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特開2024-492ポリエステルフィルム、およびリサイクルポリエステルフィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000492
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルム、およびリサイクルポリエステルフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20231225BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20231225BHJP
   B29B 9/02 20060101ALI20231225BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20231225BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20231225BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20231225BHJP
   C08G 63/19 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
C08L67/00
C08J3/20 Z CFD
B29B9/02
B29C48/08
C08K5/42
C08K5/49
C08G63/19
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060560
(22)【出願日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2022098614
(32)【優先日】2022-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】植木 克行
(72)【発明者】
【氏名】井澤 雅俊
【テーマコード(参考)】
4F070
4F201
4F207
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4F070AA47
4F070AB26
4F070BB05
4F070DA11
4F070DA55
4F201AA24
4F201AA50
4F201AB22
4F201BA02
4F201BC01
4F201BC17
4F201BC25
4F201BD05
4F201BL08
4F201BL43
4F207AA24
4F207AA50
4F207AB22
4F207AG01
4F207KA01
4F207KA17
4J002CF041
4J002CF051
4J002CF061
4J002CF071
4J002EV236
4J002EV256
4J002EW176
4J002FD206
4J029AA03
4J029AC01
4J029AD10
4J029AE01
4J029BA03
4J029BE07
4J029CB06A
4J029HA01
4J029HB01
4J029HD03
4J029JC373
4J029JC633
4J029KB24
4J029KD01
4J029KD07
4J029KE06
4J029KE15
(57)【要約】
【課題】色調が良好で、透明性に優れ、循環型リサイクル用ポリエステルフィルムとして使用するのに好適なポリエステルフィルム、およびリサイクルポリエステルフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】硫黄元素およびリン元素を含有し、全質量に対して硫黄元素の含有量が3~33質量ppm、リン元素の含有量が2~20質量ppmであり、かつ、カルシウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素の含有量の合計が5質量ppm以下である、ポリエステルフィルムであって、ポリエステルフィルムを洗浄してからメカニカルリサイクルする際のリサイクル原料混率をAk(質量%)、リサイクル積算回数をn(回)としたとき、Ak/100の和が規定の範囲となるようしつつ、各回におけるAk≦70質量%となるようなリサイクル原料混率およびリサイクル積算回数でリサイクルポリエステルフィルムを製造する用途に用いられる、ポリエステルフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄元素およびリン元素を含有し、全質量に対して硫黄元素の含有量が3~33質量ppm、リン元素の含有量が2~20質量ppmであり、かつ、カルシウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素の含有量の合計が5質量ppm以下である、ポリエステルフィルムであって、ポリエステルフィルムを洗浄してからメカニカルリサイクルする際のリサイクル原料混率をAk(質量%)、リサイクル積算回数をn(回)としたとき、式1を満たしつつ、各回におけるAk≦70質量%となるようなリサイクル原料混率およびリサイクル積算回数でリサイクルポリエステルフィルムを製造する用途に用いられる、ポリエステルフィルム。
【数1】
【請求項2】
硫黄元素としてp-トルエンスルホン酸成分を0.09~1.00mol/t含み、リン元素として4級ホスホニウム成分を0.06~0.65mol/t含み、p-トルエンスルホン酸成分の含有量(mol/t)/4級ホスホニウム成分の含有量の値が1.1より大きい、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
少なくとも一方の表層にA層を有し、中間層にB層を有する3層以上の構成である、請求項1または2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
離型用途に用いられる、請求項1または2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
リサイクル原料混率Ak(質量%)と後述するnが、式1を満たしつつ、各回におけるAk≦70質量%となるようなリサイクル原料混率およびリサイクル回数nで以下(1)~(8)の工程をn回繰り返す、少なくとも一方の表層にA層を有し、中間層にB層を有する3層以上の構成であるリサイクルポリエステルフィルムの製造方法。
【数1】
(1)硫黄元素およびリン元素を含有し、ポリエステルフィルムの全質量に対して硫黄元素の含有量が3~33質量ppm、かつリン元素の含有量が2~20質量ppmであり、かつ、カルシウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素の含有量の合計が5質量ppm以下である、ポリエステルフィルムの表面を洗浄する工程。
(2)前記洗浄後のポリエステルフィルムからフレークを作成する工程。
(3)前記にて得られたフレークを、乾燥させる工程。
(4)前記乾燥後のフレークを、押出機にて溶融し、ポリエステルを押出する工程。
(5)前記押出されたポリマーを、ポリマーフィルターにて濾過する工程。
(6)前記ポリマーフィルターにより濾過したポリエステルを、口金から吐出する工程。
(7)口金から吐出されたポリエステルを冷却後、切断しリサイクル原料を作成する工程。
(8)前記B層100質量%に対して、前記リサイクル原料を5質量%以上100質量%以下含有するようリサイクルポリエステルフィルムを製造する工程。
【請求項6】
リサイクルポリエステルフィルムが硫黄元素およびリン元素を含有し、リサイクルポリエステルフィルム全質量に対して硫黄元素の含有量が3~33質量ppm、リン元素の含有量が2~20質量ppmであり、かつ、カルシウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素の含有量の合計が5質量ppm以下である、請求項5に記載のリサイクルポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項7】
リサイクルポリエステルフィルムが硫黄元素としてp-トルエンスルホン酸成分を0.09~1.00mol/t含み、リン元素として4級ホスホニウム成分を0.06~0.65mol/t含み、p-トルエンスルホン酸成分の含有量(mol/t)/4級ホスホニウム成分の含有量の値が1.1より大きい、請求項5または6に記載のリサイクルポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項5または6に記載の離型用途に用いられるリサイクルポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィルム、およびリサイクルポリエステルフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは積層セラミックコンデンサー(MLCC)製造用、液晶偏光板離型用、フォトレジスト用などの各種工程用紙の基材として用いられているが、近年の5GやEVなどに代表されるように、ICT技術の拡大の普及に伴い、引き続き、需要旺盛である。
【0003】
