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特開2024-4962プログラム、情報処理方法、及び情報処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004962
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】プログラム、情報処理方法、及び情報処理装置
(51)【国際特許分類】
   G16H 10/00 20180101AFI20240110BHJP
【FI】
G16H10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104883
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】306008724
【氏名又は名称】富士レビオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 広平
(72)【発明者】
【氏名】藤本 陽
(72)【発明者】
【氏名】中林 武尊
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA03
(57)【要約】
【課題】変異が感染症流行の主流となるか否かを見極めることが可能な指標値を算出するプログラム、情報処理方法、及び情報処理装置を提供すること。
【解決手段】プログラムは、病原体の構成成分であるタンパク質を構成するアミノ酸変異の各日の報告数を取得し、所定期間分の前記報告数の積算値を算出し、算出した積算値の対数値に基づき、流行に関する指標値を算出する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
病原体の構成成分であるタンパク質を構成するアミノ酸変異の各日の報告数を取得し、
所定期間分の前記報告数の積算値を算出し、
算出した積算値の対数値に基づき、流行に関する指標値を算出する
処理をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項2】
前記積算値を、前記報告数の初期値で除した除算値の対数値を、報告数を積算した日数で除した値に、前記除算値を乗じて指標値を算出する
請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
前記指標値を式(1)により算出する
請求項2に記載のプログラム。
【数1】
iは自然数であって、報告数の初期値を観測した日を示す
nは自然数であって、処理対象とする各日を示す
【請求項4】
前記指標値の増加幅に基づき、前記アミノ酸変異が増加傾向であるか否かを判定する
請求項1から請求項3の何れか一項に記載のプログラム。
【請求項5】
処理対象の初日から末日までの前記指標値の増加幅が、所定の閾値を超えた場合に増加傾向と判定する
請求項4に記載のプログラム。
【請求項6】
各日の前記指標値をグラフで表現し、増加傾向と判定した前記アミノ酸変異と、増加傾向でないと判定した前記アミノ酸変異とを識別可能な表示情報を出力する
請求項4に記載のプログラム。
【請求項7】
前記病原体は、ウイルスである
請求項1から請求項3の何れか一項に記載のプログラム。
【請求項8】
前記ウイルスは、SARS-Corona Virus 2である
請求項7に記載のプログラム。
【請求項9】
コンピュータが、
病原体の構成成分であるタンパク質を構成するアミノ酸変異の各日の報告数を取得し、
所定期間分の前記報告数の積算値を算出し、
算出した積算値の対数値に基づき、流行に関する指標値を算出する
処理を実行する情報処理方法。
【請求項10】
病原体の構成成分であるタンパク質を構成するアミノ酸変異の各日の報告数を取得する取得部と
所定期間分の前記報告数の積算値を算出する第1算出部と、
算出した積算値の対数値に基づき、流行に関する指標値を算出する第2算出部と
を備える情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病原体の構成成分であるタンパク質を構成するアミノ酸変異についての指標値を算出するプログラム、情報処理方法、及び情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
病原体SARS-Corona Virus 2(新型コロナウイルス)が原因とされる感染症COVID-19(新型コロナウイルス感染症)などの感染症については、新規変異の対策が重要となっている。新規変異は、感染の有無を検査するためのイムノアッセイなどに使用される抗体や、感染症の治療を行うための抗体医薬に対する反応性の低下などを及ぼすおそれがあるからである。
