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  • 特開-研磨パッド及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049508
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】研磨パッド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/24 20120101AFI20240403BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240403BHJP
   C08J 9/02 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
B24B37/24 C
H01L21/304 622F
C08J9/02 CFF
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155762
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】立野 哲平
(72)【発明者】
【氏名】喜樂 香枝
(72)【発明者】
【氏名】宮内 慶樹
【テーマコード(参考)】
3C158
4F074
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CB05
3C158DA17
3C158EB28
3C158EB29
3C158ED00
4F074AA78
4F074AD04
4F074AG20
4F074CA11
4F074CC28Y
4F074CC29Y
4F074DA02
4F074DA23
4F074DA24
4F074DA56
5F057AA03
5F057AA24
5F057AA25
5F057BA15
5F057CA12
5F057DA03
5F057EB03
5F057EB06
5F057EB07
5F057EB08
5F057EB13
5F057EB30
(57)【要約】
【課題】改善された耐摩耗性を有する研磨パッドを提供することを課題とする。
【解決手段】ポリウレタン樹脂と、成膜助剤として特定のポリエーテルポリカーボネートジオールとを含む、複数の涙形状気泡を含むポリウレタン樹脂シートを研磨層として含む研磨パッドにより上記課題が解決される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の涙形状気泡を含むポリウレタン樹脂シートを研磨層として含む研磨パッドであって、
前記ポリウレタン樹脂シートが、ポリウレタン樹脂と、成膜助剤としてのポリエーテルポリカーボネートジオールとを含む、前記研磨パッド。
【請求項2】
前記ポリエーテルポリカーボネートジオールが、下記式(A)で示されるポリエーテルポリカーボネートジオールである、請求項1記載の研磨パッド。
上記式(A)において、Rは炭素数2~10の二価の炭化水素基を表し、nは2~30の整数であり、mは1~20の整数である。複数のRは同一であってもよく、異なるものであってもよい。
【請求項3】
前記ポリエーテルポリカーボネートジオールの数平均分子量が200~5000である、請求項1記載の研磨パッド。
【請求項4】
ポリウレタン樹脂と、成膜助剤としてのポリエーテルポリカーボネートジオールと、溶媒とを含む樹脂溶液組成物を、成膜基材に塗布する工程、及び
前記樹脂溶液組成物が塗布された成膜基材を凝固液に浸漬して前記樹脂溶液組成物を凝固することにより湿式成膜されたポリウレタン樹脂シートを形成する工程、
を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の研磨パッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体デバイス等の研磨に用いられる研磨パッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン、ハードディスク用ガラス基板、薄型液晶ディスプレイ用マザーガラス、半導体ウェハ、半導体デバイスなどの材料の表面には平坦性が求められるため、研磨パッドを用いた遊離砥粒方式の研磨が行われている。遊離砥粒方式は、研磨パッドと被研磨物の間に砥粒を含むスラリー(研磨液)を供給しながら被研磨物の加工面を研磨加工する方法である。
