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特開2024-49605化粧シート、化粧板、および化粧板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049605
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】化粧シート、化粧板、および化粧板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/04 20060101AFI20240403BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240403BHJP
   B32B 27/22 20060101ALI20240403BHJP
   C08L 31/08 20060101ALI20240403BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20240403BHJP
   C08K 5/12 20060101ALI20240403BHJP
   B29C 43/20 20060101ALI20240403BHJP
   B27D 5/00 20060101ALI20240403BHJP
   B27D 1/04 20060101ALI20240403BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
B32B27/04 A
B32B27/30 Z
B32B27/22
C08L31/08
C08L27/06
C08K5/12
B29C43/20
B27D5/00
B27D1/04 C
B29C43/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155921
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】岡田 浩道
(72)【発明者】
【氏名】高森 智博
【テーマコード(参考)】
2B002
2B200
4F100
4F204
4J002
【Fターム(参考)】
2B002AA03
2B002BA02
2B002BB04
2B002BB08
2B200AA07
2B200BA16
2B200CA13
2B200EA07
2B200EF11
4F100AK11A
4F100AK13A
4F100AK15A
4F100AK15B
4F100AK22A
4F100BA02
4F100CA04A
4F100CA18A
4F100DG10A
4F100DG11A
4F100EJ172
4F100EJ422
4F100EJ82A
4F100GB07
4F100JB13A
4F100JK17
4F100JL11
4F204AA15
4F204AA36
4F204AC03
4F204AD05
4F204AD08
4F204AG01
4F204AG03
4F204FA01
4F204FB01
4F204FB21
4F204FF01
4F204FG02
4F204FN11
4F204FN15
4F204FN17
4J002BD08X
4J002BF05W
4J002EH146
4J002FD026
4J002GF00
4J002HA03
(57)【要約】
【課題】塩化ビニル系基材表面の保護を簡便に行うことができ、且つ耐屈曲性に優れる化粧シートを提供する。
【解決手段】化粧シート1,1’は、ジアリルフタレート系化合物および塩化ビニル系樹脂を含む熱硬化型樹脂組成物が含浸基材に含浸した樹脂含浸層5または樹脂含浸層5’を備える。化粧板10,10’は、芯材層2と、印刷層3と、塩化ビニル系基材4と、塩化ビニル系基材4上に積層した、樹脂含浸層5または樹脂含浸層5’とをこの順に備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアリルフタレート系化合物および塩化ビニル系樹脂を含む熱硬化型樹脂組成物が含浸基材に含浸した樹脂含浸層を備える、化粧シート。
【請求項2】
前記熱硬化型樹脂組成物はさらに可塑剤を含む請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記可塑剤は、フタル酸系可塑剤および/または脂肪酸エステル系可塑剤である請求項2に記載の化粧シート。
【請求項4】
前記塩化ビニル系樹脂中の粒度150μm以上である塩化ビニル系樹脂の割合は20質量ppm以下である請求項1または2に記載の化粧シート。
【請求項5】
前記塩化ビニル系樹脂中の塩化ビニルに由来する構成単位の含有割合は90質量%以上である請求項1または2に記載の化粧シート。
【請求項6】
前記塩化ビニル系樹脂は塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体であり、前記塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体中の酢酸ビニルに由来する構成単位の含有割合は1~10質量%である請求項1または2に記載の化粧シート。
【請求項7】
塩化ビニル系基材と、前記塩化ビニル系基材上に積層した請求項1または2に記載の化粧シートとを備える化粧板。
【請求項8】
塩化ビニル系基材と、前記塩化ビニル系基材上に、ジアリルフタレート系化合物および塩化ビニル系樹脂を含む熱硬化性組成物が含浸基材に含浸した樹脂含浸層とがこの順に積層した積層体の前記樹脂含浸層側の面に押圧板を重ね合わせ、熱圧成型を施して前記熱硬化性組成物を硬化させる熱圧成型工程と、
前記積層体を冷却する冷却工程と、
