(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049277
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】乾癬を治療するための製剤として又はその製剤の調製におけるVEGFR遺伝子発現阻害剤の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20240402BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20240402BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240402BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240402BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240402BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240402BHJP
A61K 41/00 20200101ALN20240402BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P17/06
A61P43/00 111
A61K9/06
A61K9/14
A61K9/08
A61K41/00
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204249
(22)【出願日】2022-12-21
(31)【優先権主張番号】202211189318.X
(32)【優先日】2022-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】521557687
【氏名又は名称】孫 良丹
【氏名又は名称原語表記】SUN Liangdan
【住所又は居所原語表記】218 Jixi Road, Shushan District, Hefei City, Anhui Province 230022, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】孫 良丹
(72)【発明者】
【氏名】陳 微微
(72)【発明者】
【氏名】甄 ▲ち▼
(72)【発明者】
【氏名】李 卓
(72)【発明者】
【氏名】王 義睿
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA06
4C076AA12
4C076AA29
4C076CC18
4C084AA11
4C084AA17
4C084MA17
4C084MA28
4C084MA43
4C084NA14
4C084ZA89
4C084ZC41
(57)【要約】 (修正有)
【課題】乾癬の治療に安全で効果的な製剤を提供する。
【解決手段】乾癬を治療するための製剤として又はその製剤の調製におけるVEGFR遺伝子発現阻害剤の使用に関する。本発明において、NBUVB照射により、皮膚T細胞内のRasgrp1の異常発現を効果的に阻害し、T細胞からのIL-17の分泌を阻害することで、乾癬の皮膚部位におけるIL-17を介した免疫反応を効果的に軽減し、乾癬を治療する効果を得ることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾癬を治療するための製剤として又はその製剤の調製におけるVEGFR遺伝子発現阻害剤の使用。
【請求項2】
乾癬を治療するための製剤として又はその製剤の調製におけるRasgrp1遺伝子発現阻害剤の使用。
【請求項3】
Rasgrp1遺伝子発現阻害剤は、Rasgrp1遺伝子をノックアウト又はノックダウンするための試薬であることを特徴とする請求項2に記載の使用。
【請求項4】
製剤は化学製剤又は生物学的製剤を含むことを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の使用。
【請求項5】
製剤はペースト剤、粉剤又は水剤を含むことを特徴とする請求項4に記載の使用。
【請求項6】
VEGF遺伝子発現阻害におけるNBUVB照射の使用。
【請求項7】
Rasgrp1遺伝子発現阻害におけるNBUVB照射の使用。
【請求項8】
T細胞によるIL-17産生の阻害におけるNBUVB照射の使用。
【請求項9】
NBUVBを照射すること、VEGF遺伝子をノックアウト又はノックダウンすること、又は、Rasgrp1遺伝子をノックアウト又はノックダウンすることを含むT細胞によるIL-17産生の阻害方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚疾患用医薬の技術分野に属し、具体的には、乾癬を治療するための製剤として又はその製剤の調製におけるVEGFR遺伝子発現阻害剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
