IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大日本印刷株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-シート、およびシートの製造方法 図1
  • 特開-シート、およびシートの製造方法 図2
  • 特開-シート、およびシートの製造方法 図3
  • 特開-シート、およびシートの製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049661
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】シート、およびシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/02 20060101AFI20240403BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20240403BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20240403BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240403BHJP
   B05D 3/12 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
G02B5/02 C
B32B3/30
B32B7/022
B32B27/00 B
B05D3/12 E
B05D3/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156019
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】西垣 亮介
(72)【発明者】
【氏名】桜井 玲子
(72)【発明者】
【氏名】西根 祥太
【テーマコード(参考)】
2H042
4D075
4F100
【Fターム(参考)】
2H042BA03
2H042BA13
2H042BA15
2H042BA16
2H042BA20
4D075AE19
4D075BB06Z
4D075BB20Z
4D075BB42Z
4D075BB43Z
4D075BB46Z
4D075BB47Z
4D075BB50Z
4D075BB53Z
4D075BB56Z
4D075CA02
4D075CA03
4D075CA47
4D075CA48
4D075CB02
4D075DA04
4D075DB50
4D075DC11
4D075EA05
4D075EA21
4D075EA35
4D075EB22
4D075EC07
4D075EC37
4F100AK01B
4F100AK25
4F100AK51
4F100AR00B
4F100AR00C
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100CB00
4F100CB00C
4F100DD01
4F100DD01B
4F100EH46
4F100EH46B
4F100EJ08
4F100EJ08B
4F100EJ39B
4F100EJ53
4F100EJ53B
4F100EJ54
4F100EJ54B
4F100JB06
4F100JB14B
4F100JB16
4F100JK08
4F100JK08A
4F100JK08B
4F100JK09
4F100JK12
4F100JK12A
4F100JK14
4F100JK14B
4F100JL11C
4F100JN01A
4F100JN01B
4F100JN21
4F100JN21B
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】      (修正有)
【課題】艶消し性および耐傷性に優れ、形状追従性が良好なシートを提供する。
【解決手段】基材層1と、基材層の一方の面側に配置された保護層2と、を有するシート10であって、保護層の基材層とは反対側の表面S1が、皺構造を有する表面形状を備え、シートの伸び率が10%以上であり、基材層のデュロメータA硬さが86以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、前記基材層の一方の面側に配置された保護層と、を有するシートであって、
前記保護層の前記基材層とは反対側の表面が、皺構造を有する表面形状を備え、
前記シートの伸び率が10%以上であり、
前記基材層のデュロメータA硬さが86以上である、シート。
【請求項2】
前記保護層が、電離放射線硬化性樹脂を含む樹脂組成物の硬化物を含有する、請求項1に記載のシート。
【請求項3】
前記基材層の厚さが100μm以上300μm以下である、請求項1または請求項2に記載のシート。
【請求項4】
前記シートの全光線透過率が85%以上である、請求項1または請求項2に記載のシート。
【請求項5】
前記表面形状のJIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の高さ方向のパラメータであるRa(算術平均粗さ)が、2μm以下である、請求項1または請求項2に記載のシート。
【請求項6】
前記表面形状のJIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の横方向のパラメータであるRSm(曲線要素の平均長さ)が、50μm以下である、請求項1または請求項2に記載のシート。
【請求項7】
前記保護層の前記表面形状を有する表面の60°グロス値が、10.0以下である、請求項1または請求項2に記載のシート。
【請求項8】
前記基材層の前記保護層とは反対の面側に、接着層を有する、請求項1または請求項2に記載のシート。
【請求項9】
基材層と、前記基材層の一方の面側に配置された保護層とを有し、前記保護層の前記基材層とは反対側の表面が、皺構造を有する表面形状を備える、シートの製造方法であって、
賦形層を有し、前記賦形層の一方の表面が、前記保護層の前記表面形状が反転した第2の表面形状を備える、賦形用シートを準備する賦形用シート準備工程と、
前記基材層の一方の面側に、樹脂組成物を塗布して塗布層を形成する塗布層形成工程と、
前記塗布層と前記賦形用シートの前記賦形層とが接した状態で前記塗布層を硬化する賦形工程と、
前記賦形用シートを剥がす剥離工程と、
を有し、
前記シートの伸び率が10%以上であり、
前記基材層のデュロメータA硬さが86以上である、シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シート、およびシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種物品においては、保護のために、表面に保護フィルムを配置する場合がある。例えば、車両等の塗装面を保護する塗装保護フィルムが知られている。また、傷を修復する自己修復機能を有する自己修復保護フィルムが知られている(例えば特許文献1参照)。一般に、塗装保護フィルムは、自己修復機能を有することが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-185731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、保護フィルムにおいては、意匠性を高めるため、艶消しフィルムが開発されている。しかし、自己修復保護フィルムは、小さな傷であれば修復できるものの、大きな力で生じた深い傷は修復するのが困難である。自己修復保護フィルムが艶消しフィルムである場合、表面に傷が付くと、傷による艶上がりが生じる。この場合、外観が損なわれるという問題がある。
【0005】
また、物品は様々な立体形状を有することから、保護フィルムには、多様な形状に対応して貼り付け可能であることが望まれる。
【0006】
本開示は、上記問題に鑑みてなされたものであり、艶消し性および耐傷性に優れ、形状追従性が良好なシートを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施形態は、基材層と、上記基材層の一方の面側に配置された保護層と、を有するシートであって、上記保護層の上記基材層とは反対側の表面が、皺構造を有する表面形状を備え、上記シートの伸び率が10%以上であり、上記基材層のデュロメータA硬さが86以上である、シートを提供する。
【0008】
本開示の他の実施形態は、基材層と、上記基材層の一方の面側に配置された保護層とを有し、上記保護層の上記基材層とは反対側の表面が、皺構造を有する表面形状を備える、シートの製造方法であって、賦形層を有し、上記賦形層の一方の表面が、上記保護層の上記表面形状が反転した第2の表面形状を備える、賦形用シートを準備する賦形用シート準備工程と、上記基材層の一方の面側に、樹脂組成物を塗布して塗布層を形成する塗布層形成工程と、上記塗布層と上記賦形用シートの上記賦形層とが接した状態で上記塗布層を硬化する賦形工程と、上記賦形用シートを剥がす剥離工程と、を有し、上記シートの伸び率が10%以上であり、上記基材層のデュロメータA硬さが86以上である、シートの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本開示においては、艶消し性および耐傷性に優れ、形状追従性が良好なシートを提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示におけるシートを例示する概略断面図である。
図2】本開示におけるシートの保護層表面の顕微鏡画像の一例である。
図3】本開示におけるシートを例示する概略断面図である。
図4】本開示におけるシートの製造方法を例示する工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
下記に、図面等を参照しながら、実施の形態を説明する。ただし、本開示は、多くの異なる態様で実施することが可能であり、下記に例示する実施の形態の記載内容に限定されるべきではない。また、図面は説明をより明確にするため、実際の形態に比べ、各部の幅、厚さ、形状について模式的に表す場合があるが、これはあくまで一例であり、限定して解釈されるべきではない。
【0012】
本明細書において、ある部材の上に、他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「上に」あるいは「下に」と表記する場合、特に断りの無い限り、ある部材に接するように、直上あるいは直下に、他の部材を配置する場合と、ある部材の上方あるいは下方に、さらに別の部材を介して他の部材を配置する場合と、の両方を含む。また、本明細書において、ある部材の面に他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「面に」または「面側に」と表記する場合、特に断りの無い限り、ある部材に接するように、直上あるいは直下に、他の部材を配置する場合と、ある部材の上方あるいは下方に、さらに別の部材を介して他の部材を配置する場合と、の両方を含む。
【0013】
また、本明細書において、「板」、「シート」、「フィルム」の用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されない。例えば、「シート」は、「板」または「フィルム」と呼ばれる部材も含む。
【0014】
以下、本開示におけるシート、およびシートの製造方法について、詳細に説明する。
【0015】
A.シート
本開示におけるシートは、基材層と、上記基材層の一方の面側に配置された保護層と、を有し、上記保護層の上記基材層とは反対側の表面が、皺構造を有する表面形状を備え、上記シートの伸び率が10%以上であり、上記基材層のデュロメータA硬さが86以上である。
【0016】
図1は、本開示におけるシートを例示する概略断面図である。図2は、本開示におけるシートの保護層表面の顕微鏡画像である。図1に示すシート10は、基材層1と、基材層1の一方の面側に配置された保護層2とを有しており、保護層2の基材層1とは反対側の表面S1は、皺構造を有する表面形状を備える。シート10の伸び率は所定の範囲であり、基材層1のデュロメータA硬さは所定の範囲である。