一方で、環境問題やサステナビリティへの取り組みとして、を離型フィルムや工程紙などの使い捨てる用途に用いられる各種ポリエステルフィルムを使用後に回収し、加熱溶融させるなどの方法により原料として加工したものを、ポリエステルフィルム製造に再利用する検討がなされてきた。例えば、特許文献1に示すように、使用済み磁気カードを再度、磁気カード用フィルムへリサイクルする例が開示されており、また、特許文献2に示すように、ポリエステル樹脂を廃棄、燃焼させること無くフィルムとして加工し、実用に供することのできるフィルムとして再生することが提案されている。また、離型フィルムの表面に積層させた離型層を、容易に剥離できるような構成のポリエステルフィルムを離型フィルムとして用い、使用後に離型層を剥離させる方法や(特許文献3)、離型層であるシリコーンコート層を不要としたセラミックシート製造用剥離フィルム、及び使用後のセラミックシート製造用剥離フィルムを有効にリサイクル原料として再利用できるリサイクル方法(特許文献4)、離型フィルムがポリエステルフィルムの片面に硬化型シリコーン樹脂を含む水系塗布液を塗布し、該離型フィルムの回収原料を、該離型フィルムにリサイクルする方法(特許文献5)などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-85193号公報
【特許文献2】特開2000-141573号公報
【特許文献3】特開2002-265665号公報
【特許文献4】特開2011―104986号公報
【特許文献5】特開2010-17932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に関して、一般的には、使用済みのフィルム加工品をリサイクル原料として、フィルムにリサイクルさせることは、品質、品位をリサイクル品ではない製品同等とすることは極めて困難である。特に対象のフィルムが透明の場合は難易度が飛躍的に上昇し、特許文献2に関しては、透明な離型フィルムの製造に回収原料を使用する技術に関して開示されているが、回収対象のポリエステルフィルム上に、離型剤として設けられるシリコーン層は、回収時にかかる熱や、ポリエステルフィルム製造時の溶融・押出時に、分解し、異臭を発生し、又、溶融粘度を著しく低下させ、製膜性が悪化する。特許文献3~5に関し、これらの方法では再生原料を用いたポリエステルフィルムの製造工程が複雑になり、生産性が低下し、コスト高になる。
【0006】
また、サステナビリティをより意識する場合、使用済みフィルムから原料を再生するリサイクルを際限なく繰り返す、すなわち、循環型リサイクルを達成する必要があるが、これにより、ポリエステルフィルムがリサイクルを繰り返していく回数を追うごとに劣化、分解が加速するため、例えば、高品質、高品位を求められるMLCC製造用や液晶偏光板離型用、フォトレジスト用の離型フィルムにおいては、分解・劣化を回復させるべく、ポリエステルをモノマーにまで分離回収する必要のあるケミカルリサイクルを併用する手法などが必要になり、生産性が低下し、コスト高になるだけでなく、モノマーへの分離回収工程にて通常の粗原料からポリエステルを製造するよりも多大なるエネルギーを必要とするため、サステイナブルな取り組みとはいい難い面もある。
【0007】
そこで、本発明では、色調が良好で、透明性に優れ、循環型リサイクル用ポリエステルフィルムとして使用するのに好適なポリエステルフィルム、およびリサイクルポリエステルフィルムの製造方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意検討した結果、本発明における好ましい一態様は以下の構成を有する。
〔1〕硫黄元素およびリン元素を含有し、全質量に対して硫黄元素の含有量が3~33質量ppm、リン元素の含有量が2~20質量ppmであり、かつ、カルシウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素の含有量の合計が5質量ppm以下である、ポリエステルフィルムであって、ポリエステルフィルムを洗浄してからメカニカルリサイクルする際のリサイクル原料混率をAk(質量%)、リサイクル積算回数をn(回)としたとき、式1を満たしつつ、各回におけるAk≦70質量%となるようなリサイクル原料混率およびリサイクル積算回数でリサイクルポリエステルフィルムを製造する用途に用いられる、ポリエステルフィルム。
【0009】
【数1】
【0010】
〔2〕硫黄元素としてp-トルエンスルホン酸成分を0.09~1.00mol/t含み、リン元素として4級ホスホニウム成分を0.06~0.65mol/t含み、p-トルエンスルホン酸成分の含有量(mol/t)/4級ホスホニウム成分の含有量の値が1.1より大きい、〔1〕に記載のポリエステルフィルム。
〔3〕少なくとも一方の表層にA層を有し、中間層にB層を有する3層以上の構成である、〔1〕または〔2〕に記載のポリエステルフィルム。
〔4〕離型用途に用いられる、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
〔5〕リサイクル原料混率Ak(質量%)と後述するnが、式1を満たしつつ、各回におけるAk≦70質量%となるようなリサイクル原料混率およびリサイクル回数nで以下(1)~(8)の工程をn回繰り返す、少なくとも一方の表層にA層を有し、中間層にB層を有する3層以上の構成であるリサイクルポリエステルフィルムの製造方法。
【0011】
【数1】
【0012】
(1)硫黄元素およびリン元素を含有し、ポリエステルフィルムの全質量に対して硫黄元素の含有量が3~33質量ppm、かつリン元素の含有量が2~20質量ppmであり、かつ、カルシウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素の含有量の合計が5質量ppm以下である、ポリエステルフィルムの表面を洗浄する工程。
(2)前記洗浄後のポリエステルフィルムからフレークを作成する工程。
(3)前記にて得られたフレークを、乾燥させる工程。
(4)前記乾燥後のフレークを、押出機にて溶融し、ポリエステルを押出する工程。
(5)前記押出されたポリマーを、ポリマーフィルターにて濾過する工程。
(6)前記ポリマーフィルターにより濾過したポリエステルを、口金から吐出する工程。
(7)口金から吐出されたポリエステルを冷却後、切断しリサイクル原料を作成する工程。
(8)前記B層100質量%に対して、前記リサイクル原料を5質量%以上100質量%以下含有するようリサイクルポリエステルフィルムを製造する工程。
〔6〕リサイクルポリエステルフィルムが硫黄元素およびリン元素を含有し、リサイクルポリエステルフィルム全質量に対して硫黄元素の含有量が3~33質量ppm、リン元素の含有量が2~20質量ppmであり、かつ、カルシウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素の含有量の合計が5質量ppm以下である、〔5〕に記載のリサイクルポリエステルフィルムの製造方法。
〔7〕リサイクルポリエステルフィルムが硫黄元素としてp-トルエンスルホン酸成分を0.09~1.00mol/t含み、リン元素として4級ホスホニウム成分を0.06~0.65mol/t含み、p-トルエンスルホン酸成分の含有量(mol/t)/4級ホスホニウム成分の含有量の値が1.1より大きい、〔5〕または〔6〕に記載のリサイクルポリエステルフィルムの製造方法。
〔8〕〔5〕~〔7〕のいずれかに記載の離型用途に用いられるリサイクルポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、色調が良好で、透明性に優れ、循環型リサイクル用ポリエステルフィルムとして使用するのに好適なポリエステルフィルム、およびリサイクルポリエステルフィルムの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明に用いられるポリエステルフィルムのポリエステルは、ジカルボン酸成分とジオール成分とを重縮合して得られるポリエステル樹脂組成物を指す。
【0016】
本発明におけるジカルボン酸成分は、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、マロン酸、ダイマー酸などが挙げられる。本発明におけるジカルボン酸としてより好ましい態様は、融点が高く、フィルムや繊維などに加工しやすいポリエステル組成物を得ることができる点で、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、またはこれらのアルキルエステルである。
【0017】
本発明におけるジオール成分は、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジエタノール、ノルボルナンジメタノール、ノルボルナンジエタノール、トリシクロデカンジメタノール、トリシクロデカンジエタノール、デカリンジメタノール、デカリンジエタノールなどの飽和脂環式1級ジオール、イソソルビドなどの環状エーテルを含む飽和ヘテロ環1級ジオール、その他シクロヘキサンジオール、ビシクロヘキシル-4,4’-ジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシルプロパン)、2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)プロパン、シクロペンタンジオール、3-メチル-1,2-シクロペンタジオール、4-シクロペンテン-1,3-ジオール、アダマンタンジオールなどの各種脂環式ジオールや、パラキシレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS,スチレングリコール、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの芳香環式ジオールが例示できる。またジオール以外にも本発明における効果を損なわない範囲で、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多官能アルコールも用いることができる。この中で、反応系外に留出させやすいことから、沸点230℃以下のジオールであることが好ましく、低コストであり反応性が高いことから、脂肪族ジオールがより好ましい。さらに、得られたポリエステル樹脂組成物やその成形品の機械的特性の観点からエチレングリコールが特に好ましい。
