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  • 特開-ジフルオロエチレンの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049377
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】ジフルオロエチレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/25 20060101AFI20240402BHJP
   C07C 17/358 20060101ALI20240402BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20240402BHJP
   B01J 27/12 20060101ALI20240402BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240402BHJP
【FI】
C07C17/25
C07C17/358
C07C21/18
B01J27/12 Z
C07B61/00 300
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023163187
(22)【出願日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2022155045
(32)【優先日】2022-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ハステロイ
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茶木 勇博
(72)【発明者】
【氏名】蓮本 雄太
(72)【発明者】
【氏名】野口 敦史
(72)【発明者】
【氏名】東郷 範弘
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169BB04B
4G169BB08B
4G169BC58B
4G169BD02B
4G169BD15B
4G169CB41
4G169CC14
4G169EA02Y
4G169EC28
4G169FA01
4G169FB08
4G169FB30
4G169FB54
4G169FC04
4H006AA02
4H006AC13
4H006AC14
4H006BA14
4H006BA30
4H006BA81
4H006BB61
4H006BC18
4H006BC34
4H006BC35
4H006BC38
4H006BD31
4H006BD33
4H006BD52
4H006BD84
4H006BE01
4H006BE30
4H006EA03
4H039CA20
4H039CG20
4H039CJ10
(57)【要約】
【課題】従来法よりも効率的にHFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を得る方法を提供する。
【解決手段】(x)触媒を充填した反応器に、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)と、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及び/又はシス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))と、希釈ガスとを含む原料ガスを供給して、HFC-143の脱フッ化水素反応と、HFO-1132(E)とHFO-1132(Z)との間の異性化反応とを行うことによりHFO-1132(E)及びHFO-1132(Z)を含む反応生成物を得る工程であって、前記原料ガス中の前記希釈ガスの含有量が1~80mol%である工程;
を含む、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を含む組成物の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(x)触媒を充填した反応器に、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)と、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及び/又はシス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))と、希釈ガスとを含む原料ガスを供給して、HFC-143の脱フッ化水素反応と、HFO-1132(E)とHFO-1132(Z)との間の異性化反応とを行うことによりHFO-1132(E)及びHFO-1132(Z)を含む反応生成物を得る工程であって、前記原料ガス中の前記希釈ガスの含有量が1~80mol%である工程;
を含む、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を含む組成物の製造方法。
【請求項2】
(x)触媒を充填した反応器に、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)と、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及び/又はシス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))とを含む原料ガスを供給して、HFC-143の脱フッ化水素反応と、HFO-1132(E)とHFO-1132(Z)との間の異性化反応とを行うことによりHFO-1132(E)及びHFO-1132(Z)を含む反応生成物を得る工程であって、触媒充填量W(g)と、前記原料ガスの流量Fo(0℃、1気圧での流量:cc/sec)との比率:W/Foで表される接触時間が0.1~10g・sec/ccである工程;
を含む、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を含む組成物の製造方法。
【請求項3】
前記希釈ガスは、HFガス、Oガス、COガス、及びNガスからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
(y)前記工程(x)で得られた前記反応生成物を、HFO-1132(E)を主成分とする第1ストリームと、HFO-1132(Z)を主成分とする第2ストリームとに分離する工程;
を更に含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
(z)前記工程(y)で得られた前記第1ストリーム又は前記第2ストリームを前記工程(x)にリサイクルして、前記異性化反応に供する工程;
を更に含む、請求項4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ジフルオロエチレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、ヨウ素を触媒として用いHFO-1132(Z)を気相中で接触させることによりHFO-1132(E)に異性化する方法が開示されている。また、特許文献1には、
(x)触媒を充填した反応器に、HFC-143と、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を含む組成物とを供給して、HFC-143の脱フッ化水素反応と、HFO-1132(E)とHFO-1132(Z)との間の異性化反応とを行うことによりHFO-1132(E)及びHFO-1132(Z)を含む組成物を得る工程;
(y)前記工程(x)で得られた反応生成物を、HFO-1132(E)を主成分とする第1ストリームと、HFO-1132(Z)を主成分とする第2ストリームとに分離する工程;及び
(z)前記工程(y)で得られた第1又は第2ストリームを前記工程(x)にリサイクルして、前記異性化反応に供する工程
