(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049420
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】アクスルビーム式サスペンション
(51)【国際特許分類】
B60G 9/02 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
B60G9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155643
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】石松 久嗣
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA74
3D301CA32
3D301DA08
3D301DA31
3D301DA88
3D301DB02
3D301DB09
3D301DB10
3D301DB13
(57)【要約】
【課題】簡素な構成で複数のワッツリンクの干渉を防止できること。
【解決手段】アクスルビーム式サスペンション10は、前後方向に延在し、前端側が車体に支持され後端側が車輪に連結された一対のトレーリングアーム12a,12bと、車幅方向に延びて一対のトレーリングアーム12a,12b同士を連結するアクスルビーム13と、車幅方向に延びてアクスルビーム13よりも後方で一対のトレーリングアーム12a,12b同士を連結するとともに、中間部が車体に固定される一対のワッツリンク機構FW,BWと、一対の内の一方のワッツリンク機構FWの車幅外側端部22Aと、他方のワッツリンク機構BWの車幅外側端部22Bと、を接続する接続部材としてのインナーシャフト22aと、を備える。インナーシャフト22aは、インナーシャフト22aを囲む弾性部材22bを介してトレーリングアーム12aに固定されている構成とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向に延在し、前端側が車体に支持され後端側が車輪に連結された一対のトレーリングアームと、
車幅方向に延びて一対の前記トレーリングアーム同士を連結するアクスルビームと、
車幅方向に延びて前記アクスルビームよりも後方で一対の前記トレーリングアーム同士を連結するとともに、中間部が車体に固定される一対のワッツリンク機構と、
一対の内の一方の前記ワッツリンク機構の車幅外側端部と、他方の前記ワッツリンク機構の車幅外側端部と、を接続する接続部材と、を備え、
前記接続部材は、前記接続部材を囲む弾性部材を介して前記トレーリングアームに固定されている
ことを特徴とするアクスルビーム式サスペンション。
【請求項2】
前記トレーリングアームの後端側に固定され、中空部を有するブラケットを備え、
前記接続部材は、前記ブラケットの中空部に前記弾性部材で囲まれて保持される
ことを特徴とする請求項1に記載のアクスルビーム式サスペンション。
【請求項3】
前記一対のワッツリンク機構は、前後に並んで配置されており、
前記接続部材は、前記弾性部材で囲まれて保持される本体部と、前記本体部から上方に延出し一方の前記ワッツリンク機構の車幅外側端部が連結される上側連結部と、前記本体部から下方に延出し他方の前記ワッツリンク機構の車幅外側端部が連結される下側連結部と、を備え、
前記上側連結部と前記下側連結部とは、前後方向にオフセットしている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアクスルビーム式サスペンション。
【請求項4】
前記一対のワッツリンク機構は、前後に並んで配置されており、
それぞれのワッツリンク機構は、車幅方向に延びる左右一対のロッドと、上下方向に延びて前記ロッドの車幅方向内側端部同士を回動可能に連結する中間リンクと、を備え、
それぞれの中間リンクは、車体に対して同軸で回動可能に保持されている
ことを特徴とする請求項1に記載のアクスルビーム式サスペンション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体両側の車輪内側において、車幅方向に延在するアクスルビームと平行に配設される複数本のロッドに取り付けられるワッツリンク機構を用いたアクスルビーム式サスペンションに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通参加者の中でも高齢者や障がい者や子供といった脆弱な立場にある人々にも配慮した持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する取り組みが活発化している。この実現に向けて車両の挙動安定性に関する開発を通して交通の安全性や利便性をより一層改善する研究開発に注力している。
