(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049244
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】人工構造物の表面部を剥離させる剥離装置、及び剥離方法
(51)【国際特許分類】
E01C 23/08 20060101AFI20240402BHJP
B08B 3/02 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
E01C23/08
B08B3/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155601
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】511071278
【氏名又は名称】テック鬼城株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 實
【テーマコード(参考)】
2D053
3B201
【Fターム(参考)】
2D053AA22
2D053AA30
2D053AB09
2D053DA11
2D053DA15
3B201AA31
3B201AA36
3B201AB56
3B201BB22
3B201BB92
3B201BC01
(57)【要約】
【課題】
アスファルト、コンクリート、又はモルタル等からなる硬質な人工構造物に対してプラズマアークを作用させることにより、人工構造物の表面部を剥離させる装置と方法とを提供する。
【解決手段】
アスファルト、コンクリート、又はモルタル等からなる硬質な人工構造物の表面部を剥離させる装置であり、当該装置は、プラズマ発生部と、人工構造物の表面部に電解液を供給する給液部と、導電材料で構成され、上記電解液に接するように配される電極部とを有しており、人工構造物の表面部に適用された電解液とプラズマ発生部との間で放電を生じさせて、人工構造物の表面部を剥離させる剥離装置、及び剥離方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスファルト、コンクリート、又はモルタル等からなる硬質な人工構造物の表面部を剥離させる装置であり、
当該装置は、プラズマ発生部と、
人工構造物の表面部に電解液を供給する給液部と、
導電材料で構成され、上記電解液に接するように配される電極部とを有しており、
人工構造物の表面部に適用された電解液とプラズマ発生部との間で放電を生じさせて、人工構造物の表面部を剥離させる剥離装置。
【請求項2】
剥離装置は、走行手段を備えており、
走行しながら、人工構造物の表面部に適用された電解液とプラズマ発生部との間で放電を生じさせて、人工構造物の表面部を剥離させる請求項1に記載の剥離装置。
【請求項3】
剥離装置は、走行方向に対して交差する方向に、プラズマ発生部を往復動させるスライド機構を備える請求項2に記載の剥離装置。
【請求項4】
プラズマ発生部が往復動するときの移動速度を変更可能に構成した請求項3に記載の剥離装置。
【請求項5】
給液部は、タンクに貯留された電解液を供給するパイプ状の部材である請求項1に記載の剥離装置。
【請求項6】
電極部は、人工構造物の表面部に向けて延びる形状である請求項1又は2に記載の剥離装置。
【請求項7】
アスファルト、コンクリート、又はモルタル等からなる硬質な人工構造物の表面部を剥離させる方法であり、
当該方法は、人工構造物の表面部に対して、導電材料で構成される電極部に接するように、電解液を供給する工程と、
人工構造物の表面部に適用された電解液とプラズマ発生部との間で放電を生じさせる工程とを有する人工構造物の表面部の剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工構造物の表面部を剥離させる剥離装置と剥離方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
道路の路面、トンネルの壁面などの人工構造物の表面に対して、任意の色彩の顔料と、ロジンエステルなどの合成樹脂、任意の充填材等を含有する熱可塑性の塗料を塗布して、交通表示を行う。道路の付け替えや、駐車場の駐車区画の変更など、既存の構造物の構造変更などの事情により、既存の交通表示を剥がして、新たに交通表示を行うことがある。また、塗料を塗布する前に施工する部分の表面を荒らして、塗料の食い付きをよくする目的で、人工構造物の表面を剥離させることがある。
【0003】
特許文献1には、既存の道路標示を剥離させる装置が開示されている。この装置では、既存の道路標示に対して、高圧で水を噴射して、既存の道路標示を剥離させる。剥離させた道路標示の残渣は、負圧で吸引するとされている。
