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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004913
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】鉄道車両用の監視システム
(51)【国際特許分類】
   B61D 37/00 20060101AFI20240110BHJP
   B61K 13/04 20060101ALI20240110BHJP
   H04N 7/18 20060101ALI20240110BHJP
   H04R 29/00 20060101ALI20240110BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20240110BHJP
   G08B 21/00 20060101ALI20240110BHJP
   G08B 17/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B61D37/00 G
B61K13/04
H04N7/18 D
H04R29/00 310
H04R29/00 320
G06T7/00 300Z
G08B21/00 A
G08B17/00 C
G08B17/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104815
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】592066860
【氏名又は名称】八幡電気産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯田 充男
(72)【発明者】
【氏名】山本 聡
(72)【発明者】
【氏名】石井 健児
(72)【発明者】
【氏名】前門戸 俊文
(72)【発明者】
【氏名】平塚 友久
【テーマコード(参考)】
5C054
5C086
5G405
5L096
【Fターム(参考)】
5C054CA04
5C054CC02
5C054EA01
5C054EA05
5C054FC12
5C054FE28
5C054FF06
5C054HA19
5C086AA01
5C086AA60
5C086BA22
5C086BA30
5C086DA14
5C086FA06
5C086FA17
5C086FA18
5G405AA01
5G405AA02
5G405AA08
5G405AB02
5G405AB08
5G405AD06
5G405AD07
5G405FA30
5L096BA02
5L096CA02
5L096DA03
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】鉄道車両内の状況を好適に把握可能とする。
【解決手段】鉄道車両用の監視システムは、鉄道車両(1)の客室(3)に設けられた放送用のスピーカ(9)と、客室(3)に配置され、夫々が非常通報ボタン(13)と送話用マイク(12)を含んだ1又は2以上の非常通報装置(10)と、客室(3)の異常を検知する検知装置(21、22)と、非常通報ボタン(13)が押された場合、又は検知装置(21、22)で異常が検知された場合に、放送用のスピーカ(9)又は送話用マイク(12)を用いた集音の制御を開始する制御器(20)と、客室(3)内を撮像するカメラ(15)とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の客室に設けられた放送用のスピーカと、
前記客室に配置され、夫々が非常通報ボタンを含んだ1又は2以上の非常通報装置と、
前記客室の異常を検知する検知装置と、
前記非常通報ボタンが押された場合、又は前記検知装置で異常が検知された場合に、前記放送用のスピーカを用いた集音の制御を開始する制御器と、
前記集音によって得られた音声の信号が接続される乗務員用のスピーカと、
前記客室内を撮像するカメラと、
を備えた鉄道車両用の監視システム。
【請求項2】
鉄道車両の客室に設けられた放送用のスピーカと、
前記客室に配置され、夫々が非常通報ボタンと送話用マイクと含んだ1又は2以上の非常通報装置と、
前記客室の異常を検知する検知装置と、
前記非常通報ボタンが押された場合、又は前記検知装置で異常が検知された場合に、前記放送用のスピーカ又は前記送話用マイクを用いた集音の制御を開始する制御器と、
前記集音によって得られた音声の信号が接続される乗務員用のスピーカと