【0017】
上述したように、従来、自己修復保護フィルムは、小さな傷であれば修復できるものの、大きな力で生じた深い傷は修復するのが困難である。自己修復保護フィルムが艶消しフィルムである場合、表面に傷が付くと、傷による艶上がりが生じる。この場合、外観が損なわれる。
【0018】
また、艶消し性を付与する方法としては、粒子(マット剤)を添加する方法がある。この場合、粒子自体が有する光拡散効果により艶消し効果が得られる。しかし、シートの表面を擦った際に粒子が脱落することがある。この場合、艶変化が生じ、外観が損なわれる。
【0019】
これに対し、本開示におけるシートによれば、保護層が基材層と反対側の表面に皺構造を有するため、保護層と空気との屈折率差界面での光拡散効果により、光反射を抑制できる。これにより、艶消し効果が発現する。
【0020】
また、本開示における皺構造を有する保護層は、後述するように、電離放射線硬化性樹脂を含む樹脂組成物を用いて形成できる。そのため、保護層の表面硬度を高めることができ、耐擦傷性を向上できる。さらに、本開示において、基材層のデュロメータA硬さが所定の値以上であり、保護層の下地である基材層の硬度も高い。そのため、局所的に大きな力がかかった場合でも、耐傷性が良好である。
【0021】
このように本開示におけるシートによれば、艶消し性および耐傷性に優れるため、傷による艶上がりを抑制でき、艶消しの外観を維持できる。
【0022】
また、本開示においては、上記のような高硬度の基材層および保護層を有しながらも、シートの伸び率が所定の値以上であるため、シートの柔軟性が良好である。そのため、形状追従性を高めることができる。したがって、本開示におけるシートは、各種物品の表面に配置する際の施工性が良好であり、各種物品に適用可能である。
【0023】
以下、本開示におけるシートの各構成について説明する。
【0024】
1.保護層
本開示において、保護層の基材層とは反対側の表面は、皺構造を有する。なお、以下、上記の表面形状を、特定の表面形状と称する場合がある。
【0025】
本開示におけるシートは、保護層を最表層として有することが好ましい。すなわち、シートの最表面が、上記の表面形状を有することが好ましい。
【0026】
(1)表面形状
本開示における保護層が有する表面形状は、皺構造を有する。
【0027】
(a)皺構造の形状
本開示における保護層が有する表面形状において、皺構造は以下の形状を有することが好ましい。
【0028】
皺構造は、不規則な皺による凹凸形状を有することが好ましい。不規則な皺は、複数の突起部により形成する複数の凸部と、複数の突起部により囲まれて形成する凹部と、を有することが好ましい。また、突起部は、線条の突起部を有することが好ましい。
【0029】
なお、本明細書において、「線条の突起部」とは、突起部の長さと幅との比(長さ/幅)が3以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上であることを意味する。突起部の長さおよび幅の決定方法は後述の通りである。以下、線条の突起部を線条突起部と称する場合がある。
【0030】
皺構造の具体的な態様としては、例えば図2に示される態様が挙げられる。図2には、保護層の表面形状として、平面視において不規則な皺を有していること;不規則な皺が、湾曲した複数の線条突起部により形成する複数の凸部4と、複数の突起部(複数の凸部4)により囲まれて形成する凹部3とを有すること;湾曲した複数の凸部4の少なくとも一部が、各々蛇行する線条突起部により形成され、蛇行する線条突起部に囲まれるようにして蛇行する凹部3が形成していること;も示されている。保護層の表面形状は、図2に示されるような不規則な皺により構成される皺構造を有することで、艶消し効果が向上する。
【0031】
ここで、「湾曲」とは、平面視において、連続する線条の凸部4の延在方向が一方側から他方側に反転している部分を1箇所以上有することを意味する。以下、連続する線条の凸部4の延在方向が一方側から他方側に反転している部分を、反転部分と称する場合がある。反転部分の一例としては、例えば線条の凸部4の平面視形状の幅を無視したとき(幅を0とみなしたとき)に連続曲線で近似される場合に、変曲点を有する形態等が挙げられる。また、反転部分の他の例としては、線条の凸部4の平面視形状の幅を無視したときに直線で近似される場合に、V字型の折線または三角形の一頂点を挟む二辺で近似される部分を有する形態等が挙げられる。
【0032】
また、「蛇行」とは、平面視において、反転部分を2箇所以上有し、線条の凸部4をその延在方向に進んだときに、互いに隣接する2箇所の反転部分において、交互に線条の凸部4の延在方向が逆向きに反転する部分を有することを意味する。例えば、線条の凸部4の平面視形状の幅を無視したときに連続曲線で近似される場合に、ローマ字「S」で近似される部分を有する形態等が挙げられる。また、線条の凸部4の平面視形状の幅を無視したときに直線で近似される場合に、ローマ字「W」で近似される部分を有する形態等が挙げられる。
【0033】
本明細書において、「不規則」とは、一定の法則を有する形状、また一定の法則をもって配列される、いわゆるパターン化している、とはいえないことを意味する。不規則ではない形状(規則的な形状)の典型的な例としては、例えば、円柱形状の単位レンズをその長手方向と直行する方向に複数個が互いに隣接して配列した、いわゆるレンチキュラーレンズのように、特定の方向に一定の周期性をもって配列した形状等が挙げられる。よって、本開示において、保護層の表面形状を形成する皺構造が有し得る不規則な皺は、一つの突起部の形状自体が、周期性等の一定の法則をもって形成される形状ではなく、不規則であること;複数の突起部により形成する複数の凸部の形状が、一定の法則をもって形成および配列されるものではなく、不規則であること;このような複数の突起部により囲まれた凹部の形状も不規則であること;を包含する。
【0034】
表面形状を形成する皺構造において、一つの突起部(一つの凸部)の形状自体、複数の突起部(複数の凸部)の各々の形状およびその配列、複数の突起部により囲まれた凹部の形状のいずれかが不規則であれば、保護層の表面が特定の表面形状となりやすい。これと同様の理由により、いずれもが不規則であることがより好ましい。
【0035】
上述したように、保護層の基材層とは反対側の表面は、皺構造を有し、実質的には凹凸形状を有する。凹凸形状における凸部と凹部は、凹凸形状における高さ分布の中間値を基準とし、当該中間値を超える高さの領域を凸部、当該中間値以下の高さの領域を凹部と定義する。例えば、保護層の表面の高さと1:1に対応する濃度を有する画像の濃度差(すなわち明度差)を利用して、濃度分布画像で最も濃い部分を階調255とし、濃度分布画像で最も薄い部分を階調0として、階調0~255について、階調0~127を凹部、階調128~255を凸部と、二値化処理して区分すればよい。なお、この場合、高さの中間値に対する濃度の中間値は127となる。
【0036】
また、例えば図2にも示されるように、皺構造は、不規則ながらもある程度の均質性をもった複数の突起部により形成される複数の凸部と、凸部により囲まれた凹部と、を有することが好ましい。よって、図2に示される凸部(突起部)において、凸部の幅が極端に変化する形状や、凸部の高さが極端に変化する形状は、艶消し効果を得るにあたり好ましい態様とはいえない。皺構造を構成する皺の形状、すなわち、凸部(突起部)および凹部の形状について、艶消し効果を向上させる上で有効となり得る具体的な態様について、以下説明する。
【0037】
凹部の形状は、断面視において、鋭角状でもよく、半円状または半楕円状であってもよく、これらの組合せであってもよい。また、凹部の形状は、断面視において、一つの凸部が一部に凹部を有する形状であってもよい。
【0038】
一方、凸部の形状は、断面視において、幅の広狭はあるものの、半円または半楕円の形状を有することができる。
【0039】
凸部の高さ(突起部の高さ)は、例えば、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは2μm以上である。また、凸部の高さは、例えば、10μm以下程度である。また、凸部の幅は、例えば、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.3μm以上、さらに好ましくは0.5μm以上である。また、凸部の幅は、例えば、好ましくは10μm以下、より好ましくは4μm以下、さらに好ましくは3μm以下である。凸部の高さおよび幅が上記範囲内であると、凹部との関係で、艶消し効果が向上する。
【0040】
凹部の深さは、例えば、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは2μm以上である。また、凹部の深さは、例えば10μm以下程度である。また、凹部の幅は、例えば、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上、さらに好ましくは0.3μm以上である。また、凹部の幅は、例えば、好ましくは10μm以下、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは2μm以下である。凹部の深さおよび幅が上記範囲内であると、凸部との関係で、艶消し効果が向上する。
【0041】
凸部の頂から凹部の底までの距離(凸部と凹部との高低差)は、例えば、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、さらに好ましくは4μm以上である。また、上記距離は、例えば、好ましくは20μm以下、より好ましくは8μm以下、さらに好ましくは7μm以下である。上記距離が上記範囲内であると、艶消し効果が向上する。
【0042】
ここで、凸部の寸法は、保護層の表面について、任意の10箇所(100μm四方の領域×10箇所)における任意の10の凸部(突起部)、すなわち合計100の凸部の平均値である。また、図2に示されるように、1の凸部(突起部)において、凸部の幅は同じではなく広狭があるため、1の凸部(突起部)の幅は、1の凸部(突起部)における任意の5箇所の幅の平均値とする。1の凸部(突起部)の高さについても同様とする。
【0043】
また、凹部の寸法は、上記の凸部の寸法と同様に決定する。
【0044】
凸部の占有割合は、例えば、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上である。また、凸部の占有割合は、例えば、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下、さらに好ましくは60%以下である。凸部の占有割合が上記範囲内であると、凸部に囲まれる凹部の占有割合との関係で、保護層の表面が特定の表面形状となりやすく、艶消し効果が向上する。
【0045】
ここで、凸部の占有割合は、保護層の任意の10箇所(100μm四方の領域×10箇所)における凸部の占有割合の平均値である。
【0046】
凸部および凹部は、略同一方向および略同一幅の箇所を有していてもよいが、当該箇所の長さは短いことが好ましい。上記長さが短いと、保護層の表面が特定の表面形状となりやすく、艶消し効果が向上する。具体的には、略同一方向および略同一幅の凸部および凹部が連続する長さは、好ましくは95μm以下、より好ましくは80μm以下、さらに好ましくは70μm以下である。また、上記長さは、例えば、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは15μm以上である。上記長さが上記範囲内であると、皺がより不規則となるため、艶消し効果が向上する。
【0047】
ここで、保護層の任意の10箇所(100μm四方の領域×10箇所)における任意の10の凸部および凹部(すなわち合計100の凸部および凹部)について、その80%以上が上記の条件を満たすものであることが好ましく、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、よりさらに好ましくは95%以上である。
【0048】
