(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049666
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】酸化カルシウムの製造方法及び添加剤
(51)【国際特許分類】
C04B 2/02 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
C04B2/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156025
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 芳行
(57)【要約】
【課題】炭酸カルシウムを含有する材料の加熱処理により、酸化カルシウムを製造する製造方法であって、前記加熱処理の時間が従来よりも短時間である製造方法の提供。
【解決手段】酸化カルシウムの製造方法であって、前記製造方法は、炭酸カルシウムを含有する材料を、添加剤の共存下かつ減圧下で加熱処理することにより、前記炭酸カルシウムを分解し、酸化カルシウムを生成させる工程を有し、前記添加剤が、鉄、酸化鉄(II)、酸化二鉄(III)鉄(II)、酸化鉄(III)、アルミニウム及び酸化アルミニウムからなる群より選択される1種又は2種以上である、酸化カルシウムの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化カルシウムの製造方法であって、
前記製造方法は、炭酸カルシウムを含有する材料を、添加剤の共存下かつ減圧下で加熱処理することにより、前記炭酸カルシウムを分解し、酸化カルシウムを生成させる工程を有し、
前記添加剤が、鉄、酸化鉄(II)、酸化二鉄(III)鉄(II)、酸化鉄(III)、アルミニウム及び酸化アルミニウムからなる群より選択される1種又は2種以上である、酸化カルシウムの製造方法。
【請求項2】
前記炭酸カルシウムを含有する材料が塊状物であり、前記塊状物の1個当たりの質量が1~100gである、請求項1に記載の酸化カルシウムの製造方法。
【請求項3】
前記炭酸カルシウムを含有する材料の使用量に対する、前記添加剤の使用量の割合が、7質量%以下である、請求項1又は2に記載の酸化カルシウムの製造方法。
【請求項4】
前記減圧下での圧力が5Pa以下である、請求項1又は2に記載の酸化カルシウムの製造方法。
【請求項5】
前記炭酸カルシウムを含有する材料を加熱処理するときの加熱温度が、850℃以下である、請求項1又は2に記載の酸化カルシウムの製造方法。
【請求項6】
前記炭酸カルシウムを含有する材料が石灰石である、請求項1又は2に記載の酸化カルシウムの製造方法。
【請求項7】
酸化カルシウムの製造方法で用いるための添加剤であって、
前記製造方法は、炭酸カルシウムを含有する材料を、前記添加剤の共存下かつ減圧下で加熱処理することにより、前記炭酸カルシウムを分解し、前記酸化カルシウムを生成させる工程を有し、
前記添加剤が、鉄、酸化鉄(II)、酸化二鉄(III)鉄(II)、酸化鉄(III)、アルミニウム及び酸化アルミニウムからなる群より選択される1種又は2種以上である、添加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化カルシウムの製造方法及び添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
石灰石は、炭酸カルシウム(CaCO3)を主成分とする岩石であり、セメントの原料として使用されている。石灰石は脱炭酸によって、酸化カルシウム(CaO、別名:生石灰)を生成する。
【0003】
一方、酸化カルシウムは、製鉄業界では、鉄中のケイ素(Si)、硫黄(S)、リン(P)等の不純物と反応させてスラグを生成させるのに利用されている。例えば、鉄鉱石、コークス及び石灰石を高炉中で溶解させることで、銑鉄を製造し、転炉中でこの銑鉄に酸化カルシウム(生石灰)を添加剤として加えることにより、前記不純物と酸化カルシウムを反応させて、スラグを生成させている。そして、このスラグを鉄から除くことによって、鉄中の不純物を低減している。
【0004】
酸化カルシウムは、鉄中の不純物の低減以外にも、例えば、化学薬品、肥料、建材等の製造原料として利用される。
このように、酸化カルシウムは産業上重要な材料であるため、これまでに、石灰石から酸化カルシウムを得る酸化カルシウムの製造方法が種々検討されてきた。
例えば、石灰石が脱炭酸する温度は900℃程度であり、製鉄業界では、連続的に大量の酸化カルシウムを得るために、石灰石を1200℃程度の高温で約1日かけて加熱処理することもある。
【0005】
しかし、このような従来の酸化カルシウムの製造方法では、石灰石を極めて高温で長時間加熱処理するために、エネルギー消費量が多く、高コストであり、しかも二酸化炭素の排出量も多いという問題点があった。
これに対して、石灰石の加熱処理による脱炭酸を、減圧条件下で行うことによって、脱炭酸の工程時間を短縮する方法が開示されている(非特許文献1~2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】減圧下でのカルシウム化合物の分解およびその生成物の吸湿性.小嶋芳行,林皓人,梅垣哲士.J.Soc.Inorg.Mater.,Japan,21,112-116(2014).
