IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 京セラ株式会社の特許一覧

特開2024-49447電子写真感光体および電子写真感光体の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049447
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】電子写真感光体および電子写真感光体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03G 5/08 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
G03G5/08 316
G03G5/08 360
G03G5/08 335
G03G5/08 303
G03G5/08 313
G03G5/08 314
G03G5/08 315
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155676
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100156177
【弁理士】
【氏名又は名称】池見 智治
(74)【代理人】
【識別番号】100130166
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 宏明
(72)【発明者】
【氏名】元山 大輔
【テーマコード(参考)】
2H068
【Fターム(参考)】
2H068DA05
2H068DA25
2H068DA26
2H068DA27
2H068DA28
2H068DA35
2H068DA41
2H068DA57
2H068EA24
2H068EA30
(57)【要約】
【課題】電子写真感光体における感度のむらを低減する。
【解決手段】電子写真感光体は、基体と第1層から第5層とを備えている。第1層は、基体上に位置し、主体の非晶質の珪素を主体とn型ドーパントとを含む。第2層は、第1層上に位置し、主体の非晶質の珪素を含む。第3層は、第2層上に位置し、主体の非晶質の珪素と窒素、酸素、炭素および硼素とを含む。第4層は、第3層上に位置し、珪素と炭素とを含有する非晶質材料を主体として含む。第5層は、第4層上に位置し、非晶質の炭素または炭素と珪素とを含有する非晶質材料を主体として含む。第3層は、第2層に接した第1領域と第4層に接した第2領域とを含む。第1領域は、第2層から離れるにつれて珪素の含有率が減少し且つ硼素、窒素および酸素の各含有率が増加する傾向を有する。第2領域は、第4層に近づくにつれて硼素、窒素および酸素の各含有率が減少し且つ炭素の含有率が増加する傾向を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する基体と、
該基体上に位置し、非晶質の珪素を主体として含み且つn型ドーパントを含む第1層と、
該第1層上に位置し、非晶質の珪素を主体として含む第2層と、
該第2層上に位置し、非晶質の珪素を主体として含み且つ窒素、酸素、炭素およびp型ドーパントである硼素を含む第3層と、
該第3層上に位置し、珪素と炭素とを含有する非晶質材料を主体として含む第4層と、
該第4層上に位置し、非晶質の炭素を主体として含むか、あるいは炭素と珪素とを含有する非晶質材料を主体として含むとともに、外部空間に露出している表面を有する第5層と、を備え、
前記第3層は、前記第2層に接している第1領域と、前記第1領域よりも前記第4層側に位置しており且つ前記第4層に接している第2領域と、を含み、
前記第1領域は、前記第2層から離れるにつれて、珪素の含有率が減少しているとともに硼素、窒素および酸素のそれぞれの含有率が増加しており且つ炭素の含有率が増加していない傾向を有し、
前記第2領域は、前記第4層に近づくにつれて、硼素、窒素および酸素のそれぞれの含有率が減少しているとともに炭素の含有率が増加している傾向を有し、
前記第4層は、前記第5層に近づくにつれて、珪素の含有率が減少しているとともに炭素の含有率が増加している傾向を有する、電子写真感光体。
【請求項2】
反応室内において、導電性を有する基体上に、非晶質の珪素を主体として含み且つn型ドーパントを含む第1層を形成する第1工程と、
前記反応室内において、前記第1層上に、非晶質の珪素を主体として含む第2層を形成する第2工程と、
前記反応室内において、前記第2層上に、非晶質の珪素を主体として含み且つ窒素、酸素、炭素およびp型ドーパントである硼素を含む第3層を形成する第3工程と、
前記反応室内において、前記第3層上に、珪素と炭素とを含有する非晶質材料を主体として含む第4層を形成する第4工程と、
前記反応室内において、前記第4層上に、非晶質の炭素を主体として含むか、あるいは炭素と珪素とを含有する非晶質材料を主体として含む第5層を形成する第5工程と、を有し、
前記反応室内において、プラズマ化学気相成長法を用いて、前記第2工程、前記第3工程、前記第4工程および前記第5工程を連続して順に実行し、
前記第2工程において、前記反応室内に対して珪素系ガスを導入し、
前記第3工程は、第3A工程と、該第3A工程の後に実行する第3B工程と、を含み、
前記第3A工程において、前記反応室内に対する前記珪素系ガスの単位時間当たりの導入量を減少させながら、前記反応室内に対するジボランガスおよび窒素酸化物ガスのそれぞれの単位時間当たりの導入量を増加させ、
前記第3B工程において、前記反応室内に対する前記ジボランガスおよび前記窒素酸化物ガスのそれぞれの単位時間当たりの導入量を減少させながら、前記反応室内に対する炭素系ガスの単位時間当たりの導入量を増加させ、
前記第4工程において、前記反応室内に対する前記珪素系ガスの単位時間当たりの導入量を減少させながら、前記反応室内に対する前記炭素系ガスの単位時間当たりの導入量を増加させ、
前記第5工程において、前記反応室内に対して前記炭素系ガスを導入するか、あるいは前記反応室内に対して前記炭素系ガスを導入しながら前記珪素系ガスを導入する、電子写真感光体の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の電子写真感光体の製造方法であって、
前記第3B工程において、前記反応室内に対する前記ジボランガスおよび前記窒素酸化物ガスのそれぞれの単位時間当たりの導入量を減少させ始めるタイミングと、前記反応室内に対する炭素系ガスの単位時間当たりの導入量を増加させ始めるタイミングと、が同時である、電子写真感光体の製造方法。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の電子写真感光体の製造方法であって、
前記珪素系ガスは、モノシランガスおよびジシランガスのうちの1種類以上のシラン系ガスを含み、
前記炭素系ガスは、メタンガス、エチレンガスおよびアセチレンガスのうちの1種類以上の炭化水素系ガスを含み、
前記窒素酸化物ガスは、一酸化窒素ガスおよび一酸化二窒素ガスのうちの1種類以上のガスを含む、電子写真感光体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子写真感光体および電子写真感光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体が搭載された電子写真方式の画像形成装置がある(例えば、特許文献1の記載を参照)。電子写真感光体は、例えば、導電性を有する円筒状の基体(導電性支持体ともいう)と、この基体の外周面上に形成された感光体層とを有する。感光体層は、例えば、感光体層の表面が負の電荷(負の表面電荷ともいう)を帯びることが可能な積層構造を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-62674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子写真感光体については、感度のムラ(むら)を低減する点で改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
電子写真感光体および電子写真感光体の製造方法が開示される。
【0006】
電子写真感光体の一態様は、導電性を有する基体と、第1層と、第2層と、第3層と、第4層と、第5層とを備えている。前記第1層は、前記基体上に位置し、非晶質の珪素を主体として含み且つn型ドーパントを含む。前記第2層は、前記第1層上に位置し、非晶質の珪素を主体として含む。前記第3層は、前記第2層上に位置し、非晶質の珪素を主体として含み且つ窒素、酸素、炭素およびp型ドーパントである硼素を含む。前記第4層は、前記第3層上に位置し、珪素と炭素とを含有する非晶質材料を主体として含む。前記第5層は、前記第4層上に位置し、非晶質の炭素を主体として含むか、あるいは炭素と珪素とを含有する非晶質材料を主体として含むとともに、外部空間に露出している表面を有する。前記第3層は、前記第2層に接している第1領域と、前記第1領域よりも前記第4層側に位置しており且つ前記第4層に接している第2領域と、を含む。前記第1領域は、前記第2層から離れるにつれて、珪素の含有率が減少しているとともに硼素、窒素および酸素のそれぞれの含有率が増加しており且つ炭素の含有率が増加していない傾向を有する。前記第2領域は、前記第4層に近づくにつれて、硼素、窒素および酸素のそれぞれの含有率が減少しているとともに炭素の含有率が増加している傾向を有する。前記第4層は、前記第5層に近づくにつれて、珪素の含有率が減少しているとともに炭素の含有率が増加している傾向を有する。
【0007】
電子写真感光体の製造方法の一態様は、第1工程と、第2工程と、第3工程と、第4工程と、第5工程と、を有する。前記第1工程では、反応室内において、導電性を有する基体上に、非晶質の珪素を主体として含み且つn型ドーパントを含む第1層を形成する。前記第2工程では、前記反応室内において、前記第1層上に、非晶質の珪素を主体として含む第2層を形成する。前記第3工程では、前記反応室内において、前記第2層上に、非晶質の珪素を主体として含み且つ窒素、酸素、炭素およびp型ドーパントである硼素を含む第3層を形成する。前記第4工程では、前記反応室内において、前記第3層上に、珪素と炭素とを含有する非晶質材料を主体として含む第4層を形成する。前記第5工程では、前記反応室内において、前記第4層上に、非晶質の炭素を主体として含むか、あるいは炭素と珪素とを含有する非晶質材料を主体として含む第5層を形成する。前記反応室内において、プラズマ化学気相成長法を用いて、前記第2工程、前記第3工程、前記第4工程および前記第5工程を連続して順に実行する。前記第2工程において、前記反応室内に対して珪素系ガスを導入する。前記第3工程は、第3A工程と、該第3A工程の後に実行する第3B工程と、を含む。前記第3A工程において、前記反応室内に対する前記珪素系ガスの単位時間当たりの導入量を減少させながら、前記反応室内に対するジボランガスおよび窒素酸化物ガスのそれぞれの単位時間当たりの導入量を増加させる。前記第3B工程において、前記反応室内に対する前記ジボランガスおよび前記窒素酸化物ガスのそれぞれの単位時間当たりの導入量を減少させながら、前記反応室内に対する炭素系ガスの単位時間当たりの導入量を増加させる。前記第4工程において、前記反応室内に対する前記珪素系ガスの単位時間当たりの導入量を減少させながら、前記反応室内に対する前記炭素系ガスの単位時間当たりの導入量を増加させる。前記第5工程において、前記反応室内に対して前記炭素系ガスを導入するか、あるいは前記反応室内に対して前記炭素系ガスを導入しながら前記珪素系ガスを導入する。
【発明の効果】
【0008】
電子写真感光体における感度のムラを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1実施形態に係る電子写真感光体の構成の一例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、図1のII部を拡大した構成の一例を模式的に示す断面図である。
図3図3は、第1実施形態の第1例に係る感光体層について厚さ方向における最表面からの距離と4つの元素の比率との関係を模式的に示す図である。
図4図4は、第1実施形態の第1例に係る感光体層について厚さ方向における最表面からの距離と屈折率との関係を模式的に示す図である。
図5図5は、第1実施形態の第2例に係る感光体層について厚さ方向における最表面からの距離と4つの元素の比率との関係を模式的に示す図である。
図6図6は、第1実施形態の第2例に係る感光体層について厚さ方向における最表面からの距離と屈折率との関係を模式的に示す図である。
図7図7は、第1参考例に係る感光体層について厚さ方向における最表面からの距離と4つの元素の比率との関係を模式的に示す図である。
図8図8は、第1参考例に係る感光体層について厚さ方向における最表面からの距離と屈折率との関係を模式的に示す図である。
図9図9は、第2参考例に係る感光体層について厚さ方向における最表面からの距離と4つの元素の比率との関係を模式的に示す図である。
図10図10は、第2参考例に係る感光体層について厚さ方向における最表面からの距離と屈折率との関係を模式的に示す図である。
図11図11は、第1参考例および第2参考例に係る感光体層の構成を模式的に示す断面図である。
図12図12は、電子写真感光体の感光体層を形成するための成膜装置の構成の一例を模式的に示す断面図である。
図13図13は、第1実施形態の第1例に係る感光体層を成膜する際に反応室内に導入される各原料ガスの単位時間当たりの導入量の時間的な変化の一例を模式的に示す図である。
図14図14は、第1実施形態の第2例に係る感光体層を成膜する際に反応室内に導入される各原料ガスの単位時間当たりの導入量の時間的な変化の一例を模式的に示す図である。
図15図15は、第1参考例に係る感光体層を成膜する際に反応室内に導入される各原料ガスの単位時間当たりの導入量の時間的な変化の一例を模式的に示す図である。
図16図16は、第2参考例に係る感光体層を成膜する際に反応室内に導入される各原料ガスの単位時間当たりの導入量の時間的な変化の一例を模式的に示す図である。
図17図17は、第1実施形態に係る感光体層を備えた画像形成装置の構成の一例を模式的に示す断面図である。
図18図18は、実施例1の感光体層を対象としたESCAによる分析結果として厚さ方向に最表面からスパッタリングを行った時間と4つの元素である珪素、窒素、酸素および炭素の比率との関係を模式的に示す図である。
図19図19は、参考例1の感光体層を対象としたESCAによる分析結果として厚さ方向に最表面からのスパッタリングを行った時間と4つの元素である珪素、窒素、酸素および炭素の比率との関係を模式的に示す図である。
図20図20は、エッチングの前後の電子写真感光体の参考例1をそれぞれ対象とした表面側3層の合計の膜厚についての軸方向における分布の測定結果を示す図である。
図21図21は、電子写真感光体における感度のムラを測定する方法を説明するための図である。
図22図22は、エッチング前後の実施例1および参考例1のそれぞれについての中間感度に係る指標としての表面電位の軸方向における分布の測定結果を示す図である。
図23図23は、エッチング前後の実施例1についての中間感度の軸方向におけるムラを示す指標としての中間感度軸ムラならびにエッチング前後の参考例1についての中間感度の軸方向におけるムラを示す指標としての中間感度軸ムラを示す図である。
図24図24は、一参考例に係る負帯電用電子写真感光体における感光体層の構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
電子写真感光体が搭載された電子写真方式の画像形成装置が知られている。
【0011】
電子写真感光体は、例えば、導電性を有する円筒状の基体と、この基体の外周面上に形成された感光体層とを有する。電子写真感光体には、感光体層の表面が負の電荷(負の表面電荷ともいう)を帯びることが可能な負帯電用の電子写真感光体(負帯電用電子写真感光体ともいう)がある。
【0012】
図24は、一参考例に係る負帯電用電子写真感光体における感光体層の構造を模式的に示す断面図である。負帯電用電子写真感光体では、例えば、図24で示されるように、感光体層90bは、円筒状の基体90aの外周面上に、下部電荷注入阻止層901、光導電層902、上部電荷注入阻止層903および表面保護層904がこの記載の順に積層された構造(積層構造ともいう)を有する。下部電荷注入阻止層901は、基体90aから光導電層902への正の電荷(正電荷ともいう)の注入を阻止する役割を有する。光導電層902は、負帯電用電子写真感光体の外部からのレーザー光あるいはLED(発光ダイオード)光などの光(露光光ともいう)の照射に応じてキャリアを発生させる役割を有する。上部電荷注入阻止層903は、感光体層90bの表面に帯びた負の電荷の光導電層902への注入を阻止する役割を有する。表面保護層904は、感光体層90bを表面側から保護する役割を有する。
【0013】
負帯電用電子写真感光体が搭載された電子写真方式の画像形成装置は、例えば、帯電工程、露光工程、現像工程、転写工程、定着工程、清掃工程および除電工程をこの記載の順に行う一連の工程を実行することで、紙などの記録媒体上に画像を形成することができる。
【0014】
帯電工程では、感光体層90bの表面の略全面を負極性に帯電させる。
【0015】
露光工程では、画像信号に基づいて感光体層90bに対して露光光を照射する。ここでは、感光体層90bの表面のうちの露光光が照射された領域において、光導電層902で生じる正孔(正電荷)によって感光体層90bの表面に帯びている電子(負電荷)が消滅し、帯電している負極性の電位が減衰する。これにより、感光体層90bにおいて、静電気の像(静電潜像ともいう)が形成される。なお、ここでは、光導電層902で生じる電子(負電荷)は、下部電荷注入阻止層901および基体90aを介して排出される。
【0016】
現像工程では、感光体層90bの静電潜像を現像することでトナーの像(トナー像ともいう)を形成する。ここでは、例えば、反転現像であれば、負極性に帯電しているトナーが、感光体層90bの表面のうちの負極性の電位が減衰された領域に付着する。ここで、例えば、正規現像として、正極性に帯電しているトナーが、感光体層90bの表面のうちの負極性に帯電されている領域に付着してもよい。
【0017】
転写工程では、記録媒体のうちの感光体層90bとは逆側の面(非記録面ともいう)をトナーとは逆極性に帯電させることで、感光体層90b上のトナー像を、静電引力によって記録媒体のうちの感光体層90b側の面(記録面ともいう)上に転写する。
【0018】
定着工程では、記録媒体を一対の定着ローラの間を通過させながら、一対の定着ローラによって熱および圧力を作用させることで、記録媒体上にトナー像を定着させる。
【0019】
清掃工程では、転写工程後に感光体層90bの表面に残存しているトナーを、清掃用のブレードなどによって除去する。
【0020】
