(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049140
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】金属表面模様加工装置、金属表面模様加工方法
(51)【国際特許分類】
B24B 27/00 20060101AFI20240402BHJP
B25J 9/06 20060101ALI20240402BHJP
B24B 41/04 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
B24B27/00 A
B25J9/06 A
B24B41/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155423
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】594185477
【氏名又は名称】株式会社新光ステンレス研磨
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】堀山 竜紀
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】小用 孝一
【テーマコード(参考)】
3C034
3C158
3C707
【Fターム(参考)】
3C034AA13
3C034AA19
3C034BB01
3C034BB12
3C034BB15
3C034BB92
3C034CA17
3C034CB01
3C034CB06
3C034CB14
3C158AA02
3C158AA05
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3C158BA01
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3C158BB06
3C158BC02
3C158CA04
3C158CB01
3C158CB10
3C707AS12
3C707BS11
3C707BS12
3C707KS21
3C707LV05
(57)【要約】
【課題】金属表面に対して、意匠性の高いヘアライン加工を実現する。
【解決手段】金属表面模様加工装置は、研磨具80と主軸用モータ72を備える研磨ヘッド60と、研磨ヘッド60と金属部材Wの表面WHを相対移動自在に保持する移動装置と、移動装置を制御する制御装置を備える。表面WHの加工対象となる平面をX-Y平面とする相対座標系において、制御装置は、Z軸を基準として主軸74を相対傾斜させる主軸傾斜処理部と、研磨具80と表面WHをZ軸方向に相対移動させて接触させるZ軸移動処理部と、主軸が相対傾斜する研磨具80と表面WHが接触した状態で、表面WHと研磨ヘッド60をX-Y平面に沿って相対移動させるX-Y平面移動処理部とを有する。これにより表面WHに形成される帯状の被研磨領域G内に、研磨具80の回転による扇状のヘアライン模様Hが形成される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の表面を加工して模様を形成する金属表面模様加工装置であって、
前記表面を研磨してヘアライン状の模様を形成する研磨具、該研磨具を回転自在に保持する主軸及び該主軸を回転させる主軸用モータを備える研磨ヘッドと、
前記研磨ヘッドと前記表面を相対移動自在に保持する移動装置と、
前記移動装置を制御する制御装置と、を備え、
前記表面の平面に沿う特定方向をX軸、前記平面に沿い前記X軸と直行する方向をY軸、前記平面と同一平面をX-Y平面、前記X軸及びY軸に垂直となる方向をZ軸と定義する際に、
前記移動装置を制御する制御装置は、
前記Z軸を基準として前記主軸を相対傾斜させる主軸傾斜処理部と、
前記研磨具と前記表面を前記Z軸方向に相対移動させて、前記研磨具と前記表面を接触させるZ軸移動処理部と、
前記主軸が相対傾斜する記研磨具と前記表面が接触した状態で、前記表面と前記研磨ヘッドを前記X-Y平面に沿って相対移動させるX-Y平面移動処理部と、を有し、前記研磨具が前記X-Y平面に沿って相対移動することで前記表面に形成される帯状の被研磨領域内に、該研磨具の回転による扇状のヘアライン模様が形成されることを特徴とする金属表面模様加工装置。
【請求項2】
前記X-Y平面移動処理部による前記研磨ヘッドの前記X-Y平面の相対移動方向をX-Y平面移動方向と定義し、且つ、前記主軸における前記表面に近い側を近位端、該近位端と反対側を遠位端と定義する際に、
前記主軸傾斜処理部は、前記X-Y平面における前記近位端に対する前記遠位端の変位方向(以下、主軸チルト方向と称する)が、前記X-Y平面移動方向と反対方向(以下、X-Y平面反移動方向と称する)の成分を内在するように、前記主軸を相対傾斜させることを特徴とする、
請求項1に記載の金属表面模様加工装置。
【請求項3】
前記主軸傾斜処理部は、前記主軸チルト方向が前記X-Y平面反移動方向と一致するように、前記主軸を相対傾斜させることを特徴とする、
請求項2に記載の金属表面模様加工装置。
【請求項4】
前記X-Y平面移動処理部による前記研磨ヘッドの前記X-Y平面の相対移動方向をX-Y平面移動方向と定義し、且つ、前記主軸における前記表面に近い側を近位端、該近位端と反対側を遠位端と定義する際に、
前記主軸傾斜処理部は、前記X-Y平面における前記近位端に対する前記遠位端の変位方向(以下、主軸チルト方向と称する)が、前記X-Y平面移動方向の成分を内在するように、前記主軸を相対傾斜させることを特徴とする、
請求項1に記載の金属表面模様加工装置。
【請求項5】
前記主軸傾斜処理部が前記主軸を相対傾斜させた状態で、
前記X-Y平面移動処理部が、前記研磨具と前記表面を前記X-Y平面移動方向に相対移動させつつ、前記Z軸移動処理部が、前記研磨具と前記表面を徐々に接近させるか、または、前記X-Y平面移動処理部が、前記研磨具と前記表面を前記X-Y平面移動方向に相対移動させつつ、前記主軸傾斜処理部が前記主軸の傾斜量を徐々に増大させることで、前記表面に形成される前記被研磨領域の帯幅を徐々に増加させることを特徴とする、
請求項4に記載の金属表面模様加工装置。
【請求項6】
前記主軸傾斜処理部は、前記Z軸に対する前記主軸の傾斜角度が0度より大きく且つ45度以下となるように、前記主軸を相対傾斜させることを特徴とする、
請求項1に記載の金属表面模様加工装置。
【請求項7】
前記主軸傾斜処理部は、前記Z軸に対する前記主軸の傾斜角度が0度より大きく且つ15度以下となるように、前記主軸を相対傾斜させることを特徴とする、
請求項1に記載の金属表面模様加工装置。
【請求項8】
前記研磨具における前記表面と接触可能な領域を研磨面と定義し、且つ、
前記主軸により前記研磨面が回転することで構成される円状又は環状の回転軌跡を研磨面回転軌跡と定義する際に、
前記制御装置における前記主軸傾斜処理部及び前記Z軸移動処理部は、研磨中において、前記表面に対して前記研磨面回転軌跡の一部が離反するように、前記研磨ヘッドと前記表面の相対姿勢を維持することを特徴とする、
請求項1に記載の金属表面模様加工装置。
【請求項9】
前記研磨面回転軌跡の前記主軸の中心軸を基準とした最外縁の直径を研磨外径と定義する際に、
前記X-Y平面と平行方向、且つ、前記主軸チルト方向に直交する方向から前記研磨面回転軌跡を視た場合における前記研磨面回転軌跡と前記表面と接触している当たり幅が、前記研磨外径の4分の1以上に設定されることを特徴とする、
請求項8に記載の金属表面模様加工装置。
【請求項10】
前記当たり幅が、前記研磨外径の3分の1以上に設定されることを特徴とする、
請求項9に記載の金属表面模様加工装置。
【請求項11】
前記当たり幅が、前記研磨外径の2分の1以上に設定されることを特徴とする、
請求項9に記載の金属表面模様加工装置。
【請求項12】
前記当たり幅が、前記研磨外径の10分の9以下に設定されることを特徴とする、
請求項10に記載の金属表面模様加工装置。
【請求項13】
前記当たり幅が、前記研磨外径の6分の5以下に設定されることを特徴とする、
請求項9に記載の金属表面模様加工装置。
【請求項14】
前記当たり幅が、前記研磨外径の4分の3以下に設定されることを特徴とする、
請求項9に記載の金属表面模様加工装置。
【請求項15】
(※重畳研磨)
前記X-Y平面移動処理部は、第一の前記被研磨領域の一部に対して、第二の前記被研磨領域の一部を重畳させるように、前記表面と前記研磨ヘッドを相対移動させることで、前記表面に、第一の前記被研磨領域内の前記ヘアライン模様と、第二の前記被研磨領域内の前記ヘアライン模様が接することを特徴とする、
請求項1に記載の金属表面模様加工装置。
【請求項16】
(※反転往復研磨)
前記X-Y平面移動処理部は、
