(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049131
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】感光性組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 290/10 20060101AFI20240402BHJP
【FI】
C08F290/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155407
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(71)【出願人】
【識別番号】000165000
【氏名又は名称】群栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】竹井 敏
(72)【発明者】
【氏名】太田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】小林 誠
【テーマコード(参考)】
4J127
【Fターム(参考)】
4J127AA03
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4J127FA17
(57)【要約】
【課題】光照射に対する感度などの性能がより良好な、水溶性糖類を含む感光性組成物を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る感光性組成物は、糖類が備える水酸基の少なくとも一部が、不飽和二重結合を有する重合性基に変性されてなる、水溶性糖類と、多官能性の(メタ)アクリルアミドモノマーと、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖類が備える水酸基の少なくとも一部が、不飽和二重結合を有する重合性基に変性されてなる、水溶性糖類と、
多官能性の(メタ)アクリルアミドモノマーと、を含む、感光性組成物。
【請求項2】
前記水溶性糖類の含有量を100重量部として、前記(メタ)アクリルアミドモノマーの含有量は、0.1重量部以上、50重量部以下である、
請求項1に記載の感光性組成物。
【請求項3】
前記水溶性糖類の重量平均分子量は、150以上、50,000以下である、
請求項1に記載の感光性組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリルアミドモノマーの分子量は、100以上、900以下である、
請求項1に記載の感光性組成物。
【請求項5】
前記水溶性糖類は、前記糖類が備える水酸基の全量を100mol%として、当該水酸基のうちの5mol%以上、60mol%以下が重合性基に変性されてなる、
請求項1に記載の感光性組成物。
【請求項6】
水および光反応開始剤をさらに含む、
請求項1に記載の感光性組成物。
【請求項7】
界面活性剤をさらに含む、
請求項1に記載の感光性組成物。
【請求項8】
反応停止剤をさらに含む、
請求項1に記載の感光性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光照射によって硬化する感光性組成物は、例えば半導体製造用ネガ型フォトレジストなどの用途で、材料として用いられることがある。
【0003】
感光性組成物として、例えば特許文献1には、糖類が備える水酸基の少なくとも一部が重合性基に変性されてなる水溶性糖類と、水と、光反応開始剤とを含有してなる感光性組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような感光性組成物には、例えば光照射に対する感度などの性能に関して、改善の余地がある。
【0006】
本発明の一態様は、光照射に対する感度などの性能がより良好な、水溶性糖類を含む感光性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る感光性組成物は、糖類が備える水酸基の少なくとも一部が、不飽和二重結合を有する重合性基に変性されてなる、水溶性糖類と、多官能性の(メタ)アクリルアミドモノマーと、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、光照射に対する感度などの性能がより良好な、水溶性糖類を含む感光性組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施例1および比較例1によって製造された感光性組成物の感度分析の結果を示すグラフである。
【
図2】本発明の実施例2および比較例2によって製造された感光性組成物の感度分析の結果を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施例3および比較例3によって製造された感光性組成物の感度分析の結果を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施例4および比較例4によって製造された感光性組成物の感度分析の結果を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施例1および比較例1によって製造された感光性組成物を用いて撮影された電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<用語>
本明細書中で使用される場合、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
【0011】
本明細書中で使用される場合、単に「糖類」と記載する場合、特に説明がない限り、本発明の一態様に係る「水溶性糖類」の原料である「糖類」のことを意味する。当該「糖類」は、食品科学分野における炭水化物を概念として包含する。
【0012】
また、本明細書中で使用される場合、用語「水溶性糖類」は、糖類が備える水酸基の少なくとも一部が重合性基に変性された「糖類」であって、かつ水溶性を有する「糖類」を意味する。すなわち、本明細書中で使用される場合、用語「水溶性糖類」は、「水酸基の少なくとも一部が重合性基に変性されてなる水溶性の糖類」の略称として記載される。また、「水溶性」にて修飾された「糖」の記載は、特に説明がない限り、本発明の一態様に係る水溶性糖類の具体例を意味する。
【0013】
また、本明細書中で使用される場合、用語「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよびメタクリルの一方または両方を意味する。具体的には、用語「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸、およびメタクリル酸の一方または両方を意味し、用語「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」および「メタクリレート」の一方または両方を意味する。また、本明細書中で使用される場合、用語「(メタ)アクリロイル基」とは、「アクリロイル基」および「メタクリロイル基」の一方または両方を意味する。また、本明細書中で使用される場合、用語「(メタ)アクリルアミド」とは、「アクリルアミド」および「メタクリルアミド」の一方または両方を意味する。