【非特許文献2】減圧下での石灰石の脱炭酸および生石灰のキャラクター.三橋佑基,梅垣哲士,小嶋芳行.J.Soc.Inorg.Mater.,Japan,26,296-301(2019).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、非特許文献1~2で開示されている酸化カルシウムの製造方法では、脱炭酸の工程時間の短縮に、依然改善の余地があった。そこで、石灰石のような炭酸カルシウムを含有する材料を、従来よりも短時間で加熱処理することにより酸化カルシウムを製造する、新規の製造方法の開発が望まれていた。
【0008】
本発明は、炭酸カルシウムを含有する材料の加熱処理により、酸化カルシウムを製造する製造方法であって、前記加熱処理の時間が従来よりも短時間である製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の構成を採用する。
[1] 酸化カルシウムの製造方法であって、前記製造方法は、炭酸カルシウムを含有する材料を、添加剤の共存下かつ減圧下で加熱処理することにより、前記炭酸カルシウムを分解し、酸化カルシウムを生成させる工程を有し、前記添加剤が、鉄、酸化鉄(II)、酸化二鉄(III)鉄(II)、酸化鉄(III)、アルミニウム及び酸化アルミニウムからなる群より選択される1種又は2種以上である、酸化カルシウムの製造方法。
[2] 前記炭酸カルシウムを含有する材料が塊状物であり、前記塊状物の1個当たりの質量が1~100gである、[1]に記載の酸化カルシウムの製造方法。
[3] 前記炭酸カルシウムを含有する材料の使用量に対する、前記添加剤の使用量の割合が、7質量%以下である、[1]又は[2]に記載の酸化カルシウムの製造方法。
[4] 前記減圧下での圧力が5Pa以下である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の酸化カルシウムの製造方法。
【0010】
[5] 前記炭酸カルシウムを含有する材料を加熱処理するときの加熱温度が、850℃以下である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の酸化カルシウムの製造方法。
[6] 前記炭酸カルシウムを含有する材料が石灰石である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の酸化カルシウムの製造方法。
[7] 酸化カルシウムの製造方法で用いるための添加剤であって、前記製造方法は、炭酸カルシウムを含有する材料を、前記添加剤の共存下かつ減圧下で加熱処理することにより、前記炭酸カルシウムを分解し、前記酸化カルシウムを生成させる工程を有し、前記添加剤が、鉄、酸化鉄(II)、酸化二鉄(III)鉄(II)、酸化鉄(III)、アルミニウム及び酸化アルミニウムからなる群より選択される1種又は2種以上である、添加剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、炭酸カルシウムを含有する材料の加熱処理により、酸化カルシウムを製造する製造方法であって、前記加熱処理の時間が従来よりも短時間である製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例3において、走査電子顕微鏡を用いて、得られた酸化カルシウムを分析したときに取得した撮像データである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<<酸化カルシウムの製造方法>>
本発明の一実施形態に係る酸化カルシウムの製造方法は、炭酸カルシウム(CaCO3)を含有する材料(本明細書においては、「炭酸カルシウム含有材料」と称することがある)を、添加剤の共存下かつ減圧下で加熱処理することにより、前記炭酸カルシウムを分解し、酸化カルシウム(CaO)を生成させる工程(本明細書においては、「酸化カルシウム生成工程」と称することがある)を有し、前記添加剤が、鉄(Fe)、酸化鉄(II)(FeO、別名:酸化第一鉄、一酸化鉄)、酸化二鉄(III)鉄(II)(Fe3O4、別名:酸化第一鉄第二鉄、四三酸化鉄)、酸化鉄(III)(Fe2O3、別名:酸化第二鉄、三酸化二鉄)、アルミニウム(Al)及び酸化アルミニウム(Al2O3)からなる群より選択される1種又は2種以上である。
本実施形態の製造方法によれば、減圧下で、かつ上記の特定範囲の添加剤を共存させて、炭酸カルシウム含有材料を加熱処理することにより、従来よりも短時間で酸化カルシウムの生成を終了でき、従来よりも短時間で且つ効率的に、酸化カルシウムを製造できる。なお、石灰石等の加熱処理による分解(脱炭酸)のことを、当該分野では「焼成」と称することもある。
【0014】
先の説明のとおり、製鉄業界では、酸化カルシウムを、鉄中の不純物と反応させてスラグを生成させ、このスラグを鉄から除くことによって、鉄中の不純物を低減している。本実施形態の製造方法で得られた酸化カルシウムは、このような用途で用いるのに好適である。ただし、本実施形態の製造方法で得られた酸化カルシウムの用途は、これに限定されない。例えば、酸化カルシウムは、化学薬品、肥料、建材等の製造原料として利用されており、本実施形態の製造方法で得られた酸化カルシウムも、これらの用途で用いるのにも好適である。一例を挙げると、酸化カルシウムと水を反応させることで、水酸化カルシウムが得られる(CaO+H2O→Ca(OH)2)が、本実施形態の製造方法で得られた酸化カルシウムは、このような水酸化カルシウムの製造に用いるのにも好適である。
【0015】
<炭酸カルシウム含有材料>
前記炭酸カルシウム含有材料は、炭酸カルシウムを含有していれば特に限定されず、炭酸カルシウムと、炭酸カルシウム以外の成分と、をともに含有していてもよいし、炭酸カルシウムそのものであってもよい。
【0016】
前記炭酸カルシウム以外の成分は、特に限定されず、炭酸カルシウム含有材料の種類に応じて決定される。
例えば、炭酸カルシウム含有材料が石灰石である場合には、炭酸カルシウム以外の成分としては、鉱物の通常の含有成分が挙げられる。
【0017】
炭酸カルシウム含有材料において、炭酸カルシウム含有材料の総質量(質量部)に対する、炭酸カルシウムの含有量(質量部)の割合([炭酸カルシウム含有材料の炭酸カルシウムの含有量(質量部)]/[炭酸カルシウム含有材料の総質量(質量部)]×100)は、50質量%以上であることが好ましく、例えば、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、及び98質量%以上のいずれかであってもよい。前記割合が前記下限値以上であることで、酸化カルシウムの製造効率がより高くなる。
一方、炭酸カルシウム含有材料において、炭酸カルシウム含有材料の総質量(質量部)に対する、炭酸カルシウムの含有量(質量部)の割合は、100質量%以下である。
【0018】