前記客室内を撮像するカメラと、
を備えた鉄道車両用の監視システム。
【請求項3】
前記カメラが、前記非常通報装置に備えられている
請求項1又は2に記載の鉄道車両用の監視システム。
【請求項4】
前記非常通報ボタンが押された場合、又は前記検知装置で異常が検知された場合に、前記カメラを用いた撮像を開始させる制御装置
をさらに備える請求項1又は2に記載の鉄道車両用の監視システム。
【請求項5】
前記カメラによって撮像された画像の解析を行い、前記客室内で異常が発生しているか否かを判定する制御装置
をさらに備える請求項1又は2に記載の鉄道車両用の監視システム。
【請求項6】
前記カメラによって撮像された画像のデータを地上拠点に送信する通信装置
をさらに備える請求項1又は2に記載の鉄道車両用の監視システム。
【請求項7】
前記制御器が、前記放送用のスピーカを用いた集音と、前記送話用マイクを用いた集音との一方を選択する
請求項2に記載の鉄道車両用の監視システム。
【請求項8】
前記検知装置は、前記客室で発生した異常音を検知する
請求項1又は2に記載の鉄道車両用の監視システム。
【請求項9】
前記検知装置は、前記客室で発生した異常音以外の異常を検知する
請求項1又は2に記載の鉄道車両用の監視システム。
【請求項10】
前記異常音以外の異常は、前記客室における発火、発煙、及び異臭の少なくとも一つを含む
請求項9に記載の鉄道車両用の監視システム。
【請求項11】
前記放送用のスピーカにより集音された信号から800Hz~2.5kHzの帯域の信
号を抽出するフィルタ、
をさらに備える請求項1に記載の鉄道車両用の監視システム。
【請求項12】
前記放送用のスピーカ又は前記送話用マイクにより集音された信号から800Hz~2.5kHzの帯域の信号を抽出するフィルタ
をさらに備える請求項2に記載の鉄道車両用の監視システム。
【請求項13】
前記フィルタが、所定の音声明瞭度を有する信号を出力するように設定されている
請求項1又は2に記載の鉄道車両用の監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用の監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両に搭載され、客室から乗務員へ非常通報を行う非常通報装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-56921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、鉄道車両内の状況を好適に把握可能とする監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、鉄道車両の客室に設けられた放送用のスピーカと、前記客室に配置され、夫々が非常通報ボタンを含んだ1又は2以上の非常通報装置と、前記客室の異常を検知する検知装置と、前記非常通報ボタンが押された場合、又は前記検知装置で異常が検知された場合に、前記放送用のスピーカを用いた集音の制御を開始する制御器と、前記集音によって得られた音声の信号が接続される乗務員用のスピーカと、前記客室内を撮像するカメラと、を備えた鉄道車両用の監視システムである。
【0006】
また、本発明の一態様は、鉄道車両の客室に設けられた放送用のスピーカと、前記客室に配置され、夫々が非常通報ボタンと送話用マイクと含んだ1又は2以上の非常通報装置と、前記客室の異常を検知する検知装置と、前記非常通報ボタンが押された場合、又は前記検知装置で異常が検知された場合に、前記放送用のスピーカ又は前記送話用マイクを用いた集音の制御を開始する制御器と、前記集音によって得られた音声の信号が接続される乗務員用のスピーカと、前記客室内を撮像するカメラと、を備えた鉄道車両用の監視システムである。
【0007】
鉄道車両用の監視システムは、前記カメラが、前記非常通報装置に備えられている構成を採用してもよい。また、鉄道車両用の監視システムは、前記非常通報ボタンが押された場合、又は前記検知装置で異常が検知された場合に、前記カメラを用いた撮像を開始させる制御装置をさらに備える構成を採用してもよい。また、鉄道車両用の監視システムは、前記カメラによって撮像された画像の解析を行い、前記客室内で異常が発生しているか否かを判定する制御装置をさらに備える構成を採用してもよい。また、鉄道車両用の監視システムは、前記カメラによって撮像された画像のデータを地上拠点に送信する通信装置をさらに備える構成を採用してもよい。
【0008】