を含む、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を含む組成物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Journal of the American Chemical Society,1961,vol.83,3047
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-214535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
効率的にHFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を得る方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
項1.(x)触媒を充填した反応器に、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)と、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及び/又はシス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))と、希釈ガスとを含む原料ガスを供給して、HFC-143の脱フッ化水素反応と、HFO-1132(E)とHFO-1132(Z)との間の異性化反応とを行うことによりHFO-1132(E)及びHFO-1132(Z)を含む反応生成物を得る工程であって、前記原料ガス中の前記希釈ガスの含有量が1~80mol%である工程;
を含む、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を含む組成物の製造方法。
項2.(x)触媒を充填した反応器に、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)と、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及び/又はシス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))とを含む原料ガスを供給して、HFC-143の脱フッ化水素反応と、HFO-1132(E)とHFO-1132(Z)との間の異性化反応とを行うことによりHFO-1132(E)及びHFO-1132(Z)を含む反応生成物を得る工程であって、触媒充填量W(g)と、前記原料ガスの流量Fo(0℃、1気圧での流量:cc/sec)との比率:W/Foで表される接触時間が0.1~10g・sec/ccである工程;
を含む、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を含む組成物の製造方法。
項3.前記希釈ガスは、HFガス、Oガス、COガス、及びNガスからなる群から選択される少なくとも一種である、上記項1に記載の製造方法。
項4.(y)前記工程(x)で得られた前記反応生成物を、HFO-1132(E)を主成分とする第1ストリームと、HFO-1132(Z)を主成分とする第2ストリームとに分離する工程;
を更に含む、上記項1又は2に記載の製造方法。
項5.(z)前記工程(y)で得られた前記第1ストリーム又は前記第2ストリームを前記工程(x)にリサイクルして、前記異性化反応に供する工程;
を更に含む、上記項4に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、従来法よりも効率的にHFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1~12におけるHFO-1132(E)の製造プロセスを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、触媒を充填した反応器に、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)と、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及び/又はシス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))とを含む原料ガスを供給して、HFC-143の脱フッ化水素反応と、HFO-1132(E)とHFO-1132(Z)との間の異性化反応とを行うことによりHFO-1132(E)及びHFO-1132(Z)を含む反応生成物を得る工程を含む、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を含む組成物の製造方法において、従来法よりも効率的にHFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を得ることができる方法を提供することを課題とする。
【0010】
本開示者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行ったところ、特定量の希釈ガスを含む原料ガスを用いる方法、又は触媒充填量W(g)と原料ガスの流量Fo(0℃、1気圧での流量:cc/sec)との比率:W/Foで表される接触時間を特定範囲に設定する方法によれば、上記の課題を解決できることを見出した。本開示はかかる知見に基づいてさらに検討を加えることにより完成したものであり、以下の態様を含む。
【0011】
本開示のHFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を含む組成物の製造方法は、大別すると下記の2つの実施形態に分けることができる。
【0012】
(実施形態1;希釈ガスを使用する態様)
(x)触媒を充填した反応器に、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)と、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及び/又はシス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))と、希釈ガスとを含む原料ガスを供給して、HFC-143の脱フッ化水素反応と、HFO-1132(E)とHFO-1132(Z)との間の異性化反応とを行うことによりHFO-1132(E)及びHFO-1132(Z)を含む反応生成物を得る工程であって、前記原料ガス中の前記希釈ガスの含有量が1~80mol%である工程;
を含む、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を含む組成物の製造方法。
【0013】
(実施形態2:特定のW/Fo比率である態様)
(x)触媒を充填した反応器に、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)と、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及び/又はシス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))とを含む原料ガスを供給して、HFC-143の脱フッ化水素反応と、HFO-1132(E)とHFO-1132(Z)との間の異性化反応とを行うことによりHFO-1132(E)及びHFO-1132(Z)を含む反応生成物を得る工程であって、触媒充填量W(g)と、前記原料ガスの流量Fo(0℃、1気圧での流量:cc/sec)との比率:W/Foで表される接触時間が0.1~10g・sec/ccである工程;
を含む、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を含む組成物の製造方法。
【0014】
