等の無機化合物が選択的に添加される。これらのゴムの中では、耐熱性に優れるシリコーンゴムやフッ素ゴムの選択が好ましい。
【0063】
複数の冷却ロール18は、例えば圧着ロール17よりも拡径の金属ロールからなり、ダイス13の下方に回転可能に軸支されて帯形に押し出されたポリエーテルエーテルケトン樹脂を圧着ロール17との間に狭持し、圧着ロール17と共にポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を短時間で冷却しながらその厚さを所定の範囲内に制御するように機能する。
【0064】
冷却ロール18は、圧着ロール17と同様、〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTg-100〕℃以上〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTg+50〕℃以下、好ましくは〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTg-70〕℃以上〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTg+40〕℃以下、より好ましくは〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTg-40〕℃以上〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTg+30〕℃以下、さらに好ましくは〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTg-10〕℃以上〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTg+20〕℃以下の温度範囲に調整される。ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTg(単位:℃)は、示差走査熱量計を用いた熱分析により求めることが可能である。
【0065】
具体的な温度範囲としては、50℃以上190℃以下、好ましくは100℃以上180℃以下、より好ましくは120℃以上170℃以下、さらに好ましくは130℃以上160℃以下である。
【0066】
冷却ロール18の温度が係る範囲なのは、〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のガラス転移点-100〕℃未満の場合には、連続して溶融押出成形された帯形のポリエーテルエーテルケトン樹脂を冷却ロール18に密着させることができないため、平滑なポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を得ることができないという理由に基づく。逆に、〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のガラス転移点+50〕℃を越える場合には、結晶化度が15%を越えてしまい、結晶化度を15%以下に調整することができないという理由に基づく。冷却ロール18の温度調整法や冷却法としては、空気、水、オイル等の熱媒体による方法、あるいは電気ヒーターや誘導加熱等が該当する。
【0067】
成形材料1を帯形のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2に押出成形したら、この未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を一対の圧着ロール17、複数の冷却ロール18、テンションロール22、及び巻取機20の巻取管19に巻架し、未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の両側部をスリット刃21でそれぞれ長手方向にカットし、巻取機20の巻取管19に順次巻き取れば、長尺の未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を製造することができる。
【0068】
冷却ロール18により冷却され、製造された未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の厚さは、10μm以上1000μm以下、好ましくは30μm以上750μm以下、より好ましくは50μm以上500μm以下、さらに好ましくは50μm以上250μm以下が良い。これは、未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の厚さが10μm未満の場合には、未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の引張強度が低下するので、二軸延伸時にポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の破断を招くからである。これに対し、未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の厚さが1000μmを越える場合には、未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の製造が困難になるからである。
【0069】
中間品である未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を製造したら、巻取機20に巻き取った未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を別体の二軸延伸装置に移し替えて投入し、二軸延伸することにより、完成品である熱収縮性フィルムを製造することができる。熱収縮性フィルムは、縦方向(押出方向、機械軸方向、長手方向又はMDと呼称する場合がある)、及び横方向(押出方向の直角方向、幅方向又はTDと呼称する場合がある)の二軸方向に延伸された二軸延伸フィルムである。
【0070】
未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を二軸延伸法で二軸延伸するのは、未延伸の場合には、熱収縮が期待できないからである。また、一軸延伸の場合には、延伸していない方向が収縮しないため、熱収縮性フィルムとしては問題が生じるからである。これに対し、未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を二軸延伸法で二軸延伸すれば、熱収縮性フィルムの機械的特性、電気的特性、低吸水性を保持し、熱収縮率を大きし、光学特性や耐熱性を向上させることができる。
【0071】
