(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049683
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】水性塗料組成物および塗装体
(51)【国際特許分類】
C09D 201/02 20060101AFI20240403BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240403BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20240403BHJP
【FI】
C09D201/02
C09D5/02
C09D7/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156066
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 磨美
(72)【発明者】
【氏名】岡島 友紀
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG141
4J038GA03
4J038JA17
4J038JA26
4J038KA06
4J038MA06
4J038MA10
4J038NA01
4J038NA03
4J038NA04
4J038PA18
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】水性塗料を工場で塗装する際に塗膜乾燥性に優れ、耐ブロッキング性に優れるとともに耐水性に優れる塗装体を形成可能な塗料組成物を提供する。
【解決手段】水分散性樹脂(A)と成膜助剤(B)を含む水性塗料組成物であって、前記水分散性樹脂(A)は、SP値11.0~13.0の単量体とSP値8.5以上9.5未満の単量体とを構成単位として含む重量平均分子量が50,000以上の水分散性樹脂(A-1)を含み、前記成膜助剤(B)は、沸点150~280℃の範囲内の成膜助剤を含み、前記水性塗料組成物から形成された塗膜の軟化点が0℃~100℃であることを特徴とする水性塗料組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分散性樹脂(A)と成膜助剤(B)を含む水性塗料組成物であって、
前記水分散性樹脂(A)は、SP値11.0~13.0の単量体とSP値8.5以上9.5未満の単量体とを構成単位として含む重量平均分子量が50,000以上の水分散性樹脂(A-1)を含み、
前記成膜助剤(B)は、沸点150~280℃の範囲内の成膜助剤を含み、
前記水性塗料組成物から形成された塗膜の軟化点が0℃~100℃であり、ここで、軟化点は、以下の測定条件下での動的粘弾性測定(DMA)により得られる貯蔵弾性率(E’(Pa))の変曲点の温度(℃)であることを特徴とする水性塗料組成物。
<測定条件>
温度範囲:-50℃~200℃
昇温速度:5℃/min
測定長さ:20.0mm
測定幅:8.0mm
周波数:1Hz
歪み:0.05%
【請求項2】
前記水分散性樹脂(A-1)以外の水分散性および/または水溶性樹脂をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
基材上に請求項1または2に記載の水性塗料組成物から形成された塗膜を有する塗装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗料組成物、および該塗料組成物を用いた塗装体に関し、特には、水性塗料を工場で塗装する際に塗膜乾燥性に優れ、耐ブロッキング性に優れるとともに耐水性に優れる塗装体を形成可能な塗料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属基材に適用される塗料組成物としては、様々な塗料組成物が提案されているが、環境負荷を低減する観点から、水性塗料組成物が望まれており、様々な提案がされている。
【0003】
特開平7-300574号公報(特許文献1)は、水系アクリル変性アルキド樹脂と水系アクリル変性エポキシ樹脂を結合剤として含有する水性被覆組成物に関する発明を記載し、かかる発明は、軽量型鋼の防錆用として好適に用いられる、水系でかつ超速乾性を有する水性被覆組成物に関する発明である。特許文献1に記載の発明は、塗装数秒後のロールタッチ塗膜剥離性、油面密着性、温度分布幅70~120℃の広い幅で塗面状態においてワキのない高温仕上り性、塗装数分後の積み重ねにおいても良好なブロッキング性を有し、かつ防錆性の優れる塗膜を提供することができる水性被覆組成物であるが、アルキド樹脂を一定量含むことから、70℃よりも低い温度にて工場で塗装した際の塗膜の乾燥性に課題を有していた。
【0004】
特開2005-349684号公報(特許文献2)は、最外殻部のTgが粒子の中心部のTgより高いコア・シェル型エマルション樹脂を用いることで、耐ブロッキング性に優れる、無色透明な樹脂皮膜を有する樹脂被覆表面処理鋼板を提供する発明を記載する。
【0005】
特開2020-2327号公報(特許文献3)は、常乾塗装及び焼付塗装のいずれも可能で、造膜性、耐ブロッキング性及び防錆性に優れた塗膜を形成することができる水性塗料組成物に関する発明を記載し、かかる発明は、ガラス転移温度が30~100℃であるウレタン樹脂粒子とガラス転移温度が-20~30℃であるアクリル樹脂粒子を一定の割合で含有する水性塗料組成物に関する発明である。特許文献3に記載の発明は、ガラス転移温度が異なる2種類の樹脂成分を配合することで、工場での塗装における耐ブロッキング性の課題を解決し得る発明であるが、塗膜形成初期段階における成膜性や乾燥性については考慮されておらず、また、得られた塗膜の耐水性についても改善の余地があった。
【0006】
特開2009-270034号公報(特許文献4)は、水性樹脂分散体と架橋剤を必須成分として含有することを特徴とするエナメル塗料用の水性樹脂組成物に関する発明を記載し、当該水性樹脂組成物を使用すれば、耐候性と耐ブロッキング性に優れる塗膜を形成することができることを記載する。ここで、水性樹脂分散体は、具体的には、高Tg樹脂成分として、アルコキシシラン基含有重合性単量体(A)及びシクロアルキル基含有重合性単量体(B)を含むものであり、水性樹脂分散体を得るために使用する重合性単量体全体の0.1~10質量%のアルコキシシラン基含有重合性単量体を使用すること、および、水性樹脂分散体を得るために使用する重合性単量体全体の5~45%のシクロアルキル基含有重合性単量体を使用することが重要であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7-300574号公報
【特許文献2】特開2005-349684号公報
【特許文献3】特開2020-2327号公報
【特許文献4】特開2009-270034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1~4に記載の発明は、耐ブロッキング性の課題を解決することを目的としているものの、塗膜形成初期段階における成膜性や乾燥性については考慮されておらず、また、得られた塗膜の耐水性についても改善の余地があった。特に、耐ブロッキング性を向上させるために、シェル層のTgが高いコア・シェル型の水分散性樹脂や、アルコキシシラン基含有重合性単量体を構成単位として含む水分散性樹脂を水性塗料に用いると、塗膜形成のための乾燥時に樹脂粒子と樹脂粒子が融着しきれずに小さな欠陥部を生じる粒子間ポケットを形成しやすくなり、この粒子間ポケットから塗膜中に水が浸入し、耐水性が悪化する課題があった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、水性塗料を工場で塗装する際に塗膜乾燥性に優れ、耐ブロッキング性に優れるとともに耐水性に優れる塗装体を形成可能な塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために、まず、水分散性樹脂と成膜助剤の検討を行った。耐ブロッキング性の向上には、ガラス転移温度(Tg)の高い樹脂を用いて塗膜硬度を高くする手法が有効である。しかしながら、水性樹脂分散体(水性媒体中に水分散性樹脂が分散している分散体)の造膜(皮膜形成)は、樹脂粒子の融着、融合により行われるため、成膜性が不十分になりやすい(これによって粒子間ポケットの形成により耐水性も悪化し得る)。このため、ガラス転移温度(Tg)が高い水分散性樹脂を含む水性分散体の成膜には成膜助剤を使用することが一般的であるが、形成される塗膜の乾燥が不十分である場合、耐ブロッキング性が悪くなる問題もあった。また、塗膜内に水や成膜助剤が残存していると、耐水性も悪くなりやすい。さらに、樹脂粒子の融合が不十分であると、塗膜欠陥が生じやすくなる問題もあった。
【0011】
このような状況下、本発明者らは、SP値11.0~13.0の単量体を構成単位として含む重量平均分子量が50,000以上の水分散性樹脂と、沸点150~280℃の範囲内の成膜助剤とを組み合わせることで、樹脂粒子同士の融着融合を促進して成膜性が改善され、耐水性を向上できることを見出した。また、かかる水分散性樹脂の構成単位にSP値8.5以上9.5未満の単量体を用いたことで、塗膜乾燥性を向上させることができる。さらに、本発明者らは、形成される塗膜の粘弾性測定を行った際に塗膜の軟化点(貯蔵弾性率(E’)の変曲点の温度)が0℃以上であれば、耐ブロッキング性に優れる塗膜が得られることを確認した。これによって、本発明を完成するに至った。
【0012】
従って、本発明の水性塗料組成物は、水分散性樹脂(A)と成膜助剤(B)を含む水性塗料組成物であって、
前記水分散性樹脂(A)は、SP値11.0~13.0の単量体とSP値8.5以上9.5未満の単量体とを構成単位として含む重量平均分子量が50,000以上の水分散性樹脂(A-1)を含み、
前記成膜助剤(B)は、沸点150~280℃の範囲内の成膜助剤を含み、
前記水性塗料組成物から形成された塗膜の軟化点が0℃~100℃であり、ここで、軟化点は、以下の測定条件下での動的粘弾性測定(DMA)により得られる貯蔵弾性率(E’(Pa))の変曲点の温度(℃)であることを特徴とする水性塗料組成物である。
<測定条件>
温度範囲:-50℃~200℃
昇温速度:5℃/min
測定長さ:20.0mm
測定幅:8.0mm
周波数:1Hz
歪み:0.05%
【0013】
本発明の水性塗料組成物の他の好適例において、前記水分散性樹脂(A-1)以外の水分散性および/または水溶性樹脂をさらに含む。
【0014】
また、本発明の塗装体は、基材上に上述した本発明の水性塗料組成物から形成された塗膜を有する塗装体である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水性塗料組成物によれば、水性塗料を工場で塗装する際に塗膜乾燥性に優れ、耐ブロッキング性に優れるとともに耐水性に優れる塗装体を形成可能な塗料組成物を提供することができる。また、本発明の塗装体によれば、かかる水性塗料組成物を用いた塗装体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明は、水性塗料組成物および塗装体に関する。