【0003】
新規変異に対しては、変異調査に基づく変異対策が求められる。変異調査の際、参照又は収集されるのは、感染者サンプルに基づく変異ウイルスのゲノム情報、ゲノムデータベースなどの公共データ、ゲノム情報のデータ解析結果などである。変異対策として行われるのは、変異体タンパク質の組換え生産や、変異体タンパク質に対する既存の抗体の反応性検証などである。
【0004】
感染症の予測と早期警戒のために、特許文献1には、感染症リスクレベル判断の精度を向上させることができる感染症クラス分け予測方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6893259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1には病原体の変異株の流行拡大の予測に関する記述はなく、従来技術では、例えば、特定の感染症が既に流行している状況で、新たに生じた変異を含む変異株の流行拡大を早期に察知することは困難である。特に、病原体が、感染性が高く、変異しやすいウイルスである場合、頻繁に発生する多くの変異のうちどの変異が感染症流行の主流になるのかを早期に予測することは特に困難であった。
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものである。その目的は、所定の変異が感染症流行の主流となるか否かを見極めることが可能な指標値を算出するプログラム、情報処理方法、及び情報処理装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願に開示するプログラムは、病原体の構成成分であるタンパク質を構成するアミノ酸変異の各日の報告数を取得し、所定期間分の前記報告数の積算値を算出し、算出した積算値の対数値に基づき、流行に関する指標値を算出する。
【発明の効果】
【0009】
本願の一態様にあっては、所定の変異が感染症流行の主流となるか否かを見極めることが可能な指標値を算出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】変異株監視システムの構成例を示す説明図である。
図2】情報処理装置の構成例を示す説明図である。
図3】ユーザ端末の構成例を示すブロック図である。
図4】評価対象DBの例を示す説明図である。
図5】情報処理装置が行う前処理の手順例を示すフローチャートである。
図6】情報処理装置が行う判定処理の手順例を示すフローチャートである。
図7】判定結果画面の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下実施の形態を、図面を参照して説明する。図1は変異株監視システムの構成例を示す説明図である。変異株監視システム100は情報処理装置1及びユーザ端末2を含む。変異株監視システム100は、ゲノムの情報源としてゲノムDB(Database)3へのアクセスが可能である。図1において、ユーザ端末2は1台のみ記載しているが、それに限らず、2台以上であってもよい。また、ゲノムDB3は単一のデータベースである必要はなく複数のデータベースから構成されていてもよい。本明細書においては、変異株の監視の対象として、新型コロナウィルスを想定する。
【0012】
図2は情報処理装置の構成例を示す説明図である。情報処理装置1は処理部11、記憶部12及び通信部13を含む。処理部11は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)又はGPU(Graphics Processing Unit)等の演算処理装置、ROM(Read Only Memory)、及び、RAM(Random Access Memory)等を用いて構成されている。処理部11は、記憶部12に記憶されたプログラム1P(プログラム製品)を読み出して実行することにより、種々の処理を行う。
【0013】
記憶部12は、例えばフラッシュメモリ又はEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等の不揮発性のメモリ素子を用いて構成されている。記憶部12は、処理部11が実行する各種のプログラム、及び、処理部11の処理に必要な各種のデータを記憶する。本実施の形態において記憶部12は、処理部11が実行するプログラム1Pを記憶する。また記憶部12は、評価対象DB121を記憶する。