二軸延伸法は、逐次二軸延伸法や同時二軸延伸法等があるが、何れの延伸方法でも良い。逐次二軸延伸法は、縦延伸、横延伸の延伸機構が独立した比較的シンプルな機構であるため、超高速延伸が可能である。しかしながら、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の様な結晶性樹脂を逐次二軸延伸法により二軸延伸する場合、逐次二軸延伸工程は縦方向延伸後、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2が一旦冷却される。結晶性樹脂ではそこで再結晶化が進行し、その後の横方向延伸でポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2内の延伸応力が高まると、ヘイズ値等の光学特性が悪化することある。また、縦方向に延伸すると、分子が延伸方向に配向し易いため、縦方向延伸後、横方向に延伸すると、条件によってはポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2が裂ける可能性がある。
【0072】
そのため、所望の横方向の延伸倍率を実現するため、前段の縦方向の延伸倍率を調整する等の縦方向と横方向の延伸条件のバランスの考慮、延伸倍率の組み合わせに限界がある等、成形条件が制約されることがある。したがって、逐次二軸延伸法は、同時二軸延伸法に比べ、延伸条件の最適化に煩雑さを伴うという問題がある。
【0073】
これに対し、縦方向と横方向に同時に延伸する同時二軸延伸法は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の結晶化を抑制でき、しかも、延伸だけでなく任意に弛緩できるため、ボーイングや分子配向の異方性を抑制したポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を容易に得ることができる。また、同時二軸延伸法は、特定方向に分子が配向していない状態の樹脂を縦方向・横方向に同時に延伸できるので、逐次二軸延伸法のようにバランスを考慮する等の煩雑さが低減され、延伸条件設定の自由度が高くなる。したがって、二軸延伸法は、同時二軸延伸法の方が逐次二軸延伸法より好ましい。
【0074】
二軸延伸する際の延伸倍率は、縦方向及び横方向共5.0倍以下、好ましくは1.5倍以上5.0倍以下、より好ましくは1.7倍以上4.0倍以下、さらに好ましくは2.0倍以上3.5以下、最も好ましくは2.0倍以上3.0以下の範囲が良い。これは、延伸倍率が1.5倍未満の場合には、充分な分子配向が起こらず、延伸効果が小さい上、厚さバラツキの原因にもなるからである。これに対し、5.0倍を越える場合には、引張張力が過大となり、延伸時にポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2のフィルム破れ、延伸ムラ、ピンホールを生じ易いからである。
【0075】
二軸延伸する際の延伸温度は、〔未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムのTg-20〕℃以上〔未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムのTg+50〕℃以下、好ましくは〔未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムのTg〕℃以上〔未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムのTg+30〕℃以下、より好ましくは〔未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムのTg+5〕℃以上〔未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムのTg+20〕℃以下の範囲である。
【0076】
これは、延伸温度が〔未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムのTg-20〕℃未満の場合には、延伸張力が過大となり、延伸時にフィルム破れ、延伸ムラ、ピンホールを生じ易いからである。加えて、熱収縮性フィルムが白化する原因になるからである。これに対し、〔未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムのTg+50〕℃を越える場合には、自重でポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2が伸びてしまうので、延伸ムラが生じ易いという理由に基づく。
【0077】
製造した熱収縮性フィルムは、そのまま完成品として使用しても良いが、必要に応じ、二軸延伸したポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2に熱処理を施して熱固定すれば、自然収縮を防止したり、熱収縮率の調整や熱収縮温度の調整等、熱収縮特性の調整が可能となる。この際の熱固定温度は、〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムのTg+30〕℃以上〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムのTm〕℃以下、好ましくは〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムのTg+60〕℃以上〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTm-20〕℃以下、より好ましくは〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTg+90〕℃以上〔ポリエーテルエーテルケトン樹脂のTm-40〕℃の範囲が良い。
【0078】
二軸延伸したポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2に対する熱固定時間は、1秒以上10分以下、好ましくは2秒以上7分以下、より好ましくは3秒以上5分以下、さらに好ましくは5秒以上2分以下の範囲が良い。
【0079】
熱固定は、延伸工程の後に連続して行われる熱処理と、二軸延伸フィルムの作製後に別途に行われる熱処理とに分ける等、2回以上に分けて実施しても良い。また、熱固定は、二軸延伸時の張力を維持したまま熱処理する緊張式熱処理、あるいは当該加熱処理の開始と同時の弛緩式熱処理でも良い。また例えば、第1熱処理として緊張式熱処理を行った後、第2熱処理として弛緩式熱処理を行う等、緊張式熱処理と弛緩式熱処理を組み合わせた熱処理を実施しても良い。
【0080】
