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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049569
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】止血器具
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/135 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
A61B17/135
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155861
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】呂 筱薇
(72)【発明者】
【氏名】有馬 大貴
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160DD43
4C160DD46
(57)【要約】
【課題】容易な作業で、バルーンによる穿刺部位の圧迫中に当該圧迫を低減することのできる止血器具を提供する。
【解決手段】止血器具1は、肢体に巻き付けることが可能な帯体2と、帯体を肢体に巻き付けた状態で固定する固定手段3と、流体を注入することによって拡張して、肢体の穿刺部位を圧迫する第1拡張部材5、6と、帯体を肢体に巻き付けた状態で、肢体を基準にして第1拡張部材の反対側に配置されるとともに、拡張収縮可能に構成され、拡張状態において、肢体を圧迫する第2拡張部材9と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肢体に巻き付けることが可能な帯体と、
前記帯体を前記肢体に巻き付けた状態で固定する固定手段と、
流体を注入することによって拡張して、前記肢体の穿刺部位を圧迫する第1拡張部材と、
前記帯体を前記肢体に巻き付けた状態で、前記肢体を基準にして前記第1拡張部材の反対側に配置されるとともに、拡張収縮可能に構成され、拡張状態において、前記肢体を圧迫する第2拡張部材と、を有する止血器具。
【請求項2】
前記第2拡張部材は、前記帯体が延在する延在方向に沿って3個以上設けられ、前記第2拡張部材の容量の合計が6ml以上12ml以下である、請求項1に記載の止血器具。
【請求項3】
前記第2拡張部材は、連結部によって互いに連結される、請求項2に記載の止血器具。
【請求項4】
前記第2拡張部材は、互いに離間している、請求項2または請求項3に記載の止血器具。
【請求項5】
前記帯体を前記肢体に巻き付けた状態で断面視した際に、
中央に配置される前記第2拡張部材は縦長形状を備え、
両端に配置される前記第2拡張部材は横長形状を備える、請求項2または請求項3に記載の止血器具。
【請求項6】
前記第2拡張部材は、予め拡張した状態で前記帯体に固定される、請求項1または請求項2に記載の止血器具。
【請求項7】
肢体に巻き付けることが可能な帯体と、
前記帯体を前記肢体に巻き付けた状態で固定する固定手段と、
流体を注入することによって拡張して、前記肢体の穿刺部位を圧迫する第1拡張部材と、
前記帯体を前記肢体に巻き付けた状態で、前記肢体の橈骨動脈および尺骨動脈の付近を避ける位置に配置されるとともに、拡張収縮可能に構成され、拡張状態において、前記肢体を圧迫する第2拡張部材と、を有する止血器具。
【請求項8】
前記第2拡張部材は、前記帯体を前記肢体に巻き付けた際の締め付け量を調整するためのものである、請求項1または請求項7に記載の止血器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、止血器具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、腕の橈骨動脈等の血管を穿刺し、穿刺部位にイントロデューサーシースを導入し、イントロデューサーシースの内腔を介してカテーテル等を血管等の病変部に挿入して、経皮的に治療・検査などが行われている。このような方法を行った場合、イントロデューサーシースを抜去した後の穿刺部位を止血する必要がある。
【0003】
この止血を行うための、腕の穿刺部位に巻き付けるための帯体と、この帯体を穿刺部位に巻き付けた状態で固定する固定部と、流体を注入することにより拡張して、穿刺部位を押圧可能な拡張部と、を備えた止血器具が知られている。この止血器具は、拡張部から作用する押圧力を、穿刺部位に対して直接的に作用させて止血を行っている。
【0004】
