(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049218
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】半導体駆動回路及び電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 1/08 20060101AFI20240402BHJP
H02M 3/155 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
H02M1/08 A
H02M3/155 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155553
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002037
【氏名又は名称】新電元工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(74)【代理人】
【氏名又は名称】柿本 恭成
(74)【代理人】
【識別番号】100178906
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 充和
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健一
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 俊之
【テーマコード(参考)】
5H730
5H740
【Fターム(参考)】
5H730AA18
5H730AS04
5H730BB14
5H730BB57
5H730CC04
5H730DD04
5H730DD12
5H730DD17
5H730EE57
5H730EE58
5H730EE59
5H730FD31
5H730FD41
5H730FD51
5H730FF18
5H730FG05
5H740BA12
5H740BB01
5H740BB07
5H740BC01
5H740BC02
5H740JA01
5H740JB01
5H740KK03
(57)【要約】
【課題】電力変換装置のデッドタイム期間中に生じるような、スイッチング素子の逆電流導通時の電圧降下を減少させ、逆導通損失を低減する。
【解決手段】電力変換装置(例えば、コンバータ内のPFC回路)は、交流電源21と、整流回路22と、チョークコイル23と、第1スイッチ回路24内のノーマリオン型のスイッチング素子24a及び常時オン状態のスイッチ24bと、第2スイッチ回路25内のノーマリオン型のスイッチング素子25a及び常時オン状態のスイッチ25bと、前記スイッチ回路24,25を駆動する駆動回路26,27と、を備えている。駆動回路26又は27は、スイッチング素子24a,25aの誤点弧が発生し易くなる情報を基に、スイッチング素子24a又は25aをオフ状態にするための負バイアスのバイアス量を変化させている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正電源側と負電源側との間に直列に接続されたノーマリオン型の第1スイッチング素子及びノーマリオフ型の第1スイッチを有する第1スイッチ回路と、
直列に接続されたノーマリオン型の第2スイッチング素子及びノーマリオフ型の第2スイッチを有し、前記第2スイッチング素子及び前記第2スイッチが、前記第1スイッチ回路に対して並列に接続された第2スイッチ回路と、
前記第1スイッチング素子を、動作時にオン/オフ駆動し、前記第1スイッチを、動作時にオン状態、電源停止時にオフ状態にする第1駆動回路と、
前記第2スイッチング素子を、動作時に、前記第1スイッチング素子に対しデッドタイムをおいて相補的にオン/オフ駆動し、前記第2スイッチを、動作時にオン状態、電源停止時にオフ状態にする第2駆動回路と、
を備える半導体駆動回路において、
前記第1駆動回路及び前記第2駆動回路は、
前記第1スイッチング素子又は前記第2スイッチング素子の誤点弧が発生し易くなる情報を基に、前記第1スイッチング素子又は前記第2スイッチング素子をオフ状態にするための負バイアスのバイアス量を変化させる、
ことを特徴とする半導体駆動回路。
【請求項2】
前記第1スイッチング素子又は前記第2スイッチング素子の誤点弧が発生し易くなる情報は、
負荷の状態が重負荷の情報である、
ことを特徴とする請求項1記載の半導体駆動回路。
【請求項3】
前記負荷の状態が前記重負荷か否かは、
前記負荷に流れる負荷電流を検出し、この検出結果が閾値電流を超えれば前記重負荷と判定する、
