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特開2024-49316磁気ディスク基板の研磨方法、及び磁気ディスク基板用研磨剤組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049316
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】磁気ディスク基板の研磨方法、及び磁気ディスク基板用研磨剤組成物
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/84 20060101AFI20240402BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20240402BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20240402BHJP
【FI】
G11B5/84 A
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
B24B37/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101649
(22)【出願日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2022154729
(32)【優先日】2022-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000178310
【氏名又は名称】山口精研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100198856
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 聡
(72)【発明者】
【氏名】安藤 順一郎
【テーマコード(参考)】
3C158
5D112
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CA01
3C158CB01
3C158CB03
3C158CB10
3C158DA02
3C158DA18
3C158EA01
3C158EB01
3C158ED03
3C158ED10
3C158ED12
3C158ED22
3C158ED26
5D112AA02
5D112AA24
5D112BA06
5D112GA08
5D112GA09
5D112GA14
(57)【要約】
【課題】粗研磨工程後の基板表面上の残留物を低減し、表面欠陥やスクラッチの低減を実現できる磁気ディスク基板の研磨方法の提供を課題とする。
【解決手段】磁気ディスク基板の研磨方法は、(1)研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、前段の研磨を行う工程、(2)工程(1)で得られた磁気ディスク基板をリンス処理する工程、(3)平均粒子径(D50)が200~600nmである湿式法シリカと、平均粒子径(D50)が10~100nmでありHeywood径で測定された体積基準の粒度分布における粒子径50nmの累積体積頻度が35%以上かつ粒度分布における粒子径15nmの累積体積頻度が90%以下であるコロイダルシリカと、水とを含有し、湿式法シリカとコロイダルシリカの割合が質量比で5:95~95:5である研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、後段の研磨を行う工程を有し、各工程(1)~(3)を同一研磨機で行う。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一研磨機で行う磁気ディスク基板の研磨方法。
(1)アルミナ粒子と、水とを含有する研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、磁気ディスク基板の前段の研磨を行う工程
(2)工程(1)で得られた前記磁気ディスク基板をリンス処理する工程
(3)平均粒子径(D50)が200~600nmである湿式法シリカと、平均粒子径(D50)が10~100nmでありHeywood径で測定された体積基準の粒度分布における粒子径50nmの累積体積頻度が35%以上かつ前記粒度分布における粒子径15nmの累積体積頻度が90%以下であるコロイダルシリカと、水とを含有し、前記湿式法シリカとコロイダルシリカの割合が質量比で5:95~95:5である研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の後段の研磨を行う工程
【請求項2】
前記研磨剤組成物Bが、リン含有無機酸及び/またはその塩、リン含有有機酸及び/またはその塩から選ばれる少なくとも1種を更に含有する請求項1に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【請求項3】
前記研磨剤組成物Bが、水溶性高分子化合物を更に含有する請求項1に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【請求項4】
前記リン含有無機酸及び/またはその塩が、リン酸、ホスホン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【請求項5】
前記リン含有有機酸及び/またはその塩が、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α―メチルホスホノコハク酸、及びその塩から選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【請求項6】
前記水溶性高分子化合物が、不飽和脂肪族カルボン酸に由来する構成単位と不飽和アミドに由来する構成単位を必須構成単位とする共重合体である請求項3に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【請求項7】
前記湿式法シリカが、粉砕工程を経て得られた湿式法シリカである請求項1に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【請求項8】
前記研磨剤組成物BのpH値(25℃)が1.0~10.0の範囲にある請求項1に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【請求項9】
前記研磨剤組成物A及び前記研磨剤組成物Bが、酸化剤を更に含有している請求項1に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【請求項10】
アルミニウム合金基板の表面にニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用の磁気ディスク基板の研磨を多段研磨方式で行う際に、最終研磨工程よりも前の研磨工程で行う請求項1に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の磁気ディスク基板の研磨方法において、工程(3)で使用される磁気ディスク基板用研磨剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク基板の研磨方法、及び磁気ディスク基板用研磨剤組成物に関する。特に、磁気ディスクドライブの磁気ディスク基板として広く使用されている、アルミニウムハードディスク基板の研磨方法に関し、更にはアルミニウム合金基板の表面にニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用の磁気ディスク基板の研磨方法、及び当該研磨方法に使用される磁気ディスク基板用研磨剤組成物に関する。特には、アルミニウム合金基板の表面にニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用の磁気ディスク基板の研磨を多段研磨で行う研磨方法、及び当該研磨方法に使用される磁気ディスク基板用研磨剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスクドライブは小型化・大容量化が進み、高記録密度化が求められている。そこで、高記録密度磁気信号の検出感度を向上させる必要があり、磁気ヘッドの浮上高さをより低下し、単位記録面積を縮小する技術開発が進められている。磁気ディスク基板は、磁気ヘッドの低浮上化と記録面積の確保に対応するため、平滑性及び平坦性の向上(表面粗さ、うねり、ロールオフの低減)や表面欠陥の低減(残留砥粒、スクラッチ、突起、ピット等の低減)が厳しく要求されている。
