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特開2024-49345繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物および繊維強化複合材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049345
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物および繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20240402BHJP
   C08G 59/42 20060101ALI20240402BHJP
   C08K 5/435 20060101ALI20240402BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20240402BHJP
   C08K 5/21 20060101ALI20240402BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08G59/42
C08K5/435
C08K5/20
C08K5/21
C08J5/04 CFC
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023145837
(22)【出願日】2023-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2022154562
(32)【優先日】2022-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平野 公則
(72)【発明者】
【氏名】佐野 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】恩村 康之
【テーマコード(参考)】
4F072
4J002
4J036
【Fターム(参考)】
4F072AA07
4F072AB10
4F072AB22
4F072AD28
4F072AE01
4F072AE02
4F072AG06
4F072AH04
4F072AH21
4F072AH46
4F072AL02
4F072AL04
4F072AL07
4F072AL17
4J002CD021
4J002CD131
4J002CD141
4J002CL062
4J002DA017
4J002DA027
4J002DE147
4J002DK007
4J002DL007
4J002EP006
4J002EP016
4J002ET016
4J002EV286
4J002FA042
4J002FA047
4J002FD012
4J002FD017
4J002FD206
4J002GL00
4J002GM00
4J002GN00
4J036AA01
4J036AC05
4J036AC17
4J036AD08
4J036AF06
4J036AF08
4J036AH06
4J036AH07
4J036AH13
4J036DB15
4J036DB21
4J036DC40
4J036DC41
4J036DD07
4J036FA02
4J036FA05
4J036FA12
4J036FB13
4J036JA11
(57)【要約】
【課題】
本発明は、繊維強化複合材料用途に好適に用いることができる、弾性率、強度、および硬化性、耐熱性に優れた繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明は、下記構成要素[A]~[C]を含み、かつ、下記条件(1)および(2)を満たす繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
[A]:エポキシ樹脂、
[B]:酸無水物硬化剤、
[C]:沸点が130℃以上、かつ、分子量mが50~250g/molの化合物であって、分子内にエポキシ基を有さず、実質的にエポキシ樹脂の硬化能を有さない、かつ、実質的に酸無水物硬化剤との反応性を有さない化合物。
(1):構成要素[C]が分子内に水素結合ドナーと水素結合アクセプターの両方を少なくとも1つずつ含む。
(2):構成要素[C]を、構成要素[A]100質量部に対して1~20質量部含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構成要素[A]~[C]を含み、かつ、下記条件(1)および(2)を満たす繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
[A]:エポキシ樹脂、
[B]:酸無水物硬化剤、
[C]:沸点が130℃以上、かつ、分子量mが50~250g/molの化合物であって、分子内にエポキシ基を有さず、実質的にエポキシ樹脂の硬化能を有さない、かつ、実質的に酸無水物硬化剤との反応性を有さない化合物。
(1):構成要素[C]が分子内に水素結合ドナーと水素結合アクセプターの両方を少なくとも1つずつ含む。
(2):構成要素[C]を、構成要素[A]100質量部に対して1~20質量部含む。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂組成物の硬化物の樹脂弾性率が3.5GPa以上である、請求項1に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
