(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049691
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】蛍光偏光免疫測定法及び蛍光偏光免疫測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 33/542 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
G01N33/542 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156079
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】303018827
【氏名又は名称】Tianma Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100183955
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 悟郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100180334
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 洋美
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(74)【代理人】
【識別番号】100174067
【弁理士】
【氏名又は名称】湯浅 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136342
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 成美
(72)【発明者】
【氏名】小野瀬 翔
(72)【発明者】
【氏名】今井 阿由子
(72)【発明者】
【氏名】住吉 研
(57)【要約】 (修正有)
【課題】競合反応本来の偏光度を得ることができる蛍光偏光免疫測定法を提供する。
【解決手段】目的物質を含まない第1基準サンプルと、第1基準サンプルに抗体、蛍光標識物質及び目的物質を添加して生成され、目的物質の濃度が互いに異なる複数の第2基準サンプルの偏光度を測定し、第1測定対象サンプルと、第1測定対象サンプルに、抗体及び蛍光標識物質を第2基準サンプルに添加された量と同量添加して生成される第2測定対象サンプルの偏光度を測定し、第2基準サンプルの偏光度を第1基準サンプルの偏光度で補正して第1補正偏光度を算出し、第2基準サンプルに含まれる目的物質の濃度と第1補正偏光度との関係を示す第1検量線を生成し、第2測定対象サンプルの偏光度を第1測定対象サンプルの偏光度で補正して第2補正偏光度を算出し、第1検量線において、第2補正偏光度に対応する濃度を第1測定対象サンプルに含まれる目的物質の濃度として求める。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的物質に対して結合能を有する抗体と、前記目的物質を蛍光色素で標識した蛍光標識物質と、を用いて第1測定対象サンプルに含まれる前記目的物質の濃度を測定する蛍光偏光免疫測定法であって、
目的物質を含まない第1基準サンプルの偏光度を測定し、
前記第1基準サンプルに、前記抗体、前記蛍光標識物質及び前記目的物質を添加して生成され、前記目的物質の濃度が互いに異なる複数の第2基準サンプルの偏光度をそれぞれ測定し、
前記第1測定対象サンプルの偏光度を測定し、
前記第1測定対象サンプルに、前記抗体及び前記蛍光標識物質を前記第2基準サンプルに添加された量と同量添加して生成される第2測定対象サンプルの偏光度を測定し、
前記第2基準サンプルの偏光度を前記第1基準サンプルの偏光度で補正して第1補正偏光度を算出し、前記第2基準サンプルに含まれる目的物質の濃度と前記第1補正偏光度との関係を示す第1検量線を生成し、
前記第2測定対象サンプルの偏光度を、前記第1測定対象サンプルの偏光度で補正して第2補正偏光度を算出し、
前記第1検量線において、前記第2補正偏光度に対応する濃度を、前記第1測定対象サンプルに含まれる目的物質の濃度として求める、
蛍光偏光免疫測定法。
【請求項2】
前記第1測定対象サンプルに、前記抗体、前記蛍光標識物質及び前記目的物質を添加して生成され、前記目的物質の濃度が前記第1検量線において偏光度が最小となる濃度となる第3測定対象サンプルの偏光度を測定し、
前記第3測定対象サンプルの偏光度を、前記第1測定対象サンプルの偏光度で補正して第3補正偏光度を算出する、
請求項1に記載の蛍光偏光免疫測定法。
【請求項3】
前記第1測定対象サンプルに、前記抗体、前記蛍光標識物質及び前記目的物質を添加して生成され、前記目的物質の濃度が互いに異なる複数の第4測定対象サンプルの偏光度をそれぞれ測定し、
前記第4測定対象サンプルの偏光度を前記第1測定対象サンプルの偏光度で補正して第4補正偏光度を算出し、前記第4測定対象サンプルに含まれる目的物質の濃度と前記第4補正偏光度との関係を示す第2検量線を生成する、
請求項1に記載の蛍光偏光免疫測定法。
【請求項4】
目的物質に対して結合能を有する抗体と、前記目的物質を蛍光色素で標識した蛍光標識物質と、を用いて第1測定対象サンプルに含まれる前記目的物質の濃度を測定する蛍光偏光免疫測定装置であって、
サンプルに直線偏光の励起光を照射する照射光学系と、
サンプルから発せられる蛍光のうち、駆動信号に応じた直線偏光成分を選択的に通過させる偏光調整素子と、
前記偏光調整素子を通過した蛍光強度を検出する受光部と、
前記偏光調整素子に前記駆動信号を出力するとともに前記受光部で検出される蛍光強度に基づいて前記駆動信号に従ってサンプルの偏光度を測定する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
目的物質を含まない第1基準サンプルをサンプルとして、前記第1基準サンプルの偏光度を測定し、
前記第1基準サンプルに、前記抗体、前記蛍光標識物質及び前記目的物質を添加して生成され、前記目的物質の濃度が互いに異なる複数の第2基準サンプルをサンプルとして、前記第2基準サンプルの偏光度をそれぞれ測定し、
前記第1測定対象サンプルをサンプルとして、前記第1測定対象サンプルの偏光度を測定し、
前記第1測定対象サンプルに、前記抗体及び前記蛍光標識物質を前記第2基準サンプルに添加された量と同量添加して生成される第2測定対象サンプルをサンプルとして、前記第2測定対象サンプルの偏光度を測定し、
前記第2基準サンプルの偏光度を前記第1基準サンプルの偏光度で補正して第1補正偏光度を算出し、前記第2基準サンプルに含まれる目的物質の濃度と前記第1補正偏光度との関係を示す第1検量線を生成し、
