(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049641
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】振動素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01C 19/5628 20120101AFI20240403BHJP
H03H 3/02 20060101ALI20240403BHJP
H03H 9/19 20060101ALI20240403BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20240403BHJP
H10N 30/082 20230101ALI20240403BHJP
H10N 30/086 20230101ALI20240403BHJP
H03H 9/215 20060101ALN20240403BHJP
【FI】
G01C19/5628
H03H3/02 B
H03H9/19 J
H01L41/09
H01L41/332
H01L41/337
H03H9/215
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155986
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 司
(72)【発明者】
【氏名】山口 啓一
(72)【発明者】
【氏名】白石 茂
(72)【発明者】
【氏名】西澤 竜太
【テーマコード(参考)】
2F105
5J108
【Fターム(参考)】
2F105BB02
2F105BB15
2F105CC01
2F105CD02
2F105CD06
5J108AA09
5J108BB02
5J108CC06
5J108DD05
5J108EE03
5J108KK01
5J108KK02
5J108MM08
5J108MM11
5J108MM14
(57)【要約】
【課題】深さが異なる第1溝および第2溝を容易に形成することのできる振動素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】振動素子の製造方法は、表裏関係にある第1面および第2面を有する水晶基板を準備する準備工程と、水晶基板の振動素子が形成される領域を素子形成領域とし、第1溝が形成される領域を第1溝形成領域とし、第2溝が形成される領域を第2溝形成領域としたとき、第2溝形成領域上に第1保護膜を形成する第1保護膜形成工程と、第1溝形成領域上に第1保護膜よりもエッチングレートの低い第2保護膜を形成する第2保護膜形成工程と、素子形成領域の第1溝形成領域および第2溝形成領域を除く領域上に第3保護膜を形成する第3保護膜形成工程と、第1保護膜、第2保護膜および第3保護膜を介して水晶基板を第1面側からドライエッチングする第1ドライエッチング工程と、を含む。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏関係にある第1面および第2面を有し、前記第1面に開口する有底の第1溝を有する第1振動腕と、前記第1面に開口する有底の第2溝を有する第2振動腕と、を備える振動素子の製造方法であって、
前記第1面および前記第2面を有する水晶基板を準備する準備工程と、
前記水晶基板の前記振動素子が形成される領域を素子形成領域とし、前記第1溝が形成される領域を第1溝形成領域とし、前記第2溝が形成される領域を第2溝形成領域としたとき、前記第2溝形成領域上に第1保護膜を形成する第1保護膜形成工程と、
前記第1溝形成領域上に前記第1保護膜よりもエッチングレートの低い第2保護膜を形成する第2保護膜形成工程と、
前記素子形成領域の前記第1溝形成領域および前記第2溝形成領域を除く領域上に第3保護膜を形成する第3保護膜形成工程と、
前記第1保護膜、前記第2保護膜および前記第3保護膜を介して前記水晶基板を前記第1面側からドライエッチングする第1ドライエッチング工程と、を含むことを特徴とする振動素子の製造方法。
【請求項2】
前記第3保護膜は、前記第1保護膜および前記第2保護膜よりもエッチングレートが低い請求項1に記載の振動素子の製造方法。
【請求項3】
前記第3保護膜は、金属膜である請求項2に記載の振動素子の製造方法。
【請求項4】
前記第1保護膜および前記第2保護膜の少なくとも一方は、金属膜である請求項1に記載の振動素子の製造方法。
【請求項5】
前記第1保護膜および前記第2保護膜の少なくとも一方は、樹脂膜である請求項1に記載の振動素子の製造方法。
【請求項6】
前記振動素子は、前記第1振動腕の前記第2面に開口する第3溝と、前記第2振動腕の前記第2面に開口する第4溝と、を有し、
前記第3溝が形成される領域を第3溝形成領域とし、前記第4溝が形成される領域を第4溝形成領域としたとき、前記第4溝形成領域上に第4保護膜を形成する第4保護膜形成工程と、
前記第3溝形成領域上に前記第4保護膜よりもエッチングレートの低い第5保護膜を形成する第5保護膜形成工程と、
前記素子形成領域の前記第3溝形成領域および前記第4溝形成領域を除く領域上に第6保護膜を形成する第6保護膜形成工程と、
前記第4保護膜、前記第5保護膜および前記第6保護膜を介して前記水晶基板を前記第2面側からドライエッチングする第2ドライエッチング工程と、を含む請求項1に記載の振動素子の製造方法。
【請求項7】
前記振動素子は、角速度を検出する角速度検出素子であり、
前記第1振動腕は、印加される駆動信号に応じて屈曲振動し、
前記第2振動腕は、印加される角速度に応じて屈曲振動する請求項1に記載の振動素子の製造方法。
【請求項8】
前記振動素子は、基部と、前記基部から第1方向の両側に延出する一対の前記第2振動腕と、前記基部から前記第1方向と交差する第2方向の両側に延出する一対の支持腕と、一方の前記支持腕から前記第1方向の両側に延出する一対の前記第1振動腕と、他方の前記支持腕から前記第1方向の両側に延出する一対の前記第1振動腕と、を有する請求項7に記載の振動素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、表面および下面のそれぞれに溝を有する一対の振動腕を備えた水晶振動片の製造方法として、ドライエッチングのマイクロローディング効果を利用して、水晶振動片の外形形状と各振動腕の溝とを一括形成する方法が記載されている。なお、マイクロローディング効果とは、加工幅が狭い密部位と加工幅が広い疎部位とでは、同条件でドライエッチングしても疎部位の方が密部位よりも加工深さが深くなる、つまり、エッチングレートが大きくなる効果を言う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、マイクロローディング効果を利用して外形形状と溝とを一括形成するため、振動腕の幅、振動腕同士の離間距離などの外形形状や、溝の幅、深さなどの溝形状に制約が生じる。そのため、設計自由度が低く、例えば、複数の振動腕に対して、同じ幅で深さが異なる溝を形成することができないという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の振動素子の製造方法は、表裏関係にある第1面および第2面を有し、前記第1面に開口する有底の第1溝を有する第1振動腕と、前記第1面に開口する有底の第2溝を有する第2振動腕と、を備える振動素子の製造方法であって、