半導体デバイス用の研磨パッドには、その研磨パッド表面に、砥粒を保持するための開孔と、半導体デバイス表面の平坦性を維持する硬性と、半導体デバイス表面のスクラッチを防止する弾性とが要求される。これらの要求に応える研磨パッドとして、ポリウレタン樹脂等をマトリクスとする研磨層を有する研磨パッドが利用されている。
半導体デバイスの構造の微細化に伴い、より一層の研磨傷(スクラッチ)低減が求められている。パッドの物性として、軟質であればあるほど研磨傷は発生しにくいが、ドレス時にパッドが削り取られやすく耐摩耗性が劣り研磨効率が低下する。長時間安定して研磨加工を行うためには、研磨面の摩耗を抑制する必要がある。そこで、軟質な樹脂シートを用いつつ、耐摩耗性を向上させる手段が求められている。
例えば、特許文献1には、基材と、基材上に湿式成膜法による銀面を有する樹脂シートを具備した研磨布において、前記樹脂シートにおける樹脂以外の固形成分(カーボンブラック)の含有量を樹脂シート1g当り62.5mg以下とすることにより、研磨面の耐摩耗性が上昇し、摩耗量が減少することが記載されている。しかしながら、特許文献1の技術は樹脂以外の固形成分量を低減し樹脂比率を増したものであり、樹脂溶液組成物に含まれる成分は従来から変更がないため、研磨パッドの耐摩耗性は未だ十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-188830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来よりも改善された耐摩耗性を有する研磨パッド及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記問題を解決するために、発明者らは鋭意検討した結果、研磨パッドの研磨層として用いられるポリウレタン樹脂シートを製造する際に、成膜助剤としてポリエーテルポリカーボネートジオールを添加することにより、研磨パッドの耐摩耗性が向上することを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は以下を提供する。
〔1〕複数の涙形状気泡を含むポリウレタン樹脂シートを研磨層として含む研磨パッドであって、
前記ポリウレタン樹脂シートが、ポリウレタン樹脂と、成膜助剤としてのポリエーテルポリカーボネートジオールとを含む、前記研磨パッド。
〔2〕前記ポリエーテルポリカーボネートジオールが、下記式(A)で示されるポリエーテルポリカーボネートジオールである、前記〔1〕記載の研磨パッド。

上記式(A)において、Rは炭素数2~10の二価の炭化水素基を表し、nは2~30の整数であり、mは1~20の整数である。複数のRは同一であってもよく、異なるものであってもよい。
〔3〕前記ポリエーテルポリカーボネートジオールの数平均分子量が200~5000である、前記〔1〕または〔2〕記載の研磨パッド。
〔4〕ポリウレタン樹脂と、成膜助剤としてのポリエーテルポリカーボネートジオールと、溶媒とを含む樹脂溶液組成物を、成膜基材に塗布する工程、及び
前記樹脂溶液組成物が塗布された成膜基材を凝固液に浸漬して前記樹脂溶液組成物を凝固することにより湿式成膜されたポリウレタン樹脂シートを形成する工程、
を含む、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一に記載の研磨パッドの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、従来に比べ、より耐摩耗性が向上した研磨パッド及びその製造方法を提供することができる。また、本発明により、研磨傷(スクラッチ)低減を実現しうる軟質のポリウレタン樹脂シートを研磨層とする研磨パッドであって、耐摩耗性が向上した研磨パッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施例1のポリウレタン樹脂シート1を厚み方向に切断して撮影した断面SEM像である。
図2図2は、実施例2のポリウレタン樹脂シート2を厚み方向に切断して撮影した断面SEM像である。
図3図3は、比較例1のポリウレタン樹脂シート3を厚み方向に切断して撮影した断面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
<<研磨パッド>>
