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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049132
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】水電解装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/02 20210101AFI20240402BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240402BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240402BHJP
【FI】
C25B15/02
C25B9/00 A
C25B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155409
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】小川 祥太
(72)【発明者】
【氏名】八巻 昌宏
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BC03
4K021BC04
4K021BC05
4K021CA08
4K021CA10
4K021CA12
4K021CA13
4K021DC03
(57)【要約】
【課題】循環ポンプの回転速度を調整し、水電解装置の消費電力を低減する。
【解決手段】水電解装置(100)は、水を電解する電解槽(20)と、酸素気液分離器(22)から電解槽(20)へ水を供給する水循環ライン(23)に設置される循環ポンプ(27)と、循環ポンプ(27)へ給電するインバータ(50)と、インバータ(50)を制御して水循環ライン(23)の循環水流量を変更する制御部(60)とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を電解する電解槽と、
前記電解槽で発生した気体と水とを分離する気液分離器と、
前記気液分離器から前記電解槽へ水を供給することにより水を循環させる水循環ラインに設置される循環ポンプと、
前記循環ポンプに接続され、該循環ポンプへ給電するインバータと、
前記インバータを制御して、前記水循環ラインの循環水流量を変更する制御部と、
を備える水電解装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記循環ポンプの消費電力と前記電解槽の発熱量とに基づいて、前記循環水流量を変更する請求項1に記載の水電解装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記電解槽の発熱量と前記電解槽における循環水の入口と出口との温度差の設定値とに基づいて、前記循環水流量を変更する請求項1に記載の水電解装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記循環ポンプと前記電解槽との合計消費電力を算出し、該合計消費電力が小さくなるように前記循環水流量を変更する請求項2に記載の水電解装置。
【請求項5】
前記制御部は、算出した前記合計消費電力と過去の前記合計消費電力とを比較し、算出した前記合計消費電力と過去の前記合計消費電力とが異なる場合、前記循環水流量を変更する請求項4に記載の水電解装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記電解槽における循環水の出口温度が閾値温度より高いか否かを判定し、判定結果に基づいて前記循環水流量を変更する請求項1から5のいずれか1項に記載の水電解装置。
【請求項7】
前記制御部は、過去の前記循環水流量、過去の前記電解槽の発熱量及び過去の前記循環ポンプの消費電力の履歴情報に基づいて、前記循環水流量を変更する請求項4に記載の水電解装置。
【請求項8】
前記制御部は、算出した前記合計消費電力を前記循環水流量で表す関数の微分値に基づいて、前記循環水流量を変更する請求項4に記載の水電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を電解して水素と酸素とを発生させる水電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自然エネルギーを利用して水素を製造する水電解装置が開発されている。この種の水電解装置では、特許文献1に開示されているように、酸素気液分離器から電解槽へ水を供給することにより水を循環させるための循環ポンプが設置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-173788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、電力変動が大きい不安定な自然エネルギーを利用する場合、電解槽の電解電流が変化するため、電解電流の変化等に合わせて循環水流量を変更することが望ましい。しかしながら、従来では循環ポンプは回転速度が一定に制御されていたため、低負荷運転時には循環水流量が過大となり、総合的なエネルギー効率が低下する可能性があった。