【0014】
本実施の形態においてプログラム1Pは、例えば情報処理装置1の製造段階において記憶部12に書き込まれる。また例えばプログラム1Pは、遠隔のサーバ装置等が配信するものを情報処理装置1が通信にて取得してもよい。また例えばプログラム1Pは、メモリカード又は光ディスク等の記録媒体に記録された態様で提供され、情報処理装置1は記録媒体からプログラム1Pを読み出して記憶部12に記憶してもよい。また例えばプログラム1Pは、記録媒体に記録されたものを書込装置が読み出して情報処理装置1の記憶部12に書き込んでもよい。プログラム1Pは、ネットワークを介した配信の態様で提供されてもよく、記録媒体に記録された態様で提供されてもよい。
【0015】
通信部13は、携帯電話通信網、無線LAN(Local Area Network)又はインターネット等のネットワークNを介して、種々の装置との間で通信を行う。本実施の形態において通信部13は、ユーザ端末2及びゲノムDB3と通信を行なう。通信部13は、処理部11から与えられたデータを他の装置へ送信すると共に、他の装置から受信したデータを処理部11へ与える。
【0016】
情報処理装置1は、サーバコンピュータ、ワークステーション、PC(パーソナルコンピュータ)等で構成する。情報処理装置1を複数のコンピュータからなるマルチコンピュータ、ソフトウェアによって仮想的に構築された仮想マシン又は量子コンピュータで構成してもよい。情報処理装置1が備える全部又は一部の機能をクラウドサービスで提供してもよい。情報処理装置1は液晶パネル等で構成された表示部やキーボード、マウスなどで構成された操作部を含んでもよい。
【0017】
図3はユーザ端末の構成例を示すブロック図である。ユーザ端末2はノートパソコン、パネルコンピュータ、タブレットコンピュータ、スマートフォン等で構成する。ユーザ端末2は制御部21、主記憶部22、補助記憶部23、通信部24、表示パネル25及び操作部26を含む。各構成はバスBで接続されている。
【0018】
制御部21は、一又は複数のCPU、MPU、GPU等の演算処理装置を有する。制御部21は、補助記憶部23に記憶されたプログラム2P(プログラム製品)を読み出して実行することにより、種々の機能を提供する。
【0019】
主記憶部22は、SRAM、DRAM、フラッシュメモリ等である。主記憶部22は主として制御部21が演算処理を実行するために必要なデータを一時的に記憶する。
【0020】
補助記憶部23はハードディスク又はSSD等であり、制御部21が処理を実行するために必要な各種データを記憶する。補助記憶部23はユーザ端末2と別体で、外部接続された外部記憶装置であってもよい。補助記憶部23に記憶する各種DB等を、データベースサーバやクラウドストレージに記憶してもよい。
【0021】
通信部24はネットワークNを介して、情報処理装置1と通信を行う。また、制御部21が通信部24を用い、ネットワークN等を介して他のコンピュータからプログラム2Pをダウンロードし、補助記憶部23に記憶してもよい。
【0022】
表示パネル25は、液晶パネル又は有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等で構成することができる。操作部26は、例えば、表示パネル25に組み込まれたタッチパネルで構成することができ、ユーザが表示パネル25上で行う所定の操作を行うことができる。また、操作部26は、表示パネル25に表示したソフトウェアキーボード上の操作を行うことができる。なお、操作部26は、ハードウェアキーボード、マウスなどでもよい。
【0023】
図4は評価対象DBの例を示す説明図である。評価対象DB121は変異株が主流となるか否かを評価するためのデータを記憶する。評価対象DB121は登録名列、日付列、国名列、変異箇所列、及び報告数列を含む。登録名列は登録された変異株の名称、系統名を記憶する。日付列は報告数が記録された日付を記憶する。国名列は報告をした国名を記憶する。国名列は国名に代えて国名コードを記憶してもよい。変異箇所列はアミノ酸変異した箇所を記憶する。例えば、N501Yは、ウイルスのスパイクタンパク質において受容体結合ドメイン(領域)の501番目のタンパク質がアスパラギン(N)からチロシン(Y)に置き換わっていることを示す。報告数列は一日毎の報告数を記憶する。
【0024】
情報処理装置1の動作について説明する。情報処理装置1の処理部11には、記憶部12に記憶されたプログラム1Pを処理部11が読み出して実行することにより、前処理部11a、取得部11b、第1算出部11c、第2算出部11d、判定部11e及び出力部11f等がソフトウェア的な機能部として実現される。
