(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049655
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】吸収性物品用吸収体、及び吸収性物品
(51)【国際特許分類】
A61F 13/53 20060101AFI20240403BHJP
A61F 13/534 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
A61F13/53 300
A61F13/534 100
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156004
(22)【出願日】2022-09-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-19
(71)【出願人】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】足立 多佳彦
【テーマコード(参考)】
3B200
【Fターム(参考)】
3B200AA01
3B200AA03
3B200BA06
3B200BB05
3B200BB17
3B200CA02
3B200CA11
3B200DB01
3B200DB02
3B200DB12
3B200DB19
(57)【要約】
【課題】広葉樹パルプ繊維を含んでいても、吸収性物品使用時の液戻りが良好に抑制された吸収性物品を提供可能な吸収性物品用吸収体を提供する。
【解決手段】吸収性物品用吸収体が、針葉樹パルプ繊維と広葉樹パルプ繊維とを含有するパルプ繊維と、高吸水性ポリマーとを含む広葉樹パルプ繊維含有吸収体を含む、吸収性物品用吸収体であって、前記広葉樹パルプ含有吸収体の全パルプ繊維において、繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維の割合が質量基準で40%以上であり、繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維の割合が質量基準で90%以上である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
針葉樹パルプ繊維と広葉樹パルプ繊維とを含有するパルプ繊維と、高吸水性ポリマーとを含む広葉樹パルプ繊維含有吸収体を含む、吸収性物品用吸収体であって、
前記広葉樹パルプ繊維含有吸収体の全パルプ繊維において、繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維の割合が質量基準で40%以上であり、繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維の割合が質量基準で90%以上である、吸収性物品用吸収体。
【請求項2】
前記広葉樹パルプ繊維含有吸収体における、前記針葉樹パルプ繊維に対する前記広葉樹パルプ繊維の質量比が25/75以上38/62以下である、請求項1に記載の吸収性物品用吸収体。
【請求項3】
前記広葉樹パルプ繊維の原料木材におけるアカシア材の含有量が5質量%以上95質量%以下である、請求項1に記載の吸収性物品用吸収体。
【請求項4】
前記繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維を0.02mm間隔で測定した時における平均繊維長が0.5mm以上0.8mm以下であり、且つ標準偏差σが0.58mm以下であり、
前記繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維を1μm間隔で測定した時における平均繊維幅が15μm以上30μm以下であり、且つ標準偏差σが2.9μm以下である、請求項1に記載の吸収性物品用吸収体。
【請求項5】
吸収性物品を装着した場合に装着者の肌に対向する側となる肌側と、前記肌側と反対側の非肌側とを有し、
前記広葉樹パルプ繊維含有吸収体を前記肌側に含む、請求項1に記載の吸収性物品用吸収体。
【請求項6】
別体の2層以上で構成され、
前記肌側に位置する肌側層が前記広葉樹パルプ繊維含有吸収体からなる、請求項5に記載の吸収性物品用吸収体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の吸収性物品用吸収体を備えた吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性物品用吸収体、及び吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨ておむつ、生理用ナプキン、失禁パッド、パンティライナー(おりものシート)等の吸収性物品において、液を吸収して保持する機能を主として担うのは、吸収性物品の内部に配置された吸収体(吸収性コア等ともいう)である。吸収体は、一般に、パルプ繊維と高吸水性ポリマーとを含む。パルプ繊維の原料となる木材パルプとしては、針葉樹由来のパルプが多く用いられてきたが、近年、広葉樹由来のパルプの利用も検討されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
広葉樹由来のパルプは針葉樹由来のパルプに比べて比較的安価であるのでコスト面で有利である。しかしながら、広葉樹由来のパルプ繊維(広葉樹パルプ繊維)は、針葉樹由来のパルプ繊維(針葉樹パルプ繊維)に比べて少なくとも繊維長が短い。そのため、吸収体中の広葉樹パルプ繊維の割合が大きい場合、吸収容量及び吸収速度が低下する等の傾向が見られるので、吸収性物品をある程度長期にわたり使用する場合、吸収性物品における液戻り(一旦、吸収された液が再び肌側に滲出する現象)が生じ得る。このような液戻りはかぶれの原因になり得る。よって、広葉樹パルプ繊維を含有していても、液戻りが抑制された吸収体の構成が求められている。
【0005】
よって、本発明の一態様は、広葉樹パルプ繊維を含んでいても、吸収性物品使用時の液戻りが良好に抑制された吸収性物品を提供可能な吸収性物品用吸収体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様による吸収性物品用吸収体は、針葉樹パルプ繊維と広葉樹パルプ繊維とを含有するパルプ繊維と、高吸水性ポリマーとを含む広葉樹パルプ繊維含有吸収体を含む、吸収性物品用吸収体であって、前記広葉樹パルプ繊維含有吸収体の全パルプ繊維において、繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維の割合が質量基準で40%以上であり、繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維の割合が質量基準で90%以上である。
【0007】
上記第一の態様によれば、吸収体に含まれるパルプ繊維が、針葉樹由来のパルプ繊維(針葉樹パルプ繊維)と広葉樹由来のパルプ繊維(広葉樹パルプ繊維)とを含んでいる。上述のように、広葉樹パルプ繊維は、針葉樹パルプ繊維に比べて、繊維長が短く且つ繊維幅(若しくは繊維径)が小さいので、毛管現象による繊維の液保持能は高いものの、吸収容量及び吸収速度が低下する傾向がある。しかしながら、本態様によれば、針葉樹パルプ繊維と広葉樹パルプ繊維とを組み合わせることで、吸収体の吸収容量及び吸収速度を確保しつつ、毛管現象による繊維の液保持能も有することができるので、吸収体及び当該吸収体を用いて構成される吸収性物品の液戻り(液の逆戻りともいう)の抑制効果を向上できる。さらに、本発明者らは、所定の繊維長のパルプ繊維の割合を所定範囲内に収め、且つ所定の繊維幅のパルプ繊維の割合を所定範囲に収めることによって、上述の液戻り抑制効果を一層向上できることを見出した。
【0008】
また、広葉樹パルプ繊維は繊維長が短いこと等から、広葉樹パルプ繊維を含むパルプシートの解繊性(若しくは粉砕性)は劣る傾向がある、すなわち、吸収体の製造のためにパルプシートを解繊(粉砕)してフラッフパルプにする際にほぐし難い傾向がある。これに対し、本態様によって、針葉樹パルプ繊維と広葉樹パルプ繊維とを組み合わせた上、所定の繊維長のパルプ繊維の割合を所定範囲内に収め、且つ所定の繊維幅のパルプ繊維の割合を所定範囲に収めるという本形態の構成によって、解繊性も改善される。
【0009】
さらには、一般に、広葉樹パルプ繊維は繊維長が短いこと等から、広葉樹パルプ繊維を含むパルプシートから吸収体を製造する工程における作業性が低下しやすい、すなわち、パルプシート粉砕時に生じる粉状体(紙粉)が舞いやすく、またパルプ繊維が装置に堆積しやすい等の現象が生じ易い。これに対し、本態様により、針葉樹パルプ繊維と広葉樹パルプ繊維とを組み合わせた上、所定の繊維長のパルプ繊維の割合を所定範囲内に収め、且つ所定の繊維幅のパルプ繊維の割合を所定範囲に収めるという本形態の構成によって、吸収体製造工程における作業性も向上できる。
【0010】
本発明の第二の態様では、前記広葉樹パルプ繊維含有吸収体における、前記針葉樹パルプ繊維に対する前記広葉樹パルプ繊維の質量比が25/75以上38/62以下である。
【0011】
上記第二の態様によれば、上述の逆戻り抑制効果の向上、解繊性の向上、及び作業性の向上の1以上の効果を促進できる。