【0018】
本発明におけるポリエステル樹脂組成物とは、特に限定されないが、エチレンテレフタレート、エチレン-2,6-ナフタレート、プロピレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート、ヘキサメチレンテレフタレート、シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、プロピレン-2,6-ナフタレート、ブチレン-2,6-ナフタレート、ヘキサメチレン-2,6-ナフタレート、シクロヘキサンジメチレン-2,6-ナフタレート単位等から選ばれた少なくとも一種の構造単位を主要構成成分とすることが好ましい。中でも、エチレンテレフタレートを主要構成単位とするポリエステルは、成形加工性に優れるため特に好ましい。また、2種以上のポリエステルを混合してもよいし、共重合のポリエステルを用いてもよい。
【0019】
本発明のポリエステルフィルムは、硫黄元素およびリン元素を含有し、ポリエステルフィルム全質量に対して硫黄元素の含有量が3~33質量ppm、リン元素の含有量が2~20質量ppmであり、かつ、カルシウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素の含有量の合計が5質量ppm以下であることが好ましい。
【0020】
硫黄元素を含有する化合物は、スルフィド化合物、チオフェン化合物、チオール化合物、スルホン酸化合物、スルホニル化合物などが例示され、本発明におけるポリエステルフィルムに含有させる硫黄化合物は特に限定されない。しかし、ポリエステル樹脂組成物を使用してフィルムを成形する時に良好な静電印加性を得る観点から、スルホン酸化合物またはスルホニル化合物であることが好ましい。
【0021】
スルホン酸化合物としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1-プロパンスルホン酸、1-ブタンスルホン酸、1-ペンタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、テトラフルオロエタンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、o-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルホン酸、スチレンスルホン酸、パーフルオロオクタンスルホン酸、ヘプタデカフルオロオクタンスルホン酸などが例示される。また、スルホン酸化合物はポリエステルの分子鎖中に共重合されるものでも良く、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸のような2以上のエステル形成性官能基を有するスルホン酸化合物が例示される。さらに、スルホン酸化合物は、これらのスルホン酸アニオンとのアルカリ金属塩、4級ホスホニウム塩、4級アンモニウム塩など公知のスルホン酸塩でもよい。アルカリ金属のカチオンは、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。4級ホスホニウムのカチオンは、テトラエチルホスホニウムカチオン、テトラブチルホスホニウムカチオン、テトラヘキシルホスホニウムカチオン、メチルトリブチルホスホニウムカチオン、エチルトリブチルホスホニウムカチオン、オクチルトリブチルホスホニウムカチオン、ヘキサデシルトリブチルホスホニウムカチオンなどの4級アルキルホスホニウムカチオン、ベンジルトリメチルホスホニウムカチオン、ベンジルトリエチルホスホニウムカチオン、3-(トリフルオロメチル)フェニルトリメチルホスホニウムカチオンなどの4級アリールアルキルアンモニウムカチオンなどが挙げられる。4級アンモニウムのカチオンは、テトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラプロピルアンモニウムカチオン、テトラブチルアンモニウムカチオン、テトラヘキシルアンモニウムカチオン、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムカチオンなどの4級アルキルアンモニウムカチオン、ベンジルトリメチルアンモニウムカチオン、ベンジルトリエチルアンモニウムカチオン、3-(トリフルオロメチル)フェニルトリメチルアンモニウムカチオンなどの4級アリールアルキルアンモニウムカチオンなどが挙げられる。フィルム成形時により良好な静電印加性を得る観点から、ベンゼンスルホン酸、o-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルホン酸、およびこれらのスルホン酸塩が好ましい。
【0022】
スルホニル化合物としては、パーフルオロアルキルスルホニルイミドが例示される。具体的には、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドカリウム、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドナトリウム、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドナトリウム、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドリチウムなどのパーフルオロアルキルスルホンイミド塩が挙げられる。
【0023】
本発明におけるポリエステルフィルムに硫黄元素を含有させる方法は、特に限定されない。硫黄元素を含有する1種以上の化合物を、ポリエステル樹脂組成物の重縮合反応時に添加する方法や、二軸混練押出機などを用いて重縮合反応後のポリエステル樹脂組成物と混練する方法など、公知の方法でポリエステルフィルムに含有させることができる。
【0024】
本発明におけるポリエステルフィルムは、リン元素の含有量がポリエステルフィルム全質量に対して2~20質量ppmの範囲にあることが好ましく、さらには2~10質量ppmであることが好ましい。リン元素の含有量が2質量ppm以上であると、ポリエステルフィルムに良好な色調、および耐熱性が得られ、20質量ppm以下であると、フィルム成形時の静電印加キャスト性が良好となる。
【0025】
本発明におけるポリエステルフィルムにリン元素を含有させる方法は、特に限定されない。リン酸、リン酸トリメチル、エチルジエチルホスホノアセテート、亜リン酸、リン酸アルカリ金属塩、4級ホスホニウム塩など、公知のリン元素を含有する化合物を1種以上使用することができる。これらのリン化合物を、ポリエステル樹脂組成物の重縮合反応時に添加する方法や、二軸混練押出機などを用いて重縮合反応後のポリエステル樹脂組成物と混練する方法など、公知の方法でポリエステル樹脂組成物に含有させることができる。
【0026】
本発明におけるポリエステルフィルムは、前記硫黄元素としてp-トルエンスルホン酸成分の含有量が0.09~1.00mol/t、前記リン元素として4級ホスホニウム成分が0.06~0.65mol/tであり、さらに、p-トルエンスルホン酸成分の含有量(mol/t)/4級ホスホニウム成分の含有量の値が1.1より大きくすることで、耐熱性および製膜性に良好な循環型リサイクル用ポリエステルフィルムを得ることが出来る。
【0027】
本発明におけるポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの全質量に対するp-トルエンスルホン酸成分の含有量は、0.09~1.00mol/tとすることが好ましい。より好ましくは0.20~0.60mol/tであり、さらに好ましくは0.25~0.50mol/tである。p-トルエンスルホン酸成分の含有量が0.09mol/t未満の場合は、ポリエステル樹脂組成物溶融時の溶融比抵抗が高くなり、フィルム成形時の静電印加性が不良となることがある。p-トルエンスルホン酸の含有量が1.00mol/tを超える場合、p-トルエンスルホン酸成分由来の異物によりポリエステルフィルムの色調、ヘイズが悪化するほか、スルホン酸基によりポリエステル樹脂組成物の耐加水分解性が悪化することで、リサイクルによる色調、ヘイズが大きく悪化し、離型フィルムとして生産性が悪化することがある。
【0028】
本発明においてp-トルエンスルホン酸成分は、p-トルエンスルホン酸およびそのアルカリ金属塩などp-トルエンスルホン酸アニオンを有する化合物を指す。具体的には、p-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸ナトリウム、p-トルエンスルホン酸カリウム、p-トルエンスルホン酸メチルなどが例示されるが、なかでもp-トルエンスルホン酸が好ましい。これは、p-トルエンスルホン酸成分がエステル形成性官能基を持たないことから、ポリエステル樹脂に共重合されることなく樹脂中を分散しているため、ポリエステル樹脂組成物の融点やガラス転移点などの熱特性を損なうことなく、フィルム成形時の良好な静電印加性を付与することができるためである。加えて、エステル形成性官能基を持たないことから、スルホン酸化合物に由来する異物が形成した場合に異物粗大化を抑制することができる。p-トルエンスルホン酸成分以外で、炭素数6以上の直鎖アルキル基や、炭素数8以上のアリール基を用いると、スルホン酸化合物に由来する異物が形成した場合に異物が粗大化しやすいほか、ポリエステル樹脂組成物を重縮合反応槽から冷水中にストランド状に吐出しペレット化する工程において、冷水の泡立ちが多くなり生産性を損なうため、不適となる場合がある。一方、ベンゼンスルホン酸や炭素数5以下のアルキルスルホン酸を用いると、ポリエステル樹脂組成物中に残存しにくくなりフィルム成形時の静電印加性が不良になるため、不適となる場合がある。
【0029】
