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特開2024-49275ゴム組成物の分析装置、分析方法及び分析プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049275
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】ゴム組成物の分析装置、分析方法及び分析プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/86 20060101AFI20240402BHJP
   G01N 33/44 20060101ALI20240402BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240402BHJP
【FI】
G01N30/86 G
G01N33/44
G01N27/62 C
G01N27/62 V
G01N27/62 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194087
(22)【出願日】2022-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2022155012
(32)【優先日】2022-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100210251
【弁理士】
【氏名又は名称】大古場 ゆう子
(72)【発明者】
【氏名】吉谷 美緒
(72)【発明者】
【氏名】海野 祐馬
(72)【発明者】
【氏名】山田 宏明
(72)【発明者】
【氏名】石澤 善雄
(72)【発明者】
【氏名】近藤 節
(72)【発明者】
【氏名】日下 潤一郎
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA06
2G041FA09
2G041HA01
(57)【要約】
【課題】ゴム組成物の物性及び臭気度の少なくとも一方を精度よく推定するための分析装置等を提供する。
【解決手段】ゴム組成物の分析装置は、取得部と、ピーク特定部と、推定部とを備える。取得部は、ゴム組成物を成分分離及び質量分離することで得られるデータであって、時間軸と、信号強度軸と、質量成分軸とで規定される空間にプロットされるデータを取得する。ピーク特定部は、前記質量成分軸上の各位置に対応する各マスクロマトグラムについて、信号強度のピークを特定する。推定部は、前記各マスクロマトグラムについて特定されたピークに基づいて、前記ゴム組成物の物性及び臭気度の少なくとも一方を推定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム組成物を成分分離及び質量分離することで得られるデータであって、時間軸と、信号強度軸と、質量成分軸とで規定される空間にプロットされるデータを取得する取得部と、
前記質量成分軸上の各位置に対応する各マスクロマトグラムについて、信号強度のピークを特定するピーク特定部と、
前記各マスクロマトグラムについて特定されたピークに基づいて、前記ゴム組成物の物性及び臭気度の少なくとも一方を推定する推定部と
を備える、
ゴム組成物の分析装置。
【請求項2】
前記ピーク特定部は、前記各マスクロマトグラムについて特定されるピークに対し、前記時間軸上で指定される範囲でグルーピングを行う、
請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記取得部は、前記時間軸上の同じ位置にある前記各マスクロマトグラムの信号強度が合算されたクロマトグラムをさらに取得し、
前記ピーク特定部は、前記クロマトグラムにおいて特定されるピークに基づいて、前記グルーピングを行う範囲を指定する、
請求項2に記載の分析装置。
【請求項4】
前記ピーク特定部は、前記グルーピングされたピークの任意のペアを抽出し、前記ペアとなるピークのずれを示す指標が所定の閾値以下であるか、前記閾値未満である場合に、前記ペアとなるピークを同一の成分由来のピークと判定し、前記指標が前記閾値を超えているか、前記閾値以上である場合に、前記ペアとなるピークを互いに異なる成分由来のピークと判定する、
請求項2または3に記載の分析装置。
【請求項5】
前記推定部は、前記ピーク特定部により特定された、同一の成分由来のピークの面積に基づいて、前記ゴム組成物の特定の物性及び臭気度の少なくとも一方を推定する、
請求項4に記載の分析装置。
【請求項6】
前記推定部は、前記ピークが由来する成分を同定することなく前記ゴム組成物の特定の物性及び臭気度の少なくとも一方を推定する、
請求項5に記載の分析装置。
【請求項7】
前記物性は、ガラス転移温度を含む、
請求項1または2に記載の分析装置。
【請求項8】
前記データは、ガスクロマトグラフ-質量分析計により取得される、
請求項1または2に記載の分析装置。
【請求項9】
前記データは、ヘッドスペースガスクロマトグラフ-質量分析計により取得される、
請求項8に記載の分析装置。
【請求項10】
1または複数のプロセッサにより実行される分析方法であって、
ゴム組成物を成分分離及び質量分離することで得られるデータであって、時間軸と、信号強度軸と、質量成分軸とで規定される空間にプロットされるデータを取得することと、
前記質量成分軸上の各位置に対応する各マスクロマトグラムについて、信号強度のピークを特定することと、
前記各マスクロマトグラムについて特定されたピークに基づいて、前記ゴム組成物の物性及び臭気度の少なくとも一方を推定することと