【0004】
特許文献2にも、既存の道路標示を剥離させる装置が開示されている。この装置では、既存の道路標示に対して、レーザーを照射して、道路標示を除去するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3201879号公報
【特許文献2】WO2015/119587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように、高圧で水を吹き付けることにより、路面標示を除去する方法では、装置本体の他に、装置本体を施工現場まで運ぶための車両と、多量の水を貯留するタンクと当該タンクを荷台に載せた車両と、吸引した残渣を含む水を貯留しておくタンクと当該タンクを荷台載せた車両とが必要である。装置本体に随伴させる車両を含めると、システム全体が大掛かりであり、操業に際して、多くの人員を必要とする。
【0007】
特許文献2のように、レーザーで路面標示を除去する方法では、路面標示を除去するのに時間がかかる。レーザーは、集光レンズにより小さい面積に光を集めて、照射する。路面標示のような広い面積を処理するには、レーザーでは時間がかかりすぎる。
【0008】
一方、プラズマを利用する場合は、レーザーとは特性が異なるため、短い時間でより多くの面積を処理することができる可能性がある。しかしながら、プラズマをアスファルト、コンクリート、又はモルタルなどの絶縁体に対して作用させる場合、絶縁体に電流を直接に流すことは困難であるため、プラズマジェットを対象物に対して吹き付ける方法をとらざるを得ない。この方法では、
図8に示したように、放電がプラズマ発生部1bの内部で完結し、熱ガスであるプラズマジェット21bのみが対象物に吹き付けられ、プラズマアーク22bは対象物に作用しない。一方、コンクリートなどの絶縁体からなる人工構造物8に対して、プラズマアークを作用させることができれば、剥離の効率を上昇させることができる。
【0009】
本発明は、アスファルト、コンクリート、又はモルタル等からなる硬質な人工構造物に対してプラズマアークを作用させることにより、人工構造物の表面部を剥離させる装置と方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
アスファルト、コンクリート、又はモルタル等からなる硬質な人工構造物の表面部を剥離させる装置であり、当該装置は、プラズマ発生部と、人工構造物の表面部に電解液を供給する給液部と、導電材料で構成され、上記電解液に接するように配される電極部とを有しており、人工構造物の表面部に適用された電解液とプラズマ発生部との間で放電を生じさせて、人工構造物の表面部を剥離させる剥離装置により、上記の課題を解決する。
【0011】
アスファルト、コンクリート、又はモルタル等からなる硬質な人工構造物の表面部を剥離させる方法であり、当該方法は、人工構造物の表面部に対して、導電材料で構成される電極部に接するように、電解液を供給する工程と、人工構造物の表面部に適用された電解液とプラズマ発生部との間で放電を生じさせる工程とを有する人工構造物の表面部の剥離方法により、上記の課題を解決する。
【0012】
前記剥離装置及び前記剥離方法においては、人工構造物の表面部に適用された電解液により、人工構造物に対して、プラズマアークを作用させることができる。これにより、人工構造物の表面部を効率的に剥離させることができる。
【0013】
前記剥離装置は、走行手段を備えており、走行しながら、人工構造物の表面部に適用された電解液とプラズマ発生部との間で放電を生じさせて、人工構造物の表面部を剥離させるものとすることができる。
【0014】
前記剥離装置は、走行方向に対して交差する方向に、プラズマ発生部を往復動させるスライド機構を備えるものとすることができる。スライド機構により、プラズマ発生部を、走行方向に対して交差する方向に、往復動させることにより、走行方向に対して交差する方向に幅のある領域において、人工構造物の表面部を剥離させることができる。
【0015】
前記剥離装置において、プラズマ発生部が往復動するときの移動速度を変更可能に構成することができる。例えば、プラズマ発生部の移動速度を遅くすれば、任意の個所においてプラズマアークが作用する時間が長くなり、任意の個所におけるエネルギー負荷を大きくし、表面部をより剥離させやすくなる。また、例えば、プラズマ発生部の移動速度を速くすれば、エネルギー負荷を小さくして、人工構造物の表面部の損傷を減らすことができる。
【0016】
前記剥離装置において、給液部は、タンクに貯留された電解液を供給するパイプ状の部材とすることができる。
【0017】