【0012】
本発明の第三の態様では、前記広葉樹パルプ繊維の原料木材におけるアカシア材の含有量が5質量%以上95質量%以下である。
【0013】
上記第三の態様によれば、上述の逆戻り抑制効果の向上、解繊性の向上、及び作業性の向上の1以上の効果を促進できる。
【0014】
本発明の第四の態様では、前記繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維を0.02mm間隔で測定した時における平均繊維長が0.5mm以上0.8mm以下であり、且つ標準偏差σが0.58mm以下であり、前記繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維を1μm間隔で測定した時における平均繊維幅が15μm以上30μm以下であり、且つ標準偏差σが2.9μm以下である。
【0015】
上記第四の態様によれば、上述の逆戻り抑制効果の向上、解繊性の向上、及び作業性の向上の1以上の効果を促進できる。
【0016】
本発明の第五の態様では、吸収性物品を装着した場合に装着者の肌に対向する側となる肌側と、前記肌側と反対側の非肌側とを有し、前記広葉樹パルプ繊維含有吸収体を前記肌側に含む。
【0017】
上記第五の態様によれば、上述のように液の逆戻り抑制効果の高い吸収体部分が、肌に直接接触する側に配置されることになるので、吸収性物品におけるかぶれ等を効果的に抑制できる。
【0018】
本発明の第六の態様は、別体の2層以上で構成され、前記肌側に位置する肌側層が前記広葉樹パルプ繊維含有吸収体からなる。
【0019】
上記第六の態様によれば、別体の2層以上、すなわち別々に積繊された吸収体層から構成されているので、各層ごとに構成を変えることができ、吸収体全体として様々な構成が実現可能になる。そして、少なくとも肌側層を広葉樹パルプ繊維含有吸収体とすることで、液の逆戻り抑制効果の高い層を、肌に直接接触する側に配置できるので、吸収性物品におけるかぶれ等を効果的に抑制できる。
【0020】
本発明の第七の態様は、第一から第六のいずれかの態様による吸収性物品用吸収体を備えた吸収性物品である。
【0021】
上記第七の態様によれば、上記第一から第六の態様のいずれかによって得られる効果と同様の効果を奏する吸収性物品を提供できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様によれば、広葉樹パルプ繊維を含んでいても、吸収性物品使用時の液の逆戻りが良好に抑制された吸収性物品を提供可能な吸収性物品用吸収体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本形態による吸収体を含む吸収性物品の一形態を肌側から見た平面図である。
【
図4】パルプ繊維の種類による吸収体等の特長をまとめた図である。
【
図5】複数の吸収体層を含む吸収体の断面図である。
【
図6】別例による、複数の吸収体層を含む吸収体の断面図である。
【
図7】本形態による吸収体の製造装置の概略図である。
【
図8】本形態による吸収体の別の製造装置の概略図である。
【
図9】本形態による吸収体を含む吸収性物品の別形態を肌側から見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<吸収性物品>
本発明の一形態は、吸収性物品用の吸収体に係る。吸収性物品用吸収体は、吸収性物品の内部に配置され、液の吸収、保持、拡散といった機能を担う部材である。本形態による吸収体が使用される吸収性物品は特に限定されないが、本形態による吸収体は、使い捨ておむつ(テープタイプ、パンツタイプ、及びパッドタイプを含む)、生理用ナプキン、失禁用パッド、パンティライナー、陰唇間パッド、ペット用シート等において好適に使用できる。これらのうち、身体の体液排出口に対向させて使用する衛生用品、特に使い捨ておむつ、生理用ナプキン、失禁用パッド等において好適に使用できる。
【0025】
まず、パッドタイプの使い捨ておむつを例に挙げ、吸収体の使用形態について説明する。
図1に吸収性物品(パッドタイプの使い捨ておむつ)1を、装着時に肌に対向させる側(肌側)から見た展開図を示す。
図2に、
図1のI-I線断面を模式的に示す。吸収性物品(パッドタイプおむつ)1の部材は、所定箇所又は所定領域にて、接着剤、融着、又は機械的手段によって接合されている。なお、
図1及び
図2には、吸収性物品(パッドタイプの使い捨ておむつ)1の主要な部材のみを示す。また、
図2においては、部材の位置関係を分かり易くするため、部材間の接合の図示を省略する。
【0026】
図1及び
図2に示すように、吸収性物品1は、装着時に側着者の肌に対向させる側となる肌側と、肌側の反対側である非肌側とを有する。また、装着時に装着者の身体の前側(腹側)に対向させる側を前側、装着者の身体の後側(背側)に対向させる側を後側と呼ぶ。よって、吸収性物品1の前後方向D1は、吸収性物品1を広げた状態で(折り畳まれていない状態で)、前側から後側に沿って若しくは後側から前側に沿って延びる方向であり、幅方向D2は、吸収性物品1を広げた状態で前後方向D1に直交する方向である。吸収性物品1は、全体として、前後方向D1を長手方向とする細長の平面視形状を有し、
図1に示すように前後方向D1の途中で幅が狭くなっている括れ部が形成されていてもよい。
【0027】
図1及び
図2に示すように、吸収性物品(パッドタイプのおむつ)1は、肌側に配置された透液性のトップシート3と、非肌側に配置された不透液性のバックシート2とを備えており、両シート2、23の間に、吸収体(吸収性物品用吸収体)4が挟まれている。吸収性物品1を装着する際には、トップシート3側を肌に対向させ、バックシート2側を、アウター(外側のおむつ)や下着等に固定させる。バックシート2は、吸収体4がバックシート2の範囲内に収まるような形状及びサイズを有する。
【0028】
バックシート2としては、ポリエチレンフィルム等の他、ムレ防止の点から遮水性を損なわずに透湿性を備えたシートも用いることができる。この遮水・透湿性シートは、例えばポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン樹脂中に無機充填材を溶融混練してシートを形成した後、一軸または二軸方向に延伸することにより得られる微多孔性シートを用いることができる。なお、バックシート2の外面は、不織布等の外装シートにより覆うこともできる。
【0029】
トップシート3は、吸収体4全体を覆っていてもよいし、
図1に示すように吸収体4の幅方向D2の端部の一部を覆っていなくてもよい。トップシート3が吸収体4全体を覆っていない場合には、吸収体4の覆われていない部分は他のシート(
図1の形態の場合にはサイドシート7、7)によって覆われており、それにより、吸収体4が外部に露出しないようになっている。トップシート3としては、有孔又は無孔の不織布や穴あきプラスチックシートなどを用いることができる。不織布を構成する素材繊維としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、アミド系等の合成繊維の他、レーヨン、キュプラ等の再生繊維、綿等の天然繊維を用いることができる。
【0030】
吸収性物品1の幅方向D2の両側には、トップシート3側に、前後方向D1に沿って、一対のサイドシート7、7が配置されていてよい。サイドシート7としては、プラスチックシート、メルトブローン不織布等使用することもできるが、肌への感触性が良いという観点から、不織布にシリコーン等によって撥水処理をしたものが好適に使用される。
【0031】
吸収体4の前後方向D1の両端部の、バックシート2とトップシート3とが直接重なった領域では、接合されていてよい。また、サイドシート7、7は、吸収性物品1の前後方向D1の両端部で、バックシート2又はトップシート3と接合されていてよく、幅方向D2の両側部においては、バックシート2とが接合されていてよい。部材間の接合は、ホットメルト接着剤、ヒートシール、超音波シール等による。
【0032】
図示は省略するが、各サイドシート7の幅方向D2の内側の端部には、糸状、紐状、帯状等に形成された弾性部材が、前後方向D1に沿って伸張状態で固定されていてよい。これにより、吸収性物品の使用時には、サイドシート7、7の幅方向D2の内側の端部が前後方向D1に収縮して、肌側に起立したギャザーG、Gが形成され得る。弾性部材は、スチレン系ゴム、オレフィン系ゴム、ウレタン系ゴム、エステル系ゴム等から製造されたものであってよい。
【0033】
吸収性物品1の使用目的に応じて、
図1及び
図2に示す部材以外にも追加的なシートが設けられていてよい。例えば、トップシート3と吸収体4との間に、不織布、メッシュフィルム等を中間シートとして介在させ、体液の逆戻り防止を促進することもできる。することができる。
【0034】
<吸収体>
吸収体4(吸収コア、吸収性コア等とも呼ぶ)は、体液を吸収し保持する機能を主として担う部材であり、上述のように吸収性物品の内部に、外部に露出させずに配置されるものである。吸収性物品1中における吸収体4の平面視形状は特に限定されず、前後方向D1にわたって幅が一定な形状であってもよいし、吸収性物品1全体の平面視形状と同様に、括れ部分を有してもよい(
