(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004923
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】繊維強化複合材用繊維構造体
(51)【国際特許分類】
D03D 1/00 20060101AFI20240110BHJP
D03D 11/00 20060101ALI20240110BHJP
D03D 5/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
D03D1/00 A
D03D11/00 Z
D03D5/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104829
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉川 元基
【テーマコード(参考)】
4L048
【Fターム(参考)】
4L048AA05
4L048AA24
4L048AB01
4L048AB06
4L048BA09
4L048BD00
4L048DA41
4L048EB00
(57)【要約】
【課題】耳糸のずれを抑制できる繊維強化複合材用繊維構造体を提供する。
【解決手段】積層体20は、第1方向Xに延びる経糸23が第2方向Yに複数配列された経糸層21と、第2方向Yに延びる強化繊維糸である緯糸24が第1方向Xに複数配列された少なくとも2層の緯糸層22とが積層方向Zにおいて積層されることによって形成されている。積層体20は、第2方向Yの両端に位置し、かつ積層方向Zに配置された複数の緯糸層22により構成される端部20aと、第2方向Yにおいて端部20aの間に位置する一般部20bとを有している。耳糸40は、端部20aにおいて、積層方向Zの両端に位置する緯糸層22の緯糸24に係合されている。一部の経糸23は、緯糸24に係合されることによって、経糸層21と緯糸層22とを結合する結合糸である。耳糸40は連続糸である。端部20aにおいて積層方向Zの両端に位置する緯糸層22の緯糸24は紡績糸である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に延びる経糸が前記第1方向に対して直交する方向である第2方向に複数配列された経糸層と、前記第2方向に延びる強化繊維糸である緯糸が前記第1方向に複数配列された少なくとも2層の緯糸層とが前記第1方向及び前記第2方向の両方に対して直交する方向である積層方向において積層されるとともに、
前記第2方向の両端に位置し、かつ前記積層方向に配置された複数の前記緯糸層により構成される端部と、前記第2方向において前記端部の間に位置する一般部とを有する積層体と、
前記端部において、前記積層方向の少なくとも一端に位置する前記緯糸層の前記緯糸に係合される耳糸と、
を備え、
少なくとも一部の前記経糸は、前記一般部において前記緯糸に係合されることによって前記経糸層と前記緯糸層とを結合する結合糸である繊維強化複合材用繊維構造体であって、
前記耳糸は連続糸であり、
前記端部において前記積層方向の両端に位置する前記緯糸層の前記緯糸は紡績糸であることを特徴とする繊維強化複合材用繊維構造体。
【請求項2】
前記紡績糸である前記緯糸に係合する前記結合糸は連続糸である請求項1に記載の繊維強化複合材用繊維構造体。
【請求項3】
前記端部において、前記積層方向の両端に位置する前記緯糸層以外の前記緯糸層の前記緯糸は、連続糸である請求項1又は請求項2に記載の繊維強化複合材用繊維構造体。
【請求項4】
前記耳糸は、前記積層方向の一端に位置する前記緯糸層の前記緯糸と、前記積層方向の他端に位置する前記緯糸層の前記緯糸とに対して、1本ずつ交互に係合されている請求項3に記載の繊維強化複合材用繊維構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材用繊維構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、繊維強化複合材に用いられる繊維構造体が開示されている。繊維構造体は、経糸層と緯糸層とを有している。経糸層は、第1方向に延びる経糸が第1方向に対して直交する方向である第2方向に複数配列されることによって形成されている。緯糸層は、第2方向に延びる強化繊維糸である緯糸が第1方向に複数配列されることによって形成されている。
【0003】
