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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004963
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ボールねじ用の循環駒及びボールねじ
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20240110BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
F16H25/22 C
F16H25/24 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104887
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢部 孝之
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA12
3J062BA16
3J062CD07
3J062CD23
3J062CD54
(57)【要約】
【課題】2部品で構成され、且つボール循環通路40が立体的に湾曲形成されている循環駒であっても、作動性や耐久性を長期間に亘って維持可能な循環駒を提供する。
【解決手段】第1の循環部品20と第2の循環部品30が突き合わされて第1のボール循環溝24と第2のボール循環溝34により形成されるボール循環通路40は、ボール56を掬い上げる掬い上げ部41と、掬い上げ部41を通過するボール56の移動方向を転換する湾曲した方向転換部42とを有する。第2のボール循環溝34は、方向転換部42の少なくともアウトコーナー側において、ボール循環通路40の中心線Cより第1の循環部品20側に延びて形成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、内周面に螺旋状のねじ溝が形成され、外周面に切欠き部が設けられたナットと、前記ねじ軸のねじ溝と前記ナットのねじ溝とで形成される負荷軌道を転動する複数のボールと、を備えるボールねじに用いられ、前記切欠き部に取り付けられて前記負荷軌道を転動する前記ボールを循環させるボール循環通路を形成するボールねじ用の循環駒であって、
前記切欠き部の底壁面に当接するように前記切欠き部内に配置され、前記負荷軌道を転動する前記ボールを掬い上げるタング部と、前記ボール循環通路の一部を構成する第1のボール循環溝とを有する第1の循環部品と、
前記第1の循環部品に覆い被さるように前記切欠き部内に配置され、前記ボール循環通路の他部を構成する第2のボール循環溝を有する第2の循環部品と、
を備え、
前記ボール循環通路は、前記タング部によって前記ボールを掬い上げる掬い上げ部と、前記掬い上げ部を通過する前記ボールの移動方向を転換する湾曲した方向転換部とを有し、
前記第2のボール循環溝を構成する壁は、前記方向転換部の少なくともアウトコーナー側において、前記ボール循環通路の中心線より前記第1の循環部品側に延びて形成される、
循環駒。
【請求項2】
前記第1の循環部品と前記第2の循環部品の突き合わせ面に垂直な方向を前記循環駒の厚さ方向としたとき、
前記方向転換部は、前記循環駒の厚さ方向において、前記第2のボール循環溝の溝底が前記掬い上げ部から離れるにつれて前記第1の循環部品側に近づくように湾曲しており、
前記第2のボール循環溝を構成する壁は、前記方向転換部の少なくともアウトコーナー側において、前記方向転換部の全域に亘って、前記ボール循環通路の中心線より前記第1の循環部品側に延びて形成される、
請求項1に記載の循環駒。
【請求項3】
前記第2のボール循環溝を構成する壁の断面形状は、前記方向転換路において、円弧面と、前記アウトコーナー側における前記円弧面の縁部から連続し、前記第1の循環部品側に延びる平坦面と、を備えるように形成される、請求項1に記載の循環駒。
【請求項4】
前記第1のボール循環溝を構成する壁の断面形状は、前記方向転換部において、前記第2のボール循環溝の前記平坦面に接続する他の平坦面を有するコの字状に形成される、請求項3に記載の循環駒。
【請求項5】
前記第1の循環部品と前記第2の循環部品の突き合わせ面に垂直な方向を前記循環駒の厚さ方向としたとき、
前記第2のボール循環溝は、前記方向転換路において、インコーナー側の縁部が、アウトコーナー側の縁部よりも、前記循環駒の厚さ方向において低い、請求項1に記載の循環駒。
【請求項6】