図1)。
【0035】
図1及び
図2に示すように、吸収体4は、被包シート(コアラップシート等とも呼ぶ)5によって包まれていてよい。被包シート5は、透液性のシートであり、具体的には、未加工の又は加工された紙、例えばクレープ紙、不織布等であってよい。また、被包シート5は、無着色(白色)であってもよいし、着色されたものであってもよい。本明細書では、被包シート5に包まれた吸収体4全体を吸収体と呼ぶ場合があり、その場合には、被包シート5の内部の部材を吸収体本体と呼ぶ。吸収体4が被包シート5によって包まれていることにより、使用中でも吸収体4のよれや割れを防止でき、形状を保持できる。また、高吸水性ポリマー粒子及びその他のパルプ以外の構成要素が含まれている場合には、そのような構成要素が吸収体からこぼれ落ちることを防止できる。
【0036】
図3に、吸収性物品1から取り出された吸収体4のみの断面を示す。本形態による吸収体4は、パルプ繊維41と、高吸水性ポリマー(superabsorbent polymer;SAP)45とを含む。
図3に示すように、高吸水性ポリマー45は粒子状であり、吸収体内では、このような粒子がパルプ繊維41、41、…間に保持されている。
【0037】
高吸水性ポリマー(SAP)としては、ポリアクリル酸塩系、ポリスルホン酸塩系、無水マレイン酸塩系の吸水性ポリマーが挙げられる。高吸水性ポリマーの平均粒径(乾燥時)は、150μm以上400μm以下であると好ましい。吸収体は、パルプシートを解繊して得られたフラッフパルプをダクト内に送り込み、その際に高吸水性ポリマー粒子を混合し、積繊ドラムの集積型に積繊させ、必要に応じてスカッフィングロール等によって表面を均一化することによって成形できる(後にも説明)。集積型から取り出された吸収体は、圧縮手段によって厚み方向に圧縮することもできる。
【0038】
なお、吸収体4には、必要に応じて、パルプ繊維及び高吸水性ポリマー以外の物質、例えば、填料、顔料、サイズ剤、凝結剤、耐油剤、硫酸バンド、歩留り向上剤、濾水性向上剤、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、着色顔料、耐水化剤等の添加剤が添加されていてもよい。
【0039】
<パルプ繊維>
パルプは、木材、草、又はその他の植物から機械的処理及び/又は化学的処理により取り出された繊維(パルプ繊維)の集合体である。パルプの原料としては、針葉樹、広葉樹の他、竹、稲、くず、すすき、麻、サトウキビ等も利用できる。また、レーヨン、アセテート等の人口セルロースからなるものも使用できる。
【0040】
本発明の一実施形態に係る吸収体に含まれるパルプ繊維は、針葉樹由来のパルプ繊維(針葉樹パルプ繊維)と、広葉樹由来のパルプ繊維(広葉樹パルプ繊維)とを含有している。また、針葉樹パルプ繊維は、クラフト法により製造された針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)であり、広葉樹パルプ繊維は、クラフト法により製造された広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)であることが好ましい。なお、本明細書では、上記のような針葉樹パルプ繊維と広葉樹パルプ繊維とを含有するパルプ繊維を含む吸収体を、「広葉樹パルプ繊維含有吸収体」と呼ぶ。
【0041】
全パルプ繊維中の針葉樹パルプ繊維及び広葉樹パルプ繊維の割合は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上で含むことを指す。また、全パルプ繊維が、針葉樹パルプ繊維及び広葉樹パルプ繊維から実質的になることが好ましい。
【0042】
なお、本明細書において、パルプ繊維又はパルプ繊維となる材料の配合量は、特に記載がない場合は、絶乾内添量、すなわち絶乾状態での質量割合を指す。
【0043】
ここで、本形態による針葉樹パルプ繊維と広葉樹パルプ繊維との組合せについて、
図4を参照して簡単に説明する。
図4は、(I)針葉樹パルプ繊維からなる形態、(II)広葉樹パルプ繊維からなる形態、及び(III)針葉樹パルプ繊維及び広葉樹パルプ繊維からなる形態の特長をまとめたものである。
【0044】
図1に示すように、(I)針葉樹パルプ繊維からなる形態の場合、パルプ繊維の繊維長及び繊維幅が比較的大きく、また繊維長及び繊維幅のばらつきも比較的大きいので、パルプ繊維間の距離が大きく、得られる吸収体は嵩高い。よって、パルプ繊維による吸収容量(吸水量)は大きく、吸収体若しくは吸収性物品の吸収速度も比較的速い。しかしながら、パルプ繊維間の距離が大きいため、毛管現象による繊維の液保持能は比較的低く、さらには高吸水性ポリマー(SAP)が重力方向に抜け落ちてしまう傾向により高吸水性ポリマー(SAP)の保持性がやや劣るため、高吸水性ポリマーによる液保持能も小さい。その結果、吸収体若しくは吸収性物品としての液保持能は小さくなっている。そのため、吸収性物品の液戻り(液の逆戻り)抑制の効果は低めである。
【0045】
また、(II)広葉樹パルプ繊維からなる形態では、パルプ繊維の繊維長及び繊維幅が比較的小さく、また繊維長及び繊維幅のばらつきも比較的小さいので、パルプ繊維間の距離が小さく、得られる吸収体における繊維密度も高い。そのため、パルプ繊維による吸収容量(吸水量)は小さく、吸収体若しくは吸収性物品としての吸収速度は遅くなる。しかしながら、パルプ繊維間の距離が小さいため、毛管現象による繊維の液保持能は高い。パルプ繊維間の距離が小さいことで高吸水性ポリマーが繊維間で却って保持され難い場合もあるが、高吸水性ポリマーの保持性は概ね良好であり、高吸水性ポリマーによる液保持能は、(I)の形態より高い。その結果、吸収体若しくは吸収性物品としての液保持能は(I)の形態より高く、吸収性物品の液戻り(液の逆戻り)抑制の効果も或る程度ある。しかしながら、吸収容量及び吸収速度の低下のため、吸収性物品により通常吸収される液量に対して液戻り抑制の効果は低めである。
【0046】
(III)針葉樹パルプ繊維及び広葉樹パルプ繊維からなる形態では、上述のような比較的繊維長が長く且つ繊維幅が大きい繊維と、比較的繊維長が短く且つ繊維幅が小さい繊維とが組合せされることになり、繊維密度が(I)、(II)の中間程度になる。そのため、繊維による吸収容量をある程度確保でき、吸収体若しくは吸収性物品としての吸収速度も維持できるとともに、毛管現象による繊維の液保持能も確保できる。また、繊維間の距離が高吸水性ポリマーを保持するために適切になり、高吸水性ポリマーによる液保持能も(I)、(II)に対しさらに高めることができる。その結果、吸収体若しくは吸収性物品としての吸収容量及び吸収速度を維持しつつ、液保持能も得られる。このように、(III)の形態では、吸収容量及び吸収速度と液保持能との両方を確保できることで、液戻り抑制の効果を向上させ、これにより、吸収性物品の使用による肌かぶれの防止、特に吸収性物品を長時間使用した場合の肌かぶれの防止に寄与する。
【0047】
また、
図4に示すように、パルプシート(パルプ繊維を圧縮してシート状にした吸収体の原料)からフラップパルプを作製する際の解繊性、すなわち解繊し易さ若しくはほぐし易さは、繊維長が長く且つ繊維幅が大きく嵩高い(I)針葉樹パルプ繊維からなる形態では高く、繊維長が短く且つ繊維幅が小さい密度が大きい(II)広葉樹パルプ繊維からなる形態では低い傾向がある。(III)針葉樹パルプ繊維及び広葉樹パルプ繊維からなる形態では、ある程度良好な解繊性を確保できる。
【0048】
なお、(III)では、針葉樹パルプ繊維を含有することで、吸収体に嵩高さをある程度確保でき、得られる吸収性物品の良好な肌触りも得られる。また、針葉樹パルプ繊維を含有することで、パルプシートからフラッフパルプを作製する際の作業性(すなわち、粉状体の飛散を抑え、繊維の装置への付着を抑える作用)も確保される。良好な作業性は、吸収性物品製造の全体の高い生産性に寄与する。
【0049】
本発明の一形態による吸収体では、広葉樹パルプ繊維含有吸収体の全パルプ繊維において、繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維の割合が質量基準で40%以上であり、繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維の割合が質量基準で90%以上である。また、上記の繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維の割合は、好ましくは42.6%以上、より好ましくは43%以上、さらに好ましくは43.2%以上、43.7%以上、45以上であってよい。また、上記の繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維の割合は、好ましくは90.6%以上、より好ましくは91.0%以上、さらに好ましくは91.2%以上、91.4%以上であってよい。このように、吸収体が、特定のパルプ繊維長及び特定のパルプ繊維幅をそれぞれ特定範囲で含むことにより、
図4を参照して説明した(III)の形態の利点をさらに向上させ、より確実なものにすることができる。特に、吸収体若しくは吸収性物品の液戻り抑制の効果を一層向上でき、パルプシートからフラッフパルプを作製する際の良好な解繊性、作業性を確保できる。
