(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049157
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】時系列データ評価装置、時系列データ評価用プログラム及び時系列データ評価方法
(51)【国際特許分類】
G06F 17/18 20060101AFI20240402BHJP
【FI】
G06F17/18 Z
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155450
(22)【出願日】2022-09-28
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】391016358
【氏名又は名称】東芝情報システム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100074147
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 崇
(72)【発明者】
【氏名】奥富 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】真尾 朋行
(72)【発明者】
【氏名】梅野 健
【テーマコード(参考)】
5B056
【Fターム(参考)】
5B056BB64
(57)【要約】
【課題】高精度で処理速度の高速化を図る。
【解決手段】ξ
t∈A
iとなる確率p(i)を算出する確率算出部201と、前記分割区間A
i(i=1,2,・・・,M)を更にQ等分に分割した細分割区間B
i(i=1,2,・・・,M×Q)を設定して、この細分割区間における測度を用いて分割エントロピーを求める分割エントロピー算出部202と、前記確率p(i)と前記分割エントロピーの乗算について、前記分割区間範囲の総和演算を行う総和演算部203とを具備する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
τを直線上で定義された写像τを
【数1】
とし、初期値ξ
0∈Iに対して、
ξ
t=τ(ξ
t-1)=τ
t(ξ
0),t=1,2,・・・,n
によるn回の反復によって得られた、合計n+1個の時系列データを
{ξ
0,ξ
1,ξ
2,・・・,ξ
n}
とし、ξ
tが含まれる区間IをM等分した分割区間を、A
i(i=1,2,・・・,M)で表したとき、分割区間は、以下の式(1)を満たすとき、
【数2】
c
1(i),p(i)を、以下の式(2)、式(4)とし、
c
1(i)=#{ξ
t∈A
i|t=0,1,2,・・・,n-1}・・・(2)
【数3】
ξ
t∈A
iとなる確率p(i)を算出する確率算出部と、
前記分割区間A
i(i=1,2,・・・,M)を更にQ等分に分割した細分割区間B
i(i=1,2,・・・,M×Q)を設定して、この細分割区間における測度を用いて分割エントロピーを求める分割エントロピー算出部と、
前記確率p(i)と前記分割エントロピーの乗算について、前記分割区間範囲の総和演算を行う総和演算部と
を具備することを特徴とする時系列データ評価装置。
【請求項2】
前記分割エントロピー算出部は、前記細分割区間における外測度を用いて外測度エントロピーを算出する外測度エントロピー算出部を具備することを特徴とする請求項1に記載の時系列データ評価装置。
【請求項3】
前記分割エントロピー算出部は、前記細分割区間における内測度を用いて内測度エントロピーを算出する内測度エントロピー算出部を具備することを特徴とする請求項2に記載の時系列データ評価装置。
【請求項4】
前記分割エントロピー算出部は、前記外測度エントロピーと前記内測度エントロピーとの平均値を分割エントロピーとして総和演算に用いることを特徴とする請求項3に記載の時系列データ評価装置。
【請求項5】
前記分割区間Ai(i=1,2,・・・,M)を更にW等分に分割した写像前細分割区間Ci(i=1,2,・・・,M×W)について、実データが存在する写像前細分割区間の数をviとし、写像前細分割区間内における実データ存在率wiを、wi=vi/Wにより求める実データ存在率算出部を具備し、
前記分割エントロピー算出部は、前記外測度エントロピーと前記内測度エントロピーを、前記実データ存在率wiにより補正した補正外測度エントロピーと補正内測度エントロピーを作成し、この補正外測度エントロピーと補正内測度エントロピーとの平均値を分割エントロピーとして総和演算に用いることを特徴とする請求項4に記載の時系列データ評価装置。