また、鉄道車両用の監視システムは、前記制御器が、前記放送用のスピーカを用いた集音と、前記送話用マイクを用いた集音との一方を選択する構成を採用してもよい。また、鉄道車両用の監視システムは、前記検知装置が、前記客室で発生した異常音を検知してもよく、前記客室で発生した異常音以外の異常を検知してもよい。前記異常音以外の異常は、前記客室における発火、発煙、及び異臭の少なくとも一つを含んでもよい。また、鉄道車両用の監視システムは、前記放送用のスピーカにより集音された信号から800Hz~
2.5kHzの帯域の信号を抽出するフィルタをさらに備える構成を採用してもよい。また、鉄道車両用の監視システムは、前記放送用のスピーカ又は前記送話用マイクにより集音された信号から800Hz~2.5kHzの帯域の信号を抽出するフィルタをさらに備える構成を採用してもよい。また、前記フィルタは、所定の音声明瞭度を有する信号を出力するように設定されていてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鉄道車両内の状況を好適に把握可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、鉄道車両用の集音システムの一例を示す。
図2図2Aは、STI値の各周波数での重み付けの例を示し、図2Bは、STI値による音声明瞭度の一例を示す。
図3図3は、通報制御器の処理例を示すフローチャートである。
図4図4は、映像データの配信に係る構成例を示す図である。
図5図5は、第1の制御に係る処理例を示すフローチャートである。
図6図6は、第2の制御に係る処理例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、実施形態に係る鉄道車両用の監視システムについて説明する。実施形態の構成は例示であり、本発明は実施形態の構成に限定されない。
【0012】
図1は、鉄道車両1に備えられた監視システムの構成例を示す。監視システムは、車内外(主に車内(客室等))の音声を集音する集音システムと、車内(客室等)の映像を撮像する撮像システムとからなる。
【0013】
<集音システム>
図1において、鉄道車両1は、乗務員室2と客室3とを備えている。集音システムは、車内音声として客室3内の音声を集音する。なお、図1は一両編成の鉄道車両1を示すが、鉄道車両は、図1に示す鉄道車両1に、客室3の構成を有する1以上の客車が連なる構成を有していてもよい。
【0014】
乗務員室2には、連絡受報器4と、連絡受報器4に接続された送受話器5と、放送装置6と、操作器31とが備えられている。一方、客室3には、1又は2以上の非常通報装置10と、通報制御器20と、異常音検知装置21と、異常検知装置22と、パワーアンプ8と、単数又は複数の放送用のスピーカ9と、スイッチ23と、アンプ24と、音声強調フィルタ25とが備えられている。
【0015】
非常通報装置10は、受話用のスピーカ11(「受話用スピーカ」の一例)と、送話用のマイク12(「送話用マイク」の一例)と、非常通報ボタン13とを含んでいる。非常通報ボタン13は、乗客が押すことが可能となっており、例えば、客室3内での悲鳴、怒号、発煙、発火、異臭などの異常を察した乗客によって押される。
【0016】
非常通報装置10は、配線(引き通し線)10aを介して通報制御器20(「制御器」の一例)に接続されている。非常通報ボタン13が押下されると、非常通報を示す信号が配線10a、通報制御器20、受報制御器20aを介して連絡受報器4に接続される。
【0017】
連絡受報器4は、非常通報を受けると、音声或いはランプの点灯等によって、乗務員に非常通報の発生を知らせる。送受話器5は、マイク及びスピーカを含んでおり、乗務員は、マイクをオンにする。このマイクから入力された音声の信号は、通報制御器20に接続
される。
【0018】
通報制御器20は、非常通報の送信元の非常通報装置10に非常通報信号と乗務員室からの音声の信号を接続し、非常通報装置10は、スピーカ11から音声の信号に基づく音声を放音する。客室3内の音声は、マイク12から入力され、配線10b、通報制御器20、受報制御器20a及び連絡受報器4を介して送受話器5のスピーカに接続される。非常通報信号を連絡受報器4が受信するとアラーム音が鳴動し操作器31の応答ボタンを乗務員押下する事により通信可能となる。これによって、客室3内の乗客等と、乗務員室2の乗務員とが通話を行うことができる。
【0019】