【0005】
本発明の一態様は、前記従来の課題に鑑みてなされたものであって、循環ポンプの回転速度を調整して循環水流量を変更することにより、水電解装置の消費電力を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る水電解装置は、水を電解する電解槽と、前記電解槽で発生した気体と水とを分離する気液分離器と、前記気液分離器から前記電解槽へ水を供給することにより水を循環させる水循環ラインに設置される循環ポンプと、前記循環ポンプに接続され、該循環ポンプへ給電するインバータと、前記インバータを制御して、前記水循環ラインの循環水流量を変更する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、循環ポンプの回転速度を調整して循環水流量を変更することにより、水電解装置の消費電力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る水電解装置の概略構成を示す構成図である。
図2】前記水電解装置が実行する循環水流量変更制御の一例を示すフローチャートである。
図3図2に示されるステップS5で算出される合計消費電力の一例を示すグラフである。
図4図2に示されるステップS9における制御の一例を示すグラフである。
図5図2に示されるステップS10における制御の一例を示すグラフである。
図6図2に示されるステップS12における制御の一例を示すグラフである。
図7図2に示されるステップS13における制御の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔水電解装置100の構成〕
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。ただし、以下の説明は本発明に係る水電解装置の一例であり、本発明の技術的範囲は図示例に限定されるものではない。
【0010】
(水電解装置の構成)
先ず、本発明の一実施形態に係る水電解装置100の構成例について、図1に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る水電解装置100の概略構成を示す構成図である。本実施形態に係る水電解装置100は、電解槽20において純水を電気分解し、水素(H)と酸素(O)とを発生させる。
【0011】
図1に示すように、水電解装置100は、電解槽20と、水素気液分離器21と、酸素気液分離器(気液分離器)22と、水循環ライン23と、第1イオン交換器24と、純水タンク25と、分岐ライン41と、第2イオン交換器43とを含む。また、水電解装置100は、水循環ライン23に設置される循環ポンプ27と、循環ポンプ27に接続されるインバータ50と、インバータ50を含む水電解装置100全体の動作を制御する制御部60とを含む。制御部60は、インバータ50を制御して循環ポンプ27の回転速度を調整することにより、水循環ライン23を循環する循環水流量を変更する。これにより、制御部60は、循環水流量を最適化して、水電解装置100の消費電力を低減する。
【0012】
水循環ライン23は、水素気液分離器21及び酸素気液分離器22から電解槽20へ水を循環させるラインである。水循環ライン23には、水を循環させるための循環ポンプ27と、電解槽20へ供給する前に循環水を冷却する循環水冷却器(熱交換器)28とが設置される。図示の例では、循環ポンプ27に対して下流側に循環水冷却器28を設置した場合の構成例、つまり、電解槽20と循環ポンプ27との間に循環水冷却器28を設置した場合の構成例を示す。循環ポンプ27に対して下流側に循環水冷却器28を設置することにより、循環ポンプ27の吐出圧を利用して、循環水が循環水冷却器28を通過し易くなる。また、仮に循環ポンプ27に対して上流側に循環水冷却器28を設置した場合、循環ポンプ27の上流側が低圧になりキャビテーションが発生する可能性がある。このキャビテーションの発生を抑えるために、循環ポンプ27に対して下流側に循環水冷却器28を設置することが好ましい。ただし、循環ポンプ27に対して上流側に循環水冷却器28を設置することも可能である。