を含む、
ゴム組成物の分析方法。
【請求項11】
ゴム組成物を成分分離及び質量分離することで得られるデータであって、時間軸と、信号強度軸と、質量成分軸とで規定される空間にプロットされるデータを取得することと、
前記質量成分軸上の各位置に対応する各マスクロマトグラムについて、信号強度のピークを特定することと、
前記各マスクロマトグラムについて特定されたピークに基づいて、前記ゴム組成物の物性及び臭気度の少なくとも一方を推定することと
を1または複数のプロセッサに実行させる、
ゴム組成物の分析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物の分析装置、分析方法及び分析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、熱分解GC-MS(ガスクロマトグラフィー/質量分析)法によるゴム組成物の分析方法を開示する。特許文献1によれば、ゴム材料を熱分解部で分解し、ガスクロマトグラフィー部で分解生成物を分離し、これをマススペクトル部で電子ビームによりイオン化し、検出器で検出するとトータルイオンクロマトグラムやマススペクトルが得られる。特許文献1によれば、得られたトータルイオンクロマトグラムやマススペクトルのピークを分析して定性・定量を行うことにより、ゴム組成物の組成を分析することができる。
【0003】
また、特許文献2は、天然ゴムの臭気を定量的に評価する方法を開示する。この方法では、ガスクロマトグラフ等によって天然ゴム中の特定成分の含有量を定量し、得られた各特定成分の含有量に基づいて各特定成分のにおい指数を導出する。導出された各におい指数を合計することにより、対象となる天然ゴムの臭気を客観的に評価することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-160599号公報
【特許文献2】特許第6592985号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で提案されている分析は、ガスクロマトグラフ-質量分析計が出力するトータルイオンクロマトグラムやマススペクトルのチャートに基づき、既存の解析ソフトや目視による観察により行われる。しかし、このような方法は、由来成分が既知であるピークや、相対的に大きなピークを対象としており、由来成分が未知であるピークや、相対的に微小なピークが有する情報を活用しきれていない。このため、上記チャートに基づいてゴム組成物の物性を精度よく推定することは困難であった。一方、特許文献2で提案されている方法では、分析対象物中に、予め定められている特定成分以外に、臭気に寄与する臭気成分が存在したとしても、この臭気成分に由来するピークを考慮することができない。このため、臭気度の推定精度には未だ改善の余地が残されていた。
【0006】
本開示は、ゴム組成物を成分分離及び質量分離することで得られるデータに基づき、当該ゴム組成物の物性及び臭気度の少なくとも一方を精度よく推定するための分析装置、分析方法及び分析プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1観点に係るゴム組成物の分析装置は、取得部と、ピーク特定部と、推定部とを備える。取得部は、ゴム組成物を成分分離及び質量分離することで得られるデータであって、時間軸と、信号強度軸と、質量成分軸とで規定される空間にプロットされるデータを取得する。ピーク特定部は、前記質量成分軸上の各位置に対応する各マスクロマトグラムについて、信号強度のピークを特定する。推定部は、前記各マスクロマトグラムについて特定されたピークに基づいて、前記ゴム組成物の物性及び臭気度の少なくとも一方を推定する。
【0008】
第2観点に係るゴム組成物の分析装置は、第1観点に係るゴム組成物の分析装置であって、前記ピーク特定部は、前記各マスクロマトグラムについて特定されるピークに対し、前記時間軸上で指定される範囲でグルーピングを行う。
【0009】
第3観点に係るゴム組成物の分析装置は、第2観点に係るゴム組成物の分析装置であって、前記取得部は、前記時間軸上の同じ位置にある前記各マスクロマトグラムの信号強度が合算されたクロマトグラムをさらに取得する。前記ピーク特定部は、前記クロマトグラムにおいて特定されるピークに基づいて、前記グルーピングを行う範囲を指定する。
【0010】
第4観点に係るゴム組成物の分析装置は、第2観点または第3観点に係るゴム組成物の分析装置であって、前記ピーク特定部は、前記グルーピングされたピークの任意のペアを抽出し、前記ペアとなるピークのずれを示す指標が所定の閾値以下であるか、前記閾値未満である場合に、前記ペアとなるピークを同一の成分由来のピークと判定し、前記指標が前記閾値を超えているか、前記閾値以上である場合に、前記ペアとなるピークを互いに異なる成分由来のピークと判定する。
【0011】
第5観点に係るゴム組成物の分析装置は、第4観点に係るゴム組成物の分析装置であって、前記推定部は、前記ピーク特定部により特定された、同一の成分由来のピークの面積に基づいて、前記ゴム組成物の特定の物性及び臭気度の少なくとも一方を推定する。
【0012】
第6観点に係るゴム組成物の分析装置は、第5観点に係るゴム組成物の分析装置であって、前記推定部は、前記ピークが由来する成分を同定することなく前記ゴム組成物の特定の物性及び臭気度の少なくとも一方を推定する。
【0013】
第7観点に係るゴム組成物の分析装置は、第1観点から第6観点のいずれかに係るゴム組成物の分析装置であって、前記物性は、ガラス転移温度を含む。