前記第2の循環部品は、プレス成形で形成される、請求項1に記載の循環駒。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の循環駒を有する、ボールねじ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ用の循環駒及びボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のボールねじとしては、図10に示すものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このボールねじ50は、外周面に螺旋状のねじ溝51を有して軸方向に延びるねじ軸52と、該ねじ軸52のねじ溝51に対応する螺旋状のねじ溝53を内周面に有するナット54と、を備える。ねじ軸52のねじ溝51とナット54のねじ溝53とは互いに対向して両者の間に負荷軌道55を形成しており、該負荷軌道55には転動体としての多数のボール56が転動可能に装填されている。
【0003】
また、ナット54の内部には軸方向に貫通するボール戻し通路57が形成されており、ナット54の軸方向中間部の2か所及び両端部には、ボール戻し通路57の端部が開口する4つの凹部(切欠き部)58がそれぞれ形成されている。4つの凹部58には、ボール戻し通路57と負荷軌道55とを連通するための循環駒60がそれぞれ嵌合固定されている。循環駒60には、ボール戻し通路57と負荷軌道55との間を連通するように湾曲するボール循環通路61が内部に形成されている。したがって、ナット54内には、ボール56の循環路が2回路構成されている。
【0004】
循環駒60は、図11に示すように、ボール56の転動軌跡の中心線上で2つに分割され、それぞれ断面略半円状のボール循環溝64、65が設けられた第1循環駒62と第2循環駒63を突き合わせてボール循環通路61が形成されている。第1循環駒62には、ボール循環溝64の先端に、負荷軌道55からボール56をすくい上げるためのタング部66が設けられている。
【0005】
そして、負荷軌道55、一方の循環駒60のボール循環通路61、ボール戻し通路57、他方の循環駒60のボール循環通路61及び負荷軌道55によってボールの無限循環通路を形成している。ボールねじ50は、ねじ軸52(又はナット54)の回転により、ナット54(又はねじ軸52)がボール56の転動を介して軸方向に移動するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5170330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のボールねじ50は、循環駒60がボール56の転動軌跡の中心線上で2つに分割されているため、作動時にボール56がその突き合わせ面の縁部上を転動し、応力集中による破損が起こる可能性があった。例えば、循環駒60を成型品で形成した場合、突き合わせ面の形状が一致し難く(例えば、寸法が一致しない、波打った形状等で突き合わせ面にスキマや凸凹の部分が発生する)、ボール56が突き合わせ面の縁部に当たると循環駒60が損傷したり、或いはボール56の滑らかな循環が阻害されるという課題があった。
【0008】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、作動性能や耐久性能を長期間に亘って維持可能な、2部品で構成される循環駒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、内周面に螺旋状のねじ溝が形成され、外周面に切欠き部が設けられたナットと、前記ねじ軸のねじ溝と前記ナットのねじ溝とで形成される負荷軌道を転動する複数のボールと、を備えるボールねじに用いられ、前記切欠き部に取り付けられて前記負荷軌道を転動する前記ボールを循環させるボール循環通路を形成するボールねじ用の循環駒であって、
前記切欠き部の底壁面に当接するように前記切欠き部内に配置され、前記負荷軌道を転動する前記ボールを掬い上げるタング部と、前記ボール循環通路の一部を構成する第1のボール循環溝とを有する第1の循環部品と、
前記第1の循環部品に覆い被さるように前記切欠き部内に配置され、前記ボール循環通路の他部を構成する第2のボール循環溝を有する第2の循環部品と、
を備え、
前記ボール循環通路は、前記タング部によって前記ボールを掬い上げる掬い上げ部と、前記掬い上げ部を通過する前記ボールの移動方向を転換する湾曲した方向転換部とを有し、
前記第2のボール循環溝を構成する壁は、前記方向転換部の少なくともアウトコーナー側において、前記ボール循環通路の中心線より前記第1の循環部品側に延びて形成される、
循環駒。
【0010】
(2) (1)に記載の循環駒を有する、ボールねじ。
【発明の効果】
【0011】
本発明の循環駒及びボールねじによれば、ボール循環通路の方向転換路の少なくともアウトコーナー側において、ボールが第1及び第2の循環部品の突き合わせ面の縁部と接触することが抑制され、作動性能や耐久性能を長期間に亘って維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る循環駒を示し、(a)は正面図、(b)は底面図、(c)は側面図、(d)は上面図、(e)は下面図である。