【0014】
また、本明細書中で使用される場合、用語「感光性」は、活性化学線が組成物に照射されたときに、当該組成物に含まれる化合物が重合または変色等の化学反応を示す性質を意味する。ここで、活性化学線は、可視光、赤外線、紫外線および電子線からなる群から選択され得る。化学反応は、例えば、組成物に含まれる化合物が活性化学線を吸収することによって当該化合物が発生させるラジカルまたはプロトン(H+)に起因するものであり得る。活性化学線を吸収する化合物と、重合または変色等の化学反応を示す化合物とは、同一であってもよく、異なってもよい。
【0015】
また、本明細書中で使用される場合、用語「感度」は、感光性組成物の、光照射による硬化のしやすさを意味する。例えば、「感光性組成物の感度が良好である」、「感光性組成物の感度が高い」および「感光性組成物が向上した感度を有する」等の記載は、当該感光性組成物が、光照射によって硬化しやすいことを意味する。
【0016】
<感光性組成物>
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。そして、本発明者らは、以下の事項を見出した。まず、水溶性糖類の重量平均分子量を増大させると、当該水溶性糖類を含む感光性組成物の、光照射に対する感度が向上するが、同時に感光性組成物の粘度が上昇するため、感光性組成物の塗工性が低下する。また、重量平均分子量が増大した水溶性糖類を含む感光性組成物は、光照射によって広い範囲が硬化してしまうため、微細加工という観点から、さらなる改善が求められている。また、重量平均分子量を増大させた水溶性糖類を含む感光性組成物において、水溶性糖類の含有量、すなわち固形分を低下させると、感光性組成物の粘度が低下して塗工性が向上するが、感光性組成物を塗工して厚膜を得ること、換言すれば厚膜化が困難になる。また、水溶性糖類の変性率を増加させると、感光性組成物中の重合性基の増加に起因して感度が向上するが、水溶性糖類の水溶性が低下するため、感光性組成物の粘度を調整することが困難になる。本発明者らは、上記事項を解決するためさらに研究を重ね、本発明を完成させた。
【0017】
本発明の一態様に係る感光性組成物は、糖類が備える水酸基の少なくとも一部が、不飽和二重結合を有する重合性基に変性されてなる、水溶性糖類と、多官能性の(メタ)アクリルアミドモノマーと、を含む。本発明の一態様に係る感光性組成物は、光照射に対する感度などの性能がより良好である。
【0018】
<水溶性糖類>
〔水溶性糖類の概要〕
本発明の一態様に係る感光性組成物は、糖類が備える水酸基の少なくとも一部が、不飽和二重結合を有する重合性基に変性されてなる、水溶性糖類を含む。このような水溶性糖類を含む感光性組成物は、溶媒として水を用いて調製することができ、また、被塗工物に対して塗工して塗工膜を形成した後、当該水溶性糖類が有する重合性によって当該塗工膜を硬化させることができる。一般に、組成物の塗工においては、塗工作業環境における安全性を向上させる、および溶媒排出後の環境負荷を低減する等の観点から、アルカリ等の劇毒物および有機溶媒等の危険物の使用を回避することが求められる。これらの観点から、溶媒として水を用いることができる、本発明の一態様に係る感光性組成物は、重合性組成物の代替物として好適に用いることができる。
【0019】
水溶性糖類の、20℃における水に対する溶解度は、限定されるものではないが、水への希釈を容易に行う観点から、好ましくは50g/L以上であり、より好ましくは200g/L以上である。特に、水溶性糖類の、溶解度が200g/L以上である水溶性糖類は、当該水溶性糖類を含む感光性組成物を水系組成物として好適に調製することができるため、好ましい。なお、糖類が備える水酸基が重合性基に変性されてなり、かつ20℃における水に対する溶解度が50g/L未満である糖類は、本明細書中において「難水溶性糖類」として記載され、本明細書中に記載される「水溶性糖類」とは区別される。
【0020】
水溶性糖類の重量平均分子量(Mw)は、限定されるものではないが、好ましくは150以上であり、より好ましくは1000以上であり、さらに好ましくは1300以上である。このような水溶性糖類を含む感光性組成物は、より向上した感度を示すため、好ましい。また、水溶性糖類の重量平均分子量は、好ましくは50,000以下であり、より好ましくは20,000以下であり、さらに好ましくは15,000以下である。このような水溶性糖類を含む感光性組成物は、より向上した塗工性を示すため、好ましい。特に、水溶性糖類の重量平均分子量が10,000以下であることにより、高い平坦化率および充填性を示す感光性組成物を実現することができる。なお、本明細書中で使用される場合、水溶性糖類の重量平均分子量(Mw)とは、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定される、標準ポリスチレン換算の値を意味する。
【0021】
水溶性糖類の含有量は、感光性組成物の総重量に対して、好ましくは5重量%以上であり、より好ましくは20重量%以上であり、さらに好ましくは30重量%以上である。このような範囲で水溶性糖類を含む感光性組成物は、水溶性糖類の重合性に起因して高い感度を有し、または、厚膜化に適している。また、感光性組成物の総重量に対して、水溶性糖類の含有量は、好ましくは50重量%以下であり、より好ましくは40重量%以下である。このような範囲で水溶性糖類を含む感光性組成物は、粘度が低減されており、良好な塗工性を有する。
【0022】
〔重合性基〕
水溶性糖類は、当該水溶性糖類の原料である糖類の糖鎖が備える水酸基の少なくとも一部が、不飽和二重結合を有する重合性基に変性されている。換言すれば、水溶性糖類は、原料である糖類に由来する糖鎖と、当該糖鎖に結合している重合性基とを有する。例えば、水溶性糖類は、少なくともその一部に、以下の式(A)に示す構造を有し得る。
【0023】
【0024】
式(A)中、C*は、糖鎖に含まれる炭素原子であり、糖鎖の1位、2位、3位、4位、5位および6位の炭素原子、ならびにそれ以外の位置の炭素原子から選択される。Rpは重合性基である。換言すれば、水溶性糖類は、糖類が備える水酸基-OHの少なくとも一部が、-ORpによって置換されている。水溶性糖類中の複数の重合性基Rpはそれぞれ、酸素原子を介して、決まった1つの位置の炭素原子C*に結合していてもよく、異なる2つ以上の位置の炭素原子C*に結合していてもよい。例えば、複数の重合性基Rpすべてが6位の炭素原子C*に結合していてもよく、複数の重合性基Rpがそれぞれ独立して2位、4位および5位の炭素原子C*のうちいずれかに結合していてもよい。