前記積層体から圧力を解放する圧力解放工程とをこの順に備える、請求項7に記載の化粧板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シート、化粧板、および化粧板の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、化粧シート、当該化粧シートを備える化粧板、および当該化粧板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル製タイルはゴム汚染に対する耐性や耐熱性に弱い。このため、塩化ビニル製タイルの表面を保護する方法として、塩化ビニル製タイル表面に接着剤を介して熱硬化性樹脂シートを貼り付ける方法や(例えば特許文献1,2)、塩化ビニル製タイル表面に紫外線硬化性樹脂を塗工し紫外線照射により硬化させる方法(例えば特許文献3,4)が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-37443号公報
【特許文献2】特開2002-325661号公報
【特許文献3】特開2020-59811号公報
【特許文献4】国際公開第2015/111500号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、接着剤を使用する方法や紫外線照射を行う方法は、手間や時間、コストがかかる。このため、塩化ビニル系基材表面の保護を簡便に行うことができる方法が求められる。
【0005】
また、塩化ビニル系基材は施工時に繰り返し屈曲される場合がある。この場合には、塩化ビニル系基材表面を保護する層にも屈曲に対する耐性が求められる。
【0006】
従って、本発明の目的は、塩化ビニル系基材表面の保護を簡便に行うことができ、且つ耐屈曲性に優れる化粧シートを提供することにある。また、本発明の目的は、塩化ビニル系基材に上記化粧シートが積層した化粧板を提供することにある。また、本発明の目的は、塩化ビニル系基材表面の保護を簡便に行うことができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、ジアリルフタレート系化合物および塩化ビニル系樹脂を含む熱硬化型樹脂組成物が含浸基材に含浸した樹脂含浸層を備える化粧シートによれば、塩化ビニル系基材表面の保護を簡便に行うことができ、且つ耐屈曲性に優れることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、ジアリルフタレート系化合物および塩化ビニル系樹脂を含む熱硬化型樹脂組成物が含浸基材に含浸した樹脂含浸層を備える、化粧シートを提供する。
【0009】
上記樹脂組成物はさらに可塑剤を含んでいてもよい。
【0010】
上記可塑剤は、フタル酸系可塑剤および/または脂肪酸エステル系可塑剤であることが好ましい。
【0011】
上記塩化ビニル系樹脂中の粒度150μm以上である塩化ビニル系樹脂の割合は20質量ppm以下であることが好ましい。
【0012】
上記塩化ビニル系樹脂中の塩化ビニルに由来する構成単位の含有割合は90質量%以上であることが好ましい。
【0013】
上記塩化ビニル系樹脂は塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体であり、上記塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体中の酢酸ビニルに由来する構成単位の含有割合は1~10質量%であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、塩化ビニル系基材と、上記塩化ビニル系基材上に積層した上記化粧シートとを備える化粧板を提供する。
【0015】
また、本発明は、塩化ビニル系基材と、上記塩化ビニル系基材上に、ジアリルフタレート系化合物および塩化ビニル系樹脂を含む熱硬化性組成物が含浸基材に含浸した樹脂含浸層とがこの順に積層した積層体の上記樹脂含浸層側の面に押圧板を重ね合わせ、熱圧成型を施して上記熱硬化性組成物を硬化させる熱圧成型工程と、
上記積層体を冷却する冷却工程と、
上記積層体から圧力を解放する圧力解放工程とをこの順に備える上記化粧板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の化粧シートを用いることにより、塩化ビニル系基材表面の保護を簡便に行うことができる。また、本発明の化粧シートは耐屈曲性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の化粧板の一実施形態を示す断面図である。
図2】本発明の化粧板の他の一実施形態を示す断面図である。
図3図2に示す化粧板の製造方法の一実施形態を示す図である。
図4】実施例における密着性評価の方法を説明するための断面図である。
図5】実施例における耐屈曲性評価の方法を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[化粧シート]
本発明の化粧シートは、ジアリルフタレート系化合物および塩化ビニル系樹脂を含む熱硬化型樹脂組成物が含浸基材に含浸した樹脂含浸層を少なくとも備える。
【0019】
なお、本明細書において、上記熱硬化型樹脂組成物は、熱により硬化して樹脂を形成する化合物(熱硬化性化合物)を含む組成物および上記熱硬化性化合物を硬化して得られる樹脂(熱硬化済樹脂)を含む組成物の両方を含むものとする。すなわち、上記樹脂含浸層としては、上記熱硬化性化合物を含む組成物が含浸基材に含浸した層(熱硬化前の層、プリプレグ)と、上記組成物中の熱硬化性化合物が硬化した層(熱硬化後の層)とが挙げられる。
【0020】
(樹脂含浸層)
上記樹脂含浸層は、上記熱硬化型樹脂組成物が含浸基材に含浸した層である。上記熱硬化型樹脂組成物は、ジアリルフタレート系化合物および塩化ビニル系樹脂を少なくとも含む。本明細書において、上記樹脂含浸層を「本発明の樹脂含浸層」と称する場合がある。本発明の樹脂含浸層は、単層であっても複層(積層体)であってもよい。また、本発明の樹脂含浸層は、単一の熱硬化型樹脂組成物の層を有するものであってもよいし、異なる複数の熱硬化型樹脂組成物の層を有するもの(多重積層体)であってもよい。