除電工程では、感光体層90bに対する除電光の照射によって、感光体層90bの表面に残っている負電荷を消滅させて、静電潜像を除去する。
【0021】
ところで、露光工程における露光光が表面保護層904および上部電荷注入阻止層903を介して光導電層902に至る光路上には、表面保護層904と上部電荷注入阻止層903との界面ならびに上部電荷注入阻止層903と光導電層902との界面が存在している。これらの界面の存在によって、露光光において多重反射による光の干渉が生じ得る。
【0022】
ここで、表面保護層904および上部電荷注入阻止層903のそれぞれの厚さが場所によって異なっている場合を想定する。この場合には、例えば、同じ強度の露光光を感光体層90bに照射しても、光の干渉によって光導電層902に入射する露光光の強度が場所によって異なり得る。すなわち、電子写真感光体において、感度のムラ(むら)が生じ得る。電子写真感光体において、全面にわたって感度が均一に変化していれば、オフセットによる調整などによって対処することが可能であるが、感度のムラが生じていれば、オフセットによる調整などでは対処することができない。そして、電子写真感光体が搭載された電子写真方式の画像形成装置において、電子写真感光体で感度のムラ(むら)があれば、記録媒体に定着されるトナー像の濃度にムラ(むら)が生じ得る。
【0023】
表面保護層904および上部電荷注入阻止層903のそれぞれにおける場所による厚さの相違(厚さのばらつきともいう)は、例えば、表面保護層904および上部電荷注入阻止層903の成膜時に生じ得る。また、表面保護層904における厚さのばらつきは、例えば、電子写真感光体の使用時における表面保護層904の摩耗などによっても生じ得る。電子写真感光体は、一般に円筒状の基体90aの軸方向に沿った長手方向を有する細長い形状を有する。このため、表面保護層904および上部電荷注入阻止層903のそれぞれの厚さは、円筒状の基体90aの軸方向においてばらつく場合が考えられる。
【0024】
よって、電子写真感光体については、感度のムラを低減する点で改善の余地がある。別の観点から言えば、電子写真感光体が搭載された電子写真方式の画像形成装置では、上記の一連の工程によって形成される画像における濃度のムラ(むら)を低減する点で改善の余地がある。
【0025】
そこで、本開示の発明者は、電子写真感光体における感度のムラを低減することができる技術を創出した。
【0026】
これについて、以下、各種の実施形態について図面を参照しつつ説明する。図面においては同一もしくは類似の構成および機能を有する部分に同じ符号が付されており、下記説明では重複説明が省略される。図面は模式的に示されたものである。
【0027】
<1.第1実施形態>
<1-1.電子写真感光体の構成>
図1は、第1実施形態に係る電子写真感光体(感光体ともいう)10の構成の一例を模式的に示す断面図である。図2は、図1のII部を拡大した構成の一例を模式的に示す断面図である。
【0028】
感光体10は、例えば、電子写真方式の画像形成装置100(図17参照)内に搭載される部材である。画像形成装置100に搭載された感光体10の表面には、例えば、画像信号に基づいた静電潜像およびトナー像が形成される。例えば、感光体10にフランジ10fが固定されている場合には、感光体10は、フランジ10fを介して回転可能に画像形成装置100内に搭載される。
【0029】
図1および図2で示されるように、感光体10は、基体10aと、感光体層10bと、を備えている。感光体層10bは、基体10a上に位置している。
【0030】
<1-1-1.基体>
基体10aは、感光体層10bを支持している部材である。基体10aの形状は、例えば、円筒状であってもよいし、無端ベルト状であってもよい。図1の例では、基体10aの形状は、円筒状である。
【0031】
基体10aは、基体10aの全体において導電性を有していてもよいし、少なくとも基体10aのうちの感光体層10b側の表面において導電性を有していてもよい。換言すれば、基体10aは、導電性を有する。このため、基体10aを導電性基体と称してもよい。
【0032】
より具体的には、基体10aは、例えば、基体10aの全体が導電性を有する材料(導電材料ともいう)で構成された部材であってもよいし、絶縁体で構成された基材の表面に導電性を有する膜(導電膜ともいう)が形成された構成を有する部材であってもよい。導電材料には、例えば、金属および金属を含む合金のうちの1種類以上の材料などが適用される。絶縁体には、例えば、合成樹脂、ガラスおよびセラミックスのうちの1種類以上の絶縁性を有する材料などが適用される。導電膜は、例えば、金属で構成された膜(金属膜ともいう)および透明な導電性を有する材料(透明導電性材料ともいう)で構成された膜(透明導電性膜ともいう)のうちの1層以上の膜などで構成される。
【0033】
基体10aを構成している金属には、例えば、アルミニウム(Al)、ステンレス鋼(Steel Use Stainless:SUS)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、インジウム(In)、ニオブ(Nb)、テルル(Te)、バナジウム(V)、パラジウム(Pd)、タンタル(Ta)、スズ(Sn)、白金(Pt)、金(Au)および銀(Ag)のうちの1種類以上の金属材料が適用される。基体10aの基材を構成している合成樹脂には、例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリカーボネート、セルロースアセテート、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレンおよびポリアミドのうちの1種類以上の樹脂が適用される。透明導電性材料には、例えば、酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide:ITO)および二酸化スズ(SnO)のうちの1種類以上の材料が適用される。
【0034】
ここで、感光体層10bのうちの基体10aに接している部分が、非晶質(アモルファス)の珪素系(シリコン系ともいう)の材料を主体として含む場合には、基体10aのうちの感光体層10b側の表面が、例えば、Al-Mn系合金、Al-Mg系合金またはAl-Mg-Si系合金で構成されていれば、感光体層10bと基体10aとの密着性が向上し得る。「主体」とは、層などの物質を構成している成分(構成成分ともいう)のうちの最も含有率が高い成分を意味している。主体としての成分は、層などの物質の構成成分のうちの少量の不純物もしくは添加物を除く大部分の成分を意味していてもよい。Al-Mn系合金は、アルミニウムに対して主にマンガン(Mn)を添加したアルミニウム合金であってよい。Al-Mg系合金は、アルミニウムに対して主にマグネシウム(Mg)を添加したアルミニウム合金であってよい。Al-Mg-Si系合金は、アルミニウムに対して主にマグネシウム(Mg)およびシリコン(Si)を添加したアルミニウム合金であってよい。
【0035】
基体10aのうちの感光体層10bが形成された表面(被形成面)は、例えば、旋盤加工などを用いた表面処理が施されている。表面処理には、例えば、鏡面加工および線状溝加工のうちの1種類以上の加工を行う処理が適用される。また、表面処理には、所望の表面粗度を得るための、ブラスト処理または液体ホーニング処理などの粗化処理を適用してもよい。被形成面は、基体10aのうちの外周面であってよい。
【0036】
<1-1-2.感光体層>
感光体層10bは、例えば、基体10aの外周面上に位置している。感光体層10bは、例えば、15マイクロメートル(μm)以上で且つ90μm以下の厚さ(層厚ともいう)を有する。
【0037】
図2で示されるように、感光体層10bは、例えば、第1層としての下部電荷注入阻止層(下部阻止層ともいう)101と、第2層としての光導電層102と、第3層としての上部電荷注入阻止層(上部阻止層ともいう)103と、第4層としての表面傾斜層(傾斜層ともいう)104と、第5層としての表面保護層(表面層ともいう)105と、を有する。換言すれば、感光体10は、基体10aと、下部阻止層101と、光導電層102と、上部阻止層103と、傾斜層104と、表面層105と、を有する。
【0038】
下部阻止層101は、基体10a上に位置している。光導電層102は、下部阻止層101上に位置している。上部阻止層103は、光導電層102上に位置している。傾斜層104は、上部阻止層103上に位置している。表面層105は、傾斜層104上に位置している。換言すれば、感光体10は、基体10a上に、下部阻止層101、光導電層102、上部阻止層103、傾斜層104および表面層105が、この記載の順に積層された構成を有する。そして、表面層105は、感光体10の外部の空間(外部空間ともいう)Ex1に露出している表面を有する。換言すれば、表面層105は、感光体層10bの表面を構成している。
【0039】
<<下部電荷注入阻止層(下部阻止層)101>>
下部阻止層101は、基体10aから光導電層102への電荷の注入を阻止する役割を有する。より具体的には、下部阻止層101は、感光体層10bの表面を負極性に帯電させた状態で、基体10aから光導電層102への正孔(正電荷)の注入を阻止する機能を有する。
【0040】
下部阻止層101は、非晶質の珪素(Si)を主体として含む。換言すれば、下部阻止層101における主たる構成元素としての母材は、珪素である。下部阻止層101は、例えば、非晶質の珪素を主体とする非単結晶材料によって構成されていてよい。ここで、非単結晶材料とは、多結晶、微結晶もしくは非晶質の部分を含む材料を意味している。
【0041】
また、下部阻止層101は、n型ドーパントを含む。n型ドーパントは、半導体に添加すると、負の電荷(負電荷ともいう)を持つ電子をキャリアとして供給することで、半導体をn型半導体とするためのドナーとして機能し得る不純物元素である。より具体的には、下部阻止層101は、例えば、n型ドーパントとして、周期表第15族元素(第15族元素ともいう)を含む。下部阻止層101では、第15族元素は、実質的に均一に分布していてもよいし、下部阻止層101の厚さ方向において不均一に分布していてもよい。下部阻止層101のうちの光導電層102側の領域よりも基体10a側の領域において第15族元素の原子濃度が小さくてもよい。この場合には、基体10aに対する下部阻止層101の密着性が向上し得る。下部阻止層101では、基体10aの外周面に沿った方向(面内方向ともいう)において第15族元素の原子濃度が実質的に均一であれば、面内方向において下部阻止層101の特性がより均一となり得る。
【0042】
下部阻止層101における第15族元素の単位体積当たりの原子数は、例えば、5×1017個/立方センチメートル(atoms/cm)以上で且つ5×1019atoms/cm以下に設定される。これにより、下部阻止層101における正電荷に対する耐電圧が十分に高まるとともに、感光体層10bにおける残留電位が十分に低い状態に維持され得る。感光体層10bにおける残留電位が十分に低い状態は、例えば、感光体層10bにおける残留電位が-20ボルト(V)以下の状態であってよい。
【0043】
第15族元素としては、窒素(N)、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)およびビスマス(Bi)の何れが採用されてもよい。第15族元素として、窒素またはリンが採用されれば、例えば、プラズマ化学気相成長(Plasma-Enhanced Chemical Vapor Deposition:PECVD)法の一種であるグロー放電分解法によって下部阻止層101が成膜される際に、第15族元素が導入される濃度(ドーピング濃度ともいう)の制御が容易となり得る。窒素は、取り扱いが容易で、廃棄も容易である。
【0044】
下部阻止層101は、酸素(O)および第15族元素の少なくとも一方を含んでいてもよい。下部阻止層101が酸素を含む場合には、基体10aに対する下部阻止層101の密着性が向上し得る。
【0045】
また、下部阻止層101は、例えば、さらに炭素(C)を含んでいてもよい。下部阻止層101が炭素を含んでいれば、基体10aに対する下部阻止層101の密着性の向上と、下部阻止層101における基体10aから光導電層102への正孔(正電荷)の注入を阻止する機能の向上と、が図られ得る。
【0046】
下部阻止層101の成膜時において下部阻止層101に珪素を導入するための原料としては、例えば、珪素を含有するガス(珪素系ガスともいう)が採用される。珪素系ガスには、例えば、モノシラン(SiH)ガス、ジシラン(Si)ガス、トリシラン(Si)ガスおよびテトラシラン(Si10)ガスのうちの1種類以上の水素化珪素のガス(シラン系ガスともいう)などが適用される。ガス状の原料を、原料ガスと称する。下部阻止層101の成膜時において珪素を導入するための原料ガスとして、例えば、モノシランガスおよび/またはジシランガスが採用されれば、珪素が供給される効率が高まり得る。また、成膜された非単結晶材料の珪素において、原料ガス中の水素(H)が珪素の未結合手(ダングリングボンド)を終端して補償し得るので、半導体材料として良好な特性を有する膜を得ることができる。また、モノシランガスおよびジシランガスは、取り扱いが容易である。下部阻止層101の成膜時において下部阻止層101に珪素を導入するための原料ガスは、必要に応じて、水素(H)ガスおよびヘリウム(He)ガスのうちの1種類以上の希釈用のガスによって希釈されてもよい。
【0047】
下部阻止層101の成膜時において下部阻止層101に第15族元素を導入するための原料ガスとしては、例えば、窒素(N)ガス、アンモニア(NH)ガス、窒素酸化物のガス(窒素酸化物ガスともいう)、ホスフィン(PH)ガス、三フッ化リン(PF)ガス、五フッ化リン(PF)ガスならびにアルシン(AsH)ガスのうちの1種類以上のガスなどが採用される。窒素酸化物ガスには、一酸化窒素(NO)ガスおよび一酸化二窒素(NO)ガス(亜酸化窒素ガスともいう)のうちの1種類以上のガスなどが適用される。
【0048】
下部阻止層101の成膜時において下部阻止層101に酸素を導入するための原料ガスとしては、例えば、酸素(O)ガスおよび窒素酸化物ガスのうちの1種類以上のガスなどが採用される。窒素酸化物ガスには、上記のガスが適用される。
【0049】
下部阻止層101の成膜時において下部阻止層101に炭素を導入するための原料ガスとしては、例えば、炭素を含有するガス(炭素系ガスともいう)が採用される。炭素系ガスには、例えば、メタン(CH)ガス、アセチレン(C)ガス、エタン(C)ガス、プロパン(C)ガスおよびブタン(C10)ガスのうちの1種類以上の炭化水素系のガス(炭化水素系ガスともいう)などが適用される。
【0050】
下部阻止層101では、酸素、第15族元素および炭素の何れの添加元素も、実質的に均一に分布していてもよいし、下部阻止層101の厚さ方向において不均一に分布していてもよい。例えば、下部阻止層101では、厚さ方向において添加元素が不均一に分布している場合には、下部阻止層101のうちの光導電層102側の領域よりも基体10a側の領域において添加元素の原子濃度が大きければ、感光体層10bにおける残留電荷が十分に低い状態に維持され得る。下部阻止層101では、基体10aの外周面に沿った面内方向において添加元素の原子濃度が実質的に均一であれば、面内方向において下部阻止層101の特性がより均一となり得る。
【0051】
下部阻止層101は、例えば、0.1μm以上で且つ10μm以下の厚さ(層厚)を有する。これにより、下部阻止層101における基体10aから光導電層102への電荷の注入を阻止する役割が十分実現されるとともに、感光体層10bにおける残留電荷の発生が低減されてメモリ特性が向上し得る。また、下部阻止層101の形成時間の過度な増大および下部阻止層101の形成に要する材料の使用量の増大がそれぞれ低減され、感光体10の製造に要するコストが削減され得る。
【0052】
<<光導電層102>>
光導電層102は、レーザー光あるいはLED光などの光(露光光)の照射によってキャリアを発生させる役割を有する。キャリアは、正孔および電子を含む。例えば、感光体10が画像形成装置100に搭載された状態では、光導電層102において露光光の照射によって発生した正孔(正電荷)は、上部阻止層103、傾斜層104および表面層105を通過して、表面層105の表面に位置している負電荷の少なくとも一部を消滅させ、表面層105の表面に帯電している負極性の電位を減衰させ得る。また、光導電層102において露光光の照射によって発生した電子(負電荷)は、下部阻止層101および基体10aを介して排出される。
【0053】
光導電層102は、非晶質の珪素を主体として含む。換言すれば、光導電層102における主たる構成元素としての母材は、珪素である。別の観点から言えば、光導電層102は、例えば、非晶質の珪素を主体とする非単結晶材料によって構成されていてよい。ここで、光導電層102が微結晶シリコンを含んでいる場合には、暗導電率および光導電率が高まり得る。これにより、光導電層102の設計の自由度が高まり得る。微結晶シリコンは、光導電層102を成膜する条件を変更することで形成され得る。例えば、グロー放電分解法を用いて光導電層102を成膜する場合には、基体10aの温度およびパルス状の直流電圧を比較的高めに設定し、希釈用のガス(例えば、水素)の供給量を増加させることで、微結晶シリコンが形成され得る。
【0054】
光導電層102は、例えば、水素およびハロゲン元素の少なくとも一方を含んでいれば、水素およびハロゲン元素の少なくとも一方による珪素の未結合手(ダングリングボンド)の終端が実現され得る。ここで、光導電層102では、例えば、珪素、水素およびハロゲン元素の含有量の総和に対して、水素およびハロゲン元素の含有量の総和が、1原子パーセント(at%)以上で且つ40at%以下に設定されてよい。例えば、非晶質の珪素のダングリングボンドに水素を結合させる処理(水素化ともいう)が施されると、非晶質の珪素は安定化され得る。水素化された非晶質の珪素は、水素化アモルファスシリコン(水素化非晶質珪素ともいう)と称される。
【0055】
光導電層102の成膜時において光導電層102に珪素を導入するための原料ガスとしては、例えば、珪素系ガスが採用される。珪素系ガスには、例えば、モノシランガス、ジシランガス、トリシランガスおよびテトラシランガスのうちの1種類以上の水素化珪素のガス(シラン系ガス)などが適用される。光導電層102の成膜時において珪素を導入するための原料ガスとして、例えば、モノシランガスおよび/またはジシランガスが採用されれば、珪素が供給される効率が高まり得る。
【0056】
光導電層102の成膜時において光導電層102にハロゲン元素を導入するための原料ガスとしては、例えば、フッ素を含むガス(フッ素系ガスともいう)が採用される。フッ素系ガスには、例えば、フッ素(F)ガス、フッ化臭素(BrF)ガス、フッ化塩素(ClF)ガス、三フッ化塩素(ClF)ガス、三フッ化臭素(BrF)ガス、五フッ化臭素(BrF)ガス、三フッ化ヨウ素(IF)ガス,七フッ化ヨウ素(IF)ガス、四フッ化珪素(SiF)および六フッ化二珪素(Si)ガスのうちの1種類以上のガスが適用される。
