(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049136
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】変位計測構造
(51)【国際特許分類】
G01B 11/00 20060101AFI20240402BHJP
【FI】
G01B11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155415
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】平 陽兵
(72)【発明者】
【氏名】大窪 一正
(72)【発明者】
【氏名】十川 貴行
(72)【発明者】
【氏名】玉野 慶吾
(72)【発明者】
【氏名】今井 道男
(72)【発明者】
【氏名】岡本 圭司
(72)【発明者】
【氏名】藤原 航太郎
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA06
2F065AA09
2F065AA20
2F065AA22
2F065AA37
2F065AA65
2F065CC14
2F065EE01
2F065FF41
2F065LL02
(57)【要約】
【課題】連結構造物における構造物同士の比較的複雑な相対変位を検知可能とする変位計測構造を提供する。
【解決手段】変位計測構造1は、ボックスカルバート5A,5Bの接合面7,7同士を突合わせて連結されてなる下水道函渠3においてボックスカルバート5A,5B同士の相対的な変位を計測する変位計測構造であって、ボックスカルバート5A,5B同士の目地部9を跨いで延在する自由長部分23を含む光ファイバケーブル17を少なくとも3本備え、各々の自由長部分23は、一端部23aにおいてボックスカルバート5A側の固定点18Aに固定され、他端部23bにおいてボックスカルバート5B側の固定点18Bに固定され、固定点18Aと固定点18Bとの間の距離の変動に応じて弾性的に伸縮する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の接合面同士を突合わせて連結されてなる連結構造物において前記構造物同士の相対的な変位を計測する変位計測構造であって、
前記構造物同士の連結部を跨いで延在する自由長部分を含む光ファイバを少なくとも3本備え、
各々の前記自由長部分は、
一端部において一方の前記構造物側の固定点に固定され、他端部において他方の前記構造物側の固定点に固定され、
一方の前記固定点と他方の前記固定点との間の距離の変動に応じて弾性的に伸縮する、変位計測構造。
【請求項2】
前記連結構造物は、前記接合面に直交する方向に延びる周面をもつ柱状をなし、
前記周面の一部であり前記接合面に直交する平面をなす1つの外側面に沿って3本の前記自由長部分が設置されており、
それぞれの前記自由長部分の伸縮に基づいて、前記外側面に平行な面内における前記構造物同士の相対的な変位が計測される、請求項1に記載の変位計測構造。
【請求項3】
前記連結構造物は四角柱状をなし、前記外側面は、前記接合面に直交する4つの四角柱外側面のうちの1つである、請求項2に記載の変位計測構造。
【請求項4】
前記連結構造物は、前記接合面に直交する方向に延びる周面をもつ柱状をなし、
3本の前記自由長部分のすべてが同一平面上に位置しないように、前記周面に沿って3本の前記自由長部分が設置されており、
それぞれの前記自由長部分の伸縮に基づいて、前記接合面に直交する方向における前記構造物同士の相対的な並進的な変位と、前記接合面に平行であり互いに直交する2軸周りにおける前記構造物同士の相対的な回転変位と、が計測される、請求項1に記載の変位計測構造。
【請求項5】
一方の前記構造物と他方の前記構造物とのそれぞれにおいて前記周面から面外に突出するように設けられた光ファイバ保持部を備え、
一方の前記構造物の前記光ファイバ保持部に前記自由長部分の前記一端部側が固定され、
