(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049493
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】トリム用回転刃の摩耗量推定方法およびトリミング方法
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/09 20060101AFI20240403BHJP
B23D 19/06 20060101ALI20240403BHJP
B21B 15/00 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
B23Q17/09 D
B23D19/06 C
B21B15/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155740
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 謙
【テーマコード(参考)】
3C029
3C039
【Fターム(参考)】
3C029DD11
3C039CB23
3C039CB35
(57)【要約】 (修正有)
【課題】トリム用回転刃の摩耗量推定方法および金属帯のトリミング方法を提案する。
【解決手段】対象とする金属帯について、種類、板厚ごとに、回転用駆動モータの出力値と回転刃のクリアランスとの関係を予め求めておく。そして、トリミング中に、回転刃が摩耗した状態で、一対の回転刃の回転用駆動モータの出力値を測定する。上記した関係を利用して、得られた回転刃用駆動モータの出力値から、一対の回転刃の摩耗量を推定する。本発明によれば、回転刃の刃先摩耗を実測することなく、安全で簡便に回転刃の摩耗量を推定できる。また、得られた摩耗量分だけ回転刃のクリアランスが狭くなるように調整して、トリミングを行う。これにより、回転刃のクリアランスを新刃のときとほぼ同じ状態とすることができ、トリミング精度が向上し、クリアランス増大に伴う切断不良(エッジ不良)の発生を防止できる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側と下側の一対の回転刃を有するトリミング装置を用いて、金属帯のトリミングを行うに当たり、
前記金属帯について、予め、トリミング時の回転用駆動モータの出力値M(kW)と回転刃のクリアランスC(%)との関係を線形回帰して下記(1)式を算出しておき、
トリミング中に、前記一対の回転刃の回転用駆動モータの出力値を測定し、該出力値から、下記(1)式を利用して、前記一対の回転刃の摩耗量を推定することを特徴とするトリム用回転刃の摩耗量推定方法。
記
M=aC+b ‥‥(1)
ここで、M:回転刃用駆動モータの出力値(kW)、
C:一対の回転刃のクリアランス(%)、
a、b:係数
【請求項2】
前記一対の回転刃の摩耗量の推定が、
新刃の回転刃で、回転刃間のクリアランスをCSP(%)としてトリミングを行い、回転刃用駆動モータの出力値MSP(kW)を測定し、該出力値MSPと、
トリミング中に測定し得られた出力値MY(kW)から、下記(2)式を用いて、前記一対の回転刃の摩耗量Y(mm)を算出することを特徴とする請求項1に記載のトリム用回転刃の摩耗量推定方法。
記
Y=[(MY-MSP)/a]×(t/100)‥‥(2)
ここで、Y:一対の回転刃の摩耗量(mm)、
MY:一対の回転刃でトリミングしたときの回転刃用駆動モータの出力値(kW)、
MSP:回転刃を新刃とし、一対の回転刃のクリアランスをCSP(%)としてトリミングした時の回転刃用駆動モータの出力値(kW)、
t:金属帯の板厚(mm)、
a:(1)式 M=aC+b の係数
【請求項3】
上側と下側の一対の回転刃を有するトリミング装置を用いて、金属帯のトリミングを行うに際し、
前記トリミング中に、前記一対の回転刃の摩耗量を推定し、得られた前記一対の回転刃の摩耗量だけ、前記一対の回転刃間の間隔を減少させて、前記一対の回転刃のクリアランスを調整してトリミングを行うことを特徴とする金属帯のトリミング方法。
【請求項4】