【0003】
このような要求に対して、うねりが小さく、かつロールオフが小さいといった表面品質向上と生産性向上を両立させる観点から、磁気ディスク基板の研磨方法においては、2段階以上の研磨工程を有する多段研磨方式が採用されることが多い(特許文献1)。一般に、多段研磨方式の最終工程、すなわち、仕上げ工程では、表面粗さの低減、スクラッチ、突起、ピット等の傷の低減の観点から、シリカ粒子を含む研磨剤組成物が使用される。一方、それより前の研磨工程(粗研磨工程ともいう)では、生産性向上の観点から、アルミナ粒子を含む研磨剤組成物が使用される場合が多い。
【0004】
しかし、アルミニウムハードディスク基板の研磨を行う場合、アルミナ粒子はアルミニウム合金基板に比べてかなり硬度が高いため、アルミナ砥粒が基板に突き刺さったり、固着したりすることにより、それが仕上げ研磨に残留すると悪影響を与えることが問題になっていた。
【0005】
このような問題の解決策として、粗研磨工程において同一研磨機でアルミナ含有研磨剤組成物を使用した研磨と、コロイダルシリカ含有研磨剤組成物を使用した研磨を行う研磨方法が開示されている(特許文献2)。更に、アルミナ含有研磨剤組成物を使用した研磨とコロイダルシリカ含有研磨剤組成物を使用した研磨との間に砥粒を含まない洗浄液を供給する方法も開示されている(特許文献3)。更に、これらの提案のコロイダルシリカ含有研磨剤組成物を使用する際に水溶性高分子化合物を添加する方法も開示されている(特許文献4)。
【0006】
また、研磨材と研磨助剤と水を含む研磨材組成物を用いて磁気記録媒体基板を研磨する際に、アルミナ砥粒が研磨材である場合に、研磨助剤が脂肪族系有機硫酸塩であることにより研磨速度向上と表面粗さ低減が図れるという提案もなされている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62―208860号公報
【特許文献2】特開2012―25873号公報
【特許文献3】特開2012―43493号公報
【特許文献4】特開2020-71890号公報
【特許文献5】国際公開第98/021289号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
磁気ディスクドライブの大容量化に伴い、基板の表面品質に対する要求特性は更に厳しくなっており、磁気ディスク基板の研磨工程において、生産性を向上させつつ、研磨後の基板表面上の残留物を低減し、表面欠陥やスクラッチを更に低減することが求められている。
【0009】
そこで本発明は、生産性を向上させつつ、多段研磨方式における粗研磨工程後の基板表面上の残留物を低減し、表面欠陥やスクラッチの低減を実現できる磁気ディスク基板の研磨方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1] 下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一研磨機で行う磁気ディスク基板の研磨方法。
(1)アルミナ粒子と、水とを含有する研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、磁気ディスク基板の前段の研磨を行う工程
(2)工程(1)で得られた前記磁気ディスク基板をリンス処理する工程
(3)平均粒子径(D50)が200~600nmである湿式法シリカと、平均粒子径(D50)が10~100nmでありHeywood径で測定された体積基準の粒度分布における粒子径50nmの累積体積頻度が35%以上かつ前記粒度分布における粒子径15nmの累積体積頻度が90%以下であるコロイダルシリカと、水とを含有し、前記湿式法シリカとコロイダルシリカの割合が質量比で5:95~95:5である研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の後段の研磨を行う工程
【0011】
[2] 前記研磨剤組成物Bが、リン含有無機酸及び/またはその塩、リン含有有機酸及び/またはその塩から選ばれる少なくとも1種を更に含有する前記[1]に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【0012】
[3] 前記研磨剤組成物Bが、水溶性高分子化合物を更に含有する前記[1]または[2]に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【0013】
[4] 前記リン含有無機酸及び/またはその塩が、リン酸、ホスホン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種である前記[2]に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【0014】
[5] 前記リン含有有機酸及び/またはその塩が、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α―メチルホスホノコハク酸、及びその塩から選ばれる少なくとも1種である前記[2]に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【0015】
[6] 前記水溶性高分子化合物が、不飽和脂肪族カルボン酸に由来する構成単位と不飽和アミドに由来する構成単位を必須構成単位とする共重合体である前記[3]に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【0016】
[7] 前記湿式法シリカが、粉砕工程を経て得られた湿式法シリカである前記[1]~[6]のいずれかに記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【0017】
[8] 前記研磨剤組成物BのpH値(25℃)が1.0~10.0の範囲にある前記[1]~[7]のいずれかに記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【0018】
[9] 前記研磨剤組成物A及び前記研磨剤組成物Bが、酸化剤を更に含有している前記[1]~[8]のいずれかに記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【0019】
[10] アルミニウム合金基板の表面にニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用の磁気ディスク基板の研磨を多段研磨方式で行う際に、最終研磨工程よりも前の研磨工程で行う前記[1]~[9]のいずれかに記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【0020】
[11] 前記[1]~[10]のいずれかに記載の磁気ディスク基板の研磨方法において、工程(3)で使用される磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、多段研磨方式における粗研磨工程後の、基板表面上の残留物を低減し、表面欠陥やスクラッチを低減し、かつ生産性を向上させるという効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0023】
本発明は、多段研磨方式における粗研磨工程と仕上げ研磨工程とを含む磁気ディスク基板の研磨方法における粗研磨工程に関し、粗研磨工程を同一の研磨機において研磨する方法、及び当該研磨方法に用いられる磁気ディスク基板用研磨剤組成物である。(1)アルミナ粒子と、水を含有する研磨剤組成物Aを用いる前段の粗研磨と、(2)前段の粗研磨後のリンス処理と、(3)リンス処理後のコロイダルシリカと、水とを含有する研磨剤組成物Bを用いる後段の粗研磨を行うに際し、特定の湿式法シリカを研磨剤組成物Bに含有させる。これにより、研磨速度を向上させつつ、粗研磨後の基板表面の残留物や表面欠陥とスクラッチを低減できるという知見に本発明は基づく。
【0024】
以下に本発明の磁気ディスク基板の研磨方法を説明する。本発明の研磨方法における被研磨基板は、磁気記録媒体用の磁気ディスク基板であり、好適にはアルミニウム合金基板の表面にニッケル-リンめっき皮膜を形成したアルミニウム磁気ディスク基板である。
【0025】
工程(1):前段の研磨