【請求項6】
コンピュータを、
τを直線上で定義された写像τを
【数4】
とし、初期値ξ
0∈Iに対して、
ξ
t=τ(ξ
t-1)=τ
t(ξ
0),t=1,2,・・・,n
によるn回の反復によって得られた、合計n+1個の時系列データを
{ξ
0,ξ
1,ξ
2,・・・,ξ
n}
とし、ξ
tが含まれる区間IをM等分した分割区間を、A
i(i=1,2,・・・,M)で表したとき、分割区間は、以下の式(1)を満たすとき、
【数5】
c
1(i),p(i)を、以下の式(2)、式(4)とし、
c
1(i)=#{ξ
t∈A
i|t=0,1,2,・・・,n-1}・・・(2)
【数6】
ξ
t∈A
iとなる確率p(i)を算出する確率算出部、
前記分割区間A
i(i=1,2,・・・,M)を更にQ等分に分割した細分割区間B
i(i=1,2,・・・,M×Q)を設定して、この細分割区間における測度を用いて分割エントロピーを求める分割エントロピー算出部、
前記確率p(i)と前記分割エントロピーの乗算について、前記分割区間範囲の総和演算を行う総和演算部
として機能させることを特徴とする時系列データ評価用プログラム。
【請求項7】
前記分割エントロピー算出部として機能する前記コンピュータを、前記細分割区間における外測度を用いて外測度エントロピーを算出する外測度エントロピー算出部として機能させることを特徴とする請求項6に記載の時系列データ評価用プログラム。
【請求項8】
前記分割エントロピー算出部として機能する前記コンピュータを、前記細分割区間における内測度を用いて内測度エントロピーを算出する内測度エントロピー算出部として機能させることを特徴とする請求項7に記載の時系列データ評価用プログラム。
【請求項9】
前記分割エントロピー算出部として機能する前記コンピュータを、前記外測度エントロピーと前記内測度エントロピーとの平均値を分割エントロピーとして総和演算に用いるように機能させることを特徴とする請求項8に記載の時系列データ評価用プログラム。
【請求項10】
前記コンピュータを、更に、
前記分割区間Ai(i=1,2,・・・,M)を更にW等分に分割した写像前細分割区間Ci(i=1,2,・・・,M×W)について、実データが存在する写像前細分割区間の数をviとし、写像前細分割区間内における実データ存在率wiを、wi=vi/Wにより求める実データ存在率算出部として機能させ、
前記コンピュータを前記分割エントロピー算出部として、前記外測度エントロピーと前記内測度エントロピーを、前記実データ存在率wiにより補正した補正外測度エントロピーと補正内測度エントロピーを作成し、この補正外測度エントロピーと補正内測度エントロピーとの平均値を分割エントロピーとして総和演算に用いるように機能させることを特徴とする請求項9に記載の時系列データ評価用プログラム。
【請求項11】
τを直線上で定義された写像を
【数7】
とし、初期値ξ
0∈Iに対して、
ξ
t=τ(ξ
t-1)=τ
t(ξ
0),t=1,2,・・・,n
によるn回の反復によって得られた、合計n+1個の時系列データを
{ξ
0,ξ
1,ξ
2,・・・,ξ
n}
とし、ξ
tが含まれる区間IをM等分した分割区間を、A
i(i=1,2,・・・,M)で表したとき、分割区間は、以下の式(1)を満たすとき、
【数8】
c
1(i),p(i)を、以下の式(2)、式(4)とし、
c
1(i)=#{ξ
t∈A
i|t=0,1,2,・・・,n-1}・・・(2)
【数9】
ξ
t∈A
iとなる確率p(i)を算出し、
前記分割区間A
i(i=1,2,・・・,M)を更にQ等分に分割した細分割区間B
i(i=1,2,・・・,M×Q)を設定して、この細分割区間における測度を用いて分割エントロピーを算出し、
前記確率p(i)と前記分割エントロピーの乗算について、前記分割区間範囲の総和演算を行う
ことを特徴とする時系列データ評価方法。
【請求項12】
前記分割エントロピーの算出においては、前記細分割区間における外測度を用いて外測度エントロピーを算出することを特徴とする請求項11に記載の時系列データ評価方法。
【請求項13】
前記分割エントロピーの算出においては、前記細分割区間における内測度を用いて内測度エントロピーを算出することを特徴とする請求項12に記載の時系列データ評価方法。
【請求項14】