前記一対の回転刃の摩耗量の推定が、請求項2に記載のトリム用回転刃の摩耗量推定方法を用いることを特徴とする請求項3に記載の金属帯のトリミング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属帯(トリム材)のトリミング方法に係り、とくに上側および下側の一対の回転刃を有するトリミング装置を用いてトリミングする際に、トリム用回転刃の摩耗量推定方法およびトリミング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鋼帯の製造工程においては、鋼帯の幅寸法精度やエッジ品質を確保するために、トリミング装置を用いて、鋼帯の両端をトリミングしている。近年、高強度薄鋼帯の要求が高くなり、使用するトリミング装置への負荷が増大している。そのため、トリミング用刃先の摩耗や、装置のガタ等によるクリアランス精度の低下が生じやすく、その結果、エッジ不良が発生しやすい傾向となっている。このようなことから、トリミングにおけるクリアランスの高精度化が要望されている。
【0003】
このような要望に対し、例えば特許文献1には、シャー装置のシャークリアランスの測定・調整方法が開示されている。特許文献1には、シャー装置の側面に非接触距離計を配置し、その上刃と下刃のシャークリアランスを測定し、シャークリアランスを適正範囲に自動調整することが記載されている。また、特許文献2には、ダブルカットシャー装置のシャークリアランス診断方法が記載されている。特許文献2に記載された技術は、ダブルカットシャー装置の下部シャー刃のラインに対して直角な方向の面に設けられた複数の貫通孔を介して圧縮空気を吹き付け、その背圧力を測定する。そして、得られた実シャークリアランス値と基準クリアランス値とを比較してシャークリアランス偏差値を演算し、シャークリアランスの良否を判定している。
【0004】
また、特許文献3には、トリム材のトリミング方法が開示されている。特許文献3には、一対の回転刃を有するトリミング装置を用いてトリミングを行うにあたり、回転刃の摩耗量を実測し、トリム材の板厚、引張強さ、および長さ(使用距離)と、トリミングする間に進行する摩耗量との関係式を求めることが記載されている。そして、得られた関係式、トリミングを行うトリム材の板厚、引張強さおよび長さ(使用距離)とから、所定のトリミング後の回転刃の摩耗量を予測し、回転刃のクリアランスを補正している。
【0005】
また、特許文献4には、トリマー刃の寿命予測方法が開示されている。特許文献4には、サイドトリマーを用いて鋼帯をトリミングするに際し、予め鋼帯の材質、板厚別にトリマー刃の摩耗度を求めておくことが記載されている。そして、鋼帯をトリミングするたびに、鋼帯のトリミング長さと、予め求めた鋼帯の材質、板厚別のトリマー刃の摩耗度に従ってトリマー刃の摩耗量を算出して積算摩耗量を求め、トリマー刃の寿命を予測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06-262425号公報
【特許文献2】特開平08-215924号公報
【特許文献3】特開2017-64803号公報
【特許文献4】特開平06-155138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載された技術では、クリアランスを測定するために新たな設備を導入する必要があり、設置場所の確保とともに、設備費の増大を招く。また、特許文献3および特許文献4に記載された技術では、予め、トリマー刃の摩耗度を実測し、得られたトリマー刃の摩耗度と鋼帯の材質、板厚等との関係式を求めておく必要がある。しかし、実工程で扱う鋼帯の種類は、塗油の有無など表面状態の違いを含めると多数となり、上記した関係式を、鋼帯の種類等に応じてそれぞれ求めるためには、連続運転する製造ラインで、多くのライン停止を伴い、生産性の低下を招くという問題がある。
【0008】
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、一対の回転刃を用いるトリミング装置の回転刃の摩耗量を簡便に推定できるトリム用回転刃の摩耗量推定方法およびトリミングのクリアランス精度を向上できるトリミング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上下一対の回転刃を用いるトリミング装置を用いて、金属帯(トリム材)をトリミングすると、回転刃はトリミング距離が長くなるにつれ、その側面が摩耗する。回転刃間の間隔は、摩耗した分だけ当初設定した間隔に対し、広くなる。回転刃間の間隔が広くなり、ついには、トリム不良が発生する。トリム不良が発生した場合、従来は、製造ラインを停止し、隙間ゲージ等で回転刃間の間隔を実測し、適正値に調整していた。このため、生産性が大きく低下していた。
