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  • 特開-粉液型歯科材料包装体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000491
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】粉液型歯科材料包装体
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/01 20060101AFI20231225BHJP
   A61K 6/90 20200101ALI20231225BHJP
   A61K 6/60 20200101ALI20231225BHJP
   A61K 6/887 20200101ALI20231225BHJP
【FI】
A61C13/01
A61K6/90
A61K6/60
A61K6/887
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046559
(22)【出願日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2022098730
(32)【優先日】2022-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】本田 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】山崎 達矢
【テーマコード(参考)】
4C089
4C159
【Fターム(参考)】
4C089AA03
4C089AA06
4C089BD01
4C089CA07
4C159FF17
4C159FF18
4C159FF21
(57)【要約】
【課題】 液材成分として、1H,1H,5H-オクタフルオロペンチルメタクリレートのような、含フッ素(メタ)アクリレートを用いることにより着色や汚れの付着が起こり難い硬化体を与えることができる粉液型歯科材料について、その粉材と液材とを、1つの袋本体の内部に形成された粉材収容室及び液材収容室に夫々分包して収容し、使用時において分包された両材を混合して歯科材料を調製するのに適した粉液型歯科材料の包装体であって、長期間保管しても前記含フッ素(メタ)アクリレートが揮発して減少することがない包装体を提供する。
【解決手段】 環状ポリオレフィンポリマーや環状ポリオレフィンコポリマーからなる層を有する単層又は多層の樹脂フィルムを用いて前記袋本体を構成する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉材と液材とからなり、両材を混合することにより歯科材料が調製される粉液型歯科材料の前記粉材及び前記液材を夫々収容する粉材収容室及び液材収容室と、弱化シール部と、を有する袋本体含み、
前記弱化シール部は、前記粉材収容室と前記液材収容室との間に両収容室を仕切るように設けられると共に前記袋本体の前記粉材収容室部分及び/又は前記液材収容室部分へ付加する押圧力によって破断可能に形成され、
前記弱化シール部の破断後において各収容室を連通させて、これらの収容室内に収容された前記粉材及び前記液材を連通した収容室内で混合して前記歯科材料を調製可能にされている粉液型歯科材料包装体において、
前記液材は、含フッ素(メタ)アクリレートを含有し、
前記袋本体を構成する樹脂製フィルムは、環状ポリオレフィン系樹脂を含む層を有する単層フィルム又は多層フィルムからなる、
ことを特徴とする前記粉液型歯科材料包装体。
【請求項2】
前記環状ポリオレフィン系樹脂を含む層が、環状ポリオレフィン系樹脂が5~70質量部%で残部が環構造を有さないポリオレフィン系樹脂からなる樹脂組成物からなる、請求項1に記載の粉液型歯科材料包装体。
【請求項3】
前記粉材収容室及び前記液材収容室の少なくとも一方に空気を併せて収容し、前記粉材及び前記液材を混合する際の連通した収容室内の常温における空気の容積が当該収容室の容積に対して15~40%の範囲となるようにされている、請求項1又は2に記載の粉液型歯科材料包装体。
【請求項4】
前記粉液型歯科材料が、有機高分子を含む粉材と、含フッ素(メタ)アクリレートを含有する重合性単量体を含む液材とからなる粉液型義歯床用裏装材である、請求項1に記載の粉液型歯科材料包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉液型歯科材料包装体に関する。詳しくは、夫々所定量の粉材と液材とを分包して保管可能とし、使用時において分包された両材を混合して歯科材料を調製するのに適した粉液型歯科材料の包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科材料は、複数の成分から構成されているものが圧倒的に多く、患者の治療中に歯科医師等がその場で複数の材料を混ぜ合わせて用いることが多々ある。これらの材料の組み合わせは、液材同士、粉材と液材、ペースト材同士などを組み合わせたものがある。
【0003】
これらのうち、粉材と液材とを組み合わせて用いるもの(粉液型歯科材料)について、代表的な例をあげると、義歯床用裏装材、歯科補修用レジン、義歯床用粘膜調整材、歯科用レジンセメントなどが挙げられる。
【0004】
例えば、義歯床用裏装材とは、骨吸収や粘膜面の変形等によって装着している義歯が口腔粘膜に適合しなくなってきた際に、適合しなくなった義歯床面に裏装して義歯を再適合させるための補修材である。
【0005】
義歯床用裏装材、歯科補修用レジン、歯科用レジンセメントなどの歯科用粉液材料は、一般的にラジカル重合性単量体を主成分とした液材と、液材に可溶性の非架橋樹脂を主成分とした粉材から構成され、術者が液材と粉材を混合することでペースト状に調製し使用する。液材と粉材を混合することにより、粉材の主成分である非架橋樹脂の少なくとも一部が、液材に溶解し、且つ溶解せずに残った粒子(溶解残滓の粒子)が膨潤することでペーストの粘度が上昇する。ハンドリングに適した粘度に上昇した後に、賦形操作などを行い、ラジカル重合開始剤が作用することにより重合硬化する機構となっている。なお、ラジカル重合開始剤としては、化学重合開始剤(常温レドックス開始剤)、光重合開始剤、熱重合開始剤等が使用可能である。