本発明の研磨パッドは、複数の涙形状気泡を含むポリウレタン樹脂シートを研磨層として含み、前記ポリウレタン樹脂シートが、ポリウレタン樹脂と、成膜助剤としてのポリエーテルポリカーボネートジオールとを含むことを特徴とする。
【0009】
<ポリウレタン樹脂シート>
本発明において、研磨パッドは、ポリウレタン樹脂シートを研磨層として含む研磨パッドである。
本発明のポリウレタン樹脂シートは、複数の涙形状の気泡を有する。涙形状気泡は、通常、樹脂溶液組成物を凝固浴で成膜し乾燥する湿式成膜法によってポリウレタン樹脂シート内部に形成される特徴的な気泡(異方性があり、樹脂シートの上部(被研磨物と接する側)から下部に向けて径が大きい構造を有する気泡)を意図するものであり、プレポリマーを含む硬化性組成物を金型に注型し硬化させる乾式成型法によって形成される略球状の気泡とは区別される。
ポリウレタン樹脂シートを形成するポリウレタン樹脂の種類に特に制限はなく、種々のポリウレタン樹脂の中から使用目的に応じて選択すればよい。例えば、ポリエステル系、ポリエーテル系、又はポリカーボネート系の樹脂を用いることができる。
ポリエステル系の樹脂としては、エチレングリコールやブチレングリコール等とアジピン酸等とのポリエステルポリオールと、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート等のジイソシアネートとの重合物が挙げられる。
ポリエーテル系の樹脂としては、ポリテトラメチレンエーテルグリコールやポリプロピレングリコール等のポリエーテルポリオールと、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート等のイソシアネートとの重合物が挙げられる。
ポリカーボネート系の樹脂としては、ポリカーボネートポリオールと、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート等のイソシアネートとの重合物が挙げられる。
これらの樹脂は、DIC(株)製の商品名「クリスボン」や、三洋化成工業(株)製の商品名「サンプレン」、大日精化工業(株)製の商品名「レザミン」など、市場で入手可能な樹脂を用いてもよく、所望の特性を有する樹脂を自ら製造してもよい。
【0010】
ポリウレタン樹脂はマトリクスとしてポリウレタン樹脂シートの主成分である。主成分であるとは、ポリウレタン樹脂シートを構成する全樹脂の50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上の量において含む。本発明のポリウレタン樹脂シートは、ポリウレタン樹脂以外の他の樹脂をマトリクスの一部として含んでいてもよいが、係る他の樹脂を含む場合は本発明の効果を損なわない量において含むことができ、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、含まないことがさらに好ましい。
【0011】
本発明において、複数の涙形状気泡を含むポリウレタン樹脂シートは、湿式成膜法により成膜されたポリウレタン樹脂シートを意味する。湿式成膜法は、成膜する樹脂を有機溶媒に溶解させ、その樹脂溶液をシート状の基材に塗布後に凝固液中に通して樹脂を凝固させる方法である。湿式成膜されたポリウレタン樹脂シートは、一般に、複数の涙形状(teardrop-shaped)気泡(異方性があり、研磨パッドの研磨表面から底部に向けて径が大きい構造を有する形状)を有する。従って、湿式成膜されたポリウレタン樹脂シートは、複数の涙形状気泡を有するポリウレタン樹脂シートと言い換えることができる。
【0012】
ポリウレタン樹脂は特定のモジュラスを有することが好ましい。モジュラスとは、樹脂の硬さを表す指標であり、無発泡の樹脂シートを100%伸ばしたとき(元の長さの2倍に伸ばしたとき)に掛かる荷重を断面積で割った値である(以下、100%モジュラスと呼ぶことがある。)。この値が高い程、硬い樹脂である事を意味する。
本発明のポリウレタン樹脂は、1~20MPaの100%モジュラスを有することが好ましく、3~18MPaであることがより好ましく、5~15MPaであることがさらに好ましく、6~10MPaでよりさらに好ましい。100%モジュラスが上記範囲内であると、配線用金属を有するウェハを研磨する用途で使用するのに欠陥を低減できるため適する。
【0013】
<成膜助剤>