ところが、客室3内で起こった異常により、乗客が客室3から退避してしまうと、乗務員室2からの乗務員の呼びかけに応答する者がいなくなるため、乗務員が客室3での状況、すなわち異常事態を把握することができなくなる問題があった。また、非常通報装置10が、受話用スピーカ及び送話用マイクを有しない場合があり、そのような場合において、非常通報ボタンが押された際の客室3内の音声を聴取できるのが好ましい。実施形態に係る集音システムは、このような問題を解決するためになされたものである。
【0020】
鉄道車両1は、車内外への放送システムを備えている。放送システムは、乗務員室2に備えられた放送装置6と、放送音声信号の伝達経路7と、パワーアンプ(PA)8と、配線9aと、夫々が配線9aに接続された複数の放送用のスピーカ9とを含んでいる。放送装置6は、乗務員の肉声を入力するマイクと、鉄道車両1の走行位置に応じて次駅の案内などの自動放送音声を発生させる自動放送装置を含むことができる。マイクに入力された音声或いは自動放送装置から出力された音声の信号は、伝達経路7を介してPA8に接続され、増幅された後にスイッチ23を介して配線9aに接続される。そして、配線9aに接続されたスピーカ9の夫々から、音声の信号に応じた音声が放音される。複数のスピーカ9は、例えば、1両の長さが18~20mである鉄道車両1に対して、所定の間隔(例えば2~2.5m)をあけて配置される。
【0021】
集音システムでは、複数のスピーカ9を、客室3内の集音装置として利用する。このため、スイッチ23と、アンプ24と、音声強調フィルタ25とが設けられており、音声強調フィルタ25は、通報制御器20に接続されている。
【0022】
スイッチ23は、PA8とアンプ24との一方を配線9aに接続するスイッチであり、その動作(接続先)は、通報制御器20又はそれ以外によって制御される。放送が行われる場合、スイッチ23はPA8と配線9a(複数のスピーカ9)とを接続する。これに対し、複数のスピーカ9を用いた集音が行われる場合、スイッチ23は配線9aとアンプ24とを接続する。
【0023】
アンプ24は、配線9aを通じて入力される信号を増幅する。音声強調フィルタ25は、入力された信号のうち、800Hz~2.5kHzの帯域の信号を通過させる。通過帯域は以下の理由により設定されている。複数のスピーカ9を用いた集音にあたり、問題となるのは実際に集音したい音以外のノイズである。ノイズは例えば列車走行音、車内空調音などがある。これらのノイズは人の声の帯域1kHz近辺ではなく、比較的低い周波数の500Hz以下に多くのエネルギー成分がある。また一般的に250Hz~8kHzと言われている人の声の帯域も、何を話しているかを判断するだけであれば、この帯域幅は不要であり、800Hz~2.5kHz程度の帯域があれば十分である。これより、音声強調フィルタの通過帯域をこの帯域幅に設定している。
【0024】
音声明瞭度は、STI(Speech Transmission Index)値で表すことができる。例えば、
車内で所定条件下でテスト音声の再生を行い、複数のスピーカ9を用いた受信側でテスト
音声をどのぐらい再現できたかで音声明瞭度を表すことができる。
【0025】
図2Aは、STI値の各周波数での重み付けの例を示し、図2Bは、STI値による音声明瞭度の一例を示す。音声明瞭度が所定の値(例えば、0.60が目標値であるが、0.45は許容値となる)となるように、音声強調フィルタ25の特性が決定される。音声強調フィルタ25は、所望の音声明瞭度を有する音声信号を出力できる限りにおいて、アナログのバンドパスフィルタ、ディジタルのノイズキャンセラなどを用いて構成することができる。
【0026】
車内音声の集音は、複数のスピーカ9の利用の代わりに、1又は2以上の非常通報装置10のマイク12を用いて行うことができる。非常通報装置10のマイク12で集音された音声は、配線10bを介して伝達される。図1に示すように、配線10bには、アンプ24及び音声強調フィルタ25が挿入されており、所望の音声明瞭度を有する音声信号が通報制御器20に接続されるようになっている。
【0027】
通報制御器20は、複数のスピーカ9からの音声信号と、1又は2以上のマイク12からの音声信号との一方を選択し、受報制御器20a(連絡受報器4)に接続することができる。初期設定により、いずれか一方を選択するようにされているが、操作器31を用いた切り替え操作によって選択先を変更することができる。例えば、乗務員は、営業時間外などの所定のタイミングで、複数のスピーカ9からの音声信号、及び、1又は2以上のマイク12からの音声信号についてSTI値を求め、STI値が良好な方を選択する設定を通報制御器20に操作器31を用いて施すことができる。またSTI値は、集音する環境や周囲のノイズにより明瞭度が向上する音声強調フィルター特性が異なる。選択したスピーカ9からの入力又はマイク12からの信号によりそのフィルター特性を状況により変化させ、より音声明瞭度があがるよう自動的にフィルター特性を適宜選択する仕組みでも良い。