【0006】
このように、義歯床用裏装材は、粉材と液材との混合を開始してから一定の時間経過後に得られる特定の粘度状態で使用されるため、使用時に都度必要量を調製する必要がある。このため、義歯床用裏装材に関しては、用時調製(使用する直前に調製することをいう。)に適した包装形態も知られている。たとえば、特許文献1には、粉液型歯科材料を便宜に提供する包装形態として、「袋本体を複数に区画して密閉された複数の収容室を形成し、各収容室同士間には各収容室を仕切る弱化部を形成し、該弱化部を前記袋本体へ付加する押圧力によって破断可能に形成し、前記弱化部の破断後は各収容室を連通させて、これらの収容室内に収容された内容物を、1つの収容室内に集めて混合可能にした調剤収容袋おいて、前記複数の収容室には、有機高分子を含む粉材と、該粉材を溶解させるとともに該粉材と協働してペースト状に変化する液材とからなる歯科粉液材料を、粉材と液材とで各収容室に別々に収容し、前記弱化部の破断後にペースト状に変化する粉材と液材とを、前記袋本体の表面を介して押圧可能になるよう前記袋本体を形成してなることを特徴とする歯科粉液材料入り調剤収容袋」が開示されている。そして、上記「歯科粉液材料入り調剤収容袋」のような包装形態とすることにより、使用者である歯科医師が使用時に粉材と液材を計量する必要がなく、作業が簡便化されるとされている。
【0007】
一方、歯科用粉液材料の液材に用いられるラジカル重合性単量体としては、一般的に(メタ)アクリレート系重合性単量体等が用いられる。中でも、液材に含フッ素(メタ)アクリレートを用いた場合、硬化体の着色や、臭い成分の吸収、吸着が少ない義歯床用裏装材が提供されることが知られている(特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014-223237号公報
【特許文献2】特開2000-312689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2に開示される前記義歯床用材についても特許文献1に開示されるような包装形態を採用することが便利である。ところが、本発明者等が、液材に含フッ素(メタ)アクリレートを用いた歯科用粉液材料を、ポリエチレン、ポリプロピレンからなるフィルムを用いた歯科用粉液材料入り調剤収容袋に収容し、長期保管した場合における変化の有無(保存安定性)を60℃の恒温槽を用いた熱加速劣化試験により評価したところ、収容物である液材の重量が減少することが明らかとなった。液材の重量が減少すると、事前に適切な量で包装体に収容された粉材と液材の比(P/L比)が変化してしまい、長期保管後に所望の操作性(ペースト性状)が得られなくなる。
【0010】
そこで、本発明では、特許文献1に開示されるような包装形態で提供される歯科用粉液材料において、液材に含フッ素(メタ)アクリレートを用いた場合であっても保管中に液材の重量減少を起こさないようにする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するものであり、本発明の形態は、粉材と液材とからなり、両材を混合することにより歯科材料が調製される粉液型歯科材料の前記粉材及び前記液材を夫々収容する粉材収容室及び液材収容室と、弱化シール部と、を有する袋本体含み、前記弱化シール部は、前記粉材収容室と前記液材収容室との間に両収容室を仕切るように設けられると共に前記袋本体の前記粉材収容室部分及び/又は前記液材収容室部分へ付加する押圧力によって破断可能に形成され、前記弱化シール部の破断後において各収容室を連通させて、これらの収容室内に収容された前記粉材及び前記液材を連通した収容室内で混合して前記歯科材料を調製可能にされている粉液型歯科材料包装体において、
前記液材は、含フッ素(メタ)アクリレートを含有し、前記袋本体を構成する樹脂製フィルムは、環状ポリオレフィン系樹脂を含む層を有する単層フィルム又は多層フィルムからなる、ことを特徴とする前記粉液型歯科材料包装体である。
【0012】
上記形態の粉液型歯科材料包装体(以下、「本発明の包装体」ともいう。)においては、前記環状ポリオレフィン系樹脂を含む層が、環状ポリオレフィン系樹脂が5~70質量%で残部が環構造を有さないポリオレフィン系樹脂からなる樹脂組成物からなることが好ましい。また、前記粉材収容室及び前記液材収容室の少なくとも一方に空気を併せて収容し、前記粉材及び前記液材を混合する際の連通した収容室内の常温における空気の容積が当該収容室の容積に対して15~40%の範囲となるようにされていることが好ましい。さらに、前記粉液型歯科材料が、有機高分子を含む粉材と、含フッ素(メタ)アクリレートを含有する重合性単量体を含む液材とからなる粉液型義歯床用裏装材であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、粉液型歯科材料の液材が含フッ素(メタ)アクリレートを含む場合であっても、保管中に液材の重量が減少させることなく、用時調製に適した前記特許文献1に開示されるような包装形態を採用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態における調剤収容袋及びその使用手順を示し、(A)液材収容室を押圧して弱化シール部を破断している状態、(B)混和用器具により袋本体の表面を押圧している状態及び(C)ペースト状になった歯科材料を袋本体から取出している状態を示している。
図2】本発明の実施形態における調剤収容袋に用いる好適な多層フィルム、具体的には、(A)基材層とシーラント層の2層からなるフィルム、(B)基材層、中間層、シーラント層の3層からなるフィルム、及び(C)基材層、接着層、中間層、接着層、シーラント層の5層からなるフィルム、の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
特許文献1に開示されている「歯科用粉液材料入り調剤収容袋」の前記袋本体に形成された収容室内に含フッ素(メタ)アクリレートを含有する液剤を収容して長期保管したときに重量減少が起こる原因は、含フッ素(メタ)アクリレートが、その高い揮発性に起因して前記袋本体を構成する樹脂フィルムを透過したことによると考えられる。すなわち、前記袋本体は、ポリマー鎖間の空隙が比較的広く、樹脂の密度が低いポリエチレンやポリプロピレンをフィルムの材質に用いたため、含フッ素(メタ)アクリレートがフィルムを透過したものと考えられる。