【0017】
本発明の1つの態様は、水分散性樹脂と成膜助剤を含む水性塗料組成物である。本明細書では、この水性塗料組成物を「本発明の水性塗料組成物」または「本発明の塗料組成物」とも称する。「水性塗料組成物」とは、主溶媒として水を含有する塗料組成物である。また、「水分散性樹脂」を(A)成分とし、「水分散性樹脂(A)」とも称する。「成膜助剤」を(B)成分とし、「成膜助剤(B)」とも称する。
【0018】
本発明の塗料組成物に用いる水は、特に制限されるものではないが、水道水やイオン交換水、蒸留水等の純水等が好適に挙げられる。また、塗料組成物を長期保存する場合には、カビやバクテリアの発生を防止するため、紫外線照射等により滅菌処理した水を用いてもよい。本発明の塗料組成物中において、水の量は、20~60質量%であることが好ましく、30~50質量%であることがより好ましい。
【0019】
本発明の塗料組成物は、塗膜の成膜性を確保し、それにより耐水性を得る観点から、成膜助剤(B)を含む。成膜助剤(B)は、一般に、成膜性の付与を目的として配合される有機溶剤であり、塗膜形成成分に該当しない。成膜助剤(B)は、後述する水分散性樹脂(A-1)を軟化させ、最低造膜温度(MFT)を下げやすくするとともに、乾燥時に速やかに塗膜から揮発されることが好ましい。このことから、成膜助剤(B)は、沸点150~280℃の範囲内、好ましくは160~260℃の範囲内の成膜助剤を含むことが好ましい。本明細書において沸点は1気圧での沸点を指す。
【0020】
成膜助剤(B)のうち、沸点150~280℃の範囲内の成膜助剤としては、例えば、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGMME)、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノiso-ブチルエーテル、エチレングリコールモノtert-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノn-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノiso-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノtert-ブチルエーテル、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。また、沸点が150℃未満であるか又は280℃を超える成膜助剤としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルジグリコール、トリエチレングリコール等が挙げられる。
【0021】
本発明の塗料組成物では、後述する水分散性樹脂(A-1)と沸点150~280℃の範囲内の成膜助剤との組み合わせにより優れた成膜性が得られることから、耐水性を向上できるとともに、成膜助剤(B)の配合量を抑えることも可能であり、これによって塗膜乾燥性をさらに向上させることもできる。
【0022】
本発明の塗料組成物中において、成膜助剤(B)の量は、0.1~20.0質量%であることが好ましく、0.5~10.0質量%であることがさらに好ましい。また、成膜助剤(B)全体における沸点150~280℃の範囲内の成膜助剤の割合は、50質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。有機溶剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、沸点150~200℃未満の成膜助剤と沸点200℃~280℃の成膜助剤を組み合わせて用いると、塗膜乾燥性がより良好になる。
【0023】
本発明の塗料組成物は、成膜助剤(B)に加えて、さらなる有機溶剤を含むことができる。成膜助剤(B)以外の有機溶剤は、特に限定されるものではなく、塗料業界において通常使用されている有機溶剤を用いることができる。例えば、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒、アミン系溶剤、アミド系溶剤等の各種有機溶剤が使用できるが、水溶性の有機溶剤を含むことが好ましい。
【0024】
アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール等が挙げられ、ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられ、エステル系溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられ、エーテル系溶媒としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、メチルカルビトール等が挙げられる。なお、エチレングリコールモノエチルエーテルやメチルカルビトールのように水酸基とエーテル結合の両方を有する溶媒は、上記のとおり、エーテル系溶媒に分類される。また、炭化水素系溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等が挙げられ、より具体的には、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、ミネラルスピリット、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、テルペン油等を例示することができる。アミン系溶剤乃至アミド系溶剤としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン等が挙げられる。
【0025】
本発明の塗料組成物が成膜助剤(B)以外の有機溶剤をさらに含む場合、塗料組成物中の有機溶剤の総量は、0.1~30質量%であることが好ましく、0.5~20質量%であることがより好ましい。ここで、有機溶剤の総量とは、成膜助剤(B)とそれ以外の有機溶剤の合計量である。
【0026】
本発明の塗料組成物は、水分散性樹脂(A)を含む。本明細書において「水分散性樹脂」とは、水中に分布して不均質な系(例えば乳濁液又は懸濁液)を形成することが可能な樹脂である。水分散性樹脂(A)は、本発明の塗料組成物中に分散している。
【0027】
水分散性樹脂は、例えば、高速攪拌機等を使用することにより強制的なせん断力を加えながら、必要に応じて界面活性剤を用いて、水分散性樹脂を水中で乳化させる、又は単量体成分を乳化重合させることによって調製できる。或いは、有機溶剤媒体中にて重合してなる水分散性樹脂に対して、必要に応じて界面活性剤を加えて、水中への相転換を行うことによって水性樹脂分散体を調製でき、必要に応じて蒸留等によって水性樹脂分散体中に含まれる有機溶剤を除去してもよい。また、水を媒体とし、水中で重合を行うことによっても、水性樹脂分散体を調製できる。
【0028】
水分散性樹脂は、エマルション樹脂とディスパージョン樹脂に分類することができる。エマルション樹脂とは、水分散性樹脂のうち、乳化重合によって得られる樹脂を指す。ディスパージョン樹脂は、自己水分散性樹脂を指すが、本明細書においては、エマルション樹脂は除かれる。また、水に溶ける樹脂は、水溶性樹脂である。
【0029】
本発明の塗料組成物において、水分散性樹脂(A)は、SP値11.0~13.0の単量体とSP値8.5以上9.5未満の単量体とを構成単位として含む重量平均分子量が50,000以上の水分散性樹脂(A-1)を含む。水分散性樹脂(A-1)は、SP値11.0~13.0の単量体を構成単位として含むことから、成膜助剤(B)、特に沸点150~280℃の範囲内の成膜助剤が分散された樹脂粒子に浸透しやすく、塗膜形成時に樹脂粒子同士の融着融合を促進させることができる。これにより、成膜性が改善され、耐水性を向上させることができる。また、水分散性樹脂(A-1)は、SP値8.5以上9.5未満の単量体も構成単位として含むことから、塗料組成物中に含まれる溶媒、特に水の蒸発を促進させることができ、これにより、塗膜乾燥性を向上させることができる。また、SP値8.5以上9.5未満の単量体による耐水性の向上効果も得られる。
【0030】
SP値(溶解パラメータ)とは、相溶性を判断する際の目安となるもので、種々の計算方法や実測方法があるが、本明細書において、SP値は、構造に基づいてHoy法によって算出された溶解度パラメーター(Solubility Parameter)を意味する。ここで、単量体のSP値は、単量体のホモポリマーのSP値を意味し、Hoyの提唱した蒸気圧法を用い、文献〔K. L. Hoy, J. Paint Technology, 42, [541], 76(1970)〕に記載された方法に準拠して計算した値である。具体的には、SP値は、δ=(dΣG)/Mで表され、dはポリマーの密度、Mはポリマーの基本構造単位の分子量、ΣGは該基本構造単位中に存在する原子(団)に対応する分子引力定数Gの総和である。また、有機溶剤のSP値は、Hoyの提唱した蒸気圧法を用い、文献〔K. L. Hoy, J. Paint Technology, 42, [541], 76(1970)〕に記載された方法に準拠して計算した値である
【0031】
SP値11.0~13.0の単量体としては、例えば、ヒドロキシエチルメタクリレート(11.9)、ヒドロキシエチルアクリレート(12.8)、4-ヒドロキシブチルアクリレート(11.8)、ヒドロキシプピルメタクリレート(11.2/11.4)、アクリロニトリル(12.4)等が挙げられる。ここで、括弧内の数値は、上述の単量体のSP値(つまり、単量体のホモポリマーのSP値)である。
【0032】
水分散性樹脂(A-1)中に構成単位として含まれるSP値11.0~13.0の単量体の量は、水分散性樹脂(A-1)の総量に対して0.1~50質量%であることが好ましく、1~35質量%であることがより好ましく、5~25質量%であることがさらに好ましい。SP値11.0~13.0の単量体は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
SP値8.5以上9.5未満の単量体としては、例えば、エチルメタクリレート(9.4)、t-ブチルメタクリレート(8.8)、n-ブチルメタクリレート(9.3)、エチルヘキシルメタクリレート(9.0)、ステアリルメタクリレート(8.9)、イソブチルアクリレート(9.4)、イソブチルメタクリレート(9.3)、2-エチルヘキシルアクリレート(9.2)、シクロヘキシルメタクリレート(9.48)、スチレン(9.4)、αメチルスチレン(9.0)、ラウリルメタクリレート(9.0)、メタクリル酸(8.2)等が挙げられる。ここで、括弧内の数値は、上述の単量体のSP値(つまり、単量体のホモポリマーのSP値)である。
【0034】