なお、本明細書における「略同一」の「略」は、概ね同じであることを意味し、枝分かれすることなく、略同一方向は±3°以内をいい、略同一幅は±5%以内をいう。
【0049】
また、100μm四方の領域における凸部(突起部)の数は、例えば、好ましくは10以上、より好ましくは20以上、さらに好ましくは30以上である。上記の凸部の数は、例えば、好ましくは200以下、より好ましくは100以下、さらに好ましくは70以下である。上記の凸部の数が上記範囲内であると、保護層の表面が特定の表面形状となりやすく、艶消し効果が向上する。
【0050】
ここで、100μm四方の領域における凸部の数は、保護層の10箇所(100μm四方の領域×10箇所)における凸部の数の平均値である。
【0051】
保護層の一方の表面は、少なくともその一部に皺構造を有することが好ましく、全面にわたって皺構造を有することがより好ましい。
【0052】
(b)皺構造の表面性状
本開示における保護層が有する表面形状において、皺構造は以下の表面性状を有することが好ましい。
【0053】
(i)Ra(算術平均粗さ)
表面性状として、JIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の高さ方向のパラメータであるRa(算術平均粗さ)が、2μm以下であることが好ましい。Ra(算術平均粗さ)は、輪郭曲線の高さ方向のパラメータの一つであり、基準長さにおける輪郭曲線において、平均面からの高低差の平均値である。Ra(算術平均粗さ)の数値が小さいほど、表面形状における凸部、これに応じて形成する凹部の高低差がより小さくなり、より滑らかで均一な形状となる傾向があることを示す指標である。よって、Ra(算術平均粗さ)が上記範囲であると、表面形状が有する凸部の形状が、より均一かつ穏やかなものがより多く存在するものとなり、均一な艶消し効果が発現する。
【0054】
Ra(算術平均粗さ)は、より好ましくは1.9μm以下、さらに好ましくは1.8μm以下である。Ra(算術平均粗さ)の下限は、艶消効果を向上させるため、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.4μm以上、さらに好ましくは0.6μm以上である。
【0055】
なお、本明細書におけるRa(算術平均粗さ)の測定にあたり、カットオフ値は0.8mmである。また、本明細書において、Ra(算術平均粗さ)は、任意の10箇所における測定値の平均値である。
【0056】
(ii)RSm(曲線要素の平均長さ)
表面性状として、JIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の横方向のパラメータであるRSm(曲線要素の平均長さ)が、80μm以下であることが好ましい。RSm(曲線要素の平均長さ)は、輪郭曲線の横方向のパラメータであり、基準長さにおける輪郭曲線要素の長さの平均である。Rsmが小さいほど、基準長さに含まれる凸部が多くなる。このため、Rsmが小さい表面形状は、突起部頂点が密に存在するため、艶消し効果が大きくなる。
【0057】
RSm(曲線要素の平均長さ)は、より好ましくは70μm以下、さらに好ましくは60μm以下である。RSm(曲線要素の平均長さ)の下限は、製造のしやすさ等も考慮すると、好ましくは20μm以上、より好ましくは22.5μm以上、さらに好ましくは25μm以上である。
【0058】
なお、本明細書におけるRSm(曲線要素の平均長さ)の測定にあたり、カットオフ値は0.8mmである。また、本明細書において、RSm(曲線要素の平均長さ)は、任意の10箇所における測定値の平均値である。
【0059】
(iii)Rz(最大高さ)
表面性状として、JIS B0601:2013に規定されるRz(最大高さ)は、10μm以下であることが好ましい。Rz(最大高さ)は、輪郭曲線の山及び高さパラメータの一つであり、基準長さにおける輪郭曲線の中で、最も高い山の高さと最も深い谷の深さとの和である。Rz(最大高さ)の数値が大きいほど、谷(凹部)からみて形状が大きい(高い)凸部が存在し、そのような凸部が多く存在する傾向があることを示す指標となる。よって、Rz(最大高さ)が上記範囲であると、凸部の高さのバラツキも少なくなり、均一な艶消し効果が発現する。
【0060】
Rz(最大高さ)は、より好ましくは8μm以下、さらに好ましくは7μm以下である。Rz(最大高さ)の下限は、艶消し効果を発現させるため、好ましくは3μm以上、より好ましくは3.2μm以上、さらに好ましくは3.5μm以上である。
【0061】
なお、本明細書におけるRz(最大高さ)の測定にあたり、カットオフ値は0.8mmである。また、本明細書において、Rz(最大高さ)は、任意の10箇所における測定値の平均値である。
【0062】
(iv)Spc(突起部頂点の算術平均曲率)
表面性状として、JIS B0601:2013に規定されるSpc(突起部頂点の算術平均曲率)が、10000mm-1以下であることが好ましい。Spc(突起部頂点の算術平均曲率)は、JIS B0601:2013に規定される三次元表面性状パラメータの一つであり、基準領域に含まれる形体画像で山(凸部)と分類された箇所の山頂(突起部頂点)の曲率半径の算術平均値から求められる、山頂の先端部の平均曲率(平均的な鋭さ)である。このためSpc(突起部頂点の算術平均曲率)は、半径(mm)の逆数(mm-1)となる。
【0063】
Spc(突起部頂点の算術平均曲率)の値が大きいほど、山頂(凸部)の先端部の曲率は大きくなる(その逆数の曲率半径は小さく、先端部の形状は鋭くなる)。一方、Spc(突起部頂点の算術平均曲率)の値が小さいほど、突起部頂点の曲率は小さくなる(その逆数の曲率半径は大きく、先端部の形状は鈍くなる)。つまり、Spc(突起部頂点の算術平均曲率)が小さいほど、突起部は丸みを帯びており、平面に近づくため艶は大きくなる。このため、Spc(突起部頂点の算術平均曲率)の大きい表面形状(突起部頂点が鋭い表面形状)とすれば、表面での光の拡散が強くなり、艶が減少する。一方、Spc(突起部頂点の算術平均曲率)が小さな表面形状は、突起部頂点が丸みを帯びているため、視認者がシートを正面から見た際の艶消し効果は劣るものの、斜め方向からシートを視認した場合の艶消し効果は改善される。よって、Spc(突起部頂点の算術平均曲率)が上記範囲であると、表面形状が有する凸部の形状が、より穏やかなものがより多く存在するものとなり、均一な艶消し効果が発現する。
【0064】
Spc(突起部頂点の算術平均曲率)は、より好ましくは9000mm-1以下であり、さらに好ましくは8000mm-1以下である。Spc(突起部頂点の算術平均曲率)の下限は、均一な艶消し効果が発現するため、好ましくは3000mm-1以上、より好ましくは3500mm-1以上、さらに好ましくは4000mm-1以上である。
【0065】
なお、本明細書におけるSpc(突起部頂点の算術平均曲率)の測定にあたり、カットオフ値は0.8mmである。また、本明細書において、Spc(突起部頂点の算術平均曲率)は、任意の10箇所における測定値の平均値である。
【0066】
(2)保護層の物性
(a)全光線透過率
本開示における保護層の全光線透過率は、特に限定されないが、90%以上であることが好ましく、92%以上であることがさらに好ましい。
【0067】
ここで、保護層の全光線透過率は、JIS K7361-1に準拠して測定することができる。
【0068】
(b)60°グロス値
本開示におけるシートは、特定の表面形状を備える保護層を有することにより、優れた艶消効果が発揮される。なお、「艶消」は、光沢を視認しにくく、低艶感が得られることを意味する。
【0069】
保護層の表面形状を有する表面の60°グロス値は、例えば、好ましくは10.0以下、より好ましくは7.5以下、さらに好ましくは5.0以下、中でも好ましくは4.0以下、特に好ましくは3.6以下、最も好ましくは2.5以下である。
【0070】
ここで、保護層の表面形状を有する表面の60°グロス値は、JIS K5600-4-7:1999に準拠して測定した60°鏡面光沢度のことであり、例えばグロスメータ等を用いて測定できる。60°グロス値を測定する際には、シートの保護層とは反対側の面に黒色ABS樹脂板を貼り付ける。保護層の表面形状を有する表面の60°グロス値は、任意の10箇所における測定値の平均値である。
【0071】
(3)保護層の材料
保護層は、樹脂組成物の硬化物を含有することが好ましい。保護層を樹脂組成物の硬化物で構成することにより、特定の表面形状を有する保護層を形成しやすい。
【0072】
保護層の形成に用いられる樹脂組成物としては、硬化することにより硬化物となる樹脂を含む組成物であればよい。樹脂組成物は、保護層の形成方法に応じて適宜選択される。本開示において、後述するように、保護層の形成方法には、2つの方法がある。第1の方法は、電離放射線による樹脂組成物の硬化によって、特定の表面形状を形成する方法である。また、第2の方法は、賦形用シートを用いた賦形によって、特定の表面形状を形成する方法である。以下、第1の方法に用いられる第1の樹脂組成物、および第2の方法に用いられる第2の樹脂組成物に分けて説明する。
【0073】
(a)第1の樹脂組成物
第1の樹脂組成物は、電離放射線による硬化により、特定の表面形状を形成可能な組成物である。
【0074】
(i)樹脂
第1の樹脂組成物に含まれる樹脂は、電離放射線硬化性樹脂であることが好ましい。特定の表面形状を形成しやすいからである。また、電離放射線硬化性樹脂は、保護層の形成がしやすく、耐擦傷性を向上させやすいことを考慮しても、好ましい。一方、本開示においては、後述するように、層表面の硬化収縮により皺構造が形成されると考えられることから、熱硬化性硬化樹脂または2液型の硬化性樹脂であると、皺構造の形成は困難である。
【0075】
電離放射線硬化性樹脂は、電離放射線硬化性官能基を有する樹脂のことであり、電離放射線硬化性官能基は電離放射線の照射によって架橋硬化する基である。例えば(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性二重結合を有する官能基等が好ましく挙げられる。
【0076】
なお、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基またはメタクロイル基を示す。また、(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタクリレートを示す。
【0077】
また、電離放射線とは、電磁波または荷電粒子線のうち、分子を重合及び/又は架橋し得るエネルギー量子を有するものを意味し、通常、紫外線(UV)または電子線(EB)が用いられるが、その他、X線、γ線等の電磁波、α線、イオン線等の荷電粒子線も含まれる。
【0078】
電離放射線硬化性樹脂としては、電子線硬化性樹脂および紫外線硬化性樹脂が挙げられる。中でも、紫外線硬化性樹脂が好ましい。皺形成安定剤による皺の形成を安定させて、安定的に艶消効果を向上させることができる。
【0079】
電離放射線硬化性樹脂は、具体的には、従来、電離放射線硬化性樹脂として慣用されている重合性モノマー、重合性オリゴマーの中から適宜選択して用いることができる。
【0080】
重合性モノマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレート系モノマーが好ましく、中でも多官能性(メタ)アクリレートモノマーが好ましい。多官能性(メタ)アクリレートモノマーとしては、分子中に2つ以上の電離放射線硬化性官能基を有し、かつ電離放射線硬化性官能基として、少なくとも(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。
【0081】
皺の形成を安定させて、安定的に艶消効果を向上させるため、さらに耐擦傷性を向上させるため、多官能性(メタ)アクリレートモノマーの官能基数は、2以上8以下が好ましく、2以上6以下がより好ましい。また、上記官能基数であると、皺構造が得られやすくなる。これらの多官能性(メタ)アクリレートは、単独で、または複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0082】