本発明におけるポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの全質量に対する4級ホスホニウム成分の含有量を、0.06~0.65mol/tとすることが好ましい。より好ましくは0.10~0.49mol/tであり、さらに好ましくは0.15~0.33mol/tである。4級ホスホニウム成分の含有量が0.06mol/t未満の場合は、ポリエステル樹脂組成物溶融時の溶融比抵抗が高くなり、フィルム成形時の静電印加性が不良となることがある。4級ホスホニウム成分の含有量が0.65mol/tを超える場合、異物が発生しポリエステル樹脂組成物の溶液ヘイズが悪化し、ポリエステルフィルムの色調、ヘイズが悪化するほか、リサイクルによる色調、ヘイズが大きく悪化し、離型フィルムとして生産性が悪化することがある。
【0030】
本発明において4級ホスホニウム成分は、4級ホスホニウムカチオンを有する化合物を指す。4級ホスホニウムの具体例として、テトラエチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、テトラヘキシルホスホニウム、メチルトリブチルホスホニウム、エチルトリブチルホスホニウム、オクチルトリブチルホスホニウム、ヘキサデシルトリブチルホスホニウム、ベンジルトリメチルホスホニウム、ベンジルトリエチルホスホニウム、3-(トリフルオロメチル)フェニルトリメチルホスホニウムが例示され、4級ホスホニウム成分としては、これらの水酸化物や、塩化物や臭化物といったハロゲン化物が挙げられる。なかでも、テトラブチルホスホニウムヒドロキシドが好ましい。
【0031】
本発明において、p-トルエンスルホン酸成分、および、4級ホスホニウム成分をポリエステルフィルムに含有させる方法は、特に限定されず、ポリエステル樹脂組成物の重縮合反応時に添加する方法や、二軸混練押出機などを用いて重縮合反応後のポリエステル樹脂組成物と混練する方法など、公知の方法により実施することができる。特に、p-トルエンスルホン酸や4級ホスホニウム成分に由来するポリエステル樹脂組成物中の異物を抑制するため、p-トルエンスルホン酸成分と4級ホスホニウム成分とを別々に、ポリエステル樹脂組成物の重縮合反応開始前までの反応系内に添加することで含有させる方法や、p-トルエンスルホン酸成分と4級ホスホニウム成分とを中和反応させてp-トルエンスルホン酸4級ホスホニウムのジオール溶液に調整してから、ろ過フィルターを通過させた後に、重縮合反応開始前までの反応系内に添加することで含有させる方法などが、好適である。
【0032】
本発明におけるポリエステルフィルムは、スルホン酸化合物とカルシウムイオン、マグネシウムイオン、マンガンイオンとの異物形成を抑制する観点から、カルシウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素の含有量の合計がポリエステルフィルム全体に対して5質量ppm以下であることが好ましい。カルシウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素の含有量合計が5質量ppm以下であることで、色調および溶液ヘイズが良好であり、異物が少ないポリエステル樹脂組成物を得ることができる。さらに、異物形成を抑制する観点から、カルシウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素を含有しないことがより好ましい。
【0033】
本発明におけるポリエステルフィルムにカルシウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素を含有させる場合、その方法は特に限定されないが、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、マンガン化合物をポリエステル樹脂組成物の重縮合反応時に添加することが好ましく、添加時の形態は粉体、スラリー、溶液のいずれでもよく、分散性の点から溶液として添加することが好ましい。このときの溶媒は、ポリエステル樹脂組成物のジオール成分と同一であることが好ましい。カルシウム化合物としては、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、水酸化カルシウムなどが例示される。マグネシウム化合物としては、酢酸マグネシウム、プロピオン酸マグネシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、水酸化マグネシウムなどが例示される。マンガン化合物としては、酢酸マンガン、プロピオン酸マンガン、塩化マンガン、臭化マンガン、ヨウ化マンガン、水酸化マンガンなどが例示される。
【0034】
本発明におけるポリエステル樹脂組成物の重縮合反応に用いられる触媒は、公知の重合触媒を用いることが出来る。例えば、アンチモン、チタン、アルミニウム、スズ、ゲルマニウム、亜鉛、コバルト、鉛、マンガン、マグネシウムの酸化物、カルボン酸塩、酢酸塩、水酸化物、キレート錯体、アルコキシドといった化合物が挙げられる。また、これらの金属化合物は、水和物であってもよい。重合時間の観点から、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物を重合触媒として用いることが好ましい。さらに、金属アンチモン由来の異物抑制の観点から、チタン化合物、またはゲルマニウム化合物を重合触媒に用いることがより好ましい。これら重合触媒を添加する際の形態は粉体、スラリー、溶液のいずれでもよく、分散性の点から溶液またはスラリーとして添加することが好ましい。このときの溶媒は、ポリエステル組成物のジオール成分と同一であることが好ましい。
【0035】
本発明におけるポリエステル樹脂組成物について、重縮合反応の触媒にアンチモン化合物を使用する場合は、ポリエステル樹脂組成物の全質量に対してアンチモン元素の含有量を60~300質量ppmの範囲にすることが好ましく、さらには60~100質量ppmの範囲であることが好ましい。アンチモン元素の含有量が60質量ppm未満であると重合反応性が不足し、既定の重合度まで重合することができない場合がある。アンチモン元素の含有量が300質量ppmを超える場合は、アンチモン金属に由来する異物を形成しフィルムの欠点となり、好ましくないときがある。さらに、アンチモン金属に由来する異物を低減する観点から、アンチモン元素の含有量は100質量ppm以下であることが好ましい。
【0036】
本発明におけるポリエステル樹脂組成物について、重縮合反応の触媒にチタン化合物を使用する場合は、重合反応性および分解反応に対する活性の観点から、ポリエステル樹脂組成物の全質量に対してチタン元素の含有量を0.1~20質量ppmの範囲にすることが好ましく、さらには0.1~7質量ppmの範囲であることがより好ましい。
【0037】
本発明におけるポリエステル樹脂組成物について、重縮合反応の触媒にゲルマニウム化合物を使用する場合は、重合反応性および分解反応に対する活性の観点から、ポリエステル樹脂組成物の全質量に対してゲルマニウム元素の含有量を5~150質量ppmの範囲にすることが好ましい。
【0038】
本発明におけるポリエステルフィルムは、粒子を含有させることができる。
【0039】
本発明におけるポリエステルフィルムに含有させる粒子は、無機粒子であればシリカ、アルミナ、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、二酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化鉄、カオリン、タルク、マイカ、カーボンブラック、シリコンが、有機粒子であれば架橋ポリスチレン、架橋シリコン、架橋アクリル、架橋スチレン-アクリル、架橋ポリエステル、ポリイミド、メラミンの樹脂粒子が例示されるが、粒子の種類は特に限定されない。経済性、熱安定性、粒子分散性の観点から、シリカ粒子、アルミナ粒子、架橋ポリスチレン粒子を用いることが好ましい。
【0040】
本発明におけるポリエステルフィルムに無機粒子を含有させる場合、無機粒子の含有量は特に限定されないが、粒子分散性および成形品とした際に優れたアンチブロッキング性をもつ点から、ポリエステルフィルムに対して0.001~6.5質量%の範囲であることが好ましい。また、無機粒子の体積粒子径は特に限定されないが、凝集シリカ粒子であれば体積平均粒子径が1.0~5.0μm、コロイダルシリカ粒子であれば体積平均粒子径が0.05~0.5μm、アルミナ粒子であれば体積平均粒子径が0.01~1.0μmの範囲であることが、粒子分散性の観点から好ましい。
【0041】
本発明におけるポリエステルフィルムに有機粒子を含有させる場合、有機粒子の含有量は特に限定されないが、粒子分散性および成形品とした際に優れたアンチブロッキング性をもつ点から、ポリエステルフィルムに対して0.001~5.0質量%の範囲であることが好ましい。また、有機粒子の粒子径は特に限定されないが、架橋ポリスチレン粒子であれば体積平均粒子径が0.1~1.5μmの範囲であることが、粒子分散性の観点から好ましい。
【0042】
本発明におけるポリエステルフィルムに粒子を含有させる方法は特に限定されないが、粒子分散性を向上させる観点から、ポリエステル樹脂組成物の重縮合反応時に添加する方法や、二軸混練押出機などを用いて重縮合反応後のポリエステル樹脂組成物と混練する方法により、ポリエステル樹脂組成物に含有させることが好ましい。また、本発明におけるポリエステル樹脂組成物に含有させる粒子種の数は、本発明における効果を損なわない範囲であれば特に限定されず、1種以上の粒子を含有させることができる。
【0043】
