(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049656
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】半導体装置とその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
H01L21/304 601Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156005
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牛島 隆志
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 富佐雄
(72)【発明者】
【氏名】長屋 正武
(72)【発明者】
【氏名】河口 大祐
(72)【発明者】
【氏名】原 佳祐
【テーマコード(参考)】
5F057
【Fターム(参考)】
5F057AA06
5F057BA15
5F057BB06
5F057CA14
5F057DA22
5F057DA31
(57)【要約】
【課題】レーザの抜け光がデバイス構造に到達することを抑える技術を提供する。
【解決手段】半導体装置の製造方法は、第1主面1aと第2主面1bを有する半導体基板1内にレーザL1を照射して第1改質層11を形成する第1改質層形成工程と、第1改質層形成工程の後に、半導体基板の第1主面側にデバイス構造10を形成するデバイス構造形成工程と、デバイス構造形成工程の後に、半導体基板の第2主面から半導体基板内に向けてレーザL2を照射して第2改質層12を形成する第2改質層形成工程であって、第2改質層は第1改質層と重複する位置、または、第1改質層と第2主面の間の位置に形成される第2改質層形成工程と、デバイス構造が形成されたデバイス層2を第2改質層に沿って半導体基板の残りの層から剥離する剥離工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置の製造方法であって、
第1主面(1a)と第2主面(1b)を有する半導体基板(1)内にレーザ(L1)を照射して第1改質層(11)を形成する第1改質層形成工程と、
前記第1改質層形成工程の後に、前記半導体基板の前記第1主面側にデバイス構造(10)を形成するデバイス構造形成工程と、
前記デバイス構造形成工程の後に、前記半導体基板の前記第2主面から前記半導体基板内に向けてレーザ(L2)を照射して第2改質層(12)を形成する第2改質層形成工程であって、前記第2改質層は前記第1改質層と重複する位置、または、前記第1改質層と前記第2主面の間の位置に形成される第2改質層形成工程と、
前記デバイス構造が形成されたデバイス層(2)を前記第2改質層に沿って前記半導体基板の残りの層から剥離する剥離工程と、
を備える、半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記デバイス層の厚みが10~110μmである、請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記デバイス層の厚みが10~50μmである、請求項2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記剥離工程の後に、前記デバイス層の裏面を研磨する研磨工程、をさらに備えており、
前記研磨工程は、前記デバイス層の裏面に前記第1改質層の少なくとも一部が残存するように実施される、請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記半導体基板が窒化物半導体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
半導体装置であって、
一方の主面にデバイス構造(10)が形成されているデバイス層(2)、を備えており、
前記デバイス層の他方の主面には改質層(11)が形成されている、半導体装置。
【請求項7】
前記デバイス層の厚みが10~110μmである、請求項6に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記デバイス層の厚みが10~50μmである、請求項7に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記デバイス層が窒化物半導体である、請求項6~8のいずれか一項に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、半導体装置とその製造方法に関する。
【0002】