前記第1面および前記第2面を有する水晶基板を準備する準備工程と、
前記水晶基板の前記振動素子が形成される領域を素子形成領域とし、前記第1溝が形成される領域を第1溝形成領域とし、前記第2溝が形成される領域を第2溝形成領域としたとき、前記第2溝形成領域上に第1保護膜を形成する第1保護膜形成工程と、
前記第1溝形成領域上に前記第1保護膜よりもエッチングレートの低い第2保護膜を形成する第2保護膜形成工程と、
前記素子形成領域の前記第1溝形成領域および前記第2溝形成領域を除く領域上に第3保護膜を形成する第3保護膜形成工程と、
前記第1保護膜、前記第2保護膜および前記第3保護膜を介して前記水晶基板を前記第1面側からドライエッチングする第1ドライエッチング工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1実施形態に係る振動素子の平面図である。
【
図6】d1=d2のときのd1、d2と感度との関係を示すグラフである。
【
図7】d2/d1と感度との関係を示すグラフである。
【
図8】振動素子の製造方法を示すフローチャートである。
【
図9】振動素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図10】振動素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図11】振動素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図12】振動素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図13】振動素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図14】振動素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図15】振動素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図16】振動素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図17】振動素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図18】振動素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図19】振動素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図20】振動素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図21】振動素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図22】振動素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図23】振動素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図24】振動素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図25】振動素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図26】振動素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図27】振動素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図28】第3実施形態に係る振動素子の製造方法を示すフローチャートである。
【
図29】振動素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図30】振動素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図31】振動素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図32】振動素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図33】振動素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図34】第4実施形態に係る振動素子の製造方法で製造される振動素子を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の振動素子の製造方法を添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0008】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る振動素子の平面図である。
図2は、
図1中のA-A線断面図である。
図3は、
図1中のB-B線断面図である。
図4および
図5は、それぞれ、振動素子の駆動状態を示す概略図である。
図6は、d1=d2のときのd1、d2と感度との関係を示すグラフである。
図7は、d2/d1と感度との関係を示すグラフである。
図8は、振動素子の製造方法を示すフローチャートである。
図9ないし
図27は、それぞれ、振動素子の製造方法を説明するための断面図である。
【0009】
以下では、説明の便宜上、互いに直交する3軸であるX軸、Y軸およびZ軸を図示する。また、X軸に沿う方向をX軸方向、Y軸に沿う方向をY軸方向、Z軸に沿う方向をZ軸方向とも言う。また、各軸の矢印側を「プラス側」とも言い、反対側を「マイナス側」とも言う。また、Z軸方向のプラス側を「上」とも言い、マイナス側を「下」とも言う。また、Z軸方向からの平面視を、単に「平面視」とも言う。
【0010】
まず、本実施形態の振動素子の製造方法により製造される振動素子1について説明する。振動素子1は、Z軸まわりの角速度ωzを検出することができる角速度検出素子である。このような振動素子1は、
図1ないし
図3に示すように、Zカットの水晶基板をパターニングしてなる振動基板2と、振動基板2の表面に成膜された電極3と、を有する。
【0011】