【0014】
第8観点に係るゴム組成物の分析装置は、第1観点から第7観点のいずれかに係るゴム組成物の分析装置であって、前記データは、ガスクロマトグラフ-質量分析計により取得される。
【0015】
第9観点に係るゴム組成物の分析装置は、第8観点に係るゴム組成物の分析装置であって、前記データは、ヘッドスペースガスクロマトグラフ-質量分析計により取得される。
【0016】
第10観点に係るゴム組成物の分析方法は、1または複数のプロセッサにより実行される分析方法であって、以下のことを含む。
(1)ゴム組成物を成分分離及び質量分離することで得られるデータであって、時間軸と、信号強度軸と、質量成分軸とで規定される空間にプロットされるデータを取得すること。
(2)前記質量成分軸上の各位置に対応する各マスクロマトグラムについて、信号強度のピークを特定すること。
(3)前記各マスクロマトグラムについて特定されたピークに基づいて、前記ゴム組成物の物性及び臭気度の少なくとも一方を推定すること。
【0017】
第11観点に係るゴム組成物の分析プログラムは、1または複数のプロセッサに、以下のことを実行させる。
(1)ゴム組成物を成分分離及び質量分離することで得られるデータであって、時間軸と、信号強度軸と、質量成分軸とで規定される空間にプロットされるデータを取得すること。
(2)前記質量成分軸上の各位置に対応する各マスクロマトグラムについて、信号強度のピークを特定すること。
(3)前記各マスクロマトグラムについて特定されたピークに基づいて、前記ゴム組成物の物性及び臭気度の少なくとも一方を推定すること。
【発明の効果】
【0018】
以上の観点によれば、ゴム組成物を成分分離及び質量分離することで得られるデータに基づき、ゴム組成物の物性及び臭気度の少なくとも一方を精度よく推定するための分析装置、分析方法及び分析プログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】分析装置の電気的構成を示すブロック図。
図2】ゴム組成物のデータを説明する図。
図3】一実施形態に係る分析処理の流れを示すフローチャート。
図4】グルーピング範囲の指定処理を説明する図。
図5】ピークの特定処理を説明する図。
図6】ピークの合算処理を説明する図。
図7】一実施形態に係る推定指標を説明する図。
図8】ピークリストの例。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の一実施形態に係るゴム組成物の分析装置、分析方法及び分析プログラムについて説明する。
【0021】
<1.分析装置>
図1は、分析装置1の電気的構成を示すブロック図である。分析装置1は、ゴム組成物を成分分離及び質量分離することで得られるデータを、分析プログラム130によって規定されるアルゴリズムに従って分析し、当該ゴム組成物の物性及び臭気度の少なくとも一方を推定するための装置である。
【0022】
[データ]
上記データは、本実施形態では、分析対象となるゴム組成物の試料をガスクロマトグラフ(GC)に供し、成分分離された化合物を、質量分析計(MS)で質量分離及び検出することにより得られたデータである。より具体的には、上記データは、図2に示すように、時間軸と、信号強度軸と、質量成分軸とで規定される空間にプロットされる3次元データである。時間軸は、試料がガスクロマトグラフに導入されてから経過した保持時間(リテンションタイム)を表す。信号強度軸は、質量分析計の検出器で出力された信号強度を表し、信号強度のピークは、何らかの成分の検出を意味する。また、質量分析計では、通常、試料から生じた化合物がイオン化されて検出されるため、本実施形態の質量成分軸は、イオンの質量/電荷比(m/z)を表す。なお、質量分析計によりスキャンするm/zの範囲及び軸方向の刻みは、適宜設定することができる。
【0023】
上記3次元データは、公知のガスクロマトグラフ-質量分析計により取得され、さらにこれが備える解析プログラムにより、質量成分軸における各m/zの位置に対応する、時間に対する信号強度を表す各チャートの形式で出力される。このチャートは、「マスクロマトグラム」または「抽出イオンクロマトグラム(EIC)」とも称され、本実施形態では、m/zの1刻みごとに生成される。
【0024】
上記マスクロマトグラムを、設定されたm/zの全範囲で合計したものが、トータルイオンクロマトグラム(TIC)である。すなわち、TICは、時間軸上の同じ位置にある、各マスクロマトグラムの信号強度を合算したクロマトグラムである。TICは、通常は公知の解析プログラムにより生成され、出力される。なお、TICに現れる信号強度のピークには、由来する成分が既知のものも未知のものも含まれる。
【0025】
ガスクロマトグラフは、分析対象となるガスをキャリアガスとともにカラムに送り込み、カラム通過時間で生成したガスの成分を分離するものであれば特に限定されず、公知の装置を用いることができる。カラムに分析対象となるガスを送り込む前の前処理も、特に限定されない。例えば、熱分解装置により試料の熱分解生成物を成分分離された化合物として生成する方法、ヘッドスペースサンプラ中で試料を一定時間加温し、気相と試料とを平衡状態にする方法、及びサンプルチューブ内で試料を加熱して発生した成分をコールドトラップに捕集し、再加熱して脱着を行う方法のいずれも採用することができる。従って、ガスクロマトグラフは、例えば熱分解ガスクロマトグラフ、ヘッドスペース-ガスクロマトグラフ(HS-GC)、及びサーマルディソープション-ガスクロマトグラフ(TDU-GC)のいずれであってもよい。なお、ゴム組成物の臭気度を推定する場合は、化合物の熱分解が少ないHS-GC及びTDU-GCを用いるのが好ましく、HS-GCを用いるのがより好ましい。また、質量分析計は、ガスクロマトグラフを通過してきたガスをイオン化することにより生じた分子イオンやフラグメントイオンをm/zの違いによって分離し、検出するものであれば特に限定されず、公知の装置を用いることができる。