成膜助剤とは、湿式成膜法により樹脂シートを作製する際に樹脂シートの収縮等を抑制し、安定した成膜性(成膜安定性)を補助する効果を有する剤を指す。成膜助剤の使用により、発泡や凝固再生(脱溶媒)を制御することができ、所望の発泡形状や物性(機械的性質)を有する樹脂シートを得ることができる。成膜助剤の少なくとも一部は樹脂溶液組成物中の溶媒と凝固液との置換が起こる際に溶出することがある。成膜助剤の溶出性は、例えば、成膜助剤の化学構造や分子量等によって調整することができ、凝固液に溶解しにくい成膜助剤(疎水性添加剤)は樹脂シート中に多く残存しやすい傾向にある。
本発明のポリウレタン樹脂シートは、成膜助剤としてポリエーテルポリカーボネートジオールを含む。ポリエーテルポリカーボネートジオールは、ポリエーテル部分とポリカーボネート部分を有するジオール化合物である。好ましくは、ポリアルキレンエーテルグリコール由来、より好ましくはポリテトラメチレンエーテルグリコール由来のポリエーテル部分を有する化合物である。
ポリエーテルポリカーボネートジオールはさらに好ましくは、下記式(A)で示されるポリエーテルポリカーボネートジオールである。
【0014】
上記式(A)において、Rは炭素数2~10の二価の炭化水素基を表し、nは2~30の整数であり、mは1~20の整数である。なお、式(A)中、複数のRは同一であってもよく、異なるものであってもよい。
Rは分子内のエーテル結合の割合(エーテル結合間の距離)に関するパラメータである。炭素数が2未満の場合、分子内のエーテル結合の割合が多くなることで親水性が高まり過ぎ、反って成膜性が悪化するおそれがある。炭素数が10を超えるとエーテル結合の割合が少なくなり、本発明の効果を発現しないおそれがある。好ましくはRは炭素数3~6の直鎖又は分岐アルキレン基であり、より好ましくは炭素数4のブチレン基又は炭素数5の2-メチルブチレン基である。
nは分子内のカーボネート結合の割合(カーボネート結合間の距離)に関わるパラメータである。2未満の場合、分子内のカーボネート結合の割合が多くなることで凝集力が強くなり、マトリクスであるポリウレタン樹脂内に均一に分散しないおそれがある。30を超えるとカーボネート結合の割合が少なくなり、本発明の効果を発現しないおそれがある。nは、好ましくは2~10であり、より好ましくは2~5である。
mはポリエーテルポリカーボネートジオールの分子量に関わるパラメータである。mが1未満の場合、成膜の際に凝固液に溶出しやすくなり、本発明の効果を発現しないおそれがある。20を超えると粘度が上がり、マトリクスのポリウレタン樹脂内に均一に分散しないおそれがある。mは、好ましくは2~10であり、より好ましくは2~7である。
【0015】
ポリエーテルポリカーボネートジオールの製造に使用するポリオキシアルキレングリコールの数平均分子量は前記nパラメータと関連する値であり、好ましくは100~1500、より好ましくは150~1000、さらに好ましくは200~850である。
ポリエーテルポリカーボネートジオールの数平均分子量は前記mパラメータに関連する値であり、好ましくは200~5000、より好ましくは500~3000、さらに好ましくは800~2500である。
本明細書において上記ポリテトラメチレンエーテルグリコールに由来する構造単位及び上記ポリエーテルポリカーボネートジオールの数平均分子量は、以下の条件にてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)に基づいてポリスチレン換算の分子量として測定することができる。
<測定条件>
カラム:Shodex(登録商標) OHpak SB-802.5HQ(昭和電工(株)製)
移動相:5mM LiBr/DMF
流速:0.5mL/min(26kg/cm2
オーブン:60℃
検出器:RI 40℃
試料量:20μL
【0016】
樹脂シートに含まれるポリエーテルポリカーボネートジオールの量に特に制限はないが、樹脂シートの質量に対して0.1~20質量%の範囲で含まれることが好ましく、0.5~15質量%であることがより好ましく、1~10質量%であることがさらに好ましく、3~8質量%であることがよりさらに好ましい。
【0017】
(他の成分)
本発明のポリウレタン樹脂シートは、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分の他に、顔料、ポリエーテルポリカーボネートジオール以外のその他の成膜助剤、化学的性質を調整するための剤等を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
