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特開2024-49068固体電解質組成物、複合体の製造方法および電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049068
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】固体電解質組成物、複合体の製造方法および電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20240402BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240402BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240402BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20240402BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20240402BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240402BHJP
   C01B 35/12 20060101ALI20240402BHJP
   C01G 25/00 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M4/62 Z
H01M4/36 A
H01M10/058
H01B1/08
H01B13/00 Z
C01B35/12 A
C01G25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155310
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 均
(72)【発明者】
【氏名】藤森 裕久
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 努
【テーマコード(参考)】
4G048
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA01
4G048AA04
4G048AB01
4G048AC06
4G048AC08
4G048AD04
4G048AD06
4G048AE05
5G301CA02
5G301CA04
5G301CA16
5G301CA28
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE02
5H029AJ02
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK04
5H029AK05
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL11
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029DJ09
5H029EJ05
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ14
5H050AA02
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA10
5H050CA11
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB11
5H050DA13
5H050EA12
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】比較的低温の熱処理で、所望の特性を有する固体電解質の成形体を安定的に製造することができる固体電解質組成物を提供する。
【解決手段】本発明の固体電解質組成物は、下記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質、LiBO、および、γ-アルミナを含み、下記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質の含有率をX1[質量%]、前記LiBOの含有率をX2[質量%]、前記γ-アルミナの含有率をX3[質量%]としたとき、下記式(2)および下記式(3)の関係を満たす。
(Li7-3xGa)(La3-yNd)Zr12・・・(1)
(組成式(1)中、0.10≦x≦1.00、0.01≦y≦0.20を満たす。)
3.5≦X2/(X1+X2+X3)×100≦8.0・・・(2)
0<X3/(X1+X2+X3)×100≦0.15・・・(3)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質、LiBO、および、γ-アルミナを含み、
下記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質の含有率をX1[質量%]、前記LiBOの含有率をX2[質量%]、前記γ-アルミナの含有率をX3[質量%]としたとき、下記式(2)および下記式(3)の関係を満たす、固体電解質組成物。
(Li7-3xGa)(La3-yNd)Zr12・・・(1)
(組成式(1)中、0.10≦x≦1.00、0.01≦y≦0.20を満たす。)
3.5≦X2/(X1+X2+X3)×100≦8.0・・・(2)
0<X3/(X1+X2+X3)×100≦0.15・・・(3)
【請求項2】
請求項1に記載の固体電解質組成物と活物質とを含む混合物を加熱する加熱工程を有する、複合体の製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程での加熱温度が700℃以上900℃以下である、請求項2に記載の複合体の製造方法。
【請求項4】
前記加熱工程での加熱時間が4時間以上12時間以下である、請求項2に記載の複合体の製造方法。
【請求項5】
前記活物質は、LiおよびOを含む正極活物質である、請求項2ないし4のいずれか1項に記載の複合体の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の固体電解質組成物と活物質とを含む混合物を加熱して複合体を製造する複合体製造工程と、
前記複合体の一方の面側に電極を形成する電極形成工程と、
前記複合体の他方の面側に集電体を形成する集電体形成工程と、を備える、電池の製造方法。
【請求項7】
前記電極は、金属Liである、請求項6に記載の電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質組成物、複合体の製造方法および電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯型情報機器をはじめとする多くの電気機器の電源として、リチウムイオン電池(一次電池および二次電池を含む)が利用されている。中でも、高エネルギー密度と安全性を両立したリチウムイオン電池として、正・負極間のリチウムの伝導に固体電解質を用いた全固体型リチウムイオン電池が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
