(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004969
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】出没式筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 7/12 20060101AFI20240110BHJP
B43K 24/02 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B43K7/12
B43K24/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104898
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】万崎 悟
(72)【発明者】
【氏名】並木 義春
【テーマコード(参考)】
2C350
2C353
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350KF01
2C350NA21
2C353HA01
2C353HA09
2C353HC04
2C353HJ03
2C353HL03
2C353MC08
(57)【要約】
【課題】より簡易な形状又は構造で、筆記時のリフィルのがたつきを防止可能な出没式筆記具を提供する。
【解決手段】軸筒2とリフィル4とを具備する出没式筆記具1が、軸筒2の先端開口部近傍の内面に少なくとも1つの保持突起10が設けられ、保持突起10が、リフィル4に対向する平面状の頂面11を有し、頂面11が、筆記状態においてリフィル4と当接するように構成されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒と筆記体とを具備する出没式筆記具であって、
前記軸筒の先端開口部近傍の内面に少なくとも1つの保持突起が設けられ、
前記保持突起が、前記筆記体に対向する平面状の頂面を有し、前記頂面が、筆記状態において前記筆記体と当接するように構成されていることを特徴とする出没式筆記具。
【請求項2】
筆記状態における前記軸筒の先端開口部近傍において、前記筆記体と前記保持突起とが締まりばめで嵌合している請求項1に記載の出没式筆記具。
【請求項3】
筆記状態における前記軸筒の先端開口部近傍において、前記筆記体と前記保持突起とが面状に当接している請求項2に記載の出没式筆記具。
【請求項4】
前記筆記体と前記保持突起との当接部において、前記筆記体の弾性率の方が前記保持突起の弾性率よりも高い請求項1乃至3のいずれか一項に記載の出没式筆記具。
【請求項5】
平面状の前記頂面が、前記軸筒の先端開口部に向かって傾斜している請求項1乃至3のいずれか一項に記載の出没式筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出没式筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
軸筒の後端部又は側面に操作部を有し、軸筒内に配置されたスプリングの付勢力に抗して操作部を前方に押圧するノック操作を行うことによって、インクを収容したリフィル、すなわち筆記体のペン先である筆記部が軸筒の先端開口部から突出した筆記状態に切り替わり、再度のノック操作によって筆記部が軸筒内に没入した非筆記状態に切り替わる、いわゆるノック式である出没式筆記具が公知である(例えば、特許文献1及び特許文献2)。
【0003】
出没式筆記具は、先端開口部とリフィルとの間に一定のクリアランスを設けて、リフィルの出没動作に不良が発生しないように設計される。すなわち、先端開口部とリフィルとの間のクリアランスが小さすぎると、例えば筆記状態のときにノック操作を行っても、リフィルが先端開口部に嵌合してしまい、筆記部を軸筒内に没入させることができない。他方、先端開口部とリフィルとの間のクリアランスが大きすぎると、筆記時にリフィル、ひいては筆記部ががたついてしまい、使用者の意図する筆跡を描くことができないという問題が生じる。
【0004】
特許文献1に記載の出没式筆記具では、軸筒の先端近傍の内周面から突出し且つ軸線方向に延びる複数の縦突起を設けることでリフィルの移動を規制し、がたつきを防止している。特許文献2に記載の出没式筆記具では、回転子を軸筒の前端まで延長させるか又は新たに保持部材を軸筒内に配置し、軸筒に対してリフィルを保持することで、がたつきを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-043478号公報
【特許文献2】特開2008-162105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の出没式筆記具では、縦突起の横断面を半円状に形成し、縦突起の各々を筆記体に対して長手方向に亘り線接触させることでがたつきを防止していることから、縦突起が摩耗しやすい。縦突起が摩耗してしまうと、それに応じて結局がたつきが生じてしまう。また、横断面が半円状の突起であるため金型での成型時の寸法管理が難しいという問題もある。特許文献2に記載の出没式筆記具では、既存部品の延長又は新規部品の追加を行っているため、材料費を含む製造コストがアップするという問題がある。
【0007】
本発明は、より簡易な形状又は構造で、筆記時のリフィルのがたつきを防止可能な出没式筆記具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、軸筒と筆記体とを具備する出没式筆記具であって、前記軸筒の先端開口部近傍の内面に少なくとも1つの保持突起が設けられ、前記保持突起が、前記筆記体に対向する平面状の頂面を有し、前記頂面が、筆記状態において前記筆記体と当接するように構成されていることを特徴とする出没式筆記具が提供される。