ことを特徴とする請求項2記載の半導体駆動回路。
【請求項4】
前記負荷の状態が前記重負荷か否かは、
前記第1スイッチ回路及び前記第2スイッチ回路をそれぞれ流れるスイッチ回路電流を検出し、これらの各検出結果が閾値電流を超えれば前記重負荷と判定する、
ことを特徴とする請求項2記載の半導体駆動回路。
【請求項5】
前記負荷の状態が前記重負荷の時には、前記第1スイッチング素子又は前記第2スイッチング素子をオフ状態にするための前記負バイアスのバイアス量を増加させる、
ことを特徴とする請求項2~4のずれか1項記載の半導体駆動回路。
【請求項6】
前記負荷の状態が軽荷の時には、前記第1スイッチング素子又は前記第2スイッチング素子をオフ状態にするための前記負バイアスのバイアス量を減少させる、
ことを特徴とする請求項2~4のずれか1項記載の半導体駆動回路。
【請求項7】
前記負バイアスのバイアス量は、リニアに変化させる、
ことを特徴とする請求項5又は6記載の半導体駆動回路。
【請求項8】
前記半導体駆動回路は、
前記第1スイッチ回路及び前記第2スイッチ回路を有するコンバータを含む回路である、
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項記載の半導体駆動回路。
【請求項9】
前記第1スイッチング素子及び前記第2スイッチング素子は、
GaNトランジスタを含む化合物半導体素子である、
ことを特徴とする請求項1~8のいずれか1項記載の半導体駆動回路。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項記載の半導体駆動回路を用いた、
ことを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング素子を駆動する半導体駆動回路と、その半導体駆動回路を用いた電力変換装置と、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置は、交流(AC)から直流(DC)、直流から交流、或いは交流の周波数変換、直流の電力変換等、電気エネルギーを変換する装置であり、例えば、AC/DCコンバータ、DC/ACインバータ、DC/DCコンバータ、力率改善回路(以下「PFC回路」という。)を有するコンバータ等の種々の装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1~4において、特許文献1には、ゲートが無電圧の時にオン状態となるノーマリオン型のスイッチング素子(スイッチングの高速性や耐電圧に優れ、オン抵抗が低いGaNトランジスタやSiCトランジスタ)を有するインバータにおけるスイッチング素子の駆動方式が記載されている。
特許文献2には、電力変換装置(例えば、位相シフト回路)について記載されている。位相シフト回路を構成するスイッチング素子として、化合物半導体を用いたノーマリオフ型のGaNトランジスタ、SiCトランジスタの例が記載されている。特に、GaNトランジスタは、Siトランジスタよりも電気的、物理的特性に優れ、大電力、小型、低損失のパワー半導体素子として注目されている。
【0004】
特許文献3には、ノーマリオン型の第1スイッチング素子を有するハイサイド(高レベル側)のスイッチ部と、カスコード(縦続)接続されたノーマリオン型の第2スイッチング素子及びノーマリオフ型の第3スイッチング素子を有するローサイド(低レベル側)のスイッチ部と、が直列接続されたインバータ回路を備えたスイッチング電源装置が記載されている。
又、特許文献4には、半導体スイッチング素子の駆動回路を備え、交流系統及び直流系統の間を連系して、交流系統と直流系統の間における電力潮流の制御を行う電力変換装置が記載されている。半導体スイッチング素子としては、ゲート電圧が閾値電圧よりも高い時にオン、低い時にオフする電界効果トランジスタ(以下「FET」という。)や、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)等が開示されている。
【0005】
図4(a),(b),(c)は、特許文献2等に記載されたコンバータ内のPFC回路と類似の従来のPFC回路を示す図であり、同図(a)はPFC回路の全体の回路図、同図(b)は同図(a)中の駆動回路の回路図、及び、同図(c)は(b)の駆動回路の出力電圧波形図である。
【0006】
