IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三重県の特許一覧

特開2024-49229分娩兆候検知装置、分娩兆候検知システム、および分娩兆候検知方法
<>
  • 特開-分娩兆候検知装置、分娩兆候検知システム、および分娩兆候検知方法 図1
  • 特開-分娩兆候検知装置、分娩兆候検知システム、および分娩兆候検知方法 図2
  • 特開-分娩兆候検知装置、分娩兆候検知システム、および分娩兆候検知方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049229
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】分娩兆候検知装置、分娩兆候検知システム、および分娩兆候検知方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 29/00 20060101AFI20240402BHJP
【FI】
A01K29/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155571
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】594156880
【氏名又は名称】三重県
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100224661
【弁理士】
【氏名又は名称】牧内 直征
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】前澤 卓
(72)【発明者】
【氏名】永墓 訓明
(72)【発明者】
【氏名】乾 清人
(72)【発明者】
【氏名】平岡 啓司
(57)【要約】
【課題】検知ミスが起こりにくい分娩兆候検知装置、分娩兆候検知システム、および、この分娩兆候検知システムを用いた分娩兆候検知方法を提供する。
【解決手段】分娩兆候検知装置2は、家畜の膣内に留置可能なセンサモジュール21を有し、センサモジュール21は、加速度センサ21aと、加速度センサ21aにより取得される信号を送信する無線送信機21bとを有し、家畜の背部から臀部にわたる領域における箇所に紐状部材22を介して接続され、分娩兆候検知装置2は、家畜の腰角へ固定された固定部を有し、該固定部とセンサモジュール21は、紐状部材22により接続され、分娩兆候検知装置2の全体の長さは、家畜の体高よりも小さい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
家畜の膣内に留置可能なセンサモジュールを有する分娩兆候検知装置であって、
前記センサモジュールは、加速度センサと、該加速度センサにより取得される信号を送信する無線送信機とを有し、前記家畜の背部から臀部にわたる領域における箇所に紐状部材を介して接続されることを特徴とする分娩兆候検知装置。
【請求項2】
前記分娩兆候検知装置は、前記家畜の腰角へ固定された固定部を有し、
該固定部と前記センサモジュールは、前記紐状部材により接続され、
前記分娩兆候検知装置の全体の長さは、前記家畜の体高よりも小さいことを特徴とする請求項1記載の分娩兆候検知装置。
【請求項3】
前記紐状部材は、電気伝導体であり、
前記分娩兆候検知装置は、前記固定部へ装着される電源部を有し、
該電源部と前記センサモジュールは、前記電気伝導体により電気的に接続され、前記電源部から前記センサモジュールへ電源供給されることを特徴とする請求項2記載の分娩兆候検知装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2記載の分娩兆候検知装置と、該分娩兆候検知装置から取得した信号を解析する解析装置とを備えた分娩兆候検知システムであって、
前記加速度センサは、鉛直方向加速度を検出可能に設けられており、
前記解析装置は、前記無線送信機から送信される鉛直方向加速度の信号を前記家畜の体外で受信する無線受信機が接続され、前記無線受信機が受信した鉛直方向加速度の値が0.8G~1.0Gの場合に、前記センサモジュールが膣外へ排出されたと判定する装置であることを特徴とする分娩兆候検知システム。
【請求項5】
前記分娩兆候検知システムは、前記解析装置とネットワークを介して接続される電子情報端末を備え、
前記解析装置は、前記センサモジュールが膣外へ排出されたと判定すると、分娩兆候情報を前記電子情報端末へと送信する機能を有することを特徴とする請求項4記載の分娩兆候検知システム。
【請求項6】