重合性モノマーは単独で、または複数種を組み合わせて用いることができ、二種以上の重合性モノマーを組み合わせて用いることが好ましい。二種以上の重合性モノマーを組み合わせて用いることで、表面形状が特定の表面形状となりやすい。また、耐擦傷性も向上する。
【0083】
二種以上の重合性モノマーを組み合わせて用いる場合、単官能モノマーと多官能モノマーとの組合せ、二種以上の多官能モノマーの組合せが好ましく、多官能モノマーと多官能モノマーとの組合せがより好ましい。
【0084】
多官能モノマーを用いる場合、官能基数は、2以上が好ましい。また、官能基数は、好ましくは8以下、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下である。
【0085】
単官能モノマーと多官能モノマーとを組み合わせて用いる場合、多官能モノマーの官能基数は、2以下が最も好ましい。すなわち、多官能モノマーの官能基数は2であることが最も好ましい。また、この場合、単官能モノマーおよび多官能モノマーは、(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましい。
【0086】
また、二種以上の多官能モノマーを用いる場合、官能基数2のモノマーと、官能基数4のモノマーと、を組み合わせることが最も好ましい。また、この場合、多官能モノマーは、(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましい。
【0087】
重合性オリゴマーとしては、例えば、分子中に2つ以上の電離放射線硬化性官能基を有し、かつ電離放射線硬化性官能基として、少なくとも(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートオリゴマーが挙げられる。例えば、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリカーボネート(メタ)アクリレートオリゴマー、アクリル(メタ)アクリレートオリゴマー等が挙げられる。
【0088】
さらに、重合性オリゴマーとしては、他にポリブタジエンオリゴマーの側鎖に(メタ)アクリレート基をもつ疎水性の高いポリブタジエン(メタ)アクリレート系オリゴマー、主鎖にポリシロキサン結合をもつシリコーン(メタ)アクリレート系オリゴマー、小さな分子内に多くの反応性基をもつアミノプラスト樹脂を変性したアミノプラスト樹脂(メタ)アクリレート系オリゴマー、およびノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂肪族ビニルエーテル、芳香族ビニルエーテル等の分子中にカチオン重合性官能基を有するオリゴマー等がある。
【0089】
皺の形成を安定させて、安定的に艶消効果を向上させるため、さらに耐擦傷性を向上させるため、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリカーボネート(メタ)アクリレートオリゴマー、アクリル(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましく、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリカーボネート(メタ)アクリレートオリゴマーがより好ましく、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーがさらに好ましい。
【0090】
重合性オリゴマーは、単独で、または複数種を組み合わせて用いることができ、一種の重合性オリゴマーを単独で用いることが好ましい。
【0091】
皺の形成を安定させて、安定的に艶消効果を向上させるため、さらに耐擦傷性を向上させるために、重合性オリゴマーの官能基数は、2以上8以下が好ましく、2以上6以下がより好ましく、2以上4以下がさらに好ましい。
【0092】
また、上記と同様の目的のため、重合性オリゴマーの重量平均分子量は、2,500以上7,500以下が好ましく、3,000以上7,000以下がより好ましく、3,500以上6,000以下がさらに好ましい。
【0093】
ここで、重量平均分子量は、GPC分析によって測定され、かつ標準ポリスチレンで換算された平均分子量である。
【0094】
樹脂としては、重合性オリゴマーと重合性モノマーとを組み合わせて用いることが好ましい。この場合、重合性オリゴマーは、多官能性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーであることが好ましく、多官能性ウレタンアクリレートオリゴマーであることがより好ましい。また、重合性モノマーは、多官能の重合性モノマーであることが好ましく、多官能性(メタ)アクリレートモノマーであることがより好ましく、多官能アクリレートモノマーであることがさらに好ましい。皺の形成を安定させて、安定的に艶消効果を向上させ、さらに耐擦傷性を向上させることもできる。
【0095】
重合性オリゴマーと重合性モノマーとを組み合わせて用いる場合には、重合性オリゴマーと重合性モノマーとの合計100質量部に対する重合性オリゴマーの含有量は、好ましくは40質量部以上、より好ましくは50質量部以上、さらに好ましくは55質量部以上、よりさらに好ましくは60質量部以上である。また、上記の重合性オリゴマーの含有量は、好ましくは90質量部以下、より好ましくは80質量部以下、さらに好ましくは70質量部以下である。
【0096】
また、重合性オリゴマーを組み合わせて用いることもでき、官能基数の異なる二種の重合性オリゴマーを組み合わせて用いることが好ましい。この場合、重合性オリゴマーの全量100質量部に対する官能基数のより大きい重合性オリゴマーの含有量は、好ましくは50質量部以上、より好ましくは55質量部以上、さらに好ましくは60質量部以上、よりさらに好ましくは65質量部以上である。
【0097】
(ii)他の成分
(皺形成安定剤)
本開示における保護層は、皺形成安定剤を含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0098】
保護層が皺形成安定剤を含む場合には、保護層の表面に皺を安定的に形成することができる。なお、皺形成安定剤を用いなくても保護層に皺構造を形成することはできるが、皺形成安定剤を用いることで、形成された皺構造が安定化され、安定的な艶消効果、そして保護層の全面にわたり皺が安定して形成することによる面状態の均一性を付与することができる。
【0099】
なお、「皺形成安定」とは、皺の形状および皺の幾何学的特性値(個々の突起部の長さ、幅、および長さと幅の比)、および皺の表面性状(Ra、RSm、Spc等)について、その面内分布(分散σ)が、皺形成安定剤を添加することにより、無添加の場合に比べて、収束することを意味する。これにより、後述する表面形状の60°グロス値の面内分布(分散σ)も収束することとなる。皺形成安定剤は、光を拡散して、光反射の抑制および艶消しを行うものではなく、皺構造を安定化させるために添加するものである。
【0100】
よって、従来技術におけるいわゆる「マット剤」と本開示における「皺形成安定剤」とは、例えその構成物質、平均粒径が同じまたは類似であった場合においても、両者の光反射抑制および艶消の機構(作用)、光反射抑制および艶消を発現させるための構造、ならびに使用量と、表面の艶(グロス値)の程度との関係において異なるものとなる。
【0101】
従来技術において、光反射抑制や艶消のために用いられてきたマット剤は、物理的な形状に起因する光拡散効果により、それ自体が艶消効果を発現するものである。具体的には、一般にマット剤と称される粒子は、一般に粒子と周囲の樹脂および空気との屈折率差を有し、その粒子の輪郭形状に対応した光線の反射および屈折性界面による光拡散効果により、艶消効果を発現する。このため、保護層にマット剤を用いてしまうと、外光(入射光)がマット剤により拡散してしまい、コントラストが低下してしまう。
【0102】
一方、皺形成安定剤は、粒子それ自体による光線の反射および屈折による光拡散が艶消効果を発現するのではなく、皺形成安定剤に起因して保護層の表面における皺の形成を安定させることで、かかる表面と空気との屈折率差界面での光拡散効果により、シートに安定的に艶消効果を付与するというものである。よって、本開示で用いられる皺形成安定剤は、それ自体が艶消効果を発現するマット剤とは、(仮に、両者の構成物質、平均粒径が同じまたは類似であったとしても、)両者の光反射抑制および艶消の機構(作用)、光反射抑制および艶消を発現させるための構造等は異なる。
【0103】
さらに、「皺形成安定剤」と「マット剤」とは、含有量と表面の艶(グロス値)との関係においても異なる。同じ物質Aを皺形成開始剤AW(W:皺,wrincle)として用い、これを特定量Cで含有させて表面に皺を形成させた場合の表面の60°グロス値G60° AW(C)は、同物質Aを単なるマット剤AMとして用い、これを特定量Cで含有させるも表面に皺が形成しない場合の表面の60°グロス値G60° AM(C)よりも明らかに低下する。すなわち、以下の関係式が成立する。
60° AW(C)<G60° AM(C)
【0104】
皺形成安定剤としては、マット剤ではなく、具体的には、平均粒径が保護層の厚さの100%以下および30μm以下のいずれか小さい方を上限とするものであれば、特に制限なく用いることができる。
【0105】
ここで、皺形成安定剤等の粒子の平均粒径とは、保護層の厚さ方向の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、加速電圧3.0kV、拡大倍率5万倍の条件で観察し、無作為に選択した100個の粒子の非凝集体について測定した粒径の平均値(算術平均径)である。なお、粒径は、粒子の断面を任意の平行な2本の直線で挟んだときに、その2本の直線間距離が最大となるような2本の直線の組み合わせにおける直線間距離を測定した値である。
【0106】
皺形成安定剤としては、例えば有機粒子、無機粒子を用いることができる。有機粒子を構成する有機物としては、ポリメチルメタクリレート、アクリル-スチレン共重合体樹脂、メラミン樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル樹脂、ベンゾグアナミン-メラミン-ホルムアルデヒド縮合物、シリコーン、フッ素系樹脂およびポリエステル系樹脂等が挙げられる。樹脂と皺形成安定剤の屈折率差を小さくするためには、有機粒子を用いることが好ましい。無機粒子を構成する無機物としては、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、アルミノシリケートおよび硫酸バリウム等が挙げられる。中でも、透明性に優れるシリカが好ましい。保護層の強度を向上させるためには、無機粒子を用いることが好ましい。
【0107】
皺形成安定剤の形状としては、特に限定されないが、例えば球形、多面体、鱗片状、不定形等が挙げられる。中でも、球状が好ましい。球状であることにより、皺形成安定剤による反射光の拡散が抑えられ、コントラストの低下が生じにくくなると考えられるからである。
【0108】
皺形成安定剤の表面は光拡散を抑えるために、有機化合物により被覆されていてもよい。
【0109】
また、艶消効果のため、平均粒径が保護層の厚さの100%以下および30μm以下のいずれか小さい方を上限とする皺形成安定剤について、その平均粒径により区別される二種の皺形成安定剤の少なくともいずれかを用いることが好ましい。二種の皺形成安定剤は、具体的には、平均粒径が1μm以上、かつ保護層の厚さの100%以下および30μm以下のいずれか小さい方を上限とする第1の皺形成安定剤、および、平均粒径が1μm未満である第2の皺形成安定剤である。二種の皺形成安定剤の少なくともいずれかを用いれば、皺の形成が安定し、安定的に優れた艶消効果が得られる。
【0110】