前記剥離装置において、電極部は、人工構造物の表面部に向けて延びる形状にすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、アスファルト、コンクリート、又はモルタル等からなる硬質な人工構造物に対してプラズマアークを作用させることにより、人工構造物の表面部を剥離させる装置と方法とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】
図1の剥離装置の手前のフレーム部の一部を切断した状態を示す側面図である。
【
図4】
図1の剥離装置の一部を斜め上方から見た状態を示す斜視図である。
【
図6】移動方向を切り替える機構の一例を示す平面図である。
【
図7】
図1の剥離装置において、プラズマを利用した剥離処理を人工構造物に対して実施する様子を示す説明図である。
【
図8】プラズマジェットによるプラズマ処理を実施する様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の人工構造物の表面部を剥離させる剥離装置(以下、単に剥離装置又は装置と称することがある。)と剥離方法の一実施形態について説明する。以下に示す各実施形態と使用例は、本発明の限られた例に過ぎず、本発明の技術的範囲は例示した実施形態に限定されるものではない。
【0021】
図1ないし
図6に、剥離装置1の一実施例を示す。この剥離装置1は、アスファルト、コンクリート、又はモルタル等からなる硬質な人工構造物8の表面部を剥離させる。当該剥離装置1は、プラズマ発生部2と、人工構造物8の表面部に電解液31を供給する給液部3と、導電材料で構成され、前記電解液31に接するように配される電極部4とを有する。後述するように、人工構造物8の表面部に適用された電解液31とプラズマ発生部2との間で放電を生じさせて、人工構造物8の表面部を剥離させる。
【0022】
剥離装置1は、走行手段として複数の車輪51を備えており、走行しながら、人工構造物8の表面部に適用された電解液31とプラズマ発生部2との間で放電を生じさせて、人工構造物8の表面部を剥離させる。プラズマ発生部2と電解液31との間は気体で隔てられており、気体中に放電を生じさせる。走行手段は、剥離装置を移動させることができるものであればよく、車輪に限定されない。走行手段としては、車輪の他に、例えば、無限軌道などが挙げられる。
【0023】
前記車輪51は、フレーム部5に固定される。フレーム部5には、プラズマ発生部2、プラズマ発生部2用の給電部6、給液部3、当該給液部3に接続されるタンク7、プラズマ発生部2を走行方向に交差する方向に、往復動させるスライド機構9(
図5)、及びプラズマ発生部2を左右に往復動させるための動力原であるモーター914等の部材が取り付けられる。
【0024】
フレーム部5には、ハンドル52が固定されている。オペレーターがハンドル52を把持し、剥離装置1を手押しすることで、剥離装置1を走行させる。剥離装置1は、走行用の動力源と動力伝達機構を搭載し、自走するように構成してもよい。
【0025】
図3に、プラズマ発生部2と、給液部3と、電極部4とを側面から見た状態を拡大して示す。また、
図7にプラズマ発生部の内部構造の一例を示す。
【0026】
プラズマ発生部2は、アーク溶接や金属板の加工で使用される一般的なプラズマトーチと同様の構造を有する。本実施例では、
図7に示したように、プラズマ発生部2として、円筒状の電極21と、当該電極21を冷却するためのジャケット部22とを有するものを使用する。ジャケット部22は、電極21の外側に設けられる。電極21には、作動ガスの供給孔23が設けられる。供給孔23には、公知の作動ガスを供給し、プラズマ発生部2の先端部から作動ガスを人工構造物8の表面に向かって噴出させつつ、電極21に電圧をかけて、前記電極21と後述する電極部4に接するように適用された電解液31との間に放電を生じさせる。これにより、電流の通路であるプラズマアーク24が電極21と電解液31との間に発生し、プラズマアーク24の周囲にプラズマジェット25が発生する。プラズマジェット25は、作動ガスが放電により電離したものである。作動ガスとしては、例えば、大気(エア)、酸素、アルゴンと水素の混合気、窒素、又はこれらの気体の混合気が挙げられる。ジャケット部22には、冷却水を供給して、プラズマ発生部2を冷却する。なお、冷却に替えて空冷にしてもよい。
【0027】
プラズマ発生部の構成は、上記の例に限定されず、例えば、円筒状の中空管の中心部にタングステンなどの電極を配置した、プラズマによる金属加工に用いられる、公知のプラズマトーチを使用してもよい。
【0028】
プラズマ発生部2は、