このような止血器具において、長時間に亘る穿刺部位の圧迫による血管閉塞などの合併症を回避するために、バルーンによる穿刺部位の圧迫中に当該圧迫を低減することが求められている。
【0005】
これに関連して、例えば下記の特許文献1の実施例3には、手首および帯体の間に3本の丸棒が配置された止血器具が開示されている。この止血器具によれば、第1の丸棒を取り外してバルーンを拡張させ、次いで止血開始から一定時間経過後に第2の丸棒を取り外し、また一定時間経過後に第3の丸棒を取り外すという手順を実行することによって、穿刺部位への圧迫度合いを段階的に調整することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3186070号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した止血器具では、バルーンを手首に圧迫した状態で丸棒を抜去して取り外すため、取り外しの作業が困難であることが想定される。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、容易な作業で、バルーンによる穿刺部位の圧迫中に当該圧迫を低減することのできる止血器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0010】
(1)
肢体に巻き付けることが可能な帯体と、
前記帯体を前記肢体に巻き付けた状態で固定する固定手段と、
流体を注入することによって拡張して、前記肢体の穿刺部位を圧迫する第1拡張部材と、
前記帯体を前記肢体に巻き付けた状態で、前記肢体を基準にして前記第1拡張部材の反対側に配置されるとともに、拡張収縮可能に構成され、拡張状態において、前記肢体を圧迫する第2拡張部材と、を有する止血器具。
【0011】
(2)
前記第2拡張部材は、前記帯体が延在する延在方向に沿って3個以上設けられ、前記第2拡張部材の容量の合計が6ml以上12ml以下である、(1)に記載の止血器具。
【0012】
(3)
前記第2拡張部材は、連結部において互いに連結される、(2)に記載の止血器具。
【0013】
(4)
前記第2拡張部材は、互いに離間している、(2)または(3)に記載の止血器具。
【0014】
(5)
前記帯体を前記肢体に巻き付けた状態で断面視した際に、
中央に配置される前記第2拡張部材は縦長形状を備え、
両端に配置される前記第2拡張部材は横長形状を備える、(2)~(4)のいずれか1つに記載の止血器具。
【0015】
(6)
前記第2拡張部材は、予め拡張した状態で前記帯体に固定される、(1)~(5)のいずれか1つに記載の止血器具。
【0016】
(7)
肢体に巻き付けることが可能な帯体と、
前記帯体を前記肢体に巻き付けた状態で固定する固定手段と、
流体を注入することによって拡張して、前記肢体の穿刺部位を圧迫する第1拡張部材と、
前記帯体を前記肢体に巻き付けた状態で、前記肢体の橈骨動脈および尺骨動脈の付近を避ける位置に配置されるとともに、拡張収縮可能に構成され、拡張状態において、前記肢体を圧迫する第2拡張部材と、を有する止血器具。
【0017】
(8)
前記第2拡張部材は、前記帯体を前記肢体に巻き付けた際の締め付け量を調整するためのものである、(1)または(7)に記載の止血器具。
【発明の効果】
【0018】
上記のように構成した止血器具によれば、拡張収縮可能に構成される第2拡張部材を、穿刺部位の圧迫中に収縮させることによって、圧迫中に圧迫を低減することができる。したがって、容易な作業で、バルーンによる穿刺部位の圧迫中に当該圧迫を低減することができる。このため、長時間に亘る穿刺部位の圧迫による血管閉塞などの合併症を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る止血器具を内面側から視たときの平面図である。
図2】本実施形態に係る止血器具において、3つの第2拡張部材を拡張させたときの様子を示す断面模式図である。
図3】本実施形態に係る止血器具において、2つの第2拡張部材を収縮させたときの様子を示す断面模式図である。
図4】変形例に係る止血器具の図2に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図1図3を参照して、本発明の実施形態に係る止血器具1を説明する。図1は、本発明の実施形態に係る止血器具1を内面側から視たときの平面図である。図2は、本実施形態に係る止血器具1において、3つの第2拡張部材9を拡張させたときの様子を示す断面模式図である。図3は、本実施形態に係る止血器具1において、2つの第2拡張部材9を収縮させたときの様子を示す断面模式図である。各図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0021】