特許文献1の繊維構造体は、経糸層と緯糸層とが第1方向及び第2方向の両方に対して直交する方向である積層方向において積層された積層体を有している。積層体は、端部と一般部とを有している。端部は、積層体の第2方向の両端に位置している。端部は、積層方向に配置された複数の緯糸層により構成されている。一般部は、第2方向において端部の間に位置している。一般部には、緯糸に係合されることによって経糸層と緯糸層とを結合する結合糸が設けられている。
【0004】
特許文献1に開示されるような繊維構造体において、第2方向の端部での緯糸のほつれを防止するため、第2方向の端部において緯糸に係合される耳糸を設けることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
緯糸が連続糸である場合、緯糸の表面は平滑である。このため、耳糸は、緯糸に対して滑りやすい。耳糸が第2方向の両外側に広がるようにずれると、第2方向における繊維構造体の両端部にはほつれが生じる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するための繊維強化複合材用繊維構造体は、第1方向に延びる経糸が前記第1方向に対して直交する方向である第2方向に複数配列された経糸層と、前記第2方向に延びる強化繊維糸である緯糸が前記第1方向に複数配列された少なくとも2層の緯糸層とが前記第1方向及び前記第2方向の両方に対して直交する方向である積層方向において積層されるとともに、前記第2方向の両端に位置し、かつ前記積層方向に配置された複数の前記緯糸層により構成される端部と、前記第2方向において前記端部の間に位置する一般部とを有する積層体と、前記端部において、前記積層方向の少なくとも一端に位置する前記緯糸層の前記緯糸に係合される耳糸と、を備え、少なくとも一部の前記経糸は、前記一般部において前記緯糸に係合されることによって前記経糸層と前記緯糸層とを結合する結合糸である繊維強化複合材用繊維構造体であって、前記耳糸は連続糸であり、前記端部において前記積層方向の両端に位置する前記緯糸層の前記緯糸は紡績糸であることを要旨とする。
【0008】
耳糸は、積層体の端部において、積層方向の少なくとも一端に位置する緯糸層の緯糸に係合される。耳糸は、連続糸である。端部において積層方向の両端に位置する緯糸層の緯糸は、紡績糸である。紡績糸の表面の摩擦係数は、連続糸の表面の摩擦係数よりも大きい。このため、耳糸は、端部において積層方向の少なくとも一端に位置する緯糸層の緯糸に対して滑りにくくなる。よって、第2方向における耳糸のずれを抑制できる。その結果、第2方向における繊維構造体の両端部にほつれが生じにくくなる。
【0009】
上記繊維強化複合材用繊維構造体において、前記紡績糸である前記緯糸に係合する前記結合糸は連続糸であってもよい。
上記構成では、紡績糸である緯糸に係合する結合糸が紡績糸である場合と比較して、繊維強化複合材の強度が向上する。
【0010】
なお、例えば、耳糸を紡績糸とし、かつ端部において積層方向の両端に位置する緯糸層の緯糸を連続糸とする場合、耳糸は緯糸に対して滑りにくくなるものの、結合糸は緯糸に対して滑りやすい。これに対し、本態様では、耳糸は連続糸であり、かつ端部において積層方向の両端に位置する緯糸層の緯糸は紡績糸である。このため、耳糸だけでなく、結合糸も緯糸に対して滑りにくくなる。したがって、第2方向における結合糸のずれも抑制できる。
【0011】
上記繊維強化複合材用繊維構造体において、前記端部において、前記積層方向の両端に位置する前記緯糸層以外の前記緯糸層の前記緯糸は、連続糸であってもよい。
上記構成では、積層体の端部において積層方向の両端に位置する緯糸層以外の緯糸層の緯糸も紡績糸である場合と比較して、繊維強化複合材の強度が向上する。
【0012】
上記繊維強化複合材用繊維構造体において、前記耳糸は、前記積層方向の一端に位置する前記緯糸層の前記緯糸と、前記積層方向の他端に位置する前記緯糸層の前記緯糸とに対して、1本ずつ交互に係合されていてもよい。
【0013】
上記構成では、耳糸は、積層方向の一端に位置する緯糸層の緯糸と、積層方向の他端に位置する緯糸層の緯糸とに対して、複数本ずつ交互に係合されている場合と比較して、よりずれにくくなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耳糸のずれを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態における繊維構造体を模式的に示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態における繊維構造体を模式的に示す平面図である。