このPFC回路は、交流電源1から供給される交流電力を全波整流する整流回路2と、この出力側に直列接続されたチョークコイル3及び低レベル(以下「Lレベル」という。)側のスイッチング素子4と、を有している。スイッチング素子4に対して並列に、同期整流用の高レベル(以下「Hレベル」という。)側のスイッチング素子5と平滑用のコンデンサ8との直列回路が接続されている。コンデンサ8の両電極には、負荷9が接続される。スイッチング素子4,5は、例えば、ノーマリオフ型のGaNトランジスタで構成され、それらのゲート(G)が駆動回路6,7にて駆動される。ノーマリオフ型のGaNトランジスタは、ゲートがLレベル(例えば、0V以下)でドレイン(D)・ソース(S)間がオフ、ゲートがHレベルでドレイン(D)・ソース(S)間がオンする。
【0007】
スイッチング素子4がオン、スイッチング素子5がオフの時、交流電源1→整流回路2→チョークコイル3→スイッチング素子4→整流回路2→交流電源1の経路で電流が流れる。スイッチング素子4がオフ、スイッチング素子5がオンの時、交流電源1→整流回路2→チョークコイル3→スイッチング素子5→コンデンサ8及び負荷9→整流回路2→交流電源1の経路で電流が流れる。これにより、交流電源1の交流電力が、整流回路2で整流され、その電力が、チョークコイル3、スイッチング素子4及びスイッチング素子5を通して昇圧され、コンデンサ8で平滑されて負荷9へ供給される。スイッチング素子4をオン/オフし、これに同期してスイッチング素子5をオフ/オンすることにより、電流を制御し、電源電圧と位相を同期させ、チョークコイル3に流れる電流の波形を正弦波に近づけている。スイッチング素子4への通電電流と同期整流用のスイッチング素子5の順電流の和が、チョークコイル3に流れる電流になる。
【0008】
図4(b)の駆動回路6及び7は、同一の回路構成であり、直流電源11、抵抗12、ツェナーダイオード13、及びコンデンサ14を有するツェナー回路と、パルス信号源15と、により構成されている。ツェナー回路は、0Vよりも高いツェナー電圧Vzを生成し、スイッチング素子4,5のソース(S)に供給する。パルス信号源15は、例えば、目標電圧と出力電圧との電圧誤差を零にするような出力制御信号を入力し、その出力制御信号を、搬送波によりパルス幅変調(以下「PWM」という。)して0Vよりも高い波高値Vhの駆動パルスGPを生成し、スイッチング素子4,5のゲート(G)に供給する。
図4(c)に示すように、駆動回路6,7の出力電圧波形において、ツェナー電圧Vz分がスイッチング素子4,5のオフ時のゲートの負バイアス量に相当する。このような駆動回路6,7の出力電圧により、スイッチング素子4,5を、一定のデッドタイムをおいて相補的にオン/オフさせている。
【0009】
図5は、
図4(a)のPFC回路の動作波形図である。
Vgs1はGaNトランジスタで構成されたスイッチング素子4のゲート・ソース間電圧、Vgs2はGaNトランジスタで構成されたスイッチング素子5のゲート・ソース間電圧、Id2はスイッチング素子5のソースからドレインに流れる逆方向のドレイン電流、及び、Vds2はスイッチング素子5のドレイン・ソース間電圧である。td1,td2は、2つのスイッチング素子4,5のゲート・ソース間電圧Vgs1,Vgs2が共にLレベルになるデッドタイムである。
【0010】
図5において、ゲート・ソース間電圧Vgs1のHレベルによってスイッチング素子4がオン、ゲート・ソース間電圧Vgs2のLレベルによってスイッチング素子5がオフの状態では、交流電源1→整流回路2→チョークコイル3→スイッチング素子4→整流回路2→交流電源1の経路で電流が流れる。この状態で、ゲート・ソース間電圧Vgs1がLレベルに立ち下がってスイッチング素子4がターンオフし、スイッチング素子4,5のゲート・ソース間電圧Vgs1,Vgs2が共にLレベルになるデッドタイムtd1期間へ遷移すると、スイッチング素子5のソースからドレインへ逆導通電流(-Id2)が流れ、ドレイン・ソース間電圧Vds2がLレベル(0V以下の負電位)に立ち下がって逆導通電圧降下ΔVが生じる。
【0011】
次に、ゲート・ソース間電圧Vgs2のHレベルへの立ち上がりによってスイッチング素子5がオン、ゲート・ソース間電圧Vgs1のLレベルによってスイッチング素子4がオフの状態では、交流電源1→整流回路2→チョークコイル3→スイッチング素子5→コンデンサ8及び負荷9→整流回路2→交流電源1の経路で電流が流れる。この状態で、ゲート・ソース間電圧Vgs2がLレベルに立ち下がってスイッチング素子5がターンオフし、スイッチング素子4,5のゲート・ソース間電圧Vgs1,Vgs2が共にLレベルになるデッドタイムtd2期間へ遷移すると、スイッチング素子5のソースからドレインへ逆導通電流(-Id2)が流れ、ドレイン・ソース間電圧Vds2がLレベル(0V以下の負電位)に立ち下がって逆導通電圧降下ΔVが生じる。
【0012】