以下、実施形態1及び2における共通の用語について先に説明した後、実施形態1及び2についてそれぞれ説明する。
【0015】
1.用語の説明
1.1. 異性化反応
HFO-1132(E)とHFO-1132(Z)との間の異性化反応をいう。この異性化反応は、以下の反応式に従う。HFO-1132(E)は、HFO-1132(Z)よりも熱力学的に安定性が低いため、この平衡はHFO-1132(Z)側に傾いている。HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を含む組成物を異性化反応に供することにより、平衡状態でのHFO-1132(E)及びHFO-1132(Z)の含有割合に近づくように反応が進む。この含有割合は温度に依存しており、高温で反応を行うほどHFO-1132(Z)が減少し、HFO-1132(E)が増加する。
【0016】
【化1】
【0017】
1.2. HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)、並びにこれを含む組成物
異性化の原料として用いられる、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)は、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、上記異性化反応を著しく妨げない限り、特に限定されない。
【0018】
その他の成分の例として、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を含む組成物を得る過程で混入した不純物、及び生成した副生成物等が含まれる。混入した不純物には、上記組成物を得るための原料に含まれる不純物等が含まれる。
【0019】
異性化の原料として用いられる、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を含む組成物を得る方法として、例えば、ハロゲン化エタンを脱ハロゲン化水素反応又は脱ハロゲン化反応に供することにより得る方法等が挙げられる。
【0020】
かかる反応において用いられるハロゲン化エタンとしては、特に限定されず、幅広く選択できる。具体例として、以下のハロゲン化エタン等が挙げられる。これらのハロゲン化エタンは、冷媒、溶剤、発泡剤、噴射剤等の用途として広く使用されており、一般に入手可能である。
【0021】
1,1,2-トリフルオロエタン(CHFCHF;HFC-143)
1-ブロモ-1,2-ジフルオロエタン(CHFBrCHF)
1-クロロ-1,2-ジフルオロエタン(CHClFCHF)
1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエタン(CHClFCHClF)
1,1,2,2-テトラフルオロエタン(CHFCHF
1-クロロ-1,2,2-トリフルオロエタン(CHClFCHF
【0022】
1.3. ハロゲン化エタンの脱ハロゲン化水素反応
上記ハロゲン化エタンの脱ハロゲン化水素反応は、触媒存在下で行うことが好ましい。触媒としては、特に限定されず、幅広く選択できる。
【0023】
触媒としては、脱ハロゲン化水素反応に使用できる公知の触媒を用いることができる。例えば、遷移金属、14族元素及び15族元素、並びにMg、Al等のハロゲン化物、酸化物及び酸化ハロゲン化物等を例示できる。遷移元素の具体例としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Ta及びW等を挙げることができる。14族元素の具体例としては、Sn及びPb等を挙げることができる。15族元素の具体例としては、Sb及びBi等を挙げることができる。
【0024】
これらの元素のハロゲン化物としては、フッ化物、塩化物などを挙げることができる。
【0025】
これらのうちで、好ましい触媒の一例としては、SbCl、SbCl、SbF、TaCl、SnCl、NbCl、FeCl、CrCl、CrF、TiCl、MoCl、Cr、CrO、CrO、CoCl、NiCl、MgF、AlOF(酸化フッ化アルミニウム)、CrOF(酸化フッ化クロム)等を挙げることができる。
【0026】
これらの触媒は、一種単独又は二種以上混合して用いることができ、担体に担持されていてもよい。担体としては、特に限定的ではないが、例えば、ゼオライトに代表される多孔性アルミナシリケート、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、活性炭、酸化チタン、酸化ジルコニア、酸化亜鉛、フッ化アルミニウム等が挙げられ、これらのうち一種若しくは二種以上を混合したもの、又は構造上複合化したものも用いることができる。担体に担持された触媒の具体例としては、Cr/Al、Cr/AlF、Cr/C、CoCl/Cr/Al、NiCl/Cr/Al、CoCl/AlF、NiCl/AlF等を例示できる。
【0027】
触媒としては、クロム原子を含有する触媒を用いることが好ましく、特に、酸化クロムが好ましい。酸化クロムとしては、結晶質酸化クロム、アモルファス酸化クロム等を例示でき、特にフッ素化された上記の酸化クロムがより好ましい。
【0028】
ハロゲン化エタンを脱ハロゲン化水素反応に供することによりHFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を含む組成物を得る方法の具体例として、原料としてのHFC-143を400℃、接触時間W/F(cat./ml・s)=60秒、15mol%O雰囲気下、触媒であるフッ化酸化クロムに接触させる方法等が挙げられる。
【0029】
1.4. ハロゲン化エタンの脱ハロゲン化反応
上記ハロゲン化エタンの脱ハロゲン化反応は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、非プロトン性溶媒中で、有機マグネシウム化合物、亜鉛などの金属試薬と反応させることによって、脱ハロゲン化反応を行うことができる。具体例としては、非プロトン性溶媒中で、1-ブロモ-1,2,2-フルオロエタンを亜鉛粉末と反応させて脱FBrすることにより、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を含む組成物が得られる。
【0030】
脱ハロゲン化反応の反応温度は、特に限定されず、適宜設定できる。例えば、-20℃~200℃とすることができ、好ましくは0℃~80℃である。
【0031】
脱ハロゲン化反応で使用される金属試薬は特に限定されず、適宜設定できる。例えば、亜鉛、マグネシウム及びニッケル等を使用できる。とりわけ亜鉛が好ましい。
【0032】
2.実施形態1(希釈ガスを使用する態様)
実施形態1のジフルオロエチレンの製造方法は、
(x)触媒を充填した反応器に、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)と、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及び/又はシス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))と、希釈ガスとを含む原料ガスを供給して、HFC-143の脱フッ化水素反応と、HFO-1132(E)とHFO-1132(Z)との間の異性化反応とを行うことによりHFO-1132(E)及びHFO-1132(Z)を含む反応生成物を得る工程であって、前記原料ガス中の前記希釈ガスの含有量が1~80mol%である工程;
を含む、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を含む組成物の製造方法である。
【0033】