また、振動基板2は、Z軸方向に厚みを有し、X-Y平面に広がる板状であり、表裏関係にある第1面としての上面2aおよび第2面としての下面2bを有する。また、振動基板2は、中央部に位置する基部21と、基部21からY軸方向両側に延出する第2振動腕A2としての一対の検出振動腕22、23と、基部21からX軸方向両側へ延出する一対の支持腕24、25と、一方の支持腕24の先端部からY軸方向両側に延出する第1振動腕A1としての一対の駆動振動腕26、27と、他方の支持腕25の先端部からY軸方向両側に延出する第1振動腕A1としての一対の駆動振動腕28、29と、を有する。そして、基部21において、図示しない支持部材に支持される。
【0012】
このような形状の振動素子1によれば、後述するように、駆動振動モードにおいて駆動振動腕26、27、28、29がバランスよく屈曲振動するため、検出振動腕22、23に不要な振動が生じ難く、角速度ωzを精度よく検出することができる。
【0013】
検出振動腕22は、上面2aに形成された第2溝A21としての有底の溝221と、下面2bに形成された第4溝A22としての有底の溝222と、を有する。溝221、222は、それぞれ、検出振動腕22に沿って形成されている。また、溝221、222は、対称的に形成されている。
【0014】
検出振動腕23は、上面2aに形成された第2溝A21としての有底の溝231と、下面2bに形成された第4溝A22としての有底の溝232と、を有する。溝231、232は、それぞれ、検出振動腕23に沿って形成されている。また、溝231、232は、対称的に形成されている。
【0015】
これら2本の検出振動腕22、23は、互いに同じ構成(形状および寸法)に設計されている。
【0016】
駆動振動腕26は、上面2aに形成された第1溝A11としての有底の溝261と、下面2bに形成された第3溝A12としての有底の溝262と、を有する。溝261、262は、それぞれ、駆動振動腕26に沿って形成されている。また、溝261、262は、対称的に形成されている。
【0017】
駆動振動腕27は、上面2aに形成された第1溝A11としての有底の溝271と、下面2bに形成された第3溝A12としての有底の溝272と、を有する。溝271、272は、それぞれ、駆動振動腕27に沿って形成されている。また、溝271、272は、対称的に形成されている。
【0018】
駆動振動腕28は、上面2aに形成された第1溝A11としての有底の溝281と、下面2bに形成された第3溝A12としての有底の溝282と、を有する。溝281、282は、それぞれ、駆動振動腕28に沿って形成されている。また、溝281、282は、対称的に形成されている。
【0019】
駆動振動腕29は、上面2aに形成された第1溝A11としての有底の溝291と、下面2bに形成された第3溝A12としての有底の溝292と、を有する。溝291、292は、それぞれ、駆動振動腕29に沿って形成されている。また、溝291、292は、対称的に形成されている。
【0020】
これら4本の駆動振動腕26、27、28、29は、互いに同じ構成(形状および寸法)に設計されている。
【0021】
電極3は、第1検出信号電極31と、第1検出接地電極32と、第2検出信号電極33と、第2検出接地電極34と、駆動信号電極35と、駆動接地電極36と、を有する。このうち、第1検出信号電極31は、検出振動腕22の上面2aおよび下面2bに配置され、第1検出接地電極32は、検出振動腕22の両側面に配置されている。また、第2検出信号電極33は、検出振動腕23の上面2aおよび下面2bに配置され、第2検出接地電極34は、検出振動腕23の両側面に配置されている。また、駆動信号電極35は、駆動振動腕26、27の上面2aおよび下面2bと、駆動振動腕28、29の両側面と、に配置されている。また、駆動接地電極36は、駆動振動腕26、27の両側面と、駆動振動腕28、29の上面2aおよび下面2bと、に配置されている。
【0022】
以上、振動素子1の構成について簡単に説明した。このような構成の振動素子1は、次のようにしてZ軸まわりの角速度ωzを検出する。
【0023】
駆動信号電極35と駆動接地電極36との間に駆動信号を印加すると、
図4に示すように、駆動振動腕26、27と駆動振動腕28、29とがX軸方向に逆相で屈曲振動する(以下、この状態を「駆動振動モード」とも言う)。なお、この状態では、駆動振動腕26、27、28、29の振動がキャンセルされ、検出振動腕22、23は、振動しない。駆動振動モードで駆動している状態で振動素子1に角速度ωzが加わると、
図5に示すように、駆動振動腕26、27、28、29にコリオリの力が働いてY軸方向の屈曲振動が励振され、この屈曲振動に呼応するように検出振動腕22、23がX軸方向に屈曲振動する(以下、この状態を「検出振動モード」とも言う)。
【0024】
このような屈曲振動によって検出振動腕22に発生した電荷を第1検出信号電極31から第1検出信号として取り出し、検出振動腕23に発生した電荷を第2検出信号電極33から第2検出信号として取り出し、これら第1、第2検出信号に基づいて角速度ωzが求められる。なお、第1、第2検出信号は、互いに逆相の信号であるため、差動検出方式を用いることで、より精度よく角速度ωzを検出することができる。
【0025】
次に、検出振動腕22、23に形成された溝と、駆動振動腕26、27、28、29に形成された溝との関係について説明する。なお、前述したように、各検出振動腕22、23は、互いに同様の構成であり、各駆動振動腕26、27、28、29は、互いに同様の構成である。したがって、以下では、説明の便宜上、検出振動腕22、23を総称して第2振動腕A2とし、駆動振動腕26、27、28、29を総称して第1振動腕A1として説明する。
【0026】
前述したように、第1振動腕A1は、上面2aに形成された第1溝A11と、下面2bに形成された第3溝A12と、を有する。また、第2振動腕A2は、上面2aに形成された第2溝A21と、下面2bに形成された第4溝A22と、を有する。そのため、第1振動腕A1および第2振動腕A2の断面形状は、それぞれ、H型となる。このような構成によれば、第1、第2振動腕A1、A2の屈曲振動時の熱伝達経路を長くすることができ、熱弾性損失が低減され、Q値が高まる。さらには、第1、第2振動腕A1、A2が柔らかくなり、これらがX軸方向に屈曲変形し易くなる。そのため、駆動振動モードでの第1振動腕A1の振幅を大きくすることができる。第1振動腕A1の振幅が大きいほどコリオリ力が大きくなり、検出振動モードでの第2振動腕A2の振幅がより大きくなる。そのため、より大きな検出信号が得られ、角速度ωzの検出感度が高まる。
【0027】
以下、
図2に示すように、第1振動腕A1の厚さをt1、第1振動腕A1の第1、第3溝A11、A12の深さをd1とし、第2振動腕A2の厚さをt2、第2、第4溝A21、A22の深さをd2として、d2/t2とd1/t1との関係について詳細に説明する。なお、d1は、第1、第3溝A11、A12の深さの合計である。本実施形態では、第1、第3溝A11、A12が対称的に形成されているため、第1、第3溝A11、A12の深さは、それぞれ、d1/2である。同様に、d2は、第2、第4溝A21、A22の深さの合計である。本実施形態では第2、第4溝A21、A22が対称的に形成されているため、第2、第4溝A21、A22の深さは、それぞれ、d2/2である。