熱収縮性フィルムの厚みは、特に限定されるものではないが、例えば5μm以上100μm以下、好ましくは10μm以上75μm以下、より好ましくは10μm以上50μm以下の範囲が良い。これは、厚さが5μm未満の場合には、熱収縮性フィルムの引張強度が著しく低下するので、製造時に破断が生じやすくなり、製造効率が低下するからである。これに対し、厚さが100μmを越える場合には、引張張力が過大となるので、延伸時にフィルム破れ、延伸ムラ、ピンホールを生じ易くなるからである。
【0081】
熱収縮性フィルムの170℃、200℃、及び250℃おける熱収縮率は、JIS K 7133に準拠して測定した加熱寸法変化率により評価することができる。この170℃、200℃、及び250℃における加熱寸法変化率は、樹脂フィルムの縦方法の加熱寸法変化率が-50.0%以上-5.0%以下で、かつ樹脂フィルムの横方向の加熱寸法変化率が-50.0%以上-5.0%以下、好ましくは樹脂フィルムの縦方向の加熱寸法変化率が-35.0%以上-7.5%以下でかつ樹脂フィルムの横方向の加熱寸法変化率が-35.0%以上-7.5%以下、より好ましくは樹脂フィルムの縦方向の加熱寸法変化率が-25.0%以上-12.0%以下で、かつ樹脂フィルムの横方向の加熱寸法変化率が-25.0%以上-10.0%以下、さらに好ましくは樹脂フィルムの縦方向の加熱寸法変化率が-22.0%以上-10.0%以下で、かつ樹脂フィルムの横方向の加熱寸法変化率が-20.0%以上-9.3%以下の範囲が良い。
【0082】
これは、縦方向と横方向の加熱寸法変化率が-5.0%より小さい場合(あるいは伸長する場合)には、熱収縮性フィルムとして適当な収縮率を確保することができないので、包装内容物あるいは被覆内容物との密着性が悪く、熱収縮性フィルムと包装内容物あるいは被覆内容物との間に包装内容物や被覆内容物を汚染する物質や腐食させる物質が侵入するおそれがあるからである。これに対し、縦方向と横方向の加熱寸法変化率が-50.0%を越える場合には、収縮率が過大になるので、包装内容物や被覆内容物を破損したり、熱収縮性フィルムに破れが発生してしまうからである。
【0083】
熱収縮性フィルムの光学特性は、全光線透過率とヘイズ値により評価することができる。先ず、熱収縮性フィルムの全光線透過率を測定する場合には、200℃と250℃、10分間加熱前、加熱後の熱収縮性フィルムをJIS K 7361-1に準拠し、23℃±2℃、50%RH±5%RHの環境下で測定する。熱収縮性フィルムの200℃と250℃、10分間加熱前後の全光線透過率は、70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上が良い。これは、熱収縮性フィルムの全光線透過率が70%以上の場合には、良好な透明性が期待できるからである。これに対し、70%未満の場合には、透明度が失われ、内容物や被覆内容物の色彩や形状を確認しにくくなるからである。
【0084】
次に、熱収縮性フィルムのヘイズ値は、200℃と250℃、10分間加熱前後で測定することができる。この熱収縮性フィルムのヘイズ値を測定する場合には、200℃と250℃、10分間加熱前、加熱後の樹脂フィルムをJIS K 7136に準拠し、23℃±2℃、50%RH±5%RHの環境下で測定する。熱収縮性フィルムの200℃と250℃、10分間加熱前後のヘイズ値は、15.0%以下、好ましくは1%以上15.0%以下、より好ましくは1%以上10.0%以下、さらに好ましくは1%以上5.0%以下、最も好ましくは1%以上2.5%以下の範囲が良い。これは、ヘイズ値が15%を越える場合には、透明性が損なわれ、包装内容物や被覆内容物の色彩や形状が把握し難くなるからである。
【0085】
熱収縮性フィルムの機械的特性は引張特性により評価することができ、引張特性はJIS K 7127に準拠して測定することができる。この熱収縮性フィルムの引張特性は、23℃における引張最大強度(縦方向、横方向)が100MPa以上、23℃における引張破断時伸び(縦方向、横方向)が50%以上、23℃における引張弾性率(縦方向、横方向)が3000MPa以上が良い。
【0086】
熱収縮性フィルムの23℃における引張最大強度(縦方向、横方向)は、100MPa以上であるが、好ましくは150MPa以上、より好ましくは180MPa以上、さらに好ましくは200MPa以上が良く、最も好ましくは180MPa以上290MPa以下が良い。これは、23℃における引張最大強度が100MPa未満の場合には、熱収縮性フィルムが充分な靭性を有していないので、熱収縮性フィルムの使用時に破断、割れ、裂け等のトラブルが生じてしまうからである。
【0087】
引張最大強度の上限値は、特に制約されるものではないが、500MPa以下が良い。これは、熱収縮性フィルムの引張最大強度が500MPaを越えると、包装内容物や被覆内容物との密着性が悪く、熱収縮性フィルムと包装内容物あるいは被覆内容物との間に包装内容物や被覆内容物を汚染する物質や腐食させる物質が侵入するおそれがあるからである。
【0088】
また、23℃における引張破断時伸び(縦方向、横方向)は、50%以上であるが、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらにまた好ましくは50%以上300%以下、最も好ましくは80%以上300%以下が良い。これは、引張破断時伸びが50%未満の場合には、熱収縮性フィルムが充分な靭性を有していないので、熱収縮性フィルムの使用時に破断、割れ、裂け等のトラブルが生じてしまうおそれがあるからである。引張破断時伸びの上限値は、特に制約されるものではないが、300%以下が良い。これは、熱収縮性フィルムの引張破断時伸びが300%を越えると、熱収縮性フィルムの屈曲性が低下するため、熱収縮性フィルムの厚みが薄くなると取扱い性が悪化する傾向となるからである。
【0089】
熱収縮性フィルムの23℃における引張弾性率は、3000MPa以上であるが、好ましくは3500MPa以上、より好ましくは4000MPa以上、さらに好ましくは4200MPa以上、最も好ましくは3850MPa以上4420MPa以下の範囲が良い。これは、係る範囲であれば、剛性に優れ、熱収縮性フィルムの厚みが薄くなっても扱いやすい傾向となるからである。また、熱収縮性フィルムの引張弾性率が3000MPa未満の場合には、剛性が不十分となり、突起付きの内容物や被覆物、あるいは矩形や三角形等の多角形構造物の角部で熱収縮性フィルムが突き破られるおそれがあるからである。
【0090】
引張弾性率の上限値は、特に制約されるものではないが、6000MPa以下が良い。これは、熱収縮性フィルムの引張弾性率が6000MPaを越えると、包装内容物や被覆内容物との密着性が悪く、熱収縮性フィルムと包装内容物あるいは被覆内容物との間に包装内容物や被覆内容物を汚染する物質や腐食させる物質が侵入するおそれがあるからである。
【0091】