スイッチング素子4,5を構成しているGaNトランスジスタは、高速スイッチングが可能な素子として利用されているが、ゲート閾値が低く、ノイズ等により誤点弧する恐れがある。誤点弧の具体例としては、PFC回路のスイッチング素子4の、ゼロボルトスイッチング(以下「ZVS」という。)ではないハードスイッチングによる、スイッチング素子5におけるドレイン電圧の急激な変化により、そのスイッチング素子5内のドレイン・ゲート間寄生容量を通してゲート電圧が持ち上がり、これがゲート閾値を超えると誤点弧となる。この対策として、スイッチング素子5のオフ時のゲート電圧を負バイアスにすると、誤点弧を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004-242475号公報
【特許文献2】国際公開第2012/153676号公報
【特許文献3】特開2018-088754公報
【特許文献4】国際公開第2020/017506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
図4のPFC回路のスイッチング素子4,5を構成しているGaNトランジスタは、ソースからドレインへ電流が流れる(逆導通する)場合、もともとのソース・ドレイン間の電圧降下に更にゲートの負バイアス分が加算されてしまう特性がある。そのため、PFC回路の同期整流用のスイッチング素子5のように、デッドタイムtd1,td2期間中にスイッチング素子5のソースからドレインへ電流が流れる(逆導通する)場合では、
図5に示すように、逆導通電圧降下ΔVにより、導通損失が増加してしまう弊害がある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の半導体駆動回路は、正電源側と負電源側との間に直列に接続されたノーマリオン型の第1スイッチング素子及びノーマリオフ型の第1スイッチを有する第1スイッチ回路と、直列に接続されたノーマリオン型の第2スイッチング素子及びノーマリオフ型の第2スイッチを有し、前記第2スイッチング素子及び前記第2スイッチが、前記第1スイッチ回路に対して並列に接続された第2スイッチ回路と、前記第1スイッチング素子を、動作時にオン/オフ駆動し、前記第1スイッチを、動作時にオン状態、電源停止時にオフ状態にする第1駆動回路と、前記第2スイッチング素子を、動作時に、前記第1スイッチング素子に対しデッドタイムをおいて相補的にオン/オフ駆動し、前記第2スイッチを、動作時にオン状態、電源停止時にオフ状態にする第2駆動回路と、を備えている。
そして、前記第1駆動回路及び前記第2駆動回路は、前記第1スイッチング素子又は前記第2スイッチング素子の誤点弧が発生し易くなる情報を基に、前記第1スイッチング素子又は前記第2スイッチング素子をオフ状態にするための負バイアスのバイアス量を変化させる、ことを特徴とする。
【0016】
上記構成において、例えば、前記第1スイッチング素子又は前記第2スイッチング素子の誤点弧が発生し易くなる情報は、負荷の状態が重負荷の情報である。
前記負荷の状態が前記重負荷か否かは、前記負荷に流れる負荷電流を検出し、この検出結果が閾値電流を超えれば前記重負荷と判定する。
前記負荷の状態が前記重負荷か否かは、前記第1スイッチ回路及び前記第2スイッチ回路をそれぞれ流れるスイッチ回路電流を検出し、これらの各検出結果が閾値電流を超えれば前記重負荷と判定する。
前記負荷の状態が前記重負荷の時には、前記第1スイッチング素子又は前記第2スイッチング素子をオフ状態にするための前記負バイアスのバイアス量を増加させる、構成にしても良い。
【0017】
前記負荷の状態が軽負荷の時には、前記第1スイッチング素子又は前記第2スイッチング素子をオフ状態にするための前記負バイアスのバイアス量を減少させる、構成にしても良い。
前記負バイアスのバイアス量は、リニアに変化させる、構成にしても良い。
前記半導体駆動回路は、前記第1スイッチ回路及び前記第2スイッチ回路を有するコンバータを含む回路である。
【0018】
又、本発明の電力変換装置は、前記半導体駆動回路を用いた、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ハードスイッチングによるノイズ等により誤点弧する恐れが高い場合に、第1スイッチング素子又は第2スイッチング素子の誤点弧が発生し易くなる情報を基に、その第1スイッチング素子又は第2スイッチング素子をオフ状態にするための負バイアスのバイアス量を変化させている。これにより、第1スイッチング素子又は第2スイッチング素子の誤点弧を防ぐことができる。又、軽負荷においては、負バイアス量を減少させることで、電力変換装置のデッドタイム期間中に生じるような、第1スイッチング素子又は第2スイッチング素子の逆電流導通時の電圧降下を減少させ、逆導通損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施例1における電力変換装置(例えば、コンバータ内のPFC回路)を示す図