請求項1または請求項2記載の分娩兆候検知装置と、該分娩兆候検知装置から得られた信号を解析する解析装置とを備えた分娩兆候検知システムを用いた分娩兆候検知方法であって、
前記加速度センサは、鉛直方向加速度を検出可能に設けられており、
前記無線送信機が、加速度センサにより測定された鉛直方向加速度の信号を、前記家畜の体外に設置され前記解析装置に接続された無線受信機に送信するステップと、
前記無線受信機が、前記無線送信機から送信された信号を受信するステップと、
前記解析装置が、前記無線受信機が受信した鉛直方向加速度の値が0.8G~1.0Gの場合に、前記センサモジュールが膣外へ排出されたと判定するステップと、
を有することを特徴とする分娩兆候検知方法。
【請求項7】
前記分娩兆候検知システムは、前記解析装置とネットワークを介して接続される電子情報端末を備え、
前記解析装置が、前記センサモジュールが膣外へ排出されたと判定すると、分娩兆候情報を前記電子情報端末へと送信するステップを有することを特徴とする請求項6記載の分娩兆候検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜の破水を分娩兆候として検知するのに用いる分娩兆候検知装置、分娩兆候検知システム、および分娩兆候検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多頭化が進む畜産農家では、繁殖管理の効率化が求められている。例えば、牛の分娩には、出産時の介助や、新生子牛への初乳の給与などの措置が必要なため、分娩予定日が近づいた牛には、見回りなどの監視を行う必要がある。
【0003】
しかし、分娩日時の正確な予測は容易でなく、分娩を見逃した場合、出生時の介助の遅れが原因で、分娩事故を引き起こす場合がある。また、牛は夜間の分娩も多く、分娩管理に拘束されるため、農家の肉体的・精神的な負担は極めて大きい。このような問題の改善のために、分娩兆候を検知するための種々の方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、動物の体内に挿入した送信機の挿入状態および体外排出状態で2種類の電波の変調を行い、警報音や警報ランプを用いて分娩兆候を知らせる装置が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、母牛の膣内温度のモニタリングから分娩兆候を知らせる測温/送信モジュールが記載されている。
【0006】
特許文献3には、動物の動態もしくは姿勢変化を加速度センサで捉え、その時間変動から分娩兆候を知らせるシステムが記載されている。本技術は、加速度センサを備えたモジュールが膣内にあるときには姿勢の変化や動きが絶えず発生しているのに対して、地面に落下後は静止するために姿勢の変化や動きがなくなることに着目して分娩兆候の有無を判断するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-310647号公報
【特許文献2】特開2007-296312号公報
【特許文献3】特開2009-213515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、特許文献1の装置の場合、分娩が始まり送信機が体外に放出された時に、送信機の状態変化によって警報信号を発し、飼育者に分娩兆候を知らせる。放出された送信機は、地面への落下や動物に踏まれて破損した場合、送信機が変調電波を送信できず、飼育者が分娩兆候を把握できないおそれがある。また、送信機が動物に誤食されたり、紛失したりするおそれもある。
【0009】
特許文献2の場合、牛の膣内温度の変化に基づいて分娩兆候を検知(予測)するが、季節によって牛の膣内温度の変動幅が変わるため、予測精度が季節の影響を受けやすい。
【0010】
特許文献3の場合も、特許文献1の場合と同様に地面への落下に伴う破損などのおそれがあり、モジュールの繰り返し利用の観点からも改善の余地があった。また、特許文献3では、x、y、zの3軸加速度センサのそれぞれの軸の出力値に基づいて分娩兆候を検知するが、サンプリング間隔を短く設定して測定回数が多い場合には、測定や信号の送信に要する電力量が大きくなおそれがある。その場合、分娩兆候を検知する前に電池切れになり、分娩兆候を把握できない(検知ミスが起こる)ことも考えられる。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、検知ミスが起こりにくい分娩兆候検知装置、分娩兆候検知システム、および分娩兆候検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の分娩兆候検知装置は、家畜の膣内に留置可能なセンサモジュールを有し、上記センサモジュールは、加速度センサと、該加速度センサにより取得される信号を送信する無線送信機とを有し、上記家畜の背部から臀部にわたる領域における箇所に紐状部材を介して接続されることを特徴とする。