本発明の磁気ディスク基板の研磨方法は、多段研磨方式における粗研磨工程で、アルミナ粒子と、水を含有する研磨剤組成物Aを被研磨基板の研磨対象面に供給し、研磨対象面に研磨パッドを接触させ、研磨パッド及び/または被研磨対象基板を動かして研磨対象面を研磨する工程(1)を有する。工程(1)で使用される研磨機としては、特に限定されず、磁気ディスク基板用の公知の研磨機が使用できる。
【0026】
工程(2):リンス処理
多段研磨方式における粗研磨工程後の基板の表面欠陥とスクラッチを低減する観点から、本発明の基板研磨方法は、工程(1)の後に、同一の研磨機において、工程(1)で得られた基板をリンス処理する工程(工程(2))を有する。リンス処理に用いるリンス液としては、特に制限されないが、経済性の観点からは蒸留水、イオン交換水、純水、及び超純水等の水が使用され得る。また、工程(2)は、生産性の観点から工程(1)で使用した研磨機から被研磨基板を取り出すことなく、同じ研磨機内で行う。なお、本発明において、リンス処理とは、基板表面に残留した砥粒、研磨屑を排出することを目的とした処理をいう。
【0027】
工程(3):後段の研磨
本発明の磁気ディスク基板の研磨方法は、多段研磨方式における粗研磨工程後の基板の表面欠陥とスクラッチを低減する観点から、湿式法シリカと、コロイダルシリカと、水とを含有する研磨剤組成物Bをリンス処理工程(2)で得られた基板の研磨対象面に供給し、研磨対象面に研磨パッド及び/または前記被研磨基板を動かして研磨対象面を研磨する工程(3)を有する。生産性向上の観点、及び粗研磨後の基板の表面の残留物や表面欠陥とスクラッチ低減の観点から、工程(1)~(3)は、同一の研磨機で行う。
【0028】
本発明の基板研磨方法は、前述の、多段研磨方式における前段の粗研磨工程(1)、リンス処理工程(2)、後段の粗研磨工程(3)において、後段の粗研磨工程(3)で使用する研磨剤組成物が特定の湿式法シリカを含有することにより、粗研磨後の基板の表面の残留物や表面欠陥とスクラッチが効果的に低減された基板を効率的に製造するものである。すなわち、多段研磨方式を行う際に、最終研磨工程よりも前の研磨工程で実施される磁気ディスク基板の研磨方法に関するものである。
【0029】
具体的には、本発明の磁気ディスク基板の研磨方法は、下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一研磨機で行う磁気ディスク基板の研磨方法である。
(1)アルミナ粒子と、水とを含有する研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、磁気ディスク基板の前段の研磨を行う工程
(2)工程(1)で得られた前記磁気ディスク基板をリンス処理する工程
(3)湿式法シリカと、コロイダルシリカと、水とを含有する研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の後段の研磨を行う工程
【0030】
以下に、本発明の基板研磨方法で使用される研磨剤組成物について説明する。
(A)研磨剤組成物A
本発明の磁気ディスク基板の研磨方法の工程(1)で使用する研磨剤組成物Aは、アルミナ粒子を含有する水系組成物であり、任意成分として有機硫酸エステル塩化合物を含有する組成物である。更にpH調整のために、または任意成分として、酸及び/またはその塩を含有してもよい。また、研磨促進剤として酸化剤を含有してもよい。
【0031】
(A―1)アルミナ粒子
アルミナ粒子はα―アルミナ及び/または中間アルミナを含むことが好ましい。中間アルミナとしては、γ―アルミナ、δ―アルミナ、θ―アルミナなどが挙げられる。また、α―アルミナと中間アルミナの両方を含む場合の混合比(中間アルミナ/α―アルミナ、質量比)は、0.1~2.0が好ましく、更に好ましくは0.1~1.0である。
【0032】
アルミナを製造する際の原料としては、ギブサイト:Al・3HO、ベーマイト:Al・HO、擬ベーマイト:Al・nHO(n=1~2)などが挙げられる。これらのアルミナ原料は、例えば以下のような方法で調製される。
【0033】
ギブサイト:Al・3H
ボーキサイトを水酸化ナトリウムの熱溶液で溶解し、不溶成分をろ過により除去して得られた溶液を冷却し、その結果得られた沈殿物を乾燥することにより得られる。
【0034】
ベーマイト:Al・H
金属アルミニウムとアルコールとの反応により得られるアルミニウムアルコキシド:Al(OR)を加水分解することにより得られる。
【0035】
擬ベーマイト:Al・nHO(n=1~2)
ギブサイトをアルカリ性雰囲気下、水蒸気で処理して得られる。
これらのアルミナ原料を焼成することにより、α―アルミナ、γ―アルミナ、δ―アルミナ、θ―アルミナなどが得られる。
【0036】
アルミナ粒子の平均粒子径(D50)は、好ましくは0.01~2.0μmであり、より好ましくは0.02~1.0μmである。アルミナ粒子の平均粒子径が0.01μm以上であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。アルミナ粒子の平均粒子径が2.0μm以下であることにより、研磨後の表面粗さとスクラッチの悪化を抑制することができる。
【0037】
アルミナ粒子の研磨剤組成物A中の濃度は、好ましくは1~50質量%であり、より好ましくは2~40質量%である。アルミナ粒子の濃度が1質量%以上であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。アルミナ粒子の濃度が50質量%以下であることにより、不必要にアルミナ粒子を使用することなく、経済的に有利に研磨することができる。
【0038】
(A―2)有機硫酸エステル塩化合物
本発明で研磨剤組成物Aにおいては、任意成分として有機硫酸エステル塩化合物を含有することができる。有機硫酸エステル塩化合物としては、下記の第一の態様と第二の態様のいずれかのものを含有することができる。
【0039】
(A―2―1)有機硫酸エステル塩化合物(第一の態様)
本発明で研磨剤組成物Aで用いられる有機硫酸エステル塩化合物の第一の態様としては、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
R―O―SOM (1)
式中、Rは炭素数5~21の直鎖または分岐のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはアルキルアリール基を表し、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオンまたは有機カチオンを表す。
【0040】
上記一般式(1)においてRの炭素数が5に満たないと研磨により発生した研磨屑の分散除去能や再付着防止能が不足してしまうことがあり、21を超えると有機硫酸エステル塩化合物自身の研磨剤組成物中での溶解性・分散安定性が低下したり、研磨剤組成物の使用中に溶解性・分散安定性が低下したりすることがある。Rの炭素数は8~14であることが好ましく、10~14であることが更に好ましい。
【0041】
具体的に示すアルキル基の例としては、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イソオクチル基、イソドデシル基等が挙げられる。また、アルケニル基の例としてはオレイル基等が挙げられる。また、アリール基の例としてはフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。また、アルキルアリール基の例としては、トリル基、キシリル基、オクチルフェニル基等が挙げられる。Rは酸化安定性、分散安定性の点からアルキル基であることが好ましい。
【0042】
上記一般式(1)におけるMの例としては、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属、カルシウムやマグネシウム等のアルカリ土類金属、アンモニウムイオン、4級アンモニウムイオンやトリエタノールアミン等の有機アミン等が挙げられる。
【0043】
上記一般式(1)で表される有機硫酸エステル塩化合物の具体例としては、ヘプチル硫酸塩、オクチル硫酸塩、ラウリル硫酸塩、高級アルコール(ヤシ油)硫酸塩、ステアリル硫酸塩等が挙げられ、オクチル硫酸塩、ラウリル硫酸塩、ステアリル硫酸塩を用いることが好ましい。上記一般式(1)で表される有機硫酸エステル塩化合物は、本発明の研磨剤組成物中に1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0044】
研磨剤組成物A中の上記一般式(1)で表される有機硫酸エステル塩化合物の含有量は、通常0.0001~2.0質量%であり、好ましくは0.0005~1.0質量%である。