実施形態1の方法においては、工程(x)において、触媒を充填した反応器に、HFC-143と、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)と、希釈ガスとを含む原料ガスを供給して、HFC-143の脱フッ化水素反応と、HFO-1132(E)とHFO-1132(Z)との間の異性化反応とを行うことによりHFO-1132(E)及びHFO-1132(Z)を含む組成物が得られる。ここで、実施形態1の方法では、前記原料ガス中の前記希釈ガスの含有量が1~80mol%であることにより、後続の(y)工程において、HFO-1132(E)を主成分とする第1ストリームと、HFO-1132(Z)を主成分とする第2ストリームとの分離をより容易とすることができる。これにより、本開示の製造方法は、従来技術の製造方法よりも効率的にHFO-1132の所望の異性体が得られる。
【0034】
2.1. 触媒
触媒としては、例えば、遷移金属、14族元素及び15族元素、並びにMg、Al等のハロゲン化物、酸化物及び酸化ハロゲン化物等を例示できる。遷移元素の具体例としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Ta、W等を挙げることができる。14族元素の具体例としては、Sn、Pb等を挙げることができる。15族元素の具体例としては、Sb、Bi等を挙げることができる。
【0035】
これらの元素のハロゲン化物としては、フッ化物、塩化物などを挙げることができる。
【0036】
これらのうちで、好ましい触媒の一例としては、SbCl、SbCl、SbF、TaCl、SnCl、NbCl、FeCl、CrCl、CrF、TiCl、MoCl、Cr、CrO、CrO、CoCl、NiCl、MgF、AlOF(酸化フッ化アルミニウム)、CrOF(酸化フッ化クロム)等を挙げることができる。
【0037】
これらの触媒は、一種単独又は二種以上混合して用いることができ、担体に担持されていてもよい。担体としては、特に限定的ではないが、例えば、ゼオライトに代表される多孔性アルミナシリケート、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、活性炭、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、フッ化アルミニウム等が挙げられ、これらのうち一種若しくは二種以上を混合したもの、又は構造上複合化したものも用いることができる。担体に担持された触媒の具体例としては、Cr/Al、Cr/AlF、Cr/C、CoCl/Cr/Al、NiCl/Cr/Al、CoCl/AlF、NiCl/AlF等を例示できる。
【0038】
触媒としては、クロム原子を含有する触媒を用いることが好ましく、特に、酸化クロムが好ましい。酸化クロムとしては、結晶質酸化クロム、アモルファス酸化クロム等を例示でき、特にフッ素化された上記の酸化クロムがより好ましい。
【0039】
2.2. 反応器
触媒を充填した反応器としては、上述の触媒が充填された固定床、又は流動床の形式の反応器で、例えばペレット状、粉体状、粒状等の形状の触媒を用いることができる。
【0040】
2.3. 原料ガス
実施形態1の方法においては、HFC-143と、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)と、希釈ガスとを含む原料ガスを反応器に供給するにあたり、原料ガス中の希釈ガスの含有量を1~80mol%とする。なお、原料ガス中のHFC-143と、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)との含有量は任意に設定することができる。
【0041】
原料ガス中の希釈ガスの含有量が1~80mol%であることにより、工程(x)での副生成物の生成を抑制することができる。希釈ガスの詳細は後述するが、例えば、希釈ガスにHFガスを用いることにより、希釈ガスを用いない場合に比べて、工程(x)でのHFC-143aの生成(副生)を抑制できる。HFC-143aはHFO-1132(E)との分離が困難であるため、希釈ガスにHFガスを用いることでこれらの生成を抑制すれば、後続の(y)工程において、HFO-1132(E)を主成分とする第1ストリームと、HFO-1132(Z)を主成分とする第2ストリームとの分離をより容易とすることができる。
【0042】
また、希釈ガスとしてHFガス(フッ化水素ガス)、Oガス(酸素ガス)、COガス(二酸化炭素ガス)、及びNガス(窒素ガス)からなる群から選択される少なくとも一種を用いる場合には、工程(x)において、触媒劣化を効率的に抑制することができ、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)の生成量を長期間に亘り維持できる。例えば、希釈ガスにOガスを用いる場合と希釈ガスを用いない場合とを比較すると、希釈ガスを用いない場合には工程(x)でのHFC-143の転化率は反応開始直後から低下し始めるが、希釈ガスにOガスを用いる場合には、100時間以上も良好な転化率が維持される。
【0043】
なお、原料ガス中の希釈ガスの好ましい含有量は4~70mol%であり、より好ましい含有量は40~65mol%である。特に40~65mol%にすることで触媒寿命が延長され易い。これは、理論に束縛されないが、重合物及び/又はタールの生成が効率的に抑制されるためと考えられる。
【0044】
実施形態1の方法においては、希釈ガスとしては、HFガス、Oガス、COガス、Nガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等を用いることができ、特にコストの点で、Nガスが好ましい。また、後述する観点からHFガス、Oガス、及びCOガスをそれぞれ好ましい希釈ガスとすることもできる。
【0045】
希釈ガスにHFガスを用いる場合には、後続の(y)工程において、HFO-1132(E)を主成分とする第1ストリームと、HFO-1132(Z)を主成分とする第2ストリームとに分離する際、HFO-1132(Z)を主成分とする第2ストリームに含まれるHFを完全に分離せずとも、適宜所望量のHFを含有するストリームとして(x)工程にリサイクルすることができる。これにより、HFガスを用いない場合に比べて(y)工程の設備や運転コストを低減することができる。
【0046】
また、希釈ガス中にOガスを含む場合には、Oのmol濃度は、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)と、HFC-143との合計mol濃度に対して、限定的ではないが、好ましくは5mol%以上、より好ましくは10mol%以上に設定することにより、更に触媒寿命を延長させる効果を高めることができる。なお、Oガスの代わりに塩素ガスを用いることによっても触媒寿命を延長させる効果を高めることができる。つまり、塩素ガスも希釈ガスとして用いることができる。
【0047】
更に、希釈ガス中にCOガスを含む場合には、COのmol濃度は、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)と、HFC-143との合計mol濃度に対して、限定的ではないが、好ましくは30mol%以上、より好ましくは50mol%以上に設定することにより、原料ガス、反応生成物を含むガス、分離工程に供された系内のガスのそれぞれの燃焼性を低減させる効果が得られる。希釈ガス中のCOの濃度は、プロセス系内のガスの燃焼性低減、更には不燃化のために任意に調整できるとともに、分離工程における目的物の収率の観点からも適宜決定することができる。
【0048】
2.4. 反応条件
工程(x)ではHFC-143の脱フッ化水素反応と、HFO-1132(E)とHFO-1132(Z)との間の異性化反応とを行うことによりHFO-1132(E)及びHFO-1132(Z)を含む組成物を得る。ここで、HFC-143の脱フッ化水素反応によりHFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)が得られる。工程(x)では、上記脱フッ化水素反応と異性化反応とは同一反応器又は1ステップで行う。なお、本開示における工程(x)では同一反応器で上記両反応を行うことを基本とするが、エンジニアリング的な理由により反応器のサイズが大きすぎる、反応器が長すぎる等から実使用が困難な場合に、同一の反応器(1つの反応器)に代えて、同じ反応条件で制御する反応器を複数並列に並べて各反応器に同じ組成の原料ガスを供給する態様も採り得る。このような態様を「1ステップ」と称する(後述の実施形態2においても同じ)。