前記X-Y平面における所定方向(以下、基準方向と称する)の成分を含むように前記表面と前記研磨ヘッドを相対移動させて、前記表面に帯状の基準方向被研磨領域を形成する基準方向移動処理部と、
前記基準方向移動処理部の処理後において、前記X-Y平面における前記基準方向と反対方向(以下、反基準方向)の成分を含むように前記表面と前記研磨ヘッドを相対移動させて、前記基準被研磨領域と一部が重畳する帯状の反基準方向被研磨領域を形成する反基準方向移動処理部と、を有し、
前記表面に、前記基準方向被研磨領域内の前記ヘアライン模様、及び、前記反基準方向被研磨領域内の前記ヘアライン模様の双方を残存させることを特徴とする、
請求項15に記載の金属表面模様加工装置。
【請求項17】
(※同一方向繰り返し研磨)
前記X-Y平面移動処理部は、
前記X-Y平面における所定方向(以下、基準方向と称する)の成分を含むように前記表面と前記研磨ヘッドを相対移動させて、前記表面に帯状の第一基準方向被研磨領域を形成する第一基準方向移動処理部と、
前記第一基準方向移動処理部の処理後において、前記X-Y平面における前記基準方向の成分を含むように前記表面と前記研磨ヘッドを相対移動させて、前記第一基準被研磨領域と一部が重畳する帯状の第二基準方向被研磨領域を形成する第二基準方向移動処理部と、を有し、
前記表面に、前記第一基準方向被研磨領域内の前記ヘアライン模様、及び、前記第二基準方向被研磨領域の前記ヘアライン模様の双方を残存させることを特徴とする、
請求項15に記載の金属表面模様加工装置。
【請求項18】
前記研磨具は、
前記表面と接触する研磨材で構成される研磨部と、
前記研磨部を後方から支持する可撓性を有する可撓部と、を備えており、
前記研磨部が前記表面と接触する際に前記可撓部が変形することを特徴とする、
請求項1に記載の金属表面模様加工装置。
【請求項19】
前記研磨ヘッドは、
前記移動装置に支持されるベースと、
前記ベースに対して、少なくとも前記主軸及び前記研磨具を該主軸の軸方向に変位させる主軸変位機構と、
を備えることを特徴とする、
請求項1に記載の金属表面模様加工装置。
【請求項20】
前記主軸変位機構は、前記研磨具を、前記表面に向かって付勢する付勢機構を有することを特徴とする、
請求項19に記載の金属表面模様加工装置。
【請求項21】
前記移動装置は、多関節ロボットであることを特徴とする、
請求項1に記載の金属表面模様加工装置。
【請求項22】
前記多関節ロボットは、少なくとも5軸の関節を有することを特徴とする、
請求項21に記載の金属表面模様加工装置。
【請求項23】
金属表面模様加工装置によって金属の表面を加工して模様を形成する金属表面模様加工方法であって、
前記金属表面模様加工装置は、
前記表面を研磨してヘアライン状の模様を形成する研磨具、該研磨具を回転自在に保持する主軸及び該主軸を回転させる主軸用モータを備える研磨ヘッドと、
前記研磨ヘッドと前記表面を相対移動自在に保持する移動装置と、を有してなり、
前記表面の平面に沿う特定方向をX軸、前記平面に沿い前記X軸と直行する方向をY軸、前記平面と同一平面をX-Y平面、前記X軸及びY軸に垂直となる方向をZ軸と定義する際に、
前記Z軸を基準として相対傾斜する前記主軸及び前記研磨具と、前記表面を前記Z軸方向に相対移動させて、前記研磨具と前記表面を接触させるステップと、
前記主軸が相対傾斜する記研磨具と前記表面が接触した状態で、前記表面と前記研磨ヘッドを前記X-Y平面に沿って相対移動させるステップと、を備え、
前記研磨具が前記X-Y平面に沿って相対移動することで前記表面に形成される帯状の被研磨領域内に、該研磨具の回転による扇状のヘアライン模様が形成することを特徴とする金属表面模様加工方法。
【請求項24】
前記ヘアライン模様が形成された前記表面に、塗膜を形成することを特徴とする、
請求項23に記載の金属表面模様加工方法。
【請求項25】
前記ヘアライン模様と、前記塗膜に形成する模様の相対位置を調整することを特徴とする、
請求項24に記載の金属表面模様加工方法。
【請求項26】
前記塗膜は、木目模様を有することを特徴とする、
請求項24に記載の金属表面模様加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面に模様加工を施す金属表面模様加工装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属部品(ワーク)の表面の美観を高めるために、表面に対してヘアライン状の模様を形成することが行われている。例えば、特許文献1のヘアライン加工機では、コンベアで搬送されるワークに対して、サンディングベルトを接触させ、ワークの表面を研磨することで、ヘアライン状の模様を形成する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のヘアライン加工機は、ワーク表面の全体に対して、同方向に延びる直線上のヘアライン状の模様を形成することに限られるので、金属表面の意匠性を高めることが難しいという問題が合った。
【0005】
本発明は、斯かる実情に鑑みてなされたものであり、金属表面に対して、意匠性の高いヘアライン加工を実現可能な金属表面模様加工装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者の鋭意研究により、上記課題の一部又は全部は、以下の手段によって達成される。
【0007】
即ち、課題を解決する本発明は、金属の表面を加工して模様を形成する金属表面模様加工装置であって、前記表面を研磨してヘアライン状の模様を形成する研磨具、該研磨具を回転自在に保持する主軸及び該主軸を回転させる主軸用モータを備える研磨ヘッドと、前記研磨ヘッドと前記表面を相対移動自在に保持する移動装置と、前記移動装置を制御する制御装置と、を備え、前記表面の平面に沿う特定方向をX軸、前記平面に沿い前記X軸と直行する方向をY軸、前記平面と同一平面をX-Y平面、前記X軸及びY軸に垂直となる方向をZ軸と定義する際に、前記移動装置を制御する制御装置は、前記Z軸を基準として前記主軸を相対傾斜させる主軸傾斜処理部と、前記研磨具と前記表面を前記Z軸方向に相対移動させて、前記研磨具と前記表面を接触させるZ軸移動処理部と、前記主軸が相対傾斜する記研磨具と前記表面が接触した状態で、前記表面と前記研磨ヘッドを前記X-Y平面に沿って相対移動させるX-Y平面移動処理部と、を有し、前記研磨具が前記X-Y平面に沿って相対移動することで前記表面に形成される帯状の被研磨領域内に、該研磨具の回転による扇状のヘアライン模様が形成されることを特徴とする金属表面模様加工装置である。
【0008】
上記金属表面模様加工装置に関連して、前記X-Y平面移動処理部による前記研磨ヘッドの前記X-Y平面の相対移動方向をX-Y平面移動方向と定義し、且つ、前記主軸における前記表面に近い側を近位端、該近位端と反対側を遠位端と定義する際に、前記主軸傾斜処理部は、前記X-Y平面における前記近位端に対する前記遠位端の変位方向(以下、主軸チルト方向と称する)が、前記X-Y平面移動方向と反対方向(以下、X-Y平面反移動方向と称する)の成分を内在するように、前記主軸を相対傾斜させることを特徴としても良い。
【0009】
上記金属表面模様加工装置に関連して、前記主軸傾斜処理部は、前記主軸チルト方向が前記X-Y平面反移動方向と一致するように、前記主軸を相対傾斜させることを特徴としても良い。
【0010】
上記金属表面模様加工装置に関連して、前記X-Y平面移動処理部による前記研磨ヘッドの前記X-Y平面の相対移動方向をX-Y平面移動方向と定義し、且つ、前記主軸における前記表面に近い側を近位端、該近位端と反対側を遠位端と定義する際に、前記主軸傾斜処理部は、前記X-Y平面における前記近位端に対する前記遠位端の変位方向(以下、主軸チルト方向と称する)が、前記X-Y平面移動方向の成分を内在するように、前記主軸を相対傾斜させることを特徴としても良い。
【0011】
上記金属表面模様加工装置に関連して、前記主軸傾斜処理部が前記主軸を相対傾斜させた状態で、前記X-Y平面移動処理部が、前記研磨具と前記表面を前記X-Y平面移動方向に相対移動させつつ、前記Z軸移動処理部が、前記研磨具と前記表面を徐々に接近させるか、または、前記X-Y平面移動処理部が、前記研磨具と前記表面を前記X-Y平面移動方向に相対移動させつつ、前記主軸傾斜処理部が前記主軸の傾斜量を徐々に増大させることで、前記表面に形成される前記被研磨領域の帯幅を徐々に増加させることを特徴としても良い。
【0012】
上記金属表面模様加工装置に関連して、前記主軸傾斜処理部は、前記Z軸に対する前記主軸の傾斜角度が0度より大きく且つ45度以下となるように、前記主軸を相対傾斜させることを特徴としても良い。
【0013】