【0045】
(A―2―2)有機硫酸エステル塩化合物(第二の態様)
研磨剤組成物Aで用いられる有機硫酸エステル塩化合物の第二の態様としては、下記一般式(2)で表される有機硫酸エステル塩化合物であることが好ましい。
R―O―(AO)n―SOM (2)
式中、Rは炭素数5~21の直鎖または分岐のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはアルキルアリール基を表し、AOは炭素数2または3のオキシアルキレン基を表し、nは1~30の整数を表し、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオン、または有機カチオンを表す。
【0046】
上記一般式(2)で表される有機硫酸エステル塩化合物において、Rは炭素数5~21の直鎖または分岐のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはアルキルアリール基である。Rの炭素数は8~14であることが好ましく、10~14であることが更に好ましい。また、Rはアルキル基であることが好ましい。
【0047】
上記一般式(2)において、AOは炭素数2または3のオキシアルキレン基である。上記一般式(2)において、nは1~30の整数であり、好ましくは2~4である。上記一般式(2)において、Mの具体例としては、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属、カルシウムやマグネシウム等のアルカリ土類金属、アンモニウムイオン、4級アンモニウムイオンやトリエタノールアミン等の有機アミンが挙げられる。
【0048】
上記一般式(2)で表される有機硫酸エステル塩化合物としては、アニオン界面活性剤として一般的に知られている水溶性のものが用いられている。本発明において、上記一般式(2)で表される有機硫酸エステル塩化合物とは、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアリールエーテル硫酸エステル塩、及びポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩のいずれも含むものとする。
【0049】
更に具体的には、上記一般式(2)で表される有機硫酸エステル塩化合物としては、オキシエチレントリデシルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が2個または3個)、オキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が2個または3個)、オキシエチレンノニルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が3個)、オキシエチレンオクチルフェニルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が3個)、オキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸塩(1分子あたりオキシエチレン基が3個)などが挙げられる。これらのうち、特にオキシエチレントリデシルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が3個)、オキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が3個)、オキシエチレンオクチルフェニルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が3個)、オキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が3個)を用いることが好ましい。
【0050】
研磨剤組成物A中に用いられる上記一般式(2)で表される有機硫酸エステル塩化合物は、1種あるいは2種以上を組み合わせて使用される。また、上記一般式(1)で表される有機硫酸エステル塩化合物と組み合わせて用いることもできる。
【0051】
研磨剤組成物A中の上記一般式(2)の有機硫酸エステル塩化合物の含有量は、通常0.0001~2.0質量%であり、好ましくは0.0005~1.0質量%である。
【0052】
(A―3)酸及び/またはその塩
本発明において、研磨剤組成物Aでは、pH調整のために、または任意成分として、酸及び/またはその塩を使用することができる。使用される酸及び/またはその塩としては、無機酸及び/またはその塩と有機酸及び/またはその塩が挙げられる。
【0053】
無機酸及び/またはその塩としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、ホスホン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸等の無機酸及び/またはその塩が挙げられる。
【0054】
有機酸及び/またはその塩としては、グルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノカルボン酸及び/またはその塩、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、ニトロ酢酸、マレイン酸、リンゴ酸、コハク酸等のカルボン酸及び/またはその塩、有機ホスホン酸及び/またはその塩が挙げられる。これらの酸及び/またはその塩は、1種または2種以上を用いることができる。
【0055】
有機ホスホン酸及び/またはその塩としては、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α―メチルホスホノコハク酸、及びその塩から選ばれる少なくとも1種以上の化合物が挙げられる。
【0056】
上記の化合物は、2種以上を組み合わせて使用することも好ましい実施態様であり、具体的には、硫酸及び/またはその塩と有機ホスホン酸及び/またはその塩の組み合わせ、リン酸及び/またはその塩と有機ホスホン酸及び/またはその塩の組み合わせなどが挙げられる。
【0057】
(A―4)酸化剤
本発明における研磨剤組成物Aは、研磨促進剤として酸化剤を含有してもよい。酸化剤としては、過酸化物、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、ペルオキソ酸またはその塩、ハロゲンオキソ酸またはその塩、酸素酸またはその塩、これらの酸化剤を2種以上混合したもの等を用いることができる。
【0058】
具体的には、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、過酸化カリウム、過マンガン酸カリウム、クロム酸の金属塩、ジクロム酸の金属塩、過硫酸、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ペルオキソリン酸、ペルオキソホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム等が挙げられる。中でも過酸化水素、過硫酸及びその塩、次亜塩素酸及びその塩などが好ましく、更に好ましくは過酸化水素である。
【0059】
研磨剤組成物A中の酸化剤含有量は、0.01~10.0質量%であることが好ましい。より好ましくは0.1~5.0質量%である。
【0060】
(A―5)研磨剤組成物Aの物性(pH)
本発明における研磨剤組成物AのpH値(25℃)の範囲は、好ましくは0.1~4.0である。より好ましくは0.5~3.0である。研磨剤組成物AのpH値(25℃)が0.1以上であることにより、表面荒れを抑制することができる。研磨剤組成物AのpH値(25℃)が4.0以下であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。
【0061】
(B)研磨剤組成物B
本発明の磁気ディスク基板の研磨方法の工程(3)で使用する研磨剤組成物Bは、湿式法シリカとコロイダルシリカを含有する水性組成物であり、任意成分として水溶性高分子化合物、有機硫酸エステル塩化合物、脂肪族アミン化合物、酸及び/またはその塩、酸化剤などを含有してもよい。
【0062】
(B―1)湿式法シリカ
本発明の研磨剤組成物Bに含有される湿式法シリカは、ケイ酸アルカリ水溶液と無機酸または無機酸水溶液を反応容器に添加することにより、沈殿ケイ酸として得られるシリカ粒子から調製されるものである。なお、本明細書における湿式法シリカには、コロイダルシリカは含まれない。