他方の前記構造物の前記光ファイバ保持部に前記自由長部分の前記他端部側が固定されている、請求項2~4の何れか1項に記載の変位計測構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変位計測構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、連結構造物を構成する構造物同士の相対的な変位を計測する変位計測構造として、下記の特許文献1に記載のものが知られている。この変位計測構造は、OTDR測定装置に接続された光ファイバケーブルが、狭窄溝を通過しながら、各構造物に設けられた突起に引っ掛かるようにして構造物同士の間に張り渡されたものである。構造物同士が相対的に変位すると、光ファイバケーブルが突起同士の間で伸長したり狭窄溝の壁に接触して屈折したりすることで、構造物同士の変位を検出することができる。構造物同士が左右方向、上下方向、前後方向、のいずれの方向に相対変位した場合にも上記変位計測構造により変位を検出することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この変位計測構造によれば、構造物同士の左右方向、上下方向、前後方向の相対変位が組み合わせて同時に発生したり、また、構造物同士の相対的な回転変位が生じたりするような複雑な場合には、相対変位の状況を把握することは出来ないと考えられる。本発明は、連結構造物における構造物同士の比較的複雑な相対変位を検知可能とする変位計測構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は次の通りである。
【0006】
〔1〕構造物の接合面同士を突合わせて連結されてなる連結構造物において前記構造物同士の相対的な変位を計測する変位計測構造であって、前記構造物同士の連結部を跨いで延在する自由長部分を含む光ファイバを少なくとも3本備え、各々の前記自由長部分は、一端部において一方の前記構造物側の固定点に固定され、他端部において他方の前記構造物側の固定点に固定され、一方の前記固定点と他方の前記固定点との間の距離の変動に応じて弾性的に伸縮する、変位計測構造。
【0007】
〔2〕前記連結構造物は、前記接合面に直交する方向に延びる周面をもつ柱状をなし、前記周面の一部であり前記接合面に直交する平面をなす1つの外側面に沿って3本の前記自由長部分が設置されており、それぞれの前記自由長部分の伸縮に基づいて、前記外側面に平行な面内における前記構造物同士の相対的な変位が計測される、〔1〕に記載の変位計測構造。
【0008】
〔3〕前記連結構造物は四角柱状をなし、前記外側面は、前記接合面に直交する4つの四角柱外側面のうちの1つである、〔1〕又は〔2〕に記載の変位計測構造。
【0009】
〔4〕前記連結構造物は、前記接合面に直交する方向に延びる周面をもつ柱状をなし、3本の前記自由長部分のすべてが同一平面上に位置しないように、前記周面に沿って3本の前記自由長部分が設置されており、それぞれの前記自由長部分の伸縮に基づいて、前記接合面に直交する方向における前記構造物同士の相対的な並進的な変位と、前記接合面に平行であり互いに直交する2軸周りにおける前記構造物同士の相対的な回転変位と、が計測される、〔1〕に記載の変位計測構造。
【0010】
〔5〕一方の前記構造物と他方の前記構造物とのそれぞれにおいて前記周面から面外に突出するように設けられた光ファイバ保持部を備え、一方の前記構造物の前記光ファイバ保持部に前記自由長部分の前記一端部側が固定され、他方の前記構造物の前記光ファイバ保持部に前記自由長部分の前記他端部側が固定されている、〔2〕~〔4〕の何れかに記載の変位計測構造。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、連結構造物における構造物同士の比較的複雑な相対変位を検知可能とする変位計測構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る変位計測構造が計測対象とする下水道函渠の斜視図である。
【
図2】変位計測構造の1つのひずみセンサ部を模式的に示す側面図である。
【
図3】変位計測構造の第1実施形態を示す斜視図である。
【