本発明におけるポリエステル樹脂組成物に粒子を含有させる際の形態は粉体、スラリーのいずれでもよく、分散性の点からスラリーとして添加することが好ましい。また、スラリーは水スラリーでも、ポリエステル組成物のジオール成分のスラリーのいずれでもよいが、ポリエステル樹脂組成物の粒子分散性の観点から、ポリエステル組成物のジオール成分と同一であることが好ましい。以下に、本発明におけるポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムの製造方法を具体的に記載する。
【0044】
例えば、本発明におけるポリエステル樹脂組成物がポリエステルである場合、通常、テレフタル酸あるいはテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとを原料とし、エステル化反応やエステル交換反応などの反応によりビスヒドロキシエチルテレフタレート(以降BHTと呼ぶ)に代表される低重合体を得た後、重縮合反応によって高分子量PETを得るプロセスで製造される。
【0045】
低重合体のBHTを得る反応は特に限定されず、公知の反応により実施できるが、無触媒でもカルボン酸の自己触媒作用により反応が十分に進行し、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、マンガン化合物などの反応触媒を添加する必要がない点で、エステル化反応によることが好ましい。エステル化反応を無触媒で実施することにより、重縮合反応の段階における熱分解や異物の発生などを抑制することができる。
【0046】
本発明におけるポリエステル樹脂組成物には、本発明における効果を損なわない範囲でアルカリ金属元素を含有させることができ、これにより、ポリエステル樹脂組成物の耐熱性を向上することができる。本発明におけるポリエステル樹脂組成物にアルカリ金属元素を含有させるためには、アルカリ金属化合物を使用する。アルカリ金属化合物としては、酢酸リチウムや、アルカリ金属水酸化物の水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸アルカリ金属塩のリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、スルホン酸化合物のアルカリ金属塩であるメタンスルホン酸ナトリウム、メタンスルホン酸カリウム、ブチルスルホン酸ナトリウム、ブチルスルホン酸カリウム、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、テトラフルオロエタンスルホン酸ナトリウム、テトラフルオロエタンスルホン酸カリウム、ノナフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸カリウム、p-トルエンスルホン酸ナトリウム、p-トルエンスルホン酸カリウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルホン酸カリウム、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸カリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸カリウム、ヘプタデカフルオロオクタンスルホン酸ナトリウム、ヘプタデカフルオロオクタンスルホン酸カリウムなどが例示される。
【0047】
これらのアルカリ金属化合物を、ポリエステル樹脂組成物の重縮合反応時に添加する方法や、二軸混練押出機などを用いて重縮合反応後のポリエステル樹脂組成物と混練する方法など、公知の方法でポリエステル樹脂組成物に含有させることができる。
【0048】
その後、得られた溶融ポリエステルは口金よりストランド状に吐出、冷却し、カッターによってペレット化する方法によりポリエステル樹脂組成物を製造できる。
【0049】
得られたポリエステル樹脂組成物は、乾燥工程前に予備結晶化することが好ましい。予備結晶化はポリエステル樹脂組成物に機械的衝撃を与えせん断処理を施す方法や、熱風流通下で加熱処理を施す方法などを採用することができる。
【0050】
本発明におけるポリエステル組成物について、高分子量のポリエステル樹脂組成物を得るため、固相重合を行ってもよい。固相重合は、装置・方法は特に限定されないが、ポリエステル組成物を不活性ガス雰囲気下または減圧下、ポリエステル樹脂組成物の融点以下の温度で加熱処理することで実施される。不活性ガスはポリエステル樹脂組成物に対して不活性なものであればよく、例えば窒素、ヘリウム、炭酸ガスなどを挙げることができるが、経済性から窒素が好ましく用いられる。また、減圧条件では、より高真空にすることが固相重合反応に要する時間を短くできるため有利であり、具体的には110Pa以下を保つことが好ましい。
【0051】
本発明におけるポリエステル樹脂組成物は、フィルム、繊維、成形体などの各種用途に好適に用いることができ、良好な静電印加性および透明性を有していることから、特にフィルムに好適に用いることができる。また、本発明におけるポリエステル樹脂組成物をフィルムに成形するときは、公知の成形加工方法でフィルムを成形することができる。本発明におけるポリエステル樹脂組成物をフィルムに加工する際に、本発明における効果を損なわない範囲で各種添加剤、例えば、顔料および染料を含む着色剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、核剤、可塑剤、離型剤などの添加剤を1種以上添加することもできる。
【0052】
本発明におけるポリエステル樹脂組成物からなるフィルムは、溶融押出による未延伸フィルムであっても、または1軸延伸、2軸延伸を施した延伸フィルムであっても構わない。また、2軸延伸を施す場合は、逐次2軸延伸フィルムであっても同時2軸延伸フィルムであっても構わない。例えば、得られたポリエステル樹脂組成物のペレットを180℃で3時間以上真空乾燥した後、固有粘度が低下しないように窒素気流下あるいは真空下で280~320℃に加熱された押出機に供給し、繊維焼結ステンレス金属フィルター内を通過させた後、スリット状のダイから押出し、キャストドラムに静電荷を印加させながら冷却して未延伸フィルムを得る。さらに、この未延伸フィルムを赤外線ヒーター装置に導き、ロール間でフィルムの走行方向である長手方向に延伸することで1軸延伸フィルムを得る。次いで、1軸延伸フィルムをクリップで把持して加熱しながら長手方向と直交する幅方向に延伸した後、冷却により結晶配向を完了させて逐次2軸延伸フィルムを得る。あるいは、未延伸フィルムを長手および幅方向に同時に延伸することで同時2軸延伸フィルムを得る。
【0053】
本発明におけるポリエステルフィルムは、洗浄した後にメカニカルリサイクルをしても異物が少なく、色調が良好で、透明性(ヘイズ)に優れ、耐熱性、良好な静電印加性を有することから、光学フィルムのような高品位フィルムとして好適に使用できる。本発明におけるポリエステルフィルムは、洗浄した後にメカニカルリサイクルをしても成形時に良好な静電印加性を有し、フィルムの厚みムラが少なく、金属異物が少なく透明性に優れる特徴をもつことから、積層セラミックコンデンサー(MLCC)製造用、液晶偏光板離型用、フォトレジスト用などの工程基材である離型用途に用いられることが好ましく、特に、積層セラミックコンデンサーの製造工程に用いられる離型用フィルムにさらに好適に用いられる。
【0054】
本発明におけるポリエステルフィルムの総厚みは、特に、限りはないが、単層の場合も積層の場合も好ましくは15~50μm、さらに好ましくは20~40μmである。厚みが15μmを下回ると、積層セラミックコンデンサーを製造する工程においてグリーンシート成形の支持に用いた際に、セラミックスラリーを保持するための腰がなくなり、セラミックススラリーの塗布において、セラミックスラリーを支えられなくなり、後工程で均一な乾燥ができなくなる場合がある。厚みが50μmを超えると、二軸延伸フィルムを製造することが難しくなる場合がある。また、リサイクル工程においても、20μmを下回ると、フィルムの腰不足によって、セラミックスラリーの剥離が困難となる場合があり、40μmを超えると、クラッシャーによる均一な粉砕が困難となり、チップの生産性が悪化する場合がある。
【0055】
本発明のポリエステルフィルムは少なくとも一方の表層にA層を有し、中間層にB層を有する3層以上の構成であることが好ましく、3層構成であることがより好ましい。本発明におけるポリエステルフィルムを、積層セラミックコンデンサー離型用フィルムとして使用するためには、ポリエステルA層およびポリエステルB層およびポリエステルC層の3層からなる積層フィルム(A/B/C)、またはA層およびB層からなる積層フィルム(A/B/A)とすることがさらに好ましい。
【0056】
A層およびC層は、離型層を設けた後に、セラミックスラリーを塗布する面を構成するのに好適な層であり、B層は、A層とC層の中間に位置する層である。この際、B層の内層部に、リサイクル原料を混合して使用することで、コストメリットを得ることが可能である。
【0057】
本発明において、リサイクル原料とは、フィルムを製造した後のフィルムを回収し、ペレット化したものでもよく、また、離型層を設けた、離型フィルムを回収して、ペレット化したものでもよく、また、離型フィルムとして用いられた後のフィルムを回収して再チップ化したものでもよいが、ポリエステルフィルムを洗浄してから粉砕等して作るリサイクル原料であることが好ましい。また、本発明におけるポリエステルフィルムは、リサイクル原料をB層に対して、5質量%以上100質量%以下含有するのが好ましい。
【0058】
本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムを洗浄してからメカニカルリサイクルする際のリサイクル原料混率をAk(質量%)、リサイクル積算回数をn(回)としたとき、式1を満たしつつ、各回におけるAk≦70質量%となるようなリサイクル原料混率およびリサイクル積算回数でリサイクルポリエステルフィルムを製造する用途に用いられることが好ましい。