【0025】
不飽和二重結合を有する重合性基は、ラジカル性重合性基であり得る。当該不飽和二重結合は、例えばビニルエステル基または(メタ)アクリロイル基に含まれる二重結合であり得る。
【0026】
重合性基は、一例として、以下の式(1)に示す構造を有し得る。
【0027】
【0028】
式(1)中、R1は、水素またはメチル基である。すなわち、式(1)に示される重合性基は、(メタ)アクリロイル基である。本発明の一態様において、当該(メタ)アクリロイル基は、酸素原子を介して糖鎖に共有結合している。
【0029】
また、重合性基は、一例として、以下の式(2)または式(3)の構造を有し得る。
【0030】
【0031】
式(2)および式(3)中、Raは、式(1)に示す構造を有し、R2は、以下の式(4)に示す構造を有している。また、式(3)中、R3は、それぞれ独立して、水素または炭素数1~10のアルキル基であり、R3aは、それぞれ独立して、炭素数1~10のアルキレン基であり、mは、0~2の整数である。なお、式(2)および式(3)に示す重合性基は、いずれも式(1)に示す重合性基と同じく、酸素原子を介して糖類に共有結合している。
【0032】
【0033】
式(4)中、nは、2~10の整数であり、好ましくは2または3である。pは、1~6の整数であり、好ましくは1または2である。すなわち、R2は、オキシアルキレン基、またはポリオキシアルキレン基であり得る。当該オキシアルキレン基におけるアルキレン鎖は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。
【0034】
また、上記式(1)~(3)に示す重合性基は、上記式(4)に示す構造を有するR2を介して糖類に共有結合していてもよい。また、上記式(3)に示す重合性基において、R3a-O-とRaとは、上記式(4)に示す構造を有するR2を介して共有結合していてもよい。
【0035】
重合性基は、式(1)~(3)に示す構造から選択される1つ以上を有するか、または当該構造からなることが好ましく、式(1)に示す構造からなることがより好ましい。これにより、感光性組成物は、より高い感度を有する。
【0036】
本明細書中、水溶性糖類において、原料である糖類が備える水酸基の全量を100mol%として、当該水酸基のうち重合性基に変性されている基の割合を変性率と記載する。水溶性糖類において、変性率は、好ましくは5mol%以上であり、より好ましくは10mol%以上である。これにより、当該重合性基を介して水溶性糖類の分子同士が好適に重合できるので、良好な感度を有する感光性組成物を実現することができる。また、水溶性糖類において、変性率は、好ましくは60mol%以下であり、より好ましくは50mol%以下であり、さらに好ましくは40mol%以下である。これにより、変性していないままの水酸基が好適な割合で水溶性糖類中に存在するため、水溶性糖類が良好な水溶性を有しており、したがって感光性組成物中の水溶性糖類の含有量を好適に調整することができる。また、変性率が上述の好ましい上限値以下であることによって、水溶性糖類の製造方法に含まれる、原料である糖類を変性させる工程に要する時間が短くなるため、当該水溶性糖類を含む感光性組成物はより短い時間で製造することができる。なお、水溶性糖類において、原料である糖類が備える水酸基の全量を100mol%として、当該水酸基のうち重合性基に変性されている割合、すなわち変性率は、13C-NMR(核磁気共鳴分光法)によって求めることができる。
【0037】
〔糖類〕
水溶性糖類の原料であり、当該水溶性糖類の骨格をなす糖類は、典型的には、二糖類、三糖類、四糖類、オリゴ糖類、多糖類、糖質および食物繊維からなる群から選択される1つ以上である。水溶性糖類の原料である糖類は、1種であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。原料である糖類は、人工的に合成された糖類であってもよく、天然の糖類であってもよい。また、原料である糖類が難水溶性である場合、当該糖類を加水分解して得た糖類を原料として用いてもよい。また、原料である糖類が難水溶性である場合、当該糖類にヒドロキシアルキレン基等の親水性基を導入し、水溶性を高めた糖類を原料として用いてもよい。原料である糖類は、限定されるものではないが、20℃における水に対する溶解度が50g/L以上である糖類であり得る。
【0038】
二糖類としては例えば、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ツラノースおよびセロビオース等が挙げられる。三糖類としては例えば、ラフィノース、メレジトースおよびマルトトリオース等が挙げられる。四糖類としては例えば、アカルボースおよびスタキオース等が挙げられる。オリゴ糖類としては例えば、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖および乳糖果糖オリゴ糖等が挙げられる。多糖類としては例えば:グリコーゲン、デンプン、プルラン、デキストリン、シクロデキストリン、デキストロース、セルロース、グルカン、フルクタンおよびキチン等の多糖類;ならびに、これらの多糖類が備える水酸基の一部がヒドロキシアルキレン基等の親水性基によって変性された多糖類;等が挙げられる。
【0039】
水溶性糖類の原料であり、当該水溶性糖類の骨格をなす糖類は、糖鎖中に多価アルコールまたは多価カルボン酸に由来する架橋構造を有してもよい。多価アルコールとしては例えば:ソルビトール、マンニトール、キシリトール、マルチトールおよびエリスリトール等の糖アルコール;グリセリン;等が挙げられる。多価カルボン酸としては例えば、クエン酸等が挙げられる。
【0040】
水溶性糖類の原料である糖類は、デキストリンまたはシクロデキストリンであることが好ましい。
【0041】
糖類は、水溶性食物繊維であることが好ましい。水溶性食物繊維は、分子内に水酸基を複数有しているため、水溶性が高いと共に、当該水酸基は重合性基へと変性させることができる。また、水溶性食物繊維は、糖鎖中に分岐構造を多く有するため、重合性が高い水溶性糖類の原料として、好適である。水溶性糖類の原料である糖類は、低粘度の水系組成物を容易に調製する観点から、水溶性食物繊維の中でも、低粘度の水溶液を形成する水溶性食物繊維であることが好ましい。低粘度の水溶液を形成する水溶性食物繊維としては例えば、難消化性デキストリン、イソマルトデキストリン、デキストロースおよびポリデキストロースが挙げられる。水溶性糖類の原料である糖類は、難消化性デキストリンまたはデキストロースであることが好ましい。
【0042】
<(メタ)アクリルアミドモノマー>
本発明の一態様に係る感光性組成物は、多官能性の(メタ)アクリルアミドモノマーを含む。感光性組成物において、(メタ)アクリルアミドモノマーは、光照射によって、上述した水溶性糖類が有する重合性と同様の性質を示すため、水溶性糖類の重合性基同士を架橋することができる。そのため、本発明の一態様に係る感光性組成物は、感度が良好である。また、(メタ)アクリルアミドモノマーはある程度の水溶性を有するため、当該モノマーを含む感光性組成物は、溶媒として水を用いて調製することができる。