【0003】
ワッツリンク機構を用いたアクスルビーム式サスペンションの従来技術として、特許文献1に記載の構成がある。特許文献1の構成は、上下に配置された2つのワッツリンク(又はワットリンク)機構を備える。それぞれのワッツリンク機構は複数の横方向(車幅方向)スラストロッドを有している。一方のワッツリンク機構の内の少なくとも1つの横方向スラストロッドが長さ可変であり、長さ変化がアクチュエータによって行われる構成となっている。この構成において、両側ワッツリンク機構の複数の横方向スラストロッドに対応する車幅方向外側の枢着点を成すジョイントが、それぞれペアになって両側ワットリンク機構にとって共通の旋回軸線に位置している。共通に枢着された、又は、一体に形成された横方向スラストロッドペアの旋回軸が、質量体もしくは車両の下部構造に弾性的に結合されている。この構成によって、複数のスラストロッドが可変動作するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両の挙動安定性において、特許文献1の構成では、互いのワッツリンク機構が作動した際に、ワッツリンクとしての複数のスラストロッドが干渉しやすい問題があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、簡素な構成で複数のワッツリンクの干渉を防止できるアクスルビーム式サスペンションを提供することを目的とする。そして、延いては持続可能な輸送システムの発展に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明のアクスルビーム式サスペンションは、前後方向に延在し、前端側が車体に支持され後端側が車輪に連結された一対のトレーリングアームと、車幅方向に延びて一対の前記トレーリングアーム同士を連結するアクスルビームと、車幅方向に延びて前記アクスルビームよりも後方で一対の前記トレーリングアーム同士を連結するとともに、中間部が車体に固定される一対のワッツリンク機構と、一対の内の一方の前記ワッツリンク機構の車幅外側端部と、他方の前記ワッツリンク機構の車幅外側端部と、を接続する接続部材と、を備え、前記接続部材は、前記接続部材を囲む弾性部材を介して前記トレーリングアームに固定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、アクスルビーム式サスペンションにおいて、簡素な構成で複数のワッツリンクの干渉を防止できる。そして、延いては持続可能な輸送システムの発展に寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態のアクスルビーム式サスペンションの構成を示す斜視図である。
【
図2】左側のワッツリンクの構成を示す斜視図である。
【
図3】
図2に示すワッツリンクのIII-III断面図である。
【
図4】ワッツリンク機構の構造を示す斜視図である。
【
図6】車体の左側のサスペンションを側面視した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施形態の構成>
本発明の実施形態について、
図1~
図5を参照して詳細に説明する。説明において、同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、各図中において、矢印で示す「前後」は自動車(図示せず)の前後方向、「左右」は自動車の幅方向、「上下」は鉛直上下方向をそれぞれ示している。
【0011】
図1は本実施形態のアクスルビーム式サスペンションの構成を示す斜視図である。
図1に示すアクスルビーム式サスペンション10は、車両のリア側において、車幅方向の両側に配置された一対の車輪11a,11bの内側に連結され、車両前方向に延在する左右一対のトレーリングアーム12a,12bを備える。言い換えれば、一対のトレーリングアーム12a,12bは、前後方向に延在し、前端側が車体に支持され、後端側が車輪11a,11bに連結されている。一対のトレーリングアーム12a,12bは車両の左右に離間しており、車幅方向に延びるアクスルビーム13で連結されている。左右のトレーリングアーム12a,12bの車両後方側には、車両の上下動を吸収するコイルスプリング15a,15bが配設され、更に後方側には、サスペンションの動きを制御して車両の快適な乗り心地や安定的な操縦性を生み出す、棒状のショックアブソーバ17a,17bが配設されている。
