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  • 特開-軟化食品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049536
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】軟化食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 13/70 20230101AFI20240403BHJP
【FI】
A23L13/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155814
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】橋脇 文香
(72)【発明者】
【氏名】冨田 晴雄
(72)【発明者】
【氏名】宮藤 章
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC05
4B042AD39
4B042AE03
4B042AG02
4B042AG03
4B042AH01
4B042AK10
4B042AP01
4B042AP07
(57)【要約】
【課題】比較的安価で且つ、食味にも優れた軟化食品を製造する方法を提供する。
【解決手段】肉類が第一所定濃度の第一酵素を含む第一処理液に浸漬された状態で、当該第一処理液を30℃以上80℃以下の温度として調理する第一調理工程100と、前記第一調理工程100後の前記肉類に振動を付与する振動処理工程150と、前記振動処理工程150後の前記肉類が第二所定濃度の第二酵素を含む第二処理液に浸漬された状態で、当該第二処理液を30℃以上80℃以下の温度として調理する第二調理工程200と、を含む軟化食品の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肉類が第一所定濃度の第一酵素を含む第一処理液に浸漬された状態で、当該第一処理液を30℃以上80℃以下の温度として調理する第一調理工程と、
前記第一調理工程後の前記肉類に振動を付与する振動処理工程と、
前記振動処理工程後の前記肉類が第二所定濃度の第二酵素を含む第二処理液に浸漬された状態で、当該第二処理液を30℃以上80℃以下の温度として調理する第二調理工程と、を含む軟化食品の製造方法。
【請求項2】
前記第一所定濃度が0.001質量%以上1.0質量%以下である、請求項1に記載の軟化食品の製造方法。
【請求項3】
前記第二所定濃度が0.001質量%以上1.0質量%以下である、請求項1に記載の軟化食品の製造方法。
【請求項4】
前記第一酵素及び前記第二酵素がプロテアーゼである、請求項1から3の何れか1項に記載の軟化食品の製造方法。
【請求項5】
前記振動処理工程における前記所定回転数が、600rpm以上3200rpm以下の範囲である、請求項1から3の何れか1項に記載の軟化食品の製造方法。
【請求項6】
前記振動処理工程が、前記肉類が前記第一処理液に浸漬された状態で行われる、請求項1から3の何れか1項に記載の軟化食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉類からなる軟化食品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本において65歳以上人口の総人口に対する割合(高齢化率)は年々高まっており、2019年には高齢化率が28.4%となった。高齢化率の上昇に伴い高齢者の介護ニーズが高まる中で、嚥下が困難となり、咀嚼力の低下した高齢者に提供する、歯茎や舌で容易に食材を砕くことができる柔らか食の開発が求められている。
【0003】
肉類を原材料とする軟化食品を製造する方法として、特許文献1には、加熱により前処理された肉類が凍結乾燥された後に粉砕され、酵素を含む処理液に浸漬されて味付けが施された後、更に加熱されることで軟化された肉類を製造する方法が開示されている。この方法は、原料となる肉類が粉砕されるため、これを元にバリエーション豊かな形状を持つ軟化食を製造できる点で優れた方法である。
【0004】
また、肉類の軟化方法として、特許文献2にはプロテアーゼ含有溶液の温度を適宜設定して肉類を当該溶液と接触させた後、当該溶液中でタンブリングする発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-103956号公報