固体電解質は、有機電解液を用いることなくリチウムイオンを伝導することができ、電解液漏れや駆動発熱による電解液の揮発等が生じないため、安全性が高い材料として注目されている。
【0004】
このような全固体型リチウムイオン電池に用いられる固体電解質として、リチウムイオン伝導性が高く、絶縁性に優れ、また化学的安定性の高い酸化物系の固体電解質が広く知られている。このような酸化物として、ジルコン酸ランタンリチウム系の材料が特筆すべき高いリチウムイオン伝導率を有しており、電池への適用が期待されている。
【0005】
上記のようなジルコン酸ランタンリチウム系の固体電解質が粒子状の形状をなすもの、すなわち、固体電解質粒子である場合、圧縮成形することにより所望の形状に合わせて成形されることが多い。しかし、前記固体電解質粒子は非常に硬いため、得られる成形体では前記固体電解質粒子同士の接触が不十分で粒界抵抗が高くなり、リチウムイオン伝導率が低くなりやすい。
【0006】
粒界抵抗を低減する方法として、前記固体電解質粒子を圧縮成形した後に、1000℃を超える高温で焼結することで、粒子同士を溶着させる方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-215130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のような方法では、高熱により組成が変化しやすく、所望の特性を有する固体電解質の成形体を安定的に製造することができないという課題があった。また、活物質とともに固体電解質粒子を加熱した際に各々の構成元素が相互拡散を起こす等して、好ましくない副生成物が生成してしまい、リチウムイオン伝導率が低下するという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することができる。
【0010】
本発明の適用例に係る固体電解質組成物は、下記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質、LiBO、および、γ-アルミナを含み、
下記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質の含有率をX1[質量%]、前記LiBOの含有率をX2[質量%]、前記γ-アルミナの含有率をX3[質量%]としたとき、下記式(2)および下記式(3)の関係を満たす。
(Li7-3xGa)(La3-yNd)Zr12・・・(1)
(組成式(1)中、0.10≦x≦1.00、0.01≦y≦0.20を満たす。)
3.5≦X2/(X1+X2+X3)×100≦8.0・・・(2)
0<X3/(X1+X2+X3)×100≦0.15・・・(3)
【0011】
また、本発明の適用例に係る複合体の製造方法は、本発明の適用例に係る固体電解質組成物と活物質とを含む混合物を加熱する加熱工程を有する。
【0012】
また、本発明の適用例に係る電池の製造方法は、本発明の適用例に係る固体電解質組成物と活物質とを含む混合物を加熱して複合体を製造する複合体製造工程と、
前記複合体の一方の面側に電極を形成する電極形成工程と、
前記複合体の他方の面側に集電体を形成する集電体形成工程と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、リチウムイオン電池の構成を模式的に示す概略断面図である。
図2図2は、電池の製造方法を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[1]固体電解質組成物
まず、本発明の固体電解質組成物について説明する。
【0015】
本発明の固体電解質組成物は、下記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質、LiBO、および、γ-アルミナを含んでいる。そして、固体電解質組成物中における下記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質の含有率をX1[質量%]、LiBOの含有率をX2[質量%]、γ-アルミナの含有率をX3[質量%]としたとき、下記式(2)および下記式(3)の関係を満たす。
【0016】
(Li7-3xGa)(La3-yNd)Zr12・・・(1)
(組成式(1)中、0.10≦x≦1.00、0.01≦y≦0.20を満たす。)
3.5≦X2/(X1+X2+X3)×100≦8.0・・・(2)
0<X3/(X1+X2+X3)×100≦0.15・・・(3)
【0017】
これにより、比較的低温の熱処理で、所望の特性を有する固体電解質の成形体を安定的に製造することができる固体電解質組成物を提供することができる。また、例えば、活物質とともに加熱した際に、活物質との間で好ましくない副生成物が生成することを効果的に防止することができるため、活物質および固体電解質を含み、リチウムイオン伝導率が十分に高い複合体の製造に好適に用いることができる。特に、900℃以下の比較的低い温度で、かつ、4時間以上12時間以下程度の比較的短い時間での焼成処理で、緻密度の高い固体電解質の成形体、複合体を得ることができる。
【0018】
これに対し、上記の条件を満たさない場合には、満足のいく結果が得られない。
例えば、上記組成式(1)中のxの値が前記下限値未満の場合には、リチウムイオン伝導率、特に、粒子バルク内伝導率が著しく低下する。
【0019】
また、上記組成式(1)中のxの値が前記上限値を超える場合には、電解質の結晶格子内にGa(ガリウム)が入りきらず、絶縁性の高い酸化ガリウムが生成し、総リチウムイオン伝導率が低下するという問題を生じる。
【0020】
また、上記組成式(1)中のyの値が前記下限値未満の場合には、リチウムイオン伝導率が著しく低下する。
【0021】
また、上記組成式(1)中のyの値が前記上限値を超える場合には、電解質の結晶格子内にNd(ネオジム)が入りきらず、絶縁性の高い酸化ネオジムが生成し、総リチウムイオン伝導率が低下するという問題を生じる。
【0022】
また、固体電解質組成物がLiBOを含まない場合には、十分に高い緻密性が得られないという問題を生じる。
【0023】
また、LiBOの代わりに他のガラス電解質を用いた場合には、リチウムイオン伝導率が低下するという問題を生じる。
【0024】
また、固体電解質組成物がγ-アルミナを含まない場合には、十分に高い緻密性が得られないと共にリチウムイオン伝導率が低下するという問題を生じる。
【0025】
また、γ-アルミナに他の焼結助剤を用いた場合には、リチウムイオン伝導率が低下するという問題を生じる。
【0026】
また、X2/(X1+X2+X3)×100の値が前記下限値未満の場合には、十分に高い緻密性が得られないと共にリチウムイオン伝導率が低下するという問題を生じる。
【0027】
また、X2/(X1+X2+X3)×100の値が前記上限値を超える場合には、リチウムイオン伝導率が低下するという問題を生じる。