上記金属表面模様加工装置に関連して、前記主軸傾斜処理部は、前記Z軸に対する前記主軸の傾斜角度が0度より大きく且つ15度以下となるように、前記主軸を相対傾斜させることを特徴としても良い。
【0014】
上記金属表面模様加工装置に関連して、前記研磨具における前記表面と接触可能な領域を研磨面と定義し、且つ、前記主軸により前記研磨面が回転することで構成される円状又は環状の回転軌跡を研磨面回転軌跡と定義する際に、前記制御装置における前記主軸傾斜処理部及び前記Z軸移動処理部は、研磨中において、前記表面に対して前記研磨面回転軌跡の一部が離反するように、前記研磨ヘッドと前記表面の相対姿勢を維持することを特徴としても良い。
【0015】
上記金属表面模様加工装置に関連して、前記研磨面回転軌跡の前記主軸の中心軸を基準とした最外縁の直径を研磨外径と定義する際に、前記X-Y平面と平行方向、且つ、前記主軸チルト方向に直交する方向から前記研磨面回転軌跡を視た場合における前記研磨面回転軌跡と前記表面と接触している当たり幅が、前記研磨外径の4分の1以上に設定されることを特徴としても良い。
【0016】
上記金属表面模様加工装置に関連して、前記当たり幅が、前記研磨外径の3分の1以上に設定されることを特徴としても良い。
【0017】
上記金属表面模様加工装置に関連して、前記当たり幅が、前記研磨外径の2分の1以上に設定されることを特徴としても良い。
【0018】
上記金属表面模様加工装置に関連して、前記当たり幅が、前記研磨外径の10分の9以下に設定されることを特徴としても良い。
【0019】
上記金属表面模様加工装置に関連して、前記当たり幅が、前記研磨外径の6分の5以下に設定されることを特徴としても良い。
【0020】
上記金属表面模様加工装置に関連して、前記当たり幅が、前記研磨外径の4分の3以下に設定されることを特徴としても良い。
【0021】
上記金属表面模様加工装置に関連して、前記X-Y平面移動処理部は、第一の前記被研磨領域の一部に対して、第二の前記被研磨領域の一部を重畳させるように、前記表面と前記研磨ヘッドを相対移動させることで、前記表面に、第一の前記被研磨領域内の前記ヘアライン模様と、第二の前記被研磨領域内の前記ヘアライン模様が接することを特徴としても良い。
【0022】
上記金属表面模様加工装置に関連して、前記X-Y平面移動処理部は、前記X-Y平面における所定方向(以下、基準方向と称する)の成分を含むように前記表面と前記研磨ヘッドを相対移動させて、前記表面に帯状の基準方向被研磨領域を形成する基準方向移動処理部と、前記基準方向移動処理部の処理後において、前記X-Y平面における前記基準方向と反対方向(以下、反基準方向)の成分を含むように前記表面と前記研磨ヘッドを相対移動させて、前記基準被研磨領域と一部が重畳する帯状の反基準方向被研磨領域を形成する反基準方向移動処理部と、を有し、前記表面に、前記基準方向被研磨領域内の前記ヘアライン模様、及び、前記反基準方向被研磨領域内の前記ヘアライン模様の双方を残存させることを特徴としても良い。
【0023】
上記金属表面模様加工装置に関連して、前記X-Y平面移動処理部は、前記X-Y平面における所定方向(以下、基準方向と称する)の成分を含むように前記表面と前記研磨ヘッドを相対移動させて、前記表面に帯状の第一基準方向被研磨領域を形成する第一基準方向移動処理部と、前記第一基準方向移動処理部の処理後において、前記X-Y平面における前記基準方向の成分を含むように前記表面と前記研磨ヘッドを相対移動させて、前記第一基準被研磨領域と一部が重畳する帯状の第二基準方向被研磨領域を形成する第二基準方向移動処理部と、を有し、前記表面に、前記第一基準方向被研磨領域内の前記ヘアライン模様、及び、前記第二基準方向被研磨領域の前記ヘアライン模様の双方を残存させることを特徴としても良い。
【0024】
上記金属表面模様加工装置に関連して、前記研磨具は、前記表面と接触する研磨材で構成される研磨部と、前記研磨部を後方から支持する可撓性を有する可撓部と、を備えており、前記研磨部が前記表面と接触する際に前記可撓部が変形することを特徴としても良い。
【0025】
上記金属表面模様加工装置に関連して、前記研磨ヘッドは、前記移動装置に支持されるベースと、前記ベースに対して、少なくとも前記主軸及び前記研磨具を該主軸の軸方向に変位させる主軸変位機構と、を備えることを特徴としても良い。
【0026】
上記金属表面模様加工装置に関連して、前記主軸変位機構は、前記研磨具を、前記表面に向かって付勢する付勢機構を有することを特徴としても良い。
【0027】
上記金属表面模様加工装置に関連して、前記移動装置は、多関節ロボットであることを特徴としても良い。
【0028】
上記金属表面模様加工装置に関連して、前記多関節ロボットは、少なくとも5軸の関節を有することを特徴としても良い。
【0029】
上記課題を解決する本発明は、金属表面模様加工装置によって金属の表面を加工して模様を形成する金属表面模様加工方法であって、前記金属表面模様加工装置は、前記表面を研磨してヘアライン状の模様を形成する研磨具、該研磨具を回転自在に保持する主軸及び該主軸を回転させる主軸用モータを備える研磨ヘッドと、前記研磨ヘッドと前記表面を相対移動自在に保持する移動装置と、を有してなり、前記表面の平面に沿う特定方向をX軸、前記平面に沿い前記X軸と直行する方向をY軸、前記平面と同一平面をX-Y平面、前記X軸及びY軸に垂直となる方向をZ軸と定義する際に、前記Z軸を基準として相対傾斜する前記主軸及び前記研磨具と、前記表面を前記Z軸方向に相対移動させて、前記研磨具と前記表面を接触させるステップと、前記主軸が相対傾斜する記研磨具と前記表面が接触した状態で、前記表面と前記研磨ヘッドを前記X-Y平面に沿って相対移動させるステップと、を備え、前記研磨具が前記X-Y平面に沿って相対移動することで前記表面に形成される帯状の被研磨領域内に、該研磨具の回転による扇状のヘアライン模様が形成することを特徴とする金属表面模様加工方法である。
【0030】
上記金属表面模様加工方法に関連して、前記ヘアライン模様が形成された前記表面に、塗膜を形成することを特徴としても良い。
【0031】
上記金属表面模様加工方法に関連して、前記ヘアライン模様と、前記塗膜に形成する模様の相対位置を調整することを特徴としても良い。
【0032】
上記金属表面模様加工方法に関連して、前記塗膜は、木目模様を有することを特徴としても良い。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、金属表面に対して、意匠性の高いヘアライン加工を実現するという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】(A)は、本発明の実施形態にかかる金属表面模様加工装置の全体構造を示す正面図であり、(B)は金属表面模様加工装置の動作方向の定義を示す座標系を示す図であり、(C)は絶対座標系と相対座標系を示す図である。
【
図2】(A)は、同金属表面模様加工装置の研磨ヘッドを拡大して示す正面図であり、(B)は同研磨ヘッドを拡大して示す側面図であり、(C)及び(D)は同研磨ヘッドの研磨具の変形例を示す正面図である。
【
図3】同金属表面模様加工装置の制御装置の内部構成を示すブロック図である。
【
図4】同金属表面模様加工装置の制御装置の機能構成(プログラム構成)を示すブロック図である。
【
図5】(A)は、同金属表面模様加工装置の研磨ヘッドによる金属部材の加工態様を示す側面図であり、(B)は、(A)と同じ加工態様において研磨ヘッドを省略した平面図である。
【
図6】(A)、(B)及び(C)は、同金属表面模様加工装置の研磨ヘッドによる金属部材の加工態様において研磨ヘッドを省略した平面図である。
【
図7】(A)、(B)及び(C)は、同金属表面模様加工装置の研磨ヘッドによる金属部材の加工態様において研磨ヘッドを省略した平面図である。
【
図8】(A)及び(B)は、同金属表面模様加工装置の研磨ヘッドによる金属部材の加工態様において研磨ヘッドを省略した平面図である。
【
図9】(A)及び(B)は、同金属表面模様加工装置の研磨ヘッドによる金属部材の加工態様の変形例において研磨ヘッドを省略した平面図である。
【
図10】(A)及び(B)は、同金属表面模様加工装置の研磨ヘッドによる金属部材の加工態様の変形例において研磨ヘッドを省略した平面図である。
【
図11】(A)及び(B)は、同金属表面模様加工装置の研磨ヘッドによる金属部材の加工態様の変形例において研磨ヘッドを省略した平面図である。
【
図12】(A)は、同金属表面模様加工装置の研磨ヘッドを拡大して示す側面図であり、(B)は変形例となる研磨ヘッドを拡大して示す側面図である。
【
図13】同金属表面模様加工装置によって加工された金属部材を示す平面図である。
【
図14】(A)は、変形例にかかる金属表面模様加工装置の全体構造を示す正面図であり、(B)は同金属表面模様加工装置のベッド及び金属部材を示す平面図図である。