【0049】
脱フッ化水素反応及び異性化反応は、連続式又はバッチ式のいずれもよいが、製造効率を高める点では連続式を採用することが好ましい。また、両反応は液相反応又は気相反応のいずれでも行うことができるが、気相反応が好ましい。以下の圧力、及び接触時間の条件は気相反応における条件である。
【0050】
工程(x)における両反応の反応温度は限定的ではないが、200℃~500℃の範囲が好ましく、300℃~450℃の範囲がより好ましい。
【0051】
反応器の圧力は特に限定されず、適宜設定することができるが、圧力が高いとタールなどの重合物の生成が促進されるため、適当な圧力を設定することができる。通常は常圧~0.2MPaG、好ましくは常圧~0.1MPaG程度の範囲とすればよい。なお、本開示における圧力の値は、特に断らない限りゲージ圧(単位末尾に「G」を付している)を意味する。
【0052】
反応時間については適宜設定することができ、特に限定されない。接触時間を長くすれば転化率を上げることができるが、触媒量が多くなって設備が大きくなり、非効率であるため、適当な接触時間を選択する必要がある。通常は、触媒充填量W(g)と、反応系に流す原料ガスの流量Fo(0℃、1気圧での流量:cc/sec)との比率:W/Foで表される接触時間を0.01~80g・sec/cc程度とすることが好ましく、その中でも0.5~50g・sec/cc程度がより好ましく、1~15g・sec/cc程度が更に好ましい。かかる範囲に設定することにより、副生成物の生成を抑制し易くなる。
【0053】
2.5. 工程(y)
実施形態1の方法では、工程(x)で得られた反応生成物を、HFO-1132(E)を主成分とする第1ストリームと、HFO-1132(Z)を主成分とする第2ストリームとに分離する工程(y)を有していてもよい。例えば、具体的には、工程(x)の異性化反応により生成した反応器出口ガスを、冷却して液化させた後、蒸留して、HFO-1132(E)を主成分とする第1ストリームと、HFO-1132(Z)を主成分とする第2ストリームとに分離する。なお、HFO-1132(E)を主成分とする第1ストリームは、第1ストリーム中の有機物全体のうちHFO-1132(E)を30mol%以上含有し、好ましくは50mol%以上含有する。また、HFO-1132(Z)を主成分とする第2ストリームは、第2ストリーム中の有機物全体のうちHFO-1132(Z)を30mol%以上含有し、好ましくは50mol%以上含有する。
【0054】
第1ストリームには、目的物であるHFO-1132(E)の他に、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を含む組成物を得るために用いたHFC-143の転移反応により生成したHFC-143a等が含まれ得る。この場合には、更に別途蒸留などの手段によりHFO-1132(E)を分離することができる。
【0055】
2.6. 工程(z)
実施形態1の方法では、工程(y)で得られた第1ストリーム又は第2ストリームを、前記工程(x)にリサイクルして、前記異性化反応に供する工程(z)を有していてもよい。
【0056】
実施形態1の方法においては、HFO-1132(E)及びHFO-1132(Z)のいずれかの含有割合がより高められた組成物を回収するために、前記工程(y)で得られた第1ストリーム及び第2ストリームのうち、前記工程(z)でリサイクルされるストリームとは異なるストリームを回収する工程を更に有していることが好ましい。例えば、前記工程(z)で第1ストリームをリサイクルし、第2ストリームを回収する工程とすることが挙げられる。
【0057】
3.実施形態2(特定のW/Fo比率である態様)
実施形態2のジフルオロエチレンの製造方法は、
(x)触媒を充填した反応器に、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)と、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及び/又はシス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))とを含む原料ガスを供給して、HFC-143の脱フッ化水素反応と、HFO-1132(E)とHFO-1132(Z)との間の異性化反応とを行うことによりHFO-1132(E)及びHFO-1132(Z)を含む反応生成物を得る工程であって、触媒充填量W(g)と、前記原料ガスの流量Fo(0℃、1気圧での流量:cc/sec)との比率:W/Foで表される接触時間が0.1~10g・sec/ccである工程;
を含む、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を含む組成物の製造方法である。
【0058】
実施形態2の方法においては、工程(x)において、触媒を充填した反応器に、HFC-143と、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)とを含む原料ガスを供給して、HFC-143の脱フッ化水素反応と、HFO-1132(E)とHFO-1132(Z)との間の異性化反応とを行うことによりHFO-1132(E)及びHFO-1132(Z)を含む組成物が得られる。ここで、実施形態2の方法では、触媒充填量W(g)と、前記原料ガスの流量Fo(0℃、1気圧での流量:cc/sec)との比率:W/Foで表される接触時間が0.1~10g・sec/ccであることにより、副生成物の生成を抑制することができる。特に、CO、CO、HFC-143a等の生成が抑制され、後続の(y)工程において、HFO-1132(E)を主成分とする第1ストリームと、HFO-1132(Z)を主成分とする第2ストリームとの分離の際、CO、CO、HFC-143a等と同伴してロスするHFO-1132の量を低減することができる。これにより、本開示の製造方法は、従来技術の製造方法よりも効率的にHFO-1132の所望の異性体が得られる。
【0059】
3.1. 触媒
触媒としては、例えば、遷移金属、14族元素及び15族元素、並びにMg、Al等のハロゲン化物、酸化物及び酸化ハロゲン化物等を例示できる。遷移元素の具体例としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Ta、W等を挙げることができる。14族元素の具体例としては、Sn、Pb等を挙げることができる。15族元素の具体例としては、Sb、Bi等を挙げることができる。
【0060】
これらの元素のハロゲン化物としては、フッ化物、塩化物などを挙げることができる。
【0061】
これらのうちで、好ましい触媒の一例としては、SbCl、SbCl、SbF、TaCl、SnCl、NbCl、FeCl、CrCl、CrF、TiCl、MoCl、Cr、CrO、CrO、CoCl、NiCl、MgF、AlOF(酸化フッ化アルミニウム)、CrOF(酸化フッ化クロム)等を挙げることができる。
【0062】
これらの触媒は、一種単独又は二種以上混合して用いることができ、担体に担持されていてもよい。担体としては、特に限定的ではないが、例えば、ゼオライトに代表される多孔性アルミナシリケート、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、活性炭、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、フッ化アルミニウム等が挙げられ、これらのうち一種若しくは二種以上を混合したもの、又は構造上複合化したものも用いることができる。担体に担持された触媒の具体例としては、Cr/Al、Cr/AlF、Cr/C、CoCl/Cr/Al、NiCl/Cr/Al、CoCl/AlF、NiCl/AlF等を例示できる。