【
図3】第2実施形態における繊維構造体を模式的に示す斜視図である。
【
図4】第2実施形態における繊維構造体を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1実施形態]
以下、繊維強化複合材用繊維構造体を具体化した第1実施形態を
図1及び
図2にしたがって説明する。繊維強化複合材用繊維構造体とは、繊維強化複合材に用いられる繊維構造体である。繊維強化複合材は、繊維構造体が図示しないマトリックス中に複合化されることによって形成される。繊維構造体は、繊維強化複合材の強化基材である。マトリックスは、例えば、熱硬化性樹脂のエポキシ樹脂である。以下では、「繊維強化複合材用繊維構造体」を単に「繊維構造体」という。
【0017】
図1に示すように、繊維構造体10は、積層体20と、耳糸40とを備えている。
<積層体>
積層体20は、経糸層21と、緯糸層22とを有している。本実施形態の繊維構造体10は、3層の経糸層21と3層の緯糸層22とを有している。積層体20は、経糸層21と緯糸層22とが積層されることによって形成されている。経糸層21及び緯糸層22が積層される方向を積層方向Zとする。積層方向Zは、後述する第1方向X及び第2方向Yの両方に対して直交する方向である。
【0018】
経糸層21は、複数の経糸23を有している。経糸23は、第1方向Xに延びている。複数の経糸23は、第1方向Xに対して直交する方向である第2方向Yに配列されている。つまり、経糸層21は、第1方向Xに延びる経糸23が第2方向Yに複数配列されることによって形成されている。
【0019】
本実施形態では、3層の経糸層21のうち、2層の経糸層21は第1経糸層21aであり、1層の経糸層21は第2経糸層21bである。第1経糸層21aは、第1方向Xに延びる経糸23としての第1経糸23aが第2方向Yに複数配列されることによって形成されている。第2経糸層21bは、第1方向Xに延びる経糸23としての第2経糸23bが第2方向Yに複数配列されることによって形成されている。第1経糸23aと第2経糸23bとは、第2方向Yにおいて交互に配置されている。第2方向Yの両端に位置する経糸23は、第1経糸23aである。
【0020】
第1経糸23aは、強化繊維糸である。本実施形態の強化繊維は、炭素繊維である。第2経糸23bは、フェノキシ樹脂製の糸である。第1経糸23a及び第2経糸23bはそれぞれ、連続繊維を束ねて形成された連続糸である。第2経糸23bは、第1経糸23aよりも細糸である。第1経糸23aは、第1方向Xに沿って直線状に延びている。第2経糸23bは、積層方向Zに蛇行しながら第1方向Xに延びている。第2経糸23bの詳細な構成については後述する。
【0021】
緯糸層22は、複数の緯糸24を有している。緯糸24は、第2方向Yに沿って直線状に延びている。複数の緯糸24は、第1方向Xに配列されている。つまり、緯糸層22は、第2方向Yに延びる緯糸24が第1方向Xに複数配列されることによって形成されている。緯糸層22の第2方向Yにおける両端部は、第2方向Yの両端に位置する経糸23よりも外側にはみ出している。緯糸24は、強化繊維糸である。本実施形態の強化繊維は炭素繊維である。
【0022】
積層体20は、一対の端部20aと、一般部20bとを有している。
端部20aは、積層体20の第2方向Yの両端に位置している。詳しくは、一対の端部20aは、第2方向Yの両端に位置する経糸23よりも外側に位置している。端部20aは、積層方向Zに配置された複数の緯糸層22によって構成されている。詳しくは、一対の端部20aは、緯糸層22の第2方向Yにおける両端部が積層方向Zに積層されることによって構成されている。
【0023】
端部20aにおいて、積層方向Zの両端に位置する緯糸層22の緯糸24は、非連続繊維を束ねて形成された紡績糸である。一方、端部20aにおいて、積層方向Zの両端に位置する緯糸層22以外の緯糸層22の緯糸24は、連続糸である。なお、本実施形態において、積層方向Zの両端に位置する緯糸層22以外の緯糸層22とは、積層方向Zにおいて両端に位置する緯糸層22の間に位置する1層の緯糸層22のことである。
【0024】