【0050】
広葉樹パルプ繊維含有吸収体の全パルプ繊維において、繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維の割合の上限は特に限定されないが、パルプが天然材料であることに起因する繊維長のばらつきのため、80質量%以下、60質量%以下、55質量%以下となり得る。また、同様に、繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維の割合の上限も特に限定されないが、98質量%以下、95質量%以下、94質量%以下となり得る。
【0051】
なお、パルプ繊維の繊維長及び繊維幅は、測定機「VALMET FS5」を用いて、JIS-P8226:2011(ISO16065-2:2007)「パルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法」に準じて測定することができる。
【0052】
さらに、広葉樹パルプ繊維含有吸収体においては、繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維を0.02mm間隔で(0.02mmの分級幅で)測定した時における平均繊維長は0.5mm以上0.8mm以下、好ましくは0.6mm以上0.7mm以下であってよい。これにより、パルプシートの嵩高性を向上させ、フラッフパルプ作製時の解繊性を向上できるとともに、吸収体において、パルプ繊維が、その配向方向に依存して生じ得る空隙の分布のばらつきを抑制し、吸収速度を確保できる。
【0053】
また、広葉樹パルプ繊維含有吸収体において、繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維を0.02mm間隔で(0.02mmの分級幅で)測定した時における標準偏差σは、0.58mm以下、好ましくは0.56mm以下、より好ましくは0.54mm以下、さらに好ましくは0.50mm以下であってよい。標準偏差が上記範囲にあることで、吸収体の吸収容量及び吸収速度の向上、及び液戻り抑制効果の向上を図ることができる。
【0054】
さらに、繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維を1μm間隔で(1μmの分級幅で)測定した時における平均繊維幅は15μm以上30μm以下、好ましくは18μ以上27μm以下であってよい。平均繊維幅を上記範囲とすることで、繊維間の空隙を適度に維持し、吸収速度の低下を防ぐことができるとともに、パルプ繊維同士の接触面積が大きくなりすぎることを回避し、繊維同士の結合力の過度の上昇を防止できる。これにより、製造時の解繊性を適切にすることができる。なお、パルプシートの解繊性が過度に低い場合、フラッフパルプの作製時に過解繊となり(過度に解繊作業が行われ)、微細繊維が発生することにより得られる吸収体における吸収速度が低下する虞がある。
【0055】
繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維を1μm間隔で(1μmの分級幅で)測定した時における標準偏差σは、2.9μm以下、好ましくは2.8μm以下、より好ましくは2.75μm以下、さらに好ましくは2.6μm以下、2.59μm以下であってよい。標準偏差を上記範囲とすることで、吸収速度及び液戻り抑制効果の向上を図ることができる。
【0056】
上述のように、本形態では、特定範囲の繊維長の分布及び特定範囲の繊維幅の分布のばらつきを小さくすることが好ましい。このようなパルプ繊維を含む吸収性物品用吸収体は、広葉樹パルプ繊維を配合したにも関わらず、吸収容量及び吸収速度を確保しつつ、良好な液戻り抑制効果を奏する。そのため、本形態による吸収体を備えた吸収性物品は、かぶれが良好に低減される。
【0057】
パルプ繊維に含まれる針葉樹パルプ繊維の原料木材として、ラジアータパインに代表される松類、各種杉が好適に用いられる。
【0058】
また、広葉樹パルプ繊維としては、アカシア材、ユーカリ材等が好適に用いられる。アカシア材は、乾燥による縮みが少なく、衝撃にも強く、丈夫で硬い特徴を有する材料で、アカシア材から得られるパルプも元来の性状を引き継ぎ、水分の吸収や乾燥性が高く有用な原料パルプである。ユーカリ材は、ユーカリ属に属し、特にユーカリ・グロビュラス、ユーカリ・グランディス、ユーカリ・ユーロフィラ、ユーカリ・ナイテンス、ユーカリ・レグナンス等が古くから紙製造用の原料パルプ材として広く用いられ、得られるパルプ繊維は、繊維内腔(ルーメン)が潰れ難く剛直であり、このパルプ繊維を配合することで、吸収体を嵩高化、低密度化することができる。広葉樹パルプ繊維としては、アカシア材はユーカリ材に比べて繊維幅が太いため嵩高性があり、針葉樹パルプ繊維と組み合わせた際でも吸収量及び吸収速度の低下が少ないことから、好ましい。
【0059】
本形態では、広葉樹パルプ繊維含有吸収体における、針葉樹パルプ繊維に対する広葉樹パルプ繊維の質量比は、限定されるものでではないが、好ましくは25/75以上38/62以下、より好ましくは25/75以上38/62未満、さらに好ましくは26/74以上36/64以下、28/72以上35/65以下であってよい。上記質量比が25/75未満であると、全パルプ繊維における平均繊維長及び平均繊維幅が所定の範囲内であったとしても、当該フラッフパルプ用パルプシートから得られる吸収性物品の繊維間の空隙にムラが生じやすく、逆戻りしやすくかぶれが発生しやすくなるおそれがある。一方、上記質量比が38/62を超えると、広葉樹晒クラフトパルプの繊維幅が所定の範囲内であったとしても、フラッフパルプ用パルプシートが密になり、吸水速度が低下するおそれがある。
【0060】
また、広葉樹パルプ繊維の原料木材におけるアカシア材の含有量、すなわち広葉樹パルプ繊維含有吸収体において、広葉樹パルプ繊維中のアカシア材由来のパルプ繊維の含有割合は、好ましくは5質量%以上95質量%以下、より好ましくは5質量%以上95質量%未満、さらに好ましくは20質量%以上93質量%以下、20質量%以上90質量%以下、25質量%以上85質量%以下、50質量%以上80質量%以下であってよい。針葉樹パルプ繊維に比べて繊維長が短く、繊維同士が密に詰まりやすい広葉樹パルプ繊維であっても、また、その繊維がどの方向(例えば、得られる吸収性物品の長さ方向、幅方向、及び/又は厚み方向のどの方向)に配向していたとしても、良好に繊維間の空隙を均一に確保できるため、フラッフパルプ用パルプシートからフラッフパルプを作製する際の解繊性と、吸収量及び吸収速度とを両立できる。アカシア材の含有割合が上記範囲を外れる場合、例えば剛直なユーカリ材の割合が多くなると、剛直性に由来する空隙は多くなるものの、繊維幅がアカシア材よりも低いため、繊維がどの方向に配向しているかで、空隙にバラツキが生じやすい。そのため、フラッフパルプ作製時の解繊性が低くなるだけでなく、吸収速度にもムラが発生しやすく、結果として吸収速度が低下し易くなる虞がある。
【0061】
広葉樹晒クラフトパルプのカッパー価としては、0.3以下であることが好ましい。上記カッパー価が上記上限を超えると、繊維中のリグニンが十分に除去できておらず、パルプ繊維の吸水性が低くなり、かぶれが発生しやすくなるおそれがある。上記カッパー価は、JIS-P8211(2011)に準拠して測定される。
【0062】
上述の針葉樹晒クラフトパルプ及び広葉樹晒クラフトパルプ以外にも、その他のパルプとしては、例えばソーダパルプ、サルファイトパルプ、ケミサーモメカニカルパルプ、ケミリファイナーメカニカルパルプ、サーモケミメカニカルパルプ等を用いてもよい。但し、繊維中のリグニンが十分に除去できていない場合、パルプ繊維の吸収量及び吸収速度が低下しやすくなるため、十分にリグニンを除去した晒パルプが好ましい。上記その他のパルプを含有する場合、上記その他のパルプの含有量としては、パルプ原料全体に対して10質量%以下が好ましい。
【0063】
また、本形態による吸収体に含まれるパルプ繊維には、そのパルプ繊維の種類に関わらず、再生されたパルプ繊維(リサイクルパルプ繊維)が含まれていてよい。例えば、パルプ繊維は、リサイクルされた針葉樹パルプ繊維、リサイクルされた広葉樹パルプ繊維を含有していてもよい。リサイクルパルプ繊維を用いることで、材料の再利用を促し、当分野における持続可能な社会の実現への取組みを推進できる。
【0064】
リサイクルパルプ繊維を利用する場合、吸収体に用いられるパルプ繊維における灰分の量は、例えばフラッフパルプ中の灰分の量はできるだけ少ないと好ましい。
【0065】
また、リサイクルパルプ繊維を利用する場合、同じ原料に由来するパルプをリサイクル前後で比較した場合、リサイクルパルプの白色度は、バージンパルプ(再生されていないパルプ若しくは未再生パルプ)の白色度よりも低くてもよいし、同等であってもよいが、同等であると好ましい。
【0066】
さらに、同じ原料に由来するパルプ繊維をリサイクル前後で比較した場合、使用されるリサイクルパルプ繊維の吸収倍率(吸水力)は、バージンパルプの吸収倍率と同程度であってよい。
【0067】