乾癬は、慢性免疫炎症性の皮膚病であり、表皮角質形成細胞の過増殖と異常分化、リンパ球(ほとんどはT細胞)の浸潤、血管新生、拡張、蛇行、高内皮細静脈の形成などの真皮血管の変化が特徴であり、臨床で最もよく見られるのは尋常乾癬である。乾癬の病因は広く、発病は複雑で、免疫経路は乾癬の発病機序で重要な役割を果たし、乾癬の発病はT細胞の異常活性化が媒介する慢性炎症と密接に関連している。研究によれば、乾癬は、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、インターロイキンIL-17Aやインターフェロンγなど、炎症誘発性サイトカインの分泌に関連するT細胞の活性化によって駆動される。T細胞の存在と蓄積は乾癬プラークの進化過程における初期イベントの1つであり、T細胞の異常活性化は皮膚免疫と全身サイトカインの産生に影響し、それによって、より多くの炎症細胞の動員を刺激し、乾癬特有の表皮の変化を引き起こす。
【0003】
現在、IL17A/Fを標的とする生物学的製剤の臨床使用は、乾癬に対して比較的良好な治療効果を示しているが、関連する生物学的製剤は価格が高く、しかも、後期に継続的に使用する必要があり、治療費が高く、根絶することもできない。
【0004】
そのため、乾癬の治療に安全で効果的な製剤が必要である。
【発明の概要】
【0005】
上記の課題に対して、本発明の目的の1つは、乾癬を治療するための製剤として又はその製剤の調製におけるVEGFR遺伝子発現阻害剤の使用を提供することである。具体的には、本発明では、VEGFR遺伝子発現を阻害することにより、T細胞によるIL-17産生を効果的に阻害し、乾癬を効果的に治療することができる。なお、本発明では、VEGFR遺伝子発現阻害剤は、VEGFR遺伝子発現を阻害することにより乾癬の表現型を軽減又は除去する機序に基づいて、当該技術分野においてVEGFR遺伝子発現を阻害することができる既知のすべての試薬である。
【0006】
本発明の別の目的は、乾癬を治療するための製剤として又はその製剤の調製におけるRasgrp1遺伝子発現阻害剤の使用を提供することである。具体的には、Rasgrp1遺伝子を阻害することにより、T細胞によるIL-17産生を効果的に阻害し、乾癬を効果的に治療することができる。同様に、上記したように、Rasgrp1遺伝子発現を阻害することにより、乾癬の表現型を軽減又は除去することができるという機序に基づいている。
【0007】
さらに、上記の使用において、製剤は、化学製剤又は生物学的製剤を含む。例えば、VEGFR遺伝子発現阻害剤は、VEGFR低分子阻害剤のような化学製剤であってもよいし、CRISPR-Cas試薬、TALEN試薬やZFN試薬など、VEGFR遺伝子をノックダウン又はノックアウトする遺伝子編集試薬であってもよく、同様に、Rasgrp1遺伝子発現阻害剤は、Rasgrp1遺伝子発現を阻害する低分子化学製剤であってもよいし、CRISPR-Cas試薬、TALEN試薬やZFN試薬など、Rasgrp1遺伝子をノックアウト又はノックダウンするための試薬であってもよい。
【0008】
さらに、上記の使用において、製剤はペースト剤、粉剤又は水剤を含む。なお、VEGFR遺伝子発現阻害剤やRasgrp1遺伝子発現阻害剤は、補助剤を添加して臨床使用に適した各種剤型とすることができ、また、VEGFR遺伝子発現阻害剤やRasgrp1遺伝子発現阻害剤は、乾癬を治療する他の試薬と併用して乾癬を共同治療することも可能である。
【0009】
本発明の更なる目的は、VEGF遺伝子発現阻害におけるNBUVB照射の使用を提供することである。
【0010】
本発明の更なる目的は、Rasgrp1遺伝子発現阻害におけるNBUVB照射の使用を提供することである。
【0011】
本発明の更なる目的は、T細胞によるIL-17産生の阻害におけるNBUVB照射の使用を提供することである。
【0012】
なお、NBUVB照射は、生体のVEGF遺伝子発現を阻害することによって、Rasgrp1遺伝子発現を阻害することができ、Rasgrp1遺伝子発現を阻害することは下流のT細胞が分泌するIL-17を効果的に阻害することができ、それによって、乾癬を効果的に治療し、乾癬に対する正確な治療の目的を達成する。また、本発明では、構築に成功したNBUVB治療乾癬マウスモデルを用いて、RNA-Seqパスウェイエンリッチメント解析を行った結果、NBUVBはRAS経路を有意に阻害できることを発見し、NBUVBによる乾癬治療の病理機序を多様化するのに役立ち、乾癬の遺伝子診断、標的治療及び新薬の研究開発に理論的な基礎を提供する。
【0013】
本発明の更なる目的は、NBUVBを照射すること、VEGF遺伝子をノックアウト又はノックダウンすること、又は、Rasgrp1遺伝子をノックアウト又はノックダウンすることを含むことを特徴とするT細胞によるIL-17産生の阻害方法を提供することである。具体的には、上記したように、本発明では、NBUVB照射によりT細胞によるIL-17産生を効果的に阻害してもよく、VEGF遺伝子発現を阻害することによりT細胞によるIL-17産生を阻害してもよく、Rasgrp1遺伝子を阻害することによりT細胞によるIL-17産生を阻害してもよい。