【
図3】本発明の実施例2における電力変換装置(例えば、コンバータ内のPFC回路)を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明を実施するための形態は、以下の好ましい実施例の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、明らかになるであろう。但し、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例0022】
(実施例1の構成)
図1(a),(b)は、本発明の実施例1における電力変換装置(例えば、コンバータ内のPFC回路)を示す図であり、同図(a)はPFC回路の全体の回路図、及び同図(b)は同図(a)中の駆動回路の回路図である。
【0023】
図1(a)のPFC回路は、従来の
図4と同様に、交流電源21から供給される交流電力を全波整流する整流回路22を有している。整流回路22は、ブリッジ接続された4つの整流ダイオード22a,22b,22c,22dにより構成されている。整流回路22の出力の正電源側と負電源側との間には、チョークコイル23及びLレベル側の第1スイッチ回路24が直列に接続されている。第1スイッチ回路24に対して並列に、同期整流用のHレベル側の第2スイッチ回路25と平滑用のコンデンサ28との直列回路が接続されている。コンデンサ28の両電極には、負荷29が接続される。第1スイッチ回路24には、この回路をオン/オフ駆動する第1駆動回路26が接続されると共に、第2スイッチ回路25にも、この回路をオン/オフ駆動する第2駆動回路27が接続されている。
【0024】
第1スイッチ回路24は、正電源側と負電源側との間に直列に接続されたノーマリオン型の第1スイッチング素子24a及びノーマリオフ型の第1スイッチ24bと、その第1スイッチ24bを常時オン状態にするための電圧を印加する2つの直列接続された分圧抵抗24c,24dと、を有している。第1スイッチング素子24aは、化合物半導体素子(例えば、ノーマリオン型のGaNトランジスタ)で構成され、そのゲート(G)が第1駆動回路26によりオン/オフ駆動される。ノーマリオン型のGaNトランジスタは、ゲートがHレベル(例えば、0V付近の負電位)でドレイン(D)・ソース(S)間がオン状態、Hレベルよりも低いLレベル(例えば、0V付近よりも低い負電位)でドレイン・ソース間がオフ状態になる。第1スイッチ24bは、ノーマリオフ型のFET等の半導体素子で構成され、そのゲート(G)がHレベル(例えば、数Vの正電位)でドレイン(D)・ソース(S)間がオン状態、Hレベルよりも低いLレベル(例えば、0V付近の電位)でドレイン・ソース間がオフ状態になる。第1駆動回路26は、第1スイッチング素子24aを、動作時にオン/オフ駆動し、第1スイッチ24bを、動作時にオン状態、電源停止時にオフ状態にする回路である。
【0025】
第2スイッチ回路25は、第1スイッチ回路24と同様に、正電源側に直列に接続されたノーマリオン型の第2スイッチング素子25a及びノーマリオフ型の第2スイッチ25bと、その第2スイッチ25bを常時オン状態にするための電圧を印加する2つの直列接続された分圧抵抗25c,25dと、を有している。第2スイッチング素子25aは、化合物半導体素子(例えば、ノーマリオン型のGaNトランジスタ)で構成され、第2スイッチ25bは、ノーマリオフ型のFET等の半導体素子で構成されている。第2駆動回路27は、第2スイッチング素子25aを、動作時に、第1スイッチング素子24aに対しデッドタイムtd1,td2をおいて相補的にオン/オフ駆動し、第2スイッチ25bを、動作時にオン状態、電源停止時にオフ状態にする回路である。
【0026】
整流回路22の負極の入力側には、例えば、シャント抵抗により構成される電流検出回路30が接続されている。電流検出回路30は、シャント抵抗を流れる負荷電流Irを検出する回路である。なお、電流検出回路30は、他の回路構成として、ロゴスキーコイル及び積分器等により構成しても良い。ロゴスキーコイルを使用した場合、接続線に非接触で電流の検出ができ、磁気損失による発熱やヒステリシスがなく、磁気飽和しないため、大電流の測定が可能である。
【0027】