本実施形態の製造方法で用いる炭酸カルシウム含有材料は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0019】
炭酸カルシウム含有材料は、石灰石であることが好ましい。石灰石は、安価且つ容易に入手できる点で、好ましい炭酸カルシウム含有材料である。
【0020】
炭酸カルシウム含有材料は、塊状物であることが好ましい。炭酸カルシウム含有材料が、塊状物ではなく、粉体状等の小さいサイズである場合には、添加剤を用いなくても、短時間で酸化カルシウムの生成を終了できることがある。しかし、このような小さいサイズの炭酸カルシウム含有材料は、必要に応じて、粉砕等の加工を行うことによって調製することが必要な場合があり、酸化カルシウムの製造が煩雑で、高コストになることがある。また、このような小さいサイズの炭酸カルシウム含有材料は、その入手が容易ではないことがある。これに対して、適度なサイズの塊状物である炭酸カルシウム含有材料は、大量且つ安価に入手できる。そして、炭酸カルシウム含有材料が塊状物である場合には、従来の製造方法では、炭酸カルシウムの加熱処理を、より高温で、より長時間行う必要があるが、本実施形態によれば、炭酸カルシウム含有材料が塊状物であっても、炭酸カルシウムの分解(脱炭酸)を短時間で終了できる。すなわち、炭酸カルシウム含有材料が塊状物である場合に、本実施形態の製造方法の有利な効果が、最も顕著に得られる。
【0021】
炭酸カルシウム含有材料が塊状物である場合には、前記塊状物のサイズは、特に限定されない。
例えば、従来の製造方法に対する、本実施形態の優位性(炭酸カルシウムの分解(脱炭酸)を短時間で終了できるという有利な効果)が、より顕著となる点では、塊状物の1個当たりの質量は、1g以上であることが好ましく、20g以上であることがより好ましく、例えば、40g以上、60g以上、及び80g以上のいずれかであってもよい。
一方、塊状物のサイズが大き過ぎる場合には、炭酸カルシウムの分解(脱炭酸)を短時間で終了できるという有利な効果が低減することがある。このような観点では、塊状物の1個当たりの質量は、100g以下であることが好ましい。
一実施形態において、炭酸カルシウム含有材料が塊状物である場合の、前記塊状物の1個当たりの質量は、1~100gであることが好ましく、20~100gであることがより好ましく、例えば、40~100g、60~100g、及び80~100gのいずれかであってもよい。ただしこれらは、前記塊状物の1個当たりの質量の一例である。
【0022】
<添加剤>
前記添加剤は、鉄(Fe)、酸化鉄(II)(FeO)、酸化二鉄(III)鉄(II)(Fe3O4)、酸化鉄(III)(Fe2O3)、アルミニウム(Al)及び酸化アルミニウム(Al2O3)からなる群より選択される1種又は2種以上である。
前記添加剤は、炭酸カルシウム含有材料の加熱処理による短時間での分解を可能とする。そして、従来よりも短時間での酸化カルシウムの生成を可能とする。
前記添加剤は、比較的安価であり、その入手が容易であり、その取り扱い性及び保存安定性も良好であり、実用性が高い。
【0023】
前記添加剤は、酸素原子との親和性が高く、炭酸カルシウム含有材料の加熱処理時に、炭酸カルシウム中の酸素原子に作用することによって、炭酸カルシウム中の二酸化炭素(CO2)の脱離を促進すると推測される。
【0024】
本明細書においては、特に断りのない限り、「添加剤」とは、上記のFe、FeO、Fe3O4、Fe2O3、Al及びAl2O3のいずれかを意味する。
【0025】
添加剤は、より安価である点では、Fe、Fe3O4、Fe2O3、Al及びAl2O3からなる群より選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
添加剤は、その奏する効果がより高い点では、Fe、FeO、Fe3O4及びFe2O3からなる群より選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
添加剤は、短時間で酸化カルシウムの生成を終了させる効果がより高い点では、Al及びAl2O3のいずれか一方又は両方であることが好ましい。
【0026】
添加剤は、粉体状であることが好ましい。添加剤が粉体状であることによって、添加剤と炭酸カルシウム含有材料との接触面積がより増大し、より短時間で酸化カルシウムの生成を終了できる。
【0027】
粉体状である添加剤の好ましい平均粒子径は、添加剤の種類の影響を受ける。例えば、入手又は調製が容易な、粉体状の添加剤の平均粒子径は、添加剤の種類に応じて、変化し得る。このような観点で、粉体状である添加剤の平均粒子径は、1~120μmであることが好ましく、例えば、50~120μm、及び80~120μmのいずれかであってもよいし、1~50μm、及び1~25μmのいずれかであってもよい。平均粒子径が前記下限値以上である添加剤は、その取り扱い性がより良好である。添加剤の平均粒子径が前記上限値以下であることで、より短時間で酸化カルシウムの生成を終了できる。
一例を挙げると、粉体状のFeとしては、例えば、粒子径が10~200μm程度で、平均粒子径が100μm程度のものは、その入手又は調製が容易であり、十分な作用を示す。粉体状のFe3O4としては、例えば、粒子径が0.5~4μm程度で、平均粒子径が1~2μm程度のものは、その入手又は調製が容易であり、十分な作用を示す。粉体状のFe2O3としては、例えば、粒子径が7~30μm程度で、平均粒子径が18μm程度のものは、その入手又は調製が容易であり、十分な作用を示す。ただし、これらは粉体状である添加剤の平均粒子径等の一例であり、添加剤の平均粒子径はこれらに限定されない。
【0028】
本明細書においては、添加剤の場合に限らず、「平均粒子径」とは、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定法によって測定された、粒子の50%累積時の粒子径を意味し、「D50」と称することがある。
【0029】
炭酸カルシウム含有材料の減圧下での加熱処理時において、炭酸カルシウム含有材料の使用量(質量部)に対する、添加剤の使用量(質量部)の割合([加熱処理時の添加剤の使用量(質量部)]/[加熱処理時の炭酸カルシウム含有材料の使用量(質量部)]×100)は、7質量%以下であることが好ましく、例えば、5.5質量%以下、3.5質量%以下、及び1.5質量%以下のいずれかであってもよい。前記割合が前記上限値以下であることで、添加剤の使用量を抑制しつつ、より短時間で酸化カルシウムの生成を終了できる。
【0030】
一方、炭酸カルシウム含有材料の減圧下での加熱処理時において、炭酸カルシウム含有材料の使用量(質量部)に対する、添加剤の使用量(質量部)の割合は、0.5質量%以上であることが好ましく、例えば、1.5質量%以上、及び2.5質量%以上のいずれかであってもよい。前記割合が前記下限値以上であることで、より短時間で酸化カルシウムの生成を終了できる。
【0031】