【0028】
また、X3/(X1+X2+X3)×100の値がゼロである場合には、すなわち、固体電解質組成物がγ-アルミナを含まない場合には、十分に高い緻密性が得られないという問題を生じる。
【0029】
また、X3/(X1+X2+X3)×100の値が前記上限値を超える場合には、リチウムイオン伝導率が低下するという問題を生じる。
【0030】
上記のように、本発明の固体電解質組成物は、3.5≦X2/(X1+X2+X3)×100≦8.0の関係を満たすが、3.6≦X2/(X1+X2+X3)×100≦8.0の関係を満たすのが好ましく、3.7≦X2/(X1+X2+X3)×100≦8.0の関係を満たすのがより好ましく、3.8≦X2/(X1+X2+X3)×100≦8.0の関係を満たすのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0031】
また、上記のように、本発明の固体電解質組成物は、0<X3/(X1+X2+X3)×100≦0.15の関係を満たすが、0.01≦X3/(X1+X2+X3)×100≦0.13の関係を満たすのが好ましく、0.02≦X3/(X1+X2+X3)×100≦0.11の関係を満たすのがより好ましく、0.02≦X3/(X1+X2+X3)×100≦0.09の関係を満たすのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0032】
[1-1]組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質
前述したように、本発明の固体電解質組成物は、上記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質を含んでいる。
【0033】
当該成分は、それ自体のリチウムイオン伝導率が非常に高い成分であり、本発明の固体電解質組成物を用いて製造される固体電解質の成形体や複合体全体としてのリチウムイオン伝導率の向上に大きく寄与する成分である。
【0034】
上記組成式(1)において、xは、0.10≦x≦1.00の条件を満たせばよいが、0.15≦x≦0.80の条件を満たすのが好ましく、0.20≦x≦0.70の条件を満たすのがより好ましく、0.40≦x≦0.55の条件を満たすのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0035】
また、上記組成式(1)において、yは、0.01≦y≦0.20の条件を満たせばよいが、0.01≦y≦0.15の条件を満たすのが好ましく、0.01≦y≦0.10の条件を満たすのがより好ましく、0.01≦y≦0.05の条件を満たすのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0036】
上記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質は、例えば、球状、鱗片状、不定形、柱状、板状、シート状、チップ状、ペレット状、ブロック状等、いかなる形状のものであってもよいが、粒状をなすものであるのが好ましい。
【0037】
上記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質が粒状をなすものである場合、上記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質の平均粒径は、特に限定されないが、0.1μm以上150μm以下であるのが好ましく、0.3μm以上10μm以下であるのがより好ましく、0.5μm以上5μm以下であるのがさらに好ましい。
【0038】
これにより、本発明の固体電解質組成物を用いて製造される固体電解質の成形体や複合体全体としてのリチウムイオン伝導率をより優れたものとすることができる。
【0039】
なお、本明細書において、平均粒径とは、体積基準の平均粒径を言い、例えば、サンプルをメタノールに添加し、超音波分散器で3分間分散した分散液をコールターカウンター法粒度分布測定器(COULTER ELECTRONICS INS製TA-II型)にて、50μmのアパチャーを用いて測定することにより求めることができる。
【0040】
本発明の固体電解質組成物中における上記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質の含有率X1は、91.9質量%以上96.5質量%以下であるのが好ましく、92.1質量%以上96.5質量%以下であるのがより好ましく、92.2質量%以上96.5質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0041】
これにより、本発明の固体電解質組成物を用いて製造される固体電解質の成形体や複合体のリチウムイオン伝導率をより優れたものとすることができる。
【0042】
[1-2]LiBO
前述したように、本発明の固体電解質組成物は、LiBOを含んでいる。
【0043】
当該成分は、ガラス電解質として機能する成分であり、本発明の固体電解質組成物を加熱した際に、優先的に軟化する成分であり、上記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質同士を接合する機能を発揮する。
【0044】
本発明の固体電解質組成物中に含まれるLiBOは、例えば、球状、鱗片状、不定形、柱状、板状、シート状、チップ状、ペレット状、ブロック状等、いかなる形状のものであってもよいが、粒状をなすものであるのが好ましい。
【0045】
LiBOが粒状をなすものである場合、LiBOの平均粒径は、特に限定されないが、0.1μm以上150μm以下であるのが好ましく、0.3μm以上10μm以下であるのがより好ましく、0.5μm以上5μm以下であるのがさらに好ましい。
【0046】
これにより、前述したようなLiBOの機能をより効果的に発揮させることができ、本発明の固体電解質組成物を用いて製造される固体電解質の成形体や複合体全体としてのリチウムイオン伝導率をより優れたものとすることができる。
【0047】
本発明の固体電解質組成物中におけるLiBOの含有率X2は、3.5質量%以上8.0質量%以下であるのが好ましく、3.5質量%以上7.0質量%以下であるのがより好ましく、3.5質量%以上6.5質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0048】
これにより、本発明の固体電解質組成物を用いて製造される固体電解質の成形体や複合体のリチウムイオン伝導率をより優れたものとすることができる。また、本発明の固体電解質組成物を用いて固体電解質の成形体や複合体を製造する際の加熱温度をより低くした場合であっても、固体電解質の成形体や複合体のリチウムイオン伝導率を十分に高いものとすることができる。
【0049】
[1-3]γ-アルミナ
前述したように、本発明の固体電解質組成物は、γ-アルミナを含んでいる。
【0050】
当該成分は、焼結助剤として機能する成分であり、本発明の固体電解質組成物においては、主に、本発明の固体電解質組成物を用いて固体電解質の成形体や複合体を製造する際に必要な加熱温度を低下させる機能を有している。