【0028】
図6に、d1、d2(ただし、d1=d2)と角速度ωzの検出感度(感度)との関係を示す。なお、振動基板2の板厚つまりt1、t2は、100μmである。また、検出感度は、d1、d2が60μmのときの検出感度を1とした比で表している。同図から分かるように、d1、d2が深くなるほど検出感度が高まっている。しかしながら、d1、d2を90μm(板厚の90%)としても、d1、d2が60μm(板厚の60%)のときと比較して検出感度が1.09倍にしか高まっていない。このことから、d1=d2である場合、d1、d2を大きくしても検出感度が高まり難いことが分かる。
【0029】
次に、
図7に、d2/d1と検出感度との関係を示す。なお、振動基板2の板厚つまりt1、t2は、100μmである。また、検出感度は、従来の構成であるd2/d1=1のときの検出感度を1とした比で表している。同図から分かるように、d2/d1が大きくなるほど検出感度が高まっている。すなわち、第1振動腕A1の第1、第3溝A11、A12に対して、第2振動腕A2の第2、第4溝A21、A22が深くなるほど検出感度が高まっている。そして、d2/d1>1の領域で、従来の構成よりも検出感度を高められることが分かる。
【0030】
したがって、振動素子1では、d2/d1>1、つまり、d2/t2>d1/t1を満足している。つまり、第1、第3溝A11、A12は、第2、第4溝A21、A22よりも浅い。これにより、従来の構成よりも検出感度を高めることができ、従来の構成では到達することのできない検出感度を得ることができる。
【0031】
以上、振動素子1の全体構成について説明した。次に、振動素子1の製造方法について説明する。ここでも、駆動振動腕26、27、28、29を総称して第1振動腕A1として説明し、検出振動腕22、23を総称して第2振動腕A2として説明する。振動素子1の製造方法は、
図8に示すように、準備工程S1と、第1保護膜形成工程S2と、第2保護膜形成工程S3と、第3保護膜形成工程S4と、第1ドライエッチング工程S5と、第4保護膜形成工程S6と、第5保護膜形成工程S7と、第6保護膜形成工程S8と、第2ドライエッチング工程S9と、電極形成工程S10と、を含む。以下、
図2に対応する断面図を用いて、これら各工程について順に説明する。
【0032】
[準備工程S1]
まず、
図9に示すように、振動基板2の母材であるZカットの水晶基板200を準備する。水晶基板200は、表裏関係にある第1面としての上面2aおよび第2面としての下面2bを有する。水晶基板200は、振動基板2よりも大きく、水晶基板200から複数の振動基板2を形成することができる。水晶基板200は、ランバード加工された人工水晶をZカットで切断することにより得られる水晶ウエハーを用いることができる。
【0033】
なお、以下では、振動基板2が形成される領域を素子形成領域Q1、素子形成領域Q1外の領域を除去領域Q2、第1溝A11が形成される領域を第1溝形成領域Qm1、第2溝A21が形成される領域を第2溝形成領域Qm2、第3溝A12が形成される領域を第3溝形成領域Qm3、第4溝A22が形成される領域を第4溝形成領域Qm4、ともいう。
【0034】
次に、必要に応じて、水晶基板200の両面に対して厚み調整および平坦化のための研磨加工を行う。このような研磨加工は、ラッピング加工とも呼ばれる。例えば、上下一対の定盤を備えるウエハー研磨装置を用いて、互いに逆向きに回転する定盤の間で水晶基板200を挟み込み、水晶基板200を回転させると共に研磨液を供給しながら、水晶基板200の両面を研磨する。なお、研磨加工では、上述のラッピング加工に続けて、必要に応じて水晶基板200の両面に対して鏡面研磨加工を行ってもよい。このような研磨加工は、ポリッシング加工とも呼ばれる。これにより、水晶基板200の両面を鏡面化することができる。
【0035】
[第1保護膜形成工程S2]
次に、
図10に示すように、水晶基板200の表面に下地膜Lを成膜する。下地膜Lは、例えば、クロム(Cr)等の金属材料で構成されている。ただし、下地膜Lの構成材料は、特に限定されないし、下地膜Lを省略してもよい。
【0036】
次に、
図11に示すように、水晶基板200の上面2a上に第1保護膜41を塗布し、露光および現像を用いたフォトリソグラフィー技法でパターニングする。これにより、第2溝形成領域Qm2上に形成された第1保護膜41が得られる。なお、第1保護膜41は、ポジ型のフォトレジストつまり樹脂膜である。また、塗布方法としては、例えば、スピンコート法やスプレーコート法などを用いることができる。第1保護膜41を樹脂膜とすることで、フォトリソグラフィー技法を用いて容易にパターニングすることができる。そのため、第1保護膜41の形成が容易となる。ただし、第1保護膜41の構成は、特に限定されず、例えば、ネガ型のフォトレジストであってもよい。また、第1保護膜41は、後述する第2実施形態のような金属膜であってもよい。
【0037】
[第2保護膜形成工程S3]
次に、
図12に示すように、水晶基板200の上面2a上に第2保護膜42を塗布し、露光および現像を用いたフォトリソグラフィー技法でパターニングする。これにより、第1溝形成領域Qm1上および除去領域Q2上に形成された第2保護膜42が得られる。なお、第2保護膜42は、ポジ型のフォトレジストつまり樹脂膜である。また、塗布方法としては、例えば、スピンコート法やスプレーコート法などを用いることができる。このように、第2保護膜42を樹脂膜とすることで、フォトリソグラフィー技法を用いて容易にパターニングすることができる。そのため、第2保護膜42の形成が容易となる。ただし、第2保護膜42の構成は、特に限定されず、例えば、ネガ型のフォトレジストであってもよい。また、第2保護膜42は、後述する第2実施形態のような金属膜であってもよい。
【0038】
このような第2保護膜42は、第1保護膜41よりもエッチングレートが低い。これにより、後述するように、第1ドライエッチング工程S5において、深さの異なる第1溝A11および第2溝A21を一括して形成することができる。
【0039】
[第3保護膜形成工程S4]
次に、
図13に示すように、第1保護膜41および第2保護膜42を介して上面2a上に第3保護膜43を成膜する。これにより、素子形成領域Q1の第1溝形成領域Qm1および第2溝形成領域Qm2を除く領域上に第3保護膜43が形成される。第3保護膜43は、金属材料で構成された金属膜である。これにより、優れたエッチング耐性を発揮することができる。特に、本実施形態では、第3保護膜43は、ニッケル(Ni)で構成されており、無電解ニッケルめっきにより成膜されている。これにより、第3保護膜43の成膜が容易となる。ただし、第3保護膜43の構成材料および成膜方法は、特に限定されない。
【0040】
次に、