前記第2測定対象サンプルの偏光度を、前記第1測定対象サンプルの偏光度で補正して第2補正偏光度を算出し、
前記第1検量線において、前記第2補正偏光度に対応する濃度を、前記第1測定対象サンプルに含まれる目的物質の濃度として求める、
蛍光偏光免疫測定装置。
【請求項5】
前記制御部は、第1信号と、前記第1信号とは信号レベルが異なる第2信号とを交互に繰り返す前記駆動信号を前記偏光調整素子に入力し、
前記偏光調整素子は、前記第1信号を入力する第1期間、サンプルに入射する励起光に対して偏光方向が直交する直線偏光成分のみ通過させ、前記第2信号を入力する第2期間、サンプルに入射する励起光に対して偏光方向が垂直な直線偏光成分のみ通過させ、
前記制御部は、
サンプルを前記第1基準サンプルとしたときに、前記第1期間において前記受光部で検出される蛍光強度A(I
⊥)と、前記第2期間において前記受光部で検出される蛍光強度A(I
II)とを、前記第1基準サンプルの偏光度として測定し、
サンプルを前記第2基準サンプルとしたときに、前記第1期間において前記受光部で検出される蛍光強度B(I
⊥)と、前記第2期間において前記受光部で検出される蛍光強度B(I
II)とを、前記第2基準サンプルの偏光度として測定し、
【数1】
を計算して、前記第1補正偏光度P
BAを求め、
前記制御部は、
サンプルを前記第1測定対象サンプルとしたときに、前記第1期間において前記受光部で検出される蛍光強度C(I
⊥)と、前記第2期間において前記受光部で検出される蛍光強度C(I
II)とを、前記第1測定対象サンプルの偏光度として測定し、
サンプルを前記第2測定対象サンプルとしたときに、前記第1期間において前記受光部で検出される蛍光強度D(I
⊥)と、前記第2期間において前記受光部で検出される蛍光強度D(I
II)とを、前記第2測定対象サンプルの偏光度として測定し、
【数2】
を計算して、前記第2補正偏光度P
DCを求める、
請求項4に記載の蛍光偏光免疫測定装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記駆動信号として励起光の偏光方向と垂直な直線偏光の第1透過光強度と、励起光の偏光方向と平行な直線偏光の第2透過光強度とを正弦波状に変化させる信号を前記偏光調整素子に入力し、
前記偏光調整素子は、前記第1透過光強度と前記第2透過光強度とを逆相に変化させ、
前記制御部は、
前記正弦波状に変化する透過光強度の1周期を4つの期間に等分割し、それぞれの期間を第1期間、第2期間、第3期間、第4期間としたときに、
サンプルを前記第1基準サンプルとしたときに、第1期間、第2期間、第3期間、第4期間において前記受光部で検出される蛍光強度の平均値p
1A、p
2A、p
3A、p
4Aを、前記第1基準サンプルの偏光度として測定し、
サンプルを前記第2基準サンプルとしたときに、第1期間、第2期間、第3期間、第4期間において前記受光部で検出される蛍光強度の平均値p
1B、p
2B、p
3B、p
4Bを、前記第2基準サンプルの偏光度として測定し、
p
xBA=p
xB-p
xA(x=1,2,3,4)を計算し、
【数3】
を計算して、第1補正偏光度P
BAを求め、
前記制御部は、
サンプルを前記第1測定対象サンプルとしたときに、第1期間、第2期間、第3期間、第4期間において前記受光部で検出される蛍光強度の平均値p
1C、p
2C、p
3C、p
4Cを、前記第1測定対象サンプルの偏光度として測定し、
サンプルを前記第2測定対象サンプルとしたときに、第1期間、第2期間、第3期間、第4期間において前記受光部で検出される蛍光強度の平均値p
1D、p
2D、p
3D、p
4Dを、前記第2測定対象サンプルの偏光度として測定し、
p
xDC=p
xD-p
xC(x=1,2,3,4)を計算し、
【数4】
を計算して、第2補正偏光度P
DCを求める、
請求項4に記載の蛍光偏光免疫測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蛍光偏光免疫測定法及び蛍光偏光免疫測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
抗原抗体反応を利用するイムノアッセイの1つに、蛍光偏光測定により目的物質の濃度を見積もる蛍光偏光免疫測定法(FPIA)という測定法がある。FPIAには、競合型と非競合型とがある。このうち、競合型のFPIAは、目的対象物質と、蛍光標識化した目的対象物質(トレーサ)とを競合させて抗体と反応させる。抗体と結合していないトレーサは、液体中で激しく動いており、偏光した励起光を照射しても蛍光はランダムに放射される。一方、抗体と結合したトレーサは、動き難くなるため、励起光の偏光方向に偏った蛍光を放射する。
【0003】
競合型のFPIAでは、励起光の偏光方向に対して平行な方向の蛍光強度と、垂直な方向の蛍光強度とをそれぞれ求め、両方向の蛍光強度の偏り具合を偏光度として測定する。この偏光度は、トレーサ-抗体複合体の量に依存するため、偏光度を指標とすることで目的物質の濃度の定量が可能となる。
【0004】
FPIAでは、測定される偏光度と目的物質の濃度との関係を示す検量線を作成し、得られた検量線に基づいて、測定対象サンプルに含まれる目的物質の濃度を定量化する(例えば特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-47802号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0023595号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
測定対象サンプルには、トレーサの他、自家蛍光物が含まれる。蛍光の偏光度は、測定対象サンプルに含まれる自家蛍光物から発せられる蛍光の影響を受ける。自家蛍光物からの蛍光の影響により、競合反応本来の偏光度が得られないという不都合がある。
【0007】
本開示は、上記実情の下になされたものであり、競合反応本来の偏光度を得ることができる蛍光偏光免疫測定法及び蛍光偏光免疫測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本開示の第1の観点に係る蛍光偏光免疫測定法は、
目的物質に対して結合能を有する抗体と、前記目的物質を蛍光色素で標識した蛍光標識物質と、を用いて第1測定対象サンプルに含まれる前記目的物質の濃度を測定する蛍光偏光免疫測定法であって、
目的物質を含まない第1基準サンプルの偏光度を測定し、
前記第1基準サンプルに、前記抗体、前記蛍光標識物質及び前記目的物質を添加して生成され、前記目的物質の濃度が互いに異なる複数の第2基準サンプルの偏光度をそれぞれ測定し、
前記第1測定対象サンプルの偏光度を測定し、
前記第1測定対象サンプルに、前記抗体及び前記蛍光標識物質を前記第2基準サンプルに添加された量と同量添加して生成される第2測定対象サンプルの偏光度を測定し、