【0014】
また、乾癬は複雑な疾患であり、単一の要素が影響するのではなく、疾患の内在的な発生と制御の機序及び各種の影響要素の疾患における重みを探すのは将来疾患のターゲットを効率的に特定するための基礎と前提条件である。血管内皮増殖因子(VEGF:vascular endothelial growth factor)は重要な血管新生促進因子であり、血管透過性の増加を促進し、血管新生を誘導する作用を有する。本発明において、NBUVBは乾癬マウスの皮膚組織におけるVEGFの発現を有意に阻害することができる。
【0015】
また、RasGRP1は、RASグアニンヌクレオチド交換因子であり、リンパ球受容体シグナル伝達の重要な調節因子であり、また、Rasgrp1は血管内皮成長因子VEGFの下流標的遺伝子の1つであり、Rasgrp1はT細胞の成長と発育に重要な作用を有し、Tリンパ球/Bリンパ球抗原受容体とRASを結合することによってT細胞/B細胞の発育、定常状態及び分化を調節する。T細胞の異常活性化に必要なシグナルはT細胞受容体TCRの認識シグナルであり、T細胞が刺激を受けてTCRを活性化すると、Rasgrp1は発現量が増加し、T細胞で高発現し、TCRシグナルの活性化と伝達に対して非常に重要な作用を果たし、橋梁としてシグナルを下流に伝達してT細胞の増殖と活性化を促進し、活性化したT細胞は各種のサイトカインと炎症性媒体を分泌し、乾癬の発生と発展を媒介する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の有益な効果は以下のとおりである。本発明では、NBUVB照射により皮膚T細胞内のRasgrp1の異常発現を効果的に阻害し、T細胞からのIL-17の分泌を阻害することで、乾癬の皮膚部位におけるIL-17を介した免疫反応を効果的に軽減し、乾癬を治療する効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】NBUVB照射乾癬マウスの皮膚病理表現型である。
【
図2】NBUVB照射乾癬マウスのPASIスコアリングである。
【
図3】遺伝子トランスクリプトームの配列決定におけるパスウェイエンリッチメントの結果、NBUVB照射がRAS経路を阻害することが見出された。
【
図4】NBUVB照射乾癬マウスの皮膚のRAS経路のmRNAのリアルタイム蛍光定量PCRの検出結果である。
【
図5】NBUVB照射乾癬マウスの皮膚のRAS経路のタンパク質発現である。
【
図6】NBUVB照射乾癬マウスのRasgrp1+T及びIL-17A+T細胞のフローサイトメトリー結果である。
【
図7】NBUVB照射乾癬マウスのRasgrp1+T及びIL-17A+T細胞のフローサイトメトリー結果のヒストグラム統計図である。
【
図8】イミキモド乾癬マウスモデルの皮膚病理表現型である。
【
図9】乾癬マウスの皮膚組織のRasgrp1発現及び局在である。
【
図10】乾癬マウスの皮膚のRAS経路のmRNAのリアルタイム蛍光定量PCRの検出結果である。
【
図11】乾癬マウスの皮膚のRAS経路のタンパク質発現である。
【
図12】乾癬マウスの皮膚組織のRasgrp1+T、Rasgrp1+Monocytes、Rasgrp1+Neutrophils細胞のフローサイトメトリー結果である。
【
図13】乾癬マウスの皮膚組織のRasgrp1+T、Rasgrp1+Monocytes、Rasgrp1+Neutrophils細胞のフローサイトメトリー結果のヒストグラム統計図である。
【
図14】乾癬マウスの皮膚組織のT細胞とRasgrp1の共標識を免疫蛍光で検出したものである。
【
図15】NBUVB照射乾癬マウスの皮膚VEGFmRNAリアルタイム蛍光定量PCRの検出結果である。
【
図16】NBUVB照射乾癬マウスの皮膚組織のVEGFの発現及び局在である。
【
図17】NBUVB照射乾癬マウスの表皮VEGFmRNAリアルタイム蛍光定量PCRの検出結果である。
【
図18】NBUVB照射乾癬マウスの表皮VEGFのタンパク質発現である。
【
図19】NBUVB照射乾癬マウスの真皮VEGFmRNAリアルタイム蛍光定量PCRの検出結果である。
【
図20】NBUVB照射乾癬マウスの真皮VEGFのタンパク質発現である。
【
図21】ヒト乾癬の皮膚損傷単細胞の配列決定の結果によるVEGFAを発現させる主な細胞群である。
【
図22】HACAT細胞にNBUVBを照射し、各照射量勾配、各照射時間勾配に細胞上清についてVEGFの濃度変化を検出したものである。
【
図23】IL-17A及びTNF-αサイトカインを用いてHACAT細胞を刺激し、NBUVB未照射細胞とNBUVB照射群の細胞上清のVEGF濃度をElisaで検出したものである。
【
図24】VEGF刺激因子を皮下注射した乾癬マウスの皮膚病理表現型である。
【
図25】VEGF刺激因子を皮下注射した乾癬マウスの皮膚のPASIスコアリングである。
【
図26】VEGF刺激因子を皮下注射した乾癬マウスの皮膚のRAS経路のタンパク質発現である。