図14に示すように、除去領域Q2上に位置する第2保護膜42を除去する。以上により、素子形成領域Q1の第1溝形成領域Qm1および第2溝形成領域Qm2を除く領域上に形成された第3保護膜43と、第1溝形成領域Qm1上に形成された第2保護膜42と、第2溝形成領域Qm2上に形成された第1保護膜41と、からなるマスクM1が得られる。なお、マスクM1を得ることができれば、第1保護膜形成工程S2、第2保護膜形成工程S3および第3保護膜形成工程S4の順序は、特に限定されない。例えば、第2保護膜形成工程S3、第1保護膜形成工程S2および第3保護膜形成工程S4の順で行ってもよい。
【0041】
このうち、第2溝形成領域Qm2上の第1保護膜41は、後述する第1ドライエッチング工程S5において所定のエッチングレートでエッチングされ、所定時刻T1において水晶基板200上から除去されるように構成されている。言い換えると、第1保護膜41は、所定時刻T1において水晶基板200上から除去されるように、材料および膜厚が設定されている。同様に、第1溝形成領域Qm1上の第2保護膜42は、後述する第1ドライエッチング工程S5において所定のエッチングレートでエッチングされ、所定時刻T1よりも遅い所定時刻T2において水晶基板200上から除去されるように構成されている。言い換えると、第2保護膜42は、所定時刻T2において水晶基板200上から除去されるように、材料および膜厚が設定されている。なお、本実施形態では、第1保護膜41と第2保護膜42とが同じ膜厚であるが、両者の膜厚は、異なっていてもよい。
【0042】
これに対して、第3保護膜43は、次の第1ドライエッチング工程S5の終了時まで残存する。そのため、本実施形態の第3保護膜43は、第1保護膜41および第2保護膜42よりもエッチングレートが低い。これにより、より確実に、第1ドライエッチング工程S5終了時まで第3保護膜43を残存させることができる。また、第3保護膜43を薄くすることができ、第3保護膜43の成膜に要する時間やコストを削減することができる。
【0043】
[第1ドライエッチング工程S5]
次に、上面2a側からマスクM1を介して水晶基板200をドライエッチングする。ドライエッチングによれば、水晶の結晶面の影響を受けずに加工することができるため、優れた寸法精度を実現することができる。なお、ドライエッチングは、反応性イオンエッチングであり、RIE(リアクティブイオンエッチング)装置を用いて行われる。また、RIE装置に導入される反応ガスとしては、特に限定されないが、例えば、SF6、CF4、C2F4、C2F6、C3F6、C4F8等を用いることができる。
【0044】
本工程を開始すると、まず、
図15に示すように、マスクM1から露出している除去領域Q2のエッチングが開始される。つまり、まず、振動基板2の外形形状の形成が開始される。そして、そのままエッチングが進むと、所定時刻T1において、
図16に示すように、第2溝形成領域Qm2上の第1保護膜41および下地膜Lが無くなり、それと同時に第2溝形成領域Qm2のエッチングが開始される。これにより、振動基板2の外形形状に遅れて、第2溝A21の形成が開始される。さらに、そのままエッチングが進むと、所定時刻T2において、
図17に示すように、第1溝形成領域Qm1上の第2保護膜42および下地膜Lが無くなり、それと同時に第1溝形成領域Qm1のエッチングが開始される。これにより、第2溝A21に遅れて、第1溝A11の形成が開始される。
【0045】
そして、
図18に示すように、第1溝A11および第2溝A21が共に所定深さとなった時刻T3においてドライエッチングを終了する。これにより、第1溝A11および第2溝A21が一括して形成される。なお、時刻T3では、除去領域Q2のエッチング深さが水晶基板200の厚さの半分以上に達している。つまり、本実施形態では、第1溝A11および第2溝A21が同時に所定深さとなり、かつ、その時の除去領域Q2のエッチング深さが水晶基板200の厚さの半分以上に達するように、第1保護膜41および第2保護膜42の材料および膜厚が設計されている。
【0046】
このように、本工程では、第2溝形成領域Qm2上の第1保護膜41および第1溝形成領域Qm1上の第2保護膜42が順に除去され、除去領域Q2、第2溝形成領域Qm2および第1溝形成領域Qm1の順にドライエッチングが開始される。そのため、第2溝形成領域Qm2のエッチング深さは、除去領域Q2のエッチング深さよりも浅くなり、第1溝形成領域Qm1のエッチング深さは、第2溝形成領域Qm2のエッチング深さよりも浅くなる。したがって、深さの違う第1溝A11および第2溝A21を1工程において一括形成することができ、第1溝A11および第2溝A21の形成が容易となる。
【0047】
また、このような工程によれば、第1保護膜41および第2保護膜42の材料および膜厚により所定時刻T1、T2を制御することができるため、容易かつ精度よく、除去領域Q2、第2溝形成領域Qm2および第1溝形成領域Qm1のエッチング深さをそれぞれ独立して制御することができる。したがって、第1溝A11および第2溝A21の深さをそれぞれ自由に設定することができる。
【0048】
以上、水晶基板200を上面側からエッチングする工程が終了する。以下の工程S6~S9は、水晶基板200を下面側からエッチングする工程であり、前述した工程S2~S5と同様である。そのため、工程S6~S9と重複する部分については、説明を省略する。
【0049】
[第4保護膜形成工程S6]
次に、
図19に示すように、水晶基板200の下面2b上に第4保護膜44を塗布し、露光および現像を用いたフォトリソグラフィー技法でパターニングする。これにより、第4溝形成領域Qm4上に形成された第4保護膜44が得られる。第4保護膜44は、前述した第1保護膜41と同様の構成である。
【0050】
[第5保護膜形成工程S7]
次に、
図20に示すように、水晶基板200の下面2b上に第5保護膜45を塗布し、露光および現像を用いたフォトリソグラフィー技法でパターニングする。これにより、第3溝形成領域Qm3上および除去領域Q2上に形成された第5保護膜45が得られる。第5保護膜45は、前述した第2保護膜42と同様の構成である。
【0051】
また、第5保護膜45は、第4保護膜44よりもエッチングレートが低い。これにより、後述するように、第2ドライエッチング工程S9において、深さの異なる第3溝A12および第4溝A22を一括して形成することができる。
【0052】
[第6保護膜形成工程S8]
次に、
図21に示すように、第4保護膜44および第5保護膜45を介して下面2b上に第6保護膜46を成膜する。これにより、素子形成領域Q1の第3溝形成領域Qm3および第4溝形成領域Qm4を除く領域上に第6保護膜46が形成される。第6保護膜46の構成は、前述した第3保護膜43と同様である。
【0053】
次に、
図22に示すように、除去領域Q2上に位置する第5保護膜45を除去する。以上により、素子形成領域Q1の第3溝形成領域Qm3および第4溝形成領域Qm4を除く領域上に形成された第6保護膜46と、第3溝形成領域Qm3上に形成された第5保護膜45と、第4溝形成領域Qm4上に形成された第4保護膜44と、からなるマスクM2が得られる。なお、マスクM2を得ることができれば、第4保護膜形成工程S6、第5保護膜形成工程S7および第6保護膜形成工程S8の順序は、特に限定されない。例えば、第5保護膜形成工程S7、第4保護膜形成工程S6および第6保護膜形成工程S8の順で行ってもよい。