構成要素[C]として、アミド化合物、脂肪族ウレア化合物、スルホンアミド化合物、イミド化合物から選択される少なくとも1つの化合物またはその誘導体のいずれかを含む、請求項1に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
構成要素[D]硬化促進剤として、イミダゾール化合物、三級ホスフィン、四級ホスホニウム塩から選択される少なくとも1つの化合物またはその誘導体を含む、請求項1に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を硬化してなる樹脂硬化物と、連続強化繊維とを含んで構成される繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空宇宙用途、一般産業用途およびスポーツ用途などの繊維強化複合材料に好適に用いられる、繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物、ならびに該エポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やアラミド繊維などを強化繊維として用いた繊維強化複合材料は、その高い比強度、比弾性率を利用して、航空機や自動車などの構造材料や、テニスラケット、ゴルフシャフト、釣り竿、自転車、筐体などのスポーツ、一般産業用途などに広く利用されている。この繊維強化複合材料に用いられる樹脂組成物としては、耐熱性や生産性の観点から主に熱硬化性樹脂が用いられ、中でも強化繊維との接着性などの力学特性の観点からエポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0003】
繊維強化複合材料の製造には、プリプレグ法、シートモールディングコンパウンド法、ハンドレイアップ法、フィラメントワインディング法、引抜成形法およびRI(Resin Infusion:樹脂注入)成形法などの方法が適用される。中でも、近年は生産性の観点で、強化繊維に樹脂組成物を含浸後に短時間で成形、硬化を行う、フィラメントワインディング法、引抜成形法およびRI成形法が好ましく用いられる。その場合、マトリックス樹脂として用いるエポキシ樹脂は硬化性に優れることが要求される。しかし、硬化性に優れるエポキシ樹脂では、強化繊維に含浸するまでの樹脂流動時間が不足する場合があることが課題であった。
【0004】
また、さらなる軽量化が求められる用途へ繊維強化複合材料を適用するには各種物性の向上も必要である。そのため、繊維強化複合材料の各種機械特性向上を目的として、マトリックス樹脂として用いるエポキシ樹脂の硬化物(以下、エポキシ樹脂硬化物ということがある。)について、弾性率、強度の向上が要求されている。しかしながら、高い弾性率を有するエポキシ樹脂硬化物は一般に脆く、強度が低くなる傾向にある。このため、樹脂硬化物について高い弾性率、強度を同時に向上することが技術的な課題であった。
【0005】
これらの課題の改善を図るため、様々な検討がなされている。例えば、エポキシ樹脂の硬化剤として酸無水無物を適用し、さらに溶剤に溶解させた促進剤を組み合わせることで、比較的低温で迅速に硬化反応を進行させる手法が検討されている(特許文献1)。また、酸無水物硬化剤、促進剤にさらに芳香環を持つポリオールを配合することで硬化性と強化繊維への含浸性を両立する手法が検討されている(特許文献2)。また、芳香族ジアミンを硬化剤として適用した時に、エポキシ樹脂と芳香族ジアミンとの反応で形成される架橋構造に取り込まれることなく、その空隙部に存在することでエポキシ樹脂硬化物の弾性率を向上させる成分を配合して樹脂強度の向上を図る手法が検討されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平11-507978号公報
【特許文献2】特開2010-163573号公報
【特許文献3】国際公開第2021/095629号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の技術を用いた場合、得られる樹脂硬化物や繊維強化複合材料の機械特性は十分とは言えず、さらなる機械特性の向上が必要であった。また、特許文献2の技術を用いた場合、優れた硬化性と含浸性を両立することができるが、弾性率や強度の向上については何ら考慮されておらず、やはりさらなる機械特性の向上が可能な技術が求められていた。また、特許文献3の技術を用いた場合、得られる樹脂硬化物は優れた弾性率や強度を有するものの、比較的低温での硬化性には劣る場合があった。
【0008】
そこで、本発明は、繊維強化複合材料用途に好適に用いることができる、弾性率、強度、および硬化性、耐熱性に優れた繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、かかる課題を解決するために次のような手段を採用するものである。
1. 下記構成要素[A]~[C]を含み、かつ、下記条件(1)および(2)を満たす繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
[A]:エポキシ樹脂、
[B]:酸無水物硬化剤、
[C]:沸点が130℃以上、かつ、分子量mが50~250g/molの化合物であって、分子内にエポキシ基を有さず、実質的にエポキシ樹脂の硬化能を有さない、かつ、実質的に酸無水物硬化剤との反応性を有さない化合物。
(1):構成要素[C]が分子内に水素結合ドナーと水素結合アクセプターの両方を少なくとも1つずつ含む。
(2):構成要素[C]を、構成要素[A]100質量部に対して1~20質量部含む。
2. 前記エポキシ樹脂組成物の硬化物の樹脂弾性率が3.5GPa以上である、上記1に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