【0063】
触媒としては、クロム原子を含有する触媒を用いることが好ましく、特に、酸化クロムが好ましい。酸化クロムとしては、結晶質酸化クロム、アモルファス酸化クロム等を例示でき、特にフッ素化された上記の酸化クロムがより好ましい。
【0064】
3.2. 反応器
触媒を充填した反応器としては、上述の触媒が充填された固定床、又は流動床の形式の反応器で、例えばペレット状、粉体状、粒状等の形状の触媒を用いることができる。
【0065】
3.3. 原料ガス
実施形態2の方法においては、HFC-143と、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)とを含む原料ガスを用いる。なお、原料ガス中のHFC-143と、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)との含有量は任意に設定することができる。また、原料ガスは、希釈ガスにより希釈されていてもよい。
【0066】
希釈ガスとしては、HFガス、Oガス、COガス、Nガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等を用いることができ、特にコストの点で、Nガスが好ましい。
【0067】
原料ガス中に希釈ガスを含むことにより、副生成物の生成を抑制でき、且つ工程(x)において、触媒劣化を効率的に抑制することができる。これは、理論に束縛されないが、重合物及び/又はタールの生成が効率的に抑制されるためと考えられる。原料ガス中の希釈ガスmol濃度は、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)と、HFC-143との合計mol濃度に対して、0.01~3.0mol%が好ましく、0.1~2.0mol%がより好ましく、0.2~1.0mol%が更に好ましい。なお、希釈ガスにOガス又は塩素ガスを用いる場合には触媒寿命を延長させる効果をより高めることができる。つまり、塩素ガスも希釈ガスとして用いることができる。
【0068】
希釈ガス中にCOガスを含む場合には、COのmol濃度は、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)と、HFC-143との合計mol濃度に対して、限定的ではないが、好ましくは30mol%以上、より好ましくは50mol%以上に設定することにより、原料ガス、反応生成物を含むガス、分離工程に供された系内のガスのそれぞれの燃焼性を低減させる効果が得られる。希釈ガス中のCOの濃度は、プロセス系内のガスの燃焼性低減、更には不燃化のために任意に調整できるとともに、分離工程における目的物の収率の観点からも適宜決定することができる。
【0069】
3.4. 反応条件
工程(x)ではHFC-143の脱フッ化水素反応と、HFO-1132(E)とHFO-1132(Z)との間の異性化反応とを行うことによりHFO-1132(E)及びHFO-1132(Z)を含む組成物を得る。ここで、HFC-143の脱フッ化水素反応によりHFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)が得られる。工程(x)では、上記脱フッ化水素反応と異性化反応とは同一反応器又は1ステップで行う。両反応は連続式又はバッチ式のいずれもよいが、製造効率を高める点では連続式を採用することが好ましい。なお、実施形態2は気相反応である。
【0070】
実施形態2の方法においては、反応器に原料ガスを供給するにあたり、触媒充填量W(g)と、原料ガスの流量Fo(0℃、1気圧での流量:cc/sec)との比率:W/Foで表される接触時間を0.1~10g・sec/ccの範囲に設定する。これにより、工程(x)における副生成物の生成を抑制することができる。特に、CO、CO、HFC-143a等の生成が抑制され、後続の(y)工程において、HFO-1132(E)を主成分とする第1ストリームと、HFO-1132(Z)を主成分とする第2ストリームとの分離の際、CO、CO、HFC-143a等と同伴してロスするHFO-1132の量を低減することができる。これにより、本開示の製造方法は、従来技術の製造方法よりも効率的にHFO-1132の所望の異性体が得られる。W/Foで表される接触時間は0.1~10g・sec/ccの範囲であればよいが、その中でも1~5g・sec/ccの範囲が好ましい。かかる範囲に設定することにより、副生成物の生成をより抑制し易くなる。
【0071】
工程(x)における両反応の反応温度は限定的ではないが、200℃~500℃の範囲が好ましく、300℃~450℃の範囲がより好ましい。
【0072】
反応器の圧力は特に限定されず、適宜設定することができるが、圧力が高いとタールなどの重合物の生成が促進されるため、適当な圧力を設定することができる。通常は常圧~0.2MPaG、好ましくは常圧~0.1MPaG程度の範囲とすればよい。
【0073】
3.5. 工程(y)
実施形態2の方法では、工程(x)で得られた反応生成物を、HFO-1132(E)を主成分とする第1ストリームと、HFO-1132(Z)を主成分とする第2ストリームとに分離する工程(y)を有していてもよい。例えば、具体的には、工程(x)の異性化反応により生成した反応器出口ガスを、冷却して液化させた後、蒸留して、HFO-1132(E)を主成分とする第1ストリームと、HFO-1132(Z)を主成分とする第2ストリームとに分離する。なお、HFO-1132(E)を主成分とする第1ストリームは、第1ストリーム中の有機物全体のうちHFO-1132(E)を30mol%以上含有し、好ましくは50mol%以上含有する。また、HFO-1132(Z)を主成分とする第2ストリームは、第2ストリーム中の有機物全体のうちHFO-1132(Z)を30mol%以上含有し、好ましくは50mol%以上含有する。
【0074】
第1ストリームには、目的物であるHFO-1132(E)の他に、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を含む組成物を得るために用いたHFC-143の転移反応により生成したHFC-143a等が含まれ得る。この場合には、更に別途蒸留などの手段によりHFO-1132(E)を分離することができる。
【0075】
3.6. 工程(z)
実施形態2の方法では、工程(y)で得られた第1ストリーム又は第2ストリームを、前記工程(x)にリサイクルして、前記異性化反応に供する工程(z)を有していてもよい。
【0076】
実施形態2の方法においては、HFO-1132(E)及びHFO-1132(Z)のいずれかの含有割合がより高められた組成物を回収するために、前記工程(y)で得られた第1ストリーム及び第2ストリームのうち、前記工程(z)でリサイクルされるストリームとは異なるストリームを回収する工程を更に有していることが好ましい。例えば、前記工程(z)で第1ストリームをリサイクルし、第2ストリームを回収する工程とすることが挙げられる。
【実施例0077】
以下、実施例を挙げて本開示を説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0078】
<実施例1~12>
HFC-143とHFO-1132(Z)とを含む原料ガスを、触媒を充填した反応器に供給して脱フッ化水素反応及び異性化反応に供してHFO-1132(E)及びHFO-1132(Z)を含む組成物を得(工程(x))、これを分離工程に送ってHFO-1132(E)を主成分とする第1ストリーム及びHFO-1132(Z)を主成分とする第2ストリームに分離し(工程(y))、第2ストリームを工程(x)にリサイクルする(工程(z))プロセスを構築した。
【0079】
(1)脱フッ化水素反応及び異性化反応(工程(x))