【特許文献2】特表2003-508084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1に記載の方法は、凍結乾燥を経るため、家庭では実施が難しく、また業務上で実施する場合には特殊な設備が必要であり製造コストが高まる問題があった。また、凍結乾燥した肉類を粉砕するため、食味も元のものとは変わってしまい食欲の低下を招く虞があった。
【0007】
特許文献2に記載の方法は、肉類とプロテアーゼ含有溶液との接触方法について、プロテアーゼ含有溶液を肉類に注入する例が記載されているに過ぎず、プロテアーゼ含有溶液に浸漬された状態でタンブリングされる方法で処理された肉類が、どの程度軟化するかは定かではなかった。
【0008】
本発明は、前述した背景から、比較的安価で且つ、食味にも優れた軟化食品を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る軟化食品の製造方法の特徴構成は、肉類が第一所定濃度の第一酵素を含む第一処理液に浸漬された状態で、当該第一処理液を30℃以上80℃以下の温度として調理する第一調理工程と、前記第一調理工程後の前記肉類に振動を付与する振動処理工程と、前記振動処理工程後の前記肉類が第二所定濃度の第二酵素を含む第二処理液に浸漬された状態で、当該第二処理液を30℃以上80℃以下の温度として調理する第二調理工程と、を含む点にある。
【0010】
上記特徴構成によれば、比較的安価で、食味にも優れており且つ適切な柔らかさを有する軟化食品を製造することができる。また、温度を上記範囲内とすることで、酵素が高い活性を示し、肉類が適切な柔らかさに分解されやすい。
【0011】
本発明に係る軟化食品の製造方法の更なる特徴構成は、前記第一所定濃度が0.001質量%以上1.0質量%以下である点にある。
【0012】
本発明に係る軟化食品の製造方法の更なる特徴構成は、前記第二所定濃度が0.001質量%以上1.0質量%以下である点にある。
【0013】
上記特徴構成によれば、第一調理工程又は第二調理工程において、肉類が適切な柔らかさに調理されやすい。
【0014】
本発明に係る軟化食品の製造方法の更なる特徴構成は、前記第一酵素及び前記第二酵素がプロテアーゼである点にある。
【0015】
上記特徴構成によれば、プロテアーゼが肉類のタンパク質を切断し、肉類を適切な柔らかさにまで分解することができる。
【0016】
本発明に係る軟化食品の製造方法の更なる特徴構成は、前記振動処理工程における前記所定回転数が、600rpm以上3200rpm以下の範囲である点にある。
【0017】
上記特徴構成によれば、肉類に適切な振動によるが付与されて、適切な柔らかさを有する軟化食品を製造できる。
【0018】
本発明に係る軟化食品の製造方法の更なる特徴構成は、前記振動処理工程が、前記肉類が前記第一処理液に浸漬された状態で行われる点にある。
【0019】
上記特徴構成によれば、肉類が第一処理液に十分に浸漬された状態で振動処理工程が実施されるため、第一処理液が肉類に浸透しやすくなる。さらに、回転数を上記範囲内に定めて、肉類が第一処理液に浸漬された状態で振動処理工程を実施することにより、第一処理液が肉類の単位面積当たりに衝突する際の衝撃を均等とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態における軟化食品の製造方法の工程を示すブロック図である。
図2】牛肉(ウチヒラ)を実施例1,2及び比較例1-4に記載の方法で処理した後の応力を示すグラフである。
図3】豚肉(ロース)を実施例3及び比較例5,6に記載の方法で処理した後の応力を示すグラフである。
図4】豚肉(ヒレ)を実施例4及び比較例7に記載の方法で処理した後の応力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(解凍及び切断工程)
まず、軟化食品の原料となる肉類を準備する。肉類は生ものであってもよく、解凍されたものであってもよい。肉類は高齢者が食しやすいような大きさに予め切断され得る。ここで肉類とは、牛肉、豚肉、鶏肉、馬肉、鹿肉、猪肉等の鳥獣類の肉の他、魚、貝、エビ等の魚介類を含む。
【0022】
(処理液の調製)