図2図1に示す第1の循環部品を示し、(a)は正面図、(b)は底面図、(c)は側面図、(d)は下面図である。
図3図1に示す第2の循環部品を示し、(a)は底面図、(b)は側面図、(c)は上面図、(d)は下面図である。
図4】循環駒が組み付けられるナットの平面図である。
図5】循環駒が組み付けられるナットの側面図である。
図6】本発明の変形例に係る循環駒を示し、(a)は正面図、(b)は底面図、(c)は側面図、(d)は上面図、(e)は下面図である。
図7図6に示す第1の循環部品を示し、(a)は正面図、(b)は底面図、(c)は側面図、(d)は下面図である。
図8図6に示す第2の循環部品を示し、(a)は底面図、(b)は側面図、(c)は上面図、(d)は下面図である。
図9】プレス成形で形成された他の変形例の第2の循環部品を示し、(a)は側面図、(b)は上面図、(c)は底面図である。
図10】従来のボールねじの断面図である。
図11図10に示す循環駒を分解して示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る循環駒及びボールねじについて図1図5を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態のボールねじに関して、図10及び図11で既に説明した従来のボールねじ50と重複する部分については、各図に同一符号を付して説明を省略する。
即ち、本実施形態の循環駒10が組み付けられるナット54は、図4及び図5に示すように、内周面に螺旋状のねじ溝53が形成されており、外周面には、径方向外側から切り欠かれ、軸方向に対向する2組、合計4個の切欠き部58が形成されている。また、ナット54には、軸方向に対向する2箇所の切欠き部58を連通するようにボール戻し通路57が設けられている。
【0014】
なお、以下の説明においては、循環駒に関して、組み付けられるナットの方向を基準として、X方向、Y方向、及びZ方向について規定している。具体的に、図4及び図5に示すように、X方向は、ナット54の回転軸Oに沿った方向であり、Y方向は、任意の循環駒10が取り付けられる切欠き部58の側壁面58bに沿った循環駒10の挿入方向で、且つ、循環駒10の厚さ方向でもあり、Z方向は、X方向及びY方向の両方に垂直な方向である。
【0015】
図1に示すように、循環駒10は、第1の循環部品20と第2の循環部品30との2部品によって構成される。循環駒10は、第1の循環部品20の突き合わせ面21aと第2の循環部品30の突き合わせ面31aとがY方向に垂直な面をなすように突き合わされてなり、その内部にボール循環通路40を有する。第1の循環部品20の突き合わせ面21aは、後述するナット54に形成された切欠き部58の底壁面58aと当接する面21bと平行に形成されている。このため、第1及び第2の循環部品20、30の突き合わせ面21a、31aは、切欠き部58の底壁面58aと平行となる。
【0016】
ボール循環通路40は、負荷軌道55からタング部25によってボール56を掬い上げる、或いはボール56を負荷軌道55に戻す、直線状の掬い上げ部41と、ボール56の移動方向を転換するように湾曲する方向転換部42とを備え、Y方向視で略L字状に形成されている。また、ボール循環通路40の中心線Cは、掬い上げ部41では、突き合わせ面21a,31aに垂直な循環駒10の厚さ方向(Y方向)における位置が変化しないのに対して、方向転換部42では、ボール戻し通路57と連通するため、Y方向における位置が、掬い上げ部41から離れるにつれて第1の循環部品20側に湾曲して移動している。
【0017】
このようなボール循環通路40は、第1の循環部品20の突き合わせ面21aに形成された第1のボール循環溝24(図2参照)と、第2の循環部品30の突き合わせ面31aに形成された第2のボール循環溝34(図3参照)とによって構成される。
【0018】
第1の循環部品20は、図2に示すように、ナット54の切欠き部58の形状に対応した外形を有し、切欠き部58の底壁面58aに当接する本体部21と、本体部21からZ方向に突出し、負荷軌道55を転動するボール56を掬い上げるタング部25と、を備える。そして、本体部21の突き合わせ面21aには、ボール循環通路40の一部を構成するY方向視で略L字型の第1のボール循環溝24が形成される。
【0019】
第1のボール循環溝24は、タング部25の一面によって形成される、略平坦面な掬い上げ溝22と、掬い上げ溝22から連続して湾曲して形成された方向転換溝23とを備える。
【0020】