【0016】
液体又は気体のフィルムへの透過を抑制する方法として、一般的に包装体の気密性を高める事を目的にアルミなどの金属含有バリア層を設ける方法が知られているが、歯科用粉液材料入り調剤収容袋においては歯科用粉液材料のペースト調製時に収容物の視認ができず適していない。
【0017】
そこで、本発明者等は、視認性を低下させずに保管中における前記液剤の重量減少を抑えるために、透明な樹脂をバリア層として用いることを着想し、検討を行った。その結果、ガス透過性の指標として使われる酸素透過係数や、樹脂の自由体積(分子間隙)が低く、比重(密度)の大きい透明樹脂として、ナイロンをバリア層として用いた場合には、十分な重量減少抑制効果は得られなかったものの、環状ポリオレフィン系樹脂をバリア層に用いた場合には所期の効果を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0018】
ナイロンを用いた場合には前記重量減少を十分に抑制することができなかったのに対して環状ポリオレフィン系樹脂を用いたときに高い抑制効果が得られたことに関し、本発明者等は次の様に推定している。すなわち、ナイロン及び環状ポリオレフィン系樹脂は何れもポリマー鎖間の分子間相互作用が強よく、気体分子の透過性を抑制する効果を発揮することが期待される樹脂ではあるが、含フッ素(メタ)アクリレートは炭素-フッ素結合に由来した強い極性を持つため、同様に強い極性を持つナイロン樹脂には溶解、拡散しやすいのに対し、環状ポリオレフィン系樹脂は極性が小さいため、含フッ素(メタ)アクリレートの様な強い極性を持つ分子の溶解、拡散はしにくくなり、透過性が低くなったものと推定している。なお、「ある物質:A」の「特定の樹脂材料:B」に対する透過係数をP、溶解度係数をS、拡散係数をDとすると、P=S×Dの関係が成り立つことが知られており、透過係数Pが大きいほど透過量は増加するが、上記S及びDは、AとBとの組合せごとに決まるため、例えば酸素や水蒸気に対するバリア性の効果の傾向から含フッ素(メタ)アクリレートに対するバリア性を予測することは困難である。
【0019】
本発明の包装体は、前記特許文献1に開示される「歯科用粉液材料入り調剤収容袋」において、収容される液材として、含フッ素(メタ)アクリレートを含有する重合性単量体を使用し、更に前記袋本体を構成する樹脂製フィルムとして環状ポリオレフィン系樹脂を含む層を有する単層フィルム又は多層フィルムを用いた点に特徴を有する。それ以外の点については前記「歯科用粉液材料入り調剤収容袋」と特に変わる点は無いが、これらを含めて本発明の包装体の包装対象となる粉液型歯科材料及び本発明の包装体について以下に詳しく説明する。
【0020】
なお、以下、本明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。本明細書において本明細書において、「(メタ)アクリル系」との用語は「アクリル系」及び「メタクリル系」の両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」との用語は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味する。
【0021】
1.包装対象となる粉液型歯科材料について
本発明の包装体の包装対象となる粉液型歯科材料は、粉材と液材とからなり、両材を混合することにより歯科材料が調製されるものであり、且つ液材に含フッ素(メタ)アクリレートを含むものであれば特に限定されない。このような粉液型歯科材料としては、義歯床用裏装材、歯科補修用レジン、義歯床用粘膜調整材、歯科用レジンセメントなどを挙げることができる。これらの中でも、本発明の包装体とすることによる利便性が特に高いという理由から義歯床用裏装材であることが特に好ましい。
【0022】
1-1.液材について
前記粉液型歯科材料の液材は、液状であり、主に重合性単量体から成る。本発明の包装体で用いられる液材は、重合性単量として含フッ素(メタ)アクリレートを含むものを使用する。ここで、含フッ素(メタ)アクリレートとは、分子内にフッ素原子を有する(メタ)アクリレート化合物を意味し、好適には、下記一般式(I)で示される含フッ素(メタ)アクリレートが使用される。
【0023】
CH=C(R)COO-R-R (I)
なお、上記式(I)中の、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rはアルキレン基を示し、Rはパーフルオロアルキル基を示す。上記式(1)においては、粉液型歯科材料を硬化させたときに得られる硬化体の着色や、臭い成分の吸収、吸着が少なく、更にさらに口腔粘膜に対する刺激性が低いという理由から、基:-R-Rにおける炭素数は4~10であり、且つ、上記基の炭素原子に結合する(炭素原子以外の)全原子数に占めるフッ素原子の占める割合は50%以上であることが好ましい。
【0024】
好適に使用できる含フッ素(メタ)アクリレートを例示すると、1H,1H,3H-ヘキサフルオロブチルメタクリレート、1H,1H,5H-オクタフルオロペンチルメタクリレート、1H,1H,6H-デカフルオロヘキシルメタクリレート及び1H,1H,7H-ドデカフルオロヘプチルメタクリレートを挙げることができる。これら4種の化合物の中でも1H,1H,6H-デカフルオロヘキシルメタクリレート及び1H,1H,7H-ドデカフルオロヘプチルメタクリレートの2種が特に好ましい。
【0025】
液材の主成分となる重合性単量体の全てが含フッ素(メタ)アクリレートであってもよいが、含フッ素(メタ)アクリレートの割合が増えると硬化物の靭性が低くなり、割合が減ると硬化物の耐着色性の低下や臭い成分の吸着が増える、という理由から重合性単量体の総質量に占める含フッ素(メタ)アクリレートの量の割合は、15~75質量%、特に25~65質量%であることが好ましい。
【0026】