一実施形態において、炭酸カルシウム含有材料の減圧下での加熱処理時において、炭酸カルシウム含有材料の使用量(質量部)に対する、添加剤の使用量(質量部)の割合は、例えば、0.5~7質量%、0.5~5.5質量%、0.5~3.5質量%、及び0.5~1.5質量%以下のいずれかであってもよいし、1.5~7質量%、1.5~5.5質量%、及び1.5~3.5質量%のいずれかであってもよいし、2.5~7質量%、2.5~5.5質量%、及び2.5~3.5質量%のいずれかであってもよい。ただし、これらは前記割合の一例である。
【0032】
炭酸カルシウム含有材料が石灰石であり、減圧せずに石灰石を加熱処理する、従来の酸化カルシウムの製造方法では、塩化物等の塩の共存下で加熱処理することにより、加熱処理の時間を短縮できることが、これまでに開示されている。しかし、塩は、加熱処理中に揮発して量が減少してしまうという問題点を有しており、減圧下で加熱処理する本実施形態の製造方法では、この問題点はより顕著となる。さらに、揮発せずに残存した塩は、生成物である酸化カルシウム中に混在するが、塩が塩化物である場合、この塩化物は水を吸収し易く、酸化カルシウム(生石灰)がこの場合の水と反応し、劣化してしまう可能性がある。また、先の説明のように、酸化カルシウムの用途が、スラグの生成に伴う、鉄中の不純物の低減である場合には、酸化カルシウム中の塩が不純物として問題となることがある。
これに対して、本実施形態の製造方法で用いる添加剤は、鉄、アルミニウム、鉄の酸化物、又はアルミニウムの酸化物であり、炭酸カルシウム含有材料を減圧下で加熱処理しても、揮発しない。さらに、酸化カルシウム中に混在しているこれら添加剤が、酸化カルシウムを劣化させることはない。さらに、酸化カルシウムの用途が、鉄中の不純物の低減である場合には、これら添加剤と同様の成分が、元来スラグとして鉄中に含まれているため、酸化カルシウム中にこれら添加剤が混在していても、問題とはならない。そして、酸化カルシウム中からこれら添加剤を除去したい場合には、磁力選別(磁選)等の公知の方法で除去できる。
【0033】
<他の成分>
前記酸化カルシウム生成工程においては、本発明の効果を損なわない範囲内において、炭酸カルシウム含有材料と、前記添加剤と、のいずれにも該当しない、他の成分の共存下で、炭酸カルシウム含有材料を加熱処理してもよい。
前記他の成分は特に限定されず、目的に応じて任意に選択できる。
【0034】
本実施形態の製造方法で用いる前記他の成分は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0035】
炭酸カルシウム含有材料の減圧下での加熱処理時において、炭酸カルシウム含有材料の使用量(質量部)に対する、前記他の成分の使用量(質量部)の割合([加熱処理時の他の成分の使用量(質量部)]/[加熱処理時の炭酸カルシウム含有材料の使用量(質量部)]×100)は、10質量%以下であることが好ましく、例えば、5質量%以下、3質量%以下、及び1質量%以下のいずれかであってもよい。前記割合が前記上限値以下であることで、より短時間で酸化カルシウムの生成を終了できる。
一方、前記割合は0質量%以上である。
【0036】
<酸化カルシウム生成工程の条件>
本実施形態においては、炭酸カルシウム含有材料と添加剤が共存している環境の減圧の態様と、炭酸カルシウム含有材料と添加剤が共存している状態での炭酸カルシウム含有材料の加熱の態様は、これらを行っているときに、炭酸カルシウムが分解する限り、特に限定されない。
【0037】
前記酸化カルシウム生成工程においては、炭酸カルシウム含有材料と添加剤が共存している環境の減圧を、炭酸カルシウム含有材料の加熱を行っているすべての時間帯で行ってもよいし、一部の時間帯のみで行ってもよい。
【0038】
前記酸化カルシウム生成工程においては、炭酸カルシウム含有材料と添加剤が共存している環境の減圧と、炭酸カルシウム含有材料の加熱と、を開始するタイミングは、目的に応じて任意に選択できる。例えば、加熱を開始してから減圧を開始してもよいし、減圧を開始してから加熱を開始してもよいし、加熱及び減圧を同時に開始してもよい。
【0039】
前記酸化カルシウム生成工程においては、炭酸カルシウム含有材料を添加剤の共存下かつ減圧下で加熱処理するが、添加剤を炭酸カルシウム含有材料に接触させた状態で、炭酸カルシウム含有材料を加熱処理することが好ましい。
【0040】
前記酸化カルシウム生成工程において、添加剤を炭酸カルシウム含有材料に接触させるときには、例えば、粉体状の添加剤を用い、この粉体状の添加剤を炭酸カルシウム含有材料の表面に配置することが好ましい。その場合には、例えば、粉体状の添加剤を炭酸カルシウム含有材料にふりかけてもよい。このようにすることで、より短時間で酸化カルシウムの生成を終了できる。
【0041】
さらに、粉体状の添加剤は、炭酸カルシウム含有材料の表面上に、薄く広げることによって、炭酸カルシウム含有材料において、添加剤と接触していない領域の面積を低減することが好ましい。このようにすることで、添加剤の使用効率を向上させることができ、炭酸カルシウム含有材料の表面を万遍なく添加剤の粉体で覆うこともでき、さらに短時間で酸化カルシウムの生成を終了できる。
【0042】
炭酸カルシウム含有材料として、複数個の塊状物を用いる場合には、加熱処理時において、これら複数個の炭酸カルシウム含有材料(塊状物)は、炭酸カルシウム含有材料同士が積み重ならないように配置することが好ましい。このようにすることで、炭酸カルシウム含有材料において、添加剤と接触していない領域の面積を低減でき、より短時間で酸化カルシウムの生成を終了できる。そのためには、例えば、これら複数個の炭酸カルシウム含有材料を、平置きすればよい。本明細書において、「平置き」とは、複数個の対象物を、平面上で、積み重ねることなく、この平面に対して平行な方向に広げて配置することを意味する。
【0043】
炭酸カルシウム含有材料として、複数個の塊状物を用いる場合には、加熱処理時において、これら複数個の炭酸カルシウム含有材料(塊状物)は、互いに積み重ならないように、近接して配置することが好ましい。このようにすることで、より容易に添加剤を炭酸カルシウム含有材料に接触させることができ、また、炭酸カルシウム含有材料に接触せずに、有効利用されなくなってしまう添加剤の量を、より容易に低減できる。本明細書において、「近接して配置する」とは、複数個の対象物を、互いに接触させて配置するか、又は互いに非接触であっても近傍に配置することを意味する。
【0044】
前記酸化カルシウム生成工程において、前記他の成分の共存下で、炭酸カルシウム含有材料を加熱処理する場合には、前記他の成分の配置の態様は、前記他の成分の種類に応じて任意に選択できる。例えば、前記他の成分を炭酸カルシウム含有材料に接触させた状態で、炭酸カルシウム含有材料を加熱処理してもよいし、前記他の成分を炭酸カルシウム含有材料に接触させない状態で、炭酸カルシウム含有材料を加熱処理してもよい。
【0045】