【0028】
通報制御器20によって選択された音声信号が、受報制御器20a及び連絡受報器4を介して送受話器5のスピーカに接続される。また、送受話器5のスピーカに接続される音声は、録音装置によって録音されるようにしてもよい。なお、通報制御器20による選択は、複数のスピーカ9による集音と、1又は2以上のマイク12による集音の一方をオンにして他方をオフにする制御であっても、複数のスピーカ9による集音と、1又は2以上のマイク12による集音の双方をオンにし、いずれか一方の音声信号のみを送受話器5に接続する構成であってもよい。
【0029】
複数のスピーカ9、或いは1又は2以上の非常通報装置10のマイク12を用いた集音は、非常通報ボタン13の押下をトリガとして行われる。但し、トリガはこれに限られず、異常音検知装置21又は異常検知装置22による異常の検知もトリガとされる。異常音検知装置21は、悲鳴や怒号などの異常音を検知するセンサである。異常音検知装置21の客室3における配置位置及びその数は、適宜設定可能であり、非常通報装置10から独立した位置(離れた位置)であっても、非常通報装置10に収容又は接触擦る位置や、非常通報装置10に隣接、近接する位置であってもよい。図1に示す例では、異常音検知装置21は、非常通報装置10の夫々に設けられるとともに、非常通報装置10から離れた位置に配置されている。異常音検知装置21が作動した場合は直ちに客室3内の集音を開始し、乗務員がその状況を確認することが可能となる。
【0030】
異常検知装置22は、発煙、発火、異臭などを含む異常音以外の所望の異常を検出するものであり、煙センサ、温度センサ、臭いセンサなどの組み合わせによって構成される。なお、異常検知装置22の客室3内への配置位置及びその数も適宜設定可能である。なお、異常音検知装置21及び異常検知装置22は、「検知装置」の一例である。異常音検知
装置21及び異常検知装置22はいずれか一方を備えればよく、これらの双方を備えることは必須でない。また、異常検知装置22が検知可能な異常は、発煙、発火、異臭のうちの少なくとも一つであっても、これら以外の異常であってもよい。
【0031】
図3は、通報制御器20の処理例を示すフローチャートである。フローチャートに示す処理は、通報制御器20が備えるCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ
及びメモリを用いたソフトウェア処理(メモリに記憶されたプログラムをプロセッサが実行する処理)によって行うことができる。或いは、通報制御器20が備えるASIC(Application Specific Integrated Circuit)或いはFPGA(Field Programmable Gate Array)などのハードウェア(半導体装置)を用いた処理によって実行することができる。
【0032】
ステップS001では、通報制御器20は、非常通報装置10の非常通報ボタン13が押されたか否かを判定する。このとき、非常通報ボタン13が押されたと判定される場合は処理がステップS003に進み、そうでない場合には、処理がステップS002に進む。
【0033】
ステップS002では、通報制御器20は、異常音検知装置21又は異常検知装置22によって異常が検知されたか否かを判定する。異常が検知されたと判定される場合、処理がステップS003に進み、そうでない場合には、処理がステップS001に進む。
【0034】
ステップS003では、通報制御器20は、集音制御を行う。例えば、通報制御器20は、現時点で施されている設定に従って、複数のスピーカ9による集音とマイク12による集音との少なくとも一方を開始する(オンにする)、例えば、複数のスピーカ9による集音が設定されている場合には、通報制御器20は、スイッチ23を用いて配線9aとアンプ24とを接続し、複数のスピーカ9による集音を開始する。このとき、例えば、マイク12による集音はオフにする。通報制御器20は、集音によって入力されてくる音声信号を受報制御器20aに接続し、受報制御器20aは、音声信号を連絡受報器4を介して送受話器5に接続する。なお、操作器31の操作などによってマイク12による集音を行う設定が施されている場合には、例えば、複数のスピーカ9を用いた集音は行われず、通報制御器20は、マイク12による集音によって入力される音声信号を受報制御器20aを介して連絡受報器4に接続する。音声信号の接続によって、乗務員は送受話器5から客室3の音声を聴取することができる。また、当該音声を録音することもできる。なお、スイッチ23は、通常時は配線9aとアンプ24とを接続し、放送時にアンプ8と配線9aとを接続する構成であってもよい。