【0013】
分岐ライン41は、水循環ライン23の循環水の一部を取り出して処理し、処理後の水を純水タンク25へ送るラインである。分岐ライン41には、水循環ライン23から取り出した循環水を冷却するブロー水冷却器42と、冷却後の水をイオン交換処理する第2イオン交換器43とが設置される。また、ブロー水冷却器42と第2イオン交換器43との間に、分岐ライン41を流れるブロー水の温度を検出するブロー水温度計TT3が設置される。分岐ライン41は、その下流側端部が純水タンク25に接続される。また、分岐ライン41は、水循環ライン23の電解槽20と循環水冷却器28との間に、その上流側端部が接続される。分岐ライン41の上流側には、ブロー弁29が設置される。ブロー弁29の開閉は、水循環ライン23の電解槽20と循環水冷却器28との間に設置される電気伝導度コントローラ30から得られる循環水の電気伝導度によって自動制御される。
【0014】
電解槽20は、水を電解し、陽極に酸素(O)、陰極に水素(H)を発生させる。この電解槽20には、水の電解に必要な電力が供給される。電解槽20へ供給する電力としては、商用電源からの電力のほか、例えば太陽光発電、風力発電等の再生可能エネルギー又はその余剰電力等を使用することができる。電解槽20の陽極で発生した酸素は、酸素気液分離器22へ送られる。また、電解槽20の陰極で発生した水素は水素気液分離器21へ送られる。
【0015】
電解槽20における循環水の入口側には、電解槽20へ供給される循環水の温度を検出する入口温度計TT1が設置される。また、電解槽20における循環水の出口側には、電解槽20から排出される循環水の温度を検出する出口温度計TT2が設置される。さらに、入口温度計TT1に対して上流側には、水循環ライン23を循環する循環水流量を検出する循環水流量計FTが設置される。
【0016】
水電解装置100は、例えば固体高分子電解質膜に電圧を印加して電流を流すことにより純水を電気分解し、水素と酸素とを発生させる固体高分子型水電解装置であってよい。ただし、水電解装置100は、固体高分子型水電解装置に限られず、例えばアルカリ水電解装置、アニオン交換膜型水電解装置等であってもよい。
【0017】
電解槽20の陽極で発生した酸素は、酸素気液分離器22へ送られる。また、電解槽20の陰極で発生した水素は水素気液分離器21へ送られる。水素気液分離器21は、電解槽20の陰極で発生した水素と水とを分離する。また、酸素気液分離器22は、電解槽20の陽極で発生した酸素と水とを分離する。電解槽20から排出される水の大部分が酸素気液分離器22へ送られる。
【0018】
水素気液分離器21と酸素気液分離器22とは、各々の液面レベルが個別に制御されるようになっている。水素気液分離器21の水素の出口経路には、水素冷却器31が設置され、酸素気液分離器22の酸素の出口経路には、酸素冷却器32が設置される。また、酸素気液分離器22から排出された水は、水循環ライン23を経て電解槽20へ再供給されると共に、その一部は分岐ライン41を経て純水タンク25へ送られる。なお、水素気液分離器21と純水タンク25とが配管で繋がれており、この配管を介して水素気液分離器21から排出された水が純水タンク25へ送られるようになっていてもよい。
【0019】
純水タンク25は、電解槽20で電解される水を貯える。純水タンク25には、電解槽20へ新規に供給される供給水(市水等)を第1イオン交換器24によって処理した水が貯えられる。また、純水タンク25には、水循環ライン23から分岐ライン41に取り出した循環水を第2イオン交換器43によって処理された水が貯えられる。純水タンク25と酸素気液分離器22とを繋ぐ配管には、純水タンク25の水を酸素気液分離器22へ送るための供給ポンプ26が設置される。純水タンク25に一旦貯えられた水は、予め設定しておいた酸素気液分離器22のレベルの設定値に合わせて、供給ポンプ26によって酸素気液分離器22へ送られる。
【0020】
水循環ライン23を流れる循環水は、循環水冷却器28で所定温度(例えば65以上70℃以下)に調整されて、循環ポンプ27によって電解槽20へ送られる。分岐ライン41側に循環水を流すための循環水の設定値は例えば1μS/cm以下とされ、それ以上の場合にはブロー弁29が開き、それ未満の場合にはブロー弁29が閉じるようになっている。分岐ライン41に取り出された循環水は、ブロー水冷却器42で常温まで冷却され、第2イオン交換器43へ供給されて電気伝導度が例えば0.5μS/cm以下に処理され、純水タンク25へ供給される。このように、水循環ライン23の循環水の一部を分岐ライン41に取り出して処理することにより、循環水中の不純物含有量を抑えることができる。