一般部20bは、第2方向Yにおいて一対の端部20aの間に位置している。一般部20bは、積層方向Zに配置された複数の経糸層21及び複数の緯糸層22によって構成されている。一般部20bにおいて、第1経糸層21aと緯糸層22とは、積層方向Zにおいて交互に積層されている。第1経糸層21aは、積層方向Zにおいて緯糸層22の間に位置している。一般部20bにおいて、第2経糸層21bは、積層方向Zの両端において緯糸層22と積層されている。
【0025】
図2に示すように、第2経糸23bは、複数の第1経糸係合部31と、複数の第2経糸係合部32と、複数の経糸接続部33とを有している。
第1経糸係合部31は、積層方向Zの第1端に位置する緯糸層22の緯糸24に係合された部分である。第1経糸係合部31は、積層方向Zの第1端に位置する緯糸層22の緯糸24の外側を通るように第2経糸23bが折り返されることによって形成されている。第1経糸係合部31は、積層方向Zの第1端に位置する緯糸層22の緯糸24に対して積層されている。本実施形態では、第1経糸係合部31は、積層方向Zの第1端に位置する緯糸層22の2本の緯糸24に係合されている。
【0026】
第2経糸係合部32は、積層方向Zの第1端とは反対の端である第2端に位置する緯糸層22の緯糸24であって、第1経糸係合部31が係合された緯糸24に対して第1方向Xに隣り合う緯糸24に係合された部分である。第2経糸係合部32は、積層方向Zの第2端に位置する緯糸層22の緯糸24の外側を通るように第2経糸23bが折り返されることによって形成されている。第2経糸係合部32は、積層方向Zの第2端に位置する緯糸層22の緯糸24に対して積層されている。本実施形態では、第2経糸係合部32は、積層方向Zの第2端に位置する緯糸層22の2本の緯糸24に係合されている。
【0027】
経糸接続部33は、第1経糸係合部31と第2経糸係合部32とを接続する部分である。経糸接続部33は、第1方向Xにおいて第1経糸係合部31が係合された緯糸24と第2経糸係合部32が係合された緯糸24との間で、積層方向Zに沿って延びている。
【0028】
第2経糸23bにおいて、第1経糸係合部31と第2経糸係合部32とは、経糸接続部33を介して交互に繰り返し設けられている。第2経糸23bは、積層方向Zの第1端に位置する緯糸層22の緯糸24と、積層方向Zの第2端に位置する緯糸層22の緯糸24に対して、交互に係合されている。本実施形態では、第2経糸23bは、積層方向Zの第1端に位置する緯糸層22の緯糸24と、積層方向Zの第2端に位置する緯糸層22の緯糸24に対して、2本ずつ交互に係合されている。
【0029】
第2方向Yにおいて第1経糸23aを介して隣り合う2本の第2経糸23bは、異なるルートを通って積層方向Zの両端に位置する緯糸層22の緯糸24に係合されている。詳しくは、一方の第2経糸23bの第1経糸係合部31と他方の第2経糸23bの第2経糸係合部32は、第2方向Yにおいて並んでいる。また、一方の第2経糸23bの第2経糸係合部32と他方の第2経糸23bの第1経糸係合部31は、第2方向Yにおいて並んでいる。
【0030】
第2経糸23bは、積層方向Zの両端に位置する緯糸層22の緯糸24に係合されることによって、経糸層21と緯糸層22とを結合する結合糸である。したがって、本実施形態において、経糸23の一部は、一般部20bにおいて緯糸24に係合されることによって、経糸層21と緯糸層22とを結合する結合糸である。なお、一般部20bにおいて第2経糸23bが係合する緯糸24は、端部20aにおいて積層方向Zの両端に位置する緯糸層22の緯糸24である。このため、第2経糸23bが係合する緯糸24は紡績糸である。また、上述したように第2経糸23bは連続糸である。したがって、紡績糸である緯糸24に係合する結合糸は連続糸である。
【0031】
<耳糸>
耳糸40は、積層体20の各端部20aに対し、2本ずつ設けられている。耳糸40は、第2方向Yにおいて一般部20bよりも外側に位置している。耳糸40は、積層方向Zに蛇行しながら第1方向Xに延びている。耳糸40は、フェノキシ樹脂製の糸である。耳糸40は、連続糸である。耳糸40は、第1経糸23aよりも細糸である。
【0032】
耳糸40は、複数の第1耳糸係合部41と、複数の第2耳糸係合部42と、複数の耳糸接続部43とを有している。
第1耳糸係合部41は、積層方向Zの第1端に位置する緯糸層22の緯糸24に係合された部分である。第1耳糸係合部41は、積層方向Zの第1端に位置する緯糸層22の緯糸24の外側を通るように耳糸40が折り返されることによって形成されている。本実施形態では、第1耳糸係合部41は、積層方向Zの第1端に位置する緯糸層22の1本の緯糸24に係合されている。
【0033】