顔料を含む場合には、耐摩耗性を向上させる観点や涙形状気泡の大きさや量(個数)を調整し、発泡形成を安定化させる観点から、カーボンブラックが好ましい。樹脂シートに含まれるカーボンブラックの量に特に制限はないが、樹脂シートの質量に対して1~30質量%含まれることが好ましく、5~25質量%含まれることがより好ましく、7~20質量%含まれることがさらに好ましく、9~15質量%含まれることがよりさらに好ましい。
【0018】
その他の成膜助剤としては、例えば、涙形状気泡の形成を促進させるような親水性添加剤、ポリウレタン樹脂の湿式凝固を安定化させるような疎水性添加剤等が挙げられる。
親水性添加剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、燐酸エステル塩等のアニオン界面活性剤、親水性のエステル系、エーテル系、エステル・エーテル系、アミド系等のノニオン界面活性剤が挙げられる。また、疎水性添加剤としては、例えば、炭素数3以上のアルキル鎖が付加したノニオン系界面活性剤、より具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが挙げられる。親水性添加剤や疎水性添加剤を含む場合、親水性添加剤や疎水性添加剤は、樹脂溶液組成物中に含まれるポリウレタン樹脂(固形分)100質量部に対して0.01~10質量部含まれることが好ましく、0.1~9質量部含まれることがより好ましく、0.5~8質量部含まれることがさらに好ましく、1~7質量部含まれることがよりさらに好ましい。
化学的性質を調整する剤としては、例えば、撥水剤、酸化防止剤、光安定剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤等の樹脂シートの化学的性質を改質する効果を有する剤が挙げられる。
【0019】
本発明において、ポリウレタン樹脂シートは、研磨パッドの研磨層、すなわち、半導体デバイスなどの被研磨物を研磨する際に被研磨物と接触して研磨を行う表面(研磨面)を有する層である。本発明の研磨パッドにおける研磨層は湿式成膜して得られたポリウレタン樹脂シートからなる。研磨層の厚みに特に制限はないが、例えば、0.3~3.0mm、好ましくは0.4~2.0mm、より好ましくは0.5~1.5mmの範囲で用いることができる。
【0020】
<<研磨パッドの製造方法>>
本発明の研磨パッドの製造方法は、ポリウレタン樹脂と、成膜助剤としてのポリエーテルポリカーボネートジオールと、溶媒とを含む樹脂溶液組成物を、成膜基材に塗布する工程、及び、前記樹脂溶液組成物が塗布された成膜基材を凝固液に浸漬して前記樹脂溶液組成物を凝固することにより湿式成膜されたポリウレタン樹脂シートを形成する工程、を含む。
【0021】
<樹脂溶液組成物を成膜基材に塗布する工程>
ポリウレタン樹脂と、成膜助剤としてのポリエーテルポリカーボネートジオールと、溶媒とを含む樹脂溶液組成物を、成膜基材に塗布する。
ポリウレタン樹脂と、ポリエーテルポリカーボネートジオールについては上述したとおりである。ポリエーテルポリカーボネートジオールは、ポリウレタン樹脂(固形分)100質量部に対して0.1~20質量部の範囲で樹脂溶液組成物に含まれることが好ましく、1~15質量部であることがより好ましく、3~10質量部であることがさらに好ましく、5~8質量部であることがよりさらに好ましい。
本発明のポリウレタン樹脂シートを形成するための樹脂溶液組成物に用いる溶媒は、ポリウレタン樹脂を溶解することができ、かつ水混和性であれば特に制限なく用いることが出来る。例としては、N、N-ジメチルホルムアミド(DMF)、メチルエチルケトン、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトンなどが挙げられる。これらの中でも、DMF又はDMAcが好ましく用いられる。
有機溶媒は、樹脂溶液組成物の固形分濃度が、好ましくは10~50質量%、より好ましくは10~40質量%であり、さらに好ましくは15~35質量%となるような量で樹脂溶液組成物中に含まれることが好ましい。上記範囲内の濃度であれば、樹脂溶液組成物が適度な流動性を有し、後の塗布工程において成膜基材上に均一に塗布することができる。
