(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049227
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】摺動部材および摺動体
(51)【国際特許分類】
C08L 27/18 20060101AFI20240402BHJP
F16C 33/20 20060101ALI20240402BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240402BHJP
C08K 3/32 20060101ALI20240402BHJP
C08K 3/30 20060101ALI20240402BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
C08L27/18
F16C33/20 A
C08K3/013
C08K3/32
C08K3/30
C08K3/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155568
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000207791
【氏名又は名称】大豊工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村井 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】所 昌哉
(72)【発明者】
【氏名】堀部 直樹
【テーマコード(参考)】
3J011
4J002
【Fターム(参考)】
3J011AA06
3J011BA02
3J011BA08
3J011DA01
3J011JA01
3J011KA02
3J011KA03
3J011LA04
3J011MA02
3J011SA02
3J011SA06
3J011SA07
3J011SC05
3J011SE02
4J002BD151
4J002DA037
4J002DB007
4J002DG026
4J002DG046
4J002DH036
4J002DJ036
4J002DL007
4J002FA047
4J002FD016
4J002FD017
4J002GM00
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性の向上を図る。
【解決手段】摺動部材14は、2.4重量%以上15.6重量%以下のリン酸マグネシウムと、7.6重量%以上19.9重量%以下の硫酸バリウムと、0重量%以上10.0重量%以下の二硫化モリブデンと、8.3重量%以上15.7重量%以下の焼成クレーと、を含むPTFE16からなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2.4重量%以上15.6重量%以下のリン酸マグネシウムと、
7.6重量%以上19.9重量%以下の硫酸バリウムと、
0重量%以上10.0重量%以下の二硫化モリブデンと、
8.3重量%以上15.7重量%以下の焼成クレーと、
を含むポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる摺動部材。
【請求項2】
珪酸塩を含まない、
請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
前記ポリテトラフルオロエチレン樹脂は、
球状カーボン、ガラス球、カーボン繊維、グラファイト繊維、ガラス繊維、樹脂粉末、樹脂繊維、金属粉末、および金属繊維から選択される少なくとも1種の充填材を10重量%以下の充填総量で更に含む、
請求項1に記載の摺動部材。
【請求項4】
基材と、
前記基材上に設けられた請求項1に記載の摺動部材と、
を備える摺動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材および摺動体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐摩耗性の向上などの観点から、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を主成分とする樹脂層を摺動部材として用いる技術が開示されている。また、PTFEに摺動部材の使用用途等に応じた添加剤を添加して用いる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-20568号公報