【0010】
そこで、本発明者は、一対の回転刃を用いるトリミング装置において、回転刃用駆動モータの出力値に着目した。トリミングの進行とともに回転刃が摩耗して、回転刃間の間隔が拡大すれば、回転刃用駆動モータの出力値は減少する。そこで、回転刃の摩耗量の増加を回転刃間の間隔の増加と見做すことにより、回転刃用駆動モータの出力値と回転刃間のクリアランスの関係から、回転刃の摩耗量を推定できることに思い至った。
【0011】
そして、予め、対象とするトリム材(金属帯)の種類、板厚ごとに、一対の回転刃間のクリアランスと回転刃用駆動モータの出力値との関係を、求めておく。この関係は、回転刃を新刃としたときに、ライン速度を一定にしてトリミング中のクリアランスC(%)を、種々変化させて、その際に回転刃用駆動モータの出力値M(kW)を測定し、線形回帰することにより、容易に求められる。その関係は次式
M=aC+b ‥‥(1)
ここで、a、b:係数
で、表すことができる。
【0012】
なお、一対の回転刃のクリアランスC(%)は、一対の回転刃間の間隔をX(mm)とすれば、次式
C=(X/t)×100 (%)
ここで、t:トリム材(金属帯)の板厚(mm)
で定義される。
【0013】
また、回転刃を新刃とし、一対の回転刃間のクリアランスをCSP(%)としてトリミングした時の、回転刃用駆動モータの出力値MSP(kW)は、上記(1)式を用いて、次式
MSP=aCSP+b ‥‥(A)
で表すことができる。なお、新刃に交換した時一対の回転刃間のクリアランスCSP(%)は、一対の回転刃間の間隔をXSP(mm)とすれば、次式
CSP=(XSP/t)×100 (%) ‥‥(B)
ここで、t:トリム材(金属帯)の板厚(mm)
で定義される。
【0014】
また、予め、上記した(1)式が求められていれば、トリミング中に回転刃が摩耗したときに測定した、回転刃用駆動モータの出力値MY(kW)は、一対の回転刃間のクリアランスCY(%)との関係で、次式、
MY=aCY+b ‥‥(C)
で表すことができる。トリミング中の一対の回転刃の摩耗量をYとすれば、その時の、一対の回転刃間の間隔は、XSP+Yと見做せて、クリアランスCYは、次式
CY=[(XSP+Y)/t]×100 (%) ‥‥(D)
で定義される。
【0015】
上記した式(A)、(B)、(C)、(D)を用いれば、回転刃の摩耗量Yは、次式
Y=[(MY-MSP)/a]×(t/100)‥‥(2)
を用いて、算出することができることになる。
【0016】
すなわち、回転刃の摩耗量は、実測することなく、回転刃用駆動モータの出力値から推定できることを見出した。
【0017】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
[1]上側と下側の回転刃からなる一対の回転刃を有するトリミング装置を用いて、金属帯のトリミングを行うに当たり、
前記金属帯について、予め、トリミング時の回転用駆動モータの出力値M(kW)と回転刃のクリアランスC(%)との関係を線形回帰して次(1)式
M=aC+b ‥‥(1)
ここで、M:回転刃用駆動モータの出力値(kW)、
C:一対の回転刃のクリアランス(%)、
a、b:係数、
を算出しておき、
トリミング中に、前記一対の回転刃の回転用駆動モータの出力値を測定し、該出力値から、前記(1)式を利用して、前記一対の回転刃の摩耗量を推定することを特徴とするトリム用回転刃の摩耗量推定方法。
[2]前記一対の回転刃の摩耗量の推定が、
新刃の回転刃で、回転刃間のクリアランスをCSP(%)としてトリミングを行い、回転刃用駆動モータの出力値MSP(kW)を測定し、該出力値MSPと、
トリミング中に測定し得られた出力値MY(kW)から、次(2)式
Y=[(MY-MSP)/a]×(t/100)‥‥(2)
ここで、Y:一対の回転刃の摩耗量(mm)、
MY:一対の回転刃でトリミングしたときの回転刃用駆動モータの出力値(kW)、
MSP:回転刃を新刃とし、一対の回転刃のクリアランスをCSPとしてトリミングした時の回転刃用駆動モータの出力値(kW)、
t:金属帯の板厚(mm)、
a:(1)式 M=aC+b の係数、
を用いて、前記一対の回転刃の摩耗量Y(mm)を算出することを特徴とする[1]に記載のトリム用回転刃の摩耗量推定方法。