【0059】
【数1】
【0060】
本態様とすることにより、繰り返し使用による原料劣化によるフィルム物性の低下を防止し、製膜安定性を高めることができる。
【0061】
ポリエステルフィルムを洗浄してからメカニカルリサイクルするということは、本発明のポリエステルフィルムやその加工品の洗浄物からリサイクル原料のもととなるフィルムを得、それを粉砕や再押出をしてリサイクル原料を作り、そのリサイクル原料をポリエステルフィルム製造時の押出に用いることが好ましく例示できる。
【0062】
上記例に即して、原料混率をAk(質量%)、リサイクル積算回数をn(回)について以下説明する。ポリエステルフィルムを洗浄してからメカニカルリサイクルされたリサイクル原料を含まない本発明のポリエステルフィルムやその加工品を洗浄して、リサイクル原料をポリエステルフィルム製造時の押出に用いる際(いわゆる1回目のリサイクル)における、フィルム原料100質量%中の、リサイクル原料の量をリサイクル原料混率A1(質量%)とする。そうして出来上がったリサイクル後のポリエステルフィルムやその加工品を適宜使用した後、再度洗浄してからメカニカルリサイクルに供する際(いわゆる2回目のリサイクル)のリサイクル原料混率をA2(質量%)とする、これを一般化し、k回目のリサイクルにおける原料混率をAk(質量%)とする。そうしたリサイクルをn回実施したときに、式1を満たしつつ、各回におけるAk≦70質量%となるようなリサイクル原料混率およびリサイクル積算回数となるようリサイクルすることで、繰り返し使用による原料劣化によるフィルム物性の低下を防止し、製膜安定性を高めることができることを見出した。
【0063】
具体的には本態様とすることにより、ヘイズの悪化(透明度の低下)を抑制でき、色調悪化の防止や、異物・欠点発生の抑制、フィルム成型時の製膜安定性の向上を図ることができる。
【0064】
本発明のポリエステルフィルムは上記用途、特に洗浄後のポリエステルフィルムを使って上記のようなリサイクルに供することで、上記した効果を特に得ることができる。理由としては以下のように考えている。
【0065】
離型フィルムなどとして使用された使用済みポリエステルフィルムを洗浄・再加工する際に、水や薬剤を用いる洗浄や溶融押出工程を経るため、乾燥工程などを挟んでもフィルムには水や溶媒・薬剤が微量含まれており、その状態で加熱処理を受けることになるが、硫黄元素およびリン元素を含有し、ポリエステルフィルムの全質量に対して硫黄元素の含有量が3~33質量ppm、かつリン元素の含有量が2~20質量ppmであり、かつ、カルシウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素の含有量の合計が5質量ppm以下であることにより、リサイクル時のポリエステル原料の分解・解重合並びに、これらが還元されるなどにより発生する金属の凝集により異物や欠点になることを抑制できるためであると考えている。
【0066】
なお、式1の中辺(Akの和)を、以降において、リサイクル原料劣化指数ということがある。
【0067】
上記同様の観点から、各回におけるAk≦70質量%となるようしつつ、かつリサイクル原料劣化指数が0.25~5となるようリサイクル原料混率およびリサイクル積算回数でリサイクルポリエステルフィルムを製造する用途に用いられることが好ましく、各回におけるAk≦70質量%となるようしつつ、かつリサイクル原料劣化指数が2.5~3.5となるようリサイクル原料混率およびリサイクル積算回数でリサイクルポリエステルフィルムを製造する用途に用いられることがより好ましい。
【0068】
また、上記観点から各回におけるAk≦70質量%であることが好ましく、各回におけるAk≦25質量%であることがより好ましい。
【0069】
また、上記観点から2回≦n≦10回であることがより好ましい。
【0070】
また、品質・品位の観点から、各回におけるAk≦70質量%となるようしつつ、かつリサイクル原料劣化指数が2.5~3.5となるようリサイクル原料混率およびリサイクル積算回数でリサイクルポリエステルフィルムを製造する用途に用いられることがより好ましい。Akが70質量%を超えると、異物等が発生して品位が低下したり、フィルム破れが発生することがあり好ましくない場合がある。リサイクル原料劣化指数が3.5を超える場合も同様である。一方、リサイクル原料劣化指数が2.5よりも小さい場合、廃棄処分する使用済みフィルムの量が大きくなるため好ましくない場合がある。
【0071】
本発明におけるリサイクル原料は、積層セラミックコンデンサー用離型フィルムや、積層セラミックコンデンサー用離型フィルムを、セラミックスグリーンシート成形に使用し、剥離した後に、グリーンシートの残渣を洗浄した後に残るフィルムを、粉砕、乾燥、溶融・押出し、チップ化したものであることがより好ましい。
【0072】
上記同様の観点から、リサイクル原料混率Ak(質量%)と後述するnが、式1を満たしつつ、各回におけるAk≦70質量%となるようなリサイクル原料混率およびリサイクル回数nで以下(1)~(8)の工程をn回繰り返して、少なくとも一方の表層にA層を有し、中間層にB層を有する3層以上の構成であるリサイクルポリエステルフィルムを製造することが好ましい。
【0073】
【数1】
【0074】
(1)硫黄元素およびリン元素を含有し、ポリエステルフィルムの全質量に対して硫黄元素の含有量が3~33質量ppm、かつリン元素の含有量が2~20質量ppmであり、かつ、カルシウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素の含有量の合計が5質量ppm以下である、ポリエステルフィルムの表面を洗浄する工程。
(2)前記洗浄後のポリエステルフィルムからフレークを作成する工程。
(3)前記にて得られたフレークを、乾燥させる工程。
(4)前記乾燥後のフレークを、押出機にて溶融し、ポリエステルを押出する工程。
(5)前記押出されたポリマーを、ポリマーフィルターにて濾過する工程。
(6)前記ポリマーフィルターにより濾過したポリエステルを、口金から吐出する工程。
(7)口金から吐出されたポリエステルを冷却後、切断しリサイクル原料を作成する工程。
(8)前記B層100質量%に対して、前記リサイクル原料を5質量%以上100質量%以下含有するようリサイクルポリエステルフィルムを製造する工程。
【0075】
なかでも各工程について以下工程であることがより好ましい。
(1)ポリエステルフィルムの表面を洗浄する工程。
(2)切断装置と排気装置を有する外装より構成されたクラッシャーを用いて、前記洗浄後のポリエステルフィルムからフレークを作成する工程。
(3)前記にて得られたフレークを、真空引き容器内で攪拌しながら乾燥させる工程。
(4)前記乾燥後のフレークを、ベント口から真空引きされたスクリューを有する押出機にて溶融し、ポリエステルを押出する工程。
(5)前記押出されたポリマーを、ポリマーフィルターにて濾過する工程。
(6)前記ポリマーフィルターにより濾過したポリエステルを、口金から吐出する工程。
(7)口金から吐出されたポリエステルを冷却後、切断しリサイクル原料を作成する工程。
【0076】
以下により好ましい態様に係る具体的方法の一例を示すが、係る方法に限定されるものではない。
【0077】
(1)ポリエステルフィルムの表面を洗浄する工程。
【0078】
ポリエステルフィルムがMLCC用に用いられる場合で例示すると、リサイクル原料を作成するためには先ず、離型層上に積層されたグリーンシートや内部電極層などを掻き落とすことが好ましい。掻き落としは、繰り出した使用後の離型フィルムを、水洗層中で行うことが好ましい。掻き落とした後水槽から出して、水を拭き取り、吸引させた後に、オーブンで乾燥させ、洗浄後フィルムを巻き取ることが好ましい。これら一連の作業は、巻き出しから巻き取りまでの工程で一貫して行う(いわゆるRoll to Roll)ことが好ましい。水洗層内の水は循環させ、途中で濾過を行い、フィルムから掻き落としたグリーンシートの残渣を、フィルターにて捕捉することが好ましい。
【0079】
(2)切断装置と排気装置を有する外装より構成されたクラッシャーを用いて、前記洗浄後のポリエステルフィルムからフレークを作成する工程。
【0080】
次に、巻き取ったフィルムを引き取りロールにて繰り出し、切断装置と排気装置を有する外装より構成されたクラッシャー(粉砕刃)を用いて、前記洗浄後のポリエステルフィルムフィルムを粉砕後、フレークを作成し、フレーク貯蔵ホッパーに貯蔵することが好ましい。
【0081】
(3)前記にて得られたフレークを、真空引き容器内で攪拌しながら乾燥させる工程。
【0082】
フレーク貯蔵ホッパーに貯蔵した、粉砕後のフィルムは、適時貯蔵用サイロに移送した後、チップ化するための装置上に設けた、フレーク貯蔵ホッパーへ移送することが好ましい。チップ化するための装置は、乾燥ドラム、押出機、口金、冷却層、粉砕刃より構成されるとよい。乾燥ドラムには、回収原料用のフレーク貯蔵ホッパーとは別に、添加剤を投入するための貯蔵ホッパーを有する事が、回収原料の溶融に際し機能を補完することができるため、好ましい。乾燥ドラムは、回収原料用のフレークを、乾燥ドラム下部に設置された攪拌翼にて水平方向に回転させ、フレークを攪拌しながら、フレークと、フレーク、攪拌翼、回転ドラム内との擦過により発生させた熱を利用して、フレーク内外の水分を揮発させるとよい。この際、発熱により、離型層中のバインダーが分解・気化し、異臭の元となるため、揮発した水分とともに、ドラム外に排出する必要がある場合がある。ドラム外の排出はファンを用い強制的に行い、バグフィルターおよびスクラバー(排ガス洗浄装置)を介して大気に放出させることが好ましい。
【0083】