【特許文献2】特開平8-41484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら従来技術では軸部材などの相手材の表面が粗い場合、摺動部材の摩耗量が大きく、耐摩耗性が得られない場合があった。
【0005】
本発明は、耐摩耗性の向上を図ることが出来る、摺動部材および摺動体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の摺動体は、2.4重量%以上15.6重量%以下のリン酸マグネシウムと、7.6重量%以上19.9重量%以下の硫酸バリウムと、0重量%以上10.0重量%以下の二硫化モリブデンと、8.3重量%以上15.7重量%以下の焼成クレーと、を含むポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる摺動部材である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐摩耗性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態の摺動体の一例を示す模式図である。
【
図3A】
図3Aは、摺動体の適用形態の一例を示す模式図である。
【
図3B】
図3Bは、摺動体の適用形態の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る摺動部材および摺動体の形態を詳細に説明する。
【0010】
本実施の形態の摺動部材は、2.4重量%以上15.6重量%以下のリン酸マグネシウムと、7.6重量%以上19.9重量%以下の硫酸バリウムと、0重量%以上10.0重量%以下の二硫化モリブデンと、8.3重量%以上15.7重量%以下の焼成クレーと、を含むポリテトラフルオロエチレン樹脂(以下、PTFEと称する)からなる。
【0011】
このため、本実施形態の摺動部材は、耐摩耗性の向上を図ることができる。
【0012】
上記効果が奏される理由は明らかとなっていないが、以下のように推測される。しかしながら下記推測によって本発明は限定されない。
【0013】
本実施形態の摺動部材は、摺動部材の主成分であるPTFE中に、上記含有量の焼成クレー、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、および二硫化モリブデンを含む。本実施形態の摺動部材では、PTFE中に分散された焼成クレーの含有量が8.3重量%以上15.7重量%以下であり、硬質物である焼成クレーの含有量が従来技術に比べて多い。硬質物は、摺動によって相手軸の表面を微小に研磨し滑らかにする作用が有ると考えられ、このため、相手軸の表面が粗い場合、摺動前よりも滑らかとなり、摺動部材自身の摩耗進行の抑制を図ることが出来ると考えられる。
【0014】
また、本実施形態の摺動部材は、上記含有量の焼成クレー、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、および二硫化モリブデンを含む。このため、摺動部材の低摩擦性、耐摩耗性、および耐焼付性のバランスが調整され、耐摩耗性の向上を効果的に図ることが出来ると考えられる。
【0015】
従って、本実施形態の摺動部材14は、耐摩耗性の向上を図ることが出来ると推測される。
【0016】
以下、本実施の形態の摺動部材および摺動体について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本実施の形態の摺動体10の一例を示す模式図である。
図1には、摺動体10の断面構造の一例を模式的に示す。
【0018】
摺動体10は、基材12と、摺動部材14と、を備える。摺動体10は、基材12と、基材12上に形成された摺動部材14と、の積層体である。
【0019】
基材12は、摺動体10に機械的強度を与えるための層である。基材12は、裏金、または、裏金層と称される場合がある。基材12は、例えば、Fe合金、Cu、Cu合金などの金属板を用いることができる。また、基材12として金網を用いてもよい。
【0020】