【0013】
上記分娩兆候検知装置は、上記家畜の腰角へ固定された固定部を有し、該固定部と上記センサモジュールは、上記紐状部材により接続され、上記分娩兆候検知装置の全体の長さは、上記家畜の体高よりも小さいことを特徴とする。
【0014】
上記紐状部材は、電気伝導体であり、上記分娩兆候検知装置は、上記固定部へ装着される電源部を有し、該電源部と上記センサモジュールは、上記電気伝導体により電気的に接続され、上記電源部から上記センサモジュールへ電源供給されることを特徴とする。
【0015】
本発明の分娩兆候検知システムは、上述の分娩兆候検知装置と、該分娩兆候検知装置から取得した信号を解析する解析装置とを備え、上記加速度センサは、鉛直方向加速度を検出可能に設けられており、上記解析装置は、上記無線送信機から送信される鉛直方向加速度の信号を上記家畜の体外で受信する無線受信機が接続され、上記無線受信機が受信した鉛直方向加速度の値が0.8G~1.0Gの場合に、上記センサモジュールが膣外へ排出されたと判定する装置であることを特徴とする。ここで、「G」は、加速度の単位である。
【0016】
上記分娩兆候検知システムは、上記解析装置とネットワークを介して接続される電子情報端末を備え、上記解析装置は、上記センサモジュールが膣外へ排出されたと判定すると、分娩兆候情報を上記電子情報端末へと送信する機能を有することを特徴とする。
【0017】
本発明の分娩兆候検知方法は、上述の分娩兆候検知装置と、該分娩兆候検知装置から得られた信号を解析する解析装置とを備えた分娩兆候検知システムを用いた検知方法であって、上記加速度センサは、鉛直方向加速度を検出可能に設けられており、上記無線送信機が、上記加速度センサにより測定された鉛直方向加速度の信号を、上記家畜の体外に設置され上記解析装置に接続された無線受信機に送信するステップと、上記無線受信機が、上記無線送信機から送信された信号を受信するステップと、上記解析装置が、上記無線受信機が受信した鉛直方向加速度の値が0.8G~1.0Gの場合に、上記センサモジュールが膣外へ排出されたと判定するステップと、を有することを特徴とする。
【0018】
上記分娩兆候検知システムは、上記解析装置とネットワークを介して接続される電子情報端末を備え、上記解析装置が、上記センサモジュールが膣外へ排出されたと判定すると、分娩兆候情報を上記電子情報端末へと送信するステップを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の分娩兆候検知装置は、センサモジュールが、加速度センサと、該加速度センサにより取得される信号を送信する無線送信機とを有し、家畜の背部から臀部にわたる領域における箇所に紐状部材を介して接続されるので、センサモジュールが膣外へ排出された際にセンサモジュールが紐状部材によりぶら下がった状態となりやすく、地面への落下が起こりにくい。そのため、落下や家畜が踏むことによる破損、家畜による誤食、紛失などが起こりにくく、検知ミスが起こりにくい。
【0020】
分娩兆候検知装置は、家畜の腰角へ固定された固定部を有し、該固定部とセンサモジュールは、紐状部材により接続され、分娩兆候検知装置の全体の長さは、家畜の体高よりも小さいので、センサモジュールが膣外へ排出された際にセンサモジュールが紐状部材によりぶら下がった状態によりなりやすく、地面への落下がより起こりにくい。また、センサモジュールが家畜の膣内に留置されている際に、紐状部材が尻尾から離れた位置になりやすいので、尻尾の揺れの影響を受けにくい。これにより、センサモジュールの膣内からの抜けが起こりにくくなり、留置の安定化に寄与する。
【0021】
紐状部材は、電気伝導体であり、分娩兆候検知装置は、固定部へ装着される電源部を有し、該電源部とセンサモジュールは、電気伝導体により電気的に接続され、電源部からセンサモジュールへ電源供給されるので、センサモジュール内部に設ける装置を最小限にでき、センサモジュールを小型化できる。これにより、センサモジュールの留置安定化にさらに寄与する。
【0022】