【0043】
(メタ)アクリルアミドモノマーを含み水溶性糖類を含まない組成物もまた、光照射によって重合する性質を有する。しかしながら、このような組成物を重合させて得られる重合組成物は、高い吸水性を示すゲル状体であるため、重合前の組成物はフォトレジスト等の用途には適していない。また、このようなゲル状体は、微細加工することが困難である。対して、本発明の一態様に係る感光性組成物は、水溶性糖類に起因して十分な硬度を有する重合組成物を形成でき、かつ微細加工にも適している。
【0044】
本発明の一態様に係る感光性組成物は高い感度を有するため、より短い光照射時間で、当該感光性組成物を用いた硬化膜を形成することができる。また、本発明の一態様に係る感光性組成物によれば、硬化膜の形成に要する露光量がより少ないため、感光性組成物の塗工膜が形成された基板から塗工膜への光反射が減じられ、したがって光反射に由来する意図しない部分の硬化が減じられる。そのため、本発明の一態様に係る感光性組成物は、微細加工に適している。
【0045】
上述のように、本発明の一態様に係る感光性組成物は、厚膜化および微細加工に適しているため、厚くかつ微細なパターニングを有する、換言すれば高いアスペクト比を有する硬化物を形成することができる。
【0046】
また、本発明の一態様に係る感光性組成物は、多官能性の(メタ)アクリルアミドモノマーが高い水溶性を有していることにより、塗工膜の非露光部に含まれる未反応の水溶性糖類のみならず、未反応の(メタ)アクリルアミドモノマーをも水により速やかに除去できる。
【0047】
(メタ)アクリルアミドモノマーは、少なくとも2つの(メタ)アクリルアミド基と、当該(メタ)アクリルアミド基の間に存在する少なくとも1つの骨格構造とを有するか、またはこれらからなる。
【0048】
(メタ)アクリルアミドモノマーは、多官能性である。(メタ)アクリルアミドモノマーにおいて、(メタ)アクリルアミド基の数は、2つ以上である。このような構成によれば、感光性組成物に、向上した光への感応性を付与できる。また、(メタ)アクリルアミド基の数は、好ましくは10つ以下であり、より好ましくは5つ以下である。このような好ましい構成によれば、(メタ)アクリルアミドモノマーが高い水への溶解度を有するため、水を溶媒として用いて感光性組成物をより好適に調製できるという効果を奏する。なお、本明細書中、(メタ)アクリルアミド基は、2級アミドおよび3級アミドの両方を包含しており、換言すれば下記式(5)に示す構造を有する。
【0049】
【0050】
式(5)中、R1は、水素またはメチル基である。H*は、水素、または骨格構造との間の単結合である。H*が水素であるとき、式(5)に示す(メタ)アクリルアミド基は2級アミドであり、H*が骨格構造との間の単結合であるとき、式(5)に示す(メタ)アクリルアミド基は3級アミドである。
【0051】
骨格構造は、(メタ)アクリルアミドモノマーの水溶性が完全には失われない範囲であれば、特に限定されない。例えば、骨格構造はそれぞれ独立して、直鎖状もしくは分岐状の炭素数4~100のアルキレン基、直鎖状もしくは分岐状の炭素数4~100のヘテロアルキレン基、または直鎖状もしくは分岐状の炭素数4~100のポリヘテロアルキレン基であり得る。ここで、ヘテロアルキレン基およびポリヘテロアルキレン基に含まれるヘテロ原子は、酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選択され、好ましくは窒素原子および酸素原子である。言い換えれば、骨格構造がポリヘテロアルキレン基である場合、当該骨格構造は、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンチオール、およびポリアルキレンアミンに由来する骨格構造であり、直鎖状もしくは分岐状であってよい。ここで、(メタ)アクリルアミドモノマーは、例えば、(i)ポリアルキレングリコール、およびポリアルキレンチオールの末端に位置する酸素原子または硫黄原子に結合する水素のうち2つ以上が、アルキレン(メタ)アクリルアミド基に置換されることで、式(5)に示す(メタ)アクリルアミド基が導入されているか、または、(ii)ポリアルキレンアミンの末端および骨格内に位置する窒素原子に結合する水素のうち2つ以上が、式(1)に示す(メタ)アクリロイル基に置換されることで、式(5)に示す(メタ)アクリルアミド基が形成されている。骨格構造は、例えば感光性組成物における(メタ)アクリルアミドモノマーの所望の含有量を達成できる程度の水溶性を、当該(メタ)アクリルアミドモノマーが有するように、選択してもよい。
【0052】
(メタ)アクリルアミドモノマーの分子量は、好ましくは100以上であり、より好ましくは150以上であり、さらに好ましくは250以上である。また、(メタ)アクリルアミドモノマーの分子量は、好ましくは900以下であり、より好ましくは700以下であり、さらに好ましくは550以下である。このような好ましい構成によれば、(メタ)アクリルアミドモノマーの添加による感光性組成物の粘度上昇が低減されるため、感光性組成物の塗工性がより向上する。なお、(メタ)アクリルアミドモノマーの分子量は、限定されるものではないが、感光性組成物に含まれる水溶性糖類の重量平均分子量と比較して、同等であるか、またはより小さいことがある。そのため、水溶性糖類および(メタ)アクリルアミドモノマーを含む本発明の一態様に係る感光性組成物は、同一の含有量で水溶性糖類を含むが(メタ)アクリルアミドモノマーを含まない従来技術と比較して、同等の塗工性および向上した感度を示す。
【0053】
(メタ)アクリルアミドモノマーの、20℃における水に対する溶解度は、限定されるものではないが、水への希釈を容易に行う観点から、好ましくは250g/L以上であり、より好ましくは500g/L以上である。特に、水溶性糖類の、溶解度が100g/L以上である(メタ)アクリルアミドモノマーは、当該(メタ)アクリルアミドモノマーを含む感光性組成物を水系組成物として好適に調製することができるため、好ましい。(メタ)アクリルアミドモノマーの、20℃における水に対する溶解度は、限定されるものではないが、750g/L以下であってもよい。
【0054】
(メタ)アクリルアミドモノマーの具体例としては、N,N’-(((2-アクリルアミド-2-((3-アクリルアミドプロポキシ)メチル)プロパン-1,3-ジイル)ビス(オキシ))ビス(プロパン-1,3-ジイル))ジアクリルアミド、N,N’,N’’-トリアクリロイジエチレントリアミン、N,N’-ジアクリロイル-4,7,10-トリオキサ-1,13-トリデカンジアミン、およびN,N’,N’’,N’’’-テトラアクリロイルトリエチレンテトラアミンが挙げられる。(メタ)アクリルアミドモノマーは、商業的に入手可能なものであってもよい。商業的に入手可能な(メタ)アクリルアミドモノマーとしては、FOM-03006、FOM-03007、FOM-03008およびFOM-03009(以上、いずれも富士フイルム和光純薬株式会社製)が挙げられる。