熱収縮性フィルムの耐熱性は、300℃における貯蔵弾性率で表すことができる。この熱収縮性フィルムの耐熱性は、優れた耐熱性を得る観点から、300℃における貯蔵弾性率が周波数1Hz、昇温速度3℃/分の条件で測定された場合に1.0×105Pa以上、より好ましくは1.0×106Pa以上、さらに好ましくは1.0×107Pa以上であるのが良い。これは、300℃における貯蔵弾性率が1.0×105Pa未満の場合には、高温域で十分な耐熱性が得られないため、300℃以上の高温域に放置したとき、熱収縮性フィルムが軟化するので、包装内容物や被覆内容物を包装したり被覆した後、破れてしまうからである。
【0092】
熱収縮性フィルムの300℃における貯蔵弾性率の上限値は、特に限定されるものではないが、1.0×1010Pa以下が良い。これは、貯蔵弾性率が1.0×1010Paを越えると、包装内容物や被覆内容物との密着性が悪く、熱収縮性フィルムと包装内容物あるいは被覆内容物との間に包装内容物や被覆内容物を汚染する物質や腐食させる物質が侵入するおそれがあるからである。
【0093】
熱収縮性フィルムの電気的特性は、体積抵抗率、絶縁破壊電圧、比誘電率、誘電正接で評価することができる。熱収縮性フィルムの体積抵抗率は、JIS C 2139-3-1に準拠して測定することができる。この体積抵抗率は、より優れた絶縁性を確保する観点から、1.0×1014Ω・cm以上、好ましくは1.0×1015Ω・cm以上、より好ましくは1.0×1016Ω・cm以上が良い。体積抵抗率の上限値は、高い程好ましく、特に制限されるものではないが、通常1×1018Ω・cm以下が良い。
【0094】
熱収縮性フィルムを例えば電池セルの被覆用として使用する場合、体積抵抗率が1.0×1014Ω・cm以上であれば、優れた絶縁性能を担保可能であり、例え電池セルに過電圧が作用したときでも、破壊せずに耐性を確保することができるので、電池セルの電気的ショートによるトラブルを防止することができる。
【0095】
熱収縮性フィルムの絶縁破壊電圧は、IEC 60243-1に準拠し、23℃±2℃、50%RH±5%RHで測定することができる。この熱収縮性フィルムの絶縁破壊電圧は、1.0kV以上、好ましくは1.5kV以上、より好ましくは2.0kV以上、さらに好ましくは3.0kV以上が良い。これは、熱収縮性フィルムの絶縁破壊電圧が1.0kV以上であれば、絶縁性に優れるので、例え過電圧が作用した場合でも、破壊せずに耐性を維持することができ、電池セル等の電気的ショートによるトラブルを防止することができるからである。熱収縮性フィルムの絶縁破壊電圧の上限値は、高い程好ましく、特に限定されるものではないが、通常20kV以下である。
【0096】
熱収縮性フィルムの比誘電率は、周波数1GHzと周波数28GHzで評価することができる。周波数1GHzにおける比誘電率は空洞共振器摂動法により測定し、周波数28GHzにおける比誘電率はファブリペロー法により測定すると良い。熱収縮性フィルムの23℃の周波数1GHzと23℃の周波数28GHzにおける比誘電率は、3.5以下、好ましくは3.4以下、さらに好ましくは3.3以下が良い。これは、熱収縮性フィルムにおける比誘電率が3.5以下であれば、絶縁性に優れるという理由に基づく。1GHzと周波数28GHzにおける比誘電率の下限値は、低い程好ましく、特に制約されるものではないが、実用上は1.1以上である。
【0097】
熱収縮性フィルムの誘電正接は、周波数1GHzと周波数28GHzで評価することができる。周波数1GHzにおける誘電正接は空洞共振器摂動法により測定し、周波数28GHzにおける空洞共振器摂動法はファブリペロー法により測定すると良い。熱収縮性フィルムの23℃の周波数1GHzと23℃の周波数28GHzにおける誘電正接は、0.010以下、好ましくは0.008以下、より好ましくは0.007、さらに好ましくは0.006以下が良い。これは、熱収縮性フィルムにおける誘電正接が0.010以下であれば、優れた絶縁性が期待できるからである。1GHzと周波数28GHzにおける比誘電率の下限値は、低い程好ましく、特に制約されるものではないが、実用上は0.0001以上である。
【0098】
熱収縮性フィルムの吸水性を示す吸水率は、JIS K 7209 A法に準拠し、23℃±2℃の環境下で測定することができる。この熱収縮性フィルムの吸水率は、10%以下、好ましくは8%以下、より好ましくは6%以下、さらに好ましくは4%以下が良い。これは、熱収縮性フィルムの吸水率が10%以下であれば、熱収縮性フィルムが高温湿度の環境下でも高い電気絶縁性を維持するからである。熱収縮性フィルム1の吸水率の下限値は、特に限定されるものではないが、実用上は0.01%以上である。
【0099】
上記によれば、成形した未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を二軸延伸し、170℃、200℃、及び250℃における縦横方向の加熱寸法変化率を-50%以上-5%以下とするので、熱収縮性を向上させることができ、優れた熱収縮性フィルムを得ることができる。また、結晶化度が1%以上15%以下の未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を二軸延伸するので、二軸延伸の容易化が期待できる。また、二軸延伸の際に同時二軸延伸するので、縦方向・横方向に高い等方性を有する付加価値の高い熱収性フィルムを得ることができる。
【0100】
また、同時二軸延伸時の延伸倍率が1.5倍以上5.0倍以下なので、厚さバラツキを抑制しながら優れた延伸効果を得ることができ、しかも、同時二軸延伸時のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2にフィルム破れ、延伸ムラ、ピンホールが生じるのを防止することが可能となる。また、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を用いるので、300℃の高温域でも溶融することがなく、製造や使用に重大な支障を来すことがない。さらに、同時二軸延伸したポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2に熱処理を施せば、熱収縮性フィルムを熱固定して自然収縮を防止することが可能となる。
【0101】
次に、
図2は本発明の第2の実施形態を示すもので、この場合には、溶融押出成形機10を第一、第二の溶融押出成形機10A・10Bに分割し、これら第一、第二の溶融押出成形機10A・10Bの下流に、キャストロール30、縦横同時二軸延伸機31、引取機35、及び巻取機36を順次配設して二層構造の熱収縮性フィルムを製造するようにしている。
【0102】