掬い上げ溝22は、リード角の方向に沿って直線状に形成されて掬い上げ部41を部分的に構成し、方向転換溝23は、XZ平面で湾曲する共に、YZ平面でも湾曲して方向転換部42を部分的に構成する。方向転換溝23は、断面略コの字状に形成されており、方向転換溝23を構成する壁の断面形状は、後述する第2のボール循環溝34の平坦面35、36の幅と同じ幅を有する他の平坦面26、27と溝底29とを備える。断面略コの字状の方向転換溝23は、掬い上げ部41側端部の溝深さH1からボール戻し通路側端部の溝深さH2まで徐々に深くなるが、いずれもボール56の半径より短い深さとなっている。
【0021】
なお、本実施形態では、掬い上げ溝22は略平坦面、方向転換溝23は、断面略コの字状に形成されているが、本発明はこれに限らず、いずれも断面円弧状であってもよい。ただし、断面円弧状の場合には、当該円弧の曲率半径は、ボール56の半径より大きくして、第2の循環部品の第2のボール循環溝よりも接触面積を小さくして、ボール56を転動させる。
【0022】
また、本体部21において、第1のボール循環溝24と干渉しない位置には、第1の循環部品20をナット54の切欠き部58に固定するためのねじ孔28がY方向に貫通して設けられている。
【0023】
第2の循環部品30は、図3に示すように、ナット54の切欠き部58の形状に対応した外形を有し、薄肉部31bと、突き合わせ面31aをなす厚肉部31cとを持った本体部31を備える。また、第2の循環部品30には、薄肉部31bから厚肉部31cにかけて、ボール循環通路40の他部を構成するY方向視で略L字型の第2のボール循環溝34が形成されている。厚肉部31cは、第1の循環部品20の本体部21と部分的に略等しい外形形状を有している。
【0024】
第2のボール循環溝34は、薄肉部31bからY方向に突出して形成される、断面略円弧状でZ方向に延びる直線溝32と、直線溝32から連続して湾曲して形成された方向転換溝33とを備える。
【0025】
直線溝32は、第1の循環部品20の掬い上げ溝22に対向配置されて掬い上げ部41を部分的に構成し、方向転換溝33は、XZ平面で湾曲すると共に、その溝底33cが直線溝32から離れるにつれて突き合わせ面31aに近づくようにYZ平面でも湾曲して方向転換部42を部分的に構成する。
【0026】
直線溝32は、その溝深さH3がボール56の半径より浅い断面略円弧状に形成されている。
また、厚肉部31cに形成された方向転換溝33は、直線部側の端部の溝深さH4からボール戻し通路側の端部の溝深さH5まで全体に亘ってボール56の半径より深く、断面略U字形に形成されている。換言すれば、方向転換溝33を構成する壁の断面形状は、半円弧状の円弧面39の縁部から法線方向(Y方向)に沿って延びるアウトコーナー側及びインコーナー側の平坦面35、36を有し、ボール循環通路40の中心線Cを超えて第1の循環部品20側まで延設されている。互いに対向する平坦面35、36は、XZ平面において、同一の曲率中心O1を有する円弧に沿って形成されている。
【0027】
このように、方向転換溝33を断面略U字形に形成することで、ボール56は第2のボール循環溝34により案内される。
【0028】
また、本体部31には、薄肉部31b及び厚肉部31cに、第2の循環部品30を後述するナット54の切欠き部58に固定するための一対のねじ孔37が設けられている。
【0029】
このように構成された循環駒10では、第1の循環部品20がナット54の切欠き部58の底壁面58aに当接するように切欠き部58内に配置され、第2の循環部品30が、突き合わせ面21a,31a同士を突き合わせて、第1の循環部品20に覆い被さるように切欠き部58内に配置される。
【0030】
各切欠き部58内には、ナット54のねじ溝53に対応して開口し、その長手方向がねじ溝53のリード角θに沿って径方向に貫通する長孔59が形成されており、第1の循環部品20のタング部25、及び第2の循環部品30の直線溝32も、長孔59内に収容される。また、第2の循環部品30の直線溝32が、長孔59内に収容された際、直線溝32の位置において長孔59の側壁がボール56を支え、ボール循環通路40を形成している。
【0031】
循環駒10は、第1の循環部品20のねじ孔28、及び第2の循環部品30のねじ孔37に挿通された不図示の雄ねじが、底壁面58aの雌ねじ70に螺合されて底壁面58aにねじ固定される。
【0032】
なお、第1の循環部品20及び第2の循環部品30は、この順に切欠き部58内に組付けられてもよいし、第1の循環部品20及び第2の循環部品30を組み付けた状態で、切欠き部58内に組み付けてもよい。
【0033】
このように循環駒10を切欠き部58内に配置することで、負荷軌道55、一方の循環駒10のボール循環通路40、ボール戻し通路57、他方の循環駒10のボール循環通路40、及び負荷軌道55により無限循環通路が形成される。
【0034】