【0026】
[分析装置]
分析装置1は、ハードウェアとしては汎用のコンピュータであり、例えば、デスクトップパソコン、ラップトップパソコン、タブレット、スマートフォンとして実現される。分析装置1は、例えば、CD-ROM、USBメモリ等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体16から、或いはネットワークを介して、分析プログラム130を汎用のコンピュータにインストールすることにより製造される。
【0027】
分析装置1は、制御部10、表示部11、入力部12、記憶部13、及び通信部14を備える。これらの部10~14は、互いにバス線15を介して接続されており、相互に通信可能である。また、表示部11、入力部12及び記憶部13の少なくとも一部は、分析装置1の本体(制御部10等を収容する筐体)に一体的に組み込まれていてもよく、外付けであってもよい。
【0028】
表示部11は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、液晶素子等で構成することができ、各種情報をユーザに向けて表示する。入力部12は、マウス、キーボード、タッチパネル等で構成することができ、分析装置1に対するユーザの操作を受け付ける。通信部14は、様々な形式の通信接続を確立する通信インターフェースとして機能する。
【0029】
制御部10は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサ、ROM及びRAM等で構成することができる。制御部10は、記憶部13内の分析プログラム130を読み出して実行することにより、仮想的に取得部10A、ピーク特定部10B、推定部10C及び画面生成部10Dとして動作する。取得部10Aは、通信部14を介したデータ通信、または記録媒体16を介して、上記3次元データを外部から読み込み、これを「データ131」として記憶部13またはRAMに保存する。ピーク特定部10Bは、後述する方法により、データ131に含まれるピークを特定し、これをリスト化したデータ(以下、「ピークリスト132」とも称する)を記憶部13またはRAMに保存する。推定部10Cは、ピークリスト132に基づいて、対象となるゴム組成物の物性及び臭気度の少なくとも一方を推定する。画面生成部10Dは、推定部10Cによる推定結果を表示する画面を生成する。これらの部10A~10Dの機能は、1または複数のプロセッサによって実現される。
【0030】
記憶部13は、ハードディスクやフラッシュメモリ等の不揮発性の記憶装置で構成することができる。記憶部13内には、分析プログラム130が格納されている他、取得部10Aにより取得されたデータ131や、ピーク特定部10Bにより作成されたピークリスト132も格納される。
【0031】
<2.分析装置の動作>
図3は、分析装置1によって実行されるデータ131の分析方法の流れを示すフローチャートである。図3の処理は、例えば分析装置1に対して、分析処理を開始するための指示がユーザから入力部12を介して入力され、制御部10に受け付けられたときに開始する。
【0032】
まず、取得部10Aが、分析対象となるゴム組成物を成分分離及び質量分離することで得られるデータを取得し、これをデータ131として記憶部13またはRAMに保存する(ステップS1)。データは、上述したように、ガスクロマトグラフ-質量分析計から出力される3次元データであり、トータルイオンクロマトグラム及び各質量成分のマスクロマトグラムのデータを含む。データの取得方法は特に限定されず、例えば有線または無線データ通信によりガスクロマトグラフ質量分析計から読み出してもよいし、当該データが保存された記録媒体から取得してもよい。
【0033】
続いて、ピーク特定部10Bが、データ131からTICを読み出し、このチャート上で特定されるピークに基づいて、グルーピング範囲T1,T2,T3,T4,…を指定する(ステップS2)。グルーピング範囲とは、後述するステップS5で行われる、マスクロマトグラムのピークのグルーピングの際に指定する時間軸上の範囲である。ピーク特定部10Bは、図4に示すように、TICにおいて、最初のピークが立ち上がる時間、及び隣り合うピークとピークとの間で、信号強度が最小となる時間を特定する。特定された時間の間隔が、グルーピング範囲T1,T2,…となる。最初のピークが立ち上がる時間、及び隣接するピークの間で信号強度が最小となる時間の特定は、公知の解析手法によって行うことができる。なお、ここで指定されるグルーピング範囲T1,T2,…の各々には、1つのピークの頂点(トップ)が含まれることが好ましいが、2つ以上のピークの頂点が含まれていてもよい。つまり、TIC上で分離できていない2つ以上のピークに基づいて、グルーピング範囲T1,T2,…が指定されてもよい。
【0034】