【0025】
前処理部11aはゲノムDB3から変異株のゲノム情報を取得し、変異株が主流となるか否かを評価するための評価対象データを作成する。ゲノムDB3の一例は、GISAID(Global Initiative on Sharing Avian Influenza Data)のデータベースである。前処理部11aは、GISAIDデータベースに登録されたSARS-Corona Virus 2(新型コロナウイルス)の遺伝子情報と登録情報とを取得する。前処理部11aは、取得した遺伝子情報を元に、Nextcladeを用いたアミノ酸配列への翻訳・アライメントを実行する。Nextcladeは、病原体ゲノムデータの科学的および公衆衛生上の可能性を活用するためのオープンソースプロジェクトNextstrainにより提供されているアプリケーションである。Nextcladeで得られた情報をアミノ酸配列情報とする。前処理部11aは、登録情報とアミノ酸配列情報をもとにデータのマージを行い、評価対象データを作成し、評価対象DB121に記憶する。
【0026】
前処理部11aは、GISAIDより、遺伝子情報と登録情報とを1ヶ月(31日)単位で取得する。ただし、最新の14日間の検証データはGISAIDへの登録の遅延によりデータ数が不足している可能性が高いため、評価対象から除外する。その結果、評価対象データとして用いるデータの期間(ウインドウ区間)は、17日間となる。初期値は最初にデータが報告された日を基準とし、1~6日間に報告がない場合は以降のデータを0として扱う。また、前処理部11aは、各変異箇所および、変異ごとの報告数を日付ごとに整理したものを報告数として、評価対象DB121の報告数列に記憶する。評価対象となり得るデータを1ヶ月分取得する点、最新の14日間のデータは対象外とし、ウインドウ区間を17日間とする点、1~6日に報告がない場合は以降のデータは0として扱う点は、ゲノムDBとして、GISAIDデータベースを用いる場合の例であり、これに限らない。対象外とするデータの期間を、最新14日より短くしてもよいし、長くしてもよい。また、ウインドウ区間も17日間としたが、それに限らない。ウインドウ区間を16日間以下としてもよい、18日以上としてもよい。これらの値は、利用するゲノムデータベースの特徴、特性に応じて定めればよい。
【0027】
取得部11bは、評価対象となる期間の各日の報告数を、評価対象DB121から取得する。
【0028】
第1算出部11cは、各日の報告数を変異毎に積算し、変異毎及び日毎(所定期間分)の積算値(積算データ)を算出する。1日目(初期日)は1日目の報告数が積算値となる。2日目は1日目の報告数と2日目の報告数とを足したものが積算値となる。
【0029】
第2算出部11dが算出する増加指標の算出方法を説明する。まず、積算データの対数値をもとに、7日間~17日間の日毎の傾き(slope)を式(2)により、それぞれ算出する。以下において、Datekは、k日の報告数を示す。
【0030】
【数2】
【0031】
式(2)において、iは最初にデータが報告された日であり、変異毎に傾きslopeを算出する前に定める。nを7から17まで変化させながら、式(2)により7日間~17日間の日毎の傾きslopeを求める。
【0032】
また、初期日(i)の報告数を基に、7~17日の1日毎の増加割合をそれぞれ算出する。
【0033】
【数3】
【0034】
式(3)において、iは最初にデータが報告された日である。nを7から17まで変化させながら、式(3)により7日~17日の1日毎の増加割合を求める。
【0035】
傾きslopeと増加割合とをもとに、7日~17日の1日毎の増加指標(指標値)を、式(4)により求める。
【0036】
【数4】
【0037】
対数の性質から、式(4)を整理すると、以下の式(5)となる。第2算出部11dは、式(5)により、nを7から17まで変化させながら、7日~17日の1日毎の増加指標を求める。
【0038】
【数5】
【0039】
判定部11eは、増加指標の増加幅を算出する。判定部11eは、17日の増加指標から、7日の増加指標を引き、増加幅を算出する。判定部11eは、増加幅が閾値(cutoff値)を超えているか否かを判定する。閾値は例えば、報告数の合計値(合計報告数)の1/20000~1/40000の範囲内の任意の値、好ましくは1/25000~1/35000の範囲内の任意の値、例えば、1/30000とする。判定部11eは、増加幅が閾値を超えている場合、増加傾向であると判定する。判定部11eは、増加幅が閾値以下である場合、増加傾向ではないと判定する。なお、以下の実施例では、閾値(cutoff値)を合計報告数の1/30000としたが、それに限らない。増加傾向であることの検出漏れがなく、検出誤りが少なくなる値であれば、他の値でもよい。