【
図27】VEGF刺激因子を皮下注射した乾癬マウスの皮膚のRasgrp1+T及びIL-17A+T細胞のフローサイトメトリー結果である。
【
図28】VEGF刺激因子を皮下注射した乾癬マウスの皮膚のRasgrp1+T及びIL-17A+T細胞のフローサイトメトリー結果のヒストグラム統計図である。
【
図29】VEGFR低分子阻害剤SU5205を皮膚に塗布した乾癬マウスの皮膚病理表現型である。
【
図30】VEGFR低分子阻害剤SU5205を皮膚に塗布した乾癬マウスのPASIスコアリングである。
【
図31】VEGFR低分子阻害剤SU5205を皮膚に塗布した乾癬マウスの皮膚のRAS経路のタンパク質発現である。
【
図32】VEGFR低分子阻害剤SU5205を皮膚に塗布した乾癬マウスの皮膚のRasgrp1+T及びIL-17A+T細胞のフローサイトメトリー結果である。
【
図33】VEGFR低分子阻害剤SU5205を皮膚に塗布した乾癬マウスの皮膚のRasgrp1+T及びIL-17A+T細胞のフローサイトメトリー結果のヒストグラム統計図である。
【
図34】VEGFサイトカイン刺激によるRasgrp1を過剰発現させたJurkat細胞のIL1b、IL17のmRNAのリアルタイム蛍光定量PCRの検出結果である。
【
図35】VEGFサイトカイン刺激によるRasgrp1を過剰発現させたJurkat細胞の上清のIL1b、IL17の濃度である。
【
図36】VEGFサイトカイン刺激によるRasgrp1を過剰発現させたJurkat細胞のRAS経路のタンパク質発現である。
【
図37】VEGFサイトカイン刺激によるRasgrp1をノックダウンしたJurkat細胞のIL1b、IL17のmRNAのリアルタイム蛍光定量PCRの検出結果である。
【
図38】VEGFサイトカイン刺激によるRasgrp1をノックダウンしたJurkat細胞上清のIL1b、IL17の濃度である。
【
図39】VEGFサイトカイン刺激によるRasgrp1をノックダウンしたJurkat細胞のRAS経路のタンパク質発現である。
【
図40】Rasgrp1を過剰発現させたアデノ随伴ウイルスを皮下注射した乾癬マウスの皮膚病理表現型である。
【
図41】Rasgrp1を過剰発現させたアデノ随伴ウイルスを皮下注射した乾癬マウスのPASIスコアリングである。
【
図42】Rasgrp1を過剰発現させたアデノ随伴ウイルスを皮下注射した乾癬マウスの皮膚組織におけるIL-1βの濃度である。
【
図43】Rasgrp1を過剰発現させたアデノ関連ウイルスを皮下注射した乾癬マウスの皮膚組織のRAS経路のmRNAのリアルタイム蛍光定量PCRの検出結果である。
【
図44】Rasgrp1を過剰発現させたアデノ随伴ウイルスを皮下注射した乾癬マウスの皮膚組織のRAS経路のタンパク質発現である。
【
図45】Rasgrp1を過剰発現させたアデノ関連ウイルスを皮下注射した乾癬マウスの皮膚組織のRasgrp1+T及びIL-17A+T細胞のフローサイトメトリー結果である。
【
図46】Rasgrp1を過剰発現させたアデノ関連ウイルスを皮下注射した乾癬マウスの皮膚組織のRasgrp1+T及びIL-17A+T細胞のフローサイトメトリー結果のヒストグラム統計図である。
【
図47】NBUVB照射Rasgrp1過剰発現乾癬マウスの皮膚病理表現型である。
【
図48】NBUVB照射Rasgrp1過剰発現乾癬マウスの皮膚PASIスコアリングである。
【
図49】NBUVB照射Rasgrp1過剰発現乾癬マウスの皮膚組織のIL-1β濃度である。
【
図50】NBUVB照射Rasgrp1過剰発現乾癬マウスの皮膚組織のRAS経路のmRNAのリアルタイム蛍光定量PCRの検出結果である。
【
図51】NBUVB照射Rasgrp1過剰発現乾癬マウスの皮膚組織のRAS経路のタンパク質発現である。
【
図52】NBUVB照射Rasgrp1過剰発現乾癬マウスの皮膚組織のRasgrp1+T及びIL-17A+T細胞のフローサイトメトリー結果である。
【
図53】NBUVB照射Rasgrp1過剰発現乾癬マウスの皮膚組織のRasgrp1+T及びIL-17A+T細胞のフローサイトメトリー結果のヒストグラム統計図である。
【
図54】Rasgrp1-/-乾癬マウスの皮膚病理表現型である。
【
図55】Rasgrp1-/-乾癬マウスの皮膚PASIスコアリングである。
【
図56】Rasgrp1-/-乾癬マウスの皮膚組織におけるIL-1βの濃度である。
【
図57】Rasgrp1-/-乾癬マウスの皮膚組織のRAS経路のmRNAのリアルタイム蛍光定量PCRの検出結果である。
【
図58】Rasgrp1-/-乾癬マウスの皮膚組織のRAS経路のタンパク質発現である。
【
図59】Rasgrp1-/-乾癬マウスの皮膚組織のIL-17A+T細胞のフローサイトメトリー結果である。
【
図60】Rasgrp1-/-乾癬マウスの皮膚組織のIL-17A+T細胞のフローサイトメトリー結果のヒストグラム統計図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