図4】(a)は、外側面に沿って設置された3本の自由長部分をモデル化して示す平面図であり、(b)は、当該モデルにおいてボックスカルバート同士の相対変位後の状態を示す平面図である。
【
図5】変位計測構造の第2実施形態を示す斜視図である。
【
図6】変位計測構造の第3実施形態を示す斜視図である。
【
図7】変位計測構造の第4実施形態を示す斜視図である。
【
図8】(a),(b)は、変位計測構造の各変形例をモデル化して示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔第1実施形態〕
以下、図面を参照しながら本発明に係る変位計測構造の第1実施形態について詳細に説明する。
図1に示されるように、本実施形態の変位計測構造が計測対象とする連結構造物は、地中に埋設された既設の下水道函渠3である。下水道函渠3は内部に中空の水路3aが形成された四角柱状をなし、同様の四角柱状をなす複数のボックスカルバート5が長手方向に連結されて形成される。ボックスカルバート5は、例えば、高さ約3m、幅約3m、長さ約25mのものである。隣接するボックスカルバート5同士は、長手方向端部の接合面7,7同士を突合わせるようにして連結されており、連結部としての目地部9が形成されている。この目地部9においては、接合面7,7の周囲を囲むように巻き立てコンクリート部11が形成されている。
【0014】
下水道函渠3においては、目地部9を挟んで隣接するボックスカルバート5同士が、外力の作用や温度変化による収縮・膨張に起因して相対的に変位し、目地部9が開くといった事象が生じ得る。なお、ここでは、ボックスカルバート5自体には変形は生じないものとする。上記の外力としては、下水道函渠3の近傍の工事に起因する地盤の変動による力や、水路3aを流通する下水の重量により下水道函渠3に作用する力や、下水道函渠3の近傍の地盤沈下による力などが考えられる。
【0015】
以下において、説明に係る目地部9を挟んで隣接する2つのボックスカルバート5を区別する場合には、一方をボックスカルバート5Aとし、他方をボックスカルバート5Bとする。また、図に示されるように、ボックスカルバート5A,5Bの接合面7,7の中心を原点として下水道函渠3の幅方向にX軸、長手方向にY軸、及び高さ方向にZ軸を取った直交座標系を設定しX,Y,Z等を説明に用いる場合がある。本実施形態では、Z軸は鉛直軸でありXY平面が水平面であるものとする。また、ボックスカルバート5Aに対するボックスカルバート5Bの相対的な変位の各成分に関して、
X方向への並進的な変位をΔx、
Y方向への並進的な変位をΔy、
Z方向への並進的な変位をΔz、
X軸周りの回転変位をθx、
Y軸周りの回転変位をθy、
Z軸周りの回転変位をθz、とする。
【0016】
上記のようなボックスカルバート5同士の相対変位を検知するために、変位計測構造1(
図3参照)が、下水道函渠3の外周面13に沿った位置に目地部9ごとに構築される。
図1においては変位計測構造1の図示は省略されている。なお、下水道函渠3が四角柱状をなすことから、下水道函渠3の外周面13は、接合面7に直交する4つの四角柱外側面13c,13d,13e,13fで構成される。このうち外側面13cは下水道函渠3の上面をなす水平面である。
【0017】
(ひずみセンサ部)
各目地部9に構築される変位計測構造1(
図3参照)は、
図2に示されるようなひずみセンサ部15を複数備えている。
図2は、1つのひずみセンサ部15を模式的に示す側面図である。図に示されるように、ひずみセンサ部15は1本の光ファイバケーブル17を有している。光ファイバケーブル17は、例えば、光ファイバ素線の周囲に熱可塑性樹脂層が被覆されてなる光ファイバ心線であってもよい。またひずみセンサ部15は、光ファイバケーブル17を保持し案内する2つの光ファイバ保持部19A,19Bを有している。光ファイバ保持部19Aは、ボックスカルバート5A上の外側面13cに設けられ、光ファイバ保持部19Bは、ボックスカルバート5B上の外側面13cに設けられている。これらの光ファイバ保持部19A,19Bは、巻き立てコンクリート部11を越える高さまで各外側面13cから垂直に面外に突出している。
【0018】