【0057】
なお、光導電層102の成膜時において光導電層102に珪素を導入するための原料ガスは、必要に応じて、水素ガスおよびヘリウムガスのうちの1種類以上の希釈用のガスによって希釈されてもよい。グロー放電分解法によって光導電層102を成膜する場合には、例えば、基体10aの温度、光導電層102に各元素を導入するための原料ガスの単位時間当たりの導入量、および放電電力のうちの1種類以上のパラメータなどを調整すれば、光導電層102における水素およびハロゲン元素の含有量を制御することができる。
【0058】
また、光導電層102は、光導電層102における伝導性を制御するための元素(伝導性制御元素ともいう)を含有していてもよい。伝導性制御元素としては、例えば、半導体においてp型の伝導特性を付与するためのアクセプタとしての第13族元素および半導体においてn型の伝導特性を付与するためのドナーとしての第15族元素のうちの1種類以上の元素が採用される。ここで、第13族元素として硼素(B)が採用される場合および/または第15族元素としてリンが採用される場合には、半導体における感応性および光感度などの特性の維持または向上が図られ得る。伝導性制御元素として第13族元素を採用することで、光導電層102を真性型(i型)の半導体に近づけてもよい。なお、グロー放電分解法によって光導電層102を成膜する場合には、光導電層102の成膜時に、光導電層102に主な構成元素を導入する原料ガスとともに、光導電層102に伝導性制御元素を導入するための原料ガスを、反応室(チャンバ)中に供給することで、光導電層102に伝導性制御元素を導入することができる。
【0059】
光導電層102の成膜時において光導電層102に伝導性制御元素である第13族元素としての硼素を導入するための原料ガスとしては、1種類以上の硼素を含有するガス(硼素系ガスともいう)が採用される。1種類以上の硼素系ガスには、例えば、1種類以上の水素化硼素のガス(水素化硼素ガスともいう)および/または1種類以上のハロゲン化硼素のガス(ハロゲン化硼素ガスともいう)などが適用される。1種類以上の水素化硼素ガスには、例えば、ジボラン(B)ガスおよびテトラボラン(B10)ガスのうちの1種類以上のガスが適用される。1種類以上のハロゲン化硼素ガスには、例えば、三フッ化硼素(BF)ガス、三塩化硼素(BCl)ガスおよび三臭化硼素(BBr)ガスのうちの1種類以上のガスなどが適用される。光導電層102の成膜時において光導電層102に伝導性制御元素である他の第13族元素を導入するための原料ガスとしては、例えば、塩化アルミニウム(AlCl)ガス、塩化ガリウム(GaCl)ガス、トリメチルガリウム(Ga(CH)ガス、塩化インジウム(InCl)ガスおよび塩化タリウム(TlCl)ガスのうちの1種類以上のガスなどが採用される。
【0060】
光導電層102の成膜時において光導電層102に伝導性制御元素である第15族元素を導入するための原料ガスとしては、例えば、窒素ガス、アンモニアガス、一酸化窒素ガスおよび/または亜酸化窒素ガスなどの酸化窒化物ガス、ホスフィンガス、三フッ化リンガス、五フッ化リンガスならびにアルシンガスのうちの1種類以上のガスなどが採用される。
【0061】
なお、光導電層102の成膜時において光導電層102に伝導性制御元素を導入するための原料ガスは、必要に応じて、水素ガス、ヘリウムガス、アルゴン(Ar)ガスおよびネオン(Ne)ガスのうちの1種類以上の希釈用のガスによって希釈されてもよい。
【0062】
光導電層102において、伝導性制御元素の濃度は、光導電層102の厚さ方向において変化していてもよい。この構成は、グロー放電分解法によって光導電層102を成膜する場合には、反応室に対する伝導性制御元素を導入するための原料ガスの単位時間当たりの導入量および/または希釈用のガスの単位時間当たりの導入量を経時的に変化させることで実現され得る。ここでは、光導電層102における伝導性制御元素の濃度は、光導電層102の全体における伝導性制御元素の濃度の平均が、所定の範囲内に設定されてもよい。
【0063】
さらに、光導電層102は、炭素、酸素および窒素のうちの1種類以上の元素を含有していてもよい。この場合には、光導電層102では、珪素、炭素、酸素および窒素の含有量の総和に対して、炭素、酸素および窒素の含有量の総和が、1×10-5at%以上でかつ10at%以下に設定されてよい。
【0064】
光導電層102は、例えば、5μm以上で且つ100μm以下の厚さ(層厚)を有する。これにより、感光体層10bにおける帯電能および光感度の十分な確保が図られるとともに、光導電層102の形成時間の過度な増大および光導電層102の形成に要する材料の使用量の増大がそれぞれ低減され得る。その結果、感光体10の製造に要するコストが削減され得る。
【0065】
<<上部電荷注入阻止層(上部阻止層)103>>
上部阻止層103は、感光体10が画像形成装置100に搭載された状態において、帯電器11(図17参照)によって感光体層10bの表面に帯びた負電荷の光導電層102への注入を阻止する役割を有する。感光体層10bの表面は、表面層105の表面であればよい。
【0066】
上部阻止層103は、非晶質の珪素を主体として含む。また、上部阻止層103は、窒素、酸素、炭素およびp型ドーパントである第13族元素を含む。
【0067】
上部阻止層103において、第13族元素は、非結晶の珪素をp型の半導体にすることで、感光体層10bの表面に帯びた負電荷の光導電層102への注入を阻止する機能を上部阻止層103に持たせることができる。上部阻止層103において、窒素および酸素は、非晶質の珪素のバンドギャップを拡げることで、感光体層10bの表面に帯びた負電荷の光導電層102への注入を阻止するためのエネルギー障壁の増大と、感光体10の外部からの露光光の上部阻止層103における透過性の向上と、が図られ得る。すなわち、感光体10の特性が向上し得る。
【0068】
上部阻止層103において、窒素、酸素および第13族元素の濃度は、上部阻止層103の厚さ方向において変化している。上部阻止層103では、基体10aの外周面に沿った方向(面内方向)において各構成元素の原子濃度が実質的に均一であれば、面内方向において上部阻止層103の特性がより均一となり得る。
【0069】
上部阻止層103における第13族元素の単位体積当たりの原子数は、例えば、5×1017atoms/cm以上で且つ5×1019atoms/cm以下に設定される。これにより、表面層105側から光導電層102への負電荷の注入を十分に阻止することができるとともに、感光体層10bにおける残留電荷の発生が低減されてメモリ特性が向上し得る。
【0070】
上部阻止層103において、第13族元素として、硼素、アルミニウム、ガリウム、インジウムおよびタリウムのうちの1種類以上の元素が採用されてもよい。上部阻止層103に含有されている第13族元素は、硼素であってよい。この場合には、グロー放電分解法によって上部阻止層103を成膜する際に、上部阻止層103に第13族元素が導入される濃度(ドーピング濃度)の制御が容易となり得る。
【0071】
上部阻止層103の成膜時において上部阻止層103に珪素を導入するための原料ガスとしては、例えば、珪素系ガスが採用される。珪素系ガスには、例えば、モノシランガス、ジシランガス、トリシランガスおよびテトラシランガスのうちの1種類以上の水素化珪素のガス(シラン系ガス)などが適用される。上部阻止層103の成膜時において珪素を導入するための原料ガスとして、例えば、モノシランガスおよび/またはジシランガスが採用されれば、珪素が供給される効率が高まり得る。上部阻止層103の成膜時において上部阻止層103に珪素を導入するための原料ガスは、必要に応じて水素ガスおよびヘリウムガスのうちの1種類以上の希釈用のガスによって希釈されてもよい。
【0072】
上部阻止層103の成膜時において上部阻止層103に第13族元素としての硼素(B)を導入するための原料ガスとしては、硼素系ガスが採用される。硼素系ガスには、例えば、1種類以上の水素化硼素ガスおよび/または1種類以上のハロゲン化硼素ガスなどが適用される。1種類以上の水素化硼素のガスには、例えば、ジボランガスおよびテトラボランガスのうちの1種類以上のガスが適用される。1種類以上のハロゲン化硼素ガスには、例えば、三フッ化硼素ガス、三塩化硼素ガスおよび三臭化硼素ガスのうちの1種類以上のガスなどが適用される。
【0073】
上部阻止層103の成膜時において上部阻止層103に他の第13族元素を導入するための原料ガスとしては、例えば、塩化アルミニウムガス、塩化ガリウムガス、トリメチルガリウムガス、塩化インジウムガスおよび塩化タリウムガスのうちの1種類以上のガスなども採用され得る。
【0074】
上部阻止層103の成膜時において上部阻止層103に第13族元素を導入するための原料ガスは、必要に応じて、水素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスおよびネオンガスのうちの1種類以上の希釈用のガスによって希釈されてもよい。グロー放電分解法によって上部阻止層103を成膜する場合には、上部阻止層103の成膜時に、上部阻止層103に主な構成元素を導入するための原料ガスとともに、第13族元素を導入するための原料ガスを、反応室中に供給することで、上部阻止層103に第13族元素を導入することができる。
【0075】
上部阻止層103の成膜時において上部阻止層103に炭素を導入するための原料ガスとしては、例えば、炭素系ガスなどが採用される。炭素系ガスには、例えば、メタンガス、アセチレンガス、エタンガス、プロパンガスおよびブタンガスのうちの1種類以上の炭化水素系ガスなどが適用される。
【0076】
上部阻止層103では、珪素、窒素、酸素および炭素の含有量の総和に対して、窒素、酸素および炭素の含有量の総和の最大値は、例えば、10at%以上で且つ70at%以下に設定されてよい。また、上部阻止層103では、珪素および炭素の含有量の総和に対して、炭素の含有量の最大値は、10at%以上で且つ70at%以下に設定されてよい。上部阻止層103における炭素の含有量は、傾斜層104および表面層105における炭素の含有量よりも少なくてよい。これにより、感光体層10bにおける残留電位が十分に低い状態に維持され得る。
【0077】
上部阻止層103は、例えば、0.01μm以上で且つ1μm以下の厚さ(層厚)を有する。これにより、上部阻止層103において表面層105側から光導電層102への電荷の注入を阻止する役割が十分に実現されるとともに、感光体層10bにおける残留電荷の発生が低減されてメモリ特性が向上し得る。
【0078】
上部阻止層103は、第1領域103aと第2領域103bとを含む。第1領域103aは、光導電層102に接している領域である。第2領域103bは、第1領域103aよりも傾斜層104側に位置しており且つ傾斜層104に接している領域である。第1領域103aと第2領域103bとは接していてもよいし、第1領域103aと第2領域103bとの間に、第1領域103aおよび第2領域103bのそれぞれよりも大幅に薄い領域(第3領域ともいう)が存在していてもよい。第3領域が存在している場合には、第3領域の厚さは、第1領域103aおよび第2領域103bのそれぞれの厚さに対して、20%以下であってもよいし、10%以下であってもよいし、5%以下であってもよい。
【0079】
第1領域103aでは、窒素、酸素および第13族元素(例えば、硼素)の濃度は、上部阻止層103の厚さ方向において変化している。ここで、例えば、グロー放電分解法によって上部阻止層103を成膜する場合には、反応室(チャンバ)内に対する珪素、窒素、酸素および第13族元素(例えば、硼素)のそれぞれを導入するための各原料ガスの単位時間当たりの導入量を経時的に変化させることで第1領域103aが形成され得る。
【0080】
第2領域103bでは、珪素、窒素、酸素、炭素および第13族元素(例えば、硼素)の濃度は、上部阻止層103の厚さ方向において変化している。ここで、例えば、グロー放電分解法によって上部阻止層103を成膜する場合には、反応室(チャンバ)内に対する珪素、窒素、酸素、炭素および第13族元素(例えば、硼素)のそれぞれを導入するための各原料ガスの単位時間当たりの導入量を経時的に変化させることで第2領域103bが形成され得る。
【0081】
第1領域103aの厚さは、例えば、上部阻止層103の厚さのうちの4割以上で且つ8割以下であってよいし、第2領域103bの厚さは、例えば、上部阻止層103の厚さのうちの2割以上で且つ6割以下であってもよい。第3領域が存在している場合には、第3領域では、窒素、酸素、炭素および第13族元素(例えば、硼素)の濃度は、上部阻止層103の厚さ方向において実質的に変化していなくてよい。
【0082】
図3は、第1実施形態の第1例に係る感光体層10bについて厚さ方向における最表面からの距離と4つの元素の比率との関係を模式的に示す図である。図4は、第1実施形態の第1例に係る感光体層10bについて厚さ方向における最表面からの距離と屈折率との関係を模式的に示す図である。図5は、第1実施形態の第2例に係る感光体層10bについて厚さ方向における最表面からの距離と4つの元素の比率との関係を模式的に示す図である。図6は、第1実施形態の第2例に係る感光体層10bについて厚さ方向における最表面からの距離と屈折率との関係を模式的に示す図である。図7は、第1参考例に係る感光体層10bA(図11参照)について厚さ方向における最表面からの距離と4つの元素の比率との関係を模式的に示す図である。図8は、第1参考例に係る感光体層10bAについて厚さ方向における最表面からの距離と屈折率との関係を模式的に示す図である。図9は、第2参考例に係る感光体層10bAについて厚さ方向における最表面からの距離と4つの元素の比率との関係を模式的に示す図である。図10は、第2参考例に係る感光体層10bAについて厚さ方向における最表面からの距離と屈折率との関係を模式的に示す図である。図11は、第1参考例および第2参考例に係る感光体層10bAの構成を模式的に示す断面図である。図11で示されるように、第1参考例および第2参考例に係る感光体層10bAは、上記の感光体層10bに対して、上部阻止層103が、第1領域103aおよび第2領域103bが存在していない上部阻止層103Aとなっている点で異なる。
【0083】
ここで、最表面は、表面層105の表面である。4つの元素は、珪素、窒素、酸素および炭素である。元素の比率(元素比率ともいう)は、感光体層10b,10bAにおける4つの元素についての原子数の比率である。図3図5図7および図9のそれぞれにおいては、横軸は、感光体層10b,10bAについての厚さ方向における最表面からの距離を示しており、縦軸は、元素比率を示している。図3図5図7および図9のそれぞれにおいては、珪素の原子数の比率が複数黒丸のプロットと太い1点鎖線で描かれた折れ線とで示されており、窒素および酸素のそれぞれの原子数の比率が複数の黒塗りの菱形のプロットと太線で描かれた折れ線とで示されており、炭素の原子数の比率が複数黒塗りの三角形のプロットと太い破線で描かれた折れ線とで示されている。感光体層10b,10bAでは、4つの元素(珪素、窒素、酸素および炭素)の含有量に対して、第13族元素(例えば、硼素)の含有量が大幅に少ない。このため、図3図5図7および図9のそれぞれにおいては、第13族元素の元素比率の図示を省略しているが、上部阻止層103,103Aでは、第13族元素の含有率の増減の傾向は、窒素および酸素の含有率の増減の傾向と同一もしくは類似である。元素の含有率は、原子濃度であってよい。図4図6図8および図10のそれぞれで示される屈折率の変化を示す折れ線グラフは、4つの元素の比率を適宜変更した複数の試料を対象として測定した屈折率と、感光体層10bにおける4つの元素の比率と、に基づいて作成した、屈折率の変化の予想を示す折れ線グラフである。また、図3から図10のそれぞれには、厚さ方向における最表面からの距離に対して、光導電層102、上部阻止層103,103A、傾斜層104および表面層105のそれぞれに対応する区間に、各層の符合が付されている。図3から図6のそれぞれには、厚さ方向における最表面からの距離に対して、上部阻止層103における第1領域103aおよび第2領域103bのそれぞれに対応する区間にも、各層の符合が付されている。
【0084】
第1参考例および第2参考例では、図7および図9で示されるように、上部阻止層103Aには、第1領域103aおよび第2領域103bが存在していない。そして、上部阻止層103Aは、光導電層102から離れるにつれて、珪素の含有率が急激に減少しているとともに、第13族元素、窒素、酸素および炭素のそれぞれの含有率が急激に増加し、その後、傾斜層104に近づくにつれて、第13族元素、窒素および酸素のそれぞれの含有率が減少しているとともに炭素の含有率が増加している傾向を有する。
【0085】
これに対して、第1実施形態では、図3および図5で示されるように、第1領域103aは、光導電層102から離れるにつれて、珪素の含有率が減少しているとともに、第13族元素、窒素および酸素のそれぞれの含有率が増加しており、且つ炭素の含有率が増加していない傾向を有する。
【0086】
この場合には、図4図6図8および図10で示されるように、第1実施形態では、第1参考例および第2参考例と比較して、感光体層10bの厚さ方向において光導電層102と上部阻止層103との界面付近における屈折率の変化が大幅に低減されている。換言すれば、光導電層102と上部阻止層103との界面付近において、感光体層10bの厚さ方向における屈折率の急激な変化の発生が低減されている。このため、上部阻止層103と光導電層102との界面における光の反射の発生が低減される。換言すれば、上部阻止層103と光導電層102との間における明確な光学的な界面の発生が低減される。
【0087】
ここで、第1領域103aでは、珪素の含有率は、光導電層102から離れるにつれて、単調に減少していてもよいし、局所的には微小な増減を呈しつつ大まかには減少していてもよい。換言すれば、第1領域103aでは、珪素の含有率は、光導電層102から離れるにつれて、連続的に減少していてもよいし、ほぼ連続的に減少していてもよい。第1領域103aにおける光導電層102からの距離に応じた珪素の含有率の減少は、略一定の割合の減少であってもよいし、2つ以上の割合の段階的な減少であってもよい。なお、第1領域103aには、第1領域103aの厚さ方向において珪素の含有率が略一定である部分が存在していてもよい。
【0088】
また、ここで、第1領域103aでは、第13族元素、窒素および酸素のそれぞれの含有率は、光導電層102から離れるにつれて、単調に増加していてもよいし、局所的には微小な増減を呈しつつ大まかには増加していてもよい。換言すれば、第1領域103aでは、第13族元素、窒素および酸素のそれぞれの含有率は、光導電層102から離れるにつれて、連続的に増加していてもよいし、ほぼ連続的に増加していてもよい。第1領域103aにおける光導電層102からの距離に応じた第13族元素、窒素および酸素の含有率の増加は、それぞれ、略一定の割合の増加であってもよいし、2つ以上の割合の段階的な増加であってもよい。なお、第1領域103aには、第1領域103aの厚さ方向において第13族元素、窒素および酸素のうちの1種類以上の元素の含有率が略一定である部分が存在していてもよい。
