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特開2024-49180航空機部品の設計方法及び航空機部品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049180
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】航空機部品の設計方法及び航空機部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/23 20200101AFI20240402BHJP
   G06F 30/15 20200101ALI20240402BHJP
   G01L 1/00 20060101ALI20240402BHJP
   G01L 5/16 20200101ALI20240402BHJP
   G06F 113/28 20200101ALN20240402BHJP
   G06F 113/26 20200101ALN20240402BHJP
【FI】
G06F30/23
G06F30/15
G01L1/00 M
G01L5/16
G06F113:28
G06F113:26
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155485
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】青木 一行
【テーマコード(参考)】
2F051
5B146
【Fターム(参考)】
2F051AA01
2F051DA03
5B146AA05
5B146DC06
5B146DE12
5B146DJ02
5B146DJ07
5B146DJ14
5B146EC08
(57)【要約】
【課題】航空機部品の強度計算をより簡易に行えるようにすることである。
【解決手段】実施形態に係る航空機部品の設計方法は、設計対象となる航空機部品を複数の要素からなる有限要素法解析モデルで模擬するステップと、前記複数の要素にそれぞれ作用し得るどのような荷重が作用しても前記各要素の強度が許容範囲内となるように、前記有限要素法解析モデルを対象とする有限要素法解析によって前記各要素の強度を決定することにより、前記航空機部品の設計情報を作成するステップとを有し、前記各要素に掛かる荷重を3分力の組合せで表すことができるように前記有限要素法解析モデルを前記複数の要素が2次元方向に配列されたモデルとし、前記各要素の強度が前記許容範囲内となっているか否かを、前記各要素に作用し得る荷重を表す前記3分力の組合せがクリティカルな組合せとなる場合に限定して確認するものである。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
設計対象となる航空機部品を複数の要素からなる有限要素法解析モデルで模擬するステップと、
前記複数の要素にそれぞれ作用し得るどのような荷重が作用しても前記各要素の強度が許容範囲内となるように、前記有限要素法解析モデルを対象とする有限要素法解析によって前記各要素の強度を決定することにより、前記航空機部品の設計情報を作成するステップと、
を有する航空機部品の設計方法において、
前記各要素に掛かる荷重を3分力の組合せで表すことができるように前記有限要素法解析モデルを前記複数の要素が2次元方向に配列されたモデルとし、前記各要素の強度が前記許容範囲内となっているか否かを、前記各要素に作用し得る荷重を表す前記3分力の組合せがクリティカルな組合せとなる場合に限定して確認する航空機部品の設計方法。
【請求項2】
前記クリティカルな組合せとなる場合を、少なくとも1つの前記要素において前記3分力の少なくとも1つが臨界値となる場合とする請求項1記載の航空機部品の設計方法。
【請求項3】
前記3分力の値が変化する方向を3軸方向とする3次元座標空間に、前記各要素に作用し得る複数の荷重を表す前記3分力の値の複数の組合せをプロットした場合に前記3次元座標空間内に形成される点群のうち最外殻にプロットされる点に対応する前記3分力の値の組合せを、前記クリティカルな組合せとする請求項1記載の航空機部品の設計方法。
【請求項4】
強度について異方性を有する繊維強化プラスチックで少なくとも一部が構成される前記航空機部品を前記有限要素法解析モデルで模擬し、前記繊維強化プラスチックで構成される部分を模擬する各要素については異方性を有する強度を決定する請求項1記載の航空機部品の設計方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の航空機部品の設計方法で作成された前記航空機部品の設計情報に基づいて前記航空機部品を製造する航空機部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、航空機部品の設計方法及び航空機部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機部品の設計が完了すると、設計した航空機部品の強度計算によって航空機部品の強度が十分であるかどうかの確認作業が行われる。航空機部品の強度計算においては、航空機の高度、速度及び加速度等の様々な飛行条件で航空機が飛行する場合や航空機が地上で荷重を受ける場合など、起こり得る様々な条件下で強度が評価される。