【0040】
出力部11fは、判定結果をユーザ端末2へ出力する。出力部11fは各日の増加指標をグラフで表現し、増加傾向と判定した変異と、増加傾向でないと判定した変異とを識別可能な画面をユーザ端末2へ出力する。
【0041】
図5は情報処理装置が行う前処理の手順例を示すフローチャートである。情報処理装置1の前処理部11aは、ゲノムDB3から遺伝子情報と登録情報とを取得する(ステップS1)。前処理部11aは、取得した遺伝子情報をアミノ酸配列への翻訳・アライメントを実行する(ステップS2)。前処理部11aは、登録情報とアミノ酸配列情報をもとにデータのマージを行い、評価対象データを作成する(ステップS3)。前処理部11aは、作成した評価対象データを評価対象DB121に記憶し(ステップS4)、処理を終了する。
【0042】
図6は情報処理装置が行う判定処理の手順例を示すフローチャートである。情報処理装置1の取得部11bは、評価対象DB121から、評価対象となる期間の各日の報告数を取得する(ステップS11)。情報処理装置1の第1算出部11cは、変異毎及び日毎の積算値を算出する(ステップS12)。情報処理装置1の第2算出部11dは増加指標を算出する(ステップS13)。情報処理装置1の判定部11eは、増加指標の増加幅を算出し、処理対象の変異が増加傾向であるか否かを判定する(ステップS14)。出力部11fは、判定結果(表示情報)をユーザ端末2へ出力し(ステップS15)、処理を終了する。
【0043】
図7は判定結果画面の例を示す説明図である。判定結果画面d01は増加指標グラフd011、データ数/cutoff値グラフd012、一覧表d013を含む。増加指標グラフd011は増加指標のウインドウ区間におけるグラフを示す。横軸はウインドウ区間数である。縦軸は増加指標である。増加指標グラフd011は増加指標の変化量トップ10、すなわち増加量が大きい変異の上位10の増加指標の変化を描画している。図面では表現できないが、cutoff値を超えている変異(グラフd0111)はカラーで描画し、cutoff値以下の変異(グラフd0112)はグレーアウトで描画するのが望ましい。それに限らず、cutoff値を超えている変異とcutoff値以下の変異とが、明確に区別できる描画方法であればよい。データ数/cutoff値グラフd012は解析データ数及びcutoff値の変化推移をグラフで描画している。横軸は日付である。左の縦軸は解析データ数(合計報告数)であり、右の縦軸はcutoff値である。一覧表d013は変異(mutation)と基になった変異体情報を表形式でまとめ、各変異の由来となった変異株(variant)を追跡し、実際の変異株毎の総数を示している。
【0044】
本実施の形態においては、複数のウイルスの変異の中で、流行の主流となる可能性が高い変異を判定することが可能になる。それにより、変異が主流になる前に、既存の抗体が変異体タンパク質に対して反応するかどうかの検証が可能となり、結果に応じて、イムノアッセイキットの改良や作成についても早期に着手可能となる。また、ウイルスタンパク質をターゲットとする既存の抗体医薬や、既存のワクチンの改良や新たなワクチンの作成に早期に着手可能となる。なお、上述の手法では、ウイルスのスパイクタンパク質やヌクレオカプシドタンパク質などのタンパク質の種類に限らず、変異に由来する病原体が増加傾向であるか否かの判定が可能である。
【0045】
例えば、ウイルスタンパク質を検出するために使用されるイムノアッセイキットの場合、データベースで報告された変異を含む変異体タンパク質のすべてについて、変異前のタンパク質を検出するのに使用されていた抗体の反応性を試験することは時間を要し、早期対策の観点から実際的ではない。本発明によれば、流行が予測される変異を含むタンパク質に絞って既存の抗体の反応性の試験を行うことができるので、効率的かつ早期の対策が可能となる。
(実施例)
【0046】
本実施の形態における判定手法が有効であることを確認するため、SARS-Corona Virus 2のデルタ株、オミクロン株での検証を行った。上記で説明した手順に基づいて数式(5)の増加指標を算出した。Cutoff値は報告数の合計値の1/30000とした。
【0047】