【0051】
γ-アルミナは、例えば、球状、鱗片状、不定形、柱状、板状、シート状、チップ状、ペレット状、ブロック状等、いかなる形状のものであってもよいが、粒状をなすものであるのが好ましい。
【0052】
γ-アルミナが粒状をなすものである場合、γ-アルミナの平均粒径は、特に限定されないが、0.1μm以上150μm以下であるのが好ましく、0.3μm以上10μm以下であるのがより好ましく、0.5μm以上5μm以下であるのがさらに好ましい。
【0053】
これにより、前述したようなγ-アルミナの機能をより効果的に発揮させることができ、本発明の固体電解質組成物を用いて製造される固体電解質の成形体や複合体全体としてのリチウムイオン伝導率をより優れたものとすることができる。
【0054】
本発明の固体電解質組成物中におけるγ-アルミナの含有率X3は、0.01質量%以上0.13質量%以下であるのが好ましく、0.02質量%以上0.11質量%以下であるのがより好ましく、0.02質量%以上0.09質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0055】
これにより、本発明の固体電解質組成物を用いて製造される固体電解質の成形体や複合体のリチウムイオン伝導率をより優れたものとすることができる。また、本発明の固体電解質組成物を用いて固体電解質の成形体や複合体を製造する際の加熱温度をより低くした場合であっても、固体電解質の成形体や複合体のリチウムイオン伝導率を十分に高いものとすることができる。
【0056】
[1-4]分散媒
本発明の固体電解質組成物は、上記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質、LiBO、および、γ-アルミナを含んでいればよいが、例えば、さらに、これらを分散させる分散媒を含んでいてもよい。
【0057】
分散媒としては、例えば、アルコール類、グリコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、有機酸類、芳香族類、アミド類等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上の組み合わせである混合溶媒を用いることができる。アルコール類としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルブチルアルコール、アリルアルコール、2-ノルマルブトキシエタノール等が挙げられる。グリコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。ケトン類としては、例えば、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エステル類としては、例えば、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、アセト酢酸メチル等が挙げられる。エーテル類としては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。有機酸類としては、例えば、ギ酸、酢酸、2-エチル酪酸、プロピオン酸等が挙げられる。芳香族類としては、例えば、トルエン、o-キシレン、p-キシレン等が挙げられる。アミド類としては、例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0058】
本発明の固体電解質組成物が分散媒を含むものである場合、本発明の固体電解質組成物中における分散媒の含有率は、5質量%以上50質量%以下であるのが好ましく、7質量%以上45質量%以下であるのがより好ましく、10質量%以上40質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0059】
[1-5]その他の成分
本発明の固体電解質組成物は、上述した成分以外の成分を含んでいてもよい。以下、この項目内において、このような成分を「その他の成分」とも言う。
【0060】
その他の成分としては、例えば、上記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質以外の結晶性の固体電解質、LiBO以外のガラス電解質、各種の固体電解質の前駆体、γ-アルミナ以外の焼結助剤、フュームドアルミナ、フュームドシリカ等の無機分散剤等が挙げられる。
【0061】
ただし、本発明の固体電解質組成物中におけるその他の成分の含有率は、10.0質量%以下であるのが好ましく、5.0質量%以下であるのがより好ましく、0.5質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0062】
[2]複合体
次に、本発明に係る複合体について説明する。
【0063】
本発明に係る複合体は、前述した本発明の固体電解質組成物を用いて形成された固体電解質と、活物質とを含む成形体である。
【0064】
このような複合体においては、活物質と固体電解質とが密着しており、緻密度が高く、好ましくない副生成物を含むことが防止され、リチウムイオン伝導率の高い複合体を提供することができる。したがって、本発明に係る複合体は、電池の製造に好適に用いることができる。
【0065】
[2-1]固体電解質
本発明に係る複合体が含む固体電解質は、上記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質とLiBOとを含むものである。
【0066】
複合体中に含まれる固体電解質は、上記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質およびLiBOを含むものであり、これらは、上記[1-1]、上記[1-2]で説明したのと同様の条件を満たすものであるのが好ましい。
【0067】
複合体中における固体電解質の占める割合は、25.0質量%以上75.0質量%以下であるのが好ましく、30.0質量%以上70.0質量%以下であるのがより好ましく、40.0質量%以上60.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0068】
これにより、電池容量とCレート(充放電速度)とのバランスが特に優れた電池の製造に好適に用いることができる。
【0069】
[2-2]活物質
本発明に係る複合体は、活物質を含んでいる。
【0070】
本発明に係る複合体を構成する活物質は、負極活物質、正極活物質のいずれであってもよい。
【0071】
負極活物質としては、例えば、Nb、V、TiO、In、ZnO、SnO、NiO、ITO、AZO、GZO、ATO、FTO、LiTi12、LiTi等のリチウムの複酸化物等が挙げられる。また、例えば、Li、Al、Si、Si-Mn、Si-Co、Si-Ni、Sn、Zn、Sb、Bi、In、Au等の金属および合金、炭素材料、LiC24、LiC等のような炭素材料の層間にリチウムイオンが挿入された物質等が挙げられる。
【0072】