第2耳糸係合部42は、積層方向Zの第2端に位置する緯糸層22の緯糸24であって、第1耳糸係合部41が係合された緯糸24に対して第1方向Xに隣り合う緯糸24に係合された部分である。第2耳糸係合部42は、積層方向Zの第2端に位置する緯糸層22の緯糸24の外側を通るように耳糸40が折り返されることによって形成されている。本実施形態では、第2耳糸係合部42は、積層方向Zの第2端に位置する緯糸層22の1本の緯糸24に係合されている。
【0034】
耳糸接続部43は、第1耳糸係合部41と第2耳糸係合部42とを接続する部分である。耳糸接続部43は、第1方向Xにおいて第1耳糸係合部41が係合された緯糸24と第2耳糸係合部42が係合された緯糸24との間で、積層方向Zに沿って延びている。
【0035】
耳糸40において、第1耳糸係合部41と第2耳糸係合部42とは、耳糸接続部43を介して交互に繰り返し設けられている。耳糸40は、積層方向Zの第1端に位置する緯糸層22の緯糸24と、積層方向Zの第2端に位置する緯糸層22の緯糸24に対して、交互に係合されている。本実施形態では、耳糸40は、積層方向Zの第1端に位置する緯糸層22の緯糸24と、積層方向Zの第2端に位置する緯糸層22の緯糸24に対して、1本ずつ交互に係合されている。
【0036】
各端部20aに位置する2本の耳糸40は、異なるルートを通って積層方向Zの両端に位置する緯糸層22の緯糸24に係合されている。詳しくは、一方の耳糸40の第1耳糸係合部41と他方の耳糸40の第2耳糸係合部42は、第2方向Yにおいて並んでいる。また、一方の耳糸40の第2耳糸係合部42と他方の耳糸40の第1耳糸係合部41は、第2方向Yにおいて並んでいる。
【0037】
[本実施形態の作用及び効果]
本実施形態の作用及び効果を説明する。
(1)耳糸40は、積層体20の端部20aにおいて、積層方向Zの両端に位置する緯糸層22の緯糸24に係合されている。耳糸40は、連続糸である。端部20aにおいて積層方向Zの両端に位置する緯糸層22の緯糸24は、紡績糸である。紡績糸の表面の摩擦係数は、連続糸の表面の摩擦係数よりも大きい。このため、耳糸40は、端部20aにおいて積層方向Zの両端に位置する緯糸層22の緯糸24に対して滑りにくくなる。よって、第2方向Yにおける耳糸40のずれを抑制できる。その結果、第2方向Yにおける繊維構造体10の両端部にほつれが生じにくくなる。
【0038】
(2)紡績糸である緯糸24に係合する結合糸としての経糸23は連続糸である。したがって、紡績糸である緯糸24に係合する結合糸としての経糸23が紡績糸である場合と比較して、強化繊維複合材の強度が向上する。
【0039】
なお、例えば、耳糸40を紡績糸とし、かつ端部20aにおいて積層方向Zの両端に位置する緯糸層22の緯糸24を連続糸とする場合、耳糸40は緯糸24に対して滑りにくくなるものの、結合糸としての経糸23は緯糸24に対して滑りやすい。これに対し、本実施形態では、耳糸40は連続糸であり、かつ端部20aにおいて積層方向Zの両端に位置する緯糸層22の緯糸24は紡績糸である。このため、耳糸40だけでなく、結合糸としての経糸23も緯糸24に対して滑りにくくなる。よって、第2方向Yにおける耳糸40のずれだけでなく、第2方向Yにおける結合糸としての経糸23のずれも抑制できる。
【0040】
(3)複数の緯糸層22のうち、端部20aにおいて積層方向Zの両端に位置する緯糸層22の緯糸24は紡績糸であるとともに、他の緯糸層22の緯糸24は連続糸である。すなわち、複数の緯糸層22のうち、端部20aにおいて積層方向Zの両端に位置する緯糸層22以外の緯糸層22の緯糸24は連続糸である。したがって、端部20aにおいて積層方向Zの両端に位置する緯糸層22以外の緯糸層22の緯糸24も紡績糸である場合と比較して、繊維強化複合材の強度が向上する。
【0041】
(4)耳糸40は、積層方向Zの一端としての第1端に位置する緯糸層22の緯糸24と、積層方向Zの他端としての第2端に位置する緯糸層22の緯糸24に対して、1本ずつ交互に係合されている。これにより、耳糸40は、積層方向Zの第1端に位置する緯糸層22の緯糸24と、積層方向Zの第2端に位置する緯糸層22の緯糸24に対して、複数本ずつ交互に係合されている場合と比較して、よりずれにくくなる。
【0042】
[第2実施形態]
以下、繊維強化複合材用繊維構造体を具体化した第2実施形態を
図3及び
図4にしたがって説明する。なお、第2実施形態では、主に経糸層21の構成が第1実施形態と異なっている。第1実施形態と同じ構成については、説明を省略する。