炭酸カルシウム含有材料を、添加剤の共存下かつ減圧下で加熱処理するときの圧力(減圧環境下での圧力)は、減圧したことによる効果が得られる限り、特に限定されないが、5Pa以下であることが好ましく、例えば、3.5Pa以下、2Pa以下、及び0.8Pa以下のいずれかであってもよい。前記圧力が前記上限値以下であることで、より短時間で酸化カルシウムの生成を終了でき、さらに、生成物である酸化カルシウムの比表面積がより大きくなる。
【0046】
酸化カルシウムの比表面積は、炭酸カルシウム含有材料の加熱処理時における圧力(減圧度)の影響を受ける。通常は、加熱処理時における圧力が小さいほど(減圧度が大きいほど)、酸化カルシウムの比表面積が大きくなる傾向にある。本実施形態においては、典型的には、酸化カルシウムとして、微細粒子の凝集物が得られる。そして、加熱処理時における圧力が小さいほど(減圧度が大きいほど)、1次粒子である酸化カルシウムの前記微細粒子の粒子径が小さくなる傾向にある。そのため、加熱処理時における圧力が前記上限値以下であることで、酸化カルシウムの比表面積がより大きくなる。
【0047】
炭酸カルシウム含有材料を、添加剤の共存下かつ減圧下で加熱処理するときの圧力の下限値は、特に限定されない。例えば、過剰な減圧が避けられる点では、前記圧力は、0.3Pa以上であることが好ましい。
【0048】
一実施形態において、炭酸カルシウム含有材料を、添加剤の共存下かつ減圧下で加熱処理するときの圧力は、例えば、0.3~5Pa、0.3~3.5Pa、0.3~2Pa、及び0.3~0.8Pa以下のいずれかであってもよい。ただし、これらは前記圧力の一例である。
【0049】
前記酸化カルシウム生成工程において、炭酸カルシウム含有材料と添加剤が共存している環境の減圧は、公知の方法で行うことができ、例えば、真空ポンプ等の公知の減圧手段を用いて行うことができる。
減圧時には前記減圧手段を用いるが、その作動に必要な電力は、後述する加熱処理時に用いる加熱手段の場合よりも、はるかに少ない。すなわち、本実施形態においては、前記減圧手段の使用は、ほぼコスト上昇の要因とはならない。そして、本実施形態においては、後述するように、従来よりも短時間で酸化カルシウムの生成を終了できるため、加熱手段の作動に必要な電力を、従来よりも削減できる。そのため、本実施形態によれば、酸化カルシウムを従来よりも大幅に低コストで製造できる。
【0050】
炭酸カルシウム含有材料を、添加剤の共存下かつ減圧下で加熱処理するときの圧力は、全時間帯で一定であってもよいし、全時間帯で変動してもよいし、一部の時間帯のみで一定であってもよい。
【0051】
前記酸化カルシウム生成工程においては、炭酸カルシウムを分解し、酸化カルシウムを生成するが、このときに生じる反応は脱炭酸反応であって、酸化カルシウムとともに二酸化炭素も生成する(CaCO3→CaO+CO2)。そして、前記酸化カルシウム生成工程においては、炭酸カルシウム含有材料を減圧下で加熱処理するため、生成した二酸化炭素は速やかに反応系外に除去(回収)される。通常、生成した二酸化炭素がそのまま反応系内にとどまると、後続の酸化カルシウムの脱炭酸反応の進行が阻害されるが、本実施形態においては、上記のように二酸化炭素が反応系外に除去されるため、後続の酸化カルシウムの脱炭酸反応は、阻害されることなく良好に進行する。
【0052】
さらに、前記酸化カルシウム生成工程においては、加熱等の操作に伴い、上記の脱炭酸反応とは別途に二酸化炭素が発生する。本実施形態においては、減圧によって、脱炭酸反応で生じた二酸化炭素を回収するが、このとき同時に、脱炭酸反応とは別途に発生した二酸化炭素も回収でき、簡略化された工程で二酸化炭素を高濃度で回収できる。二酸化炭素ガスは、温室効果ガスであるため、回収することが望まれている。そこで、減圧を行わない通常の酸化カルシウムの製造方法では、脱炭酸反応で生じた二酸化炭素と、これとは別途に発生した二酸化炭素と、をともに回収するためには、これら二酸化炭素を分離して回収する工程を別途設ける必要があり、工程が煩雑となる。
【0053】
炭酸カルシウム含有材料を、添加剤の共存下かつ減圧下で加熱処理するときの加熱温度は、950℃以下であることが好ましく、例えば、850℃以下であってもよい。前記加熱温度が前記上限値以下であることで、エネルギー消費量を低減でき、低コストで酸化カルシウムを製造でき、しかも二酸化炭素の排出量も低減できる。本実施形態の製造方法によれば、炭酸カルシウム含有材料を添加剤の共存下かつ減圧下で加熱処理することにより、加熱温度が850℃以下であっても、十分に酸化カルシウムを製造できる。
一方、炭酸カルシウム含有材料を、添加剤の共存下かつ減圧下で加熱処理するときの加熱温度は、800℃以上であることが好ましい。前記加熱温度が前記下限値以上であることで、より短時間で酸化カルシウムの生成を終了できる。
一実施形態において、炭酸カルシウム含有材料を、添加剤の共存下かつ減圧下で加熱処理するときの加熱温度は、例えば、800~950℃、及び800~850℃のいずれかであってもよい。ただし、これらは前記加熱温度の一例である。
【0054】
炭酸カルシウム含有材料を、添加剤の共存下かつ減圧下で加熱処理するときの加熱温度は、全時間帯で一定であってもよいし、全時間帯で変動してもよいし、一部の時間帯のみで一定であってもよい。
【0055】
前記酸化カルシウム生成工程において、添加剤と共存している炭酸カルシウム含有材料の、減圧下での加熱処理は、公知の方法で行うことができ、例えば、加熱炉等の公知の加熱手段を用いて行うことができる。
【0056】
前記酸化カルシウム生成工程においては、炭酸カルシウム含有材料を、添加剤の共存下かつ減圧下で加熱処理するときの加熱温度が、先に説明した数値範囲であるときに、圧力が、先に説明した数値範囲であることが好ましい。例えば、前記加熱温度が800℃以上であるときに、前記圧力が5Pa以下であることが好ましい。ただし、これは、前記加熱温度と前記圧力の組み合わせの一例であり、前記加熱温度と前記圧力は、先に記載した数値範囲同士を任意に組み合わせることができる。
【0057】
炭酸カルシウム含有材料を、添加剤の共存下かつ減圧下で加熱処理するときの加熱時間は、前記加熱温度と前記圧力に応じて、適宜調節できる。
特に、炭酸カルシウム含有材料を、添加剤の共存下かつ減圧下で加熱処理するときの加熱温度が、先に説明した数値範囲であるときの、炭酸カルシウム含有材料の加熱時間は、270分以下であってもよいが、115分以下であることが好ましく、例えば、97分以下、及び87分以下のいずれかであってもよい。本実施形態によれば、従来よりも短時間で酸化カルシウムの生成を終了できる。
一方、前記加熱時間の下限値は、特に限定されない。例えば、70分以上という前記加熱時間によれば、比較的容易に酸化カルシウムの生成終了を達成できる。
一実施形態において、前記加熱時間は、例えば、70~270分、70~115分、70~97分、及び70~87分のいずれかであってもよい。ただし、これらは前記加熱時間の一例である。
【0058】