前記第2基準サンプルの偏光度を前記第1基準サンプルの偏光度で補正して第1補正偏光度を算出し、前記第2基準サンプルに含まれる目的物質の濃度と前記第1補正偏光度との関係を示す第1検量線を生成し、
前記第2測定対象サンプルの偏光度を、前記第1測定対象サンプルの偏光度で補正して第2補正偏光度を算出し、
前記第1検量線において、前記第2補正偏光度に対応する濃度を、前記第1測定対象サンプルに含まれる目的物質の濃度として求める。
【0009】
本開示の第2の観点に係る蛍光偏光免疫測定装置は、
目的物質に対して結合能を有する抗体と、前記目的物質を蛍光色素で標識した蛍光標識物質と、を用いて第1測定対象サンプルに含まれる前記目的物質の濃度を測定する蛍光偏光免疫測定装置であって、
サンプルに直線偏光の励起光を照射する照射光学系と、
サンプルから発せられる蛍光のうち、駆動信号に応じた直線偏光成分を選択的に通過させる偏光調整素子と、
前記偏光調整素子を通過した蛍光強度を検出する受光部と、
前記偏光調整素子に前記駆動信号を出力するとともに前記受光部で検出された蛍光強度に基づいてサンプルの偏光度を測定する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
目的物質を含まない第1基準サンプルをサンプルとして、前記第1基準サンプルの偏光度を測定し、
前記第1基準サンプルに、前記抗体、前記蛍光標識物質及び前記目的物質を添加して生成され、前記目的物質の濃度が互いに異なる複数の第2基準サンプルをサンプルとして、前記第2基準サンプルの偏光度をそれぞれ測定し、
前記第1測定対象サンプルをサンプルとして、前記第1測定対象サンプルの偏光度を測定し、
前記第1測定対象サンプルに、前記抗体及び前記蛍光標識物質を前記第2基準サンプルに添加された量と同量添加して生成される第2測定対象サンプルをサンプルとして、前記第2測定対象サンプルの偏光度を測定し、
前記第2基準サンプルの偏光度を前記第1基準サンプルの偏光度で補正して第1補正偏光度を算出し、前記第2基準サンプルに含まれる目的物質の濃度と前記第1補正偏光度との関係を示す第1検量線を生成し、
前記第2測定対象サンプルの偏光度を、前記第1測定対象サンプルの偏光度で補正して第2補正偏光度を算出し、
前記第1検量線において、前記第2補正偏光度に対応する濃度を、前記第1測定対象サンプルに含まれる目的物質の濃度として求める。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、競合反応本来の偏光度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の実施の形態1に係る蛍光偏光免疫測定法を示す模式図である。
【
図2】蛍光偏光免疫測定装置の構成を示す模式図である。
【
図3】制御部のハードウエア構成を示すブロック図である。
【
図5】第1検量線を用いた目的物質の濃度の検出原理を示す模式図である。
【
図6】偏光調整素子の駆動方式の第1例を示す模式図である。
【
図7】制御部の測定処理を示すフローチャートである。
【
図8】偏光調整素子の駆動方式の第2例を示す模式図である。
【
図9】本開示の実施の形態2に係る蛍光偏光免疫測定法を示す模式図である。
【
図10】本開示の実施の形態3に係る蛍光偏光免疫測定法を示す模式図である。
【
図11】(A)は、ナンプラー及び純水に含まれるヒスタミンの補正前の検量線を示す図である。(B)は、ナンプラー及び純水に含まれるヒスタミンの補正後の検量線を示す図である。
【
図12】(A)は、醤油及び純水に含まれるヒスタミンの補正前の検量線を示す図である。(B)は、醤油及び純水に含まれるヒスタミンの補正後の検量線を示す図である。
【
図13】(A)は、ワイン及び純水に含まれるヒスタミンの補正前の検量線を示す図である。(B)は、ワイン及び純水に含まれるヒスタミンの補正後の検量線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。各図面においては、同一又は同等の部分に同一の符号を付す。
【0013】
[実施の形態1]
まず、本開示の実施の形態1について説明する。本実施の形態に係る蛍光偏光免疫測定法では、測定対象サンプルに含まれる目的物質の濃度を測定する。
図1に模式的に示されるこの蛍光偏光免疫測定法において、測定の目的となる物質は第1測定対象サンプルMS1に含まれる目的物質OBである。この蛍光偏光免疫測定法は、目的物質OBに対して結合能を有する抗体Aと、目的物質OBを蛍光色素で標識した蛍光標識物質としてのトレーサTと、を用いて第1測定対象サンプルMS1に含まれる目的物質OBの濃度を測定する。蛍光色素としては例えばフルオレセイン、ローダミン及びHiLyte Fluor647などがある。
【0014】
[サンプル]
本実施の形態に係る蛍光偏光免疫測定法では、4種類のサンプルが用意される。
(1)第1基準サンプルRS1
第1基準サンプルRS1は本実施の形態に係る目的物質OBを含まない溶液である。通常は第1測定対象サンプルMS1とは異なる種類の溶液が用いられる。例えば、第1基準サンプルRS1として、純水が用意される。純水を、水マトリクスともいう。第1基準サンプルRS1には、自家蛍光物SFが含まれていてもよい。
(2)第2基準サンプルRS2
第2基準サンプルRS2は第1基準サンプルRS1に、抗体A、トレーサT及び目的物質OBを添加して生成された溶液である。第2基準サンプルRS2として、目的物質OBの濃度C1~CNが互いに異なる複数のものが用意される。すなわち、第2基準サンプルRS2は、目的物質OBの濃度C1のサンプル、濃度C2のサンプル、…濃度CNのサンプルと、互いに濃度が異なる計N個のサンプルがそれぞれ用意される。
(3)第1測定対象サンプルMS1
第1測定対象サンプルMS1は本実施の形態に係る蛍光偏光免疫測定法の測定対象である。第1測定対象サンプルMS1には、目的物質OBの他、自家蛍光物SFが含まれている。この自家蛍光物SFは、第1基準サンプルRS1に含まれるものと同じであってもよいし、異なるものであってもよい。
(4)第2測定対象サンプルMS2
第2測定対象サンプルMS2は本実施の形態に係る蛍光偏光免疫測定法の測定対象である。第2測定対象サンプルMS2は、第1測定対象サンプルMS1に、抗体A及びトレーサTを第2基準サンプルRS2に添加された量と同量添加して生成される。
【0015】
[蛍光偏光免疫測定装置]
蛍光偏光免疫測定法は、
図2に示す蛍光偏光免疫測定装置1によって実行される。蛍光偏光免疫測定装置1は、光源10、集光レンズ11、アイリス12、コリメータ13、偏光素子14、励起光フィルタ15及びダイクロイックミラー20を備える。蛍光偏光免疫測定装置1は、対物レンズ21、サンプル22が配置されるマイクロデバイス23、ステージ24、吸収フィルタ25、偏光調整素子26、結像レンズ27、撮像素子28及び制御部30を備える。
【0016】