ひずみセンサ部15の光ファイバケーブル17は、ボックスカルバート5Aの外側面13cからボックスカルバート5Bの外側面13cまでに亘って延びている。光ファイバケーブル17は外側面13c上に固定されてもよい。ボックスカルバート5Aからボックスカルバート5Bに亘る途中において、光ファイバケーブル17は、光ファイバ保持部19A,19Bを通過することで外側面13cから面外に持ち上げられるように曲がっている。そして光ファイバケーブル17は、光ファイバ保持部19Aと光ファイバ保持部19Bとの間においては、巻き立てコンクリート部11を跨いで越えるように外側面13cから離れて延在している。上記のように、目地部9近傍で光ファイバケーブル17を滑らかな経路で曲げるために、光ファイバ保持部19A,19Bには、スロープ状ガイド部21が設けられている。スロープ状ガイド部21は光ファイバケーブル17をガイドする傾斜面をなし、目地部9に近づくにつれて徐々に外側面13cから離れるように傾斜している。スロープ状ガイド部21の形状は、光ファイバケーブル17の計測性能を阻害しない曲げ半径(例えば、光ファイバケーブルの直径の2倍以上の曲げ半径)が確保できるように設定されている。
【0019】
光ファイバケーブル17は、少なくとも光ファイバ保持部19Aの目地部9側の端部において当該光ファイバ保持部19Aに固定されている。同様に、光ファイバケーブル17は、少なくとも光ファイバ保持部19Bの目地部9側の端部において当該光ファイバ保持部19Bに固定されている。以下では、光ファイバ保持部19Aの目地部9側の端部における光ファイバケーブル17の固定点を「固定点18A」とし、光ファイバ保持部19Bの目地部9側の端部における光ファイバケーブル17の固定点を「固定点18B」とする。光ファイバケーブル17は、固定点18A,18B以外の箇所においても、光ファイバ保持部19A及び光ファイバ保持部19Bに接着されてもよい。光ファイバケーブル17のうち、固定点18Aから固定点18Bまでの部分は、ボックスカルバート5A,5Bや巻き立てコンクリート部11には干渉しない状態で目地部9を跨いで延在する自由長部分23である。
【0020】
この自由長部分23に予め引張方向のプレテンションが付与された状態でひずみセンサ部15が構築される。自由長部分23は、上記プレテンションによって、光ファイバ保持部19Aの目地部9側の端部から光ファイバ保持部19Bの目地部9側の端部まで、直線的に延在する。このような構造で、自由長部分23は、一端部23aにおいて光ファイバ保持部19Aの固定点18Aに固定され、他端部23bにおいて光ファイバ保持部19Bの固定点18Bに固定されている。
【0021】
また、ひずみセンサ部15は、自由長部分23を中空部に挿通させる保護管27を有している。保護管27は、例えば、光ファイバケーブル17を挿通可能な適切な内径をもつ塩ビ管で構成される。保護管27は例えばパイプクランプ材27a等を介して巻き立てコンクリート部11に固定されている。保護管27の一端部は固定点18Aに近接して位置しており、保護管27の一端部と固定点18Aとの間には軟質の隙間充填材29が介在している。同様に、保護管27の他端部は固定点18Bに近接して位置しており、保護管27の他端部と固定点18Bとの間にも軟質の隙間充填材29が介在している。
【0022】
このような構造により、ボックスカルバート5A,5B同士が相対的に変位した場合には、これに伴って光ファイバ保持部19Aと光ファイバ保持部19Bとが相対的に変位する。そうすると、固定点18Aと固定点18Bとの距離が変動し、この距離変動に追従して、自由長部分23が保護管27の中空部内で自由に弾性的に伸縮する。なお、このとき、自由長部分23と保護管27との摺動抵抗は無視できる程度に小さい。またこのとき、上記隙間充填材29が変形することにより、光ファイバ保持部19Aと光ファイバ保持部19Bとの相対変位は保護管27によって阻害されない。
【0023】