このとき、含フッ素(メタ)アクリレート以外の重合性単量体としては、含フッ素(メタ)アクリレートと共重合可能な(メタ)アクリレートが好適に使用できる。このような(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロキシエチルプロピオネート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等の単官能性(メタ)アクリレート;1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,7-ヘプタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート等の多官能性(メタ)アクリレート;を挙げることができる。多官能性(メタ)アクリレートを液材に配合すると硬化物の靱性が向上するので、多官能性(メタ)アクリレートを使用することが好ましい。
【0027】
液材には、重合性単量体成分のみからなっていてもよいが、必要に応じた他の成分が配合されることもある。このような成分としては、通常の粉液型歯科材料の液材において重合性単量体以外の成分として配合される成分が特に変わる点は無く、後述する重合開始剤の一部や、ブチルヒドロキシトルエン、メトキシハイドロキノン等の重合禁止剤、4-メトキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、2-(2-ベンゾトリアゾール)-p-クレゾール等の紫外線吸収剤、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン等の重合調整剤等を挙げることができる。また、その配合量も一般的な液材と特に変わる点は無い。
【0028】
1-2.粉材について
粉材としては、通常の粉液型歯科材料の粉材として使用されるものが特に制限なく使用される。通常、粉材としては、液材の主成分である重合性単量体に可溶性を有する非架橋樹脂粒子を主成分として含むものが一般的に使用されており、本発明においてもこのような粉材を使用することが好ましい。このような粉材を用いた場合には、粉材と液材を混合した際に、斯様な非架橋樹脂粒子の少なくとも一部が、液材に溶解し、且つ溶解残滓の粒子は膨潤することにより混合物は増粘し、含フッ素(メタ)アクリレートの重合性が促進される。併せて、この成分の溶解残滓の粒子は、歯科用粉液材料の硬化体の靱性を高める作用も有する。
上記非架橋樹脂粒子と含フッ素(メタ)アクリレートとの相溶性については、非架橋樹脂粒子を含フッ素(メタ)アクリレートに溶解させて得られる溶液の粘度を測定することによって評価できる。組成物の良好な操作性を得るためには、非架橋樹脂粒子を5質量%濃度で溶解させた溶液の粘度(25℃)が、100cp以上であるのが好ましい。上述の溶液粘度が100cp未満となるアクリル系樹脂を用いた場合には、重合硬化物の靱性が低下することがある。
【0029】
上記粉材として使用する非架橋樹脂粒子を構成する樹脂のGPC(Gel Permeation Chromatography)法による重量平均分子量は、1万~100万であることが好ましく、特に10~70万であることが好ましい。重量平均分子量が1万未満であると重合硬化物の靱性が不足することがあり、100万を越えると該アクリル系樹脂の含フッ素(メタ)アクリレートに対する溶解性が低下することがある。
【0030】
これらの非架橋樹脂粒子のMie散乱理論に基づくレーザー回折・散乱式粒子径分布装置を用いて測定した体積%のD50値から得られる平均粒子径は、特に制限されないが、ラジカル重合性単量体へのなじみの良さを考慮すると、1~150μmであることが好ましく、特に10~70μmであることが好ましい。平均粒子径が1μm未満では、該アクリル樹脂粉末がモノマーに対して直ぐに溶解し、組成物の粘度が急上昇するため、調剤収容袋1内での歯科用粉液材料のペースト調製が困難になる。また、平均粒子径が150μmを越えると、該アクリル樹脂粉末がモノマーに容易に溶解せず、組成物の粘度が上昇せずペースト状となりにくい。尚、非架橋樹脂粒子の形状は特に限定されず、球状、異形若しくは不定形でもよい。
【0031】
本発明においては、液の主成分である含フッ素(メタ)アクリレートとの溶解性が良好で粘度上昇の発現が適度であると言う理由から、非架橋樹脂粒子としては、ポリエチルメタクリレート粉体、ポリメチルメタクリレート粉体、及び(メチルメタクリレート-エチルメタクリレート)共重合体の粉体を含む混合粉体を使用することが好ましい。
【0032】
本発明の用途が、義歯床用裏装材・歯科補修用レジンの場合、例えば、粉材として、ポリエチルメタクリレート重合体、ポリ(メチルメタクリレート-エチルメタクリレート)共重合体、ポリメチルメタクリレート重合体等の低級アルキル(メタ)アクリレート系重合体が用いられる。また、用途が、歯科用レジンセメントの場合、粉材として、ポリ(メチルメタクリレート-エチルメタクリレート)共重合体等が使用される。
【0033】
粉材には、通常、非架橋樹脂粒子以外に、ラジカル重合開始剤が配合される。液材及び粉材を夫々独立して安定に保管するために、ラジカル重合開始剤は、基本的には前記粉材に配合されるが、多成分系のラジカル重合開始剤を使用する場合には、一部成分を液材に配合することもある。ラジカル重合開始剤としては、光重合開始剤および/または加熱重合開始剤および/または化学重合開始剤が使用される。
【0034】
光重合開始剤としては、例えば、カンファーキノンやベンジル等のα-ジケトン、ベンジルジメチルケタールやベンジルジエチルケタール等のケタール、2-クロロチオキサントンや2,4-ジエチルチオキサントン等のチオキサントン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドやビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイドが挙げられる。
【0035】
これら光重合開始剤は、4-ジメチルアミノ安息香酸エチルやN,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン等のアミン類、ジメチルアミノベンズアルデヒドやテレフタルアルデヒド等のアルデヒド類、2-メルカプトベンゾオキサゾールやデカンチオール等のチオール基を有する化合物等を還元剤として併用することが一般的である。また、アシルホスフィンオキサイド系の光重合開始剤は単独で用いることもできる。
【0036】