光源10は、例えば発光ダイオードであり、サンプルの蛍光を励起する波長の励起光(例えば中心波長470nmの青色光)を出射する。光源10からの励起光は、集光レンズ11により集光され、アイリス12を通過する。アイリス12は、励起光以外の外光の混入を低減する。
【0017】
アイリス12を通過した励起光は、コリメータ13により平行光に変換され、偏光素子14に入射する。偏光素子14は、例えば、偏光板、偏光ビームスプリッタ又は液晶セルであり、ここでは偏光板である。偏光素子14は、特定方位の直線偏光を通過させる。偏光素子14からの直線偏光の励起光は、励起光フィルタ15を通過する。励起光フィルタ15は、励起光の波長を含む波長域を選択するフィルタであり、偏光素子14からの励起光と異なる波長の光を低減する。ダイクロイックミラー20は、励起光フィルタ15を通過した励起光を、対物レンズ21に向かって反射する。
【0018】
対物レンズ21は、ダイクロイックミラー20によって反射された直線偏光の励起光を、ステージ24上のマイクロデバイス23に収容されたサンプル22に集光する。サンプル22は、対物レンズ21からの直線偏光の励起光に応じて特定波長の蛍光(例えば緑色光)を生成する。蛍光は、対物レンズ21で平行光となり、ダイクロイックミラー20及び吸収フィルタ25を通過する。ダイクロイックミラー20は、サンプル22からの蛍光を含む特定波長域の光を選択的に通過させ、他の光を反射する。吸収フィルタ25は、サンプル22からの蛍光の波長を含む波長域を選択するフィルタであり、蛍光以外の光を低減する。
【0019】
吸収フィルタ25を通過した蛍光は、偏光調整素子26に入射する。偏光調整素子26は、例えば、偏光板、偏光ビームスプリッタ又は液晶セルである。偏光調整素子26は、偏光カメラ内の偏光フィルタでもよい。偏光カメラは、偏光フィルタをセンサ上に搭載することにより被写体の偏光情報を取得する撮像装置である。以下の説明において、偏光調整素子26は、駆動信号(印加電圧)が制御される液晶セルである。偏光調整素子26は、直線偏光成分の透過光強度を調整可能である。具体的には、偏光調整素子26は、励起光の偏光方位と平行な直線偏光又は垂直な直線偏光の他、後述の駆動信号に応じた方向の偏光の透過光強度を調整可能である。
【0020】
偏光調整素子26を通過した直線偏光の蛍光は、結像レンズ27を介して、撮像素子28の撮像面に入射する。サンプル22の面と撮像素子28の撮像面とは結像関係にある。撮像素子28は、例えば、複数の画素を有するCCD(Charge-Coupled Device)又はCMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)イメージセンサを含む。撮像素子28は、サンプル22で生成された蛍光強度に応じた画像データを生成して、制御部30に送信する。
【0021】
蛍光偏光免疫測定装置1は、
図2に示す構成と異なる構成を有することができる。例えば、蛍光偏光免疫測定装置1は、光源10からの励起光をサンプル22に対して斜入射させ、励起光を照射する光学系の光軸と、蛍光を観察する光学系の光軸とを分離することにより、ダイクロイックミラー20を備えないようにしてもよい。また、アイリス12、励起光フィルタ15及び吸収フィルタ25は、必要でなければ設置しなくてもよい。蛍光偏光免疫測定装置1は、
図2に示す集光レンズ11、対物レンズ21及び結像レンズ27に追加して又は代えて他のレンズを含むことができる。
【0022】
制御部30は、蛍光偏光免疫測定装置1の全体を統括制御する。具体的には、制御部30は、光源10、偏光調整素子26及び撮像素子28を制御する。制御部30は、撮像素子28で撮像された蛍光画像を取得する。
【0023】
例えば、制御部30は、測定動作中、光源10から励起光をサンプル22に出射させる。制御部30は、DAコンバータ(不図示)を使用して、偏光調整素子26に駆動信号を出力する。偏光調整素子26へ駆動信号を出力することで、制御部30は、偏光調整素子26を通過する蛍光の偏光成分を制御することができる。
【0024】
偏光調整素子26は、例えば、対向する2つの透明基板、基板の対向面に配置されている透明電極、基板間に封入されている液晶材料及び偏光調整素子26の撮像装置側(出射側又は下流側)の外側面に配置されている偏光板を含む。偏光調整素子26の構成は、通過する蛍光の偏光成分を調整することができる構成であればよい。
【0025】
蛍光偏光免疫測定装置1は、偏光調整素子(液晶セル)26への駆動信号と共に撮像素子28の露出時間(撮像時間)、すなわち撮像の開始時刻及び期間を制御して、蛍光の所望の偏光成分の画像データを取得する。蛍光偏光免疫測定装置1は、取得した画像データの分析を行う。後述するように、蛍光偏光免疫測定装置1は、サンプル22を第1基準サンプルRS1、第2基準サンプルRS2、第1測定対象サンプルMS1及び第2測定対象サンプルMS2の蛍光画像を撮像素子28によって撮像し、その蛍光画像の画像データに基づいて、第1測定対象サンプルMS1に含まれる目的物質OBの濃度を測定する。これにより、第1測定対象サンプルMS1に含まれる自家蛍光物SFによる目的物質OBの濃度の測定誤差を低減することができる。
【0026】
図2に示す蛍光偏光免疫測定装置1の制御部30は、例えば、
図3に示すハードウエア構成を有するコンピュータがソフトウエアプログラムを実現することにより実現される。具体的には、蛍光偏光免疫測定装置1は、装置全体の制御を司るCPU(Central Processing Unit)31と、CPU31の作業領域として動作する主記憶部32と、CPU31の動作プログラムを記憶する外部記憶部33と、操作部34と、表示部35と、入出力部36と、これらを接続する内部バス38から構成される。
【0027】
主記憶部32は、RAM(Random Access Memory)から構成されている。主記憶部32には、CPU31によって実行されるプログラム39が外部記憶部33からロードされる。また、主記憶部32は、CPU31の作業領域(データの一時記憶領域)としても用いられる。
【0028】
外部記憶部33は、フラッシュメモリ、ハードディスクの不揮発性メモリから構成される。外部記憶部33には、CPU31に実行させるためのプログラム39が予め記憶されている。
【0029】
操作部34は、キーボード及びマウスのデバイスと、これらのデバイスを内部バス38に接続するインターフェイス装置から構成されている。
【0030】
表示部35は、CRT(Cathode Ray Tube)、液晶モニタの表示用デバイスから構成される。
【0031】
入出力部36は、外部機器とのデータ送受信を行うインターフェイスである。入出力部36は、CPU31からの指令に従って、偏光調整素子26に駆動信号を出力するとともに、撮像素子28からの画像データを入力する。入力された画像データは、主記憶部32又は外部記憶部33に記憶され、表示部35に表示される。
【0032】