【0089】
また、ここで、第1領域103aは、炭素を含有していなくてもよいし、窒素および酸素のそれぞれよりも明らかに少量である微量の炭素を含有していてもよい。この場合には、第1領域103aにおいて、炭素の原子濃度は、窒素および酸素のそれぞれの原子濃度に対して、30%以下であってもよいし、20%以下であってもよいし、10%以下であってもよい。
【0090】
また、第1実施形態では、図3および図5で示されるように、第2領域103bは、傾斜層104に近づくにつれて、第13族元素、窒素および酸素のそれぞれの含有率が減少しているとともに炭素の含有率が増加している傾向を有する。これにより、図4および図6で示されるように、第1実施形態では、感光体層10bの厚さ方向において、上部阻止層103内における屈折率の急激な変化の発生が低減される。このため、上部阻止層103における光の反射の発生が低減される。換言すれば、上部阻止層103における明確な光学的な界面の発生が低減される。これにより、表面層105、傾斜層104、上部阻止層103を介して光導電層102に至る光路における光の反射の発生が低減される。
【0091】
ここで、第2領域103bでは、第13族元素、窒素および酸素のそれぞれの含有率は、傾斜層104に近づくにつれて、単調に減少していてもよいし、局所的には微小な増減を呈しつつ大まかには減少していてもよい。換言すれば、第2領域103bでは、第13族元素、窒素および酸素のそれぞれの含有率は、傾斜層104に近づくにつれて、連続的に減少していてもよいし、ほぼ連続的に減少していてもよい。第2領域103bにおける傾斜層104までの距離に応じた第13族元素、窒素および酸素の含有率の減少は、それぞれ、略一定の割合の減少であってもよいし、2つ以上の割合の段階的な減少であってもよい。なお、第2領域103bには、第2領域103bの厚さ方向において第13族元素、窒素および酸素のうちの1種類以上の元素の含有率が略一定である部分が存在していてもよい。
【0092】
また、ここで、第2領域103bでは、炭素の含有率は、傾斜層104に近づくにつれて、単調に増加していてもよいし、局所的には微小な増減を呈しつつ大まかには増加していてもよい。換言すれば、第2領域103bでは、炭素の含有率は、傾斜層104に近づくにつれて、連続的に増加していてもよいし、ほぼ連続的に増加していてもよい。第2領域103bにおける傾斜層104までの距離に応じた炭素の含有率の増加は、略一定の割合の増加であってもよいし、2つ以上の割合の段階的な増加であってもよい。なお、第2領域103bには、第2領域103bの厚さ方向において炭素の含有率が略一定である部分が存在していてもよい。
【0093】
また、ここで、第2領域103bでは、珪素の含有率は、傾斜層104に近づくにつれて、緩やかに増加もしくは減少していてもよいし、傾斜層104までの距離に拘わらず、略一定であってもよい。第2領域103bにおける傾斜層104までの距離に応じた珪素の含有率の増加もしくは減少は、略一定の割合の増加もしくは減少であってもよいし、2つ以上の割合の段階的な増加もしくは減少であってもよい。
【0094】
<<表面傾斜層(傾斜層)104>>
傾斜層104は、感光体10の外部からの露光光を上部阻止層103および光導電層102に向けて透過させやすくする役割と、光導電層102から表面層105に向けた正電荷の移動を円滑に行わせる役割と、を有する。
【0095】
傾斜層104は、珪素と炭素とを含有する非晶質の材料(非晶質材料ともいう)を主体として含む。また、例えば、図3および図5で示されるように、傾斜層104は、表面層105に近づくにつれて、珪素の含有率が減少しているとともに、炭素の含有率が増加している傾向を有する。これにより、図4および図6で示されるように、第1実施形態では、感光体層10bの厚さ方向において、上部阻止層103と表面層105との間における屈折率の急激な変化の発生が低減される。このため、上部阻止層103と表面層105との間における光の反射の発生が低減される。換言すれば、上部阻止層103と表面層105との間における明確な光学的な界面の発生が低減される。これにより、表面層105、傾斜層104、上部阻止層103を介して光導電層102に至る光路における光の反射の発生が低減される。
【0096】
ここで、傾斜層104では、珪素の含有率は、表面層105に近づくにつれて、単調に減少していてもよいし、局所的には微小な増減を呈しつつ大まかには減少していてもよい。換言すれば、傾斜層104では、珪素の含有率は、表面層105に近づくにつれて、連続的に減少していてもよいし、ほぼ連続的に減少していてもよい。傾斜層104における表面層105までの距離に応じた珪素の含有率の減少は、略一定の割合の減少であってもよいし、2つ以上の割合の段階的な減少であってもよい。なお、傾斜層104には、傾斜層104の厚さ方向において珪素の含有率が略一定である部分が存在していてもよい。
【0097】
また、傾斜層104では、炭素の含有率は、表面層105に近づくにつれて、単調に増加していてもよいし、局所的には微小な増減を呈しつつ大まかには増加していてもよい。換言すれば、傾斜層104では、炭素の含有率は、表面層105に近づくにつれて、連続的に増加していてもよいし、ほぼ連続的に増加していてもよい。傾斜層104における表面層105までの距離に応じた炭素の含有率の増加は、略一定の割合の増加であってもよいし、2つ以上の割合の段階的な増加であってもよい。なお、傾斜層104には、傾斜層104の厚さ方向において炭素の含有率が略一定である部分が存在していてもよい。
【0098】
傾斜層104において、基体10aの外周面に沿った方向(面内方向)において珪素および炭素などの複数の構成元素のそれぞれの原子濃度が実質的に均一であれば、面内方向において傾斜層104の特性がより均一となり得る。
【0099】
傾斜層104の成膜時において傾斜層104に珪素を導入するための原料ガスとしては、珪素系ガスが採用される。珪素系ガスには、例えば、モノシランガス、ジシランガス、トリシランガスおよびテトラシランガスのうちの1種類以上の水素化珪素のガス(シラン系ガス)などが適用される。傾斜層104の成膜時において珪素を導入するための原料ガスとして、例えば、モノシランガスおよび/またはジシランガスが採用されれば、珪素が供給される効率が高まり得る。
【0100】
傾斜層104の成膜時において傾斜層104に炭素を導入するための原料ガスとしては、例えば、メタンガス、アセチレンガス、エタンガス、プロパンガスおよびブタンガスのうちの1種類以上の炭化水素系ガスなどが採用される。
【0101】
ここで、例えば、グロー放電分解法によって傾斜層104を成膜する場合には、反応室中に供給する、珪素および炭素のそれぞれを導入するための原料ガスの供給量を経時的に変化させることで傾斜層104が形成され得る。
【0102】
<<表面保護層(表面層)105>>
表面層105は、主として感光体10の耐湿性、繰り返しの使用に安定して耐え得る特性(繰り返し使用特性)、電気的な耐圧性、使用環境に対応し得る特性(使用環境特性)ならびに耐久性を向上させる役割を有する。
【0103】
表面層105は、非晶質の炭素を主体として含むか、あるいは炭素と珪素とを含有する非晶質材料を主体として含む。本明細書では、炭素と珪素とを含有する非晶質材料を、非晶質炭化珪素(Amorphous Silicon Carbide:a-SiC)と称する。図3および図4で示した第1実施形態の第1例に係る感光体層10bでは、表面層105は、非晶質炭素(Amorphous Carbon:a-C)を主体として含む。図5および図6で示した第1実施形態の第2例に係る感光体層10bでは、表面層105は、炭素と珪素とを含有する非晶質材料を主体として含む。
【0104】
例えば、表面層105が非晶質炭化珪素である場合には、非晶質炭化珪素において、炭素および珪素の含有量の総和に対して、炭素の含有量が、40at%以上で且つ90at%以下に設定されてよい。
【0105】
表面層105は、例えば、水素およびハロゲン元素の少なくとも一方を含んでいれば、水素およびハロゲン元素の少なくとも一方による珪素のダングリングボンドの終端が実現され得る。ここで、表面層105では、例えば、構成元素の含有量の総和に対して、水素の含有量が、1at%以上で且つ70at%以下に設定されてもよいし、1at%以上で且つ45at%以下に設定されてもよい。これにより、珪素のダングリングボンドの終端による安定化が十分に実現されるとともに、表面層105の表面に露光光が照射される際に生じる電荷のトラップの十分な低減によって感光体層10bにおける残留電位が十分に低い状態に維持され得る。
【0106】
表面層105が、水素化された非晶質炭化珪素(水素化非晶質炭化珪素ともa-SiC:Hともいう)で構成されている場合には、水素化非晶質炭化珪素において、炭素および珪素の含有量の総和に対して、炭素の含有量が、55at%以上で且つ93at%以下に設定されてもよいし、60at%以上で且つ70at%以下に設定されてもよい。
【0107】
表面層105は、例えば、0.2μm以上で且つ1.5μm以下の厚さ(層厚)を有していてもよいし、0.5μm以上で且つ1μm以下の厚さ(層厚)を有していてもよい。これにより、表面層105は、感光体層10bの耐久性を十分に実現することができ、感光体層10bにおける残留電位を十分に低い状態に維持することができる。
【0108】
表面層105において、基体10aの外周面に沿った方向(面内方向)において炭素および珪素などの複数の構成元素のそれぞれの原子濃度が実質的に均一であれば、面内方向において表面層105の特性がより均一となり得る。
【0109】
表面層105の成膜時において表面層105に炭素を導入するための原料ガスとしては、例えば、メタンガス、アセチレンガス、エタンガス、プロパンガスおよびブタンガスのうちの1種類以上の炭化水素系ガスなどの炭素系ガスが採用される。
【0110】
表面層105の成膜時において表面層105に珪素を導入するための原料ガスとしては、例えば、モノシランガス、ジシランガス、トリシランガスおよびテトラシランガスのうちの1種類以上の水素化珪素のガス(シラン系ガス)などの珪素系ガスが採用される。表面層105の成膜時において珪素を導入するための原料ガスとして、例えば、モノシランガスおよび/またはジシランガスが採用されれば、珪素が供給される効率が高まり得る。表面層105の成膜時において表面層105に珪素を導入するための原料ガスは、必要に応じて、水素ガスおよびヘリウムガスのうちの1種類以上の希釈用のガスによって希釈されてもよい。
【0111】
上述したように、第1実施形態では、光導電層102、上部阻止層103、傾斜層104および表面層105における各界面の付近ならびに上部阻止層103、傾斜層104および表面層105の各層において、各層の厚さ方向において構成元素の比率が急激に変化しておらず、緩やかに変化している。このため、感光体層10bの厚さ方向において、光導電層102と上部阻止層103との界面付近、上部阻止層103、上部阻止層103と傾斜層104との界面付近、傾斜層104および傾斜層104と表面層105との界面付近の何れにおいても屈折率の急激な変化の発生が低減されている。これにより、表面層105、傾斜層104および上部阻止層103を介して光導電層102に至る光路における光の反射の発生が低減される。よって、例えば、感光体10が画像形成装置100に搭載された状態において、仮に上部阻止層103、傾斜層104および表面層105のそれぞれに場所による厚さの相違(厚さのばらつき)が生じていても、同じ強度の露光光を感光体層10bに照射した場合に光の干渉によって光導電層102に入射する露光光の強度が場所によって異なる不具合の発生が低減され得る。その結果、感光体10における感度のムラ(むら)が低減され得る。
【0112】
光導電層102、上部阻止層103、傾斜層104および表面層105における各界面付近ならびに上部阻止層103、傾斜層104および表面層105の各層において、各層の厚さ方向において構成元素の比率が急激に変化していないことは、例えば、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)および/または2次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry:SIMS)などによる感光体層10bの深さ方向における組成分析などで確認され得る。X線光電子分光法(XPS)は、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)とも称される。
【0113】
<1-2.成膜装置>
図12は、感光体10の感光体層10bを形成するための成膜装置300の構成の一例を模式的に示す断面図である。
【0114】
成膜装置300は、グロー放電分解法によって、基体10a上に、感光体層10bを構成する、下部阻止層101、光導電層102、上部阻止層103、傾斜層104および表面層105を、この記載の順に形成することができる。
【0115】
成膜装置300は、反応室20、支持機構30、直流電圧供給機構40、温度制御機構50、回転機構60、ガス供給機構70および排気機構80を備えている。
【0116】
<<反応室20>>
反応室20は、内部に、基体10aに対して、感光体層10bの各層となる堆積膜を形成するための空間(形成空間ともいう)を有する。この形成空間は、反応室20を構成している円筒状電極21、一対のプレート22,23および絶縁部材24,25によって囲まれた空間である。
【0117】
円筒状電極21は、形成空間を側方から囲んでいる円筒状の形を有しており、グロー放電を発生させるために基体10a側を第1導体とした場合の第2導体としての役割を有する。円筒状電極21は、基体10aと同一または類似の導電性材料で構成されている。円筒状電極21は、絶縁部材24,25を介して一対のプレート22,23と一体化されている。図12の例では、円筒状電極21は、支持機構30に基体10aが支持された場合に、基体10aと円筒状電極21との距離が10ミリメートル(mm)以上で且つ100mm以下となる寸法および配置を有する。これにより、円筒状電極21と支持機構30との間における放電の安定化と、この放電に要する電力の低減と、が図られ得る。
【0118】
円筒状電極21は、ガス導入口21aおよび複数のガス吹き出し孔21bを有する。円筒状電極21の一端は、接地されている。円筒状電極21は、接地されておらず、後述する直流電源41とは別の基準電源に接続されていてもよい。円筒状電極21が直流電源41とは別の基準電源に接続されている場合には、基準電源が円筒状電極21に付与する電位(基準電位ともいう)は、例えば、-1500V以上であり且つ1500V以下に設定される。
【0119】
ガス導入口21aは、洗浄ガスまたは原料ガスを反応室20内に導入するための開口である。このガス導入口21aは、ガス供給機構70に接続されている。
【0120】
複数のガス吹き出し孔21bは、円筒状電極21の内部に導入された洗浄ガスまたは原料ガスを基体10aに向けて吹き出すための開口である。図12の例では、複数のガス吹き出し孔21bは、円筒状電極21のうちの上下方向および周方向のそれぞれにおいて、例えば、等間隔で配置されている。複数のガス吹き出し孔21bは、同一のサイズの円形の形状を有していてよい。複数のガス吹き出し孔21bの孔径は、例えば、0.5mm以上で且つ2mm以下に設定される。なお、複数のガス吹き出し孔21bの孔径、形状および配置のそれぞれは、適宜変更されてもよい。
【0121】
プレート22は、円筒状電極21に対して絶縁部材24を介した着脱が可能な部材である。プレート22が絶縁部材24を介して円筒状電極21に装着されると、反応室20の形成空間が閉鎖された状態(閉鎖状態ともいう)となる。プレート22が円筒状電極21から脱着されると、反応室20の形成空間が開放された状態(開放状態ともいう)となる。換言すれば、プレート22の着脱によって、反応室20の状態を開放状態と閉鎖状態との間で選択的に切り換えることができる。例えば、反応室20の形成空間が開放状態となると、反応室20の形成空間に対する支持体31の出し入れが可能となる。プレート22は、例えば、基体10aと同一または類似の導電性材料で構成されている。プレート22と円筒状電極21との間に介在する絶縁部材24は、プレート22と円筒状電極21との間におけるアーク放電の発生を低減する役割を有する。プレート22の下面には、防着板26が取り付けられている。これにより、プレート22に対する堆積膜の形成が低減される。防着板26は、プレート22と円筒状電極21との間に介在していてよい。防着板26は、基体10aと同一または類似の導電性材料で構成されていてよい。この防着板26は、プレート22に対する着脱が可能な部材であってもよい。
【0122】
プレート23は、反応室20のベースとしての役割を有する。プレート23は、例えば、基体10aと同一または類似の導電性材料で構成されている。プレート23と円筒状電極21との間には、絶縁部材25が介在していてもよい。この絶縁部材25の存在によって、円筒状電極21とプレート23との間におけるアーク放電の発生が低減される。
【0123】
絶縁部材24,25のそれぞれは、例えば、ガラス材料、絶縁性を有する無機材料(無機絶縁材料ともいう)および絶縁性を有する合成樹脂材料(合成樹脂絶縁材料ともいう)のうちの1種類以上の材料によって構成され得る。ガラス材料には、例えば、硼珪酸ガラス、ソーダガラスおよび/または耐熱ガラスなどが適用される。無機絶縁材料には、例えば、セラミックス、石英および/またはサファイヤなどが適用される。合成樹脂絶縁材料には、例えば、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ビニロン、エポキシ、マイラーおよび/またはポリエーテルエーテルケトンなどが適用される。絶縁部材25の材料は、絶縁性と使用温度における十分な耐熱性とを有するとともに、真空中においてもガスの放出が小さい材料であればよい。
【0124】
プレート23および絶縁部材25には、ガス排出口23a,25aおよび圧力計27が設けられている。ガス排出口23a,25aは、反応室20の内部の気体を排出する役割を有する。ガス排出口23a,25aは、排気機構80に接続されている。圧力計27は、反応室20内の圧力をモニタリングすることができる。圧力計27には、公知の種々の圧力計が適用され得る。
【0125】
<<支持機構30>>