【0009】
筆記状態における前記軸筒の先端開口部近傍において、前記筆記体と前記保持突起とが締まりばめで嵌合していてもよい。筆記状態における前記軸筒の先端開口部近傍において、前記筆記体と前記保持突起とが面状に当接していてもよい。前記筆記体と前記保持突起との当接部において、前記筆記体の弾性率の方が前記保持突起の弾性率よりも高くてもよい。平面状の前記頂面が、前記軸筒の先端開口部に向かって傾斜していてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の態様によれば、より簡易な形状又は構造で、筆記時のリフィルのがたつきを防止可能な出没式筆記具を提供するという共通の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態による出没式筆記具の非筆記状態の縦断面図である。
【
図2】
図2は、出没式筆記具の前端部の拡大縦断面図である。
【
図3】
図3は、出没式筆記具の前端部の拡大正面図である。
【
図4】
図4は、出没式筆記具の保持突起の拡大斜視図である。
【
図5】
図5は、
図3の線A-Aにおける保持突起の断面図である。
【
図6】
図6は、出没式筆記具の別の保持突起の拡大斜視図である。
【
図8】
図8は、出没式筆記具のさらに別の保持突起の拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に亘り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
【0013】
図1は、本発明の実施形態による出没式筆記具1の非筆記状態の縦断面図である。出没式筆記具1は、前端部に口先部材3が取り付けられた筒状の軸筒2と、軸筒2の内部に配置され且つインクを収容した筆記体であるリフィル4とを有している。本明細書では、出没式筆記具1の軸線方向において、リフィル4が出没する側を「前」側と規定し、それとは反対側を「後」側と規定する。
【0014】
リフィル4の前端部には金属製のボールペンチップ5が配置され、筆記時にはボールペンチップ5の先端部、すなわち筆記部からインクが吐出される。軸筒2内においてリフィル4は、スプリング6によって後方に付勢されている。軸筒2の後端部には、操作部7が設けられている。スプリング6の付勢力に抗して操作部7を前方に押圧するノック操作によって、リフィル4、具体的にはボールペンチップ5が軸筒2の前端部から突出した筆記状態と、ボールペンチップ5が軸筒2内に没入した非筆記状態(
図1)とが切り替えられる。なお、操作部を軸筒の側面に設けてもよい。
【0015】
図2は、出没式筆記具1の前端部の拡大縦断面図であり、
図3は、出没式筆記具1の前端部の拡大正面図であり、
図4は、出没式筆記具1の保持突起10の拡大斜視図であり、
図5は、
図3の線A-Aにおける保持突起10の断面図である。
【0016】
出没式筆記具1の前端部、すなわち軸筒2の前端部近傍、さらには口先部材3の前端部近傍の内側には、前端面から僅かばかり離間し且つ他の部分よりも小径の内周面を有する小径部8が設けられている。小径部8は、軸筒2の中心軸線に沿って所定の長さに亘って同一の内径に設けられているが、前方又は後方に向かって徐々に内径が小さくなるように設けられていてもよい。小径部8には、3つの保持突起10が周方向に沿って等間隔に一体的に設けられている。保持突起10は、少なくとも1つ設けられていればよく、2つ又は4つ以上設けられていても、したがって本実施形態による保持突起10の数の倍の数である6つ設けられていてもよい。保持突起10が複数設けられている場合には、周方向に沿って等間隔に設けられることが好ましい。
【0017】
保持突起10は、軸筒2の中心軸線、ひいてはリフィル4に対向する平面状の当接面である頂面11を有している。本実施形態において、頂面11は、軸筒2の中心軸線に対して平行となるように設けられている。保持突起10を含む軸筒2の前端部分における横断面を見ると、頂面11は、小径部8の円に対する弦を構成する。頂面11の前端部には、前方に面し且つ中心軸線に対して直交する前端面12が設けられ、頂面11の後端部には、後方に面し且つ中心軸線に対して直交する後端面13が設けられている。
【0018】
筆記状態において3つの頂面11の各々は、リフィル4と当接するように構成されている。すなわち、軸筒2の中心軸線を中心とした3つの保持突起10の内接円の径が、リフィル4、具体的にはボールペンチップ5の外径に等しくなるか又は僅かばかり小さくなるように構成される。その結果、リフィル4は3つの保持突起10によって、径方向の移動が規制され、筆記時のリフィル4のがたつきが防止される。
【0019】
特に保持突起10の内接円の径がボールペンチップ5の外径よりも僅かばかり小さい場合には、ノック操作によって非筆記状態から筆記状態に切り替えるとき、リフィル4は保持突起10間に圧入されることとなる。このとき、筆記状態における軸筒2の先端開口部近傍である保持突起10において、ボールペンチップ5が軸筒2の保持突起10に対して締まりばめで嵌合する。一般に、リフィル4と保持突起10との当接部において、リフィル4のボールペンチップ5の弾性率の方が保持突起10の弾性率よりも高い。そのため、保持突起10が弾性変形し、強い筆圧による筆記時においてもリフィル4のがたつきが防止される。
【0020】