【0003】
航空機の運用中に航空機部品にかかることが予想される最大の荷重は制限荷重と呼ばれ、制限荷重に安全率1.5を乗じた荷重は終極荷重と呼ばれる。そして、航空機部品の強度には、終極荷重が掛かっても許容範囲内となることが求められる。つまり、航空機部品の各部分には強度マージンが付与される。このため、航空機部品の強度が十分であるかどうかは、各部分における強度マージンを計算することによって確認することができる。
【0004】
航空機に作用し得る荷重のパターンは数千通りあり、全てのケースについて強度が十分であることを保証することが必要である。但し、非常の多くの全てのケースで航空機部品の強度マージンを計算することは非現実的であることから、大きな荷重が掛かる代表的なケースに絞って航空機部品の強度マージンが計算される。
【0005】
尚、航空機部品の強度計算に関連する技術としては、航空機部品の荷重を計算する装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-098136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、航空機部品の強度計算をより簡易に行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る航空機部品の設計方法は、設計対象となる航空機部品を複数の要素からなる有限要素法解析モデルで模擬するステップと、前記複数の要素にそれぞれ作用し得るどのような荷重が作用しても前記各要素の強度が許容範囲内となるように、前記有限要素法解析モデルを対象とする有限要素法解析によって前記各要素の強度を決定することにより、前記航空機部品の設計情報を作成するステップとを有し、前記各要素に掛かる荷重を3分力の組合せで表すことができるように前記有限要素法解析モデルを前記複数の要素が2次元方向に配列されたモデルとし、前記各要素の強度が前記許容範囲内となっているか否かを、前記各要素に作用し得る荷重を表す前記3分力の組合せがクリティカルな組合せとなる場合に限定して確認するものである。
【0009】
また、本発明の実施形態に係る航空機部品の製造方法は、上述した航空機部品の設計方法で作成された前記航空機部品の設計情報に基づいて前記航空機部品を製造するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る航空機部品の設計方法及び航空機部品の製造方法の流れを示すフローチャート。
図2】航空機の主翼を2次元の(2D:two-dimensional)有限要素法(FEM:Finite Element Method)解析モデルにモデル化した例を示す図。
図3】航空機の主翼に空気力が作用した場合に主翼に生じる3分力(S、M、T)を示す図。
図4】主翼に生じ得る曲げモーメントとせん断応力の組合せをプロットした図。
図5】主翼に生じ得るトルクとせん断応力の組合せをプロットした図。
図6図2に示すFEM解析モデルの要素に掛かる3分力(Nx,Ny,Nxy)を示す図。
図7】FEM解析モデルの着目する要素に掛かる荷重ケースごとの3分力(Nx,Ny,Nxy)の組合せを3次元の(3D:three-dimensional)座標空間にプロットした例を示す図。
図8図7に示す3分力(Nx,Ny,Nxy)の点群データの3D凸包を求めた例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係る航空機部品の設計方法及び航空機部品の製造方法について添付図面を参照して説明する。
【0012】
図1は本発明の実施形態に係る航空機部品の設計方法及び航空機部品の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【0013】
航空機部品の設計方法は、航空機の主翼等の航空機部品の設計情報を表す設計パラメータを決定し、決定した設計パラメータで特定される航空機部品の強度計算によって安全性を確認することによって航空機部品の設計情報を作成するものである。また、航空機部品の製造方法は、作成された航空機部品の設計情報に基づいて航空機部品を製造するものである。
【0014】
以降では主に航空機部品が固定翼航空機の主翼である場合を例に説明するが、尾翼や胴体等の主翼以外の航空機部品はもちろん、回転翼航空機の航空機部品を対象としても良い。
【0015】
まず、ステップS1において、航空機部品の設計情報を表す多数のパラメータの値が設定される。固定翼航空機の主翼は、上下の外板(パネル)を桁(スパー)、小骨(リブ)及び縦通材(ストリンガー)等の補強部材で補強したボックス構造となっている。従って、外板や補強部材の板厚、位置、断面積、断面形状及び材質に加えてハニカム構造の有無など様々なパラメータの値が設定される。
【0016】