第1の皺形成安定剤の平均粒径は、1μm以上、かつ保護層の厚さの100%以下および30μm以下のいずれか小さい方を上限とする。安定的に艶消効果を向上させるため、第1の皺形成安定剤の平均粒径は、好ましくは1.3μm以上、より好ましくは1.5μm以上、さらに好ましくは1.8μm以上である。また、第1の皺形成安定剤の平均粒径は、保護層の厚さに対しては、好ましくは保護層の厚さの90%以下、より好ましくは保護層の厚さの80%以下、さらに好ましくは保護層の厚さの70%以下である。また、第1の皺形成安定剤の平均粒径は、絶対値については、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは8μm以下、よりさらに好ましくは7μm以下である。第1の皺形成安定剤の平均粒径は、保護層の厚さに対する上限と絶対値の上限とを任意に組み合わせた場合のいずれか小さい方とすればよい。例えば、保護層の厚さの90%以下および20μm以下のいずれか小さい方を上限としてもよいし、保護層の厚さの90%以下および10μm以下のいずれか小さい方を上限とすることもできる。なお、保護層の厚さについては後述する。
【0111】
また、第2の皺形成安定剤の平均粒径は、1μm未満である。皺の形成を安定させて、安定的に艶消効果を向上させるため、第2の皺形成安定剤の平均粒径は、好ましくは1nm以上、より好ましくは3nm以上、さらに好ましくは5nm以上である。また、第2の皺形成安定剤の平均粒径は、好ましくは900nm以下、より好ましくは700nm以下、さらに好ましくは500nm以下である。平均粒径が可視光付近またはそれ以下であると、可視光に対する保護層の内部ヘイズが減少するため好ましい。
【0112】
皺形成安定剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.75質量部以上、さらに好ましくは1.0質量部以上、よりさらに好ましくは1.2質量部以上である。皺の形成を安定させて、安定的に艶消し効果を向上させることができる。また、皺形成安定剤の含有量の上限は、特に限定されないが、樹脂100質量部に対して、好ましくは25.0質量部以下、より好ましくは15.0質量部以下、さらに好ましくは10.0質量部以下、特に好ましくは7.5質量部以下、最も好ましくは6.0質量部以下である。樹脂組成物の塗布性を良くし、また効率的に艶消効果を向上させることができる。
【0113】
第1の皺形成安定剤と第2の皺形成安定剤とを併用する場合、第1の皺形成安定剤および第2の皺形成安定剤の各々の含有量としては、合計の含有量が上記範囲内であれば特に限定されない。第2の皺形成安定剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは1.0質量部以上である。また、第2の皺形成安定剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、好ましくは10.0質量部以下、より好ましくは7.5質量部以下、さらに好ましくは5.0質量部以下、特に好ましくは3.5質量部以下である。また、第1の皺形成安定剤と第2の皺形成安定剤との配合割合としては、これらの合計量を100質量部とした場合の第1の皺形成安定剤の配合量が、好ましくは0.0質量部以上、0.95質量部以下、より好ましくは0.10質量部以上、0.90質量部以下、さらに好ましくは0.20質量部以上、0.80質量部以下、特に好ましくは0.30質量部以上、0.70質量部以下である。
【0114】
皺形成安定剤としては、上述のように、有機粒子、無機粒子を用いることができるが、これらの粒子の種類自体は、従来、マット剤としても用いられるものを含むものともいえる。マット剤が、物理的な形状に起因する光拡散効果により、それ自体が艶消効果を発現するためには、多く使用する必要がある。しかし、本開示においては、上述のように少量の含有量としても、すなわち物理的な形状に起因する光拡散効果により、それ自体が艶消効果を発現するために必要な含有量より少ない含有量としても、マット剤により得られる効果に比べて極めて優れた艶消効果が得られている。よって、本開示のシートは、実質的にマット剤を含まないにも関わらず、表面に皺が安定して形成することにより、マット剤を用いた場合に比べてより優れた低艶感が安定的に得られる、といえる。
【0115】
(光重合開始剤および光重合促進剤)
樹脂が紫外線硬化性樹脂である場合、樹脂組成物は、光重合開始剤、光重合促進剤等を含むことができる。
【0116】
光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、ベンゾフェノン、α-ヒドロキシアルキルフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾイン、ベンジルジメチルケタール、ベンゾイルベンゾエート、α-アシルオキシムエステル、チオキサントン類等から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0117】
また、光重合促進剤は、硬化時の空気による重合阻害を軽減させ硬化速度を速めることができるものである。光重合促進剤としては、例えば、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、p-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル等から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0118】
光重合開始剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、さらに好ましくは0.5質量部以上である。また、光重合開始剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは1.5質量部以下、特に好ましくは1.0質量部以下である。光重合開始剤の含有量が上記範囲内であると、効率的に光重合開始剤を使用する効果が得られる。また、光重合促進剤の含有量は、上記の光重合開始剤と同様である。
【0119】
(耐候剤)
保護層は、例えば紫外線吸収剤、光安定剤等の耐候剤を含むことができる。これにより、保護層に耐候性を付与することができる。紫外線吸収剤としては、特に限定されず、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤等が挙げられる。光安定剤としては、特に限定されず、例えば、ピペリジニルセバケート系光安定剤等のヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられる。また、紫外線吸収剤、光安定剤は、分子中に(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性二重結合を有する反応性官能基を有していてもよい。紫外線吸収剤、光安定剤等の耐候剤は、単独で、または複数種を組み合わせて用いることができる。
【0120】
紫外線吸収剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1.0質量部以上、さらに好ましくは2.0質量部以上、特に好ましくは3.0質量部以上である。また、紫外線吸収剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、好ましくは10.0質量部以下、より好ましくは8.0質量部以下、さらに好ましくは7.0質量部以下、特に好ましくは6.0質量部以下である。紫外線吸収剤の含有量が上記範囲内であると、効率的に紫外線吸収剤を使用する効果が得られる。また、光安定剤の含有量は、上記の紫外線吸収剤と同様である。
【0121】
(撥水剤)
保護層は、防汚性を向上させるため、撥水剤を含むことができる。撥水剤としては、例えば、シリコーン系撥水剤、フッ素系撥水剤、ワックスエマルション系撥水剤等が挙げられる。撥水剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.8質量部以下、さらに好ましくは0.6質量部以下である。また、撥水剤の含有量の下限は、樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上とすればよい。
【0122】
(b)第2の樹脂組成物
第2の樹脂組成物は、賦形用シートを用いた賦形により、特定の表面形状を形成可能な組成物である。賦形により特定の表面形状を形成可能であるため、第2の樹脂組成物は第1の樹脂組成物よりも比較的自由に選択することができる。
【0123】
(i)樹脂
第2の樹脂組成物に含まれる樹脂としては、特定の表面形状を賦形することが可能な樹脂であれば特に限定されず、硬化性樹脂を用いることができる。硬化性樹脂としては、例えば、電離放射線硬化性樹脂が挙げられる。
【0124】
電離放射線硬化性樹脂としては、上記第1の樹脂組成物に用いられる電離放射線硬化性樹脂と同様である。
【0125】
(ii)他の成分
(光重合開始剤および光重合促進剤)
樹脂が紫外線硬化性樹脂である場合、樹脂組成物は、光重合開始剤、光重合促進剤等を含むことができる。光重合開始剤および光重合促進剤については、上記第1の樹脂組成物に用いられる光重合開始剤および光重合促進剤と同様である。
【0126】
(耐候剤)
保護層は、例えば紫外線吸収剤、光安定剤等の耐候剤を含むことができる。耐候剤については、上記第1の樹脂組成物に用いられる耐候剤と同様である。
【0127】
(撥水剤)
保護層は、防汚性を向上させるため、撥水剤を含むことができる。撥水剤については、上記第1の樹脂組成物に用いられる撥水剤と同様である。
【0128】
(4)保護層
保護層の厚さは、特定の表面形状を形成することができる厚さであれば特に限定されないが、形成のしやすさ等も考慮すると、通常、1μm以上であり、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは4μm以上、特に好ましくは5μm以上である。また、保護層の厚さは、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、さらに好ましくは150μm以下、特に好ましくは100μm以下である。保護層の厚さが上記範囲内であると、表面形状が特定の表面形状となりやすい。また、保護層の厚さが上記範囲内であると、保護層を形成しやすく、耐擦傷性、強度および耐候性等の表面性能、また加工性能も得られやすくなる。
【0129】
また、保護層の厚さの好ましい範囲は、保護層の形成方法によっても異なる。後述する第1の方法の場合、保護層の厚さは、例えば、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは3μm以上である。一方、この場合、保護層の厚さは、例えば、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下である。
【0130】
後述する第2の方法の場合、保護層の厚さは、例えば、好ましくは10μm以上であり、より好ましくは20μm以上である。一方、この場合、保護層の厚さは、例えば、好ましくは300μm以下であり、より好ましくは250μm以下である。
【0131】
ここで、保護層の厚さは、シートの断面について、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影した画像から20箇所の厚さを測定し、20箇所の値の平均値とする。なお、SEMの加速電圧は3kV、倍率は厚さに応じて設定とする。また、他の層の厚さについても同様である。
【0132】
保護層は、基材層に対して、部分的に配置されていてもよく、全面に配置されていてもよい。中でも、保護層は、基材層の全面に配置されていることが好ましい。
【0133】
(5)保護層の形成方法
(a)第1の方法
第1の方法は、電離放射線による樹脂組成物の硬化によって、特定の表面形状を形成する方法である。第1の方法では、上記第1の樹脂組成物を用いることができる。第1の方法は、基材層の一方の面側に、第1の樹脂組成物を塗布して塗布層を形成する塗布層形成工程と、電離放射線による照射処理により塗布層を硬化させて、特定の表面形状を有する保護層を形成する保護層形成工程とを有することが好ましい。
【0134】
(i)塗布層形成工程
塗布層形成工程において、第1の樹脂組成物の塗布方法としては、例えば、グラビア印刷法、バーコート法、ロールコート法、リバースロールコート法、コンマコート法等の公知の方法が挙げられる。
【0135】
塗布層の厚さは、保護層の厚さと同様とすることができる。