【0055】
感光性組成物において、水溶性糖類の含有量を100重量部として、(メタ)アクリルアミドモノマーの含有量は、好ましくは0.1重量部以上であり、より好ましくは0.5重量部以上であり、さらに好ましくは1重量部以上である。このような範囲で(メタ)アクリルアミドモノマーを含む感光性組成物は、より良好な感度を示す。また、水溶性糖類の含有量を100重量部として、(メタ)アクリルアミドモノマーの含有量は、好ましくは50重量部以下であり、より好ましくは40重量部以下であり、さらに好ましくは30重量部以下である。このような範囲で(メタ)アクリルアミドモノマーを含む感光性組成物を重合させて得られる重合組成物は、十分な硬度を有する。
【0056】
感光性組成物が含む(メタ)アクリルアミドモノマーは、1種類であってもよく、2種類以上の組み合わせであってもよい。
【0057】
<その他の成分>
〔希釈溶媒〕
本発明の一態様に係る感光性組成物は、希釈溶媒をさらに含み得る。希釈溶媒は、限定されるものではないが、水もしくは両親媒性溶媒またはこれらの組み合わせであり、好ましくは水である。両親媒性溶媒としては例えば、エタノール、メタノール、アセトニトリルおよびN-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。感光性組成物における水の含有量は、感光性組成物の所望の粘度、および感光性組成物を重合して得られる硬化物の膜厚等に応じて、適宜に選択することができる。
【0058】
〔光反応開始剤〕
本発明の一態様に係る感光性組成物は、光反応開始剤をさらに含み得る。光反応開始剤は、水溶性糖類が有する重合性基の種類に応じて、光ラジカル重合開始剤から選択してもよい。感光性組成物が含む光反応開始剤は、1種類であってもよく、2種類以上の組み合わせであってもよい。
【0059】
感光性組成物において、光反応開始剤の含有量は、水溶性糖類の含有量を100重量部として、好ましくは0.01重量部以上であり、より好ましくは0.10重量部以上である。このような好ましい構成によれば、感光性組成物の感度がより向上する。また、感光性組成物において、光反応開始剤の含有量は、水溶性糖類の含有量を100重量部として、好ましくは5.00重量部以下であり、より好ましくは3.00重量部以下である。このような好ましい構成によれば、感光性組成物の製造コストを減じることができる。
【0060】
感光性組成物が含む光ラジカル重合開始剤は、例えば、感光性組成物に所望される用途および機能に応じて適宜に選択され得る。光ラジカル重合開始剤としては例えば、α-ヒドロキシケトン系光重合開始剤、α-アミノケトン系光重合開始剤、ベンジルケタール系光重合開始剤、オキシムエステル系光重合開始剤、アクリジン系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、アセトフェノン系光重合開始剤、芳香族ケトエステル系光重合開始剤、安息香酸エステル系光重合開始剤、アシルホスフィンオキシド系光重合開始剤およびチタノセン系光重合開始剤等が挙げられる。光ラジカル重合開始剤は例えば、界面活性剤および/または重合性モノマー等によって、水系に乳化または可溶化されていてもよい。商業的に入手可能な光ラジカル重合開始剤としては例えば、FAI-101L(富士フイルム株式会社製)が挙げられる。
【0061】
α-ヒドロキシケトン系光重合開始剤としては例えば、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、および2-ヒドロキシ-1-[4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル]-2-メチルプロパン-1-オン等が挙げられる。商業的に入手可能なα-ヒドロキシケトン系光重合開始剤としては例えば、Omnirad 2959(IGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。
【0062】
〔架橋剤〕
本発明の一態様に係る感光性組成物は、架橋剤をさらに含み得る。感光性組成物が架橋剤を含むことによって、当該架橋剤を介して感光性組成物に含まれる水溶性糖類が有する重合性基同士を架橋できる。架橋剤は、2つ以上の重合性基を有していることがより好ましい。架橋剤は、重合性基の種類に応じて、ラジカル重合性架橋剤から選択すればよい。感光性組成物が含む架橋剤は、1種類であってもよく、2種類以上の組み合わせであってもよい。
【0063】
本発明の一態様に係る感光性組成物において、架橋剤の含有量は、水溶性糖類の含有量を100重量部として、好ましくは0.01重量部以上であり、より好ましくは0.10重量部以上である。また、本発明の一態様に係る感光性組成物において、架橋剤の含有量は、水溶性糖類の含有量を100重量部として、好ましくは5.00重量部以下であり、より好ましくは3.00重量部以下である。
【0064】
ラジカル重合性架橋剤としては例えば:1,3-ビス(ビニルスルホニル)-2-プロパノール等のビニル基を有する架橋剤;および(メタ)クリロイル基を有する架橋剤;等が挙げられる。(メタ)クリロイル基を有する架橋剤としては例えば、ポリオキシアルキレン基を有する(メタ)アクリル酸エステル、多価アルコールから形成される(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0065】
〔界面活性剤〕
本発明の一態様に係る感光性組成物は、界面活性剤をさらに含み得る。感光性組成物が界面活性剤を適量含むことにより、当該感光性組成物の表面張力を任意に調整することができ、塗工時のレベリング性が向上し、塗工膜の膜厚均一性を向上させることができる。感光性組成物が含む界面活性剤は、1種類であってもよく、2種類以上の組み合わせであってもよい。
【0066】
本発明の一態様に係る感光性組成物において、界面活性剤の含有量は、水溶性糖類の含有量を100重量部として、好ましくは0.01重量部以上であり、より好ましくは0.30重量部以上である。また、本発明の一態様に係る感光性組成物において、界面活性剤の含有量は、水溶性糖類の含有量を100重量部として、好ましくは10.00重量部以下であり、より好ましくは5.00重量部以下である。
【0067】
感光性組成物が含む界面活性剤としては例えば、フッ素樹脂系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、ポリオキシアルキレンエーテル系界面活性剤、およびアクリル樹脂系界面活性剤の界面活性剤が挙げられる。
【0068】
〔反応停止剤〕