これらの光重合開始剤は1種または数種組み合わせて用いられる。また、これらの光重合開始剤の配合量は、歯科用粉液材料全体(100質量%)に対し、通常0.001~15質量%の範囲、好ましくは0.1~10質量%の範囲で使用される。
【0037】
また、加熱重合開始剤となる酸化剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m-トルオイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ビス-t-ブチルパーオキシイソフタレート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等のパーオキシエステル類、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン等のパーオキシケタール類、メチルエチルケトンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、t-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、が挙げられる。加熱重合開始剤を用いる場合は、粉材と液材とを使用時に混合して得られたペースト状の組成物を、口腔内に適用して賦形した後に、口腔外に取り出し、加熱を行い重合する手法がとられる。これらの加熱重合開始剤は1種または数種組み合わせて用いられる。また、加熱重合開始剤の配合量は、歯科用粉液材料全体(100質量%)に対して、通常0.01~15質量%の範囲、好ましくは0.1~10質量%の範囲で使用される。
【0038】
また、化学重合開始剤(常温レドックス開始剤)としては、酸化剤と還元剤との組合せを含むもの、例えば、有機過酸化物/アミン系、有機過酸化物/アミン/スルフィン酸(またはその塩)系等のレドックス系の重合開始剤が好適に用いられる。酸化剤としては、上記の加熱重合開始剤と同様のものが挙げられる。これらの酸化剤は、1種または数種組み合わせて用いられる。また、これらの酸化剤の配合量は、歯科用粉液材料全体(100質量%)に対して、通常0.01~15質量%の範囲、好ましくは0.1~10質量%の範囲で使用される。還元剤としては、例えばN,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジヒドロキシエチル-p-トルイジン、4-tert-ブチル-N,N-ジメチルアニリン、2-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]エタン-1-オール等の第3級アミンが用いられる。還元剤は、1種または数種組み合わせて用いられる。また、これらの還元剤の配合量は、歯科用粉液材料全体(100質量%)に対して、通常0.01~15質量%の範囲、好ましくは0.1~10質量%の範囲で使用される。
【0039】
なお、レドックス系の重合開始剤を使用する場合、有機過酸化物等の酸化剤と、3級アミン等の還元剤が、粉/液成分に、それぞれ分けて配合される必要がある。具体的には、例えば、化学重合系の義歯床用裏装材・歯科補修用レジンの場合、重合開始剤として、粉材に過酸化ベンゾイル、1-シクロへキシル-5-エチルピリミジントリオン、アセチルアセトン銅等、液材にジメチルパラトルイジン、ジエチルパラトルイジン、p-トリルジエタノールアミン、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド等、が好適に配合される。用途が、歯科用レジンセメントの場合、例えば重合開始剤として、粉材にp-トルエンスルフイン酸ナトリウム等、液材にテトラフェニルホウ素トリエタノールアミン塩等、が好適に配合される。
【0040】
また、粉材には、必要に応じてフィラーを配合することができる。フィラーは有機物でも無機物でもかまわない。例えば、有機物としては架橋ポリメチルメタクリレートや架橋ポリエチルメタクリレート等の架橋樹脂粒子等が挙げられる。また、無機物としては、SiO、Al、TiO、ZrO、BaO、La、SrO等の無機酸化物粒子やそれらの複合酸化物粒子(バリウムガラス等ガラスを含む)、ヒドロキシアパタイト、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0041】
さらに、重合後の硬度や耐摩耗性等を向上させるために、有機樹脂中に無機フィラーが分散し無機/有機複合フィラー、無機フィラーを有機樹脂でコーティングした無機/有機複合フィラー、繊維状補強剤等を加えることも出来る。さらにまた、重合禁止剤(例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ブチルヒドロキシルトルエン等)、酸化安定剤、紫外線吸収剤(例えば、ベンゾフェノン)、顔料、染料、擬態血管のための繊維を添加することもできる。
【0042】
2.本発明の包装体について
以下、図面を参照して本発明の包装体について説明する。図1に示されるように、本発明の包装体1は、粉材収容室3、液材収容室4、及び弱化シール部7を有する袋本体2と、前記粉材収容室3に収容される粉材及び前記液材収容室4に収容される液材と、によって構成される。そして、前記弱化シール部7は、前記粉材収容室3と前記液材収容室4との間に両収容室を仕切るように設けられると共に前記袋本体2の前記粉材収容室3部分及び/又は前記液材収容室4部分へ付加する押圧力によって破断可能に形成されており、該記弱化シール部7の破断後において各収容室3および4を連通させて、これらの収容室内に収容された前記粉材及び前記液材を連通した収容室内で混合して前記歯科材料を調製できるようになっている。
【0043】
本実施形態では、袋本体2は、熱融着性フィルムによって構成される平袋であり、該平袋内に粉材収容室3と液材収容室4を互いに隣接するように区画されている。これらの収容室3、4は四角形が好ましいが、混合に支障がない範囲で他の形状を用いることも可能である。また混合効率向上のため隅角部分を丸く加工することも可能である。袋本体2の周縁部5は、所定の幅で熱溶着によって密閉されている。隣り合う粉材収容室3と液材収容室4との間には、これらを仕切る弱化シール部7が形成され、本実施形態では弱化シール部7は、熱溶着によって形成されているが、上述した袋本体2の周縁部5の熱溶着よりも溶着力が弱い弱化シール部となっている。この弱化シール部7は、粉材収容室3に粉材、液材収容室4に液材が収容された状態で、例えば、液材収容室4の部分に押圧力を付加すると、弱化シール部7が破断される強度に形成される。一方、周縁部5の熱溶着については、その押圧力に抗して破断されない強度を有する。