【
図15】変形例にかかる金属表面模様加工装置の全体構造を示す正面図である。
【
図16】変形例にかかる金属表面模様加工装置の研磨ヘッドを拡大して示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1(A)に、本実施形態の金属表面模様加工装置1の全体構成を示す。金属表面模様加工装置1は、ワークとなる金属部材Wの表面(被加工面)WHを研磨加工して、ヘアライン状の模様を形成する。金属部材Wは、例えば厚みが1mm~50mmの板材としているが、本発明はこれに限定されず、様々な形状の金属部材Wの表面WHに模様を形成できる。
【0036】
金属表面模様加工装置1は、金属部材Wを載置するベッド10と、移動装置20と、移動装置20によって移動される研磨ヘッド60と、移動装置20及び研磨ヘッド60を制御する制御装置100を有する。
【0037】
(座標軸)
【0038】
説明の便宜上、ここでは、絶対座標系Qaと相対座標系Qsを用いる。絶対座標系Qaは、固定されるベッド10の天面12をX-Y平面とする座標系となる。相対座標系Qsは、金属部材Wにおける表面WHにおける、現在加工中の領域(加工対象領域R)の垂線に直交する仮想平面KをX-Y平面とする座標系となる。
【0039】
図1(B)に示すように、相対座標系Qsにおける仮想平面K内の所定方向をX軸、同仮想平面K内におけるX軸と直交する方向をY軸、X軸及びY軸と直交する方向をZ軸と称する。また、相対座標系QsにおけるX軸周りの回転方向をX軸チルトMx、Y軸周りの回転方向をY軸チルトMy、Z軸周りの回転方向をZ軸チルトMzと称する。
図1(C)に示すように、被加工面WHは、全体視すると三次元曲面の場合もある。絶対座標系Qaから視た場合、相対座標系Qsは、被加工面WHにおいて、研磨加工中の加工対象領域R1、R2、R3の仮想平面K1、K2、K3の変化に伴って変位する。つまり、相対座標系Qsは、絶対座標系Qaに対して三次元的に変化する座標系となる。絶対座標系Qaと相対座標系Qsの差分に関するデータ(具体的には、被加工面WHの表面形状データ)を保持することで、相対座標系Qsは、絶対座標系Qaに座標変換できる。なお、
図1(A)のように、表面WHと天面12が平行平面となる場合は、金属部材Wの板厚(Z方向差分値)のデータのみで、相対座標系Qsを絶対座標系Qaに座標変換できる。
【0040】
(ベッド)
【0041】
図1(A)に戻って、ベッド10は、いわゆる載置台であり、その天面12に金属部材Wが載置される。なお、金属部材Wの周囲は、略同一厚となる治具プレート14で取り囲まれており、この治具プレート14が天面12に固定されている。結果、金属部材Wにおける天面12の面方向移動が、治具プレート14によって規制される。なお、治具プレート14に加えて又は代えて、ベッド10の天面12に負圧を付与することで、金属部材Wを吸引固定することもできる。同様に、ベッド10の天面12に磁力を付与することで、金属部材Wを磁気固定することもできる。更に、ベッド10の天面12にチャックを設け、金属部材Wを挟持固定することもできる。
【0042】
移動装置20は、少なくとも5軸の関節を有する多関節ロボットとなり、ここでは6軸の多関節ロボットとなる。多関節ロボットの説明では絶対座標系Qaを用いる。詳細に、移動装置20は、台座部22と、第一アーム24と、第二アーム26と、第三アーム28と、第四アーム30と、ハンド部32と、チャック部34を有する。床面等に固定される台座部22と第一アーム24は、Z軸方向と平行な回転軸を有する第一関節23によって連結される。この第一関節23は、第一アーム24がX-Y平面方向に沿って旋回するZ軸方向の旋回軸となる。第一アーム24と第二アーム26は、X-Y平面と平行な回転軸(ここでは水平回転軸)を有する第二関節25によって連結される。第二関節25により、第二アーム26は、前後方向に揺動する下腕部として機能する。第二アーム26と第三アーム28は、X-Y平面と平行な回転軸(ここでは水平回転軸)を有する第三関節27によって連結される。第三関節27により、第三アーム28は、主として、上下方向に揺動する上腕部として機能する。第三アーム28と第四アーム30は、両アームが延びる方向C1と平行な回転軸を有する第四関節29によって連結される。第四関節29により、第四アーム30は、主として、第三アーム28に対して捻れるように旋回する手首旋回部として機能する。第四アーム30とハンド部32は、第四アーム30が延びる方向C1と直交する回転軸を有する第五関節31によって連結される。第五関節31により、ハンド部32は、第四アーム30に対して上下方向に屈曲するように揺動する手首曲げ部として機能する。ハンド部32とチャック部34は、両者が延びる方向C2と平行な回転軸を有する第六関節33によって連結される。第六関節33により、チャック部34は、ハンド部32(手首曲げ部)に対して回転する手首回転部として機能する。なお、チャック部34は、研磨ヘッド60を把持する把持部を兼ねている。
【0043】
この移動装置20は、第一関節23、第二関節25、第三関節27、第四関節29、第五関節31、第六関節33を絶対座標系Qa上で制御することで、
図1(B)に示すように、研磨ヘッド60と金属部材Wを、相対座標系QsのX軸方向、Y軸方向、Z軸方向に相対移動させることができる。更に移動装置20は、研磨ヘッド60と金属部材Wを、相対座標系QsのX軸チルトMx方向、Y軸チルトMy方向、Z軸チルトMz方向に相対変位させることができる。なお、本実施形態では、研磨ヘッド60を、X軸チルトMx方向、Y軸チルトMy方向、Z軸チルトMz方向の全てに相対変位させる場合を例示しているが、研磨ヘッド60が主軸74を内蔵しているので、Z軸チルトMz方向の相対変位を省略することもできる。更に本実施形態では、移動装置20となる多関節ロボットが、全ての相対移動を実現する場合を例示したが、ベッド10側に、移動装置20の一部又は全部の機能を組み込むこともできる。
【0044】
(研磨ヘッド)
【0045】
図2(A)及び(B)に拡大して示すように、研磨ヘッド60は、被チャック部62、ベース64、研磨具側変位機構66、付勢機構86、研磨具側台座70、主軸用モータ72、主軸74、研磨具80を有する。
【0046】
ベース64は、側面視するとL字形状となる部材を含んで構成される。詳細に、ベース64は、被チャック部62が固定される基部64Aと、基部64Aから連続して、研磨具側変位機構66が設置される案内部64Bを有する。案内部64Bは、基部64Aと一体化されており、基部64Aを起点として被チャック部62の軸方向(着脱方向)且つ被チャック部62から離れる方向に延びている。
【0047】
被チャック部62は、移動装置20のチャック部34に着脱自在に把持される。チャック部34を電動式またはエア駆動式にすることで、後述する制御装置100によって、研磨ヘッド60を自動的に着脱(交換)しても良い。なお、本実施形態では、被チャック部62の着脱方向Pと、主軸74の軸方向Jが同一となる場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば
図16に示すように、被チャック部62の着脱方向Pと、主軸74の軸方向Jを直交させても良い。
【0048】
研磨具側変位機構66は、ここでは直動ガイドを採用しており、ベース64の案内部64Bに固定されるレール66Aと、レール66Aに滑動するキャリッジ66Bを備える。キャリッジ66Bは研磨具側台座70の背面に固定される。この研磨具側変位機構66によって、ベース64と主軸74が、直動ガイドの案内方向(ここでは主軸74の軸方向Jと一致)に相対案内される。研磨具側変位機構66には、研磨具側台座70と係合可能なストッパ67が設けられており、ベース64に対して、研磨具80が最も突出する姿勢(以下、研磨具最大突出姿勢)で、研磨具側台座70とストッパ67が係合する(
図2(B)参照)。
【0049】
なお、ここでは直動ガイドを利用する場合を例示しているが、変位機構はこれに限定されず、例えば、ラック・ピニオン機構や、ボールスプライン機構、ピストン・クランク機構、シリンダ機構など、往復運動自在の各種直動機構を採用できる。
【0050】
主軸74は、研磨具側台座70の軸受台70Aに固定される軸受(図示省略)を介して、回転自在に保持される。主軸74において、研磨中の金属部材Wの表面WHに近い側を近位端74Aと称し、この近位端74Aと反対側を遠位端74Bと称すると、主軸74の近位端74Aには研磨具80が同軸状に固定される。主軸用モータ72は、研磨具側台座70に固定されており、主軸74を回転駆動する。ここでは主軸用モータ72が、特に図示しないカップリング等を介して主軸74を直接的に結合されて、回転駆動する場合を例示しているが、歯車やベルトを介して間接的に接続されてもよい。