電流検出回路30の出力側には、比較器31が接続されている。比較器31は、検出された負荷電流Irと閾値電流Ithとの大小を比較し、負荷電流Irが閾値電流Ithよりも大きい時には、負荷29が「重負荷」であると判定してHレベルの電流判定信号S31を出力し、負荷電流Irが閾値電流Ithよりも小さい時には、負荷29が「軽負荷」であると判定してLレベルの電流判定信号S31を出力する回路である。比較器31の出力側には、2つの絶縁回路32,33が接続されている。各絶縁回路32,33は、電流判定信号S31を絶縁し、負荷29が「重負荷」の時にはLレベルの制御信号S32,S33を出力し、負荷29が「軽負荷」の時にはHレベルの制御信号S32,S33を出力し、各駆動回路26,27へそれぞれ帰還する回路であり、パルス変圧器、絶縁反転増幅器、Lレベル側ドライバ等により構成されている。
【0028】
図1(b)の駆動回路26及び27は、同一の回路構成であり、直流電源41、抵抗42、ツェナー電圧Vz1を有するツェナーダイオード43、ツェナー電圧Vz2(但し、Vz2=Vz1又はVz2≠Vz1)を有するツェナーダイオード44、Hレベルの制御信号S32(S33)によりオンするノーマリオフ型の短絡用スイッチ45、NPN型トランジスタ46、コンデンサ47、及びそのコンデンサ47の放電抵抗48を備えた降圧回路であるドロッパ回路と、そのトランジスタ46のエミッタ(E)に接続された直流電源49と、ノーマリオフ型のスイッチ50と、パルス信号源51と、により構成されている。
【0029】
ドロッパ回路において、直流電源41の正極と負極との間には、抵抗42及びツェナーダイオード43,44の直列回路と、トランジスタ46のコレクタ(C)・エミッタ(E)及びコンデンサ47の直列回路と、が並列に接続されている。ツェナーダイオード44には、スイッチ45が並列に接続されている。トランジスタ46のエミッタと直流電源41の負極との間に接続されたコンデンサ47には、放電抵抗48が並列に接続されている。トランジスタ46のエミッタとコンデンサ47及び放電抵抗48との接続点は、スイッチ24b(25b)のソース(S)に接続されている。更に、トランジスタ46のエミッタとコンデンサ47及び放電抵抗48との接続点には、直流電源49の負極・正極及びスイッチ50が直列に接続され、そのスイッチ50が、
図1(a)の分圧抵抗24c(25c)を介してスイッチ24b(25b)のゲート(G)に接続されている。放電抵抗48の負極側には、パルス信号源51を介して、スイッチング素子24a(25a)のゲート(G)が接続されている。パルス信号源51は、例えば、目標電圧と出力電圧との電圧誤差を零にするような周波数信号を入力し、その周波数信号を、三角波等の搬送波によりPWMして0Vよりも高い波高値Vhの駆動パルスGPを生成し、スイッチング素子24a(25a)のゲートに供給する機能を有している。
【0030】
このように構成される駆動回路26(27)において、動作時にスイッチ50がオンし、直流電源49により、分圧抵抗24c(25c)を介してスイッチ24b(25b)のゲートがHレベルになり、そのスイッチ24b(25b)がオン状態になる。重負荷時に、絶縁回路32(33)からLレベルの制御信号S32(S33)が出力されと、スイッチ45がオフ状態のままであり、ツェナーダイオード43のツェナー電圧Vz1とツェナーダイオード44のツェナー電圧Vz2とが、トランジスタ46のベースに掛かり、そのトランジスタ46のエミッタに、ドロッパ回路の直流の出力電圧(Vz1+Vz2-Vbe)が生じる(但し、Vbe;トランジスタ46のベース・エミッタ間電圧)。そのため、スイッチング素子24a(25a)のオフ時のゲートの負バイアス量が増加する。
【0031】
軽負荷時に、絶縁回路32(33)からHレベルの制御信号S32(S33)が出力されると、スイッチ45がオンし、ツェナーダイオード44が短絡される。ツェナーダイオード44が短絡されると、トランジスタ46のベースには、ツェナーダイオード43のツェナー電圧Vz1が掛かり、そのトランジスタ46がオフする。トランジスタ46のエミッタ側の出力電圧(Vz1+Vz2-Vbe)は、コンデンサ47と放電抵抗48の放電時定数で放電し、そのエミッタ側の出力電圧が(Vz1-Vbe)へ変化する。そのため、スイッチング素子24a(25a)のオフ時のゲートの負バイアス量が減少する。
【0032】
(実施例1の動作)
図2は、
図1(a)のPFC回路の動作波形図である。Vgs1はGaNトランジスタで構成されたスイッチング素子24aのゲート・ソース間電圧、Vgs2はGaNトランジスタで構成されたスイッチング素子25aのゲート・ソース間電圧、Id2はスイッチング素子25aのドレインからソースへ流れる順方向のドレイン電流、及び、Vds2はスイッチング素子25aのドレイン・ソース間電圧である。td1,td2は、2つのスイッチング素子24a,25aのゲート・ソース間電圧Vgs1,Vgs2が共にLレベルになってオフ状態になるデッドタイムである。