正極活物質としては、例えば、LiおよびOを含む酸化物、より具体的には、少なくともLiを含み、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuからなる群より選択されるいずれか1種以上の元素により構成されるリチウムの複酸化物等を用いることができる。このような複酸化物としては、例えば、リチウム(Li)を含み、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)のうちの1種類以上の元素を含む複合金属化合物が挙げられる。このようなリチウムの複酸化物としては、特に限定されないが、具体的には、LiCoO、LiNiO、LiMn、LiMn、NMC(Li(NiMn1-x-yCo)O)、NCA(Li(NiCoAl1-x-y)O)、LiCr0.5Mn0.5、LiFePO、LiFeP、LiMnPO、LiFeBO、Li(PO、LiCuO、LiFeSiO、LiMnSiO等が挙げられる。また、上記のようなリチウムの複酸化物の結晶内の一部原子が、他の遷移金属、典型金属、アルカリ金属、アルカリ希土類、ランタノイド、カルコゲナイド、ハロゲン等で置換された固溶体であってもよい。また、正極活物質としては、例えば、LiFeF等のフッ化物、LiBHやLiBN10等のホウ素化物錯体化合物、ポリビニルピリジン-ヨウ素錯体等のヨウ素錯体化合物、硫黄等の非金属化合物等を用いることもできる。
【0073】
活物質は、正極活物質であるのが好ましく、LiおよびOを含む正極活物質であるのがより好ましく、リチウムの複酸化物であるのがさらに好ましい。
【0074】
これにより、活物質と固体電解質との密着性をより優れたものとすることができる。また、複合体を備える電池についての高負荷での充放電性能をより優れたものとすることができる。
【0075】
また、例えば、固体電解質との界面抵抗の低減や電子伝導性の向上等を目的として、活物質の表面には、被覆層が形成されていてもよい。例えば、LiCoOからなる正極活物質の表面に、LiNbO、Al、ZrO、Ta等の薄膜を形成することで、リチウムイオン伝導の界面抵抗をさらに低減することができる。前記被覆層の厚さは、特に限定されないが、3nm以上1μm以下であるのが好ましい。
【0076】
活物質は、例えば、内部に空孔を有する多孔質体であってもよく、例えば、球状、鱗片状、不定形、柱状、板状、シート状、チップ状、ペレット状、ブロック状等、いかなる形状のものであってもよい。
【0077】
活物質が粒状をなすものである場合、活物質の平均粒径は、特に限定されないが、0.1μm以上150μm以下であるのが好ましく、0.3μm以上20μm以下であるのがより好ましく、0.5μm以上10μm以下であるのがさらに好ましい。
【0078】
これにより、活物質の理論容量に近い実容量密度と高い充放電レートとを両立しやすくなる。
【0079】
複合体中における活物質の占める割合は、24.8質量%以上75.0質量%以下であるのが好ましく、29.8質量%以上70.0質量%以下であるのがより好ましく、39.8質量%以上60.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0080】
これにより、電池容量とCレート(充放電速度)とのバランスが特に優れた電池の製造に好適に用いることができる。
【0081】
[2-3]γ-アルミナ
本発明に係る複合体は、γ-アルミナを含んでいる。
【0082】
これにより、加熱によりα-アルミナ化し、リチウムイオン伝導性を向上させることができる。
【0083】
複合体中に含まれるγ-アルミナは、上記[1-3]で説明したのと同様の条件を満たすものであるのが好ましい。
【0084】
複合体中におけるγ-アルミナの占める割合は、0.01質量%以上0.13質量%以下であるのが好ましく、0.01質量%以上0.11質量%以下であるのがより好ましく、0.01質量%以上0.09質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0085】
[2-4]その他の成分
本発明に係る複合体は、上述した成分以外の成分を含んでいてもよい。以下、この項目内において、このような成分を「その他の成分」とも言う。
【0086】
その他の成分としては、例えば、ガーネット型の固体電解質以外の結晶性の固体電解質、LiBO以外のガラス電解質、γ-アルミナ以外の焼結助剤、フュームドアルミナ、フュームドシリカ等の無機分散剤等が挙げられる。
【0087】
ただし、本発明に係る複合体中におけるその他の成分の含有率は、10.0質量%以下であるのが好ましく、5.0質量%以下であるのがより好ましく、0.5質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0088】
[3]複合体の製造方法
次に、本発明の複合体の製造方法について説明する。
【0089】
本発明の複合体の製造方法は、前述した本発明の固体電解質組成物と活物質とを含む混合物を加熱する加熱工程を有する。
【0090】
これにより、比較的低温の熱処理で、好ましくない副生成物の生成を効果的に防止しつつ、緻密度が高く、リチウムイオン伝導率が十分に高い複合体を好適に製造することができる。
【0091】
特に、本実施形態では、前述した本発明の固体電解質組成物と活物質とを含む混合物を得る混合工程と、前記混合物を所定の形状に成形する成形工程と、所定の形状に成形された混合物である成形体を加熱する加熱工程を有する。
【0092】
[3-1]混合工程
混合工程では、前述した本発明の固体電解質組成物と活物質とを含む混合物を得る。
前記活物質は、LiおよびOを含む正極活物質であるのが好ましい。
【0093】
これにより、活物質と固体電解質との密着性をより優れたものとすることができる。また、複合体を備える電池についての高負荷での充放電性能をより優れたものとすることができる。
【0094】
混合工程では、本発明の固体電解質組成物および活物質に加えて、さらに、他の成分を用いてもよい。
【0095】
このような成分としては、例えば、水や各種の有機溶媒等の液体成分や、追加で用いる上記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質、LiBO、γ-アルミナ、さらには、上記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質以外の結晶性の固体電解質、LiBO以外のガラス電解質、各種の固体電解質の前駆体、γ-アルミナ以外の焼結助剤等が挙げられる。
【0096】
上記のような液体成分を用いることにより、例えば、ペースト状の混合物を得ることができ、成形工程での成形をより好適に行うことができる。
【0097】