塗布は、樹脂溶液組成物を、ナイフコーター、リバースコーター等により成膜基材上に略均一となるように、連続的に塗布する。このとき、ナイフコーター等と成膜基材との間隙(クリアランス)を調整することで、樹脂溶液組成物の塗布厚さ(塗布量)が調整される。成膜基材としては、本技術分野で通常用いられる基材であれば特に制限なく用いることができる。例としては、ポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルム等の可撓性のある高分子フィルム、弾性樹脂を含浸固着させた不織布等が挙げられ、中でもポリエステルフィルムが好ましく用いられる。
【0022】
<湿式成膜工程>
上述した樹脂溶液組成物が塗布された成膜基材を凝固液に浸漬して前記樹脂溶液組成物を凝固することにより湿式成膜を行う。
凝固液としては、水、水とDMF等の極性有機溶媒との混合溶液などが用いられる。極性有機溶媒としては、ポリウレタン樹脂を溶解するのに用いた水混和性の有機溶媒、例えばDMF、DMAc、THF、DMSO、NMP、アセトンが挙げられる。また、混合溶媒中の極性有機溶媒の濃度は0~20質量%が好ましい。これらの中でも、凝固液としては、水又は水とDMFとの混合液が好ましく、水がより好ましい。
凝固液の温度や浸漬時間に特に制限はなく、例えば10~60℃(好ましくは15~50℃)で5~120分間浸漬すればよい。
凝固液中では、まず、樹脂溶液組成物の凝固浴との界面に緻密なスキン層が形成される。その後、スキン層を通じて樹脂溶液組成物中の溶媒と凝固液との置換が進行し、ポリウレタン樹脂が成膜基材上にシート状に凝固再生されて内部に涙形状気泡が複数形成されたポリウレタン樹脂シートが形成される。
凝固浴で凝固させて得られたシート状のポリウレタン樹脂を成膜基材から剥離した後又は剥離せずに、洗浄、乾燥処理を行う。
洗浄処理により、ポリウレタン樹脂シート中に残留する有機溶媒が除去される。洗浄に用いられる洗浄液としては、水が挙げられる。
洗浄後、ポリウレタン樹脂シートを乾燥処理する。乾燥処理は従来行われている方法で行えばよく、例えば80~150℃で5~60分程度乾燥機内で乾燥させればよい。
【0023】
本発明の研磨パッドの製造方法においては、必要に応じて、ポリウレタン樹脂シートの研磨面及び/又は研磨面とは反対側の面を研削処理(バフ処理)してもよい。また、ポリウレタンシートの研磨面に、溝加工、エンボス加工及び/又は穴加工(パンチング加工)を施してもよく、基材をポリウレタンシートと貼り合わせてもよい。さらに、ポリウレタンシート及び/又は研磨パッドに光透過部を設けてもよい。
研削処理の方法に特に制限はなく、公知の方法により研削することができる。具体的には、サンドペーパーによる研削が挙げられる。
溝加工及びエンボス加工の形状に特に制限はなく、例えば、格子型、同心円型、放射型などの形状が挙げられる。
基材を貼り合せて複層構造とする場合には、複数の層同士を両面テープや接着剤などを用いて、必要により加圧しながら接着・固定すればよい。この際用いられる両面テープや接着剤に特に制限はなく、当技術分野において公知の両面テープや接着剤の中から任意に選択して使用することが出来る。
【実施例0024】
〈実施例1〉
100%モジュラス7.8MPaのエステル系ポリウレタン樹脂溶液(固形分濃度30質量%)100質量部に、DMF60質量部と、水3質量部と、カーボンブラック分散液16.5質量部(固形分濃度25質量%(カーボンブラック換算量 4.2質量部))と、親水性添加剤(ラウリル硫酸ナトリウム)0.5質量部と、数平均分子量250のポリテトラメチレンエーテルグリコールに由来する構造単位を含む数平均分子量が1000である式(A)で表されるポリエーテルポリカーボネートジオール(1)(式(A)中、Rがn-ブチレン基、平均n=3.2、平均m=2.7の場合)2質量部とを混合することにより、樹脂溶液組成物を得た。次に、成膜基材として、ポリエチレンテレフタラート(PET)フィルムを用意し、そこに、上記樹脂溶液組成物を、ナイフコーターを用いて塗布し、凝固浴(凝固液は水)に浸漬し、該樹脂溶液組成物を凝固させた後、成膜基材を剥離し、洗浄・乾燥させて、ポリウレタン樹脂シート1を得た。このポリウレタン樹脂シート1は湿式成膜によって得られるいわゆる涙形状気泡を複数含むものであった。その後、スキン層をバフ処理して表面を開孔させ、ポリウレタン樹脂シート1のバフ処理面とは反対の面にPETフィルムを貼り合わせた後、ポリウレタン樹脂シート1のバフ処理面側から格子状の金型でエンボス加工を行い、PETフィルムのポリウレタン樹脂シート1と貼り合わされている面とは反対側の面に両面テープを貼り合わせ、実施例1の研磨パッドを得た。