続いて、ピーク特定部10Bが、データ131から各質量成分に対するマスクロマトグラムを読み出し、全てのマスクロマトグラムにノイズ除去処理を施す(ステップS3)。ノイズ除去処理は、マスクロマトグラムの各々について、負の信号強度のうち、最も大きな絶対値を当該マスクロマトグラムのノイズ幅と定義し、頂点の信号強度が当該ノイズ幅未満またはノイズ幅以下であるピークを、以降の処理で対象とするピークとみなさずノイズとして除去する処理である。言い換えると、ノイズ除去処理は、頂点の信号強度がノイズ幅以上である、またはノイズ幅を超えるピークを、以降の処理で対象とするピークとして選定する処理である。なお、ノイズ幅の定義方法はこれに限られず、適宜変更することができる。例えば、マスクロマトグラムの各々について、ピークがない時間範囲を指定して信号強度のヒストグラムを作成し、これに対して仮定されるガウス分布の幅に対し、所定の係数を乗じた値を当該マスクロマトグラムのノイズ幅と定義してもよい。
【0035】
続いて、ピーク特定部10Bが、ステップS3でノイズ除去処理を行ったマスクロマトグラムの各々について、信号強度のピークを特定する(ステップS4)。より具体的には、質量成分軸上の各位置に対応する各マスクロマトグラムについて、ステップS2と同様に、最初のピークが立ち上がる時間、及び隣り合うピークとピークとの間で、信号強度が最小となる時間を特定し、これに基づいて各ピークの時間範囲を特定する(図5参照)。このピークの特定は、公知の解析手法によって行うことができる。また、このピークの特定は、ステップS2で指定されたグルーピング範囲T1,T2,…に拘束されず、マスクロマトグラムの各々について行われる。
【0036】
次に、ピーク特定部10Bが、各マスクロマトグラムで特定されたピークを、これらが属するグルーピング範囲T1,T2,…でグルーピングする(ステップS5)。ピーク特定部10Bは、これに加えて、各グルーピング範囲に属する全マスクロマトグラムのピークについて、頂点の信号強度によるスクリーニングを行い、以降のステップで対象とするピークの数を削減してもよい。スクリーニングは、例えば、同一のグルーピング範囲に属するピークのうち、頂点の信号強度が大きい順に、所定の数のピークを採用し、それ以外のピークを除去する処理とすることができる。また、例えば、同一のグルーピング範囲に属するピークのうち、頂点の信号強度の最大値に対し、頂点の信号強度が所定の割合以上であるピークを採用し、頂点の信号強度が所定の割合未満であるピークを除去する処理とすることができる。
【0037】
続いて、ピーク特定部10Bが、ステップS5で同じグルーピング範囲に振り分けられた各マスクロマトグラムのピークについて、これらが同一の成分由来のピークであるか否かの判定を行う(ステップS6)。この判定は、本実施形態では、同じグルーピング範囲に属する任意のピークのペアのずれを示す指標に基づいて行われる。例えば、同じグルーピング範囲に属するピーク(A,B,C,D)がある場合、ピーク特定部10Bは、これらの全てのペア(AとB、AとC、AとD、BとC、BとD、CとDの6ペア)を抽出する。そして、これらのペアの全てまたは一部について、ピークのずれを表す指標ΔVを算出し、指標ΔVを、予め定められた閾値V1とそれぞれ比較する。ピーク特定部10Bは、指標ΔVが閾値V1以下または閾値V1未満である場合、ペアとなるピークを同一の成分由来のピークと判定し、指標ΔVが閾値V1を超えているまたは閾値V1以上である場合、ペアとなるピークを互いに異なる成分由来のピークと判定する。この判定を特定のグルーピング範囲に属する全てのペアについて行うことにより、当該グルーピング範囲に属するピークを、より詳細に分離することができる。
【0038】
いま、上記例の全てのペアについて指標ΔVが算出され、それぞれを閾値V1と比較した結果、AとB、AとC及びBとCのペアが同一の成分由来と判定され、AとD、BとD及びCとDのペアが異なる成分由来と判定されたとする。この判定を総合すると、ピーク(A,B,C)が同一の成分由来であり、ピーク(D)がこれらとは異なる成分由来であると判定することができる。なお、同じグルーピング範囲に属する3つ以上のピークでは、各ペアについて算出された指標ΔVに基づく判定が、ペア間で一致しない結果を示す場合がある。例えば、AとBのペア及びAとCのペアについてそれぞれ算出された指標ΔVが、ともに閾値V1以下(または閾値V1未満)である一方、BとCのペアについて算出された指標ΔVが、閾値V1を超える(または閾値V1以上である)ような場合である。このような場合、AとBのペア及びAとCのペアついての判定を優先し、ピーク(A,B,C)が同一の成分由来であると最終的に判定してもよい。つまり、ペアとなるピークが同一の成分由来のピークであるか否かの判定は、同じグルーピング範囲に属する他のペアについての判定も考慮して、総合的に行われてもよい。あるいは、同じグルーピング範囲に属する3つ以上のピークについて、まず同一のピークを含む異なるペア(上記例では、AとBのペア及びAとCのペア)について指標ΔVをそれぞれ算出し、各指標ΔVに基づいてこれらのペアを構成するピークが同一の成分由来であると判定されるような場合、残りのペア(上記例では、BとCのペア)についての指標ΔVの算出を省略することとしてもよい。
【0039】
指標ΔVは、例えば、各ピークに含まれる同じ時間のデータの平均絶対誤差(MAE)である。ペアとなるピークに含まれる時系列のデータが、それぞれy1i(i=1,…,N)及びy2i(i=1,…,N)であるとき、MAEは以下の式で表される。Nは、ステップS2で指定したグルーピング範囲により規定されるデータの数である。
【数1】