【0063】
湿式法シリカの原料となるケイ酸アルカリ水溶液は、例えば、ケイ酸ナトリウム水溶液、ケイ酸カリウム水溶液、及びケイ酸リチウム水溶液等を挙げることができ、一般的にはケイ酸ナトリウム水溶液の使用が好ましい。一方、ケイ酸ナトリウム水溶液とともに反応容器内に添加される無機酸としては、例えば、硫酸、塩酸、及び硝酸等を挙げることができ、一般的には硫酸の使用が好ましい。
【0064】
反応容器内に湿式法シリカの原料となるケイ酸アルカリ水溶液及び無機酸等の各成分を
添加し、反応終了後の反応容器をろ過し、水洗し、その後乾燥機で水分が6%以下となるように乾燥処理を行う。ここで、使用する乾燥機は、特に限定されるものではなく、例えば、静置乾燥機、噴霧乾燥機、及び流動乾燥機等のいずれかを用いるものであっても構わない。その後、ジェットミル等の粉砕機で粉砕し(本発明における粉砕工程に相当)、更に分級を行うことで粉砕された上記湿式法シリカを得ることができる。
【0065】
得られた湿式法シリカに更に焼成処理を行うものであっても構わない。例えば、電気炉或いはロータリーキルン等の一般的な焼成装置を用いて焼成処理を行うことができる。この場合、湿式法シリカの焼成処理に係る焼成温度は、600~1100℃の範囲に設定することができる。なお、焼成処理を行った後に、上述の粉砕処理を行うものであってもよい。このような粉砕処理によって粉砕された湿式法シリカは、その粒子形状が複数の角部を有して構成されており、粉砕処理を行っていない一般的な球状を呈する湿式法シリカの粒子と比較すると高い研磨性能を有することが期待される。
【0066】
得られた湿式法シリカの平均粒子径は、好ましくは200~600nmの範囲内であり、更に好ましくは200~500nmの範囲内である。湿式法シリカの平均粒子径が200nm以上であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。換言すれば、湿式法シリカの平均粒子径が200nm未満の場合、十分な研磨性能を有することができず、研磨速度が低下するおそれがある。一方、平均粒子径が600nm以下であることにより、研磨後の基板の表面粗さやスクラッチを低減することができる。
【0067】
研磨剤組成物B中の湿式法シリカ濃度は、0.1~20質量%であることが好ましく、より好ましくは0.2~10質量%である。
【0068】
(B―2)コロイダルシリカ
本発明の研磨剤組成物Bに含有されるコロイダルシリカは、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のケイ酸アルカリ金属塩を原料とし、当該原料を水溶液中で縮合反応させて粒子を成長させる水ガラス法で得られる。またはテトラエトキシシラン等のアルコキシシランを原料とし、当該原料をアルコール等の水溶性有機溶媒を含有する水中で、酸またはアルカリでの加水分解による縮合反応によって粒子を成長させるアルコキシシラン法によっても得られる。あるいは、金属ケイ素と水との反応によっても得ることができる。
【0069】
コロイダルシリカは球状、鎖状、金平糖型、異形型などの形状が知られており、水中に一次粒子が単分散してコロイド状をなしている。研磨剤組成物Bに含有されるコロイダルシリカとしては、球状または球状に近いコロイダルシリカが好ましい。
【0070】
本発明の研磨剤組成物Bに含有されるコロイダルシリカの平均粒子径(D50)は、10~100nmであり、Heywood径で測定された体積基準の粒度分布における粒子径50nmの累積体積頻度が35%以上であり、かつ、粒度分布における粒子径15nmの累積体積頻度が90%以下である。
【0071】
本明細書における累積体積頻度(%)とは、通常において用いられる意味と同じであり、対象となる粒子の集まりについての粒子径の最も小さい粒子を起点として粒子径の大きさの順に体積を積算していった分布において、ある数値以下の粒子径を有する粒子の体積の合計が、対象となる全ての粒子の体積の合計に対して占める割合(%)を表すものである。
【0072】
例えば、粒子径が15nmの累積体積頻度が50%の場合、粒子径が15nm以下の粒子の体積の合計が全ての粒子の体積の50%を占めていることを意味するものである。なお、Heywood径とは、電子顕微鏡観察によって得られた画像を解析し、投射面積円相当径を求めて得られた結果であり、従来から周知のものである。
【0073】
本発明の研磨剤組成物Bに含有されるコロイダルシリカは、粒子径が50nm以上の大きな粒子と、粒子径が15nm以下の小さな粒子とが粒子全体に対して占める割合が比較的少なく抑えられている。このような粒度分布のコロイダルシリカは、研磨パッドによって擦られている対象物の表面に供給された場合、研磨パッドに十分保持されやすい。
【0074】
また、上記の粒度分布であるため、コロイダルシリカと対象物の表面との間にできる隙間は、残留砥粒や研磨屑などよりも小さくなっている傾向にある。そのため、残留砥粒や研磨屑がコロイダルシリカと対象物の表面との隙間に逃げ込みにくくなって、残留砥粒や研磨屑とコロイダルシリカの衝突頻度が高まり、対象物の表面から残留砥粒や研磨屑などを効率的に除去することができる。
【0075】
更に、粒子径50nm以下のコロイダルシリカの粒子が相当な数を確保されていることによって、あるコロイダルシリカと対象物の表面との間の隙間に、別の小さい粒子径のコロイダルシリカが入り込む状態が生じやすくなっている。これにより、コロイダルシリカと対象物の表面との隙間に、残留砥粒や研磨屑などが逃げ込みにくくなり、対象物の表面から除去されやすくなる。また、コロイダルシリカは球状または球状に近い形状であるため、対象物の表面に付着したり、突き刺さったりしにくい傾向にある。したがって、コロイダルシリカ自体は、対象物の表面に残留しにくい。
【0076】
研磨剤組成物B中のコロイダルシリカ濃度は、0.1~20質量%であることが好ましく、より好ましくは0.2~10質量%である。
【0077】
研磨剤組成物B中の湿式法シリカとコロイダルシリカの割合は、質量比で5:95~95:5であり、好ましくは10:90~90:10である。
【0078】
(B―3)水溶性高分子化合物
本発明の研磨剤組成物Bにおいては水溶性高分子化合物を用いることが好ましい。本発明の研磨剤組成物Bに好ましく用いられる水溶性高分子化合物は、好ましくは不飽和脂肪族カルボン酸に由来する構成単位と不飽和アミドに由来する構成単位を必須構成単位として含有する共重合体である。ここで、水溶性高分子化合物は、不飽和脂肪族カルボン酸及び/またはその塩と、不飽和アミドとを必須単量体として共重合させた高分子化合物であることが好ましい。これらの単量体に加えてその他の単量体も共重合させた水溶性高分子化合物を用いることができる。
【0079】
(B-3―1)不飽和脂肪族カルボン酸
不飽和脂肪族カルボン酸及び/またはその塩としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸及びこれらの塩などが挙げられる。
【0080】
不飽和脂肪族カルボン酸に由来する構成単位は、水溶性高分子化合物中、その少なくとも一部がカルボン酸の塩として含有されても良い。カルボン酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルキルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0081】
水溶性高分子化合物中、不飽和脂肪族カルボン酸に由来する構成単位を、カルボン酸として含有させるには、不飽和脂肪族カルボン酸を単量体として重合しても良いし、不飽和脂肪族カルボン酸の塩を単量体として重合した後、陽イオン交換することによりカルボン酸へと変換しても良い。また、水溶性高分子化合物中、不飽和脂肪族カルボン酸に由来する構成単位をカルボン酸の塩として含有させるには、不飽和脂肪族カルボン酸の塩を単量体として重合しても良いし、不飽和脂肪族カルボン酸を単量体として重合した後、塩基で中和することによりカルボン酸の塩を形成しても良い。
【0082】
水溶性高分子化合物中、カルボン酸として含有される構成単位と、カルボン酸の塩として含有される構成単位との割合を評価するには、水溶性高分子化合物のpH値を用いることができる。水溶性高分子化合物のpH値が低い場合には、カルボン酸として含有される構成単位の割合が高いと評価できる。一方、水溶性高分子化合物のpH値が高い場合には、カルボン酸の塩として含有される構成単位の割合が高いと評価できる。本発明においては、例えば、濃度10質量%の水溶性高分子化合物水溶液におけるpH値(25℃)が1~13の水溶性高分子化合物を用いることができる。