3. 構成要素[C]として、アミド化合物、脂肪族ウレア化合物、スルホンアミド化合物、イミド化合物から選択される少なくとも1つの化合物またはその誘導体のいずれかを含む、上記1または2に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
4. 構成要素[D]硬化促進剤として、イミダゾール化合物、三級ホスフィン、四級ホスホニウム塩から選択される少なくとも1つの化合物またはその誘導体を含む、上記1~3のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
5. 上記1~4のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を硬化してなる樹脂硬化物と、連続強化繊維とを含んで構成される繊維強化複合材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、繊維強化複合材料用途に好適に用いることができる、弾性率、強度、および硬化性、耐熱性に優れた繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本発明において「以上」とは、そこに示す数値と同じかまたはそれよりも大きいことを意味する。また、「以下」とは、そこに示す数値と同じかまたはそれよりも小さいことを意味する。
【0012】
本発明の樹脂組成物は、構成要素[A]~[C]を必須成分として含む。本発明において「構成要素」とは組成物に含まれる化合物を意味する。
【0013】
本発明における構成要素[A]は、エポキシ樹脂である。構成要素[A]のエポキシ樹脂としては、1分子中にエポキシ基を2個以上含むものを配合することが、樹脂組成物を加熱硬化して得られる硬化物のガラス転移温度を高くし、耐熱性を向上させることができるため好ましいが、1分子中にエポキシ基を1個含むエポキシ樹脂を配合してもよい。これらのエポキシ樹脂は単独で用いてもよいし、適宜配合して用いてもよい。
【0014】
構成要素[A]のエポキシ樹脂としては、例えば、ジアミノジフェニルメタン型、ジアミノジフェニルスルホン型、アミノフェノール型、ビスフェノール型、メタキシレンジアミン型、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン型、イソシアヌレート型、ヒダントイン型、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型およびテトラフェニロールエタン型などのエポキシ樹脂が挙げられる。中でも物性のバランスが良いことから、ジアミノジフェニルメタン型やアミノフェノール型、ビスフェノール型のエポキシ樹脂が特に好ましく用いられる。
【0015】
ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂の市販品としては、ELM434(住友化学(株)製)、ELM434VL(住友化学(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY720(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY721(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY9512(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY9663(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、および“エポトート(登録商標)”YH-434(日鉄ケミカル&マテリアル(株)製)などが挙げられる。
【0016】
ジアミノジフェニルスルホン型エポキシ樹脂の市販品としては、TG3DAS(三井化学ファイン(株)製)などが挙げられる。
【0017】
アミノフェノール型エポキシ樹脂の市販品としては、ELM120(住友化学(株)製)、ELM100(住友化学(株)製)、“jER(登録商標)”630(三菱ケミカル(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY0500(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY0510(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY0600(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY0610(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)などが挙げられる。
【0018】
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂がある。
【0019】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”825(三菱ケミカル(株)製)、“jER(登録商標)”828(三菱ケミカル(株)製)、“エピクロン(登録商標)”850(DIC(株)製)、“エポトート(登録商標)”YD-128(東都化成(株)製)、DER-331(ダウケミカル社製)、およびDER-332(ダウケミカル社製)などが挙げられる。