支持機構30は、基体10aを支持するとともに、グロー放電を発生させる第1導体としての役割を有する。支持機構30は、支持体31、導電性支柱32および絶縁材33を含む。図12の例では、支持機構30は、2つの基体10aを支持することができる長さ(寸法)を有する。支持機構30は、支持体31が導電性支柱32に対して着脱自在な形で取り付けられた構成を有していてよい。これにより、反応室20の形成空間に対して2つの基体10aを支持している支持体31の出し入れを行うことで、支持機構30が支持している2つの基体10aの表面に触れることなく、反応室20の形成空間に対して2つの基体10aの出し入れを行なうことができる。
【0126】
支持体31は、下端部にフランジ部31aを有する中空状の部材である。支持体31の全体は、例えば、基体10aと同一または類似の導電性材料によって構成されている。
【0127】
導電性支柱32は、導板32aを有する筒状の部材である。導電性支柱32の全体は、例えば、基体10aと同一または類似の導電性材料によって構成されている。導電性支柱32の上端部は、支持体31の内壁面に接触している。
【0128】
絶縁材33は、導電性支柱32とプレート23との間の電気的絶縁性を確保する役割を有する。絶縁材33は、反応室20の略中央において導電性支柱32とプレート23との間に介在している。
【0129】
<<直流電圧供給機構40>>
直流電圧供給機構40は、導電性支柱32に直流電圧を供給する機構である。直流電圧供給機構40は、直流電源41および制御部42を有する。
【0130】
直流電源41は、導電性支柱32に印加する直流電圧を発生させる役割を有する。直流電源41は、導板32aを介して導電性支柱32に接続されている。
【0131】
制御部42は、直流電源41の動作を制御する役割を有する。制御部42は、直流電源41に接続されている。制御部42は、例えば、直流電源41の動作を制御することで、導電性支柱32を介して支持体31に対してパルス状の直流電圧を直流電源41によって印加することができる。
【0132】
<<温度制御機構50>>
温度制御機構50は、基体10aの温度を制御する役割を有する。温度制御機構50は、セラミックパイプ51およびヒータ52を有する。
【0133】
セラミックパイプ51は、絶縁性および熱伝導性を確保する役割を有する。セラミックパイプ51は、導電性支柱32の内部に収容されている。
【0134】
ヒータ52は、基体10aを加熱する役割を有する。ヒータ52は、導電性支柱32の内部に収容されている。基体10aの温度の制御は、例えば、支持体31もしくは導電性支柱32の温度のモニタ結果に応じたヒータ52のオンオフ制御によって実現され得る。支持体31もしくは導電性支柱32の温度のモニタは、支持体31あるいは導電性支柱32に取り付けられた熱電対(不図示)によって実現され得る。基体10aの温度は、例えば、摂氏200度(200℃)以上で且つ摂氏400度(400℃)以下の温度域における所定の温度(所定温度ともいう)に維持される。なお、ヒータ52には、例えば、ニクロム線またはカートリッジヒータなどが適用される。
【0135】
<<回転機構60>>
回転機構60は、支持体31を回転させる役割を有する。回転機構60は、回転モータ61、回転導入端子62、絶縁軸部材63および絶縁平板64を有する。基体10aを支持している支持体31を回転機構60によって回転させながら、基体10a上に感光体層10bの各層となる堆積膜を成膜すると、グロー放電によって分解された原料ガスの成分が基体10aの外周に対して略均等に堆積され得る。
【0136】
回転モータ61は、基体10aに回転力を付与する役割を有する。回転モータ61は、例えば、1回転毎分(rpm)以上でかつ10rpm以下の範囲内の一定の回転数で基体10aを回転させる動作を行うことができる。回転モータ61には、公知の種々の回転モータが適用され得る。
【0137】
回転導入端子62は、反応室20内を所定の真空度に保ちながら回転モータ61で発せられる回転力を絶縁軸部材63に伝達する役割を有する。回転導入端子62には、例えば、2重構造もしくは3重構造の回転軸を有するオイルシールもしくはメカニカルシールなどの真空シールが適用され得る。
【0138】
絶縁軸部材63および絶縁平板64は、支持機構30とプレート22との間の絶縁状態を維持しつつ、回転モータ61からの回転導入端子62を介した回転力を支持機構30に伝達する役割を有する。絶縁軸部材63および絶縁平板64は、例えば、絶縁部材25と同一または類似の絶縁材料で構成されている。
【0139】
絶縁平板64は、円筒状電極21からプレート22を取り外す際に、プレート22の下面に取り付けられた防着板26などから落下するゴミもしくは粉塵などの異物の基体10aへの付着を低減する役割を有する。絶縁平板64の存在によって、基体10aへの異物の付着に起因する異常放電の発生が低減され得る。これにより、基体10a上に成膜される感光体層10bの各層となる堆積膜における欠陥の発生が低減され得る。
【0140】
<<ガス供給機構70>>
ガス供給機構70は、複数の原料ガスタンク71,72,73,74と、複数の配管71a,72a,73a,74aと、複数のバルブ71b,72b,73b,74b,71c,72c,73c,74cと、複数のマスフローコントローラ71d,72d,73d,74dとを含む。また、ガス供給機構70は、配管75およびガス導入口21aを介して円筒状電極21内に接続されている。例えば、原料ガスタンク71は、配管71aと配管75を介してガス導入口21aに接続されており、配管71aの途中にバルブ71b,71cおよびマスフローコントローラ71dが設けられている。例えば、原料ガスタンク72は、配管72aと配管75を介してガス導入口21aに接続されており、配管72aの途中にバルブ72b,72cおよびマスフローコントローラ72dが設けられている。例えば、原料ガスタンク73は、配管73aと配管75を介してガス導入口21aに接続されており、配管73aの途中にバルブ73b,73cおよびマスフローコントローラ73dが設けられている。例えば、原料ガスタンク74は、配管74aと配管75を介してガス導入口21aに接続されており、配管74aの途中にバルブ74b,74cおよびマスフローコントローラ74dが設けられている。
【0141】
各原料ガスタンク71,72,73,74は、原料ガスが充填されたタンクである。原料ガスとしては、例えば、モノシランガス、水素ガス、ジボランガス、メタンガスおよび窒素ガスもしくは一酸化窒素ガスが採用される。
【0142】
複数のバルブ71b,72b,73b,74b,71c,72c,73c,74cおよび複数のマスフローコントローラ71d,72d,73d,74dは、反応室20内に導入される各原料ガスの単位時間当たりの導入量、複数の原料ガスの比率および圧力を調整することができる。なお、ガス供給機構70における、各原料ガスタンク71,72,73,74に充填すべき原料ガスの種類および/または複数の原料ガスタンク71,72,73,74の数は、基体10aに形成すべき膜の種類および/または組成に応じて適宜選択されてもよい。
【0143】
<<排気機構80>>
排気機構80は、反応室20内のガスをガス排出口23a,25aを介して外部に排出する役割を有する。排気機構80は、例えば、メカニカルブースタポンプ81およびロータリーポンプ82を有する。これらのポンプ81,82は、圧力計27による反応室20内の圧力のモニタリング結果に応じて、動作が制御されてよい。換言すれば、排気機構80は、圧力計27による反応室20内の圧力のモニタリング結果に基づいて、反応室20内を所定の真空状態に維持するとともに、反応室20内のガスの圧力を目的値に設定することができる。なお、反応室20内のガスの圧力は、例えば、1パスカル(Pa)以上で且つ100Pa以下に設定される。
【0144】
<1-3.成膜装置を用いた感光体層の形成方法>
成膜装置300を用いた感光体層10bの形成方法について説明する。
【0145】
まず、成膜装置300において、プレート22を円筒状電極21から脱着することで反応室20の形成空間を開放する。複数(図12では2つ)の基体10aを支持した支持体31を反応室20の形成空間にセットする。そして、プレート22を、絶縁部材24を介して円筒状電極21に装着することで、反応室20の形成空間を閉鎖する。
【0146】
ここでは、支持体31における2つの基体10aの支持は、支持体31のフランジ部31a上において、下ダミー基体D1、1つ目の基体10a、中間ダミー基体D2、2つ目の基体10aおよび上ダミー基体D3を順次積み上げる形で行なわれる。各ダミー基体D1,D2,D3には、例えば、全体が導電性を有する構成の部材が適用されてもよいし、絶縁体の表面に導電性を有する膜を形成した部材が適用されてもよい。各ダミー基体D1,D2,D3には、基体10aと同一または類似の構成を有する部材が適用されてもよい。換言すれば、各ダミー基体D1,D2,D3には、例えば、筒状の部材が適用されてもよい。
【0147】
下ダミー基体D1は、主として基体10aの高さ方向の位置を調整する役割を有する。中間ダミー基体D2は、主として上下方向において隣り合う2つの基体10aの間における不均一な放電の発生を低減する役割を有する。例えば、中間ダミー基体D2の上下方向における長さが1センチメートル(cm)以上に設定されれば、2つの基体10aの間における不均一な放電の発生が十分に低減され得る。中間ダミー基体D2の外周面の角部に、例えば、曲率半径が0.5mm以上となる曲面加工が施されていてもよいし、面取り加工が施されていてもよい。中間ダミー基体D2のうちの面取り加工によって除去された部分の軸方向および径方向のそれぞれにおける長さは、0.5mm以上に設定されてよい。上ダミー基体D3は、主として支持体31における堆積膜の形成を低減する役割を有する。上ダミー基体D3は、この上ダミー基体D3の上側端部が支持体31の最上部よりも上方に突出している状態に配置される。
【0148】
次に、温度制御機構50によって基体10aの温度を所定温度に維持する制御を行うとともに、排気機構80によって反応室20内を減圧する。基体10aの温度の制御は、ヒータ52の発熱によって基体10aの温度を所定温度の近傍まで昇温させた後に、ヒータ52のオンオフ制御によって基体10aの温度を所定温度に維持する形で行なわれる。基体10aの温度は、基体10aの表面上に形成すべき膜の種類および組成によって適宜設定される。例えば、非晶質の珪素(a-Si)系の膜を形成する場合には、基体10aの温度は、250℃以上で且つ300℃以下の温度域に設定される。また、基体10aの温度は、例えば、下部阻止層101、光導電層102および上部阻止層103を成膜する際よりも、傾斜層104および表面層105を成膜する際の方が低く設定されてもよい。この場合には、上部阻止層103を成膜する際に、時間の経過とともに徐々に基体10aの温度を低下させてもよい。
【0149】
また、反応室20内の減圧は、圧力計27によって反応室20内の圧力をモニタリングしつつ、このモニタリングの結果に基づいて各ポンプ81,82の動作を制御することで、ガス排出口23a,25aを介して反応室20内からガスを排出させることによって行なわれる。なお、例えば、原料ガスが反応室20内に導入される前に、反応室20内の圧力が1×10-3Pa程度に至るまで減圧される。
【0150】
次に、基体10aの温度を所定温度で維持するとともに、反応室20内を所定の圧力(所定圧力ともいう)まで減圧した状態で、ガス供給機構70によって反応室20内に原料ガスを供給するとともに、円筒状電極21と支持体31との間に、直流電圧供給機構40を用いてパルス状の直流電圧を印加する。これにより、円筒状電極21と支持体31との間にグロー放電が発生する。換言すれば、円筒状電極21と基体10aとの間にグロー放電が発生する。そして、グロー放電によって原料ガスが分解され、その原料ガスのうちの分解された成分が、基体10aの表面上に堆積する。ここでは、排気機構80は、圧力計27による反応室20内の圧力のモニタリング結果に基づいて、各ポンプ81,82の動作を制御することにより、反応室20内の圧力を所定範囲の圧力に維持する。所定範囲の圧力は、例えば、1Pa以上で且つ100Pa以下に設定される。すなわち、ガス供給機構70における各マスフローコントローラ71d,72d,73d,74dと排気機構80における各ポンプ81,82によって、反応室20内の圧力を所定範囲に維持する。
【0151】
反応室20内への原料ガスの供給は、各バルブ71b,72b,73b,74b,71c,72c,73c,74cの開閉状態を適宜制御しつつ、各マスフローコントローラ71d,72d,73d,74dを制御することで行われる。この際には、複数の原料ガスタンク71,72,73,74の原料ガスが、所望の比率および流量で、配管71a,72a,73a,74a,75およびガス導入口21aを介して円筒状電極21の内部に導入される。円筒状電極21の内部に導入された原料ガスは、複数のガス吹き出し孔21bを介して基体10aに向けて吹き出される。そして、複数のバルブ71b,72b,73b,74b,71c,72c,73c,74cおよび複数のマスフローコントローラ71d,72d,73d,74dによって反応室20内に導入する複数の原料ガスの比率および流量(ガス流量ともいう)を適宜変化させる。ここで、各原料ガスの流量(ガス流量)は、反応室20内に導入される各原料ガスの単位時間当たりの導入量に対応する。
【0152】
また、例えば、円筒状電極21が接地されている場合には、円筒状電極21と支持体31との間におけるパルス状の直流電圧の印加は、支持体31の電位が、-3000V以上で且つ-50V以下あるいは-3000V以上で且つ-500V以下である負のパルス状の直流電位V1となる形で行われる。例えば、円筒状電極21が基準電源(不図示)に接続されている場合には、円筒状電極21と支持体31との間におけるパルス状の直流電圧の印加は、基準電源から供給される電位V2を基準電位として、支持体31の電位が、基準電位に対する目的の電位差ΔVを生じる形で行われる。目的の電位差ΔVは、例えば、-3000V以上で且つ-50V以下に設定される。ここで、支持体31(すなわち基体10a)に対して負のパルス状の直流電圧を印加する場合には、基準電源から供給される電位V2は、例えば、-1500V以上で且つ1500V以下に設定される。制御部42は、直流電圧の周波数(1/Tc1[秒])が300kHz以下となり、デューティー比(Duty比)が0.2以上で且つ0.9以下となる形で直流電源41を制御する。ここで、デューティー比は、パルス状の直流電圧の1周期の時間をTc1とし、1周期のうちの円筒状電極21と支持体31との間に目的の電位差ΔVを発生させている期間(電位差発生時間ともいう)をTe1とした場合に、1周期の期間のうちの電位差発生時間Te1が占める時間の割合(=Te1/Tc1)である。1周期の時間Tc1は、基体10aと円筒状電極21との間に直流電圧の電位差が生じた瞬間から、次に直流電圧の電位差が生じる瞬間までの時間である。例えば、デューティー比が0.2とは、パルス状の直流電圧を印加する際の1周期の時間Tc1に占める電位差発生時間Te1が、1周期の期間の20%であることを意味する。
【0153】
以上のようにして、基体10aの表面に、下部阻止層101、光導電層102、上部阻止層103、傾斜層104および表面層105をこの記載の順に形成する。ここでは、例えば、パルス状の直流電圧の印加によるグロー放電の発生を維持した状態で、反応室20内に供給する複数の原料ガスの比率を変化させることで、下部阻止層101、光導電層102、上部阻止層103、傾斜層104および表面層105を順に成膜することができる。
【0154】
図13は、第1実施形態の第1例に係る感光体層10bを成膜する際に反応室20内に導入される各原料ガスの単位時間当たりの導入量(ガス流量)の時間的な変化の一例を模式的に示す図である。図14は、第1実施形態の第2例に係る感光体層10bを成膜する際に反応室20内に導入される各原料ガスの単位時間当たりの導入量(ガス流量)の時間的な変化の一例を模式的に示す図である。図15は、第1参考例に係る感光体層10bAを成膜する際に反応室20内に導入される各原料ガスの単位時間当たりの導入量(ガス流量)の時間的な変化の一例を模式的に示す図である。図16は、第2参考例に係る感光体層10bAを成膜する際に反応室20内に導入される各原料ガスの単位時間当たりの導入量(ガス流量)の時間的な変化の一例を模式的に示す図である。
【0155】
ここで、図13から図16のそれぞれにおいては、横軸は、感光体層10b,10bAを成膜している時間を示しており、縦軸は、複数の原料ガスのそれぞれについての反応室20内に対する単位時間当たりの導入量(ガス流量)を示している。ここで、各原料ガスのガス流量は、各マスフローコントローラ71d,72d,73d,74dにおける原料ガスの流量に対応している。図13から図16のそれぞれにおいては、珪素系ガスのガス流量が太い1点鎖線で描かれた折れ線で示されており、窒素酸化物ガスのガス流量が太線で描かれた折れ線で示されており、炭素系ガスのガス流量が太い破線で描かれた折れ線で示されており、硼素系ガスのガス流量が細い実線で描かれた折れ線で示されている。珪素系ガスには、例えば、モノシランガスおよびジシランガスのうちの1種類以上のシラン系ガスが適用される。窒素酸化物ガスには、例えば、一酸化窒素ガスおよび亜酸化窒素ガスのうちの1種類以上のガスが適用される。炭素系ガスには、例えば、メタンガス、エチレンガスおよびアセチレンガスのうちの1種類以上の炭化水素系ガスが適用される。硼素系ガスには、例えば、水素化硼素ガスとしてのジボランガスが適用される。
【0156】
硼素系ガスのガス流量は、珪素系ガス、窒素酸化物ガスおよび炭素系ガスの各ガス流量に対して実際には大幅に小さいが、図13から図16では、便宜的に硼素系ガスのガス流量を実際よりも大きく示している。図13から図16のそれぞれには、光導電層102、上部阻止層103,103A、傾斜層104および表面層105のそれぞれが成膜されている期間に、成膜されている層の符合が付されている。図13および図14のそれぞれには、上部阻止層103における第1領域103aおよび第2領域103bのそれぞれが成膜されている期間にも、成膜されている層の符合が付されている。
【0157】
図13および図14を参照しつつ、基体10a上に感光体層10bを形成することで、第1実施形態に係る感光体10を製造する方法について説明する。
【0158】
第1実施形態に係る感光体10の製造方法は、第1工程と、第2工程と、第3工程と、第4工程と、第5工程と、を有する。この場合には、反応室20内において、PECVD法の一種であるグロー放電分解法を用いて、第2工程、第3工程、第4工程および第5工程を連続して順に実行する態様が考えられる。例えば、グロー放電分解法を用いて、光導電層102、上部阻止層103、傾斜層104および表面層105の各層を形成する際に、パルス状の直流電圧の印加によるグロー放電の発生を維持した状態で、反応室20に導入する複数の原料ガスのガス流量および比率を連続的に変化させる。
【0159】