なお、吸収体の原料となるフラッフパルプ用パルプシートには、必要によりその他の添加剤を内添することができる。添加剤としては、例えば、填料、顔料、サイズ剤、凝結剤、耐油剤、硫酸バンド、歩留り向上剤、濾水性向上剤、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、着色顔料、耐水化剤等を、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。よって、得られる吸収体にも、上記の添加剤が含有され得る。
【0068】
<吸収体における広葉樹パルプ繊維含有吸収体の配置>
本形態による吸収体(
図1~
図3)は、その全体が、上述のような広葉樹パルプ繊維含有吸収体(針葉樹パルプ繊維と広葉樹パルプ繊維とを含有し、且つ特定の繊維長の繊維を特定範囲で含み且つ特定の繊維幅の繊維を特定範囲で含む吸収体)であってよいし、上述のような広葉樹パルプ繊維含有吸収体が、吸収性物品1における吸収体4に部分的に含まれるようにしてもよい。このような広葉樹パルプ繊維含有吸収体の分布は、吸収性物品の種類、或いは使用目的に応じて配置することができる。例えば、広葉樹パルプ繊維含有吸収体を、断面視で局所的に配置してもよいし、平面視で局所的に配置してもよいし、その両方であってもよい。前者の場合、吸収体4に厚み方向に異なる機能を付与でき、後者の場合、吸収体4に面方向に異なる機能を付与できる。
【0069】
広葉樹パルプ繊維含有吸収体を断面視で局所的に配置する場合、例えば、一層の吸収体を厚み方向に2分して、肌側の吸収体部分が広葉樹パルプ繊維含有吸収体となっていて、非肌側の吸収体部分が広葉樹パルプ繊維含有吸収体とならないようにすることができる。このような構成では、吸収体4の肌側で、吸収量及び吸収速度の確保、並びに液戻り抑制の効果を発揮することができるので、この吸収体を用いて得られる吸収性物品を長時間使用した場合であってもかぶれ等を防止できる。
【0070】
吸収体4は、単層であっても、複数層から構成されていてもよい。本明細書において、吸収体の層とは、所定の積繊ドラムの集積型による積繊工程、及び必要に応じて厚み方向での圧縮工程を経て得られた層である。よって、例えば、
図5に示すように、吸収体4は、肌側層4aと非肌側層4bとの2層から構成されていてよい。この場合、肌側層4aを広葉樹パルプ繊維含有吸収体とし、肌側層4aを広葉樹パルプ繊維含有吸収体としてもよいが、肌に直接接触し得る肌側層4aを広葉樹パルプ繊維含有吸収体とする場合、単層の構成についての説明で述べた同じ理由で、かぶれ等の抑制・防止の観点で好ましい。
【0071】
なお、吸収体4に含まれる複数の層のサイズは、互いに同じであっても異なっていてもよい。また、吸収体4に含まれる複数の層の厚みも、互いに同じであっても異なっていてもよい。例えば、
図6に示すように、吸収体4に含まれる肌側層4aと非肌側層4bとで、幅及び厚みが異なっていてもよい。
図6に示す例では、肌側層4aの幅及び厚みが、非肌側層4bよりも小さくなっている。吸収体に含まれる複数の層のサイズは、吸収性物品の形態及び使用目的に応じて設定できる。なお、層の数は2つに限られず、3以上であってもよい。
【0072】
吸収体4が2層になっている場合、非肌側層4b中の高吸水性ポリマーの割合と、肌側層4a中の高吸水性ポリマーの割合とを異ならせてもよい。非肌側層4b中の高吸水性ポリマーの割合を、肌側層4a中の高吸水性ポリマーの割合より大きくした場合には、非肌側4bで高吸水性ポリマーによる液の吸収機能及び保持機能が向上し、肌側層4aへの液の逆戻り、ひいては使用者の肌への液の逆戻りを一層防止できる。
【0073】
吸収体4の厚み(吸収体が複数層からなる場合には複数層の全体の厚み)は、0.5mm以上20mm以下、好ましくは1mm以上15mm以下であってよい。例えば吸収性物品1のような使い捨ておむつの場合には、吸収体4の厚みは、1mm以上30mm以下、好ましくは1.5mm以上15mm以下であってよい。吸収体4の厚みは、均一であってもよいし、厚みが相対的に厚い又は相対的に薄い領域が形成されていてもよい。また、吸収体には溝や貫通スリットが形成されていてよい。
【0074】
また、吸収体4におけるパルプの目付(吸収体が複数層からなる場合には複数層全体の目付)は、吸収体が配置される吸収性物品の用途にもよるが、100g/m2以上300g/m2以下、好ましくは120g/m2以上250g/m2以下であってよい。例えば吸収性物品1のような使い捨ておむつの場合には、パルプの目付は、100g/m2以上300g/m2以下、好ましくは120g/m2以上200g/m2以下であってよい。パルプ吸収体の目付は、全体的に均一であってもよいし、目付が相対的に高い領域又は相対的に低い領域が形成されていてもよい。
【0075】
吸収体における高吸水性ポリマーの目付(吸収体が複数層からなる場合には複数層全体の目付)は、50g/m2以上350g/m2以下、好ましくは100g/m2以上300g/m2以下であってよい。例えば吸収性物品1のような使い捨ておむつの場合には、高吸水性ポリマーの目付は、50g/m2以上300g/m2以下、好ましくは100g/m2以上250g/m2以下であってよい。
【0076】
<吸収体原料(パルプシート)の製造>
以下、本形態による吸収体の原料となるフラッフパルプ用パルプシートの製造についても説明する。パルプシートの製造方法は特に限定されないが、例えば、原料木材を蒸解して未晒パルプとする蒸解工程と、脱リグニンを行う脱リグニン工程と、漂白して漂白パルプとする漂白工程と、漂白パルプを所望のフリーネスとなるように叩解する叩解工程と、パルプスラリーを調製する工程と、パルプスラリーを抄紙する工程とを有する。なお、上記工程間に適宜、脱水洗浄工程を設けることができる。
【0077】
(蒸解工程)
蒸解工程では、原料木材を蒸解して未晒パルプとする。蒸解釜に白液及び原料木材チップ(広葉樹及び/又は針葉樹)を入れて蒸解し、生成された黒液混じりの(未洗浄)パルプスラリーが連続蒸解釜の底部から取り出される。蒸解方法は、市販クラフト改良法であるMCC、EMCC、ITC、Lo-Solids、KobudoMari、Compact法、等から任意に選ぶことができ、蒸解釜としては連続蒸解釜あるいはバッチ釜の方式のどちらでも良く、また蒸解条件(蒸解温度、蒸解温度と蒸解時間の影響度を乗じて一つの因子にまとめたHファクター、活性アルカリ又は有効アルカリの含有割合等)については特に限定されない。
【0078】
なお、広葉樹パルプ繊維の蒸解においては、パルプを蒸解する白液の硫化度の下限としては、25%が好ましく、28%がより好ましい。上記硫化度が25%未満であると、パルプ繊維が痛みやすく、得られるフラッフパルプは密になり、吸収体の吸収速度が低下する虞がある。一方、上記硫化度の上限としては、32%が好ましく、30%がより好ましい。上記硫化度が上記上限を超えると、パルプ繊維が痛みにくく剛直のままとなり、得られる吸収体の空隙にムラが多くなり、逆戻り量が多くなることで、かぶれが発生するおそれがある。上記硫化度は次式に従い、硫化ソーダと苛性ソーダの合計に対する、硫化ソーダの割合として計算する:
硫化度(%)=(Na2S/(NaOH+Na2S))×100
【0079】
(脱リグニン工程)
脱リグニン工程では、未晒パルプを脱リグニンする。未晒パルプにアルカリ性薬品及び酸素を添加し、高温高圧でリグニンを分解、アルカリ性薬品に溶出させる。脱リグニン工程は、低濃度(パルプ濃度:3%~8%)、中濃度(パルプ濃度:8%~15%)、高濃度(パルプ濃度:20%~30%)の方式は特に問わない。
【0080】
(洗浄工程)
洗浄工程では、未晒パルプを置換、希釈または脱水を組み合わせることで洗浄を行う。洗浄方式としては特に限定されず、公知の洗浄機を用いて洗浄することができる。例えば、置換洗浄方式、希釈・脱水方式、プレス洗浄方式、あるいはこれらを組み合わせた洗浄方式が用いられる。置換洗浄方式の洗浄機としては、ディフュージョンウォッシャーや加圧ディフュージョンウォッシャー、ベルトタイプ洗浄機などが用いられる。希釈・脱水方式の洗浄機としては、真空フィルター洗浄機、加圧フィルター洗浄機などが用いられる。プレス洗浄方式としてはスクリュー型プレス洗浄機、ディスク型プレス洗浄機、ロール型プレス洗浄機などが用いられる。
【0081】
本形態では、リグニンを除去し、カッパー価を低減させることが好ましいため、リグニンを除去しやすいプレス洗浄機を用いることが好ましい。プレス洗浄方式による洗浄後のパルプ濃度としては、30%以上が好ましく、32%以上がより好ましく、35%以上がさらに好ましい。プレス洗浄方式による脱水では、繊維内部の水分も絞り出して除去できるため、他の洗浄方式と比べて、パルプ繊維内部で遊離しているリグニンを十分に除去しやすい。
【0082】
(漂白工程)
漂白工程では、脱リグニンを行った未晒パルプを漂白して漂白パルプとする。漂白方式としては特に限定されず、公知の漂白方法で漂白することができる。例えば、酸処理、オゾン漂白、二酸化塩素漂白、過酸化水素漂白や、さらにこれらとアルカリ抽出、酸素を添加したアルカリ抽出、酸素と過酸化水素を添加したアルカリ抽出等を、単独または複数組み合わせて実施することができる。
【0083】