[3]上側と下側の一対の回転刃を有するトリミング装置を用いて、金属帯のトリミングを行うに際し、
前記トリミング中に、前記一対の回転刃の摩耗量を推定し、得られた前記一対の回転刃の摩耗量だけ、前記一対の回転刃間の間隔を減少させて、前記一対の回転刃のクリアランスを調整してトリミングを行うことを特徴とする金属帯のトリミング方法。
[4]前記一対の回転刃の摩耗量の推定が、[2]に記載のトリム用回転刃の摩耗量推定方法を用いることを特徴とする[3]に記載の金属帯のトリミング方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、トリミング時の回転刃のクリアランス精度が向上し、トリミング後のエッジ不良の発生を防止でき、エッジ品質が向上するという効果を奏する。また、本発明によれば、長距離使用し摩耗が進行した回転刃でも正常にトリミングできるので、刃の交換周期を長くでき、回転刃の長寿命化を達成できるという効果もある。また、本発明によれば、ライン停止して回転刃の刃先摩耗を実測することなく、運転しながら回転刃の摩耗量を推定できるため、生産性の向上に寄与するという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】トリミング装置の一例を模式的に示す説明図である。
【
図2】回転刃の摩耗状況を模式的に示す説明図である。
【
図3】回転刃駆動モータ出力値と回転刃クリアランスとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について図面を用いて説明する。
【0021】
一対の回転刃を用いるトリミング装置の一例を
図1に示す。上側の回転刃(上刃)2aと下側の回転刃(下刃)2bとからなる一対の回転刃で、トリム材である金属帯(鋼帯)1をトリミングする。3はハウジング、4は回転刃用駆動モータであり、上刃用駆動モータ4a、下刃用駆動モータ4bからなる。
【0022】
回転刃2a、2bは、トリミングを行うにしたがい、経時的に側面が摩耗し、摩耗した分だけ回転刃間の間隔(クリアランス)が広くなる。当初設定した回転刃2a、2b間の水平方向の間隔をXとすれば、摩耗した分Yだけ、回転刃間の間隔は広くなり、トリミングを行って摩耗した後の回転刃間の間隔は(X+Y)とみなせる。
図2に、その状況を示す。
図2では、点線は新刃当初の回転刃の刃先の断面形状を示している。なお、クリアランスC(%)は、トリミングする金属帯の板厚t(mm)と回転刃間の水平方向の間隔X(mm)とで、次式
C=(X/t)×100
で定義される。
【0023】
本発明では、上側と下側の一対の回転刃を有するトリミング装置を用いて、金属帯(トリム材)のトリミングを行う。そして、所定の板厚の金属帯を対象として、トリミング中に回転刃が経時的に摩耗した状態で、一対の回転刃の回転用駆動モータの出力値を測定し、該出力値から、一対の回転刃の摩耗量を推定する。
【0024】
本発明の一対の回転刃の摩耗量推定方法では、予め、対象とする金属帯について、トリミング時の回転用駆動モータの出力値M(kW)と回転刃のクリアランスC(%)との関係を線形回帰して次(1)式
M=aC+b ‥‥(1)
ここで、M:回転刃用駆動モータの出力値(kW)、
C:一対の回転刃のクリアランス(%)(=(X/t)×100)、
X:一対の回転刃間の水平方向の間隔(mm)、
a、b:線形回帰したときの係数、
として求めておく。
【0025】
本発明の摩耗量推定方法では、予め、金属帯(トリム材)の種類、板厚ごとに、新しい刃(新刃)に交換した際に、クリアランスCを種々変更して、トリミングし、そのときの回転刃用駆動モータの出力値Mを測定する。なお、駆動モータ出力値の測定時の回転刃の速度は一定にしておくことが好ましい。そして、得られた回転刃用駆動モータの出力値Mと回転刃のクリアランスCとの関係を、線形回帰して、上記した(1)式として求めておく。
【0026】
回転刃用駆動モータの出力値は、上側の回転刃(上刃)用駆動モータの出力値を用いることが好ましい。
【0027】
なお、回転刃用駆動モータの出力値の測定は、測定の高精度化のために、上側の回転刃(上刃)用駆動モータで行うことが好ましい。下側の回転刃(下刃)用駆動モータで測定すると、トリミングする金属帯の重量等が負荷となるため、せん断力以外の外乱が大きくなる。
【0028】