本発明の一態様に係る感光性組成物は、反応停止剤をさらに含み得る。感光性組成物が反応停止剤を含むことで、当該感光性組成物が光重合する際に、過重合することを抑制することができる。感光性組成物が含む反応停止剤は、1種類であってもよく、2種類以上の組み合わせであってもよい。
【0069】
本発明の一態様に係る感光性組成物において、反応停止剤の含有量は、水溶性糖類の含有量を100重量部として、好ましくは0.01重量部以上であり、より好ましくは0.10重量部以上である。また、本発明の一態様に係る感光性組成物において、反応停止剤の含有量は、水溶性糖類の含有量を100重量部として、好ましくは5.00重量部以下であり、より好ましくは1.00重量部以下である。
【0070】
〔その他の添加剤〕
本発明の一態様に係る感光性組成物は、その効果が損なわれない限りで、その他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては例えば、密着助剤、充填剤、および水溶性樹脂等が挙げられる。感光性組成物が含有するその他の添加剤は、1種類であってもよいし、2種類以上の組み合わせであってもよい。
【0071】
<感光性組成物の製造方法>
本発明の一態様に係る感光性組成物は、上述した水溶性糖類および(メタ)アクリルアミドモノマー、ならびに、含まれる場合にはその他の成分を適宜に混合することによって、製造することができる。
【0072】
<感光性組成物の用途>
本発明の一態様に係る感光性組成物は、例えば、半導体製造用ネガ型フォトレジストなどの用途で水系材料として利用することができる。水系材料として感光性組成物を利用することによって、有機溶媒系材料として利用する場合と比較して、塗工作業環境における安全性を向上させることができる。このような効果は、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「すべての人に健康と福祉を」等の達成にも貢献するものである。また、水系材料として感光性組成物を利用することによって、有機溶媒系材料として利用する場合と比較して、溶媒排出後の環境負荷を低減することができる。このような効果は、例えば、持続可能な開発目標(SDGs)の目標12「つくる責任、つかう責任」等の達成にも貢献するものである。
【0073】
以下に、本発明の一態様に係る感光性組成物を半導体製造における微細加工のための水系ネガ型フォトレジストとして利用するための実施形態を、例示のために述べる。しかしながら、本発明の一態様に係る感光性組成物の用途は、本実施形態に限定されないことに留意されたい。
【0074】
〔基板の選択〕
本実施形態に係る感光性組成物の塗工対象となる基板としては例えば、半導体ウェハー基板、およびガラス基板等の基板が挙げられる。また、基板の表面には、例えば絶縁層および導電層等の層が予め形成されていてもよい。また、基板には、例えばポリ(2-ヒドロキシエチル)アクリレート等の下地となる層が形成されていてもよい。本実施形態に係る感光性組成物は、水系組成物であるため、有機溶媒を多量に含有するレジスト材料と比較して、ポリ(2-ヒドロキシエチル)アクリレート等の下地を腐食し難いことも利点の1つである。
【0075】
〔塗工膜の形成〕
本実施形態に係る感光性組成物を基板に塗工する方法は、従来公知の方法であってよい。感光性組成物を基板に塗工する方法としては例えば、スピナーを用いたスピンコーティング等が挙げられるが、これに限定されない。
【0076】
感光性組成物を基板に塗工した後、典型的には、感光性組成物が形成する塗工膜中の水を除去するために、焼成(加熱乾燥)が行われる。焼成温度は、好ましくは50℃以上、300℃以下である。
【0077】
〔露光による硬化塗工膜の形成〕
本実施形態に係る感光性組成物をネガ型フォトレジストとして用いる場合、塗工膜を形成した基板を露光することによる硬化塗工膜の形成は、当技術分野で従来公知の露光方法で行うことができる。塗工膜に照射する活性化学線としては例えば、紫外線、可視光、および電子線等が挙げられる。紫外線硬化は、電子線硬化に比べ、生産性に優れ、装置コストが安価であるため、活性化学線は、好ましくは紫外線である。露光量は、感光性組成物における光反応開始剤の含有量等に応じて、適宜に選択することができる。露光量としては例えば600mJ/cm2程度、露光時間としては例えば60秒間程度とすることができるが、これに限定されない。なお、照射すべき紫外線の波長は、感光性組成物に含まれる光重合開始剤の種類に応じて選択すればよい。
【0078】
〔現像〕
本実施形態に係る感光性組成物をネガ型フォトレジストとして用いる場合、塗工膜の現像液は、水系溶媒であり、好ましくは水である。すなわち、現象液が水であることを除いて、当技術分野で従来公知の方法を用いて、現像を行うことができることが本発明の利点の1つである。
【0079】
〔エッチング〕
本実施形態に係る感光性組成物をネガ型フォトレジストとして用いる場合、塗工膜のエッチングは、当技術分野で従来公知の方法で行うことができる。
【0080】
<まとめ>
本発明の第1の態様に係る感光性組成物は、糖類が備える水酸基の少なくとも一部が、不飽和二重結合を有する重合性基に変性されてなる、水溶性糖類と、多官能性の(メタ)アクリルアミドモノマーと、を含む。第1の態様によれば、光照射に対する感度などの性能がより良好な、水溶性糖類を含む感光性組成物を提供することができる。
【0081】
本発明の第2の態様に係る感光性組成物は、第1の態様において、前記水溶性糖類の含有量を100重量部として、前記(メタ)アクリルアミドモノマーの含有量が、0.1重量部以上、50重量部以下である。この構成は、性能がより良好な、水溶性糖類を含む感光性組成物を提供するために、より一層効果的である。
【0082】
本発明の第3の態様に係る感光性組成物は、第1または第2の態様において、前記水溶性糖類の重量平均分子量が、150以上、50,000以下である。この構成は、性能がより良好な、水溶性糖類を含む感光性組成物を提供するために、より一層効果的である。
【0083】
本発明の第4の態様に係る感光性組成物は、第1~第3の態様のいずれか1つにおいて、前記(メタ)アクリルアミドモノマーの分子量が、100以上、900以下である。この構成は、性能がより良好な、水溶性糖類を含む感光性組成物を提供するために、より一層効果的である。
【0084】
本発明の第5の態様に係る感光性組成物は、第1~第4の態様のいずれか1つにおいて、前記水溶性糖類は、前記糖類が備える水酸基の全量を100mol%として、当該水酸基のうちの5mol%以上、60mol%以下が重合性基に変性されてなる。この構成は、性能がより良好な、水溶性糖類を含む感光性組成物を提供するために、より一層効果的である。
【0085】
本発明の第6の態様に係る感光性組成物は、第1~第5の態様のいずれか1つにおいて、水および光反応開始剤をさらに含む。この構成は、性能がより良好な、水溶性糖類を含む感光性組成物を提供するために、より一層効果的である。
【0086】