ひずみセンサ部15の光ファイバケーブル17の端部は、計測器31に接続される。更にこの計測器31に分析装置33が接続される。計測器31は、光ファイバケーブル17にパルス光を入射するとともに、当該光ファイバケーブル17の長手方向の各位置から戻ってくる各種散乱光を受光し、受光した散乱光の強度や波長等に関する情報を分析装置33に送信する。上記の散乱光としては、レイリー散乱光、ブリルアン散乱光等がある。計測器31の例として、例えばレイリー散乱光を利用するOTDR(Optical Time Domain Reflectometer)やブリルアン散乱光を利用するBOTDR(Brillouin Optical Time Domain Reflectometer)等を用いることができる。
【0024】
分析装置33は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory、及びRAM(Random Access Memory)等を含んで構成されたコンピュータである。分析装置33では、上記の散乱光の強度や波長が、光ファイバケーブル17に加わったひずみに依存するとの原理に基づき、光ファイバケーブル17の長手方向の各位置における散乱光の強度や波長が分析される。このような分析により、分析装置33では、光ファイバケーブル17の長手方向の各位置に生じているひずみが、例えば数cmのピッチで取得される。
【0025】
そうすると、分析装置33においては、光ファイバケーブル17の自由長部分23の各位置に生じているひずみが数cmピッチで得られ、このひずみの情報と自由長部分23の初期の長さ(既知)とに基づく演算により、自由長部分23の伸縮量を得ることができる。具体的には、自由長部分23上の複数の計測点に関して、当該計測点ひずみと計測点間隔との積の合計値が自由長部分23の伸縮量である。あるいは、自由長部分23上の複数の計測点に関して、各計測点のひずみの平均値と自由長部分23の長さとの積が自由長部分23の伸縮量である。
【0026】
以上のように、ひずみセンサ部15によれば、自由長部分23の伸縮量を取得することができる。すなわち、固定点18Aと固定点18Bとの距離の伸縮量を取得することができる。なお、前述したように、自由長部分23に予め引張方向のプレテンションが付与された状態でひずみセンサ部15が構築されるので、自由長部分23が初期の状態から短縮されたことをもって固定点18Aと固定点18Bとの距離の短縮量を取得することができる。
【0027】
なお、厳密には、上記のような光ファイバケーブル17における散乱光の強度や波長は、ひずみだけでなく、光ファイバケーブル17の周囲の温度にも依存する。従って、分析装置33で取得される光ファイバケーブル17の散乱光の情報から、温度の影響を除去する温度補正の仕組みが設けられてもよい。このような温度補正の仕組みの一例として、ひずみセンサ部15は、光ファイバケーブル17とは別に、自由長部分23の近傍に設置される温度計測用光ファイバケーブル(図示せず)を有してもよい。例えば、光ファイバ保持部19A,19Bの近傍において、当該光ファイバ保持部19A,19Bの高さよりも低い位置に保護管27と同様の保護管(図示せず)が外側面13cに沿って設置される。そして、この保護管の中空部に温度計測用光ファイバケーブルが自由な状態で収納されることで、温度計測用光ファイバケーブルは、ボックスカルバート5A,5B同士の相対変位の影響を受けない。また、温度計測用光ファイバケーブルは、光ファイバケーブル17と同様に計測器31及び分析装置33に接続される。
【0028】
上記のように温度計測用光ファイバケーブルはボックスカルバート5A,5B同士の相対変位の影響を受けないので、温度計測用光ファイバケーブルの散乱光の情報には、ボックスカルバート5A,5B同士の相対変位の影響は含まれず、自由長部分23の近傍の温度の影響が含まれる。よって、分析装置33は、光ファイバケーブル17の散乱光の情報を、温度計測用光ファイバケーブルの散乱光の情報と比較することで、温度の影響を除去する演算を行ない、光ファイバケーブル17の正確なひずみを取得することができる。
【0029】