【0020】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、“アラルダイト(登録商標)”GY282(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)、“jER(登録商標)”806、“jER(登録商標)”807、“jER(登録商標)”1750(以上、三菱ケミカル(株)製)、“エピクロン(登録商標)”830(DIC(株)製)および“エポトート(登録商標)”YD-170(東都化成(株)製)などが挙げられる。
【0021】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物には、前記以外のエポキシ化合物も適宜配合してもよい。
【0022】
本発明における構成要素[B]は、酸無水物硬化剤であり、具体的にはカルボン酸無水物であり、より具体的には、構成要素[A]のエポキシ基と反応可能な酸無水物基を一分子中に1個以上有する化合物を指し、エポキシ樹脂の硬化剤として作用する。酸無水物基は、一分子中に4個以下であることが望ましい態様である。
【0023】
構成要素[B]は、フタル酸無水物のように、芳香環を有するが脂環式構造を持たない酸無水物であっても良く、無水コハク酸のように、芳香環、脂環式構造のいずれも持たない酸無水物であっても良いが、低粘度な液状で取り扱いやすい点、および硬化物の耐熱性や機械的物性の観点から、脂環式構造を有する酸無水物が用いられることが好ましく、中でもシクロアルカン環またはシクロアルケン環を有する化合物がより好ましく用いられる。
【0024】
このような脂環式構造を有する酸無水物の具体例としては、例えば、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルジヒドロナジック酸無水物、1,2,4,5-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸無水物、メチル-1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸無水物、ナジック酸無水物、メチルナジック酸無水物、ビシクロ[2,2,2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、および4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-3-メチル-1,2,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物などが挙げられる。中でも、ヘキサヒドロフタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、ナジック酸無水物およびそれらのアルキル置換タイプから選ばれる酸無水物は、エポキシ樹脂組成物の粘度と、得られる硬化物の耐熱性や、弾性率などの力学物性とのバランスに優れることから、本発明における構成要素[B]として好ましく用いられる。構成要素[B]として、脂環式構造を有する酸無水物を用いる場合であっても、本発明に係るエポキシ樹脂組成物には、脂環式構造を持たない酸無水物を含有させることができる。
【0025】
ヘキサヒドロフタル酸無水物の市販品としては、“リカシッド(登録商標)”HH(新日本理化(株)製)などが挙げられる。アルキル置換タイプのうち、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物の市販品としては、“EPICLON(登録商標)“B-570(DIC(株)製)、“EPICLON(登録商標)”B-650(DIC(株)製)などが挙げられる。ヘキサヒドロフタル酸無水物とメチルヘキサヒドロフタル酸無水物の混合物の市販品としては、“リカシッド(登録商標)”MH700(新日本理化(株)製)などが挙げられる。
【0026】
テトラヒドロフタル酸無水物のアルキル置換タイプのうち、メチルテトラヒドロフタル酸無水物の市販品としては、“リカシッド(登録商標)”MT500(新日本理化(株)製)、HN-2200(昭和電工マテリアルズ(株))などが挙げられる。トリアルキルテトラヒドロフタル酸無水物の市販品としては、“jERキュア(登録商標)”YH-306(ジャパンエポキシレジン(株)製)などが挙げられる。
【0027】
ナジック酸無水物のアルキル置換タイプのうち、メチルナジック酸無水物の市販品としては、“カヤハード(登録商標)”MCD(日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0028】
本発明における構成要素[A]のエポキシ樹脂と構成要素[B]の酸無水物硬化剤の配合量は、構成要素[B]中の酸無水物基数(H)と、構成要素[A]中のエポキシ基数(E)の比、H/E比が0.8~1.2の範囲を満たす配合量であることが好ましく、0.85~1.1の範囲を満たす配合量であることがより好ましい態様である。H/E比をかかる範囲内とすることで、硬化物の弾性率、強度、耐熱性に優れた硬化物が得られる。
【0029】
本発明の構成要素[C]は、沸点が130℃以上、かつ、分子量mが50以上250以下の化合物であって、分子内にエポキシ基を有さず、実質的にエポキシ樹脂の硬化能を有さない、かつ、実質的に酸無水物硬化剤との反応性を有さない化合物である。ここで、エポキシ樹脂と付加反応しうるアミンやフェノール、カルボン酸、エポキシ樹脂の自己重合反応開始剤となり得るイミダゾール化合物、芳香族ウレア化合物、三級アミン化合物などの化合物は、エポキシ樹脂の硬化能を有する化合物であり、エポキシ樹脂の硬化能を有さない化合物には該当しない。また、酸無水物硬化剤と反応性を有する化合物としてはアミン、カルボン酸、アルコールが一般的には挙げられ、構成要素[C]には該当しない。
【0030】