【0021】
上記ジアリルフタレート系化合物としては、ジアリルフタレート系樹脂、ジアリルフタレート系モノマー、ジアリルフタレート系モノマーのオリゴマー(例えば2~3個の重合体)などが挙げられる。上記熱硬化型樹脂組成物が熱硬化性を有する組成物(熱硬化性組成物)である場合、上記ジアリルフタレート系化合物は反応性官能基であるアリル基を有する化合物を含む。上記アリル基を有するジアリルフタレート系化合物としては、アリル基を有するジアリルフタレート系樹脂(プレポリマー)およびジアリルフタレート系モノマーが挙げられる。中でも、アリル基を有するジアリルフタレート系化合物は、上記プレポリマーおよびジアリルフタレート系モノマーを含むことが好ましい。上記熱硬化性組成物は、さらにジアリルフタレート系樹脂を含んでいてもよい。上記熱硬化型樹脂組成物が熱硬化済樹脂を含む組成物(熱硬化済組成物)である場合、上記熱硬化済組成物はジアリルフタレート系樹脂を少なくとも含み、さらに上記プレポリマーや上記ジアリルフタレート系モノマーを含んでいてもよい。上記ジアリルフタレート系化合物は、一種のみを使用してもよいし、二種以上使用してもよい。
【0022】
上記ジアリルフタレート系樹脂、上記プレポリマー、および上記オリゴマーは、ジアリルフタレート系モノマーに由来する構成単位を少なくとも含む。上記ジアリルフタレート系モノマーとしては、例えば、ジアリルオルソフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルテレフタレート等のアリル基を2個有する化合物が挙げられる。
【0023】
上記ジアリルフタレート系モノマーは、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。上記ジアリルフタレート系樹脂および上記プレポリマーのGPCによる重量平均分子量は、10000~50000が好ましい。
【0024】
上記熱硬化型樹脂組成物中のジアリルフタレート系化合物の含有割合は、上記熱硬化型樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、10~95質量%が好ましく、より好ましくは20~90質量%である。上記含有割合が10質量%以上であると、熱圧成型により充分な強度を有する樹脂含浸層を得ることができる。一実施形態において、上記含有割合は、25~50質量%が好ましく、より好ましくは30~45質量%である。また、他の一実施形態において、上記含有割合は、50~85質量%が好ましく、より好ましくは70~80質量%である。
【0025】
上記熱硬化性組成物中の上記ジアリルフタレート系モノマーの含有割合は、上記ジアリルフタレート系化合物の総量(100質量%)に対して、20~80質量%が好ましく、より好ましくは30~70質量%、さらに好ましくは40~60質量%である。
【0026】
上記熱硬化性組成物中の上記プレポリマーの含有割合は、上記ジアリルフタレート系化合物の総量(100質量%)に対して、20~80質量%が好ましく、より好ましくは30~70質量%以上、さらに好ましくは40~60質量%である。
【0027】
上記塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルの単独重合体、塩化ビニルと共重合性モノマーとの共重合体などが挙げられる。上記共重合性モノマーとしては、塩化ビニリデン、エチレン等のオレフィン、酢酸ビニル、アリルエーテル、ビニルエーテル、アクリロニトリルや、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、およびこれらのエステルなどが挙げられる。上記塩化ビニル系樹脂は、一種のみを使用してもよいし、二種以上使用してもよい。
【0028】
上記塩化ビニル系樹脂の共重合体としては、具体的には、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-プロピレン共重合体、塩化ビニル-スチレン共重合体、塩化ビニル-イソブチレン共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-スチレン-無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニル-スチレン-アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル-ブタジエン共重合体、塩化ビニル-イソプレン共重合体、塩化ビニル-塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン-酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル-マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル-メタクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体などが挙げられる。上記共重合体としては、中でも、化粧シートの密着性により優れる観点から、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体が好ましい。
【0029】
上記塩化ビニル系樹脂中の塩化ビニルに由来する構成単位の含有割合は、密着性および耐屈曲性により優れる観点から、上記塩化ビニル系樹脂を構成する全モノマーの総量(100質量%)に対して、50質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0030】