【0044】
袋本体2は、輸送時や保管時の取り扱いにおいて、長時間の振動や落下等の衝撃により前記弱化シール部7が破断し難く、使用時は容易に破断することができると言う観点から、前記弱化シール部7のシール強度が3~20(N/15mm)、特に5~10(N/15mm)であることが好ましい。ここで、シール強度とは、JISZ1707に基づき、一端をヒートシールした試料から幅15mmの試験片を切り取ることにより得られた試験片について測定されるシール強度(単位:N/15mm、又はN/15mm幅)を意味する。
【0045】
2-1.袋本体2を構成する樹脂製フィルムについて
本発明の包装体においては、保管中における液材の重量減少を抑制するために、前記袋本体2を構成する樹脂製フィルムは、環状ポリオレフィン系樹脂を含む層を有する単層フィルム又は多層フィルムからなる必要がある。ここで、環状ポリオレフィン系樹脂とは、主鎖あるいは側鎖に環状脂肪族炭化水素を有するポリオレフィン系樹脂を意味し、環状オレフィンをメタセシス開環重合反応によって重合した開環メタセシス重合体の水素添加物(COP)、及び環状オレフィンとα-オレフィン(鎖状オレフィン)との共重合体、すなわち環状オレフィンコポリマー(COC)を包含する。
【0046】
環状オレフィンとしては、エチレン系不飽和結合及びビシクロ環を有する任意の環状炭化水素を使用することができるが、特にビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン(ノルボルネン)骨格を有するものが好ましい。具体的には、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン及びその誘導体、トリシクロ[4.3.0.12,5]-3-デセン及びその誘導体、トリシクロ[4.4.0.12,5]-3-ウンデセン及びその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン及びその誘導体、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]-4-ペンタデセン及びその誘導体、ペンタシクロ[7.4.0.12,5.19,12.08,13]-3-ペンタデセン及びその誘導体、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]-4,10-ペンタデカジエン及びその誘導体、ペンタシクロ[8.4.0.12,5.19,12.08,13]-3-ヘキサデセン及びその誘導体等が挙げられるが、これらに限定されない。環状オレフィンは、置換基として、エステル基、カルボキシル基、及びカルボン酸無水物基等の極性基を有していてもよい。
【0047】
環状オレフィンと共重合するα-オレフィンとしては、エチレン、炭素数3~20のα-オレフィンを使用することができ、具体的には、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン等が挙げられ、好ましくはエチレンである。
【0048】
本発明において、開環メタセシス重合体の製造は、公知の開環メタセシス重合反応であれば特に限定されず、上記の環状オレフィンを、重合触媒を用いて開環重合させることによって製造することができる。また、環状オレフィンコポリマーの製造は、25~45モル%のα-オレフィンと、55~75モル%の環状オレフィンとを、メタロセン触媒等のシングルサイト系触媒やマルチサイト系触媒を用いてランダム重合させることによりなされる。
【0049】
環状オレフィンとα-オレフィン(鎖状オレフィン)との共重合体(COC)と比べ、開環メタセシス重合体(COP)は、脂環構造を多く有するためフィルムとして用いた際に含フッ素(メタ)アクリレートの揮発量をより少なくできる。このため、本発明においては、開環メタセシス重合体(COP)を用いることがより好ましい。このようなCOCやCOP等の環状ポリオレフィン系樹脂としては市販されているものを、そのまま或いは他の樹脂(ポリマー)とブレンドして使用することができる(以下、環状ポリオレフィン系樹脂と他の樹脂とがポリマーブレンドされた樹脂を「ブレンド樹脂」ともいう。)。袋本体2の周縁部5及び弱化シール部7を熱融着で形成する際の熱融着性の観点からは、他の樹脂とブレンドして使用することが好ましく、他の樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体、アイオノマー、ポリプロピレン等が用いられる。環状ポリオレフィン系樹脂と組み合わせるその他の樹脂は、1種または複数種を組み合わせることができる。また、ブレンドする際の環状ポリオレフィン系樹脂の割合は5~70質量%、特に20~60質量%とすることが好ましい。さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、抗菌・防かび剤、帯電防止剤、滑剤、顔料、染料等の添加剤を含有することができる。
【0050】
環状ポリオレフィン系樹脂のみ又は環状ポリオレフィン系樹脂の含有量が60質量%、特に70質量%を超えるようなブレンド樹脂からなるフィルムを用いる場合には、袋本体2の周縁部5及び弱化シール部7を熱融着で形成する際の接合強度の調製のしやすさ等の観点から、環状ポリオレフィン系樹脂を含まないシーラント樹脂フィルム、又は環状ポリオレフィン系樹脂の含有量が60質量%以下のブレンド樹脂フィルムからなるシーラント層と積層した多層フィルムであることが好ましい。好適に使用されるシーラント樹脂としては、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、無延伸ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体、アイオノマー等を挙げることができる。
【0051】