止血器具1は、治療・検査などを行うカテーテル等を血管内に挿入する目的で手首500(肢体)に形成された穿刺部位510(止血すべき部位)に留置していたイントロデューサーシースを抜去した後、穿刺部位510を止血するために使用される。
【0022】
止血器具1は、図1に示すように、手首500に巻き付けるための帯体2と、帯体2を手首500に巻き付けた状態で固定する固定手段としての通気性材料からなる面ファスナー3と、湾曲板4と、第1拡張部材(バルーン5、補助バルーン6)と、マーカ7と、第2拡張部材9と、を有する。
【0023】
帯体2は、可撓性を有する帯状の部材である。図2に示すように、帯体2は、手首500の外周を一周するように巻き付けられ、その両端付近の部分を互いに重ね合わせるようにして、手首500に装着される。そして、帯体2は、この重ね合わせ部分が一般にマジックテープ(登録商標)などと呼ばれる面ファスナー3によって固定(接合)される。
【0024】
帯体2の構成材料は、穿刺部位510を視認できる材料であれば特に限定されず、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)のようなポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)のようなポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、シリコーン、ポリウレタン、ポリアミドエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー等の各種熱可塑性エラストマー、あるいはこれらを任意に組み合わせたもの(ブレンド樹脂、ポリマーアロイ、積層体等)が挙げられる。
【0025】
なお、帯体2は実質的に透明(可視光透過性)であることが好ましい。これにより、穿刺部位510を外側から確実に視認することができ、マーカ7を穿刺部位510に容易に位置合わせすることができる。
【0026】
帯体2の中央部には、湾曲板4を保持する湾曲板保持部21が形成されている。湾曲板保持部21は、外面側(または内面側)に別個の帯体の部材が融着(熱融着、高周波融着、超音波融着等)または接着(接着剤や溶媒による接着)等の方法により接合されることにより、二重になっており、それらの隙間に挿入された湾曲板4を保持する。
【0027】
帯体2を手首500に巻き付けた状態で固定する固定手段としては、面ファスナー3に限らず、例えば、スナップ、ボタン、クリップ、帯体2の端部を通す枠部材であっても良い。
【0028】
湾曲板4は、帯体2の二重に形成された湾曲板保持部21の間に挿入されることにより帯体2に保持されている。
【0029】
湾曲板4は、少なくとも一部が内周側に向かって湾曲した形状をなしている。湾曲板4は、帯体2よりも硬質な材料で構成されており、ほぼ一定の形状を保つようになっている。
【0030】
本実施形態では、湾曲板4は、帯体2の長手方向に長い形状をなしている。図2に示すように、湾曲板4の長手方向の中央部41は、ほとんど湾曲せずに平板状になっている。中央部41の両側には、それぞれ、内周側に向かって、かつ、帯体2の長手方向(手首500の周方向)に沿って湾曲した湾曲部42が形成されている。
【0031】
湾曲板4の構成材料としては、穿刺部位510を視認できる材料であれば特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル(特に硬質ポリ塩化ビニル)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエンのようなポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ-(4-メチルペンテン-1)、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアセタール、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、アイオノマー、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)のようなポリエステル、ブタジエン-スチレン共重合体、芳香族または脂肪族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂等が挙げられる。
【0032】