そして、ナット54(又はねじ軸52)が回転すると、ボール56は、負荷軌道55から掬い上げ部41により掬い上げられ、循環駒10の方向転換部42で方向転換され、ナット54に形成されたボール戻し通路57に送り込まれた後、さらに他方の循環駒10から異なる位置の負荷軌道55に戻されて循環する。これにより、ねじ軸52(又はナット54)は、ボール56の転動を介して軸方向に移動する。
【0035】
ボール56は、ボール循環通路40の方向転換部42を通過する際、遠心力により第2の循環部品30のアウトコーナー側の平坦面35で案内されて方向転換する。アウトコーナー側の平坦面35の高さは、ボール循環通路40の中心線Cを超えて延設されているので、ボール56は第1の循環部品20と第2の循環部品30との突き合わせ面21a、31aの縁部に接触することはなく滑らかに通過することができ、作動性能や耐久性能を長期間に亘って維持できる。
【0036】
また、第1の循環部品20の方向転換溝23は、第2のボール循環溝34の平坦面35、36に接続する他の平坦面26、27を備え、ボール56と干渉しない高さを有する断面略コの字形に形成されているので、ボール56の移動が阻害されることはない。さらに、方向転換部42は、YZ平面でも湾曲して形成されているので、掬い上げ部41とボール戻し通路57との間で湾曲していても支障なく接続できる。このため、ボール戻し通路57をナット54の内径側に設けてナット54の小型化が可能となる。
【0037】
(変形例)
次に変形例の循環駒について、図6図8を参照して説明する。本変形例の循環駒10は、第1の循環部品20が方向転換溝23におけるインコーナー側の溝底29の一部と平坦面27(図2参照)を備えておらず、また、第2の循環部品30が方向転換溝33におけるインコーナー側の円弧面39の一部とインコーナー側の平坦面36(図3参照)を備えていない。
したがって、方向転換溝23のインコーナー側の縁部23aが、アウトコーナー側の縁部23bよりも低く形成され、第2の循環部品30の方向転換溝33のインコーナー側の縁部33aが、アウトコーナー側の縁部33bよりも低く形成されている。
【0038】
また、第1の循環部品20の方向転換溝23から除去された部分、即ち、インコーナー側の溝底29の一部と平坦面27、及び第2の循環部品30の方向転換溝33から除去された部分、即ち、インコーナー側の円弧面39の一部とインコーナー側の平坦面36は、ナット54に同形状の加工を施すことで与えられるが、インコーナー側の溝底29の除去された部分と同形状となるようにナット54に加工された部分は、インコーナー側の溝底29の除去されなかった部分と同じ高さか、高さを低くすることにより、ボール56の滑らかな循環を阻害しない。ただし、方向転換溝23から除去されたインコーナー側の溝底29の一部の除去は、除去された部分にボール56が落ちない様にするために、中心線Cまでとすることが好ましい。
このような循環駒10は、駒自体を小型化でき、小リードボールねじのようなナット54の外径をできる限り小さくするために有効である。
【0039】
(他の変形例)
図9は、プレス成形で形成された他の変形例の第2の循環部品30を示す。本変形例の第2の循環部品30は、金属板をプレス成形することで形成され、断面半円弧状の直線溝32と方向転換溝33とが一体に形成されている。ボール56を案内する方向転換溝33のアウトコーナー側の平坦面35は、ボール循環通路40の中心線Cを超えて延設されている。また、変形例と同様に、第2の循環部品30は、インコーナー側の平坦面36(図3参照)を備えていない。また、アウトコーナー側の平坦面35からは、ねじ孔37が設けられたリブ38が延設されている。
【0040】
なお、第1及び第2の循環部品20、30は、プレス成形に限らず、樹脂成型、焼結成形等でも加工可能であるが、大きなサイズのボールねじ50は、第1及び第2の循環部品20、30も大きくなるため、成形時の収縮寸法変化が大きな焼結成形よりもプレス成形で形成することが好ましい。
【0041】
なお、本発明は、前述した実施形態及び各変形例に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
例えば、本実施形態では、無限循環通路の一部としてのボール戻し通路を、2つの循環駒の間でナットに形成したが、2つの切欠き部58の一部を連通させ、各切欠き部58に取り付けられた2つの循環駒が直接連結されるようにしてもよい。
【0042】
また、本発明のボールねじは、例えば、高精度な加工、測定を行う装置の位置決め用途や半導体製造等に使用されるXYステージに用いることができる。また、例えば、工作機械(マシニングセンター、旋盤、研削機等)、測定機械(3次元測定器)、半導体製造装置(露光装置、検査プローブ等のテーブル)等に用いることができる。