近年の航空機部品の素材としては、アルミニウムやチタン等の金属の他、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP:Glass Fiber Reinforced plastics)や炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)等のFRPが用いられる場合が多い。
【0017】
典型的なFRPは、繊維の配向角が0°,45°,90°或いは-45°となっている多数の繊維強化層を積層して構成される。このため、FRPには、繊維の配向角が全て同じ方向となるように繊維強化層を積層した一方向材、正方向と負方向の配向角を組み合わせて繊維強化層を積層したアングルプライ積層材、厚さ方向に繊維の配向角が対称となるように繊維強化層を積層した対称積層板など、様々な積層構成がある。従って、FRPを少なくとも一部の素材として選択する場合には繊維強化層における繊維の配向角や繊維強化層の積層順序も設計パラメータの1つとなる。
【0018】
設計パラメータの全ての値が設定されると、航空機部品の暫定的な設計が完了することとなる。航空機部品の設計が完了すると、強度計算によって航空機部品の強度が十分であるかどうかの確認作業を行うことが必要となる。航空機部品の強度計算は、航空機の高度、速度及び加速度等の様々な飛行条件で航空機が飛行する場合はもちろん、航空機が地上で荷重を受ける場合など、起こり得る様々な条件下で強度が十分であるかどうかを評価する作業となる。
【0019】
特に、強度について異方性を有するFRPで航空機部品の少なくとも一部が構成される場合には、航空機部品の各部分における強度を評価することが必要となる。そこで、航空機部品の強度計算は、FEM解析によって行われる。
【0020】
そのために、ステップS2において、設計対象となる航空機部品が複数の要素からなるFEM解析モデルで模擬される。
【0021】
図2は、航空機の主翼を2D―FEM解析モデル1にモデル化した例を示す図である。
【0022】
図2に示すように航空機の主翼等の航空機部品を2D―FEM解析モデル1で模擬することができる。すなわち、複数の要素2が2D方向に配列された2D―FEM解析モデル1で航空機部品を模擬することができる。
【0023】
FEM解析モデル1における要素2の分割方向を適切な2D方向にすると、各要素2に掛かる荷重を3分力の組合せで表すことができる。例えば、図2に例示されるように航空機の主翼を2D―FEM解析モデル1で模擬する場合であれば、主翼の厚さ方向には要素2を分割せず、主翼の形状に応じて概ね主翼の長さ方向D1と、主翼の長さ方向に交差する方向D2に要素2を分割することができる。尚、典型的なFEM解析モデルと同様に、要素2が配列される方向D1、D2は、通常直線とならない。
【0024】
航空機部品のFEM解析モデル1を複数の要素2が2D方向に配列されたモデルにすると、各要素2に掛かる荷重を2方向に隣接する要素2から受ける圧力による2方向の応力と、主翼の長さ方向に隣接する要素2から受けるせん断力によるせん断応力からなる3分力で表すことができる。このため、3分力で表される荷重に基づいて要素2ごとに強度を評価することが可能となる。
【0025】
次に、ステップS3において、航空機及び航空機部品に掛かることが想定される全ての荷重ケースが決定され、FEM解析ソフトウェアに入力される。
【0026】
図3は航空機10の主翼11に空気力が作用した場合に主翼11に生じる3分力(S、M、T)を示す図である。
【0027】
図3に示すように航空機10の主翼11に空気力が作用すると主翼11には空気力に応じた荷重が掛かる。主翼11に掛かる荷重は、せん断応力S、曲げモーメントM及びトルクTからなる3分力で表すことができる。
【0028】
図4は主翼11に生じ得る曲げモーメントMとせん断応力Sの組合せをプロットした図であり、図5は主翼11に生じ得るトルクTとせん断応力Sの組合せをプロットした図である。
【0029】
図4及び図5に示す2D散布図のように、せん断応力S、曲げモーメントM及びトルクTの組合せとして表される主翼への荷重は航空機の飛行状態等に応じて変化し、起こり得る荷重ケースは数千通りに上る。
【0030】
次に、ステップS4において、2D―FEM解析モデル1を対象とする2D―FEM構造解析が想定される荷重ケースごとに実行される。そのために、必要に応じて数値流体力学(CFD:Computational Fluid Dynamics)解析によってFEM解析モデル1で模擬される主翼等の航空機具品に負荷される空気の圧力荷重の分布が荷重ケースごとに計算される。そうすると、航空機が様々な飛行状態となっている場合に主翼等の航空機部品の各部位に掛かる荷重を部位ごとに求めることができる。
【0031】
具体的には、FEM解析モデル1の変形量とともに各要素2に掛かる荷重を荷重ケースごとに求めることができる。FEM解析モデル1は2Dであるため、上述したように各要素2に掛かる荷重は、3成分の応力からなる3分力で表される。
【0032】
図6図2に示すFEM解析モデル1の要素2に掛かる3分力(Nx,Ny,Nxy)を示す図である。
【0033】