自由長部分23の長さは、想定される固定点18Aと固定点18Bと相対変位に基づいて設定される。すなわち、自由長部分23で計測可能な最大の伸長量は、光ファイバケーブル17で計測可能な最大ひずみと、自由長部分23の長さと、の積で表される。従って、上記の積が、固定点18Aと固定点18Bとの間に想定される最大の伸長量よりも大きくなるように、自由長部分23の長さが設定される。これにより、想定される相対変位の範囲内においては、計測可能不可能な過大なひずみが自由長部分23に生じることが避けられ、正確な伸縮量が得られる。同様に、自由長部分23で計測可能な最大の短縮量は、自由長部分23に予め付与された引張方向のプレテンションに依存する。従って、このプレテンションの強さも、想定される固定点18Aと固定点18Bとの間の相対変位に基づいて設定されればよい。
【0030】
(変位計測構造)
図3は、1つの目地部9に構築される変位計測構造1を示す斜視図である。図に示されるように、1つの目地部9における変位計測構造1は、上記のようなひずみセンサ部15を3つ備えている。これら3つのひずみセンサ部15は、互いに同一寸法で同一構成であり、すべて外側面13c上に設けられ互いに平行に配置されている。すなわち、変位計測構造1は、外側面13cに沿って設置されY方向に延在する3本の平行な自由長部分23を備えている。3本の自由長部分23は、すべて同じY方向位置に配置され、すべて同じ長さである。このような変位計測構造1が下水道函渠3の外周面13に沿って構築された後、下水道函渠3は地中に埋め戻される。
【0031】
図4(a)は、外側面13cに沿って設置された3本の自由長部分23をモデル化して示す平面図であり、
図4(b)は、当該モデルにおいてボックスカルバート5Aとボックスカルバート5Bとの相対変位後の状態を示す平面図である。図に示されるように、1本目の自由長部分23を「自由長部分23h」、2本目の自由長部分23を「自由長部分23j」、3本目の自由長部分23を「自由長部分23k」で表す。また、自由長部分23hの固定点18Aと自由長部分23jの固定点18AとのX方向の距離をD
h、自由長部分23jの固定点18Aと自由長部分23kの固定点18AとのX方向の距離をD
kとする。また、自由長部分23hの伸縮量をL
h、自由長部分23jの伸縮量をL
j、自由長部分23kの伸縮量をL
k、とする。
【0032】
この変位計測構造1は、
(a)ボックスカルバート5Bがボックスカルバート5Aに対しY軸周りに捩れない(または、Y軸周りの捩れを無視できる)
(b)ボックスカルバート5Bがボックスカルバート5Aに対し水平面(XY平面)内でのみ変位する(または、水平面内での変位以外の変位は無視できる)
といった環境で使用される。換言すれば、θx=0,θy=0,Δz=0との前提で使用される。
【0033】
上記のθ
x=0,θ
y=0,Δ
z=0との前提の下では、それぞれの固定点18A,18Bの位置関係から、下の数式(1),(2),(3)が成立する。
【数1】
【数2】
【数3】
【0034】
また、前述の通り3つの各ひずみセンサ部15により、各自由長部分23h,23j,23kの各伸縮量Lh,Lj,Lkは分析装置33で取得可能であり、また、Dh及びDkは既知である。従って、分析装置33の演算により数式(1),(2),(3)で表される方程式を解けば、Δx,Δy,θzが求められる。
【0035】
以上のように、変位計測構造1によれば、目地部9におけるボックスカルバート5A,5B同士の相対変位として、X方向への並進的な変位(Δx)、Y方向への並進的な変位(Δy)、及びZ軸周りの回転変位(θz)を求めることができる。すなわち、外側面13cに平行な面内(水平面内)におけるボックスカルバート5A,5B同士の相対変位が求められる。
【0036】
また、分析装置33は、上記のように求められたボックスカルバート5A,5B同士の相対変位に基づいて、目地部9の目開きの量を求めることができる。そして、分析装置33は、求められた目地部9の目開きの量を予め設定された所定の閾値と比較して、目地部9の健全性を評価することもできる。また、目地部9に例えばゴム製の伸縮継手が使用されている場合には、目地部9の目開きの量を伸縮継手の設計値と比較して、当該伸縮継手の健全性を評価することもできる。
【0037】