例示される実施例は、本発明をより良く説明するためのものであるが、本発明の内容は例示される実施例のみに限定されるものではない。したがって、当業者が上記の発明の内容に基づいて実施態様に対して本質的でない改良及び調整を行っても、本発明の保護範囲に属する。
【0019】
本明細書で使用される用語は、特定の実施例を説明するためにのみ使用され、本開示を制限することを意図しない。単数形の表現は、文脈において明らかに異なる意味を有する場合を除き、複素形の表現を含む。本明細書で使用されるように、「含む」、「有する」、「包含」などの用語は、特徴、数字、操作、アセンブリ、部品、要素、材料、又はそれら組み合わせの存在を示すことを意図していることが理解されるべきである。本発明の用語は、本明細書において開示されており、1つ又は複数の他の特徴、数字、操作、アセンブリ、部品、要素、材料、又はそれらの組み合わせが存在する可能性、又は追加される可能性を排除することを意図していない。ここで使用する場合、「/」は、場合によっては「及び」又は「又は」と解釈することができる。
【0020】
本発明をより良く理解するために、以下、具体例を用いて本発明の内容をさらに説明するが、本発明の内容は以下の例に限定されるものではない。
【0021】
以下の実施例において、具体的に説明されていない実験操作方法は、いずれも当該分野の通常の実験操作方法である。
【0022】
実施例1 NBUVB照射による乾癬マウスの皮膚組織の下流Ras経路の活性化阻害及びマウスの表現型の軽減
本発明の実施例では、乾癬マウスにNBUVB照射療法を行ったところ、NBUVB照射療法により乾癬マウスの皮膚の炎症反応を軽減し、HE染色により皮膚表皮の有意な薄化と炎症性細胞浸潤の減少が認められ、炎症反応の軽減が示唆された(
図1)。
【0023】
さらに、マウスの皮膚についてPASIスコアリングも行ったところ、背中の皮膚の厚さの減少、紅斑や鱗屑の軽減として認められた(
図2)。
【0024】
さらに、RNA-Seq配列決定パスウェイエンリッチメント解析も行い、その結果、NBUVB照射後にRAS経路が有意に阻害されることを示した(
図3)。
【0025】
さらに、Rasgrp1及びその下流のサイトカインであるIL1b、IL17aなどをRT-qPCRで検出した結果、NBUVB照射で治療した乾癬マウスの皮膚組織におけるRasgrp1及びその下流のIL1b、IL17aなどの炎症性遺伝子発現レベルはいずれも有意に低下した(
図4)。
【0026】
さらに、Western blotを用いてRasgrp1下流経路遺伝子のタンパク質発現を検出した結果、NBUVB照射で治療した乾癬マウスの皮膚におけるNF-κB及びAKTのリン酸化活性タンパク質レベルはいずれも対照群より低く、その中でIL-1βの活性タンパク質レベルも対照群より低かった(
図5)。
【0027】
さらに、NBUVB照射後の乾癬マウスの皮膚では、Rasgrp1+T細胞及びIL-17A+T細胞は全て有意に低下した(
図6及び
図7)。
【0028】
以上より、NBUVBはRas経路を阻害することによりT細胞によるIL-17産生を阻害し、乾癬様皮膚炎症を軽減することが示唆された。
【0029】
実施例2 Rasgrp1は主に皮膚T細胞に発現し、乾癬ではRas経路が活性化される
本発明の実施例では、乾癬と正常対照マウスの皮膚組織をHE染色し、乾癬マウスの皮膚損傷の炎症反応を観察したところ、HE染色は皮膚毛細血管の拡張、表皮の肥厚化、皮下組織、毛包や毛幹などの皮膚付属部に炎症性細胞の浸潤を示し、炎症反応の存在を示唆した(
図8)。
【0030】
さらに、乾癬におけるRasgrp1の発現と局在を検出するために、免疫組織化学実験による観察では、Rasgrp1は主に免疫細胞に発現すると同時に、乾癬マウスの皮膚組織において発現が強い陽性であることが認められた(
図9)。
【0031】
さらに、Rasgrp1下流のサイトカインであるIL1bやIL17aなどをRT-qPCRで検出した結果、乾癬マウスモデルでは、皮膚組織の炎症性因子発現レベルは正常対照群より有意に高いことが認められた(
図10)。
【0032】
さらに、Western blotを用いてRasgrp1下流経路遺伝子のタンパク質発現を検出した結果、乾癬マウスの皮膚におけるNF-κB及びAKTの総タンパク質レベルとリン酸化活性タンパク質レベルは全て対照群より高く、乾癬マウスの皮膚におけるIL-1βの活性タンパク質レベルは対照群より高かった(
図11)。
【0033】
さらに、正常対照マウスと乾癬マウスの皮膚からリンパ球を抽出し、単離されたマウス皮膚免疫細胞を特異的な標識抗体を用いてグループ分けしたところ、T細胞という細胞集団に局在化した場合、正常対照マウスと乾癬マウスの皮膚におけるRasgrp1発現量に有意な差が見られたが、単球と好中球は統計学的に有意ではなかった(
図12及び
図13)。
【0034】
さらに、正常対照マウスと乾癬マウスの皮膚組織におけるT細胞とRasgrp1の共標識を免疫蛍光で検出した結果、T細胞にRasgrp1の発現が認められた(
図14)。
【0035】