本発明の分娩兆候検知システムは、上述の分娩兆候検知装置と、該分娩兆候検知装置から取得した信号を解析する解析装置とを備え、加速度センサは、鉛直方向加速度を検出可能に設けられており、解析装置は、無線送信機から送信される鉛直方向加速度の信号を家畜の体外で受信する無線受信機が接続され、無線受信機が受信した鉛直方向加速度の値が0.8G~1.0Gの場合に、センサモジュールが膣外へ排出されたと判定する装置であるので、センサモジュールが膣外へ排出された際にセンサモジュールが紐状部材によりぶら下がった状態となりやすく、長軸方向が鉛直方向を向きやすい。そのため、落下や家畜が踏むことによる破損、家畜による誤食、紛失などが起こりにくいとともに、センサモジュールの状態変化を鉛直方向加速度に基づいて簡易に測定でき、検知ミスが起こりにくい。さらに、センサモジュールから送信される信号が鉛直方向加速度であることから、3軸加速度の信号を送信する場合に比べて電力消費量が少なく、比較的長期間の測定が可能である。
【0023】
分娩兆候検知システムは、解析装置とネットワークを介して接続される電子情報端末を備え、解析装置は、センサモジュールが膣外へ排出されたと判定すると、分娩兆候情報を電子情報端末へと送信する機能を有するので、分娩兆候が起きた際に飼育員が迅速に対応でき、分娩をより安全に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の分娩兆候検知システムの一例の概略図である。
図2】本発明の分娩兆候検知装置の一例の平面図である。
図3】本発明の分娩兆候検知方法の一例のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の分娩兆候検知システムについて図1に基づいて説明する。図1は、本発明の分娩兆候検知システムの一例の概略図である。図1に示すように、本発明の分娩兆候検知システム1は、家畜の膣内に留置可能なセンサモジュール21を備えた分娩兆候検知装置2と、分娩兆候検知装置2から取得した信号を解析する解析装置3とを備える。センサモジュール21は、加速度センサ21aと、加速度センサ21aにより取得される信号を送信する無線送信機21bとを有する。また、センサモジュール21は、家畜の背部から臀部にわたる領域における箇所に紐状部材22を介して接続される。なお、分娩兆候検知装置2は、加速度センサ21aと、無線送信機21bとをセンサモジュール21ではなく、紐状部材22において有することもできる。
【0026】
センサモジュール21は、例えば、種付けから285日後にあたる分娩予定日の4~5日前に家畜の膣内に挿入される。分娩の際には、通常、家畜の産道が徐々に開き、破水、娩出の順に進行する。センサモジュール21は、例えば、破水の際に家畜の膣内から排出される。センサモジュール21は、加速度センサ21aにより取得される信号を、家畜の体外に設置される解析装置3に送信する(S1)。センサモジュール21から送信される信号を受信した解析装置3は、センサモジュール21が排出されたと判定すると、飼育員などが有する電子情報端末4へ分娩兆候の情報を送信する(S2)。そして、分娩兆候が起こっていることを把握した飼育員などは、家畜のもとへ向かい、分娩を見守ったり、必要に応じて助産したりすることができる(S3)。分娩兆候検知装置2は、後述する電源部の電池交換や充電を行うことで繰り返し使用できる。
【0027】
分娩兆候検知システムに用いられる本発明の分娩兆候検知装置について、図2を用いて説明する。図2は、本発明の分娩兆候検知装置の一例の平面図である。図2(a)はセンサモジュールを膣内に挿入する前の状態であり、図2(b)はセンサモジュールを膣内に挿入する際の状態である。図2(a)に示すように、本発明の分娩兆候検知装置2は、センサモジュール21と、センサモジュール21へ電源供給するための電源部23と、該電源部を収容するとともに、家畜の背部から臀部にわたる領域における箇所に固定される固定部24と、センサモジュール21と電源部23とを接続する紐状部材22とを有している。
【0028】
図2(a)において、センサモジュール21は、略棒状の本体21cと、本体21cの端部から本体21cの長軸方向に沿って延出する略棒状の持ち手21dと、持ち手21dにおける本体21cの側の端部から本体21cの長軸方向に直交して反対方向へ羽根のように延出する2つの脱落防止部21e、21eとを有している。
【0029】
分娩兆候検知装置2の全体の長さ(一方向へ伸ばした場合の一端から他端までの長さ)Ltは、例えば、130cm~180cmである。2つの脱落防止部21e、21eの自由状態(センサモジュールを膣内に挿入する前の状態)での長さL1は、例えば、120mm~230mmである。本体21cおよび持ち手21dの長軸方向の長さL2は、例えば、80mm~190mmである。本体21cの短軸方向の長さL3は、例えば、10mm~35mmである。脱落防止部21eの厚みT1は、例えば、5mm~25mmである。脱落防止および家畜への負担軽減の観点から、脱落防止部21eの厚みT1は、10mm~20mmであることが好ましく、12mm~18mmであることがより好ましい。本体21cの短軸方向の長さL3は、15mm~30mmであることが好ましく、20mm~25mmであることがより好ましい。また、L1/L2は、1.0~2.0が好ましく、1.1~1.5がより好ましい。