【0136】
また、第1の樹脂組成物が溶剤を含有する場合、第1の樹脂組成物の塗布後に、溶剤を乾燥させてもよい。
【0137】
(ii)保護層形成工程
保護層形成工程では、上記塗布層を、電離放射線による照射処理により硬化させて、特定の表面形状を有する保護層を形成する。
【0138】
照射処理としては、少なくとも以下(1)および(2)の照射処理をこの順に行うことが好ましい。
(1)100nm以上200nm未満の第1の波長光の照射処理
(2)電子線および200nm以上400nm以下の第2の波長光の少なくとも一方での照射処理
上記(1)および(2)の照射処理を行うことで、表面形状が特定の表面形状となりやすい。また、耐擦傷性が向上しやすくなる。
【0139】
少なくとも上記(1)および(2)の照射処理により照射を行うことで、特定の表面形状が得られやすくなる機構についての詳細は不明であるが、以下の機構によるものと推察される。
【0140】
まず、上記(1)の低波長(短波長)の紫外線による照射処理を行うと、紫外線のエネルギーが表面部分のみに浸透し、それより下層にはエネルギーが到達しないことにより、塗布層の表面部分だけが硬化をはじめることから、表面だけが硬化収縮を生じることで、皺構造が形成するものと考えられる。このように、皺構造の形成は、低波長(短波長)の紫外線の照射により、塗布層の表面からの一定の厚さ方向のみが硬化した状態において生じていると考えられる。
【0141】
続いて、上記(2)の電子線および高波長(長波長)の200nm以上400nm以下の紫外線の少なくとも一方による照射処理を行うことで、塗布層の表面において形成した皺構造が保持された状態で、硬化の進行が遅い表面近傍部分から深さ方向に離れた深奥部分への硬化を促進させることができる。
【0142】
上記(1)の照射処理によっても、塗布層は全厚さにわたり硬化物となり、保護層となり得るが、上記(2)の照射処理をさらに組み合わせることで、硬化状態が向上する。その結果、保護層の表面に皺構造が発現し、特定の表面形状が得られやすくなると考えられる。さらに、全厚さにわたり硬化物となる、また硬化状態が向上することで、耐擦傷性も向上すると考えられる。
【0143】
上記(1)の照射処理において採用される、100nm以上200nm未満の第1の波長光としては、例えば、Ar、Kr、Xe、Ne等の希ガス、F、Cl、I、Br等のハロゲンによる希ガスのハロゲン化物等ガス、またはこれらの混合ガスの放電によって形成される励起状態の2量体、すなわちエキシマ(excimer)からの紫外線波長域の光を含む「エキシマ光」が好ましい。エキシマ光の波長および光源となるエキシマとしては、例えばArのエキシマから輻射される波長126nmの光(以下、「126nm(Ar)」のように略称する。)、146nm(Kr)、157nm(F)、172nm(Xe)、193nm(ArF)等の波長光を好ましく採用することができる。エキシマ光としては、自然放出光、誘導放出によるコヒーレンス(可干渉性)の高いレーザ光のいずれも用いることができるが、通常自然放出光を用いれば十分である。なお、これらの光(紫外線)を放射する放電ランプは、「エキシマランプ」とも称されている。
【0144】
エキシマ光は波長ピークが単一であり、また通常の紫外線(例えば、メタルハライドランプ、水銀ランプ等から放射される紫外線)と比べて波長の半値幅が狭いことが特徴として挙げられる。このようなエキシマ光を用いることで、皺構造を発現させやすくなる。
【0145】
上記と同様の理由から、第1の波長光の波長は、好ましくは120nm以上、より好ましくは140nm以上、さらに好ましくは150nm以上、よりさらに好ましくは155nm以上である。また、第1の波長光の波長は、200nm未満であり、特に好ましくは、172nm(Xe)である。このように、皺構造を発現させやすくするためには、より低波長(短波長)の波長光を用いることが好ましく、低波長(短波長)の紫外線(波長:280nm以下)のうち、200nm未満の領域の低波長(短波長)の紫外線が好ましい、ともいえる。
【0146】
第1の波長光の積算光量は、好ましくは1mJ/cm以上、より好ましくは2mJ/cm以上、さらに好ましくは5mJ/cm以上である。また、第1の波長光の積算光量の上限は、特に限定されない。第1の波長光の照射に必要な灯数を低減し、また生産効率の向上等の生産性を考慮すると、第1の波長光の積算光量は、好ましくは1,000mJ/cm以下、より好ましくは300mJ/cm以下、さらに好ましくは100mJ/cm以下、特に好ましくは10mJ/cm以下である。
【0147】
紫外線照度は、好ましくは1mW/cm以上、より好ましくは5mW/cm以上、さらに好ましくは10mW/cm以上である。また、紫外線照度は、好ましくは10W/cm以下、より好ましくは3W/cm以下、さらに好ましくは1W/cm以下である。特に生産性を考慮すると、紫外線照度は、500mW/cm以下が好ましく、300mW/cm以下がより好ましく、150mW/cm以下がさらに好ましい。
【0148】
また、第1の波長光を照射する際の酸素濃度は、より低いことが好ましく、好ましくは1,000ppm以下、より好ましくは750ppm以下、さらに好ましくは500ppm以下、特に好ましくは300ppm以下である。
【0149】
保護層形成工程では、上記(1)の100nm以上200nm未満の第1の波長光での照射処理の後、上記(2)電子線および200nm以上400nm以下の第2の波長光の少なくとも一方での照射処理を行うことが好ましい。
【0150】
上記(2)の照射処理で採用される電子線の照射条件としては、樹脂組成物が硬化すれば特に限定されない。電子線の加速電圧は、好ましくは10kV以上、より好ましくは30kV以上、さらに好ましくは50kV、よりさらに好ましくは75kV以上であり。また、電子線の加速電圧は、好ましくは300kV以下、より好ましくは250kV以下、さらに好ましくは200kV以下である。電子線の加速電圧が上記範囲内であると、皺構造の形状をそのまま保持したまま硬化物となりやすくなる。また、耐擦傷性が向上する。また、上記と同様の理由により、電子線の照射線量は、好ましくは5kGy以上、より好ましくは10kGy以上、さらに好ましくは15kGy以上である。また、電子線の照射線量は、好ましくは150kGy以下、より好ましくは125kGy以下、さらに好ましくは100kGy以下である。
【0151】
電子線源としては、上記照射条件を発揮し得るものであれば特に限定されず、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、また直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器を用いることができる。
【0152】
上記(2)の照射処理で採用される200nm以上400nm以下の第2の波長光は、例えば超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク灯、ブラックライト蛍光灯、メタルハライドランプ灯等を光源とする紫外線照射装置を用いて照射することができる。また、200nm以上400nm以下のエキシマ光、例えば222nm(KrCl)、247nm(KrF)、308nm(XeCl)等の波長光を用いてもよい。
【0153】
上記(2)の照射処理で採用される第2の波長光の波長としては、好ましくは330nm以上、390nm以下である。第2の波長光の波長が上記範囲内であると、皺構造の形状をそのまま保持しやすくなる。また、耐擦傷性も向上する。上記と同様の理由により、紫外線照射装置の出力は、好ましくは50W/cm以上、より好ましくは100W/cm以上である。また、紫外線照射装置の出力は、好ましくは300W/cm以下、より好ましくは200W/cm以下である。また、照射速度は、好ましくは1r/min以上であり、より好ましくは3r/min以上である。また、照射速度は、好ましくは50r/min以下、より好ましくは10r/min以下である。
【0154】
また、上記(1)および(2)の照射処理の前に、(3)予備硬化のための照射処理を行ってもよい。上記(3)の予備硬化のための照射処理により塗布層を全体的に予備硬化しておくことで、樹脂組成物に適度な粘性を付与することとなる。そのため、上記(1)の照射処理により形成した皺構造のダレが抑制され、皺構造の保持をより良好な状態とすることができる。
【0155】
上記(3)の予備硬化のための照射処理において採用される電離放射線の波長光は、例えば320nm超の波長光であればよく、好ましくは320nm超400nm以下、より好ましくは385nm以上400nm以下の波長光(紫外線)が挙げられる。上記(3)の照射処理において、上記波長光(紫外線)を用いることで、塗布層の全体的な予備硬化を効率的に行うことができる。
【0156】
上記(3)の照射処理における紫外線照度は、好ましくは0.01W/cm以上、より好ましくは0.1W/cm以上、さらに好ましくは0.3W/cm以上である。また、紫外線照度は、好ましくは5W/cm以下、より好ましくは3W/cm以下、さらに好ましくは2W/cm以下である。紫外線照度が上記範囲内であると、塗布層が完全に硬化することなく、塗布層の全体的な予備硬化を効率的に行うことができる。
【0157】
上記(3)の照射処理で採用される波長光は、例えば超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク灯、ブラックライト蛍光灯、メタルハライドランプ灯、LEDライト等を光源とする紫外線照射装置を用いて照射することができる。
【0158】
以上のようにして、特定の表面形状を備える保護層が得られる。
【0159】
(b)第2の方法
第2の方法は、賦形用シートを用いた賦形によって、特定の表面形状を形成する方法である。第2の方法では、上記第2の樹脂組成物を用いることができる。第2の方法としては、特定の表面形状を備える賦形層を有する賦形用シートを準備する賦形用シート準備工程と、基材層の一方の面側に、第2の樹脂組成物を塗布して塗布層を形成する塗布層形成工程と、塗布層と賦形用シートの賦形層とが接した状態で塗布層を硬化する賦形工程と、賦形用シートを剥がし、特定の表面形状を有する保護層を形成する剥離工程とを有することが好ましい。
【0160】
第2の方法については、後述の「B.シートの製造方法」に記載するので、ここでの説明は省略する。
【0161】
2.基材層
本開示における基材層は、上記保護層を支持する部材である。
【0162】
基材層のデュロメータA硬さは、86以上であり、88以上であってもよく、90以上であってもよい。基材層のデュロメータ硬さが上記範囲であることにより、耐傷性を向上できる。また、基材層のデュロメータ硬さの上限は、特に限定されず、後述のシートの伸び率を満たすように適宜設定される。基材層が硬すぎると、シートの伸び率が低下する可能性がある。
【0163】
ここで、基材層のデュロメータ硬さは、JIS K7215に準拠して測定する。基材層のデュロメータ硬さの測定方法の詳細については、実施例の項に記載する。
【0164】
なお、JIS K7215に規定されるように、デュロメータ硬さには、デュロメータA硬さの他に、デュロメータD硬さがある。JIS K7215には、「タイプAデュロメータで90以上のときは、タイプDデュロメータを、またタイプDデュロメータで20以下のときは、タイプAデュロメータを用いるのが望ましい。」と説明されている。よって、「デュロメータA硬さが86以上である」とは、タイプAデュロメータを用いて測定することが適さない、より硬質な基材層であって、タイプDデュロメータを用いて測定され、デュロメータD硬さで示される基材層も含まれる。
【0165】
また、基材層のデュロメータ硬さを測定する際には、基材層の保護層とは反対側の面に対して硬さを測定する。基材層の保護層とは反対側の面に任意の層が配置されている場合は、基材層の保護層とは反対側の面に位置する全ての層を除去してから、基材層の硬さを測定すればよい。基材層の保護層とは反対側の面に位置する層の除去方法としては、各層の材料に応じて適宜選択される。例えば、接着層の除去方法としては、溶剤で拭き取る方法が挙げられる。
【0166】