前記酸化カルシウム生成工程においては、炭酸カルシウム含有材料を、添加剤の共存下かつ減圧下で加熱処理するときの加熱温度が、先に説明した数値範囲であり、かつ圧力が先に説明した数値範囲であるときに、炭酸カルシウム含有材料の加熱時間が、先に説明した数値範囲であることが好ましい。例えば、前記加熱温度が800℃以上であり、かつ前記圧力が5Pa以下であるときに、炭酸カルシウム含有材料の加熱時間が、270分以下であってもよいが、115分以下であることが好ましい。ただし、これは、前記加熱温度と、前記圧力と、前記加熱時間と、の組み合わせの一例であり、前記加熱温度と、前記圧力と、前記加熱時間とは、先に記載した数値範囲同士を任意に組み合わせることができる。
【0059】
好ましい本実施形態の製造方法の一例としては、添加剤の共存下で炭酸カルシウム含有材料の加熱を開始し、前記加熱の開始時以降に、減圧を開始し、前記酸化カルシウム生成工程において、加熱温度が800℃以上のいずれかの温度となってからの、減圧下での圧力が、5Pa以下、3.5Pa以下、2Pa以下、及び0.8Pa以下のいずれかであり、かつ、加熱時間が、70~270分、70~115分、70~97分、及び70~87分のいずれかである製造方法が挙げられる。このような製造方法において、上述の800℃以上のいずれかの温度は、800℃であってもよく、800~950℃の範囲内のいずれか一の温度であってもよいし、800~850℃の範囲内のいずれか一の温度であってもよい。ただし、これらは、好ましい本実施形態の製造方法の一例である。
【0060】
<酸化カルシウム>
本実施形態の製造方法で得られる酸化カルシウムは、減圧を行わない従来の製造方法で得られる酸化カルシウムよりも、比表面積が大きい。例えば、本実施形態の製造方法で得られる酸化カルシウムの比表面積は、減圧を行わない従来の製造方法で得られる酸化カルシウムの比表面積に対して、2.1倍以上であることが好ましく、例えば、2.6倍以上、3倍以上、及び3.4倍以上のいずれかであってもよい。酸化カルシウムは、その比表面積が大きいほど、その活性が高くなる。
一方、本実施形態の製造方法で得られる酸化カルシウムの比表面積は、減圧を行わない従来の製造方法で得られる酸化カルシウムの比表面積に対して、例えば、5.1倍以下であってもよい。このような比表面積の酸化カルシウムは、より容易に製造できる。
一実施形態において、本実施形態の製造方法で得られる酸化カルシウムの比表面積は、減圧を行わない従来の製造方法で得られる酸化カルシウムの比表面積に対して、例えば、2.1~5.1倍、2.6~5.1倍、3~5.1倍、及び3.4~5.1倍のいずれかであってもよい。ただし、これらは前記酸化カルシウムの比表面積の倍数の一例である。
【0061】
より具体的には、本実施形態の製造方法で得られる酸化カルシウムの比表面積は、15m2/g以上であることが好ましく、例えば、18m2/g以上、21m2/g以上、及び24m2/g以上のいずれかであってもよい。酸化カルシウムは、その比表面積が大きいほど、その活性が高くなる。
一方、本実施形態の製造方法で得られる酸化カルシウムの比表面積は、例えば、35m2/g以下であってもよい。このような比表面積の酸化カルシウムは、より容易に製造できる。
一実施形態において、本実施形態の製造方法で得られる酸化カルシウムの比表面積は、例えば、15~35m2/g、18~35m2/g、21~35m2/g、及び24~35m2/gのいずれかであってもよい。ただし、これらは前記酸化カルシウムの比表面積の一例である。
【0062】
<<添加剤>>
本発明の一実施形態に係る添加剤は、酸化カルシウムの製造方法で用いるための添加剤であって、前記製造方法は、炭酸カルシウムを含有する材料(炭酸カルシウム含有材料)を、前記添加剤の共存下かつ減圧下で加熱処理することにより、前記炭酸カルシウムを分解し、前記酸化カルシウムを生成させる工程(酸化カルシウム生成工程)を有し、前記添加剤が、鉄(Fe)、酸化鉄(II)(FeO、別名:酸化第一鉄、一酸化鉄)、酸化二鉄(III)鉄(II)(Fe3O4、別名:酸化第一鉄第二鉄、四三酸化鉄)、酸化鉄(III)(Fe2O3、別名:酸化第二鉄、三酸化二鉄)、アルミニウム(Al)及び酸化アルミニウム(Al2O3)からなる群より選択される1種又は2種以上である。
本実施形態の添加剤は、先に説明した、本発明の一実施形態に係る、酸化カルシウムの製造方法で用いるための添加剤であり、先に説明したとおりであり、その詳細な説明を省略する。
【実施例0063】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されない。
【0064】
[実施例1]
<<酸化カルシウムの製造(Fe2O3使用)>>
石灰石として、1個当たりの質量が20g以上の塊状物であるものを3個用いて、合計で100gを用意した。
常温常圧下で、加熱炉の内部に、この石灰石(100g)を置いた。このとき、石灰石は、石灰石同士が積み重ならないように、互いに近接して配置した。そして、これら石灰石に、粉体状のFe2O3(3g)をふりかけた。このとき、石灰石の表面が万遍なくFe2O3の粉体で覆われるように調節した。
次いで、加熱炉の内部の加熱と減圧を同時に開始した。そして、加熱開始から60分後に加熱炉の内部の温度が900℃に到達し(昇温速度:約15℃/min)、加熱炉の内部の圧力が0.6Paに到達した段階で、この温度(900℃)と圧力(0.6Pa)を維持することにより、石灰石を加熱処理した。この900℃、0.6Paでの加熱処理を開始してから、85分後に、石灰石の分解(酸化カルシウムの生成)が終了していることを確認した。酸化カルシウムの収量は55gであった。得られたものが酸化カルシウムであることは、加熱処理物を粉砕し、得られた粉砕物を下記条件で粉末X線回折法(XRD)により分析することで確認した(酸化カルシウム単体であることを確認した)。
[XRD分析条件]
スキャンスピード:8°/min
DS:1°
SS:1°
管電圧:30kV
管電流:16mA
【0065】
<<酸化カルシウムの評価>>
上述のXRDにより分析した結果、得られた酸化カルシウムは単一相であることを確認できた。
窒素ガスを用いて、気体吸着法により、上記で得られた酸化カルシウムの比表面積を求めたところ、20.9m2/gであった。
これらの結果を表1に示す。表1中の「添加剤(使用量(質量%))」の欄に記載されているのは、「添加剤の種類」と、「石灰石(炭酸カルシウム含有材料)の加熱処理時における、石灰石の使用量(質量部)に対する、添加剤の使用量(質量部)の割合」である。
【0066】
<<酸化カルシウムの製造(Fe2O3使用)及び評価>>
[実施例2]
粉体状のFe2O3の使用量を、3gに代えて5gとした点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、酸化カルシウムを製造し、評価した。例えば、本実施例でも、石灰石は、石灰石同士が積み重ならないように、互いに近接して配置し、石灰石の表面が万遍なくFe2O3の粉体で覆われるように調節した。これは、Fe2O3の粉体を用いた以降の実施例でも同様である。