水分散性樹脂(A-1)中に構成単位として含まれるSP値8.5以上9.5未満の単量体の量は、水分散性樹脂(A-1)の総量に対して0.1~75質量%であることが好ましく、10.0~60.0質量%であることがさらに好ましい。SP値8.5以上9.5未満の単量体は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
水分散性樹脂(A-1)は、SP値11.0~13.0の単量体またはSP値8.5以上9.5未満の単量体に該当しない単量体を構成単位として含むことができる。本明細書では、かかる単量体を第3の単量体として説明する。
【0036】
水分散性樹脂(A-1)は、第3の単量体として、水酸基含有モノマーを構成単位として含んでいてもよい。第3の単量体としての水酸基含有モノマーは、SP値11.0~13.0の単量体ほどではないものの、成膜性とそれによる耐水性の向上に貢献することができる。第3の単量体としての水酸基含有モノマーとしては、例えば、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、アリルアルコール、分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0037】
水分散性樹脂(A-1)中に構成単位として含まれる第3の単量体としての水酸基含有モノマーの量は、水分散性樹脂(A-1)の総量に対して、例えば0.1~10質量%であり、0.2~5質量%であることが好ましい。第3の単量体としての水酸基含有モノマーは、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
水分散性樹脂(A-1)は、第3の単量体として、環状構造を有する単量体を構成単位として含んでいてもよい。第3の単量体としての環状構造を有する単量体は、耐水性の向上に貢献することができる。環状構造はベンゼン環であることが好ましい。第3の単量体としての環状構造を有する単量体としては、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン等が挙げられる。
【0039】
水分散性樹脂(A-1)中に構成単位として含まれる第3の単量体としての環状構造を有する単量体の量は、水分散性樹脂(A-1)の総量に対して、例えば0.1~20.0質量%であり、1.0~10.0質量%であることが好ましい。第3の単量体としての環状構造を有する単量体は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
水分散性樹脂(A-1)の構成単位として含まれ得る第3の単量体の例としては、上述の水酸基含有モノマーや環状構造を有する単量体に加えて、メチルメタクリレート(MMA)、ブチルアクリレート(AB)、エチルアクリレート(EA)、アクリル酸(AA)、グリシジルメタクリレート(GMA)等が挙げられる。
【0041】
水分散性樹脂(A-1)の重量平均分子量は、50,000以上であり、60,000~500,000であることが好ましい。水分散性樹脂(A-1)の重量平均分子量を50,000以上とすることで、成膜助剤(B)、特に沸点150~280℃の範囲内の成膜助剤の樹脂への浸透性が高くなり、成膜性を向上させることができる。また、水分散性樹脂(A-1)の重量平均分子量が50,000以上であれば、耐水性等の塗膜性能も向上させることができる。
【0042】
本明細書において、樹脂の分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー[例えば、東ソー株式会社製、HLC-8220GPC及びHLC-8320EcoSEC装置]で測定される重量平均分子量であり、標準物質にはポリスチレンが使用される。測定試料は、テトラヒドロフラン又はジメチルホルムアミド試薬10mlに樹脂20~40mgを入れて溶解させた後、フィルタ(例えばPTFEメンブレンフィルタT100A025A)にて濾過することで調製される。この時点で、試料の溶液が不透明な状態、濾過詰まりが発生した場合は正確な分子量測定はできないので測定不可と判断する。このような分子量が測定できない樹脂、いわゆる測定不可の樹脂は、高分子量の樹脂に該当し、その重量平均分子量は50,000以上であると認められる。
【0043】
水分散性樹脂(A-1)は、アクリル成分を構成単位として含む水分散性樹脂であることが好ましい。本明細書において「アクリル成分」とは、アクリル酸、メタクリル酸およびその誘導体(例えば、アクリル酸およびメタクリル酸のエステル、アミド等の(メタ)アクリロイル基を有する化合物やアクリル酸ニトリル、メタクリル酸ニトリル等)を指す。アクリル成分は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
アクリル成分を構成単位として含む樹脂には、アクリル樹脂の他、アクリルスチレン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ふっ素変性アクリル樹脂、脂肪酸変性アクリル樹脂、ウレタン変性アクリル樹脂、エポキシ変性アクリル樹脂等の各種変性樹脂も含まれる。
【0045】
本発明の塗料組成物において、塗膜形成成分中における水分散性樹脂(A-1)の量は、30~90質量%であることが好ましい。水分散性樹脂(A-1)は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
本明細書において、塗膜形成成分とは、水や有機溶剤等の揮発する成分を除いた成分を指し、最終的に塗膜を形成することになる成分である。本明細書においては、塗料組成物を130℃で60分間乾燥させた際に残存する成分を塗膜形成成分として取り扱う。本発明の塗料組成物中において、塗膜形成成分の量は、例えば50~70質量%であり、55~65質量%であることが好ましい。
【0047】
本発明の塗料組成物は、水分散性樹脂(A-1)以外の水分散性および/または水溶性樹脂をさらに含んでいてもよい。ここで、水分散性樹脂(A-1)以外の水分散性樹脂は、水分散性樹脂(A)に包含される樹脂であるが、水溶性樹脂は、水分散性樹脂(A)と区別される樹脂である。本明細書では、水分散性樹脂(A-1)以外の水分散性および/または水溶性樹脂を「樹脂(A-2)」とも称する。樹脂(A-2)は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
樹脂(A-2)の例としては、以下の樹脂(A-2-1)や樹脂(A-2-2)等が挙げられる。
樹脂(A-2-1)
樹脂(A-2-1)は、重量平均分子量が50,000未満の水分散性および/または水溶性樹脂である。本発明の水性塗料組成物において、樹脂(A-2-1)は、耐水性向上に寄与し得る。
樹脂(A-2-2)
樹脂(A-2-2)は、SP値11.0~13.0の単量体またはSP値8.5以上9.5未満の単量体を構成単位として含まない重量平均分子量が50,000以上の水分散性および/または水溶性樹脂である。本発明の水性塗料組成物において、樹脂(A-2-2)は、硬質であれば耐ブロッキング性に寄与し、軟質であれば成膜性に寄与し得る。樹脂(A-2-2)の重量平均分子量が100,000以上であることが好ましい。
【0049】
本発明の水性塗料組成物のように、重量平均分子量が50,000以上である水分散性樹脂(A-1)と、必要に応じて重量平均分子量が50,000以上である樹脂(A-2-2)および/または顔料とを配合する水性塗料組成物にとっては、形成される塗膜の緻密性ひいては耐水性をさらに向上させる観点から、樹脂(A-2-1)を用いることが好ましい。このため、本発明の塗料組成物は、樹脂(A-2-1)として、重量平均分子量が50,000未満の水分散性および/または水溶性樹脂を含むことが好ましく、重量平均分子量が50,000未満の水分散性樹脂を含むことがより好ましい。
【0050】
樹脂(A-2-1)は、重量平均分子量が1,000以上50,000未満であることが好ましく、10,000以上50,000未満であることがさらに好ましい。このような重量平均分子量を有する樹脂(A-2-1)は、塗膜の耐水性や基材密着性に寄与する。
【0051】
樹脂(A-2-1)は、アクリル成分を構成単位として含む樹脂であることが好ましい。アクリル成分は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
本発明の塗料組成物において、塗膜形成成分中における樹脂(A-2-1)の量は、0.5~40質量%であることが好ましく、1~20質量%、特には1~15質量%であることがより好ましい。樹脂(A-2-1)は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
本発明の塗料組成物に使用される樹脂は、均一構造であってもよいが、異相構造を有する樹脂粒子であってもよく、少なくとも2点のガラス転移温度を有するコアシェル型エマルションもしくは海島構造型エマルション、または多層構造型エマルションの形態であってもよい。樹脂粒子の一部が高温領域、好ましくは55℃~155℃のガラス転移温度を有すると、耐ブロッキング性を向上させることができる。ここでの樹脂の説明は、水分散性樹脂(A-1)または樹脂(A-2)のいずれにも当てはまることである。
【0054】
樹脂粒子は、例えば、多段乳化重合法によって得ることができる。
【0055】
樹脂粒子の製造に採用できる多段乳化重合法としては、エチレン性不飽和単量体を含有する水性乳濁液を形成し、従来から公知の乳化重合法を2段階以上、通常は2~5段階繰り返し実施して、形成されるエチレン性不飽和単量体の乳化共重合体が異相構造、即ち、特性の異なる最外相と一相以上の内部相からなる粒子を形成させる多段乳化重合法がある。
【0056】
多段乳化重合法の代表例として、エチレン性不飽和単量体を含有する水性乳濁液中に乳化剤および重合開始剤、更に必要に応じて連鎖移動剤や、乳化安定剤等を存在させ、通常60~90℃の加温下で乳化重合し、この工程を複数回繰り返して実施する多段乳化重合法を挙げることができる。
【0057】