保持突起10は、ボールペンチップ5が保持突起10の頂面11に埋没するように弾性変形する。その結果、保持突起10とボールペンチップ5とが面接触、すなわち面状に当接するため、点接触又は線接触に比べて、筆記時又はノック操作時の保持突起10の衝撃耐久性が高く、また、リフィル4の出没動作に対する耐摩耗性も高い。リフィル4の出没動作によって保持突起10が少なからず摩耗し、保持突起10とボールペンチップ5との接触面積が変化する。この場合であっても、リフィル4の出没動作に応じて保持突起10が弾性変形することからノック荷重を一定に保つことができる。
【0021】
保持突起10の内接円の径がボールペンチップ5の外径よりも小さすぎると、筆記状態でノック操作を行ったとき、保持突起10とボールペンチップ5との間の摩擦抵抗が大きくなり、非筆記状態に復帰させることができない。したがって、ノック操作によって非筆記状態に復帰させることができる限りにおいて、筆記時のリフィル4のがたつきが充分に防止されるような保持突起10の内接円の径に設定されることが好ましい。
【0022】
例えば、保持突起10の各々の軸線方向長さが0.4~1mmであることが好ましい。また、締まりばめでの嵌合において、締め代の範囲は、ボールペンチップ5の外径に対して0~5%であること、すなわち保持突起10の内接円の径がボールペンチップ5の外径の95~100%であることが好ましい。具体的には、締め代の範囲は、-0.001~-0.120mmであることが好ましく、-0.01~-0.08mmであることがより好ましい。スプリング6の付勢力に抗して非筆記状態から筆記状態にするために必要なノック荷重を5N以内であることが好ましい。さらに、非筆記状態におけるスプリング6のセット荷重は1.5N以上であることが好ましい。
【0023】
本実施形態による保持突起10は、特に特許文献1に記載の縦突起のように径方向内方に突出する突起ではなく、横断面において小径部8の円に対する弦を構成するような平面状の頂面11を有する突起である。したがって、特許文献1の縦突起よりも簡易な金型形状で成型することができる。本実施形態による保持突起10によれば、既存部品の微修正であって新たな部品の追加等が不要であることから、より簡易な形状又は構造で、筆記時のリフィル4のがたつきを防止することができる。
【0024】
以下、上述した効果と同様の効果を奏し且つ異なる形状を有する保持突起について説明する。
【0025】
図6は、出没式筆記具の別の保持突起20の拡大斜視図であり、
図7は、
図6の保持突起20の縦断面図である。
【0026】
保持突起20は、上述した保持突起10と比較して後端面の形状が異なる。すなわち、保持突起20は、リフィル4に対向する平面状の頂面21を有している。頂面21の前端部には、前方に面し且つ中心軸線に対して直交する前端面22が設けられている。頂面21の後端部には、後方に向かって傾斜する斜面状の後端面23が設けられている。後端面23が斜面状に設けられていることによって、非筆記状態から筆記状態に切り替えの際に仮にボールペンチップ5が偏心して保持突起20に当接したとしても、後端面23によって中心に案内される。また、頂面21と後端面23との境界部分が鈍角の角であることから、損傷又は摩耗が軽減される。
【0027】
図8は、出没式筆記具のさらに別の保持突起30の拡大斜視図であり、
図9は、
図8の保持突起30の縦断面図である。
【0028】
保持突起30は、上述した保持突起10と比較して前端面及び後端面の形状が異なる。すなわち、保持突起30は、リフィル4に対向する平面状の頂面31を有している。頂面31の前端部には、前方に向かって傾斜する斜面状の前端面32が設けられている。頂面31の後端部には、後方に向かって傾斜する斜面状の後端面33が設けられている。後端面33が斜面状に設けられていることによって、非筆記状態から筆記状態に切り替えの際に仮にボールペンチップ5が偏心して保持突起30に当接したとしても、後端面33によって中心に案内される。また、頂面31と前端面32又は後端面33との境界部分が鈍角の角であることから、損傷又は摩耗が軽減される。
【0029】
保持突起は、平面状の頂面を有する限りにおいて、上述した形状以外にも任意の形状であってもよい。例えば、頂面が軸筒2の先端開口部に向かって又は先端開口部とは反対方向に向かって傾斜した斜面であってもよい。この場合、頂面は、軸筒2の中心軸線に対して平行とはならずに傾くように配置される。
【0030】
出没式筆記具1において、操作部7をリフィル4による筆跡を消去する消去部材として構成してもよい。リフィル4は、ボールペン、サインペン、マーカーペン、シャープペンシル及び万年筆のリフィルであってもよい。リフィル4には、熱変色性インクを収容してもよい。この場合、出没式筆記具1は熱変色性筆記具であり、消去部材である摩擦体によって擦過した際に生じる摩擦熱によって、筆跡を熱変色可能である。
【0031】
ここで、熱変色性インクとは、常温(例えば25℃)で所定の色彩(第1色)を維持し、所定温度(例えば60℃)まで昇温させると別の色彩(第2色)へと変化し、その後、所定温度(例えば-5℃)まで冷却させると、再び元の色彩(第1色)へと復帰する性質を有するインクを言う。熱変色性インクを用いた出没式筆記具1では上記第2色を無色とし、第1色(例えば赤)で筆記した描線を昇温させて無色とすることを、ここでは「消去する」ということとする。したがって、描線が筆記された筆記面等に対して消去部材としての摩擦体によって擦過して摩擦熱を生じさせ、それによって描線を無色に変化、すなわち消去させる。なお、当然のことながら上記第2色は、無色以外の有色でもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 出没式筆記具
2 軸筒
3 口先部材
4 リフィル
5 ボールペンチップ
6 スプリング
7 操作部
8 小径部
10 保持突起
11 頂面
12 前端面
13 後端面