本発明の第7の態様に係る感光性組成物は、第1~第6の態様のいずれか1つにおいて、界面活性剤をさらに含む。この構成は、性能がより良好な、水溶性糖類を含む感光性組成物を提供するために、より一層効果的である。
【0087】
本発明の第8の態様に係る感光性組成物は、第1~第7の態様のいずれか1つにおいて、反応停止剤をさらに含む。この構成は、性能がより良好な、水溶性糖類を含む感光性組成物を提供するために、より一層効果的である。
【0088】
<付記事項>
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0089】
本発明の一実施例について以下に説明する。本実施例において、種類が異なる糖類を用い、(メタ)アクリル変性された水溶性糖類を製造した。次いで、水溶性糖類および(メタ)アクリルアミドモノマーを含む感光性組成物を製造し、当該感光性組成物の感度を評価した。
【0090】
<主な原料>
原料糖類1:デキストリン(サンエイ糖化株式会社製、商品名「NSD500」)
原料糖類2:難消化性デキストリン(松谷化学工業株式会社製、商品名「ファイバーソル2」)
(メタ)アクリルアミドモノマー1:N,N’-(((2-アクリルアミド-2-((3-アクリルアミドプロポキシ)メチル)プロパン-1,3-ジイル)ビス(オキシ))ビス(プロパン-1,3-ジイル))ジアクリルアミド(富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名「FOM-03006」)
(メタ)アクリルアミドモノマー2:N,N’,N’’-トリアクリロイジエチレントリアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名「FOM-03007」)
(メタ)アクリルアミドモノマー3:N,N’-ジアクリロイル-4,7,10-トリオキサ-1,13-トリデカンジアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名「FOM-03008」)
(メタ)アクリルアミドモノマー4:N,N’,N’’,N’’’-テトラアクリロイルトリエチレンテトラアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名「FOM-03009」)
【0091】
<感光性組成物の製造>
〔実施例1〕
温度計、撹拌機および冷却管を備えた内容量1Lの反応容器に原料糖類1を100.0g、N-メチルピロリドンを185.7g加え、0mmHgの真空下で系内温度を40℃まで昇温させ、系内に残留する水を除去した。次いで、系内温度を15℃まで冷却した後、系内温度が15℃を超えないように冷却しながら、アクリル酸クロリド50.4g(0.56mol)を2時間かけて滴下した。滴下後、系内温度15℃にて、2時間反応を継続させた。
【0092】
次いで、トリエチルアミンを56.2g(0.56mol)加えて中和し、中和塩および反応で使用したN-メチルピロリドンを精製除去した。次いで、原料糖類1のアクリル酸変性物の系内含有量が35重量%になるようにイオン交換水を加え、アクリル基への変性率が30%(理論値)である水溶性糖類1を含む水ワニス1を得た。
【0093】
水ワニス1に対して、光反応開始剤1(IGM Resins B.V.社製、商品名「Omnirad 2959」)、および(メタ)アクリルアミドモノマー1、2、3または4を加え、感光性組成物1-15、1-110、1-25、1-210、1-35、1-310、1-45および1-410を得た。得られた感光性組成物中の水溶性糖類1、光反応開始剤1および(メタ)アクリルアミドモノマーの組成比を、水溶性糖類1の含有量を100重量部として、下記表1に示す。
【0094】
〔比較例1〕
水ワニス1に対して、光反応開始剤1のみを加え、感光性組成物1-Cを得た。得られた感光性組成物中の水溶性糖類1および光反応開始剤1の組成比を、水溶性糖類1の含有量を100重量部として、下記表1に示す。
【0095】
〔実施例2〕
100.0gの原料糖類1の代わりに100.0gの原料糖類2を使用したことを除いて、実施例1と同一の方法によって、アクリル基への変性率が30%(理論値)である水溶性糖類2を含む水ワニス2を得た。
【0096】
水ワニス2に対して、光反応開始剤1、および(メタ)アクリルアミドモノマー1、2、3または4を加え、感光性組成物2-11、2-15、2-110、2-21、2-25、2-210、2-31、2-35、2-41、2-45および2-410を得た。得られた感光性組成物中の水溶性糖類2、光反応開始剤1および(メタ)アクリルアミドモノマーの組成比を、水溶性糖類2の含有量を100重量部として、下記表1に示す。
【0097】
〔比較例2〕
水ワニス2に対して、光反応開始剤1のみを加え、感光性組成物2-Cを得た。得られた感光性組成物中の水溶性糖類1および光反応開始剤1の組成比を、水溶性糖類1の含有量を100重量部として、下記表1に示す。
【0098】
〔実施例3〕
アクリル酸クロリド50.4g(0.56mol)の代わりにアクリル酸クロリド16.8g(0.19mol)を使用したことを除いて、実施例1と同一の方法によって、アクリル基への変性率が10%(理論値)である水溶性糖類3を含む水ワニス3を得た。
【0099】
水ワニス3に対して、光反応開始剤1、および(メタ)アクリルアミドモノマー2を加え、感光性組成物3-210、3-215、3-220、3-225および3-230を得た。得られた感光性組成物中の水溶性糖類3、光反応開始剤1および(メタ)アクリルアミドモノマーの組成比を、水溶性糖類3の含有量を100重量部として、下記表1に示す。
【0100】
〔比較例3〕
水ワニス3に対して、光反応開始剤1のみを加え、感光性組成物3-Cを得た。得られた感光性組成物中の水溶性糖類3および光反応開始剤1の組成比を、水溶性糖類3の含有量を100重量部として、下記表1に示す。
【0101】
〔実施例4〕
アクリル酸クロリド50.4g(0.56mol)の代わりにアクリル酸クロリド33.6g(0.37mol)を使用したことを除いて、実施例2と同一の方法によって、アクリル基への変性率が20%(理論値)である水溶性糖類4を含む水ワニス4を得た。
【0102】
水ワニス4に対して、光反応開始剤1、および(メタ)アクリルアミドモノマー2を加え、感光性組成物4-210、4-220、および4-230を得た。得られた感光性組成物中の水溶性糖類4、光反応開始剤1および(メタ)アクリルアミドモノマーの組成比を、水溶性糖類4の含有量を100重量部として、下記表1に示す。
【0103】
〔比較例4〕
水ワニス4に対して、光反応開始剤1のみを加え、感光性組成物4-Cを得た。得られた感光性組成物中の水溶性糖類4および光反応開始剤1の組成比を、水溶性糖類4の含有量を100重量部として、下記表1に示す。
【0104】
【0105】
<感光性組成物の感度分析>