漂白工程においては、パルプ繊維を痛めることによりパルプ繊維の吸水性を調整することができるオゾン漂白を用いることが好ましい。オゾン漂白の方式としては特に限定されず、高濃度(30~40%),中濃度(8~15%),低濃度(1~3%)のいずれでも実施できるが、より繊維を傷めやすい高濃度法が好ましい。オゾン発生装置は、公知の装置を用いることができる。発生したオゾンは、そのままパルプと混合、または水中へ溶解してからパルプと混合させても良い。
【0084】
オゾン漂白においては、pHが低いほど脱リグニンは促進される一方、繊維への傷みは少なくなるため、フラッフパルプ用パルプシートの要求品質に応じてpHを調整することが好ましい。フラッフパルプ用パルプシートのオゾン漂白におけるpHとしては、6以下が好ましく、4以下がより好ましく、2~3がさらに好ましい。フラッフパルプ用パルプシートのオゾン漂白におけるpHが上記範囲であることで、フラッフパルプ用パルプシートに要求される吸水速度を向上できる。
【0085】
(調成工程)
調成工程においては、パルプスラリーを調製する。また、必要があれば、調成工程では、漂白パルプを所望のフリーネスとなるように叩解する。その後、その他の添加剤を必要に応じ添加し、紙料を調製する。
【0086】
なお、広葉樹パルプ繊維を得る場合、広葉樹晒クラフトパルプの未叩解パルプのカナダ標準ろ水度(CSF)としては、520ml以上580ml以下に調整されていることが好ましい。広葉樹晒クラフトパルプの未叩解パルプのフリーネスが520ml未満の場合、パルプシート製造時に脱水性が悪くなり、例えば抄紙機においてプレス脱水を強化する等、脱水を機械的に強化する必要があり、パルプ繊維同士の結合が強くなるだけでなくパルプシートの嵩高性が低くなることで、製造時における解繊性が低下するおそれがある。一方、上記未叩解パルプのカナダ標準ろ水度が580mlを超えると、パルプシートにおいて繊維間の空隙が多くなりすぎて、当該パルプシートを解繊して得た吸収体に解繊ムラが生じ易くなるおそれがある。
【0087】
(抄紙工程)
次に、これらの原料スラリーを用いて、pHが6以上8以下になるように中性域で抄紙機にて抄紙する。上記抄紙工程では、走行するワイヤー上に噴出させたパルプ原料を抄紙する抄紙機を用いて原料パルプを抄紙する。抄紙機は特に限定されるものではなく、公知の抄紙機、例えば長網抄紙機、円網抄紙機、ハイブリッドフォーマー、ギャップフォーマー等の抄紙機を使用することができ、シート状に抄紙される。フラッフパルプ用パルプシートは1層または複数層の抄き合わせにより製造することができるが、一層であれば、層内の密度を均一にし易いため好ましい。
【0088】
<吸収体原料(パルプシート)の物性>
以下、吸収体の原料となるフラッフパルプ用パルプシートの物性についても説明する。
【0089】
(クレム吸水度)
クレム吸水度は、紙の下端を鉛直に水の中に浸漬し、毛管現象によって吸上げた高さを測定するものであり、JIS-P8141(2004)に準拠して測定する。クレム吸水度は、試料に水が接触してからの比較的長い時間にわたる吸収性能を評価するための指標であるが、吸収性物品においては、より短時間での吸収性が重要であるため、下記の通り測定する。フラッフパルプ用パルプシートを用いて試料を作製後、室温下で吸水度試験において、測定開始後1分の高さ[mm]、及び測定開始後1分から2分の間の吸水速度[mm/分]を測定する。測定開始後1分の高さをフラッフパルプ用パルプシートの吸水量の尺度とし、測定開始後1分から2分の間の吸水速度をフラッフパルプ用パルプシートの吸水速度の尺度とする。これらの吸水量及び吸水速度は、吸収性物品の短時間での吸収容量及び吸収速度の指標となる。
【0090】
フラッフパルプ用パルプシートの坪量200g/m2における測定開始後1分の吸水高さの下限としては、25mmが好ましく、27mmがより好ましく、29mmがさらに好ましい。上記測定開始後1分における吸水高さが25mm未満の場合、フラッフパルプ用パルプシートから作製されるフラッフパルプ及び吸収性物品では、吸水量が少ないため肌のかぶれが発生するおそれがある。一方、上記測定開始後1分における吸水高さの上限としては、40mmが好ましい。上記測定開始後1分における吸水高さが40mmを超える場合、吸水量が高すぎて、測定開始後1分から2分の間における吸水速度が低下し、フラッフパルプ用パルプシートから作製されるフラッフパルプ及び吸収性物品では、吸水液の逆戻り量が増加し肌のかぶれが発生するおそれがある。上記測定開始後1分における吸水高さが上記範囲であることで、当該フラッフパルプ用パルプシートは、吸水量が良好なフラッフパルプを得ることができる。
【0091】
フラッフパルプ用パルプシートの坪量200g/m2における測定開始後1分から2分の間の吸水速度の下限としては、5mm/分が好ましく、7mm/分がより好ましく、9mm/分がさらに好ましい。上記測定開始後1分から2分の間における吸水速度が5mm/分未満の場合、当該フラッフパルプ用パルプシートから作製されるフラッフパルプ及び吸収性物品では、吸水速度が低いため、吸水液の逆戻り量が増加し肌のかぶれが発生するおそれがある。上記測定開始後1分から2分の間における吸水速度が上記範囲であることで、当該フラッフパルプ用パルプシートは、吸水速度が良好なフラッフパルプを得ることができる。当該フラッフパルプ用パルプシートは、上記測定開始後1分における吸水高さと上記測定開始後1分から2分の間における吸水速度がともに上記範囲であることで、吸水量および吸水速度に優れたフラッフパルプを製造でき、逆戻りが少なく、かぶれを抑制できる吸収性物品を得ることができる。ここで、フラッフパルプ用パルプシートの坪量200g/m2を超えるものであっても、JIS-P8220(2012)「パルプ-離解方法」に準拠して、試料を標準離解機によって離解処理した後、JIS-P8222(1998)「パルプ-試験用手すき紙の調製方法-標準手すき機による方法」によって、坪量200g/m2のサンプルを作成後、測定することもできる。
【0092】
(密度)
フラップパルプ用パルプシートの密度は、JIS-P8118(2014)に記載の「紙及び板紙-厚さ、密度及び比容積の試験方法」に準拠して測定される。当該フラッフパルプ用パルプシートの密度の下限としては、0.50g/cm3が好ましく、0.52g/cm3がより好ましく、0.55g/cm3がさらに好ましい。上記フラッフパルプ用パルプシートの密度の上限としては、0.65g/cm3が好ましく、0.62g/cm3がより好ましく、0.60/cm3がさらに好ましい。当該フラッフパルプ用パルプシートの密度が上記範囲であることで、製造工程時における解繊性を向上できるとともに、ムラなく均一に繊維間の空隙を確保しやすいフラッフパルプを得ることができる。従って、フラッフパルプに要求される吸水量および吸水速度を良好にできる。なお、密度は、JIS-P8111(1998)に記載の「紙、板紙及びパルプ-調湿及び試験のための標準状態」のとおり、23±1℃、50±2%RHの雰囲気下で測定できる。
【0093】
(比破裂強度)
フラップパルプ用パルプシートの比破裂強度は、JIS-P8131(2009)に準拠して測定されるキロパスカル(kPa)単位で表した紙の破裂強さを坪量で除した値である。比破裂強度の下限としては、1.0kPa・m2/gが好ましく、1.1kPa・m2/gがより好ましく、1.2kPa・m2/gがさらに好ましい。当該フラッフパルプ用パルプシートの上記比破裂強度が上記下限未満の場合、過解繊となり繊維が切断されやすいため、フラッフパルプが密になり、吸水速度が低下しかぶれが発生しやすくなるおそれがある。一方、当該フラッフパルプ用パルプシートの上記比破裂強度の上限としては、1.7kPa・m2/gが好ましく、1.6kPa・m2/gがより好ましく、1.5kPa・m2/gがさらに好ましい。当該フラッフパルプ用パルプシートの上記比破裂強度が上記上限を超える場合、製造工程時の解繊性が悪く、得られるフラッフパルプに空隙が多くなることで、吸水液が逆戻りしやすくなるとともにかぶれが発生しやすくなるおそれがある。当該フラッフパルプ用パルプシートの比破裂度が上記範囲であることで、上記広葉樹晒クラフトパルプと針葉樹晒クラフトパルプを混合したフラッフパルプ用パルプシートにおいて、製造時の解繊性を向上させることができ、フラッフパルプにおいてはムラなく均一に繊維間の空隙を確保しやすくなるため、フラッフパルプの吸水速度を良好にできる。なお、比破裂度測定は、JIS-P8111(1998)に記載の「紙、板紙及びパルプ-調湿及び試験のための標準状態」のとおり、23±1℃、50±2%RHの雰囲気下で測定できる。
【0094】
<吸収体の製造方法>
さらに、本形態による吸収性物品用吸収体の製造について説明する。本形態による吸収体4(
図3等)は、公知の方法で製造することができる。
図7に、吸収体製造装置100の概略図を示す。
図7に示すように、吸収体製造装置100の上流には、主としてパルプを含む繊維材料を供給するパルプ供給部61が設けられている。パルプ供給部61は解繊機を備えていてよく、この解繊機にはパルプシートが供給される。
【0095】
パルプシートは上述のように製造されたものであってよい。このようなパルプシートを機械的処理により繊維状に解繊して、フラッフパルプを得る。なお、供給されるフラッフパルプ用パルプシートは、ベール状又はロール状のいずれでもよいが、ロール状であると生産性を向上させやすいため好ましい。