指標ΔVとしてのMAEは、これが大きければ大きいほどペアとなるピークの形状のずれが大きいことを示し、これが小さければ小さいほどペアとなるピークの形状のずれが小さく、形状が類似しているということを示す。ピーク特定部10Bは、指標ΔVに加えてまたはこれに代えて、ピークの時間軸上の位置のずれを表す指標として、指標ΔRTを算出することもできる。指標ΔRTは、各ピークの頂点の時間の差の絶対値を表し、指標ΔRTの絶対値が大きければ大きいほどペアとなるピークの位置のずれが大きく、互いに離れており、指標ΔRTの絶対値が小さければ小さいほどペアとなるピークの位置のずれが小さく、互いに近いということを示す。指標ΔRTについても、指標ΔVと同様に、これが予め定められた閾値RT1以下または閾値RT1未満である場合、ペアとなるピークを同一の成分由来のピークと判定し、指標ΔRTが閾値RT1を超えているまたは閾値RT1以上である場合、ペアとなるピークを互いに異なる成分由来のピークと判定することができる。なお、複数の指標を併用すると、各指標に基づく判定結果が一致しない場合が生じると考えられる。このため、例えば複数の指標については予め優先順位(重み)を定め、指標ごとの重みに従って、ペアとなるピークが同一の成分に由来するか否かの判定を行ってもよい。
【0040】
ピーク特定部10Bは、ステップS6で同一の成分に由来する(つまり、時間軸上の同じ位置に現れる)と判定されたピーク群をそれぞれ合算し、同一の成分に由来すると考えられるピークP1,P2,…を生成する(ステップS7)。より具体的には、ピーク特定部10Bは、時間軸上の位置が同一とみなすことができ、質量成分軸上で異なる位置にあるピークを全て特定し、これらを合成して同じ時間の1つのピークを生成する。例えば、図6のように、同一の成分に由来すると判定される2つのピークp10及びp11が特定された場合、ピーク特定部10Bは、これらを合算することにより、ピークP1を生成する。以下、ピークP2以降も同様の手順で生成される。ピーク特定部10Bは、生成したピークP1,P2,…、これらピークの時間軸上の位置、及びこれらピークP1,P2,…の元となるピークのm/zを対応付け、時間軸上における順にソートして、記憶部13またはRAMに、ピークリスト132を保存するためのピークリスト保存領域を作成する。
【0041】
続いて、推定部10Cが、ピークP1,P2,…の各々について、ゴム組成物の物性あるいは臭気度を推定するための推定指標を算出し、ピークリスト132を作成する(ステップS8)。推定指標は、本実施形態では、ピークP1,P2,…の半値幅W1,W2,…及び半値幅の面積A1,A2,…である。図7に示すように、半値幅は、各ピークにおいて、頂点の信号強度の0.5倍の信号強度となる2点間の幅であり、半値幅の面積は、半値幅を規定する2点間の信号強度を積算した値となる。推定部10Cは、算出した半値幅W1,W2,…及び半値幅の面積A1,A2,…を、ピークP1,P2,…に対応付け、ステップS7で生成されたピークリスト保存領域に保存する。これにより、同一の成分に由来すると判定されたピークとその推定指標、及びピークを構成するm/zとが対応付けられたピークリスト132が、記憶部13またはRAMに保存される。
【0042】
ピークリスト132は、これに限定されないが、図8に示すような表形式のデータとすることができる。表中の「ピークNo」は、例えば時間軸上でソートされたピークP1,P2,…を識別する番号であり、ゴム組成物から成分分離された化合物としての各熱分解生成物や、ゴム組成物から成分分離された各揮発成分に対応する。また、「時間(分)」は、ピークP1,P2,…の保持時間である。「m/z」は、ピークP1,P2,…を構成するマスクロマトグラムを特定する。「半値幅」及び「半値幅の面積」は、それぞれ半値幅W1,W2,…及び半値幅の面積A1,A2,…であり、各ピークP1,P2,…を構成するマスクロマトグラムについて特定されたピークに基づくデータであるといえる。「半値幅の面積」は、ゴム組成物における、各熱分解生成物や各揮発成分の相対的な含有量に対応する。
【0043】
続いて、推定部10Cが、ピークリスト132中のデータに基づいてゴム組成物の物性及び臭気度の少なくとも一方を推定する(ステップS9)。推定の対象となる物性は特に限定されないが、例えば、ガラス転移温度Tg、粘性率、貯蔵弾性率、損失弾性率及び損失正接(tanδ)等である。また、臭気度は、ゴム組成物から人間が感じる臭気の強さを表す指標である。臭気度は、ゴム組成物の中でも、非ゴム成分を多く含む天然ゴムを扱う際に特に重要な指標となる。なお、ピークリスト132中のピークP1,P2,…の少なくとも一部は、既知のTICのピークデータと照合されることにより、その由来成分が同定されてもよい。そして、ピークの由来成分のゴム組成物中における含有割合と、ゴム組成物の特定の物性との相関が既に判明している場合は、推定部10Cは、ピークリスト132中から、この由来成分に対応するピークNoのデータを抽出し、半値幅の面積に基づいてゴム組成物の特定の物性を推定する。あるいは、推定部10Cは、ピークリスト132中から、特定の臭気成分に対応するピークNoのデータを抽出し、半値幅の面積に基づいてゴム組成物の臭気度を推定する。この推定は、例えば特許文献2に記載の方法を用いて行うことができるが、上記ステップS1~S8で従来よりも細かいスケールでピークの分離が行われていることにより、従来と比較して高い精度の推定を行うことができる。なお、半値幅の面積は、ガスクロマトグラフ-質量分析計に供されたゴム組成物の重量により除算され、規格化される。
【0044】
また、ピークリスト132中のピークP1,P2,…が由来する成分が同定されていない場合であっても、多数のゴム組成物についてのピークリスト132と物性とのデータとを収集し、検討することにより、1または複数の特定のピークの半値幅の面積と、特定の物性との相関を表すモデルを作成することができる。モデルは、例えば回帰分析によるモデルや、機械学習により構築される機械学習モデルであってよい。推定部10Cは、このモデルを適用し、未知のゴム組成物のピークリスト132に基づき、当該ゴム組成物の物性を推定することができる。推定の対象となる物性は特に限定されないが、例えば、上述したガラス転移温度Tg、粘性率、貯蔵弾性率、損失弾性率及び損失正接(tanδ)等である。