上記共重合体中の共重合性モノマー(特に酢酸ビニル)の割合は、上記共重合体を構成する全モノマーの総量(100質量%)に対して、0.5~20質量%が好ましく、より好ましくは1~10質量%、さらに好ましくは2~7質量%である。上記含有割合が上記範囲内であると、密着性によりいっそう優れる。
【0031】
上記塩化ビニル系樹脂は、密着性および耐屈曲性により優れる観点から、平均重合度が500~2500が好ましく、より好ましくは850~2000、さらに好ましくは1000~1900である。また、上記塩化ビニル系樹脂の粒子径は、0.1~100μmが好ましく、より好ましくは1~50μm、さらに好ましくは1~40μmである。
【0032】
上記塩化ビニル系樹脂のK値は、60以上が好ましく、より好ましくは65以上、さらに好ましくは70以上である。上記K値は例えば80以下である。上記K値は、JIS K7367-2またはISO 1628-2に準拠して測定される。
【0033】
上記塩化ビニル系樹脂のペースト粘度は、1000~6000mPa・sが好ましく、より好ましくは2000~5000mPa・s、さらに好ましくは3000~4000mPa・sである。上記ペースト粘度は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対し可塑剤(フタル酸ジオクチル)60質量部を添加し、JIS K7383、K7117-1に準拠して測定される。
【0034】
上記塩化ビニル系樹脂中の粒径150μm以上である塩化ビニル系樹脂の割合は、塩化ビニル系樹脂の総量に対して、20質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは10質量ppm以下である。
【0035】
上記熱硬化型樹脂組成物中の塩化ビニル系樹脂の含有量は、上記ジアリルフタレート系化合物の総量(100質量部)に対して、3~80質量部が好ましく、より好ましくは5~70質量部である。上記含有割合が3質量部以上であると、密着性および耐屈曲性により優れる。上記含有割合が80質量部以下であると、熱圧成型により充分な強度を有する樹脂含浸層を得ることができる。一実施形態において、上記含有量は、30~70質量部が好ましく、より好ましくは40~60質量部である。また、他の一実施形態において、上記含有量は、5~40質量部が好ましく、より好ましくは10~30質量部である。
【0036】
上記熱硬化型樹脂組成物は、可塑剤を含んでいてもよい。可塑剤を配合することで樹脂含浸層の塩化ビニル系基材に対する密着性により優れる傾向がある。また、樹脂含浸層のタック性を抑制することができる。上記可塑剤は、一種のみを使用してもよく、二種以上を使用してもよい。
【0037】
上記可塑剤としては、特に限定されないが、塩化ビニル系樹脂と組み合わせて使用される公知乃至慣用の可塑剤が挙げられる。上記可塑剤としては、例えば、フタル酸系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、トリメリット酸エステル可塑剤、ポリエーテルエステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、塩素化パラフィン系可塑剤、グルコール酸エステル可塑剤などが挙げられる。中でも、フタル酸系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤が好ましい。
【0038】
上記フタル酸系可塑剤としては、例えば、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジウンデシル等のフタル酸エステル系可塑剤などが挙げられる。上記脂肪酸エステル系可塑剤としては、例えば、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル等のアジピン酸エステル系可塑剤;セバシン酸ジオクチル、セバシン酸ジメチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジカプリル等のセバシン酸エステル系可塑剤;クエン酸エステル系可塑剤などが挙げられる。上記リン酸エステル系可塑剤としては、例えば、トリクレゾールホスフェート、トリブチルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート等のホスフェート系可塑剤などが挙げられる。上記エポキシ系可塑剤としては、例えば、エポキシ化大豆油などが挙げられる。上記トリメリット酸系可塑剤としては、例えば、トリメリット酸トリメチル、トリメリット酸トリス2-エチルヘキシエル、トリメリット酸イソノニルエステル、トリメリット酸イソオクチルなどが挙げられる。上記ポリエーテルエステル系可塑剤としては、例えば、アジピン酸エーテルエステル系可塑剤、エポキシエステル系可塑剤、フタル酸エーテルエステル系可塑剤などが挙げられる。上記ポリエステル系可塑剤としては、例えば、アジピン酸系ポリエステル、フタル酸系ポリエステルなどが挙げられる。
【0039】
上記熱硬化型樹脂組成物中の可塑剤の含有量は、上記ジアリルフタレート系化合物の総量(100質量部)に対して、1~200質量部が好ましく、より好ましくは2~150質量部、さらに好ましくは4~120質量部である。上記含有割合が1質量部以上であると、密着性およびタック抑制性によりいっそう優れる。上記含有割合が200質量部以下であると、熱圧成型により充分な強度を有する樹脂含浸層を得ることができる。一実施形態において、上記含有量は、50~200質量部が好ましく、より好ましくは70~250質量部、さらに好ましくは80~120質量部である。また、他の一実施形態において、上記含有量は、1~50質量部が好ましく、より好ましくは2~40質量部、さらに好ましくは4~30質量部である。