半導体基板の一方の主面側にデバイス構造を形成した後に、半導体基板内にレーザを照射して改質層を形成し、デバイス構造が形成されたデバイス層を改質層に沿って半導体基板の残りの層から剥離する技術が開発されている。このレーザ剥離技術を利用すると、デバイス層が剥離された後の半導体基板を再利用することができるので、半導体装置の製造コストを低下させることができる。特許文献1には、レーザ剥離技術を利用する半導体装置の製造方法の一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーザは、半導体基板のうちデバイス構造が形成された面とは反対側の面から半導体基板の所定深さで集光するように照射される。レーザは、多光子吸収に移行するまで抜け光となってデバイス構造が形成されている面に到達してしまう。このような抜け光によってデバイス構造の電気的特性に悪影響を与えることが懸念される。本明細書は、レーザの抜け光がデバイス構造に到達することを抑える技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する半導体装置の製造方法は、第1主面(1a)と第2主面(1b)を有する半導体基板(1)内にレーザ(L1)を照射して第1改質層(11)を形成する第1改質層形成工程と、前記第1改質層形成工程の後に、前記半導体基板の前記第1主面側にデバイス構造(10)を形成するデバイス構造形成工程と、前記デバイス構造形成工程の後に、前記半導体基板の前記第2主面から前記半導体基板内に向けてレーザ(L2)を照射して第2改質層(12)を形成する第2改質層形成工程であって、前記第2改質層は前記第1改質層と重複する位置、または、前記第1改質層と前記第2主面の間の位置に形成される第2改質層形成工程と、前記デバイス構造が形成されたデバイス層(2)を前記第2改質層に沿って前記半導体基板の残りの層から剥離する剥離工程と、を備えていてもよい。前記半導体装置の種類は、特に限定されるものではないが、例えばMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、HEMT(High Electron Mobility Transistor)またはダイオードであってもよい。
【0006】
上記製造方法では、剥離面となる前記第2改質層を形成するよりも前に、前記第1改質層が形成されている。前記第1改質層では、禁制帯内に欠陥準位が形成されているので、多光子吸収に移行するまでの時間が短い。このため、前記第2改質層を形成するときに照射されるレーザは、前記第1改質層によってすぐに多光子吸収されるので、抜け光となって前記デバイス構造に到達することが抑えられる。なお、前記第1改質層は前記デバイス構造を形成する前に形成されているので、前記第1改質層を形成するときの抜け光が前記デバイス構造に到達することもない。このように、上記製造方法によると、レーザの抜け光が前記デバイス構造に到達することが抑えられる。この結果、上記製造方法によると、レーザの抜け光によって前記デバイス構造の電気的特性に悪影響が与えられることが抑えられる。
【0007】
本明細書が開示する半導体装置は、一方の主面にデバイス構造(10)が形成されているデバイス層(2)、を備えていてもよい。前記デバイス層の他方の主面には改質層(11)が形成されていてもよい。
【0008】
上記半導体装置では、前記デバイス層の一方の主面に前記改質層が形成されているので、劈開による破損リスクが低減される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】半導体装置の製造方法のうち第1改質層形成工程とデバイス構造形成工程と第2改質層形成工程と剥離工程とダイシング工程のフローを示す図である。
【
図2】半導体装置の製造過程の第1改質層形成工程における半導体基板の要部断面図を模式的に示す図である。
【
図3】半導体基板を平面視したときに、半導体基板のうち第1改質層を形成する範囲の一例を示す半導体基板の平面図である。
【
図4】半導体基板を平面視したときに、半導体基板のうち第1改質層を形成する範囲の他の一例を示す半導体基板の平面図である。
【
図5】半導体装置の製造過程のデバイス構造形成工程における半導体基板の要部断面図を模式的に示す図である。
【
図6】半導体装置の製造過程の第2改質層形成工程における半導体基板の要部断面図を模式的に示す図である。
【
図7】半導体装置の製造過程の剥離工程における半導体基板の断面図を模式的に示す図である。
【
図8】半導体装置の製造過程の剥離工程における半導体基板の要部断面図を模式的に示す図である。
【
図9】半導体装置の製造過程の研磨工程における半導体基板の要部断面図を模式的に示す図である。
【
図10】半導体装置の製造過程のダイシング工程における半導体基板の断面図を模式的に示す図である。
【