また、前記袋本体2を構成する樹脂製フィルムは、環状ポリオレフィン系樹脂を含む樹脂、すなわち、環状ポリオレフィン系樹脂又は環状ポリオレフィン系樹脂と他の樹脂とをブレンドした樹脂、からなる層のみからなる単層フィルムであってもよいが、他の樹脂からなるフィルムからなる基層又は中間層を設けることで、ガスや水蒸気バリア性を付与することもできる。このような多層化したフィルムとしては、例えば、図2(A)に示す基材層/シーラント層の2層からなるフィルム、(B)に示す基材層/中間層/シーラント層から成るフィルム、又は(C)に示す基材層/接着層/中間層/接着層/シーラント層の5層からなるフィルムとすることが好ましい。なお、環状ポリオレフィン系樹脂を含む樹脂からなる層は、基層、中間層及びシーラント層のいずれの層としても使用できるが、シーラント層は前記したような樹脂からなることが好ましい。
【0052】
また、多層フィルムの各層に用いる環状ポリオレフィン系樹脂以外の樹脂は、その目的に応じて適宜選択すればよい。例えばフィルムの強度や腰を出すために基材層を設ける場合には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、延伸ポリプロピレン(OPP)等が好適に使用され、水蒸気バリア性を向上させるのために中間層を設ける場合には、エチレン-ビニルアルコール(EVOH)、ナイロン等が好適に使用される。
【0053】
前記単層フィルム又は多層化フィルムは、例えば原料となる樹脂(組成物)を単軸、あるいは、二軸押出機等で溶融(及び必要に応じて混練)し、Tダイ(口金)によりフィルム状に押出し、キャスティングロールで急冷、固化することにより、無延伸シートを作製することができる。積層方法としては、各層を構成するフィルムを、サンドイッチラミネートすることにより、多層フィルムを好適に製造することができる。このとき単層フィルム又は多層化フィルム全体の厚さは、歯科用粉液調剤袋内で歯科用粉液材料を調整する際に、適切な強度を保ち、粉材と液材の混和の操作性が低下しない40~200μmとすることが好ましい。また、多層フィルムのフィルム各層間を接着するため、図2(C)の接着層14となる接着剤や接着性樹脂を適宜用いることができる。さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、多層フィルムの各層には単層の場合と同様に上記の添加剤を含有することができ、必要に応じて外表面に印刷を施していてもよい。ただし、内容物の状態を確認するための視認性確保のため、前記袋本体2を構成する樹脂製フィルムの少なくとも一部(特に粉材収容部及び液材収容部の主要部)は透明性を有するようにしておくことが好ましい。
【0054】
2-2.本発明の包装体の製造方法について
本発明の包装体1は、下記(1)~(3)に示すような方法により好適に製造することができる。
【0055】
(1)袋本体2を構成する樹脂製フィルムを(シーラント層を有する多層化フィルムの場合はシーラント層どうしを)熱融着して、一方が開口した平袋、具体的には三方(シール)袋又はピロー袋とした後に、該平袋の開口を上方として、そこから所望量の粉材(又は液材)を供給して収容し、必要に応じて所定量の空気を混入させてから粉材が収容されている部分より上方をヒートシールして弱化シール部7を形成すると共に粉材収容室3(又は液材収容室4)を形成し、その後、開口部より所定量の液材又は粉材を供給して収容してから上方周縁部5b(又は5c)をヒートシールして前記開口を密封して液材収容室4(又は粉材収容室3)を形成する方法。
【0056】
(2)袋本体2を構成する樹脂製フィルムを(シーラント層を有する多層化フィルムの場合はシーラント層どうしを)熱融着して、両端が開口した筒状体を得た後、胴部の所定の位置を、前記筒状体の長さ方向に対して垂直方向に熱融着して弱化シール部7を形成し、次いで一方の開口より所望量の粉材(又は液材)を供給して収容し、必要に応じて所定量の空気を混入させてから当該開口をヒートシールして密封することにより粉材収容室3(又は液材収容室4)を形成し、その後もう一方の開口部より所定量の液材又は粉材を供給して収容してから当該開口をヒートシールして前記開口を密封して液材収容室4(又は粉材収容室3)を形成する方法。
【0057】
(3)袋本体2を構成する樹脂製フィルムを(シーラント層を有する多層化フィルムの場合はシーラント層どうしを)熱融着して、両端が開口した筒状体を得た後、胴部の所定の位置を、前記筒状体の長さ方向に対して平行に熱融着して弱化シール部7を形成すると共に両端開口部がそれぞれ2つに分割され、2つの筒状体が弱化シール部7で連結したような筒状体を形成し、一方端部の2つの開口をヒートシールして粉材収容室3及び液材収容室4を形成し、次いで他方端の2つの開口から所定量の粉材(および必要に応じて所定量の空気)及び所定量の液材(および必要に応じて所定量の空気)を夫々粉材収容室3及び液材収容室4に供してから前記他方端の2つの開口をヒートシールする方法。
【0058】
また、本発明において、包装体1の粉材収容室3及び液材収容室4の少なくとも一方に空気を併せて収容し、前記粉材及び前記液材を混合する際の連通した収容室内の常温における空気の容積が当該収容室の容積に対して15~40%の範囲であることが好ましい。15%未満では、収容室を連通させた際に粉材と液材の混和が困難になり、また、40%より大きいと粉材と液材を混和する際に、気泡の巻き込みが多くなる。
【0059】
なお、本発明における空隙率とは、空隙率(%)=空隙量/収容室内容積×100として計算される。
【0060】
このようにして製造された本発明の包装体1は、図1(A)に示すように、歯科医師等が包装体1を手にとって、たとえば液材収容室4の部分を両手の親指と人指し指との間に挟み込むようにして把持する。そして、液材収容室4中の液材を粉材収容室3側に押し込むようにして押圧する。すると、液材収容室4の押し込みによる液材の液圧と含まれている空気の空圧で、弱化シール部7の全体又は一部が破断される。弱化シール部7が破断されると液材は、粉材に吸収されるようにして浸透する。そして、図1(B)に示すように、歯科医師等は必要に応じて混和用器具を用いて、袋本体2の表面(表面、裏面、表裏両面を含む)を押圧し、混和を行う。そして、混和された歯科粉液材料は、粉材の一部が溶解すること等により、流動性の高いペースト状となり、更なる溶解の進行と溶解残滓の膨潤等により徐々に粘度が上昇し、流動性の低いペースト性状になる。この粉液型歯科材料の押圧作業は、従来行われている混練や撹拌と異なり、歯科粉液材料ペーストに空気を巻き込むことがなく、反対に歯科粉液材料ペーストに含まれている空気の気泡を外部へ押出す効果も発揮される。最後に、図1(C)に示すように、歯科医師等は、混和が終了したところで、袋本体2のいずれかの部分を切断し、袋本体2から歯科粉液材料ペースト10を押出すようにして取出す。袋本体2から取出された歯科粉液材料ペースト10は、所望の形状に形成され、最終的に口腔内又は口腔外で重合化する。