なお、実質的にエポキシ樹脂の硬化能を有するか、および、実質的に酸無水物硬化剤との反応性を有するか否かは、構成要素[C]とエポキシ樹脂、または酸無水物硬化剤を等モル量で混ぜ合わせた混合物の示差走査熱量測定(DSC)により確認することができる。測定装置としてはPyris1DSC(Perkin Elmer製)などが使用でき、上記混合物をアルミサンプルパンに採取し、窒素雰囲気下において、0℃から150℃まで10℃/minの昇温速度で測定を行う。得られたDSC曲線において、反応発熱が観測されるか否かの確認により、実質的な反応性の有無を判定できる。ただし、構成要素[C]の沸点が150℃未満の場合は、0℃からその沸点まで上記昇温速度で昇温した時に反応発熱が観測されるか否かで確認する。
【0031】
また、本発明の構成要素[C]は、分子内に水素結合ドナーと水素結合アクセプターの両方を少なくとも1つずつ含むことが必要である。ここで、水素結合ドナーとは、水素結合に関わる水素原子のことを指し、具体的には電気陰性度の大きい酸素原子、窒素原子、フッ素原子直接に結合して正に分極している水素原子のことを指す。また、水素結合アクセプターとは、水素結合ドナーと水素結合を形成しうる非共有電子対を指し、具体的には酸素原子や窒素原子、フッ素原子に存在する非共有電子対のことを指す。
【0032】
構成要素[C]の具体例には、アミド化合物、脂肪族ウレア化合物、スルホンアミド化合物、イミド化合物から選択される少なくとも1つの化合物などが挙げられ、これらの誘導体も用いられ得る。アミド化合物としては、N-メチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N-メチルプロピオンアミド、N-エチルアセトアミド、2-ピロリドン、2-ピペリドンなどが挙げられる。脂肪族ウレア化合物としては、1,3-ジメチルウレア、1,3-ジエチルウレア、1-アセチル-3-メチルウレア、2-イミダゾリジノンなどが挙げられる。スルホンアミド化合物としては、メタンスルホンアミド、N-メチルメタンスルホンアミド、N-メチルベンゼンスルホンアミドなどが挙げられる。イミド化合物としては、マレイミド、スクシンイミド、グルタルイミドなどが挙げられる。なお、これら構成要素[C]を単一種で配合しても良いし、複数種を混合しても良い。
【0033】
本発明の構成要素[C]は、エポキシ樹脂と酸無水物硬化剤とが反応して形成される架橋構造に取り込まれることなく、その空隙部に存在し、上記架橋構造に含まれるエステル基や水酸基と水素結合することで、硬化後もその状態が保持されると考えられる。これにより、得られるエポキシ樹脂硬化物の弾性率が高くなる。また、構成要素[C]を配合することで、高弾性率のみならず、高伸度で高強度なエポキシ樹脂硬化物が得られる。この理由については定かではないが、構成要素[C]は分子内にエポキシ基を有さず、実質的にエポキシ樹脂の硬化能を有さない、かつ、酸無水物硬化剤との反応性を有さないことにより、架橋構造を形成するエポキシ樹脂や酸無水物硬化剤とは反応しない。そのため、構成要素[C]は、エポキシ樹脂と酸無水物とが反応して形成される架橋構造と共有結合により拘束されることが無く、架橋構造の空隙部に適切に保持されることにより、硬化物中の空隙を効果的に埋めることができ、硬化物の弾性率が高くなると考えている。また、硬化物に歪みを与えた際には、構成要素[C]が架橋構造の中を自由に動けるため、破壊に至るまでの歪みエネルギーを緩和でき、硬化物の伸度並びに強度が高くなると考えている。
【0034】
また、構成要素[C]の沸点が130℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは170℃以上であることで、エポキシ樹脂組成物が硬化する際の構成要素[C]の揮発を抑制でき、機械特性に優れた樹脂硬化物や繊維強化複合材料が得られる。また、構成要素[C]の沸点の上限は特にはないが、本発明に通常用いられる化合物の沸点は、400℃以下のものが多い。本発明において、沸点は常圧(101kPa)での値である。また、常圧での沸点が測定できない場合は、沸点換算図表で101kPaに換算された換算沸点を用いることができる。
【0035】
構成要素[C]の分子量mは50以上250以下であり、より好ましくは70以上120以下である。構成要素[C]の分子量をかかる範囲とすることで、構成要素[C]は、エポキシ樹脂と酸無水物硬化剤とが反応して形成される架橋構造の空隙部に適切に保持されやすく、弾性率や強度、伸度に優れた硬化物が得られる。
【0036】
また、構成要素[C]は樹脂組成物への溶解性の理由から、非芳香族化合物、すなわち脂肪族化合物や脂環式化合物であることが好ましい。芳香族化合物を用いると化合物の融点が高くなりやすく、樹脂組成物中に均一に相溶させることが困難となり、本発明の効果を得られない場合がある。
【0037】
構成要素[C]は、本発明のエポキシ樹脂組成物中に、構成要素[A]100質量部に対して1~20質量部含まれることが必要であり、1~15質量部含むことが好ましく、3~10質量部含まれることがより好ましい。1質量部よりも少ない場合は、硬化物の弾性率、強度の向上が不足する。また、20質量部を超える場合は、硬化物の耐熱性が不足する。
【0038】
本発明のエポキシ樹脂組成物において、構成要素[A]中のエポキシ基数(E)に対する構成要素[C]のモル数(C)の比C/Eが0.01以上0.30以下であることであることが好ましく、C/Eは、0.05以上0.20以下であることがさらに好ましい。C/Eをかかる範囲内とすることで、構成要素[C]は、架橋構造の空隙部に適切に保持され、弾性率や強度に優れた硬化物が得られる。