図11】比較例の製造方法で製造された半導体装置のデバイス層の厚みと不良率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に示されるように、本明細書が開示するレーザ剥離技術を利用した半導体装置の製造方法は、第1改質層形成工程(ステップS1)と、デバイス構造形成工程(ステップS2)と、第2改質層形成工程(ステップS3)と、剥離工程(ステップS4)と、ダイシング工程(ステップS5)と、を備えている。半導体基板に対してこれら工程が実施されると、複数の半導体装置(チップともいう)が製造される。半導体基板の材料は、特に限定されるものではないが、例えば窒化物半導体であってもよい。窒化物半導体は、結晶の構成元素にガリウムと窒素を含んでおり、例えばGaN、AlGaN、InGaN、InAlGaNであってもよい。以下、半導体基板の材料がGaNの場合を参照し、本明細書が開示する半導体装置の製造方法について説明する。
【0011】
図2に示されるように、半導体基板1は、各々が平面で相互に平行に延びている上面1aと下面1bを有している。これら上面1aと下面1bは、主面とも称される。この例では、半導体基板1の上面1aがGa面であり、半導体基板1の下面1bがN面である。
【0012】
まず、
図2に示されるように、半導体基板1の下面1bから半導体基板1内に向けてレーザL1を照射し、集光点の位置を半導体基板1の面方向に走査しながら第1改質層11を形成する(
図1の「第1改質層形成工程S1」に相当)。レーザL1は、半導体基板1の上面1aから半導体基板1内に向けて照射されてもよい。レーザL1は、半導体基板1に対して透過性を有する波長域のレーザである。レーザL1は、特に限定されるものではないが、可視光のレーザであってもよく、例えば緑色レーザであってもよい。
【0013】
第1改質層11は、後述する第2改質層を形成するよりも前に形成される改質層であり、それ自体で剥離面となる層ではない。レーザL1が照射された第1改質層11は、半導体基板1を構成する結晶(この例では、窒化ガリウムの単結晶)の結晶性が低下しており、各種欠陥を含んでいる。具体的には、第1改質層11は、ガリウム(Ga)と窒素(N)の間の結合が切れたことに起因して形成される欠陥を含んでいる。各種欠陥を含む領域は、禁制帯内に欠陥準位が形成されるので、多光子吸収に移行するまでの時間が短い。なお、第1改質層11を形成するとき、レーザ照射を開始してから各種欠陥が形成されるまで、即ち、多光子吸収に移行するまでは、集光点の位置を通過してレーザL1の抜け光が半導体基板1の上面1aに到達する。第1改質層11の形成する工程は、後述するデバイス構造が半導体基板1に形成される前に実施されるので、第1改質層11を形成するときのレーザL1の抜け光がデバイス構造に悪影響を与えることはない。
【0014】
第1改質層11の厚みT1は、後述する第2改質層の深さ方向の製造バラツキを考慮した大きさを有していてもよい。第1改質層11の厚みT1を大きくするために、集光点を深さ方向に変更しながらレーザL1を照射してもよく、レーザL1の入射角度を小さくして焦点深度を深くしてもよい。または、光学系の調整に基づく収差を利用することで集光点をぼかす(即ち、ビームウエストを広げる)ことにより、第1改質層11の厚みT1を大きくしてもよい。
【0015】
図3および
図4に、半導体基板1を平面視したときの半導体基板1に形成される第1改質層11の範囲を示す。
図3に示すように、第1改質層11の形成範囲は、半導体基板1の周縁を除いた範囲であってもよい。この例では、半導体基板1の側面に第1改質層11が露出しないので、後述のデバイス構造を形成するときの負荷(例えば、熱、膜応力、薬液等)によって第1改質層11の一部が剥離するといった事態、第1改質層11の一部がエッチングされるといった事態を抑えることができる。
図4に示すように、第1改質層11の形成範囲はさらに、ダイシングライン3を除いた範囲であってもよい。ダイシングライン3上には後述のデバイス構造が形成されないので、レーザの抜け光が問題となる領域ではない。
【0016】
次に、
図5に示されるように、半導体基板1の上面1a側にデバイス構造10を形成する(
図1の「デバイス構造形成工程S2」に相当)。デバイス構造10は、特に限定されるものではないが、例えば縦型のMOSFETであってもよい。
図5には、半導体基板1の上面1a側に形成されるデバイス構造10の単位セルを示す。
【0017】
デバイス構造10は、n型のドリフト領域14と、p型のボディ領域16と、n+型のソース領域18と、プレーナ型のMOS構造20と、を備えている。
【0018】
ドリフト領域14は、例えば、再利用された半導体基板1の表面上に結晶成長して形成されたn型領域である。ドリフト領域14は、JFET領域14aを有している。JFET領域14aは、半導体基板1の上面1aに露出する位置に配置されているドリフト領域14の一部である。ボディ領域16は、半導体基板1の上面1aに露出する位置に設けられており、ドリフト領域14とソース領域18を隔てるように配置されている。ドリフト領域14のJFET領域14aとソース領域18の間に位置するボディ領域16の一部をチャネル領域CHという。ソース領域18は、半導体基板1の上面1aに露出する位置に設けられている。
【0019】