制御部30の機能は、1以上のプロセッサ及び一時的でない記憶媒体を含む1以上の記憶装置を含む1以上のコンピュータからなる計算機システムに実装することができる。複数のコンピュータは、相互に接続された通信ネットワークを介して通信を行いつつ、制御部30の機能を実現する。例えば、制御部30の複数の機能の一部が1つのコンピュータに実装され、他の一部が他のコンピュータに実装されてもよい。
【0033】
上述の蛍光偏光免疫測定装置1の構成要素は、次のようにまとめられる。
(A)光源10、集光レンズ11、アイリス12、コリメータ13、偏光素子14及び励起光フィルタ15を備えるサンプル22に直線偏光の励起光を照射する照射光学系10A
(B)サンプル22を収容するマイクロデバイス23、マイクロデバイス23を搭載するステージ24
(C)サンプル22から発せられる蛍光のうち、制御部30からの駆動信号に応じて透過する直線偏光成分を調整する偏光調整素子26、偏光調整素子26を透過した蛍光画像を撮像する撮像素子28を含む観察光学系10B
(D)偏光調整素子26に駆動信号を出力する駆動部として機能するとともに、撮像素子28で撮像された蛍光画像に基づいて蛍光強度を検出し、駆動信号に従ってサンプル22の偏光度を測定して、サンプルの分析を行う制御部30
【0034】
本実施の形態に係る蛍光偏光免疫測定方法は、上記構成を有する蛍光偏光免疫測定装置1を用いて、以下の測定を行う。
(1)第1基準サンプルRS1をサンプル22としたときのその偏光度PA
(2)目的物質OBの濃度C1~CNが互いに異なる複数の第2基準サンプルRS2をサンプル22としたときのそれぞれの偏光度PB
(3)第1測定対象サンプルMS1をサンプル22としたときの偏光度PC
(4)第2測定対象サンプルMS2をサンプル22としたときの偏光度PD
【0035】
図4に示すように、マイクロデバイス23は、一端が注入口23aに接続され、他端が排出口23bに接続された流路23cを複数備える。この複数の流路23cに、サンプル22として、第1基準サンプルRS1、複数の第2基準サンプルRS2、第1測定対象サンプルMS1又は第2測定対象サンプルMS2を個別に供給することができる。この流路23cと、撮像素子28の撮像面とは結像関係にあるため、複数の流路23cを撮像素子28で撮像すれば、複数の流路23cに供給された複数のサンプル22の蛍光画像を一度に得ることができ、各サンプル22の偏光度P
A、P
B、P
C、P
Dを一度に測定することができる。この測定は、蛍光画像における流路23cに対応する画像データのROI(Region Of Interest)の蛍光強度に基づいて行われる。
【0036】
制御部30は、第2基準サンプルRS2の偏光度P
Bを第1基準サンプルRS1の偏光度P
Aで補正して第1補正偏光度P
BAを算出し、第1基準サンプルRS1に含まれる目的物質OBの濃度C1~CNと第1補正偏光度P
BAとの関係を示す第1検量線DL1(
図5参照)を生成する。なお、
図5のグラフにおいて、横軸は濃度(対数)を示し、縦軸は偏光度を示す。また、制御部30は、第2測定対象サンプルMS2の偏光度P
Dを、第1測定対象サンプルMS1の偏光度P
Cで補正して第2補正偏光度P
DCを算出する。さらに、制御部30は、
図5に示すように、第1検量線DL1において、第2補正偏光度P
DCに対応する濃度Cxを、第1測定対象サンプルMS1に含まれる目的物質OBの濃度として求める。
【0037】
算出された第2補正偏光度P
DCは、第2測定対象サンプルMS2の偏光度P
Dを、第1測定対象サンプルMS1の偏光度P
Cで補正して求められたものである。トレーサTの量は固定であるため、第2補正偏光度P
DCは、第1測定対象サンプルMS1が含有される目的物質OBの量によって決まる。一方、第1検量線DL1は、第2基準サンプルRS2の偏光度P
Bを第1基準サンプルRS1の偏光度P
Aで補正して得られる第1補正偏光度P
BAによって定まるものであり、第1補正偏光度P
BAは、第2基準サンプルRS2に添加される目的物質OBの量によって決まる。
図5に示すように、A地点の第2補正偏光度P
DCと、B地点の第1補正偏光度P
BAとが同じ値である場合、A地点における含有目的物質OBの量と、B地点における添加目的物質OBの量とが同量であることを意味する。したがって、第2補正偏光度P
DCを求め、その第2補正偏光度P
DCに対応するB地点での目的物質OBの濃度を求めれば、求められた濃度が、第1測定対象サンプルMS1に含まれる含有目的物質OBの濃度に対応することになる。
【0038】
図6に示すように、制御部30は、偏光調整素子26をオン状態にするため、駆動信号として、正負の特定電圧値の間で周期的に振動する矩形パルス波を与える。この矩形パルス波が第1信号40である。第1信号40では正負のいずれの電圧値においても偏光調整素子26はオン状態となる。偏光調整素子26がオン状態である期間(第1期間)T1内において、検出期間K1が規定される。
【0039】
制御部30は、検出期間K1において、撮像素子28に蛍光を受光させ、蛍光画像を撮像させる。偏光調整素子26がオン状態であるとき、サンプル22からの蛍光の励起光の偏光方位に垂直な偏光成分が受光される。その蛍光強度I⊥は、検出期間K1における蛍光画像の流路23cに対応するROIでの総受光量又はその時間平均で表わされる。
【0040】
制御部30は、偏光調整素子26をオフ状態にするため、電圧レベルが0の駆動信号を偏光調整素子26に入力する。この駆動信号が第2信号41である。第2信号41は、第1信号40とは信号レベルが異なる。この駆動信号により、偏光調整素子26はオフ状態となる。偏光調整素子26がオフ状態である第2期間T2内において、検出期間K2が規定される。制御部30は、検出期間K2において、撮像素子28にサンプル22からの蛍光を受光させ、蛍光画像を撮像させる。偏光調整素子26がオフ状態であるとき、サンプル22からの蛍光の励起光の偏光方位に平行な偏光成分が受光される。その蛍光強度IIIは、検出期間K2における蛍光画像の流路23cに対応するROIでの受光量又はその時間平均で表わされる。
【0041】
すなわち、本実施の形態では、制御部30は、サンプル22に入射する励起光に対して偏光方向が直交する直線偏光のみ通過させる第1信号40と、サンプル22に入射する励起光に対して偏光方向が平行な直線偏光のみ通過させる第2信号41とを交互に繰り返す駆動信号を偏光調整素子26に入力する。第1信号40が入力される第1期間T1にて撮像素子28で検出される蛍光強度を第1蛍光強度とし、第2信号41が入力される第2期間T2にて撮像素子28で検出される蛍光強度を第2蛍光強度とする。
【0042】
制御部30は、サンプル22を第1基準サンプルRS1としたときに、第1期間T1において撮像素子28で検出される蛍光強度A(I
⊥)と、第2期間T2において撮像素子28で検出される蛍光強度A(I