【0035】
ステップS004では、通報制御器20は、所定の集音の終了条件が満たされたか否かを判定する。終了条件が満たされたと判定される場合、図3の処理が終了し、そうでない場合には、ステップS003の処理が継続される。
【0036】
実施形態に係る集音システムは、鉄道車両1の客室3に設けられた放送用のスピーカ9と、客室3に配置され、夫々が非常通報ボタン13及び送話用マイク12を含んだ1又は2以上の非常通報装置10とを含む。集音システムは、さらに、客室3の異常を検知する異常音検知装置21及び異常検知装置22の少なくとも一方(検知装置)と、非常通報ボタン13が押された場合、又は異常音検知装置21又は異常検知装置22で異常が検知された場合に、放送用のスピーカ9を用いた集音を制御する通報制御器20(制御器)と、集音によって得られた音声の信号が接続される乗務員用のスピーカ(送受話器5)とを備える。
【0037】
集音システムによれば、非常通報時(非常通報ボタン押下時)又は異常検知時における客室3内の音声を直ちに乗務員に送ることができる。当該音声は、乗務員室等に設けられ
た通信装置を用いて指令所に送ることもできる。これにより、従来の非常通報装置における、非常通報ボタンが押下され乗務員が応答したときに初めて通話可能(マイクがオン)となり、乗客経由で状況を知ることができる仕組みにおける問題を解決することができる。すなわち、従来では、乗客が非常通報ボタン13を押下した後に待避してしまった場合、乗務員が乗客と会話できず状況を把握することができなかった。
【0038】
これに対し、実施形態に係る集音システムによれば、既設の客室スピーカ(放送用のスピーカ9)、又は、非常通報装置10のマイク12を用いて集音された非常通報時又は異常検知時における音声を乗務員が聴取することで、有事(異常)が発生した車両の状況を把握することができ、その際の初動に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0039】
非常通報装置が会話機能(受話用スピーカ及び送話用マイク)を有しない場合、実施形態に係る集音システムは、非常通報ボタン13が押された場合、又は異常音検知装置21又は異常検知装置22で異常が検知された場合に、通報制御器20が放送用のスピーカ9を用いた集音の制御を開始する構成とすることができる。このように、非常通報装置に会話機能がない場合でも、放送用のスピーカ9を用いて、非常通報時又は異常検知時における音声を聴取可能とすることができる。このように、マイク12又はスピーカ9を用いて、主に客室内の音声を集音できる。但し、マイク12及びスピーカ9が集音する限りにおいて、車外の音声も集音することができる。
【0040】
実施形態に係る集音システムでは、スピーカ9又はマイク12により集音された信号から800Hz~2.5kHzの帯域の信号を抽出するフィルタとを備える構成として、ノイズが除去された(聞き取り易い)音声を乗務員が聴取することができる。フィルタ25によって、所望の音声明瞭度(STI値)を有する音声信号を得ることができる。
【0041】
また、実施形態に係る集音システムでは、スピーカ9を用いた集音とマイク12を用いた集音との一方を選択可能であり、例えばSTI値に基づいて一方を選択することができる。異常は、悲鳴や怒号などの異常音、発火、発煙、異臭などの異常音以外の異常を検知することができる。
【0042】
<撮像システム>
上述した集音システムを使用すれば、鉄道車両1内で事故や事件等の非常事態が発生した場合、その現場の状況をいち早く乗務員が確認することができる。しかしながら、集音によって得られた音声確認において、現場の状況を「映像」で確認することができない。
【0043】
図1において、客室3内に配置された非常通報装置10の夫々は、カメラ15を内蔵している。もっとも、カメラ15は、非常通報装置10から独立した装置として客室3内に設けられている場合もあり得る。カメラは客室3内の画像(映像を含む)を撮像する。但し、カメラ15の視野に入る限りにおいて、車外の画像も撮像することができる。
【0044】
図4は、映像データ(画像データ)の配信に係る構成例を示す図である。図4において、非常通報装置10は、CPU(Central Processing Unit)41と、CPU41と接続