【0021】
循環ポンプ27は、水循環ライン23の循環水を電解槽20へ供給することにより水を循環させると共に、循環水冷却器28で冷却した循環水を電解槽20へ供給することにより電解槽20を冷却する。水電解装置100では、循環ポンプ27にインバータ50が接続される。インバータ50から周波数が変換された電力が循環ポンプ27へ供給されることにより、循環ポンプ27の回転速度が調整可能になっている。循環ポンプ27はインバータ50から供給された電力の周波数に応じた回転速度で駆動し、この回転速度に応じて水循環ライン23の循環水流量が増減する。
【0022】
インバータ50は、循環ポンプ27に、周波数を変換した電力を供給する電気回路である。インバータ50には、制御部60から制御信号が入力される。インバータ50は、制御部60により入力された周波数指定信号(電流値信号又は電圧値信号)に対応する周波数の電力を循環ポンプ27に出力し、循環ポンプ27の回転速度を調整する。
【0023】
制御部60は、水電解装置100の動作を統括的に制御する。制御部60は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路によって構成される。
【0024】
制御部60は、例えば電解槽20への給電を制御することにより、電解槽20の運転を制御する。また、制御部60は、例えばインバータ50を制御して循環ポンプ27の回転速度を調整することにより、水循環ライン23の循環水流量を変更する。また、制御部60は、電解槽20の電解運転中において、循環水流量、電解槽20の温度及び循環ポンプ27の消費電力等の各種値を過去の履歴情報としてメモリ(図示省略)に記憶する。
【0025】
なお、図1では、気液分離器として酸素気液分離器22が水循環ライン23に設置される構成例を示した。ただし、酸素気液分離器22に代えて水素気液分離器21が水循環ライン23に設置されてもよく、水素気液分離器21および酸素気液分離器22の双方が水循環ライン23に設置されてもよい。
【0026】
(水電解装置100の制御)
次に、水電解装置100の制御について、図2図7に基づいて説明する。以下では、水電解装置100の制御方法の一例として、水循環ライン23の循環水流量を変更する循環水流量変更制御について説明する。
【0027】
図2は、水電解装置100が実行する循環水流量変更制御の一例を示すフローチャートである。制御部60は、電解槽20の電解運転開始後、図2に示す制御フローを例えばコンマ数秒~数秒周期で繰り返し実行する。なお、以下では、電解槽20の電解運転開始からk回目(kは2以上の自然数)に実行される循環水流量変更制御を例に挙げて説明する。
【0028】
循環水流量変更制御において、制御部60は、電解槽20の発熱量P(k)を算出する(ステップS1)。例えば、制御部60は、電解槽20の電流及び電圧の値(電解槽20の消費電力)と電解槽20の陰極で発生する発生水素量(発生エネルギー)とに基づいて、電解槽20の発熱量P(k)を算出してもよい。
【0029】
次に、制御部60は、電解槽20の循環水の出口温度が閾値温度T(例えば80℃)より高いか否かを判定する(ステップS2)。一般的に電解槽20の温度には上限が設定されており、電解槽20における循環水の出口温度が閾値温度T未満になるように調整される。制御部60は、電解槽20における出口温度が閾値温度Tより高いか否かを判定し、その判定結果に基づいて循環水流量を変更するようになっている。これにより、出口温度に応じた最適な循環水流量制御を実行することが可能となる。
【0030】
電解槽20の出口温度が閾値温度T以下である場合(ステップS2でNo)、制御部60は、水の比熱及び電解槽20の発熱量に基づいて、循環水流量を算出する(ステップS3)。水の比熱CH2O、電解槽20の発熱量P、電解槽20における循環水の入口温度と出口温度との温度差上限(出入口温度差の設定値)ΔT、循環水流量の設定値Nとした場合制御部60は、下記式を用いて循環水流量の設定値Nを算出してもよい。
【数1】
電解槽20の温度差上限ΔTは、電解槽20の出口温度から入口温度を差し引いた出入口温度差の設定値であり、電解槽20の設計仕様、使用条件等に応じて例えば10℃以上15℃以下の範囲で設定される。制御部60は、設定された温度差上限ΔTまで循環水流量が減少する設定値Nを算出する。これにより、循環ポンプ27の回転速度を抑え、消費電力を低減することができる。具体的には、制御部60は、循環水流量が算出した設定値Nになるように、インバータ50を制御して循環ポンプ27の回転速度を調整する。このように、制御部60は、インバータ50を制御して循環水流量を設定値Nへ変更し、循環水流量変更制御を終了する。
【0031】