なお、湾曲板4は実質的に透明(可視光透過性)であることが好ましい。これにより、穿刺部位510を外側から確実に視認することができ、マーカ7を穿刺部位510に容易に位置合わせすることができる。
【0033】
なお、湾曲板4は、中央部41のような湾曲していない部分を有さないもの、すなわち、その全長に渡り湾曲しているものであっても良い。
【0034】
第1拡張部材は、バルーン5および補助バルーン6によって構成される。バルーン5は、可撓性を有する材料で構成される。バルーン5は、帯体2に連結されている。バルーン5は、流体(空気等の気体もしくは液体)を注入することにより拡張し、手首500の穿刺部位510を圧迫する。本開示において、流体は空気等の気体でも水等の液体でもかまわないが、空気が、取り扱いが容易であり、容易に入手できるため好ましい。
【0035】
バルーン5は、帯体2に保持されている湾曲板4の長手方向の一端側に片寄って位置している。すなわち、図1図2の構成では、バルーン5は、湾曲板4のほぼ右半分側と重なるように位置している。
【0036】
バルーン5の構成材料は、穿刺部位510を視認できる材料であれば特に限定されず、例えば、上述した帯体2の構成材料と同様のものを用いることができる。また、バルーン5は、帯体2と同質または同種の材料で構成されるのが好ましい。これにより、融着による帯体2との接合を容易に行うことができ、容易に製造することができる。
【0037】
なお、バルーン5は実質的に透明(可視光透過性)であることが好ましい。これにより、穿刺部位510を外側から確実に視認することができ、マーカ7を穿刺部位510に容易に位置合わせすることができる。
【0038】
バルーン5の構造は、例えば、前述したような材料からなるシート材の縁部を融着または接着等の方法によりシールして袋状に形成したものとすることができる。図示の構成では、バルーン5は、拡張していない状態では、四角形をなしている。
【0039】
バルーン5は、可撓性を有する連結部11を介して、帯体2に連結されている。実施形態では、バルーン5は、湾曲板4に対し片寄った側、すなわち、図1中の右側のみが連結部11を介して帯体2に連結されている。この連結部11は、実質的な長さが比較的短くされ、これにより、バルーン5が湾曲板4に対し片寄った位置に位置決めされる。なお、連結部11は、バルーン5と同材質で構成されているのが好ましい。
【0040】
バルーン5の内面側、すなわち穿刺部位510と接触する面側にはマーカ7が設けられている。バルーン5にマーカ7を設けることによって、バルーン5を穿刺部位510に容易に位置合わせすることができる。そして、バルーン5の位置ズレによる血液の漏れや血腫の発生が抑制される。
【0041】
図1に示すように、マーカ7はバルーン5の中心部に設けることが好ましい。これにより、バルーン5の中心部を穿刺部位510に位置合わせすることが可能であるため、バルーン5を拡張させた際に、バルーン5の押圧(圧迫)力が穿刺部位510に対して確実に作用する。
【0042】
マーカ7の形状は、特に限定されず、例えば、円形、三角形、四角形等が挙げられ、図1では中抜きの円形をなしている。
【0043】
なお、マーカ7はバルーン5の外面側、すなわちバルーン5の穿刺部位510と接触する面と反対側(図1の紙面の裏側)に設けても良い。
【0044】
また、マーカ7をバルーン5に設けるのではなく、帯体2もしくは湾曲板4あるいは後述する補助バルーン6に設けても良い。この場合も、マーカ7がバルーン5の中心部に重なるように設けることが好ましい。
【0045】
図1に示すように、バルーン5には、バルーン5内に流体を注入するための注入部8が接続されている。注入部8は、基端部8Eがバルーン5に接続される。注入部8は、内腔がバルーン5の内部に連通し可撓性を有するチューブ81と、チューブ81の先端部に設置された袋体82と、袋体82に接続された管状のコネクタ83と、を有する。
【0046】
バルーン5を拡張(膨張)させる際には、コネクタ83にシリンジ(図示していない)の先端突出部を挿入し、このシリンジの押し子を押して、シリンジ内の流体を注入部8を介してバルーン5内に注入する。バルーン5内に流体を注入した後、コネクタ83からシリンジを抜去すると、コネクタ83に内蔵された逆止弁が閉じて流体の露出が防止され、バルーン5が膨張した状態が維持される。
【0047】
図2に示すように、湾曲板4とバルーン5との間には、可撓性を有する材料で構成された補助バルーン6が、バルーン5と重なるようにして設けられている。この補助バルーン6は、バルーン5を押圧する押圧部材として機能する。
【0048】