【0096】
また、パルプシートを解繊するための機械的処理に用いる装置は特に限定されない。使い捨ておむつ等の吸収性物品の製造時などに使用されている公知の解繊機を使用でき、機械的処理として摩擦力やせん断力を利用する解繊機を好適に使用できる。解繊機の方式としては、例えば、ハンマー式解繊機、衝撃式解繊機、ロール式解繊機及びシェット気流式解繊機等が挙げられる。
【0097】
解繊されて得られたフラッフパルプは、ダクト62内に供給される。ダクト62の途中には、高吸水ポリマー粒子を供給するためのポリマー粒子導入部63が設けられていてよい。よって、ダクト62内で、パルプ(フラッフパルプ)及び高吸水ポリマー粒子が混合されて、混合されて得られた吸収体材料が積繊ドラム65へと供給される。
【0098】
積繊ドラム65の外周面には、吸収体型50が周方向に離隔して複数配置されている。積繊ドラム65が回転することで、吸収体型50、50、…が順次、吸収体材料を受容することができる。吸収体型50の底面は多孔プレート又はメッシュプレートで構成されており、開孔を通して気体を吸引することで吸収体材料を吸収体型50の底面に集積できるようになっている。また、開孔を通して気体が排出されることで、吸収体4を、ベルトコンベア等の搬送手段66へと供給することができる。積繊ドラム65の内部には、負圧チャンバ及び正圧チャンバが設けられており、各チャンバによって気体の吸引及び排出がそれぞれ可能になっている。
【0099】
ダクト62内の下流位置には、スカッフィングロール(若しくはブラシ)64が設けられていてよい。スカッフィングロール64によって、積繊された過剰な吸収体材料を掻き取り、吸収体型50に集積された吸収体材料の表面を均一化することができる。また、搬送手段66に供給された吸収体4は、圧縮手段67によって厚み方向に圧縮することができる。圧縮手段67は、
図7に示すように一対のロールであっても、吸収体4の両側から接近する一対の押圧部材であってもよい。圧縮手段67によって、吸収体4の保形性が高まる。
【0100】
吸収体4は、さらに下流で、被包シート5によって包むことができる。被包シート5で吸収体4を包む工程も公知の方法で行うことができる。
【0101】
図8に、吸収体4が2層からなる吸収体4(
図5及び
図6等)の製造装置200を示す。製造装置200は、吸収体4に含まれる各層、図示の例では肌側層4a及び非肌側層4bをそれぞれ製造する単層製造部101、102を含む。この単層製造部101、102はいずれも、単層の吸収体を製造するための製造装置100(
図7)と同様の構成を備えている。単層製造部101、102でそれぞれ製造された吸収体の層4a、4bは、厚み方向に重ねられた後、さらにその全体を被包シート5で包むことができる。
【0102】
<吸収性物品の別形態>
図9に、別形態による吸収性物品(生理用ナプキン)11を、装着時に肌に対向させる側(肌側)から見た平面図を示す。
図10に、
図9のII-II断面を模式的に示す。吸収性物品(生理用ナプキン)11の部材は、所定箇所又は所定領域にて、接着剤、融着、又は機械的手段によって接合されている。なお、
図9及び
図10には、吸収性物品(生理用ナプキン)11の主要な部材のみを示す。また、
図7においては、部材の位置関係を分かりやすくするため、部材間の接合の図示を省略する。
【0103】
図9及び
図10に示す吸収性物品11も、肌側に配置された透液性のトップシート3と、非肌側に配置された不透液性のバックシート2とを備えており、両シート2、23の間には吸収体4が挟まれている。吸収性物品11を装着する際、トップシート3側を肌に対向させ、バックシート2側をショーツ等の下着に固定させる。バックシート2は、吸収体4がバックシート2の範囲内に収まるような形状及びサイズを有する。これらの点は、
図1及び
図2に示す吸収性物品1と同様である。また、トップシート3及びバックシート2の材料についても、吸収性物品1と同様である。
【0104】
吸収性物品(生理用ナプキン)11においては、サイドシート7、7が幅方向D2の両側設けられている点についても、吸収性物品1(
図1及び
図2)と同様であるが、
図1及び
図2に示すように、サイドシート7、7が側方へ延出して、同様に側方に延出したバックシート2と接合され、ウィイングが形成されていてもよい。
【0105】
吸収性物品(生理用ナプキン)11における吸収体4の材料も、吸収性物品(パッドタイプの使い捨ておむつ)1における吸収体4と同様であってよい。吸収性物品(生理用ナプキン)11においては、吸収体4の厚みは、0.3mm以上30mm以下、好ましくは1.0mm以上15mm以下であってよい。吸収体4には、圧搾により形成された溝(圧搾溝、若しくはエンボス)が形成されていてよい。吸収体4に形成される圧搾溝は、吸収体4自体(吸収体本体、又は吸収体本体と被包シートとからなる部分)を肌側から圧搾されて形成された溝(コアエンボス)であってもよいし、少なくとも吸収体4及びトップシート3を含む積層体を肌側から圧搾されて形成された溝(フィットエンボス)であってもよい。
図9には、フィットエンボスEBの例を示す。なお、フィットエンボスEB内の黒色はより高い圧力で圧搾された高圧搾部であり、白色は高圧搾部より低い圧力で圧搾された低圧搾部である。
【0106】
本形態では、吸収体4におけるパルプがリサイクルパルプを含んでいて、繊維長の短い且つ/又は繊維幅の小さい繊維をより多く含む。そのため、圧搾溝を深く形成した場合であっても、すなわち高い圧力で圧搾して溝の密度が高くなっていても、圧搾溝及び溝の周辺部分が過度に硬くなることを回避できる。
【0107】
吸収体4におけるパルプの目付(吸収体が複数層からなる場合には複数層全体の目付)は、150g/m2以上500g/m2以下、好ましくは250g/m2以上400g/m2以下であってよい。パルプ吸収体の目付は、全体的に均一であってもよいし、目付が相対的に高い領域又は相対的に低い領域が形成されていてもよい。また、吸収体4における高吸水性ポリマーの目付(吸収体が複数層からなる場合には複数層全体の目付)は、70g/m2以上470g/m2以下、好ましくは140g/m2以上240g/m2以下であってよい。
【実施例0108】
<フラッフパルプ用シートの作製>
表1に示す材料を用い、以下の手順で、実施例1~19及び比較例1~5のフラッフパルプ用シートを作製した。比較例1は、既存の針葉樹パルプ100%のフラッフパルプ用シートを再現したものである。
【0109】
(蒸解工程)
(1)広葉樹
アカシア及びユーカリを表1に記載の質量比となるよう混合し、所定の硫化度を有する白液を添加し、液比6.0(L/kg)、最高温度170℃で回転式オートクレーブによる蒸解を行い、カッパー価約16の広葉樹未晒クラフトパルプを得た。
(2)針葉樹
杉に所定の硫化度を有する白液を添加し、液比6.0(L/kg)、最高温度170℃で回転式オートクレーブによる蒸解を行い、カッパー価約30の針葉樹未晒クラフトパルプを得た。
【0110】
(洗浄工程)
未晒パルプをパルプ濃度約2%まで希釈した後、ブフナー漏斗にNo.2ろ紙(ADVANTEC社製)を敷き、パルプ濃度を約12%まで脱水した。その後、未晒パルプを角型ろ紙(ADVANTEC社製)で挟み、プレス機で圧力を掛け、パルプ濃度33%まで脱水した。この洗浄工程を2回実施した。
【0111】
(漂白工程)
(1)広葉樹
未晒クラフトパルプを、45℃で8.1%濃度のオゾンガスにて約2分間でオゾン漂白した。なお、オゾン漂白には、住友精密工業製PSA Ozonizer SGA-01A-PSA4 のラボオゾン発生器からのオゾンガスを用いた。さらに、オゾン漂白後のパルプを、二酸化塩素添加率1.5%、パルプ濃度10質量%、70℃で二酸化塩素漂白し、広葉樹晒クラフトパルプを得た。なお、各漂白工程の間では、パルプ濃度約2%まで希釈した後、ブフナー漏斗にNo.2ろ紙(ADVANTEC社製)を敷き、パルプ濃度を約12%まで脱水する希釈洗浄工程を2回実施した。
(2)針葉樹
未晒クラフトパルプを、二酸化塩素添加率1.5%、パルプ濃度10質量%、70℃で30分間二酸化塩素漂白した。続いて、アルカリ添加率1%、過酸化水素添加率0.3%、パルプ濃度10質量%、70℃で120分間アルカリ性過酸化水素漂白を行った。続いて、水酸化ナトリウム添加率0.2%、パルプ濃度10質量%、70℃で120分間、アルカリ処理を行った。続いて、二酸化塩素添加率0.3%、パルプ濃度10質量%、70℃で150分間二酸化塩素漂白を行い、針葉樹晒クラフトパルプを得た。なお、各漂白工程の間では、パルプ濃度約2%まで希釈した後、ブフナー漏斗にNo.2ろ紙(ADVANTEC社製)を敷き、パルプ濃度を約12%まで脱水する希釈洗浄工程を2回実施した。
【0112】
(抄紙工程)
得られた広葉樹哂クラフトパルプおよび針葉樹哂クラフトパルプは、叩解せずに、濃度約2%に希釈して、表2に記載の配合率となるように調整した。そして、調整後のパルプスラリーを用いて、半自動シートマシン(熊谷理機工業社製)を用いて、坪量800g/m2となるよう手抄きシート(フラッフパルプ用パルプシート)を作成した。
【0113】
<吸収性物品の作製>