MOS構造20は、半導体基板1の上面1aの一部を被覆するように設けられており、ゲート絶縁膜22と、ゲート電極24と、を有している。ゲート電極24は、ゲート絶縁膜22を介してボディ領域16のチャネル領域CHに対向している。MOS構造20に印加されるゲート電圧に応じてボディ領域16のチャネル領域CHに生成される反転層の電子密度が制御され、デバイス構造のオンオフが制御される。デバイス構造10は、MOSFETの例に代えて、IGBT、HEMTまたはダイオードであってもよい。
【0020】
次に、
図6に示されるように、半導体基板1の下面1bから半導体基板1内に向けてレーザL2を照射し、集光点の位置を半導体基板1の面方向に走査しながら第2改質層12を形成する(
図1の「第2改質層形成工程S3」に相当)。レーザL2は、デバイス構造10が形成されていない半導体基板1の下面1bから半導体基板1の所定深さで集光するように照射される。本明細書では、半導体基板1のうちレーザL2が照射される領域よりも上側の部分をデバイス層2という。半導体基板1のデバイス層2内にデバイス構造10が形成されている。デバイス層2の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば10μm以上である。ドリフト領域14の不純物濃度が2×10
16cm
-3以下の場合、ドリフト領域14の厚み、即ち、デバイス層2の厚みが10μm以上であれば、製造される半導体装置の耐圧が1200V以上となる。このような高耐圧な特性を有する半導体装置は、電動車用モータ用およびハイブリッド電動車用のモータ用の電力変換装置に有用である。レーザL2の種類は、第1改質層形成工程で使用したレーザL1と同一であってもよい。第2改質層12を形成するときのレーザL2のパワー密度は、第1改質層11を形成するときのレーザL1のパワー密度よりも大きくてもよい。
【0021】
図6に示されるように、第2改質層12は、第1改質層11と重複する位置に形成される。上記したように、第1改質層11では、禁制帯内に欠陥準位が形成されているので、多光子吸収に移行するまでの時間が短い。このため、第2改質層12を形成するときに照射されるレーザL2は、第1改質層11によってすぐに多光子吸収されるので、抜け光となってデバイス構造10に到達することが抑えられる。レーザL2の抜け光が多いと、抜け光のエネルギーにより、ゲート絶縁膜22に含まれる酸素によって半導体基板1に含まれるガリウムの酸化が促進され、半導体基板1とゲート絶縁膜22の界面に酸化ガリウムが生成してしまう。このような酸化ガリウムの生成は、例えばデバイス構造の閾値電圧をシフトさせるといった電気的特性の変動を引き起こす。本明細書が開示する半導体装置の製造方法では、レーザL2の抜け光が抑えられるので、半導体基板1に含まれるガリウムの酸化が抑えられる。この結果、レーザL2の抜け光によってデバイス構造の電気的特性に悪影響が与えられることが抑えられる。
【0022】
上記したように、第1改質層11はその厚みT1が大きくなるように、即ち、第2改質層12の厚みT2よりも大きくなるように形成されている。このため、第2改質層12の集光点の位置が製造バラツキによって深さ方向に位置ズレしたとしても、第2改質層12は第1改質層11と重複するように形成することができる。また、第2改質層12が第1改質層11と重複した位置に形成されると、第2改質層12を形成するときのレーザL2のパワー密度を小さくすることができるので、レーザL2の抜け光を抑えることができる。なお、第2改質層12は、第1改質層11と半導体基板1の下面1bの間の位置に形成されてもよい。この場合でも、第2改質層12を形成するときに照射されるレーザL2の抜け光は、第1改質層11によってすぐに多光子吸収されるので、抜け光がデバイス構造10に到達することが抑えられる。
【0023】
次に、
図7に示されるように、デバイス構造10が形成されたデバイス層2を第2改質層12に沿って半導体基板1の残りの層から剥離する(
図1の「剥離工程S4」に相当)。第2改質層12は、レーザ照射によって強度が低下しているので、デバイス層2は半導体基板1の残りの層から良好に剥離される。なお、デバイス層2が剥離された後の半導体基板1は、半導体装置の製造に再利用される。例えば、半導体基板1の剥離面に対して研磨及びエッチング等を実施した後に、エピタキシャル結晶成長技術を利用して剥離面上にデバイス層を成膜することにより、成膜したデバイス層にデバイス構造を形成することができる。
図8に、剥離工程を実施した後のデバイス構造10を示す。デバイス層2の裏面には第1改質層11が残存している。
【0024】
次に、
図9に示されるように、剥離工程によって生じたデバイス層2の裏面の表面荒れを平坦化するために、デバイス層2の裏面を研磨する。この研磨工程は、デバイス層2の裏面に第1改質層11の少なくとも一部が残存するように実施される。なお、第2改質層12が第1改質層11と半導体基板1の下面1bの間の位置に形成される場合も同様に、デバイス層2の裏面に第1改質層11の少なくとも一部が残存するように研磨工程が実施されてもよい。デバイス層2の裏面に第1改質層11の少なくとも一部が残存していると、例えばデバイス層2の裏面にキズが入ったときの劈開による破損を抑えることができる。換言すると、このような破損を抑えることができるので、デバイス層2の厚みを薄くすることができる。研磨工程を実施した後に、デバイス層2の裏面には裏面電極が形成される。