デルタ株は、WHO(World Health Organization)で認知された日が2021年3月31日、VOC(Variant of Concern:懸念すべき変異株)に指定された日が同年5月11日であった。デルタ株における変異箇所D63G、R203M、G215Cについて、本実施の形態における増加指標で判定を行ったところ、以下の表1に示すとおり、D63Gは同年3月29日に、R203Mは同年4月19日に、G215Cは同年5月10日に、増加幅が閾値を超えて増加傾向であることが判定できたことが確認された。これらの日はいずれも、WHOがVOCに指定した日よりも前である。
【0048】
【表1】
【0049】
オミクロン株は、WHOで認知された日が2021年11月24日、VOCに指定された日が同年11月26日であった。オミクロン株における変異箇所について、本発明の加増加指標で判定を行った結果が以下の表2に示されている。本増加指標での判定により、増加傾向であると判定された12/13時点でのGISAIDデータベースの登録数(報告数)が3604であることから、パンデミック(パンデミック時は登録数20万以上)に至る前に検知することができていることが確認された。また、オミクロン株の変異箇所毎の判定では、同年11月24日に報告されてから1か月以内に増加傾向であると判定できたことが確認された。さらに、オミクロン株亜型BA.2株に特有の変異(S413R)についてもUKHSAのTechnical Briefing. 36で2021年1月10日に報告されてから4日後には検出ができていることが確認された。
【0050】
【表2】
【0051】
以上の検証により、本発明によれば、感染拡大スピードが非常に早いと言われていたオミクロン株の変異を検出できたのは当然のこと、感染拡大スピードがオミクロン株ほど早くはないデルタ株の変異(D63G、R203M、G215C)も検出できることが実証された。
【0052】
なお、例えば、2021年の1年間で報告された上記のデルタ株及びオミクロン株に由来する変異以外のヌクレオカプシド中のアミノ酸変異は少なくとも3000種類あり、その各々について上記と同様にΔ増加指標を算出したところ、そのほとんどがcutoff値を下回った。cutoff値を下回ったものの中には、各日の報告数を単に積算した値では一見増加傾向にあると思われるものも存在したが、本発明の方法を使用すれば、そのような一見増加傾向にある変異を捕捉することなく、流行拡大につながる可能性が高い変異のみを確実に捕捉することができる。実際にそのような一見増加傾向にあると思われた変異は、所定期間増加傾向にあったもののその後減少し、流行拡大には至っていない。
【0053】
以上の説明では、ウイルスの変異が増加傾向であるか否かを判定する点について述べたが、これに限らない。ウイルス以外の主な病原体、細菌や真菌等についても、同様な手法で、変異が増加傾向であるか否かを判定可能である。なお、ウイルスの例としては、SARS-Corona virus 2(SARS-CoV-2)の他、SARS-Corona virus 1(SARS-CoV-1)、MERS-CoVなどの呼吸器に感染する感染症が主に挙げられる。
【0054】
図1では、変異株監視システム100をクライアントサーバシステムとして表現したが、それに限らない。情報処理装置1及びユーザ端末2を1台の装置としてもよい。
【0055】
各実施の形態で記載されている技術的特徴(構成要件)はお互いに組み合わせ可能であり、組み合わせすることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。さらに、特許請求の範囲には他の2以上のクレームを引用するクレームを記載する形式(マルチクレーム形式)を用いているが、これに限るものではない。マルチクレームを少なくとも一つ引用するマルチクレーム(マルチマルチクレーム)を記載する形式を用いて記載しても良い。
【符号の説明】
【0056】
100 :変異株監視システム
1 :情報処理装置
11 :処理部
11a :前処理部
11b :取得部
11c :第1算出部
11d :第2算出部
11e :判定部
11f :出力部
12 :記憶部
121 :評価対象DB
13 :通信部
1P :プログラム
2 :ユーザ端末
21 :制御部
22 :主記憶部
23 :補助記憶部
24 :通信部
25 :表示パネル
26 :操作部
2P :プログラム
3 :ゲノムDB
B :バス
N :ネットワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7