第一の溶融押出成形機10Aは、例えば第1の実施形態と同様の溶融押出成形機10からなり、ポリエーテルエーテルケトン樹脂含有の成形材料1を溶融混練し、この成形材料1をTダイス等のダイス13に連続的に押し出すよう機能する。これに対し、第二の溶融押出成形機10Bは、例えばポリエーテルエーテルケトン樹脂や帯電防止剤、低誘電材料や放熱材料等からなる添加剤を含有した別配合の成形材料1を溶融混練し、この成形材料1をダイス13の上流に連続的に押し出して第一の溶融押出成形機10Aの成形材料1と合流させるよう機能する。
【0103】
合流した第一、第二の溶融押出成形機10A・10Bの成形材料1は、ダイス13から共に押し出され、厚いポリエーテルエーテルケトン樹脂層と薄いポリエーテルエーテルケトン樹脂層とを積層形成する。また、キャストロール30は、第一、第二の溶融押出成形機10A・10Bやダイス13の下流に設置され、溶融した帯形のポリエーテルエーテルケトン樹脂をシート化するよう機能する。
【0104】
縦横同時二軸延伸機31は、キャストロール30の下流に設置され、左右両側部に熱風吹き出し用のオーブン32が設置されており、シート化された未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の縦方向と横方向を同時に二軸延伸する。この縦横同時二軸延伸機31は、幅方向に拡縮可能な左右一対の走行レール33を平面略ハ字形に備え、各走行レール33が相対向する一対のガイドレールにより形成されており、この一対のガイドレール上をクリップ34が走行する。クリップ34には、一対のガイドレールに跨って走行するリンク機構が付設され、このリンク機構の先端部に独立した樹脂フィルム用の把持部が設置される。
【0105】
このような縦横同時二軸延伸機31は、一対の走行レール33を横方向に広げて未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の横方向を延伸するとともに、一対の走行レール33を横方向に狭めて未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2の縦方向を延伸する。
【0106】
引取機35は、縦横同時二軸延伸機31の下流に設置され、同時二軸延伸されたポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を引き取るよう機能する。また、巻取機36は、引取機35の下流に設置され、同時二軸延伸されたポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2、換言すれば、熱収縮性フィルムを巻取管に巻き取るよう機能する。その他の部分については、上記実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0107】
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、巻取機20に巻き取った未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム2を別体の二軸延伸装置に移し替えて二軸延伸する必要がないので、製造作業の迅速化や容易化等が期待できるのは明らかである。また、熱収縮性フィルムを厚さや組成の異なる二層構造に形成することができるので、高機能化が大いに期待できる。
【0108】
なお、上記実施形態では冷却ロール18に溶融したポリエーテルエーテルケトン樹脂を圧着ロール17により押し付けて密着させたが、何らこれに限定されるものではない。例えば、例えば静電印加法(又はピンニング法)やエアーナイフを採用して冷却ロール18に溶融した帯形のポリエーテルエーテルケトン樹脂を密着させても良い。また、溶融したポリエーテルエーテルケトン樹脂を冷却する場合、金属ベルト等に溶融した帯形のポリエーテルエーテルケトン樹脂を密着させたり、溶融した帯形のポリエーテルエーテルケトン樹脂に水を噴霧したり、あるいは水中に溶融した帯形のポリエーテルエーテルケトン樹脂を投入する方法等を採用しても良い。
【0109】
また、熱収縮性フィルムの表裏面の少なくともいずれかの面には、コロナ処理、真空プラズマ処理や大気圧プラズマ処理等のプラズマ処理、紫外線処理、イトロ処理等の表面活性化処理を施しても良い。また、印刷、各種機能コーティング、ラミネート等を施すことにより、諸性質を付加してその価値をさらに向上させることができる。さらに、溶融押出成形機10を第一、第二、第三の溶融押出成形機に分割して三層構造の熱収縮性フィルムを製造することもできる。
【実施例0110】
以下、本発明に係る熱収縮性フィルム及びその製造方法の実施例を比較例と共に説明する。
〔実施例1〕
先ず、未延伸のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを作製するため、市販のポリエーテルエーテルケトン樹脂〔ソルベイスペスルティポリマーズジャパン株式会社製 製品名キータスパイアPEEK KT-851NL SP(以下、「KT-851NL SP」と略する)〕を用意し、このポリエーテルエーテルケトン樹脂を160℃に加熱した除湿乾燥機に投入して12時間以上乾燥させた。ポリエーテルエーテルケトン樹脂については、以下「PEEK樹脂」と略称する。
【0111】
次いで、PEEK樹脂を
図1に示すTダイス付きの単軸押出成形機にセットして溶融混練し、この溶融混練したPEEK樹脂を単軸押出成形機のTダイスから連続的に押出し、複数の圧着ロールと冷却ロールの間に挟持して冷却することにより、未延伸のPEEK樹脂フィルムを帯形に押出成形した。この際、単軸押出成形機の温度は380~400℃、Tダイスの温度は400℃、これら単軸押出成形機とTダイスとを連結する連結管の温度は400℃に調整した。単軸押出成形機にPEEK樹脂を投入する際、不活性ガス供給管により、窒素ガスを18L/分で供給した。また、溶融したPEEK樹脂の温度については、Tダイス入口の樹脂温度を測定することとし、測定したところ397℃であった。
【0112】
こうして未延伸のPEEK樹脂フィルムを押出成形したら、連続した未延伸のPEEK樹脂フィルムの両端部をスリット刃で裁断して巻取機の巻取管に順次巻き取り、未延伸のPEEK樹脂フィルムを製造した。この際、未延伸のPEEK樹脂フィルムは、
図1に示すように、150℃の複数の冷却ロール、シリコーンゴム製の一対の圧着ロール、及びこれらの下流に位置する6インチの巻取管に順次巻架した。
【0113】
KT-851NL SPのTgは、示差走査熱量計〔エスアイアイ・ナノテクノロジーズ社製 製品名:高感度型示差走査熱量計 X-DSC7000〕を用い、JIS K 7121に準拠し、昇温速度10℃/分の条件で測定した。測定したところ、KT-851NL SPのTgは146℃であった。また、未延伸のPEEK樹脂フィルムのTgは、示差走査熱量計〔エスアイアイ・ナノテクノロジーズ社製 製品名:高感度型示差走査熱量計 X-DSC7000〕を用い、JIS K 7121に準拠し、昇温速度10℃/分の条件で測定した。測定したところ、未延伸のPEEK樹脂フィルムのTgは145℃であった。