【0045】
同様に、ピークリスト132中のピークP1,P2,…が由来する成分が同定されていない場合であっても、多数のゴム組成物についてのピークリスト132と臭気度とのデータとを収集し、検討することにより、ピークリスト132に含まれる一部または全てのピークの半値幅の面積と、臭気度との相関を表すモデルを作成することができる。モデルは、例えば回帰分析によるモデルや、機械学習により構築される機械学習モデルであってよい。臭気度のデータは、官能評価等により作成することができる。推定部10Cは、このモデルを適用し、ゴム組成物のピークリスト132に基づき、当該ゴム組成物の臭気度を推定することができる。
【0046】
画面生成部10Dは、ステップS9の推定結果を表す画面を生成し、これを表示部11に表示させる(ステップS10)。推定結果を表す画面は、推定された物性の種類及び推定値ならびに臭気度の少なくとも一方を表示する画面であれば、特に限定されない。これに加えて、推定結果を表す画面は、ピークリスト132や、ピークリスト132のうち、推定に使用したデータを示すグラフィック等を含む態様とすることができる。
【0047】
<3.特徴>
上記実施形態において作成されたピークリスト132では、通常は対象とならないマスクロマトグラムの微小なピークも抽出されているため、ゴム組成物のより多くの種類の成分に由来するピークの情報が得られる。これにより、ゴム組成物に由来する成分についてのデータをより広く網羅することができる。また、ピークリスト132では、従来のTICよりも細かいスケールでマスクロマトグラムのピークが分離されている。このため、ゴム組成物に由来する成分がより正確に反映されており、ピークリスト132に基づくゴム組成物の配合、物性及び臭気度の推定の精度向上を図ることができる。なお、仮に人が上記の作業を行うとすれば、データ数が膨大となり多大な労力を要する上に、微小なピークを抽出及び分離することが極めて困難であり、ゴム組成物の配合、物性及び臭気度の推定に活用できる精度のピークリストが作成できない可能性がある。
【0048】
上記実施形態によれば、ピークリスト132のピークP1,P2,…が由来する成分が同定されていない場合であっても、成分分離及び質量分離の条件が同じであれば、同じ時間に現れるピークの半値幅の面積に基づいてゴム組成物の物性を推定できる場合がある。従って、標準試料を用いたピークのデータが入手できない場合でも、ピークP1,P2,…が由来する成分を同定することなく、ゴム組成物の物性を推定することができる。
【0049】
上記実施形態によれば、ピークリスト132に含まれる一部または全てのピークの半値幅の面積と、臭気度との相関を表すモデルを作成することができる。つまり、ピークリスト132中のピークと臭気成分との対応が予め特定されていない場合であっても、ゴム組成物中の微量な臭気成分まで考慮された上記モデルを作成し、このモデルに従って臭気度を推定することが可能となる。また、従来のように、予め特定されている臭気成分の含有量と臭気度との相関を表すモデルに従ってゴム組成物の臭気度を推定する場合でも、上記実施形態では、臭気成分の含有量が(ピークの面積として)より高精度に算出される。これにより、従来の推定モデルのさらなる精度向上も期待される。
【0050】
<4.変形例>
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。以下に示す変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0051】
(1)上記実施形態では、ゴム組成物を成分分離及び質量分離することにより得られるデータとして、公知のガスクロマトグラフ-質量分析計により出力されるデータを対象としたが、データは、時間軸と、信号強度軸と、質量成分軸とで規定される空間にプロットされるデータであれば特に限定されない。例えば、ガスクロマトグラフ-質量分析計に代えて、液体クロマトグラフ-質量分析計により出力されるデータであってもよい。なお、質量分析計の検出方式は特に限定されず、いずれの検出方式であってもよい。また、試料の前処理方法も、上記実施形態で例示した方法に限られず、適宜変更することができる。
【0052】
(2)ステップS2は、ステップS3及びS4の後に行われてもよい。すなわち、ステップS2は、ステップS5の前に行われればよい。
【0053】
(3)ピークリスト132は、ピークP1,P2,…を構成するピークが属するクロマトグラムの質量成分を特定する情報の他、当該クロマトグラムに属する各ピークの頂点の信号強度の値、半値幅及び半値幅の面積の少なくとも一部を含んでいてもよい。すなわち、ピーク特定部10Bは、ステップS4で特定された各ピークについて、頂点の信号強度、半値幅及び半値幅の面積を算出し、これをピークリスト132に含めてもよい。推定部10Cは、ゴム組成物の物性を推定する場合に、あるいはゴム組成物の臭気度を推定する場合に、必要に応じてこれらの値を参照することができる。なお、ピークリスト132に含まれる情報は、上記実施形態のものに限られず、適宜変更することができる。例えば、ピークP1,P2,…を構成するマスクロマトグラムを特定するm/zの情報は、ピークリスト132から省かれてもよい。各ピークについてのm/zの組み合わせは、化合物としてのより詳細な情報を導出するのには役立つものの、ゴム組成物の物性や臭気度を推定するのに必須ではないからである。さらに、ゴム組成物の物性あるいは臭気度を推定するための推定指標としては、半値幅や半値幅の面積以外にも、別の方法で算出されるピークの幅や面積が使用されてもよい。