補助バルーン6は、内部に充填された流体の圧力により、図2中の矢印fで示すように、バルーン5を手首500の中心部520に向かう方向に押圧する。このように補助バルーン6から押圧力を受けることによって、バルーン5は、図2中の矢印Fで示すように、穿刺部位510を上から下へ垂直な方向(手首500の表面に対して垂直な方向)ではなく、傾斜した方向(手首500の中心部520に向かう方向)に押圧(圧迫)する。これにより、本発明は、穿刺部位510を上から下へ垂直な方向に押圧(圧迫)する場合と比べ、より優れた止血効果が得られる。
【0049】
補助バルーン6の構成材料としては、穿刺部位510を視認できる材料であれば特に限定されず、例えば、前述した帯体2の構成材料と同様のものを用いることができる。そして、補助バルーン6は実質的に透明(可視光透過性)であることが好ましい。これにより、穿刺部位510を外側から確実に視認することができ、マーカ7を穿刺部位510に容易に位置合わせすることができる。
【0050】
また、本実施形態では、補助バルーン6は、帯体2の長手方向についての幅がバルーン5よりも小さくされていることにより、バルーン5よりも小さくなっており、バルーン5を局所的に押圧する。これにより、バルーン5から穿刺部位510への押圧力Fの方向をより確実に傾斜させることができる。
【0051】
さらに、本実施形態では、前述したように、湾曲板4は、バルーン5が片寄った側(図2中の右側)に、中央部41よりも曲率半径が小さい湾曲部42を有している。そして、補助バルーン6は、湾曲板4の湾曲部42またはそれより図2中の右側の部分に(帯体2を介して)接触する。これにより、補助バルーン6が湾曲板4から受ける力の方向、換言すれば、補助バルーン6が(帯体2を介して)接触する部分の湾曲板4の法線方向は、手首500の中心部520に向かうような方向に傾斜することになる。その結果、押圧力fや押圧力Fの方向をより確実に傾斜させることができる。
【0052】
また、実施形態では、バルーン5の一部と補助バルーン6の一部とは、互いに融着または接着等の方法により接合されている。そして、バルーン5および補助バルーン6の接合部には、バルーン5の内部と補助バルーン6の内部とを連通する連通部12が形成されている。これにより、前述したようにしてバルーン5に液体を注入すると、注入された流体の一部が連通部12を介して補助バルーン6内に流入し、バルーン5の拡張に伴って補助バルーン6が拡張する。これにより、1回の操作で両者を拡張させることができ、操作性に優れる。
【0053】
このような補助バルーン6は、固着部13を介して、バルーン5の連結部11と同じ側(図2中の右側)で帯体2に連結されている。これにより、補助バルーン6がより容易かつ確実に傾斜した姿勢になるため、バルーン5に対する押圧力fが傾斜した方向(バルーン5をほぼ手首500の中心部520に向かわせるような方向)により作用し易くなり、より優れた止血効果が得られる。
【0054】
なお、本発明ではバルーン5を押圧する押圧部材は、補助バルーン6に限らず、例えば、スポンジ状の物質、弾性材料、綿(わた)のような繊維の集合体、またはこれらの組み合わせなどによって形成されたパッドのような部材であっても良い。さらに、補助バルーン6は設けられていなくてもよい。
【0055】
次に、第2拡張部材9の構成について説明する。第2拡張部材9は、図2に示すように、帯体2を手首500に巻き付けた状態で、バルーン5とは異なる位置であり、患者の痛みを生じやすい神経の位置や、血流を阻害する可能性のある手首の橈骨動脈および尺骨動脈の付近を避ける位置に配置される。本実施形態では、手首500を基準にして、バルーン5の反対側に配置される。第2拡張部材9は、拡張収縮可能に構成されており、拡張した状態において、手首500をバルーン5が配置された側の反対側から圧迫する。
【0056】
第2拡張部材9は、図1図2に示すように、帯体2が延在する延在方向に沿って3つ設けられる。3つの第2拡張部材9の容量の合計は、例えば6mlである。ここで、3つの第2拡張部材9はそれぞれ同一の形状を備えているため、1つあたりの第2拡張部材9の容量は2mlである。このように構成された止血器具1によれば、3段階に亘って、手首500に対する圧迫を段階的に緩和することができ、所望のプロトコルに沿って、バルーン5による圧迫を緩和することができる。すなわち、帯体2が延在する延在方向に沿って配置した3つの第2拡張部材9の容量や配置位置を調整することにより、操作者の技量によらず、所望のプロトコルに沿って手首500に対する圧迫を段階的に緩和することができる。
【0057】