されたメモリ(記憶装置)42と、無線通信回路43とを備えている。
【0045】
メモリ42は、CPU41によって実行されるプログラムと、プログラムの実行に際して使用されるデータとを記憶している。CPU41は、制御装置(プロセッサ)の一例である。CPU41は、カメラ15の動作を制御することができる。例えば、CPU41は、非常通報ボタン13の押下を検知した場合、異常音検知装置21が異常音を検知した場合、或いは、異常検知装置22が異常を検知した場合に、カメラ15による撮像を開始することができる。また、CPU41は、カメラ15の画像解析を行い、客室3内で発生し
た異常を検知し、乗務員に連絡することもできる。また、CPU41は、カメラ15によって得られた画像の信号から所定のフォーマットを有する画像(映像)データを生成し、無線通信回路43に送る。
【0046】
無線通信回路43は、WiFi、無線LAN(Local Area Network)などの所定の無線通信規格に従って、CPU41から得られた画像データの符号化及び変調処理などを行うことで、画像データを無線信号に変換し、アンテナから放射する(無線送信)する。また、無線通信回路43は、無線信号を受信し、復調及び復号によって得られたデータをCPU41に供給することもできる。また無線通信回路43は必ずしも無線に限らず、設置場所に寄っては通信速度、通信安定度の為に有線のLANとしてしても良い。
【0047】
乗務員室2には、アクセスポイント(AP)45と、ルータ46と、ディスプレイ47とが備えられている。AP45は、無線通信回路43を配下としており、無線通信回路43から放射された電波を受信し、信号に変換し、ルータ46及びディスプレイ47に供給する。ディスプレイ47は、AP45からの信号を画像信号に変換する処理と、画像信号に基づく画像(映像)を画面に表示する処理とを行う。これによって、客室3内の様子を乗務員が視認することができる。乗務員は集音システムによって送受話器5のスピーカから聞こえる音声と、ディスプレイ47に表示される画像とから、客室3内の様子を好適に把握することができる。ディスプレイ47は、鉄道車両1に据え付けられたものであっても、タブレット端末或いはラップトップ型PCに備えられたディスプレイなどの可搬性を有するものであってもよい。
【0048】
ルータ46は、LTEなどの所定の無線通信規格に従った通信装置であり、AP45から得られた信号を、LTEなどの規格に従った無線信号に変換し、放射する。鉄道車両1と通信する地上拠点(駅、運転司令所など)50には、ルータ46と無線通信するルータ51が設けられている。ルータ51は、ルータ46から送信された無線信号(電波)を受信し、受信信号の復調及び復号処理を行う。ルータ51には、有線LAN52を介して監視用の端末53が接続されている。
【0049】
端末53はディスプレイを有しており、ルータ51から受信した信号(画像信号を含む)を用いて、客室3内の画像をディスプレイに表示する。これによって、端末のオペレータなどの地上拠点での作業員が、客室3の状況を把握することができる。
【0050】
ルータ46は、カメラ15による画像データとともに、又は別のタイミングで、集音システムによって得られた音声のデータをルータ51に送り、端末53において、画像表示とともに音声再生を行うこともできる。これによって、客室3内の音声を画像を通じて好適に確認、把握することができる。
【0051】
なお、カメラ15として、マイク付きカメラが採用され、画像とともに音声が取得され、その音声が無線通信回路43及びAP45により乗務員室2に伝達され、乗務員室2で再生されるようにしてもよい。また、当該音声がルータ46からルータ51へ送信され、地上拠点50で再生可能にされてもよい。
【0052】
図5は、第1の制御に係る処理例を示すフローチャートである。図5に示す処理は、CPU41がメモリ42に記憶されたプログラムを実行することによって行われる。図5の処理の開始時点では、カメラ15はオフとなっている。
【0053】
図5におけるステップS001及びS002の処理は、図3に示したステップS001及びS002の処理と同じであるので説明を省略する。ステップS001で、非常通報ボタン13が押し下げられたと判定された場合、又はステップS002で異常音検知装置2
1又は異常検知装置22が異常を検知した場合、CPU41は、ステップS003Aにおいて、カメラ15の動作を制御し、カメラ15による撮像を開始させる。また、CPU41は、カメラ15によって撮像された画像のデータを無線通信回路43を用いてAP45へ送信する処理を行う。カメラ映像は撮像をこのタイミングで開始してリアルタイムの映像を送ったり、ドライブレコーダーのように常時録画して過去の異常が発生し状態の映像を必要に応じて送信しても良い。