【0083】
(B―3―2)不飽和アミド
不飽和アミドとしては、好ましくはアクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミドなどが挙げられる。更に好ましくは、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミドなどが挙げられる。N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミドなどの好ましい具体例としては、N―メチルアクリルアミド、N―エチルアクリルアミド、N―n―プロピルアクリルアミド、N―iso―プロピルアクリルアミド、N―n―ブチルアクリルアミド、N―iso―ブチルアクリルアミド、N―sec―ブチルアクリルアミド、N―tert―ブチルアクリルアミド、N―メチルメタクリルアミド、N―エチルメタクリルアミド、N―n―プロピルメタクリルアミド、N―iso―プロピルメタクリルアミド、N―n―ブチルメタクリルアミド、N―iso―ブチルメタクリルアミド、N―sec―ブチルメタクリルアミド、N―tert―ブチルメタクリルアミドなどが挙げられる。なかでも、N―n―ブチルアクリルアミド、N―iso―ブチルアクリルアミド、N―sec―ブチルアクリルアミド、N―tert―ブチルアクリルアミド、N―n―ブチルメタクリルアミド、N―iso―ブチルメタクリルアミド、N―sec―ブチルメタクリルアミド、N―tert―ブチルメタクリルアミド、などが好ましい。
【0084】
(B―3―3)その他の単量体
その他の単量体としては、例えばスルホン酸基を有する単量体が挙げられる。スルホン酸基を有する単量体の具体例としては、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、ビニルナフタレンスルホン酸、及びこれらの塩が挙げられる。
【0085】
(B-3―4)共重合体
本発明で使用される水溶性高分子化合物は、これらの単量体成分を組み合わせて重合することにより、共重合体とすることが好ましい。共重合の組み合わせとしては、アクリル酸及び/またはその塩とN-アルキルアクリルアミドの組み合わせ、アクリル酸及び/またはその塩とN-アルキルメタクリルアミドの組み合わせ、メタクリル酸及び/またはその塩とN―アルキルアクリルアミドの組み合わせ、メタクリル酸及び/またはその塩とN-アルキルメタクリルアミドの組み合わせなどが好ましく用いられる。なかでもN―アルキルアクリルアミドまたはN―アルキルメタクリルアミドのアルキル基が、n―ブチル基、iso―ブチル基、sec-ブチル基、tert―ブチル基からなる群より選択される少なくとも1つであるものが特に好ましく用いられる。
【0086】
水溶性高分子化合物中の不飽和脂肪族カルボン酸に由来する構成単位と不飽和アミドに由来する構成単位の割合は、不飽和脂肪族カルボン酸に由来する構成単位と不飽和アミドに由来する構成単位との2種の構成単位の量比として、mol比で95:5~5:95の範囲であることが好ましく、更に好ましくは、mol比で90:10~10:90の範囲である。mol比が95:5~5:95の範囲外になると、単量体成分のバランスが崩れ、水溶性高分子化合物の水への溶解性に影響を与えることが考えられる。
【0087】
(B-3―5)水溶性高分子化合物の製造方法
水溶性高分子化合物の製造方法は特に制限されないが、水溶液重合法が好ましい。水溶液重合によれば、均一な溶液として水溶性高分子化合物を得ることができる。
【0088】
上記水溶液重合の重合溶媒としては、水性の溶媒であることが好ましく、特に好ましくは水である。また、上記単量体成分の溶媒への溶解性を向上させるために、各単量体の重合に悪影響を及ぼさない範囲で有機溶媒を適宜加えても良い。上記有機溶媒としては、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0089】
以下に、上記水性溶媒を用いた水溶性高分子化合物の製造方法を説明する。重合反応では公知の重合開始剤を使用できるが、特にラジカル重合開始剤が好ましく用いられる。
ラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、tert-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、過酸化水素等の水溶性過酸化物、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類等の油溶性の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、2,2―アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド等のアゾ化合物が挙げられる。これらの過酸化物系のラジカル重合開始剤は、1種類のみ使用しても又は2種類以上を併用しても良い。
【0090】
上述した過酸化物系のラジカル重合開始剤の中でも、生成する水溶性高分子化合物の分子量の制御が容易に行えることから、過硫酸塩やアゾ化合物が好ましい。
【0091】
上記ラジカル重合開始剤の使用量は、特に制限されないが、水溶性高分子化合物の全単量体合計質量に基づいて、0.1~15質量%、特に0.5~10質量%の割合で使用することが好ましい。この割合を0.1質量%以上にすることにより共重合率を向上させることができ、15質量%以下とすることにより、水溶性高分子化合物の安定性を向上させることができる。
【0092】
また、場合によっては、水溶性高分子化合物は、水溶性レドックス系重合開始剤を使用して製造してもよい。レドックス系重合開始剤としては、酸化剤(例えば上記の過酸化物)と、重硫酸ナトリウム、重亜硫酸アンモニウム、亜硫酸アンモニウムハイドロサルファイトナトリウム等の還元剤や、鉄明礬、カリ明礬等の組み合わせを挙げることができる。
水溶性高分子化合物の製造において、分子量を調整するために、連鎖移動剤を重合系に適宜添加してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、2―プロパンチオール、2-メルカプトエタノール、及びチオフェノール等が挙げられる。
【0093】
水溶性高分子化合物を製造する際の重合温度は、特に制限されないが、重合温度は60~100℃で行うのが好ましい。重合温度を60℃以上にすることで、重合反応が円滑に進行し、かつ生産性に優れるものとなり、100℃以下とすることで、着色を抑制することができる。
【0094】
また、重合反応は、加圧又は減圧下で行うことも可能であるが、加圧あるいは減圧反応用の設備にするためのコストが必要になるので、常圧で行うことが好ましい。重合時間は、2~20時間、特に3~10時間程度で行うことが好ましい。
【0095】
重合反応後、必要に応じて塩基性化合物で中和を行う。中和に使用する塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、アンモニア水、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン類等が挙げられる。中でも、アンモニア水が、生成した水溶性高分子化合物の分散性と研磨対象基板の汚染を避ける点から好ましい。中和後のpH値(25℃)は、水溶性高分子化合物濃度が10質量%の水溶液の場合、1~13が好ましい。
【0096】
(B-3―6)重量平均分子量
水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、1,000~10,000,000であり、好ましくは3,000~5,000,000である。なお、水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリアクリル酸換算で測定したものである。
【0097】
(B-3―7)濃度
水溶性高分子化合物の研磨剤組成物中の濃度は、0.0001質量%以上、2.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.001質量%以上、1.0質量%以下である。0.0001質量%より少ない場合には、水溶性高分子化合物の添加効果が十分得られず、2.0質量%より多い場合には、水溶性高分子化合物の添加効果は頭打ちとなり、必要以上の水溶性高分子化合物を添加することで経済的でない。
【0098】
(B―4)脂肪族アミン化合物