また、樹脂粒子の形成に使用できるエチレン性不飽和単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、α-クロロエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート系単量体;スチレンおよび/またはメチルスチレン、クロロスチレン、メトキシスチレン等のスチレン誘導体;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、イタコン酸ハーフエステル、マレイン酸、マレイン酸ハーフエステルなどのカルボキシル基含有単量体;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートや、2(3)-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレートなどの水酸基含有単量体;(メタ)アクリルアミドや、マレインアミドなどのアミド基含有単量体;2-アミノエチル(メタ)アクリレートや、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、3-アミノプロピル(メタ)アクリレート、2-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルピリジンなどのアミノ基含有単量体;グリシジル(メタ)アクリレートや、アリルグリシジルエーテル、2個以上のグリシジル基を有するエポキシ化合物と活性水素原子を有するエチレン性不飽和単量体との反応により得られるエポキシ基含有単量体やオリゴノマー;その他N-メチロール基を有したN-メチロールアクリルアミド;4-(メタ)-アクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(メタ)-アクリロイルアミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(メタ)-アクリロイルオキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジンなどの紫外線安定性単量体;2-〔2’-ヒドロキシ-5’-(メタクリロイルオキシメチル)フェニル〕-2H-ベンゾトリアゾールや、2-〔2’-ヒドロキシ-5’-(メタクリロイルオキシエチル)フェニル〕-2H-ベンゾトリアゾールなどの紫外線吸収性単量体;酢酸ビニル、塩化ビニル、更には、エチレン、ブタジエン、アクリロニトリル、ジアルキルフマレート等を代表的なものとして挙げることができる。
【0058】
樹脂粒子の少なくとも一相を形成する重合体は内部架橋構造を有していてもよい。該内部架橋構造を有する重合体は、エチレン性不飽和単量体の一部としてジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の分子中に重合性不飽和二重結合を2個以上有する単量体を使用して乳化重合させる方法;乳化重合反応時の温度で相互に反応する官能基を持つ単量体の組合せ、例えば、カルボキシル基とグリシジル基や、水酸基とイソシアネート基等の組合せの官能基を持つエチレン性不飽和単量体を選択含有させた単量体混合物を使用して乳化重合させる方法;加水分解縮合反応の生じる(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシランや、(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のシリル基含有エチレン性不飽和単量体を含有させた単量体混合物を使用して乳化重合させる方法等の方法により製造することができる。
【0059】
樹脂粒子の形成に使用できる乳化剤として、例えば、ラウリン酸ナトリウム等の脂肪酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の高級アルコール硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシノニルフェニルエーテルスルホン酸アンモニウム、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレングリコールエーテル硫酸塩、更には、スルホン酸基または硫酸エステル基と重合性の炭素-炭素不飽和二重結合を分子中に有する、いわゆる反応性乳化剤等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、またはこれらの化合物の骨格と重合性の炭素-炭素不飽和二重結合を分子中に有する反応性ノニオン性界面活性剤等のノニオン性界面活性剤;アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤;(変性)ポリビニルアルコール等を挙げることができる。
【0060】
乳化剤としては、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、両性乳化剤、高分子乳化剤などが挙げられ、これらの乳化剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0061】
アニオン性乳化剤としては、例えば、アンモニウムドデシルサルフェート、ナトリウムドデシルサルフェートなどのアルキルサルフェート塩;アンモニウムドデシルスルホネート、ナトリウムドデシルスルホネート、ナトリウムアルキルジフェニルエーテルジスルホネートなどのアルキルスルホネート塩;アンモニウムドデシルベンゼンスルホネート、ナトリウムドデシルナフタレンスルホネートなどのアルキルアリールスルホネート塩;ポリオキシエチレンアルキルスルホネート塩;ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩;ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩;ジアルキルスルホコハク酸塩;アリールスルホン酸-ホルマリン縮合物;アンモニウムラウリレート、ナトリウムステアリレートなどの脂肪酸塩;ビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレートスルホネート塩、プロペニル-アルキルスルホコハク酸エステル塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルホネート塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンホスフォネート塩、アリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルホネート塩などのアリル基を有する硫酸エステルまたはその塩;アリルオキシメチルアルコキシエチルポリオキシエチレンの硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0062】
ノニオン性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの縮合物、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、エチレンオキサイドと脂肪族アミンとの縮合生成物、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0063】
カチオン性乳化剤としては、例えば、ドデシルアンモニウムクロライドなどのアルキルアンモニウム塩などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0064】
両性乳化剤としては、例えば、ベタインエステル型乳化剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0065】
高分子乳化剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウムなどのポリ(メタ)アクリル酸塩;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;ポリヒドロキシエチルアクリレートなどのポリヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;これらの重合体を構成する単量体のうちの1種類以上を共重合成分とする共重合体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0066】
また、乳化剤として、耐温水白化性、耐凍結融解性および耐ブロッキング性に総合的に優れた水性樹脂組成物および水性塗料を得る観点から、重合性基を有する乳化剤、すなわち、いわゆる反応性乳化剤が好ましく、環境保護の観点から、非ノニルフェニル型の乳化剤が好ましい。
【0067】
反応性乳化剤としては、例えば、プロペニル-アルキルスルホコハク酸エステル塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルホネート塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンホスフォネート塩〔例えば、三洋化成工業(株)製、商品名:エレミノールRS30など〕、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテルスルホネート塩〔例えば、第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンHS-10など〕、アリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルホネート塩〔例えば、第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンKH-10など〕、アリルオキシメチルノニルフェノキシエチルヒドロキシポリオキシエチレンのスルホネート塩〔例えば、(株)ADEKA製、商品名:アデカリアソープSE-10など〕、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン硫酸エステル塩〔例えば、(株)ADEKA製、商品名:アデカリアソープSR-10、SR-30など〕、ビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート化スルホネート塩〔例えば、日本乳化剤(株)製、商品名:アントックスMS-60など〕、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン〔例えば、(株)ADEKA製、商品名:アデカリアソープER-20など〕、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル〔例えば、第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンRN-20など〕、アリルオキシメチルノニルフェノキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン〔例えば、(株)ADEKA製、商品名:アデカリアソープNE-10など)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0068】
樹脂粒子の形成において、重合開始剤としては、従来からラジカル重合に一般的に使用されているものが使用可能であり、中でも水溶性のものが好適である。例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩類;2,2’-アゾビス(2-アミノジプロパン)ハイドロクロライドや、4,4’-アゾビス-シアノバレリックアシッド、2,2’-アゾビス(2-メチルブタンアミドオキシム)ジハイドロクロライドテトラハイドレートなどのアゾ系化合物;過酸化水素水、t-ブチルハイドロパーオキサイド等の過酸化物などを挙げることができる。更に、L-アスコルビン酸、チオ硫酸ナトリウムなどの還元剤と、硫酸第一鉄などとを組み合わせたレドックス系も使用できる。
【0069】