II)とを、第1基準サンプルRS1の偏光度P
Aとして測定する。さらに、制御部30は、サンプル22を第2基準サンプルRS2としたときに、第1期間T1において撮像素子28で検出される蛍光強度B(I
⊥)と、第2期間T2において前記受光部で検出される蛍光強度B(I
II)とを、第2基準サンプルRS2の偏光度P
Bとして測定する。さらに制御部30は、以下の式
【数1】
を計算して、第1補正偏光度P
BAを求める。
【0043】
また、制御部30は、サンプル22を第1測定対象サンプルMS1としたときに、第1期間T1において撮像素子28で検出される蛍光強度C(I
⊥)と、第2期間T2において撮像素子28で検出される蛍光強度C(I
II)とを、第1測定対象サンプルMS1の偏光度P
Cとして測定する。さらに、制御部30は、サンプル22を第2測定対象サンプルMS2としたときに、第1期間T1において撮像素子28で検出される蛍光強度D(I
II)と、第2期間T2において撮像素子28で検出される蛍光強度D(I
⊥)とを、第2測定対象サンプルMS2の偏光度P
Dとして測定する。さらに、制御部30は、以下の式
【数2】
を計算して、第2補正偏光度P
DCを求める。
【0044】
次に、蛍光偏光免疫測定装置1の制御部30によって実行される測定処理、すなわち蛍光偏光免疫測定方法について説明する。マイクロデバイス23のセッティングが完了すると、測定処理が開始される。
【0045】
図7に示すように、まず、制御部30は、光源10に励起光の出射を開始させる(ステップS1)。続いて、制御部30は、偏光調整素子26への駆動信号の出力を開始する(ステップS2)。
【0046】
続いて、制御部30は、蛍光強度の測定を行う(ステップS3)。この測定において、制御部30は、駆動信号に同期して、第1期間T1(検出期間K1)において撮像素子28で撮像される画像データに基づいて、第1基準サンプルRS1に対応する蛍光強度A(I⊥)、第2基準サンプルRS2に対応する蛍光強度B(I⊥)、第1測定対象サンプルMS1に対応する蛍光強度C(I⊥)、第2測定対象サンプルMS2に対応する蛍光強度D(I⊥)を測定する。さらに、制御部30は、第2期間T2(検出期間K2)において撮像素子28で撮像される画像データに基づいて、第1基準サンプルRS1に対応する蛍光強度A(III)、第2基準サンプルRS2に対応する蛍光強度B(III)、第1測定対象サンプルMS1に対応する蛍光強度C(III)、第2測定対象サンプルMS2に対応する蛍光強度D(III)を測定する。
【0047】
さらに、制御部30は、上記式(1)、式(2)を計算して、第2補正偏光度PDC及び第1補正偏光度PBAを算出する(ステップS4)。続いて、制御部30は、算出された第1補正偏光度PBAに基づいて、第1検量線DL1を作成する(ステップS5)。そして、制御部30は、第1検量線DL1において、第2補正偏光度PDCに対応する濃度Cxを、第1測定対象サンプルMS1に含まれる目的物質OBの濃度として求める(ステップS6)。ステップS6終了後は、制御部30は、測定処理を終了する。
【0048】
なお、本実施の形態では、オンオフを繰り返す駆動信号により偏光調整素子26を制御したが、これには限られない。制御部30は、駆動信号として励起光の偏光方向と垂直な直線偏光の第1透過光強度と、励起光の偏光方向と平行な直線偏光の第2透過光強度とを正弦波状に変化させる信号を偏光調整素子26に入力するようにしてもよい。この場合、例えば
図8に示すように、駆動信号は、高い周波数で、正の値と負の値との間で反転するように時間変化する。この駆動信号における正の包絡線と負の包絡線は、横軸(時間軸)に対して線対称である。包絡線は、反転周期よりも長い周期において、周期的に変化する。
【0049】
このような駆動信号が偏光調整素子26に入力されているときに、第1透過光強度は、
図8に示すように、正弦波に近い形で変化する。なお、第2透過光強度の変化は、第1透過光強度の変化と逆相となる。第1透過光強度及び第2透過光強度は駆動信号の絶対値の増加に伴い減少し、減少に伴い増加している。なお、第1透過光強度及び第2透過光強度の変化が正弦波に近い変化を示すことができれば、偏光調整素子26への印加電圧の波形は特に限定されない。
【0050】
制御部30は、例えば、第1期間D1、第2期間D2、第3期間D3、第4期間D4の各期間において、蛍光サンプルの画像におけるROIの蛍光強度を計算する。各期間の蛍光強度は、各期間におけるROIの蛍光強度の時間についての積分値であり、各期間(露出期間)におけるROIの画素の総受光量である。制御部30は、第1期間D1~第4期間D4それぞれの光強度に基づき、サンプルの蛍光偏光を評価する。第1期間D1~第4期間D4のそれぞれにおいて、撮像素子28は、蛍光の特定の偏光成分の光を受光する。各期間における偏光成分は、偏光方位の幅を持っている。
【0051】
すなわち、制御部30は、駆動信号として励起光の偏光方向と垂直な直線偏光の第1透過光強度と、励起光の偏光方向と平行な直線偏光の第2透過光強度とを正弦波状に変化させる信号を偏光調整素子26に入力する。偏光調整素子26は、第1透過光強度と前記第2透過光強度とを正弦波状かつ互いに逆相に変化させる。
【0052】
正弦波状に変化する透過光強度の1周期を4つの期間に等分割し、それぞれの期間を第1期間D1、第2期間D2、第3期間D3、第4期間D4とする。制御部30は、サンプル22を第1基準サンプルRS1としたときに、第1期間D1、第2期間D2、第3期間D3、第4期間D4において撮像素子28で検出される蛍光強度の平均値p
1A、p
2A、p
3A、p
4Aを、第1基準サンプルRS1の偏光度P
Aとして測定する。また、制御部30は、サンプル22を第2基準サンプルRS2としたときに、第1期間、第2期間、第3期間、第4期間において撮像素子28で検出される蛍光強度の平均値p
1B、p
2B、p
3B、p
4Bを、第2基準サンプルRS2の偏光度P
Bとして測定する。そして、制御部30は、p
xBA=p
xB-p
xA(x=1,2,3,4)を計算し、さらに、以下の式を計算して、
【数3】
第1補正偏光度P
BAを求める。
【0053】
また、制御部30は、サンプル22を第1測定対象サンプルMS1としたときに、第1期間D1、第2期間D2、第3期間D3、第4期間D4において撮像素子28で検出される蛍光強度の平均値p1C、p2C、p3C、p4Cを、第1測定対象サンプルMS1の偏光度PCとして測定する。また、制御部30は、サンプル22を第2測定対象サンプルMS2としたときに、第1期間D1、第2期間D2、第3期間D3、第4期間D4において撮像素子28で検出される蛍光強度の平均値p1D、p2D、p3D、p4Dを、第2測定対象サンプルMS2の偏光度PDとして測定する。
【0054】
そして、制御部30は、p
xDC=p
xD-p
xC(x=1,2,3,4)を計算する。さらに、制御部30は、以下の式を計算して、