基材12における摺動部材14との接合面側の少なくとも一部の領域は、焼結層によって構成してもよい。焼結層は、金属粉の焼結体であり、複数の孔を有する多孔質層である。焼結層を構成する金属粉は、基材12と同じ金属であってもよいし、基材12とは異なる金属または材料であってもよい。金属粉には、例えば、銅錫、銅鉛錫、およびリン青銅などの銅合金、鉄、銅、並びに、錫、等の金属粉の混合粉末を用いればよい。焼結層を備えた構成とすることで、基材12と摺動部材14との密着性向上を図ることができる。
【0021】
また、基材12における摺動部材14との接触面側の少なくとも一部の領域は、粗面化処理された領域であってもよい。粗面化処理には、ショットブラスト等を用いればよい。
【0022】
摺動部材14は、基材12上に積層された樹脂層15である。
【0023】
摺動部材14は、PTFE16と、リン酸マグネシウム22と、硫酸バリウム24と、二硫化モリブデン26と、からなる。リン酸マグネシウム22、硫酸バリウム24、および二硫化モリブデン26は、固体潤滑剤20として機能し、PTFE16中に分散されてなる。
図1には、簡略図として、リン酸マグネシウム22、硫酸バリウム24、二硫化モリブデン26をまとめて固体潤滑剤20として図示する。しかし、実際には、リン酸マグネシウム22、硫酸バリウム24、および二硫化モリブデン26の各々が、PTFE16中に分散されてなる。
【0024】
摺動部材14の全量100重量%に対するリン酸マグネシウム22の含有量は、2.4重量%以上15.6重量%以下であり、6.9重量%以上12.0重量%以下が好ましく、6.9重量%以上7.9重量%以下が更に好ましい。
【0025】
摺動部材14が上記範囲の含有量のリン酸マグネシウム22を含有することで、PTFE16による摺動部材14の摺動面への潤滑被膜の造膜性を助長させ、耐摩耗性の向上を図ることができる。
【0026】
リン酸マグネシウム22の平均粒径は限定されない。例えば、リン酸マグネシウム22の平均粒径は、10μm以上50μm以下の範囲などである。
【0027】
リン酸マグネシウム22としては、例えば、ピロリン酸マグネシウム(Mg2P2O7)、メタリン酸マグネシウム[Mg(PO3)2]n等が例示される。中でも、メタリン酸マグネシウムがより好ましい。
【0028】
摺動部材14の全量100重量%に対する硫酸バリウム24の含有量は、7.6重量%以上19.9重量%以下であり、9.8重量%以上12.3重量%以下が好ましい。
【0029】
摺動部材14が上記範囲の含有量の硫酸バリウム24を含有することで、PTFE16の耐摩耗性および耐荷重性を更に向上させることができる。
【0030】
硫酸バリウム24の平均粒径は限定されない。例えば、硫酸バリウム24の平均粒径は、12μm以下、好ましくは1μm以上12μm以下、更に好ましくは8μm以上12μm以下である。
【0031】
硫酸バリウム24としては、沈降性硫酸バリウム、簸性硫酸バリウムの何れを用いてもよい。
【0032】
摺動部材14の全量100重量%に対する二硫化モリブデン26の含有量は、0重量%以上10.0重量%以下であり、4.7重量%以上7.9重量%以下が好ましい。
【0033】
摺動部材14が上記範囲の含有量の二硫化モリブデン26を含有することで、PTFE16の潤滑性の向上を図ることができ、摺動部材14の耐摩耗性を向上させることができる。
【0034】
二硫化モリブデン26の平均粒径は限定されない。例えば、二硫化モリブデン26の平均粒径は、0.5μm以上2.5μm以下、好ましくは0.5μm以上2.0μm以下、更に好ましくは1.0μm以上2.0μm以下である。
【0035】
摺動部材14の全量100重量%に対する焼成クレー18の含有量は、8.3重量%以上15.7重量%以下であり、8.7重量%以上11.0重量%以下が好ましい。
【0036】
摺動部材14が上記範囲の含有量の焼成クレー18を含有することで、軸部材などの相手材の表面が粗い場合であっても、摺動時に硬質物が相手軸の表面を微小に研磨し滑らかにすることで、摺動部材自身の摩耗進行の抑制を図ることが出来る。このため、摺動部材14の耐摩耗性の向上を図ることができる。
【0037】
また、焼成クレー18は、クレーを高熱処理することにより得られる。高熱処理により、焼成クレー18は、活性化・多孔質化して吸油性に優れた材料となる。このため、摺動部材14が焼成クレー18を含有することで、焼成クレー18による吸油効果により、摺動部材14の摺動面の油との濡れ性の向上を図ることができる。摺動部材14の摺動面の油との濡れ性が向上すると、グリス潤滑下および油中で摺動部材14の摺動面に潤滑油膜が発生し易くなり、摺動部材14の低摩擦性が向上し、耐摩耗性の向上を図ることができる。