また、回転刃用駆動モータの出力値の測定タイミングは、回転刃の回転速度が一定であるか、あるいは回転速度の変動が±5%以下の時が望ましい。回転刃の回転速度が急激に減少あるいは増大するときは、モータ出力値は通常より大きくばらつくため、回転刃用駆動モータの出力値の測定は、概ね3min以上回転速度が一定となるときに行うことが好ましい。
【0029】
図3に、各種板厚、種類の鋼帯(金属帯)について得られた、新刃使用時の回転刃用駆動モータの出力値MとクリアランスCとの関係の一例を示す。なお、回転刃用駆動モータの出力値Mは高精度化のため上刃用駆動モータの出力値を用いた。
【0030】
そして、次に、新刃の回転刃で、回転刃間のクリアランスを適切なクリアランスCSP(%)としてトリミングを行い、回転刃用駆動モータの出力値MSP(kW)を測定し、出力値MSPを得ておく。
【0031】
上記した(1)式を利用すれば、MSP(kW)は、
MSP(kW)=aCSP+b ‥‥(A)
で表わせる。
【0032】
なお、クリアランスCSP(%)は、回転刃間の間隔をXSP(mm)として、次式
CSP=(XSP/t)×100 (%) ‥‥(B)
(ここで、t:金属帯の板厚(mm))、
で定義される。
【0033】
ついで、トリミング中に回転刃が経時的に摩耗した状態で、前記一対の回転刃の回転用駆動モータの出力値MY(kW)を測定し、該出力値から、(1)式を利用して、前記一対の回転刃の摩耗量(Ymm)を推定する。(1)式を利用すれば、MY(kW)は、
MY(kW)=aCY+b ‥‥(C)
で表わせる。
【0034】
なお、回転刃の速度が増大すると駆動モータへの負荷も増大するため、速度の影響を取り除くため、トリミングの際の回転刃の回転速度は、(1)式を求めたときと同等の回転速度とすることが好ましい。
【0035】
回転刃用駆動モータの出力値MY測定時の一対の回転刃の摩耗量をY(mm)とすれば、その時の回転刃間の間隔は、(XSP+Y)(mm)と見做せる。そして、トリミング中のクリアランスCYは、次式
CY=[(XSP+Y)/t]×100 (%) ‥‥(D)
で表わせる。
【0036】
そして、本発明では、得られたMY、さらに上記した測定により得られたMSPから、次(2)式
Y=[(MY-MSP)/a]×(t/100)‥‥(2)
を用いて、回転刃の摩耗量Y(mm)を推定する。ここで、MSP(kW)は、回転刃を新刃とし、回転刃間のクリアランスをCSP(間隔はXSP)としてトリミングした時の、回転刃用駆動モータの出力値である。また、t(mm)は、対象とする金属帯(トリム材)の板厚である。また、aは、(1)式 M=aC+b の係数である。
【0037】
本発明では、上側と下側の一対の回転刃からなるトリミング装置を用いて、金属帯(鋼帯)のトリミングを行う。
【0038】
まず、回転刃を新刃に交換し、例えば、対象とする金属帯の種類、板厚に応じて設定されたクリアランスCSPとなるように、一対の回転刃のクリアランスを調整することが好ましい。なお、クリアランスCSPは、一対の回転刃の水平方向の間隔をXSPとすると、CSP=(XSP/t)×100(%)で定義される。また、回転刃の水平方向の間隔(クリアランス)の調整は、トリミング装置に配設されたクリアランス制御手段を介して行うものとする。そして、クリアランスCSPでトリミングしたときの回転刃用駆動モータの出力値MSPを測定し、出力値MSPを収得しておく。
【0039】
そして、回転刃の使用距離が増加するにしたがい、回転刃の摩耗が進行し、一対の回転刃間の間隔が増大して、トリミング不良(切断不良)が発生しやすくなる。そこで、本発明では、適宜、一対の回転刃間の間隔を調整して、さらにトリミングを行う。ここでいう「適宜」とは、コイルごとあるいは所定距離をトリミングした後等とすることが好ましい。
【0040】
本発明トリミング方法では、一対の回転刃間の間隔の調整は、回転刃の摩耗量を推定し、推定された回転刃の摩耗量分だけ一対の回転刃間の間隔を狭く調整することが好ましい。回転刃の摩耗量の推定は、上記したトリム用回転刃の摩耗量推定方法により行う。これにより、回転刃のクリアランスを一定に維持でき、エッジ品質を安定させることができる。また、これにより、トリミング時のクリアランス精度が向上し、エッジ不良等の切断不良の発生が低減、あるいは抑制される。
【0041】
なお、上記したように一対の回転刃間の間隔を調整することにより、調整後の回転刃用駆動モータの出力値は、新刃として当初クリアランスCSPでトリミングしたときの回転刃用駆動モータの出力値MSPの±5%以内(MSPの95~105%)の精度でトリミングできる。