【0039】
本発明のエポキシ樹脂組成物はさらに構成要素[D]硬化促進剤を含むことが好ましい。構成要素[D]を含むことにより、エポキシ樹脂と酸無水物硬化剤との結合形成による硬化反応を速やかに、かつ円滑にすることができる。
【0040】
構成要素[D]の具体例としてはイミダゾール化合物、三級アミン、三級ホスフィン、四級ホスホニウム塩、四級アンモニウム塩、スルホニウム塩から選ばれる少なくとも1つの化合物、およびそれらの誘導体などが挙げられる。中でも、エポキシ樹脂組成物の硬化性と安定性のバランスの観点から、イミダゾール化合物、三級ホスフィン、四級ホスホニウム塩から選ばれる少なくとも1つの化合物またはその誘導体を用いることが特に好ましい。
【0041】
構成要素[D]は、本発明のエポキシ樹脂組成物中に、構成要素[A]100質量部に対して1~10質量部含まれることが好ましく、1~6質量部含むことがより好ましい。構成要素[D]の配合量をかかる範囲とすることで、硬化性と安定性のバランス、および、硬化物の耐熱性に優れたエポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0042】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、その硬化物の弾性率や強度、伸度に優れており、繊維強化複合材料のマトリックス樹脂として好適に用いられる。すなわち本発明の繊維強化複合材料は、本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物と強化繊維とを含んで構成される。
【0043】
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物の樹脂弾性率は、3.5GPa以上であることが好ましく、3.7GPa以上であることがより好ましい。また、上限は5.5GPa以下であることが好ましい。エポキシ樹脂組成物の硬化物の弾性率がかかる範囲となることで、力学特性に優れた繊維強化複合材料を得ることができる。ここで、樹脂組成物の硬化物の弾性率は、JIS K7171(1994)に従い測定された値である。
【0044】
本発明の繊維強化複合材料に用いる強化繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、ガラス繊維などを好ましく挙げることができるが、炭素繊維が特に好ましい。強化繊維は、短繊維および連続繊維いずれであってもよく、両者を併用することもできる。高い繊維体積含有率(高Vf)の繊維強化複合材料を得るためには、連続繊維が特に好ましい。強化繊維の形態や配列については限定されず、例えば、一方向に引き揃えられた長繊維、単一のトウ、織物、ニット、および組紐などの繊維構造物が用いられる。強化繊維として2種類以上の炭素繊維や、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、PBO繊維、高強力ポリエチレン繊維、アルミナ繊維および炭化ケイ素繊維などを組み合わせて用いても構わない。
【0045】
炭素繊維としては、具体的にはアクリル系、ピッチ系およびレーヨン系などの炭素繊維が挙げられ、特に引張強度の高いアクリル系の炭素繊維が好ましく用いられる。
【0046】
炭素繊維の形態としては、有撚糸、解撚糸および無撚糸などを使用することができるが、有撚糸の場合は炭素繊維を構成するフィラメントの配向が平行ではないため、得られる炭素繊維強化複合材料の力学特性の低下の原因となることから、炭素繊維強化複合材料の成形性と強度特性のバランスが良い解撚糸または無撚糸が好ましく用いられる。
【0047】
炭素繊維は、引張弾性率が200GPa以上440GPa以下であることが好ましい。炭素繊維の引張弾性率は、炭素繊維を構成する黒鉛構造の結晶度に影響され、結晶度が高いほど弾性率は向上する。この範囲であると炭素繊維強化複合材料の剛性、強度のすべてが高いレベルでバランスするために好ましい。より好ましい弾性率は、230GPa以上400GPa以下であり、さらに好ましくは260GPa以上370GPa以下である。ここで、炭素繊維の引張弾性率は、JIS R7608(2008)に従い測定された値である。
【0048】
本発明の繊維強化複合材料は、例えばフィラメントワインディング法、引抜成形法およびRI成形法など、成形工程において強化繊維に本発明のエポキシ樹脂組成物を含浸させた後、加熱・加圧によって該エポキシ樹脂組成物を硬化させることにより得ることができる。
【0049】
RI成形法を例に、本発明の繊維強化複合材料を製造する方法について説明する。本発明のエポキシ樹脂組成物を、特定温度に加熱した成形型内に配置した強化繊維基材に注入して含浸させ、その成形型内で硬化することにより繊維強化複合材料とすることができる。その際、エポキシ樹脂組成物を注入して含浸させる際の温度と、その後硬化する温度は同じであっても異なってもよい。エポキシ樹脂組成物の注入圧力は、通常0.1~1.0MPaであることが好ましく、加圧注入を行う場合でもエポキシ樹脂組成物を注入する前に型内を減圧しておくと、ボイドの発生を抑えることができる。なお、成形型は両面剛体からなるクローズドモールドを用いてもよいし、剛体のオープンモールドと可撓性のフィルム(バッグ)を用いることも可能である。後者の場合、強化繊維基材は剛体オープンモールドと可撓性フィルムの間に設置することができる。
【0050】
RI成形法を用いて繊維強化複合材料を得る場合、繊維強化複合材料が高い比強度、あるいは比弾性率をもつためには、繊維強化複合材料における強化繊維の体積含有率Vfが、好ましくは40~85%であり、より好ましくは45~85%の範囲内である。ここで言う、繊維体積含有率Vfは、ASTM D3171(1999)に準拠して、測定される値であり、強化繊維基材に対してエポキシ樹脂組成物が注入され、硬化せしめられた後の状態でのものをいう。