有機溶媒としては、例えば、アルコール類、グリコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、有機酸類、芳香族類、アミド類等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上の組み合わせである混合溶媒を用いることができる。アルコール類としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルブチルアルコール、アリルアルコール、2-ノルマルブトキシエタノール等が挙げられる。グリコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。ケトン類としては、例えば、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エステル類としては、例えば、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、アセト酢酸メチル等が挙げられる。エーテル類としては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。有機酸類としては、例えば、ギ酸、酢酸、2-エチル酪酸、プロピオン酸等が挙げられる。芳香族類としては、例えば、トルエン、o-キシレン、p-キシレン等が挙げられる。アミド類としては、例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0098】
[3-2]成形工程
成形工程では、混合物を所定の形状に成形する。
【0099】
成形工程で製造する成形体は、通常、目的とする複合体に対応する形状を有している。
成形方法としては、例えば、圧縮成形や押し出し成形等が挙げられる。
【0100】
[3-3]加熱工程
加熱工程では、本発明の固体電解質組成物と活物質とを含む混合物、特に、本実施形態では、所定の形状に成形された混合物である成形体を加熱する。
【0101】
加熱工程での加熱温度は、700℃以上900℃以下であるのが好ましく、725℃以上900℃以下であるのがより好ましく、740℃以上900℃以下であるのがさらに好ましい。
【0102】
これにより、複合体の生産性を十分に優れたものとしつつ、好ましくない副生成物が生成することをより効果的に防止することができ、リチウムイオン伝導率がより高い複合体を得ることができる。また、省エネルギーの観点からも有利である。
【0103】
加熱工程での加熱時間は、4時間以上12時間以下であるのが好ましく、4時間以上11時間以下であるのがより好ましく、6時間以上10時間以下であるのがさらに好ましい。
【0104】
これにより、複合体の生産性をより優れたものとしつつ、好ましくない副生成物が生成することをより効果的に防止することができ、リチウムイオン伝導率がより高い複合体を得ることができる。また、省エネルギーの観点からも有利である。
【0105】
[4]電池
次に、本発明に係る電池について説明する。
【0106】
本発明に係る電池は、活物質および前述した本発明の固体電解質組成物により形成された固体電解質を含む複合体と、前記複合体の一方の面に設けられた電極と、前記複合体の他方の面に設けられた集電体と、を備える。
【0107】
これにより、固体電解質と活物質との密着性や、固体電解質同士の密着性に十分に優れ、粒界抵抗の上昇が抑制され、リチウムイオン伝導率の低下が抑制された複合体を備える電池を提供することができる。
【0108】
以下、本発明に係る電池としてのリチウムイオン電池の具体的な構成について説明する。
【0109】
図1は、リチウムイオン電池の構成を模式的に示す概略断面図である。特に、図1では、リチウムイオン二次電池の一例としてのコイン型電池を示している。
【0110】
特に、図1に示すリチウムイオン電池100は、前述した複合体P100と、複合体P100の一方の面に接触して設けられた前記電極としての負極30と、複合体P100の負極30と接触する面とは反対の面に接触して設けられた集電体41とを有している。さらに、図1に示すリチウムイオン電池100は、負極30の複合体P100と接触する面とは反対の面に接触して設けられた集電体42を有している。すなわち、本実施形態のリチウムイオン電池100は、集電体41、複合体P100、負極30、集電体42が、この順に積層された構成を有している。
【0111】
リチウムイオン電池100の形状は、特に限定されず、例えば、多角形の盤状等であってもよいが、図示の構成では、円盤状である。リチウムイオン電池100の大きさは、特に限定されないが、例えば、リチウムイオン電池100の直径は、10mm以上20mm以下であり、リチウムイオン電池100の厚さは、例えば、0.1mm以上1.0mm以下である。
【0112】
リチウムイオン電池100が、このように、小型、薄型であると、充放電可能であって全固体であることと相まって、スマートフォン等の携帯情報端末の電源として好適に用いることができる。なお、後述するように、リチウムイオン電池100は、携帯情報端末の電源以外の用途のものであってもよい。
【0113】
[4-1]複合体
リチウムイオン電池100を構成する複合体P100は、活物質と、本発明の固体電解質組成物により形成された固体電解質とを含むものであるが、特に、活物質として、正極活物質を含むものである。
【0114】
複合体P100は、一方の面側に活物質が偏在していてもよい。この場合、複合体P100は、活物質が偏在している側とは反対側の面で負極30と接触しているのが好ましい。複合体P100の一方の面側に活物質が偏在している場合、他方の面側には、固体電解質が偏在していてもよい。
【0115】
リチウムイオン電池100を構成する複合体P100の厚さは、特に限定されないが、0.1μm以上500μm以下であるのが好ましく、0.3μm以上100μm以下であるのがより好ましい。
【0116】
[4-2]負極
負極30は、複合体P100を構成する正極活物質よりも低い電位において電気化学的なリチウムイオンの吸蔵・放出を繰り返すいわゆる負極活物質で構成されるものであればいかなるものであってもよい。
【0117】
負極30は、負極活物質を含む材料で構成されている。
負極活物質としては、例えば、Nb、V、TiO、In、ZnO、SnO、NiO、ITO、AZO、GZO、ATO、FTO、LiTi12、LiTi等のリチウムの複酸化物等が挙げられる。また、例えば、Li、Al、Si、Si-Mn、Si-Co、Si-Ni、Sn、Zn、Sb、Bi、In、Au等の金属および合金、炭素材料、LiC24、LiC等のような炭素材料の層間にリチウムイオンが挿入された物質等が挙げられる。
【0118】
特に、電極である負極30は、金属Liで構成されているのが好ましい。
これにより、リチウムイオン電池に広く利用されている炭素負極に比べ、重量当たりで約10倍、体積当たりでも数倍の電気を蓄えられるという効果が得られる。
【0119】
また、負極活物質は、例えば、固体電解質との界面抵抗の低減や電子伝導性の向上等を目的として、表面に被覆層が形成されていてもよい。前記被覆層の厚さは、特に限定されないが、3nm以上1μm以下であるのが好ましい。
【0120】
負極活物質の平均粒径は、特に限定されないが、0.1μm以上150μm以下であるのが好ましく、0.3μm以上60μm以下であるのがより好ましい。
【0121】
これにより、活物質の理論容量に近い実容量密度と高い充放電レートとを両立しやすくなる。