第1工程では、反応室20内において、導電性を有する基体10a上に、下部阻止層101を形成する。この下部阻止層101は、非晶質の珪素を主体として含み、且つn型ドーパントを含む。図13および図14の例では、時刻t0から時刻t2にかけた期間に第1工程が行われる。この第1工程では、例えば、反応室20に、珪素系ガスと、窒素酸化物ガスと、を導入する。ここでは、反応室20には、例えば、主な原料ガスとして珪素系ガスを導入するとともに、窒素酸化物ガスも導入する。より具体的には、例えば、時刻t0から時刻t1の期間において、珪素系ガスのガス流量および窒素酸化物ガスのガス流量を一定とする。また、例えば、時刻t1から時刻t2の期間において、珪素系ガスのガス流量を連続的に増加させ、窒素酸化物ガスのガス流量を連続的にゼロもしくは略ゼロまで減少させる。
【0160】
時刻t0から時刻t1の期間では、珪素系ガスのガス流量を、完全に一定にすることなく、略一定としてもよいし、若干増減させていてもよい。また、時刻t0から時刻t1の期間では、窒素酸化物ガスのガス流量を、完全に一定にすることなく、略一定としてもよいし、若干増減させてもよい。
【0161】
時刻t1から時刻t2にかけた期間では、時間の経過とともに、珪素系ガスのガス流量を、単調に増加させてもよいし、若干増減させつつ全体として増加させてもよい。換言すれば、時刻t1から時刻t2にかけた期間では、時間の経過とともに、珪素系ガスのガス流量を、連続的に増加させてもよいし、ほぼ連続的に増加させてもよい。時刻t1から時刻t2にかけた期間では、時間の経過とともに、珪素系ガスのガス流量を、一定もしくは略一定の割合で増加させてもよいし、2つ以上の割合で順に増加させてもよい。なお、時刻t1から時刻t2にかけた期間には、珪素系ガスのガス流量を一定もしくは略一定のガス流量に維持している時間帯が存在していてもよい。
【0162】
また、時刻t1から時刻t2にかけた期間では、時間の経過とともに、窒素酸化物ガスのガス流量を、単調に減少させてもよいし、若干増減させつつ全体として減少させてもよい。換言すれば、時刻t1から時刻t2にかけた期間では、時間の経過とともに、窒素酸化物ガスのガス流量を、連続的に減少させてもよいし、ほぼ連続的に減少させてもよい。時刻t1から時刻t2にかけた期間では、時間の経過とともに、窒素酸化物ガスのガス流量を、一定もしくは略一定の割合で減少させてもよいし、2つ以上の割合で順に減少させてもよい。なお、時刻t1から時刻t2にかけた期間には、窒素酸化物ガスのガス流量を一定もしくは略一定のガス流量に維持している時間帯が存在していてもよい。
【0163】
第2工程では、反応室20内において、下部阻止層101上に、光導電層102を形成する。光導電層102は、非晶質の珪素を主体として含む。この第2工程においては、反応室20内に対して珪素系ガスを導入する。図13および図14の例では、時刻t2から時刻t3にかけた期間に第2工程が行われる。より具体的には、例えば、時刻t2から時刻t3の期間において、珪素系ガスのガス流量を一定とする。なお、第2工程では、珪素系ガスのガス流量を、完全に一定とすることなく、略一定としてもよいし、若干増減させてもよい。
【0164】
第3工程では、反応室20内において、光導電層102上に、上部阻止層103を形成する。上部阻止層103は、非晶質の珪素を主体として含み、且つ窒素、酸素、炭素およびp型ドーパントである硼素を含んでいてよい。図13および図14の例では、時刻t3から時刻t5にかけた期間に第3工程が行われる。第3工程は、第3A工程と、この第3A工程の後に実行する第3B工程と、を含む。図13および図14の例では、時刻t3から時刻t4にかけた期間に第3A工程が行われ、時刻t4から時刻t5にかけた期間に第3B工程が行われる。
【0165】
第3A工程においては、例えば、反応室20に対する珪素系ガス(例えば、モノシランガス)の単位時間当たりの導入量(ガス流量)を減少させながら、反応室20内に対する硼素系ガス(例えば、ジボランガス)および窒素酸化物ガス(例えば、一酸化窒素ガス)のそれぞれの単位時間当たりの導入量(ガス流量)を増加させる。これにより、光導電層102から離れるにつれて、珪素の含有率が減少しているとともに、第13族元素としての硼素、窒素および酸素のそれぞれの含有率が増加しており、炭素の含有率が増加していない傾向を有する第1領域103aが成膜される。その結果、感光体層10bの厚さ方向において、光導電層102と上部阻止層103との界面付近における屈折率の変化が大幅に低減される。換言すれば、感光体層10bの厚さ方向において、光導電層102と上部阻止層103との界面付近における屈折率の急激な変化の発生が低減される。このため、上部阻止層103と光導電層102との界面における光の反射の発生が低減される。換言すれば、上部阻止層103と光導電層102との間における明確な光学的な界面の発生が低減される。第3A工程では、反応室20内に対する硼素系ガスおよび窒素酸化物ガスのそれぞれのガス流量は、ゼロから増加させてもよいし、微小なガス流量である略ゼロから増加させてもよい。
【0166】
ここで、第3A工程の期間では、時間の経過とともに、硼素系ガスのガス流量および窒素酸化物ガスのガス流量を、それぞれ、単調に増加させてもよいし、若干増減させつつ全体として増加させてもよい。換言すれば、第3A工程の期間では、時間の経過とともに、硼素系ガスのガス流量および窒素酸化物ガスのガス流量を、それぞれ、連続的に増加させてもよいし、ほぼ連続的に増加させてもよい。第3A工程の期間では、時間の経過とともに、硼素系ガスのガス流量および窒素酸化物ガスのガス流量を、それぞれ、一定もしくは略一定の割合で増加させてもよいし、2つ以上の割合で順に増加させてもよい。なお、第3A工程の期間には、硼素系ガスのガス流量および窒素酸化物ガスのガス流量を、それぞれ、一定もしくは略一定のガス流量に維持している時間帯が存在していてもよい。
【0167】
また、第3A工程の期間では、時間の経過とともに、珪素系ガスのガス流量を、単調に減少させてもよいし、若干増減させつつ全体として減少させてもよい。換言すれば、第3A工程の期間では、時間の経過とともに、珪素系ガスのガス流量を、連続的に減少させてもよいし、ほぼ連続的に減少させてもよい。第3A工程の期間では、時間の経過とともに、珪素系ガスのガス流量を、一定もしくは略一定の割合で減少させてもよいし、2つ以上の割合で順に減少させてもよい。なお、第3A工程の期間には、珪素系ガスのガス流量を一定もしくは略一定のガス流量に維持している時間帯が存在していてもよい。
【0168】
第3B工程においては、例えば、反応室20内に対する硼素系ガスおよび窒素酸化物ガスのそれぞれのガス流量を減少させながら、反応室20に対する炭素系ガスのガス流量を増加させる。第3B工程では、例えば、反応室20内に対する珪素系ガスのガス流量を減少させてよい。この第3B工程では、例えば、反応室20内に対する硼素系ガスおよび窒素酸化物ガスのそれぞれのガス流量は、ゼロまで減少させてもよいし、微小なガス流量である略ゼロまで減少させてもよい。また、この第3B工程では、例えば、反応室20に対する炭素系ガスのガス流量は、ゼロから増加させてもよいし、微小なガス流量である略ゼロから増加させてもよい。これにより、傾斜層104に近づくにつれて、第13族元素としての硼素、窒素および酸素のそれぞれの含有率が減少しているとともに炭素の含有率が増加している傾向を有する第2領域103bが成膜される。その結果、感光体層10bの厚さ方向において、上部阻止層103内における屈折率の急激な変化の発生が低減される。このため、上部阻止層103における光の反射の発生が低減される。換言すれば、上部阻止層103における明確な光学的な界面の発生が低減される。これにより、表面層105、傾斜層104および上部阻止層103を介して光導電層102に至る光路における光の反射の発生が低減される。
【0169】
ここで、第3B工程の期間では、時間の経過とともに、硼素系ガスのガス流量および窒素酸化物ガスのガス流量を、それぞれ、単調に減少させてもよいし、若干増減させつつ全体として減少させてもよい。換言すれば、第3B工程の期間では、時間の経過とともに、硼素系ガスのガス流量および窒素酸化物ガスのガス流量を、それぞれ、連続的に減少させてもよいし、ほぼ連続的に減少させてもよい。第3B工程の期間では、時間の経過とともに、硼素系ガスのガス流量および窒素酸化物ガスのガス流量を、それぞれ、一定もしくは略一定の割合で減少させてもよいし、2つ以上の割合で順に減少させてもよい。なお、第3B工程の期間には、硼素系ガスのガス流量および窒素酸化物ガスのガス流量を、それぞれ、一定もしくは略一定のガス流量に維持している時間帯が存在していてもよい。
【0170】
また、第3B工程の期間では、時間の経過とともに、炭素系ガスのガス流量を、単調に増加させてもよいし、若干増減させつつ全体として増加させてもよい。換言すれば、第3B工程の期間では、時間の経過とともに、炭素系ガスのガス流量を、連続的に増加させてもよいし、ほぼ連続的に増加させてもよい。第3B工程の期間では、時間の経過とともに、炭素系ガスのガス流量を、一定もしくは略一定の割合で増加させてもよいし、2つ以上の割合で順に増加させてもよい。なお、第3B工程の期間には、炭素系ガスのガス流量を一定もしくは略一定のガス流量に維持している時間帯が存在していてもよい。また、第3B工程の期間では、時間の経過とともに、珪素系ガスのガス流量を、単調に減少させてもよいし、若干増減させつつ全体として減少させてもよい。換言すれば、第3B工程の期間では、時間の経過とともに、珪素系ガスのガス流量を、連続的に減少させてもよいし、ほぼ連続的に減少させてもよい。第3B工程の期間では、時間の経過とともに、珪素系ガスのガス流量を、一定もしくは略一定の割合で減少させてもよいし、2つ以上の割合で順に減少させてもよい。なお、第3B工程の期間には、珪素系ガスのガス流量を一定もしくは略一定のガス流量に維持している時間帯が存在していてもよい。
【0171】
ここで、例えば、第3A工程と第3B工程との間に、数秒から数十秒程度の期間が存在していてもよい。この期間では、例えば、各原料ガスのガス流量を、一定に維持してもよい。ここでは、各原料ガスのガス流量を、完全に一定にすることなく、略一定としてもよいし、若干増減させていてもよい。
【0172】
ここで、例えば、第3B工程において、反応室20内に対する硼素系ガスおよび窒素酸化物ガスのそれぞれのガス流量を減少させ始めるタイミングを、第1タイミングとする。反応室20に対する炭素系ガスのガス流量を増加させ始めるタイミングを、第2タイミングとする。この場合に、第1タイミングと第2タイミングとは、同時であってもよいし、数秒から数十秒程度ずれていてもよい。ここで、第1タイミングと第2タイミングとが同時であれば、感光体層10bの厚さ方向において、上部阻止層103内における屈折率の急激な変化の発生がより低減される。このため、上部阻止層103における光の反射の発生がより低減される。換言すれば、上部阻止層103における明確な光学的な界面の発生がより低減される。これにより、表面層105、傾斜層104および上部阻止層103を介して光導電層102に至る光路における光の反射の発生がより低減される。
【0173】
第4工程では、反応室20内において、上部阻止層103上に、傾斜層104を形成する。傾斜層104は、珪素と炭素とを含有する非晶質材料を主体として含む。図13および図14の例では、時刻t5から時刻t6にかけた期間に第4工程が行われる。第4工程においては、反応室20内に対する珪素系ガス(例えば、モノシランガス)のガス流量を減少させながら、反応室20内に対する炭素系ガス(例えば、メタンガス)のガス流量を増加させる。これにより、上部阻止層103から離れるにつれて、珪素の含有率が減少しているとともに、炭素の含有率が増加している傾向を有する傾斜層104が成膜される。図13の例では、第4工程においては、反応室20内に対する珪素系ガスのガス流量をゼロまで減少させる。図14の例では、第4工程においては、反応室20内に対する珪素系ガスのガス流量をゼロまでは減少させない。
【0174】
ここで、第4工程の期間では、時間の経過とともに、珪素系ガスのガス流量を、単調に減少させてもよいし、若干増減させつつ全体として減少させてもよい。換言すれば、第4工程の期間では、時間の経過とともに、珪素系ガスのガス流量を、連続的に減少させてもよいし、ほぼ連続的に減少させてもよい。第4工程の期間では、時間の経過とともに、珪素系ガスのガス流量を、一定もしくは略一定の割合で減少させてもよいし、2つ以上の割合で順に減少させてもよい。なお、第4工程の期間には、珪素系ガスのガス流量を一定もしくは略一定のガス流量に維持している時間帯が存在していてもよい。
【0175】
また、第4工程の期間では、時間の経過とともに、炭素系ガスのガス流量を、単調に増加させてもよいし、若干増減させつつ全体として増加させてもよい。換言すれば、第4工程の期間では、時間の経過とともに、炭素系ガスのガス流量を、連続的に増加させてもよいし、ほぼ連続的に増加させてもよい。第4工程の期間では、時間の経過とともに、炭素系ガスのガス流量を、一定もしくは略一定の割合で増加させてもよいし、2つ以上の割合で順に増加させてもよい。なお、第4工程の期間には、炭素系ガスのガス流量を一定もしくは略一定のガス流量に維持している時間帯が存在していてもよい。
【0176】
第5工程では、反応室20内において、傾斜層104上に、表面層105を形成する。表面層105は、非晶質の炭素を主体として含むか、炭素と珪素とを含有する非晶質材料を主体として含む。図13および図14の例では、時刻t6から時刻t7にかけた期間に第5工程が行われる。第5工程においては、反応室20内に対して炭素系ガス(例えば、メタンガス)を導入してもよいし、反応室20に対して炭素系ガスを導入しながら珪素系ガス(例えば、モノシランガス)を導入してもよい。
【0177】
ここで、第5工程において、例えば、反応室20に対して、珪素系ガスを導入することなく、炭素系ガスを導入すれば、非晶質の炭素を主体として含む表面層105が成膜される。図13の例では、第5工程において、反応室20内に対する珪素系ガスのガス流量をゼロとしている。そして、例えば、時刻t6から時刻t7にかけた期間において、炭素系ガスのガス流量を一定としている。この場合には、第5工程の期間では、炭素系ガスのガス流量を、完全に一定にすることなく、略一定としてもよいし、若干増減させていてもよい。
【0178】
また、ここで、第5工程において、例えば、反応室20に対して、炭素系ガスおよび珪素系ガスの両方を導入すれば、炭素と珪素とを含有する非晶質材料を主体として含む表面層105が成膜される。図14の例では、第5工程において、反応室20には、主な原料ガスとして炭素系ガスを導入するとともに、珪素系ガスも導入している。より具体的には、例えば、時刻t6から時刻t7にかけた期間において、炭素系ガスおよび珪素系ガスのそれぞれのガス流量を一定としている。ここで、炭素系ガスのガス流量と珪素系ガスのガス流量との比は、成膜される非晶質材料における炭素の原子濃度と珪素の原子濃度との比と、グロー放電分解における炭素系ガスの分解のし易さと、グロー放電分解における珪素系ガスの分解のし易さと、に応じて設定され得る。なお、第5工程の期間では、炭素系ガスのガス流量および珪素系ガスのガス流量を、それぞれ、完全に一定にすることなく、略一定としてもよいし、若干増減させていてもよい。
【0179】
以上のようにして、光導電層102、上部阻止層103、傾斜層104および表面層105における各界面付近ならびに上部阻止層103、傾斜層104および表面層105の各層において、構成元素の比率が、急激に変化しておらず、緩やかに変化している感光体層10bを有する感光体10が製造され得る。このため、感光体層10bの厚さ方向において、光導電層102と上部阻止層103との界面付近、上部阻止層103、上部阻止層103と傾斜層104との界面付近、傾斜層104および傾斜層104と表面層105との界面付近の何れにおいても屈折率の急激な変化の発生が低減され得る。これにより、表面層105、傾斜層104および上部阻止層103を介して光導電層102に至る光路における光の反射の発生が低減され得る。よって、例えば、感光体10が画像形成装置100に搭載された状態において、仮に上部阻止層103、傾斜層104および表面層105のそれぞれに場所による厚さの相違(厚さのばらつき)が生じても、同じ強度の露光光を感光体層10bに照射した場合に光の干渉によって光導電層102に入射する露光光の強度が場所によって異なる不具合の発生が低減され得る。その結果、感光体10における感度のムラが低減され得る。
【0180】
ところで、図15で示されるように反応室20に導入される各原料ガスのガス流量を時間的に変化させることで、基体10a上に第1参考例に係る感光体層10bAを形成することができる。また、図16で示されるように反応室20に導入される各原料ガスのガス流量を時間的に変化させることで、基体10a上に第2参考例に係る感光体層10bAを形成することができる。
【0181】
より具体的には、図15および図16で示されるように、上述した第1工程(時刻t0から時刻t2)と同一の工程(時刻T0から時刻T2)、および上述した第2工程(時刻t2から時刻t3)と同一の工程(時刻T2から時刻T3)、をこの記載の順に連続的に行うことで、基体10a上に、下部阻止層101と光導電層102とが順に成膜される。
【0182】
時刻T3では、パルス状の直流電圧の印加によるグロー放電の発生を所定時間だけ停止させるとともに、反応室20内に対する珪素系ガス(例えば、モノシランガス)のガス流量を減少させた値とし、且つ反応室20内に対する硼素系ガス(例えば、ジボランガス)および窒素酸化物ガス(例えば、一酸化窒素ガス)のガス流量を増加させた値とした状態(待機状態ともいう)に維持する。所定時間は、例えば、数分間から数十分間の範囲に設定される。時刻T3では、所定時間の待機状態においては、反応室20内でグロー放電が発生していないため、成膜が行われていない。換言すれば、時刻T3において所定時間が経過した後に、待機状態が解除されて、パルス状の直流電圧の印加によるグロー放電の発生が再開される。このため、図15および図16のそれぞれは、感光体層10bAを成膜している時間に、待機状態の所定時間を含まない形で示されている。
【0183】
次に、所定時間の待機状態が解除された時刻T3から時刻T4にかけた期間において、反応室20に対する珪素系ガスのガス流量を減少させながら、反応室20内に対する硼素系ガスおよび窒素酸化物ガスのガス流量を減少させ、且つ反応室20に対する炭素系ガス(例えば、メタンガス)のガス流量を増加させる。ここでは、例えば、反応室20内に対する硼素系ガスおよび窒素酸化物ガスのそれぞれのガス流量は、ゼロまで減少させてもよいし、微小なガス流量である略ゼロまで減少させてもよい。これにより、光導電層102上に上部阻止層103Aが成膜される。
【0184】
次に、時刻T4から時刻T5にかけた期間において、反応室20に対する珪素系ガスのガス流量を減少させながら、反応室20に対する炭素系ガスのガス流量を増加させる。これにより、上部阻止層103A上に傾斜層104が成膜される。ここで、図15の例では、反応室20内に対する珪素系ガスのガス流量をゼロまで減少させる。図16の例では、反応室20内に対する珪素系ガスのガス流量をゼロまでは減少させない。