原料を乾燥ドラムに投入する際は、同時に鎖延長剤をともに投入させると、回収後のIV(固有粘度)低下を抑制でき好ましい。鎖延長剤は、ポリエステル再利用品(再生品)の粘度を上昇させるものであり、エポキシ官能基系、オキサゾリン又はカプロラクタム系のものが好ましく挙げられる。エポキシ官能基系鎖延長剤は、「Joncryl」(登録商標)の商品名でBASF社(ドイツ)より市販されており、オキサゾリン又はカプロラクタム系鎖延長剤は、「Allinco」(登録商標)の商品名でDSM社(オランダ)より市販されている。乾燥させた原料は、押出機フィード部に供給するとよい。供給時の回収原料は、二軸延伸ポリエステルフィルムからなるフレークが、押出機への噛み込みを十分に行うために原料を収縮・減容化させる指標として、180℃以上210℃未満の範囲まで昇温されていることが好ましい。
【0084】
(4)前記乾燥後のフレークを、ベント口から真空引きされたスクリューを有する押出機にて溶融し、ポリエステルを押出する工程。
【0085】
前記乾燥後のフレークを、ベント口から真空引きされたスクリューを有する押出機にて溶融し、ポリエステルを押し出しするとよい。押出機は、回収原料を溶融させ、吐出させるとよく、押出機内の滞留時間を少なくし、回収原料の熱分解を抑制するために、押出機スクリューの有効長(L/D)は、20以上35未満であることが好ましい。
【0086】
(5)前記押出されたポリマーを、ポリマーフィルターにて濾過する工程。
【0087】
押出機から吐出された回収原料からなる溶融ポリマーは、ポリマーフィルターにて濾過することが好ましい。ポリマーフィルターにはスクリーンメッシュフィルター、リーフフィフィルター、キャンドルフィルターなど、公知のものを用いることができるが、回収原料に含まれる離型層の除去を、効果的かつ経済的に実施する為には、スクリーンメッシュフィルターを用いることが好ましい。なお、ポリマーフィルターの材質は、耐熱性、耐圧性、耐腐食性、経済性に優れたステンレスを用いることが好ましい。
【0088】
ポリマーフィルターは、捕捉すべき異物の大きさ、押出機への背圧や、フィルター交換周期のバランスを考慮して選定するとよい。ポリマーフィルターは目開き20~300μmのものを3種類以上重ねたもので濾過する事が有効である。該ポリマーフィルターは2系列以上の流路を設けポリマーフィルターを設置できるようにし、連続運転を可能にすることが望ましい。
【0089】
(6)前記ポリマーフィルターにより濾過したポリエステルを、口金から吐出する工程。
【0090】
ポリマーフィルターにて異物を濾過した溶融ポリマーは、口金から吐出させ、ガットを成形した後に、冷却するとよい。口金の大きさおよび数は、吐出量、ガットをチップ化する処理速度、冷却効率を考慮して決定することができる。この工程において、ポリマーフィルターにより濾過した後、口金から吐出するまでのポリエステルの滞留時間が3分以内であると回収原料の熱分解を抑制できるため好ましい。
【0091】
(7)口金から吐出されたポリエステルを冷却後、切断しリサイクル原料を作成する工程。
【0092】
その後、口金から吐出されたポリエステルを冷却後、切断しリサイクル原料を作成するとよい。ガットの冷却は公知の方法を用いることができる。水槽中にガットを通過させる方法や、冷却水をスプレー式にガットに吹き付け、ガットを冷却する方法より選択できる。冷却されたガットは、回転刃により切断され、水分を除去し、乾燥させることで、本発明におけるポリエステルフィルムにおける、B層に用いるリサイクル原料として、用いることができる。この工程において、口金から吐出されたポリエステルを50℃/sec以上150℃/sec以下の冷却速度にて冷却後、切断すると回収原料の熱分解を抑制できるため好ましい。
【0093】
なお、前記リサイクルポリエステルフィルムも、上記したポリエステルフィルムの好ましい一態様と同様の態様を好ましい態様とする。
【実施例0094】
実施例および比較例における特性値の測定方法および評価方法は次の通りである。
【0095】
(1)ポリエステルフィルムの色調(b値)
二軸配向ポリエステルフィルムを溶融した後、口金より冷水中にストランド状に吐出し、押し出しカッターによってペレット化して粉体測定用セルに充填し、スガ試験機(株)社製の色差計(SMカラーメーターSM-T)で反射法を用いて、b値をn=3で測定した。測定値の算術平均を色調b値として、色調の評価指標とした。
【0096】
(2)ポリエステルフィルムのヘイズ(単位:%)
JIS K7105-1981に準じ、フィルム幅方向の中央部から、長手4.0×幅3.5cmの寸法に切り出したものをサンプルとし、ヘイズを、ヘイズメータ(スガ試験機製HGM-2DP(C光源用))を用いて測定した。
【0097】
(3)ポリエステルフィルム中の元素含有量(単位:質量ppm)
リン元素、マグネシウム元素、マンガン元素、およびカルシウム元素の含有量についてはポリエステルフィルムを細かく裁断した後、溶融プレス機で円柱状に成型し、理学電機(株)製蛍光X線分析装置(型番:3270)を用いて蛍光X線強度を求め、あらかじめ作成しておいた検量線から算出した。
【0098】
硫黄元素の含有量については、ポリエステルフィルムを細かく裁断した後、三菱ケミカルアナリテック社製の自動試料燃焼装置(型番:AQF-2100)を用いて燃焼させ、発生したガスを溶液に吸収後、吸収液の一部をDIONEX社製のイオンクロマトグラフィー(型番:ICS1600)により分析した。試料は秤量からn=2で測定し、測定値の平均値を硫黄元素含有量とした。
【0099】
(4)製膜性
本発明におけるポリエステルフィルムを製膜する際、横延伸工程において破れの発生しやすさを以下の基準にて判定する。なお製膜は、24時間連続操業とする。
○:破れ無く製膜できる。操業可能。
△:破れが1日に1~3回発生するが、操業可能。
×:破れが1日に4回を超える、あるいは横延伸で破れが多発する。操業不可能。
【0100】
(5)線状オリゴマーの発生量
フィルムを0.1g凍結粉砕し、160℃、6時間減圧乾燥を行った後、N雰囲気下のアンプルに封入した。その後290℃にて20分間加熱を行い、高速液体クロマトグラフLC20A(島津製作所製)で線状オリゴマーとしてテレフタル酸、モノ-2-ヒドロキシエチルテレフタレート、ビス-2- ヒドロキシエチルテレフタレートの量を測定し、その合計量をからフィルム1g中の線状オリゴマー発生量(μg/g) とした。
【0101】
(6)確率的粗大突起数(単位:個/m
アルミニウム製の印加板上に10cm四方の大きさのフィルムを2枚重ね合わせて置き、そこから1.5cmの高さに印加電極をセットしたのち、5kVの電圧を印加し、50mm/分の速度で印加電極をスライドさせることで、2枚のフィルムを静電密着させた。静電密着後のフィルムサンプルを、ハロゲンランプに564nmのバンドパスフィルターをかけたものを光源として用いた実体顕微鏡を使い30倍で観察し、干渉縞の個数をカウントした。当評価を、異なる取り位置で採取したフィルムサンプルで300回繰り返して3重環以上の干渉模様を示す干渉縞の数を求め、6で割って1mあたりの個数を算出した。なお、当該評価はフィルムの一方の表面同士、およびフィルムのもう一方の表面同士が重なり合うようにしてそれぞれ測定し、数が多いほうの測定結果を表に記載した。
【0102】
(7) 面厚みの面内での標準偏差σ 値(フィルム厚みムラ)
製膜機外に設置した厚み測定センサー: JFEテクノリサーチ株式会社製の膜厚分布測定装置“FiDiCa”(登録商標)を用いて、面厚みを測定した。製品幅1.5m、長手方向の1,000mについて測定した。速度は50m/minとした。この面厚みデータを元に、面厚みの面内での標準偏差σ値を求め、これをフィルム厚みムラとした。
【0103】
(実施例1~6、比較例4、5)
250℃にて溶解したBHT(ビスヒドロキシエチルテレフタレート)105質量部が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸86質量部とエチレングリコール37質量部(テレフタル酸に対して1.15倍モル)からなるスラリーを徐々に添加し、水を留出させながらエステル化反応を進行させた。反応系内の温度は245~250℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とし、得られたエステル化反応物105質量部(PET(ポリエチレンテレフタレート)100質量部相当)を留出装置の付いた重合装置に溶融状態で仕込んだ。
【0104】
三酸化二アンチモンを0.0084質量部と、p-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウムを0.0175質量部とを、エチレングリコール溶液として添加し、引き続いて重合反応槽内を除々に減圧にし、35分で0.13kPa以下とし、それと同時に除々に昇温して279℃とし、ポリエステル樹脂組成物の固有粘度が0.625となるまで重合反応を実施した。その後、窒素ガスによって重縮合反応槽を常圧に戻し、口金より冷水中にストランド状に吐出し、押し出しカッターによって円柱状にペレット化してポリエステル樹脂組成物を得た。
【0105】
さらに別に、モノマーを吸着させる方法によって得た体積平均粒子径1.0μm、体積形状係数f=0.51のジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子の水スラリーを、上記のポリエステル樹脂組成物ペレットに、ベント式二軸混練機を用いて含有させ、体積平均粒子径1.0μmのジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子をポリエステル樹脂組成物99質量部に対し1質量部含有するマスターペレットを得た。
【0106】
なお、体積形状係数fとは次式で表される。
f=V/Dm