樹脂粒子の形成に使用できる連鎖移動剤としては、例えば、アルキルメルカプタン類、芳香族メルカプタン類、ハロゲン化炭化水素類等が挙げられ、これらの中でも、ラウリルメルカプタン、n-ブチルメルカプタン、t-ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸-2-エチルヘキシル、2-メチル-t-ブチルチオフェノール、四臭化炭素、α-メチルスチレンダイマー等が好適である。これらを適宜使用することによって、塗膜の光沢や、成膜性、不粘着性を制御することができる。
【0070】
樹脂粒子の形成に使用できる乳化安定剤としては、ポリビニルアルコールや、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0071】
また、乳化重合法として、単量体を一括して仕込む単量体一括仕込み法や、単量体を連続的に滴下する単量体滴下法、単量体と水と乳化剤とを予め混合乳化しておき、これを滴下するプレエマルション法、あるいは、これらを組み合わせる方法等を挙げることができる。
【0072】
本発明においては、上記の方法により樹脂粒子を製造するに当たり、水分散性樹脂(A-1)のFOXの計算式から求められる理論Tgが40℃以上、より好ましくは50℃以上、より好ましくは55℃~95℃、より好ましくは60~90℃となるように、エチレン性不飽和単量体の組み合わせを適切に選択することが好ましい。水分散性樹脂(A-1)は成膜助剤による軟化性と塗膜乾燥性に優れることから、水分散性樹脂(A-1)のTgを40℃以上とすることで耐ブロッキング性に優れるとともに、塗膜乾燥性にも優れ、乾燥時に軟化した水分散性樹脂(A-1)が緻密な膜を形成して耐水性にも優れる塗膜が得られる。
[FOXの計算式]
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・+Wi/Tgi+・・・+Wn/Tgn
FOXの計算式において、左辺の分母に記載されたTgは、N種類のモノマーからなるポリマー成分のガラス転移温度(単位:K)を表しており、Tg(1、2、i、N)は、各モノマーのガラス転移温度(単位:K)を表しており、W(1、2、i、N)は、各モノマーの質量分率であり、W1+W2+・・・+Wi+・・・+Wn=1の関係が成立する。ここで、モノマーのガラス転移温度とは、そのホモポリマーのガラス転移温度を意味する。
【0073】
本発明の塗料組成物において、塗膜形成成分中における樹脂の総量は、例えば、30.0~70.0質量%である。ここで、樹脂の総量とは、水分散性樹脂(A)〔水分散性樹脂(A-1)と場合により含まれ得る水分散性樹脂(A-1)以外の水分散性樹脂〕と、場合により含まれ得る水溶性樹脂の合計量である。
【0074】
本発明の塗料組成物には、塗料業界において通常使用されている樹脂を使用することができる。具体的には、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、スチレンアクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ふっ素樹脂、ロジン樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、キシレン樹脂、アルキド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂、ビニル樹脂、アミン樹脂、ケチミン樹脂等が挙げられる。
【0075】
本発明の塗料組成物から形成される塗膜の軟化点は、0℃~100℃であり、10℃~90℃であることが好ましく、15℃~80℃であることが特に好ましい。本発明の塗料組成物から形成される塗膜の軟化点を0℃以上とすることで、耐ブロッキング性を向上させることができ、鋼板や窯業建材板等の重量のある基材の塗装体を積み重ねた場合にも塗膜に傷をつけない。
【0076】
本明細書において、塗膜の軟化点とは、動的粘弾性測定(DMA)により得られる貯蔵弾性率(E’)対温度のグラフから決定される貯蔵弾性率(E’(Pa))の変曲点の温度(℃)である。
【0077】
本発明において軟化点を決定するために必要とされる塗膜の貯蔵弾性率の測定方法の詳細は、以下のとおりである。乾燥膜厚が40~100μmとなるようにアプリケーターを用いて予め80℃に加温しておいたポリプロピレン(PP)板へ塗料組成物を塗布し、80℃で30分間強制乾燥して、単離膜を得る。動的粘弾性測定試験機(例えば、RSAG2(TAインスツルメント社製))にて、上記単離膜について、以下の測定条件にて貯蔵弾性率(E’)を測定する。
<測定条件>
温度範囲:-50℃~200℃
昇温速度:5℃/min
測定長さ:20.0mm
測定幅:8.0mm
周波数:1Hz
歪み:0.05%
なお、本発明では、貯蔵弾性率の測定対象が塗膜であるものの、ポリマーを試験対象とするJIS K 7244-4:1999「プラスチック-動的機械特性の試験方法-第4部:引張振動-非共振法」の規格は、塗膜の貯蔵弾性率を測定する上で参考になる。
【0078】
塗膜の貯蔵弾性率の測定結果から、縦軸を貯蔵弾性率(E’)(単位Pa)とし、横軸を温度(単位℃)とする貯蔵弾性率(E’)対温度のグラフ(以下、貯蔵弾性率の変化曲線ともいう)を作成し、貯蔵弾性率(E’)の変曲点の温度(℃)を求め、この貯蔵弾性率(E’)の変曲点の温度(℃)を軟化点とする。
貯蔵弾性率(E’)の変曲点の温度は、貯蔵弾性率の変化曲線において、ガラス状領域における直線部と、転移領域における直線部とを延長した際の交点の温度である。「ガラス状領域」とは、塗膜を構成する高分子(主に樹脂)がガラス状態にある領域であり、貯蔵弾性率の変化曲線における低温側の平坦な領域を指す。「転移領域」とは、塗膜を構成する高分子(主に樹脂)がガラス状態からゴム状態へ転移する領域であり、転移領域では貯蔵弾性率が急激に低下する。「ガラス状領域における直線部」とは、貯蔵弾性率が最初に急激に低下する前の直線部であり、「転移領域における直線部」とは、貯蔵弾性率が最初に急激に低下した後の直線部である。「ガラス状領域における直線部」を高温側に延長し、「転移領域における直線部」を低温側に延長し、延長された2本の直線の交点を求め、この交点が示す温度が貯蔵弾性率(E’)の変曲点の温度(軟化点)である。交点が示す温度(交点の温度)は、交点から横軸へ垂直線を引くことで求められる。
【0079】
塗膜の軟化点を10℃以上とするためには、水分散性樹脂(A)等の塗膜形成樹脂のガラス転移点を高くしたり、塗膜内に架橋を形成したり、水分散性樹脂の粒子径を調整したり、成膜助剤の乾燥性を高くする等の手法が考えられる。また、本発明の塗料組成物は、耐ブロッキング性とともに塗膜乾燥性、耐水性にも優れることが求められることより、塗膜の軟化点が100℃以下であることが好ましい。
【0080】
本発明の塗料組成物は、樹脂の構成単位として架橋形成成分を含んでいてもよいし、架橋剤等として架橋形成成分を含んでいてもよい。本明細書において、架橋形成成分とは、塗膜を構成する樹脂に架橋を形成する成分である。塗膜に架橋を形成することで、塗膜形成初期過程における耐ブロッキング性が向上するとともに、乾燥後の塗膜の耐水性を向上させることができる。一般に、樹脂の架橋の種類は、粒子間架橋と粒子内架橋に大別される。粒子間架橋または粒子内架橋のいずれでもよいが、粒子間架橋であることが好ましい。また、架橋を有する樹脂を含む塗料組成物としては、1液、2液、多液のいずれの形態も用いることができる。
【0081】
粒子内架橋を形成するためには、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の、分子中に重合性不飽和二重結合を2個以上有するモノマーを架橋形成成分として用いる方法;乳化重合反応時の温度にて相互に反応する官能基を持つモノマーを架橋形成成分として用いる方法、例えば、カルボキシル基とグリシジル基や、水酸基とイソシアネート基等の官能基の組み合わせを持つ単量体を架橋形成成分として用いる方法;(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の加水分解縮合反応する加水分解性シリル基含有モノマーを架橋形成成分として用いる方法等が挙げられる。このように、粒子内架橋を形成する場合、架橋形成成分は樹脂の構成単位であることが多い。
【0082】
粒子間架橋を形成するためには、カルボキシル基、グリシジル基、カルボニル基、水酸基等の官能基を有するモノマーと架橋剤の組み合わせを架橋形成成分として用いる方法等が挙げられる。粒子間架橋を形成する場合、架橋形成成分は、樹脂の構成単位と架橋剤の組み合わせであることが多い。
【0083】
粒子間架橋に使用できるカルボキシル基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、イタコン酸ハーフエステル、マレイン酸、マレイン酸ハーフエステル等が挙げられ、グリシジル基含有モノマーとしては、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられ、カルボニル基含有モノマーとしては、アクロレイン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ホルミルスチロール、(メタ)アクリルオキシアルキルプロパナール、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセトニル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート-アセチルアセテート、ブタンジオール-1,4-アクリレート-アセチルアクリレート、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン等が挙げられ、水酸基含有モノマーとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2(3)-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート等が挙げられる。これらモノマーを用いることで、樹脂中にカルボキシル基、グリシジル基、カルボニル基、水酸基等の官能基を導入することができる。
【0084】
また、樹脂中のカルボキシル基との反応による粒子間架橋に使用できる架橋剤としては、エポキシ基含有シラン、オキサゾリン基含有ポリマー、カルボジイミド、エチレングリコールグリシジルエーテル、チタンキレート等の金属キレート等が挙げられ、樹脂中のグリシジル基との反応に使用できる架橋剤としては、アミノ基含有シランが挙げられ、樹脂中のカルボニル基との反応による粒子間架橋に使用できる架橋剤としては、カルボヒドラジド、蓚酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン2酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、1,2,4-ベンゼントリヒドラジド、およびチオカルボジヒドラジド等が挙げられ、樹脂中の水酸基との反応による粒子間架橋に使用できる架橋剤としては、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド等の金属アルコキシド、チタンキレート等の金属キレート等が挙げられる。