【0051】
付勢機構86は、本実施形態ではコイルばね86Aによって構成されており、ベース64を起点として、研磨具80を、直動軸方向(主軸74の軸方向J)且つその突出側(主軸74の近位端74A方向)に向かって付勢する。詳細に、付勢機構86(コイルばね86A)は、ベース64の基部64Aと、研磨具側台座70の受け部70Bの間に、圧縮状態(コイルばね86Aにおいて復元力が生じている状態)で設置される。結果、研磨具80に対して、金属部材Wからの外力が作用していない状態であっても、研磨具側台座70の受け部70Bの間に付勢力が生じていることから、研磨具80が最も突出する研磨具最大突出姿勢が維持される。換言すると、
図2(B)の研磨具最大突出姿勢において、研磨具80には、付勢機構86による付勢力を含む直動軸方向(主軸74の軸方向J)の先端方向(主軸74の近位端方向)に向かう力(以下、基準軸力)が印加される。なお、この基準軸力には、付勢機構86による付勢力の他に、主軸74、研磨具80、研磨具側台座70、主軸用モータ72の自重の軸方向J成分も含んでいる。
【0052】
一方、移動装置20によって研磨ヘッド60を金属部材Wに押し当てると、この金属部材Wから研磨具80に対して、基準軸力よりも大きい軸方向Jの外力(軸方向反力)が作用する。この場合、研磨具側変位機構66によって、主軸74が研磨具最大突出姿勢から退避するように変位する(
図5(A)参照)。この退避量Lは、その退避量Lの分だけ付勢機構86(コイルばね86A)の付勢力が増加した主軸74の突出方向に作用する軸力と、金属部材Wからの軸方向反力と釣り合う場所に自ずと調整される。加工中は、退避量Lが0より大きくなるように制御することが好ましい。
【0053】
図2(A)に戻って、付勢機構86は、更に、付勢力を可変に調整する力調整部86Bを有する。本実施形態では、力調整部86Bは、ベース64(基部64A)と螺合するネジ状の変位部材となる。ネジを回転させることで、ベース64(基部64A)に対する変位部材の突出量を調整することで、コイルばね86Aの圧縮量を変更できる。結果、基準軸力を調節できる。なお、本実施形態では、付勢機構86として、圧縮側のコイルばねを採用する場合を例示するが、本発明はこれに限定されず、引張コイルばね、ねじりコイルばね、板ばね、皿ばね、トーションバー等、様々なばね機構を採用できる。また、ばね機構以外にも、弾性体であるゴム等を用いて付勢することもできる。
【0054】
研磨具80は、金属部材Wの表面WHと接触する研磨材で行為される研磨部82と、研磨部82を、軸方向Jの後方から支持する可撓性を有する可撓部84を備える。研磨部82は、金属部材Wと接触する研磨面82Aを有しており、研磨面82Aが金属部材Wの表面WHと相対移動することで、ヘアライン加工を行う。研磨具80による金属部材Wの表面WHのヘアライン加工は、乾式・湿式のいずれでも構わないが、本実施形態では乾式を採用している。研磨部82は、例えば、研磨紙、研磨布(不織布含む)、研磨ディスク(研磨板)、研磨ベルト、研磨ブラシ等を選択できるが、表面WHに対してヘアライン加工できるものであれば、その他の研磨材を用いることができる。
【0055】
可撓部84は、弾性変形可能な樹脂製パッドである。樹脂製パッドとしては、例えばゴム製パッド、ウレタン製パッド、スポンジ製パッド等を採用できる。なお、ここでは特に図示しないが、この可撓部84の後方側に、剛性の異なる可撓性パッド及び/又は非可撓性のパッド(例えば金属パッド)を設けて多層構造にしても良い。可撓部84による研磨部82の保持は、例えば、面ファスナ(ベルクロ(登録商標)ファスナ)、両面テープ、固定治具等を利用できる(図示省略)。
【0056】
図5(A)に示すように、可撓部84に対して、金属部材Wからの外力(軸方向反力)が作用すると、可撓部84の一部又は全部が変形する。可撓部84の変形(変位)は、研磨具80が主軸74によって回転している最中において動的に生じる。結果として、研磨部82の研磨面82Aも同様に動的に変形(変位)する。本実施形態では、研磨面82Aが回転して動的に変位する際の回転移動軌跡を「研磨面回転軌跡E」と定義する。
【0057】
また、ここでは特に図示しないが、研磨部82自体が、軸方向に変形性或いは伸縮性(可撓部)を有する素材で一体的に構成され場合がある。その場合は、研磨部82が、可撓部84の一部又は全部を兼ねることになる。
【0058】
なお、
図2(C)に示す研磨具80のように、研磨部82が研磨ブラシ(例えばワイヤーブラシ)の場合、研磨面82Aは、ブラシ先端を連ねて構成される仮想面となる。同時に、研磨ブラシ自体が可撓性を有するので、研磨部82が可撓部84の一部又は全部を兼ねることになる。その場合、研磨ブラシの後方を、非可撓性のパッド85(例えば金属パッド)で支持すれば良い。また、
図2(D)に示す研磨具80のように、一対のローラによって支持されてモータ等で回転駆動される研磨ベルトを研磨部82とする場合、研磨面82Aは、湾曲面となる場合もある。ローラに可撓性をもたせることで、研磨面82Aを変形させることもできる。更に、ここでは研磨具80が可撓部84を有する場合を例示しているが、本発明はこれに限定されず、研磨面82Aに可撓性をもたせないこともできる。
【0059】
(制御装置)
【0060】
図3に、制御装置100の構成例を示す。制御装置100は、移動装置20及び研磨ヘッド60と電気通信経路によって接続される。詳細に、制御装置100は、第一関節23を駆動する第一関節駆動部23A、第一関節23の駆動量を検知する第一関節センサ23B、第二関節25を駆動する第二関節駆動部25A、第二関節25の駆動量を検知する第二関節センサ25B、第三関節27を駆動する第三関節駆動部27A、第三関節27の駆動量を検知する第三関節センサ27B、第四関節29を駆動する第四関節駆動部29A、第四関節29の駆動量を検知する第四関節センサ29B、第五関節31を駆動する第五関節駆動部31A、第五関節31の駆動量を検知する第五関節センサ31B、第六関節33を駆動する第六関節駆動部33A、第六関節33の駆動量を検知する第六関節センサ33B、第五関節31を駆動する第五関節駆動部31A、第五関節31の駆動量を検知する第五関節センサ31B、主軸74を駆動する主軸用モータ72、主軸74の回転量を検知する主軸センサ72Bに接続されて、これらを制御する。なお、関節駆動部はモータ及びモータドライバであり、関節センサ及び主軸センサはモータの回転量を検知するエンコーダとなる。
【0061】
制御装置100は、いわゆる計算機であり、CPU141と、RAM142と、ROM143と、入力装置144と、表示装置145と、メモリ146と、電源147と、入出力インターフェース148と、バス149とを備える。
【0062】
CPU141は、いわゆる中央演算処理装置であり、各種プログラムが実行されて各種機能を実現する。RAM142は、いわゆるRAM(ランダム・アクセス・メモリ)であり、CPU141の作業領域として使用される。ROM143は、いわゆるROM(リード・オンリー・メモリ)であり、CPU141で実行される基本OSや各種プログラム(例えば、測定プログラム)を記憶する。
【0063】
入力装置144は、ボタンやタッチパネル式の入力キーやキーボード、マウスであり、各種情報を入力する。表示装置145は、ディスプレイであり、プログラムを表示したり、作業工程の進捗を表示したりする。メモリ146は、必要に応じて各種データを記憶する。電源147は、各部品が動作するための電力を供給する。入出力インターフェース148は、移動装置20及び研磨ヘッド60と電気通信経路に接続されて、制御信号を出力したり、各センサから送信される検出信号が入力されたりする。バス149は、CPU141、RAM142、ROM143、入力装置144、表示装置145、メモリ146と、電源147、入出力インターフェース148などを一体的に接続して通信を行う配線である。
【0064】
(制御プログラム及び加工方法)
【0065】
ROM143に記憶された基本OSや各種プログラム(制御プログラム)が、CPU141によって実行されることで、制御装置100には、
図4に示す機能ブロックが実装され、金属表面加工が実行される。
【0066】
具体的に、制御装置100は、主軸傾斜処理部260、Z軸移動処理部262、X-Y平面移動処理部264、主軸回転処理部266を有する。
【0067】
主軸回転処理部266は、主軸74を回転させる。主軸傾斜処理部260は、相対座標系Qsにおいて、主軸74を、Z軸を基準として相対角度αで、相対傾斜させる(