次に、酵素を含む第一処理液及び第二処理液を調製する。第一処理液及び第二処理液は、液体に酵素を加えることで調製され、酵素が分散した状態にあるものである。
【0023】
第一処理液及び第二処理液としては、酵素を水やアルコールなどを含む水系の分散媒に分散させたものを用いることができる。第一処理液及び第二処理液に用いられる水及びアルコールは、それぞれ厚生労働省が定める「食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)」を満たすもの及び食品衛生法で定められているアルコール製剤が用いられる。第一処理液及び第二処理液は、酵素の他、pH調整剤や調味料(塩、醤油、酒類、みりん、砂糖、ソース等)を含有していてもよいし、適度な粘度を与えるために、結着剤や界面活性剤を含有してもよい。
【0024】
第一処理液及び第二処理液に用いられる酵素としては、肉類中の任意の基質を分解することができるものであれば、特に限定されないが、基質がタンパク質である場合には、プロテアーゼを使用する。尚、プロテアーゼとしては、ブロメラインF(活性温度65~75℃)、パパインW-40(活性温度70~90℃)、アロアーゼ(登録商標)XA-10(活性温度60~75℃)、アロアーゼAP-10(活性温度50~65℃)、プロチンNY100(活性温度50~55℃)、プロチンSD-AY10(活性温度70~80℃)、ヌクレイシン(登録商標)(活性温度55~65℃)、アルカラーゼ(登録商標)、ビオプラーゼ(登録商標)OP(活性温度50~60℃)、ビオプラーゼSP-20(活性温度60~70℃)、オリエンターゼ(登録商標)22BF(活性温度60~70℃)、オリエンターゼAY(活性温度50~60℃)、オリエンターゼOP、プロテアーゼA「アマノ」SD(活性温度40~50℃)、プロテアーゼP「アマノ」SD(活性温度40~50℃)、プロテアーゼM「アマノ」G、スミチーム(登録商標)AP、スミチームACP-G、スミチームLP-G、スミチームFP-G、スミチームFLAP-G、スミチームDPP-G、デナプシン2P、デナチーム(登録商標)プロテアーゼYP-SS、デナチームAP(活性温度45~55℃)、デナチームPMC SOFTER(活性温度40~60℃)、パンチダーゼ(登録商標)NP-2(活性温度50~60℃)、サモアーゼ(活性温度50~60℃)、コラゲナーゼ(活性温度30~50℃)、ニューラーゼF3G(活性温度40~50℃)を例示することができる。更に、酵素は、植物由来であっても微生物由来であってもよく、植物由来のものと微生物由来のものとを組み合わせて使用してもよい。
【0025】
第一処理液に用いられる第一酵素及び第二処理液に用いられる第二酵素は、前述した酵素を1種又は相互に阻害しないものを2種以上組み合わせて使用するものである。また、第一処理液に用いられる第一酵素及び第二処理液に用いられる第二酵素は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0026】
第一処理液における第一酵素の第一所定濃度及び第二処理液における第二酵素の第二所定濃度は、特に限定されるものではないが、0.001質量%未満であると、酵素の分解作用が弱くなり過ぎて処理に要する時間が増大する一方、1質量%より高いと、酵素自身の味が製造される軟化食品の味に強く現れすぎる、或いは、酵素の分解作用が強くなり過ぎて形状の維持が困難になる虞がある。したがって、第一処理液及び第二処理液における酵素の濃度は、0.001質量%以上1質量%以下であることが好ましい。なお、第一酵素及び第二酵素が2種以上の酵素を組み合わせて使用されるものである場合は、各酵素の濃度の和を、それぞれ第一所定濃度及び第二所定濃度と定義する。また、第一所定濃度及び第二所定濃度は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0027】
(第一調理工程)
次に、調製した第一処理液を入れた容器内に肉類が浸漬され、第一所定温度にて調理される第一調理工程100が実施される。肉類の調理の方法は特に限定されるものではないが、肉類が第一処理液と共に鍋に入れられて温度を調節しながら加熱される方法、肉類が第一処理液と共に真空包装された後に湯浴内で加熱される方法、肉類が第一処理液とともにファスナー付プラスチックバックに入れられて加熱される方法等が挙げられる。第一処理液の温度は、第一酵素の活性温度となるように加熱することが好ましく、30℃以上80℃以下とする。このような温度範囲とすることで、酵素が高い活性を示し、肉類が適切な柔らかさに分解されやすい。