実施例3 NBUVB照射による、主に表皮細胞から分泌される乾癬マウスの皮膚組織のVEGFの阻害
本発明の実施例では、乾癬マウスとNBUVB照射乾癬マウスの背部皮膚のVEGFAの遺伝子発現をRT-qPCRで検出した結果、NBUVB照射は乾癬マウスの皮膚組織におけるVEGF因子の発現を阻害し(
図15)、免疫組織化学の結果、VEGFは主に皮膚の表皮細胞に発現するとともに、NBUVB照射により表皮VEGFの発現が減少し(
図16)、マウス皮膚に対して表皮と真皮の分離を行い、マウス表皮組織のVEGF発現をRT-qPCRで検出したところ、NBUVB照射によりマウス表皮組織のVEGF遺伝子発現が阻害されたことが示された(
図17)。
【0036】
さらに、Western Blot検出の結果、NBUVB照射により乾癬マウスの背部表皮組織におけるVEGFAのタンパク質発現が阻害されたことが示された(
図18)。RT-qPCR検出の結果、NBUVB照射はマウスの真皮組織のVEGF遺伝子発現に影響を及ぼさないことが示され(
図19)、Western Blot検出の結果、NBUVB照射は乾癬マウスの背部表皮組織のVEGFAのタンパク質発現に影響を及ぼさないことが示された(
図20)。
【0037】
さらに、ヒト乾癬皮膚損傷単細胞の配列決定の結果、VEGFAは主に表皮細胞から分泌され、皮膚顆粒層では、乾癬皮膚損傷組織のVEGFA発現量が正常組織より有意に高いことが示された(
図21)。
【0038】
さらに、HACAT細胞にNBUVBを照射し、照射線量勾配をそれぞれ0mj/cm2、200mj/cm2、400mj/cm2、800mj/cm2とし、照射時間勾配をそれぞれ照射後8h、12h、24hとし、細胞上清を採取してVEGF濃度の変化を検出したところ、照射線量400mj/cm2でHACAT細胞に8h照射すると、上清中のVEGF濃度が有意に低下することが示された(
図22)。
【0039】
さらに、IL-17A及びTNF-αサイトカインを用いてHACAT細胞を刺激し、また、細胞に400mj/cm2のNBUVBを照射し、NBUVB未照射細胞とNBUVB照射群の細胞の上清のVEGFA濃度をElisaにより検出したところ、NBUVB照射群の細胞からのVEGFA分泌濃度は未照射群より有意に低かった(
図23)。
【0040】
実施例4 VEGF皮下注射による乾癬マウスの表現型の悪化、VEGFR阻害剤による乾癬マウスの表現型の軽減
本発明の実施例では、VEGFR阻害剤SU5205をDMSO溶液に溶解して原液を調製し、シクロデキストリンで原液を希釈し、7~8週齢の野生型マウスの背毛を剃り、露出皮膚面積を2cm×2cmとし、マウス塗布濃度10kg/kg/dで皮膚表面に調製したばかりのVEGF阻害剤溶液150μlを塗布し、これにより、VEGFR阻害剤を塗布したマウス乾癬モデルを構築し、対照群動物は対照剤(DMSO+シクロデキストリン150μl)を塗布した。塗布4h後、マウスの露出皮膚にIMQクリーム又は対照剤VASを均一に塗布した。
【0041】
本発明の実施例では、VEGF165タンパク質をDMSO溶液に溶解して原液を調製し、シクロデキストリンで原液を希釈し、7~8週齢の野生型マウスの背毛を剃り、皮膚露出面積を2cm×2cmとし、マウス注射濃度10kg/kg/dで調製したばかりのVEGF165溶液100μlを皮下注射し、これにより、VEGF皮下注射乾癬モデルを構築し、対照群動物は対照剤(DMSO+シクロデキストリン100μl)を皮下注射した。塗布4h後、マウスの露出皮膚にIMQクリーム又は対照剤VASを均一に塗布した。
【0042】
本発明の実施例では、上記の方法に従って、VEGF過剰発現に基づくIMQ誘導乾癬マウスモデルが作成された。皮膚切片のH&E染色及びPASIスコアリングの結果から、VEGF165皮下注射マウスの乾癬様表現型はIMQ誘導対照マウスと比較して有意に悪化し、背中の皮膚の厚さの増加、紅斑や鱗屑の悪化が認められた(
図24及び
図25)。
【0043】
さらに、Western blotを用いてRasgrp1下流経路遺伝子のタンパク質発現を検出した結果、VEGF過剰発現乾癬マウスの皮膚におけるNF-κB及びAKTのリン酸化活性タンパク質レベルは全て有意に向上し、その中でIL-1βの活性タンパク質レベルも対照群より有意に高かった(
図26)。
【0044】
さらに、VEGF過剰発現乾癬マウスでは、皮膚におけるRasgrp1+T細胞、IL-17A+T細胞は有意に増加しており(
図27及び
図28)、皮膚組織におけるVEGFの過剰発現はRasgrp1及び下流の炎症性因子の分泌を活性化し、それによって、T細胞によるIL-17産生を調節し、乾癬様皮膚炎症に影響を及ぼすことが示唆された。
【0045】
さらに、乾癬におけるVEGFの作用機序をさらに明らかにするため、マウスの皮膚にVEGF受容体阻害剤SU5205を塗布し、皮膚のVEGFRを阻害する乾癬マウスモデルを作成した。皮膚切片のH&E染色及びPASIスコアリングの結果、SU5205を塗布したマウスの乾癬様表現型はIMQ誘導対照マウスと比較して有意に軽減され、背中の皮膚の厚さの減少、紅斑や鱗屑の軽減が認められた(