【0114】
PEEK樹脂の見掛けの剪断粘度については、PEEK樹脂を160℃で12時間乾燥させた後、ツインキャピラリーレオメーターR6000〔IMATEK社製:商品名〕を使用して測定した。具体的には、先ず、キャピラリーダイ:φ1.0mm×16mm(ロングダイ)、φ1.0mm×0.25mm(ショートダイ)、バレル径:15mm、温度:375℃において、PEEK樹脂をバレル内に40g投入し、ロングダイ側:0.9MPa、ショートダイ側:0.3MPaになるまでピストンを50mm/minの速度で押し込み、圧力が所定値の圧力となったら、そのままの状態で6分間保持した。
【0115】
その後、再び、ロングダイ側:0.9MPa、ショートダイ側:0.3MPaになるまでピストンを50mm/minの速度で押し込み、圧力が所定値の圧力となったら、所定の見掛けの剪断速度(10、20、30、50、80、100、200、300、800sec-1)を与えて測定し、見掛けの剪断断粘度を求めた。見掛けの剪断速度が100sec-1におけるKT-851NL SPの見掛けの剪断粘度は、1.00×103Pa・sであった。
【0116】
未延伸のPEEK樹脂フィルムの結晶化度については、未延伸のPEEK樹脂フィルムから測定用試料約8mgを秤量し、示差走査熱量計〔エスアイアイ・ナノテクノロジーズ社製 製品名:EXSTAR7000シリーズ X-DSC7000〕を使用して昇温速度10℃/分、測定温度範囲20℃から380℃まで測定した。このときに得られる結晶融解ピークの熱量(J/g)、再結晶化ピークの熱量(J/g)から以下の式を用いて算出した。得られたPEEK樹脂フィルムの結晶化度は9.2%であった。
【0117】
結晶化度(%)={(ΔHm-ΔHc)/ΔHx}×100 …(式1)
ここで、ΔHm:未延伸のPEEK樹脂フィルムの結晶融解ピークの熱量(J/g)
ΔHc:未延伸のPEEK樹脂フィルムの再結晶化ピークの熱量(J/g)
ΔHx:100%結晶化したPEEK樹脂の融解エネルギーの理論値であり、
130J/gである。
【0118】
未延伸のPEEK樹脂フィルムの厚さは、マイクロメータ〔ミツトヨ社製 製品名:クーラントプルーフマイクロメータ 符号MDC-25PJ〕を使用して測定した。測定に関しては、未延伸のPEEK樹脂フィルムの横方向の任意10箇所を測定し、その平均値をフィルム厚とした。
【0119】
次いで、縦方向と横方向を同時に延伸する市販の同時二軸延伸機を使用して未延伸のPEEK樹脂フィルムを同時二軸延伸した。具体的には、未延伸のPEEK樹脂フィルムをテンター方式で縦方法に2.0倍、横方向に2.0倍同時二軸延伸した。この際、同時二軸延伸機の加熱炉の予備加熱部分の温度を90℃で30秒間加熱し、155℃で120秒間加熱しながら縦方向に2.0倍延伸、横方向に2.0倍延伸した。こうして得られた二軸延伸のPEEK樹脂フィルムの両端部をスリット刃で裁断し、巻取機の巻取管に順次巻き取って熱収縮性フィルムを製造した。
【0120】
熱収縮性フィルムを製造したら、この熱収縮性フィルムの厚さ、熱収縮特性、光学特性、機械的特性、耐熱性、電気的特性、吸水性を評価して表1にまとめた。熱収縮特性は加熱寸法変化率、光学特性は全光線透過率とヘイズ、機械的特性は引張最大強度、引張破断時伸び及び引張弾性率、耐熱性は300℃における貯蔵弾性率、電気的特性は体積抵抗率、電気絶縁破壊強度、及び1GHzと28GHzにおける比誘電率と誘電正接、吸水性は吸水率により評価した。
【0121】
・熱収縮性フィルムのフィルム厚
熱収縮性フィルムの厚さは、マイクロメータ〔ミツトヨ社製 製品名:クーラントプルーフマイクロメータ 符号MDC-25PJ〕を使用して測定した。測定に際しては、熱収縮性フィルムの横方向の任意10箇所を測定し、その平均値をフィルム厚とした。
【0122】
・熱収縮性フィルムの熱収縮特性
熱収縮性フィルムの熱収縮特性は、加熱寸法変化率により評価することとした。この加熱寸法変化率を測定する場合には、JIS K 7133に準拠し、熱収縮性フィルムを縦方向:120mm×横方向:120mmの大きさに切り出した試験片を用い、この試験片の縦方向と横方向に100mmの標線を記載して標線間の長さをノギスで測定し、その後、試験片を170℃、200℃、及び250℃のオーブン中に静置して10分間加熱した。10分間加熱したら、試験片を23℃まで自然冷却させてから、23℃±2、50±5%RHで標線間の長さを再度測定し、以下の式により加熱寸法変化率を算出した。
【0123】
加熱寸法変化率(%)={(L-L0)/L0}×100
ここで、L0:試験前の標線間距離(mm)
L :加熱後の標線間距離(mm)
【0124】
・熱収縮性フィルムの全光線透過率
熱収縮性フィルムの全光線透過率は、ヘイズメーター〔日本電色工業社製、型式:NDH-8000〕を用い、JIS K 7361-1に準拠し、23℃±2℃、50%RH±5%RHの環境下で測定した。全光線透過率の具体的な測定方法は、先ず、熱収縮性フィルムを縦方向:120mm×横方向:120mmの大きさに切り出して試験片とした。この試験片の全光線透過率は、200℃と250℃のオーブン中に10分間加熱し、加熱前後で測定した。200℃と250℃、10分間加熱した試験片の全光線透過率の測定は、試験片を200℃と250℃のオーブン中に静置して10分間加熱し、加熱後、試験片を23℃±2℃まで自然冷却させてから、23℃±2℃、50%RH±5%RHの環境下で実施した。
【0125】
・熱収縮性フィルムのヘイズ
熱収縮性フィルムのヘイズは、ヘイズメーター〔日本電色工業社製、型式:NDH-5000〕を用い、JIS K 7136に準拠して23℃±2℃、50%RH±5%RHの環境下で測定した。熱収縮性フィルムのヘイズを具体的に測定する場合には、先ず、熱収縮性フィルムを縦方向:120mm×横方向:120mmの大きさに切り出して試験片とし、この試験片を200℃と250℃のオーブン中に10分間加熱し、加熱後、試験片を23℃±2℃まで自然冷却させてから、23℃±2℃、50%RH±5%RHの環境下で測定した。
【0126】
・熱収縮性フィルムの機械的特性
熱収縮性フィルムの機械的特性については、23℃における引張最大強度、引張破断時伸び、及び引張弾性率で評価した。機械的特性は、縦方向と横方向について測定した。測定は、JIS K 7127に準拠し、引張速度50mm/分、温度23℃±2℃、相対湿度50%RH±5%RHの条件下で実施した。
【0127】
・熱収縮性フィルムの耐熱性
