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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049528
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】米飯改質用ゲル状組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20240403BHJP
【FI】
A23L7/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155799
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】390020189
【氏名又は名称】ユーハ味覚糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】北中 進介
(72)【発明者】
【氏名】永井 聖也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 潔
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰正
【テーマコード(参考)】
4B023
【Fターム(参考)】
4B023LC05
4B023LC08
4B023LE11
4B023LK06
4B023LK10
4B023LP11
(57)【要約】
【課題】簡便に米飯を改質し、保存後でも食感を維持することが可能な米飯改質用ゲル状組成物及び前記米飯改質用ゲル状組成物を用いる米飯の製造方法を提供すること。
【解決手段】糖質としてオリゴ糖と、ゼラチンとを含有し、糖質中の三糖の割合が40重量%以上であることを特徴とする米飯改質用ゲル状組成物。前記米飯改質用ゲル状組成物は、三糖の含有量が20~80重量%及びゼラチンの含有量が4~30重量%であってもよい。米粒を水に浸漬させ、その上から前記米飯改質用ゲル状組成物を添加し、炊飯することで米飯を製造することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖質としてオリゴ糖と、ゼラチンとを含有し、糖質中の三糖の割合が40重量%以上であることを特徴とする、米飯改質用ゲル状組成物。
【請求項2】
三糖の含有量が20~80重量%及びゼラチンの含有量が4~30重量%である、請求項1に記載の米飯改質用ゲル状組成物。
【請求項3】
米粒を水に浸漬させ、その上から請求項1又は2に記載の米飯改質用ゲル状組成物を添加し、炊飯することを特徴とする、米飯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米飯改質用ゲル状組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
米は日本人の主食として重要な食物である。米飯は家庭では通常、炊飯器で生米を水に浸漬させ、加熱して糊化させたものを食べている。糊化された米飯は心地よい粘りと硬さを有し、艶のある粒感のある食感も好まれる要素である。しかし、時間の経過や温度が冷めていくとともに、米飯の澱粉は老化し、粘りや艶はなくなり、ボソボソした食感に変化していく。菌の繁殖を抑制するために冷蔵保存するような場合には特に老化が促進され、硬い食感になりやすい。
【0003】
前記課題に対する改質剤として、これまでに多くの提案がなされている(例えば、特許文献1~3)。これらの改質剤は液体もしくは粉末状のため、家庭で添加する場合は計量の手間のかかるものであったり、酵素のような室温で長期保存できないようなものであったりと、使用に際して簡便さに乏しいものであった。また、生米の水浸漬時に米粒内部に改質剤が浸透してしまうと米飯の食感に悪影響を及ぼすものもあり、そのような改質剤は炊飯直前に添加する必要があるため、前の晩に生米を浸水させて翌朝自動的に炊飯がスタートするような予約炊飯には不向きなものもあった。
【0004】
また、オリゴ糖を添加する方法も提案されている(特許文献4)。この方法では、添加の仕方によってはオリゴ糖が沈んで炊飯釜底部に焦げ付きが発生する場合もあり、また、糖が徐々に米粒内部に浸透していくため、添加してから炊飯までの時間の違いによって仕上がりが変わってしまう傾向がある。また、オリゴ糖のような粘性液体を家庭の計量スプーンで計量する場合、個人差による計量誤差が発生しやすく、家庭で誰もが一定の品質を保てるような簡便な方法ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-39325号公報
【特許文献2】特開2022-129985号公報
【特許文献3】特許第5694811号公報
【特許文献4】特開2000-83607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、簡便に米飯を改質し、保存後でも食感を維持することが可能な米飯改質用ゲル状組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、前記米飯改質用ゲル状組成物を用いる米飯の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ゼラチンと特定量の三糖を含むオリゴ糖を含有するゲル状組成物を、生米と一緒に炊飯釜に添加して、炊飯をすることで、通常の米飯では摂取できない栄養であるオリゴ糖とコラーゲン(ゼラチン)を手軽に補うことができ、保存しても食感が維持された米飯が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の要旨は、