【0012】
左右のトレーリングアーム12a,12bの前端側には、車体に取り付けられたコンプライアンスブッシュ(ブッシュともいう)14a,14bが固定されている。ブッシュ14a,14bは、ゴム等の弾性部材によるものであり、車両が段差を乗り越えたときの後述の同相又は逆相による振動を抑制する。左右のブッシュ14a,14bは、トレーリングアーム12a,12bの前端側の概略円筒形状を成す円筒部2a1,2b1の内部に挿通されている。
【0013】
ここで、同相及び逆相について説明する。「同相」とは例えば車両が段差を乗り越える場合などに両側の車輪11a,11bが同じ方向に上下動することである。「逆相」とは例えば車両のロール時などに両側の車輪11a,11bが互いに反対方向に上下動することである。
【0014】
左右のトレーリングアーム12a,12bの後端側には、車幅方向に延設された前後一対のワッツリンク機構FW、BW(後述)の外側端部(以下、「車幅外側端部」という)22A,22Bがそれぞれ固定されている。つまり、前後一対のワッツリンク機構FW,BWの中間リンク1B,1Fから、車幅方向左側に延びる上下2本のロッド23a,24aの端部を車幅外側端部22Aと称し、前後一対のワッツリンク機構FW,BWの中間リンク1B,1Fから車幅方向右側に延びる上下2本のロッド23b,24bの端部を車幅外側端部22Bと称す。
【0015】
前後一対の内の車両前側のワッツリンク機構FWを前側ワッツリンク機構FW、車両後側のワッツリンク機構BWを後側ワッツリンク機構BWとも称し、前後一対のワッツリンク機構FW,BWの両方を前後ワッツリンク機構FW,BWとも称す。前側ワッツリンク機構FWは、左側上のロッド24aと右側下のロッド23bと両者の中間に配置された中間リンク1Fとを備える。また、後側ワッツリンク機構BWは、左側下のロッド23aと右側上のロッド24bと両者の中間に配置された中間リンク1Bとを備える。
【0016】
前後ワッツリンク機構FW,BWの車幅外側端部22A,22B側の構成を、
図2に示す左側の車幅外側端部22A側の構成を代表して説明する。車幅外側端部22Aは、トレーリングアーム12aの後端に固定され、車両後方側に延びるブラケット26で保持されている。ブラケット26は、上下に開口する円筒部26aから車両前方側に延びる取付部26bがトレーリングアーム12aの後端にボルト(図示せず)で固定される。ボルトは、車両前方側に水平に延びる2本の破線L1で示すように、取付部26bの上下に位置するネジ穴に螺合される。車幅外側端部22Aの接続構造は、円筒部26aに上下方向に挿通されたインナーシャフト22aと、インナーシャフト22aに上下で組み合わされると共に、2本のロッド23a,24aの端部による車幅外側端部22Aが連結される上下のボールジョイント22c,22dとを備えて構成されている。インナーシャフト22aは、後側ワッツリンク機構BWの車幅外側端部22A(ロッド23aの端部)と前側ワッツリンク機構FWの車幅外側端部22A(ロッド24aの端部)とを上下に接続している。なお、インナーシャフト22aは、請求項記載の接続部材を構成する。
【0017】
左側の車幅外側端部22Aにおいて、上のボールジョイント22cには、前側ワッツリンク機構FWの左上側のロッド24aが接続され、下のボールジョイント22dには、後側ワッツリンク機構BWの左下側のロッド23aが接続される。また、右側の車幅外側端部22B(
図1参照)において、上のボールジョイント22cには、後側ワッツリンク機構BWの右上側のロッド24bが接続され、下のボールジョイント22dには、前側ワッツリンク機構FWの右下側のロッド23bが接続される。
【0018】
更に、車幅外側端部22Aについて、
図3を参照して詳細に説明する。
図3は、
図2に示す車幅外側端部22AのIII-III断面図である。インナーシャフト22aは、本体部22a1の上下端面の前後位置から上下にシャフト22a2,22a3が突き出たクランク形状を成す。上下のシャフト22a2,22a3は、前後方向にオフセットしている。
【0019】
本体部22a1がブラケット26の円筒部26aの中空部に上下方向に挿通され、この挿通された本体部22a1の周囲にゴム等の弾性部材22bが介在されることで、インナーシャフト22aが円筒部26aの中空部に後述する揺動可能に保持されている。つまり、インナーシャフト22aが弾性部材22bを介してブラケット26に揺動可能に保持されている。インナーシャフト22aと弾性部材22bと外筒22iとで上下方向を中心軸とするブッシュを構成し、このブッシュが円筒部26aに嵌合されている。揺動とは、インナーシャフト22aが、弾性部材22bの弾性変形により前後左右上下方向に倒れたり捩じれたりする動作をいう。なお、上のシャフト22a2は請求項記載の上側連結部を構成する。下のシャフト22a3は請求項記載の下側連結部を構成する。