【0043】
図3及び
図4に示すように、本実施形態の積層体20は、4層の経糸層21と6層の緯糸層22とが積層方向Zに積層されることによって形成されている。
本実施形態の経糸層21は、経糸23としての第1結合経糸23cと、経糸23としての第2結合経糸23dとを有している。第1結合経糸23c及び第2結合経糸23dはそれぞれ、第1方向Xに延びている。第1結合経糸23cと第2結合経糸23dは、第2方向Yにおいて交互に並んでいる。つまり、経糸層21は、第1方向Xに延びる第1結合経糸23cと第2結合経糸23dとが第2方向Yにおいて交互に配列されることによって形成されている。本実施形態では、第2方向Yの両端に位置する経糸23は、第1結合経糸23cである。
【0044】
第1結合経糸23c及び第2結合経糸23dはそれぞれ、繊維強化糸である。本実施形態の強化繊維は、炭素繊維である。また、第1結合経糸23c及び第2結合経糸23dはそれぞれ、連続糸である。
【0045】
第1結合経糸23cは、1層の緯糸層22の緯糸24に係合されている。詳しくは、第1結合経糸23cは、1層の緯糸層22として第1方向Xに配列された緯糸24に対して、緯糸24よりも積層方向Zの一方側と他方側とを交互に通ることによって、緯糸24に係合されている。第1結合経糸23cは、一般部20bにおいて緯糸24に係合されることによって、経糸層21と緯糸層22とを結合する結合糸である。
【0046】
第2結合経糸23dは、第1結合経糸23cが係合された緯糸層22の積層方向Zの両側に位置する緯糸層22の緯糸24に係合されている。詳しくは、第2結合経糸23dは、第1結合経糸23cが係合された緯糸層22よりも積層方向Zの一方側に位置する緯糸層22の緯糸24の外側と、第1結合経糸23cが係合された緯糸層22よりも積層方向Zの他方側に位置する緯糸層22の緯糸24の外側とを交互に通ることによって、緯糸24に係合されている。第2結合経糸23dは、一般部20bにおいて緯糸24に係合されることによって、経糸層21と緯糸層22とを結合する結合糸である。したがって、本実施形態では、全ての経糸23が経糸層21と緯糸層22とを結合する結合糸である。
【0047】
なお、一般部20bにおいて経糸23が係合する緯糸24の一部は、端部20aにおいて積層方向Zの両端に位置する緯糸層22の緯糸24である。このため、経糸23が係合する緯糸24の一部は紡績糸である。また、上述したように経糸23は連続糸である。したがって、紡績糸である緯糸24に係合する結合糸は連続糸である。
【0048】
第1実施形態において説明したように、緯糸層22は、第2方向Yに延びる緯糸24が第1方向Xにおいて複数配列されることによって形成されている。本実施形態では、積層方向Zの両端に位置する緯糸層22の緯糸24の本数は、積層方向Zの両端に位置する緯糸層22の間に位置する4層の緯糸層22の緯糸24の本数よりも少ない。積層方向Zの両端に位置する緯糸層22の緯糸24は、積層方向Zの両端に位置する緯糸層22の間に位置する緯糸層22の緯糸24に対して、第1方向Xにおいて1本置きに積層方向Zに重なるように配置されている。
【0049】
第2実施形態では、第1実施形態の(1)~(4)と同様の効果を得ることができる。
[変更例]
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施できる。上記各実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
【0050】
○ 強化繊維は炭素繊維に限定されない。強化繊維は、ガラス繊維、炭化ケイ素系セラミック繊維、アラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等であってもよい。
○ 第1実施形態において、緯糸層22の数は、3層に限定されない。緯糸層22の数は、緯糸層22が2層以上であれば適宜変更されてもよい。また、第1経糸層21aの数は、2層に限定されない。第1経糸層21aの数は、適宜変更されてもよい。ただし、第1経糸層21aは、積層方向Zにおいて緯糸層22の間に位置しているものとする。なお、積層方向Zに隣り合う緯糸層22の間には、2層以上の第1経糸層21aが配置されていてもよい。
【0051】