【0085】
本発明の塗料組成物から形成される塗膜が架橋構造を有する場合、塗膜の架橋密度は、1.0×10-6~1.0×10-2(mol/cc)の範囲内にあることが好ましい。塗膜の架橋密度は、塗膜に形成される架橋構造の程度を示す指標であり、この値が高いと、塗膜に形成される架橋構造の割合が高くなる。塗膜の架橋密度を上記特定した範囲内とすることで、塗膜形成初期過程における耐ブロッキング性が向上するとともに、乾燥後の塗膜の耐水性を向上させることができる。
【0086】
本明細書において、塗膜の架橋密度は、式n=E’/3RT〔式中、nは、塗膜の架橋密度(mol/cc)であり、E’は、塗膜の周波数1Hzにおける平坦領域貯蔵弾性率(Pa)であり、Tは、塗膜の平坦領域貯蔵弾性率の絶対温度(K)であり、Rは、気体定数(8.31×106Pa・cc/mol・K)である。〕から算出される。
【0087】
塗膜の平坦領域貯蔵弾性率の測定方法の詳細は、以下のとおりである。乾燥膜厚が40~100μmとなるようにアプリケーターを用いて予め80℃に加温しておいたポリプロピレン(PP)板へ塗料組成物を塗布し、80℃で30分間強制乾燥して、単離膜を得る。動的粘弾性測定試験機(例えば、RSAG2(TAインスツルメント社製))にて、上記単離膜について、以下の測定条件にて貯蔵弾性率を測定し、塗膜の平坦領域貯蔵弾性率を読み取る。なお、塗膜の平坦領域貯蔵弾性率(E’)は、塗膜のガラス状領域における貯蔵弾性率(E’)と称することもできる。
<測定条件>
温度範囲:-50℃~200℃
昇温速度:5℃/min
測定長さ:20.0mm
測定幅:8.0mm
周波数:1Hz
歪み:0.05%
【0088】
本発明の水性塗料組成物は、顔料を含むことができる。顔料としては、特に制限されるものではなく、防錆顔料、体質顔料、着色顔料等の、塗料業界において通常使用されている顔料が使用できる。顔料は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0089】
本発明の塗料組成物は、ライン防食塗装に用いる場合、防錆顔料を含むことが好ましい。防錆顔料としては、例えば、亜鉛粉末、酸化亜鉛、メタホウ酸バリウム、珪酸カルシウム、リン酸アルミニウム、縮合リン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、亜リン酸カリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛カルシウム、リン酸亜鉛アルミニウム、リンモリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム、バナジン酸/リン酸混合顔料等が挙げられ、リン酸亜鉛が特に好適である。本発明の塗料組成物中において、防錆顔料の量は、例えば1~8質量%である。
【0090】
体質顔料としては、例えば、シリカ、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等が挙げられる。本発明の塗料組成物中において、体質顔料の量は、例えば1~40質量%である。
【0091】
着色顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、黄鉛、モリブデートオレンジ、群青、紺青、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドンレッド、ナフトールレッド、ベンズイミダゾロンイエロー、ハンザイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ジオキサジンバイオレット等が挙げられる。本発明の塗料組成物中において、着色顔料の量は、例えば1~30質量%である。
【0092】
本発明の塗料組成物は、顔料体積濃度(PVC)が0.1~35%の範囲内であることが好ましく、1~30%の範囲内であることがより好ましく、5~25%の範囲内であることが更に好ましい。PVCを上記特定した範囲とすることで、耐水性および耐ブロッキング性を向上させることができる。PVCが高すぎると、透水しやすくなるため、防食性が低下する。
【0093】
本明細書において、顔料体積濃度(PVC:Pigment Volume Concentration)は、塗料組成物中の塗膜形成成分全体の容積の中で、顔料全体の容積が占める割合であり、塗膜形成成分を構成する各成分の組成および比重から計算により求めることができる。
【0094】
本発明の塗料組成物には、その他の成分として、表面調整剤、湿潤剤、分散剤、乳化剤、増粘剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、たれ防止剤、消泡剤、色分かれ防止剤、粘度調整剤、レオロジーコントロール剤、レベリング剤、消泡剤、乾燥剤、可塑剤、防腐剤、防カビ剤、抗菌剤、殺虫剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤及び導電性付与剤等を目的に応じて適宜配合することができる。
【0095】
本発明の塗料組成物は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによって調製できる。本発明の塗料組成物は、各種成分を予め混合されたものを塗装時にそのまま使用する1液型、別々に保管しておいた2つ以上の成分(例えば、主剤と硬化剤)を塗装時に混合して使用される多液型(例えば、2液型)のいずれの形態であってもよい。
【0096】
本発明の塗料組成物の最低造膜温度(MFT)は、0~40℃であることが好ましく、5~30℃であることが更に好ましい。例えば、ガラス転移温度が高い樹脂を用いる場合、最低造膜温度が高くなるが、成膜助剤を適宜配合することで最低造膜温度を低く設定することが可能である。
【0097】
本明細書において、最低造膜温度とは、塗料組成物を乾燥させたとき、き裂のない均一な塗膜が形成される最低温度であり、JIS K 6828-2:2003に準拠して測定される。
【0098】
本発明の塗料組成物は、せん断速度0.1(1/s)における粘度が1~1000(Pa・s、23℃)であり、せん断速度1000(1/s)における粘度が0.05~10(Pa・s、23℃)であることが好ましい。本明細書において、粘度は、レオメーター(例えば、TAインスツルメンツ社製レオメーターARES)を用い、液温を23℃に調整した後に測定される。
【0099】
本発明の塗料組成物は、顔料を含むエナメル塗料でも透明なクリヤー塗料でもよいが、金属基材を保護する上塗り層として使用する場合には防錆顔料を含むエナメル塗料であることが好ましく、耐ブロッキング性を向上する面からもエナメル塗料であることが好ましい。
【0100】
本発明の塗料組成物の塗装手段は、特に限定されず、既知の塗装手段、例えば、刷毛塗装、ローラー塗装、コテ塗装、ヘラ塗装、フローコーター塗装、スプレー塗装(例えばエアースプレー塗装、エアレススプレー塗装など)等が利用できる。
【0101】
本発明の塗料組成物の乾燥手段は、特に限定されず、周囲温度での自然乾燥や乾燥機等を用いた強制乾燥のいずれであってもよい。
【0102】
本発明の塗料組成物は、一般的な工場のライン塗装条件(強制乾燥、膜厚15~30μm)やJIS K5674規格に適した条件(常乾、膜厚30μm)といった各種塗装条件での塗装も可能である。
【0103】
本発明の塗料組成物は、予め加温しておいた鋼板上に100μm塗装し、鋼板が35~45℃を保持した条件にて、JIS K 5600-3-2に準じて測定される表面乾燥性(バロチニ法)における表面乾燥時間が10秒以上10分未満であることが好ましく、10秒~5分であることが好ましい。ここで、「予め加温しておいた鋼板」とは、塗装表面の温度が35~45℃に保持された鋼板である。また、「100μm塗装」の数値「100μm」は、塗装直後の乾燥前の膜厚である。このような条件にて表面乾燥時間が10秒以上10分未満であると、工場で塗装する際に乾燥性に優れた塗膜が形成され、耐ブロッキング性に優れた塗装体が形成可能である。
【0104】
本発明の別の態様は、基材と、基材上に塗膜を有する塗装体であって、該塗膜は、本発明の水性塗料組成物から形成されている、塗装体である。本明細書では、この塗装体を「本発明の塗装体」と称する。
【0105】
本発明の塗装体において、基材は、例えば、エポキシ樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリル樹脂、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリオレフィン、例えばポリプロピレン(PP)等のプラスチック基材、鉄鋼、亜鉛めっき鋼、錫めっき鋼、ステンレス鋼、マグネシウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金等の金属基材、セメント、モルタル、コンクリート、スレート、石膏、ケイ酸カルシウム、ガラス、セラミック、炭酸カルシウム、大理石、人工大理石等の金属以外の無機質基材、木材等の木質基材、紙基材、これら基材の2種以上の材料を組み合わせたような複合基材等が挙げられる。また、複合基材としては、例えば、木繊維補強セメント板、繊維補強セメント板、繊維補強セメント・珪酸カルシウム板等の複合基材、各種表面処理、例えば酸化処理が施された金属基材、その表面が無機物で被覆されているようなプラスチック基材(例えば、ガラス質で被覆されたプラスチック基材)等が挙げられる。
【0106】
基材は、様々な形状のものがあり、例えば、フィルム状、シート状、板状等の二次元形状基材や複雑形状の立体物である三次元形状基材等がある。基材の表面は、平滑であってもよいし、凹凸を有していてもよい。
【0107】
基材は、その表面に、脱脂処理、化成処理、研磨等の前処理や、シーラー、プライマー塗装等が施されていてもよい。
【0108】
本発明の塗装体において、塗膜の膜厚は、10~200μmであることが好ましく、20~170μmであることがより好ましく、50~150μmであることが更に好ましい。膜厚は薄いと防食性が低くなり、厚くなると乾燥性(さらには乾燥性が低下することによる初期耐水性)および耐ブロッキング性が低下する傾向にあることから、上記特定した範囲の膜厚を有する塗膜が好ましい。また、塗膜の膜厚が10~50μmと薄い場合、樹脂(A-2)としてエポキシ樹脂を用いることによって防食性を向上させることができる。樹脂(A-2)は、ビニル変性エポキシ樹脂であることが特に好ましい。
【0109】