熱収縮性フィルムの耐熱性については、300℃における熱収縮性フィルムの貯蔵弾性率(E’)により評価した。この熱収縮性フィルムの貯蔵弾性率は、熱収縮性フィルムの縦方向と横方法について測定した。具体的には、熱収縮性フィルムの縦方向の貯蔵弾性率を測定する場合には縦方向60mm×横方向6mm、横方向の貯蔵弾性率を測定する場合には縦方向6mm×横方向60mmの大きさに切り出して測定した。貯蔵弾性率の測定に際しては、粘弾性スペクトロメータ〔ティー・エス・インスツルメント・ジャパン社製 製品名:RSA-G2〕を用いた引張モードにより、周波数1Hz、歪み0.1%、昇温速度3℃/分、測定温度範囲-60~360℃、チェック間21mmの条件で測定し、300℃の貯蔵弾性率を求めた。
【0128】
・熱収縮性フィルムの電気的特性
熱収縮性フィルムの電気的特性は、体積抵抗率、絶縁破壊電圧、1GHzと28GHzにおける比誘電率、及び誘電正接により評価した。
【0129】
・熱収縮性フィルムの体積抵抗率
熱収縮性フィルムの体積抵抗率は、JIS C2139-3-1に準拠し、23℃±2℃、50%RH±5%RHの環境下で測定した。具体的な測定方法としては、先ず、熱収縮性フィルムを縦方向:100mm×横方向:100mmの大きさに切り出して試験片とし、この試験片を23℃±2℃、50%RH±5%RHの環境下に24時間静置し、静置後に試験片を測定機〔日置電機社製 製品名:平板試料用電極 SME-8310〕の電極部に取り付けた。こうして試験片を測定機の電極部に取り付けたら、印加電圧500Vを加えて1分後の抵抗値を測定機〔日置電機社製 製品名:超絶縁計 SM-8220〕により測定し、以下の式より体積抵抗率を算出した。
【0130】
体積抵抗率(Ω・cm)=(19.6/t)×Rv
ここで、t:試験片の厚さ(cm)
Rv:測定した体積抵抗(Ω)
【0131】
・熱収縮性フィルムの誘電特性〔周波数:1GHz〕
熱収縮性フィルムの周波数:1GHzにおける比誘電率と誘電正接は、ネットワーク・アナライザー〔Anritsu社製 ネットワークアナライザ MS46122B〕を用い、空洞共振器摂動法により測定した。また、1GHz付近における誘電特性の測定は、空洞共振器を空洞共振器1GHz〔キーコム社製 型式;TMR‐1A〕とし、ASTM D2520に準拠して実施した。この誘電特性の測定は、温度:23℃±1℃、湿度10%RH±5%RHの環境下で実施した。
【0132】
・熱収縮性フィルムの誘電特性〔周波数:28GHz〕
熱収縮性フィルムの周波数:28GHzにおける比誘電率と誘電正接は、ベクトルネットワークアナライザーA〔アジレント・テクノロジー社製 製品名:ベクトルネットワークアナライザE8361A〕を用い、開放型共振器法の一種であるファブリペロー法により測定した。共振器としては、開放型共振器〔キーコム社製:ファブリペロー共振器 Model No.DPS03〕を使用した。
【0133】
測定に際しては、開放型共振器冶具の試料台上に高周波回路基板用の熱収縮性フィルムを載せ、ベクトルネットワークアナライザー用いて開放型共振器法の一種であるファブリペロー法で測定した。具体的には、試料台の上に熱収縮性フィルムを載せない状態と、熱収縮性フィルムを載せた状態の共振周波数の差を利用する共振法により、比誘電率と誘電正接とを測定した。
【0134】
・熱収縮性フィルムの吸水性(%)
熱収縮性フィルムの吸水性は吸水率で評価し、この吸水率はJIS K 7209 A法に準拠して23℃±2℃の環境下で測定した。具体的には、先ず、熱収縮性フィルムを縦方向:100mm×横方向:100mmの大きさに切り出して試験片とし、この試験片を50℃に調節したオーブン中で24時間乾燥させた。こうして試験片を24時間乾燥させたら、デシケータに投入して室温まで冷却した後、試験片の質量を測定した。引き続き、23℃±2℃の蒸留水中において14日間浸漬した後、試験片を蒸留水中より取り出し、取り出した試験片の表面の水分を紙で拭き取って直ちに試験片の質量を測定し、以下の式により吸水率を算出してその結果を表1に記載した。
【0135】
吸水率(%)={(m2-m1)/m1}×100
ここで、m1:浸漬前の試験片の質量(mg)
m2:浸漬後の試験片の質量(mg)
【0136】
〔実施例2〕
実施例1で製造した未延伸のPEEK樹脂フィルムを用い、実施例1と同様の方法により同時二軸延伸し、実施例1とは厚さの異なる熱収縮性フィルムを製造したが、縦方向に2.5倍、横方向に2.5倍の延伸倍率に変更して同時二軸延伸した。
得られた熱収縮性フィルムのフィルム厚、熱収縮特性、光学特性、機械的特性、耐熱性、電気的特性、吸水性を実施例1と同様の方法により評価し、表1にまとめた。
【0137】
〔実施例3〕
市販のPEEK樹脂として、実施例1で使用したKT-851NL SPを使用して実施例1と同様の方法により未延伸のPEEK樹脂フィルムを異なる厚さに製造し、この未延伸のPEEK樹脂フィルムのフィルム厚、及び結晶化度を実施例1と同様の方法により評価した。
【0138】
未延伸のPEEK樹脂フィルムを製造したら、この未延伸のPEEK樹脂フィルムを実施例1と同様の方法により同時二軸延伸し、実施例1とは厚さの異なる熱収縮性フィルムを製造した。この際、同時二軸延伸は、縦方向に2.0倍、横方向に2.0倍の延伸倍率で実施した。
得られた熱収縮性フィルムのフィルム厚、熱収縮特性、光学特性、機械的特性、耐熱性、電気的特性、吸水性を実施例1と同様の方法により評価し、表1にまとめた。
【0139】
【0140】
〔実施例4〕
実施例3で製造した未延伸のPEEK樹脂フィルムを用い、実施例1と同様の方法により同時二軸延伸し、実施例1とは厚さの異なる熱収縮性フィルムを製造した。同時二軸延伸は、縦方向に2.6倍、横方向に2.5倍の延伸倍率に変更して実施した。
得られた熱収縮性フィルムのフィルム厚、熱収縮特性、光学特性、機械的特性、耐熱性、電気的特性、吸水性を実施例1と同様の方法により評価し、表2に記載した。
【0141】
〔実施例5〕
先ず、市販のPEEK樹脂として、実施例1のKT-851NL SPをVictrex Granules 450G〔ビクトレックス社;製品名 以下、「450G」と略す〕に変更し、実施例1と同様の方法により未延伸のPEEK樹脂フィルムを異なる厚さに製造した。この際、450Gの375℃における見掛けの剪断粘度を実施例1と同じ方法で測定した。測定したところ、450Gの375℃おける見掛けの剪断速度100sec-1のときの450Gの見掛けの剪断粘度は、1.32×103Pa・sであった。
【0142】
未延伸のPEEK樹脂フィルムを製造したら、この未延伸のPEEK樹脂フィルムを実施例1と同様の方法により同時二軸延伸し、実施例1とは厚さの異なる熱収縮性フィルムを製造した。同時二軸延伸は、縦方向に3.0倍、横方向に3.0倍の延伸倍率に変更して実施した。
得られた熱収縮性フィルムのフィルム厚、熱収縮特性、光学特性、機械的特性、耐熱性、電気的特性、吸水性を実施例1と同様の方法により評価し、表2に記載した。
【0143】
〔実施例6〕