○ 第1実施形態において、第1経糸23aは強化繊維糸でなくてもよい。第1経糸23aは、例えば、フェノキシ樹脂製の糸やナイロン製の糸であってもよい。また、第2経糸23bはフェノキシ製の糸でなくてもよい。第2経糸23bは、例えば、ナイロン製の糸や強化繊維糸であってもよい。第1経糸23a及び第2経糸23bの両方が強化繊維糸でない場合、繊維構造体10は、強化繊維である緯糸24によって第2方向Yにのみ強化された一方向繊維強化複合材用繊維構造体である。
【0052】
○ 第1実施形態において、第1経糸23aは紡績糸であってもよい。
○ 第1実施形態において、第2経糸23bは紡績糸であってもよい。
○ 第1実施形態において、第2経糸23bは、積層方向Zの第1端に位置する緯糸層22の緯糸24と、積層方向Zの第2端に位置する緯糸層22の緯糸24に対して、1本ずつ交互に係合されていてもよい。第2経糸23bは、積層方向Zの第1端に位置する緯糸層22の緯糸24と、積層方向Zの第2端に位置する緯糸層22の緯糸24に対して、3本以上ずつ交互に係合されていてもよい。
【0053】
○ 第1実施形態において、第2方向Yに隣り合う経糸23の間には、異なるルートを通って緯糸24と係合される2本の第2経糸23bが配置されていてもよい。
○ 第2実施形態において、緯糸層22の数は、6層に限定されない。緯糸層22の数は、緯糸層22が2層以上であれば適宜変更されてもよい。また、経糸層21の数は、4層に限定されない。経糸層21の数は、経糸23によって経糸層21と緯糸層22とを結合可能な範囲で適宜変更されてもよい。
【0054】
○ 第2実施形態において、経糸23は強化繊維糸でなくてもよい。経糸23は、例えば、フェノキシ樹脂製の糸やナイロン製の糸であってもよい。この場合、繊維構造体10は、強化繊維糸である緯糸24によって第2方向Yにのみ強化された一方向繊維強化複合材用繊維構造体である。
【0055】
○ 第2実施形態において、経糸23は紡績糸であってもよい。
○ 第2実施形態において、第2方向Yの両端に位置する経糸23は、第2結合経糸23dであってもよい。また、第2方向Yの一端に位置する経糸23は第1結合経糸23cであり、第2方向Yの他端に位置する経糸23は第2結合経糸23dであってもよい。
【0056】
○ 各実施形態において、端部20aにおいて積層方向Zの両端に位置する緯糸層22以外の緯糸層22の緯糸24も紡績糸であってもよい。
○ 各実施形態において、耳糸40は、フェノキシ製の糸でなくてもよい。耳糸40は、例えば、ナイロン製の糸や強化繊維糸であってもよい。
【0057】
○ 各実施形態において、耳糸40は、積層方向Zの第1端に位置する緯糸層22の緯糸24のみに係合されていてもよい。この場合、耳糸40は、積層方向Zの途中で折り返されることによって積層方向Zの第2端に位置する緯糸層22の緯糸24には係合されていない。他の例として、耳糸40は、積層方向Zの第2端に位置する緯糸層22の緯糸24のみに係合されていてもよい。この場合、耳糸40は、積層方向Zの途中で折り返されることによって積層方向Zの第1端に位置する緯糸層22の緯糸24には係合されていない。つまり、耳糸40は、積層方向Zの少なくとも一端に位置する緯糸層22の緯糸24に係合されていればよい。なお、「積層方向の少なくとも一端」は、積層方向の一端のみ、積層方向の他端のみ、又は積層方向の両端を意味する。
【0058】
○ 各実施形態において、耳糸40は、積層方向Zの第1端に位置する緯糸層22の緯糸24と、積層方向Zの第2端に位置する緯糸層22の緯糸24に対して、1本ずつ交互に係合されていなくてもよい。耳糸40は、積層方向Zの第1端に位置する緯糸層22の緯糸24と、積層方向Zの第2端に位置する緯糸層22の緯糸24に対して、複数本ずつ交互に係合されていてもよい。
【0059】
○ マトリックスは、エポキシ樹脂に限定されない。マトリックスは、例えば、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂などの他の熱硬化性樹脂であってもよい。また、マトリックスは、例えば、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド樹脂、ABS樹脂等といった熱可塑性樹脂であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
10…繊維強化複合材用繊維構造体、20…積層体、20a…端部、20b…一般部、21…経糸層、22…緯糸層、23…経糸、23b…結合糸としての第2経糸、23c…結合糸としての第1結合経糸、23d…結合糸としての第2結合経糸、24…緯糸、40…耳糸、X…第1方向、Y…第2方向、Z…積層方向。