【0054】
(4)ステップS2におけるグルーピング範囲の指定、ステップS3におけるノイズ除去、及びステップS4における信号強度のピーク特定を行う方法は、上記実施形態の方法に限られず、公知の方法を採用することができる。
【0055】
(5)ステップS6で、同一の成分由来のピークであるか否かの判定を行うための指標は、上記実施形態のものに限られず、適宜変更または追加されてもよい。
【実施例0056】
以下、本開示の実施例について詳細に説明する。ただし、本開示は、これらの実施例に限定されない。
【0057】
<実験1>
材料の種類及び配合が異なる100種類のゴム組成物を作製した。より具体的には、ゴム組成物の原料となるポリマー、フィラー、レジン及びオイルをミキサーで混練した後、これに加硫促進剤及び硫黄を加え、さらにロールで混練した後、170℃で12分加硫した。各ゴム組成物から試料を0.2mg程度採取し、それぞれをガスクロマトグラフ-質量分析計に供し、TICとマスクロマトグラムとが含まれた3次元データを取得した。質量成分の範囲は45-300とし、マスクロマトグラムはこの範囲内の1刻みごとに得られた。取得したデータに基づいて、所定の時間Sにおけるピークの半値幅の面積からゴム組成物のガラス転移温度Tgを推定する予測式を、以下の2通りの方法で作成した。なお、いずれの方法も、試料数が80と100との2通りの場合について行った。
【0058】
[1]TICとマスクロマトグラムとが含まれた3次元データに基づき、上記実施形態の方法を適用してピークリストを作成した。ピークリストの中から、所定の時間Sにおけるピークを特定し、特定されたピークの半値幅の面積と、そのゴム組成物のガラス転移温度Tgとのデータセットを回帰分析することにより、ピークの半値幅の面積からガラス転移温度Tgを推定する予測式を作成した。半値幅の面積は、試料重量により規格化した。
[2]TICに基づき、人がピークを抽出し、ピークリストを作成した。ピークリストの中から、所定の時間Sにおけるピークを特定し、特定されたピークの半値幅の面積と、そのゴム組成物のガラス転移温度Tgとのデータセットを回帰分析することにより、ピークの半値幅の面積からガラス転移温度Tgを推定する予測式を作成した。半値幅の面積は、試料重量により規格化した。
【0059】
<評価1>
上記[1]及び[2]の方法に従って作成されたピークリストについて、抽出されたピークの数を比較した。ピークの数は、各試料の平均とした。また、上記[1]及び[2]に従って作成されたガラス転移温度Tgの予測式を評価した。具体的には、所定の時間Sにおけるピークの半値幅の面積から予測されるガラス転移温度Tgを横軸とし、実測されたガラス転移温度Tgを縦軸とする平面に、Tgの(予測値、実測値)のデータセットをプロットし、このデータセットの回帰直線の傾きを比較した。回帰直線の傾きは、1に近いほど予測式の精度が高く、1から離れるほど予測式の精度が低いことを示す。結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0060】
以上の結果から分かるように、[1]の方法に従った場合、[2]の方法に従った場合と比較して、はるかに多くのピークを抽出できていることが分かった。また、[1]の方法では、[2]の方法と比較して、ガラス転移温度Tgが精度よく予測できることが確認された。
【0061】
<実験2>
生産地及び製造方法の組み合わせが互いに異なる30種類の天然ゴムのサンプルを準備した。各サンプルから、試料を200mg程度採取し、それぞれをヘッドスペースガスクロマトグラフ-質量分析計に供し、実験1と同様に、TICとマスクロマトグラムとが含まれた3次元データを取得した。質量成分の範囲は45-300とし、マスクロマトグラムはこの範囲内の1刻みごとに得られた。TICとマスクロマトグラムとが含まれた3次元データに基づき、上記実施形態の方法を適用してピークリストを作成した。30種類のサンプルについて、この方法で得られたピークの数の平均は、448912であった。
【0062】
各サンプルについて、特許文献2に開示の方法で臭気官能評価を行い、臭気度を1点~6点までの間で評価した。この臭気度と、各サンプルについて得られた全ピークの半値幅の面積とに基づいて回帰分析を行い、臭気度を目的変数とし、各ピークの半値幅の面積を説明変数として、臭気度を推定する予測式を作成した。なお、半値幅の面積は、試料重量により規格化されたものを使用した。
【0063】
<評価2>
上記予測式に従い、ピークの半値幅の面積から予測される臭気度を横軸とし、臭気官能評価により得られた臭気度を縦軸とする平面に、臭気度の(予測値、実測値)のデータセットをプロットし、このデータセットの回帰直線の傾きを算出すると、0.8以上となった。これに対し、特許文献2に開示の方法で臭気度を推定する予測式を作成し、同様に算出した(予測値、実測値)のデータセットの回帰直線の傾きは、0.778であった。この結果により、上記実施形態の方法により臭気度の推定精度が向上することが確認された。
【符号の説明】
【0064】
1 分析装置
10A 取得部
10B ピーク特定部
10C 推定部
10D 画面生成部
13 記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8