3つの第2拡張部材9は、図1図2に示すように、連結部91によって互いに連結されている。ここで例えば3つの第2拡張部材9が連結部によって互いに連結されていない構成の場合、医療現場で3つの第2拡張部材9がバラバラになってしまう可能性がある。これに対して、本実施形態に係る止血器具1によれば、3つの第2拡張部材9が連結部91によって互いに連結されているため、バラバラになることを防止でき、使用者のユーザビリティーに優れる。なお、3つの第2拡張部材9が連結部によって互いに連結されていない構成も本発明に含まれるものとする。
【0058】
また、3つの第2拡張部材9は、図2に示すように、連結部91の上方において、それぞれ互いに離間している。ここで、例えば、3つの第2拡張部材9が離間せずに近接している構成の場合、右側および左側の第2拡張部材9を収縮させたときに、収縮させた際の影響を受けて、中央の第2拡張部材9に位置ずれが生じる可能性がある。これに対して、本実施形態に係る止血器具1によれば、3つの第2拡張部材9はそれぞれ互いに離間しているため、右側および左側の第2拡張部材9を収縮させたとしても、中央の第2拡張部材9が、左右の第2拡張部材9を収縮させた際の影響を受けずに、位置ずれが生じることを抑制できる。なお、3つの第2拡張部材9が離間せずに近接している構成も本発明に含まれるものとする。
【0059】
また、第2拡張部材9は、予め拡張した状態で帯体2に固定される。第2拡張部材9の帯体2に対する固定方法は特に限定されないが、例えば接着剤による接着である。このように第2拡張部材9が予め拡張した状態で帯体2に固定されることによって、帯体2を手首500に装着した後に第2拡張部材9を拡張する必要がないため、ユーザビリティーが向上する。また、帯体2を手首500に装着する際に、第2拡張部材9の拡張分を想定して、手首500に装着する必要がないため、ユーザビリティーが向上する。
【0060】
また、第2拡張部材に流体注入口(図示せず)を設け、使用者が装着時に拡張するようにしても良い。その場合は、第2拡張部材への流体の注入量によって帯体2の締め付け量(圧迫力)の調整を行うことができる。
【0061】
第2拡張部材9を収縮させる方法は特に限定されないが、例えばハサミや針で第2拡張部材9に孔を開ける方法である。また、第2拡張部材9に流体を排出するための栓(図示しない)を設け、閉じている栓を開放することで第2拡張部材9を収縮させてもよい。
【0062】
第2拡張部材9を構成する材料は、特に限定されないが、例えば、上述した帯体2の構成材料と同様のものを用いることができる。
【0063】
次に、止血器具1の使用方法について説明する。
【0064】
止血器具1を手首500に装着する前は、第1拡張部材であるバルーン5および補助バルーン6は、拡張していない状態とされている。また、第2拡張部材9は、拡張した状態としておく。
【0065】
通常、動脈への穿刺部位510は、手首500の内側(腱がある側)の親指側へ片寄った位置にある。通常、穿刺部位510にはイントロデューサーシースが留置されている。このイントロデューサーシースが留置されたままの状態の手首500に帯体2を手首500に添うように巻き付け、バルーン5に設けられたマーカ7が穿刺部位510上に重なるようにバルーン5(帯体2)を位置合わせして、帯体2の両端部付近を雄側面ファスナー31と雌側面ファスナー32を重ねて固定(接合)する。
【0066】
止血器具1を手首500に装着した後、注入部8のコネクタ83にシリンジ(図示していない)を接続し、前述したようにして流体をバルーン5および補助バルーン6内に症例に応じて所定量注入し、バルーン5および補助バルーン6を拡張させる。
【0067】
バルーン5および補助バルーン6を拡張させたら、コネクタ83からシリンジを離脱させる。そして穿刺部位510からイントロデューサーシースを抜去する。これにより、バルーン5および補助バルーン6は、拡張状態を維持し、第2拡張部材9とともに、穿刺部位510への所定の圧迫力による圧迫状態が維持される(図2参照)。この状態では、バルーン5が穿刺部位510(およびその周辺)を局所的に押圧するとともに、バルーン5および補助バルーン6の拡張により、湾曲板4は、手首500の表面から離間して、手首500に接触し難くなる。これにより、穿刺部位510(およびその周辺)が集中して圧迫力を受ける。
【0068】