図1のPFC回路は、
図2に示す期間T1~T3において、以下の(1)~(3)のように動作する。
【0033】
(1) 期間T1:スイッチング素子24aがオンからオフへ遷移し、スイッチング素子25aがオフからオンへ遷移し、負荷電流Irが閾値電流Ithよりも大きい重負荷の場合
駆動回路26,27が動作すると、スイッチ50がオンし、直流電源49の直流電圧が、分圧抵抗24c,25cを介してスイッチ24b,25bのゲートに印加され、そのスイッチ24b,25bがオン状態になる。パルス信号源51から出力された駆動パルスGPは、スイッチング素子24a,25aのゲートに印加される。
負荷電流Irが閾値電流Ithよりも大きい重負荷であるから、絶縁回路32,33から出力されるLレベルの制御信号S32,S33により、駆動回路26,27内のスイッチ45がオフ状態のままである。すると、ツェナーダイオード43のツェナー電圧Vz1とツェナーダイオード44のツェナー電圧Vz2とにより、トランジスタ46がオンする。トランジスタ46がオンすると、このトランジスタ46のエミッタ側の出力電圧が、(Vz1+Vz2-Vbe)へと上昇していく。この電圧は、オン状態のスイッチ24b,25bを介して、スイッチング素子24a,25aのソースに印加される。駆動パルスGPのHレベルとLレベルの遷移により、スイッチング素子24aのゲート・ソース間電圧Vgs1がHレベルになってオン状態になると共に、スイッチング素子25aのゲート・ソース間電圧Vgs2が、ゲートの負バイアスの増加により、Lレベルになってオフ状態になる。
そのため、交流電源21→整流回路22の正極→チョークコイル23→スイッチ回路24内のオン状態のスイッチング素子24a及びスイッチ24b→整流回路22の負極→交流電源21の経路で電流が流れる。
【0034】
この状態で、ゲート・ソース間電圧Vgs1が、ゲートの負バイアスの増加により、Lレベルに立ち下がってスイッチング素子24aがターンオフし、スイッチング素子24a,25aのゲート・ソース間電圧Vgs1,Vgs2が共にLレベルになるデッドタイムtd1期間へ遷移する。すると、スイッチング素子25aのソースからドレインへ逆導通電流(-Id2)が流れ、交流電源21→整流回路22の正極→チョークコイル23→スイッチ回路25内のスイッチ25b及びスイッチング素子25a→コンデンサ28及び負荷29→整流回路22の負極→交流電源21の経路で負荷電流Irが流れる。これにより、交流電源21の交流電力が、整流回路22で整流され、その電力が、チョークコイル23、スイッチ回路24及びスイッチ回路25を通して昇圧され、コンデンサ28で平滑されて負荷29へ供給される。スイッチング素子25aのソースからドレインへ逆導通電流(-Id2)が流れると、ドレイン・ソース間電圧Vds2がLレベル(0V以下の電位)に立ち下がって逆導通電圧降下ΔVが生じる。
【0035】
デッドタイムtd1期間の経過後、スイッチング素子24aはオフ状態であるが、ゲート・ソース間電圧Vgs2がHレベルに立ち上がって、スイッチング素子25aのドレイン・ソース間電圧Vds2が略0V(正確には、Id2×Ron、但し、Ron;スイッチング素子25aのオン抵抗)になる。そして、交流電源21→整流回路22の正極→チョークコイル23→スイッチ回路25内のスイッチ25b及びスイッチング素子25a→コンデンサ28及び負荷29→整流回路22の負極→交流電源21の経路で負荷電流Irが流れ続ける。
【0036】
次に、ゲート・ソース間電圧Vgs2が、ゲートの負バイアスの増加により、Lレベルに立ち下がってスイッチング素子25aがターンオフし、スイッチング素子24a,25aのゲート・ソース間電圧Vgs1,Vgs2が共にLレベルになるデッドタイムtd2期間へ遷移する。すると、スイッチング素子25aのソースからドレインへ逆導通電流(-Id2)が流れ続け、スイッチング素子25aのドレイン・ソース間電圧Vds2がLレベル(0V以下の電位)に降下して逆導通電圧降下ΔVが生じる。
【0037】
(2) 期間T2:スイッチング素子24aがオフからオンへ遷移し、スイッチング素子25aがオフ状態を維持し、負荷電流Irが閾値電流Ithよりも小さい軽負荷へ変化する場合