【0025】
〈実施例2〉
実施例1の樹脂溶液組成物において、ポリエーテルポリカーボネートジオール(1)2質量部を、数平均分子量250のポリテトラメチレンエーテルグリコールに由来する構造単位を含む数平均分子量が2000である式(A)で表されるポリエーテルポリカーボネートジオール(2)(式(A)中、Rがn-ブチレン基、平均n=3.2、平均m=6.3の場合)2質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、ポリウレタン樹脂シート2を得た。このポリウレタン樹脂シート2は湿式成膜によって得られるいわゆる涙形状気泡を複数含むものであった。ポリウレタン樹脂シート2から、実施例1と同様にして実施例2の研磨パッドを得た。
【0026】
〈比較例1〉
実施例1の樹脂溶液組成物において、ポリエーテルポリカーボネートジオール(1)2質量部を、数平均分子量が10800であるエチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体(エチレンオキシド:プロピレンオキシドのモル比=4:1)0.6質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、ポリウレタン樹脂シート3を得て、比較例1の研磨パッドを得た。なお、比較例1ではより良好な結果を与える0.6質量部を用いた。
【0027】
上記ポリテトラメチレンエーテルグリコールに由来する構造単位及び上記ポリエーテルポリカーボネートジオールの数平均分子量は、以下の条件にてGPCに基づいてポリスチレン換算の分子量として測定した。
<測定条件>
カラム:Shodex(登録商標) OHpak SB-802.5HQ(昭和電工(株)製)
移動相:5mM LiBr/DMF
流速:0.5mL/min(26kg/cm2
オーブン:60℃
検出器:RI 40℃
試料量:20μL
【0028】
〈評価試験〉
(テーバー摩耗量)
摩耗量の測定では、JIS K 6902に準じたテーバー摩耗試験機を用いて、以下の試験条件で摩擦摩耗試験を行い、ポリウレタン樹脂シートの厚み変化を測定した。具体的には、ポリウレタン樹脂シートを125mmφに打ち抜き中心部に穴を設け、温度20±3℃、湿度65±5%の環境下に1時間静置し、試験片を作製した。その後、テーバー磨耗試験機に試験片をセットし、以下の試験条件で磨耗試験を行った。磨耗量については磨耗試験前の試験片の厚みを任意の4カ所で測定して平均値を求め、その試験片を試験に供し、4000回転で取り出し、磨耗した試験片の厚みを任意の4カ所で測定して平均値を求め、両者の差から厚みの減少量を求めた。なお、厚みの測定は厚み計で行い、0.001mmの桁まで測定を行った。また、試験片ポリウレタン樹脂シートに対する摩耗輪に取り付けられたサンドペーパーの接触位置は、試験片ポリウレタン樹脂シート(半径62.5mm)の円周から内側に33~20mmの位置に摩耗輪に取り付けられたサンドペーパーの円周が接触する位置(試験片ポリウレタン樹脂シートの円周から内側に26.5mmに摩耗輪の中心が接する位置)とした。
【0029】
(試験条件)
テーバー摩耗試験機:No.502 テーバーアブレーションテスター((株)マイズ試験機製)
ポリウレタン樹脂シートの回転速度:70rpm
重り:500g
磨耗輪(一対):内径15.88mm×外径50.0mm×厚さ13.0mm
研磨紙:目の粗さが#180番手のサンドペーパー(摩耗輪に貼付)
【0030】
【0031】
ポリエーテルポリカーボネートジオールを成膜助剤として用いた実施例1~2では、比較例と比べて発泡が抑制されて密度が上昇すると共に摩耗性が向上した。また、分子量が異なるポリエーテルポリカーボネートジオールにおいても耐摩耗性を付与できることを確認した。実施例1と実施例2とを比較すると、実施例2の方が高密度であるにも関わらず、実施例1よりも摩耗量が大きいという結果が得られた。したがって、密度上昇に伴う耐摩耗性の向上だけではなく、ポリエーテルポリカーボネートジオール特有の性質により耐摩耗性が向上したと考えられる。作用機序は明らかとなっていないが、ポリエーテルポリカーボネートジオールはカーボネート結合とエーテル結合とが共存した構造であり、この特有の構造が湿式成膜により形成されたポリウレタン樹脂シートの発泡度合いや相分離構造に影響を与えたことが推察される。
図1
図2
図3