【0030】
本体21cの外装である筐体21fと、持ち手21dと、脱落防止部21eとは、樹脂成形体である。これらは、例えば、ポリ乳酸や、アクリロニトリル-ブタジエンースチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリプロピレン、ポリウレタンなどから成形でき、例えば、3次元積層造形法、射出成形法などの方法により製造できる。なお、脱落防止部21eは、筐体21fと異なる材料の成形体であってもよい。例えば、挿入しやすさおよび家畜への負担軽減の観点から、脱落防止部21eは、筐体21fよりも低弾性な材料の成形体であることが好ましい。
【0031】
2つの脱落防止部21e、21eは、持ち手21dとの連結部分の本体21cの側に凹部が形成されており、膣内へ挿入する際に本体21cの方向(前方の挿入方向)へ折れ曲がりやすくなっている。センサモジュール21を膣内へ挿入する際には、両側に広がる脱落防止部21e、21eを折り畳んで一直線にして、全体を略I字状の形にして膣に挿入する(図2(b))。センサモジュール21の挿入後には、2つの脱落防止部21e、21eが弾性力によって形状を復元しようとすることで膣の内壁を押し、センサモジュール21には膣の内部方向へ反力が作用する。これにより、センサモジュール21が膣から脱落しにくくなる。なお、脱落防止部21eは、2つに限らず、3つ以上であってもよい。
【0032】
本体21cの形状は、例えば、略角柱状、略円柱状、略球状、略楕円球状などであってもよい。本体21cの形状は、脱落防止の観点から、角柱状または円柱状であることが好ましい。持ち手21dの形状は、挿入しやすさおよび脱落しにくさの観点から、略角柱状または略円柱状であることが好ましい。なお、本体21cの筐体21fは、持ち手21dと一体的に成形されていてもよい。
【0033】
脱落防止部21eは、筐体21fまたは持ち手21dから、センサモジュールの挿入方向(例えば、本体21cの長軸方向)と異なる方向へ突出した凸部であればよく、例えば、リング状の部材や羽根状の部材とすることができる。脱落防止部21eは、脱落防止の観点から、自由状態においてセンサモジュールの挿入方向と直交する方向に延出した羽根状の部材であることが好ましい。
【0034】
本体21cは、筐体21fと、加速度センサ21aと、該加速度センサにより取得される信号を家畜の体外へ送信する無線送信機21bとを有している。加速度センサ21aおよび無線送信機21bは、筐体21fの内部に密封されており、家畜の膣内に挿入した状態で羊水が筐体内部へ侵入することを防止(防水)されている。加速度センサ21aとしては、1軸~3軸の加速度センサを自由に選択して用いることができる。加速度センサとしては、製造プロセス簡易化、低コスト化の観点から、無線送信機と一体化された加速度センサを用いることが好ましく、例えば、モノワイヤレス株式会社製のTWELITE 2525Aなどを用いることができる。
【0035】
加速度センサ21aは、加速度検知方向が、分娩兆候検知装置を一方向に延びるように配置した状態において、紐状部材22の長さ方向と一致するようにセンサモジュール21へ設けられていることが好ましい。例えば、図2に示すように、センサモジュール21の本体の形状が略棒状である場合、紐状部材22の端部がセンサモジュール21の一端に接続され、加速度センサ21aは加速度検知方向がセンサモジュール21の長軸方向と一致するように設けられることが好ましい。これにより、センサモジュール21が家畜の膣内から排出された場合に、加速度センサの加速度検知方向が鉛直方向と略同方向になりやすい。
【0036】
図2において、固定部24は、平面視角丸四角形の板部24aと、電源部23を収容する収容部24bとを有している。板部24aは、柔軟性を有し、家畜の皮膚表面の凹凸に追従可能な材料(例えば、樹脂材料)の成形体であることが好ましい。板部24aを平面視した形状としては、家畜が動いた際に刺激を与えにくいよう、円形、楕円形、ひょうたん形、角の丸い多角形などの角のない形状が好ましい。
【0037】