図5(A)参照)。また、Z軸移動処理部262は、研磨具80と、金属部材Wの表面WHとを、相対座標系QsのZ軸方向成分を含む方向に相対移動させて、研磨具80と表面WHを接触させる。なお、Z軸移動処理部262による研磨具80と表面WHの接触前に、主軸傾斜処理部260によって主軸74を傾斜させておき、更に、主軸回転処理部266によって主軸74を回転させておくことが好ましい。
【0068】
X-Y平面移動処理部264は、主軸74が相対角度αで相対傾斜する研磨具80と表面WHを、相対座標系QsのX-Y平面方向に沿う移動方向(以下、X-Y平面移動方向Kf)に相対移動させる。この移動速度は、30mm/秒以上が好ましく、さらに望ましくは50mm/秒とする。一方で移動速度、300mm/秒以下が好ましく、さらに望ましくは150mm/秒以下とする。また、移動速度は定速制御とすることが好ましい。
【0069】
以上の機能ブロックにより、
図5(B)に示すように、X-Y平面に沿う研磨面82Aと金属部材Wの表面WHにおける帯状の相対移動軌跡(被研磨領域G)が形成される。この被研磨領域G内には、研磨具80の回転による扇状(部分円弧状)のヘアライン模様Hが連続形成される。
【0070】
機能ブロックについて更に詳細に説明する。主軸傾斜処理部260は、反移動方向傾斜処理部260Aと移動方向傾斜処理部260Bを有する。反移動方向傾斜処理部260Aは、
図5(A)及び(B)に示すように、相対座標系QsのX-Y平面において、主軸74の近位端74Aに対する遠位端74Bの変位方向(以下、主軸チルト方向Tと称する)が、X-Y平面移動方向Kfと反対方向(以下、X-Y平面反移動方向Kbと称する)の成分を内在するように、主軸74を角度αで相対傾斜させる。特に本実施形態では、主軸チルト方向Tが、X-Y平面反移動方向Kbと完全一致するように、主軸74を相対傾斜させる。
図6(A)に示すように、相対座標系Qsを基準とすると、X-Y平面移動方向Kfは、移動軌跡に沿って変化し得ることから、X-Y平面反移動方向Kbも連動して変化する。その結果、X-Y平面反移動方向Kbに完全一致させる主軸チルト方向Tも、移動軌跡に沿って動的に変化する。このように傾斜制御すると、X-Y平面移動方向Kfが変化しても、被研磨領域Gの帯幅Gw1を常に均一にできる。
【0071】
なお、本発明は
図6(A)に限定されない。例えば
図6(B)に示すように、主軸チルト方向Tが、X-Y平面移動方向Kfと反対方向(以下、X-Y平面反移動方向Kbと称する)の成分を内在するものの、被研磨領域Gの一部又は全部において、主軸チルト方向TとX-Y平面反移動方向Kbと不一致となるように傾斜制御しても良い。具体的には、主軸チルト方向Tが、X-Y平面反移動方向Kbに対する直交方向(帯幅方向)の成分を含むようにする。Z軸を基準とした総合傾斜角度が、
図6(A)と
図6(B)で同じと仮定すると、
図6(B)の場合、総合傾斜角度におけるX-Y平面反移動方向Kbの傾斜成分が減少し、帯幅方向の傾斜成分を増えることになる。これに伴い、研磨具80における馬蹄形状・弓形状となる実当たり面B(詳細は後述)が、主軸チルト方向Tに回転する。結果、被研磨領域Gの帯幅Gw2を、帯幅Gw1よりも積極的に減少させつつ、この帯幅Gw2を、帯幅方向の一方側に偏らせることが可能となる。更に
図6(C)に示すように、総合傾斜角度に含まれる帯幅方向の傾斜成分を増やせば増やすほど、この帯幅Gw2を小さくすることができる。つまり、主軸傾斜処理部260が、総合傾斜角度と、X-Y平面反移動方向Kbの傾斜成分と帯幅方向の傾斜成分の比率を適宜制御することで、被研磨領域の帯幅を自在に制御できる。
【0072】
図7(A)に示すように、移動方向傾斜処理部260Bは、相対座標系QsのX-Y平面において、主軸74の近位端74Aに対する遠位端74Bの変位方向(以下、主軸チルト方向Tと称する)が、X-Y平面移動方向Kfと同一方向の成分を内在するように、主軸74を角度αで相対傾斜させる。特に本実施形態では、主軸チルト方向Tが、X-Y平面移動方向Kf完全一致するように、主軸74を相対傾斜させる。
【0073】
図7(B)に示すように、主軸74の相対傾斜量が大きい場合、被研磨領域Gの帯幅Gw1が小さくなり、主軸74の相対傾斜量が中程度の場合、被研磨領域Gの帯幅Gw2が中程度となり、主軸74の相対傾斜量が小さい場合、被研磨領域Gの帯幅Gw3が大きくなる。従って、
図7(B)及び(C)に示すように、X-Y平面移動処理部264によって、主軸74がX-Y平面移動方向Kfに移動する際、これと同時に、移動方向傾斜処理部260Bが、徐々に主軸の傾斜量を減少させると、被研磨領域Gの帯幅を徐々に大きくすることができる。更にここでは特に図示しないが、主軸74がX-Y平面移動方向Kfに移動する際、これと同時に、移動方向傾斜処理部260Bが、徐々に主軸の傾斜量を増大させると、被研磨領域Gの帯幅を徐々に小さくすることができる。なお、ここでは主軸の傾斜量を徐々に減少・増大させる場合を例示しているが、本発明はこれに限定されず、Z軸移動処理部262が、表面WHと研磨面82Aの距離を徐々に接近させて実当たり面Bの面積を徐々に大きくしたり、表面WHと研磨面82Aの距離を徐々に離反させて実当たり面Bの面積を徐々に小さくしたりすることで、被研磨領域Gの帯幅を増減させても良い。更にまた、反移動方向傾斜処理部260Aにおいても、主軸74がX-Y平面移動方向Kfに移動する際、これと同時に傾斜量を徐々に減少・増大させたり、表面WHと研磨面82Aの距離を徐々に接近・離反させたりすることで、被研磨領域Gの帯幅を変化させることができる。
【0074】
図5(A)に戻って、主軸傾斜処理部260は、Z軸に対する主軸74の傾斜角度αが、0度より大きく且つ45度以下となるように設定する。望ましくは、同傾斜角度αが15度以下となるように設定し、更に好ましくは、同傾斜角度αが5度以下とに設定する。一方、同傾斜角度αが1度より大きくなるように設定することが好ましい。このようにすることで、美観に優れた扇状のヘアライン模様Hを形成できる。
【0075】
更に、主軸傾斜処理部260とZ軸移動処理部262の協働により、研磨中において、金属部材Wの表面WHに対して、研磨面回転軌跡Eの一部が離反するように、研磨ヘッド60と表面WHの相対姿勢を維持する。具体的には、研磨面回転軌跡EにおけるX-Y平面移動方向Kfの縁E1が、金属部材Wの表面WHから離れるようにする。同時に、研磨面回転軌跡Eにおける縁E1と反対方向の縁E2が、表面WHに最も強く押し付けられる。
【0076】
この際、
図5(A)及び(B)の通り、制御装置100は、相対座標系QsのX-Y平面と平行方向、且つ、主軸チルト方向Tに直交する方向(以下、チルト直交方向)から研磨面回転軌跡Eを視た場合、研磨面回転軌跡Eの一部が、表面WHと接触している範囲を実当たり面Bと定義できる。この実当たり面Bは、円の一部が欠けた形状(馬蹄形状)に近似する。そして、研磨面回転軌跡Eを、相対座標系QsのX-Y平面に投影した場合における、主軸チルト方向Tの最大直径を研磨外径Vと定義すると、実当たり面Bをチルト直交方向から視た当たり幅Bwを、研磨外径Vの4分の1以上に設定する。望ましくは、当たり幅Bwを研磨外径Vの3分の1以上に設定し、更に望ましくは、当たり幅Bwを研磨外径Vの2分の1以上に設定する。一方、制御装置100は、当たり幅Bwを研磨外径Vの10分の9以下に設定し、望ましくは、当たり幅Bwを研磨外径の6分の5以下に設定すし、更に望ましくは当たり幅Bwを研磨外径Vの4分の3以下に設定する。
【0077】
以上の通り、本実施形態では、相対角度αを0度より大きく設定したり、当たり幅Bwを研磨外径Vの10分の9以下に設定したりすることで、主として、X-Y平面移動方向Kfに沿って凹状となる部分円弧状のヘアライン模様を美しく形成できる。具体的には、
図5(B)に示すように、実当たり面Bに作用する面圧は、X-Y平面移動方向Kf側の縁B1が最も弱く、反対側の縁B2が最も強い。研磨面回転軌跡Eは、表面WHに対してX-Y平面移動方向Kfに移動していくので、表面WHに対して、通過する実当たり面Bによって、縁B1側の浅い凹凸のヘアライン模様から次第に深い凹凸のヘアライン模様が重畳形成されていき、最終的には、最終研磨接点となる縁B2によって鮮やかなヘアライン模様が形成される。
【0078】
なお、相対角度αを0度又はそれ以下に設定したり、研磨面回転軌跡Eの全体を実当たり面Bに設定したりすると、正円となる実当たり面BにおけるX-Y平面移動方向Kfの縁G1が接触してしまい、X-Y平面移動方向Kfに沿って凸側の扇状のヘアライン模様と、反対側の縁G2による凹側の扇状のヘアライン模様の双方が重畳形成されるので、これらが互いに混在して模様として成立しなくなる。また、相対角度αが45度を超えたり、当たり幅Bwが研磨外径Vの4分の1未満になったりすると、金属部材Wの表面WHに対して、縁G2が局所的に接触する結果、被研磨領域Gの帯幅Gwが極端に小さくなって研磨効率が低下すると同時に、ヘアライン模様が不安定となって美観が低下しやすくなる。