【0020】
インナーシャフト22aの上側のシャフト22a2には車両前後方向に貫通孔が開口されており、この貫通孔に上側のボールジョイント22cのボール部22c1から突き出る軸部22c2が車両後方側に挿通され、挿通で突き出た軸部22c2が保持部材c1で保持されている。ボールジョイント22cのボール部22c1の付け根側には、周回状にゴム等の弾性部材c2が巻き付けられている。左側のロッド24aの左端部24a1が、弾性部材c2に当接してボール部22c1を覆う状態でボールジョイント22cに取り付けられている。この取り付けによって、ロッド24aの左端部24a1がボール部22c1の球面に沿って回動自在(揺動自在)となる。
【0021】
同様に、インナーシャフト22aの下側のシャフト22d2には車両前後方向に貫通孔が開口されており、この貫通孔に下側のボールジョイント22dの軸部22d2が車両前方側に挿通され、挿通で突き出た軸部22c2が保持部材d1で保持されている。ボールジョイント22dのボール部22d1の付け根側には、周回状にゴム等の弾性部材d2が巻き付けられている。左側のロッド23aの左端部23a1が、弾性部材d2に当接してボール部22d1を覆う状態でボールジョイント22dに取り付けられている。この取り付けによって、ロッド23aの左端部23a1がボール部22d1の球面に沿って回動自在(揺動自在)となる。
【0022】
図4は、ワッツリンク機構FW,BWの中間部の構造を示す斜視図である。
図4に示すように、ワッツリンク機構FW,BWの中間部は、互いに車両前後方向に離間して配備された前側の中間リンク1Fと後側の中間リンク1Bとを備えて構成されている。後側の中間リンク1Bは、車両前後方向に延びる円筒形状の円筒胴部1B0と、円筒胴部1B0の外周後端側から上下に延びる延出部1B1とを備える。前側の中間リンク1Fは、車両前後方向に延びる円筒形状の円筒胴部1F0と、円筒胴部1F0の外周後端側から上下に延びる延出部1F1とを備える。円筒胴部1B0及び円筒胴部1F0の貫通する中空部には、前側の中間リンク1Fと後側の中間リンク1Bとを同軸で連結する回転軸部21e(
図5参照)が挿通されている。
【0023】
回転軸部21eは、
図4のV-V断面図である
図5に示すように、横長の円筒形状21dの外周面に周回してボール形状を成すピローボール21cが離間して一体に配設されて成る。
【0024】
回転軸部21eは、前後ワッツリンク機構FW,BWの中間リンク1B,1Fの中空部に前端側及び後端側に配備された軸受シート21gを挟んで挿通されている。この挿通によって、一方のピローボール21cが前側中間リンク1Fの円筒胴部1B0内に配備され、他方のピローボール21cが前側中間リンク1B内に配備される。前側中間リンク1Fと後側中間リンク1Bとの離間部分には、互いを連結する連結部21hが配備されている。
【0025】
前側中間リンク1Fの上側の延出部1F1には、車両前後方向に貫通孔が開口されており、この貫通孔にボールジョイント1F2のボール部F2aから突き出る軸部F2bが車両前方側に挿通されている。ボール部F2aの付け根側には、周回状にゴム等の弾性部材21jが巻き付けられている。左側のロッド24a(
図1参照)の右端部24a2が、弾性部材21jに当接してボール部F2aを覆う状態でボールジョイント1F2に取り付けられている。この取り付けによって、ロッド24aの右端部24a2がボール部F2aの球面に沿って回動自在(揺動自在)となる。
【0026】
前側中間リンク1Fの下側の延出部1F1には、車両前後方向に貫通孔が開口されており、この貫通孔にボールジョイント1F3の軸部F3bが車両前方側に挿通されている。ボール部F3aの付け根側には、周回状にゴム等の弾性部材21jが巻き付けられている。左側のロッド23a(
図1参照)の右端部23a2が、弾性部材21jに当接してボール部F3aを覆う状態でボールジョイント1F3に取り付けられている。この取り付けによって、ロッド23aの右端部23a2がボール部F3aの球面に沿って回動自在(揺動自在)となる。
【0027】
後側中間リンク1Bの上側の延出部1B1には、車両前後方向に貫通孔が開口されており、この貫通孔にボールジョイント1B2の軸部B2bが車両後方側に挿通されている。ボール部B2aの付け根側には、周回状にゴム等の弾性部材21jが巻き付けられている。右側のロッド24b(