【0040】
上記熱硬化型樹脂組成物には、上記ジアリルフタレート系化合物を架橋するための架橋剤が使用されていてもよい。上記架橋剤は、(メタ)アクリロイル基またはビニル基等の不飽和炭素-炭素二重結合を有する重合性の官能基を少なくとも2つ有する多官能性モノマーや当該多官能性モノマーの重合体などの多官能性化合物が挙げられる。上記架橋剤は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0041】
上記多官能性モノマーとしては、例えば、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、ブチルジ(メタ)アクリレート、ヘキシルジ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレートなどが挙げられる。上記多官能性化合物としては、中でも、分子内に(メタ)アクリロイル基を3個以上有するジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0042】
上記熱硬化型樹脂組成物には、重合開始剤(硬化剤)が使用されていてもよい。上記重合開始剤を用いることにより、ジアリルフタレート系化合物単独での重合よりも硬化速度が速くなり、短時間で充分な硬化度を有する熱硬化済の層を得ることができる。上記重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ターシャリーブチルパーベンゾエイト、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物系硬化剤が挙げられる。
【0043】
上記重合開始剤(上記熱硬化型樹脂が熱硬化済樹脂である場合は上記重合開始剤に由来する構造部)の含有量は、ジアリルフタレート系化合物の総量100質量部に対して、0.1~10質量部が好ましく、より好ましくは0.5~5質量部である。
【0044】
上記熱硬化型樹脂組成物は、上述の各成分以外のその他の成分を含んでいてもよい。上記その他の成分としては、硬化触媒、硬化促進剤、重合禁止剤、離型剤、充填剤、分散剤、増粘剤、粘度調整剤、難燃剤、着色剤(顔料、染料など)、消泡剤、防腐剤、紫外線吸収剤、減耗剤、抗菌剤、レベリング剤、シランカップリング剤などが挙げられる。上記その他の成分は、それぞれ、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0045】
上記離型剤を含むと、熱圧成型時に使用する押圧板に対する離型性がより良好となる。上記離型剤としては、例えば、フッ素系離型剤、シリコーン系離型剤、ワックス系離型剤などが挙げられる。上記離型剤は、一種のみを使用してもよく、二種以上を使用してもよい。
【0046】
上記離型剤の含有量は、ジアリルフタレート系化合物の総量100質量部に対して、0.1~8質量部が好ましく、より好ましくは0.5~5質量部である。上記含有量が0.1質量部以上であると、押圧板に対する離型性がより良好となる。上記含有量が8質量部以下であると、化粧板において樹脂含浸層と塩化ビニル系基材との密着性が良好となる。
【0047】
上記重合禁止剤を含むと、ジアリルフタレート系化合物の反応速度を調整することができ、成型安定性を向上させることができる。上記重合禁止剤としては、公知乃至慣用のものを使用することができ、例えば、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、p-tert-ブチルカテコール、モノ-tert-ブチルハイドロキノン等のハイドロキノン類;ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジ-tert-ブチル-p-クレゾール等のフェノール類;ベンゾキノン、p-ベンゾキノン、ナフトキノン、p-トルキノン等のキノン類;ジ-tert-ブチルヒドロキシトルエン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、ナフテン酸銅等の銅塩;フェノチアジンなどが挙げられる。上記重合禁止剤は、一種のみを使用してもよく、二種以上を使用してもよい。
【0048】
上記重合禁止剤の含有量は、ジアリルフタレート系化合物の総量100質量部に対して、0.005~0.5質量部が好ましく、より好ましくは0.05~0.3質量部、さらに好ましくは0.08~0.15質量部である。上記含有量が上記範囲内であると、化粧板の成型安定性により優れる。
【0049】
上記含浸基材としては、上記熱硬化型樹脂組成物を含浸可能であれば特に限定されないが、例えば、チタン紙、薄葉紙、強化紙、クラフト紙、セルロース紙等の含浸用紙布;ナイロン、ポリエステル、レーヨン、アクリル、ビニロン等の有機繊維若しくはガラス繊維等の無機繊維の織布若しくは不織布などが挙げられる。上記含浸用紙布は印刷されたものであってもよい。上記含浸基材は、単層であってもよく複層であってもよい。
【0050】
上記熱硬化型樹脂組成物の上記含浸基材に対する含浸量は、上記含浸基材の面積当たり、10~500g/m2が好ましく、より好ましくは50~300g/m2である。上記含浸量が10g/m2以上であると、含浸量が充分となり塩化ビニル系基材との密着性が向上する。上記含浸量が500g/m2以下であると、コストを抑えることができる。
【0051】
上記樹脂含浸層の厚さは、特に限定されないが、例えば10~200μmであり、好ましくは20~100μmである。上記厚さが10μm以上であると、熱圧成型時に流れ不良等の不良の発生を抑制することができる。上記厚さが200μm以下であると、樹脂の収縮により成型物の反りを抑制することができる。
【0052】