前記分割エントロピーの算出では、前記外測度エントロピーと前記内測度エントロピーとの平均値を分割エントロピーとして総和演算に用いることを特徴とする請求項13に記載の時系列データ評価方法。
【請求項15】
前記分割区間Ai(i=1,2,・・・,M)を更にW等分に分割した写像前細分割区間Ci(i=1,2,・・・,M×W)について、実データが存在する写像前細分割区間の数をviとし、写像前細分割区間内における実データ存在率wiを、wi=vi/Wにより算出し、
前記分割エントロピーの算出においては、前記外測度エントロピーと前記内測度エントロピーを、前記実データ存在率wiにより補正した補正外測度エントロピーと補正内測度エントロピーを作成し、この補正外測度エントロピーと補正内測度エントロピーとの平均値を分割エントロピーとして総和演算に用いることを特徴とする請求項14に記載の時系列データ評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、時系列データ評価装置、時系列データ評価用プログラム及び時系列データ評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、時系列データのカオス度合を定量化する場合には、リアプノフ指数に如何に近似させた曲線を作り出せるかが競われている。即ち、カオスの測定/定量化手段として、古くより、リアプノフ指数と呼ばれる指標が用いられている。リアプノフ指数は、データ生成源の方程式の特徴に基づき計算されるため、データ生成源(データを生成する方程式等)が未知の場合は、大量のデータと煩雑な手続きを経由して推定する必要があり、容易に得られるものではなかった。特に、リアルタイム処理を行う場合にリアプノフ指数を採用することは、困難であり、実際的には不可能であった。
【0003】
上記のリアプノフ指数に対し、カオス尺度と称される以下の手法が知られている。カオス尺度においては、τを直線上で定義された写像を
【数1】
とし、初期値ξ
0∈Iに対して、
ξ
t=τ(ξ
t-1)=τ
t(ξ
0),t=1,2,・・・,n
によるn回の反復によって得られた、合計n+1個の時系列データを
{ξ
0,ξ
1,ξ
2,・・・,ξ
n}
とし、ξ
tが含まれる区間IをM等分した分割区間を、A
i(i=1,2,・・・,M)で表したとき、分割区間は、以下の式(1)を満たすとき、
【数2】
c
1(i),c
2(i,j)から、p(i),p(i,j),p(j|i)を、算出する。
c
1(i)=#{ξ
t∈A
i|t=0,1,2,・・・,n-1}・・・(2)
c
2(i,j)=#{ξ
t∈A
i,ξ
t+1∈A
j|t=0,1,2,・・・,n-1}・・・(3)
上記の式(2)に関しては
図1(a)にカウンタc
1(i)の写像領域と区間番号を示し、上記の式(3)に関しては
図1(b)にカウンタc
2(i,j)の写像領域と区間番号を示す。
【数3】
上記において、p(i)はξ
t∈A
iとなる確率であり、p(i,j)は、ξ
t∈A
i,ξ
t+1∈A
jとなる確率であり、p(j|i)は、ξ
t∈A
i,ξ
t+1∈A
jとなる条件付き確率である。
【0004】
上記を前提とし、カオス尺度Hは、以下の定義式(7)に対して、式(8)により計算される。
【数4】
ただし、
0log0=0
とする。以上は、非特許文献1に記載されたカオス尺度を説明したものである。
【0005】
上記カオス尺度に対し、発明者らは修正カオス尺度なる指標を提起し、時系列データのカオス度合を定量化することを試みた(特許文献1参照)。以下、修正カオス尺度について説明する。τを直線上で定義された写像τを
【数5】
とし、初期値ξ
0∈Iに対して、
ξ
t=τ(ξ
t-1)=τ
t(ξ
0),t=1,2,・・・,n
によるn回の反復によって得られた、合計n+1個の時系列データを
{ξ
0,ξ
1,ξ
2,・・・,ξ
n}
とし、ξ
tが含まれる区間IをM等分した分割区間を、A
i(i=1,2,・・・,M)で表したとき、分割区間は、以下の式(1)を満たすとき、
【数6】
c
1(i),c
2(i,j)から、p(i),p(i,j),p(j|i)を、算出する。
c
1(i)=#{ξ
t∈A
i|t=0,1,2,・・・,n-1}・・・(2)
c
2(i,j)=#{ξ
t∈A
i,ξ
t+1∈A
j|t=0,1,2,・・・,n-1}・・・(3)
図1(a)にカウンタc