【0042】
上記した、本発明のトリム用回転刃の摩耗量推定方法では、回転刃の摩耗量を、回転刃用駆動モータの出力値を用いて推定することができ、隙間ゲージ等で実測する必要がなく安全に、また、作業者ごとの誤差もなく、精度よく推定することができる。また、本発明トリミング方法によれば、生産性を低下させることなく、トリミングにおけるクリアランス精度を向上させることができる。
【0043】
また、本発明は、金属帯ごとに処理するバッチ方式のトリミングや、金属帯を連続して処理する連続方式のトリミングのいずれにも、適用することができる。しかし、生産性向上の観点から、連続方式のトリミングに適用した方が、クリアランス調整のためのライン停止が削減でき、得られる効果は大きい。
【0044】
なお、連続式トリミングの場合には、クリアランスの変更は、金属帯の種類、板厚に応じて設定されたクリアランスCSPとなるように、金属帯の接続部分で変更することが好ましい。
【0045】
また、本発明で使用するトリミング装置は、例えば、上側および下側の一対の回転刃と、前記一対の回転刃を駆動する回転刃用駆動モータと、前記一対の回転刃のクリアランスを調整するクリアランス制御手段と、を備えることが好ましい。そしてさらに、本発明で使用するトリミング装置は、前記回転刃用駆動モータの出力値を検出する検出手段を備え、さらに、演算手段と、指示手段と、あるいは記憶手段とを有する演算装置を有することが好ましい。
【0046】
ここで、演算手段は、前記検出手段で得られた回転刃用駆動モータの出力値と、予め測定された回転刃用駆動モータの出力値と回転刃のクリアランスの関係とから、前記一対の回転刃の摩耗量を推定する。あるいは演算手段は、さらに前記推定された回転刃の摩耗量から一対の回転刃のクリアランスの補正量を算出する。また、指示手段は、演算手段で得られた前記一対の回転刃のクリアランスの補正量を前記クリアランス制御手段に指示する。また、演算装置は、予め測定された回転刃用駆動モータの出力値と回転刃のクリアランスの関係等を記憶する記憶手段を有することが好ましい。
【0047】
以下、実施例に基づきさらに本発明を説明する。
【実施例0048】
一対の回転刃を有するトリミング装置を用いて、板厚:1.4mm、引張強さ:1180MPa級の高強度鋼帯を対象トリム材として、連続式で4コイルについてトリミングを行った。なお、回転刃用駆動モータの出力値の測定は、上刃用駆動モータで行った。当初、回転刃を新刃とし、当初クリアランスがCSP(:10%、間隔XSP:0.14mm)となるように、調整し、そのときの回転刃用駆動モータの出力値MSPを測定し、出力値MSP(kW)を得ておいた。そして、各コイルトリミング終了時ごとに、回転刃用駆動モータの出力値MY(kW)を測定し、得られた回転刃用駆動モータの出力値MY(kW)と、出力値MSP(kW)から次(2)式
Y=[(MY-MSP)/a]×(t/100)‥‥(2)
を用いて、回転刃の摩耗量Yを推定した。なお、対象とする鋼帯について、予め、新刃に交換した際に、回転刃用駆動モータの出力値Mと回転刃のクリアランスCとの関係式として、次(1)式
M=aC+b ‥‥(1)
を、求めておいた。係数aは-0.25であった。
【0049】
そして、得られた摩耗量Y分だけ、回転刃の間隔を狭くして、次コイルのトリミングを行った(本発明例)。
【0050】
上記した方法で回転刃の間隔を調整しながら、トリミングを行うことにより、エッジ不良の発生は認められず、エッジ不良発生コイル比率は0%であった。なお、エッジ不良発生時に隙間ゲージで調整しトリミングする従来の方法では、エッジ不良を事前に防止できないことから、エッジ不良発生コイル比率は5%であった。また、上記した方法で回転刃の間隔を調整しながら、トリミングを行う本発明例では、種々の材料・種々の板厚の材料を製造する環境下においても正確にクリアランスを補正できるため、エッジ不良が発生することがなかった。これにより、回転刃の交換周期を従来の2週間から2カ月に延長させることができた。
【0051】
回転刃の摩耗が進行した場合でも、本発明による摩耗量推定方法を用いて、摩耗量を推定し、摩耗した分だけ回転刃の間隔を狭めて新刃とほぼ同一の回転刃間隔になるように調整することで、生産性を落とさずにクリアランス精度を向上させることができる。