表1及び表2に示す反応条件により、各原料ガス(入口組成で表記)を脱フッ化水素反応及び異性化反応に供し、HFO-1132(E)及びHFO-1132(Z)を含む組成物(出口有機物組成で表記)を得た(工程(x))。反応器の形状は外径12.7mm、長さ700mmであり、下記調製手順により得た酸化クロム触媒を10g充填して上記反応を行った。
【0080】
<酸化クロム触媒の調製手順>
硝酸クロムの5.7%水溶液765gに、10%のアンモニア水114gを加え、得られた沈殿を濾過洗浄後、空気中、120℃で12時間乾燥して、水酸化クロムを得た。これを直径3.0mm、高さ3.0mmのペレットに成形し、窒素気流中400℃で2時間焼成した。得られた酸化クロムは、Cr量の定量及び元素分析の結果、CrO2.0と特定された。このペレット状の酸化クロムをハステロイC製反応管に充填し、HFをNで20体積%に希釈したガスを使用し、200~360℃まで段階的に温度を上げながら加熱し、360℃に到達した後、100%HFにより220時間フッ素化して、フッ素化された酸化クロム触媒を得た。
【0081】
実施例1~12の各工程(x)の結果は下記の通りであり、併せて表1及び表2にもまとめて示す。
【0082】
実施例1
入口組成(mol%)は、HFC-143/HFO-1132(Z)/O/HFの順に、30.0/60.0/10.0/0.0であった。
【0083】
反応温度は350℃であり、W/Foで表される接触時間は10g・sec/ccであった。
【0084】
出口有機物組成(mol%)は、HFO-1132(Z)/HFO-1132(E)/HFC-143/CO/CO/R143aの順に、65.0/13.0/12.0/4.0/3.1/0.8であった。
【0085】
実施例2
入口組成(mol%)は、HFC-143/HFO-1132(Z)/O/HFの順に、28.7/57.4/9.6/4.3であった。
【0086】
反応温度は350℃であり、W/Foで表される接触時間は10g・sec/ccであった。
【0087】
出口有機物組成(mol%)は、HFO-1132(Z)/HFO-1132(E)/HFC-143/CO/CO/R143aの順に、64.0/12.2/15.0/2.9/2.9/0.9であった。
【0088】
実施例3
入口組成(mol%)は、HFC-143/HFO-1132(Z)/O/HFの順に、15.8/31.6/5.3/47.4であった。
【0089】
反応温度は350℃であり、W/Foで表される接触時間は10g・sec/ccであった。
【0090】
出口有機物組成(mol%)は、HFO-1132(Z)/HFO-1132(E)/HFC-143/CO/CO/R143aの順に、60.0/11.1/23.0/2.2/2.0/1.1であった。
【0091】
実施例4
入口組成(mol%)は、HFC-143/HFO-1132(Z)/O/HFの順に、10.7/21.4/3.6/64.3であった。
【0092】
反応温度は350℃であり、W/Foで表される接触時間は10g・sec/ccであった。
【0093】
出口有機物組成(mol%)は、HFO-1132(Z)/HFO-1132(E)/HFC-143/CO/CO/R143aの順に、58.0/9.5/26.0/1.6/1.8/1.1であった。
【0094】
実施例5
入口組成(mol%)は、HFC-143/HFO-1132(Z)/O/HFの順に、10.7/21.4/3.6/64.3であった。
【0095】
反応温度は350℃であり、W/Foで表される接触時間は20g・sec/ccであった。
【0096】
出口有機物組成(mol%)は、HFO-1132(Z)/HFO-1132(E)/HFC-143/CO/CO/R143aの順に、57.0/9.7/24.0/2.7/2.9/1.8であった。
【0097】
実施例6
入口組成(mol%)は、HFC-143/HFO-1132(Z)/O/HFの順に、15.0/80.0/5.0/0.0であった。
【0098】
反応温度は370℃であり、W/Foで表される接触時間は10g・sec/ccであった。
【0099】
出口有機物組成(mol%)は、HFO-1132(Z)/HFO-1132(E)/HFC-143/CO/CO/R143aの順に、72.0/15.0/4.0/2.9/3.1/1.2であった。
【0100】
実施例7
入口組成(mol%)は、HFC-143/HFO-1132(Z)/O/HFの順に、15.0/80.0/5.0/0.0であった。
【0101】
反応温度は370℃であり、W/Foで表される接触時間は5g・sec/ccであった。
【0102】
出口有機物組成(mol%)は、HFO-1132(Z)/HFO-1132(E)/HFC-143/CO/CO/R143aの順に、75.0/11.0/7.0/2.0/2.2/0.8であった。
【0103】
実施例8
入口組成(mol%)は、HFC-143/HFO-1132(Z)/O/HFの順に、15.0/80.0/5.0/0.0であった。
【0104】
反応温度は370℃であり、W/Foで表される接触時間は1.5g・sec/ccであった。
【0105】
出口有機物組成(mol%)は、HFO-1132(Z)/HFO-1132(E)/HFC-143/CO/CO/R143aの順に、80.0/8.0/9.0/1.1/0.8/0.4であった。
【0106】
実施例9
入口組成(mol%)は、HFC-143/HFO-1132(Z)/O/HFの順に、15.0/80.0/5.0/0.0であった。
【0107】
反応温度は370℃であり、W/Foで表される接触時間は0.5g・sec/ccであった。
【0108】
出口有機物組成(mol%)は、HFO-1132(Z)/HFO-1132(E)/HFC-143/CO/CO/R143aの順に、81.0/6.0/11.0/0.5/0.9/0.2であった。
【0109】
実施例10
入口組成(mol%)は、HFC-143/HFO-1132(Z)/O/HFの順に、88.0/10.0/2.0/0.0であった。
【0110】
反応温度は300℃であり、W/Foで表される接触時間は3g・sec/ccであった。
【0111】
出口有機物組成(mol%)は、HFO-1132(Z)/HFO-1132(E)/HFC-143/CO/CO/R143aの順に、13.0/0.2/85.0/0.2/0.2/0.1であった。
【0112】
実施例11
入口組成(mol%)は、HFC-143/HFO-1132(Z)/O/HFの順に、88.0/10.0/2.0/0.0であった。
【0113】
反応温度は300℃であり、W/Foで表される接触時間は7g・sec/ccであった。
【0114】
出口有機物組成(mol%)は、HFO-1132(Z)/HFO-1132(E)/HFC-143/CO/CO/R143aの順に、19.0/1.0/79.0/0.4/0.4/0.1であった。
【0115】
実施例12
入口組成(mol%)は、HFC-143/HFO-1132(Z)/O/Nの順に、15.8/31.6/5.3/47.4であった。
【0116】
反応温度は350℃であり、W/Foで表される接触時間は10g・sec/ccであった。
【0117】
出口有機物組成(mol%)は、HFO-1132(Z)/HFO-1132(E)/HFC-143/CO/CO/R143aの順に、59.0/11.6/20.0/2.9/2.8/0.9であった。
【0118】
【表1】
【0119】
【表2】
【0120】