1(i)の写像領域と区間番号を示し、
図1(b)にカウンタc
2(i,j)の写像領域と区間番号を示す。
【数7】
上記において、p(i)はξ
t∈A
iとなる確率であり、p(i,j)は、ξ
t∈A
i,ξ
t+1∈A
j となる確率であり、p(j|i)は、ξ
t∈A
i,ξ
t+1∈A
jとなる条件付き確率である。
ここまでは、カオス尺度と同様であり、以下が修正カオス尺度に固有なものである。
【0006】
分割区間A
i(i=1,2,・・・,M)を更にQ等分に分割した細分割区間B
i(i=1,2,・・・,M×Q)を設定する。
図2に、分割区間A
iと実データが存在する細分割区分B
i、の関係が示されている。
【数8】
である。この式は、分割区間A
i(i=1,2,・・・,M)と、これを更にQ等分に分割した細分割区間B
i関係を示している。
【0007】
ここで、
図3に示すように、実測度の分割区間A
iと実測度の細分割区間B
i、及び細分割区間について有測度区間の測度を1とした場合に、分割区間A
iにおいて有測度の細分割区間B
iが占める割合q(i,j)を、以下のc
3(i,j),u
3(i,j),u
2(i,j)から求める。この割合q(i,j)は、「ノルム比」と称されるものである。
c
3(i,j)=#{ξ
t∈A
i,ξ
t+1∈B
j|t=0,1,2,・・・,n-1}・・・(10)
【数9】
【0008】
修正カオス尺度H
*は、以下の定義式(14)に対して、式(16)に示す数式として得られる。
【数10】
【0009】
上記のカオス尺度Hを求める計算式と、修正カオス尺度H
*を求める計算式を比較すると、修正カオス尺度H
*を求める計算式はカオス尺度Hを求める計算式に対し、
【数11】
が加わったものであることが判る。
以上は、特許文献1に記載された修正カオス尺度を説明したものである。
【0010】
更に、発明者らは時系列データのカオス度合を定量化する手法として特許文献2に記載の手法と特許文献3に記載の手法を提供した。特許文献2に記載の手法は、修正カオス尺度の場合と同じように細分割区間(M×Q分割)を導入し、細分割単位で分割エントロピーを計算するものである。修正カオス尺度の場合に式(17)を加えたのに対し、特許文献2に記載の手法では、
【数12】
を加える。また、この特許文献2に記載の手法は計算アルゴリズムかシンプルであるという特徴を有しており、かつ、修正カオス尺度の手法とほぼ同程度の性能を有している。
【0011】
特許文献3に記載の手法は、修正カオス尺度の場合と同じように細分割区間(M×Q分割)を導入し、細分割単位で分割エントロピーを計算するものである。更に、データ密度の一定化を図り、写像後の拡大率補正のために、外測度と内測度の場合のエントロピーの平均を用いている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】大矢雅則,原利英,“数理物理と数理情報の基礎,”近代科学社,2016年
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2021-64323号公報
【特許文献2】特開2021-64324号公報
【特許文献3】特開2022-7775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上の従来手法により、リアプノフ指数に近似した曲線を得て精度の向上を図ることができたものの、データ数と分割数を多くする必要があった。本発明の目的は、高精度で処理速度の高速化を図ることができ、リアルタイムデータに対しリアルタイムでカオス度合の定量化を図ることができる時系列データ評価装置、時系列データ評価用プログラム及び時系列データ評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の実施形態に係る時系列データ評価装置は、τを直線上で定義された写像τを
【数13】
とし、初期値ξ
0∈Iに対して、
ξ
t=τ(ξ
t-1)=τ
t(ξ
0),t=1,2,・・・,n
によるn回の反復によって得られた、合計n+1個の時系列データを
{ξ
0,ξ
1,ξ
2,・・・,ξ
n}
とし、ξ
tが含まれる区間IをM等分した分割区間を、A
i(i=1,2,・・・,M)で表したとき、分割区間は、以下の式(1)を満たすとき、
【数14】
c
1(i),p(i)を、以下の式(2)、式(4)とし、
c
1(i)=#{ξ
t∈A