一方、電解槽20の出口温度が閾値温度Tより高い場合(ステップS2でYes)、制御部60は、循環ポンプ27の消費電力P(k)を計測する(ステップS4)。制御部60は、例えば循環ポンプ27に接続された電力計(図示書略)により循環ポンプ27の消費電力P(k)を計測してもよい。また、制御部60は、例えば循環ポンプ27に接続されたインバータ50の出力電流及び出力電圧に基づき、循環ポンプ27の消費電力を算出してもよい。
【0032】
次に、制御部60は、ステップS4で求めた循環ポンプ27の消費電力P(k)とステップS1で求めた電解槽20の発熱量P(k)とに基づいて、合計消費電力PSUM(k)を算出する(ステップS5)。
【0033】
図3は、ステップS5で算出される合計消費電力PSUM(k)の一例を示すグラフである。図3に示すように、循環ポンプ27の消費電力P(k)が増加すると回転速度が高くなり、これに伴って循環水流量が増加する。通常、循環ポンプ27の消費電力は、循環水流量(回転速度)の3乗に比例する。また、循環水流量が増加すると電解槽20の出口温度の上昇が抑制され、電解槽20の出入口温度差が小さくなる。電解運転中の電解槽20の温度には上限(電解槽温度上限)があり、この電解槽温度上限を考慮すると、前記出入口温度差が小さいほど入口温度を高くすることができるため、電解槽20の消費電力は減少する(つまり、変換効率が上がる)。このため、循環水流量の増加に伴って、電解槽20の発熱量P(k)は減少する。
【0034】
制御部60は、循環ポンプ27の消費電力P(k)と電解槽20の発熱量P(k)とを加算することにより、合計消費電力PSUM(k)を算出する。合計消費電力PSUM(k)は、下側へ凸となる曲線を描き、その頂点が合計消費電力PSUM(k)の最小値を示す最小消費電力Pになる。制御部60は、算出した合計消費電力PSUM(k)をメモリへ記録する。
【0035】
次に、制御部60は、前回(過去)のk-1回目の循環水流量変更制御で求めた合計消費電力PSUM(k-1)をメモリから読み出し、ステップS5で求めた合計消費電力PSUM(k)と前回の合計消費電力PSUM(k-1)とが同じ値であるか否かを判定する(ステップS6)。なお、循環水流量変更制御の動作周期が比較的短い場合(例えば動作周期が0.5秒の場合)、過去の合計消費電力PSUMの値として、前回の合計消費電力PSUM(k-1)に代えて、前前回の合計消費電力PSUM(k-2)等を用いることも可能である。
【0036】
制御部60がインバータ50を制御して循環ポンプ27の回転速度を調整してから循環水流量の変化が実際に確認されるまでには多少のタイムラグが生じ得る。このため、合計消費電力PSUM(k)と前回の合計消費電力PSUM(k-1)とが同じ値である場合(ステップS6でYes)、つまり前回の循環水流量変更制御から合計消費電力PSUMが未だ変化していない場合、制御部60は、前記タイムラグ等を考慮し、循環水流量を変更せずに循環水流量変更制御を終了し、次回以降の循環水流量変更制御で循環水流量を変更するように制御してもよい。
【0037】
一方、合計消費電力PSUM(k)と前回(過去)の合計消費電力PSUM(k-1)とが同じ値でない場合(ステップS6でNo)、制御部60は、合計消費電力PSUM(k)が前回の合計消費電力PSUM(k-1)よりも増加したか否かを判定する(ステップS7)。
【0038】
ステップS7にて、合計消費電力PSUM(k)が前回の合計消費電力PSUM(k-1)以下である場合(ステップS7でNo)、制御部60は、前回のk-1回目の循環水流量変更制御時点における循環水流量N(k-1)をメモリから読み出し、循環水流量N(k)が前回の循環水流量N(k-1)よりも増加したか否かを判定する(ステップS8)。
【0039】
循環水流量N(k)が前回の循環水流量N(k-1)よりも増加している場合(ステップS8でYes)、制御部60は、循環水流量N(k)が増加するようにインバータ50を制御する(ステップS9)。
【0040】
図4は、ステップS9における制御の一例を示すグラフである。図4に示すように、合計消費電力PSUM(k)が前回の合計消費電力PSUM(k-1)より減少(図中矢印A)しており、かつ循環水流量が増加(図中矢印B)している場合、循環水流量N(k)をさらに増加(図中矢印C)させることで、合計消費電力PSUM(k)がより減少(図中矢印D)すると推測される。そこで、制御部60は、ステップS9にて、インバータ50を制御して、循環水流量N(k)を増加させる。図示の例では、制御部60は、インバータ50を制御して、最小消費電力Pの循環水流量である380[L/min]に近づくように循環水流量N(k)を増加させる。これにより、合計消費電力PSUM(k)を最小消費電力Pに近づけることができるため、水電解装置100の消費電力が低減され得る。