上記樹脂含浸層は、公知乃至慣用の方法で製造することができ、例えば、以下のようにして作製することができる。まず、熱硬化前の組成物である熱硬化性組成物を準備する。上記熱硬化性組成物は、上記ジアリルフタレート系化合物および上記塩化ビニル系樹脂と、必要に応じて上述した各種成分とを混合して得る。上記熱硬化性組成物が低粘度である場合は上記含浸基材を上記熱硬化性組成物浴へ浸して含浸することができる。上記熱硬化性組成物が高粘度液体や固体である場合は、適当な溶剤、例えばアセトン、トルエン、メチルエチルケトン等の有機溶剤に上記熱硬化性組成物を希釈または溶解して適度な粘度の樹脂液とし、そこへ上記含浸基材を浸した後、乾燥して溶媒を揮発させる。含浸温度は、例えば10~35℃であり、好ましくは20~30℃である。なお、上記含浸基材を上記熱硬化性組成物浴へ浸して行う方法を説明したが、上記含浸は、上記熱硬化性組成物を上記含浸基材表面に塗布し放置して染み込ませて行ってもよい。
【0053】
(化粧シート)
本発明の化粧シートは、上記樹脂含浸層以外のその他の層を備えていてもよい。但し、上記樹脂含浸層は上記塩化ビニル系基材に貼り合わせる面に位置することが好ましい。
【0054】
[化粧板]
本発明の化粧シートを用いて化粧板を作製することができる。上記化粧板は、例えば、塩化ビニル系基材と、当該塩化ビニル系基材の一方の面に設けられた本発明の化粧シートとを備える。より詳細には、上記化粧板は、塩化ビニル系基材と上記樹脂含浸層とが積層された構造を少なくとも有する。
【0055】
上記化粧板は、上述の各層以外にその他の層を備えていてもよい。上記その他の層としては、例えば、化粧板に意匠を付与するための印刷層、上記樹脂含浸層と上記塩化ビニル系基材との密着性を向上させるためのプライマー層、化粧板の形状安定性を付与することなどを目的とした芯材層などが挙げられる。なお、上記樹脂含浸層は上記塩化ビニル系基材に対する密着性に優れるため、上記プライマー層を有しないことが好ましい。熱圧成型時に押圧板を重ね合わせる側となる上記樹脂含浸層表面には、離型層を有しないことが好ましい。
【0056】
図1および図2に、上記化粧板の一実施形態を示す。図1に示す化粧板10は、芯材層2と、印刷層3と、塩化ビニル系基材4と、樹脂含浸層5とをこの順に備える。樹脂含浸層5は、熱硬化性組成物が含浸基材に含浸した熱硬化前の層(プリプレグ)であり、塩化ビニル系基材4の一方の表面に形成されている。
【0057】
図2に示す化粧板10’は、芯材層2と、印刷層3と、塩化ビニル系基材4と、樹脂含浸層5’とをこの順に備える。樹脂含浸層5’は、熱硬化済の熱硬化型樹脂組成物が含浸基材に含浸した層であり、樹脂含浸層5を熱硬化して得られる。
【0058】
(塩化ビニル系基材)
上記塩化ビニル系基材は、塩化ビニル系樹脂を主成分(基材を構成する樹脂中の質量割合が最も高い樹脂)として含む。上記塩化ビニル系樹脂としては、上記樹脂含浸層中に含まれる塩化ビニル系樹脂として例示および説明されたものが挙げられる。上記塩化ビニル系樹脂は、一種のみを使用してもよく、二種以上を使用してもよい。
【0059】
上記塩化ビニル系基材中の塩化ビニル系樹脂の含有割合は、上記塩化ビニル系基材の総量(100質量%)に対して、50質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0060】
上記塩化ビニル系基材の厚さは、特に限定されないが、0.01~10mmが好ましく、より好ましくは0.05~5mmである。
【0061】
上記芯材層としては、化粧板に用いられる公知乃至慣用の芯材層が挙げられる。上記芯材層としては、有機系基材および無機系基材が挙げられる。上記有機系基材としては、例えば、木材単板、合板、集成材、パーティクルボード、中密度繊維板(MDF)、高湿繊維板、ケナフボード等の木質系基材;板紙、織布、不織布、樹脂含浸紙、樹脂含浸布等の繊維質基材;アクリル樹脂板、スチロール樹脂板、ABS樹脂板、ポリカーボネート樹脂板、ナイロン樹脂板、ポリスチレン樹脂板、ポリプロピレン樹脂板、ポリエステル樹脂板、ガラス繊維強化プラスチック板等の合成樹脂基材などが挙げられる。上記無機系基材としては、例えば、アルミニウム板、ステンレス板、ジュラルミン板、鋼板、真鍮板等の金属板基材;酸化マグネシウム板、水酸化アルミニウム板、酸化アルミニウム板、酸化ケイ素板、酸化チタン板、塩化マグネシウム板、珪酸カルシウム板、火山性ガラス質材料板、石膏(硫酸カルシウム)板、スラグ石膏板、石灰石(炭酸カルシウム)板、木毛セメント板、スラグセメント板、軽量気泡コンクリート板、ガラス繊維強化コンクリート板等の無機質基材などが挙げられる。上記芯材層は、単層であってもよいし、同一または異なる層の積層体であってもよい。
【0062】
上記芯材層の厚さは、特に限定されないが、例えば2~50mmであり、好ましくは3~30mmである。上記厚さが2mm以上であると、充分な強度となり割れにくい。上記厚さが50mm以下であると、軽量であり取り扱いが容易である。
【0063】
[化粧シートおよび化粧板の製造方法]
上記熱硬化済の樹脂含浸層を備える化粧板は、塩化ビニル系基材と、上記塩化ビニル系基材上に、上記熱硬化性組成物が含浸基材に含浸した樹脂含浸層(熱硬化前の樹脂含浸層)とがこの順に積層した積層体の上記樹脂含浸層側の面に押圧板を重ね合わせ、熱圧成型を施して上記熱硬化性組成物を硬化させる工程(熱圧成型工程)と、上記積層体を冷却する工程(冷却工程)と、上記積層体から圧力を解放する工程(圧力解放工程)とをこの順に備える方法により製造することができる。
【0064】
本発明の化粧シートおよび化粧板の製造方法の一実施形態について、図3を用いて説明する。まず、上述のように、必要に応じて溶媒により希釈若しくは溶解して作製された熱硬化性組成物を含浸基材に含浸させ、次いで必要に応じて乾燥して溶剤を揮発させ、熱硬化性組成物が含浸基材に含浸した樹脂含浸層5を作製し、化粧シート1を得る。
【0065】
(熱圧成型工程)