シリコンウェハー上に感光性組成物1-15を3mL滴下し、スピナー(東京エレクトロン株式会社製、商品名「CLEAN TRACK ACT8」)を用いて、3000rpmで30秒間スピンコートした。次いで、80℃にて60秒間焼成することにより、水を揮発除去した。次いで、マスク密着露光装置(リソテックジャパン株式会社製、商品名「LTCET-500」、光源600mJ/cm2)と感度確認用マスク(Taiyo-ink Corporation:5inch Multi-Transmission Mask)とを用いて、露光量を調整しながら紫外線を照射し、感光性組成物1-15を硬化させた。
【0106】
次いで、硬化膜を現像液である純水に90秒間浸漬し、硬化膜における未硬化部分を除去、すなわち現像を行った。現像前後における硬化膜の膜厚を測定し、下記式に基づいて、残膜率を算出した。残膜率が高いほど、感光性組成物が光照射によって硬化しやすく、感度が高いと考えることができる。
残膜率(%)=現像後の硬化膜の膜厚/現像前の硬化膜の膜厚×100
【0107】
なお、露光量の調整は、部分ごとに透光率が異なる透光窓を有する1枚の感度確認用マスクと、マスク密着露光装置とを用いて、行われた。マスク密着露光装置の露光量は、透光窓の透光率によらず、装着された感度確認用マスクの端部に近いほど小さく、中心部に近いほど大きい傾向を示した。そのため、当該傾向を鑑み、所定の露光量が得られたと判断された部分に対応するデータを、分析対象として選択した。ここで、所定の露光量とは、
図1に示すグラフ横軸に示す露光量を意味する。
【0108】
感光性組成物1-15以外の感光性組成物についても、感光性組成物1-15と同様に、残膜率を分析した。
【0109】
残膜率の分析結果を、(メタ)アクリルアミドモノマーの含有量ごとに、
図1、
図2、
図3および
図4に示す。
図1は、本発明の実施例1および比較例1によって製造された感光性組成物1-15、1-110、1-25、1-210、1-35、1-310、1-45および1-410、ならびに1-Cの感度分析の結果を示すグラフである。
図2は、本発明の実施例2および比較例2によって製造された感光性組成物2-11、2-15、2-110、2-21、2-25、2-210、2-31、2-35、2-41、2-45および2-410、ならびに2-Cの感度分析の結果を示すグラフである。
図3は、本発明の実施例3および比較例3によって製造された感光性組成物3-210、3-215、3-220、3-225および3-230、ならびに3-Cの感度分析の結果を示すグラフである。
図4は、本発明の実施例4および比較例4によって製造された感光性組成物4-210、4-220、および4-230、ならびに4-Cの感度分析の結果を示すグラフである。
【0110】
<アスペクト比分析>
シリコンウェハー上に感光性組成物1-15を3mL滴下し、スピナー(東京エレクトロン株式会社製、商品名「CLEAN TRACK ACT8」)を用いて、3000rpmで30秒間スピンコートした。次いで、80℃にて60秒間焼成することにより、水を揮発除去した。次いで、マスク密着露光装置に紫外線透過・可視線吸収フィルタ(U330、HOYA株式会社)および解像度テストフォトマスク(CHART-NO1-P,線幅1μm;リソテックジャパン株式会社製)を装着し、10、50または600mJ/cm2で、シリコンウェハー上の乾燥した塗工膜に紫外線照射した。次いで、塗工膜に紫外線照射した後のシリコンウェハーを現像液である純水に90秒間浸漬し、塗工膜のうち、硬化していない部分を除去することによって、シリコンウェハー上の硬化膜に周期的に繰り返される直線状のパターンを形成した。
【0111】
シリコンウェハーの表面を電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ株式会社Regulus)で観察し、パターンの線幅(パターン幅)および高さを測定し、下記式に基づいて、アスペクト比を算出した。アスペクト比が高いほど、感光性組成物は微細加工に適していると考えることができる。
アスペクト比=高さ/パターン幅
【0112】
感光性組成物1-Cについても、感光性組成物1-15と同様に、アスペクト比を分析した。なお、感光性組成物1-Cを用いたアスペクト比分析においては、露光量10および50mJ/cm2の条件では、塗工膜が十分に硬化しなかったため、アスペクト比を分析できなかった。
【0113】
アスペクト比の分析結果を下記表2に示す。また、アスペクト比分析において撮影された電子顕微鏡写真を
図5に示す。
【0114】
【0115】
<議論>
図1に示すように、水溶性糖類1および(メタ)アクリルアミドモノマーを含む感光性組成物1-15、1-110、1-25、1-210、1-35、1-310、1-45および1-410は、水溶性糖類1を含むが(メタ)アクリルアミドモノマーを含まない感光性組成物1-Cと比較して、高い感度を示した。このような傾向は、
図2に示すように、水溶性糖類2を含む感光性組成物でも見られた。
【0116】
図3に示すように、(メタ)アクリルアミドモノマーと、水溶性糖類1(変性率30%)と比較して低い変性率10%を有する水溶性糖類3とを含む感光性組成物もまた、水溶性糖類3を含むが(メタ)アクリルアミドモノマーを含まない感光性組成物3-Cと比較して、高い感度を示した。このような傾向は、
図4に示すように、水溶性糖類4を含む感光性組成物でも見られた。特に、感光性組成物4-Cは、露光量600mJ/cm
2の条件であっても硬化せず、その塗工膜全体が現像液である水に溶けてしまった。対して、感光性組成物4-210、4-220および4-230は、露光量約100mJ/cm
2の条件で残膜率を示した。
【0117】
(メタ)アクリルアミドモノマーを含む感光性組成物は、(メタ)アクリルアミドモノマーを含まない感光性組成物が露光量600mJ/cm
2の光照射によって達成する残膜率を、露光量約50mJ/cm
2の光照射によって達成することができる。少ない露光量で高い残膜率を達成する本発明の一態様に係る感光性組成物は、光照射中の光反射によって塗工膜のうち硬化が意図されない部分が硬化してしまう現象を低減することができ、したがって向上した微細加工性を示す。本発明の一態様に係る感光性組成物が有する向上した微細加工性は、表2および
図5によっても示されている。
【0118】
原料糖類としてデキストリンを用いて製造された水溶性糖類1を含む感光性組成物のなかでも、(メタ)アクリルアミドモノマー3を含む感光性組成物1-35および1-310が、同量の他の(メタ)アクリルアミドモノマーを含む感光性組成物と比較して、高い感度を示した。対して、原料糖類として難消化性デキストリンを用いて製造された水溶性糖類2を含む感光性組成物のなかでも、(メタ)アクリルアミドモノマー2を含む感光性組成物2-21、2-25および2-210が、同量の他の(メタ)アクリルアミドモノマーを含む感光性組成物と比較して、高い感度を示した。このことから、原料糖類に由来する糖鎖の構造に応じて(メタ)アクリルアミドモノマーの種類を選択することによって、感度をより向上させることができることが分かった。