【0038】
焼成クレー18の平均粒径は限定されない。例えば、焼成クレー18の平均粒径は、0.5μm以上10μm以下が好ましく、1.0μm以上8.0μm以下が更に好ましく、1.5μm以上6.0μm以下が特に好ましい。
【0039】
焼成クレー18および上記固体潤滑剤20の平均粒径は、以下の方法で測定すればよい。詳細には、例えば、摺動部材14の断面を、電子顕微鏡を用いて適切な倍率(例えば、1000倍)で撮影した電子像を得る。そして、得られた電子像に含まれる焼成クレー18または固体潤滑剤20の面積を一般的な画像解析手法により測定し、それを円と想定した場合の平均直径に換算する。これらの処理により、焼成クレー18および固体潤滑剤20の平均粒径を求めればよい。
【0040】
焼成クレー18としては、例えば、焼成カオリンが挙げられる。焼成カオリンは、天然粘土鉱物であるカオリンを高温処理したものである。
【0041】
樹脂層15の主成分をなすPTFE16としては、例えば、モールディングパウダーまたはファインパウダーとして主に成形用に使用されるPTFEを使用すればよい。
【0042】
モールディングパウダー用PTFEとしては、三井デュポンフロロケミカル社製の「テフロン(登録商標)7-J(商品名)」、「テフロン(登録商標)70-J(商品名)」、ダイキン工業社製の「ポリフロンM-12(商品名)」、旭硝子社製の「フルオンG163(商品名)」、「フルオンG190(商品名)」などが挙げられる。ファインパウダー用PTFEとしては、三井デュポンフロロケミカル社製の「テフロン(登録商標)6CJ(商品名)」、ダイキン工業社製の「ポリフロンF201(商品名)」、旭硝子社製の「フルオンCD076(商品名)」、「フルオンCD090(商品名)」などが挙げられる。
【0043】
摺動部材14中のPTFE16の含有量は、摺動部材14の全量から、リン酸マグネシウム22、硫酸バリウム24、および二硫化モリブデン26などの固体潤滑剤20および充填材などの追加成分の全量を差し引いた残りの残部量であればよい。
【0044】
例えば、摺動部材14中のPTFE16の含有量は、摺動部材14の全量100重量%に対して、40重量%以上95重量%以下、好ましくは45重量%以上80重量%以下、更に好ましくは50重量%以上65重量%以下である。
【0045】
なお、本実施形態の摺動部材14は、耐摩耗性の更なる向上の観点から、追加成分を更に含む構成であってもよい。但し、摺動部材14は、珪酸塩を含まないことが好ましい。珪酸塩は、軟らかいため、耐摩耗性を低下させる場合があるためである。
【0046】
追加成分としては、例えば、球状カーボン、ガラス球、カーボン繊維、グラファイト繊維、ガラス繊維、樹脂粉末、樹脂繊維、金属粉末、および金属繊維から選択される少なくとも1種の充填材が挙げられる。
【0047】
摺動部材14における充填材の含有量は、摺動部材14の全量100重量%に対して10重量%以下であることが好ましい。
【0048】
摺動部材14が上記充填材を含むことで、摺動部材14の強度および耐摩耗性の向上を図ることができる。
【0049】
(摺動体の作製方法)
本実施の形態の摺動体10は、例えば、下記工程によって作製される。
【0050】
基材12上に上記構成の摺動部材14の構成材料からなる原材料混合物を塗布することで、基材12上に樹脂材料層を形成する。塗布条件には、公知の条件を用いればよい。例えば、原材料混合物の塗布法としては、スプレー、タンブリング、ロール転写、印刷等を用いればよい。
【0051】
なお、粗面化された基材12または焼結層の形成された基材12を上記原材料混合物に含浸させることで、基材12上に樹脂材料層を形成してもよい。焼結層の厚みは、例えば、0.1mm以上0.3mm以下などである。
【0052】
そして、基材12上に塗布した樹脂材料層を焼成する。焼成条件には、公知の条件を用いればよい。例えば、樹脂材料層を350℃~450℃で保持することによって樹脂材料層を焼成する。この焼成処理によって、基材12上に摺動部材14が形成される。基材12上に形成された摺動部材14の厚みは限定されない。摺動部材14の厚みは、例えば、10μm以上60μm以下、好ましくは20μm以上40μm以下である。