次に、化粧シート1を、芯材層2、印刷層3、塩化ビニル系基材4、および化粧シート1(樹脂含浸層5)がこの順になるように積層し、化粧シート1上に押圧板6を重ね合わせ、化粧板10と押圧板6とが積層された積層体を得る(図3(a))。芯材層2、印刷層3、および塩化ビニル系基材4は、予めこれらが積層された基材積層物として用いてもよい。得られた上記積層体は、塩化ビニル系基材4と、塩化ビニル系基材4上に設けられた熱硬化前の樹脂含浸層5とをこの順に備える化粧板10を含む。そして上記積層体を熱盤7および熱盤8間に挟持するように熱圧成型機にセットする。
【0066】
押圧板6としては、成型物の意匠性に合わせて適宜選択することができ、例えば、鏡面板、マット板、エンボス板などが挙げられる。
【0067】
次に、プレス機を用いて、化粧板10を含む上記積層体の上下から、熱盤7,8により加熱しつつ圧力を付加することで熱圧成型を行い、樹脂含浸層5を硬化させて熱硬化済の樹脂含浸層5’を形成し、化粧板10’と押圧板6とが積層された積層体を得る(図3(c))。このように、上記熱圧成型の方法としては、積層熱圧成型法、すなわち、化粧シート1と塩化ビニル系基材4とを重ね合わせ、型に入れて、加熱加圧硬化するのが好ましい。上記熱圧成型は、例えば、圧力10~30kgf/cm2、温度100~160℃、時間30秒~30分の条件で好ましく行うことができる。
【0068】
(冷却工程)
次に、熱圧成型後の上記積層体を冷却する。上記冷却は加圧した状態、例えば熱圧成型時の圧力を維持した状態で行う。上記冷却は、例えば、圧力10~30kgf/cm2、温度10~40℃、時間30秒~1時間の条件で好ましく行うことができる。冷却方法としては、公知乃至慣用の方法で行うことができ、例えば空冷、水冷などが挙げられる。例えば図3(c)に示す状態で熱盤7,8に水を流して冷却する。
【0069】
(圧力解放工程)
室温まで温度が低下した後、上記積層体から圧力を解放する。その後、押圧板6を取り外し、化粧板10’が得られる(図3(d))。
【0070】
本発明の製造方法によれば、加圧下で化粧シートを冷却し、冷却後に圧力解放を行うホット-コールド成型により、樹脂含浸層および塩化ビニル系基材の貼り合わせに接着剤を使用する必要がなく、また紫外線照射を行う必要がなく、樹脂含浸層および塩化ビニル系基材の密着性および耐屈曲性に優れる化粧シートを製造することができる。このため、上記化粧シートを用いることによって、塩化ビニル系基材表面の保護を簡便に行うことができ、耐屈曲性に優れる化粧シートを簡便に製造することができる。
【実施例0071】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0072】
実施例1
<物性評価用樹脂含浸紙の作製>
フタル酸ジイソノニル(DINP、フタル酸エステル系可塑剤、大八化学工業株式会社製)50質量部、塩化ビニル樹脂ペースト(商品名「カネビニール PSL-180」、株式会社カネカ製)25質量部、バリウム亜鉛系安定剤(商品名「アデカスタブ AC-285」、ADEKA製)0.5質量部、ジアリルオルソフタレートプレポリマー(DAP A、株式会社大阪ソーダ製)25質量部、ジアリルフタレートモノマー(DAP Mо、株式会社大阪ソーダ製)25質量部、消泡剤0.1質量部、離型剤0.75質量部、ハイドロキノン(重合禁止剤)0.04質量部、およびベンゾイルパーオキサイド(重合開始剤)3質量部をアセトン100質量部に溶解して樹脂液を調製し、30g/m2のガラス不織布(オリベスト株式会社製、グラベスト、型番「SAS-030」)に含浸して130g/m2の物性評価用樹脂含浸紙を得た。
【0073】
実施例2~10、比較例1~2
樹脂液の組成を表に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして物性評価用樹脂含浸紙を作製した。
【0074】
各実施例および比較例で使用した成分は以下の通りである。
<可塑剤>
DOP:フタル酸ジオクチル、大八化学工業株式会社製
DINP:フタル酸ジイソノニル、大八化学工業株式会社製
DINA:アジピン酸ジイソノニル、大八化学工業株式会社製
<塩化ビニル樹脂ペースト>
PSH-180:商品名「カネビニール PSH-180」、K値:77、ペースト粘度:3000mPa・s、粒度150μmの割合:10質量ppm以下、株式会社カネカ製
PSL-180:商品名「カネビニール PSL-180」、K値:66、ペースト粘度:3000mPa・s、粒度150μmの割合:10質量ppm以下、株式会社カネカ製
PCH-175:商品名「カネビニール PCH-175」、K値:76、ペースト粘度:4000mPa・s、粒度150μmの割合:10質量ppm以下、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル5質量%)株式会社カネカ製
<ジアリルフタレート系化合物>
DAP A:ジアリルオルソフタレートプレポリマー、株式会社大阪ソーダ製
DAP Mo:ジアリルフタレートモノマー、株式会社大阪ソーダ製
<その他>
消泡剤:商品名「SA-50(MODAFLOW Resin)」(アクリル共重合物、allnex社製)とイソプロピルアルコールとの1:1希釈品、ダイソーケミカル株式会社製
離型剤:商品名「INT-11A」、脂肪酸アミドと脂肪族エステルの混合物、AXEL社製
HQ:ハイドロキノン
BPO:ベンゾイルパーオキサイド
【0075】
(評価)
実施例および比較例で得られた各化粧板について以下の通り評価した。評価結果は表に記載した。なお、表中の評価における「-」は、密着性が劣っていたため耐屈曲性の評価を行わなかったことを示す。
【0076】
(1)密着性
<密着性評価用塩化ビニル化粧板の作製>