i|t=0,1,2,・・・,n-1}・・・(2)
【数15】
ξ
t∈A
iとなる確率p(i)を算出する確率算出部と、
前記分割区間A
i(i=1,2,・・・,M)を更にQ等分に分割した細分割区間B
i(i=1,2,・・・,M×Q)を設定して、この細分割区間における測度を用いて分割エントロピーを求める分割エントロピー算出部と、
前記確率p(i)と前記分割エントロピーの乗算について、前記分割区間範囲の総和演算を行う総和演算部と
を具備することを特徴とする。
【0016】
本発明の実施形態に係る時系列データ評価装置では、前記分割エントロピー算出部は、前記細分割区間における外測度を用いて外測度エントロピーを算出する外測度エントロピー算出部を具備することを特徴とする。
【0017】
本発明の実施形態に係る時系列データ評価装置では、前記分割エントロピー算出部は、前記細分割区間における内測度を用いて内測度エントロピーを算出する内測度エントロピー算出部を具備することを特徴とする。
【0018】
本発明の実施形態に係る時系列データ評価装置では、前記分割エントロピー算出部は、前記外測度エントロピーと前記内測度エントロピーとの平均値を分割エントロピーとして総和演算に用いることを特徴とする。
【0019】
本発明の実施形態に係る時系列データ評価装置では、前記分割区間Ai(i=1,2,・・・,M)を更にW等分に分割した写像前細分割区間Ci(i=1,2,・・・,M×W)について、実データが存在する写像前細分割区間の数をviとし、写像前細分割区間内における実データ存在率wiを、wi=vi/Wにより求める実データ存在率算出部を具備し、前記分割エントロピー算出部は、前記外測度エントロピーと前記内測度エントロピーを、前記実データ存在率wiにより補正した補正外測度エントロピーと補正内測度エントロピーを作成し、この補正外測度エントロピーと補正内測度エントロピーとの平均値を分割エントロピーとして総和演算に用いることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に用いている分割区間及び細分割区間と、写像における区間番号との関係の一例を示す説明図。
【
図2】本発明の実施形態に用いている分割区間A
iと実データが存在する細分割区分B
i 、の関係の一例を示す説明図。
【
図3】本発明の実施形態に用いている実測度の分割区間A
iと実測度の細分割区間B
i、及び細分割区間について有測度区間の測度を1とした場合の一例を示す説明図。
【
図4】本発明の実施形態に係る時系列データ評価装置のブロック図。
【
図5】
図4の外部記憶装置104に記憶されている時系列データ評価用プログラムが実行されることにより実現される各演算等を行う算出部等のブロック図。
【
図6】カオス尺度において用いている、測度の分配率(エントロピー)の説明図。
【
図7】リアプノフ指数において用いている、「ノルムの拡大率」の説明図。
【
図8】本発明の実施形態において、細分割区間について有測度区間の測度を1とした場合の写像による拡大率を示す説明図。
【
図9】本発明の実施形態において、外測度を用いた写像後補正を行う場合の説明図。
【
図10】本発明の実施形態において、内測度を用いた写像後補正を行う場合の説明図。
【
図11】本発明の実施形態において、写像前における区間の拡大率の推定方法の改善を説明する図。
【
図12】本実施形態による高精度カオス尺度関数H′′を用いた場合と、リアプノフ指数を用いた場合の演算結果である評価値の変化を示すグラフであり、分割数M=8、細分割数Q=6、写像前細分割数W=6、データ数n=1000の場合のグラフを示す図。
【
図13】本実施形態による高精度カオス尺度関数H′′を用いた場合と、リアプノフ指数を用いた場合の演算結果である評価値の変化を示すグラフであり、分割数M=10、細分割数Q=8、写像前細分割数W=8、データ数n=2000の場合のグラフを示す図。
【
図14】本実施形態による高精度カオス尺度関数H′′を用いた場合と、リアプノフ指数を用いた場合の演算結果である評価値の変化を示すグラフであり、分割数M=16、細分割数Q=16、写像前細分割数W=16、データ数n=10000の場合のグラフを示す図。
【