【数4】
第2補正偏光度P
DCを求める。
【0055】
[実施の形態2]
次に、本開示の実施の形態2について説明する。上記実施の形態1に係る蛍光偏光免疫測定法では、サンプル22として、第1基準サンプルRS1、複数の第2基準サンプルRS2、第1測定対象サンプルMS1、第2測定対象サンプルMS2を用いて第1測定対象サンプルMS1に含まれる目的物質OBの濃度を測定している。
図9に示すように、本実施の形態では、さらに、第3測定対象サンプルMS3を用意する。
【0056】
第3測定対象サンプルMS3は、第1測定対象サンプルMS1に、抗体A、トレーサT及び高濃度目的物質HOBを第2基準サンプルRS2に添加した量と同量添加して生成される。高濃度目的物質HOBの濃度は、第1検量線DLにおいて偏光度が最小となる濃度となる。第3測定対象サンプルMS3は、他のサンプル22と同様に、マイクロデバイス23に収容される。制御部30は、マイクロデバイス23に収容される第3測定対象サンプルMS3の偏光度PEを測定する。
【0057】
図9に示すように、制御部30は、第3測定対象サンプルMS3の偏光度P
Eを、第1測定対象サンプルMS1の偏光度P
Aで補正して第3補正偏光度P
EAを算出する。制御部30は、第1検量線DL1と、第3補正偏光度P
EAと、を比較可能に表示部35(
図3参照)に表示する。この表示により、第1検量線DLの最小値のレベルと、第3補正偏光度P
EAとの差が許容値以内であるか否かを確認することができる。これにより、第1測定対象サンプルMS1における自家蛍光物SFの影響が、測定結果からキャンセルされていることを確認することができる。
【0058】
なお、制御部30は、第1検量線DL1の最小値のレベルと、第3補正偏光度PEAとが一致するように、第1検量線DL1を縦軸方向にシフトさせるようにしてもよい。
【0059】
[実施の形態3]
次に、本開示の実施の形態3について説明する。上記実施の形態1に係る蛍光偏光免疫測定法では、サンプル22として、第1基準サンプルRS1、複数の第2基準サンプルRS2、第1測定対象サンプルMS1、第2測定対象サンプルMS2を用いて第1測定対象サンプルMS1に含まれる目的物質OBの濃度を測定している。本実施の形態では、
図10に示すように、これらのサンプル22に加え、第1測定対象サンプルMS1に、抗体A、トレーサT及び目的物質を添加して生成され、目的物質OBの濃度が互いに異なる複数の第4測定対象サンプルMS4を用意する。
【0060】
蛍光偏光免疫測定装置1は、目的物質OBの濃度が互いに異なる複数の第4測定対象サンプルMS4の偏光度PFをそれぞれ測定する。制御部30は、第4測定対象サンプルMS4の偏光度PFを第1測定対象サンプルMS1の偏光度PCで補正して第4補正偏光度PFCを算出し、制御部30は、第4測定対象サンプルMS4に含まれる目的物質OBの濃度と第4補正偏光度PFCとの関係を示す第2検量線DL2を生成する。第2検量線DL2を見れば、第2測定対象サンプルMS2において、添加された目的物質OBに応じた偏光度の変化を確認することができる。
【0061】
制御部30は、第1検量線DL1と第2検量線DL2とを表示部35(
図3参照)比較表示する。高濃度領域における両者の差が許容範囲内であるか否かにより、自家蛍光物SFによる誤差が低減できていることを確認することができる。
【0062】
なお、制御部30は、第1検量線DL1の最小値のレベルと、第2検量線DL2の最小値のレベルとが一致するように、第1検量線DL1を縦軸方向にシフトさせるようにしてもよい。
【0063】
なお、制御部30は、第3測定対象サンプルMS3と、第4測定対象サンプルMS4とを、両方測定し、自家蛍光物SFによる誤差が低減できていることを確認し、第1検量線DL1と第2検量線DL2と、第3補正偏光度PEAとの比較により、第1検量線DL1を補正するようにしてもよい。
【0064】
[実施例]
測定対象(第1測定対象サンプル)をナンプラー、醤油及びワインとして、それらの中に含まれるヒスタミンを目的物質OBとしてヒスタミンの濃度の測定を行った。その測定手順は、以下の通りとした。
[第1基準サンプルの測定]
A.:第1基準サンプルRS1を純水とし、マイクロデバイス23の9つの流路23cに入れ、それぞれの偏光度を測定した。
【0065】
[第2基準サンプルの測定]
B.:純水に、抗体A、トレーサT及び目的物質OBを添加し、目的物質OBの濃度が互いに異なる9つの第2基準サンプル(9つの濃度水準の水溶液)を生成し、それぞれの偏光度を測定した。
1)トレーサTとして、目的物質OBであるヒスタミンをHiLyte Fluor 647で修飾した。これを純水に溶解させ、リン酸緩衝生理食塩水(PBS(-))で4.56nMの溶液を調製した。
2)抗ヒスタミン抗体を、0.01%ウシ血清アルブミン(BSA)含むPBS(-)を用いて希釈し、1.3×10
-7Mの溶液を調製した。
3)目的物質OBであるヒスタミンを純水に溶解させ、32mg/mlの溶液を調製した。
4)得られたヒスタミン溶液を、純水で濃度を以下の表に示すように9水準に調整した。
【表1】
5)9水準の各ヒスタミン溶液にアシル化試薬、アシル化バッファーを以下の表のとおりに混合した。
【表2】
6)上記混合溶液各25μL、上記1)のヒスタミントレーサ25μL、上記2)の抗体溶液25μLを混合し、室温で10分間遮光放置後、混合溶液の偏光度をそれぞれ測定した。
【0066】
[第1測定対象サンプルの測定]
C.第1測定対象サンプルMS1のみをマイクロデバイス23の9つの流路23cに入れて測定した。醤油、ナンプラー、ワインの3種類の測定対象を、それぞれPBS(-)で5倍希釈してからマイクロデバイス23の9つの流路23cに入れて、偏光度を測定した。
【0067】
[第2、第4測定対象サンプルの測定]
D.第1測定対象サンプルMS1に9つの濃度水準の目的物質OBをそれぞれ添加し、第2測定対象サンプルMS2、第4測定対象サンプルMS4を生成して、偏光度を測定した。
1)ヒスタミンをHiLyte Fluor 647で修飾してトレーサTを生成した。これを純水に溶解させ、PBS(-)で4.56nMの溶液を調製した。
2)抗ヒスタミン抗体を、0.01%BSA入りPBS(-)を用いて希釈し、1.3×10
-7Mの溶液を調製した。
3)ヒスタミンを純水に溶解させ、32mg/mLの溶液を調製した。
4)得られたヒスタミン溶液を純水で濃度を以下の表に示すように9つの異なる濃度水準に調整した。
【表3】
5)各ヒスタミン溶液の9つの濃度水準に、サンプルが溶液中5倍希釈となるように、以下の表の通りに添加した。
【表4】
【表5】
6)9つの異なる濃度水準のヒスタミンを添加したサンプル溶液それぞれに、アシル化試薬、アシル化バッファーを以下の表の通りに混合した。
【表6】
7)上記混合溶液各25μL、上記1)のヒスタミンのトレーサ溶液25μL、上記2)の抗体溶液25μLを混合し、室温で10分間遮光静置後、混合溶液の蛍光偏光度を測定した。