[1]糖質としてオリゴ糖と、ゼラチンとを含有し、糖質中の三糖の割合が40重量%以上であることを特徴とする、米飯改質用ゲル状組成物、
[2]三糖の含有量が20~80重量%及びゼラチンの含有量が4~30重量%である、前記[1]に記載の米飯改質用ゲル状組成物、
[3]米粒を水に浸漬させ、その上から前記[1]又は[2]に記載の米飯改質用ゲル状組成物を添加し、炊飯することを特徴とする、米飯の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の米飯改質用ゲル状組成物は、家庭でも、通常の米飯では摂取できない栄養であるオリゴ糖とコラーゲン(ゼラチン)を手軽に補うことができるように米飯の品質を改良することができる。また、本発明の米飯改質用ゲル状組成物を用いて得られた米飯は、長時間好ましい食感を維持することができ、冷蔵保存や弁当に適した米飯を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0011】
ゲル状組成物は、糖質及びゼラチンを主原料としたグミキャンディ様のゲル状物であり、本発明の米飯改質用ゲル状組成物(以下、本発明の組成物ともいう)は、糖質としてオリゴ糖を含有する。
【0012】
糖質とは、炭水化物のうち食物繊維を除いたものであり、単糖、二糖、三糖及び四糖以上の糖をいう。
オリゴ糖は、単糖がグリコシド結合によって3~10個結合したオリゴマーをいい、例えば、マルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、大豆オリゴ糖、キシロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖等が挙げられる。
【0013】
本発明の組成物は、三糖のオリゴ糖を必須成分とするものである。三糖としては、例えば、マルトトリオース、イソマルトトリオース、ラフィノース、パノース等が挙げられる。
【0014】
本発明の組成物は、オリゴ糖以外の糖質を含有してもよい。
オリゴ糖以外の糖質としては、ショ糖(砂糖)、ブドウ糖、果糖、マルトース(麦芽糖)、キシリトール、エリスリトール、トレハロース、マルチトール、パラチノース、還元パラチノース、水飴、還元水飴、還元麦芽糖水飴、グリセリン、ソルビトール、澱粉、加工澱粉等が挙げられる。
【0015】
本発明の組成物では、糖質中の三糖の割合を40重量%以上にすることで、米飯改質効果が奏され易くなり、米飯の風味や色調を変えずに食感や保存性を高めるという利点がある。
糖質中の三糖の割合が40重量%より低くなることにより、三糖の米飯改質効果が減少するだけでなく、他の糖が相対的に増加することになる。単糖及び二糖が多い場合、甘味が強くなり米飯の味に影響を及ぼしたり、場合によっては色や風味にも悪影響を及ぼしたりする。四糖以上が多い場合、米飯の粘り気が上がったり、長期保存による劣化防止効果が出なかったりする。
前記三糖の割合は好ましくは50重量%以上である。
なお、糖質中の三糖の割合は公知の方法で分析可能であり、また、配合量から計算により算出してもよい。
【0016】
本発明の組成物における三糖の含有量は、全重量の20~80重量%であることが好ましく、より好ましくは20~40重量%である。
【0017】
前記オリゴ糖及びその他の糖質は、それぞれを単独で又は2種類以上を混合して使用することができる。
また、本発明の組成物において、前記の糖は米飯の風味に悪影響を与えない程度で使用する。例えば、甘味度で言えば20以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の組成物に含有されるゼラチンについて、由来や製法等は特に限定はない。例えば、コラーゲンを含む物質(動物の皮・骨・結合組織等)から抽出・精製されたものであればよく、その由来生物に関しては特に制限されない。例えば、牛・豚・鶏等の獣の皮や骨由来ゼラチンに加えて、水生生物(淡水・海水)由来のゼラチン等が挙げられる。また、酸処理、アルカリ処理等の処理を施されたものでもよい。本発明では、由来、製法等が同じ1種類のゼラチンを用いてもよいし、由来、製法等が異なる2種以上のゼラチンを混合して用いてもよい。ゲル強度については、200Bloom以下の低ブルームゼラチンを使用することが好ましい。
【0019】
本発明の組成物におけるゼラチンの含有量は、全重量の4~30重量%であればよく、好ましくは5~12重量%である。
【0020】
本発明の組成物は、その他任意成分として、食塩、醤油、味噌、食物繊維、酸味料、pH調整剤、アミノ酸等の調味料、香料、着色料、油脂、乳化剤、ゲル化剤、肉・魚介・野菜のエキスや粉末、ビタミン類、ミネラル類等を含有してもよい。
【0021】
本発明の組成物の水分値としては、10~20重量%に調整されていればよい。
【0022】
本発明の組成物の製造方法としては、一般のグミキャンディと同じように製造すればよい。例えば、オリゴ糖を含む糖質を加熱したものにゼラチン、必要に応じて任意成分を混合して得られた生地を、所望の型に充填して乾燥することで、製造することができる。
【0023】
本発明の組成物の表面には、光沢剤、油、オブラート等の粉体原料等が塗布されていてもよい。
【0024】
以上のようにして得られた本発明の組成物は、米の炊飯時に、米粒を水に浸漬させその上から入れて炊くだけで、米飯に潤いと艶と好ましい食感を長時間付与することができる。