回遊板の上に、塩化ビニル系透明基材、実施例および比較例で作製した物性評価用樹脂含浸紙、塩化ビニル系透明基材の順でそれぞれ接するようにして載置した。そして、プレス機を用いて圧力を付与し、加熱して熱圧成型を行った。上記熱圧成型は温度135℃、圧力16kgf/cm2とし、15分間行った。その後、圧力をかけたままプレス機熱盤に水を流して30分間冷却後、圧力を解放して、回遊板および塩化ビニル化粧板の積層体をプレス機から取り出し、[塩化ビニル系透明基材/樹脂含浸層(熱硬化済)/塩化ビニル系透明基材]の構成を有する密着性評価用塩化ビニル化粧板を得た。
【0077】
<密着性評価>
図4に示すようにして密着性評価を行った。[塩化ビニル系透明基材41/樹脂含浸層5’/塩化ビニル系透明基材42]の構成を有する密着性評価用塩化ビニル化粧板を2.5cm×10cmにカットして接着剤11により板9に固定し(図4(a))、一方の塩化ビニル系透明基材42を長手方向の端から2cm程剥がし、塩化ビニル系透明基材42の端部とばねばかり12のフック部分とを粘着テープで接着し、ばねばかり12を真上に引き上げて塩化ビニル系透明基材42の剥離を試みた(剥離角度90°)(図4(b))。そして、塩化ビニル系透明基材42の剥離進行が安定した状態におけるばねばかり13が示す値を読み取り、密着強度とした。なお、3.5kg持ち上げた時点で密着性評価用塩化ビニル化粧板が板から剥がれるため、3.5kgが本評価の限界である。
【0078】
(2)耐屈曲性
<耐屈曲性評価用塩化ビニル化粧板の作製>
回遊板の上に、下から、第1バッカー材、第2バッカー材、印刷物、塩化ビニル系透明基材、実施例および比較例で作製した物性評価用樹脂含浸紙の順でそれぞれ接するようにして載置した。そして、プレス機を用いて圧力を付与し、加熱して熱圧成型を行った。上記熱圧成型は温度135℃、圧力16kgf/cm2とし、15分間行った。その後、圧力をかけたままプレス機熱盤に水を流して30分間冷却後、圧力を解放して、回遊板および塩化ビニル化粧板の積層体をプレス機から取り出し、耐屈曲性評価用塩化ビニル化粧板を得た。
【0079】
<耐屈曲性評価>
図5に示すようにして耐屈曲性評価を行った。耐屈曲性評価用塩化ビニル化粧板20を2.5cm×10cmにカットして、長手方向の一端から5cmまでを板13で押さえつけ(図5(a))、物性評価用樹脂含浸紙表面が内側となるように他端を上に引っ張ってシートを徐々に曲げ(谷折り)、屈曲点の様子を観察した(図5(b))。屈曲点にひび割れが見られたら試験を終了し、持ち上げた端部分の地面からの高さを測定し、その長さを耐屈曲性とした。なお、45mm持ち上げた時点で耐屈曲性評価用塩化ビニル化粧板20が垂直となるため、45mmが本評価の限界である。
【0080】
【表1】
【0081】
表に示すように、ジアリルフタレート系化合物および塩化ビニル系樹脂を含む樹脂組成物を含浸した樹脂含浸層を備える化粧シート(実施例)は、塩化ビニル系基材に対する密着性に優れ、接着剤を使用せずまた紫外線照射を行わずに、ホット-コールド成型により簡便に塩化ビニル系基材表面の保護を行うことができた。また、樹脂含浸層が最も屈曲する条件である谷折りの耐屈曲性評価によっても、この化粧板は耐衝撃性に優れると評価された。一方、塩化ビニル系樹脂を含まない樹脂組成物を含浸した樹脂含浸層を備える化粧シート(比較例)は、ホット-コールド成型により得た化粧板において塩化ビニル系基材に対する密着性に劣ると評価された。また、樹脂含浸層表面を指で触ってべとつきを感じるかどうかを確認したところ、実施例9,10で作製した化粧シートの樹脂含浸層表面は、実施例7,8で作製した化粧シートの樹脂含浸層表面に比べてタック性が低下していた。
【0082】
以下、本開示に係る発明のバリエーションを記載する。
[付記1]ジアリルフタレート系化合物および塩化ビニル系樹脂を含む熱硬化型樹脂組成物が含浸基材に含浸した樹脂含浸層を備える、化粧シート。
[付記2]前記熱硬化型樹脂組成物はさらに可塑剤を含む付記1に記載の化粧シート。
[付記3]前記可塑剤は、フタル酸系可塑剤および/または脂肪酸エステル系可塑剤である付記2に記載の化粧シート。
[付記4]前記塩化ビニル系樹脂中の粒度150μm以上である塩化ビニル系樹脂の割合は20質量ppm以下である付記1~3のいずれか1つに記載の化粧シート。
[付記5]前記塩化ビニル系樹脂中の塩化ビニルに由来する構成単位の含有割合は90質量%以上である付記1~4のいずれか1つに記載の化粧シート。
[付記6]前記塩化ビニル系樹脂は塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体であり、前記塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体中の酢酸ビニルに由来する構成単位の含有割合は1~10質量%である付記1~5のいずれか1つに記載の化粧シート。
[付記7]塩化ビニル系基材と、前記塩化ビニル系基材上に積層した付記1~6のいずれか1つの化粧シートとを備える化粧板。
[付記8]塩化ビニル系基材と、前記塩化ビニル系基材上に、ジアリルフタレート系化合物および塩化ビニル系樹脂を含む熱硬化性組成物が含浸基材に含浸した樹脂含浸層とがこの順に積層した積層体の前記樹脂含浸層側の面に押圧板を重ね合わせ、熱圧成型を施して前記熱硬化性組成物を硬化させる熱圧成型工程と、
前記積層体を冷却する冷却工程と、
前記積層体から圧力を解放する圧力解放工程とをこの順に備える、付記7に記載の化粧板の製造方法。
【符号の説明】
【0083】
1,1’化粧シート
2 芯材層
3 印刷層
4 塩化ビニル系基材
41,42 塩化ビニル系透明基材
5 樹脂含浸層(熱硬化前、プリプレグ)
5’樹脂含浸層(熱硬化済)
6 押圧板
7,8 熱盤
9 板
10,10’ 化粧板
11 接着剤
12 ばねばかり
13 板
20 耐屈曲性評価用塩化ビニル化粧板
図1
図2
図3
図4
図5