その結果、900℃、0.6Paでの加熱処理を開始してから、85分後に、石灰石の分解(酸化カルシウムの生成)が終了していることを確認した。得られたものが酸化カルシウムであることは、実施例1の場合と同じ方法(XRD)で確認した。
実施例1の場合と同じ方法(XRD)で分析した結果、得られた酸化カルシウムの結晶相は単一相であることを確認できた。実施例1の場合と同じ方法で、得られた酸化カルシウムの比表面積を求めたところ、25.9m2/gであった。
【0067】
[実施例3]
粉体状のFe2O3の使用量を、3gに代えて2gとした点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、酸化カルシウムを製造し、評価した。
その結果、900℃、0.6Paでの加熱処理を開始してから、90分後に、石灰石の分解(酸化カルシウムの生成)が終了していることを確認した。得られたものが酸化カルシウムであることは、実施例1の場合と同じ方法で確認した。
実施例1の場合と同じ方法で、粉末X線回折法(XRD)により分析した結果、得られた酸化カルシウムの結晶相は単一相であることを確認できた。実施例1の場合と同じ方法(気体吸着法)で、得られた酸化カルシウムの比表面積を求めたところ、25.8m2/gであった。
【0068】
さらに、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて、得られた酸化カルシウムについて、金で蒸着を行い、加速電圧10又は20kVの条件で分析した。このとき取得した撮像データを、
図1示す。
図1から明らかなように、得られた酸化カルシウムは、微細粒子の凝集物であり、その微細粒子の大半の粒子径は、0.5μm以下であった。すなわち、
図1は、得られた酸化カルシウムの比表面積が大きいことを示していた。
【0069】
[実施例4]
粉体状のFe2O3の使用量を、3gに代えて1gとした点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、酸化カルシウムを製造し、評価した。
その結果、900℃、0.6Paでの加熱処理を開始してから、110分後に、石灰石の分解(酸化カルシウムの生成)が終了していることを確認した。得られたものが酸化カルシウムであることは、実施例1の場合と同じ方法(XRD)で確認した。
実施例1の場合と同じ方法(XRD)で分析した結果、得られた酸化カルシウムの結晶相は単一相であることを確認できた。実施例1の場合と同じ方法(気体吸着法)で、得られた酸化カルシウムの比表面積を求めたところ、25.9m2/gであった。
【0070】
<<酸化カルシウムの製造(Fe使用)及び評価>>
[実施例5]
粉体状のFe2O3(3g)に代えて、粉体状のFe(鉄粉)(3g)を用いた点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、酸化カルシウムを製造し、評価した。例えば、本実施例でも、石灰石は、石灰石同士が積み重ならないように、互いに近接して配置し、石灰石の表面が万遍なくFeの粉体で覆われるように調節した。これは、Feの粉体を用いた以降の実施例でも同様である。
その結果、900℃、0.6Paでの加熱処理を開始してから、80分後に、石灰石の分解(酸化カルシウムの生成)が終了していることを確認した。得られたものが酸化カルシウムであることは、実施例1の場合と同じ方法(XRD)で確認した。
実施例1の場合と同じ方法(XRD)で分析した結果、得られた酸化カルシウムの結晶相は単一相であることを確認できた。実施例1の場合と同じ方法(気体吸着法)で、得られた酸化カルシウムの比表面積を求めたところ、22.2m2/gであった。
【0071】
[実施例6]
粉体状のFeの使用量を、3gに代えて5gとした点以外は、実施例5の場合と同じ方法で、酸化カルシウムを製造し、評価した。
その結果、900℃、0.6Paでの加熱処理を開始してから、80分後に、石灰石の分解(酸化カルシウムの生成)が終了していることを確認した。得られたものが酸化カルシウムであることは、実施例1の場合と同じ方法(XRD)で確認した。
実施例1の場合と同じ方法(XRD)で分析した結果、得られた酸化カルシウムの結晶相は単一相であることを確認できた。実施例1の場合と同じ方法(気体吸着法)で、得られた酸化カルシウムの比表面積を求めたところ、25.3m2/gであった。
【0072】
[実施例7]
粉体状のFeの使用量を、3gに代えて2gとした点以外は、実施例5の場合と同じ方法で、酸化カルシウムを製造し、評価した。
その結果、900℃、0.6Paでの加熱処理を開始してから、80分後に、石灰石の分解(酸化カルシウムの生成)が終了していることを確認した。得られたものが酸化カルシウムであることは、実施例1の場合と同じ方法(XRD)で確認した。
実施例1の場合と同じ方法(XRD)で分析した結果、得られた酸化カルシウムの結晶相は単一相であることを確認できた。実施例1の場合と同じ方法(気体吸着法)で、得られた酸化カルシウムの比表面積を求めたところ、22.1m2/gであった。
【0073】
[実施例8]
粉体状のFeの使用量を、3gに代えて1gとした点以外は、実施例5の場合と同じ方法で、酸化カルシウムを製造し、評価した。
その結果、900℃、0.6Paでの加熱処理を開始してから、95分後に、石灰石の分解(酸化カルシウムの生成)が終了していることを確認した。得られたものが酸化カルシウムであることは、実施例1の場合と同じ方法(XRD)で確認した。
実施例1の場合と同じ方法(XRD)で分析した結果、得られた酸化カルシウムの結晶相は単一相であることを確認できた。実施例1の場合と同じ方法(気体吸着法)で、得られた酸化カルシウムの比表面積を求めたところ、24.9m2/gであった。
【0074】
<<酸化カルシウムの製造(Fe3O4使用)及び評価>>
[実施例9]
粉体状のFe2O3(3g)に代えて、粉体状のFe3O4(3g)を用いた点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、酸化カルシウムを製造し、評価した。例えば、本実施例でも、石灰石は、石灰石同士が積み重ならないように、互いに近接して配置し、石灰石の表面が万遍なくFe3O4の粉体で覆われるように調節した。これは、Fe3O4の粉体を用いた以降の実施例でも同様である。
その結果、900℃、0.6Paでの加熱処理を開始してから、95分後に、石灰石の分解(酸化カルシウムの生成)が終了していることを確認した。得られたものが酸化カルシウムであることは、実施例1の場合と同じ方法(XRD)で確認した。
実施例1の場合と同じ方法(XRD)で分析した結果、得られた酸化カルシウムの結晶相は単一相であることを確認できた。実施例1の場合と同じ方法(気体吸着法)で、得られた酸化カルシウムの比表面積を求めたところ、22.7m2/gであった。