【0041】
一方、循環水流量N(k)が前回の循環水流量N(k-1)以下である場合(ステップS8でNo)、制御部60は、循環水流量N(k)が減少するようにインバータ50を制御する(ステップS10)。
【0042】
図5は、ステップS10における制御の一例を示すグラフである。図5に示すように、合計消費電力PSUM(k)が前回の合計消費電力PSUM(k-1)より減少(図中矢印A)しており、かつ循環水流量が減少(図中矢印B)している場合、循環水流量をさらに減少(図中矢印C)させることで、合計消費電力PSUM(k)がより減少(図中矢印D)すると推測される。そこで、制御部60は、ステップS10にて、インバータ50を制御して循環水流量N(k)を減少させる。これにより、合計消費電力PSUM(k)を最小消費電力Pに近づけることができるため、水電解装置100の消費電力が低減され得る。
【0043】
また、前記ステップS7にて、合計消費電力PSUM(k)が前回の合計消費電力PSUM(k-1)よりも増加している場合(ステップS7でYes)、制御部60は、前回のk-1回目の循環水流量変更制御時点における循環水流量N(k-1)をメモリから読み出し、循環水流量N(k)が前回の循環水流量N(k-1)よりも増加したか否かを判定する(ステップS11)。
【0044】
循環水流量N(k)が前回の循環水流量N(k-1)よりも増加している場合(ステップS11でYes)、制御部60は、循環水流量N(k)が減少するようにインバータ50を制御する(ステップS12)。
【0045】
図6は、ステップS12における制御の一例を示すグラフである。図6に示すように、合計消費電力PSUM(k)が前回の合計消費電力PSUM(k-1)より増加(図中矢印A)しており、かつ循環水流量が増加(図中矢印B)している場合、循環水流量を減少(図中矢印C)させることで、合計消費電力PSUM(k)が減少(図中矢印D)すると推測される。そこで、制御部60は、ステップS12にて、インバータ50を制御して循環水流量N(k)を減少させる。これにより、合計消費電力PSUM(k)を最小消費電力Pに近づけることができるため、水電解装置100の消費電力が低減され得る。
【0046】
一方、循環水流量N(k)が前回の循環水流量N(k-1)以下である場合(ステップS11でNo)、制御部60は、循環水流量N(k)が増加するようにインバータ50を制御する(ステップS13)。
【0047】
図7は、ステップS13における制御の一例を示すグラフである。図7に示すように、合計消費電力PSUM(k)が前回の合計消費電力PSUM(k-1)より増加(図中矢印A)しており、かつ循環水流量が減少(図中矢印B)している場合、循環水流量を増加(図中矢印C)させることで、合計消費電力PSUM(k)が減少(図中矢印D)すると推測される。そこで、制御部60は、ステップS13にて、インバータ50を制御して循環水流量N(k)を増加させる。これにより、合計消費電力PSUM(k)を最小消費電力Pに近づけることができるため、水電解装置100の消費電力が低減され得る。
【0048】
〔水電解装置100の効果〕
以上のように、本実施形態に係る水電解装置100は、水を電解する電解槽20と、電解槽20で発生した酸素と水とを分離する酸素気液分離器22と、酸素気液分離器22から電解槽20へ水を供給することにより水を循環させる水循環ライン23に設置される循環ポンプ27と、循環ポンプ27に接続され該循環ポンプ27へ給電するインバータ50と、インバータ50を制御して水循環ライン23の循環水流量を変更する制御部60と、を備える。
【0049】
本実施形態によれば、循環ポンプ27の回転速度を調整して循環水流量を最適化することにより、水電解装置100の消費電力を低減することができる。また、本実施形態によれば、水電解装置100の消費電力を低減することができるため、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標7「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する(再生可能エネルギー等)」等の達成にも貢献するものである。
【0050】
〔変形例〕
上述の説明では、制御部60は、ステップS5以降の処理において、合計消費電力PSUM(k)が最小消費電力Pに近づくように循環水流量を変更する制御例について説明した。この制御に代えて、制御部60は、以下の制御により、循環水流量を変更することも可能である。
【0051】
(変形例1)