本発明の研磨剤組成物Bにおいては、脂肪族アミン化合物を用いることが好ましい。脂肪族アミン化合物としては、エチルアミン、n―プロピルアミン、イソプロピルアミン、n―ブチルアミン、イソブチルアミン、sec―ブチルアミン、tert―ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ピペラジン、ジエチルアミン、メチルプロピルアミン、エチルプロピルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N―エチルエチレンジアミン、N,N,N,N―テトラメチルエチレンジアミン、N―メチル-1,3-プロパンジアミン、1,3-ジアミノペンタン、ジエチレントリアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、トリエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、テトラメチルヘキサメチレンジアミンなどを挙げることができる。これらの脂肪族アミン化合物は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。研磨剤組成物B中の脂肪族アミン化合物の含有量は、一般に0.00001~4.0質量%であり、好ましくは0.0001~2.0質量%である。
【0099】
(B―5)酸及び/またはその塩
本発明において、研磨剤組成物Bでは、pH調整のために、または任意成分として、酸及び/またはその塩を使用することができる。
【0100】
使用される酸及び/またはその塩としては、無機酸及び/またはその塩と有機酸及び/またはその塩が挙げられる。
【0101】
無機酸及び/またはその塩としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、ホスホン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸等の無機酸及び/またはその塩が挙げられる。これらの無機酸及び/またはその塩の中でもリン含有無機酸及び/またはその塩が研磨剤組成物Bの安定性向上の観点から好ましく、リン酸、ホスホン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸などが特に好ましい。
【0102】
有機酸及び/またはその塩としてはグルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノカルボン酸及び/またはその塩、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、ニトロ酢酸、マレイン酸、リンゴ酸、コハク酸等のカルボン酸及び/またはその塩、有機ホスホン酸及び/またはその塩が挙げられる。これらの酸及び/またはその塩は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの有機酸及び/またはその塩の中でも研磨剤組成物Bの安定性向上の観点からリン含有有機酸及び/またはその塩が好ましく、特に有機ホスホン酸及び/またはその塩が好ましい。
【0103】
有機ホスホン酸及び/またはその塩としては、2―アミノエチルホスホン酸、1―ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1、2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2―ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1―ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α―メチルホスホノコハク酸、及びその塩から選ばれる少なくとも1種以上が挙げられる。
【0104】
上記の化合物は、2種以上を組み合わせて用いることも好ましい実施態様であり、具体的には硫酸及び/またはその塩と有機ホスホン酸及び/またはその塩との組み合わせ、リン酸及び/またはその塩と有機ホスホン酸及び/またはその塩の組み合わせなどが挙げられる。
【0105】
(B―6)酸化剤
本発明における研磨剤組成物Bは、研磨促進剤として酸化剤を含有してもよい。酸化剤としては、過酸化物、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、ペルオキソ酸またはその塩、ハロゲンオキソ酸またはその塩、酸素酸またはその塩、これらの酸化剤を2種以上組み合わせて用いることができる。
【0106】
具体的には、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、過酸化カリウム、過マンガン酸カリウム、クロム酸の金属塩、ジクロム酸の金属塩、過硫酸、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ペルオキソリン酸、ペルオキソホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム等が挙げられる。中でも過酸化水素、過硫酸及びその塩、次亜塩素酸及びその塩などが好ましく、更に好ましくは過酸化水素である。研磨剤組成物B中の酸化剤含有量は、0.01~10.0質量%であることが好ましい。より好ましくは0.1~5.0質量%である。
【0107】
(B―7)その他添加剤
本発明における研磨剤組成物Bは、上記以外の添加剤を含有してもよい。例えば、研磨剤組成物Aにも含有することができる有機硫酸エステル塩化合物といったものが挙げられる。
【0108】
(B―8)研磨剤組成物Bの物性(pH)
本発明における研磨剤組成物BのpH値(25℃)の範囲は、好ましくは0.1~11.0である。より好ましくは0.5~10.0である。更に好ましくは1.0~10.0である。最も好ましくは1.5~9.5である。研磨剤組成物BのpH値(25℃)が0.1以上であることにより、表面荒れを抑制することができる。研磨剤組成物BのpH値(25℃)が11.0以下であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。
【実施例0109】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものでなく、本発明の技術範囲に属する限り、種々の態様で実施できることはいうまでもない。
【0110】
<研磨剤組成物の調製>
実施例1~15、比較例1~5で使用した研磨剤組成物は、表1に記載の材料を、表1に記載の含有量で含んだ研磨剤組成物A及び研磨剤組成物Bである。なお、全ての実施例・比較例で、同じ組成の研磨剤組成物Aを使用して前段研磨を行った。
【0111】
【表1】
【0112】
<研磨剤組成物Aの調製>
純水中にα―アルミナ、中間アルミナ、有機硫酸エステル塩化合物、硫酸、過酸化水素を表1に記載の含有量となるように攪拌しながら添加することにより、研磨剤組成物Aを調製した。研磨剤組成物AのpH値(25℃)は1.0であった。このようにして調製した研磨剤組成物Aを、実施例1~15及び比較例1~5の前段研磨に使用した。
【0113】
<研磨剤組成物Bの調製>
純水中にコロイダルシリカ、湿式法シリカ、水溶性高分子化合物、脂肪族アミン化合物、酸及び/またはその塩、過酸化水素を表1に記載の含有量となるように攪拌しながら添加することにより、研磨剤組成物Bを調製した。研磨剤組成物BのpH値(25℃)は実施例1、4~6、9~11及び比較例1~5は1.5で、実施例2、3、7、8は2.1で実施例12は3.3で、実施例13は6.3で、実施例14は7.4で、実施例15は9.5であった。このようにして調製した研磨剤組成物Bを、実施例1~15及び比較例1~5の後段研磨に使用した。
【0114】
<研磨剤組成物Bの安定性>
研磨剤組成物Bを調製した後、100mlの容器に一杯になるまで入れた後、静置することで砥粒成分の沈降分離の有無を観察し、安定性としてランク付けした。
優:静置後30分経過した時点においても砥粒成分の沈降が確認されなかったもの
良:静置後20分経過した時点で砥粒成分の沈降が確認されたもの
可:静置後10分経過した時点で砥粒成分の沈降が確認されたもの
【0115】
上記のように調製された研磨剤組成物A及び研磨剤組成物Bを用いて研磨試験を行った結果を表2に示す。
【0116】
【表2】
【0117】
アルミナの平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定機((株)島津製作所製 SALD2200)を用いて測定した。アルミナの平均粒子径は、体積を基準とした小粒径側からの積算粒径分布が50%となる平均粒子径(D50)である。