【0028】
(振動処理工程)
次に、第一調理工程100を経た肉類が器物に入れられて、振動付与装置で撹拌され振動が付与される振動処理工程150が実施される。振動付与装置は、ボルテックスミキサー等があげられる。ボルテックスミキサーは加熱機能付きのものであってもよく、器物を加熱又は保温した状態で振動処理工程150を実施してもよい。
【0029】
振動処理工程150は、肉類が器物内の第一処理液に浸漬された状態で実施される。肉類は第一処理液に全て浸漬された状態であることが好ましい。このようにすることで、酵素や味が肉類に染み込みやすくなる。
【0030】
振動処理工程150におけるボルテックスミキサーの所定回転数は、600rpm以上3200rpm以下の範囲であることが好ましい。上記範囲内であれば、ボルテックスミキサーの振動による衝撃が肉類に与えられて適切な柔らかさを有する軟化食品を製造できる。ボルテックスミキサーの回転数が600rpm未満であると、肉類に付与される衝撃が不十分となり、肉類を十分な柔らかさに調理できない虞がある。ボルテックスミキサーの回転数が3200rpmより大きいと、肉類に付与される衝撃が過剰となって、肉類が軟化しすぎる虞がある。
【0031】
第一調理工程100を経た肉類は、振動処理工程150において、第一処理液と共に器物に入れられてボルテックスミキサーで撹拌され振動が付与されることもできる。振動処理工程150におけるボルテックスミキサーの所定回転数は、600rpm以上3200rpm以下の範囲であることが好ましい。上記範囲内であれば、第一処理液が肉類の単位面積当たりに与える衝撃を均等とすることができる。そのため、回転数がランダムである振動処理工程150を実施する場合に比べて、第一処理液が肉類に浸透しやすくなる。ボルテックスミキサーの回転数が600rpm未満であると、第一処理液が肉類に与える衝撃が不十分となり、肉類が十分な柔らかさに調理されない虞がある。ボルテックスミキサーの回転数が3200rpmより大きいと、第一処理液が肉類に与える衝撃が過剰となって、肉類が軟化しすぎる虞がある。器物内の第一処理液の水位は、器物に入れられた肉類の厚さのうち50%以上200%以下であることが好ましく、75%以上150%以上であることがより好ましく、100%以上120%以下であることがさらに好ましい。
【0032】
(第二調理工程)
最後に、振動処理工程150を経た肉類が第二処理液を入れたコンテナへと移し替えられ浸漬され、第二所定温度にて調理される第二調理工程200が実施される。肉類の調理方法は特に限定されたものではないが、肉類が第二処理液と共に鍋に入れられて温度を調節しながら加熱する方法、肉類が第二処理液と共に真空包装された後に湯浴内で加熱される方法、肉類が第二処理液とともにファスナー付プラスチックバックに入れられて加熱される方法等が挙げられる。第二処理液の温度は、第二酵素の活性温度に定めることが好ましく、30℃以上80℃以下とする。このような温度範囲とすることで、酵素が高い活性を示し、肉類が適切な柔らかさに分解されやすい。
【0033】
容器、器物及びコンテナの材質は特に限定されたものではないが、これらを加熱又は冷却して第一処理液及び第二処理液の温度を調整する場合には、テフロン(登録商標)等の耐熱性高分子製又は金属製のものを用いることが好ましい。
【0034】
以下、本実施形態における実施例及び比較例を示す。
【0035】
(実施例1)
厚さ1.5cmの牛肉(ウチヒラ)35.2gを完全に冷凍させた後、流水により完全に解凍した。解凍後の牛肉を、パパイン酵素とアロアーゼ酵素をそれぞれ0.1質量%ずつ含む水(酵素水)100mLと共にジップロック(登録商標、旭化成ホームプロダクツ(株)、縦150mm、横165mm、厚さ0.03mm)へ入れて、低温調理器(シャープ(株)製、KN-HW10G-W)で、酵素水の温度を60℃として10分間の調理(第一調理工程100)を行った。
【0036】
低温調理後の牛肉を酵素水と共に円柱状のタッパー(直径162mm、高さ84mm)に移し、牛肉が酵素水に浸漬された状態とした。その後、タッパーをボルテックスミキサー(Scientific Industries,Inc製、Vоrtex-Genie2 SI-0286)に設置して、回転数を600rpmとして10分間の振動処理(振動処理工程150)を実施した。