【0053】
(摺動体の作用)
次に、本実施形態の摺動部材14の作用の一例を説明する。
【0054】
図2Aおよび
図2Bは、摺動部材14の作用の一例の説明図である。
【0055】
上記に説明したように、本実施形態の摺動部材14は、2.4重量%以上15.6重量%以下のリン酸マグネシウムと、7.6重量%以上19.9重量%以下の硫酸バリウムと、0重量%以上10.0重量%以下の二硫化モリブデンと、8.3重量%以上15.7重量%以下の焼成クレーと、を含むPTFE16からなる。
【0056】
本実施形態の摺動部材14では、PTFE16中に分散された焼成クレー18の含有量が8.3重量%以上15.7重量%以下であり、硬質物である焼成クレー18の含有量が従来技術に比べて多い。このため、軸部材30などの相手材の表面が粗い場合であっても、摺動時に硬質物が相手軸の表面を微小に研磨し滑らかにすることで、摺動部材14自身の摩耗進行の抑制を図ることが出来ると考えられる。
【0057】
詳細には、
図2Aに示すように、軸部材30における摺動部材14との摺動面C2の表面粗さが粗い状態であった場合を想定する。軸部材30における摺動面C2の表面粗さが粗いとは、軸部材30の摺動面C2が、焼成クレー18および固体潤滑剤20を含まないPTFE16からなる樹脂層の摺動面C1を摺動によって所定量以上の摩耗量摩耗させる粗さ以上の粗さであることを意味する。軸部材30の摺動面C2の表面粗さが粗いとは、具体的には、例えば、軸部材30の摺動面C2の表面粗さRaが0.3以上0.7以下の範囲を表す。
【0058】
ここで、摺動部材14のPTFE16中に分散された焼成クレー18の含有量が、本実施形態の焼成クレー18の上記含有量を満たさない比較摺動部材を想定する。この場合、比較摺動部材の軸部材30との摺動面の、軸部材30の粗い摺動面C2による摩耗量が大きく、耐摩耗性が得られない場合があった。
【0059】
一方、本実施形態の摺動部材14では、PTFE16中に分散された焼成クレー18の含有量が8.3重量%以上15.7重量%以下であり、硬質物である焼成クレー18の含有量が従来技術に比べて多い。このため、軸部材30などの相手材の表面が粗い場合であっても、摺動部材14の摺動時に焼成クレー18が相手材の粗い摺動面C2の表面を微小に研磨し軸部材30の摺動面C2を滑らかにすると考えられる(
図2B参照)。このため、本実施形態の摺動部材14では、摺動部材14自身の摩耗量の抑制を図ることが出来ると考えられる。
【0060】
また、本実施形態の摺動部材14は、上記含有量の焼成クレー18、リン酸マグネシウム22、硫酸バリウム24、および二硫化モリブデン26を含む。このため、摺動部材14の低摩擦性、耐摩耗性、および耐焼付性のバランスが調整され、耐摩耗性の向上を効果的に図ることが出来ると考えられる。
【0061】
従って、本実施形態の摺動部材14および摺動部材14を備えた摺動体10は、耐摩耗性の向上を図ることが出来ると推測される。
【0062】
(適用形態)
次に、摺動体10の適用形態の一例を説明する。
【0063】
図3Aおよび
図3Bは、摺動体10の適用形態の一例を示す模式図である。摺動体10は、例えば、
図3Aのように、マニュアルトランミッションのシフトフォーク用のブシュなどに適用される。
【0064】
摺動体10は、
図3Bのように、自動車等の車両においてステアリング機構の中で用いられ、すべり速度が低くグリス潤滑で使用される。例えば、ラック&ピニオン式パワーステアリングに取り付けられたサポートヨーク部分に使用される円弧状軸受に適用され、低摩擦性と耐摩耗性が重視される。このため、本実施形態の摺動体10を適用することで、すべり軸受けの耐摩耗性の向上を効果的に図ることができる。
【0065】
具体的には、例えば、摺動装置は、軸部材30および摺動体10を備える。軸部材30は、円柱状の部材であり、シャフトとして機能する。摺動体10は、例えば、摺動部材14を基材12の内周面側に配置した円環状又は円弧状とされ、内側に軸部材30が配置されてなる。すなわち、摺動体10は、例えば、ブシュ(
図3A)や円弧状軸受(
図3B)として機能する。
【0066】
なお、摺動装置は、
図3に示す形態に限定されない。例えば、軸部材30および摺動体10が平板状であってもよい。