【0043】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、内周面に螺旋状のねじ溝が形成され、外周面に切欠き部が設けられたナットと、前記ねじ軸のねじ溝と前記ナットのねじ溝とで形成される負荷軌道を転動する複数のボールと、を備えるボールねじに用いられ、前記切欠き部に取り付けられて前記負荷軌道を転動する前記ボールを循環させるボール循環通路を形成するボールねじ用の循環駒であって、
前記切欠き部の底壁面に当接するように前記切欠き部内に配置され、前記負荷軌道を転動する前記ボールを掬い上げるタング部と、前記ボール循環通路の一部を構成する第1のボール循環溝とを有する第1の循環部品と、
前記第1の循環部品に覆い被さるように前記切欠き部内に配置され、前記ボール循環通路の他部を構成する第2のボール循環溝を有する第2の循環部品と、
を備え、
前記ボール循環通路は、前記タング部によって前記ボールを掬い上げる掬い上げ部と、前記掬い上げ部を通過する前記ボールの移動方向を転換する湾曲した方向転換部とを有し、
前記第2のボール循環溝を構成する壁は、前記方向転換部の少なくともアウトコーナー側において、前記ボール循環通路の中心線より前記第1の循環部品側に延びて形成される、
循環駒。
この構成によれば、ボール循環通路の方向転換路の少なくともアウトコーナー側において、ボールが第1及び第2の循環部品の突き合わせ面の縁部と接触することが抑制され、作動性や耐久性を長期間に亘って維持することができる。
【0044】
(2) 前記第1の循環部品と前記第2の循環部品の突き合わせ面に垂直な方向を前記循環駒の厚さ方向としたとき、
前記方向転換部は、前記循環駒の厚さ方向において、前記第2のボール循環溝の溝底が前記掬い上げ部から離れるにつれて前記第1の循環部品側に近づくように湾曲しており、
前記第2のボール循環溝を構成する壁は、前記方向転換部の少なくともアウトコーナー側において、前記方向転換部の全域に亘って、前記ボール循環通路の中心線より前記第1の循環部品側に延びて形成される、
(1)に記載の循環駒。
この構成によれば、ボール循環通路の方向転換路の全域に亘って、ボールが第1及び第2の循環部品の突き合わせ面の縁部と接触することが抑制され、作動性や耐久性を長期間に亘って維持することができる。
【0045】
(3) 前記第2のボール循環溝を構成する壁の断面形状は、前記方向転換路において、半円状の円弧面と、前記アウトコーナー側における前記円弧面の縁部から連続し、前記第1の循環部品側に延びる平坦面と、を備えるように形成される、(1)または(2)に記載の循環駒。
この構成によれば、方向転換路の少なくともアウトコーナー側において、ボールが第1及び第2の循環部品の突き合わせ面の縁部と接触することが抑制され、作動性や耐久性を長期間に亘って維持できる。
【0046】
(4) 前記第1のボール循環溝を構成する壁の断面形状は、前記方向転換部において、前記第2のボール循環溝の前記平坦面に接続する他の平坦面を有するコの字状に形成される、(3)に記載の循環駒。
この構成によれば、第1のボール循環溝を構成する壁は、循環駒の厚さ方向にボールが移動するのを規制するのみで、ボールと他の平坦面との接触が抑制され、作動性や耐久性を長期間に亘って維持できる。
【0047】
(5) 前記第1の循環部品と前記第2の循環部品の突き合わせ面に垂直な方向を前記循環駒の厚さ方向としたとき、
前記第2のボール循環溝を構成する壁は、前記方向転換路において、インコーナー側の縁部が、アウトコーナー側の縁部よりも、前記循環駒の厚さ方向において低く形成される、(1)~(4)のいずれか1つに記載の循環駒。
この構成によれば、小リードボールねじのような、外径寸法が小さなナットに適用することができ、ボールねじを小型化できる。
【0048】
(6) 前記第2の循環部品は、プレス成形で形成される、(1)~(5)のいずれか1つに記載の循環駒。
この構成によれば、大きなサイズのボールねじであっても、第2の循環部品の製作が容易になる。
【0049】
(7) (1)~(6)のいずれか1つに記載の循環駒を有する、ボールねじ。
この構成によれば、ボールねじの作動性や耐久性が向上する。
【符号の説明】
【0050】
10 循環駒
20 第1の循環部品
21a、31a 突き合わせ面
23a、33a インコーナー側の縁部
23b、33b アウトコーナー側の縁部
24 第1のボール循環溝
25 タング部
26、27 他の平坦面
30 第2の循環部品
33c 溝底
34 第2のボール循環溝
35、36 平坦面
40 ボール循環通路
41 掬い上げ部
42 方向転換部
50 ボールねじ
51 ねじ溝
52 ねじ軸
53 ねじ溝
54 ナット
55 負荷軌道
56 ボール
58 切欠き部
58a 底壁面
C 中心線
図1
図2
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