制御部60は、過去の履歴情報に基づいて循環水流量を変更してもよい。例えば、制御部60は、過去の循環水流量、過去の電解槽20の発熱量及び過去の循環ポンプ27の消費電力等の履歴情報に基づいて、循環水流量を変更してもよい。表1は、メモリに記憶される履歴情報の一例を示す表である。
【表1】
表1に示すように、履歴情報には、過去の循環ポンプ27の消費電力、過去の電解槽20の発熱量、過去の合計消費電力、及び過去の循環水流量等が含まれる。制御部60は、循環水流量を変更する際、履歴情報の中から合計消費電力が最小となる循環ポンプ27の消費電力と電解槽20の発熱量との組合せ(表中No1)を抽出し、抽出した組合せにおける循環水流量に近づくように循環水流量を変更してもよい。このように、過去の履歴情報に基づいて循環水流量を最適化することにより、循環水流量変更制御における制御部60の処理量を低減することができる。
【0052】
(変形例2)
また、制御部60は、算出した合計消費電力を循環水流量で表す関数の微分値に基づいて、循環水流量を変更してもよい。合計消費電力を循環水流量の関数P=F(N)で表した場合、Nでの微分値P’=f’(N)は、図3に示す合計消費電力PSUM(k)の曲線の傾きを表す。従って、微分値P’が正(+)である場合、循環水流量を増加させると合計消費電力が増加する。このため、制御部60は、微分値P’が正である場合、循環水流量が減少するようにインバータ50を制御する。一方、微分値P’が負(-)である場合、循環水流量を増加させると合計消費電力が減少する。このため、制御部60は、微分値P’が負である場合、循環水流量が増加するようにインバータ50を制御する。この微分値P’の絶対値が大きい場合、曲線の傾きが大きくなる。このため、循環水流量の変更量が大きくなり、合計消費電力を早期に最小消費電力Pに近づけることができる。
【0053】
例えば、負の定数C、現在の循環水流量N(k)とした場合、下記式を用いることで合計消費電力を最小化する循環水流量N(k+1)を決定することができる。
【数2】
このように、制御部60は、合計消費電力を循環水流量で表す関数の微分値を用いた演算により循環水流量を算出し、循環水流量を最適化してもよい。
【0054】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る水電解装置は、水を電解する電解槽と、前記電解槽で発生した気体と水とを分離する気液分離器と、前記気液分離器から前記電解槽へ水を供給することにより水を循環させる水循環ラインに設置される循環ポンプと、前記循環ポンプに接続され、該循環ポンプへ給電するインバータと、前記インバータを制御して、前記水循環ラインの循環水流量を変更する制御部と、を備える。
【0055】
また、本発明の態様2に係る水電解装置では、前記態様1において、前記制御部は、前記循環ポンプの消費電力と前記電解槽の発熱量とに基づいて、前記循環水流量を変更してもよい。
【0056】
また、本発明の態様3に係る水電解装置では、前記態様1において、前記制御部は、前記電解槽の発熱量と前記電解槽における循環水の入口と出口との温度差の設定値とに基づいて、前記循環水流量を変更してもよい。
【0057】
また、本発明の態様4に係る水電解装置では、前記態様2において、前記制御部は、前記循環ポンプと前記電解槽との合計消費電力を算出し、該合計消費電力が小さくなるように前記循環水流量を変更してもよい。
【0058】
また、本発明の態様5に係る水電解装置では、前記態様4において、前記制御部は、算出した前記合計消費電力と過去の前記合計消費電力とを比較し、算出した前記合計消費電力と過去の前記合計消費電力とが異なる場合、前記循環水流量を変更してもよい。
【0059】
また、本発明の態様6に係る水電解装置では、前記態様1から5のいずれかにおいて、前記制御部は、前記電解槽における循環水の出口温度が閾値温度より高いか否かを判定し、判定結果に基づいて前記循環水流量を変更してもよい。
【0060】
また、本発明の態様7に係る水電解装置では、前記態様4において、前記制御部は、過去の前記循環水流量、過去の前記電解槽の発熱量及び過去の前記循環ポンプの消費電力の履歴情報に基づいて、前記循環水流量を変更してもよい。
【0061】
また、本発明の態様8に係る水電解装置では、前記態様4において、前記制御部は、算出した前記合計消費電力を前記循環水流量で表す関数の微分値に基づいて、前記循環水流量を変更してもよい。
【0062】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
20:電解槽
22:酸素気液分離器(気液分離器)
23:水循環ライン
27:循環ポンプ
50:インバータ
60:制御部
100:水電解装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7