【実施例0067】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0068】
以下の摺動体10および比較摺動体を作製し、耐摩耗性を評価した。
【0069】
(実施例1)
-基材12の調整-
厚さ1.5mmの裏金鋼板(SPCC(JIS))を用意した。そして、裏金鋼板の表面をサンディング処理した後、脱脂した裏金鋼板上へりん青銅粉末を散布した。そして、散布したりん青銅粉末を920℃~950℃で焼結し、裏金鋼板上に厚さ0.1mm~0.3mmの焼結層の形成された基材12を調整した。
【0070】
―摺動部材(樹脂層)の調整―
摺動部材14の構成材料からなる原材料混合物として、表1の実施例1に示す組成の原材料混合物を調整した。そして、調整した原材料混合物を基材12の焼結層上にロールで含浸被覆することで樹脂材料層を形成した。そして、樹脂材料層を350℃~420℃で焼成することで、基材12上に実施例1の摺動部材14を形成した。形成した摺動部材14の厚みは、0.01mm~0.06mmであった。これらの処理により、実施例1の摺動体10を作製した。
【0071】
(実施例2~実施例14、比較例1~比較例7)
摺動部材14の構成材料からなる原材料混合物として、表1の実施例2~実施例14、比較例1~比較例7の各々に示す組成の原材料混合物を調整した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~実施例14の摺動体10および比較例1~比較例7の比較摺動体を作製した。
【0072】
【0073】
―評価―
―耐摩耗性―
実施例1~実施例14の摺動体10および比較例1~比較例7の比較摺動体の各々について、摺動部材14および比較摺動部材の耐摩耗性を評価した。
【0074】
【0075】
耐摩耗試験では、台座DにサンプルSを取り付け、台座Dに荷重Iをかけた状態で軸JをサンプルSに対して往復動させることで摺動させる。
【0076】
軸Jは軸部材30の一例であり、摺動する相手材に相当する。サンプルSは、実施例1~実施例14の摺動体10および比較例1~比較例7の比較摺動体の各々に相当する。サンプルSには、摺動体10および比較摺動体の各々を円弧板形状に成形したものを用い、摺動部材14および比較摺動部材の摺動面C1が軸Jに対向するように台座に取り付ける。
【0077】
図4Aは、耐摩耗性の評価試験の様子を軸Jの延伸方向に沿った方向から視認した模式図である。
図4Bは、
図4AのA-A断面図である。
図4Cは、サンプルSの形状を示す模式図である。
図4Cに示すように、サンプルSは、半径:R13mm、高さ:9.5mm、円弧方向の長さ:30mm、軸方向の長さ:32mmの円弧板形状とした。
図4Dは、
図4CのB-B断面図である。
【0078】
図4A~
図4Dに示すように、台座DにサンプルSを取り付け、台座Dに荷重を与えることでサンプルSを軸径Φ26mmの軸Jの周縁部に押し当てる。そして、軸Jを軸Jの延伸方向(
図4中における左右方向)軸方向に往復動を行って摺動させることで、耐摩耗試験を行った。耐摩耗試験の試験条件は、以下の条件とした。
【0079】
耐摩耗試験の試験条件
・軸Jの往復動のストローク:20mm
・すべり速度:55mm/s
・評価時間:3時間
・荷重:3500N
・荷重形態:静荷重
・油温:常温
・給油方法:グリス塗布
・油種:共同油脂製モリホワイトLSG
・軸Jの材質:S45C
・軸Jの硬さ:HRC24~30
・軸Jの表面粗さRa:0.3~0.7
【0080】
そして、実施例1~実施例14の摺動体10および比較例1~比較例7の比較摺動体の各々のサンプルSについて、上記試験条件により耐摩耗試験を行い、サンプルSの摩耗量を評価した。評価結果を表1に示す。
【0081】
表1に示すように、実施例1~実施例14の摺動体10は、比較例1~比較例7の比較摺動体に比べて、摩耗量の低減が図れた。このため、実施例1~実施例14の摺動体10は、比較例1~比較例7の比較摺動体に比べて、耐摩耗性が向上するという評価結果が得られた。
【0082】
なお、上述の実施例において使用した各種の材料およびその組成はあくまで例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。本発明に係る摺動部材14は、不可避不純物などを更に含んでもよい。また、摺動部材14および摺動体10の具体的構造は、
図1~
図3などに例示したものに限定されない。