【0054】
上述した画像の撮像及び画像データの送信処理は、ステップS004にて、図5の処理を終了と判定されるまで継続される。なお、図5に示す処理は、図3に示す処理と別のルーチンとして容易されているが、図3のルーチンを改変して、ステップS003にて、通報制御器20がCPU41に、カメラ15の撮像開始のトリガを与えて、CPU41が撮像を開始させるようにしてもよい。
【0055】
図6は、第2の制御に係る処理例を示すフローチャートである。図6に示す処理は、CPU41がメモリ42に記憶されたプログラムを実行することによって行われる。第2の制御では、第1の制御と異なり、カメラ15は、常時(非常通報ボタン13の押下や異常検知と無関係に)、撮像処理を行い、CPU41は、画像データを無線通信回路43を介してAP45へ送信する処理を行う(ステップS101)。
【0056】
ステップS102では、CPU41は、カメラ15によって得られた画像の解析を行う。すなわち、CPU41及びメモリ42は、客室3内で起こった異常を示す画像についての学習が済んでいるAIとして動作し、撮像された画像から客室3内で異常が発生しているか否かを判定する。
【0057】
ステップS103では、ステップS102の判定結果として、客室3内での異常が検知されたか否かをCPU41は判定する。異常が検知されたと判定される場合、処理がステップS104に進み、そうでない場合には、処理がステップS101に戻る。
【0058】
ステップS104では、CPU41は、画像のデータとともに、異常を知らせる情報を無線通信回路43を介してAP45に送る。これによって、異常の発生を示す情報(文字、記号、図形、画像、光など)が、ディスプレイ47で表示され、乗務員に異常の発生を知らせることもできる。異常を知らせる情報は、音声であってもよい。また、異常を知らせる情報は、ルータ46、ルータ51、有線LAN52を介して端末53に伝達され、端末53で情報に基づく出力(画面表示或いは音声出力)がなされ、地上拠点50の作業員が異常の発生を知らせるようにしてもよい。そして、ステップS105において、CPU41が処理を終了すると判定した場合には、図6の処理が終了し、そうでない場合には、処理がステップS101に戻る。
【0059】
撮像システムによれば、非常通報装置10がカメラ15を備えることで、車内(例えば客室3内)の現場の状況を「映像」で確認することができる。カメラ15によって撮像された画像(カメラ映像)は鉄道車両1に設置したAP45を経由して鉄道車両1の乗務員、さらに地上伝送装置(ルータ46、ルータ51、有線LAN52、端末53)を経由して地上拠点50の管理者などがリアルタイムでモニタリングすることができる。さらに、非常通報装置10が備えるCPU41が、カメラ映像に対する画像解析(AI処理)を行うことで、車内の異常(非常事態)を自動的に検知することもできる。
【0060】
鉄道車両1の監視システムによれば、異常(非常事態)の発生時における鉄道車両1内の状況把握が乗務員及び地上拠点にて可能となり、より的確に乗客の安全確保、安全な誘導を行うことができる。また、第2の制御によれば、非常事態の発生時、乗客が非常通報ボタン13を押下できないような状況においても、カメラ映像のAI処理による自動検出
によって、乗務員及び地上拠点が非常事態を把握することができる。以上説明した実施形態の構成は、本発明の目的を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0061】
1・・・鉄道車両
2・・・乗務員室
3・・・客室
4・・・連絡受報器
5・・・送受話器
6・・・放送装置
7・・・放送音声信号の伝達経路
8・・・パワーアンプ
9・・・スピーカ
9a,10a,10b・・・配線
10・・・非常通報装置
11・・・受話用スピーカ
12・・・送話用マイク
13・・・非常通報ボタン
15・・・カメラ
20・・・通報制御器
20a・・・受報制御器
21・・・異常音検知装置
22・・・異常検知装置
23・・・スイッチ
24・・・アンプ
25・・・音声強調フィルタ
31・・・操作器
41・・・CPU
42・・・メモリ
43・・・無線通信回路
45・・・アクセスポイント
46,51・・・ルータ
47・・・ディスプレイ
50・・・地上拠点
52・・・有線LAN
53・・・端末
図1
図2
図3
図4
図5
図6