固定部24は、家畜の背部から臀部にわたる領域における箇所として、固定部を固定しやすく、家畜の動きの影響を受けにくく外れにくい箇所に固定されることが好ましい。固定部24は、例えば、家畜の背部、腰部、臀部のいずれかに固定されることが好ましく、特に、家畜の動きの影響を受けにくい腰角へ固定されることが好ましい。固定部24の家畜への固定には、例えば、締結バンドや、接着剤を用いることができる。接着剤としては、クロロプレン系接着剤であるボンドG17(コニシ株式会社製)などを用いることが好ましい。
【0038】
電源部23は、上述のように、センサモジュール21と紐状部材22により接続されており、固定部24が電源部23を収容して装着することにより、固定部24とセンサモジュール21は接続される。これにより、センサモジュール21が家畜の膣内から排出された場合に、固定部24からぶら下がった状態となりやすく、地面への落下が起こりにくい。なお、電源部23の固定部24への着脱は、締結ベルト、面ファスナー、粘着テープなどを用いて自在に行うことができる。電源部23の内部には、リチウムイオン電池などを設けることができる。電源部23がセンサモジュール21の外部に設けられることでセンサモジュール21を小型化しやすく、センサモジュール21挿入時の家畜への負担を軽減できる。また、電源部23の電池交換や充電も容易に行うことができ、本装置の繰り返し使用を行いやすい。なお、電源部23は、固定部24に収容されていなくてもよい。また、電源部23は固定部24と一体化された部材であってもよい。
【0039】
紐状部材22は、電気伝導体であることが好ましい。紐状部材22としては、例えば、電気コードなどを用いることができる。電源部23とセンサモジュール21は、電気伝導体により電気的に接続され、電源部23からセンサモジュール21へ電源供給される。これにより、電源部23をセンサモジュール21の外部に設けることができる。
【0040】
分娩兆候検知装置2の全体の長さLtは、センサモジュール21の地面への落下防止の観点から、家畜の体高(地面から立った状態の家畜の肩までの高さ)よりも小さいことが好ましく、体高の80%よりも小さいことがより好ましく、60%よりも小さいことがさらに好ましい。また、Ltは、家畜の腰角の高さ(地面から立った状態の家畜の腰角までの高さ)よりも小さいことが好ましく、腰角の高さの60%よりも小さいことがより好ましい。
【0041】
本発明の分娩兆候検知システムについて、再度図1に基づいて説明する。本発明の分娩兆候検知システム1が用いるセンサモジュール21の加速度センサ21aは、鉛直方向加速度を検出可能に設けられている。加速度センサ21aが検知した情報を取得した無線送信機21bは、鉛直方向加速度の信号を家畜の体外へ送信する。解析装置3は、無線送信機21bから送信される鉛直方向加速度の信号を家畜の体外で受信する無線受信機31が接続される。無線送信機21bから無線受信機31への信号の送信は、Bluetooth(登録商標)などの無線PAN(パーソナル・エリア・ネットワーク)により行うことができる。
【0042】
加速度センサ21aによる加速度の測定と、無線送信機21bによる信号の送信は、例えば、1~30分間隔で行われる。検知精度向上と消費電力低減の観点からは、加速度の測定と信号の送信は、5分間隔で行われることが好ましい。分娩兆候検知装置2は、分娩予定日の前後5日間(合計10日間)程度の間、連続して測定できることが望ましい。加速度の測定と信号の送信が5分間隔で行われる場合、電源部の電池交換や充電なしに2週間程度の間連続して測定を行うことができる。
【0043】
解析装置3は、無線受信機31が無線送信機21bから所定の時間間隔で取得する信号について取得のたびに解析し、センサモジュール21が膣外へ排出されたか否かの判定を繰り返す。解析装置3は、取得した鉛直方向加速度の情報をデータ保存部へ保存し、経時での家畜の変化について解析することもできる。解析装置3は、取得した鉛直方向加速度の値が0.8G~1.0Gの場合に、センサモジュール21が膣外へ排出されたと判定する。鉛直方向加速度の値が0.8G~1.0Gの場合、センサモジュール21は、地面に対して50°よりも大きい角度の状態となっている。なお、センサモジュール21の排出を判定するための基準とする鉛直方向加速度の値は、検知精度向上の観点から、0.9G~1.0Gであることがより好ましい。
【0044】
加速度センサ21aは、センサモジュール21が膣内にある場合と膣外にある場合とで変わる方向を、鉛直方向加速度として検知できるように設けられる。特に、加速度センサ21aは、センサモジュール21の膣から排出されてぶら下がった状態となった場合に、加速度検知方向Daが重力方向Dgと一致するように設けられていることが好ましい。
【0045】