【0079】
図4の機能ブロックに戻って、X-Y平面移動処理部264は、表面WHに形成される第一の被研磨領域の一部に対して、その後に形成される第二の被研磨領域の一部を重畳させるように、研磨ヘッド60を相対移動させる。この結果、金属部材Wの表面WHにおいて、第一の被研磨領域内のヘアライン模様と、第二の被研磨領域内のヘアライン模様が接するようにする。この部分重畳研磨は、X-Y平面移動処理部264による研磨具80の移動経路によって設定される。
【0080】
具体的にこれを定義すると、X-Y平面移動処理部264は、第一基準方向移動処理部264A、第二基準方向移動処理部264B、第一反基準方向移動処理部264C、第二反基準方向移動処理部264Dを有する。
図8(A)に示すように、相対座標系QsのX-Y平面における所定方向を基準方向Nfと定義し、基準方向Nfと正反対の方向を反基準方向Nbと定義した場合に、第一基準方向移動処理部264A、及び、第二基準方向移動処理部264Bは、基準方向Nf成分を含むX-Y平面移動方向Kfa、Kfbに沿って、表面WHと研磨ヘッド60を相対移動させて、表面WHに帯状の第一及び第二基準方向被研磨領域Gfa、Gfbを形成する。
【0081】
また、第一反基準方向移動処理部264C、及び、第二反基準方向移動処理部264Dは、反基準方向Nb成分を含むX-Y平面移動方向Kfc、Kfdに、表面WHと研磨ヘッド60を相対移動させて、表面WHに帯状の第一及び第二反基準方向被研磨領域Gbc、Gbdを形成する。
【0082】
この際、プログラムの時系列上の実行手順は、例えば、第一基準方向移動処理部264A、第一反基準方向移動処理部264C、第二基準方向移動処理部264B、第二反基準方向移動処理部264Dの順となる。第一反基準方向移動処理部264Cでは、第一反基準方向被研磨領域Gbcを、既に形成されている第一基準方向被研磨領域Gfaの一部領域M1と重畳させる。本実施形態では、第一基準方向被研磨領域Gfaの帯形状の他方(図中の下側)の側縁と、第一反基準方向被研磨領域Gbcの一方(図中の上側)の側縁を重畳させる。結果、金属部材Wの表面WHには、第一基準方向被研磨領域Gfa内の扇形状のヘアライン模様Hと、第一反基準方向被研磨領域Gbc内の扇状のヘアライン模様Hの双方が残存しており、互いに接触してS字状のヘアライン模様が形成される。
【0083】
更に、第二基準方向移動処理部264Bでは、第二基準方向被研磨領域Gfbを、既に形成されている第一反基準方向被研磨領域Gbcの一部領域M2と重畳させる。本実施形態では、第一反基準方向被研磨領域Gbcの帯形状の他方(図中の下側)の側縁と、第二基準方向被研磨領域Gfbの一方(図中の上側)の側縁を重畳させる。結果、金属部材Wの表面WHには、第一反基準方向被研磨領域Gbc内の扇形状のヘアライン模様Hと、第二基準方向被研磨領域Gfb内の扇状のヘアライン模様Hの双方を残存させることで、S字状のヘアライン模様を形成することが可能となる。
【0084】
また更に、第二反基準方向移動処理部264Dでは、第二反基準方向被研磨領域Gbdを、既に形成されている第二基準方向被研磨領域Gfbの一部領域M3と重畳させる。本実施形態では、第二基準方向被研磨領域Gfbの帯形状の他方(図中の下側)の側縁と、第二反基準方向被研磨領域Gbdの一方(図中の上側)の側縁を重畳させる。結果、金属部材Wの表面WHには、第二基準方向被研磨領域Gfb内の扇形状のヘアライン模様Hと、第二反基準方向被研磨領域Gbd内の扇状のヘアライン模様Hの双方を残存させることで、S字状のヘアライン模様を形成することが可能となる。
【0085】
なお、上記制御例では、第一基準方向移動処理部264A、第一反基準方向移動処理部264C、第二基準方向移動処理部264B、第二反基準方向移動処理部264Dの順に重畳させる場合を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば
図8(B)に示すように、先に、第一基準方向移動処理部264A及び第二基準方向移動処理部264Bを実行して、互いに間隔を開けた状態の第一及び第二基準方向被研磨領域Gfa、Gfbを形成しておき、その後に、第一反基準方向移動処理部264C及び第二反基準方向移動処理部264Dを実行して、これらに重畳する第一及び第二反基準方向被研磨領域Gbc、Gbdを形成しても良い。
【0086】
第一基準方向移動処理部264A、及び、第二基準方向移動処理部264Bの制御の変形例を
図9(A)に示す。ここでは、第一基準方向移動処理部264Aの後に実行される第二基準方向移動処理部264Bにおいて、第二基準方向被研磨領域Gfbを、既に形成されている第一基準方向被研磨領域Gfaの一部領域M1と重畳させる。本実施形態では、第一基準方向被研磨領域Gfaの帯形状の他方(図中の下側)の側縁と、第二基準方向被研磨領域Gfbの一方(図中の上側)の側縁を重畳させる。結果、金属部材Wの表面WHには、第一基準方向被研磨領域Gfa内の扇形状のヘアライン模様Hと、第二基準方向被研磨領域Gfb内の扇状のヘアライン模様Hの双方を残存させることが可能となる。第一基準方向移動処理部264A、及び、第二基準方向移動処理部264Bを、帯幅方向に移動させながら更に繰り返すようにしても良い。
【0087】
更に
図9(B)に示す変形例のように、第二基準方向移動処理部264Bにおいて、第二基準方向被研磨領域Gfbの研磨スタート点を、第一基準方向被研磨領域Gfaの研磨スタート点から基準方向Nfに所定量Nwずらすことも好ましい。第一及び第二基準方向移動処理部264A、264Bの重畳工程を繰り返すことで、鱗状のヘアライン模様を形成することができる。なお、第一反基準方向移動処理部264C、及び、第二反基準方向移動処理部264Dにおいても
図9(A)(B)と同様の制御を実現できる。
【0088】
また
図8及び
図9では、第一基準方向移動処理部264A、第二基準方向移動処理部264B、第一反基準方向移動処理部264C、第二反基準方向移動処理部264Dが、互いに平行となる方向、即ち、基準方向Nf又は反基準方向Nbと一致する方向に研磨ヘッド60を相対移動させることで、帯状の被研磨領域の側縁を重畳させる場合を例示したが、本発明はこれに限定さなれない。
【0089】
例えば
図10(A)では、第一基準方向移動処理部264Aは、基準方向Nfと一致する方向となるX-Y平面移動方向Kfaに沿って、表面WHと研磨ヘッド60を相対移動させて、表面WHに帯状の第一基準方向被研磨領域Gfaを形成する一方、第一反基準方向移動処理部264Cは、反基準方向Nb成分を含むがこれとは非平行となるX-Y平面移動方向Kfcに、表面WHと研磨ヘッド60を相対移動させて、表面WHに帯状の第一反基準方向被研磨領域Gbcを形成する。結果、第一反基準方向移動処理部264Cでは、第一反基準方向被研磨領域Gbcを、既に形成されている第一基準方向被研磨領域Gfaと非平行に形成すことで、その一部領域M1と交差させることができる。
【0090】
同様に、例えば
図10(B)では、第一基準方向移動処理部264Aの後に実行される第二基準方向移動処理部264Bにおいて、第二基準方向被研磨領域Gfbを、基準方向Nfの成分を含めつつ、既に形成されている第一基準方向被研磨領域Gfaと非平行に延ばすことで、その一部領域M1と交差させることができる。
【0091】
また、
図8~
図10の制御例では、第一基準方向移動処理部264A、第二基準方向移動処理部264B、第一反基準方向移動処理部264C、第二反基準方向移動処理部264Dが、直線状に研磨ヘッド60を相対移動させる場合を例示するが、本発明はこれに限定されない。例えば、
図11(A)では、第一基準方向移動処理部264Aが、基準方向Nfの成分を含む方向Kfaに、研磨ヘッド60を蛇行状又は鋸刃状に相対移動させて、表面WHに帯状の第一基準方向被研磨領域Gfaを形成する。また、第一反基準方向移動処理部264Cは、反基準方向Nbの成分を含む方向Kbcに、研磨ヘッド60を蛇行状又は鋸刃状に相対移動させて、表面WHに帯状の第一反基準方向被研磨領域Gbcを形成する。蛇行又は鋸刃状の位相を互いにずらすことで、第一基準方向被研磨領域Gfaと第一反基準方向被研磨領域Gbcを周期的に交差させることができる。
【0092】
同様に、例えば、