図6に示すようにFEM解析モデル1の各要素2に3成分の応力として掛かる荷重は、着目する要素2についての局所的な2D配列方向をx軸及びy軸とすると、x軸方向に隣接する要素2から掛かる荷重Nx、y軸方向に隣接する要素2から掛かる荷重Ny、xy平面内において隣接する要素2からせん断方向に掛かる荷重Nxyの3分力で表すことができる。
【0034】
FEM解析を実行すると、図4及び図5に例示されるような数千通りの荷重ケースがFEM解析モデル1の要素2の数だけ計算されることになる。このため、想定される全ての荷重ケースについて全ての要素2の強度計算を行うことは非現実的である。
【0035】
そこで、想定される全ての荷重ケースから強度計算を行って確認すべきクリティカルな荷重ケースを選定して強度計算が行われる。但し、図5及び図6に例示されるような2D散布図を参照しても、クリティカルとなる全ての荷重ケースを漏らさず速やかに選定することは容易ではない。
【0036】
そこで、ステップS5において、FEM解析モデル1の各要素2に掛かる3分力(Nx,Ny,Nxy)が3D座標空間にプロットされる。
【0037】
図7はFEM解析モデル1の着目する要素2に掛かる荷重ケースごとの3分力(Nx,Ny,Nxy)の組合せを3D座標空間にプロットした例を示す図である。
【0038】
図7に示すように、着目する要素2にx方向に掛かる荷重Nx、y方向に掛かる荷重Ny及びxy平面内においてせん断方向に掛かる荷重Nxyを3軸方向とする3D座標空間に、数千通りの荷重ケースごとの3分力(Nx,Ny,Nxy)の組合せをプロットすると、3D散布図が得られる。すなわち、3分力(Nx,Ny,Nxy)の組合せを表す数千個の点からなる3D点群データが得られる。
【0039】
但し、航空機部品の設計者が3D散布図及び3D点群データを航空機部品の設計者が参照しても、クリティカルとなる全ての荷重ケースを漏らさず速やかに選定することは依然として容易ではない。
【0040】
そこで、ステップS6において、3D点群データの3D凸包が求められる。3D凸包は、3D点群データに含まれる全ての点を包含する最小の凸多面体である。尚、3D凸包を求めるためのアルゴリズム自体は公知であり、ソリューションも市販されている。
【0041】
図8図7に示す3分力(Nx,Ny,Nxy)の点群データの3D凸包を求めた例を示す図である。
【0042】
図8に示すように3D凸包を計算すると、3D点群データの最外殻に存在する点を特定することができる。すなわち、3D凸包の各頂点に存在する点を、3D点群データの最外殻に存在する点として抽出することができる。
【0043】
3D凸包の各頂点、すなわち3D点群データの最外殻に存在する点は、いずれも3分力(Nx,Ny,Nxy)のうちの1つの分力が、他の2つの分力が一定である場合、つまり1次元の散布図において、最大値又は最小値となる場合に相当する。
【0044】
従って、3分力(Nx,Ny,Nxy)の組合せを表す点が3D凸包の頂点となる場合には、3分力(Nx,Ny,Nxy)の少なくとも1つが、荷重ケースがクリティカルであるか否かを区別する臨界値になっていると考えることができる。つまり、3D凸包の頂点となっている3分力(Nx,Ny,Nxy)の組合せをクリティカルな荷重ケースと見做すことができる。
【0045】
そこで、ステップS7において、3D凸包の各頂点、すなわち3D点群データの最外殻に存在する点に対応する荷重ケースが、強度計算を行うべきクリティカルな荷重ケースとして選定される。
【0046】
尚、3D凸包は、FEM解析モデル1の要素2の数だけ求められるため、クリティカルな荷重ケースも要素2ごとに選定されることになる。従って、少なくとも1つの要素2において3分力(Nx,Ny,Nxy)の組合せが3D点群データの最外殻に存在する点となれば、すなわち3分力(Nx,Ny,Nxy)の少なくとも1つが臨界値となれば、クリティカルな荷重ケースとなる。また、3D点群データの最外殻に存在する点を特定できれば、3D凸包の数式を求めたり、3D凸包を画像としてディスプレイに表示させたりすることは必須ではない。
【0047】
このように、3分力(Nx,Ny,Nxy)の値が変化する方向を3軸方向とする3D座標空間に、FEM解析モデル1の各要素2に作用し得る複数の荷重を表す3分力(Nx,Ny,Nxy)の値の複数の組合せをプロットした場合に3D座標空間内に形成される点群のうち最外殻にプロットされる点に対応する3分力(Nx,Ny,Nxy)の値の組合せを、クリティカルな組合せとすることができる。
【0048】
尚、実際に航空機の主翼を対象として想定される荷重ケースから3D凸包の計算により点群データの最外殻に位置する点を抽出することによってクリティカル荷重ケースの選定を行ったところ、約2000通りの荷重ケースから約100通りのクリティカル荷重ケースを選定できることが確認された。
【0049】
クリティカル荷重ケースの選定が完了すると、ステップS8において、クリティカル荷重ケースに限定して各要素2の強度計算が行われる。
【0050】