図15】本実施形態による高精度カオス尺度関数H′′を用いた場合と、リアプノフ指数を用いた場合の演算結果である評価値の変化を示すグラフであり、分割数M=32、細分割数Q=32、写像前細分割数W=32、データ数n=50000の場合のグラフを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下添付図面を参照して、本発明の実施形態に係る時系列データ評価装置、時系列データ評価用プログラム及び時系列データ評価方法を説明する。各図において同一の構成要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
図4は、実施形態に係る時系列データ評価装置100のブロック図を示す。時系列データ評価装置100は、クラウドコンピュータ、サーバコンピュータ、パーソナルコンピュータ、その他のコンピュータにより構成することができる。
【0022】
時系列データ評価装置100は、CPU101が主メモリ102のプログラムやデータに基づき演算を行うものである。CPU101には、バス103を介して外部記憶装置104が接続されており、外部記憶装置104には、時系列データ評価用プログラムが記憶されている。CPU101が外部記憶装置104から時系列データ評価用プログラムを主メモリ102へ読み出してこのプログラムを実行することにより時系列データ評価装置100として機能し、この動作のときに時系列データ評価方法が実行される。
【0023】
バス103には、外部記憶装置104以外に時系列データ供給部105が接続されている。時系列データ供給部105は、外部のセンサなどからリアルタイムで時系列データを取り込み保持するものとすることができ、或いは、外部の何らかの装置などが収集した時系列データや写像の計算を行って時系列データを取り込み保持したものとすることができる。更に、収集した時系列データを記憶した媒体がセットされることにより、時系列データを保持し供給可能となっている装置であっても良い。更に、上記の構成を全て備えたものであっても良い。いずれにしても、CPU101が時系列データ評価用プログラムを実行して時系列データの評価を行う場合には、時系列データはこの時系列データ供給部105から供給される。
【0024】
バス103には、結果出力部106が接続されている。結果出力部106は、表示装置やプリンタなど、時系列データ評価装置100において処理した結果を出力する装置とすることができる。また、結果出力部106は、時系列データ評価装置100において処理した結果を記憶する媒体でもよく、更に、回線などを介して処理の依頼者(クライアント)へ処理結果を送信などする装置であっても良い。
【0025】
外部記憶装置104に記憶されている時系列データ評価用プログラム104Aが実行されることにより、
図5に示される各演算等を行う算出部等が実現される。即ち、時系列データ評価装置100には、
図5に示されるように、確率算出部201、分割エントロピー算出部202、総和演算部203、実データ存在率算出部204を具備している。分割エントロピー算出部202には、外測度エントロピー算出部202Aと内測度エントロピー算出部202Bが具備されている。
【0026】
本実施形態の時系列データ評価装置100では、以下に説明するように従来知られているカオス尺度や修正カオス尺度とリアプノフ指数との対比により、リアプノフ指数の観点に近付けることが高精度で処理速度の高速化を図ることができ、リアルタイムデータに対しリアルタイムでカオス度合の定量化を図ることへ進むものであるとの結論を得た。以下、この結論に到る過程の理論等と共に、本実施形態の時系列データ評価装置100が備える各演算等を行う算出部等を説明する。
【0027】
本願発明者らは、上記において説明したカオス尺度とリアプノフ指数について検討したところ、カオス尺度においては、
図6に示すように、測度の分配率(エントロピー)を用いていることを見出した。即ち、
【数16】
に対し、
【数17】
であり、
【数18】
となる。
【0028】
一方、リアプノフ指数にあっては、
図7に示すように「ノルムの拡大率」を用いている。つまり、
【数19】
以上に鑑み、本実施形態では、測度分配率からノルムの拡大率へ、という観点により処理を行う構成を採用する。
【0029】
上記の「測度分配率からノルムの拡大率へ」という視点変更は、
図8に示すように、分割区間を、細分割区間に分割し、細分割区間の有測度区間の測度を1に変更した区間において、「合計値/Q」が写像による拡大率として算出することによって実現されるものである。
【0030】
本実施形態は、前述のカオス尺度Hや修正カオス尺度H