図3に示したように、プラズマ発生部2の角度を変更する機構と、プラズマ発生部2の人工構造物8との距離を調節するための昇降機構とを備える支持部26に固定される。プラズマ発生部2と給電部6とは、ケーブル53により、接続される。
【0029】
支持部26の第1操作部263を回転させることにより、第1操作部263に連結された螺子棒が昇降して、螺子棒に連動して、プラズマ発生部2が上下に昇降する。より具体的には、支持部26は、第1支持部261と第2支持部262とから構成される。第1支持部261の位置は固定されており、第1操作部263を操作することで、第2支持部262が第1支持部261に対して上下に移動する。プラズマ発生部2は、第2支持部262に固定されているため、第2支持部262を上下に移動させると、プラズマ発生部2が上下方向に移動する。
【0030】
支持部26の第2操作部264を操作することにより、軸部265を中心として、第2支持部262が回転し、プラズマ発生部2の角度を変更することができる。上述の通り、第1支持部261の位置は固定されているので、第2操作部264を操作することにより、第2支持部262が第1支持部261に対して回転動作する。
【0031】
支持部26は、剥離装置1の走行方向に沿って延びる縦長な形状である。支持部26の一端部は、
図3及び
図4に示したように、フレーム部5に設けられたレール部54に装置1の進行方向に対して交差する方向へ摺動可能な状態で、支持される。支持部26の他端部は、給液部3用のブラケット32に固定される。レール部54は、フレーム部5に架け渡された棒状の部材であり、例えば、断面がL字状の部材で構成される。
【0032】
給液部3は、
図3に示したように、タンク7に貯留された電解液を供給するパイプ状の部材である。給液部は、先端部においてY字状の二又に分岐しており、プラズマ発生部2の左部とプラズマ発生部2の右部との2か所から人工構造物8の表面部に電解液31を供給する。給液部3を構成する素材は、特に限定されないが、プラズマ発生部2か発生する熱に耐えられるように、金属で構成することが好ましい。金属としては、加工しやすい銅、耐食性に優れるステンレス鋼などを使用することができる。給液部3には、タンク7内の電解液31を圧送する目的で、公知のポンプを接続してもよい。
【0033】
給液部3から人工構造物8の表面部に電解液を供給する際には、給液部3から電解液31を滴下することが好ましい。このようにして供給すれば、人工構造物8に対して電解液31を供給する際に、プラズマ発生部2に電解液が大量に付着し、電解液に含まれる物質がプラズマ発生部2に固着する事態を防ぐことができる。
【0034】
給液部3は、上述の給液部3用のブラケット32に固定される。ブラケット32は、板状である。ブラケット32の一端部は、上述の通り、支持部26に固定される。ブラケット32の他端部は、後述するスライド機構9の作動部92に接続される。
【0035】
電極部4は、導電材料で構成され、
図3に示したように、人工構造物8の表面部に適用された電解液31に接するように配される。電極部4は、人工構造物8の表面部に向けて延びる形状である。電極部4を構成する導電材料は、例えば、加工しやすい銅、耐食性に優れるステンレス鋼などを使用することができる。
【0036】
電極部4の先端部には、
図3に示したように、導電素材で構成された、線状部材41が固定される。線状部材41を折り曲げて、電解液31に線状部材41が接するようにすることで、電極部4が電解液31に接するようにすることができる。このように、電極部が電解液に接するように配されるという場合、線状部材などの導電部材を介して、電極部を電解液に接するようにする構成が含まれるものとする。線状部材41が人工構造物8に接触するなどして、線状部材41が磨り減った場合には、線状部材41を折り曲げて、電極部4が電解液31に接触するように容易に調整することができる。線状部材41が短くなった場合は、線状部材41を取り換えればよい。
【0037】
電極部4の基端部は、上記の支持部26に固定される。電極部4は、支持部26に支持されたケーブル53を介して、給電部6に接続され、直流回路を構成する。この構成では、給電部6、ケーブル53、プラズマ発生部2の電極、電解液31、電極部4、ケーブル53、給電部6へと電流が流れる。回路の構成は、これに限定されず、給電部とプラズマ発生部の電極と電極部とが回路を構成するものであれば、その他の構成を採用してもよい。
【0038】
剥離装置1は、走行方向に対して交差する方向に、プラズマ発生部2を往復動させるスライド機構9を備える。スライド機構9は、フレーム部5に搭載され、
図5に示したように、螺旋状の螺子溝が切られたシャフト91と、当該シャフト91に螺合するように設けられた作動部92と、前記シャフト91及び作動部92を支持する支持部93とを有する。作動部92は、給液部3のブラケット32に連結される。