基材層は、透明であることが好ましい。基材層は被着体を視認できる程度に透明であればよく、無色透明の他、着色透明および半透明であってもよい。すなわち、本明細書において、「透明」とは、無色透明の他、着色透明および半透明も含むことを意味する。
【0167】
基材層の全光線透過率は、例えば、90%以上であることが好ましく、92%以上であることがより好ましい。
【0168】
ここで、基材層の全光線透過率は、JIS K7361-1に準拠して測定する。
【0169】
基材層の材料としては、上記デュロメータ硬さおよび後述のシートの伸び率を満たすことができれば特に限定されないが、中でも上記全光線透過率を満たす材料であることが好ましい。このような材料としては、例えば、ポリウレタンが挙げられ、具体的には熱可塑性ポリウレタンが挙げられる。
【0170】
ポリウレタンは、例えば、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタンが挙げられる。ポリウレタンは、ポリオールとポリイソシアネートとの反応によって得られる。ポリカーボネート系ポリウレタンは、ポリカーボネートポリオールとポリイソシアネートとの反応によって得られる。ポリエーテル系ポリウレタンは、ポリエーテルポリオールとポリイソシアネートとの反応によって得られる。ポリエステル系ポリウレタンは、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートとの反応によって得られる。
【0171】
ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族系イソシアネート、芳香族系イソシアネートが挙げられる。中でも、脂肪族イソシアネートが好ましい。基材層の黄変を抑制し、耐候性を高めることができる。
【0172】
特に、黄変抑制の観点から、脂肪族系ポリウレタンが好ましい。脂肪族系ポリウレタンは、芳香族環を有しないポリオールと芳香族環を有しないポリイソシアネートとの反応によって得られる。
【0173】
また、基材層は、ポリウレタン以外の樹脂を含有していてもよい。他の樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイドが挙げられる。
【0174】
基材層は、必要に応じて、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、難燃剤、滑剤、発泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等が挙げられる。添加剤の含有量は、基材層のデュロメータ硬さおよびシートの伸び率を阻害しない範囲であれば特に限定されず、適宜設定される。
【0175】
基材層の厚さは、例えば、100μm以上であり、125μm以上であってもよく、150μm以上であってもよい。また、基材層の厚さは、例えば、300μm以下であり、250μm以下であってもよく、200μm以下であってもよい。基材層の厚さが薄すぎると、基材層の硬さによる耐傷性向上の効果が十分に得られない可能性がある。また、基材層の厚さが厚すぎると、シートの伸び率が低下する可能性がある。
【0176】
基材層は、保護層との密着性を高めるために、表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、例えば、酸化法、凹凸化法等の物理的表面処理、化学的表面処理等が挙げられる。酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸化処理、火炎処理、熱風処理、オゾン-紫外線処理法等が挙げられる。凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。
【0177】
3.他の層
本開示におけるシートは、基材層および保護層以外の他の層を有していてもよい。他の層としては、例えば、接着層、セパレータ層、プライマー層等が挙げられる。
【0178】
(1)接着層
本開示におけるシートは、基材層の保護層とは反対の面側に、接着層を有していてもよい。接着層は、シートを被着体に貼付するための部材である。図3に示すシート10は、厚さ方向Dtにおいて、保護層2、基材層1および接着層5をこの順に有する。
【0179】
本態様において、接着層は、透明である。接着層は視覚対象物を視認できる程度に透明であればよく、無色透明の他、着色透明および半透明であってもよい。
【0180】
接着層に用いられる接着剤としては、硬化型接着剤、感圧型接着剤等が挙げられる。具体的には、ウレタン系接着剤、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ゴム系接着剤等が挙げられる。また、接着層として、OCA(Optically Clear Adhesive)またはOCR(Optically Clear Resin)等を用いることもできる。
【0181】
接着層の厚さは、効率よく所望の接着力を得る観点から、5μm以上100μm以下が好ましく、10μm以上75μm以下がより好ましく、20μm以上50μm以下がさらに好ましい。
【0182】
接着層の形成方法としては、接着剤組成物を塗布する方法や、接着フィルムをドライラミネート等により積層する方法が挙げられる。
【0183】
(2)プライマー層
本態様のシートは、シートを構成する複数の層の層間密着性を向上させるために、プライマー層を有してもよい。例えば、シートが基材層を有する場合、プライマー層は保護層と基材層との間に配置されてもよい。
【0184】
プライマー層は、主としてバインダー樹脂から構成され、必要に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加剤を含有してもよい。
【0185】
バインダー樹脂としては、ウレタン樹脂、アクリルポリオール樹脂、アクリル樹脂、エステル樹脂、アミド樹脂、ブチラール樹脂、スチレン樹脂、ウレタン-アクリル共重合体、ポリカーボネート系ウレタン-アクリル共重合体(ポリマー主鎖にカーボネート結合を
有し、末端、側鎖に2個以上の水酸基を有する重合体(ポリカーボネートポリオール)由来のウレタン-アクリル共重合体)、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル-アクリル共重合体樹脂、塩素化プロピレン樹脂、ニトロセルロース樹脂(硝化綿)、酢酸セルロース樹脂等が挙げられる。これらは、単独で、または複数種を組み合わせて用いることができる。
【0186】
また、バインダー樹脂としては、上記の樹脂に、イソシアネート系硬化剤、エポキシ系硬化剤等の硬化剤を添加し、架橋硬化させる樹脂であってもよい。例えば、アクリルポリオール樹脂等のポリオール系樹脂をイソシアネート系硬化剤で架橋硬化させる樹脂が好ましく、アクリルポリオール樹脂をイソシアネート系硬化剤で架橋硬化させる樹脂がより好ましい。
【0187】
プライマー層の厚さは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは2μm以上である。また、プライマー層の厚さは、好ましくは10μm以下、より好ましくは8μm以下、さらに好ましくは6μm以下である。
【0188】
プライマー層の形成方法としては、樹脂組成物を塗布し、必要に応じて、乾燥、硬化する方法が挙げられる。
【0189】
(3)セパレータ層
本開示におけるシートは、接着層の基材層とは反対側の面に、セパレータ層を有していてもよい。セパレータ層は、接着層を保護する部材であり、シートを被着体に貼付する際には剥離される。セパレータ層としては、従来公知のものを使用することができる。
【0190】
4.シートの物性
(1)伸び率
本開示におけるシートの伸び率は、10%以上であり、20%以上であってもよく、50%以上であってもよい。上記伸び率が上記範囲であることにより、柔軟性が高くなり、形状追従性が良好になる。したがって、被着体の被着面が曲面または凹凸面等を有する場合であっても、シートと被着体との密着性を高めることができる。また、上記伸び率は、例えば、200%以下であり、100%以下であってもよい。上記伸び率が大きすぎると、シートが柔らかくなりすぎて、取り扱いが困難になる可能性がある。
【0191】
ここで、例えば、シートの伸び率が10%であるとは、シートを伸び率10%まで伸長したときに、シートを構成する基材層および保護層の割れが観察されないことをいう。また、シートの伸び率が20%であるとは、シートを伸び率20%まで伸長したときに、シートを構成する基材層および保護層の割れが観察されないことをいう。シートの伸び率が他の値である場合も同様である。引張試験機としては、JIS K7161-1:2014に準拠する引張試験機を用いる。シートの伸び率の測定方法の詳細については、実施例の項に記載する。
【0192】
また、シートの伸び率とは、シートが後述のセパレータ層を有する場合は、セパレータ層を除く、シートの伸び率である。
【0193】
シートの伸び率を制御する方法としては、例えば、基材層の材料または厚さを調整する方法、保護層の材料または厚さを調整する方法、接着層の材料または厚さを調整する方法が挙げられる。
【0194】
(2)全光線透過率
本開示におけるシートは、透明であることが好ましい。具体的には、シートの全光線透過率は、85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。このように全光線透過率が高いことにより、透明性が良好なシートとすることができる。
【0195】
なお、シートの全光線透過率とは、シートがセパレータ層を有する場合は、セパレータ層を除く、シートの全光線透過率である。
【0196】
ここで、シートの全光線透過率は、JIS K7361-1に準拠して測定することができる。
【0197】
5.用途
本開示におけるシートは、例えば、保護フィルム、オーバーレイフィルム、各種機能性フィルム等に用いることができる。本開示におけるシートが適用される物品としては、例えば、車両、飛行機、表示装置、標識、看板が挙げられる。中でも、本開示におけるシートは、塗装保護フィルム(PPF:Paint Protection Film)であることが好ましい。
【0198】
本開示におけるシートは、上記保護層の上記表面形状を有する表面が観察者側になるように配置される。
【0199】
B.シートの製造方法
本開示におけるシートの製造方法は、基材層と、上記基材層の一方の面側に配置された保護層とを有し、上記保護層の上記基材層とは反対側の表面が、皺構造を有する表面形状を備える、シートの製造方法であって、賦形層を有し、上記賦形層の一方の表面が、上記保護層の上記表面形状が反転した第2の表面形状を備える、賦形用シートを準備する賦形用シート準備工程と、上記基材層の一方の面側に、樹脂組成物を塗布して塗布層を形成する塗布層形成工程と、上記塗布層と上記賦形用シートの上記賦形層とが接した状態で上記塗布層を硬化する賦形工程と、上記賦形用シートを剥がす剥離工程と、を有し、上記シートの伸び率が10%以上であり、上記基材層のデュロメータA硬さが86以上である。
【0200】
図4(a)~(d)は、本開示におけるシートの製造方法の一例を示す工程図である。まず、図4(a)に示すように、賦形用シート30を準備する。賦形用シート30は、賦形層31を有し、賦形層31の一方の表面S31が、保護層の表面形状が反転した第2の表面形状を備える。また、賦形用シート30は、賦形層31の第2の表面形状を有する表面S31とは反対側の面に、支持層32を有している。次に、図4(b)に示すように、基材層1の一方の面側に、樹脂組成物を塗布して塗布層2aを形成する。次に、図4(c)に示すように、塗布層2aと賦形用シート30の賦形層31とが接した状態で塗布層2aを硬化する。これにより、賦形層31の表面形状が、塗布層2aの表面に賦形される。次に、図4(d)に示すように、賦形用シート30を剥がすことにより、基材層1とは反対側の表面S1が、皺構造を有する表面形状を備える保護層2を形成する。これにより、シート10が得られる。基材層1のデュロメータA硬さは所定の範囲であり、シート10の伸び率は所定の範囲である。
【0201】
本開示のシートの製造方法によれば、艶消し性および耐傷性に優れ、形状追従性が良好なシートを容易に製造できる。