酸化フッ化クロム触媒を用いて異性化反応を行い、どちらか一方の異性体濃度が、供給したHFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)からなる原料組成物よりも上昇した反応生成物を得た。実施例1~12では希釈ガスとしてOガスを用いることにより、反応100時間経過後においても触媒劣化は抑制されており良好な転化率が維持されていることが分かる。また、希釈ガスがHFガスである実施例3と希釈ガスがNガスである実施例12とを対比すると、HFガスを用いる実施例3の方がよりCO、CO等の生成(副生)を抑制できることが分かる。更に、HFガスを用いない実施例1と比較すると少しでもHFガスを用いる実施例2の方がCO、CO等の生成(副生)を抑制できることが分かる。更に、実施例4のように接触時間が長い(実施形態2の要件を満たさない)場合でも希釈ガス量が実施形態1の要件を満たす限り、COの生成(副生)を有意に抑制できることが分かる。いずれの実施例においても、工程(x)において副生成物の生成が抑制されているため、後続の工程(y)において蒸留により、HFO-1132(E)を主成分とする第1ストリームと、HFO-1132(Z)を主成分とする第2ストリームとに容易に分離することができた。
【0121】
(2)反応プロセス
上記結果をもとに、図1に模式的に示した製造プロセスを構築した。各ストリームにおける各成分の流量(kg/hr)は下記の通りであり、併せて表3にもまとめて示す。各ストリームにおける各成分の流量は、HFO-1132(E)/HFO-1132(Z)/HFC-143/HFC-143a/CO+COの合計/HFの順に、
F11…0/0/8.8/0/0/0
S11…5.6/70.9/72/0.63/0.48/41.7
S12…5.6/0/0/0.63/0.48/0.03
S13…0/70.9/72/0/0/41.67
S14…0/70.9/72/0/0/39.3
S15…0/0/0/0/0/2.4
であった。反応条件は反応温度350℃、反応圧は0.1MPaG、W/F=6g・sec/ccである。目的生成物はHFO-1132(E)である。また、ストリーム中に含まれるHFガスは次の工程に送る際に脱酸装置により除去されて送られるが、脱酸は吸着、蒸留、水洗などいずれの方法でも行うことができる。
【0122】
【表3】
【符号の説明】
【0123】
A.脱フッ化水素反応及び異性化反応のための反応器
B.蒸留塔
C.蒸留塔
図1
【手続補正書】
【提出日】2024-02-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(x)触媒を充填した反応器に、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)と、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及び/又はシス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))と、希釈ガスとを含む原料ガスを供給して、HFC-143の脱フッ化水素反応と、HFO-1132(E)とHFO-1132(Z)との間の異性化反応とを行うことによりHFO-1132(E)及びHFO-1132(Z)を含む反応生成物を得る工程であって、前記原料ガス中の前記希釈ガスの含有量が40~65mol%である工程;
を含む、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を含む組成物の製造方法。
【請求項2】
(x)触媒を充填した反応器に、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)と、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及び/又はシス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))とを含む原料ガスを供給して、HFC-143の脱フッ化水素反応と、HFO-1132(E)とHFO-1132(Z)との間の異性化反応とを行うことによりHFO-1132(E)及びHFO-1132(Z)を含む反応生成物を得る工程であって、触媒充填量W(g)と、前記原料ガスの流量Fo(0℃、1気圧での流量:cc/sec)との比率:W/Foで表される接触時間が0.1~g・sec/ccである工程;
を含む、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を含む組成物の製造方法。
【請求項3】
前記希釈ガスは、HFガス、Oガス、COガス、及びNガスからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
(y)前記工程(x)で得られた前記反応生成物を、HFO-1132(E)を主成分とする第1ストリームと、HFO-1132(Z)を主成分とする第2ストリームとに分離する工程;
を更に含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
(z)前記工程(y)で得られた前記第1ストリーム又は前記第2ストリームを前記工程(x)にリサイクルして、前記異性化反応に供する工程;
を更に含む、請求項4に記載の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
項1.(x)触媒を充填した反応器に、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)と、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及び/又はシス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))と、希釈ガスとを含む原料ガスを供給して、HFC-143の脱フッ化水素反応と、HFO-1132(E)とHFO-1132(Z)との間の異性化反応とを行うことによりHFO-1132(E)及びHFO-1132(Z)を含む反応生成物を得る工程であって、前記原料ガス中の前記希釈ガスの含有量が40~65mol%である工程;
を含む、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を含む組成物の製造方法。
項2.(x)触媒を充填した反応器に、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)と、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及び/又はシス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))とを含む原料ガスを供給して、HFC-143の脱フッ化水素反応と、HFO-1132(E)とHFO-1132(Z)との間の異性化反応とを行うことによりHFO-1132(E)及びHFO-1132(Z)を含む反応生成物を得る工程であって、触媒充填量W(g)と、前記原料ガスの流量Fo(0℃、1気圧での流量:cc/sec)との比率:W/Foで表される接触時間が0.1~g・sec/ccである工程;
を含む、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)を含む組成物の製造方法。
項3.前記希釈ガスは、HFガス、Oガス、COガス、及びNガスからなる群から選択される少なくとも一種である、上記項1に記載の製造方法。
項4.(y)前記工程(x)で得られた前記反応生成物を、HFO-1132(E)を主成分とする第1ストリームと、HFO-1132(Z)を主成分とする第2ストリームとに分離する工程;
を更に含む、上記項1又は2に記載の製造方法。
項5.(z)前記工程(y)で得られた前記第1ストリーム又は前記第2ストリームを前記工程(x)にリサイクルして、前記異性化反応に供する工程;
を更に含む、上記項4に記載の製造方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0077
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0077】
以下、実施例を挙げて本開示を説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例1、2及び4~11は実施形態1において参考例である。実施例1~6及び12は実施形態2において参考例である。