ここでVは粒子体積(μm)、Dmは粒子の投影面における最大径(μm)である。体積形状係数fは粒子が球のとき、最大のπ/6をとる。
【0107】
これらのポリエステルをそれぞれ160℃で8時間減圧乾燥し、水分率を100ppmとした後、別々の押出機に供給し、275℃で溶融押出して、5μm以上の捕集効率95%の高精度フィルターで濾過した後、矩形の3層用合流ブロックで合流積層し、ポリエステル層A/ポリエステル層B/ポリエステル層Aからなる3層積層とした。ポリエステル層Aへは上記マスターペレットを使用し、ポリエステル層Bには上記ポリエステル樹脂組成物を使用した。
【0108】
その後、285℃に保ったスリットダイを介し静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃のキャスティングロール上で7sec冷却固化し、厚み570μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを、まず103℃に加熱したロールとラジエーションヒーターによって長手方向に3.4倍延伸した。このときの幅縮み量は14%であった。続いてテンターにて幅方向に110℃で4.4倍に延伸した。その後、冷却工程の幅縮み速度18%/minでフィルム温度が35℃になるよう冷却した。この冷却工程ではロール方式を採用し、ロールの温度は30℃とし、冷却工程の通過時間は15秒とした。次いで195℃で熱処理を行って、全フィルム厚み31μm、フィルムの積層厚さがポリエステル層A/ポリエステル層B/ポリエステル層A=1.0μm/29μm/1.0μm、フィルム幅5.1mの3層からなるポリエステルフィルムを巻き取って中間製品ロールを作成した。得られた中間製品ロールからサンプルを採取し、評価した。結果を表に示す。
【0109】
(リサイクル原料の作成)
実施例1の製法にて製膜したポリエステルフィルムを用い、後述する工程にて離型層を付与し、グリーンシートを作成、使用後に巻き取ったフィルムを用い、リサイクル原料を作成する。
【0110】
まず上記の巻き取ったフィルムを繰り出し、Roll to Rollの装置にて水洗を行う。水洗層中で、回転式の金属製のブラシを用いて、グリーンシートの残渣や離型層を掻き落とす。掻き落とし後のフィルムは、吸引器にて水を除去した後、120℃に加熱したオーブンを通過させ水を蒸発させた後に巻き取り、洗浄後のロールを得る。
【0111】
洗浄後のロールを繰り出し、回転刃を有するクラッシャーにて断裁後、スクリーンを通した後に、フレーク貯蔵サイロに貯蔵する。
【0112】
貯蔵サイロ内のフレークを、回収装置上に設置した貯蔵ホッパーに風送する。フレークは、ドラム内に、攪拌翼を有する回転式の円盤上に定量投入し、水平方向に回転させる。円盤はドラム下部に設置した温度計により、フレークの温度が200℃になった時点で押出機のスクリューを起動させる。押出機は単軸であり、スクリューL/Dは35である。シリンダー温度は260℃である。シリンダーに付したベントラインにて真空引きを行い、真空度は1kPa以下とする。溶融したポリマーはスクリーンメッシュからなる目開き300μm、20μm、150μmのフィルターを3枚重ねしたものを使用して、連続的に異物を取り除く。該フィルターは2対有し、異物が詰まった際に切替可能とする。フィルターで濾過したポリマーを口金から吐出し、冷却水をスプレーさせながら、120℃/secの冷却速度にてポリマーを冷却させ、ガットを成形する。ガットを、回転刃を有する切断装置にて切断し、チップ化した後に、脱水後、貯蔵サイロに風送する。ここで得たチップを、リサイクル原料とする。
【0113】
(リサイクル原料の調合、リサイクル原料劣化指数)
ポリエステルB層の押出機に供給するポリエステルペレットに対するリサイクル原料の質量比率は、各々5~100%にて混合し同比率で複数回リサイクルした。
【0114】
(ポリエステルフィルムに離型層を付与し、グリーンシートを作成、使用後に巻き取る工程)
(離型層の塗布)
ポリエステルフィルムのロールに、架橋プライマー層(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製商品名BY24-846)を固形分1%に調整した塗布液を塗布/乾燥し、乾燥後の塗布厚みが0.1μmとなるようにグラビアコーターで塗布し、100℃で20秒乾燥硬化した。その後1時間以内に付加反応型シリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製商品名“LTC”(登録商標)750A)100質量部、白金触媒(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製商品名SRX212)2質量部を固形分5%に調整した塗布液を、乾燥後の塗布厚みが0.1μmとなるようにグラビアコートで塗布し、120℃で30秒乾燥硬化した後に巻き取り、離型フィルムを得た。
【0115】
(グリーンシートの成型)
チタン酸バリウム(富士チタン工業(株)製商品名HPBT-1)100質量部、ポリビニルブチラール(積水化学(株)製商品名BL-1)10質量部、フタル酸ジブチル5質量部とトルエン-エタノール(質量比30:30)60質量部に、数平均粒径2mmのガラスビーズを加え、ジェットミルにて20時間混合・分散させた後、濾過してペースト状のセラミックスラリーを調整した。得られたセラミックスラリーを、離型フィルムの上に乾燥後の厚みが2μmとなるように、ダイコーターにて塗布し乾燥させ、巻き取り、グリーンシートを得た。
【0116】
(実施例7、比較例2)
p-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウムと共にp-トルエンスルホン酸ナトリウムを添加し、表に記載の硫黄元素とリン元素の含有量とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムを得た。結果を表に示す。
【0117】
(実施例8、比較例7)
三酸化二アンチモンとp-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウムに加えて、酢酸カルシウム1水和物を添加することで、表に記載の硫黄元素およびリン元素、カルシウム元素の含有量とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムを得た。結果を表に示す。
【0118】
(実施例9、比較例8)
三酸化二アンチモンとp-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウムに加えて、酢酸マグネシウム4水和物を添加することで、表に記載の硫黄元素およびリン元素、マグネシウム元素の含有量とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムを得た。結果を表に示す。
【0119】
(実施例10、比較例9)
三酸化二アンチモンとp-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウムに加えて、酢酸マンガン4水和物を添加することで、表に記載の硫黄元素およびリン元素、マンガン元素の含有量とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムを得た。結果を表に示す。
【0120】
(実施例11)
p-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウムを添加する代わりに、p-トルエンスルホン酸ナトリウム及びリン酸トリメチルを添加し、表に記載の硫黄元素およびリン元素の含有量とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムを得た。結果を表に示す。
【0121】
(実施例12)
三酸化二アンチモンとp-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウムに加えて、p-トルエンスルホン酸ナトリウム及びリン酸トリメチルを添加し、表に記載の硫黄元素およびリン元素の含有量とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムを得た。結果を表に示す。
【0122】
(比較例1)
p-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウムを添加する代わりに、リン酸トリメチルを添加し、表に記載のリン元素の含有量とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムを得た。結果を表に示す。
【0123】
(比較例3)
p-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウムを添加する代わりに、p-トルエンスルホン酸ナトリウムを添加し、表に記載の硫黄元素の含有量とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムを得た。結果を表に示す。
【0124】
(比較例6、10)
三酸化二アンチモンとp-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウムに加えて、リン酸トリメチルを添加し、表に記載の硫黄元素およびリン元素の含有量とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムを得た。結果を表に示す。
【0125】
【表1】
【0126】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明におけるポリエステルフィルムは、離型用ベースフィルム、特に、セラミックコンデンサー用途において、使用後フィルムの回収と再利用が進められる。