図11(B)では、第一基準方向移動処理部264Aが、基準方向Nfの成分を含む方向Kfaに、研磨ヘッド60を蛇行状又は鋸刃状に相対移動させて、表面WHに帯状の第一基準方向被研磨領域Gfaを形成する。また、第二基準方向移動処理部264Bも、基準方向Nfの成分を含む方向Kfbに、研磨ヘッド60を蛇行状又は鋸刃状に相対移動させて、表面WHに帯状の第二基準方向被研磨領域Gfbを形成する。蛇行又は鋸刃状の位相を互いにずらすことで、第一基準方向被研磨領域Gfaと第二基準方向被研磨領域Gfbを周期的に交差させることができる。このように、周期的に交差させた扇状のヘアライン模様に対して、例えば、光源(例えば点光源)からの光を照射すると、基準方向Nfに間隔を有して並ぶドット状の反射ドットが表面WHに視覚的に形成され、視る角度によって、この反射ドットが移動する。結果、極めて優れた美観を創出できる。
【0093】
ところで、既に
図1(C)においても説明の通り、金属部材Wの表面WHは平坦とは限らない。例えば、金属部材Wとして金属板を用いたとしても、その板厚が全体で均一でない場合や、金属板が湾曲していることもあり得る。本実施形態では、
図12(A)に示すように、絶対座標系Qaを基準として、金属部材Wの表面WHがZ軸方向に変動する場合であっても、研磨ヘッド60における研磨具側変位機構66及び付勢機構86によって、研磨具80を、金属部材Wの表面WHに追従するようにZ軸方向に変位させることができる。結果、移動装置20側における追従制御を省略しつつ、安定したヘアライン模様Hを形成可能となり、美観を高めることができる。
【0094】
なお、本実施形態では、付勢機構86として、コイルばね等を採用する場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば
図12(B)は、付勢機構86として、エア圧又は液圧で動作するシリンダ機構を採用する場合を示す。シリンダ機構を用いる場合、エア圧又は液圧の調整装置を、制御装置100で制御することで、ヘアライン加工中において、付勢力を動的に変化させることもできる。また、付勢機構86として、電磁ソレノイドや、直動モータ等のように電力で動作する機構を採用し、電力制御によって付勢力を発生・調整させることもできる。
【0095】
以上の通り、本実施形態の金属表面模様加工装置1によれば、金属部材Wの表面WHに対して、主軸74を所定方向い相対傾斜させながら研磨加工するので、扇状のヘアライン模様を安定して形成することができる。特に本実施形態では、制御装置100のX-Y平面移動処理部264により、表面WHに形成される帯状の被研磨領域Gを、互いに重畳させることができる。その結果、例えば、
図13(A)に示すように、プレート状の金属部材Wの表面WHの全体に対して、余すところなく、扇状のヘアライン模様を形成することで、極めて美観に優れた表面装飾を施すことが可能となり、金属部材Wを、壁面、床、天井等の装飾用建材として利用することができる。
【0096】
更に、
図13(B)に示すように、プレート状の金属部材Wの表面WHのヘアライン模様に対して、更に、インクジェットプリンタ等の印刷装置よって塗膜TMを形成することが好ましい。塗膜TMは、非透過性カラーインクや、光透明性カラーインクを利用したデザイン(模様)を含むことが好ましい。この際、印刷装置において、ヘアライン模様と、塗膜TM側のデザイン(模様)の位置調整(位置決め)を行うことが更に好ましい。本実施形態では、金属部材Wの全体に塗膜TMを形成することが望ましい。これにより、表面WHのヘアライン模様による視る角度によって変化する光沢と、塗膜TMに自在に描かれるデザインが、適切な位置調整に基づいて重畳することになり、高い意匠性を創出することができる。更に、表面WHのヘアライン模様によって、塗膜TMの密着性が向上するので、塗膜TMが剥がれにくいという利点も得られる。
【0097】
とりわけ、塗膜TMには、例えば、光透明性カラーインクを少なくとも一部に含むような木目デザインを含めることが好ましい。実際の木材(無垢材)は、その切断面に微細繊維による凸凹が形成されており、その繊維方向に平行に光を当てた場合と、繊維方向と直角に光を当てた場合で変化する。この木材の繊維方向の凹凸の役割を、表面WHのヘアライン模様が代替できる。木材の年輪等の装飾は、塗膜TMのデザイン(模様)によって描くことができる。しかも、塗膜TMによって、金属部材のヘアライン模様の強すぎる光沢感を低減(吸収)させることができるので、木材に近い独特の光沢感を創出できる。なお、塗膜は上記事例に限定されず、例えば、ほうろう等のように、ガラス質の釉薬を高温で焼き付けた塗膜を採用してもよい。
【0098】
なお、本実施形態の金属表面模様加工装置1の応用例として、
図14(A)に示すように、絶対座標系Qaを基準として、金属部材Wの表面WHのZ軸方向の位置や、表面WHの傾斜角度を測定する表面形状測定装置300を設けるようにしても良い。表面形状測定装置300は、例えば、表面WHに対してレーザーを照射して、その散乱光を測定して表面WHの距離を非接触で多点測定するLIDAR等のレーザー距離計であってもよい。また、研磨ヘッド60に代えて、移動装置20にタッチプローブ400を装着することで、移動装置20自体を表面形状測定装置300として代用できる。この場合、タッチプローブ400を、
図14(B)に示すような複数の測定点Dに接触させることで、金属部材Wの表面WHのZ軸方向の位置を測定する。表面形状測定装置300によって測定された表面形状データは、制御装置100のメモリ146に記憶させることで、制御装置100における主軸傾斜処理部260、Z軸移動処理部262、X-Y平面移動処理部264の座標変換処理部(即ち、絶対座標系Qaを基準にした相対座標系Qsの座標変換処理)に反映させる。表面形状測定装置300が存在しない場合であっても、金属部材Wの表面WHの三次元形状データが既知である場合は、その三次元形状データをメモリ146に記憶させることで、同様の座標変換処理を実現できる。
【0099】
なお、金属部材Wがプレート部材等であって、その表面WHが、絶対座標系QaのX-Y平面と平行になることが約束されている場合は、絶対座標系QaのX-Y平面と相対座標系QsのX-Y平面が常に平行となり、Z軸の相対差は板厚相当になるので、板厚データのみメモリ146に記憶させるか、プログラムに反映させることで、表面形状測定装置300を省略できる。
【0100】
また、本実施形態では、単一の研磨ヘッド60(単一の研磨具80)で、金属部材Wの表面WHをヘアライン加工する場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば
図15に示すように、研磨具80の種類が異なる複数の研磨ヘッド60を、ツールチェンジャー500に設置しておき、移動装置20が、自ら研磨ヘッド60を交換しながら、金属部材Wの表面WHをヘアライン加工することもできる。
【0101】
更に、本実施形態では、移動装置20として、垂直多関節型ロボットを採用する場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、ロボットとしては、スカラ型ロボット、直角座標型ロボット、円筒座標型ロボット、極座標型ロボット等、様々に利用できる。また、いわゆるロボットに限られず、X-Y-Z移動アーム装置(直角座標型ロボットの一種と考えることもできる)等を用いても良い。また、X-Y平面方向に移動させる平面移動テーブル、Z方向に昇降させる昇降テーブルによって、ベッド10側を移動させることもできる。
【0102】
尚、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0103】
1 金属表面模様加工装置
10 ベッド
12 天面
14 治具プレート
20 移動装置
22 台座部
23 第一関節
23A 第一関節駆動部
23B 第一関節センサ
24 第一アーム
25 第二関節
25A 第二関節駆動部
25B 第二関節センサ
26 第二アーム
27 第三関節
27A 第三関節駆動部
27B 第三関節センサ
28 第三アーム
29 第四関節
29A 第四関節駆動部
29B 第四関節センサ
30 第四アーム
31 第五関節
31A 第五関節駆動部
31B 第五関節センサ
32 ハンド部
33 第六関節
33A 第六関節駆動部
33B 第六関節センサ
34 チャック部
60 研磨ヘッド
62 被チャック部
64 ベース
64A 基部
64B 案内部
66 研磨具側変位機構
66A レール
66B キャリッジ
67 ストッパ
70 研磨具側台座
70A 軸受台
70B 受け部
72 主軸用モータ
72B 主軸センサ
74 主軸
74A 近位端
74B 遠位端
80 研磨具
82 研磨部
82A 研磨面
84 可撓部
85 パッド
86 付勢機構
86B 力調整部
100 制御装置
260 主軸傾斜処理部
262 Z軸移動処理部
264 X-Y平面移動処理部
266 主軸回転処理部
B 実当たり面
Bw 当たり幅
E 研磨面回転軌跡
G 被研磨領域
Gw 帯幅
H ヘアライン模様
Qa 絶対座標系
Qs 相対座標系
R 加工対象領域
T 主軸チルト方向
V 研磨外径
W 金属部材
WH 表面