また、ひずみセンサ部15は、自由長部分23を挿通させる保護管27を有しているので、自由長部分23が土に直接触れることが避けられる。従って、土の影響で自由長部分23の伸縮が阻害される可能性が低く、自由長部分23の円滑な伸縮が確保される。なお、光ファイバケーブル17が水に濡れた場合にもひずみ計測には影響しないので、自由長部分23に対する特殊な防水措置は不要である。
【0038】
〔第2実施形態〕
続いて、変位計測構造の第2実施形態について説明する。
図5に示される変位計測構造92では、前述の3つのひずみセンサ部15が、外側面13cに代えて外側面13fに設置されている。すなわち、3本の自由長部分23が外側面13fに沿って設置されている。この変位計測構造92は、
(a)ボックスカルバート5Bがボックスカルバート5Aに対しY軸周りに捩れない(または、Y軸周りの捩れを無視できる)
(c)ボックスカルバート5Bがボックスカルバート5Aに対し鉛直面(YZ平面)内でのみ変位する(または、鉛直面内での変位以外の変位は無視できる)
といった環境で使用される。換言すれば、Δ
x=0,θ
y=0,θ
z=0との前提で使用される。そして、第1実施形態と同様に、数式(1),(2),(3)におけるXとZとを入れ替えた数式が成立するので、分析装置33の演算によってこれを解けばθ
x,Δ
y,Δ
zが求められる。
【0039】
〔第3実施形態〕
続いて、変位計測構造の第3実施形態について説明する。
図6に示される変位計測構造93では、前述の3つのひずみセンサ部15が、外側面13cと外側面13fとの両方に設置されている。すなわち、変位計測構造93は、合計6つのひずみセンサ部15を備えており、合計6本の自由長部分23を備えている。3本の自由長部分23が外側面13cに沿って設置され、3本の自由長部分23が外側面13fに沿って設置されている。
【0040】
6本の自由長部分23のうち、外側面13cに沿って設置された3本の自由長部分23を用いれば、第1実施形態で説明した通り、θx=0,θy=0,Δz=0と仮定(以下「仮定1」という)した上で、Δx,Δy,θzが計測(以下「計測1」という)される。また、外側面13fに沿って設置された3本の自由長部分23を用いれば、第2実施形態で説明した通り、Δx=0,θy=0,θz=0と仮定(以下「仮定2」という)した上で、θx,Δy,Δzが計測(以下「計測2」という)される。
【0041】
この変位計測構造93の運用方法の一例は次の通りである。まず、計測器31及び分析装置33によって、上記の計測1と計測2とが両方とも実行される。その後、これらの計測結果に基づき、ボックスカルバート5A,5B同士の相対的な変位について、水平面内での変位と鉛直面内での変位との何れが支配的であるかが分析装置33により判断される。すなわち、上記の仮定1と仮定2とのどちらが妥当な仮定であるかが判断される。そして、仮定1がより妥当であると判断される場合には計測1の結果が採用され、仮定2がより妥当であると判断される場合には計測2の結果が採用される。なお、上記のような仮定1と仮定2との妥当性の判断は、ユーザにより実行されてもよい。
【0042】
〔第4実施形態〕
続いて、変位計測構造の第4実施形態について説明する。本実施形態の変位計測構造94では、3本の自由長部分23のすべてが同一平面上に位置しないように、外周面13に沿って3本の自由長部分23が設置される。たとえば、3本の自由長部分23のうちの一部が外側面13cに沿って設置され、他の自由長部分23は外側面13d,13e,13fの何れかに沿って設置される。また、3本の自由長部分23が1本ずつ互いに異なる外側面13c~13fに沿って設置されてもよい。
【0043】
このような形態の1つの具体例として、
図7に示される変位計測構造94では、前述の3つのひずみセンサ部15のうち、2つが外側面13cに設置され、1つが外側面13fに設置されている。この変位計測構造94は、
(a)ボックスカルバート5Bがボックスカルバート5Aに対しY軸周りに捩れない(または、Y軸周りの捩れを無視できる)
(d)ボックスカルバート5Bがボックスカルバート5Aに対しX方向及びZ方向にずれない(または、X方向ずれ及びZ方向ずれを無視できる)
といった環境で使用される。換言すれば、Δ
x=0,θ
y=0,Δ