分娩兆候検知システム1は、解析装置3とネットワークを介して接続される電子情報端末4を備えている。電子情報端末4としては、例えば、スマートフォン、タブレット端末、パーソナルコンピュータなどを用いることができ、無線通信機能を有していることが好ましい。解析装置3は、センサモジュール21が膣外へ排出されたと判定すると、分娩兆候情報を電子情報端末4へと送信し、飼育員へ通知する。家畜の分娩兆候を知った飼育員は家畜のもとへ向かい、分娩を見守ったり、必要に応じて助産したりすることができる。なお、解析装置3から電子情報端末4への分娩兆候情報の送信は、例えば、インターネット回線を通じた電子メール送信や、電話発信によって行うことができる。飼育員への電子メール送信を数分間隔(例えば、5分間隔)で繰り返し行う場合、飼育員が通知に気付きやすいため好ましい。これにより、分娩兆候を常時監視する必要がなく、作業者の肉体的・精神的な負担を低減できる。
【0046】
本発明の分娩兆候検知方法について図3を用いて説明する。図3は、本発明の分娩兆候検知方法の一例のフロー図である。本発明の分娩兆候検知方法は、上述の分娩兆候検知システムを用いた検知方法である。図3に示すように、本発明の分娩兆候検知方法の一例は、鉛直方向加速度の測定および信号の送信を行うステップS10と、鉛直方向加速度の信号を受信するステップS11と、膣外への排出を判定するステップS12と、分娩兆候情報を送信するステップS13とを有している。
【0047】
ステップS10において、センサモジュール内の無線送信機は、加速度センサにより測定された鉛直方向加速度の信号を、家畜の体外に設置され解析装置に接続された無線受信機に送信する。ステップS11において、無線受信機は、無線送信機から送信された信号を受信する。ステップS12において、解析装置は、無線受信機が受信した鉛直方向加速度の値が0.8G~1.0Gの場合、センサモジュールが膣外へ排出されたと判定し(Yes)、ステップS13へ移行する。一方、解析装置は、鉛直方向加速度の値が0.8G未満の場合、センサモジュールが膣外へ排出されていないと判定し(No)、ステップS10へと戻る。ステップS13において、解析装置は、分娩兆候情報を電子情報端末へと送信する。なお、本発明の分娩兆候検知方法は、ステップS13を有しなくてもよい。
【実施例0048】
本発明の分娩兆候検知システムを用いて牛の分娩兆候を検知する試験を行った。
【0049】
実施例1~12
図2に示した分娩兆候検知装置を分娩予定日の2日以上前に牛の膣内に挿入し、分娩兆候の検知および飼育員への通知が行われるか否かについて試験した。試験には、産次数(今回の分娩回数が何回目か)が1~5の親牛(乳牛および和牛)を用いた。なお、試験は、2021年7月から2022年5月の間で合計12回行った。実施例1~6は2021年に試験され、実施例7~12は2022年に試験された。試験結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示すように、実施例1~12の全てにおいて、一次破水前から分娩前の間のいずれかのタイミングでセンサモジュールが排出されたこと(分娩兆候)が検知された。また、検知した分娩兆候が飼育員へ通知されることも確認した。本結果から、本発明のシステムは、母牛の産次数などの影響を受けることなく、初産牛や繁殖和牛においても分娩兆候を検知できることがわかった。
【0052】
以上、各図などに基づき本発明の分娩兆候検知装置、分娩兆候検知システム、および分娩兆候検知方法について説明したが、本発明の構成はこれに限定されるものではない。本発明の分娩兆候検知システムは、検知精度のさらなる向上の観点から、例えば、カメラによる画像撮影と人工知能による画像認識を組み合わせてもよい。具体的には、上述の分娩兆候検知装置と、家畜を監視するカメラと、分娩兆候検知装置から得られる信号およびカメラの撮影画像を解析する解析装置とを備えた分娩兆候検知システムとしてもよい。なお、この場合、コストが高くなりやすいため、小規模畜産農家などへの導入の観点からは、画像による検知は併用せず加速度センサのみを利用した検知システムとして導入することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の分娩兆候検知装置は、検知ミスが起こりにくいので、畜産農家の現場で広く活用されることが期待できる。
【符号の説明】
【0054】
1 分娩兆候検知システム
2 分娩兆候検知装置
21 センサモジュール
21a 加速度センサ
21b 無線送信機
21c 本体
21d 持ち手
21e 脱落防止部
21f 筐体
22 紐状部材
23 電源部
24 固定部
24a 板部
24b 収容部
3 解析装置
31 無線受信機
4 電子情報端末
図1
図2
図3