各例のフラッフパルプ用パルプシートを用いて、
図7に示すような装置において、それぞれ吸収性物品用吸収体を作製した。フラップパルプに添加された高吸水性ポリマーの量は、フラッフパルプ7.7gに対して9.3gであった。得られた吸収体を用いて、使い捨ておむつ(テープタイプ、Lサイズ)を作製した。
【0114】
<パルプ繊維の繊維長及び繊維幅の測定等>
蒸解工程及び洗浄工程後の各例の広葉樹未晒クラフトパルプにおける繊維長及び繊維幅を測定した。繊維長及び繊維幅は、バルメット社製、繊維長測定機「VALMET FS5」を用いて、JIS-P8226:2011(ISO16065-2:2007)「パルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法」に準じて測定した。繊維分析計「VALMET FS5」は、希釈したパルプ繊維が繊維分析計内部の測定セルを通過する際の画像分析によってパルプ繊維の長さ、幅を測定できる装置である。得られた測定値から、全パルプ繊維における繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維の質量基準での割合、及び繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維の質量基準での割合を算出した。また、上記繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維を0.02mm間隔で(0.02mmの分級幅で)測定したときにおける平均繊維長及び標準偏差σ、並びに上記繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維を1μm間隔で(1μmの分級幅で)測定したときにおける平均繊維幅及び標準偏差σを算出した。なお、上記平均値(平均繊維長及び平均繊維幅の値)は、算術平均である。また、上記標準偏差は繊維分析計に基づいて測定したn=10000以上から算出した値である。算出結果を表1に示す。
【0115】
【0116】
<評価>
評価は、以上のようにして行った。評価結果は表2に示す。
【0117】
(密度)
各例のフラッフパルプ用パルプシートの密度は、JIS-P8118(2014)に記載の「紙及び板紙-厚さ、密度及び比容積の試験方法」に準拠して測定した。
【0118】
(比破裂強度の算出)
各例のフラッフパルプ用パルプシートの比破裂強度は、JIS-P8131(2009)に準拠して測定された破裂強さ[kPa]を、坪量で除した値[kPa・m2/g]として求めた。
【0119】
(解繊性評価)
上記の比破裂強度に基づき、各例のフラッフパルプ用パルプシートの解繊性を評価した。評価基準は、以下の5段階とした。評価がA、B、C及びDの場合、フラッフパルプ用パルプシートにおける解繊性が良好であり、これらのうちAの場合の解繊性は優れている。また、Dはやや劣るが実用上は問題のないレベルである。
A:比破裂強度が1.2kPa・m2/g以上1.5kPa・m2/g以下である。
B:比破裂強度が1.6kPa・m2/g又は1.1kPa・m2/gである。
C:比破裂強度が1.7kPa・m2/g又は1.0kPa・m2/gである。
D:比破裂強度が1.8kPa・m2/g又は0.9kPa・m2/gである。
E:比破裂強度が1.9kPa・m2/g以上又は0.8kPa・m2/g以下である。
【0120】
(クレム吸水度の測定)
各例のフラッフパルプ用パルプシートのクレム吸水度を、JIS-P8141(2004)に記載の「紙及び板紙-吸水度試験方法-クレム法」に準拠して測定した。より具体的には、坪量200g/m2の各フラッフパルプ用パルプシートについて、測定開始後1分の高さ[mm]を測定し、測定開始後1分及び2分の高さ[mm]に基づき、測定開始後1分から2分の間の吸水速度[mm/分]を算出した。
【0121】
(吸水量評価)
上記の測定開始後1分の高さの値に基づき、フラップパルプ用シートの吸水量(吸収性能)を以下の基準で評価した。
A:クレム吸水度における測定開始後1分の高さが29mm以上40mm以下である。
B:クレム吸水度における測定開始後1分の高さが27mm以上29mm未満である。
C:クレム吸水度における測定開始後1分の高さが25mm以上27mm未満である。
D:クレム吸水度における測定開始後1分の高さが25mm未満である。
【0122】
(吸水速度評価)
上記の測定開始後1分から2分の間の吸水速度の値に基づき、フラップパルプ用シートの吸水速度を以下の基準で評価した。
A:クレム吸水度における測定開始後1分から2分の間の吸水速度が9mm/分以上である。
B:クレム吸水度における測定開始後1分から2分の間の吸水速度が7mm/分以上9m/分未満である。
C:クレム吸水度における測定開始後1分から2分の間の吸水速度が5mm/分以上7mm/分未満である。
D:クレム吸水度における測定開始後1分から2分の間の吸水速度が3mm/超5mm/未満である。
E:クレム吸水度における測定開始後1分から2分の間の吸水速度が3mm/分以下である。
【0123】
(フラッフパルプの製造時の作業性評価)
フラッフパルプの製造時における作業性は、坪量200g/m2の各例のフラッフパルプ用パルプシートを2cm×2cmに裁断し、市販のミキサー(テスコム社製、ミキサーTM856)で粉砕し、粉砕時の紙紛の発生程度を調べることで評価した。なお、粉砕時に生じる紙粉の堆積量は、EからAに向かうにつれて多くなっている。評価は、以下の5段階の通りとした。評価がA、B、C及びDの場合、作業性が良好である。
A:パルプシート粉砕時に紙紛が舞い、ミキサー壁面にわずかにパルプの堆積がある。
B:パルプシート粉砕時に紙紛が舞い、ミキサー壁面に若干のパルプの堆積がある。
C:パルプシート粉砕時に紙紛が舞い、ミキサー壁面に少量のパルプの堆積がある。
D:パルプシート粉砕時に紙紛が舞い、ミキサー壁面に多少のパルプの堆積があるが、問題ない範囲である。
E:パルプシート粉砕時に紙紛が舞い、ミキサー壁面に多くのパルプが堆積し、実使用に耐えないレベルである。
【0124】
(吸収性物品の肌かぶれ抑制評価)
各例で上述のように作製された使い捨ておむつを、モニターのべ220名に、実施例1~19及び比較例1~比較例5のいずれかを各10枚使用してもらった。すなわち、1つの例の使い捨ておむつにつき、モニター10名による評価が行われた。そして、かぶれが発生した枚数を百分率で評価した。評価は、以下の5段階の通りとした。評価がA、B、C及びDの場合、肌のかぶれに対する抑制効果が既存品と同じ構成の比較例1よりも良好であることを意味する。
A:かぶれ発生率が比較例1より優れる。
B:かぶれ発生率が比較例1より多少優れる。
C:かぶれ発生率が比較例1より若干優れる。
D:かぶれ発生率が比較例1より僅かに優れ、実使用可能である。
E:かぶれ発生率が比較例1と同等であり、既存品と同じレベルである。
なお、かぶれ抑制効果には、吸収体の逆戻り抑制の効果及び吸収体の吸収容量が関係している。
【0125】
【0126】
表1、2より、広葉樹パルプ繊維及び針葉樹パルプ繊維を含有し、全パルプ繊維における繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維の割合が42.6%以上であり、繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維の割合が90.6%以上である実施例1~実施例19は、特に、解繊性、フラッフパルプの製造時における作業性、吸収性物品におけるかぶれ抑制効果について良好な結果が得られた。
【0127】
一方、針葉樹パルプ繊維のみを含有する比較例1は、実施例に比べて、特に、解繊性、及び吸収性物品におけるかぶれ抑制効果が劣っていた。広葉樹パルプ繊維のみを含有する比較例2は、解繊性、フラッフパルプの製造時における作業性、及び吸収性物品におけるかぶれ抑制効果も劣っていた。
【0128】
なお、上記実施例のうちでも、広葉樹パルプ作製のためのチップ中のアカシア材の配合量が5質量%以上95質量%未満の範囲外である実施例7、及び針葉樹パルプ繊維に対する広葉樹パルプ繊維の質量比が25/75以上38/62未満の範囲外である実施例17では、解繊性、作業性、及び吸収性物品における逆戻り抑制効果がやや劣っていた。
【0129】
以上、本発明を具体的な形態に基づき説明したが、本発明はこれらの形態によって限定されるものではない。また、上記の形態は、特許請求の範囲に記載された範囲内において、様々な変更、修正、置換、付加、削除、及び組合せ等が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に属する。
前記繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維を0.02mm間隔で測定した時における平均繊維長が0.5mm以上0.8mm以下であり、且つ標準偏差σが0.58mm以下であり、
前記繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維を1μm間隔で測定した時における平均繊維幅が15μm以上30μm以下であり、且つ標準偏差σが2.9μm以下である、請求項1に記載の吸収性物品用吸収体。