図29及び
図30)。
【0046】
さらに、Western blotを用いてRasgrp1下流経路遺伝子のタンパク質発現を検出した結果、SU5205を塗布した乾癬マウスの皮膚中のNF-κB及びAKTのリン酸化活性タンパク質レベルはいずれも有意に低下し、その中でIL-1βの活性タンパク質レベルも対照群より有意に低かった(
図31)。
【0047】
さらに、SU5205を塗布した乾癬マウスでは、皮膚におけるRasgrp1+T細胞、IL-17A+T細胞は有意に低下した(
図32及び
図33)。
【0048】
以上より、皮膚組織におけるVEGFRの阻害はRasgrp1及び下流の炎症性因子の分泌を減少させ、T細胞によるIL-17産生を調節し、乾癬様皮膚炎症を軽減することが示唆された。
【0049】
実施例5 VEGFによるJurkat細胞の活性化促進、Rasgrp1の過剰発現とノックダウンによるRas経路下流の炎症性因子の分泌変化
本発明の実施例では、Jurkat細胞にRasgrp1レンチウイルスのトランスフェクションを行い、安定な過剰発現及びノックダウン細胞モデルを構築し、VEGFサイトカインを用いてJurkat細胞を刺激し、VEGFがJurkat細胞の活性化を促進できるか否かを検出し、Rasgrp1の過剰発現及びノックダウンがRas経路下流の炎症性因子の分泌変化を引き起こすか否かを検出した。
【0050】
さらに、RT-qPCR実験の結果、VEGF刺激を受けたJurkat細胞では、Rasgrp1及びその下流の炎症性因子分泌は有意に増加し、VEGF刺激下では、Rasgrp1の過剰発現はRAS経路下流の炎症性因子分泌を有意に増加させることが示された(
図34)。
【0051】
さらに、Elisaの結果、VEGF刺激を受けたRasgrp1過剰発現Jurkat細胞の上清におけるIL-1β及びIL-17の分泌濃度は対照群と比較して有意に上昇した(
図35)。Western blotの結果、VEGFの刺激によりJurkat細胞のRasgrp1及びその下流経路のNFκb、AKTのリン酸化活性タンパク質レベルは有意に向上し、VEGFの刺激では、Rasgrp1過剰発現細胞のNF-κB及びAKTのリン酸化活性タンパク質レベルは全て有意に向上し、その中でIL-1βの活性タンパク質レベルも対照群より有意に高かった(
図36)。
【0052】
さらに、RT-qPCRの結果、VEGF刺激を受けたRasgrp1ノックダウンJurkat細胞では、IL1b及びIL17トランスクリプトームレベルは、ノックダウンしていない細胞と比較して、有意に発現が低下していた(
図37)。
【0053】
さらに、Elisaの結果、VEGF刺激を受けたRasgrp1ノックダウン細胞の上清中のIL-1β及びIL-17の分泌濃度は対照群と比較して有意に低下した(
図38)。Western blotの結果、VEGF刺激では、Rasgrp1ノックダウン細胞のNF-κB及びAKTのリン酸化活性タンパク質レベルは有意に低下し、その中でIL-1β活性タンパク質レベルも対照群より有意に低かった(
図39)。
【0054】
以上より、VEGFはJurkat細胞の活性化を促進し、Rasgrp1の過剰発現とノックダウンはRAS経路下流の炎症性因子の分泌変化を引き起こすことが示唆された。
【0055】
実施例6 皮膚におけるRasgrp1の過剰発現による乾癬マウスの皮膚表現型の悪化
本発明の実施例では、マウスにRasgrp1のアデノウイルスを皮下注射することによりRasgrp1アデノ随伴ウイルス皮下注射乾癬モデルを構築し、1匹当たりのウイルス量は5×1011 V.G./mouseとし、PBSを用いてアデノウイルスを希釈し、マウスを、4群の対照群及び4つの時点の注射群の8群に分け、対照群はPBSを注射し、注射後それぞれ7日、14日、21日、28日にマウスを殺し、皮膚組織を用いて蛍光定量qpcr実験を行い、マウス皮膚組織のRasgrp1濃度を検出した。
【0056】
本発明の実施例では、乾癬におけるRasgrp1の作用機序をさらに明らかにするために、上記の方法に従って、Rasgrp1過剰発現に基づくIMQ誘導乾癬マウスモデルを作成し、皮膚切片のH&E染色及びPASIスコアリングの結果、Rasgrp1過剰発現マウスは、IMQ誘導野生型(WT)マウスと比較して乾癬様表現型が有意に悪化し、背中の皮膚の厚みの増加、紅斑や鱗屑の悪化として認められた(
図40及び
図41)。
【0057】
さらに、Elisaの結果、Rasgrp1過剰発現乾癬マウスの皮膚組織では、IL-1β濃度が対照群と比較して有意に上昇した(
図42)。
【0058】
さらに、Rasgrp1及びその下流サイトカインをRT-qPCRで検出した結果、Rasgrp1過剰発現乾癬マウスの皮膚組織では、Rasgrp1、IL1b、IL17a及び関連する炎症性遺伝子発現レベルは有意に向上した(
図43)。さらに、Western blotを用いてRasgrp1下流経路遺伝子のタンパク質発現を検出した結果、Rasgrp1過剰発現乾癬マウスの皮膚では、NF-κB及びAKTのリン酸化活性タンパク質レベルは全て有意に向上し、その中でIL-1βの活性タンパク質レベルも対照群より有意に高かった(