【実施例0025】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0026】
(実施例1)
三糖を主体とするオリゴ糖(商品名:ピュアトースL、糖質中の三糖の割合55%、Bx.75、群栄化学工業株式会社製)を鍋で加熱し、そこに、ゼラチン(商品名:#100、新田ゼラチン株式会社製)を60℃の水にあらかじめ溶かしておいたものを添加し、混合した。さらに酸味料(クエン酸)を混合し、得られた液状物を、スターチモールドの型に流し込み、水分値15%になるまで40℃の保温庫で乾燥させた。その後、室温まで冷却し、スターチを除き、表面に光沢剤(カルナバワックス)を薄く塗布して、1粒3gのゲル状組成物を得た。なお、光沢剤を除く最終的なゲル状組成物中の各原料の配合割合は表1に示したとおりとなる。
【0027】
(実施例2、比較例1、2)
糖質の種類や配合割合を変更し、実施例1と同様にゲル状組成物を得た。なお、最終的なゲル状組成物中の各原料の配合割合と糖質中の三糖の割合は表1に示したとおりとなる。
【0028】
<試験例1>米飯の評価
下記の通り、米を炊飯し、得られた米飯を評価した。
炊飯器に無洗米150g、水230gを入れ、その上から実施例1、2又は比較例1、2で得られたゲル状組成物2粒(6g)をそれぞれ添加し、30分浸漬後、炊飯し、その後10分蒸らし、米飯を得た。
【0029】
(官能評価)
得られた米飯を喫食し、下記の評価基準に基づいて風味・食感・粘りに関して官能評価をした。官能評価方法としては、3名のパネリストによる合議制とした。
【0030】
「風味」
〇:米本来の甘みや香りが感じられるものを「〇」とした。
△:上記「〇」以外は「△」とした。
【0031】
「食感」
◎:粒立ちの良いふっくらとした仕上がりで、適度な硬さと粘りがあるものを「◎」とした。
〇:上記「◎」には及ばないが米飯として問題ないものを「〇」とした。
△:硬さと粘りに乏しいが許容範囲内のものを「△」とした。
×:パサつきがあるものや粘りがないものを「×」とした。
【0032】
また、参考例として、下記の炊飯も行ない、同様に官能評価をした。得られた米飯を評価した結果を表1に示す。
【0033】
(参考例1)
炊飯器に無洗米150g、水230gを入れ、30分浸漬後、炊飯し、その後10分蒸らし、米飯を得た。
【0034】
(参考例2)
炊飯器に無洗米150g、水230gを入れ、30分浸漬後、オリゴ糖6g(商品名:ピュアトースL、群栄化学工業株式会社製)、粉末ゼラチン(商品名:R微粉、新田ゼラチン株式会社製)0.7g、クエン酸0.006gを入れ、炊飯し、その後10分蒸らし、米飯を得た。
【0035】
(テクスチャーアナライザーによる解析)
米飯の食味評価として、硬さと粘りのバランスが重要と言われている。具体的には、後述するテクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems社製「Texture Analyzer TA.XT.plus」)の測定において粘り/硬さ(N/N)の値が0.1~0.2の範囲内であると、官能においても好ましい食感を有し、粘り/硬さが0.1未満であると粘り気がなく脆い食感であり、また、0.2よりも大きいとべちゃっとした嗜好性の劣る食感となり易い。前記「粘り/硬さ」は、テクスチャーアナライザーを用い、米粒を圧縮して元の位置まで戻す反復圧縮試験時の「粘り(引張り時の最大荷重)」を「硬さ(圧縮時の最大荷重)」で割った値である。
具体的な測定法は以下の通りである。
【0036】
[測定条件]
プローブ:直径20mmの円柱形
測定速度:2mm/秒
測定温度:20℃
方法:米粒を寝かせて一定の間隔で3粒並べ、厚さ0.2mmになるまで圧縮し、元の位置まで戻す。
実施例1及び2、比較例1及び2、参考例1及び2で得られた米飯をテクスチャーアナライザーで測定した結果を表1に示す。
【0037】
上記で得られた結果より、実施例1、2では艶もあり粒立ちも良く、風味も食感も良く、「粘り/硬さ」の値も0.1~0.2の範囲内である。一方で、比較例1は不自然な甘みを感じ、比較例1及び参考例1、2では食感は実施例1、2に比べて劣るものであった。
【0038】
<試験例2>冷蔵保存後の食感の評価
試験例1で得られた米飯を密閉容器に入れ、冷蔵庫で24時間保管した後、室温に戻し、米飯を評価した。
【0039】
(官能評価)
試験例1と同様の方法で食感について官能評価を行った。結果を表1に示す。
【0040】
(テクスチャーアナライザーによる解析)
米飯は時間の経過とともに澱粉が老化し、粘りがなくなって脆い食感となる。特に冷蔵保存時は老化の進行が顕著である。後述するテクスチャーアナライザーの測定において粘りの値の経時的変化を測定することで、食感の経時的な劣化を確認できる。
【0041】
具体的な測定法は以下の通りである。
[測定条件]
プローブ:直径20mmの円柱形
測定速度:2mm/秒
測定温度:20℃
方法:米粒を寝かせて一定の間隔で3粒並べ、1.5mm圧縮し、元の位置まで戻す。
【0042】
上記測定条件で、実施例1及び2、比較例1及び2、参考例1及び2で得られた米飯について、炊飯直後及び冷蔵庫で24時間保存後の粘りの値を測定した。「(冷蔵24時間後の米飯の粘り)/(炊飯直後の米飯の粘り)×100=変化率(%)」とし、得られた変化率の値を表1に示す。
【0043】
上記で得られた結果より、実施例1、2では食感も良く、
粘りの経時的変化もほとんど起こっていない。一方で、比較例1、2及び参考例1、2では冷蔵保存による食感の劣化が見られた。
【0044】
【表1】