【0039】
支持部93は、
図5に示したように、作動部92に設けられた凹溝921に対応する凸条931を複数備える。作動部92は、略板状であり、裏面に2つの凹溝921を備える。凸条931の数も2つである。凸条931の両端部には、凸条931に交差する方向に板状の突部932が固定されている。板状の突部932の中ほどには、貫通孔が設けられており、前記シャフト91の両端部を回転可能な状態で支持する。支持部26の底には、板状部材933で閉じられている。当該板状部材933は、前記凸条931及び突部932に接する。
【0040】
前記シャフト91の一端部には、従動部として第1プーリー911が固定されている。
図2に示したように、第1プーリー911には、駆動用のベルト912が巻回されている。ベルト912の他端部には、駆動部である第2プーリー913に巻回されている。第2プーリー913は、動力源であるモーター914の出力軸が固定されている。モーター914を作動させると、第2プーリー913、ベルト912、第1プーリー911を介して、前記シャフト91が回転して、作動部92が剥離装置1の進行方向に交差する方向に移動する。上記のプーリーは、スプロケット、又はかさ歯車で代替してもよい。また、上記ベルトは、チェーン、又はかさ歯車に連結されるシャフトで代替してもよい。このように、動力源と前記シャフト91は、種々の動力伝達手段で連結することができる。
【0041】
前記作動部92には、上述の給液部3用のブラケット32が固定される。作動部92が移動すると、それと一体にブラケット32とプラズマ発生部2と支持部26とが連動して移動する。支持部26の端部は、上述の通り、フレーム部5に設けられたレール部54に摺動可能な状態で、支持されているため、プラズマ発生部2は、装置1の進行方向に交差する方向に対して円滑に移動する。
【0042】
プラズマ発生部2は、シャフト91の上を移動する作動部92と一体に移動する。プラズマ発生部2を往復動させるには、プラズマ発生部2の移動方向を切り替える必要がある。プラズマ発生部2の移動方向を切り替えるには、物理的なスイッチの切り替えにより実現してもよいし、上記のシャフト91に替えて、シャフトの周面にX字状に交差するように2方向の螺旋状の溝を設けたウォームシャフトを用いてもよい。当該ウォームシャフトに設けられる2方向に螺旋状の溝のうち、一方の螺旋溝により作動部は一の方向へ移動し、他方の螺旋溝により作動部は他の方向へ移動する。すなわち、作動部に設けた凸部を螺旋溝に嵌め込み、ウォームシャフトを一方向に回転させることで、作動部はシャフトの両端部で方向転換する。
【0043】
図6に物理的なスイッチの切り替えにより、プラズマ発生部2の移動方向を切り替える機構50を示す。当該機構は、上述のフレーム部5に対して固定され、貫通孔を有する一対の支持部58と、前記支持部58の貫通孔に対して摺動可能な状態で挿通される一組のシャフト591と、前記一組のシャフト591の左右の端部に固定した棒状の連結部592と、前記支持部58に固定されるスイッチ部57とを有する。棒状の連結部592と一組のシャフト591とは、前記プラズマ発生部2に押されて、プラズマ発生部2の移動方向に向けて、一体に移動する。なお、シャフト591は、連結部592に固定された突部59に対して固定されている。
【0044】
図6において、斜めの斜線を付して示した部材、すなわち、支持部58、及びスイッチ部57は、フレーム部5に対して位置が固定され、不動である。前記プラズマ発生部2が右へ移動すると、プラズマ発生部2は、
図6の上段に示したように、右側のシャフト591の端部に接触して、矢印で示したように、棒状の連結部592とシャフト591とを右に移動させる。連結部592には、スイッチ部57の作動部を挟むように、複数の突起部571が設けられている。連結部592が右へ移動する際に、突起部571が作動部に触れて、動力源であるモーターの回転方向が切り替えられる。これにより、プラズマ発生部2は、左、すなわち、
図6における矢印Aの方向へと方向転換する。
【0045】
前記プラズマ発生部2が左へ移動すると、プラズマ発生部2は、
図6の下段に示したように、左側のシャフト591の端部に接触して、矢印で示したように、棒状の連結部592とシャフト591とを左に移動させる。連結部592には、スイッチ部57の作動部を挟むように、複数の突起部571が設けられている。連結部592が左へ移動する際に、突起部571が作動部92に触れて、動力源であるモーターの回転方向が切り替えられる。これにより、プラズマ発生部2は、右、すなわち、
図6における矢印Bの方向へと方向転換する。
【0046】