【0037】
その後、振動処理後の肉類を酵素水とともに、低温調理器(シャープ(株)製、KN-HW10G-W)を用いて調理した(第二調理工程200)。調理は、酵素水の温度を60℃として25分間行った。
【0038】
(実施例2)
振動処理工程において、ボルテックスミキサーの回転数を3200rpmとした他は、実施例1と同様にして厚さ1.5cmの牛肉(ウチヒラ)35.2gを処理した。
【0039】
(実施例3)
肉類を厚さ1.5cmの豚肉(ロース)35.0gとした他は、実施例1と同様の方法で処理した。
【0040】
(実施例4)
肉類を厚さ1.5cmの豚肉(ヒレ)16.4gとした他は、実施例1と同様の方法で処理した。
【0041】
(比較例1)
第二調理工程を行わなかった他は、実施例1と同様に厚さ1.5cmの牛肉(ウチヒラ)35.2gを処理した。
【0042】
(比較例2)
振動処理工程及び第二調理工程を行わなかった他は、実施例1と同様に厚さ1.5cmの牛肉(ウチヒラ)35.2gを処理した。
【0043】
(比較例3)
第一調理工程において酵素水の代わりに、酵素を含まない水を用いて、厚さ1.5cmの牛肉(ウチヒラ)35.2gを水に浸漬した状態で調理した。調理は、水の温度を60℃として35分間行った。その後、振動処理工程及び第二調理工程を実施しなかった。
【0044】
(比較例4)
第一調理工程及び第二調理工程において、酵素水の代わりに、酵素を含まない水を用いた他は、実施例1と同様に厚さ1.5cmの牛肉(ウチヒラ)35.2gを処理した。
【0045】
(比較例5)
比較例1と同様に、厚さ1.5cmの豚肉(ロース)35.0gを処理した。
【0046】
(比較例6)
比較例4と同様に、厚さ1.5cmの豚肉(ロース)35.0gを処理した。
【0047】
(比較例7)
比較例1と同様に、厚さ1.5cmの豚肉(ヒレ)16.4gを処理した。
【0048】
(破断試験)
実施例1、2及び比較例1-4で得られた牛肉(ウチヒラ)に対して、それぞれテクスチャーメーター((株)山電、クリープメータRE2-33005B)を用いて破断試験を行った。その結果を図2に示す。
【0049】
酵素水に浸漬されて低温調理され、振動処理工程を経た後、更に酵素水に浸漬されて低温調理が施された牛肉(実施例1,2)の応力は、第二調理工程のみが実施されなかった牛肉(比較例1)、振動処理工程及び第二調理工程が実施されなかった牛肉(比較例2)、酵素を含まない水に浸漬されて低温調理され、且つ、振動処理工程及び第二調理工程を経なかった牛肉(比較例3)及び第一調理工程及び第二調理工程において酵素を含まない水で低温調理された牛肉(比較例4)の応力よりも小さかった。
【0050】
実施例1,2と比較例1の結果から、第二調理工程を実施するほうが、そうでない場合に比べて牛肉を柔らかく調理できる。
【0051】
また、実施例1,2及び比較例2の結果から第一調理工程に加えて、振動処理工程及び第二調理工程を実施するほうが、第一調理工程のみを実施する場合に比べて、肉類を柔らかく調理できる。さらに、振動処理工程におけるボルテックスミキサーの回転数を大きくするほうが、牛肉をより柔らかく調理できる。
【0052】
また、実施例1と比較例3の結果から、酵素水に浸漬されて調理される第一調理工程及び酵素水に浸漬されて調理される第二調理工程を実施し、且つ振動処理工程を実施したほうが、第一調理工程において酵素を含まない水を用いて調理し、且つ、振動処理工程及び第二調理工程を実施しなかった場合に比べて、牛肉を柔らかく調理できる。
【0053】
また、実施例1と比較例4の結果から、酵素水を用いた低温調理を行う第一調理工程及び第二調理工程を実施するほうが、第一調理工程及び第二調理工程において酵素を含まない水を用いて調理する場合に比べて、牛肉を柔らかく調理できる。したがって、上記の結果から、第一調理工程、振動処理工程及び第二調理工程を全て実施したほうが、そうでない場合に比べて、牛肉(ウチヒラ)を柔らかく調理できる。
【0054】
実施例3及び比較例5,6で得られた豚肉(ロース)に対して、それぞれテクスチャーメーター((株)山電、クリープメータRE2-33005B)を用いて破断試験を行った。その結果を図3に示す。
【0055】