【0122】
負極30の厚さは、特に限定されないが、0.1μm以上500μm以下であるのが好ましく、0.3μm以上100μm以下であるのがより好ましい。
【0123】
負極30の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、PLD法、ALD法、エアロゾルデポジション法等の気相堆積法、ゾルゲル法やMOD法といった溶液を用いた化学堆積法等が挙げられる。また、例えば、負極活物質の微粒子を適当なバインダーとともにスラリー化して、スキージーやスクリーン印刷を行って塗膜を形成し、塗膜を乾燥および焼成して複合体P100の表面に焼き付けてもよい。
【0124】
[4-3]集電体
集電体41,42は、正極としての複合体P100または負極30に対する電子の授受を担うよう設けられた導電体である。集電体41,42としては、通常、十分に電気抵抗が小さく、また充放電によって電気伝導特性やその機械構造が実質的に変化しない材料で構成されるものが用いられる。
【0125】
集電体41,42の構成材料としては、例えば、Cu、Mg、Ti、Fe、Co、Ni、Zn、Al、Ge、In、Au、Pt、AgおよびPdよりなる群から選択される1種の金属や、該群から選択される2種以上の金属を含む合金等が挙げられる。
【0126】
特に、集電体41,42の構成材料としては、Cuが好ましい。
集電体41,42は、通常、それぞれ、複合体P100、負極30との接触抵抗が小さくなるように設けられている。集電体41,42の形状としては、例えば、板状、メッシュ状等が挙げられる。
【0127】
集電体41,42の厚さは、特に限定されないが、7μm以上85μm以下であるのが好ましく、10μm以上60μm以下であるのがより好ましい。
【0128】
なお、リチウムイオン電池100は、必ずしも一対の集電体41,42を備えていなくてもよく、少なくとも、複合体P100の一方の面、すなわち、前記電極である負極30が設けられた面とは反対側に設けられた集電体41を備えていればよく、集電体42を備えていなくてもよい。
【0129】
例えば、複数のリチウムイオン電池100をそれぞれ電気的に直列に接続されるように積層して用いる場合、リチウムイオン電池100は一対の集電体41,42のうち集電体41だけを備える構成としてもよい。
【0130】
[5]電池の製造方法
次に、本発明の電池の製造方法について説明する。
【0131】
図2は、電池の製造方法を模式的に示す縦断面図である。
図2に示すように、本実施形態の電池の製造方法は、前述した本発明の固体電解質組成物と活物質とを含む混合物を加熱して複合体P100を製造する複合体製造工程(1A)と、複合体P100の一方の面側に電極としての負極30を形成する電極形成工程(1B)と、複合体P100の他方の面側に集電体41を形成する集電体形成工程(1C)と、を備える。
【0132】
これにより、固体電解質と活物質との密着性や、固体電解質同士の密着性に十分に優れ、粒界抵抗の上昇が抑制され、リチウムイオン伝導率の低下が抑制された複合体を備える電池を提供することができる。
【0133】
[5-1]複合体製造工程
複合体P100は、例えば、上記[3]で説明したのと同様の方法、条件で製造することができる。
【0134】
[5-2]電極形成工程
電極形成工程では、複合体P100の一方の面側に電極である負極30を形成する。
【0135】
負極30の形成方法は、特に限定されないが、例えば、真空蒸着装置等を使用した気相成膜法等が挙げられる。
電極である負極30は、金属Liであるのが好ましい。
【0136】
これにより、リチウムイオン電池に広く利用されている炭素負極に比べ、重量当たりで約10倍、体積当たりでも数倍の電気を蓄えられるという効果が得られる。
【0137】
[5-3]集電体形成工程
集電体形成工程では、複合体P100の他方の面側、すなわち、複合体P100の負極30が設けられた面とは反対の面側に集電体41を形成する。
【0138】
また、本実施形態では、複合体P100の他方の面側に集電体41を形成するとともに、負極30の複合体P100と接触する面とは反対の面側に集電体42を形成する。
【0139】
集電体41,42の形成は、例えば、型抜き等により円形としたアルミニウム箔や銅箔等の金属箔を、それぞれ、複合体P100または負極30の目的部位に押圧して接合することにより形成することができる。
【0140】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0141】
例えば、本発明に係る複合体は、前述した方法で製造されたものに限定されない。
より具体的には、本発明に係る複合体は、上述したような工程に加え、さらに他の工程を有する方法を用いて製造されたものであってもよい。
【0142】
また、本発明に係る電池は、前述した実施形態のものに限定されない。
例えば、前述した実施形態の電池は、複合体が正極活物質を含むものであり、前記電極として負極を備えるものであったが、本発明の電池は、複合体が負極活物質を含むものであり、前記電極として正極を備えるものであってもよい。
【0143】
また、前述した実施形態では、コイン型の電池について代表的に説明したが、本発明の電池は、コイン型以外の形状を有するものであってもよい。
【実施例0144】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[6]固体電解質組成物の製造
(実施例1)
上記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質としてのGSアライアンス社製のLi6.25Ga0.25La2.95Nd0.05Zr12の粉末:0.9400gと、豊島製作所社製のLiBOの粉末:0.0590gと、高純度化学研究所社製:γ-アルミナの粉末:0.0010gとを秤量して、メノウ鉢に入れ、メノウ棒を用いて、15分間良く混合を行うことにより、固体電解質組成物を製造した。固体電解質組成物中に含まれる上記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質の粉末の平均粒径は0.5μm、LiBOの粉末の平均粒径は5μm、γ-アルミナの粉末の平均粒径は2.5μmであった。
【0145】
(実施例2~6)
上記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質の組成、上記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質の粉末とLiBOの粉末とγ-アルミナの粉末との配合比率を表1に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にして固体電解質組成物を製造した。
【0146】
(比較例1~3)
上記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質の粉末とLiBOの粉末とγ-アルミナの粉末との配合比率を表1に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にして固体電解質組成物を製造した。