【0054】
このうち、第4保護膜44は、次の第2ドライエッチング工程S9において所定のエッチングレートでエッチングされ、所定時刻T4において水晶基板200上から除去されるように構成されている。同様に、第5保護膜45は、次の第2ドライエッチング工程S9において所定のエッチングレートでエッチングされ、所定時刻T4よりも遅い所定時刻T5において水晶基板200上から除去されるように構成されている。なお、本実施形態では、第4保護膜44と第5保護膜45とが同じ膜厚であるが、両者の膜厚は、異なっていてもよい。
【0055】
これに対して、第6保護膜46は、次の第2ドライエッチング工程S9の終了時まで残存する。そのため、本実施形態の第6保護膜46は、第4保護膜44および第5保護膜45よりもエッチングレートが低い。これにより、より確実に、第2ドライエッチング工程S9終了時まで第6保護膜46を残存させることができる。また、第6保護膜46を薄くすることができ、第6保護膜46の成膜に要する時間やコストを削減することもできる。
【0056】
[第2ドライエッチング工程S9]
次に、下面2b側からマスクM2を介して水晶基板200をドライエッチングする。本工程を開始すると、まず、
図23に示すように、マスクM2から露出している除去領域Q2のエッチングが開始される。これにより、振動基板2の外形形状の形成が開始される。そのままエッチングが進むと、
図24に示すように、所定時刻T4において、第4溝形成領域Qm4上の第4保護膜44および下地膜Lが無くなり、それと同時に第4溝形成領域Qm4のエッチングが開始される。これにより、振動基板2の外形形状に遅れて、第4溝A22の形成が開始される。さらに、そのままエッチングが進むと、
図25に示すように、所定時刻T5において、第3溝形成領域Qm3上の第5保護膜45が無くなり、それと同時に第3溝形成領域Qm3のエッチングが開始される。これにより、第4溝A22に遅れて、第3溝A12の形成が開始される。
【0057】
そして、
図26に示すように、第3溝A12および第4溝A22が共に所定深さとなった時刻T6においてドライエッチングを終了する。これにより、第3溝A12および第4溝A22が一括形成される。なお、時刻T6では、除去領域Q2において水晶基板200を貫通しており、振動基板2の外形形状が完成している。これにより、振動基板2の外形形状を完成させるためのさらなるドライエッチング工程が不要となるため、振動素子1の製造工程の削減、振動素子1の低コスト化を図ることができる。
【0058】
以上により、水晶基板200から複数の振動基板2が得られる。
【0059】
[電極形成工程S10]
次に、水晶基板200から不要な膜、具体的には第3保護膜43、第6保護膜46および下地膜Lを除去した後、
図27に示すように、振動基板2の表面に電極3を形成する。ただし、下地膜Lは、そのまま振動基板2の表面に残しておいてもよい。また、電極3の形成方法としては、特に限定されないが、例えば、振動基板2の表面に金属膜を成膜し、この金属膜をフォトリソグラフィー技法およびエッチング技法を用いてパターニングすることにより形成することができる。
【0060】
以上により、振動素子1が得られる。このような製造方法によれば、マイクロローディング効果を利用しないため、振動基板2の形状や寸法の制約や、ドライエッチングに用いる反応ガスの選択などのドライエッチング条件の制約が緩和される。したがって、設計自由度の高い振動素子1を容易かつ高精度に製造することができる。また、本実施形態では、第2ドライエッチング工程S9までは水晶基板200の除去領域Q2が貫通せず、水晶基板200の機械的強度を十分に高く維持することができる。つまり、水晶基板200の機械的強度が高いままの状態で、終盤に位置する第2ドライエッチング工程S9までの各工程を行うことができる。そのため、ハンドリング性が高まり、振動素子1の製造が容易となる。
【0061】
以上、振動素子の製造方法について説明した。このような振動素子の製造方法は、前述したように、表裏関係にある第1面としての上面2aおよび第2面としての下面2bを有し、上面2aに開口する有底の第1溝A11を有する第1振動腕A1と、上面2aに開口する有底の第2溝A21を有する第2振動腕A2と、を備える振動素子1の製造方法であって、上面2aおよび下面2bを有する水晶基板200を準備する準備工程S1と、水晶基板200の振動素子1が形成される領域を素子形成領域Q1とし、第1溝A11が形成される領域を第1溝形成領域Qm1とし、第2溝A21が形成される領域を第2溝形成領域Qm2としたとき、第2溝形成領域Qm2上に第1保護膜41を形成する第1保護膜形成工程S2と、第1溝形成領域Qm1上に第1保護膜41よりもエッチングレートの低い第2保護膜42を形成する第2保護膜形成工程S3と、素子形成領域Q1の第1溝形成領域Qm1および第2溝形成領域Qm2を除く領域上に第3保護膜43を形成する第3保護膜形成工程S4と、第1保護膜41、第2保護膜42および第3保護膜43を介して水晶基板200を上面2a側からドライエッチングする第1ドライエッチング工程S5と、を含む。
【0062】
このような製造方法によれば、前述したように、第1ドライエッチング工程S5の途中で前記水晶基板200上から第1保護膜41が除去され、遅れて第2保護膜42が除去される。そのため、第1ドライエッチング工程S5において深さの異なる第1、第2溝A11、A21が一括して形成される。したがって、深さの異なる第1、第2溝A11、A21を容易に形成することができる。また、外形形状に対する第1、第2溝A11、A21の位置ずれが阻止され、振動素子1の形成精度が高まる。また、マイクロローディング効果を利用しないため、振動基板2の形状や寸法の制約や、ドライエッチングに用いる反応ガスの選択などのドライエッチング条件の制約が緩和される。したがって、設計自由度の高い振動素子1を容易かつ高精度に製造することができる。
【0063】
また、前述したように、第3保護膜43は、第1保護膜41および第2保護膜42よりもエッチングレートが低い。これにより、第3保護膜43を、より確実に、第1ドライエッチング工程S5終了時まで水晶基板200上に残存させることができる。したがって、振動基板2の外形形状を精度よく形成することができる。
【0064】
また、前述したように、第3保護膜43は、金属膜である。これにより、容易に第3保護膜43のエッチングレートを低くすることができる。
【0065】
また、前述したように、第1保護膜41および第2保護膜42の少なくとも一方は、樹脂膜である。特に、本実施形態では、第1保護膜41および第2保護膜42が共に樹脂膜である。これにより、第1、第2保護膜41、42を直接、露光および現像することによりパターニングすることができる。そのため、第1、第2保護膜41、42の形成が容易となる。
【0066】