【0118】
コロイダルシリカの粒子径(Heywood径)は、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子(株)製、透過型電子顕微鏡 JEM2000FX(200kV))を用いて倍率10万倍の視野を撮影し、この写真を解析ソフト(マウンテック(株)製 Mac―View Ver.4.0)を用いて算出した平均粒子径(D50)である。
【0119】
湿式法シリカの平均粒子径は、400nm以下の粒子では動的光散乱式粒度分布測定装置(日機装(株)製、マイクロトラックUPA)を用いて測定した。また400nmより大きい粒子では、レーザー回折式粒度分布測定機((株)島津製作所製、SALD2200)を用いて測定した。湿式法シリカの平均粒子径は、体積を基準とした小粒径側からの積算粒径分布が50%となる平均粒子径(D50)である。
【0120】
<研磨条件>
無電解ニッケルーリンめっきされた外径97mmのアルミニウム磁気ディスク基板(以下、アルミディスクと略す。)を研磨対象として、下記研磨条件で研磨を行った。
【0121】
<前段研磨条件>
研磨機:スピードファム(株)製、9B両面研磨機
研磨パッド:(株)FILWEL社製、P1パッド
定盤回転数:上定盤 -7.5rpm
下定盤 22.5rpm
研磨剤組成物供給量: 100ml/min
研磨時間: 4.5分
加工圧力: 80g/cm
なお、前段研磨では、研磨剤組成物Aを使用した。
【0122】
<リンス条件>
研磨機:前段研磨と同じ
研磨パッド:前段研磨と同じ
定盤回転数:前段研磨と同じ
リンス液供給量:3L/min
リンス時間:20秒
加工圧力:15g/cm
なお、リンス液には純水を使用した。
【0123】
<後段研磨条件>
研磨機:前段研磨と同じ
研磨パッド:前段研磨と同じ
定盤回転数:前段研磨と同じ
研磨剤組成物供給量:100ml/min
研磨時間:80秒
加工圧力:80g/cm
なお、後段研磨では、研磨剤組成物Bを使用した。
上記研磨条件で研磨試験を行った結果を表2に示す。
【0124】
<研磨速度比>
研磨速度(μm/min)=アルミディスク質量減少量(g)/研磨時間(min)/アルミディスク片面の面積(cm)/無電解ニッケルーリンめっき皮膜の密度(g/cm)/2×10
(ただし、上記式中、アルミディスク片面の面積は69cm、無電解ニッケルーリンめっき皮膜の密度は、8.0g/m
研磨速度比は、上記式を用いて求めた比較例3の研磨速度を1(基準)とした場合の相対値である。
【0125】
<基板表面の残留物とスクラッチの評価方法>
・defectカウント比、Lスクラッチ比
粗研磨後の基板表面の残留物とスクラッチの定量評価として、まず基板全表面欠陥検査機(株)日立ハイテクファインシステムズ社製NS2000Hにて、defectカウントとLスクラッチカウントを測定した。defectカウントとは基板表面の微細な欠陥を全数検出した数値のことでこれには残留物も含まれる。測定条件は以下の通りである。

Hi-Light 1、2 ; 830V
Scan Pitch ; 15μm
Inner/Outer Radius ; 15.5-48.0mm
Positive Level ; 100mV
White Spot Level ; 0-500mV
Long Scratch Length ; ≧3000μm
※defectカウント比及びLスクラッチ比は、比較例3のそれぞれの値を1(基準)とした場合の相対値である。
【0126】
<付着物カウント比>
次に走査型電子顕微鏡による粗研磨後の基板表面の観察も行い、砥粒残渣や研磨屑などの付着物の有無を定量評価した。測定条件は以下の通りである。

測定装置:日本電子株式会社製、電界放出型走査電子顕微鏡「JSM―7100」
測定条件:加速電圧 15kV、観測倍率 2万倍
測定方法:後段研磨まで行ったアルミニウム磁気ディスク基板を上記装置及び条件で基板上の砥粒残渣や研磨屑などの付着物が白く見えるコントラストで二次電子像を取り込む。フォトレタッチソフトウェアを用いて、取り込んだ画像の白黒二値化を行った後、白色部分の画素数を計算し、付着物の個数としてカウントする。
【0127】
付着物カウント比は、比較例3の付着物カウントの値を1(基準)とした場合の相対値である。
【0128】
<考察>
比較例3は、コロイダルシリカの粒度特性が本発明の範囲内にあるものの、特定の湿式法シリカを含有しない研磨剤組成物Bを用いているため、研磨速度、defectカウント、Lスクラッチ、付着物カウントなどの研磨性能のバランスにおいて、特定の湿式法シリカを含有する実施例1よりも劣る結果となっている。言い換えると、本発明の効果は、コロイダルシリカの粒度特性が特定の範囲内にあることに加えて、特定の湿式法シリカを含有する研磨剤組成物Bを用いることにより発揮される。
【0129】
なお、実施例2、3は、実施例1の研磨剤組成物に対して、研磨剤組成物Bで使用する酸(実施例1は硫酸)を、リン含有無機酸(実施例2)、あるいはリン含有有機酸(実施例3)に変更した結果であるが、研磨剤組成物Bの安定性が向上している。特にリン含有有機酸を用いた実施例3は、研磨剤組成物Bの安定性が顕著に向上している。
【0130】
実施例4~6は、実施例1に対してコロイダルシリカと湿式法シリカの割合を変更した結果であるが、湿式法シリカを含有しない比較例3よりも研磨速度、defectカウント、Lスクラッチ、付着物カウントなどの研磨性能バランスが優れた結果となっている。
【0131】
しかしながら、研磨剤組成物Bの調製においてコロイダルシリカを含有せずに湿式法シリカのみ含有した比較例4は、Lスクラッチと付着物カウントが著しく悪化しており、コロイダルシリカと湿式法シリカの両方を研磨剤組成物Bに含有させることが、本発明の効果を発揮するために必要であることが分かる。
【0132】
実施例7、8は、実施例3に対して水溶性高分子化合物を添加した結果であるが、研磨速度、defectカウント、Lスクラッチ、付着物カウントなどが更に改善されている。
【0133】
実施例9は、実施例1に対して湿式法シリカの平均粒子径を本発明の範囲内で大粒径側に変化させた研磨剤組成物を用いた結果であるが、すべての研磨性能のバランスは比較例3よりも優れており、研磨速度は実施例1よりも高くなっている。
【0134】
しかしながら、湿式法シリカの平均粒子径を本発明の範囲を超えて大粒径側に変化させた研磨剤組成物を用いた比較例5は、defectカウントとLスクラッチが比較例3に対して著しく悪化している。
【0135】
実施例10、11は、実施例1に対して研磨剤組成物B中のコロイダルシリカの粒度特性を本発明の範囲内で変化させた結果であり、すべての研磨性能のバランスは比較例3よりも優れた結果となっている。
【0136】
実施例12~15は、実施例7に対して1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(表2におけるHEDP)の添加量を減少させると同時に1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸4ナトリウム塩(表2におけるHEDP-4Na)を添加することにより研磨剤組成物BのpH値(25℃)を3.3、6.3、7.4、9.5と変化させた結果である。
【0137】
一方、実施例1に対してコロイダルシリカの粒度特性を本発明の範囲外まで変化させた研磨剤組成物を用いた比較例1、2は、実施例1に対して付着物カウントが大幅に悪化しており、コロイダルシリカの粒度特性を本発明の範囲内とすることが付着物カウント低減のために必要であることが分かる。
【0138】
以上のことから、本発明の特定の粒度特性を有するコロイダルシリカと特定の湿式法シリカを含有する研磨剤組成物を用いた特定の研磨方法により、研磨速度、defectカウント、Lスクラッチ、付着物カウントのバランスが改善されることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明の研磨剤組成物は、半導体、ハードディスクといった磁気記録媒体などの電子部品の研磨に使用することができる。特にガラス磁気ディスク基板やアルミニウム磁気ディスク基板などの磁気記録媒体用基板の表面研磨に使用することができる。更には、アルミニウム合金製の基板表面に無電解ニッケルーリンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用アルミニウム磁気ディスク基板の表面研磨に使用することができる。