【0147】
(比較例4、5)
γ-アルミナの粉末を用いずに、上記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質の粉末とLiBOの粉末との配合比率を表1に示すようにした以外は、前記実施例1と同様にして固体電解質組成物を製造した。
【0148】
(比較例6~11)
上記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質の粉末の代わりに、表1に示す組成の結晶質の固体電解質の粉末を用い、当該結晶質の固体電解質の粉末とLiBOの粉末とγ-アルミナの粉末との配合比率を表1に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にして固体電解質組成物を製造した。
【0149】
前記各実施例および各比較例の固体電解質組成物の構成を表1にまとめて示す。なお、前記各実施例では、いずれも、固体電解質組成物中に含まれる上記組成式(1)で示されるガーネット型の固体電解質の粉末の平均粒径は0.1μm以上150μm以下、LiBOの粉末の平均粒径は0.1μm以上150μm以下、γ-アルミナの粉末の平均粒径は0.1μm以上150μm以下の範囲内の値であった。
【0150】
【表1】
【0151】
[7]評価
まず、前記各実施例および各比較例の固体電解質組成物を用いて、それぞれ、以下のようにして円盤状の固体電解質を製造した。
【0152】
すなわち、固体電解質組成物を0.200g秤量し、成形型として内径10mmの排気ポート付きペレットダイスに投入して、0.624kN/mmの圧力にて5分間加圧し、円盤状の成形物であるペレットを作製した。さらに、ペレットを酸化マグネシウム製の坩堝に入れ、酸化マグネシウム製の蓋をして、ヤマト科学社製の電気マッフル炉FP311にて焼成を施した。焼成条件は、900℃で8時間とした。次いで、電気マッフル炉を室温まで徐冷して、坩堝から、直径約9mm、厚さ約700μmの円盤状の固体電解質を取り出した。
【0153】
[7-1]緻密度
前記各実施例および各比較例に係る円盤状の固体電解質について、直径、厚みおよび質量を測定し、これらの結果から、緻密度を求めた。なお、直径および厚みの測定には、ミツトヨ社製デジマチックキャリパCD-S15Cおよびソニー社製デジタルマイクロメータM-30を用いた。また、質量の測定には、メトラートレド社製電子天秤AG245を用いて行った。
【0154】
[7-2]結晶相
固体電解質の結晶相は、フィリップス社製のX線回折装置X’Pert-PROを用いた測定により得られたX線回折パターンから特定した。今回の実験においては全てのサンプルにおいて、立方晶の結晶構造を示した。
【0155】
[7-3]リチウムイオン伝導率
製造直後の前記各実施例および各比較例に係る円盤状の固体電解質について、それぞれ両面に、直径が5mmの円形の金属リチウム箔を押圧して活性化電極とした。
【0156】
そして、交流インピーダンスアナライザーSolatron1260(Solatron Anailtical社製)を用いて電気化学インピーダンスを測定して、バルクリチウムイオン伝導率、および、総リチウムイオン伝導率を求めた。
【0157】
電気化学インピーダンス測定は、交流振幅10mVにて、10Hzから10-1Hzの周波数領域にて行った。なお、電気化学インピーダンス測定によって得られた総リチウムイオン伝導率は、固体電解質におけるバルクのリチウムイオン伝導率と粒界のリチウムイオン伝導率とを含むものである。
これらの評価結果を表2にまとめて示す。
【0158】
【表2】
【0159】
表2から明らかなように、本発明では優れた結果が得られたのに対し、比較例では、満足のいく結果が得られなかった。
【0160】
[8]複合体の製造
前記実施例1の固体電解質組成物を用いて、以下のようにして円盤状の複合体を製造した。
【0161】
まず、前記実施例1の固体電解質組成物:1.0gと、正極活物質としてのLiCoOの粉末:1.0gとを秤量して、メノウ鉢に入れ、メノウ棒を用いて、15分間混合を行うことにより、固体電解質組成物と正極活物質との混合物を得た。なお、LiCoOの粉末の平均粒径は、5.5μmであった。
【0162】
次に、上記の固体電解質組成物と正極活物質との混合物を0.200g秤量し、成形型として内径10mmの排気ポート付きペレットダイスに投入して、0.624kN/mmの圧力にて5分間加圧し、直径約9mm、厚さ約700μmの円盤状成形物を得た。
【0163】
このようにして得られた円盤状成形物に、850℃×8時間の加熱処理である焼成処理を施すことにより、円盤状の複合体を得た。
【0164】
前記実施例1の固体電解質組成物の代わりに、それぞれ、前記実施例2~6、前記比較例1~11の固体電解質組成物を用いた以外は、前記と同様にして円盤状の複合体を製造した。
【0165】
[9]複合体の評価
上記のようにして得られた前記各実施例および各比較例に係る複合体について、以下の方法にて、リチウムイオン伝導性の指標として複合体における固体電解質由来のリチウムイオン伝導率の評価を行った。
【0166】
すなわち、複合体の表裏両面に、リチウム蒸着にて8mmφのリチウム電極(イオン活性化電極)を作製した。次いで、インピーダンスアナライザーSI1260(ソーラトロン社)を用いて、交流インピーダンス測定を行った。なお、測定時のAC振幅は10mV、測定周波数は10Hzから10-1Hzとした。
これらの結果を表3にまとめて示す。
【0167】
【表3】
【0168】
表3から明らかなように、本発明では優れた結果が得られたのに対し、比較例では、満足のいく結果が得られなかった。
【0169】
[10]電池の製造
上記[8]で製造した前記各実施例および各比較例に係る複合体を用いて、以下のようにして電池を製造した。
【0170】
まず、複合体の一方の面に、真空蒸着法によりリチウム負極を形成した。形成された負極の厚さは、20μmであった。
【0171】
次に、複合体と負極との積層体の両面に、それぞれ、銅集電体を真空スパッタ法により形成することにより、電池を得た。集電体の厚さは、10μmであった。
【0172】
[11]電池の評価
上記のようにして得られた前記各実施例および各比較例に係る電池について、製造直後に、北斗電工社製の電池充放電評価システムHJ1001SD8に接続し、表4に示す条件で充放電を繰り返し行い、1回目および10回目の電池の充放電特性を評価した。
【0173】
これらの結果を、充放電の条件とともに、表4にまとめて示す。なお、表4中の「放電容量維持率」は、1回目の放電容量に対する10回目の放電容量の比率を示す。
【0174】
【表4】
【0175】
表4から明らかなように、本発明では優れた結果が得られたのに対し、比較例では、満足のいく結果が得られなかった。
【符号の説明】
【0176】
P100…複合体、100…リチウムイオン電池、30…負極、41…集電体、42…集電体、300…ウェアラブル機器、301…バンド、302…センサー、303…表示部、304…処理部、WR…手首
図1
図2