また、前述したように、振動素子1は、第1振動腕A1の下面2bに開口する第3溝A12と、第2振動腕A2の下面2bに開口する第4溝A22と、を有し、第3溝A12が形成される領域を第3溝形成領域Qm3とし、第4溝A22が形成される領域を第4溝形成領域Qm4としたとき、第4溝形成領域Qm4上に第4保護膜44を形成する第4保護膜形成工程S6と、第3溝形成領域Qm3上に第4保護膜よりもエッチングレートの低い第5保護膜45を形成する第5保護膜形成工程S7と、素子形成領域Q1の第3溝形成領域Qm3および第4溝形成領域Qm4を除く領域上に第6保護膜46を形成する第6保護膜形成工程S8と、第4保護膜44、第5保護膜45および第6保護膜46を介して水晶基板200を下面2b側からドライエッチングする第2ドライエッチング工程S9と、を含む。これにより、深さの異なる第3、第4溝A12、A22を容易に形成することができる。
【0067】
また、前述したように、振動素子1は、角速度を検出する角速度検出素子であり、第1振動腕A1は、印加される駆動信号に応じて屈曲振動し、第2振動腕A2は、印加される角速度ωzに応じて屈曲振動する。つまり、第1振動腕A1が駆動振動腕26、27、28、29であり、第2振動腕A2が検出振動腕22、23である。これにより、駆動振動腕26、27、28、29に形成される第1溝A11が、検出振動腕22、23に形成される第2溝A21よりも浅くなるため、角速度検出素子の検出感度を高めることができる。
【0068】
また、前述したように、振動素子1は、基部21と、基部21から第1方向であるY軸方向の両側に延出する第2振動腕A2である一対の検出振動腕22、23と、基部21からY軸方向と交差する第2方向であるX軸方向の両側に延出する一対の支持腕24、25と、一方の支持腕24からY軸方向の両側に延出する第1振動腕A1である一対の駆動振動腕26、27と、他方の支持腕25からY軸方向の両側に延出する第1振動腕A1である一対の駆動振動腕28、29と、を有する。このような構成によれば、駆動振動モードにおいて駆動振動腕26、27、28、29がバランスよく屈曲振動するため、検出振動腕22、23に不要な振動が生じ難く、角速度ωzを精度よく検出することができる。
【0069】
<第2実施形態>
本実施形態に係る振動素子の製造方法は、第1保護膜41、第2保護膜42、第4保護膜44および第5保護膜45の構成が異なること以外は、前述した第1実施形態の振動素子の製造方法と同様である。なお、以下の説明では、本実施形態の振動素子の製造方法に関し、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項に関してはその説明を省略する。
【0070】
本実施形態の振動素子の製造方法では、第1保護膜41、第2保護膜42、第4保護膜44および第5保護膜45は、それぞれ、金属材料で構成された金属膜である。これにより、前述した第1実施形態のような樹脂膜で構成された場合と比べ、第1保護膜41、第2保護膜42、第4保護膜44および第5保護膜45のエッチングレートを低くすることができ、その分、これら各膜41、42、44、45を薄くすることができる。したがって、第1保護膜41、第2保護膜42、第4保護膜44および第5保護膜45のパターニング精度が向上し、振動基板2の寸法精度をより高めることができる。
【0071】
以上のように、本実施形態の振動素子の製造方法では、第1保護膜41および第2保護膜42の少なくとも一方は、金属膜である。特に、本実施形態では、第1保護膜41および第2保護膜42が共に金属膜である。これにより、前述した第1実施形態のような樹脂膜で構成された場合と比べ、第1保護膜41および第2保護膜42のエッチングレートを低くすることができ、その分、これら各膜41、42を薄くすることができる。したがって、第1保護膜41および第2保護膜42のパターニング精度が向上し、振動基板2の寸法精度をより高めることができる。
【0072】
このような第2実施形態によっても、前述した第1実施形態と同様の効果を発揮することができる。
【0073】
<第3実施形態>
図28は、第3実施形態に係る振動素子の製造方法を示すフローチャートである。
図29ないし
図33は、それぞれ、振動素子の製造方法を説明するための断面図である。
【0074】
本実施形態に係る振動素子の製造方法は、第1ドライエッチング工程S5以降の工程が異なること以外は、前述した第1実施形態の振動素子の製造方法と同様である。なお、以下の説明では、本実施形態の振動素子の製造方法に関し、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項に関してはその説明を省略する。また、本実施形態の各図では、前述した実施形態と同様の構成について、同一符号を付している。
【0075】
本実施形態の振動素子の製造方法は、
図28に示すように、準備工程S1と、第1保護膜形成工程S2と、第2保護膜形成工程S3と、第3保護膜形成工程S4と、第1ドライエッチング工程S5と、第5保護膜形成工程S7と、第6保護膜形成工程S8と、第2ドライエッチング工程S9と、電極形成工程S10と、を含む。以下、
図2に対応する断面図を用いて、これら各工程について順に説明する。なお、工程S1~S4およびS10については、前述した第1実施形態と同様であるため、以下では、工程S5~S9についてのみ説明する。
【0076】
[第1ドライエッチング工程S5]
本工程では、上面2a側からマスクM1を介して水晶基板200をドライエッチングし、
図29に示すように、第1溝A11および第2溝A21が共に所定深さとなった時刻T3においてドライエッチングを終了する。なお、時刻T3では、除去領域Q2において水晶基板200が貫通し、振動基板2の外形形状が完成している。これにより、振動基板2の外形形状、第1溝A11および第2溝A21が一括形成される。このように、上面2a側からのドライエッチングだけで振動基板2の外形形状を形成することにより、外形形状が完成するまでマスクM1を使い続けることができる。そのため、複数のマスクを用いる際に生じ得る所謂「マスクずれ」が生じ得ず、高い精度で外形形状を形成することができる。したがって、第1、第2振動腕A1、A2の不要振動や振動バランスの低下が抑制され、優れた角速度検出特性を有する振動素子1を製造することができる。
【0077】
[第5保護膜形成工程S7]
次に、
図30に示すように、水晶基板200の下面2b上に第5保護膜45を塗布し、露光および現像を用いたフォトリソグラフィー技法でパターニングする。これにより、第3溝形成領域Qm3および第4溝形成領域Qm4上に形成された第5保護膜45が得られる。
【0078】
[第6保護膜形成工程S8]
次に、
図31に示すように、第5保護膜45を介して下面2b上に第6保護膜46を成膜する。これにより、素子形成領域Q1の第3溝形成領域Qm3および第4溝形成領域Qm4を除く領域上に第6保護膜46が形成される。次に、