上記の動作を繰り返すことにより、プラズマ発生部2は、左右に往復動する。なお、
図6の例では、支持部58は、装置1の上下方向に延在する棒状の部材で構成され、フレーム部5に端部が固定される。これにより、前記機構50は、スライド機構9の上又は下に配置される。
【0047】
装置1では、プラズマ発生部2が往復動するときの移動速度を変更可能に構成している。移動速度は、動力源であるモーターの回転速度を変更することによって実現することができる。また、装置1では、放電によるエネルギーも変更可能に構成している。放電によるエネルギーは、例えば、電極21に印加する電圧、又は電流を制御することにより実現することができる。装置1では、これらの設定を操作盤915で設定することができる。これらの設定を調製することにより、人工構造物8の表面部を剥離させる強度を変更することができる。放電の形態は、アーク放電であることが好ましい。アーク放電では、強い光が発せられる。
【0048】
上記の装置1では、上述の通り、プラズマ発生部2が装置1の走行方向に交差する方向に往復動する。プラズマ発生部2と給電部6とは、ケーブル53で接続される。装置1では、プラズマ発生部2が往復動する際に、ケーブル53が過度に張らないようにする目的で、
図4に示したように、ケーブル53のガイド機構56を設けている。
【0049】
ガイド機構56は、
図4に示したように、フレーム部5に一端部が回転可能な状態で軸支され、他端部にケーブル53を保持する保持部562を設けた腕状部材561を備える。腕状部材561は、他端部に設けた保持部562に保持されたケーブル53が左右に振れると、それに応じて、一端部に設けられた軸を中心として、左右に回転する。これにより、ケーブル53を左右にガイドし、ケーブル53が装置1に引っ掛かったり、ケーブルに過剰な張力が作用したりするのを防止する。保持部は、ケーブル53の外形に沿うように形成された円弧状の板状部分と、ケーブルを挿し込むためのスリット孔とを有する形状である。
【0050】
上記の装置1では、アスファルト、コンクリートなどの絶縁体で構成される人工構造物8に対して、電解液31を適用し、当該電解液31に接するように配される電極部4を設けることにより、絶縁体の表面部に適用された電解液に電流を流すことが可能になる。これにより、人工構造物8の表面部に適用された電解液31とプラズマ発生部2との間で放電を生じさせて、人工構造物8に対して、プラズマアークとプラズマジェットとを作用させて、効率的に人工構造物8の表面部を剥離させることができる。
【0051】
剥離作業に際して、供給する電解液の量は、高圧で水を人工構造物に対して吹き付ける方法に比して、少なくてすむ。このため、剥離作業の際に必要となる設備や人員を少なくし、労力を削減することができる。
【0052】
人工構造物は、特に限定されないが、例えば、アスファルトで構成された路面、コンクリート若しくはモルタル等で構成された天井、壁面、又は地面などが挙げられる。人工構造物の表面部は、交通表示用等の塗料が付着していてもよいし、塗料が付着していなくともよい。塗料が付着している場合は、既存の塗料をはがすことができる。塗料が付着していない場合は、人工構造物の表面部を剥離させることにより、表面部を荒らして、塗料の定着性を高める目的で使用され得る。
【0053】
上記の剥離装置1は、オペレーターが押すことにより、走行させる構成である。自動走行機構を搭載して、装置自体が自走するようにしてもよい。また、上記の剥離装置は、地面に敷設された路面の交通表示等の表示を剥離させる用途に使用するが、トンネルの壁面、建物の壁面など、その他の人工構造物に設けられた交通表示等の表示を剥離させるように構造を改変してもよい。
【0054】
電解液は、電気を通す性質を有する液体であればよい。電解液としては、例えば、任意のイオンを含有する液体が挙げられる。溶媒は、特に限定されないが、例えば、水を使用することができる。溶質も、特に限定されないが、例えば、塩化ナトリウムを使用することができる。電解液としては、海水を使用することが好ましい。
【0055】
上記装置によれば、アスファルト、コンクリート、又はモルタル等からなる硬質な人工構造物の表面部を剥離させる方法であり、当該方法は、人工構造物の表面部に対して、導電材料で構成される電極部に接するように、電解液を供給する工程と、人工構造物の表面部に適用された電解液とプラズマ発生部との間で放電を生じさせる工程とを有する人工構造物の表面部の剥離方法を実施することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 剥離装置
2 プラズマ発生部
3 給液部
4 電極部
8 人工構造物
31 電解液
9 スライド機構
7 タンク