【0185】
次に、時刻T5から時刻T6にかけた期間において、傾斜層104上に表面層105が成膜される。ここで、時刻T5から時刻T6にかけた期間において、例えば、図15で示されるように、反応室20に対して、珪素系ガスを導入することなく、炭素系ガスを導入すれば、非晶質の炭素を主体として含む表面層105が成膜される。図15の例では、時刻T5から時刻T6にかけた期間において、炭素系ガスのガス流量を一定としている。また、時刻T5から時刻T6にかけた期間において、例えば、図16で示されるように、反応室20に対して、炭素系ガスおよび珪素系ガスの両方を導入すれば、炭素と珪素とを含有する非晶質材料を主体として含む表面層105が成膜される。図16の例では、時刻T5から時刻T6にかけた期間において、反応室20には、主な原料ガスとして炭素系ガスを導入するとともに、珪素系ガスも導入している。そして、時刻T5から時刻T6の期間において、炭素系ガスおよび珪素系ガスのそれぞれのガス流量を一定としている。
【0186】
以上のようにして、光導電層102と上部阻止層103との界面において、構成元素の比率が急激に変化している、第1参考例および第2参考例に係る感光体層10bAが形成され得る。
【0187】
<1-4.画像形成装置>
図17は、第1実施形態に係る感光体層10bを備えた画像形成装置100の構成の一例を模式的に示す断面図である。図17の例では、画像形成装置100における画像を形成する方式として、電子写真法の一つであるカールソン法が採用されている。
【0188】
図17で示されるように、画像形成装置100は、感光体10、帯電器11、露光器12、現像器13、転写器14、定着器15、クリーニング器16および除電器17を備えている。
【0189】
帯電器11は、感光体10の外周面を負極性に帯電させる役割を有する。帯電の電圧は、例えば、-1000V以上で且つ-200V以下に設定される。帯電器11としては、例えば、導電性を有するゴムおよびポリフッ化ビニリデンによって芯金を被覆した構成を有する接触型帯電器が採用される。帯電器11には、接触型帯電器の代わりに、放電ワイヤを備えた非接触型帯電器(例えば、コロナ帯電器)が適用されてもよい。
【0190】
露光器12は、帯電した感光体10に静電潜像を形成する役割を有する。より具体的には、露光器12は、画像信号に応じてピーク波長が特定波長(第1特定波長ともいう)である露光光を感光体10に照射することによって、外周面が帯電された状態にある感光体10のうちの露光光が照射された部分(露光部分ともいう)の電位を減衰させることで静電潜像を形成することができる。第1特定波長としては、例えば、650ナノメートル(nm)以上で且つ780nm以下の波長が採用される。露光光としては、例えば、レーザー光が採用される。露光器12としては、例えば、複数の発光ダイオード(Light-Emitting Diode:LED)素子が配列された構成を有する装置であるLEDヘッドが採用されてもよい。LED素子が発する光のピーク波長には、例えば、680nmが適用される。露光器12の光源には、LED素子の代わりに、レーザー光を出射可能なレーザーダイオード(Laser Diode:LD)素子、または白色光を出射可能なランプが適用されてもよい。このため、LD素子とポリゴンミラーを含む光学系とを組み合わせた構成を有するレーザープリンタが実現されてもよい。また、ランプと、原稿からの反射光を通過させるレンズおよびミラーを含む光学系と、を組み合わせた構成を有する複写機が実現されてもよい。
【0191】
現像器13は、感光体10の静電潜像を現像することでトナー像を形成する役割を有する。図17の例では、現像器13は、現像剤200を磁気的に保持することができる磁気ローラ13aを備えている。
【0192】
現像剤200は、感光体10の外周面上に形成されるトナー像を構成することが可能であり、現像器13において摩擦帯電によって特定の極性に帯電される。現像剤200としては、例えば、磁性キャリアおよび絶縁性トナーを含む2成分系現像剤、または磁性トナーを含む1成分系現像剤が採用される。
【0193】
磁気ローラ13aは、感光体10の外周面まで現像剤200を搬送する役割を有する。磁気ローラ13aは、現像器13において帯電した現像剤200を一定の穂長に調整された磁気ブラシの形で搬送する。この搬送された現像剤200は、感光体10の外周面における静電潜像の静電引力によって、感光体10の外周面に付着することでトナー像を形成する。これにより、静電潜像が可視化される。正規現像によって画像を形成する場合には、トナー像の帯電極性は、感光体10の外周面の帯電極性と逆の極性とされる。反転現像によって画像を形成する場合には、トナー像の帯電極性は、感光体10の外周面の帯電極性と同じ極性とされる。
【0194】
なお、図17の例では、現像器13において、乾式現像方式が採用されているが、液体現像剤を用いた湿式現像方式が採用されてもよい。
【0195】
転写器14は、感光体10と転写器14との間の転写領域に供給された記録媒体400に、感光体10のトナー像を転写する役割を有する。記録媒体400は、例えば、紙またはフィルムなどのシート状の構成を有する。図17の例では、転写器14は、転写用放電器14aおよび分離用放電器14bを備えている。転写器14では、転写用放電器14aによって、記録媒体400のうちの感光体10とは逆の面(背面とも非記録面ともいう)がトナー像とは逆極性に帯電される。これにより、この記録媒体400の背面における帯電で帯びた電荷(帯電電荷)とトナー像との静電引力によって、記録媒体400のうちの感光体10側の面(上面とも記録面ともいう)上にトナー像が転写される。また、転写器14では、トナー像の転写と同時的に分離用放電器14bによって記録媒体400の背面において交流放電によって帯電電荷が消去され、記録媒体400が感光体10の表面から速やかに分離される。
【0196】
また、転写器14としては、感光体10の回転に従動し、且つ感光体10とは微小間隙を介して配置された転写ローラを用いてもよい。微小間隔は、通常は、0.5mm以下に設定される。転写ローラは、例えば、直流電源を用いて、感光体10上のトナー像を記録媒体400上に引き付ける転写電圧を印加する構成を有する。転写ローラを用いる場合には、記録媒体400を感光体10の表面から分離させる分離用放電器14bなどの装置(転写分離装置ともいう)を省略することができる。
【0197】
定着器15は、記録媒体400に転写されたトナー像を記録媒体400に定着させる役割を有する。定着器15は、一対の定着ローラ15a,15bを備えている。一対の定着ローラ15a,15bのそれぞれには、例えば、金属製の筒状体の外周面がポリテトラフルオロエチレンなどで被覆された構成を有するローラが適用される。定着器15では、一対の定着ローラ15a,15bは、この一対の定着ローラ15a,15bの間を通過する記録媒体400に対して、熱および圧力などを作用させることで、記録媒体400にトナー像を定着させることができる。
【0198】
クリーニング器16は、記録媒体400へのトナー像の転写後に感光体10の外周面に残留しているトナー(残留トナーともいう)を除去する役割を有する。図17の例では、クリーニング器16は、クリーニングブレード16aを備えている。クリーニングブレード16aは、感光体10の外周面から残留トナーを掻き取る役割を有する。クリーニングブレード16aの素材としては、例えば、ポリウレタン樹脂を主成分としたゴム材料が採用される。
【0199】
除電器17は、感光体10の外周面において静電潜像として残っている電荷(表面電荷ともいう)を除去する役割を有する。図17の例では、除電器17は、感光体10への露光によって除電を行なう。除電器17としては、ピーク波長が特定波長(第2特定波長ともいう)である光を出射可能な装置が採用される。第2特定波長には、例えば、780nm以上の波長が適用される。除電器17は、例えば、LEDなどの光源を用いて感光体10の外周面における軸方向の全体に光を照射することで、感光体10の外周面における表面電荷(残っている静電潜像)を除去する構成を有する。
【実施例0200】
<電子写真感光体の作製>
円筒状の基体10aとして、外径が242mmであり且つ軸方向の長さが382mmであるアルミニウム合金製の素管(アルミニウム合金素管ともいう)を用いて、電子写真感光体10の実施例1(単に実施例1ともいう)を作製した。ここでは、アルミニウム合金素管の外周面上に、図12で示した成膜装置300を用いて、表1で示される条件で感光体層10bを形成した。より具体的には、図12で示した成膜装置300を用いて、表1に示す条件で、アルミニウム合金素管の外周面上に、下部電荷注入阻止層(下部阻止層)101、光導電層102、上部電荷注入阻止層(上部阻止層)103、表面傾斜層(傾斜層)104および表面保護層(表面層)105をこの記載の順に成膜した。ここで形成される感光体層10bについては、上述した第1実施形態の第1例に係る感光体層10bに対応する感光体層とした。
【0201】
【表1】
【0202】
表1で示されるように、実施例1の感光体層10bを形成する際には、複数の原料ガスとして、珪素系ガスであるモノシランガス、希釈ガスである水素ガス、窒素酸化物ガスである一酸化窒素ガス、硼素系ガスであるジボランガス、および炭素系ガスであるメタンガスを用いた。直流電源41によって導電性支柱32に印加したパルス状の直流電圧については、周波数を33kHzとし、デューティー比を0.7とした。パルス状の直流電圧の印加によるグロー放電の発生を維持した状態で、反応室20に供給する複数の原料ガスのガス流量および比率を変化させることで、下部阻止層101、光導電層102、上部阻止層103、傾斜層104および表面層105を順に成膜し、電子写真感光体10の実施例1を作製した。
【0203】
表1には、成膜時間、ガス流量、ガス圧力、成膜電圧、基板温度および膜厚が記載されている。成膜時間は、各層が成膜される時間である。ガス流量は、反応室20に導入した複数の原料ガスのそれぞれについての単位時間当たりの導入量である。ガス圧力は、圧力計27で検出された反応室20内のガスの圧力である。成膜電圧は、円筒状電極21と支持体31との間に印加された直流電圧である。この成膜電圧は、円筒状電極21と基体10aとの間に印加された直流電圧に相当する。基板温度は、温度制御機構50の熱電対を用いて検出された基体10aの温度である。膜厚は、各層の目標の膜厚である。成膜時間の単位は分(min)である。ガス流量の単位は1気圧で且つ0℃の標準状態における体積流量(Standard Cubic Centimeter per Minute:SCCM)、すなわち標準状態における立方センチメートル毎分(cm/min)である。ガス圧力の単位はパスカル(Pa)である。成膜電圧の単位はボルト(V)である。基板温度の単位は摂氏温度(℃)である。膜厚の単位はマイクロメートル(μm)である。表1では、ジボランガスのガス流量は、モノシランガスのガス流量を基準とした比率で示されている。このため、ジボランガスのガス流量の単位は、モノシランガスのガス流量を基準値としての100万とした場合の百万分率(percent per million:ppm)とされている。なお、ジボランガスの導入量が微量であることから、ジボランガスとしては水素ガスで希釈されたガスを使用した。
【0204】
また、表1において上向きの矢印(“↑”)が右横に付された数字は、直前の期間の終了時から直後の期間の開始時にかけて、ガス流量をその数字の値まで増加させることを示している。例えば、モノシランガスのガス流量について、前の期間に“370”が記載された次の期間に“570↑”が記載されていれば、その期間の開始時から終了時にかけて、モノシランガスのガス流量を370[SCCM]から570[SCCM]まで増加させることを示している。また、表1において下向きの矢印(“↓”)が右横に付された数値は、直前の期間の終了時から直後の期間の開始時にかけて、ガス流量をその数字の値まで減少させることを示している。例えば、モノシランガスのガス流量について、前の期間に“570”が記載された次の期間に“330↓”が記載されていれば、その期間の開始時から終了時にかけて、モノシランガスのガス流量を570[SCCM]から330[SCCM]まで減少させることを示している。
【0205】
表1で示されるように、実施例1の感光体層10bを形成する際には、上部阻止層103を成膜する期間のうちの最初の6分間の期間において、モノシランガスのガス流量を570[SCCM]から330[SCCM]まで減少させながら、一酸化窒素ガスのガス流量を0[SCCM]から30[SCCM]まで増加させるとともに、ジボランガスのガス流量を0[ppm]から7500[ppm]まで増加させた。また、水素ガスのガス流量を、水素で希釈されたガスであるジボランガスのガス流量の増加に伴って、330[SCCM]から0[SCCM]まで減少させた。上部阻止層103を成膜する期間のうちの次のごく短い0.25分間の期間において、モノシランガスのガス流量を330[SCCM]の一定に維持しながら、一酸化窒素ガスのガス流量を30[SCCM]の一定に維持するとともに、ジボランガスのガス流量を7500[ppm]の一定に維持した。上部阻止層103を成膜する期間のうちの次の最後の3分間の期間において、モノシランガスのガス流量を330[SCCM]から160[SCCM]まで減少させながら、一酸化窒素ガスのガス流量を30[SCCM]から0[SCCM]まで減少させ且つジボランガスのガス流量を7500[ppm]から0[ppm]まで減少させるとともに、メタンガスのガス流量を0[SCCM]から470[SCCM]まで増加させた。次に、上部阻止層103上に傾斜層104を成膜する期間においては、モノシランガスのガス流量を160[SCCM]から0[SCCM]まで減少させながら、メタンガスのガス流量を470[SCCM]から690[SCCM]まで増加させた。
【0206】
また、円筒状の基体10aとして、外径が242mmであり且つ軸方向の長さが382mmであるアルミニウム合金素管を用いて、電子写真感光体の参考例1(単に参考例1ともいう)を作製した。ここでは、アルミニウム合金素管の外周面上に、図12で示した成膜装置300を用いて、表2で示される条件で感光体層10bAを形成した。より具体的には、図12で示した成膜装置300を用いて、表2に示す条件で、アルミニウム合金素管の外周面上に、下部阻止層101、光導電層102、上部阻止層103A、傾斜層104および表面層105をこの記載の順に成膜した。ここで形成される感光体層10bAについては、上述した第1参考例に係る感光体層10bAに対応する感光体層とした。
【0207】
【表2】
【0208】
表2で示されるように、参考例1の感光体層10bAを形成する際には、複数の原料ガスとして、モノシランガス、水素ガス、一酸化窒素ガス、ジボランガスおよびメタンガスを用いた。直流電源41によって導電性支柱32に印加したパルス状の直流電圧については、周波数を33kHzとし、デューティー比を0.7とした。光導電層102を成膜した期間と上部阻止層103Aを成膜した期間との間の25分間の期間において、パルス状の直流電圧の印加によるグロー放電の発生を停止させるとともに、モノシランガスのガス流量を減少させた値とし、且つジボランガスおよび一酸化窒素ガスのガス流量を増加させた値とした状態(待機状態)に維持した。また、水素ガスのガス流量は、水素で希釈されたジボランガスの導入に伴って減少させた。そして、その他の期間においては、パルス状の直流電圧の印加によるグロー放電の発生を維持した状態で、反応室20に供給する複数の原料ガスのガス流量および比率を変化させることで、下部阻止層101、光導電層102、上部阻止層103A、傾斜層104および表面層105を順に成膜し、電子写真感光体の参考例1を作製した。
【0209】
表2においても、表1と同じく、成膜時間、ガス流量、ガス圧力、成膜電圧、基板温度および膜厚が記載されている。また、表2においても、表1と同じく、上向きの矢印(“↑”)が右横に付された数字は、直前の期間の終了時から直後の期間の開始時にかけて、ガス流量をその数字の値まで増加させることを示している。また、表2においても、表1と同じく、下向きの矢印(“↓”)が右横に付された数値は、直前の期間の終了時から直後の期間の開始時にかけて、ガス流量をその数字の値まで減少させることを示している。
【0210】
表2で示されるように、参考例1の感光体層10bAを形成する際には、光導電層102の成膜が終了した直後の25分間の期間において、パルス状の直流電圧の印加によるグロー放電の発生を停止させ、モノシランガスのガス流量を330[SCCM]まで減少させた値とするとともに、一酸化窒素ガスのガス流量を30[SCCM]まで増加させた値とし且つジボランガスのガス流量を7500[ppm]まで増加させた値とし、さらに水素ガスのガス流量を0[SCCM]に減少させた状態(待機状態)に維持した。次に、上部阻止層103を成膜する期間において、モノシランガスのガス流量を330[SCCM]から160[SCCM]まで減少させながら、一酸化窒素ガスのガス流量を30[SCCM]から0[SCCM]まで減少させ且つジボランガスのガス流量を7500[ppm]から0[ppm]まで減少させるとともに、メタンガスのガス流量を0[SCCM]から470[SCCM]まで増加させた。次に、表2で示されるように、上部阻止層103A上に傾斜層104を成膜する期間においては、モノシランガスのガス流量を160[SCCM]から0[SCCM]まで減少させながら、メタンガスのガス流量を470[SCCM]から690[SCCM]まで増加させた。
【0211】
<厚さ方向における元素比率の変化>
電子写真感光体の実施例1および参考例1をそれぞれ対象として、同一の装置および同一の条件で、ESCAを用いて、感光体層10b,10bAの厚さ方向における、4つの元素(4元素ともいう)である珪素、窒素、酸素および炭素の比率の変化について分析を行った。ここでは、アルゴンイオンを用いたスパッタリングによって電子写真感光体の外周面を削りつつ、感光体層10b,10bAの厚さ方向における4元素の比率の変化について分析を行った。ただし、感光体層10b,10bAにおいては厚さ方向において変化している組成に応じて、感光体層10b,10bAがスパッタリングによって削られる速度も変化した。そこで、電子写真感光体の実施例1および参考例1をそれぞれ対象として、スパッタリングを行った時間(スパッタ時間ともいう)と、4元素である珪素、窒素、酸素および炭素の比率と、の関係について分析を行った。なお、硼素については、珪素、窒素、酸素および炭素と比較して、感光体層10b,10bAにおいて存在している比率が非常に低く、感光体層における屈折率の変化にも殆ど影響しないことが一般的に知られているため、分析の対象としなかった。
【0212】