図32に示すように、第4溝形成領域Qm4上の第5保護膜45を除去する。以上により、素子形成領域Q1の第3溝形成領域Qm3および第4溝形成領域Qm4を除く領域上に形成された第6保護膜46と、第3溝形成領域Qm3上に形成された第5保護膜45と、からなるマスクM2が得られる。
【0079】
[第2ドライエッチング工程S9]
次に、下面2b側からマスクM2を介して水晶基板200をドライエッチングする。本工程を開始すると、まず、マスクM2から露出している第4溝形成領域Qm4のエッチングが開始される。これにより、第4溝A22の形成が開始される。そのままエッチングが進むと、第3溝形成領域Qm3上の第5保護膜45および下地膜Lが無くなり、それと同時に第3溝形成領域Qm3のエッチングが開始される。これにより、第4溝A22に遅れて、第3溝A12の形成が開始される。そして、
図33に示すように、第3溝A12および第4溝A22が共に所定深さとなった時点でドライエッチングを終了する。これにより、第3溝A12および第4溝A22が一括形成される。
【0080】
以上のような第3実施形態によっても、前述した第1実施形態と同様の効果を発揮することができる。
【0081】
<第4実施形態>
図34は、第4実施形態に係る振動素子の平面図である。
【0082】
本実施形態に係る振動素子の製造方法では、製造する振動素子の構成が異なること以外は、前述した第1実施形態の振動素子の製造方法と同様である。なお、以下の説明では、本実施形態の振動素子の製造方法に関し、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項に関してはその説明を省略する。また、本実施形態の各図では、前述した実施形態と同様の構成について、同一符号を付している。
【0083】
本実施形態の振動素子の製造方法では、
図34に示す振動素子6が製造される。振動素子6は、Y軸まわりの角速度ωyを検出することができる角速度検出素子である。このような振動素子6は、Zカットの水晶基板をパターニングしてなる振動基板7と、振動基板7の表面に成膜されている電極8と、を有する。
【0084】
また、振動基板7は、板状であり、互いに表裏関係にある第1面としての上面7aおよび第2面としての下面7bを有する。また、振動基板7は、その中央部に位置する基部71と、基部71からY軸方向プラス側に延出する第2振動腕A2としての一対の検出振動腕72、73と、基部71からY軸方向マイナス側に延出する第1振動腕A1としての一対の駆動振動腕74、75と、を有する。一対の検出振動腕72、73は、X軸方向に並んで配置され、一対の駆動振動腕74、75は、X軸方向に並んで配置されている。
【0085】
検出振動腕72は、上面7aに形成された第2溝としての有底の溝721と、下面7bに形成された第4溝としての有底の溝722と、を有する。同様に、検出振動腕73は、上面7aに形成された第2溝としての有底の溝731と、下面7bに形成された第4溝としての有底の溝732と、を有する。
【0086】
駆動振動腕74は、上面7aに形成された第1溝としての有底の溝741と、下面7bに形成された第3溝としての有底の溝742と、を有する。同様に、駆動振動腕75は、上面7aに形成された第1溝としての有底の溝751と、下面7bに形成された第3溝としての有底の溝752と、を有する。
【0087】
電極8は、第1検出信号電極81と、第1検出接地電極82と、第2検出信号電極83と、第2検出接地電極84と、駆動信号電極85と、駆動接地電極86と、を有する。
【0088】
このうち、第1検出信号電極81は、検出振動腕72の上面7aおよび下面7bに配置されており、第1検出接地電極82は、検出振動腕72の両側面に配置されている。また、第2検出信号電極83は、検出振動腕73の上面7aおよび下面7bに配置されており、第2検出接地電極84は、検出振動腕73の両側面に配置されている。また、駆動信号電極85は、駆動振動腕74の上面7aおよび下面7bと、駆動振動腕75の両側面とに配置されており、駆動接地電極86は、駆動振動腕74の両側面と駆動振動腕75の上面7aおよび下面7bとに配置されている。
【0089】
以上のような第4実施形態によっても、前述した第1実施形態と同様の効果を発揮することができる。
【0090】
以上、本発明の振動素子の製造方法を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、本発明に、他の任意の構成物や工程が付加されていてもよい。また、振動素子としては、前述した振動素子1、6に限定されず、例えば、音叉型、双音叉型の振動素子であってもよい。また、振動素子は、角速度検出素子に限定されない。
【0091】
また、振動素子1は、例えば、
図35および
図36に示すように、第3、第4溝A12、A22を省略してもよい。この場合、振動素子1の製造方法は、前述した第3実施形態における準備工程S1と、第1保護膜形成工程S2と、第2保護膜形成工程S3と、第3保護膜形成工程S4と、第1ドライエッチング工程S5と、を含む。つまり、上面2a側からのドライエッチング工程だけで振動基板2を形成することができる。そのため、振動素子1の製造がより容易となる。
【符号の説明】
【0092】
1…振動素子、2…振動基板、2a…上面、2b…下面、200…水晶基板、21…基部、22…検出振動腕、221…溝、222…溝、23…検出振動腕、231…溝、232…溝、24…支持腕、25…支持腕、26…駆動振動腕、261…溝、262…溝、27…駆動振動腕、271…溝、272…溝、28…駆動振動腕、281…溝、282…溝、29…駆動振動腕、291…溝、292…溝、3…電極、31…第1検出信号電極、32…第1検出接地電極、33…第2検出信号電極、34…第2検出接地電極、35…駆動信号電極、36…駆動接地電極、41…第1保護膜、42…第2保護膜、43…第3保護膜、44…第4保護膜、45…第5保護膜、46…第6保護膜、6…振動素子、7…振動基板、7a…上面、7b…下面、71…基部、72…検出振動腕、721…溝、722…溝、73…検出振動腕、731…溝、732…溝、74…駆動振動腕、741…溝、742…溝、75…駆動振動腕、751…溝、752…溝、8…電極、81…第1検出信号電極、82…第1検出接地電極、83…第2検出信号電極、84…第2検出接地電極、85…駆動信号電極、86…駆動接地電極、A1…第1振動腕、A11…第1溝、A12…第3溝、A2…第2振動腕、A21…第2溝、A22…第4溝、d1…深さ、d2…深さ、L…下地膜、M1…マスク、M2…マスク、Q1…素子形成領域、Q2…除去領域、Qm1…第1溝形成領域、Qm2…第2溝形成領域、Qm3…第3溝形成領域、Qm4…第4溝形成領域、S1…準備工程、S2…第1保護膜形成工程、S3…第2保護膜形成工程、S4…第3保護膜形成工程、S5…第1ドライエッチング工程、S6…第4保護膜形成工程、S7…第5保護膜形成工程、S8…第6保護膜形成工程、S9…第2ドライエッチング工程、S10…電極形成工程、t1…厚さ、t2…厚さ、T1…所定時刻、T2…所定時刻、T3…時刻、T4…所定時刻、T5…所定時刻、T6…時刻、ωy…角速度、ωz…角速度