*の更なる修正により高精度で処理速度の高速化を図ることができる時系列データ評価装置を得るものである。そこで、カオス尺度の定義式を式(7)に示し、修正カオス尺度の定義式を式(14)に示し、これらを比較する。
【数20】
すると、両者共に、ξ
t∈A
iとなる確率p(i)を算出する確率算出部を有し、次に式(60)を計算し、
【数21】
カオス尺度Hの式では上記の式(60)に続けて、以下の式(61)を有し、修正カオス尺度H
*の式では以下の式(62)を有している。
【数22】
上記の式(61)と式(62)は、情報におけるエントロピーと考えられることから、これらを一括りに「分割エントロピー」と称し、<h>により表し、本実施形態で実現しようとしている時系列データ評価装置が用いる関数型を、高精度カオス尺度関数H′′とするならば、
【数23】
と記載することができる。本実施形態では、この高精度カオス尺度関数H′′を求めるものであり、以下に述べるように、分割区間A
i(i=1,2,・・・,M)を更にQ等分に分割した細分割区間B
i(i=1,2,・・・,M×Q)を設定して、この細分割区間における測度を用いて分割エントロピーを求める分割エントロピー算出部202と、上記確率p(i)と上記分割エントロピーの乗算について、上記分割区間範囲の総和演算を行う総和演算部203とを有している。
【0031】
高精度カオス尺度関数H′′を求めるために、本実施形態では、
図9に示すように、分割区間を、細分割区間に分割し、細分割区間の有測度区間の測度を1に変更して、外測度を用いた写像後補正を行う。分割区間A
iにおいて外測度の細分割区間B
iが占める割合 q´
O(i,j)を、以下のu
3O(i,j),u
2O(i,j),u
1O(i,j),p´
O(i,j)から求める。
【数24】
【0032】
上記q´
O(i,j)、p´
O(i,j)を用いて、外測度のエントロピーh′
O(i)を求めると、
【数25】
外測度のみによる高精度カオス尺度関数<H′
O>は、
【数26】
となる。このように、上記分割エントロピー算出部202は、上記細分割区間における外測度を用いて外測度エントロピーを算出する外測度エントロピー算出部202Aを具備している。
【0033】
更に本実施形態では、本実施形態では、
図10に示すように、分割区間を、細分割区間に分割し、細分割区間の有測度区間の測度を1に変更して、内測度を用いた写像後補正を行う。分割区間A
iにおいて内測度の細分割区間B
iが占める割合q´
I(i,j)を、以下のu
3I(i,j),u
2I(i,j),u
1I(i,j),p´
I(i,j)から求める。
【数27】
【数28】
【0034】
上記q´
I(i,j)、p´
I(i,j)を用いて、内測度のエントロピーh′
I(i)を求めると、
【数29】
このように、上記分割エントロピー算出部202は、上記細分割区間における内測度を用いて内測度エントロピーを算出する内測度エントロピー算出部202Bを具備している。
内測度のみによる高精度カオス尺度関数<H′
I>は、
【数30】
となる。
【0035】
【0036】
【0037】
本実施形態では、外測度のエントロピーh′
O(i)と内測度のエントロピーh′
I (i)の平均値を新たなエントロピーh′(i)として、
【数33】
【0038】
更に、写像後補正のみによる高精度カオス尺度関数H′は、
【数34】
となる。このように、本実施形態に係る分割エントロピー算出部202は、上記外測度エントロピーと上記内測度エントロピーとの平均値を分割エントロピーとして総和演算に用いるものである。
【0039】
本実施形態では、写像前区間の拡大率の推定方法の改善を行う。
図11(a)に示すように、分割数M(ここでは、8)の分割区間A
iを、W(ここでは、8)等分した写像前細分割区間C
iとした区間拡大された写像前区間を
図11(b)に示す。即ち、区間Iは
【数35】
【0040】
上記において、実データが存在する「写像前細分割区間」の数をv
iとし、分割区間内での実データ存在率をw
iとすると、実データ存在率w
i=v
i/Wとなる。
この実データ存在率w
iを分割区間A
iにおいて、有測度の写像前細分割区間が占める割合w(i)として計算すると、次の通りである。
d
1(i)=#{ξ
t∈C
i|t=0,1,2,・・・,n-1}・・・(2)
【数36】
【0041】