航空機部品には、航空機の運用中に航空機部品に掛かることが予想される最大の荷重である制限荷重に安全率1.5を乗じた終極荷重が掛かっても許容範囲内となる強度を有することが求められる。つまり、航空機部品の各部分には安全率を設定することによって必要な強度マージンを付与することが求められる。従って、FEM解析モデル1の各要素2における強度マージンを計算すれば、各要素2の強度が十分であるかどうかを評価することができる。
【0051】
そこで、FEM解析モデル1の各要素2における強度マージンが計算される。航空機部品の各部分における強度は、終極荷重以下の荷重下においてFRPの座屈を許容するポストバックル設計のような特殊な設計を行う場合を除けば、圧縮座屈荷重、せん断座屈荷重、クリップリング破壊(局所座屈)を引起す荷重、オイラー座屈荷重(長柱座屈荷重)及び材料の強度等の複数の評価パラメータで表される。尚、座屈荷重は、座屈を引起す荷重である。また、材料の強度は、材料の圧縮、引張、せん断、面圧等の各降伏応力として表すことができる。
【0052】
従って、各要素2における強度マージンは、評価パラメータごとに計算される。すなわち、クリティカル荷重ケースに対応する3分力(Nx,Ny,Nxy)で表される荷重と、各要素2に付与されている強度の評価パラメータとの値との間における強度マージンが計算される。
【0053】
そして、ステップS9において、FEM解析モデル1の各要素2における強度マージンが許容範囲内、具体的には全てのクリティカル荷重ケースについて安全率が下限値以上となっているか否かが判定される。つまり、FEM解析モデル1の各要素2における強度が許容範囲内となっているか否かが、各要素2に作用し得る荷重を表す3分力(Nx,Ny,Nxy)の組合せがクリティカルな組合せとなる場合に限定して確認される。
【0054】
そして、少なくとも1つの要素2の強度マージンが少なくとも1つのクリティカル荷重ケースに対して不十分である場合には、当該要素2の強度を増加させる設計変更が必要となる。この場合には、ステップS1において設計パラメータの再設定が行われる。そして、ステップ2からステップ8までのFEM構造解析を含む作業や処理が再度行われる。
【0055】
一方、全ての要素2の強度マージンが全てのクリティカル荷重ケースに対して十分であることが確認できた場合には、ステップS10において、設定された設計パラメータが航空機部品の設計情報として確定される。すなわち、航空機部品の設計情報が確定する。
【0056】
このように、FEM解析モデル1を対象とするFEM解析によって航空機部品の設計情報の作成と強度計算を行うと、FEM解析モデル1の複数の要素2にそれぞれ作用し得るどのような荷重が作用しても各要素2の強度が許容範囲内となるように、各要素2の強度を決定することができる。
【0057】
従って、航空機部品の少なくとも一部がFRPで構成される場合であっても、少なくとも一部がFRPで構成される航空機部品をFEM解析モデル1で模擬し、要素2ごとに適切なクリティカル荷重ケースの選定を行うことによって、FRPで構成される部分を模擬する各要素2については異方性を有する強度を決定することができる。換言すれば、航空機部品を複数の要素2に分割することによって、材料の一部がFRPであっても適切にクリティカル荷重ケースの選定を行うことができる。
【0058】
航空機部品の設計情報が確定すると、ステップS11において、空機部品の設計情報に基づいて航空機部品を製造することができる。
【0059】
以上のような航空機部品の設計方法は、FEM構造解析によって要素2ごとに航空機部品の強度計算を行う場合において、3D凸包の計算等によって、強度計算の対象となる荷重ケースを要素2に掛かる3分力がクリティカルな組合せとなるクリティカル荷重ケースに限定するようにしたものである。また、航空機部品の製造方法は、上述した設計方法で作成された航空機部品の設計情報に基づいて航空機部品を製造するものである。
【0060】
(効果)
このため、航空機部品の設計方法及び航空機部品の製造方法によれば、無駄な荷重ケースに対する航空機部品の強度計算を不要にすることができる。特に、多数の荷重ケースを表す3D点群データの3D凸包を計算することによって、航空機部品の強度計算を行うべきクリティカル荷重ケースを高精度かつ効率よく選定することができる。すなわち、必要最小限のクリティカル荷重ケースを計算によって高速に特定することができる。その結果、容易に航空機の安全確保を図ることができる。
【0061】
加えて、クリティカル荷重ケースを選定するための3D点群データを、航空機部品に掛かる3分力(S、M、T)の点群データとせずに、2D―FEM解析モデル1の2D配列された各要素2に掛かる3分力(Nx,Ny,Nxy)の点群データとしたので、各要素2の強度マージンを3分力(Nx,Ny,Nxy)の値から速やかに計算することが可能である。
【0062】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【符号の説明】
【0063】
1 FEM解析モデル
2 要素
10 航空機
11 主翼
S せん断応力
M 曲げモーメント
T トルク
Nx,Ny,Nxy 荷重(3分力)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8