デッドタイムtd2期間の経過後、スイッチング素子25aはオフ状態であるが、ゲート・ソース間電圧Vgs1がHレベルに立ち上がってスイッチング素子24aがターンオンする。これにより、交流電源21→整流回路22の正極→チョークコイル23→スイッチ回路24内のスイッチング素子24a及びスイッチ24b→整流回路22の負極→交流電源21の経路で電流が流れる。スイッチング素子24aがターンオンする際に、ゲート・ソース間電圧Vgs2に、ゲートのノイズNSが生じる。この時、スイッチング素子25aのゲート・ソース間電圧Vgs2は、負バイアスされているため、ゲート閾値を超え誤点弧することは無く、ドレイン電流Id2が流れず(0A)、スイッチング素子25aのドレイン・ソース間電圧Vds2がHレベル(正電位)に立ち上がる。
【0038】
負荷電流Irが閾値電流Ithよりも小さい軽負荷になると、絶縁回路32,33からHレベルの制御信号S32,S33が出力されるので、駆動回路26,27内のスイッチ45がオンする。スイッチ45がオンすると、ツェナーダイオード44が短絡され、ツェナーダイオード43のツェナー電圧Vz1が、トランジスタ46のベースに掛かり、このトランジスタ46がオフする。すると、トランジスタ46のエミッタ側の出力電圧(Vz1+Vz2-Vbe)が、コンデンサ47及び放電抵抗48の放電時定数で放電するので、そのエミッタ側の出力電圧が(Vz1-Vbe)へ変化する。そのため、スイッチング素子24a(25a)のオフ時のゲートの負バイアス量が減少し、そのスイッチング素子25aのゲート・ソース間電圧Vgs2が0V以下の負電位へ上昇していく。
【0039】
ゲート・ソース間電圧Vgs1がLレベル(0V以下の負電位)に立ち下がり、スイッチング素子24a,25aのゲート・ソース間電圧Vgs1,Vgs2が共にLレベル(0V以下の負電位)になるデッドタイムtd1期間へ遷移する。すると、スイッチング素子25aのソースからドレインへ流れる逆導通電流(-Id2)により、そのスイッチング素子25aのドレイン・ソース間電圧Vds2が、Hレベル(正電位)からLレベル(0V以下の電位)へ立ち下がる。次に、スイッチング素子25aのゲート・ソース間電圧Vgs2がHレベルに立ち上がり、ドレイン電流Id2が正方向へ上昇していくと共に、ドレイン・ソース間電圧Vds2が略0Vを維持する。その後、スイッチング素子25aのゲート・ソース間電圧Vgs2がLレベルに立ち下がり、スイッチング素子24a,25aのゲート・ソース間電圧Vgs1,Vgs2が共にLレベル(0V以下の負電位)になるデットタイムtd2期間へ遷移する。すると、スイッチング素子25aのドレインからソースへ流れる正のドレイン電流Id2により、ドレイン・ソース間電圧Vds2が、略0Vから正電位へ上昇していく。
【0040】
(3) 期間T3:スイッチング素子24aがオフからオンへ遷移し、スイッチング素子25aがオフ状態を維持し、負荷電流Irが閾値電流Ithよりも小さい軽負荷を維持する場合
デッドタイムtd2期間の経過後、スイッチング素子25aはオフ状態であるが、ゲート・ソース間電圧Vgs1がHレベルに立ち上がってスイッチング素子24aがターンオンする。これにより、スイッチング素子25aには、ドレイン電流Id2が流れず(0A)、ドレイン・ソース間電圧Vds2がHレベルに立ち上がる。この時のスイッチング素子25aのドレイン・ソース間電圧Vds2の電圧変化量ΔVdsが減少するため、スイッチング素子25a内のドレイン・ゲート間寄生容量を通してゲート電圧が持ち上がるのが抑制される。
【0041】
スイッチング素子25aのゲート・ソース間電圧Vgs2が0V以下の負電圧を維持すると共に、ゲート・ソース間電圧Vgs1がLレベル(0V以下の負電位)に立ち下がってスイッチング素子24aがターンオフし、スイッチング素子24a,25aのゲート・ソース間電圧Vgs1,Vgs2が共にLレベルになるデッドタイムtd1期間へ遷移する。すると、スイッチング素子25aに負のドレイン電流Id2が流れ、ドレイン・ソース間電圧Vds2がLレベル(0V以下の電位)に立ち下がる。この時生じる逆導通電圧降下ΔVは、期間T1,T2の時よりも減少している。
その後、ゲート・ソース間電圧Vgs2がHレベルに立ち上がって前記と同様の動作を繰り返す。
【0042】
(実施例1の効果)
図1のPFC回路によれば、ハードスイッチングによるノイズNS等により誤点弧する恐れが高い場合に、スイッチング素子24a又は25aの誤点弧が発生し易くなる情報を基に、そのスイッチング素子24a又は25aをオフ状態にするためのゲートの負バイアス量を変化させている。これにより、スイッチング素子24a又は25aの誤点弧を防ぐことができる。又、軽負荷においては、ゲートの負バイアス量を減少させることで、電力変換装置のデッドタイムtd1期間中に生じるような、スイッチング素子24a又は25aのソースからドレインへの逆電流導通時の逆導通電圧降下ΔVを減少させ、逆導通損失を低減することができる。