【0051】
次に、引抜成形法を例に本発明の繊維強化複合材料を製造する方法について説明する。本発明のエポキシ樹脂組成物を用いて、一般的な引抜成形と並行して、または引抜成形後に、加熱硬化させて繊維強化複合材料とすることができる。一般的な引抜成形方法としては、連続強化繊維をエポキシ樹脂組成物の含浸槽に連続的に通し、スクイーズダイ、および、加熱金型を通して引張機によって連続的に引抜成形しつつエポキシ樹脂組成物を硬化させる方法が挙げられ、この場合、さらに、アフターキュアオーブン内にて完全硬化させることも多い。
【0052】
引抜成形法を用いて繊維強化複合材料を得る場合、繊維体積含有率Vfは軽量かつ柔軟性と強度に優れる特徴を十分に引き出すために40~75%であることが好ましい。ここで、繊維体積含有率Vfは前記同様ASTM D3171(1999)に準拠して、測定することができる。
【0053】
上記したRI成形法および引抜成形法については、一例を示したに過ぎず、限定するものではない。
【0054】
以上に記した数値範囲の上限および下限は、任意に組み合わせることができる。
【0055】
本発明の繊維強化複合材料は、航空宇宙用途、一般産業用途およびスポーツ用途などに広く用いることができる。より具体的には、自動車外板や水素燃料タンク、風車の羽根、釣竿、建築構造物などに好適に用いられる。
【実施例0056】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。なお、組成比の単位「部」は、特に注釈のない限り質量部を意味する。また、各種特性(物性)の測定は、特に注釈のない限り温度23℃、相対湿度50%の環境下で行った。
【0057】
<実施例および比較例で用いられた材料>
(1)構成要素[A]:エポキシ樹脂
・“jER(登録商標)”828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量:189g/eq、エポキシ基の数:2、三菱ケミカル(株)製)
(2)構成要素[B]:酸無水物硬化剤
・HN-2200(3or4-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸無水物、分子量:166g/mol、昭和電工マテリアルズ(株)製)
(3)その他の化合物[B’]
・“セイカキュア(登録商標)”-S(4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、和歌山精化工業(株)製)
(4)構成要素[C]:沸点が130℃以上、かつ、分子量mが50~250の化合物であって、分子内にエポキシ基を有さず、実質的にエポキシ樹脂の硬化能を有さない、かつ、実質的に酸無水物硬化剤との反応性を有さない化合物。
・N-メチルホルムアミド(沸点:183℃、分子量m:59、水素結合ドナー数:1、水素結合アクセプター数:3、エポキシまたは酸無水物硬化剤との反応性:なし、東京化成工業(株)製)
・2-ピロリドン(沸点:245℃、分子量m:85、水素結合ドナー数:1、水素結合アクセプター数:3、エポキシまたは酸無水物硬化剤との反応性:なし、東京化成工業(株)製)
・2-イミダゾリジノン(沸点:279℃、分子量m:86、水素結合ドナー数:2、水素結合アクセプター数:4、エポキシまたは酸無水物硬化剤との反応性:なし、東京化成工業(株)製)
(5)その他の化合物[C’]
・1,2-プロパンジオール(沸点:188℃、分子量m:76、水素結合ドナー数:2、水素結合アクセプター数:4、エポキシまたは酸無水物硬化剤との反応性:あり、東京化成工業(株)製)
・N-メチル-2-ピロリドン(沸点:202℃、分子量m:99、水素結合ドナー数:0、水素結合アクセプター数:3、エポキシまたは酸無水物硬化剤との反応性:なし、東京化成工業(株)製)。
・エチレングリコール(沸点:196℃、分子量m:62、水素結合ドナー数:2、水素結合アクセプター数:4、エポキシまたは酸無水物硬化剤との反応性:あり、東京化成工業(株)製)
(6)構成要素[D]:硬化促進剤
・トリフェニルホスフィン(3級ホスフィン、東京化成工業(株)製)
・2-エチル-4-メチルイミダゾール(イミダゾール化合物、東京化成工業(株)製)
<エポキシ樹脂組成物の調製、および樹脂硬化物の作製>
表1、表2に記載した原料と配合比で、各成分を硬化反応が実質的に進まない温度/時間条件にて加熱攪拌により均一に相溶させることで、エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0058】
未硬化のエポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡した後、2mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーにより、樹脂硬化物の厚みが2mmに制限されるように設定したモールド中で、30℃から速度1.7℃/分で昇温して135℃の温度で2時間硬化させ、厚さ2mmの板状の樹脂硬化物を得た。
【0059】
<各種評価方法>
以下の測定方法を使用し、各実施例のエポキシ樹脂組成物を測定した。
【0060】
(1)樹脂硬化物の3点曲げ測定