図1参照)の左端部24b2が、弾性部材21jに当接してボール部B2aを覆う状態でボールジョイント1B2に取り付けられている。この取り付けによって、ロッド24bの左端部24b2がボール部F2aの球面に沿って回動自在(揺動自在)となる。
【0028】
後側中間リンク1Bの下側の延出部1B1には、車両前後方向に貫通孔が開口されており、この貫通孔にボールジョイント1B3の軸部B3bが車両後方側に挿通されている。ボール部B3aの付け根側には、周回状にゴム等の弾性部材21jが巻き付けられている。右側のロッド23b(
図1参照)の左端部23b2が、弾性部材21jに当接してボール部B3aを覆う状態でボールジョイント1B3に取り付けられている。この取り付けによって、ロッド23bの左端部23b2がボール部F3aの球面に沿って回動自在(揺動自在)となる。
【0029】
前後ワッツリンク機構FW,BWは、中間リンク1B,1Fの中空部に挿通された同軸の回転軸部21eが、T字型のブラケット31a,31bを介して車体に接合されている。横に延びるブラケット31aが車体に接合され、横のブラケット31aの中央から下方に延びるブラケット31bの下方側が回転軸部21eの中央に接合されている。このように、前後ワッツリンク機構FW,BWの回転軸部21eの中央を縦のブラケット31bを介して車体に固定すると、
図1に示す車幅中央の前後ワッツリンク機構FW,BWが車体と同期して動くが、左右の車幅外側端部22A,22Bは、車輪と同期して動くようになる。
【0030】
このように、左右のトレーリングアーム12a,12bに接続された左右の車幅外側端部22A,22B同士が、中間に中間リンク1B,1Fを介して左右各々一対のロッド23a,24a及び23b,24bで接続された構成においては、同相又は逆相時に次のように作動する。
【0031】
本実施形態に係るワッツリンク機構FW,BWは、一般的なワッツリンク機構と同様に、左右の車輪が同相又は逆相で動いた際に、アクスルビーム式サスペンションの全体が車幅方向へ移動するのを抑制する機能を有する。本実施形態では、このワッツリンク機構FW,BWが前後一対に設けられているので、省スペース化を図りながら、サスペンションの車幅方向への移動を抑制する機能を強化することができる。
ここで、前後一対のワッツリンク機構FW,BWの左側の車幅外側端部22Aの動きを例にとって、
図6の模式図を参照しながら説明する。
図6は、車体の左側のサスペンションを側面視した模式図であり、実線がフラットな地面を走行している状態、破線が例えば段差に乗り上げてサスペンションが上側にストロークしている状態、をそれぞれ示している。
【0032】
例えば、
図6に示すように、前端側のコンプライアンスブッシュ14aを回動中心としてトレーリングアーム12aの後端側が上方にストロークすると、ワッツリンク機構FW,BWのロッド23a,24aの外側端部も上方に回動する。ロッド23a,24aの外側端部は、インナーシャフト22aのシャフト22a2,22a3によって上下に接続されている。そのため、ロッド23a,24aの外側端部に前後方向のリンク長差Δ1が発生し、過拘束の原因となる。
【0033】
本発明では、
図3に示すように、ワッツリンク機構FW,BWの車幅外側端部22Aを接続部材(インナーシャフト22aの上下のシャフト22a2,22a3)に接続し、この外周を弾性部材22b(ブッシュ)で囲った。このため、ブッシュによって接続部材がこじるように動いて、リンク長差Δ1を吸収して、ワッツリンク機構FW,BWの過拘束を解消できる。
【0034】
<実施形態の効果>
次に、上述した本実施形態のアクスルビーム式サスペンションの特徴構成及びその効果について説明する。
【0035】
(1)アクスルビーム式サスペンション10は、前後方向に延在し、前端側が車体に支持され後端側が車輪に連結された一対のトレーリングアーム12a,12bと、車幅方向に延びて一対のトレーリングアーム12a,12b同士を連結するアクスルビーム13と、車幅方向に延びてアクスルビーム13よりも後方で一対のトレーリングアーム12a,12b同士を連結するとともに、中間部が車体に固定される一対のワッツリンク機構FW,BWと、一対の内の一方のワッツリンク機構FWの車幅外側端部22Aと、他方のワッツリンク機構BWの車幅外側端部22Bと、を接続する接続部材としてのインナーシャフト22aと、を備える。インナーシャフト22aは、インナーシャフト22aを囲む弾性部材22bを介してトレーリングアーム12aに固定されていることを特徴とする。