【0061】
このように歯科用粉液材料入り調剤収容袋を用いることにより、使用時に計量する必要がなく、操作の簡便化が図れるだけでなく、混錬操作時の空気の巻き込みによる硬化体への気泡混入を抑制することができる。
【実施例0062】
次に、本実施形態の試験例について説明するが、本発明は下記の試験例によって限定されるものではない。実施例中に示した、略号、称号については以下の通りである。
【0063】
〈液材の原料〉
[含フッ素(メタ)アクリレート]
・OFPM:1H,1H,5H-オクタフルオロペンチルメタクリレート
[多官能(メタ)アクリレート]
・HD:1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート
[3級アミン]
・DEPT:N,N-ジヒドロキシエチル-p-トルイジン
〈粉材の原料〉
[非架橋樹脂粒子]
・PEMA:ポリエチルメタクリレート粒子(重量平均分子量25万、平均粒子径60μm)
[有機過酸化物]
・BPO:ベンゾイルパーオキサイド。
【0064】
〈フィルム原料樹脂及び材料樹脂フィルム〉
・COP:環状ポリオレフィン(日本ゼオン(株)製、ZEONEX480R)
・COC:環状オレフィンコポリマー(ポリプラスチックス(株)製 TOPAS8007F-500)
・LLDPE:直鎖状低密度ポリエチレン((株)プライムポリマー製 SP-1540)
・PET:片面をコロナ処理した2軸延伸PETフィルム(東洋紡(株)製 T-4102)
・PP:無延伸ポリプロピレン(東洋紡(株)製 P-1128)
・NY:ナイロン(ユニチカ(株)製 エンブレムONBC)。
【0065】
〈樹脂製フィルム〉
上記フィルム原料樹脂及び材料樹脂フィルムを用いて、後述する実施例1~16及び比較例1~3で用いる袋本体2を構成する樹脂製フィルムを準備した。各種単層フィルム及び積層フィルムの層構成を表1に示す。また、各フィルムについて以下に示すシール性評価を行った。結果を合わせて表1に示す。
なお、表1の「シーラント層」、「中間層」及び「基材層」の各欄における表示は単層フィルム及び各層について、これらを構成する樹脂組成(質量部)と厚さ(μm)を表している。たとえば、「COP=100」は、COPのみ(100質量%)からなる層を表し、「COP/LLDPE」が「70/30」である層は、COP70質量%とLLDPE30質量%の組成を有するブレンド樹脂からなる層であることを意味している。
【0066】
(シール性評価方法)
後述する粉液型歯科材料包装体の作製過程において、弱化シール部は、シール温度190℃でシール強度が7~8N/15mmの範囲となるようにヒートシールしたことから、各フィルムのシーラント層(S)どうしを対向させてシール温度190℃でヒートシールしたときにシール強度が7~8N/15mmの範囲となるまでに要したヒートシール時間:所要時間t(秒)を測定し、その結果を下の評価基準に基づき評価した。
【0067】
評価◎(t≦1秒):短時間で容易に融着するため、生産性が高い。
【0068】
評価〇(1秒<t≦2秒):容易に融着するが、生産性がやや低下する。
【0069】
評価△(2秒<t≦4秒):許容できるシール時間だが、生産性が低下する。
【0070】
評価×(4秒<t):シール時間が長く、生産性が大きく低下する。
【0071】
なお、所要時間tは、ヒートシール時間を変えてシートヒールしたサンプルからJISZ1707に準拠するように幅15mmの試験片を3つ切り出した試験片について引っ張り速度300mm/min、23℃の環境下で、フィルム同士のヒートシール面に対して180°の方向に引っ張り、試験片のフィルム間を剥離させ、剥離強度の最大値を測定した。そして、上記3つの試験片の剥離強度の最大値の平均値をシール強度として横軸をヒートシール時間、縦軸をシール強度とするグラフにプロットし、シール強度が7.5N/15mmとなる時間を所要時間tとした。
【0072】
【表1】
【0073】
実施例1~15及び比較例1~3
先ず、60質量部のPEMAに対して重合開始剤成分としてBPOを2質量部添加して得た粉材と、OFPMを40質量部に対して還元剤であるDEPTを2質量部添加して得た(液材1)を準備した。次に表2に示す矩形フィルム(100mm×70mm)2枚の周縁部5b、5c、5dを5mm幅のヒートシーラーを用いて、220℃で2秒間の熱融着を行った。次いで、粉材収容室3と液材収容室4の大きさが3.5:1の割合になるように、190℃で表1に示す所要時間(秒)間で熱融着して弱化部7を形成した。その後、粉材収容室3に上記粉材を3.0g、液材収容室4に上記液を2.0g充填した。最後に、粉材収容室3及び液材収容室4に所定量の空気を混入させてから、周縁部5aを220℃、2秒間の条件で熱融着を行い、図1に示すような粉液型歯科材料包装体を得た。
得られた粉液型歯科材料包装体の重量(mg)を測定した後に、60℃の恒温槽で3日間保管後に恒温槽から取り出して重量(mg)を測定し、両重量(mg)の差から減少量(揮発量)を求めた。結果を表2に合わせて示す。なお、液材を収容せずに粉材のみを収容した以外は前記と同様に製造した包装体では、60℃3日保管後に重量減少は見られないことを確認している。
【0074】
【表2】
【0075】
実施例16
液材として、OFPMが30質量部、HDが10質量部に対して還元剤であるDEPTを2質量部で配合した液材(液材2)を用いた以外は、実施例12と同様に試験を行った。結果を表2に示す。
【符号の説明】
【0076】
1 粉液型歯科材料包装体
2 袋本体
3 粉材収容室
4 液材収容室
5 周縁部
7 弱化シール部
10 歯科粉液材料ペースト
11 基材層
12 シーラント層
13 中間層
14 接着層
図1
図2