【0025】
次に、
図10に示されるように、半導体基板1から剥離されたデバイス層2から複数のデバイス(ダイともいう)を切り出す(
図1の「ダイシング工程S5」に相当)。これらの工程を経て半導体装置が完成する。
【0026】
図11に、比較例の製造方法で製造された半導体装置のデバイス層の厚みと不良率の関係を示す。比較例の製造方法は、上記した本実施例の製造方法のうち第1改質層を形成しない例である。即ち、比較例の製造方法では、剥離面となる1つの改質層のみを形成するので、その改質層を形成するときの抜け光によってデバイス構造の閾値電圧が変動する。デバイス層の厚みとは、半導体基板の上面(即ち、デバイス層の上面)とレーザが照射された改質層の間の厚みであり、剥離工程後のデバイス層の厚みでもある。ここでいう不良とは、比較例の製造方法で製造された半導体装置のデバイス構造の閾値電圧が規格値から外れたものをいう。規格値は、レーザを照射する前の複数のデバイス構造の閾値電圧の平均をμ、標準偏差をσとしたときに、μ±3σで定義される。
【0027】
図11に示されるように、比較例の製造方法では、デバイス層の厚みが110μm以下になると、半導体装置の不良が発生する。したがって、上記した本実施例の製造方法は、閾値電圧の変動を抑えるという点では、デバイス層の厚みが110μm以下のときに有用である。さらに、デバイス層の厚みが50μm以下になると不良率が90%以上になり、デバイス層の厚みが35μm以下になると不良率が100%となる。このため、上記した本実施例の製造方法は、デバイス層の厚みが50μm以下の場合、不良率を改善して製造コストを低減するという点で有用である。また、上記したように、製造される半導体装置の耐圧を考慮すると、デバイス層の厚みが10μm以上であってもよい。したがって、本実施例の製造方法は、デバイス層の厚みが10μm以上かつ100μm以下、より好ましくはデバイス層の厚みが10μm以上かつ50μm以下のときに有用である。
【0028】
以下、本明細書で開示される技術の特徴を整理する。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0029】
(特徴1)
半導体装置の製造方法であって、
第1主面と第2主面を有する半導体基板内にレーザを照射して第1改質層を形成する第1改質層形成工程と、
前記第1改質層形成工程の後に、前記半導体基板の前記第1主面側にデバイス構造を形成するデバイス構造形成工程と、
前記デバイス構造形成工程の後に、前記半導体基板の前記第2主面から前記半導体基板内に向けてレーザを照射して第2改質層を形成する第2改質層形成工程であって、前記第2改質層は前記第1改質層と重複する位置、または、前記第1改質層と前記第2主面の間の位置に形成される第2改質層形成工程と、
前記デバイス構造が形成されたデバイス層を前記第2改質層に沿って前記半導体基板の残りの層から剥離する剥離工程と、
を備える、半導体装置の製造方法。
【0030】
(特徴2)
前記デバイス層の厚みが10~110μmである、特徴1に記載の半導体装置の製造方法。
【0031】
(特徴3)
前記デバイス層の厚みが10~50μmである、特徴2に記載の半導体装置の製造方法。
【0032】
(特徴4)
前記剥離工程の後に、前記デバイス層の裏面を研磨する研磨工程、をさらに備えており、
前記研磨工程は、前記デバイス層の裏面に前記第1改質層の少なくとも一部が残存するように実施される、特徴1~3のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法。
【0033】
(特徴5)
前記半導体基板が窒化物半導体である、特徴1~4のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法。
【0034】
(特徴6)
半導体装置であって、
一方の主面にデバイス構造が形成されているデバイス層、を備えており、
前記デバイス層の他方の主面には改質層が形成されている、半導体装置。
【0035】
(特徴7)
前記デバイス層の厚みが10~110μmである、特徴6に記載の半導体装置。
【0036】
(特徴8)
前記デバイス層の厚みが10~50μmである、特徴7に記載の半導体装置。
【0037】
(特徴9)
前記デバイス層が窒化物半導体である、特徴6~8のいずれか1つに記載の半導体装置。
【0038】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0039】
1:半導体基板、 2:デバイス層、 10:デバイス構造、 11:第1改質層、 12:第2改質層