ビニル変性エポキシ樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、グリジシル基含有重合性ビニルモノマー、ならびにアミン類、および必要により反応可能な成分からなる各構成成分からなる反応生成物が挙げられる。すなわち、ビスフェノール型エポキシ樹脂中のエポキシ基がアミン類により開環すると同時に、当該エポキシ樹脂中にアミノ基が導入されることで未変性エポキシ樹脂の本来の性能である密着性等がさらに向上すると考えられる。またグリジシル基含有重合性ビニルモノマーがアミン類を介してビスフェノール型エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応するため、該エポキシ樹脂中に重合性不飽和基が導入され、共重合性が付与される。
【0110】
その他のビニル変性エポキシ樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂にカルボキシル基含有重合性不飽和単量体を含有する重合性不飽和単量体成分をグラフト重合させてなる樹脂が挙げられる。樹脂においては、例えば有機溶剤中において、ベンゾイルパーオキサイド等のラジカル発生剤の存在下にて、エポキシ樹脂に重合性不飽和単量体成分をグラフト重合させることができる。
【実施例0111】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。なお、樹脂合成例中「部」、「%」は、特に断らない限り質量基準で示す。
【0112】
≪アクリルエマルションの合成≫
<樹脂1>
攪拌機、還流冷却管、温度計、滴下装置および窒素導入管を備えたフラスコに、イオン交換水20.0部、α-スルホナト-ω-(1-(アリルオキシメチル)-アルキルオキシポリオキシエチレン)アンモニウム塩(第一工業製薬(株)製;アクアロンKH10)0.50部、2-ポリオキシエチレン-4-ノニル-2-プロペニルフェニルエーテル(第一工業製薬(株)製;アクアロンRN20)0.2部仕込み、フラスコ内を窒素で置換しながら、80℃まで昇温した後、過硫酸アンモニウム0.2部を加えた。次いでモノマー混合物1を47.7部、イオン交換水30.0部、α-スルホナト-ω-(1-(アリルオキシメチル)-アルキルオキシポリオキシエチレン)アンモニウム塩(第一工業製薬(株)製;アクアロンKH10)1.0部、2-ポリオキシエチレン-4-ノニル-2-プロペニルフェニルエーテル(第一工業製薬(株)製;アクアロンRN20)0.4部の単量体乳化物からなる滴下用プレエマルションを調製し、180分にわたり均一にフラスコ内に滴下した。滴下終了後、フラスコの内容物を80℃で120分間維持し熟成した。室温まで冷却し、固形分50%、pH8.5に調整し、樹脂1のエマルションを得た。エマルション中に分散している樹脂1のガラス転移温度は65.0℃であり、重量平均分子量は25万であった。
尚、モノマー混合物1の組成は表1に示す通りである。表1~3でのモノマー混合物1~17の組成における各成分の量は質量部で示される。
【0113】
<樹脂2~17>
モノマー混合物1を表1~3に示されるモノマー混合物2~17に変更した以外は、樹脂1と同様の方法でエマルションを調製した。これによって、樹脂2~17のエマルションを得た。
【0114】
*ガラス転移温度
樹脂1~17のガラス転移温度(Tg)は、以下のFOXの計算式によって求めた。各樹脂のTgを表1~3に示す。
[FOXの計算式]
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・+Wi/Tgi+・・・+Wn/Tgn
なお、FOXの計算式において、左辺の分母に記載されたTgは、N種類のモノマーからなるポリマー成分のガラス転移温度(単位:K)を表しており、Tg(1、2、i、N)は、各モノマーのガラス転移温度(単位:K)を表しており、W(1、2、i、N)は、各モノマーの質量分率であり、W1+W2+・・・+Wi+・・・+Wn=1の関係が成立する。ここで、モノマーのガラス転移温度とは、そのホモポリマーのガラス転移温度を意味する。
【0115】
*重量平均分子量
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したものであり、予め作成した標準ポリスチレンの検量線から求めた換算値を使用した。各樹脂の重量平均分子量を表1~3に示す。
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
表1~3中のモノマー組成に用いた略称は、以下のとおりである。
ST-Y:スチレン
MMA:メチルメタクリレート
EHA:2-エチルヘキシルアクリレート
AB:ブチルアクリレート
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート
AA:アクリル酸
NDM:N-ドデシルメルカプタン
KBM503:3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
KBM403:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
【0120】
表1~3中に特徴として示される項目は、以下のとおりである。
「SP値11.0~13.0の単量体量(%)」は、得られた樹脂中に構成単位として含まれるSP値11.0~13.0の単量体の量(質量%)を示す。
「SP値8.5以上9.5未満の単量体量(%)」は、得られた樹脂中に構成単位として含まれるSP値8.5以上9.5未満の単量体の量(質量%)を示す。
「重量平均分子量」は、上記「*重量平均分子量」に従って測定された樹脂の重量平均分子量を示す。ここで「測定不可」とは、試料の溶液が不透明な状態で、濾過詰まりが発生したことにより正確な分子量の測定ができなかった場合である。ただし、このような「測定不可」の樹脂は、高分子量の樹脂に該当し、その重量平均分子量は50,000以上であると認められる。
「架橋有無」では、得られた樹脂が架橋構造を有している場合を「有」と示し、得られた樹脂が架橋構造を有していない場合を「無」と示す。
「Tg(℃)」は、上記「*ガラス転移温度」に従って求めた樹脂のガラス転移温度(℃)を示す。
「MFT(℃)」は、JIS K 6828-2:2003に準拠して測定されるアクリルエマルションの最低造膜温度(℃)を示す。
【0121】
本明細書において、樹脂1~14および17は、水分散性樹脂(A-1)に該当する樹脂であり、樹脂15および16は、樹脂(A-2-2)に該当する樹脂である。
【0122】
≪樹脂(A-2-1)の合成≫
<アクリルディスパージョンA>
撹拌装置、温度計、還流冷却管、滴下装置および窒素導入管を備えた反応器中に、メチルエチルケトン10部を仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら、90℃まで昇温した。続いて、予め別容器にて攪拌混合しておいた、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン(日油株式会社性;ノフマーMSD)0.3部、スチレン7.9部、メチルメタクリレート3.9部、ターシャリーブチルメタクリレート6.8部、n-ブチルアクリレート6.4部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート1.0部、及びtert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(重合開始剤)0.3部の混合物A-1を、3時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度を保持したまま、更に予め別容器にて攪拌混合しておいた、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(重合開始剤)0.3部、及びメチルエチルケトン1.0部の混合物を、1時間かけて滴下した。得られた混合物を、同温度を保持したまま、6時間攪拌を続けて反応させた後、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート0.5部、メチルエチルケトン1.0部を加え、更に2時間攪拌を続けた。続いて、予め別容器にて攪拌混合しておいた、スチレン1.3部、メチルメタクリレート3.9部、n-ブチルアクリレートを1.3部、メタクリル酸2.0部、及びtert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(重合開始剤)0.2部の混合物A-2を、1時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度を保持したまま、更に予め別容器にて攪拌混合しておいた、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(重合開始剤)0.2部とメチルエチルケトン1.0部の混合物を、1時間かけて滴下した。得られた混合物を、同温度を保持したまま、6時間攪拌を続けて反応させた後、冷却した。得られた混合物に、トリエチルアミン2.3部を加えて攪拌し、更にイオン交換水47.86部を加えた。このものから、エバポレーターを用いて減圧下(約50mmHg)、50℃にてメチルエチルケトン12部を留去し、次いでイオン交換水7.5部、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル5.0部、消泡剤0.02部、防腐剤0.02部を加えて、加熱残分35%のアクリルディスパージョンAを得た。アクリルディスパージョンAに含まれる樹脂は、ガラス転移点Tgが50℃、重量平均分子量が37000であった。
【0123】
<アクリルディスパージョンB>
撹拌装置、温度計、還流冷却管、滴下装置および窒素導入管を備えた反応器中に、メチルエチルケトン10部を仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら、90℃まで昇温した。続いて、予め別容器にて攪拌混合しておいた、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン(日油株式会社性;ノフマーMSD)0.3部、スチレン7.9部、メチルメタクリレート7.9部、n-ブチルアクリレート9.2部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート1部、及びtert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(重合開始剤)0.3部の混合物B-1を、3時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度を保持したまま、更に予め別容器にて攪拌混合しておいた、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(重合開始剤)0.3部、及びメチルエチルケトン1部の混合物を、1時間かけて滴下した。得られた混合物を、同温度を保持したまま、6時間攪拌を続けて反応させた後、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート0.5部、メチルエチルケトン1部を加え、更に2時間攪拌を続けた。続いて、予め別容器にて攪拌混合しておいた、スチレン1.3部、メチルメタクリレート1.3部、n-ブチルアクリレートを3.9部、メタクリル酸2部、及びtert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(重合開始剤)0.2部の混合物B-2を、1時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度を保持したまま、更に予め別容器にて攪拌混合しておいた、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(重合開始剤)0.2部とメチルエチルケトン1部の混合物を、1時間かけて滴下した。得られた混合物を、同温度を保持したまま、6時間攪拌を続けて反応させた後、冷却した。得られた混合物に、トリエチルアミン2.3部を加えて攪拌し、更にイオン交換水47.86部を加えた。このものから、エバポレーターを用いて減圧下(約50mmHg)、50℃にてメチルエチルケトン12部を留去し、次いでイオン交換水7.5部、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル5部、消泡剤0.02部、防腐剤0.02部を加えて、加熱残分35%のアクリルディスパージョンBを得た。アクリルディスパージョンBに含まれる樹脂は、ガラス転移点Tgが21℃、重量平均分子量が40000であった。