本実施形態では、上記のように、上記分割区間Ai(i=1,2,・・・,M)を更にW等分に分割した写像前細分割区間Ci(i=1,2,・・・,M×W)について、実データが存在する写像前細分割区間の数をvi とし、写像前細分割区間内における実データ存在率wiを、wi=vi /Wにより求める実データ存在率算出部204を具備している。
【0042】
上記の、式(33)と式(34)のエントロピー
【数37】
【0043】
上記w(i)によって式(45)と式(46)を補正すると、
【数38】
【0044】
以上から写像後エントロピーと写像前エントロピーの和(平均)であるh′′(i)は、
【数39】
【0045】
本実施形態の時系列データ評価装置では、分割エントロピー算出部202は、最終的に、高精度カオス尺度関数H′′を以下のようにして求める。
【数40】
【0046】
以上のようにして演算を行う本実施形態による高精度カオス尺度関数H′′を用いた場合とリアプノフ指数を用いた場合の演算結果である評価値の変化を
図12~
図14に示す。いずれの場合もロジスティック写像(a=3.5~4.0)によるものである。
図12は、分割数M=8、細分割数Q=6、写像前細分割数W=6、データ数n=1000の場合である。
図13は、分割数M=10、細分割数Q=8、写像前細分割数W=8、データ数n=2000の場合である。
図14は、分割数M=16、細分割数Q=16、写像前細分割数W=16、データ数n=10000の場合である。
図15は、分割数M=32、細分割数Q=32、写像前細分割数W=32、データ数n=50000の場合である。
【0047】
本実施形態は、分割数とデータ数が小さな値でもリアプノフ指数に極めて近似した評価値を得ることができた。つまり、特許文献3に記載の手法では、分割数を80でデータ数を10000000としたときや、分割数を320でデータ数を10000000としたとき漸くリアプノフ指数に近づくものであったのに対し、本実施形態では、分割数を1桁の数としデータ数を1000程度で十分にリアプノフ指数に近似することが確認できた。この傾向は、リアプノフ指数が小さな値をとる写像の範囲(a=3.6程度)においても精度の向上を図ることができた。
【0048】
特許文献3に記載の手法においては、本願実施形態に係る発明と異なり、補正前の測度補正は実施していない。特許文献3に記載の手法においても、分割区間の測度が有測度の場合は1、他の場合は0として変換した測度補正とし、測度補正済み外測度と測度補正済み内測度を利用している。
【0049】
本実施形態において写像後の測度変換のみを適用した手法においては、
補正済みの外測度を用いた計算により得られる外測度エントロピーh′′Oと、
補正済みの内測度を用いた計算により得られる内測度エントロピーh′′Iと
を用いて、これらの平均値を新たなエントロピーh′′(i)として
高精度カオス尺度関数H′′を求めるものである。
【0050】
特許文献3に記載の手法においては、
補正済みの外測度を測度として用いた計算により外測度データ評価値H★
outを算出し、
補正済みの内測度を測度として用いた計算により内測度データ評価値H★
innを算出し、
これらの平均値を最終的な評価値H★として算出する。この評価値H★の算出式を、本実施形態において採用した書式に従って記すと、次のようである。
【0051】
【0052】
以上のように、式(57)により示される特許文献3に記載の手法による最終的な評価値H★と、式(36)に記載されている写像後補正のみによる高精度カオス尺度関数H′を用いた式とは、本実施形態の式が補正前の測度補正が加わっていなくとも、明らかに異なるものである。そして、本実施形態が、分割数とデータ数が小さな値でもリアプノフ指数に極めて近似した評価値を得ることができているのである。
【0053】
本発明に係る複数の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示するものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
100 時系列データ評価装置 101 CPU
102 主メモリ 103 バス
104 外部記憶装置 104A 時系列データ評価用プログラム
105 時系列データ供給部 106 結果出力部
201 確率算出部 202 分割エントロピー算出部
202A 外測度エントロピー算出部 202B 内測度エントロピー算出部
203 総和演算部 204 実データ存在率算出部