前記のように作製した厚さ2mmの板状の樹脂硬化物から、幅10mm、長さ60mmの矩形状の試験片を切り出し、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、スパンを32mm、クロスヘッドスピードを2.5mm/分、サンプル数n=6とし、JIS K7171(1994)に従って3点曲げを実施した時の、弾性率、強度の平均値をそれぞれ樹脂硬化物の弾性率、強度とした。
【0061】
(2)樹脂硬化物のTg測定
前記のように作製した厚さ2mmの板状の樹脂硬化物から、幅12.7mm、長さ40mmの矩形状の試験片を切り出し、動的粘弾性装置ARES-G2(TAインスツルメンツ社製)を用いて、ねじりモード(測定周波数:1Hz、測定温度範囲:25~200℃、昇温速度5℃/min)でDMA測定を行った。測定で得られた貯蔵弾性率G’の変曲点の温度をTgとした。
【0062】
(3)樹脂組成物のゲルタイム測定
前記のように調製した未硬化のエポキシ樹脂組成物を試料として、熱硬化測定装置ATD-1000(AlphaTechnologies(株)製)を用いて100℃に加熱したステージに試料を約5g投入し、周波数1.0Hz、歪み1.0%で動的粘弾性測定を行った。このとき、複素粘度η*が1.0×10Pa・sに達するまでの時間を100℃でのゲルタイムとした。複素粘度η*が1.0×10Pa・sに達しない場合は、η*の上昇が飽和する時間をゲルタイムとした。ここで、η*の上昇が飽和する時間は、縦軸をη*、横軸を時間としたときのη*の変化を示すグラフにおいて、η*上昇の傾きが最大となる部分の接線と、η*上昇飽和後の部分の接線との交点における時間とした。
【0063】
<実施例1>
上記した方法に従って、構成要素[A]として“jER(登録商標)”828を100質量部、構成要素[B]としてHN-2200を88質量部、構成要素[C]としてN-メチルホルムアミドを3質量部、構成要素[D]としてトリフェニルホスフィンを3質量部とを室温で均一に撹拌し、相溶させることで樹脂組成物を得た。その際、結晶固形であるトリフェニルホスフィンはあらかじめHN-2200と混合し、80℃で加熱撹拌することで相溶させておいた。得られた樹脂組成物の100℃ゲルタイムを測定すると22分であり、十分な樹脂流動時間(ゲルタイム)を有していた。さらに、上記方法に従って作製した樹脂硬化物は、3点曲げ試験での弾性率が3.5GPa、強度が153MPaであり、測定したTgは120℃であり、後記する比較例1と比較して優れた曲げ特性、耐熱性を有していた。
【0064】
<実施例2~6>
表1の配合比に従って上記実施例1と同様の手順でそれぞれの成分を配合し、樹脂組成物を得た。実施例の各種測定結果は表1に示すとおりであり、樹脂組成物の配合を変更した場合においても、優れた樹脂硬化物の弾性率、強度、Tgが得られた。また、十分な樹脂流動時間(ゲルタイム)も得られた。
【0065】
<比較例1~7>
表2の配合比に従って上記実施例1と同様の手順でそれぞれの成分を配合し、樹脂組成物を得た。
【0066】
比較例1では、構成要素[C]に相当するものを、その他の化合物[C’]を含めて配合していない。比較例1と実施例1とを比較すると、構成要素[C]を配合することで、樹脂硬化物の弾性率、強度がそれぞれ大きく向上していることがわかる。
【0067】
比較例2では、構成要素[C]の代わりに1,2-プロパンジオールを配合した。1,2-プロパンジオールは、酸無水物硬化剤との反応性を有する化合物である。実施例1、3、5を比較例2と比較すると、構成要素[C]に該当する化合物を配合することで、その他の化合物[C’]を配合する場合に比べ、得られる樹脂硬化物の弾性率や強度が向上し、比較的高いTgが得られることがわかる。また、比較例2において、1,2-プロパンジオールが酸無水物硬化剤との反応性を有することで、許容範囲ではあるが樹脂流動時間(ゲルタイム)が他の例に比べやや望ましくない程度まで減少する傾向も示されている。
【0068】
比較例3では、構成要素[C]の代わりにN-メチル-2-ピロリドンを配合した。N-メチル-2-ピロリドンは、構成要素[C]における水素結合ドナーを有さない化合物である。実施例1、3、5を比較例3と比較すると、構成要素[C]に該当する化合物を配合することで、その他の化合物[C’]を配合する場合に比べ、得られる樹脂硬化物の弾性率や強度が向上し、比較的高いTgが得られることがわかる。
【0069】
比較例4では、エポキシ樹脂100質量部に対し、構成要素[C]としてN-メチルホルムアミドを25質量部配合した。比較例4と実施例1とを比較すると、エポキシ樹脂100質量部に対する構成要素[C]の配合量が20質量部を越えたことで、得られる樹脂硬化物が脆く、強度とTgが大幅に低下したことがわかる。
【0070】
比較例5では、構成要素[B]に相当するものを、その他の化合物[B’]を含めて配合していない。かかる水準では樹脂が硬化せず、硬化物を得ることができなかった。
【0071】
比較例6では、構成要素[B]の代わりに“セイカキュア(登録商標)”-Sを配合した。比較例6と実施例1とを比較すると、構成要素[B]を配合することにより、比較例6では過度に長かった100℃でのゲルタイムが短縮され、短時間での硬化性に優れることがわかる。
【0072】
比較例7では、構成要素[C]の代わりにエチレングリコールを配合した。エチレングリコールは、酸無水物硬化剤との反応性を有する化合物である。比較例2に示した1,2-プロパンジオールを配合した場合と同様に、実施例1、3、5を比較例7と比較すると、構成要素[C]に該当する化合物を配合することで、その他の化合物[C’]を配合する場合に比べ、得られる樹脂硬化物の弾性率や強度が向上し、比較的高いTgが得られることがわかる。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】