【0124】
<ウレタンディスパージョン>
攪拌機、温度計、窒素導入管、コンデンサーを備えたガラス製丸底フラスコにETERNACOLL UH-200(登録商標;宇部興産製ポリカーボネートジオール;数平均分子量2000;水酸基価56.1mgKOH/g;1,6-ヘキサンジオールと炭酸ジメチルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール)261部、2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA)17.5部及びN-メチルピロリドン(NMP)166部を窒素気流下で仕込んだ。4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)を115部、ジブチル錫ジラウリレート(触媒)を0.3部加えて90℃まで加熱して5時間攪拌を続け、ポリウレタンプレポリマーを得た。ウレタン化反応終了時の遊離NCO基含量は2.50%であった。反応混合物にトリエチルアミン13.3部を添加・混合したものの中から512部を抜き出して、強攪拌下のもと水850部の中に加えた。ついで35%の2-メチル-1,5-ペンタンジアミン(MPMD)水溶液33.6部を加えて鎖延長反応を行い、35%ブチルアミン(BA)水溶液22.3部を加えて分子末端の封止反応を行って、加熱残分35%のウレタンディスパージョンを得た。ウレタンディスパージョンに含まれる樹脂は、ガラス転移温度Tgが30℃、重量平均分子量が40,000であった。
【0125】
<エポキシディスパージョン>
攪拌機、冷却器、温度計及び窒素ガス導入管を備えた反応装置に、メチルエチルケトン125部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成(株)製:エポトートYD-014、エポキシ当量950)210部、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセ化成工業(株):デナコールEX-841)75部を加え、窒素気流下100℃で溶解させた後、オクチルアミン22.0部、ジブチルアミン14.7部を加え5時間反応させ、変性エポキシ樹脂を得た。ついで、当該反応系内に、アクリル酸16.0部、スチレン10.0部、アクリル酸ブチル10.0部、メチルエチルケトン40.0部およびtert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート12.0部からなる混合物を1時間かけて滴下し4時間保温した。80℃に冷却後、トリエチルアミン21.0部および水500部を順に添加混合することにより水分散物を得た。次いで脱溶剤を行い、不揮発分を水にて37.0%に調整し、pH9.7のエポキシディスパージョンを得た。エポキシディスパージョンに含まれる樹脂は、重量平均分子量が20000、酸価が31、ガラス転移温度が55℃であった。
【0126】
≪水性塗料の調製≫
調製した樹脂1~17のエマルションを用いて、表4~11に示す配合処方に従う成分をディスパーにより撹拌して、水性塗料を調製した。なお、表4~11に示す配合処方における各成分の配合量は、質量部で示される。また、表4~11には、水性塗料から形成された塗膜の軟化点、水性塗料の最低造膜温度(MFT)及び顔料体積濃度(PVC)を示す。
次いで、水性塗料の乾燥性、耐ブロッキング性、初期耐水性、及び防食性について評価を行った。結果を表4~11に示す。なお、評価方法は後述する。
【0127】
表4~11中の配合処方に示される各成分は、以下のとおりである。
<水分散性樹脂(A-1)または樹脂(A-2-2)>
樹脂1~17のエマルションは、上記≪アクリルエマルションの合成≫に従い調製された樹脂1~17のエマルションである。
<樹脂(A-2-1)>
アクリルディスパージョンA、アクリルディスパージョンB、ウレタンディスパージョン、およびエポキシディスパージョンは、上記≪樹脂(A-2-1)の合成≫に従い調製された樹脂のディスパージョンである。
・水溶性アクリル樹脂a:「JYONCRRYL JDX-6180」、BASFジャパン社製、加熱残分27%、Tg134℃
・水溶性アクリル樹脂b:「JYONCRRYL 6610」、BASFジャパン社製、加熱残分34%、Tg85℃
・水溶性アクリル樹脂c:「JYONCRRYL 63J」、BASFジャパン社製、加熱残分30%、Tg73℃
※ 水溶性アクリル樹脂a~cの重量平均分子量はいずれも1,000以上50,000未満の範囲内であった。
<成膜助剤>
・ジエチレングリコールジエチルエーテル(沸点189℃)
・エチレングリコールモノn-ブチルエーテル(沸点170℃)
・ジエチレングリコールモノn-ブチルエーテル(沸点230℃)
・ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点295℃)
<顔料>
・体質顔料(沈降性硫酸バリウム):「沈降性バリウム100」、堺化学工業(株)製
・防錆顔料(リン酸亜鉛):「K-WHITE #140W」、テイカ(株)製
・着色顔料(酸化チタン):「R-32」、堺化学工業(株)製
<その他>
・分散剤:「DISPERBYK-194N」、ビックケミージャパン(株)製
【0128】
表4~11の「加熱残分(%)」とは、水性塗料中の塗膜形成成分の量(質量%)と同義である。
「PVC(%)」は、顔料体積濃度であり、水性塗料中の塗膜形成成分全体の容積の中で、顔料全体の容積が占める割合(%)である。
「MFT(℃)」は、JIS K 6828-2:2003に準拠して測定される水性塗料の最低造膜温度(℃)を示す。
「軟化点(℃)」は、後述の<水性塗料から形成された塗膜の軟化点>に従い測定された塗膜の軟化点(℃)を示す。
【0129】
<水性塗料から形成された塗膜の軟化点>
乾燥膜厚が50μmとなるようにアプリケーターを用いて水性塗料を予め80℃に加温しておいたポリプロピレン(PP)板へ塗布し、80℃で30分間強制乾燥して、単離膜を得た。
動的粘弾性測定試験機(RSAG2(TAインスツルメント社製))を用いて、以下の測定条件にて各温度での単離膜の貯蔵弾性率(E’)を測定した。
塗膜の貯蔵弾性率の測定結果から、縦軸を貯蔵弾性率(E’)(単位Pa)とし、横軸を温度(単位℃)とする貯蔵弾性率の変化曲線を作成し、貯蔵弾性率(E’)の変曲点の温度(℃)を求め、これを軟化点とした。
<測定条件>
温度範囲:-50℃~200℃
昇温速度:5℃/min
測定長さ:20.0mm
測定幅:8.0mm
周波数:1Hz
歪み:0.05%
【0130】
≪評価方法≫
<乾燥性>
表面の温度が40℃±5℃に保持された鋼板上に、塗装直後の膜厚が100μmとなるよう水性塗料を塗装した後、鋼板の塗装表面を40℃±5℃に保持した状態で、得られた塗膜の表面乾燥性をJIS K 5600-3-2の試験方法(バロチニ法)に準じて評価した。バロチニを軽く刷毛ではいて、塗膜の表面にきずを付けずに、バロチニが除去できるまでの時間を表面乾燥時間とし、以下の基準により乾燥性の評価を行った。
◎:表面乾燥時間が3分未満
○:表面乾燥時間が3分以上5分未満
△:表面乾燥時間が5分以上10分未満
×:表面乾燥時間が10分以上
【0131】
<耐ブロッキング性>
表面の温度が80℃±5℃に保持された100×100×0.3mmのブリキ板2枚に、それぞれ塗装直後の膜厚が100μmとなるよう水性塗料を塗装した後、100℃で30分間強制乾燥させ、試験体を作製した。試験体2枚をその塗膜面を内側にして重ね、均等になるようにして20kg(0.2kg/cm2)の錘をのせ、40℃±5℃に保持した状態で30分間加圧した後、錘を外して圧着状態と剥離の具合から、以下の基準により耐ブロッキング性の評価を行った。
◎:圧着が認められず、塗膜表面に跡が残らない。
○:軽い圧着が認められるが、塗膜表面に跡が残らない。
△:圧着が認められ、塗膜表面に跡が残る。
×:圧着が認められ、塗膜表面に剥離が認められる。
【0132】
<初期耐水性>
表面の温度が80℃±5℃に保持されたSS400のブラスト板を用いて、乾燥膜厚が100μmとなるように水性塗料の塗装を行った後、100℃で30分間強制乾燥した後、得られた試験板の下半分を23℃の水道水に24時間浸せきし、取り出した試験板の外観をただちに観察し、以下の基準により初期耐水性の評価を行った。
◎:浸せき部の塗膜に膨れがなく、非浸せき部と比較して目視で色相の差がなかった。
○:浸せき部の塗膜に膨れはないが、非浸せき部との色相の差が明確であった。
△:浸せき部の塗膜に一部膨れが認められた。
×:浸せき部の塗膜全体に膨れが認められた。
【0133】
<防食性>
塗膜の成膜性や耐水性は防食性にも影響することから、以下のとおり防食性についても評価を行った。
表面の温度が80℃±5℃に保持されたSS400のブラスト板を用いて、乾燥膜厚が100μmとなるように水性塗料の塗装を行った後、100℃で30分間強制乾燥し、得られた塗膜にクロスカットを入れて、試験板を作製した。作製した試験板を、JIS Z2371:2015の方法に従って1週間塩水を噴霧した。試験後の試験板を以下の評価基準に基づいて評価した。また、クロスカットを入れていない塗膜部分を一般部、クロスカットを入れた塗膜部分をカット部とする。
◎:一般部に錆・膨れがなく、カット部には切り込みから1mm未満の個所にしか膨れがない。
○:一般部に錆・膨れがなく、カット部の切り込みから3mm未満の個所にしか膨れがない。
△:一般部に錆・膨れがなく、カット部の切り込みから5mm未満の個所にしか膨れがない。
×:カット部の切り込みから5mm以上の部分にも膨れが生じ、一般部に錆・膨れがある。
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】