実施例5で製造した未延伸のPEEK樹脂フィルムを用い、実施例1と同様の方法により同時二軸延伸し、最も肉厚の熱収縮性フィルムを製造した。同時二軸延伸は、縦方向に2.5倍、横方向に3.0倍の延伸倍率に変更して実施した。
得られた熱収縮性フィルムのフィルム厚、熱収縮特性、光学特性、機械的特性、耐熱性、電気的特性、吸水性を実施例1と同様の方法により評価し、表2に記載した。
【0144】
【0145】
〔比較例1〕
実施例1で作製したフィルム厚50μm、結晶化度9.2%の未延伸のPEEK樹脂フィルムを延伸することなくそのまま熱収縮性フィルムとし、この熱収縮性フィルムのフィルム厚、熱収縮特性、光学特性、機械的特性、耐熱性、電気的特性、吸水性を実施例1と同様の方法により評価し、表3にまとめた。
【0146】
〔比較例2〕
実施例1で作製したフィルム厚50μm、結晶化度9.2%の未延伸のPEEK樹脂フィルムを160℃に加熱した金属ロールにより縦方向にのみ2倍に延伸し、熱収縮性フィルムを製造した。
得られた熱収縮性フィルムのフィルム厚、熱収縮特性、光学特性、機械的特性、耐熱性、電気的特性、吸水性を実施例1と同様の方法により評価し、表3にまとめた。
【0147】
〔比較例3〕
実施例1で作製したフィルム厚50μm、結晶化度9.2%の未延伸のPEEK樹脂フィルムを実施例1と同様の方法により横方向にのみ2.0倍に延伸し、熱収縮性フィルムを製造した。この際、加熱炉の予備加熱部分の温度を90℃で30秒間加熱し、次いで155℃で120秒間加熱しながら横方向に2.0倍延伸した。
得られた熱収縮性フィルムのフィルム厚、熱収縮特性、光学特性、機械的特性、耐熱性、電気的特性、吸水性を実施例1と同様の方法により評価し、表3に記載した。
【0148】
〔比較例4〕
実施例1で用いたPEEKを使用して実施例1と同様の条件により未延伸のPEEK樹脂フィルムを製造し、この未延伸のPEEK樹脂フィルムをそのまま熱収縮性フィルムとした。未延伸のPEEK樹脂フィルムのフィルム厚と結晶化度は、実施例1と同様の方法に評価し、表3に記載した。
得られた熱収縮性フィルムの熱収縮特性、光学特性、機械的特性、耐熱性、電気的特性、吸水性を実施例1と同様の方法により評価し、表3に記載した。
【0149】
〔比較例5〕
実施例1で用いたPEEK樹脂を使用して実施例1と同様の条件で未延伸のPEEK樹脂フィルムを製造し、この未延伸のPEEK樹脂フィルムをそのまま熱収縮性フィルムとした。但し、実施例1では150℃に加熱した圧着ロールと冷却ロールに挟持させたが、比較例5では220℃に加熱した圧着ロールと冷却ロールとに挟持させた。
得られた熱収縮性フィルムのフィルム厚と結晶化度、さらに熱収縮特性、光学特性、機械的特性、耐熱性、電気的特性、吸水性を実施例1と同様の方法により評価し、表3に記載した。
【0150】
【0151】
〔結 果〕
各実施例の場合、熱収縮性フィルムの200℃における加熱寸法変化率が縦方向、横方向共に-10%以上であり、良好な熱収縮特性を得ることができた。また、熱収縮性フィルムの全光線透過率は200℃で10分加熱後も80.0%以上、ヘイズは200℃で10分加熱後も2.0%以下有しており、優れた透明性を確保することができた。熱収縮性フィルムの機械的特性については、引張最大強度が180MPa以上、引張判断時伸びが70%以上であり、充分な靭性を有していた。加えて、引張弾性率が3800MPa以上であり、充分な剛性を有していた。
【0152】
各実施例の場合、熱収縮性フィルムの300℃における貯蔵弾性率は8.50×107Pa以上有しており、熱収縮性フィルムの耐熱性の低下は認められなかった。また、熱収縮性フィルムの電気的特性は、体積抵抗率が1×1016Ω・cm以上、絶縁破壊電圧が4.0kv以上、1GHzにおける比誘電率が3.1以下、誘電正接が0.0031以下、28GHzにおける比誘電率が3.2以下、誘電正接が0.0054以下であり、二軸延伸に伴う絶縁特性の低下は認められなかった。さらに、熱収縮性フィルムの吸水性は、0.35%以下であり、二軸延伸に伴う低下は認められなかった。
【0153】
これに対し、比較例1の場合、実施例1で使用した二軸延伸前の低結晶性PEEK樹脂フィルムが熱収縮性フィルムなので、耐熱性、電気的特性、及び吸水率には問題がないものの、加熱寸法変化率が-3.0%以下と小さく、熱収縮性フィルムには適していないことが判明した。また、ヘイズ値は34%以上と透明性も得られず、機械的特性の引張弾性率も3000MPa以下なので剛性が悪化し、取扱い性に問題が生じた。
【0154】
比較例2は、実施例1で使用した二軸延伸前の未延伸のPEEK樹脂フィルムを縦方向にのみ延伸した熱収縮性フィルムを用いた例である。この熱収縮性フィルムは耐熱性、電気的特性、及び吸水率には問題がないものの、縦方向のみの延伸のため、横方向の加熱寸法変化率が0.86%と伸長していたため、熱収縮性フィルムとしては適していないことが判明した。また、機械的特性は、横方向の引張弾性率が3000MPa以下の2798MPaなので、剛性が低く、取扱い性に問題が生じた。
【0155】
比較例3は、実施例1で使用した二軸延伸前の未延伸のPEEK樹脂フィルムを横方向のみ一軸延伸した熱収縮性フィルムを用いた例である。この熱収縮性フィルムも耐熱性、電気的特性、及び吸水率に問題ないものの、横方向の延伸のため、縦方向の加熱寸法変化率が-1.36%と小さく、熱収縮性フィルムとしては不適切であるのが判明した。また、機械的特性は、縦方向の引張弾性率が3000MPa以下の2852MPaなので、剛性が低く、取扱い性に問題が認められた。
【0156】
比較例4は、未延伸のPEEK樹脂フィルムからなる熱収縮性フィルムを用いた例である。この熱収縮性フィルムも電気的特性と吸水性には問題が認められなかったが、未延伸フィルムのため、熱収縮特性が加熱寸法変化率で縦方向-5.08%、横方向1.30%と小さく、熱収縮性フィルムとしては不適切なのが判明した。また、光学特性もヘイズ値が200℃で10分間加熱することにより、16.5%まで上昇し、透明性が失われた。耐熱性も300℃における貯蔵弾性率が1.0×105Pa未満であり、問題が生じた。さらに、機械的特性も引張弾性率が3000MPa以下なので、剛性が低く、取扱い性に問題が認められた。
【0157】
比較例5は、結晶化度が21.1%の未延伸のPEEK樹脂フィルムからなる熱収縮性フィルムを用いた例である。この熱収縮性フィルムも耐熱性、電気的特性、及び吸水率には問題が認められなかったが、未延伸フィルムのため、熱収縮特性が加熱寸法変化率で縦方向-4.46%、横方向1.46%と小さく、熱収縮性フィルムとしては適していないことが判明した。また、光学特性もヘイズ値が53%以上であり、透明性が失われていた。さらに、機械的特性の引張弾性率は、横方向の引張弾性率が3000MPa以下なので、剛性に乏しく、取扱い性に問題が認められた。