【0202】
以下、本開示におけるシートの製造方法の各工程について説明する。
【0203】
1.賦形用シート準備工程
本工程で準備する賦形用シートは、賦形層を有する。賦形用シートにおいて、上記賦形層の一方の表面が、上記保護層の上記表面形状が反転した第2の表面形状を備える。
【0204】
以下、賦形用シートの各構成について説明する。
【0205】
(1)賦形層
本開示における賦形層は、一方の表面が、保護層の表面形状が反転した第2の表面形状を備える。賦形層の第2の表面形状、材料および形成方法については、上述した保護層の表面形状、材料および形成方法と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0206】
(2)支持層
本開示における賦形用シートは、賦形層の第2の表面形状を有する表面とは反対側の面に、支持層を有してもよい。支持層は、賦形層を支持する部材である。
【0207】
支持層は、後述の賦形工程に耐えうる強度を有するものであれば特に限定されない。支持層としては、具体的には、上述のシートにおける基材層と同様である。
【0208】
また、支持層は、透明であってもよく、不透明であってもよい。保護層の形成に用いられる樹脂組成物が電離放射線硬化性樹脂を含む場合、支持層は透明であることが好ましい。
【0209】
2.塗布層形成工程
本工程における基材層としては、上述したシートにおける基材層が挙げられる。
【0210】
また、本工程における樹脂組成物としては、上述の第2の樹脂組成物を使用できる。
【0211】
塗布層形成工程は、上述した「A.シート 1.保護層 (5)保護層の形成方法 (a)第1の方法」における塗布層形成工程と同様である。
【0212】
3.賦形工程
本工程において、硬化方法としては、第2の樹脂組成物が電離放射線硬化性樹脂を含む場合、電離放射線照射による硬化方法を用いることができる。
【0213】
4.剥離工程
本工程において、賦形用シートの剥離速度や剥離時の温度等の条件、ならびに、剥離手段については特に限定されず、公知の手段を適宜選定し、その手段に応じた各条件を設定できる。
【0214】
5.シート
本開示において製造されるシートは、上述したシートと同様である。
【0215】
本開示は、上記実施形態に限定されない。上記実施形態は例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例0216】
[実施例1]
基材層として、厚さ100μm、デュロメータA硬さ90の無黄変熱可塑性ポリウレタン樹脂シートを用いた。基材層上に、下記組成を有する保護層用樹脂組成物aを、乾燥時塗布量5g/mで塗布し、塗布層を形成した。塗布層に対して、LEDから構成されるUV照射装置を用いて紫外線を照射して(LED-UV照射、波長395nm、最大照度0.6W/cm、積算光量30mJ/cm~100mJ/cm)、予備硬化を行った。次いで、エキシマ光照射装置を用いて紫外線を照射した(エキシマ照射、波長172nm(Xe)、紫外線出力密度30mW/cm、積算光量5mJ/cm~100mJ/cm、窒素雰囲気)。さらに、電子線を照射して(加速電圧100kV~150kV、照射線量30kGy~100kGy)、保護層を形成した。基材層の保護層側の面とは反対の面に、透明粘着剤を乾燥時厚さ50μmとなるように塗布し、接着層を形成した。これにより、保護層と基材層と接着層とをこの順に有するシートを得た。
【0217】
(保護層用樹脂組成物a)
・3官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー(多官能オリゴマーa) 30質量部
・単官能アクリレートモノマー(単官能モノマー) 40質量部
・2官能アクリレートモノマー(多官能モノマー) 30質量部
・光重合開始剤(ベンゾフェノン系) 0.8質量部
・撥水剤(シリコーン系) 0.5質量部
【0218】
[実施例2]
下記組成を有する保護層用樹脂組成物bを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、シートを得た。
【0219】
(保護層用樹脂組成物b)
・芳香族基を有する3官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー(多官能オリゴマーb) 30質量部
・単官能アクリレートモノマー(単官能モノマー) 40質量部
・2官能アクリレートモノマー(多官能モノマー) 30質量部
・光重合開始剤(ベンゾフェノン系) 0.8質量部
・撥水剤(シリコーン系) 0.5質量部
【0220】
[比較例1]
基材層として、厚さ100μm、デュロメータA硬さ85の無黄変熱可塑性ポリウレタン樹脂シートを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、シートを得た。
【0221】
[比較例2]
基材層として、厚さ100μm、デュロメータA硬さ85の無黄変熱可塑性ポリウレタン樹脂シートを用いたこと、および、上記保護層用樹脂組成物bを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、シートを得た。
【0222】
[比較例3]
基材層として、厚さ100μm、デュロメータA硬さ90の無黄変熱可塑性ポリウレタン樹脂シートを用いた。また、保護層用樹脂組成物cとして、自己修復機能を有する熱硬化性のウレタン系樹脂組成物を用いた。基材層上に、保護層用樹脂組成物cを、乾燥時厚さ5μmとなるように塗布し、熱硬化させて、自己修復機能を有する保護層を形成した。基材層の保護層側の面とは反対の面に、透明粘着剤を乾燥時厚さ50μmとなるように塗布し、接着層を形成した。これにより、保護層と基材層と接着層とをこの順に有するシートを得た。
【0223】
[評価]
(1)表面形状
実施例および比較例のシートについて、光学顕微鏡観察を行った。実施例1~2、比較例1~2のシートでは、シートの表面に皺構造を有していることが確認された。一方、比較例3のシートでは、シートの表面に皺構造を有さないことが確認された。
【0224】
実施例のシートについて、Ra(算術平均粗さ)及びRSm(曲線要素の平均長さ)を、JIS B0601:2013に準拠し、以下の方法により測定した。任意の10箇所の長方形(1024μm×768μm)の試料について、形状解析レーザ顕微鏡(「VK-X150(制御部)/VK-X160(測定部)」、キーエンス社製)を用い、対物レンズ:50倍、レーザ波長:658nm、測定モード:表面形状モード、測定ピッチ:0.13μm、測定品質:高速モードにて測定した。任意の10箇所の測定値の平均値を、Ra(算術平均粗さ)及びRSm(曲線要素の平均長さ)とした。
【0225】
(2)60°グロス値
実施例および比較例のシートを黒色ABS樹脂板に貼り付け、グロスメータ(BYKガードナー社製「マイクログロス」)を用いて、JIS K5600-4-7に準拠して、60°鏡面光沢度を測定した。
【0226】
(3)シートの伸び
実施例および比較例のシートから、幅25mm、長さ100mmの短冊型の試験片を切り出した。JIS K7161-1:2014に準拠する引張試験機として、エー・アンド・デイ社製「テンシロンRTF1150」を用いて、チャック間距離50mm、引張速度100mm/min、温度23℃、湿度50%RHの条件にて、試験片を伸び率10%まで伸長した。その後、除荷したシート表面に対して、対物レンズ倍率50倍で光学顕微鏡観察を行い、以下の基準にて評価した。そして、評価がAである場合、シートの伸び率は10%以上であるとみなした。
A:保護層および基材層の割れは観察されなかった。
C:保護層または基材層の割れが観察された。
【0227】
シートの伸び率は、下記式により求めた値とした。
伸び率(%)=(L-L0)/L0×100
上記式中、L0は引張試験前の試料長さ、Lは引張試験後の試料長さ、である。
【0228】
(4)デュロメータ硬さ
実施例および比較例で用いた基材層を3cm角の試験片に切り出し、JIS K7215に準拠して、タイプAデュロメータを用いてデュロメータA硬さを測定した。測定は10枚の試験片に対して行い、平均値を測定結果とした。
【0229】
(5)耐スクラッチ性
実施例および比較例のシートについて、ベルマースクラッチ法により、耐スクラッチ性の評価を行った。具体的には、シートの保護層の面にスクラッチ刃を当て、荷重をかけながら、スクラッチ刃を摺動した。荷重は、100gから1000gまで100g刻みで設定した。試験後のシート表面を目視観察し、以下の基準にて評価した。
A:荷重500g以下で外観変化が軽微であった。
B:荷重500g未満で艶が変化した。
C:荷重500g未満で保護層がえぐれた。
【0230】
(6)耐擦傷性
実施例および比較例のシートの保護層の面に対して、スチールウール試験を行い、耐擦傷性を評価した。#0000番のスチールウール(日本スチールウール社製 ボンスター#0000)を用いて、1500gの荷重をかけながら、30往復擦った。試験後のシート表面を目視観察し、以下の基準にて評価した。
A:外観変化が軽微であった。
C:擦り傷が発生した。
【0231】
【表1】
【0232】
比較例1、2では、基材層のデュロメータ硬さが低いため、スクラッチ試験ではスクラッチ刃が深く沈み込み、保護層がえぐれてしまった。一方、実施例1、2では、基材層のデュロメータ硬さが所定の範囲であるため、耐スクラッチ性が良好であった。
【0233】
また、比較例3では、保護層が自己修復機能を有するため、点で荷重がかかる耐スクラッチ性は良好であったが、面で荷重がかかる耐擦傷性には劣っていた。一方、実施例1、2では、電離放射線硬化性樹脂を含む樹脂組成物を硬化させて保護層を形成するため、耐擦傷性も優れていた。
【0234】
本開示は、以下の[1]~[9]を提供する。
[1]基材層と、上記基材層の一方の面側に配置された保護層と、を有するシートであって、
上記保護層の上記基材層とは反対側の表面が、皺構造を有する表面形状を備え、
上記シートの伸び率が10%以上であり、
上記基材層のデュロメータA硬さが86以上である、シート。
[2]上記保護層が、電離放射線硬化性樹脂を含む樹脂組成物の硬化物を含有する、[1]に記載のシート。
[3]上記基材層の厚さが100μm以上300μm以下である、[1]または[2]に記載のシート。
[4]上記シートの全光線透過率が85%以上である、[1]から[3]までのいずれかに記載のシート。
[5]上記表面形状のJIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の高さ方向のパラメータであるRa(算術平均粗さ)が、2μm以下である、[1]から[4]までのいずれかに記載のシート。
[6]上記表面形状のJIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の横方向のパラメータであるRSm(曲線要素の平均長さ)が、50μm以下である、[1]から[5]までのいずれかに記載のシート。
[7]上記保護層の上記表面形状を有する表面の60°グロス値が、10.0以下である、[1]から[6]までのいずれかに記載のシート。
[8]上記基材層の上記保護層とは反対の面側に、接着層を有する、[1]から[7]までのいずれかに記載のシート。
[9]基材層と、上記基材層の一方の面側に配置された保護層とを有し、上記保護層の上記基材層とは反対側の表面が、皺構造を有する表面形状を備える、シートの製造方法であって、
賦形層を有し、上記賦形層の一方の表面が、上記保護層の上記表面形状が反転した第2の表面形状を備える、賦形用シートを準備する賦形用シート準備工程と、
上記基材層の一方の面側に、樹脂組成物を塗布して塗布層を形成する塗布層形成工程と、
上記塗布層と上記賦形用シートの上記賦形層とが接した状態で上記塗布層を硬化する賦形工程と、
上記賦形用シートを剥がす剥離工程と、
を有し、
上記シートの伸び率が10%以上であり、
上記基材層のデュロメータA硬さが86以上である、シートの製造方法。
【符号の説明】
【0235】
1 … 基材層
2 … 保護層
5 … 接着層
10 … シート
30 … 賦形用シート
31 … 賦形層
図1
図2
図3
図4