z=0との前提で使用される。そして、前述の数式(1),(2),(3)に倣って、3本の自由長部分23の伸縮量を含む所定の方程式を設定することができ、分析装置33の演算によってこれを解けばθ
x,Δ
y,θ
zが求められる。
【0044】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して、変形例を構成することも可能である。各実施形態等の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0045】
実施形態では、自由長部分23がすべてY方向に延在しているが、自由長部分23の延在方向はこれに限定されず、Y方向に対して傾斜していてもよい。例えば、第1~第3実施形態における3本の自由長部分23が、
図8(a)又は
図8(b)に示されるような形態で配置されてもよい。
図8(a),(b)は、外側面13c及び/又は外側面13fに沿って設置された3本の自由長部分23をモデル化して示す平面図である。
図8(a)又は
図8(b)の形態では、ボックスカルバート5A側に2つの光ファイバ保持部19Aが設けられ、ボックスカルバート5B側に2つの光ファイバ保持部19Bが設けられる。そして、光ファイバ保持部19Aのうちの1つは、2つのひずみセンサ部15によって共有される。すなわち、光ファイバ保持部19Aのうちの1つには、2本の光ファイバケーブル17が通過し、2本の自由長部分23の一端部23aがそれぞれ固定点18Aで固定される。同様に、光ファイバ保持部19Bのうちの1つは、2つのひずみセンサ部15によって共有される。すなわち、光ファイバ保持部19Bのうちの1つには、2本の光ファイバケーブル17が通過し、2本の自由長部分23の他端部23bがそれぞれ固定点18Bで固定される。
【0046】
このような
図8(a)又は
図8(b)の形態においても、前述の数式(1),(2),(3)に倣って、3本の自由長部分23の伸縮量を含む所定の方程式を設定することができ、分析装置33の演算によって(Δ
x,Δ
y,θ
z)及び/又は(θ
x,Δ
y,Δ
z)を取得することができる。なお、
図8(a)又は
図8(b)に示されるような形態は、光ファイバ保持部19A,19Bの個数を削減できる点で好ましい。
【0047】
また、第1~第4実施形態において、相対変位の演算に利用される自由長部分23の数は、3本に限られず4本以上であってもよい。この場合、4本以上の自由長部分23の伸縮量を演算に利用されることで、演算結果が冗長性をもち、計測結果の信頼性が向上する。
【0048】
また、第1~第4実施形態では、目地部9に巻き立てコンクリート部11が形成されている場合の例を説明したが、巻き立てコンクリート部11がない下水道函渠にも変位計測構造1,92,93を適用することができる。この場合、ひずみセンサ部15の光ファイバ保持部19A,19Bの高さを低くすることができる。または、光ファイバ保持部19A,19Bが省略されてもよい。
【0049】
また、第1~第4実施形態では、下水道函渠3の外周面13に沿って変位計測構造1,92,93,94が構築されているが、変位計測構造1,92,93,94は下水道函渠3の水路3a側の壁面(中空部の内壁面)に沿って構築されてもよい。また、変位計測構造1,92,93,94は、下水道函渠に限られず、他の函渠に適用することもできる。また、変位計測構造1,92,93,94は、第1~第4実施形態のような断面矩形の函渠に限られず、例えば断面円形の函渠に適用することもできる。また、変位計測構造1,92,93,94は、函渠に限られず、構造物の接合面同士を突合わせて連結されてなる種々の連結構造物に適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1,92,93,94…変位計測構造、3…下水道函渠(連結構造物)、5,5A,5B…ボックスカルバート(構造物)、7…接合面、9…目地部(連結部)、13…外周面、13c,13d,13e,13f…外側面(四角柱外側面)、17…光ファイバケーブル、19A,19B…光ファイバ保持部、18A,18B…固定点、23,23h,23j,23k…自由長部分、23a…一端部、23b…他端部。