【0068】
測定対象をナンプラーとし、それらの中に含まれるヒスタミンを目的物質OBとし、目的物質OBの濃度の測定を行った結果を
図11(A)及び
図11(B)に示す。
図11(A)に示すように、ナンプラーを5倍に希釈したものを第1測定対象サンプルMS1とし、純水を第1基準サンプルRS1として、補正を行わずに、第1検量線DL1及び第2検量線DL2を生成した場合、高濃度領域でもずれが生じている。しかし、
図11(B)に示すように、本実施の形態に係る蛍光偏光免疫測定法で補正を行いつつ生成された第1検量線DL1及び第2検量線DL2は、高濃度領域において両者のずれが小さくなっている。これは、補正により、第1検量線DL1、第2検量線DL2において、自家蛍光物SFの影響がキャンセルされていることを示している。
【0069】
測定対象を醤油とし、それらの中に含まれるヒスタミンを目的物質OBとして目的物質OBの濃度の測定を行った結果を
図12(A)及び
図12(B)に示す。
図12(A)に示すように、醤油を5倍に希釈したものを第1測定対象サンプルMS1とし、純水を第1基準サンプルRS1として、補正を行わずに、第1検量線DL1及び第2検量線DL2を生成した場合、高濃度領域でもずれが生じている。しかし、
図12(B)に示すように、本実施の形態に係る蛍光偏光免疫測定法で補正を行いつつ生成された第1検量線DL1及び第2検量線DL2は、高濃度領域において両者のずれが小さくなっている。これは、補正により、第1検量線DL1、第2検量線DL2において、自家蛍光物SFの影響がキャンセルされていることを示している。
【0070】
測定対象をワインとし、それらの中に含まれるヒスタミンを目的物質OBとして目的物質OBの濃度の測定を行った結果を
図13(A)及び
図13(B)に示す。
図13(A)に示すように、ワインを5倍に希釈したものを第1測定対象サンプルMS1とし、純水を第1基準サンプルRS1として、補正を行わずに、第1検量線DL1及び第2検量線DL2を生成した場合、高濃度領域でもずれが生じている。しかし、
図13(B)に示すように、本実施の形態に係る蛍光偏光免疫測定法で補正を行いつつ生成された第1検量線DL1及び第2検量線DL2は、高濃度領域において両者のずれが小さくなっている。これは、補正により、第1検量線DL1、第2検量線DL2において、自家蛍光物SFの影響がキャンセルされていることを示している。
図13(B)に示すように、ワインにおいては、第2検量線DL2と、第1検量線DL1とは、全域に渡って許容範囲内に入っている。
【0071】
検量線用の第2基準サンプルRS2としては、目的物質OBの濃度が既知であり、濃度水準が異なる複数のものがあればよい。また、上述の実施例では、第1基準サンプルRS1として純水を用いているが、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などの緩衝液又は、他の溶媒を用いてもよい。目的物質OBを溶解させることが可能で、抗原抗体反応を阻害しないものであれば選択可能である。例えば有機溶媒又は、極端にpHが大きい又は小さい溶媒など、抗体(タンパク質)が変性してしまうものは用いるのは困難である。
【0072】
上記実施の形態では、受光部を撮像素子28としたが、これには限られない。第1基準サンプルRS1、第2基準サンプルRS2、第1測定対象サンプルMS1、第2測定対象サンプルMS2など、各サンプル22の偏光度を個別に検出する場合、受光部をフォトダイオードのような蛍光強度のみを検出するものとしてもよい。
【0073】
測定対象及び目的物質は上述したものに限られない。基本的には、抗原抗体反応、中でも競合可能な物質、その物質を含有する測定対象であれば適用可能である。
【0074】
制御部30のハードウエア構成及びソフトウエア構成は一例であり、任意に変更および修正が可能である。
【0075】
CPU31、主記憶部32、外部記憶部33、操作部34、表示部35、入出力部36及び内部バス38などから構成される制御部30の処理を行う中心となる部分は、専用のシステムによらず、通常のコンピュータシステムを用いて実現可能である。例えば、前記の動作を実行するためのコンピュータプログラムを、コンピュータが読み取り可能な記録媒体(フレキシブルディスク、CD-ROM、DVD-ROM)に格納して配布し、当該コンピュータプログラムをコンピュータにインストールすることにより、前記の処理を実行する制御部30を構成してもよい。また、インターネットの通信ネットワーク上のサーバ装置が有する記憶装置に当該コンピュータプログラムを格納しておき、通常のコンピュータシステムがダウンロードすることで制御部30を構成してもよい。
【0076】
制御部30の機能を、OS(オペレーティングシステム)とアプリケーションプログラムの分担、またはOSとアプリケーションプログラムとの協働により実現する場合などには、アプリケーションプログラム部分のみを記録媒体又は記憶装置に格納してもよい。
【0077】
搬送波にコンピュータプログラムを重畳し、通信ネットワークを介して配信することも可能である。たとえば、通信ネットワーク上の掲示板(BBS, Bulletin Board System)にコンピュータプログラムを掲示し、ネットワークを介してコンピュータプログラムを配信してもよい。そして、このコンピュータプログラムを起動し、OSの制御下で、他のアプリケーションプログラムと同様に実行することにより、前記の処理を実行できるように構成してもよい。
【0078】
この発明は、この発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、この発明の範囲を限定するものではない。すなわち、この発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【符号の説明】
【0079】
1 蛍光偏光免疫測定装置、10 光源、10A 照明光学系、10B 観察光学系、11 集光レンズ、12 アイリス、13 コリメータ、14 偏光素子、15 励起光フィルタ、20 ダイクロイックミラー、21 対物レンズ、22 サンプル、23 マイクロデバイス、23a 注入口、23b 排出口、23c 流路、24 ステージ、25 吸収フィルタ、26 偏光調整素子(液晶セル)、27 結像レンズ、28 撮像素子(受光部)、30 制御部(駆動部)、31 CPU、32 主記憶部、33 外部記憶部、34 操作部、35 表示部、36 入出力部、38 内部バス、39 プログラム、40 第1信号、41 第2信号、A 抗体、DL1 第1検量線、DL2 第2検量線、MS1 第1測定対象サンプル、MS2 第2測定対象サンプル、MS3 第3測定対象サンプル、MS4 第4測定対象サンプル、OB 目的物質、RS1 第1基準サンプル、RS2 第2基準サンプル、SF 自家蛍光物、T トレーサ(蛍光標識物質)