【0036】
この構成によれば、次のような作用効果が得られる。車両が段差を乗り越える同相又は逆相時に、前後ワッツリンク機構FW,BWの車幅外側端部22A,22Bが両側の車輪11a,11b又は片側の車輪11a,11bに延びる方向に引っ張られてリンク長差Δ1(
図6参照)が発生する場合がある。この場合、左右の車幅外側端部22A,22Bのインナーシャフト22aが弾性部材22bによって揺動するので、そのリンク長差Δ1が吸収される。これによって、車幅外側端部22A,22Bの過拘束によるワッツリンク機構FW,BW同士の干渉を抑制してスムーズな動作ができ、更に、両側の車幅外側端部22A,22Bに連なる図示せぬサスペンション部品を円滑に動かすことできる。従って、ワッツリンク機構FW,BWや他の部品等の損傷を防止できる。
【0037】
(2)トレーリングアーム12a,12bの後端側に固定され、中空部を有するブラケット26を備える。左右の車幅外側端部22A,22Bのインナーシャフト22aは、ブラケット26の中空部に弾性部材22bで囲まれて保持されることを特徴とする。
【0038】
この構成によれば、インナーシャフト22aが弾性部材22bにより揺動自在となる。ブラケット26を別体にすることで、トレーリングアーム12a,12bにブラケットのような突起部を設ける必要が無くなるので、トレーリングアーム12a,12bを小型化できる。小型化できると製造が容易になる。結果としてトレーリングアーム12a,12bを軽量化しつつ、設計の自由度やトレーリングアーム12a,12bの汎用性、つまり、ブラケット26の有る無し、トレーリングアーム12a,12bの形状変更といった仕様違いへの適合性を高めることができる。
【0039】
(3)一対のワッツリンク機構FW,BWは、前後に並んで配置されており、接続部材としてのインナーシャフト22aは、弾性部材22bで囲まれて保持される本体部22a1と、本体部22a1から上方に延出し一方のワッツリンク機構FWの車幅外側端部22Aが連結される上側連結部としてのシャフト22a2と、本体部22a1から下方に延出し他方のワッツリンク機構BWの車幅外側端部22Aが連結される下側連結部としてのシャフト22a3と、を備える。上下のシャフト22a2,22a3は、前後方向にオフセットしていることを特徴とする。
【0040】
この構成によれば、
図3に示すように、インナーシャフト22aは、上下のシャフト22a2,22a3がオフセットしたクランク形状なので、上下のシャフト22a2,22a3が上下同じ位置に延びている場合よりも、ボールジョイント22c,22dの車両前後方向の幅を狭くできる。上下のシャフト22a2,22a3が上下同じ位置に延びている場合は、ボールジョイント22c,22dの車両前後方向の幅が前後に拡がるため広くなる。このため、他の部材とのクリアランスを効果的に確保できる。また、上下のボールジョイント22c,22dを、略平行に位置決めできる。
【0041】
(4)一対のワッツリンク機構FW,BWは、前後に並んで配置されており、それぞれのワッツリンク機構FW,BWは、車幅方向に延びる左右一対のロッド23a,24a及び23b,24bと、上下方向に延びてロッド23a,24a及び23b,24bの車幅方向内側端部同士を回動可能に連結する中間リンク1B,1Fと、を備える。それぞれの中間リンク1B,1Fは、車体に対して同軸(回転軸部21e)で回動可能に保持されていることを特徴とする。
【0042】
この構成によれば、一対のワッツリンク機構FW,BWの取付精度を向上できる。また、一対のワッツリンク機構FW,BWの左右の車幅外側端部22A,22Bは、車輪と非同期に動くが、一対のワッツリンク機構FW,BWの中間部を車体と同期して動かすことができる。このため、同相又は逆相時に、アクスルビーム式サスペンション10の車幅方向の位置を適切に保ちつつ、車幅外側端部22A,22Bの過拘束によるワッツリンク機構FW,BW同士の干渉を抑制してスムーズな動作を可能できる。
【0043】
以上、本実施形態に係る車体構造について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0044】
10 アクスルビーム式サスペンション
11a,11b 車輪
12a,12b トレーリングアーム
13 アクスルビーム
14a,14b コンプライアンスブッシュ
21e 回転軸部
22A,22B インナーシャフト(接続部材)
22a2,22a3 シャフト(上側連結部,下側連結部)
22b 弾性部材
FW 前側ワッツリンク機構
FB 後側ワッツリンク機構