酵素水に浸漬されて低温調理され、振動処理工程を経た後、更に酵素水に浸漬されて低温調理が施された豚肉(実施例3)の応力は、第二調理工程のみが実施されなかった豚肉(比較例5)及び第一調理工程及び第二調理工程において酵素を含まない水で低温調理された豚肉(比較例6)の応力よりも小さかった。
【0056】
実施例3と比較例5の結果から、第二調理工程を実施するほうが、そうでない場合に比べて豚肉を柔らかく調理できる。
【0057】
実施例3と比較例6の結果から、酵素水を用いた低温調理を行う第一調理工程及び第二調理工程を実施するほうが、酵素水を用いず低温調理を行う第一調理工程及び第二調理工程を実施する場合に比べて、豚肉を柔らかく調理できる。したがって、上記の結果から、第一調理工程、振動処理工程及び第二調理工程を全て実施したほうが、そうでない場合に比べて、豚肉(ロース)を柔らかく調理できる。
【0058】
実施例4及び比較例7で得られた豚肉(ヒレ)に対して、それぞれテクスチャーメーター((株)山電、クリープメータRE2-33005B)を用いて破断試験を行った。その結果を図4に示す。
【0059】
酵素水に浸漬されて低温調理され、振動処理工程を経た後、更に酵素水に浸漬されて低温調理が施された豚肉(実施例4)の応力は、第二調理工程のみが実施されなかった豚肉(比較例7)の応力よりも小さかった。
【0060】
実施例4と比較例7の結果から、第二調理工程を実施するほうが、そうでない場合に比べて豚肉を柔らかく調理できる。したがって、上記の結果から、第一調理工程、振動処理工程及び第二調理工程を全て実施したほうが、そうでない場合に比べて、豚肉(ヒレ)を柔らかく調理できる。
【0061】
(別の実施形態)
本実施形態では、振動付与装置がボルテックスミキサーであったが、その他、肉類に振動を加えられる装置であればよく、食肉加工用のタンブラーであってもよい。この場合、第一調理工程100を経た肉類が第一処理液と共に食肉加工用のタンブラー内に入れられてタンブリング処理が施される。タンブリング処理の場合、物理的衝撃が肉類の表面に加えられて、肉類の表面積が拡大するため、肉類の味付けを施す場合に味及び酵素が染み込みやすくなり好ましい。
【0062】
本実施形態では、振動処理工程150において、肉類が第一処理液に浸漬されて振動が付与されたが、第一処理液ではなく、第二処理液であってもよい。この場合、第二処理液は振動処理工程150後に肉類と共にコンテナに入れられて、第二調理工程200が実施されてもよい。また、第一酵素及び第二酵素とは異なる第三酵素が水やアルコール等に分散した第三処理液を用いてもよい。第三処理液における第三酵素の濃度は、第一処理液の濃度と同じであってもよく、また異なっていてもよい。第三処理液を加熱する場合には、第三酵素の活性温度の範囲内の温度として振動処理工程150を実施することが好ましい。
【0063】
本実施形態では、第一調理工程100を経た肉類が、振動処理工程150で振動を付与された後、第二調理工程200で再び調理されるものであるが、第一調理工程100、振動処理工程150、第二調理工程200を1サイクルとして、当該サイクルを複数回繰り返す構成とすることもできる。
【0064】
以上のように本開示の実施形態及び実施例について説明を行なったが、上述の各実施形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形したりすることも当初から予定している。すなわち、本発明は対象素材が肉類以外の素材の場合でも、対象素材に適した調理条件および酵素を選択することで同様の効果が得られる。例えば、野菜類では第一処理液及び第二処理液に用いられる酵素としてセルラーゼ酵素を使用することで、軟化食品を得ることができる。また、豆類では第一処理液及び第二処理液に用いられる酵素としてセルラーゼ酵素やリパーゼ酵素を使用することで、軟化食品を得ることができる。
【0065】
今回開示された実施形態及び実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施形態及び実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、肉類からなる軟化食品を製造する方法として利用可能である。
【符号の説明】
【0067】
100 第一調理工程
150 振動処理工程
200 第二調理工程
図1
図2
図3
図4