図18は、実施例1の感光体層10bを対象としたESCAによる分析結果として厚さ方向に最表面からスパッタリングを行った時間(スパッタ時間ともいう)と4元素である珪素、窒素、酸素および炭素の比率との関係を模式的に示す図である。図19は、参考例1の感光体層10bAを対象としたESCAによる分析結果として厚さ方向に最表面からのスパッタリングを行った時間(スパッタ時間)と4元素である珪素、窒素、酸素および炭素の比率との関係を模式的に示す図である。図18および図19では、それぞれ、横軸は、スパッタ時間を示しており、縦軸は、4元素(珪素、窒素、酸素および炭素)の比率の合計を100パーセント(%)とした各元素の比率を示している。ここで元素の比率(元素比率)については、感光体層10b,10bAにおける4元素についての原子数の比率とした。図18および図19のそれぞれにおいては、スパッタ時間と珪素の比率との関係が1点鎖線で示されており、スパッタ時間と窒素の比率との関係が太線で示されており、スパッタ時間と酸素の比率との関係が細線で示されており、スパッタ時間と炭素の比率との関係が太い破線で示されている。
【0213】
図18および図19で示されるように、参考例1と比べて、実施例1では、上部阻止層103と光導電層102との界面付近に対応するものと推定されるスパッタ時間において、4元素の比率が急激に変化しておらず、緩やかに変化していることが確認された。これにより、参考例1と比べて、実施例1では、光導電層102と上部阻止層103との界面付近において、感光体層10bの厚さ方向における屈折率の急激な変化の発生が低減されているものと推定された。
【0214】
<エッチングによる厚さのばらつきの実現>
実施例1および参考例1のそれぞれを対象として、表面層105および傾斜層104における摩耗による厚さのばらつきを模擬的に実現するために、同一の反応チャンバ内で、四フッ化炭素(CF)ガスを用いた同一の条件のプラズマエッチングによって、各電子写真感光体の外周面の全面にエッチングを施した。ここでは、エッチングが施される前の電子写真感光体の実施例1を「エッチング前の実施例1」と称し、エッチングが施された後の電子写真感光体の実施例1を「エッチング後の実施例1」と称し、エッチングが施される前の電子写真感光体の参考例1を「エッチング前の参考例1」と称し、エッチングが施された後の電子写真感光体の参考例1を「エッチング後の参考例1」と称する。
【0215】
エッチング前の参考例1およびエッチング後の参考例1のそれぞれを対象として、光干渉式の膜厚計を用いて、光導電層102上に位置している上部阻止層103A、傾斜層104および表面層105の3つの層(表面側3層ともいう)の合計の膜厚を測定した。ここでは、電子写真感光体の外周面のうちの軸方向の一端を基準の位置(基準位置ともいう)として、軸方向において基準位置からの距離が相互に異なる5つの位置について、表面側3層の合計の膜厚を測定した。異なる5つの位置としては、軸方向における基準位置からの距離が28mmである第1の位置、軸方向における基準位置からの距離が110mmである第2の位置、軸方向における基準位置からの距離が191mmである第3の位置、軸方向における基準位置からの距離が273mmである第4の位置、および軸方向における基準位置からの距離が354mmである第5の位置を採用した。
【0216】
図20は、エッチングの前後の電子写真感光体の参考例1をそれぞれ対象とした表面側3層の合計の膜厚についての軸方向における分布の測定結果を示す図である。図20では、横軸は、電子写真感光体の軸方向における基準位置からの距離を示しており、縦軸は、表面側3層の合計の膜厚を示している。また、図20では、エッチング前の参考例1についての5つの位置における表面側3層の合計の膜厚が、破線でつながれた5つの白抜きの三角形のプロットで示されており、エッチング後の参考例1についての5つの位置における表面側3層の合計の膜厚が、実線でつながれた5つの黒塗りの三角形のプロットで示されている。
【0217】
図20で示されるように、エッチング前の参考例1では、表面側3層の合計の膜厚が、約9050オングストローム(Å)(=905nm)から約9220Å(=922nm)であった。一方、エッチング後の参考例1では、表面側3層の合計の膜厚が、約4210Å(=421nm)から約7260Å(=726nm)であった。ここで、上述した露光器12が電子写真感光体に照射する露光光のピーク波長として採用され得る第1特定波長である650nm以上で且つ780nm以下の波長と比較して、厚さのばらつきの大小を評価した。この結果、エッチング前の参考例1については、軸方向における位置の違いに拘わらず、表面側3層の合計の膜厚における相違(厚さのばらつき)が小さいことが確認された。これに対して、エッチング後の参考例1については、軸方向における位置の違いによって、表面側3層の合計の膜厚における相違がある程度大きいことが確認された。換言すれば、電子写真感光体の参考例1については、表面側3層における場所による厚さの相違(厚さのばらつき)は、エッチング前において小さく、エッチング後においてある程度大きいことが確認された。
【0218】
なお、エッチング前の実施例1およびエッチング後の実施例1のそれぞれを対象として、光干渉式の膜厚計を用いても、光導電層102上に位置している上部阻止層103、傾斜層104および表面層105の3つの層(表面側3層)の合計の膜厚を測定することができなかった。ここでは、光導電層102と上部阻止層103との間において屈折率が急激に変化しておらず、光の干渉によって表面側3層の合計の膜厚を測定することができなかったものと推定された。しかしながら、電子写真感光体の実施例1の表面側3層は、電子写真感光体の参考例1の表面側3層と類似する組成を有していた。このため、電子写真感光体の実施例1についても、電子写真感光体の参考例1と同じく、表面側3層における場所による厚さの相違(厚さのばらつき)は、エッチング前において小さく、エッチング後においてある程度大きくなっていたものと推定された。
【0219】
したがって、実施例1および参考例1のそれぞれについては、エッチングによって表面層105および傾斜層104における摩耗による厚さのばらつきを模擬的に実現することができたことが確認もしくは推定された。
【0220】
<エッチング前後における感度のムラの変化>
次に、エッチング前の実施例1、エッチング後の実施例1、エッチング前の参考例1およびエッチング後の参考例1のそれぞれについて、感度のむら(ムラ)を評価するための実験を行った。
【0221】
図21は、電子写真感光体における感度のムラを測定する方法を説明するための図である。図21で示されるように、電子写真感光体の周囲に、帯電器701、露光器702、表面電位計測器703および除電器704を、周方向においてこの記載の順に配置した。
【0222】
帯電器701としては、コロナ帯電器の一種であるスコロトロンを用いた。スコロトロンの電源としては、トレック(Trek)社製の型番610E-Fの高圧電源を用いた。スコロトロンは、複数のグリッドワイヤーとして150μmの径をそれぞれ有する複数の金メッキタングステン線と、複数のコロナワイヤーとして80μmの径をそれぞれ有する複数の無処理タングステン線と、を備えていた。また、スコロトロンは、高圧電源から出力された出力電流Itが複数のコロナワイヤーを通ることでコロナ放電が生じ、このコロナ放電で生じた電流の多くが複数のグリッドワイヤーを通って帰還電流Irとして高圧電源に戻る構成を有していた。ここでは、電子写真感光体の外周面の帯電に関与する電流Id(コロナ電流とも放電電流ともいう)と、出力電流Itと、帰還電流Irとは、Id=It-Irの関係を有していた。
【0223】
露光器702としては、出射する光のピーク波長が630nmである自社製のLED光源を用いた。このLED光源の電源としては、菊水電子工業社製の型番PMC35-2Aの直流安定化電源を用いた。
【0224】
表面電位計測器703としては、トレック(Trek)社製の型番344-Fの表面電位計と、トレック(Trek)社製の型番6000B-7Cのプローブと、を組み合わせた測定器を用いた。
【0225】
除電器704としては、出射する光のピーク波長が650nmである自社製のLED光源を用いた。このLED光源の電源としては、菊水電子工業社製の型番PMC35-2Aの直流安定化電源を用いた。
【0226】
上記構成において、電子写真感光体を、モータなどを用いて、中心軸を中心として周方向に所定の一定速度となる条件で回転させた。この回転の方向としては、図21の円弧状の矢印で示される時計回りの方向とした。所定の一定速度となる条件としては、外周面の周方向における移動速度(線速ともいう)が1.2メートル毎秒(m/s)となる条件を採用した。この条件は、電子写真感光体が中心軸を中心として周方向に毎分96回転する条件であった。また、電子写真感光体の基体10aの温度を、40℃以上で且つ44℃以下の温度範囲に保持した。この状態で、次の[A]から[C]の処理を実施した。
【0227】
[A]電子写真感光体を、中心軸を中心として周方向に所定の一定速度(線速が1.2m/sの速度)となる条件で回転させながら、スコロトロンを用いて、仮に露光器702によって露光光を照射していない場合に表面電位計測器703によって電子写真感光体の外周面における表面電位として-500Vが検出される条件で、電子写真感光体の外周面の略全面を負極性に帯電させた。すなわち、-500Vを帯電の初期の表面電位(帯電初期表面電位ともいう)とした。
【0228】
[B]露光器702によって、負極性に帯電された電子写真感光体の外周面に、0.3μJ/cmの光量の露光光を照射した。この露光光の光量は、電子写真感光体の外周面における表面電位を、帯電初期表面電位である-500Vから、帯電初期表面電位である-500Vと基準の表面電位(基準表面電位ともいう)である0Vとの間の中間付近の表面電位(中間表面電位ともいう)まで低下させることを目標とした光量として設定した。
【0229】
[C]露光光が照射された後の電子写真感光体の外周面の表面電位を、表面電位計測器703を用いて検出した。ここでは、電子写真感光体が3回転する期間において、表面電位計測器703を用いて検出された電子写真感光体の外周面の表面電位の平均値を、表面電位の測定結果として取得した。
【0230】
なお、上記[A]から[C]の処理を行う際には、常時、除電器704を用いて、電子写真感光体の外周面に、2μJ/cmの光量の光(イレース光ともいう)を照射している状態を維持した。これにより、電子写真感光体の外周面のうちの除電器704に対向している領域においては、露光による除電を行い、電子写真感光体の外周面の電位を基準電位(0V)とした。
【0231】
上記[C]の処理において測定結果として取得される表面電位は、電子写真感光体の露光光に対する感度によって増減し得るため、電子写真感光体の露光光に対する感度を評価するための指標として取得した。そして、この指標としての表面電位は、電子写真感光体の外周面における表面電位を帯電初期表面電位(=-500)から中間表面電位まで低下させることを目的とした光量の露光光に対する、電子写真感光体の感度(中間感度ともいう)に係る指標とした。
【0232】
また、上記[A]から[C]の操作を、電子写真感光体の外周面のうちの軸方向の5つの位置についてそれぞれ行った。5つの位置としては、上述した第1の位置から第5の位置を採用した。
【0233】
図22は、エッチング前後の実施例1および参考例1のそれぞれについての中間感度に係る指標としての表面電位の軸方向における分布の測定結果を示す図である。図22では、横軸は、電子写真感光体の軸方向における基準位置からの距離を示しており、縦軸は、電子写真感光体の外周面における表面電位を示している。また、図22では、エッチング前の実施例1についての5つの位置における中間感度に係る指標としての表面電位が、太い破線でつながれた5つの白抜きの丸印のプロットで示されており、エッチング後の実施例1についての5つの位置における中間感度に係る指標としての表面電位が、太線でつながれた5つの黒塗りの丸印のプロットで示されている。また、図22では、エッチング前の参考例1についての5つの位置における中間感度に係る指標としての表面電位が、細い破線でつながれた5つの白抜きの三角形のプロットで示されており、エッチング後の参考例1についての5つの位置における中間感度に係る指標としての表面電位が、細線でつながれた5つの黒塗りの三角形のプロットで示されている。
【0234】
図22で示されるように、エッチング前の参考例1については、中間感度に係る指標としての表面電位は、-347Vから-374Vであった。エッチング後の参考例1については、中間感度に係る指標としての表面電位は、-233Vから-321Vであった。一方、エッチング前の実施例1については、中間感度に係る指標としての表面電位は、-356Vから-369Vであった。エッチング後の実施例1については、中間感度に係る指標としての表面電位は、-314Vから-326Vであった。ここで、参考例1および実施例1の何れについても、エッチング前に対してエッチング後では、軸方向における位置に拘わらず、中間感度に係る指標としての表面電位が低下していた。この表面電位の低下は、表面層105および傾斜層104における膜厚の減少に伴う露光光の吸光量の低下によるものと推定された。
【0235】
また、エッチング前の参考例1、エッチング後の参考例1、エッチング前の実施例1およびエッチング後の実施例1のそれぞれについて、中間感度に係る指標としての表面電位の最大値と最小値との差を、中間感度の軸方向におけるムラを示す指標である中間感度軸ムラとして算出した。中間感度軸ムラの単位をボルト(V)とした。
【0236】
図23は、エッチング前後の実施例1についての中間感度の軸方向におけるムラを示す指標としての中間感度軸ムラならびにエッチング前後の参考例1についての中間感度の軸方向におけるムラを示す指標としての中間感度軸ムラを示す図である。図23では、縦軸は、中間感度軸ムラを示している。そして、図23では、左から順に、エッチング前の参考例1の中間感度軸ムラが砂地を用いたハッチングを付した棒グラフで示されており、エッチング後の参考例1の中間感度軸ムラが斜線を用いたハッチングを付した棒グラフで示されており、エッチング前の実施例1の中間感度軸ムラが砂地を用いたハッチングを付した棒グラフで示されており、エッチング後の実施例1の中間感度軸ムラが斜線を用いたハッチングを付した棒グラフで示されている。
【0237】
図23で示されるように、エッチング前の参考例1の中間感度軸ムラは、27Vであったのに対して、エッチング後の参考例1の中間感度軸ムラは、88Vであった。一方、エッチング前の実施例1の中間感度軸ムラは、13Vであり、エッチング後の実施例1の中間感度軸ムラは、12Vであった。このため、参考例1については、エッチングによって中間感度軸ムラが3倍以上まで大幅に増大したことが確認された。これに対して、実施例1については、エッチング前後で中間感度軸ムラが小さい範囲内で殆ど変化しなかったことが確認された。
【0238】
換言すれば、参考例1では、表面層105および傾斜層104に厚さのばらつきが生じたことで、中間感度軸ムラが3倍以上まで大幅に増大したことが確認された。これに対して、実施例1では、表面層105および傾斜層104に厚さのばらつきが生じても、中間感度軸ムラが、小さい範囲内で殆ど変化しなかったことが確認された。
【0239】
ところで、上述したように、参考例1では、第1参考例に係る感光体と同じく、感光体層10bAの厚さ方向において、光導電層102と上部阻止層103Aとの界面付近において屈折率の急激な変化が存在しているものと推定された。このため、参考例1では、傾斜層104および表面層105に厚さのばらつきが生じたことで、同じ強度の露光光を感光体層10bAに照射しても、光の干渉によって光導電層102に入射する露光光の強度が場所によって異なっていたため、中間感度のムラ(むら)が増大したものと推定された。そして、電子写真感光体の参考例1において、中間感度のムラ(むら)が増大すれば、同じスポット径の同じ強度の露光光を照射しても、中間感度が低い場所では、より狭い領域で負極性の表面電位が減衰し、中間感度が高い場所では、より広い領域で負極性の表面電位が減衰するものと推定された。その結果、電子写真感光体の参考例1を画像形成装置に搭載すると、記録媒体に定着されるトナー像におけるドットの径にムラが生じ得るとともに、記録媒体に定着されるトナー像の濃度に生じるムラ(むら)が増大し得るものと推定された。
【0240】
これに対して、上述したように、実施例1では、第1具体例に係る感光体10と同じく、感光体層10bの厚さ方向において、光導電層102と上部阻止層103との界面付近、上部阻止層103、上部阻止層103と傾斜層104との界面付近、傾斜層104および傾斜層104と表面層105との界面付近の何れにおいても屈折率の急激な変化の発生が低減されているものと推定された。このため、実施例1では、表面層105、傾斜層104および上部阻止層103を介して光導電層102に至る光路における光の反射の発生が低減されていたものと推定された。その結果、実施例1では、傾斜層104および表面層105に厚さのばらつきが生じても、同じ強度の露光光を感光体層10bに照射した場合に、光の干渉の発生が低減されたことで、光導電層102に入射する露光光の強度が場所によって異なる不具合の発生が低減されたものと推定された。すなわち、中間感度のムラ(むら)が低減されたものと推定された。換言すれば、電子写真感光体の実施例1については、感度のムラ(むら)が低減されたものと推定された。そして、電子写真感光体の実施例1において、中間感度のムラ(むら)が低減されれば、同じスポット径の同じ強度の露光光を照射すれば、電子写真感光体の何れの場所においても、負極性の表面電位が減衰する領域のサイズの増減の発生が低減されるものと推定された。よって、電子写真感光体の実施例1を画像形成装置に搭載すると、記録媒体に定着されるトナー像におけるドットの径のサイズにおけるムラの発生が低減され得るとともに、記録媒体に定着されるトナー像の濃度におけるムラ(むら)の発生が低減され得るものと推定された。
【0241】
<2.その他>
本開示は上述の第1実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更および改良などが可能である。例えば、以上では、電子写真感光体および電子写真感光体の製造方法のそれぞれは詳細に説明されたが、上記した説明は、全ての局面において例示であって、この開示がそれに限定されるものではない。また、上述した各種例は、相互に矛盾しない限り組み合わせて適用可能である。そして、例示されていない無数の例が、この開示の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。
【符号の説明】
【0242】
10 電子写真感光体(感光体)
101,901 下部電荷注入阻止層(下部阻止層)
102,902 光導電層
103,103A,903 上部電荷注入阻止層(上部阻止層)
103a 第1領域
103b 第2領域
104 表面傾斜層(傾斜層)
105,904 表面保護層(表面層)
10a,90a 基体
10b,10bA,90b 感光体層
20 反応室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24