図44)。
【0059】
さらに、Rasgrp1過剰発現乾癬マウスの皮膚では、IL-17A+T細胞が有意に増加した(
図45及び
図46)。
【0060】
以上より、皮膚組織におけるRasgrp1の過剰発現は下流の炎症性因子の分泌を活性化し、それによって、T細胞によるIL-17産生を調節し、乾癬様皮膚炎症に影響を及ぼすことが示唆された。
【0061】
実施例7 NBUVB照射によるRasgrp1過剰発現乾癬マウスの皮膚表現型の軽減
本発明の実施例では、乾癬におけるNBUVBの作用機序をさらに明らかにするために、NBUVB照射治療Rasgrp1過剰発現乾癬マウスモデルを作成し、皮膚切片のH&E染色及びPASIスコアリングの結果、NBUVB照射治療後のRasgrp1過剰発現乾癬マウスは、Rasgrp1過剰発現乾癬マウスと比較して乾癬様表現型が明らかに軽減され、背中の皮膚の厚さの減少、紅斑や鱗屑の軽減として認められた(
図47及び
図48)。
【0062】
さらに、Elisaの結果、NBUVB照射によりRasgrp1過剰発現乾癬マウスの皮膚組織では、IL-1β濃度は対照群に比べ有意に低下した(
図49)。
【0063】
さらに、Rasgrp1及びその下流のサイトカインであるIL1b、IL17aをRT-qPCRで検出した結果、NBUVB照射後のRasgrp1過剰発現乾癬マウスの皮膚組織では、Rasgrp1、IL1b及びIL17aの遺伝子発現レベルはいずれも有意に低下した(
図50)。
【0064】
さらに、Western blotを用いてRasgrp1下流経路遺伝子のタンパク質発現を検出した結果、NBUVB照射後のRasgrp1過剰発現乾癬マウスの皮膚では、NF-κB及びAKTの総タンパク質レベル、リン酸化活性タンパク質レベルは全て明らかに低下し、その中でIL-1βの活性タンパク質レベルも対照群より明らかに低かった(
図51)。
【0065】
さらに、NBUVB照射は、Rasgrp1過剰発現乾癬マウスの皮膚におけるIL-17A+T細胞を有意に低下させた(
図52及び
図53)。
【0066】
以上より、NBUVB照射は皮膚組織に過剰発現するRas経路を阻害し、下流の炎症性因子を阻害し、T細胞によるIL-17産生を阻害し、乾癬様皮膚炎症を軽減することが示唆された。
【0067】
実施例8 Rasgrp1のノックアウトによる乾癬マウスの表現型の軽減
本発明の実施例では、乾癬におけるRasgrp1の作用機序をさらに明らかにするために、Rasgrp1ノックアウトマウスを構築し、Rasgrp1のノックアウトが乾癬マウスの表現型に影響を及ぼすか否かを観察し、皮膚切片のH&E染色及びPASIスコアリングの結果、Rasgrp1ノックアウトマウスの乾癬様表現型は、IMQ誘導野生型(WT)マウスと比較して明らかに軽減され、背中の皮膚の厚さの減少、紅斑や鱗屑の軽減として認められた(
図54及び
図55)。
【0068】
さらに、Elisaの結果、Rasgrp1ノックアウト乾癬マウスの皮膚組織では、IL-1βの濃度が対照群と比較して有意に低下した(
図56)。Rasgrp1下流サイトカインをRT-qPCRで検出した結果、Rasgrp1ノックアウト乾癬マウスの皮膚組織では、IL1b、IL17a及び関連する炎症性遺伝子発現レベルはいずれも有意に低下した(
図57)。さらに、Western blotを用いてRasgrp1下流経路遺伝子のタンパク質発現を検出した結果、Rasgrp1ノックアウト乾癬マウスの皮膚では、NF-κB及びAKTのリン酸化活性タンパク質レベルは全て有意に低下し、その中でIL-1βの活性タンパク質レベルも対照群より有意に低かった(
図58)。
【0069】
さらに、Rasgrp1ノックアウト乾癬マウスの皮膚では、IL-17A+T細胞が有意に減少した(
図59及び
図60)。
【0070】
以上より、皮膚組織におけるRasgrp1のノックアウトは下流の炎症性因子の分泌を阻害し、T細胞によるIL-17産生を阻害し、乾癬様皮膚炎症を軽減することが示唆された。
【0071】
なお、上記の実施例は、本発明の技術的解決手段を説明するためにのみ使用され、限定されるものではなく、本発明は好適な実施例を参照して詳細に説明されたが、当業者であれば、本発明の技術的解決手段は、本発明の技術的解決手段の趣旨及び範囲を逸脱することなく、修正又は同等の置換を行うことができ、これらはいずれも本発明の特許請求の範囲に含まれるものであることを理解できる。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾癬を治療するための製剤の調製におけるVEGFR遺伝子発現阻害剤の使用であって、前記VEGFR遺伝子発現阻害剤は、SU5205であることを特徴とする使用。
【請求項2】
製剤は化学製剤又は生物学的製剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
製剤はペースト剤、粉剤又は水剤を含むことを特徴とする請求項2に記載の使用。