【0075】
[実施例10]
粉体状のFe3O4の使用量を、3gに代えて5gとした点以外は、実施例9の場合と同じ方法で、酸化カルシウムを製造し、評価した。
その結果、900℃、0.6Paでの加熱処理を開始してから、95分後に、石灰石の分解(酸化カルシウムの生成)が終了していることを確認した。得られたものが酸化カルシウムであることは、実施例1の場合と同じ方法(XRD)で確認した。
実施例1の場合と同じ方法(XRD)で分析した結果、得られた酸化カルシウムの結晶相は単一相であることを確認できた。実施例1の場合と同じ方法(気体吸着法)で、得られた酸化カルシウムの比表面積を求めたところ、25.4m2/gであった。
【0076】
[実施例11]
粉体状のFe3O4の使用量を、3gに代えて2gとした点以外は、実施例9の場合と同じ方法で、酸化カルシウムを製造し、評価した。
その結果、900℃、0.6Paでの加熱処理を開始してから、100分後に、石灰石の分解(酸化カルシウムの生成)が終了していることを確認した。得られたものが酸化カルシウムであることは、実施例1の場合と同じ方法(XRD)で確認した。
実施例1の場合と同じ方法(XRD)で分析した結果、得られた酸化カルシウムの結晶相は単一相であることを確認できた。実施例1の場合と同じ方法(気体吸着法)で、得られた酸化カルシウムの比表面積を求めたところ、24.7m2/gであった。
【0077】
[実施例12]
粉体状のFe3O4の使用量を、3gに代えて1gとした点以外は、実施例9の場合と同じ方法で、酸化カルシウムを製造し、評価した。
その結果、900℃、0.6Paでの加熱処理を開始してから、105分後に、石灰石の分解(酸化カルシウムの生成)が終了していることを確認した。得られたものが酸化カルシウムであることは、実施例1の場合と同じ方法(XRD)で確認した。
実施例1の場合と同じ方法(XRD)で分析した結果、得られた酸化カルシウムの結晶相は単一相であることを確認できた。実施例1の場合と同じ方法(気体吸着法)で、得られた酸化カルシウムの比表面積を求めたところ、26.8m2/gであった。
【0078】
[実施例13]
石灰石を加熱処理するときの加熱温度を、900℃に代えて850℃とした点以外は、実施例5の場合と同じ方法で、酸化カルシウムを製造し、評価した。
その結果、850℃、0.6Paでの加熱処理を開始してから、240分後に、石灰石が僅かに残存しているものの、石灰石の分解(酸化カルシウムの生成)がほぼ終了していることを確認した。得られたものが酸化カルシウムであることは、実施例1の場合と同じ方法(XRD)で確認した。
実施例1の場合と同じ方法(気体吸着法)で、得られた酸化カルシウムの比表面積を求めたところ、27.9m2/gであった。
【0079】
<<酸化カルシウムの製造(添加剤不使用)及び評価>>
[比較例1]
粉体状のFe2O3を用いなかった点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、酸化カルシウムを製造し、評価した。
その結果、900℃、0.6Paでの加熱処理を開始してから、130分後に、石灰石の分解(酸化カルシウムの生成)が終了していることを確認した。得られたものが酸化カルシウムであることは、実施例1の場合と同じ方法(XRD)で確認した。
実施例1の場合と同じ方法(XRD)で分析した結果、得られた酸化カルシウムの結晶相は単一相であることを確認できた。実施例1の場合と同じ方法(気体吸着法)で、得られた酸化カルシウムの比表面積を求めたところ、25.2m2/gであった。
【0080】
<<酸化カルシウムの製造(減圧なし、添加剤不使用)及び評価>>
[比較例2]
粉体状のFe2O3を用いなかった点と、加熱炉の内部を減圧しなかった点、以外は、実施例1の場合と同じ方法で、酸化カルシウムを製造し、評価した。
その結果、900℃での加熱処理を開始してから、300分後の段階でも、石灰石の分解(酸化カルシウムの生成)が終了しておらず、少量の石灰石が残存していた。酸化カルシウムが得られたことは、実施例1の場合と同じ方法(XRD)で確認した。
実施例1の場合と同じ方法(気体吸着法)で、得られた酸化カルシウムの比表面積を求めたところ、6.3m2/gであった。
【0081】
【0082】
上記結果から明らかなように、実施例1~12においては、110分以下(80~110分)という従来よりも短時間で石灰石を加熱処理することにより、酸化カルシウムの生成を終了できた。実施例13においても、実施例1~12の場合よりも低い加熱温度で、240分で酸化カルシウムの生成をほぼ終了できた。実施例1~13においては、添加剤として、Fe、Fe2O3又はFe3O4を用いており、加熱処理時における、石灰石の使用量(質量部)に対する、添加剤の使用量(質量部)の割合は、1~5質量%であった。
【0083】
走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、実施例3以外の各実施例でも、実施例3の場合と同様に、得られた酸化カルシウムを分析したところ、実施例3の場合と同様に、微細粒子の凝集物であり、その微細粒子の大半の粒子径は、0.5μm以下であった。すなわち、実施例3以外の各実施例でも、得られた酸化カルシウムの比表面積が大きいことを示していた。
【0084】
実施例1~13においては、得られた酸化カルシウムの比表面積が20.9m2/g以上(20.9~27.9m2/g)であった。このように、実施例1~13では、酸化カルシウムの比表面積が大きいことを実際に確認できた。
【0085】
実施例1~4と、実施例5~8と、実施例9~12と、の比較から、添加剤の使用量が多くなるほど、石灰石の分解(脱炭酸)の終了に要する加熱処理の時間が、短くなる傾向が認められた。
【0086】
これに対して、比較例1においては、実施例1~12の場合と同じ加熱温度では、酸化カルシウムの生成を終了するために、石灰石の加熱処理が130分必要であった。比較例1においては、減圧下で石灰石を加熱処理したが、添加剤が不使用であった。
比較例2においては、石灰石を300分(5時間)加熱処理しても、酸化カルシウムの生成を終了できなかった(石灰石が相当量残存していた)。比較例2においては、減圧せずに石灰石を加熱処理したうえに、添加剤が不使用であった。
酸化カルシウムの生成を終了するために、石灰石の加熱処理に必要な時間(加熱時間)は、実施例1~12においては、比較例1に対して、61.5~84.6%であった。
【0087】
比較例1においては、得られた酸化カルシウムの比表面積が、実施例1~12の場合と同等であったが、比較例2においては、得られた酸化カルシウムの比表面積が、桁違いに小さかった。すなわち、酸化カルシウムの比表面積は、減圧下で石灰石を加熱処理することにより、大きくなることを確認できた。実施例1~12で得られた酸化カルシウムの比表面積は、比較例2で得られた酸化カルシウムの比表面積に対して、3.3倍以上(3.3倍~4.3倍)であった。