次に、3つの第2拡張部材9を順次、収縮させる。具体的には、症例に応じて、バルーン5による圧迫開始から、例えば1~2時間経過した後に、左側の第2拡張部材9をまず収縮させる。第2拡張部材9の収縮方法は、上述した通りである。次に例えば1~2時間経過した後に、中央の第2拡張部材9を収縮させる(図3の状態)。さらに例えば1~2時間経過した後に、右側の第2拡張部材9を収縮させる。このように段階的に第2拡張部材9を収縮させることによって、段階的に手首500に付与されるバルーン5からの圧迫を低減することができる。したがって、容易な作業で、段階的に手首500に対するバルーン5の圧迫を低減することができる。
【0069】
段階的に第2拡張部材9を収縮させた後、出血が止まったら、再びコネクタ83にシリンジを接続しバルーン5内の流体を排出し、次いで止血器具1を手首500から取り外して止血を完了する。
【0070】
以上説明したように、本実施形態に係る止血器具1は、手首500に巻き付けることが可能な帯体2と、帯体2を手首500に巻き付けた状態で固定する面ファスナー3(固定手段)と、流体を注入することによって拡張して、手首500の穿刺部位510を圧迫する第1拡張部材(バルーン5および補助バルーン6)と、帯体2を手首500に巻き付けた状態で、手首500を基準にしてバルーン5および補助バルーン6の反対側に配置されるとともに、拡張収縮可能に構成され、拡張状態において、手首500を圧迫する第2拡張部材9と、を有する。このように構成された止血器具1によれば、拡張収縮可能に構成される第2拡張部材9を、穿刺部位510の圧迫中に収縮させることによって、圧迫中に圧迫を低減することができる。したがって、容易な作業で、バルーン5による穿刺部位510の圧迫中に当該圧迫を低減することができる。第2拡張部材9を、手首500を基準にしてバルーン5の反対側に配置することにより、第2拡張部材9を収縮させることによって効果的に穿刺部位510に対する圧迫力を低減させることができる。
【0071】
また、第2拡張部材を患者の痛みを生じやすい手首の橈骨動脈および尺骨動脈の付近を避ける位置に配置することにより、患者の痛みを低減しながら、穿刺部位510に対する圧迫力を低減させることができる。
【0072】
以上、実施形態を通じて本発明に係る止血器具1を説明したが、本発明は実施形態において説明した構成のみに限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0073】
例えば、上述した実施形態では、第2拡張部材9は3つ設けられたが、第2拡張部材9は5つ設けられてもよい。このとき、第2拡張部材9の容量は例えば1mlとすることができる。さらに、第2拡張部材9が設けられる個数は、1つ、2つ、4つ、または6つ以上であってもよい。このとき、第2拡張部材の容量の合計は6ml以上12ml以下であることが好ましい。
【0074】
また、上述した実施形態では、3個の第2拡張部材9は同一の形状を備えていたが、図4に示すように、3個の第2拡張部材9A、9B、9Cは形状が異なっていてもよい。具体的には、左側の第2拡張部材9Aおよび右側の第2拡張部材9Cは、帯体2を手首500に巻き付けた状態で断面視した際に、横長形状を備え、中央の第2拡張部材9Bは縦長形状を備える。この構成によれば、例えば左側の第2拡張部材9Aを収縮させた際に、中央の第2拡張部材9Bが縦長形状を備えるため、手首500に対する押圧力が、上述した実施形態に係る第2拡張部材9と比較して増大して、バルーン5の位置ずれを抑制することができる。
【0075】
また、上述した実施形態では、第2拡張部材9は、ハサミや針で第2拡張部材9に対して孔を開けることによって、収縮させた。しかしながら、バルーン5と同様に、第2拡張部材にシリンジを接続して、第2拡張部材内の流体を排出する方法で、第2拡張部材を収縮させてもよい。
【0076】
また、上述した実施形態では、第2拡張部材9は、予め拡張した状態で帯体2に固定された。しかしながら、第2拡張部材は、収縮した状態で帯体2に固定されて、使用者が第2拡張部材を拡張させる構成であってもよい。
【0077】
また、上述した実施形態では、止血器具1は手首500に装着して使用するものであったが、腕または脚(本明細書では、これらを総称して「肢体」という)のいかなる部分に装着して使用する間隙確保部材を備えた止血器具にも適用することができる。
【0078】
また、上述した実施形態では、3つの第2拡張部材9のうち、左側の第2拡張部材9、中央の第2拡張部材9、右側の第2拡張部材9の順で収縮させたが、収縮させる順序は特に限定されない。
【符号の説明】
【0079】
1 止血器具、
2 帯体、
3 面ファスナー(固定手段)、
5 バルーン(第1拡張部材)、
6 補助バルーン(第1拡張部材)、
9、9A、9B、9C 第2拡張部材、
91 連結部、
500 手首(肢体)、
510 穿刺部位。
図1
図2
図3
図4